(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】台車及び鉄道車両
(51)【国際特許分類】
B61D 49/00 20060101AFI20230817BHJP
B61F 3/14 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
B61D49/00 A
B61F3/14
(21)【出願番号】P 2019185644
(22)【出願日】2019-10-09
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐野 薫平
(72)【発明者】
【氏名】野上 裕
(72)【発明者】
【氏名】藤本 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】澤田 雅典
(72)【発明者】
【氏名】水野 将明
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/021514(WO,A1)
【文献】特開2006-273294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 49/00
B61F 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両用の台車であって、
前記台車において長手方向の一方側に配置され、前記台車の幅方向に延びる第1車軸と、前記第1車軸に取り付けられる一対の第1車輪と、を有する第1輪軸と、
前記台車において前記長手方向の他方側に配置され、前記台車の幅方向に延びる第2車軸と、前記第2車軸に取り付けられる一対の第2車輪と、を有する第2輪軸と、
前記第1輪軸及び前記第2輪軸を支持する台車枠と、
前記第1車軸の軸心よりも下方に位置付けられるとともに、前記長手方向における前記第1車輪の両端のうち外側に位置する外端と、前記第1車軸の前記軸心との間に半分以上の部分が配置されるカバーと、
を備え、
前記カバーは、前記長手方向で外向きの表面であって、前記幅方向に延びるとともに、前記第1車軸の前記軸心に近づくにつれて下降する前記表面を有
し、かつ、前記長手方向で内向きの裏面であって、前記幅方向に延びるとともに、前記長手方向において前記一対の第1車輪それぞれと対面する部位を有する前記裏面を有する、台車。
【請求項2】
請求項1に記載の台車であって、
前記カバーは、前記長手方向において、前記第1車輪の前記外端よりも内側に配置される、台車。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の台車であって、
前記表面は、前記長手方向と30°以下の角度をなす斜め下向きの平坦面である、台車。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の台車であって、
前記カバーのうち前記第1車輪に対応する部分は、前記第1車輪との干渉を避けるように、前記第1車輪に沿う形状を有する、台車。
【請求項5】
鉄道車両であって、
底面にキャビティを有する車体と、
前記鉄道車両の走行方向において前側に前記カバーが配置されるように前記キャビティ
内に収容される、請求項1から4のいずれか1項に記載の台車と、
を備え、
前記カバーの半分以上の部分は、前記キャビティの下端よりも下方に配置される、鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、台車及びこれを用いた鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の鉄道車両の高速化に伴い、鉄道車両から発生する騒音の低減に対する要求が高まっている。鉄道車両からは様々な要因で騒音が発生するが、高速で走行する鉄道車両では、台車領域から発生する空力音が支配的な騒音源となる。そのため、台車領域における空力音の低減が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1では、鉄道車両の下部に空力音低減部を設ける技術が提案されている。この空力音低減部は、傾斜部と、網状部とを含む。傾斜部及び網状部は、鉄道車両の車体の底面において、キャビティに収容された台車の前方及び後方に設けられている。特許文献1によれば、傾斜部が台車から気流を逸らし、網状部が気流の速度を低下させることにより、台車領域における低中周波数域の空力音成分が低減され、空力音が緩和される。
【0004】
特許文献2では、鉄道車両の下部に風速低減部を設ける技術が提案されている。この風速低減部は、傾斜部と、側板部と、を含む。傾斜部は、鉄道車両の車体の底面において、台車を収容するキャビティの前端及び後端に設けられている。側板部は、キャビティ内の台車を両側方から覆う。特許文献2によれば、傾斜部は、車体の底面に沿って流れる空気の乱れ及び剥離を抑制することができ、側板部は、車体の側面を流れる空気の剥離を抑制することができる。
【0005】
特許文献1及び2には、空力音を生じさせる気流を制御するため、鉄道車両の車体の構成を工夫することが開示されている。一方、特許文献3には、鉄道車両の車体ではなく、台車の構成を工夫することが開示されている。
【0006】
特許文献3では、台車の長手方向の両端部を覆うように台車にカバーが取り付けられる。このカバーは、鉄道車両の走行中、台車の構成部品に空気が当たらないように空気の流れ方向を変化させる形状に形成されている。特許文献3によれば、カバーによって台車の構成部品への空気の衝突が抑制されるため、台車から発生する空力音を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4331025号公報
【文献】特開2006-273294号公報
【文献】国際公開第2018/043010号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3では、台車の長手方向において輪軸の両外側にカバーが配置される。これらのカバーは、長手方向に沿って台車を見たときに台車の各構成部品が隠れるように形成されている。しかも、各カバーは、台車の長手方向において外側に凸の湾曲面を有する。そのため、特許文献3に開示される技術では、台車の寸法、特に長手方向の寸法が増大するという問題が発生する。
【0009】
本開示は、鉄道車両において、台車領域から発生する空力音を効果的に低減するとともに、台車の寸法の増大を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る台車は、鉄道車両用の台車である。台車は、第1輪軸と、第2輪軸と、台車枠と、カバーと、を備える。第1輪軸は、台車において長手方向の一方側に配置される。第1輪軸は、第1車軸と、一対の第1車輪と、を有する。第1車軸は、台車の幅方向に延びる。一対の第1車輪は、第1車軸に取り付けられる。第2輪軸は、台車において長手方向の他方側に配置される。第2輪軸は、第2車軸と、一対の第2車輪と、を有する。第2車軸は、台車の幅方向に延びる。一対の第2車輪は、第2車軸に取り付けられる。台車枠は、第1輪軸及び第2輪軸を支持する。カバーは、第1車軸の軸心よりも下方に位置付けられる。カバーの半分以上の部分は、長手方向における第1車輪の両端のうち外側に位置する外端と、第1車軸の軸心との間に配置される。カバーは、長手方向で外向きの表面を有する。この表面は、幅方向に延びるとともに、第1車軸の軸心に近づくにつれて下降する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、鉄道車両において、台車領域から発生する空力音を効果的に低減することができるとともに、台車の寸法の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態に係る鉄道車両の縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す鉄道車両の台車領域の拡大図である。
【
図6】
図6は、数値シミュレーション解析に使用した高速鉄道車両の2台車モデルの模式図である。
【
図7】
図7は、数値シミュレーション解析における音圧観測点を示す模式図である。
【
図8】
図8は、前側の台車領域から発生する空力音について、各音圧観測点における音圧レベルのオーバーオール値を示すグラフである。
【
図9】
図9は、後ろ側の台車領域から発生する空力音について、各音圧観測点における音圧レベルのオーバーオール値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態に係る台車は、鉄道車両用の台車である。台車は、第1輪軸と、第2輪軸と、台車枠と、カバーと、を備える。第1輪軸は、台車において長手方向の一方側に配置される。第1輪軸は、第1車軸と、一対の第1車輪と、を有する。第1車軸は、台車の幅方向に延びる。一対の第1車輪は、第1車軸に取り付けられる。第2輪軸は、台車において長手方向の他方側に配置される。第2輪軸は、第2車軸と、一対の第2車輪と、を有する。第2車軸は、台車の幅方向に延びる。一対の第2車輪は、第2車軸に取り付けられる。台車枠は、第1輪軸及び第2輪軸を支持する。カバーは、第1車軸の軸心よりも下方に位置付けられる。カバーの半分以上の部分は、長手方向における第1車輪の両端のうち外側に位置する外端と、第1車軸の軸心との間に配置される。カバーは、長手方向で外向きの表面を有する。この表面は、幅方向に延びるとともに、第1車軸の軸心に近づくにつれて下降する(第1の構成)。
【0014】
第1の構成に係る台車では、長手方向の一方側に配置された第1輪軸の近傍に、カバーが設置されている。カバーは、台車の長手方向において外向きであって、第1輪軸の第1車軸の軸心に近づくにつれて下降する表面を有する。このカバーの表面により、第1の構成に係る台車を用いた鉄道車両が当該台車の長手方向の一方側に走行したとき、台車に向かう空気を下方に案内することができる。よって、台車に衝突する空気を減少させることができ、台車領域から発生する空力音を効果的に低減することができる。
【0015】
第1の構成によれば、カバーのうち半分以上の部分は、第1輪軸に含まれる第1車輪の外端と、第1車輪が取り付けられた第1車軸の軸心との間に配置される。すなわち、台車の長手方向において、カバーの大部分が第1車輪の外端よりも内側に位置付けられる。そのため、第1輪軸よりも長手方向外側に、空力音を低減するためのカバーが大きく突出することがない。よって、空力音を低減しつつ、台車の長手方向の寸法の増大を抑制することができる。
【0016】
カバーは、台車の長手方向において、第1車輪の外端よりも内側に配置されることが好ましい(第2の構成)。
【0017】
第2の構成によれば、台車の長手方向において、カバーの全体が第1車輪の外端よりも内側に位置付けられる。そのため、台車の長手方向の寸法を全く増大させることなく、カバーによる空力音の低減効果を得ることができる。
【0018】
カバーの表面は、斜め下向きの平坦面であってもよい。当該平坦面は、台車の長手方向と30°以下の角度をなすことが好ましい(第3の構成)。
【0019】
第3の構成によれば、カバーの表面が30°以下の緩やかな傾斜面となるため、台車に向かう空気を緩やかに下方に案内することができる。よって、カバーの表面近傍での空気の渦の生成を抑制することができ、台車領域から発生する空力音をより効果的に低減することができる。
【0020】
カバーのうち第1車輪に対応する部分は、第1車輪との干渉を避けるように、第1車輪に沿う形状を有することが好ましい(第4の構成)。
【0021】
第1輪軸の近傍にカバーを設置した場合、例えば、第1輪軸に含まれる第1車輪に、カバーが干渉する場合がある。この干渉を回避するため、カバーのうち第1車輪に対応する部分を単純にトリミングすると、鉄道車両の走行中、トリミング部分を通って空気が台車領域に流入し、空力音が増加する可能性がある。これに対して、第4の構成によれば、カバーのうち第1車輪に対応する部分が当該第1車輪に沿うように形成されている。これにより、カバーと第1車輪との干渉を回避しながら、台車領域への空気の流入を抑制することができる。よって、台車領域から発生する空力音を効果的に低減することができる。
【0022】
実施形態に係る鉄道車両は、車体と、上記台車と、を備える。車体は、底面にキャビティを有する。台車は、鉄道車両の走行方向において前側にカバーが配置されるようにキャビティ内に収容される。カバーの半分以上の部分は、キャビティの下端よりも下方に配置される(第5の構成)。
【0023】
第5の構成によれば、鉄道車両が走行したとき、台車の前側に配置されたカバーにより、鉄道車両の車体の底面に沿って流れる空気が下方に案内される。このカバーの半分以上の部分は、台車が収容されるキャビティの下端よりも下方に配置されている。そのため、鉄道車両の車体の底面に沿って流れる空気を効率よく下方に案内することができる。よって、台車領域から発生する空力音を効果的に低減することができる。
【0024】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0025】
[鉄道車両の構成]
図1は、本実施形態に係る鉄道車両10の概略構成を示す縦断面図である。縦断面図とは、鉄道車両10の走行方向に沿った切断面をいう。本実施形態では、説明の便宜上、鉄道車両10が
図1の紙面上で右から左に走行すると仮定して、この走行方向における前後を鉄道車両10の前後と称する。
【0026】
図1に示すように、鉄道車両10は、車体1と、複数の台車2と、を備える。
【0027】
車体1の底面11は、鉄道車両10が走行する軌道に対向する。車体1は、2つのキャビティ12を有する。これらのキャビティ12は、それぞれ、車体1の前部及び後部に設けられている。各キャビティ12は、車体1の底面11に形成された凹部である。各キャビティ12には、台車2が収容される。
【0028】
キャビティ12の各々は、前面121と、後面122と、上面123と、側面124とによって画定される。前面121及び後面122は、それぞれ、台車2の前方及び後方に配置される。上面123は、台車2の上方に配置され、前面121から後面122まで延びている。側面124は、台車2の両側方に配置され、前面121、後面122、及び上面123と接続される。
【0029】
[台車の構成]
以下、
図2及び
図3を参照して、台車2の構成について具体的に説明する。
図2は、鉄道車両10のうち、台車2及びその近傍の領域を拡大した図である。
図3は、
図2に示す領域を下方から見た図である。
【0030】
まず、
図2を参照して、台車2は、輪軸21a,21bと、台車枠22と、カバー23と、を備える。台車2は、カバー23を除き、公知の台車と同様に構成されている。そのため、本実施形態では、台車2の構成のうちカバー23以外の構成については、説明を省略又は簡略化する。
【0031】
輪軸21aは、台車2において、長手方向の一方側に配置されている。輪軸21bは、台車2において、長手方向の他方側に配置されている。本実施形態では、台車2の長手方向の一方側が鉄道車両10の走行方向での前側、台車2の長手方向の他方側が鉄道車両10の走行方向での後ろ側となっている。
【0032】
輪軸21a,21bの各々は、車軸211と、一対の車輪212とを有する。車軸211は、台車2の幅方向に延びている。台車2の幅方向は、台車2の長手方向及び上下方向に垂直な方向であり、
図2の紙面に直交する方向である。車軸211の各端部は、軸箱24内に設けられた軸受(図示略)により、回転可能に支持される。
【0033】
一対の車輪212には、車軸211が挿入される。車輪212の各々は、車軸211に取り付けられる。そのため、これらの車輪212は、車軸211とともに回転する。
【0034】
台車枠22は、一対の側梁221と、複数の横梁222とを含む。一対の側梁221は、台車2の長手方向に延び、実質的に平行に配置されている。複数の横梁222は、一対の側梁221の間において台車2の幅方向に延び、側梁221の中央部同士を接続する。側梁221の各々には、軸ばね25を介し、各軸箱24が取り付けられている。これにより、輪軸21a,21bが台車枠22に弾性的に支持される。
【0035】
カバー23は、台車2の長手方向の一方端部(前端部)に配置される。カバー23は、台車2の構成部品のいずれかに取り付けることができる。例えば、カバー23は、前側の輪軸21aを支持する軸箱24に取り付けることができる。本実施形態の例において、カバー23は、支柱26を介し、軸箱24の底面に取り付けられている。
【0036】
カバー23は、車軸211の軸心Xよりも下方に位置付けられている。カバー23の半分以上の部分は、輪軸21aの車輪212の前端212eと、輪軸21aの車軸211の軸心Xとの間に配置される。すなわち、カバー23は、台車2の側面視で、その半分以上の部分が仮想直線L1,L2で画定される範囲に含まれるように配置されている。仮想直線L1は、台車2の側面視で、輪軸21aの車輪212の前端212eを通り、上下方向に延びる直線である。仮想直線L2は、台車2の側面視で、輪軸21aの車軸211の軸心Xを通り、上下方向に延びる直線である。前端212eは、台車2の長手方向における輪軸21aの車輪212の両端のうち、外側に位置する端(外端)である。
【0037】
本実施形態の例では、輪軸21aの車輪212の前端212eと、輪軸21aの車軸211の軸心Xとの間に、カバー23の全体が配置されている。すなわち、カバー23は、台車2の長手方向において、車輪212の前端212eよりも内側に配置される。カバー23は、仮想直線L1と仮想直線L2との間において、車輪212の前端212e寄りの位置に配置されている。より具体的には、台車2の側面視で、カバー23の前端の位置が仮想直線L1と実質的に一致する。
【0038】
カバー23は、台車2の幅方向に延びている。カバー23は、カバー本体231と、付加部232とを含む。
【0039】
カバー本体231は、例えば、板状をなす。このカバー本体231は、表面2311及び裏面2312を有する。表面2311は、台車2の長手方向で外向きの面である。裏面2312は、表面2311と反対向きの面である。裏面2312には、軸箱24から延びる支柱26が固定されている。
【0040】
表面2311は、輪軸21aの車軸211の軸心Xに近づくにつれて下降する。表面2311の上端は、例えば、車輪212の前端212eの位置を示す仮想直線L1上に配置される。本実施形態において、表面2311は斜め下向きの平坦面である。この表面2311の傾斜角度θは、好ましくは30°以下である。また、表面2311の傾斜角度θは、10°以上であることが好ましい。傾斜角度θは、斜め下向きの表面2311が台車2の長手方向に対してなす鋭角である。
【0041】
特に限定されるものではないが、台車2の長手方向におけるカバー本体231の長さは、例えば、100mm~600mmであることが好ましい。カバー本体231の高さ、すなわち上下方向の長さは、例えば、50mm~300mmであることが好ましい。
【0042】
カバー23は、台車2がキャビティ12内に配置された状態で、その半分以上の部分がキャビティ12の下端よりも下方に位置することが好ましい。例えば、上下方向において、キャビティ12の下端の位置と表面2311の前端の位置とが概ね一致するように、台車2にカバー23を設置することができる。キャビティ12の下端と表面2311の前端との間の上下方向の距離は、好ましくは、10mm~150mmである。
【0043】
図3を参照して、カバー本体231は、台車2の幅方向に延びている。よって、カバー本体231の表面2311も、台車2の幅方向に延びている。台車2の幅方向において、表面2311の両端部は、輪軸21aの2つの車輪212よりも外側に配置されている。
【0044】
カバー本体231のうち、輪軸21aの各車輪212に対応する部分には、切り欠き2313が形成されている。この切り欠き2313により、カバー本体231が各車輪212と干渉しない。すなわち、各車輪212は、カバー本体231の切り欠き2313に進入している。そのため、各車輪212の一部がカバー本体231の表面2311から突出する。
【0045】
付加部232は、カバー本体231の表面2311において、各切り欠き2313の周りに設けられている。付加部232は、各車輪212のうち、切り欠き2313を介してカバー本体231の表面2311から突出した部分に沿うように形成されている。付加部232は、カバー本体231と一体的に形成されていてもよいし、カバー本体231と別体で形成された後、カバー本体231に固定されてもよい。
【0046】
図2及び
図3に示すように、付加部232は、前壁2321と、側壁2322とを含む。前壁2321及び各側壁2322は、カバー本体231の表面2311から下方に突出する。前壁2321は、車輪212の一部を前方から覆う。前壁2321は、車輪212に沿うように形成されている。例えば、前壁2321は、台車2の側面視で実質的に円弧状をなす。側壁2322は、前壁2321の両側縁をカバー本体231の表面2311に連結する。
【0047】
[効果]
本実施形態に係る台車2では、輪軸21aの前端部にカバー23が設置されている。カバー23の前側に設けられた表面2311は、輪軸21aの車軸211の軸心Xに近づくにつれて下降する。そのため、台車2を備える鉄道車両10が走行したとき、カバー23の表面2311により、台車2に向かう空気が下方に案内される。よって、台車2に衝突する空気を減少させることができ、台車領域から発生する空力音を効果的に低減することができる。
【0048】
本実施形態において、カバー23の半分以上の部分は、輪軸21aの車輪212の前端212eと、輪軸21aの車軸211の軸心Xとの間に配置されている。そのため、カバー23が輪軸21aよりも前方に大きく突出することがない。よって、カバー23に起因して台車2の長手方向の寸法が増大するのを抑制することができる。
【0049】
特に、本実施形態では、カバー23の全体が、輪軸21aの車輪212の前端212eと、輪軸21aの車軸211の軸心Xとの間に配置されている。すなわち、カバー23は、輪軸21aの車輪212よりも前方には全く突出していない。そのため、台車2の長手方向の寸法を増大させることなく、カバー23による空力音の低減効果を得ることができる。
【0050】
例えば、輪軸の近傍にカバーを設置した場合、当該カバーと輪軸の各車輪との干渉が生じ得る。この干渉を回避するため、例えば、各車輪を避けるようにカバーをトリミングすることが考えられる。しかしながら、カバーを単純にトリミングした場合、鉄道車両10の走行中、トリミング部分を通って空気が台車領域に流入し、台車等に衝突するため、空力音が増加する。これに対して、本実施形態では、カバー23のうち、輪軸21aの各車輪212に対応する部分が当該車輪212に沿う形状に形成されている。具体的には、本実施形態では、板状のカバー本体231に切り欠き2313が形成されている上、各車輪212のうち、切り欠き2313を介してカバー本体231から突出した部分に沿うように付加部232が設けられている。この付加部232により、切り欠き2313を介して台車領域に空気が流入するのを防止することができる。そのため、カバー23と各車輪212との干渉を回避しつつ、台車領域から発生する空力音を効果的に低減することができる。
【0051】
本実施形態に係る鉄道車両10において、各台車2のカバー23は、好ましくは、当該台車2がキャビティ12内に配置された状態で、その半分以上の部分がキャビティ12の下端よりも下方に配置される。これにより、鉄道車両10の走行中に台車2に向かって流れる空気を効率よく下方に案内することができる。
【0052】
複数の鉄道車両10で編成される列車では、本実施形態に係る台車2の配置を工夫することにより、空力音を効果的に低減することができる。以下、列車における台車2の配置例について、
図4を参照しつつ説明する。
【0053】
図4の例では、列車100を長手方向の一方側の領域R1と、長手方向の他方側の領域R2とに二分している。一方の領域R1では、列車100の長手方向の一方側にカバー23が位置付けられるように、各キャビティ12内に台車2が配置されている。他方の領域R2では、列車100の長手方向の他方側にカバー23が位置付けられるように、各キャビティ12内に台車2が配置されている。すなわち、領域R1と領域R2とで、カバー23の配置が反転している。
【0054】
列車100が長手方向の一方側に走行した場合、前側の領域となる領域R1では、台車2の前端側に配置されたカバー23が空気を下方に案内し、台車領域から発生する空力音を低減させる。また、前側の領域R1においてカバー23が空気を下方に案内することにより、各車体1の底面11に沿って流れる空気が十分に減速される。そのため、後ろ側の領域R2においても、台車領域から発生する空力音を低減させることができる。
【0055】
列車100が長手方向の他方側に走行した場合も、同様に、前側の領域となった領域R2において、台車2の前端側のカバー23が空気を下方に案内し、台車領域から発生する空力音を低減させる。また、前側の領域R2においてカバー23が空気を下方に案内することにより、各車体1の底面11に沿って流れる空気が十分に減速される。そのため、後ろ側の領域R1においても、台車領域から発生する空力音を低減させることができる。
【0056】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0057】
例えば、上記実施形態に係る台車2において、カバー23の表面2311は斜め下向きの平坦面である。しかしながら、表面2311は、車輪212の軸心Xに近づくにつれて下降する形状であればよい。表面2311は、例えば、台車2の側面視で凹状の曲面、又は凸状の曲面等であってもよい。
【0058】
上記実施形態に係る台車2において、カバー23は、各車輪212の形状に沿う付加部232を有している。しかしながら、カバー23は、付加部232を有していなくてもよい。
【0059】
上記実施形態に係る台車2の使用方法は、
図4に示す例に限定されるものではない。すなわち、カバー23を備える台車2の配置及び数は、各列車において適宜決定することができる。
【0060】
例えば、
図4に示す列車100では、長手方向の一方側の領域R1の領域に配置された台車2と、他方側の領域R2に配置された台車2とで、カバー23の位置が異なる。すなわち、領域R1の台車2では、列車100の長手方向の一方側にカバー23が配置され、領域R2の台車2では、列車100の長手方向の他方側にカバー23が配置されている。しかしながら、全ての台車2において、カバー23が同じ側に配置されていてもよい。
【0061】
また、例えば、
図4の例では、列車100に含まれる全てのキャビティ12にカバー23を備える台車2が設けられている。しかしながら、一部のキャビティ12にのみ、カバー23を備える台車2が配置されてもよい。
【0062】
上記実施形態に係る台車2では、長手方向の一方端部にのみ、カバー23が設けられている。しかしながら、カバー23は、台車2の長手方向の両端部に設けられていてもよい。すなわち、
図5に示すように、輪軸21aだけでなく、輪軸21bの近傍にもカバー23を設置することができる。この場合も、カバー23の半分以上が輪軸21bの車輪212の後端212eと、輪軸21bの車軸211の軸心Xとの間に配置される。輪軸21bの車輪212の後端212eは、台車2の長手方向における輪軸21bの車輪212の両端のうち、外側に位置する端(外端)である。
【0063】
図5に示すように、カバー23は、台車2の長手方向において、輪軸21bの車輪212の後端212eよりも内側に配置されることが好ましい。例えば、台車2の側面視で、カバー23の表面2311の上端の位置を、輪軸21bの車輪212の後端212eの位置と実質的に一致させることができる。すなわち、車輪212の後端212eの位置を示す仮想直線L1上に、表面2311の上端を配置することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
商用流体解析ソフトPowerFLOW5.4b(ダッソー・システムズ社製)を用い、数値シミュレーション解析を実施した。本解析では、
図6に示す高速鉄道車両の2台車モデルを対象とし、300km/hで走行している状態を模擬した。解析ケースは、実施例1、実施例2、及び比較例1の3種類である。
【0066】
実施例1及び実施例2は、
図2及び
図3に示す台車2の形状を用いた解析ケースである。ただし、実施例1では、カバー23から付加部232を排除している。すなわち、実施例1において、カバー23は、切り欠き2313を有するカバー本体231のみで構成されている。一方、実施例2では、カバー23は、カバー本体231に加えて付加部232を有する。実施例1及び2では、鉄道車両10の走行方向で前側にカバー23が位置するように、前後のキャビティ12内に台車2を配置した。比較例1は、各キャビティ12内に配置された台車2からカバー23を排除した解析ケースである。
【0067】
実施例1及び2では、高さ:102mm、前後の長さ:204mm、板厚:20mm、傾斜角度θ:26.6°のカバー23を使用した。各キャビティ12の前端からカバー23の前端までの走行方向における距離は、140mmとした。これにより、前側のキャビティ12内に配置された台車2では、カバー23の前端の位置が車輪212の前端の位置と一致した。一方、後ろ側のキャビティ12内に配置された台車2では、カバー23の前端が車輪212の前端よりもわずかに前方に位置付けられた。
【0068】
図7を参照して、本解析では、軌条中心から25m、地上高さ1.2mの各点で音圧を観測した。音圧評価に際し、前後のキャビティ12、及び各キャビティ12内の台車2を覆う音源面を設定し、音源面の流れ場情報を入力情報として、音圧伝播の理論式を解いて音圧を算出した。周波数分析においては、分析対象時間を0.4秒から1.1秒までの0.7秒間、周波数範囲を15~5000Hz、重みづけ特性をA特性とした。
【0069】
図8は、前側の台車領域から発生する空力音について、各音圧観測点における音圧レベルのオーバーオール値を示すグラフである。
図9は、後ろ側の台車領域から発生する空力音について、各音圧観測点における音圧レベルのオーバーオール値を示すグラフである。
図8及び
図9に示すように、台車2にカバー23を設けた実施例1及び2では、カバー23が存在しない比較例1と比べて、前後の台車領域ともに、多くの観測点で音圧レベルが小さくなった。よって、カバー23を台車2に設けることにより、台車領域から発生する騒音を低減できることがわかる。
【0070】
実施例1及び2では、特に、後ろ側の台車領域で騒音低減効果が大きくなった。これは、前側の台車領域でカバー23によって空気の流速が低減され、この流速の低減効果が後ろ側の台車領域に波及したためと考えられる。
【0071】
図8及び
図9に示すように、実施例2では、実施例1よりも騒音低減効果が大きくなった。また、実施例1では、ごく一部の観測点で比較例1よりも騒音が増加したのに対し、実施例2では、全ての観測点で比較例1よりも騒音が低減した。この結果より、車輪212のうち、カバー本体231に干渉する部分を付加部232で覆うことで、より優れた騒音低減効果が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0072】
10:鉄道車両
1:車体
11:底面
12:キャビティ
2:台車
21a,21b:輪軸
211:車軸
212:車輪
22:台車枠
23:カバー
2311:表面