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特許7332871メタノールの製造方法、及びメタノール製造触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】メタノールの製造方法、及びメタノール製造触媒
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/154 20060101AFI20230817BHJP
   B01J 23/80 20060101ALI20230817BHJP
   B01J 23/825 20060101ALI20230817BHJP
   B01J 23/86 20060101ALI20230817BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20230817BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20230817BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230817BHJP
【FI】
C07C29/154
B01J23/80 Z
B01J23/825 Z
B01J23/86 Z
B01J37/03 B
C07C31/04
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019156854
(22)【出願日】2019-08-29
(65)【公開番号】P2021031480
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-04-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「二酸化炭素からの新しいGas-to-Liquid触媒技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 公仁
(72)【発明者】
【氏名】椿 範立
(72)【発明者】
【氏名】米山 嘉治
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/067222(WO,A1)
【文献】特開平10-309466(JP,A)
【文献】特開平06-312138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールと、銅及び亜鉛を含む酸化物からなる触媒と、の存在下で、水素及び二酸化炭素を含み、かつ二酸化炭素/一酸化炭素のモル比が2倍以上である原料ガスを反応させて、メタノールを製造するメタノールの製造方法であって、
前記原料ガスの反応場に、メタノールを前記触媒1gに対して、2.8~7mL/minで導入するメタノールの製造方法。
【請求項2】
気相中で、メタノールを製造する請求項1に記載のメタノールの製造方法。
【請求項3】
前記触媒において、前記銅/前記亜鉛のモル比が、1/2~2/1である請求項1又は請求項2に記載のメタノールの製造方法。
【請求項4】
前記触媒が、助触媒として、ガリウム、ジルコニウム、クロム、アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1又は請求項2に記載のメタノールの製造方法。
【請求項5】
前記触媒が、助触媒として、ガリウムを含む請求項1又は請求項2に記載のメタノールの製造方法。
【請求項6】
前記触媒において、前記銅/前記助触媒のモル比が、1/1~1/0.1である請求項4又は請求項5に記載のメタノールの製造方法。
【請求項7】
前記触媒は、銅塩、亜鉛塩、助触媒金属塩および沈殿剤を溶解させた水溶液のpHをアルカリにすることで、共沈により、前記銅及び前記亜鉛を含む沈殿物を生成した後、前記沈殿物を乾燥及び焼成して製造される請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のメタノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,メタノールの製造方法、及びメタノール製造触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタノールは、汎用性樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)の原料である、オレフィン(エチレン、プロピレン等)の出発原料をはじめ、フェノール樹脂原料、合成繊維、塗料、医農薬、燃料添加剤、基礎化学品の原料(酢酸、ホルマリン等)など幅広い化学品の原料として利用される。
そのため、メタノールの製造は、化学工業において非常に重要であり、省エネルギー化、経済性などの観点から高効率化が絶えず求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「溶媒としてのアルコールの存在下、一酸化炭素又は二酸化炭素の一方又は双方と水素を含む原料ガスからギ酸エステル及びギ酸エステルを経由してメタノールを合成するギ酸エステル及びメタノール合成用触媒であって、主成分としてCuとZnを同時に含有し助触媒として周期律表第4族、第6族、第7族、第13族及びランタノイドから選ばれる一種類以上の成分を含有することを特徴とするギ酸エステル及びメタノール合成用触媒。」が開示されている。
【0004】
特許文献2には、「CuとMgを同時に含有することを特徴とするギ酸エステル及びメタノール合成用触媒。」が開示されている。
【0005】
特許文献3には、「アルコール溶媒の存在下で、一酸化炭素、又は、一酸化炭素及び二酸化炭素と、水素とを含む原料ガスから、ギ酸エステルを経由してメタノールを合成する際に用いられるCuを含むメタノール合成用触媒の共沈法による製造方法であって、溶媒中で触媒成分のプレカーサーを反応させて前記触媒を共沈法で製造する際に、触媒成分のプレカーサーを溶解した溶液、沈殿剤を溶解した溶液、又はこれらの水溶液を滴下し沈殿が形成される場となる溶媒の少なくともいずれかに、ポリエチレングリコールを添加することを特徴とするメタノール合成用触媒の製造方法。」が開示されている。
【0006】
特許文献4には、「アルコール溶媒の存在下に一酸化炭素と水素を含む原料ガスからギ酸エステルを経由してメタノールを合成する液相メタノール合成反応に用いられるメタノール合成用触媒の製造方法において、銅(Cu)系触媒成分及び第二触媒成分の前駆体物質の水溶液から共沈法で得られた沈殿物を乾燥する際に、当該沈殿物を超臨界流体と接触させることを特徴とするメタノール合成用触媒の製造方法。」が開示されている。
【0007】
特許文献5には、「酸化銅、酸化亜鉛及び酸化ジルコニウムからなることを特徴とするメタノール合成用触媒。」が開示されている。
特許文献6には、「酸化銅および/または銅を含むメタノール合成用触媒において、ガリウムを配合したことを特徴とする触媒」が開示されている。
特許文献7には、「銅、亜鉛、アルミニウム及びガリウムの各酸化物と、アルカリ土類金属元素及び希土類元素の金属酸化物の一種以上とを含有するメタノール合成触媒。」が開示されている。
【0008】
特許文献8には、「銅、亜鉛、アルミニウム、ケイ素およびチタン含み、(A1)硫黄の含有率が0.001~0.2重量%であり、(A2)アルカリ金属の含有率が0.2重量%以下である。((但し、銅、亜鉛、アルミニウム、珪素、チタンの合計を100重量%とする)を満たす酸化炭素を原料とするメタノール製造用触媒」が開示されている。
【0009】
その他、非特許文献1には「CuZnOxとGa、Al、Zr、Cr等の助触媒とを含むメタノール製造用触媒」、非特許文献2には「Cu、Zn、M(M=Ga、Fe等)を含むメタノール製造用触媒」も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2005-246261号公報
【文献】特開2005-095872号公報
【文献】特開2009-214077号公報
【文献】特開2011-104458号公報
【文献】特開平07-039755号公報
【文献】特開平06-312138号公報
【文献】特開平10-277392号公報
【文献】特開2014-057925号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】M.Saito et al.,Applied Catalysis A: General,138(1996)311
【文献】W. Cai et al.,Catalysis Letter, 15 May,2019
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで、特許文献1~8、非特許文献1~2で開示されているように、メタノールの製造には、種々の触媒、及び手法が用いられている。
【0013】
しかし、メタノールの製造において、原料ガスとして水素と一酸化炭素とを反応させてメタノールを生成するプロセスでは、比較的、低温及び低圧でも、反応が進行する。一方で、二酸化炭素(CO)を有効活用するために、水素と二酸化炭素(CO)の混合ガスを原料として、メタノールを製造することも要請されている。
しかし、水素と二酸化炭素とを原料ガスとした場合、二酸化炭素が化学的に不活性であること、また水が副生することから、水素と二酸化炭素との反応は非常に進行しにくい。また、水素と二酸化炭素の反応が進行する場合でも、高温(例えば250℃以上)とする必要があるが、加熱に必要なエネルギーのために排出される二酸化炭素量が多くなる課題がある。
【0014】
そのため、水素と二酸化炭素(CO)とを原料ガスとした場合にも、低温で、かつ高効率にメタノールを製造する方法が要望されている。
【0015】
そこで、本発明の課題は、水素と二酸化炭素(CO)とを原料ガスとした場合にも、低温で、かつ高効率にメタノールを製造できる、メタノールの製造方法、および、それに利用するメタノール製造触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
課題を解決するための手段は、次の態様を含む。
【0017】
[1] メタノールと、銅及び亜鉛を含む酸化物からなる触媒と、の存在下で、水素及び二酸化炭素を含み、かつ二酸化炭素/一酸化炭素のモル比が2倍以上である原料ガスを反応させて、メタノールを製造するメタノールの製造方法。
[2] 気相中で、メタノールを製造する[1]に記載のメタノールの製造方法。
[3] 前記触媒において、前記銅/前記亜鉛のモル比が、1/2~2/1である[1]又は[2]に記載のメタノールの製造方法。
[4] 前記触媒が、助触媒として、ガリウム、ジルコニウム、クロム、アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種を含む[1]又は[2]に記載のメタノールの製造方法。
[5] 前記触媒が、助触媒として、ガリウムを含む[1]又は[2]に記載のメタノールの製造方法。
[6] 前記触媒において、前記銅/前記助触媒のモル比が、1/1~1/0.1である[4]又は[5]に記載のメタノールの製造方法。
[7] 前記触媒は、銅塩、亜鉛塩、助触媒金属塩および沈殿剤を溶解させた水溶液のpHをアルカリにすることで、共沈により、前記銅及び前記亜鉛を含む沈殿物を生成した後、前記沈殿物を乾燥及び焼成して製造される[1]~[6]のいずれか1項に記載のメタノールの製造方法。
[8] 前記原料ガスの反応場に、メタノールを前記触媒1gに対して、2.8~7mL/minで導入する[1]~[7]のいずれか1項に記載のメタノールの製造方法。
[9] 銅及び亜鉛と、助触媒としてのガリウムと、を含む酸化物からなるメタノール製造触媒。
[10] 前記銅/前記亜鉛のモル比が、1/2~2/1である[9]に記載のメタノール製造触媒。
[11] 前記銅/前記ガリウムのモル比が、1/1~1/0.1である[9]又は[10]に記載のメタノール製造触媒。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水素と二酸化炭素(CO)とを原料ガスとした場合にも、低温で、かつ高効率にメタノールを製造できる、メタノールの製造方法、および、それに利用するメタノール製造触媒を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する上記複数の物質の合計量を意味する。
「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
「好ましい態様の組み合わせ」は、より好ましい態様である。
【0020】
(メタノール製造方法)
本発明のメタノール製造方法は、メタノールと、銅及び亜鉛を含む酸化物からなる触媒と、の存在下で、水素及び二酸化炭素を含み、かつ二酸化炭素/一酸化炭素の比が2倍以上である原料ガスを反応させて、メタノールを製造する方法である。
【0021】
本発明のメタノール製造方法では、水素分子を解離する機能の高い、銅及び亜鉛を含む酸化物からなる触媒上で、水素と二酸化炭素(CO)から、ギ酸塩(銅塩又は亜鉛塩)を形成後、反応場内に溶媒として存在するメタノールとの間で、ギ酸塩(銅塩又は亜鉛塩)をギ酸化メチルに変換し、最終的に、ギ酸化メチルをメタノールへと変換する(下記スキーム参照)。
3H+CO ⇔ 5H+HCOOCu(Zn)+CHOH → 4H+HCOOCH+HO → 2CHOH+H
【0022】
ここで、水素と二酸化炭素(CO)から、ギ酸塩を形成する触媒は、銅及び亜鉛を含む酸化物である。この触媒において、銅の酸化物はメタノール合成の主活性サイトとして機能する。亜鉛の酸化物は銅の酸化物と物質的相乗効果を示し、構造改質、水素貯蔵、又は結合活性の直接的な増進剤として機能することができる。つまり、亜鉛の酸化物は二酸化炭素(CO)の水素化からメタノールの合成に対してより高い選択率を与える。また、助触媒、例えば、ガリウムなどは、原料ガスの水素分子を効率的に原子状へ解離、および、周辺へ拡散しやすくして、反応を大きく促進すると推定される。
また、水素と二酸化炭素(CO)の反応の間、ギ酸は絶えず形成される。そのため、エステル化反応によってギ酸を転換するために、絶えずメタノールを供給する。
その結果、本来、水素と二酸化炭素(CO)との反応は、一定以上の反応温度(250℃以上)で進行するが、メタノールの存在下では、比較的低温(250℃未満)でも進行することが可能となった。
【0023】
以上より、本発明のメタノールの製造方法では、水素と二酸化炭素(CO)とを原料ガスとした場合にも、低温で、かつ高効率にメタノールを製造できる。
【0024】
特に、触媒として、銅及び亜鉛を含むと共に、助触媒としてガリウムを含む酸化物を適用すると、Ti,Zr,Cr,Mn,Al等の従来の助触媒に比べ、ガリウムにより、さらに、原料ガスの水素分子を効率的に原子状へ解離しやすくする。そのため、さらに、水素と二酸化炭素(CO)との反応を大きく促進すると推測される。
また、触媒において、銅、亜鉛、助触媒(ガリウム等)は、一定の大きさのドメイン(領域)を有することが反応面で有利である。そのため、触媒は、担持法よりも沈殿法で製造された触媒が好ましい。
【0025】
以下、本発明のメタノールの製造方法の詳細について説明する。
【0026】
-原料ガス-
本発明のメタノールの製造方法において、原料ガスは、水素及び二酸化炭素を含み、かつ二酸化炭素/一酸化炭素のモル比が2倍以上であるガスとする。つまり、原料ガスは、一酸化炭素を含まない、含んでも少ないことが好ましい。本発明のメタノールの製造方法は、主として、水素と二酸化炭素との反応によりメタノールを合成するためである。
そのため、ここで、二酸化炭素/一酸化炭素のモル比は、2倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましい。
なお、原料ガスが一酸化炭素を含まない場合、二酸化炭素/一酸化炭素のモル比が2倍以上である。
【0027】
原料ガスにおける、水素/二酸化炭素のモル比は、高効率なメタノール生成の観点から、1/1~10/1が好ましく、2/1~5/1がより好ましい。
【0028】
原料ガスは、高効率なメタノール生成の観点から、反応場(具体的には、反応容器)に、触媒1gに対して、気体状態換算で、10~200mL/min(好ましくは50~100mL/min)で導入することがよい。
【0029】
-触媒-
本発明のメタノールの製造方法では、触媒として、銅及び亜鉛を含む酸化物からなる触媒を適用する。
【0030】
触媒において、銅/亜鉛のモル比は、高効率なメタノール生成の観点から、1/2~2/1が好ましく、4/6~6/4がより好ましい。
銅/亜鉛のモル比が1/2未満又は2/1超えでは、触媒活性が十分でなく、高効率でメタノールが生成し難くなることがある。
【0031】
触媒は、高効率なメタノール生成の観点から、助触媒を含んでもよい。
助触媒としては、ガリウム、ジルコニウム、クロム、アルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
銅/助触媒のモル比は、高効率なメタノール生成の観点から、1/1~1/0.1が好ましく、1/0.8~1/0.4がより好ましい。
【0032】
これら触媒の中でも、特に、銅及び亜鉛と、助触媒としてガリウムと、を含む酸化物からなる触媒が好ましい。助触媒としてガリウムを含む触媒を適用すると、さらに、低温で高効率なメタノールを生成することができる。ガリウムは、Ti,Zr,Cr,Mn,Al等の従来の助触媒に比べ、原料ガスの水素分子を原子状へ解離する機能が高く、水素と二酸化炭素(CO)との反応を大きく促進すると考えられる推測されるためである。
【0033】
ここで、銅/ガリウムのモル比は、高効率なメタノール生成の観点から、1/1~1/0.1が好ましく、1/0.5~1/0.2がより好ましい。
【0034】
触媒は、触媒製造工程等で混入する不可避的不純物を含んでもよい。ただし、触媒活性向上の面からは不純物量が少ないほど好ましく、できるだけ不純物が混入しないようにすることが好ましい。
【0035】
触媒は、粉体であってもよいし、任意の形状の成形体であってもよい。
ただし、触媒の大きさは、平均粒径で10μm~1mmが好ましい。本発明の触媒の大きさは、例えば、粉砕、篩い分け等により調整する。
触媒の大きさが平均粒径で10μm未満である場合、触媒と生成物との固液分離操作の効率が大きく低下することがある。
本発明の触媒の大きさが平均粒径で1mmを超える場合、触媒の表面積が小さくなり触媒活性が十分発揮できないことがある。
本発明の触媒の平均粒径は、レーザー式回折法により、粒度分布を得て、体積基準で、粒径の小さい方から累積した累積50%径(体積平均粒径)である。
【0036】
触媒の比表面積は、例えば、1~400m/gである。
ここで、一般的に、良好な触媒活性を発現させるためには、触媒の比表面積は大きいほど有利である。
一方で、触媒の比表面積が400m/gより大きくなると、触媒強度の低下を招くことがある好ましくない。また、触媒の比表面積が1m/gより小さくなると、活性金属の反応への寄与効率が低下するため、十分な触媒活性が得られないことがある。
触媒の比表面積は、窒素ガスの吸脱着によるBET法で求めた測定値である。
【0037】
-触媒の方法-
触媒は、担持法または沈殿法を利用して製造できる。
一方で、沈殿法により得られた触媒は、担持法で得られた触媒に比べ、銅、亜鉛、助触媒(ガリウム等)が一定の大きさのドメイン(領域)を有するため、触媒能が高まり、水素と二酸化炭素(CO)との反応を大きく促進できる。
そのため、触媒は、沈殿法により得られた触媒であることが好ましい。
【0038】
沈殿法を利用した触媒は、例えば、銅塩、亜鉛塩および沈殿剤を溶解させた水溶液のpHをアルカリにすることで、共沈により、前記銅及び前記亜鉛を含む沈殿物を生成した後、沈殿物を乾燥及び焼成して製造する。
助触媒を含む触媒を製造する場合、銅塩、亜鉛塩と共に、助触媒の金属塩を溶解させた水溶液を適用する。
【0039】
銅塩、亜鉛塩および沈殿剤を溶解させた水溶液と沈殿剤水溶液とを混合して調製してもよいし、銅塩、亜鉛塩および沈殿剤を水に添加して調製してもよい。
銅塩、亜鉛塩、助触媒の金属塩としては、該当金属元素の、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩化物等が挙げられる。各塩は、水に溶解すればよく、特に限定されることは無いが、溶解度の高い硝酸塩がよい。
【0040】
沈殿剤としては、アルカリ炭酸塩(炭酸ナトリウム等)、アンモニア水等が挙げられ、炭酸ナトリウムが好ましい。
【0041】
銅塩、亜鉛塩および沈殿剤を溶解させた水溶液のpHは、例えば、7.5~10.5(好ましくは8~10)とする。水溶液のpHを上記範囲とし、アルカリ性にすると、共沈により、銅及び亜鉛を含む沈殿物(又は、銅、亜鉛および助触媒を含む沈殿物)が生成する。
このときの混合液の温度は、例えば、40~80℃(好ましくは60~70℃)とすることがよい。
【0042】
得らえた共沈物(つまり、触媒の前駆体)を、熟成のため一定時間放置する。熟成時間は、例えば、5~500時間程度である。
次に、熟成後の共沈物を、ろ過した後、アルカリ炭酸塩等の沈殿剤成分を除去するため、イオン交換水等で洗浄する。
そして、洗浄後の共沈物を乾燥及び焼成する。焼成は、例えば、空気中250~400℃、0.5~5時間で実施する。
【0043】
以上の工程を経て、触媒が得られる。
なお、焼成により得られた触媒に、必要に応じて整粒後、還元(例えば、水素気流中等の活性化処理を施してもよい。また、空気中で触媒を取り扱う場合、触媒の表面に不動態化処理を施してもよい。
【0044】
-反応-
本発明のメタノールの製造方法は、気相中で、メタノールを製造する方法であってもよいし、液相中で、メタノールを製造する方法であってもよい。
つまり、本発明のメタノールの製造方法は、メタノールガス及び触媒の存在下で、原料ガスを反応する方法であってもよいし、メタノール液及び触媒の存在下で、原料ガスを反応する方法であってもよい。
ただし、低温で高効率なメタノール合成を実現する観点から、本発明のメタノールの製造方法は、気相中で、メタノールを製造する方法が好ましい。
【0045】
具体的には、本発明の炭化水素の製造方法では、例えば、反応場に触媒を配置した後(具体的には、反応容器に触媒を充填した後)、メタノールと共に、混合ガスを反応場(具体的は反応容器)流通する。それにより、メタノールの存在下で、混合ガスを触媒に接触させる。触媒は、混合ガスを触媒に接触させる前(つまり、メタノールの合成前)に、不活性ガス(窒素等)雰囲気下で加熱し、水素ガスを接触させて、還元処理を実施することがよい。
なお、反応容器の形式としては、固定床、噴流床、流動床、スラリー床のいずれも好適に用いることができる。
【0046】
原料ガスは、高効率なメタノール生成の観点から、反応場(具体的には、反応容器)に、触媒1gに対して、10~200mL/min(好ましくは50~100mL/m)で導入することがよい。特に、原料ガスは、反応場中のメタノールガスの圧力が一定となるように導入することがよい。
【0047】
メタノールは、低温で高効率なメタノール生成の観点から、原料ガスの反応場(具体的には、反応容器)に、触媒1gに対して、1.4~14mL/min(好ましくは2.8~7mL/min)で導入することがよい。
そして、メタノールは、原料ガスと共に、反応場(具体的には、反応容器)に導入し続ける。二酸化炭素の水素化の間、ギ酸(HCOOH)は絶えず形成される。そのため、エステル化反応によってギ酸(HCOOH)を転換するために、絶えずメタノールを導入する。
【0048】
ここで、反応場における、メタノール/水素及び二酸化炭素のモル比は、低温で高効率なメタノール生成の観点から、1/200~1/20が好ましく、1/100~1/50がより好ましい。
【実施例
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0050】
(実施例1)
6.7gの硝酸銅(II)三水和物、8.3gの硝酸亜鉛六水和物、1.4gの硝酸ガリウム(III)九水和物、および炭酸ナトリウム溶液を、300rmpおよび700℃で、一定に撹拌した500mLの蒸留水中に同時に加えた。pHは8.5に保ち、共沈により沈殿物を得た。
得られた沈殿物を12時間熟成させ、漉過し、十分な蒸留水で洗浄し、そして1200℃で一晩乾燥させ、触媒の前駆体を得た。次いで、触媒の前駆休を空気中で20℃/minの速度で350℃まで加熱し3時間保持し、触媒を得た。
得られた触媒は、Cu、Zn、Gaを含み、モル比(Cu:Zn:Ga)が1:1:0.1である酸化物(「Cu-Zn-Ga(1:1:0.1)」とも表記)である。
【0051】
上記操作に準じて、Gaのモル比が0.2、0.3、0.6の異なる酸化物からなる触媒(各々、Cu-Zn-Ga(1:1:0.1)、Cu-Zn-Ga(1:1:0.1)、Cu-Zn-Ga(1:1:0.1)と表記)も得た。
【0052】
これら触媒を0.5g用い、内径8mmのSUS製反応管の中央に位置するよう石英ウールで固定し、触媒層中央位置に熱電対を挿入し、固定床反応管を所定の位置にセットした。
合成反応を始める前に、まず反応器に水素5%/Heの混合ガスを60mL/min流しながら、常圧で290℃、4h還元処理を行った。
【0053】
その後、室温に下げた後、反応容器に、水素:CO=3:1(モル比)、内部標準としてArを4%含む原料ガスを50mL/minになるよう導入すると共に、メタノールをガスとして1.4ml/min又は2.8ml/minを導入しながら、反応温度7MPa、反応圧力200℃で、反応時間24hで、合成を行った。
【0054】
反応生成物は、水分を除去した後、二つのガスクロマトグラフィ(島津製作所製Gc-2014)に注入して、TCD(Thermal Conductivity Detector)分析とFID(Flame Ionization Detector)分析を行った。そして、次の値を求めた。その結果を表1に示す。
【0055】
-転化率(Conv.)-
・CO転化率(%)=(1-(COの減少量)/(供給されたCOの供給量))×100
【0056】
-選択率(Hydrocarbon distribution)-
・CO選択率(%)=(COの体積量)/(供給されたCOの供給量)×100
・MeOH選択率(%)=(MeOHの体積量)/(供給されたCOの供給量)×100
【0057】
-空時収率(Space Time Yield (g/Kg-cat・h))-
・MeOH空時収率(g/Kg-cat・h)=メタノールの生成モル数(mol/kg-cat・h)×32g/CHOH-mol
【0058】
【表1】
【0059】
上記結果から、本条件(反応温度が200℃という低温の条件)において、Cu-Zn-Ga(1:1:0.1)触媒では、メタノールガス導入量が1.4mL/minのとき、307.6g/Kg-cat.hの空時収率で、また、メタノールガス導入量が2.8mL/minとき、258.9g/Kg-cat.hの空時収率で、メタノールは生成することがわかった。
また、Cu-Zn-Ga(1:1:0.2)触媒では、メタノールガス導入量が1.4mL/minのとき、328.9g/Kg-cat.hの空時収率で、また、メタノールガス導入量が2.8mL/minとき、240.3g/Kg-cat.hの空時収率で、メタノールは生成することがわかった。
また、Cu-Zn-Ga(1:1:0.3)触媒では、メタノールガス導入量が1.4mL/minのとき、326.7g/Kg-cat.hの空時収率で、また、メタノールガス導入量が2.8mL/minとき、268.7g/Kg-cat.hの空時収率で、メタノールは生成することがわかった。
また、Cu-Zn-Ga(1:1:0.6)触媒では、メタノールガス導入量が1.4mL/minのとき、298.1g/Kg-cat.hの空時収率で、また、メタノールガス導入量が2.8mL/minとき、298.8g/Kg-cat.hの空時収率で、メタノールは生成することがわかった。
【0060】
(実施例2)
実施例1の触媒の製法に準じて、銅及び亜鉛を含む酸化物からなる触媒(Cu-Znと表記)、また、銅及び亜鉛に加え、助触媒として、Ga、Zr、Cr、若しくはAlを含む酸化物からなる触媒(各々、Cu-Zn-Ga、Cu-Zn-Zr、Cu-Zn-Cr、Cu-Zn-Alと表記)を得た。なお、触媒中の各金属元素のモル比(Cu:Zn:M(M=助触媒)は、1:1:0.2である。ただし、Cu-Zn触媒のモル比(Cu:Zn)は、1:1である。
そして、これら触媒を用いた以外は、実施例1と同様にして、メタノールを合成し、分析した。その結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
上記結果から、本条件(反応温度が200℃という低温の条件)において、Cu-Zn-Ga触媒では、333.5g/Kg-cat.hの空時収率で、メタノールは生成することがわかった。
また、Cu-Zn触媒では、200.8g/Kg-cat.hの空時収率で、メタノールは生成することがわかった。
また、Cu-Zn-Zr触媒では、291.1g/Kg-cat.hの空時収率で、メタノールは生成することがわかった。
また、Cu-Zn-Cr触媒では、297.0g/Kg-cat.hの空時収率で、メタノールは生成することがわかった。
また、Cu-Zn-Al触媒では、305.2g/Kg-cat.hの空時収率で、メタノールは生成することがわかった。
【0063】
(比較例1)
実施例2におけるCu-Zn-Ga触媒を3g用い、原料ガスとしてH/CO/CO/Ar(体積比=61/31/5/3)の、COリッチの原料ガスを、20mL/minで供給し、メタノール40mLの存在下、反応温度170℃、反応圧力5mPaで反応させるほかは、実施例1と同様にして、メタノールを合成した。
そして、次の値を求めた。その結果を表3に示す。
【0064】
-転化率(Conv.)-
・CO転化率(%)=(1-(COの減少量)/(供給されたCOの供給量))×100
・CO転化率(%)=(1-(COの減少量)/(供給されたCOの供給量))×100
・Total carbon C転化率(%)=CO転化率×(原料ガス中CO濃度)/[(原料ガス中CO濃度)+(原料ガス中CO濃度)]+CO2転化率×(原料ガス中CO濃度)/[(原料ガス中CO濃度)+(原料ガス中CO濃度)]
【0065】
-選択率(Selectivity)-
メタノール(MeOH)とギ酸メチル(MF)との生成割合(%)
【0066】
【表3】
【0067】
上記結果から、本条件では、メタノールは、原料ガス組成から考えて、そのほとんどがCOから生成し、一部COから生成されることがわかった。
【0068】
(比較例2)
実施例1におけるCu-Zn-Ga(1:1:0.2)触媒を使用し、メタノールの代わりに、エタノール、1-プロパノール、2ープロパノール、2-ブタノールを導入するほかは、実施例1と同様にして、メタノールを合成し、分析した。その結果を表4に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
従って、本条件(反応温度が200℃という低温の条件)において、エタノール導入では、225.3g/Kg-cat.hの空時収率で、メタノールは生成するにとどまることがわかった。
また、1-プロパノール導入では、262.8g/Kg-cat.hの空時収率で、メタノールは生成するにとどまることがわかった。
また、2-プロパノール導入では、231.9g/Kg-cat.hの空時収率で、メタノールは生成するにとどまることがわかった。
また、2-ブタノール導入では、199.5g/Kg-cat.hの空時収率で、メタノールは生成するにとどまることがわかった。
【0071】
以上の結果から、本実施例では、水素と二酸化炭素(CO)とを原料ガスとした場合にも、低温で、かつ高効率にメタノールを製造できることがわかる。