(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】鉄道車輪
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230817BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230817BHJP
C21D 8/06 20060101ALN20230817BHJP
C21D 9/34 20060101ALN20230817BHJP
C21D 1/18 20060101ALN20230817BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/60
C21D8/06 A
C21D9/34
C21D1/18 F
(21)【出願番号】P 2019187785
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大阪 太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久登
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181862(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181861(WO,A1)
【文献】特開2004-315928(JP,A)
【文献】特開2012-107295(JP,A)
【文献】特開2013-231212(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157252(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150545(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/60
C21D 8/06
C21D 9/34
C21D 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車輪であって、
リム部と、
ボス部と、
前記リム部と前記ボス部との間に配置される板部とを備え、
前記鉄道車輪の化学組成は、質量%で、
C:0.85~1.15%、
Si:0.80%以下、
Mn:1.50%以下、
P:0.050%以下、
S:0.050%以下、
Cr:0~0.50%、
V:0~0.10%、
Mo:0~0.20%、
Cu:0~0.50%、
Ni:0~0.50%、
Al:0~0.500%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1)で定義されるFn1が42.0以下であり、
式(2)で定義されるFn2が39.0以上であり、
前記リム部の踏面に垂直な断面におけるパーライトの総面積率は95.0%以上であり、
前記リム部の前記踏面に垂直な断面の前記パーライトのうち、縦20μm×横20μmの矩形の観察視野において、縦方向に0.5μmピッチで40等分し、横方向に0.5μmピッチで40等分して、40×40個の微小領域を区画し、前記微小領域のうち、前記微小領域内に全体が収まるセメンタイトを少なくとも1つ含む前記微小領域を、球状化セメンタイト含有微小領域と定義したとき、
前記微小領域の総個数に対する、前記球状化セメンタイト含有微小領域の総個数の割合である、球状化セメンタイト含有微小領域面積率が40.0%以下である、
鉄道車輪。
Fn1=30.52+6.96×C+4.96×Si+1.85×Mn+4.85×Cr+34.77×V・・・(1)
Fn2=18.18+21.82×C+2.39×Si+1.01×Mn+6.97×Cr+24.79×V・・・(2)
ここで、式(1)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車輪であって、
前記鉄道車輪の化学組成は、
Al:0.010~0.500%を含有する、
鉄道車輪。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鉄道車輪であって、
前記鉄道車輪の化学組成は、
Cr:0.01~0.50%、
V:0.01~0.10%、
Mo:0.01~0.20%、
Cu:0.01~0.50%、及び、
Ni:0.01~0.50%からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する、
鉄道車輪。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車輪に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、線路を構成するレール上を走行する。鉄道車両は、複数の鉄道車輪を備える。鉄道車輪は、車両を支持し、レールと接触して、レール上を回転しながら移動する。鉄道車輪は、レールとの接触により摩耗する。最近、鉄道輸送の高効率化を目的として、鉄道車両への積載重量の増加、及び、鉄道車両の高速化が進められている。その結果、鉄道車輪の耐摩耗性の向上が求められている。
【0003】
鉄道車輪の耐摩耗性を高める技術が、特開平9-202937号公報(特許文献1)、特開2012-107295号公報(特許文献2)、特開2013-231212号公報(特許文献3)、特開2004-315928号公報(特許文献4)に提案されている。
【0004】
特許文献1に開示された鉄道車両用車輪は、質量%で、C:0.4~0.75%、Si:0.4~0.95%、Mn:0.6~1.2%、Cr:0~0.2%未満、P:0.03%未満、S:0.03%以下を含有し、残部がFe及びその他不可避の不純物からなる。この鉄道車輪において、車輪踏面部の表面から少なくとも深さ50mmまでの領域が、パーライト組織からなる。特許文献1の鉄道車輪の製造方法は、車輪踏面部の冷却曲線が、連続冷却変態曲線図におけるパーライト生成領域を通り、かつ、マルテンサイト変態曲線より長時間側にある条件で、車輪踏面部を冷却する焼入工程を含む。
【0005】
特許文献2に開示された車輪用鋼は、質量%で、C:0.65~0.84%、Si:0.02~1.00%、Mn:0.50~1.90%、Cr:0.02~0.50%、V:0.02~0.20%、S≦0.04%を含み、残部がFeと不純物からなり、P≦0.05%、Cu≦0.20%、Ni≦0.20%の化学組成を有する。この化学組成はさらに、次の関係式を満たす。〔34≦2.7+29.5×C+2.9×Si+6.9×Mn+10.8×Cr+30.3×Mo+44.3×V≦43〕かつ〔0.76×exp(0.05×C)×exp(1.35×Si)×exp(0.38×Mn)×exp(0.77×Cr)×exp(3.0×Mo)×exp(4.6×V)≦25〕。この車両用鋼は、上記化学組成及び上記式を満たすことにより、耐摩耗性、耐転動疲労特性、耐スポークリング性に優れる、と特許文献2には記載されている。
【0006】
特許文献3に開示された車輪用鋼は、質量%で、C:0.65~0.84%、Si:0.4~1.0%、Mn:0.50~1.40%、Cr:0.02~0.13%、S:0.04%以下、V:0.02~0.12%を含有し、式(1)で定義されるFn1が32~43で、かつ、式(2)で表されるFn2が25以下であり、残部がFe及び不純物からなる。ここで、式(1)は、Fn1=2.7+29.5C+2.9Si+6.9Mn+10.8Cr+30.3Mo+44.3Vであり、式(2)は、Fn2=exp(0.76)×exp(0.05C)×exp(1.35Si)×exp(0.38Mn)×exp(0.77Cr)×exp(3.0Mo)×exp(4.6V)である。この車輪用鋼は、上記化学組成を有し、Fn1及びFn2が上記範囲を満たすことにより、耐摩耗性、耐転動疲労特性、耐スポーリング性に優れる、と特許文献3には記載されている。
【0007】
特許文献4に開示された鉄道車両用車輪は、質量%で、C:0.85~1.20%、Si:0.10~2.00%、Mn:0.05~2.00%、必要に応じてさらにCr、Mo、V、Nb、B、Co、Cu、Ni、Ti、Mg、Ca、Al、Zr、及びNの1種又は2種以上を所定量含有し、残部がFe及びその他不可避的不純物からなる化学成分を含有する鋼で構成された一体型の鉄道車両用車輪であって、車輪の踏面及び/又はフランジ面の少なくとも一部がパーライト組織である。特許文献4では、鉄道車両用車輪の寿命は、踏面及びフランジ面の摩耗量に依存し(特許文献4の段落[0002])、さらに、高速鉄道においてブレーキを掛けたときの発熱量の増大にともない発生する踏面及びフランジ面での亀裂に依存すると記載されている。そして、鉄道車両用車輪が上記構成を有することにより、踏面及びフランジ面の耐摩耗性及び熱亀裂を抑制できる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平9-202937号公報
【文献】特開2012-107295号公報
【文献】特開2013-231212号公報
【文献】特開2004-315928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に提案されている鉄道車両用車輪は、適度の焼入れ性と同時に、パーライト組織が得られる性質を持たせるために、Cr含有量を低く抑え、かつ、適量のSiを含有する。しかしながら、特許文献1に記載の鉄道車両用車輪のC含有量は0.4~0.75%であり、この車輪はいわゆる亜共析鋼からなる。そのため、耐摩耗性の向上には限界がある。同様に、特許文献2及び特許文献3に提案されている車輪用鋼も亜共析鋼からなる。特許文献2及び3では、亜共析鋼にVを含有することにより、パーライト組織を強化して、耐摩耗性を高めている。しかしながら、Vを含有するだけでは、耐摩耗性の向上に限界がある。
【0010】
一方、特許文献4に提案されている鉄道車両用車輪では、C含有量を高めた過共析鋼を用いることにより、耐摩耗性を高めている。しかしながら、過共析鋼からなる鉄道車輪を製造する場合、亜共析鋼とは異なる新たな問題点が生じることが判明した。
【0011】
通常、鉄道車輪は、次の工程で製造される。熱間鍛造及び熱間圧延による中間品を製造する。中間品に対して、踏面焼入れを実施する。そして、踏面焼入れ後の中間品のリム部の踏面に形成されたマルテンサイト層を切削して除去し、踏面のミクロ組織をパーライト組織とする。
【0012】
以上のとおり、鉄道車輪の製造では、リム部の踏面に形成されたマルテンサイト層を切削して除去する工程が含まれる。亜共析鋼の鉄道車輪の場合、マルテンサイト層の切削は比較的容易に実施することができた。しかしながら、過共析鋼の場合、マルテンサイト層の硬さが非常に高いため、切削加工が困難となる。
【0013】
そこで、本開示の目的は、耐摩耗性に優れ、かつ、製造工程時における被削性に優れた、鉄道車輪を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示による鉄道車輪は、
リム部と、
ボス部と、
前記リム部と前記ボス部との間に配置される板部とを備え、
前記鉄道車輪の化学組成は、質量%で、
C:0.85~1.15%、
Si:0.80%以下、
Mn:1.50%以下、
P:0.050%以下、
S:0.050%以下、
Cr:0~0.50%、
V:0~0.10%、
Mo:0~0.20%、
Cu:0~0.50%、
Ni:0~0.50%、
Al:0~0.500%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1)で定義されるFn1が42.0以下であり、
式(2)で定義されるFn2が39.0以上であり、
前記リム部の踏面に垂直な断面におけるパーライトの総面積率は95.0%以上であり、
前記リム部の前記踏面に垂直な断面の前記パーライトのうち、縦20μm×横20μmの矩形の観察視野において、縦方向に0.5μmピッチで40等分し、横方向に0.5μmピッチで40等分して、40×40個の微小領域を区画し、前記微小領域のうち、前記微小領域内に全体が収まるセメンタイトを少なくとも1つ含む前記微小領域を、球状化セメンタイト含有微小領域と定義したとき、
前記微小領域の総個数に対する、前記球状化セメンタイト含有微小領域の総個数の割合である、球状化セメンタイト含有微小領域面積率が40.0%以下である。
Fn1=30.52+6.96×C+4.96×Si+1.85×Mn+4.85×Cr+34.77×V・・・(1)
Fn2=18.18+21.82×C+2.39×Si+1.01×Mn+6.97×Cr+24.79×V・・・(2)
ここで、式(1)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
【発明の効果】
【0015】
本開示による鉄道車輪は、耐摩耗性に優れ、かつ、製造工程時における被削性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、鉄道車輪の中心軸を含む断面図である。
【
図2】
図2は、球状化セメンタイト含有微小領域面積率の測定方法を説明するための観察視野の模式図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す観察視野のうち、3×3=9個の微小領域を拡大した一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、
図3中の9個の微小領域の定義を説明するための図である。
【
図5】
図5は、観察視野の一部のミクロ組織の一例を示す写真画像(SEM画像)の図である。
【
図6】
図6は、中間品を冷却するための冷却装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[鉄道車輪の構成]
図1は本実施形態による鉄道車輪の中心軸を含む断面図である。
図1を参照して、鉄道車輪1は円盤状であり、ボス部2と、板部3とリム部4とを備える。ボス部2は円筒状であり、鉄道車輪1の径方向(中心軸に対して垂直な方向)において、中央部に配置される。ボス部2は貫通孔21を有する。貫通孔21の中心軸は、鉄道車輪1の中心軸と一致する。貫通孔21には、図示しない鉄道車軸が挿入される。ボス部2の厚さT2は、板部3の厚さT3よりも厚い。リム部4は、鉄道車輪1の外周の縁部に形成されている。リム部4は、踏面41と、フランジ42とを含む。踏面41は、フランジ42と繋がっている。鉄道車輪1の使用時において、踏面41及びフランジ42はレール表面と接触する。リム部4の厚さT4は、板部3の厚さT3よりも厚い。板部3は、ボス部2とリム部4との間に配置され、ボス部2及びリム部4とつながっている。具体的には、板部3の内周縁部はボス部2とつながっており、板部3の外周縁部はリム部4とつながっている。板部3の厚さT3は、ボス部2の厚さT2及びリム部4の厚さT4よりも薄い。鉄道車輪1の直径は特に限定されるものではないが、たとえば、700mm~1000mmである。
【0018】
本発明者らは、耐摩耗性及び被削性を両立できる、鉄道車輪について検討を行った。初めに、本発明者らは、質量%で、C:0.85~1.15%、Si:0.80%以下、Mn:1.50%以下、P:0.050%以下、S:0.050%以下、Cr:0~0.50%、V:0~0.10%、Mo:0~0.20%、Cu:0~0.50%、Ni:0~0.50%、Al:0~0.500%、及び、残部がFe及び不純物からなる化学組成であれば、耐摩耗性及び被削性を両立できる可能性があると考えた。
【0019】
ところで、鉄道車輪の被削性を高めるためには、踏面焼入れにより形成されるマルテンサイトの硬さが抑えられるのが好ましい。さらに、鉄道車輪の耐摩耗性を高めるには、パーライトの硬さを高めるのが好ましい。そこで、マルテンサイト層の硬さを抑えつつ、パーライトの硬さを高める方法を化学組成の観点から検討した。その結果、次の式(1)で定義されるFn1が42.0以下であり、式(2)で定義されるFn2が39.0以上であれば、踏面焼入れにより形成されるマルテンサイト層の硬さが過剰に高くなるのを抑えつつ、かつ、パーライトの硬さを高めることができることを見出した。
Fn1=30.52+6.96×C+4.96×Si+1.85×Mn+4.85×Cr+34.77×V・・・(1)
Fn2=18.18+21.82×C+2.39×Si+1.01×Mn+6.97×Cr+24.79×V・・・(2)
ここで、式(1)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
【0020】
しかしながら、化学組成が上述の範囲内であり、かつ、Fn1が42.0以下であり、かつ、Fn2が39.0以上であっても、耐摩耗性が低い場合があった。そこで、本発明者らはさらに検討を行った。その結果、本発明者らは、次の知見を得た。
【0021】
過共析鋼からなる鉄道車輪の製造工程において、踏面焼入れ後の焼戻しは必須の工程となる。焼戻しにおいて、焼戻し温度が高いほど、マルテンサイト(焼戻しマルテンサイト)の硬さが低くなり、被削性が高まる。したがって、過共析鋼からなる鉄道車輪の場合、マルテンサイトの硬さを低くして被削性を高めるために、焼戻し温度を高くするのが好ましいように考えられる。
【0022】
しかしながら、過共析鋼からなる鉄道車輪において、焼戻し温度が高すぎれば、パーライトのラメラが崩れ、パーライト中のセメンタイトが球状化してしまう。セメンタイトが過剰に球状化すれば、化学組成が上述の範囲内であり、かつ、Fn1が42.0以下であり、かつ、Fn2が39.0以上であっても、鉄道車輪の耐摩耗性が低くなる。
【0023】
そこで、本発明者らは、過共析鋼からなる鉄道車輪において、被削性と耐摩耗性とを両立可能なミクロ組織の形態についてさらに検討を行った。その結果、次の事項が判明した。
【0024】
過共析鋼の鉄道車輪のリム部の踏面に垂直な断面中のパーライト領域に注目する。このパーライト領域のうち、縦20μm×横20μmの矩形の観察視野において、縦方向に0.5μmピッチで40等分し、横方向に0.5μmピッチで40等分して、40×40個の微小領域を区画する。そして、これらの微小領域のうち、微小領域内に全体が収まるセメンタイト(球状化セメンタイト)を少なくとも1つ含む微小領域を、「球状化セメンタイト含有微小領域」と定義する。ここで、「微小領域内に全体が収まるセメンタイトを少なくとも1つ含む」とは、複数のセメンタイトのうち、少なくとも1つのセメンタイト全体が、微小領域内に収まっていることを意味する。つまり、微小領域内から一部でもはみ出るセメンタイトは、「微小領域内に全体が収まるセメンタイト」に該当しない。
【0025】
さらに、球状化セメンタイト含有微小領域面積率(%)を次の式で定義する。
球状化セメンタイト含有微小領域面積率(%)=球状化セメンタイト含有微小領域の総個数/微小領域の総個数×100
【0026】
上記式で定義された球状化セメンタイト含有微小領域面積率が40.0%以下であれば、高い被削性及び高い耐摩耗性の両立が可能であることを本発明者らは見出した。以上の知見に基づいて完成した本実施形態の鉄道車輪は次の構成を備える。
【0027】
[1]
鉄道車輪であって、
リム部と、
ボス部と、
前記リム部と前記ボス部との間に配置される板部とを備え、
前記鉄道車輪の化学組成は、質量%で、
C:0.85~1.15%、
Si:0.80%以下、
Mn:1.50%以下、
P:0.050%以下、
S:0.050%以下、
Cr:0~0.50%、
V:0~0.10%、
Mo:0~0.20%、
Cu:0~0.50%、
Ni:0~0.50%、
Al:0~0.500%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1)で定義されるFn1が42.0以下であり、
式(2)で定義されるFn2が39.0以上であり、
前記リム部の踏面に垂直な断面におけるパーライトの総面積率は95.0%以上であり、
前記リム部の前記踏面に垂直な断面の前記パーライトのうち、縦20μm×横20μmの矩形の観察視野において、縦方向に0.5μmピッチで40等分し、横方向に0.5μmピッチで40等分して、40×40個の微小領域を区画し、前記微小領域のうち、前記微小領域内に全体が収まるセメンタイトを少なくとも1つ含む前記微小領域を、球状化セメンタイト含有微小領域と定義したとき、
前記微小領域の総個数に対する、前記球状化セメンタイト含有微小領域の総個数の割合である、球状化セメンタイト含有微小領域面積率が40.0%以下である、
鉄道車輪。
Fn1=30.52+6.96×C+4.96×Si+1.85×Mn+4.85×Cr+34.77×V・・・(1)
Fn2=18.18+21.82×C+2.39×Si+1.01×Mn+6.97×Cr+24.79×V・・・(2)
ここで、式(1)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
【0028】
[2]
[1]に記載の鉄道車輪であって、
前記鉄道車輪の化学組成は、
Al:0.010~0.500%を含有する、
鉄道車輪。
【0029】
[3]
[1]又は[2]に記載の鉄道車輪であって、
前記鉄道車輪の化学組成は、
Cr:0.01~0.50%、
V:0.01~0.10%、
Mo:0.01~0.20%、
Cu:0.01~0.50%、及び、
Ni:0.01~0.50%からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する、
鉄道車輪。
【0030】
以下、本実施形態の鉄道車輪について詳述する。本明細書において、元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0031】
[鉄道車輪の化学組成]
本実施形態の鉄道車輪1は、
図1に示すとおり、ボス部2と、板部3と、リム部4とを備える。板部3は、リム部4とボス部2との間に配置される。本実施形態の鉄道車輪1の化学組成は、次の元素を含有する。
【0032】
C:0.85~1.15%
炭素(C)は、鋼の硬度を高め、鉄道車輪1の耐摩耗性を高める。C含有量が0.85%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、この効果が得られない。一方、C含有量が1.15%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、初析セメンタイトが過剰に生成して、鉄道車輪1の靱性が低下する。したがって、C含有量は0.85~1.15%である。C含有量の好ましい下限は0.86%であり、さらに好ましくは0.87%である。C含有量の好ましい上限は1.10%であり、さらに好ましくは1.05%であり、さらに好ましくは1.00%であり、さらに好ましくは0.95%である。
【0033】
Si:0.80%以下
シリコン(Si)は不可避に含有される。つまり、Si含有量は0%超である。Siは、フェライトを固溶強化して鋼の硬さを高める。しかしながら、Si含有量が0.80%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼の焼入れ性が高くなりすぎ、マルテンサイトが生成しやすくなる。この場合、踏面焼入れ時に踏面41上に形成される焼入れ層の厚みが増大する。その結果、切削量が増大して歩留りが低下する。Si含有量が0.80%を超えればさらに、鉄道車輪1の使用中に、ブレーキとの間に発生する摩擦熱によりリム部4に焼きが入る。この場合、鋼の耐き裂性が低下する場合がある。したがって、Si含有量は0.80%以下である。Si含有量の好ましい上限は0.78%であり、さらに好ましくは0.75%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.50%である。Si含有量の下限は特に制限されない。しかしながら、Si含有量の過剰な低減は製造コストを高める。したがって、Si含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%である。鋼の硬さを高める観点では、Si含有量のさらに好ましい下限は0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。
【0034】
Mn:1.50%以下
マンガン(Mn)は不可避に含有される。つまり、Mn含有量は0%超である。Mnはフェライトを固溶強化して鋼の硬さを高める。Mnはさらに、MnSを形成し、鋼の被削性を高める。しかしながら、Mn含有量が1.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼の焼入れ性が高くなりすぎる。この場合、マルテンサイト層の厚みが増大する。その結果、切削量が増大して歩留りが低下する。さらに、鉄道車輪1の使用時に、ブレーキとの間に発生する摩擦熱によりリム部4に焼きが入る。この場合、鋼の耐き裂性が低下する場合がある。したがって、Mn含有量は1.50%以下である。Mn含有量の好ましい上限は1.40%であり、さらに好ましくは1.30%であり、さらに好ましくは1.20%であり、さらに好ましくは1.10%であり、さらに好ましくは1.00%である。鋼の硬さを高める観点では、Mn含有量の好ましい下限は0.10%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.70%である。
【0035】
P:0.050%以下
りん(P)は、不可避に含有される不純物である。つまり、P含有量は0%超である。Pは粒界に偏析して鋼の靭性を低下させる。したがって、P含有量は0.050%以下である。P含有量の好ましい上限は0.030%であり、さらに好ましくは0.020%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は製造コストを高める。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
【0036】
S:0.050%以下
硫黄(S)は、不可避に含有される。つまり、S含有量は0%超である。SはMnSを形成し、鋼の被削性を高める。一方、S含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。したがって、S含有量は0.050%以下である。S含有量の好ましい上限は0.035%であり、さらに好ましくは0.020%である。S含有量の過剰な低減は製造コストを高める。したがって、S含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましい下限は0.005%である。
【0037】
本実施形態による鉄道車輪1の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、上記鉄道車輪1を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態の鉄道車輪1に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。上述の不純物以外の不純物はたとえば、N:0.0150%以下、O:0.0070%以下等である。
【0038】
[任意元素(Optional Elements)について]
本実施形態の鉄道車輪1の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Cr、V、Mo、Cu、及び、Niからなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも、パーライトの硬さを高める。
【0039】
Cr:0~0.50%
クロム(Cr)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Crは、パーライトのラメラ間隔を狭める。これにより、パーライトの硬さが増大して、鉄道車輪1の耐摩耗性が高まる。Crが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cr含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、焼入れ性が過剰に高くなり、踏面焼入れ後のマルテンサイト層の厚さが過剰に増大する。この場合、切削量が多くなり、歩留まりが低下する。したがって、Cr含有量は0~0.50%である。Cr含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.03%である。Cr含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.20%である。
【0040】
V:0~0.10%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、Vは、炭化物、窒化物、及び炭窒化物のいずれかを形成して、鋼(具体的にはパーライト中のフェライト)を析出強化する。その結果、パーライトの硬さが増大して、鉄道車輪1の耐摩耗性が高まる。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、V含有量が0.10%を超えれば、焼入れ性が過剰に高くなり、踏面焼入れ後のマルテンサイト層の厚さが過剰に増大する。したがって、V含有量は0~0.10%である。V含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。V含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%である。
【0041】
Mo:0~0.20%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。含有される場合、Moは、パーライト中のフェライトを固溶強化する。その結果、パーライトの硬さが増大して、鉄道車輪1の耐摩耗性が高まる。Moが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mo含有量が0.20%を超えれば、焼入れ性が過剰に高くなり、踏面焼入れ後のマルテンサイト層の厚さが過剰に増大する。したがって、Mo含有量は0~0.20%である。Mo含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Mo含有量の好ましい上限は0.10%であり、さらに好ましくは0.07%であり、さらに好ましくは0.05%である。
【0042】
Cu:0~0.50%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは、パーライト中のフェライトを固溶強化する。その結果、パーライトの硬さが増大して、鉄道車輪1の耐摩耗性が高まる。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が0.50%を超えれば、鋳造時又は熱間加工時に表面割れが発生しやすくなる。したがって、Cu含有量は0~0.50%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Cu含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.10%である。
【0043】
Ni:0~0.50%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。含有される場合、Niはパーライト中のフェライトを固溶強化する。その結果、パーライトの硬さが増大して、鉄道車輪1の耐摩耗性が高まる。Niが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ni含有量が0.50%を超えれば、焼入れ性が過剰に高くなり、踏面焼入れ後のマルテンサイト層の厚さが過剰に増大する。したがって、Ni含有量は0~0.50%である。Ni含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Ni含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.10%である。
【0044】
本実施形態の鉄道車輪1の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Alを含有してもよい。
【0045】
Al:0~0.500%
アルミニウム(Al)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Al含有量は0%であってもよい。含有される場合、Alは初析セメンタイトの生成を抑制し、鋼の靱性を高める。Alはさらに、Nと結合してAlNを形成し、結晶粒を微細化する。結晶粒を微細化することにより、鋼の靱性がさらに高まる。Alが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Al含有量が0.500%を超えれば、製鋼工程にて粗大な非金属介在物が生成して、鋼の靱性が低下する場合がある。したがって、Al含有量は0~0.500%である。Al含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.030%である。Al含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%であり、さらに好ましくは、0.200%であり、さらに好ましくは0.100%である。本明細書でいうAl含有量は、酸可溶Al(sol.Al)の含有量を意味する。
【0046】
[Fn1について]
本実施形態の鉄道車輪1の化学組成はさらに、式(1)で定義されるFn1が42.0以下である。
Fn1=30.52+6.96×C+4.96×Si+1.85×Mn+4.85×Cr+34.77×V・・・(1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
【0047】
Fn1は鉄道車輪1の化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提とした、マルテンサイトの硬さの指標である。Fn1が42.0を超えれば、鉄道車輪1のマルテンサイトの硬さが高すぎる。この場合、鉄道車輪1の被削性が低下する。Fn1が42.0以下であれば、マルテンサイトの硬さが十分に低く抑えられている。そのため、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である鉄道車輪1において、被削性を高めることができる。
【0048】
Fn1の好ましい上限は41.5であり、さらに好ましくは41.0であり、さらに好ましくは40.5であり、さらに好ましくは40.0である。Fn1は、対応する元素含有量を式(1)に代入して得られた値の小数第二位を四捨五入して得られた値である。
【0049】
[Fn2について]
本実施形態の鉄道車輪1の化学組成はさらに、式(2)で定義されるFn2が39.0以上である。
Fn2=18.18+21.82×C+2.39×Si+1.01×Mn+6.97×Cr+24.79×V・・・(2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
【0050】
Fn2は鉄道車輪1の化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提とした、パーライトの硬さの指標である。Fn2が39.0未満であれば、鉄道車輪1のパーライトの硬さが低すぎる。この場合、鉄道車輪1の耐摩耗性が低下する。Fn2が39.0以上であれば、パーライトの硬さが十分に高い。そのため、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である鉄道車輪1において、耐摩耗性を高めることができる。
【0051】
Fn2の好ましい下限は39.5であり、さらに好ましくは40.0であり、さらに好ましくは40.5であり、さらに好ましくは41.0である。Fn2は、対応する元素含有量を式(2)に代入して得られた値の小数第二位を四捨五入して得られた値である。
【0052】
[鉄道車輪1のミクロ組織におけるパーライト総面積率]
本実施形態の鉄道車輪1のリム部4のミクロ組織において、踏面41に垂直な断面におけるパーライトの総面積率は95.0%以上である。ここで、踏面41に垂直な断面は、踏面41から踏面41の垂直方向に深さ15mmの範囲内の任意の面とする。リム部4のミクロ組織において、パーライト以外の相は、マルテンサイト、ベイナイト、フェライト及び初析セメンタイトの少なくとも1種以上である。
【0053】
好ましくは、本実施形態の鉄道車輪1のボス部2のミクロ組織では、パーライトの総面積率は95.0%以上である。ボス部2のミクロ組織において、パーライト以外の相は、マルテンサイト、ベイナイト、フェライト及び初析セメンタイトの少なくとも1種以上である。
【0054】
好ましくは、本実施形態の鉄道車輪1の板部3のミクロ組織では、パーライトの総面積率は95.0%以上である。板部3のミクロ組織において、パーライト以外の相は、マルテンサイト、ベイナイト、フェライト及び初析セメンタイトの少なくとも1種以上である。
【0055】
リム部4のミクロ組織におけるパーライトの総面積率は、次の方法で求める。リム部4の踏面41から踏面41の垂直方向に深さ15mmの範囲内から、踏面41に垂直な断面を有するサンプルを採取する。サンプルのうち、踏面41に垂直な断面を、観察面と定義する。観察面を機械研磨により鏡面仕上げする。鏡面仕上げされた観察面に対して、硝酸とエタノールとの混合溶液を用いたエッチングを実施する。エッチング後のサンプルの観察面内の任意の1視野(200μm×200μm)に対して、500倍の光学顕微鏡を用いて写真画像を生成する。観察面において、パーライトと、他の相(マルテンサイト等)とは、コントラストが異なる。そのため、ミクロ組織の各相はコントラストに基づいて、判別可能である。そこで、コントラストに基づいて、パーライトを特定する。パーライトの総面積率は、特定されたパーライトの総面積と観察視野の面積(40000μm2)とに基づいて求める。
【0056】
なお、板部3のミクロ組織におけるパーライトの総面積率(%)及びボス部2のミクロ組織におけるパーライトの総面積率(%)も、リム部4のミクロ組織におけるパーライトの総面積率と同じ方法により測定できる。具体的には、板部3の厚さ方向の中央位置(
図1の厚さT3の中央位置)、ボス部2(
図1の厚さT2の中央位置)からサンプルを採取する。各サンプルの観察面を機械研磨により鏡面仕上げする。その後、鏡面仕上げされた観察面に対して、硝酸とエタノールとの混合溶液を用いたエッチングを実施する。エッチング後のサンプルの観察面内の任意の1視野(200μm×200μm)に対して、500倍の光学顕微鏡を用いて写真画像を生成する。観察面において、コントラストに基づいて、パーライトを特定する。パーライトの総面積率は、特定されたパーライトの総面積と観察視野の面積(40000μm
2)とに基づいて求める。
【0057】
[球状化セメンタイト含有微小領域面積率について]
本実施形態の鉄道車輪1のリム部4において、踏面41に垂直な断面でのパーライト組織に注目する。ここで、踏面41に垂直な断面は、踏面41から踏面41の垂直方向に深さ15mmの範囲内の任意の面とする。踏面41に垂直な断面を、観察面とする。
【0058】
上述の観察面のパーライト組織領域中の任意の観察視野を選択する。観察視野は縦20μm×横20μmの矩形(正方形)とする。観察視野は、5000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。
図2に示すとおり、観察視野410を、縦方向に0.5μmピッチで40等分し、横方向に0.5μmピッチで40等分する。これにより、観察視野410は、40×40=1600個の微小領域SAに区画される。
【0059】
各微小領域SAでのセメンタイトの態様を観察する。
図3は、
図2に示す観察視野410のうち、3×3=9個の微小領域SAを拡大した一例を示す模式図である。
図3を参照して、ハッチングされている領域はパーライト中のフェライト200を示す。
図3中の白色の領域はセメンタイト100を示す。後述の説明を容易にするために、
図4に示すとおり、
図3中の9個の微小領域SAを、微小領域SAの配置位置に基づいて、微小領域SA11、SA12、SA13、SA21、SA22、SA23、SA31、SA32、SA33と定義する。
【0060】
図2に示す観察視野410の1600個の微小領域SAのうち、微小領域SA内に全体が収まっているセメンタイト100を少なくとも1個以上含む微小領域SAの個数をカウントする。ここで、「微小領域SA内に全体が収まるセメンタイト100」とは、セメンタイト100の全体が、1つの微小領域SA内に含まれているセメンタイト100を意味する。セメンタイト100のうち少なくとも一部が1つの微小領域SAからはみ出している場合、「微小領域SA内に全体が収まっているセメンタイト100」に相当しない。
【0061】
たとえば、
図3及び
図4を参照して、SA11に注目する。SA11中には、セメンタイト100A~100Fが存在する。このうち、セメンタイト100A及び100Bは、その全体が微小領域SA11内に収まっておらず、セメンタイト100A及び100Bの一部が微小領域SA11からはみ出ている。一方、セメンタイト100C~100Fは、全体が微小領域SA11内に収まっている。
【0062】
微小領域SA11のように、少なくとも1つのセメンタイトの全体が微小領域SA内に収まっている微小領域SAを「球状化セメンタイト含有微小領域SAx」と定義する。
図3の9個の微小領域SAのうち、微小領域SA11、SA21、SA22、SA31及びSA32は、球状化セメンタイト含有微小領域SAxに相当する。したがって、
図3において、球状化セメンタイト含有微小領域SAxは5個である。
【0063】
図5は、観察視野410の一部のミクロ組織の一例を示す写真画像(SEM画像)の図である。
図5において、白色の領域がセメンタイト100である。黒色の領域がフェライト200である。破線で区切られた領域が微小領域SAである。そして、太枠の実線で区切られた領域が、球状化セメンタイト含有微小領域SAxに相当する。
【0064】
以上の判定方法により、
図2に示す観察視野410の1600個の微小領域SAにおいて、微小領域SA内に全体が収まるセメンタイト100を少なくとも1つ含む微小領域SAの個数をカウントする。つまり、観察視野410の微小領域SAのうち、球状化セメンタイト含有微小領域SAxの総個数をカウントする。得られた球状化セメンタイト含有微小領域SAxの総個数を用いて、次式により、球状化セメンタイト含有微小領域面積率(%)を求める。
球状化セメンタイト含有微小領域面積率(%)=球状化セメンタイト含有微小領域SAxの総個数/微小領域SAの総個数(1600個)×100
【0065】
鉄道車輪1において、化学組成中の各元素が上述の範囲内であり、かつ、式(1)で定義されるFn1が42.0以下であり、式(2)で定義されるFn2が39.0以上であっても、球状化セメンタイト含有微小領域面積率が40.0%を超えれば、リム部4の踏面41近傍部分のパーライトにおいて十分な硬さが得られない。この場合、鉄道車輪1の耐摩耗性が低下する。
【0066】
本実施形態の鉄道車輪1では、化学組成中の各元素が上述の範囲内であり、かつ、Fn1が42.0以下であり、Fn2が39.0以上であり、さらに、球状化セメンタイト含有微小領域面積率が40.0%以下である。そのため、優れた被削性及び優れた耐摩耗性の両立が可能である。
【0067】
球状化セメンタイト含有微小領域面積率の好ましい上限は38.0%であり、さらに好ましくは35.0%であり、さらに好ましくは30.0%であり、さらに好ましくは25.0%であり、さらに好ましくは20.0%である。
【0068】
[鉄道車輪1の製造方法]
上述の鉄道車輪1を製造する方法の一例を説明する。本製造方法は、鉄道車輪用鋼材を製造する工程(素材製造工程)と、熱間加工により、鉄道車輪用鋼材から車輪形状の中間品を成形する工程(成形工程)と、成形された中間品に対して熱処理(踏面焼入れ)を実施する工程(焼入れ工程)と、踏面焼入れ後に焼戻しを実施する工程(焼戻し工程)と、焼戻し工程後の中間品の踏面等からマルテンサイト層(焼入れ層)を切削加工により除去して鉄道車輪1とする工程(切削加工工程)とを含む。以下、各工程について説明する。
【0069】
[素材製造工程]
素材製造工程では、電気炉又は転炉等を用いて上述の化学組成を有する溶鋼を溶製する。溶鋼を鋳造して、鋳造材にする。なお、鋳造材は連続鋳造による鋳片であってもよいし、鋳型によって鋳込まれたインゴットであってもよい。
【0070】
鋳片又はインゴットを熱間加工して、所望のサイズの鉄道車輪用鋼材を製造する。熱間加工はたとえば、熱間鍛造、熱間圧延等である。熱間圧延により鉄道車輪用鋼材を製造する場合、たとえば、次の方法で鉄道車輪用鋼材を製造する。熱間圧延ではたとえば、分塊圧延機を用いる。分塊圧延機により素材に対して分塊圧延を実施して、鉄道車輪用鋼材を製造する。分塊圧延機の下流に連続圧延機が設置されている場合、分塊圧延後の鋼材に対してさらに、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、鉄道車輪用鋼材を製造してもよい。連続圧延機では、一対の水平ロールを有する水平スタンドと、一対の垂直ロールを有する垂直スタンドとが交互に一列に配列される。熱間圧延での加熱炉の加熱温度は特に限定されないが、たとえば、1100~1350℃である。以上の製造工程により、鉄道車輪用鋼材が製造される。
【0071】
なお、鉄道車輪用鋼材は、鋳造材(鋳片又はインゴット)であってもよい。つまり、上述の熱間加工工程は省略されてもよい。以上の工程により、鉄道車輪1の素材である鉄道車輪用鋼材が製造される。
【0072】
[成形工程]
成形工程では、準備された鉄道車輪用鋼材を用いて、熱間加工により車輪形状の中間品を成形する。中間品は車輪形状を有するため、ボス部と、板部と、踏面及びフランジを含むリム部とを備える。熱間加工はたとえば、熱間鍛造、熱間圧延等である。成形工程では、たとえば、初めに、熱間鍛造により車輪形状の粗中間品を成形する荒地鍛造を実施する。荒地鍛造後の粗中間品に対して、車輪圧延機を用いた熱間圧延を実施する。熱間圧延後の粗中間品に対して回転鍛造を実施して、ボス部に相当する中央部に貫通孔を形成する。以上の工程により、車輪形状の中間品を成形する。
【0073】
成形工程における熱間加工時の鉄道車輪用鋼材の好ましい加熱温度は1220℃以上である。この場合、熱間加工時の加熱温度の好ましい下限は1230℃であり、さらに好ましくは1250℃であり、さらに好ましくは1300℃である。熱間加工時の加熱温度の好ましい上限は1350℃である。
【0074】
なお、熱間加工後の中間品の冷却方法は特に限定されない。放冷でもよいし、水冷でもよい。
【0075】
[焼入れ工程]
焼入れ工程では、成形された車輪形状の中間品に対して踏面焼入れを実施する。具体的には、熱間加工(熱間鍛造又は熱間圧延)後の中間品をAcm変態点以上に再加熱する(再加熱処理)。加熱後、中間品の踏面及びフランジに対して急冷(踏面焼入れ)を実施する。
【0076】
図6は、中間品を冷却するための冷却装置の一例を示す図である。
図6を参照して、冷却装置10は、回転軸を有する回転装置11と、1又は複数の踏面冷却ノズル14とを備える。踏面冷却ノズル14は、冷却装置10の回転軸の周りに配置される。踏面冷却ノズル14のノズル口は、中間品の踏面41に対向して配置される。踏面冷却ノズル14のノズル口は、中間品のフランジ42の表面に対向して配置してもよい。踏面冷却ノズル14は、ノズル口から冷却液を噴射して、主としてリム部4の踏面41及びフランジ42の表面を冷却する。冷却液はたとえば、水、ミスト、スプレー等である。冷却装置10は、複数の測温計20を備えてもよい。
【0077】
焼入れ工程では、Acm変態点以上に加熱された中間品を冷却装置10に配置する。回転装置11により中間品を回転させながら、踏面冷却ノズル14から冷却液を噴射して、踏面焼入れを実施する。
【0078】
踏面焼入れにより、踏面41に微細なパーライトが生成する。本実施形態の鉄道車輪1のC含有量は0.85~1.15%と高い。そのため、鉄道車輪1の耐摩耗性が高まる。なお、踏面焼入れにより、踏面41上には、マルテンサイト層が形成される。
【0079】
上記説明では中間品を再加熱するが、熱間加工後の中間品に対して直接(再加熱せずに)、踏面焼入れを実施してもよい。
【0080】
[焼戻し工程]
焼戻し工程では、踏面焼入れ後の中間品に対して焼戻しを実施する。焼戻し温度は400~550℃である。焼戻し温度が550℃を超えれば、リム部4の踏面41でのパーライトのラメラ構造が崩れ、セメンタイトが球状化される。その結果、球状化セメンタイト含有微小領域面積率(%)が40.0%を超えてしまう。この場合、鉄道車輪1の耐摩耗性が低下する。
【0081】
焼戻し温度が400~550℃であれば、リム部4の踏面41でのパーライトのラメラ構造が維持され、球状化セメンタイト含有微小領域面積率(%)が40.0%以下となる。その結果、鉄道車輪1は優れた耐摩耗性が得られる。
【0082】
[切削加工工程]
上述のとおり、熱処理後の中間品の踏面の表層には微細パーライトが形成されるが、その上層にはマルテンサイト層(焼入れ層)が形成されている。鉄道車輪1の使用において、マルテンサイト層の耐摩耗性は低いため、切削加工によりマルテンサイト層を除去する。本実施形態の中間品の化学組成では、各元素の含有量が本実施形態の範囲内であって、かつ、Fn1が42.0以下であり、Fn2が39.0以上である。そのため、本実施形態では、マルテンサイト層の硬さが抑制されている。そのため、本実施形態の鉄道車輪1の製造工程では、十分な被削性が得られる。なお、切削加工は周知の方法で行えば足りる。
【0083】
以上の工程により本実施形態の鉄道車輪1が製造される。上記製造工程で製造された本実施形態の鉄道車輪1では、化学組成中の各元素が本実施形態の範囲内であって、かつ、Fn1が42.0以下であり、Fn2が39.0以上である。さらに、球状化セメンタイト含有微小領域面積率が40.0%以下である。そのため、本実施形態の鉄道車輪1では、優れた耐摩耗性と優れた被削性とを両立させることができる。
【実施例】
【0084】
表1に示す化学組成を有する試験番号1~25の溶鋼を製造した。
【0085】
【0086】
表1中の空欄は、対応する元素含有量が検出限界未満であった(つまり、含有されていなかった)ことを示す。上記溶鋼を用いて連続鋳造法により丸鋳片を製造した。丸鋳片に対して、分塊圧延機及び連続圧延機による熱間圧延(熱間加工)を実施して、丸鋼片(鉄道車輪用鋼材)を製造した。熱間加工時の加熱温度は1250℃であった。鉄道車輪用鋼材に対して成形工程を実施した。具体的には、鉄道車輪用鋼材に対して、熱間鍛造(荒地鍛造)を実施して、車輪形状の粗中間品を成形した。荒地鍛造後の粗中間品に対して、車輪圧延機を用いた熱間圧延を実施した。熱間圧延後の粗中間品に対して回転鍛造を実施して、ボス部に相当する中央部に貫通孔を形成した。以上の成形工程により、車輪形状の中間品を成形した。なお、成形工程時の鋼材の加熱温度は1250℃であった。
【0087】
製造された中間品に対して、踏面焼入れを実施した。踏面焼入れでは、
図6に示す冷却装置を用いて、中間品の踏面及びフランジを水冷した。踏面焼入れ後の中間品に対して、焼戻しを実施した。各試験番号の中間品の焼戻し温度は、表1に示すとおりであった。表1中の「焼戻し温度」欄の「適正」は、焼戻し温度が400~550℃の範囲内であったことを示す。「不適」は、焼戻し温度が550℃超~650℃の範囲内であったことを示す。以上の製造工程により、マルテンサイト層が形成された鉄道車輪を製造した。
【0088】
[マルテンサイト層のビッカース硬さ測定試験]
各試験番号の鉄道車輪のマルテンサイト層のビッカース硬さを次の方法で測定した。各試験番号の鉄道車輪のリム部の踏面近傍部分から、マルテンサイト層を含む試験片を1つ採取した。試験片のマルテンサイト層の任意の3箇所において、JIS Z 2241(2009)に準拠したビッカース硬さ試験を実施した。試験力はいずれも2.9421Nとした。得られた3つのビッカース硬さの算術平均値を、マルテンサイトのビッカース硬さ(HV)と定義した。マルテンサイトのビッカース硬さは、被削性と相関する。そこで、マルテンサイトのビッカース硬さが410HV以下であれば、十分な被削性が得られると判断した。得られたマルテンサイトのビッカース硬さを表1の「マルテンサイト硬さ(HV)」欄に示す。
【0089】
[リム部のミクロ組織観察試験]
各試験番号の鉄道車輪のマルテンサイト層を切削加工により除去した。除去後の鉄道車輪において、リム部のパーライト総面積率を、次の方法により求めた。リム部の踏面から踏面の垂直方向に深さ15mmの範囲内から、踏面に垂直な断面を有するサンプルを採取した。サンプルのうち、踏面に垂直な断面を、観察面と定義した。観察面を機械研磨により鏡面仕上げした。鏡面仕上げされた観察面に対して、硝酸とエタノールとの混合溶液を用いたエッチングを実施した。エッチング後のサンプルの観察面内の任意の1視野(200μm×200μm)に対して、500倍の光学顕微鏡を用いて写真画像を生成した。観察面において、パーライトと、他の相(マルテンサイト等)とは、コントラストが異なる。そのため、ミクロ組織の各相はコントラストに基づいて、判別可能であった。そこで、コントラストに基づいて、パーライトを特定した。パーライトの総面積率(%)は、特定されたパーライトの総面積と観察視野の面積(40000μm2)とに基づいて求めた。得られたパーライト総面積率を表1中の「パーライト総面積率(%)」欄に示す。いずれの試験番号においても、リム部の踏面に垂直な断面でのパーライトの総面積率は95.0%以上であった。
【0090】
なお、リム部と同様に、各試験番号の鉄道車輪の板部、及びボス部におけるパーライトの総面積率も求めた。具体的には、板部の厚さ方向の中央位置(
図1の厚さT3の中央位置に相当)、ボス部厚さ方向の中央位置(
図1の厚さT2の中央位置に相当)からサンプルを採取した。各サンプルの表面の1つを観察面とした。各サンプルの観察面を機械研磨により鏡面仕上げした。その後、鏡面仕上げされた観察面に対して、硝酸とエタノールとの混合溶液を用いたエッチングを実施した。エッチング後のサンプルの観察面内の任意の1視野(200μm×200μm)に対して、500倍の光学顕微鏡を用いて写真画像を生成した。観察面において、コントラストに基づいて、パーライトを特定した。パーライトの総面積率は、特定されたパーライトの総面積と観察視野の面積(40000μm
2)とに基づいて求めた。各試験番号の板部及びボス部ではいずれも、パーライトの総面積率が95.0%以上であった。
【0091】
[球状化セメンタイト含有微小領域面積率測定試験]
マルテンサイト層を除去した各試験番号の鉄道車輪のリム部の踏面から踏面の垂直方向に深さ15mmの範囲内から、踏面に垂直な断面を有するサンプルを採取した。サンプルのうち、踏面に垂直な断面を、観察面と定義した。観察面を機械研磨により鏡面仕上げした。鏡面仕上げされた観察面に対して、硝酸とエタノールとの混合溶液を用いたエッチングを実施した。エッチング後、上述の観察面のパーライト組織領域中の任意の観察視野を選択した。観察視野は縦20μm×横20μmの正方形とした。観察視野は、5000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
図2に示すとおり、観察視野410を、縦方向に0.5μmピッチで40等分し、横方向に0.5μmピッチで40等分した。これにより、観察視野410は、40×40=1600個の微小領域SAに区画した。
【0092】
1600個の微小領域SAのうち、少なくとも1つのセメンタイトの全体が微小領域SA内に収まっている微小領域SAを「球状化セメンタイト含有微小領域SAx」と定義した。観察視野410の1600個の微小領域SAにおいて、微小領域SA内に全体が収まっているセメンタイトを少なくとも1個以上含む微小領域SAの個数をカウントした。つまり、観察視野410の微小領域SAのうち、球状化セメンタイト含有微小領域SAxの個数をカウントした。得られた球状化セメンタイト含有微小領域SAxの個数を用いて、次式により、球状化セメンタイト含有微小領域面積率(%)を求めた。
球状化セメンタイト含有微小領域面積率(%)=球状化セメンタイト含有微小領域SAxの総個数/微小領域SAの総個数(1600個)×100
得られた球状化セメンタイト含有微小領域面積率(%)を、表1中の「球状化セメンタイト含有微小領域面積率(%)」欄に示す。
【0093】
[パーライトのビッカース硬さ試験]
各試験番号の鉄道車輪のリム部のパーライトのビッカース硬さを次の方法で測定した。各試験番号の鉄道車輪のリム部の踏面から踏面の垂直方向に深さ15mmの範囲内の断面を含むサンプルを採取した。この断面を測定面とした。測定面の任意の3箇所において、JIS Z 2241(2009)に準拠したビッカース硬さ試験を実施した。試験力はいずれも2.9421Nとした。得られた3つのビッカース硬さの算術平均値を、パーライトのビッカース硬さ(HV)と定義した。パーライトのビッカース硬さは、耐摩耗性と相関する。そこで、パーライトのビッカース硬さが380HV以上であれば、十分な耐摩耗性が得られると判断した。得られたパーライトのビッカース硬さを表1中の「パーライト硬さ(HV)」欄に示す。
【0094】
[試験結果]
表1を参照して、試験番号4~6、9、11~13、15~18、20、21、及び、24の鉄道車輪では、化学組成が適切であり、Fn1が42.0以下であり、Fn2が39.0以上であった。さらに、焼戻し温度も適切であった。そのため、鉄道車輪のリム部、板部、ボス部のパーライト総面積率はいずれも95.0%以上であり、球状化セメンタイト含有微小領域面積率は40.0%以下であった。そのため、マルテンサイトのビッカース硬さがいずれも410HV以下であり、優れた被削性が得られることが予想できた。さらに、パーライトのビッカース硬さはいずれも380HV以上であり、優れた耐摩耗性が得られることが予想できた。
【0095】
一方、試験番号1及び2では、C含有量が低すぎ、鉄道車輪の素材は亜共析鋼材であった。そのため、パーライトのビッカース硬さが380HV未満となり、十分な耐摩耗性が得られないと予想された。
【0096】
試験番号3、8及び14では、化学組成中の各元素の含有量は適切であったものの、Fn2が39.0未満であった。そのため、パーライトのビッカース硬さが380HV未満となり、十分な耐摩耗性が得られないと予想された。
【0097】
試験番号7では、C含有量が高すぎた。そのため、マルテンサイトのビッカース硬さが410HVを超え、十分な被削性が得られないと予想された。
【0098】
試験番号10では、Si含有量が高すぎた。そのため、マルテンサイトのビッカース硬さが410HVを超え、十分な被削性が得られないと予想された。
【0099】
試験番号19及び25では、化学組成中の各元素の含有量は適切であったものの、Fn1が42.0を超えた。そのため、マルテンサイトのビッカース硬さが410HVを超え、十分な被削性が得られないと予想された。
【0100】
試験番号22及び23では、化学組成中の各元素の含有量は適切であり、Fn1が42.0以下であり、Fn2が39.0以上であった。しかしながら、焼戻し温度が550℃を超えた。そのため、球状化セメンタイト含有微小領域面積率は40.0%を超えた。そのため、パーライトのビッカース硬さが380HV未満となり、十分な耐摩耗性が得られないと予想された。
【0101】
以上、本発明の実施形態を説明した。しかしながら、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 鉄道車輪
2 ボス部
3 板部
4 リム部
41 踏面
42 フランジ