(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】溝加工装置及び溝加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/364 20140101AFI20230817BHJP
B23K 26/066 20140101ALI20230817BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20230817BHJP
G02B 26/12 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
B23K26/364
B23K26/066
B23K26/082
G02B26/12
(21)【出願番号】P 2021519458
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2020019105
(87)【国際公開番号】W WO2020230816
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2019091043
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】濱村 秀行
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-161899(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161863(WO,A1)
【文献】特開平07-108394(JP,A)
【文献】特開平10-235484(JP,A)
【文献】特開2002-28798(JP,A)
【文献】特開2002-86288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
G02B 26/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームによって対象物の表面に溝を形成する溝加工装置であって、
前記レーザビームを出力する光源装置と、
前記光源装置から出力された前記レーザビームを、前記対象物上で走査させるように反射するポリゴンミラーと、
前記ポリゴンミラーで反射された前記レーザビームの光路上に設けられ、前記レーザビームを集光する集光光学系と、
前記集光光学系と前記対象物との間で、前記集光光学系を介して集光された前記レーザビームの一部を遮る位置に設けられ、前記レーザビームの一部を遮る遮蔽板と、
を備え、
前記集光光学系を介して集光された前記レーザビームのうち、前記遮蔽板で遮られない前記レーザビームの一部は、前記レーザビームの焦点において前記対象物の表面に溝を形成し、
前記遮蔽板は、前記走査の中央に近い側が前記
焦点側となり、前記走査の外側に近い側が前記
集光光学系側となるように傾けられて、前記焦点よりも前記集光光学系側に設けられ、前記溝を形成しない前記レーザビームを遮蔽するように前記対象物の表面に対して回動する、溝加工装置。
【請求項2】
前記対象物の表面に対する前記遮蔽板の角度をψとし、前記レーザビームが前記ポリゴンミラーの一枚の平面鏡に収まる最大の角度である臨界角をθc(°)としたとき、
前記遮蔽板の角度ψが、2θc<ψ≦90(°)の範囲で傾けられている、請求項1に記載の溝加工装置。
【請求項3】
前記ポリゴンミラーの回転軸から前記ポリゴンミラーの平面鏡に垂線を下した位置を基準位置としたときに、前記ポリゴンミラーで隣接する二枚の平面鏡の境目と前記基準位置とのなす角度をθ0(°)とし、
前記遮蔽板が角度ψで傾いている際、前記ポリゴンミラーの回転角度がθ0(°)のときに前記ポリゴンミラーで2θ0(°)の角度で反射した前記レーザビームが、前記遮蔽板に照射される位置を点P0とし、
前記遮蔽板が前記角度ψで傾いている際、前記ポリゴンミラーの回転角度がθc(°)のときに前記ポリゴンミラーで2θc(°)の角度で反射した前記レーザビームが、前記遮蔽板に照射される位置を点Pとし、
前記点Pと前記点P0との高さの差をLp0とし、
前記集光光学系から前記点Pの高さまでの距離をL2とすると、
Lp0<L2を満たす、請求項2に記載の溝加工装置。
【請求項4】
レーザビームによって対象物の表面に溝を形成する溝加工方法であって、
光源装置により、前記レーザビームを出力する出力ステップと、
ポリゴンミラーにより、前記光源装置から出力された前記レーザビームを、前記対象物上で走査させるように反射させる反射ステップと、
前記ポリゴンミラーで反射された前記レーザビームの光路上に設けられた集光光学系を用いて、前記レーザビームを集光させる集光ステップと、
前記集光光学系と前記対象物との間で、前記集光光学系を介して集光された前記レーザビームの一部を遮る位置に設けられた遮蔽板を用いて、前記レーザビームの一部を遮る遮蔽ステップと、
を備え、
前記集光光学系を介して集光された前記レーザビームのうち、前記遮蔽板で遮られない前記レーザビームの一部は、前記レーザビームの焦点において前記対象物の表面に溝を形成し、
前記遮蔽板は、前記走査の中央に近い側が前記
焦点側となり、前記走査の外側に近い側が前記
集光光学系側となるように傾けられて、前記焦点よりも前記集光光学系側に設けられ、前記溝を形成しない前記レーザビームを遮蔽するように前記対象物の表面に対して回動する、溝加工方法。
【請求項5】
前記遮蔽ステップでは、前記対象物の表面に対する前記遮蔽板の角度をψとし、前記レーザビームが前記ポリゴンミラーの一枚の平面鏡に収まる最大の角度である臨界角をθc(°)としたとき、
前記遮蔽板の角度ψを、2θc<ψ≦90(°)の範囲で傾ける、請求項4に記載の溝加工方法。
【請求項6】
前記遮蔽ステップでは、前記ポリゴンミラーの回転軸から前記ポリゴンミラーの平面鏡に垂線を下した位置を基準位置としたときに、前記ポリゴンミラーで隣接する二枚の平面鏡の境目と前記基準位置とのなす角度をθ0(°)とし、
前記遮蔽板が角度ψで傾いている際、前記ポリゴンミラーの回転角度がθ0(°)のときに前記ポリゴンミラーで2θ0(°)の角度で反射した前記レーザビームが、前記遮蔽板に照射される位置を点P0とし、
前記遮蔽板が前記角度ψで傾いている際、前記ポリゴンミラーの回転角度がθc(°)のときに前記ポリゴンミラーで2θc(°)の角度で反射した前記レーザビームが、前記遮蔽板に照射される位置を点Pとし、
前記点Pと前記点P0との高さの差をLp0とし、
前記集光光学系から前記点Pの高さまでの距離をL2とすると、
Lp0<L2を満たす、請求項5に記載の溝加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザにより対象物に溝を形成する溝加工装置及び溝加工方法に関する。本願は、2019年5月14日に、日本に出願された特願2019-091043号に基づき優先権を主張し、これらの内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
以前から、ポリゴンミラーを用いて、鋼板の表面に対し鋼板の通板方向に交差する方向(走査方向)にレーザビームを照射し、鋼板の表面に溝を周期的に形成して鉄損特性を改善する溝加工装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1A及び
図1Bに示すように、溝加工装置のポリゴンミラー10に入射されるレーザビームLBは、点光源ではなく、所定の半径φを有している。
【0005】
図1Aに示すように、レーザビームLBがポリゴンミラー10の一面に収まるように入射されたときには、ポリゴンミラー10で反射されたレーザビームLBは、集光レンズ(以下、単にレンズと称する)12を介して鋼板20の表面の一ケ所に集光され、鋼板20の表面の当該箇所に溝が形成される。
【0006】
一方、
図1Bに示すように、ポリゴンミラー10の隣接する二面にまたがった角部にレーザビームLBが入射されたときには、レーザビームLBは、その隣接する二面のそれぞれから反射されるため、2つのレーザビームLB1及びLB2に分割され、分割されたレーザビームLB1及びLB2が、レンズ12を介して鋼板20の表面に集光される。その結果、走査方向における溝の端部が、不十分なエネルギー密度のレーザビームLB1及びLB2で加工されることになるため、溝の端部が浅くなり、均一な溝を形成することができない。また、分割されたレーザビームLB1及びLB2は、レーザビームLBとは異なる方向に照射されるため、鋼板20の表面の溝が形成されるべき位置とは異なる位置や、鋼板20の表面以外の別の装置等を、誤って加工してしまう虞もある。
【0007】
このような事態を回避するため、鋼板20の表面の溝の端部に相当する部分に、レーザビームLB1及びLB2が照射されないように、マスク等の遮蔽板を設けることが考えられる。しかしながら、このような構成では、遮蔽板自体が加工されてしまい、加工で生じた遮蔽板の微小片によって光学部品が汚染されるという課題がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、光学部品の汚染を抑止し、均一な溝加工及び溝深さを実現する溝加工装置及び溝加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
(1)本発明の一実施形態に係る溝加工装置は、レーザビームによって対象物の表面に溝を形成する溝加工装置であって、前記レーザビームを出力する光源装置と、前記光源装置から出力された前記レーザビームを反射するポリゴンミラーと、前記ポリゴンミラーで反射された前記レーザビームの光路上に設けられ、前記レーザビームを集光する集光光学系と、前記集光光学系と前記対象物との間で、前記集光光学系を介して集光された前記レーザビームの一部を遮る位置に設けられ、前記レーザビームの一部を遮る遮蔽板と、を備え、前記集光光学系を介して集光された前記レーザビームのうち、前記遮蔽板で遮られない前記レーザビームの一部は、前記レーザビームの焦点において前記対象物の表面に溝を形成し、前記遮蔽板は、前記焦点よりも前記集光光学系側に設けられ、前記溝を形成しない前記レーザビームを遮蔽するように前記対象物の表面に対して回動する。
(2)上記(1)に記載の溝加工装置において、前記対象物の表面に対する前記遮蔽板の角度をψとし、前記レーザビームが前記ポリゴンミラーの一枚の平面鏡に収まる最大の角度である臨界角をθc(°)としたとき、前記遮蔽板の角度ψが、2θc<ψ≦90(°)の範囲で傾けられてよい。
(3)上記(2)に記載の溝加工装置において、前記ポリゴンミラーの回転軸から前記ポリゴンミラーの平面鏡に垂線を下した位置を基準位置としたときに、前記ポリゴンミラーで隣接する二枚の平面鏡の境目と前記基準位置とのなす角度をθ0(°)とし、前記遮蔽板が角度ψで傾いている際、前記ポリゴンミラーの回転角度がθ0(°)のときに前記ポリゴンミラーで2θ0(°)の角度で反射した前記レーザビームが、前記遮蔽板に照射される位置を点P0とし、前記遮蔽板が前記角度ψで傾いている際、前記ポリゴンミラーの回転角度がθc(°)のときに前記ポリゴンミラーで2θc(°)の角度で反射した前記レーザビームが、前記遮蔽板に照射される位置を点Pとし、前記点Pと前記点P0との高さの差をLp0とし、前記集光光学系から前記点Pの高さまでの距離をL2とすると、Lp0<L2を満たしてよい。
(4)上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の溝加工装置において、前記ポリゴンミラーにより前記レーザビームが走査される走査方向において前記遮蔽板の位置を調整する位置調整部を備えてよい。
(5)上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の溝加工装置において、前記遮蔽板を下部に配置する筐体を備え、前記筐体は、前記集光光学系により集光された前記レーザビームの光路上に位置する上部開口部を有し、前記上部開口部には、前記レーザビームを吸収または反射しない透過する無色透明の窓板が装着されてよい。
(6)本発明の一実施形態に係る溝加工方法は、レーザビームによって対象物の表面に溝を形成する溝加工方法であって、光源装置により、前記レーザビームを出力する出力ステップと、ポリゴンミラーにより、前記光源装置から出力された前記レーザビームを反射させる反射ステップと、前記ポリゴンミラーで反射された前記レーザビームの光路上に設けられた集光光学系を用いて、前記レーザビームを前記対象物の表面に集光させる集光ステップと、前記集光光学系と前記対象物との間で、前記集光光学系を介して集光された前記レーザビームの一部を遮る位置に設けられた遮蔽板を用いて、前記レーザビームの一部を遮る遮蔽ステップと、を備え、前記集光光学系を介して集光された前記レーザビームのうち、前記遮蔽板で遮られない前記レーザビームの一部は、前記レーザビームの焦点において前記対象物の表面に溝を形成し、前記遮蔽ステップでは、前記焦点よりも前記集光光学系側に設けられ、前記溝を形成しない前記レーザビームを遮蔽するように前記対象物の表面に対して回動する前記遮蔽板を設ける。
(7)上記(6)に記載の溝加工方法において、前記遮蔽ステップでは、前記対象物の表面に対する前記遮蔽板の角度をψとし、前記レーザビームが前記ポリゴンミラーの一枚の平面鏡に収まる最大の角度である臨界角をθc(°)としたとき、前記遮蔽板の角度ψを、2θc<ψ≦90(°)の範囲で傾けてよい。
(8)上記(7)に記載の溝加工方法において、前記遮蔽ステップでは、前記ポリゴンミラーの回転軸から前記ポリゴンミラーの平面鏡に垂線を下した位置を基準位置としたときに、前記ポリゴンミラーで隣接する二枚の平面鏡の境目と前記基準位置とのなす角度をθ0(°)とし、前記遮蔽板が角度ψで傾いている際、前記ポリゴンミラーの回転角度がθ0(°)のときに前記ポリゴンミラーで2θ0(°)の角度で反射した前記レーザビームが、前記遮蔽板に照射される位置を点P0とし、前記遮蔽板が前記角度ψで傾いている際、前記ポリゴンミラーの回転角度がθc(°)のときに前記ポリゴンミラーで2θc(°)の角度で反射した前記レーザビームが、前記遮蔽板に照射される位置を点Pとし、前記点Pと前記点P0との高さの差をLp0とし、前記集光光学系から前記点Pの高さまでの距離をL2とすると、Lp0<L2を満たしてよい。
(9)上記(6)から(8)のいずれか1項に記載の溝加工方法において、前記ポリゴンミラーにより前記レーザビームが走査される走査方向において前記遮蔽板の位置を調整する遮蔽板位置調整ステップを更に備えてよい。
(10)上記(6)から(9)のいずれか1項に記載の溝加工方法において、前記遮蔽板を下部に配置し、前記集光光学系により集光された前記レーザビームの光路上に位置する上部開口部を有する筐体には、前記レーザビームを吸収または反射しない透過する無色透明の窓板を前記上部開口部に装着する筐体装着ステップを更に備えてよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、遮蔽板を傾かせることで、遮蔽板でレーザビームを遮る際に生じる遮蔽板の損傷を低減でき、その分、光学部品の汚染を抑止し、均一な溝加工及び溝深さを実現する溝加工装置及び溝加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】レーザビームがポリゴンミラーの一面に収まるように入射されたときに、ポリゴンミラーから反射されたレーザビームが鋼板の表面に集光される状態を示す模式図である。
【
図1B】レーザビームがポリゴンミラーの隣接する二面にまたがって入射されたときに、隣接する二面からそれぞれ反射されたレーザビームが鋼板の表面に集光される状態を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る溝加工装置を鋼板の圧延方向から見た構成を示す模式図である。
【
図3】ポリゴンミラーの回転角度を説明するための模式図である。
【
図5】遮蔽板の最適な位置及び角度について説明するための模式図である。
【
図6】遮蔽板の角度ψと高さの差Lp0との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。本明細書及び図面において、同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0013】
図2に、本発明の実施形態に係る溝加工装置100を鋼板20の圧延方向から見た構成を模式的に示す。溝加工装置100は、加工する対象物である鋼板20の表面に、レーザにより溝を周期的に形成する装置である。鋼板20は、例えば、周知の方向性電磁鋼板材料からなる。溝加工装置100は、鋼板20の表面に形成する溝の長さ及び位置に基づいて鋼板20の幅方向における位置が設定されるとともに、溝加工装置100の寸法に基づいて、鋼板20の長手方向における位置が設定されている。鋼板20の幅方向とは、レーザの走査方向であり、
図2における紙面左右方向である。鋼板20の長手方向とは、鋼板20の圧延方向であり、
図2における紙面奥行方向である。
【0014】
溝加工装置100は、
図2に示すように、ポリゴンミラー10と、光源装置11と、コリメータ11Aと、レンズ12と、可動遮蔽板装置30とを備えている。
【0015】
ポリゴンミラー10は、例えば、正多角柱状をなし、正多角柱を構成する複数の側面に、それぞれ、複数(N枚)の平面鏡が設けられている。ポリゴンミラー10に対し、光源装置11からコリメータ11Aを介してレーザビームLBが一方向(水平方向)に入射されて平面鏡で反射される(反射ステップ)。
【0016】
ポリゴンミラー10は、モータ(図示せず)からの駆動力によって回転軸O1を中心に回転可能な構成を有し、ポリゴンミラー10の回転角度に応じて、平面鏡に対するレーザビームLBの入射角が順次変化する。これにより、ポリゴンミラー10は、レーザビームLBの反射方向を順次変化させ、鋼板20の幅方向にレーザビームLBを走査させる。
【0017】
なお、
図1A、
図1B、
図2及び
図3では、ポリゴンミラー10が八枚の平面鏡を有する例を示しているが、ポリゴンミラー10を構成する平面鏡の数は特に限定されない。
【0018】
光源装置11は、制御部(図示せず)の制御のもとで、所定の照射方式(例えば、連続照射方式又はパルス照射方式)でレーザビームを出力する(出力ステップ)。
【0019】
コリメータ11Aは、光ファイバケーブル15を介して光源装置11に接続されている。コリメータ11Aは、光源装置11から出力されたレーザビームの半径を調整し、調整後のレーザビームLBをポリゴンミラー10に向けて出力する。ポリゴンミラー10に向けて出力されるレーザビームLBは、所定の半径φを持ったレーザ径を有しており、当該レーザ径は円形をなしているが、楕円形であってもよい。その場合、コリメータ11Aとポリゴンミラー10の間に円柱レンズ又は円柱ミラーを挿入して一軸(例えば走査方向)のビーム半径を変更することにより、集光形状を楕円にすることができる。
【0020】
レンズ12は、ポリゴンミラー10で反射されたレーザビームの光路上に設けられた集光光学系であり、一枚のガラスに研削、研磨等の加工を施すことにより製造される。なお、溝加工装置100を構成する集光光学系として、集光レンズ12に代えてミラーを採用するようにしてもよい。
【0021】
レンズ12は、レンズ12の外側(外周)に一体的に設けられた非集光部(図示せず)を有してもよい。非集光部は、ポリゴンミラー10の隣接する二枚の平面鏡にまたがる角部から分割して反射されたレーザビームLB1及びLB2の光路に位置し、分割されたレーザビームLB1及びLB2を通過させる。非集光部はドーナツ型の板状の平面光学系である。非集光部は、焦点距離が無限遠であるため、焦点を有さない。非集光部を通過したレーザビームLB1及びLB2は、集光しないことからエネルギー密度が高くならない。よって、非集光部を通過したレーザビームLB1及びLB2を遮蔽板35に照射したとしても、遮蔽板35の損傷は少ない。尚、非集光部は、平面光学系ではなく、例えば、分割されたレーザビームLB1及びLB2を発散させる光学系であってもよい。
【0022】
後述の可動遮蔽板装置30は、レンズ12と鋼板20との間に設けられている。可動遮蔽板装置30は、ポリゴンミラー10で反射してレンズ12を通過するレーザビームLBの光路上に配置されている。ポリゴンミラー10で反射されたレーザビームLBが、レンズ12及び可動遮蔽板装置30を通過し、鋼板20の表面に集光される(集光ステップ)ことで、鋼板20の表面に溝が形成される。
【0023】
また、レーザビームLBを鋼板20の表面に照射して溝を形成する溝加工方法では、地鉄を溶融除去して溝を形成するため、溝を深くすると、表面の溶融突起の発生確率が高くなる。このため、溝加工装置100は、溶融物を吹き飛ばすためのアシストガスを噴射する供給ノズル(図示せず)を所定位置に備えるようにしてもよい。また、溝加工装置100の、コリメータ11A、ポリゴンミラー10、レンズ12、可動遮蔽板装置30の周囲を図示しない筐体で覆い、当該筐体内を清浄な気体で満たして陽圧とすることで、筐体内に溶融物等が入ることを防止し、溝加工装置100の光学系が溶融物等によって汚染されることを防止するようにしてもよい。
【0024】
次に、
図3を参照して、ポリゴンミラー10の回転角度について説明する。本実施形態において、ポリゴンミラー10の回転角度θ(°)は、ポリゴンミラー10を構成する平面鏡毎に、基準位置に対する中心角によって定義するものとする。
図3に示すように、ポリゴンミラー10の回転軸O1から平面鏡101に垂線PLを下した位置を基準位置(θ=0(°))とする。ポリゴンミラー10の回転角度θは、基準位置(θ=0(°))に対して、各平面鏡上に入射したレーザビームLBの中心LBcの位置がなす角度(中心角)である。
図3において、基準位置(θ=0(°);垂線PL)に対して反時計回りの角度を正の角度、時計回りの角度を負の角度としている。
【0025】
各平面鏡における基準位置(θ=0(°))と、隣接する平面鏡との境目とのなす角度θ0は180(°)/Nである。一枚の平面鏡における回転角度θは-θ0≦θ≦+θ0の範囲で定義される。よって、
図3において、平面鏡101における回転角度θ=+θ0と、平面鏡101と反時計周り方向で隣接する平面鏡102における回転角度θ=-θ0は、ポリゴンミラー10上の同一の位置を示している。
【0026】
本実施形態において、入射するレーザビームLBが、ポリゴンミラー10の一面(一枚の平面鏡)に収まる最大の角度を臨界角θcと定義する。すなわち、臨界角θcは、レーザビームLBがポリゴンミラー10の隣接する二面の平面鏡(二枚の平面鏡)にまたがった角部で分割されることなく一枚の平面鏡で全反射されるときに、レーザビームLBの中心LBcが位置する最大の角度である。ポリゴンミラー10の外接円C1の半径(外接半径)をR、ポリゴンミラー10に入射されるレーザビームLBの半径をφとすると、臨界角θcは下記の式(1)のように定義される。
【0027】
θc=sin-1[(R×sinθ0-φ)/R] …(1)
【0028】
次に、
図4を参照して、可動遮蔽板装置30の具体的な構成について説明する。
図4に示すように、可動遮蔽板装置30は、金属材料などにより形成された箱型の筐体31を有し、レーザビームLBの走査方向xに対向配置された対の遮蔽板35が、筐体31内の下部に配置された構成を有する。なお、後述するように遮蔽板35は回動部37aを支点として回動するが、
図4中35aは、回動により遮蔽板35を倒したときの遮蔽板を示す。
【0029】
筐体31には、レンズ12により集光されたレーザビームLBの光路上に位置する上部に上部開口部31aが、下部に下部開口部31bが形成されており、上部開口部31aに無色透明の窓板33が装着されている(筐体装着ステップ)。窓板33は、例えばガラス板である。窓板33は、レーザビームを吸収または反射しない透過する窓板である。例えば、材質は合成石英のガラス板に両面に反射防止膜をコーティングする。これにより、この窓板33によって上部開口部31aを閉鎖するとともに、ポリゴンミラー10で反射し、かつレンズ12を通過したレーザビームLBが筐体31の上部を透過できるように構成されている。
【0030】
また、窓板33を透過したレンズ12からのレーザビームLBは、筐体31の下部開口部31bを通過して鋼板20の表面に照射される。可動遮蔽板装置30を通過するレーザビームLBは、ポリゴンミラー10が回転駆動されることで、ポリゴンミラー10の回転角に応じてレーザビームLBの傾動角度が変更し、鋼板20の表面において、レーザビームLBの照射位置が鋼板20の幅方向で移動する。すなわち、可動遮蔽板装置30を通過するレーザビームLBは、鋼板20の幅方向を走査方向xとして鋼板20の表面上で移動する。
【0031】
筐体31の下部開口部31bには、レーザビームLBの走査方向xにて対向配置された開口部末端31cの近傍にそれぞれ遮蔽板35が設けられている。遮蔽板35は、レンズ12と鋼板20との間に設けられている。すなわち、遮蔽板35は、レンズ12を通過したレーザビームLBの焦点よりもレンズ12側に設けられている。遮蔽板35は、レンズ12を介して集光されたレーザビームの一部を遮る(遮蔽ステップ)。レーザビームLBの走査方向xにて対向配置された対の遮蔽板35は、同一構成を有しており、例えば、鋼材などにより板状に形成されている。これら遮蔽板35には、レーザビームLBの走査方向xで遮蔽板35の位置を調整する位置調整部34と、鋼板20の表面に対して遮蔽板35の板面の角度を調整する角度調整部36と、がそれぞれ設けられている。
【0032】
本実施形態において、位置調整部34は、例えば、筐体31の下部開口部31bに形成された案内溝であり、当該案内溝がレーザビームLBの走査方向xに沿って形成されている。位置調整部34は、遮蔽板35が案内溝内にスライド可能に設けられており、案内溝に沿って遮蔽板35をレーザビームLBの走査方向xに移動させる(遮蔽板位置調整ステップ)。
【0033】
このように、位置調整部34は、レーザビームLBの走査方向xにおいて遮蔽板35の位置を調整することで、レンズ12を通過したレーザビームLBが鋼板20の中央側から鋼板端部側へと走査方向xに沿って移動する際に、鋼板20の幅方向端部側へ移動したレーザビームLBが遮蔽板35に照射されるようにしている。このような構成により、レーザビームLBが遮蔽板35に照射される走査方向x(鋼板20の幅方向)の範囲を調整することができる。
【0034】
遮蔽板35は、レンズ12を介して集光され走査方向xに移動するレーザビームLBの一部を、走査方向末端で遮蔽することで、走査方向末端でレーザビームLBを鋼板20の表面に照射させず、鋼板20の表面に溝を形成させないようにする。一方で、レンズ12を介して集光され、走査方向xに移動するレーザビームLBのうち、遮蔽板35で遮られないレーザビームLBの残りの一部は、レーザビームLBの焦点において鋼板20の表面に集光されて溝を形成することになる。
【0035】
したがって、遮蔽板35は、回転駆動するポリゴンミラー10の平面鏡で反射した、エネルギー密度が高いレーザビームLBのうち鋼板20上の溝加工位置以外に照射される不要なビームや、エネルギー密度が低いポリゴンミラー10の角部で分割されたレーザビームLB1及びLB2を、遮蔽することで、走査方向xにおける溝の端部が浅くならず、鋼板20上の溝の位置以外を加工することなく、鋼板20において均一な溝加工及び溝深さを実現させることができる。
【0036】
本実施形態において、角度調整部36は、遮蔽板35を筐体31の下部に対して回動可能にする回動部37aと、遮蔽板35が傾倒する軌道を規定した案内部37bと、案内部37bに遮蔽板35を回動可能に連結させる連結部37cとを備えている。遮蔽板35は、遮蔽板35の表面が向かい合うように回動する。これにより、回動部37aは、回転軸を中心に遮蔽板35を回動させることで、鋼板20の表面に対して、遮蔽板35の平坦な板面を傾斜させる。
【0037】
本実施形態の場合、回動部37a及び案内部37bが、位置調整部34により、遮蔽板35と連動して、レーザビームLBの走査方向に沿ってスライド可能に設けられている。すなわち、回動部37aは、例えば、位置調整部34に設けられ、位置調整部34のスライドによって、レーザビームLBの走査方向に沿って移動可能な構成を有する。また、案内部37bは、例えば、位置調整部34の筐体31の内壁に沿った部分に設けられた案内溝であり、位置調整部34のスライドによって走査方向に移動可能であるとともに、連結部37cの軌道を案内することで、連結部37cを有する遮蔽板35をレーザビームLBの走査方向に沿って移動可能な構成を有する。
【0038】
ここで、案内部37bは、例えば、金属材料などからなり、湾曲した長穴を有する環状部材であり、湾曲した長穴に沿って、遮蔽板35に設けられた連結部37cが移動する。この場合、連結部37cは、例えば、案内部37bの長穴内で配置された突起部材であり、案内部37bの長穴に沿って移動する。遮蔽板35は、遮蔽板35の下側端部に設けられた回動部37aを中心に回動するとともに、連結部37cが案内部37bの湾曲した長穴に沿って移動することで、鋼板20の表面に対する傾斜角度を変化させることができる。
【0039】
遮蔽板35は、溝を形成しないレーザビームLBを遮蔽するように鋼板20の表面に対して回動する。したがって、鋼板20に対する遮蔽板35の角度を調整することで、角度調整部36は、レーザビームLBが遮蔽板35に照射される際に、エネルギー密度が高いレーザビームLBが照射されることを抑制でき、レーザビームLBが照射されることによる遮蔽板35の損傷を低減させることができる。
【0040】
すなわち、レーザビームLBは、所定の半径φを持ったレーザ径を有しているが、レーザビームLBに対する遮蔽板35のなす角度が変化することで、遮蔽板35上に現れるレーザ径の大きさが変化し、それによって、遮蔽板35に照射されるレーザビームLBのエネルギー密度が変化するので、遮蔽板35の損傷を低減させる角度に設定することが可能となる。
【0041】
また、レーザビームLBは、レーザビームLBの焦点となる鋼板20の表面でエネルギー密度がもっとも高くなるようにレンズ12によって集光されるため、レンズ12から鋼板20までの距離と同じ距離(すなわち、焦点距離)にある対象には高いエネルギー密度で照射されることになるが、距離がそこから外れる程、エネルギー密度が小さくなる。そこで、焦点よりもレンズ12側に設けられる遮蔽板35を傾けることで、レンズ12からの距離と、レーザ径の変化とのバランスをとることで、エネルギー密度を好適なものとし、遮蔽板35の損傷を低減させることができる。
【0042】
次に、
図5を参照しながら、レーザビームLBの走査方向における遮蔽板35の位置について説明する。なお、
図5中、10aは、ポリゴンミラー10が回転したときの平面鏡の一部を示す。この場合、集光光学系であるレンズ12の焦点距離をfとする。ポリゴンミラー10がθ(°)回転すると、ポリゴンミラー10で反射したレーザビームLBは2θ(°)動く。そして、ポリゴンミラー10の回転角度θ(°)がθc(°)からθ0(°)のとき、遮蔽板35によってレーザビームLBを遮蔽する必要がある。
【0043】
ここで、ポリゴンミラー10の平面鏡から集光光学系であるレンズ12までの距離をL1とする。また、集光光学系であるレンズ12から、ポリゴンミラー10の回転角度θがθc(°)のときにポリゴンミラー10で2θc(°)の角度で反射されたレーザビームLBが、遮蔽板35に照射される位置である点Pの高さまでの距離をL2とする。なお、本実施形態では、
図5に示すように、遮蔽板35において回動部37aがある下側端部が点Pとなる。
【0044】
また、ポリゴンミラー10の回転角度θが0(°)のときにレーザビームLBが通過する、ポリゴンミラー10から鋼板20に向かって下した垂線をPL1とする。さらに、ポリゴンミラー10の回転角度θがθc(°)のときにポリゴンミラー10で反射されたレーザビームLBが遮蔽板35に照射される位置である点Pから垂線PL1に向けて水平に延ばした直線をXL1とする。そして、レーザビームLBが通過する垂線PL1と、点Pからの直線XL1とが交差する点をP1とすると、点Pと点P1との距離dは下記の式(2)で表すことができる。なお、φは、上述したように、ポリゴンミラー10に入射されるレーザビームLBの半径を示す(
図3)。
【0045】
d=(L1+L2)×tan2θc-{φ/f×(f-L2)/cos2θc}
…(2)
【0046】
本実施形態において、位置調整部34は、遮蔽板35をレーザビームLBの走査方向に移動させ、レーザビームLBが通過する垂線PL1から遮蔽板35の位置までの距離dを、上述した式(2)より算出した距離dに調整する。
【0047】
次に、
図5を参照しながら、鋼板20の表面に対する遮蔽板35の角度ψについて説明する。この場合、遮蔽板35の角度ψは、鋼板20の表面の面方向と、遮蔽板35の板面とがなす角度である。ここで、遮蔽板35の点Pで、レーザビームLBのエネルギー密度が最も高くなるのは、鋼板20の表面に対する遮蔽板35の角度ψが、レーザビームLBが遮蔽板35に対して垂直入射することになる2θc(°)のときである。
【0048】
よって、レーザビームLBによる遮蔽板35の表面の損傷をできるだけ避けるためには、遮蔽板35の角度ψが2θc(°)に近くなることを避けて、遮蔽板35をできるだけ傾けることが望ましい。
【0049】
遮蔽板35の角度ψが、ψ=2θcのときのレーザビームLBのエネルギー密度をIpcとすると、レーザビームLBのエネルギー密度Ipcは、下記の式(3)で表すことができる。なお、PはレーザビームLBのレーザパワー(W)を示す。
【0050】
Ipc=P/{π×(φ/f×(f-L2))2} …(3)
【0051】
遮蔽板35が角度ψで傾いているときのレーザビームLBのエネルギー密度Ipは、下記の式(4)で表すことができる。
【0052】
Ip=Ipc×cos(ψ-2θc) …(4)
【0053】
遮蔽板35の角度ψが0(°)から2θc(°)では、レーザビームLBの集光径が小さくなり、点P以外の部分でレーザビームLBのエネルギー密度Ipが高くなるので望ましくない。また、遮蔽板35の角度ψを90(°)超以上とすると、遮蔽板35が傾き過ぎてしまい、遮蔽板35上部の側面に照射されるレーザビームLBの影響が大きくなるため、不測の加工がなされてしまい、望ましくない。
【0054】
よって、遮蔽板35の角度ψは、2θc<ψ≦90(°)であることが望ましい。本実施形態において、角度調整部36は、回動部37aを回動軸として遮蔽板35の傾きを変えて、鋼板20の表面に対する遮蔽板35の角度ψを、2θc<ψ≦90(°)の範囲で傾くように調整する。
【0055】
遮蔽板35の角度ψが大きくなると、集光光学系のレンズ12と、遮蔽板35の先端とが接近することから、遮蔽板35の角度ψがあまり大きくすることは望ましくないため、遮蔽板35の角度ψは80(°)以下にすることが、より望ましい。
【0056】
次に制約条件について説明する。ここで、遮蔽板35を角度ψで傾けた際、ポリゴンミラー10の回転角度θがθ0(°)のときにポリゴンミラー10で2θ0(°)の角度で反射したレーザビームLBが、遮蔽板35に照射される位置を点P0とする。
【0057】
そして、同じく、遮蔽板35を角度ψで傾けた際、ポリゴンミラー10の回転角度θがθc(°)のときにポリゴンミラー10で2θc(°)の角度で反射されたレーザビームLBが、遮蔽板35に照射される位置である点Pと、上記の点P0との高さの差をLp0とすると、Lp0は下記の式(5)で表すことができる。
【0058】
Lp0=(L1+L2)×tan2θ0×sinψ/{sin(90+2θ0-ψ)×cos2θ0} …(5)
【0059】
ここで、高さの差Lp0は、集光光学系であるレンズ12から当該点Pの高さまでの距離L2よりも小さくなければならない。よって、Lp0<L2を満たさなければならない。
【0060】
以上の構成において、溝加工装置100では、レンズ12と鋼板20との間に設けた遮蔽板35によりレンズ12を通過したレーザビームLBを遮り、鋼板20の表面に溝の端部を形成する際、角度調整部36によって、鋼板20の表面に対して遮蔽板35を角度ψで傾かせる。このように、溝加工装置100では、遮蔽板35を角度ψで傾かせることで、遮蔽板35でレーザビームLBを遮る際に生じる遮蔽板35の損傷を低減できる。よって、その分、光学部品を汚染することなく、均一な溝加工及び溝深さを実現し、鉄損特性の優れた製品を生産することができる。
【0061】
また、溝加工装置100では、ポリゴンミラー10によりレーザビームLBが走査される走査方向xにおける遮蔽板35の位置を、位置調整部34により調整するようにした。これにより、溝加工装置100では、レンズ12を通過したレーザビームLBが鋼板20の中央側から鋼板端部側へと走査方向xに沿って移動する際に、ポリゴンミラー10の平面鏡で反射したレーザビームLBを遮蔽板35に照射されるようにし、溝の端部でも均一な溝深さを有した溝を鋼板20の表面に形成することができる。また、レーザビームLBが遮蔽板35に照射される走査方向x(鋼板20の幅方向)の範囲を調整することができる。
【0062】
さらに、溝加工装置100では、遮蔽板35の角度ψを調整する際、制約条件としてLp0<L2を満たしつつ、角度ψを2θc<ψ≦90(°)の範囲とすることが望ましい。また、最も望ましい遮蔽板35の角度ψとしては、2θc<ψ≦90(°)の範囲で、かつLp0<L2の制約条件を満たした角度範囲の中心角度±5(°)であることが望ましい。このように、2θc<ψ≦90(°)の範囲で、かつLp0<L2の制約条件を満たした角度範囲の中心角度±5(°)に、遮蔽板35の角度ψを調整することで、レーザビームLBによる遮蔽板35の損傷を、より確実に低減させることができる。
【0063】
なお、上述した実施形態の遮蔽板としては、レーザビームLBを吸収する材料で形成するようにしてもよい。遮蔽板にレーザビームのエネルギーを吸収させるために、例えば遮蔽板の表面に黒アルマイト処理や吸収塗料の塗布を行う。さらに、遮蔽板を冷却するため遮蔽板内部に水路を施し、間接水冷却を実施してもよい。
【0064】
また、上述した実施形態においては、位置調整部34と角度調整部36の両方を設けた溝加工装置100について説明したが、本発明はこれに限らず、角度調整部36のみを設けた溝加工装置であってもよい。
【0065】
また、上述した実施形態においては、位置調整部として、案内溝でなる位置調整部34を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、遮蔽板35をレーザビームLBの走査方向に移動させることができる機構であれば種々の構成を適用してもよい。
【0066】
また、上述した実施形態においては、角度調整部として、遮蔽板35の基端に設けられた回動部37aを中心に回動して案内部37bに沿って遮蔽板35を移動させることで遮蔽板35を傾斜させる角度調整部36を設けるようにしたが、本発明はこれに限らない。例えば、回動部37aのみを設けて遮蔽板35を回転させ角度を調整できるようにしたり、或いは、案内部37bのみを設けて遮蔽板35を傾斜させ角度を調整できるようにしたりしてもよい。
【実施例】
【0067】
次に実施例について説明する。ここでは、始めに、レーザビームLBのレーザパワーなどを規定して、ポリゴンミラー10の平面鏡における基準位置(θ=0(°))と、隣接する平面鏡との境目とのなす角度θ0を算出し、また、上述した式(1)より臨界角θcを算出した。
【0068】
この場合、レーザビームLBのレーザパワーを1000(W)とし、レーザビームLBの半径φを6(mm)とし、ポリゴンミラー10の平面鏡の面数Nを八面とし、ポリゴンミラー10の外接半径Rを140(mm)とした場合、角度θ0は22.5(°)となり、臨界角θcは19.9(°)であった。
【0069】
ポリゴンミラー10の平面鏡から集光光学系のレンズ12までの距離L1を、50(mm)とし、レンズ12から遮蔽板35の点Pの高さまでの距離L2を150(mm)とし、レンズ12の焦点距離fを200(mm)として、上述した式(2)から点Pと点P1との距離dを算出したところ、距離dは164.7(mm)となった。
【0070】
以上より、上記の距離dの算出結果を基に、レーザビームLBの走査方向において、位置調整部34により遮蔽板35の位置を調整することができる。
【0071】
次に、遮蔽板35を角度ψで傾けたときの点Pと点P0との高さの差Lp0を計算により求め、遮蔽板35の角度ψと高さの差Lp0との関係を調べたところ、
図6に示すような結果が得られた。
図6では、遮蔽板35の角度ψ(°)を横軸に示し、遮蔽板35を角度ψで傾けたときの点Pと点P0との高さの差Lp0(mm)を縦軸に示している。
【0072】
ここで、上述した実施形態において説明したように、鋼板20の表面に対する遮蔽板35の角度ψは、2θc<ψ≦90(°)の範囲に調整することが望ましく、また、制約条件として、Lp0<L2を満たすことが望ましい。よって、
図5から、遮蔽板35の角度ψの最小角度2θc(°)は、約40(°)となり、遮蔽板35の角度ψの最大角度は、制約条件から約70(°)となることが確認できた。
【0073】
また、遮蔽板35の角度ψの最適な範囲は40(°)から70(°)の範囲となるが、最も望ましい角度ψとしては、中心角度である55(°)になることが分かる。以上より、上記の算出結果を基に、角度調整部36により遮蔽板35の角度ψを調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、遮蔽板を傾かせることで、遮蔽板でレーザビームを遮る際に生じる遮蔽板の損傷を低減でき、その分、光学部品の汚染を抑止し、均一な溝加工及び溝深さを実現する溝加工装置及び溝加工方法を提供することができる。そのため、本発明は、産業上の利用可能性が極めて大である。
【符号の説明】
【0075】
10 ポリゴンミラー
11 光源装置
12 レンズ
20 鋼板
34 位置調整部
35 遮蔽板
36 角度調整部
100 溝加工装置
101、102 平面鏡
LB レーザビーム