(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】継手の製造方法、継手、及び自動車部品
(51)【国際特許分類】
F16B 37/04 20060101AFI20230817BHJP
B62D 27/02 20060101ALI20230817BHJP
B21D 39/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
F16B37/04 E
B62D27/02
B21D39/00 D
(21)【出願番号】P 2022534132
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2021025215
(87)【国際公開番号】W WO2022004890
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2020115833
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】古迫 誠司
(72)【発明者】
【氏名】泰山 正則
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056402(JP,A)
【文献】特開2016-056940(JP,A)
【文献】米国特許第02415695(US,A)
【文献】特開平06-185515(JP,A)
【文献】米国特許第01759339(US,A)
【文献】特開昭63-224822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00 -43/02
B62D 27/02
B21D 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と、前記軸部の軸方向端部に設けられたフランジと、を備えた締結部材であって、
前記締結部材には、前記軸部の軸方向に沿って前記軸部及び前記フランジを貫通する第1の貫通穴があり、
前記フランジにおける前記第1の貫通穴は、ネジ穴であって、
前記軸部の横断面における前記第1の貫通穴の径は、前記フランジの横断面における前記ネジ穴の谷径より大きい、
前記締結部材を、
第2の貫通穴のある第1の板材に固定する継手の製造方法であって、
前記第1の板材の前記第2の貫通穴に、前記締結部材の前記軸部を通すこと、
前記第1の板材に前記フランジを当接させること、
前記軸部の先端を潰して前記軸部を径方向外側に拡げて前記第1の板材をかしめるとともに、前記軸部の軸方向に沿って見て前記軸部における前記第1の貫通穴の縁よりも前記軸部を径方向内側に延出させること、
を備える継手の製造方法。
【請求項2】
前記フランジの外径は、前記軸部の外径より大きく、
前記フランジの肉厚は、前記軸部の肉厚より厚い、
請求項1に記載の
継手の製造方法。
【請求項3】
前記軸部は、雄ネジである、
請求項1又は請求項2に記載の
継手の製造方法。
【請求項4】
軸部と、前記軸部の軸方向端部に設けられたフランジと、を備えた締結部材であって、
前記締結部材には、前記軸部の軸方向に沿って前記軸部及び前記フランジを貫通する第1の貫通穴があり、
前記フランジにおける前記第1の貫通穴は、ネジ穴であって、
前記軸部の横断面における前記第1の貫通穴の径は、前記フランジの横断面における前記ネジ穴の谷径より大きい、
前記締結部材を、第2の貫通穴のある第1の板材に固定する継手の製造方法であって、
前記第1の板材の前記第2の貫通穴に、前記締結部材の前記軸部を通すこと、
前記第1の板材に前記フランジを当接させること、
前記軸部の先端を潰して前記第1の板材をかしめること、
を備え、
前記第2の貫通穴は、ネジ穴であって、
前記軸部は、雄ネジであって、
前記軸部を前記第2の貫通穴にねじ込む、
継手の製造方法。
【請求項5】
前記第2の貫通穴は、多角穴であって、
前記軸部を前記第2の貫通穴に係合する、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の継手の製造方法。
【請求項6】
前記締結部材を軸方向両側から一対の加熱加圧部材で挟んだ状態で、前記一対の加熱加圧部材によって前記締結部材を加熱するとともに前記締結部材の軸方向に加圧することにより、前記軸部の先端を潰して前記第1の板材をかしめる、
請求項1~請求項5の何れか1項に記載の継手の製造方法。
【請求項7】
前記締結部材は、金属製であって、
前記第1の板材は、引張強さが780MPa以上の鋼板であって、
前記一対の加熱加圧部材は、一対の電極である、
請求項6に記載の継手の製造方法。
【請求項8】
第3の貫通穴のある第2の板材の前記第3の貫通穴に、ネジ部材の雄ネジ部を通すこと、
前記雄ネジ部を前記軸部の前記第1の貫通穴に通すこと、
前記雄ネジ部を前記ネジ穴にねじ込んで前記第2の板材を固定すること、
を備える請求項1~請求項7の何れか1項に記載の継手の製造方法。
【請求項9】
前記第1の板材は、前記第2の板材と反対側に膨出するとともに、頂部に前記第2の貫通穴のある膨出部を有する、
請求項8に記載の継手の製造方法。
【請求項10】
第2の貫通穴のある板材と、
軸部と、前記軸部の軸方向端部に設けられたフランジと、を備え、前記軸部が前記第2の貫通穴に通された状態で、前記フランジが前記板材に当接された締結部材と、
を備え、
前記締結部材には、前記軸部の軸方向に沿って前記軸部及び前記フランジを貫通する第1の貫通穴があり、
前記フランジにおける前記第1の貫通穴は、ネジ穴であって、
前記軸部の横断面における前記第1の貫通穴の径は、前記フランジの横断面における前記ネジ穴の谷径より大きく、
前記第2の貫通穴から突出する前記軸部の先端部には、前記軸部の径方向外側へ拡がり前記フランジとで前記板材をかしめるかしめ部、及び前記軸部の軸方向に沿って見て前記軸部における前記第1の貫通穴の縁よりも前記軸部の径方向内側へ延出する延出部が形成されている、
継手。
【請求項11】
請求項10に記載の継手を備える自動車部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願が開示する技術は、継手の製造方法、継手、及び自動車部品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鋼板等の板材に金属製のナットを接合するための装置としては、プロジェクション溶接装置が知られている(例えば、特開2019-98385号公報参照)。このプロジェクション溶接装置では、一対の電極によって、板材及びナット(プロジェクションナット)を挟んだ状態で、一対の電極間が通電される。ナットの軸方向一方側の端部には、ナットの周方向に間隔を空けて複数の凸部が形成されている。この複数の凸部と板材との複数の点接触部が、プロジェクション溶接により接合される。
【0003】
このようなプロジェクション溶接による接合技術は、例えば、自動車の車体パネルの接合構造に広く利用されている(例えば、特開2019-93819号公報参照)。このプロジェクション溶接による接合技術を用いた車体パネルの接合構造では、例えば、ナット(ウェルドナット)が接合された第一車体パネル材に第二車体パネル材が重ねられる。そして、第二車体パネル材の挿通穴に挿通されたボルトがナットにねじ込まれることにより、第二車体パネル材が第一車体パネル材に接合される。
【0004】
以上は、プロジェクション溶接により、板材とナットとを接合する技術に関する説明である。板材にナットを固定する技術としては、次の技術がある。
【0005】
例えば、第一の固定技術では、ナット本体の軸方向一方側の端部に、内筒及び外壁を有するナット、すなわち、ピアスナットが用いられている(例えば、特開平11-193808号公報、特開2005-240836号公報、特許第5106279号公報、及び特許第5876405号公報参照)。このピアスナットを用いた固定技術では、板材にセットされたナットが、打込工具によって打ち込まれる。これにより、ナットの内筒によって板材の一部が打ち抜かれ、板材に穴が形成される。そして、この穴に内筒が挿入されると共に、穴の周囲部が内筒と外壁との間にかしめられることにより、板材にナットが固定される。
【0006】
また、例えば、第二の固定技術では、フランジ部及び胴部を有するナット、すなわち、かしめナットが用いられている(例えば、特許第4093674号公報、特開2001-065525号公報、特開平09-126215号公報、特開2008-175379号公報参照)。このかしめナットを用いた固定技術では、板材の穴に挿入されたナットの胴部が軸方向に潰されることにより、胴部に環状のかしめ変形部が形成される。そして、ナットのフランジ部及びかしめ変形部によって板材を挟んだ状態で、板材にナットが固定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の技術では、次の課題がある。すなわち、プロジェクション溶接による接合技術を用いた車体パネルの接合構造では、第二車体パネル材の挿通穴に通されたボルトを、第一車体パネル材に接合されたナットにねじ込む際に、ボルトによってナットが押し込まれる。したがって、ナットが第一車体パネル材から剥離される方向の押し込み荷重が、ナットに作用する。
【0008】
ここで、プロジェクション溶接による接合技術では、ナットの周方向の全長に亘ってナットと板材とが溶接により接合されるのではなく、ナットに形成された複数の凸部と板材との複数の点接触部が、プロジェクション溶接により接合される。このため、ナットの剥離強度が不足する虞がある。また、ナットの剥離強度を高めるため、点接触部の溶融径を大きくすると、スパッタが発生する虞がある。このスパッタがナットのネジ穴に付着すると、ボルトをナットにねじ込めなくなる虞がある。
【0009】
また、ピアスナットを用いた上述の固定技術では、ナット本体から内筒に亘ってネジ穴が形成されている。したがって、打ち込まれたナットの内筒によって板材の一部を打ち抜く際に、内筒が変形すると共に、内筒の変形に伴ってネジ穴も変形する虞がある。
【0010】
また、かしめナットを用いた固定技術においても、ナットの胴部にネジ穴が形成されている。そのため、胴部が軸方向に潰され、当該胴部にかしめ変形部が形成される際に、ネジ穴が変形する虞がある。
【0011】
本願が開示する技術は、一例として、締結部材の剥離強度を確保すると共に、締結部材のネジ穴にネジ部材の雄ネジ部がねじ込み難くなることを抑制することを第一の目的とする。
【0012】
また、本願が開示する技術は、締結部材の剥離、及び締結部材のネジ穴にネジ部材の雄ネジ部がねじ込み難くなることを抑制すると共に、第1の板材と第2の板材とを適切に接合することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1態様に係る締結部材は、軸部と、前記軸部の軸方向端部に設けられたフランジと、を備えた締結部材であって、前記締結部材には、前記軸部の軸方向に沿って前記軸部及び前記フランジを貫通する第1の貫通穴があり、前記フランジにおける前記第1の貫通穴は、ネジ穴であって、前記軸部の横断面における前記第1の貫通穴の径は、前記フランジの横断面における前記ネジ穴の谷径より大きい。
【0014】
第2態様に係る締結部材は、第1態様に係る締結部材において、前記フランジの外径は、前記軸部の外径より大きく、前記フランジの肉厚は、前記軸部の肉厚より厚い。
【0015】
第3態様に係る締結部材は、第1態様又は第2態様に係る締結部材において、軸部は、雄ネジである。
【0016】
第4態様に係る継手の接合方法は、第2の貫通穴のある第1の板材の前記第2の貫通穴に、第1態様~第3態様の何れか1つに係る前記軸部を通すこと、前記第1の板材に前記フランジを当接させること、前記軸部の先端を潰して前記第1の板材をかしめること、を備える。
【0017】
第5態様に係る継手の接合方法は、第4態様に係る継手の製造方法において、前記フランジの外径は、前記軸部の外径より大きく、前記フランジの肉厚は、前記軸部の肉厚より厚い。
【0018】
第6態様に係る継手の接合方法は、第4態様又は第5態様に係る継手の製造方法において、前記第2の貫通穴は、ネジ穴であって、前記軸部は、雄ネジであって、前記軸部を前記第2の貫通穴にねじ込む。
【0019】
第7態様に係る継手の接合方法は、第4態様又は第5態様に係る継手の製造方法において、前記第2の貫通穴は、多角穴であって、前記軸部を前記第2の貫通穴に係合する。
【0020】
第8態様に係る継手の接合方法は、第4態様~第7態様の何れか1つに係る継手の製造方法において、前記締結部材を軸方向両側から一対の加熱加圧部材で挟んだ状態で、前記一対の加熱加圧部材によって前記締結部材を加熱するとともに前記締結部材の軸方向に加圧することにより、前記軸部の先端を潰して前記第1の板材をかしめる。
【0021】
第9態様に係る継手の接合方法は、第8態様に係る継手の製造方法において、前記締結部材は、金属製であって、前記第1の板材は、引張強さが780MPa以上の鋼板であって、前記一対の加熱加圧部材は、一対の電極である。
【0022】
第10態様に係る継手の接合方法は、第4態様~第9態様の何れか1つに係る継手の製造方法において、第3の貫通穴のある第2の板材の前記第3の貫通穴に、ネジ部材の雄ネジ部を通すこと、前記雄ネジ部を前記軸部の前記第1の貫通穴に通すこと、前記雄ネジ部を前記ネジ穴にねじ込んで前記第2の板材を固定すること、を備える。
【0023】
第11態様に係る継手の接合方法は、第10態様に係る継手の製造方法において、前記第1の板材は、前記第2の板材と反対側に膨出するとともに、頂部に前記第2の貫通穴のある膨出部を有する。
【0024】
第12態様に係る継手は、第2の貫通穴のある板材と、前記軸部が前記第2の貫通穴に通された状態で、前記フランジが前記板材に当接された第1態様~第3態様の何れか1つに係る締結部材と、を備え、前記第2の貫通穴から突出する前記軸部の先端部には、前記フランジとで前記板材をかしめるかしめ部が形成されている。
【0025】
第13態様に係る自動車部品は、第12態様に係る継手を備える。
【発明の効果】
【0026】
本願が開示する技術によれば、一例として、締結部材の剥離強度を確保すると共に、締結部材のネジ穴にネジ部材の雄ネジ部がねじ込み難くなることを抑制することができる。
【0027】
また、本願が開示する技術は、締結部材の剥離、及び締結部材のネジ穴にネジ部材の雄ネジ部がねじ込み難くなることを抑制すると共に、第1の板材と第2の板材とを適切に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】第一実施形態に係る締結部材を示す正面図である。
【
図1B】第一実施形態に係る締結部材を示す縦断面図である。
【
図2A】第一実施形態に係る継手の製造方法の第一工程を説明する断面図である。
【
図2B】第一実施形態に係る継手の製造方法の第二工程を説明する断面図である。
【
図3A】第一実施形態に係る板材接合方法の第一工程を説明する断面図である。
【
図3B】第一実施形態に係る板材接合方法の第二工程を説明する断面図である。
【
図4A】第二実施形態に係る継手の製造方法の第一工程を説明する断面図である。
【
図4B】第二実施形態に係る継手の製造方法の第二工程を説明する断面図である。
【
図5A】第二実施形態に係る板材接合方法の第一工程を説明する断面図である。
【
図5B】第二実施形態に係る板材接合方法の第二工程を説明する断面図である。
【
図6A】第三実施形態に係る締結部材を示す正面図である。
【
図6B】第三実施形態に係る締結部材を示す縦断面図である。
【
図7A】第三実施形態に係る継手の製造方法の第一工程を説明する断面図である。
【
図7B】第三実施形態に係る継手の製造方法の第二工程を説明する断面図である。
【
図8A】第三実施形態に係る板材接合方法の第一工程を説明する断面図である。
【
図8B】第三実施形態に係る板材接合方法の第二工程を説明する断面図である。
【
図9】第四実施形態に係る接合継手の分解斜視図である。
【
図10A】第五実施形態に係る継手の製造方法の第一工程を説明する断面図である。
【
図10B】第五実施形態に係る継手の製造方法の第二工程を説明する断面図である。
【
図11A】第一比較例に係るナットを示す正面図である。
【
図11B】第一比較例に係るナットを示す縦断面図である。
【
図12A】第一比較例に係る継手の製造方法の第一工程を説明する断面図である。
【
図12B】第一比較例に係る継手の製造方法の第二工程を説明する断面図である。
【
図13A】第二比較例に係るナットを示す縦断面図である。
【
図13B】第二比較例に係る接合継手を示す縦断面図である。
【
図14A】第三比較例に係るナットを示す縦断面図である。
【
図14B】第三比較例に係る接合継手を示す縦断面図である。
【
図15A】第四比較例に係る継手の製造方法の第一工程を説明する断面図である。
【
図15B】第四比較例に係る継手の製造方法の第二工程を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第一実施形態]
はじめに、本発明の第一実施形態について説明する。
【0030】
図1A、及び
図1Bは、第一実施形態に係る締結部材10を示す図である。
図1Aは、締結部材10の正面図である。
図1Bは、締結部材10の縦断面図である。矢印A1は、締結部材10の軸方向一方側を示し、矢印A2は、締結部材10の軸方向他方側を示している。
【0031】
図1A、及び
図1Bに示されるように、締結部材10(例えば、リベットナット、ナット)は、軸部12と、軸部12の軸方向端部に設けられたフランジ11とを有する。また、締結部材10には、軸部12の軸方向に沿って、軸部12及びフランジ11を貫通する第1の貫通穴がある。この締結部材10は、一例として、金属製である。
【0032】
フランジ11(ナット本体、雌ネジ部)は、環状に形成されている。このフランジ11における第1の貫通穴は、ネジ穴13である。ネジ穴13は、フランジ11の中心部に形成されている。なお、フランジ11における第1の貫通穴の全体がネジ穴13とされても良いし、フランジ11における第1の貫通穴の一部がネジ穴13とされても良い。軸部12(筒状部)は、フランジ11の軸方向一方側の端部から突出している。この軸部12は、円筒である。また、軸部12における第1の貫通穴は、貫通穴14である。貫通穴14は、軸部12の中心部に形成されている。
【0033】
ネジ穴13及び貫通穴14は、締結部材10を軸部12の軸方向に貫通する第1の貫通穴を構成している。貫通穴14は、ネジ穴13と同軸に配置されるとともに、ネジ穴13と通じている。フランジ11の外径D1は、軸部12の外径D2よりも大きい。軸部12の横断面における貫通穴14の径d2(内径)は、フランジ11の横断面におけるネジ穴13の谷径d1(内径、穴径)よりも大きい。また、フランジ11の肉厚(D1-d1)は、軸部12の肉厚(D2-d2)よりも厚い。なお、ネジ穴13の谷径d1とは、雌ネジの谷底に接する仮想的な円筒の直径を意味する。
【0034】
続いて、第一実施形態に係る継手の製造方法について説明する。
【0035】
図2A、及び
図2Bは、第一実施形態に係る継手の製造方法(接合継手の製造方法)を説明する図である。
図2Aは、継手の製造方法の第一工程を説明する図である。
図2Bは、継手の製造方法の第二工程を説明する図である。
【0036】
第一実施形態に係る継手の製造方法は、板材20の被接合部21に締結部材10を固定して、被接合部21及び締結部材10を備える接合継手30を得る方法である。板材20は、例えば、引張強さが780MPa以上の鋼板であり、好ましくは、引張強さが980MPa以上の鋼板である。また、板材20を構成する鋼板の板厚は、例えば、0.5mm~4.0mmである。なお、板材20は、表面処理鋼板でもよい。また、板材20は、第1の板材の一例である。
【0037】
被接合部21には、当該被接合部21を板厚方向に貫通する貫通穴22(通し穴)が形成されている。貫通穴22は、断面が円形状の丸穴である。被接合部21は、貫通穴22を含む所定の範囲の部位である。なお、貫通穴22は、第2の貫通穴の一例である。また、
図2A、及び
図2Bでは、板材20のうちの被接合部21のみが示されている。被接合部21は、第一板面21Aと、この第一板面21Aとは反対側の第二板面21Bとを有している。
【0038】
第一実施形態に係る継手の製造方法は、締結部材10を被接合部21に固定する工程として、第一工程及び第二工程を備える。
【0039】
図2Aに示されるように、第一工程では、第一板面21A側から軸部12を貫通穴22に通し、フランジ11を板材20の第一板面21Aにおける貫通穴22の周囲部に当接させる。また、軸部12の先端(先端部)を被接合部21の第二板面21Bから突出させる。
【0040】
軸部12の軸長Lは、被接合部21の板厚Tよりも長い。また、フランジ11の外径D1は、貫通穴22の径d3よりも大きい。また、軸部12の外径D2は、貫通穴22の径d3よりも小さい。被接合部21に対する締結部材10のがたつきを抑制するためには、軸部12の外径D2が、貫通穴22の径d3よりも僅かに小さいことが望ましい。なお、軸部12は、貫通穴22に圧入されてもよい。
【0041】
図2Bに示されるように、第二工程では、締結部材10の軸方向両側から締結部材10を一対の電極40で挟んだ状態とする。一対の電極40は、「一対の加熱加圧部材」の一例である。そして、一対の電極40間に通電し、この一対の電極40によって締結部材10を通電加熱しながら締結部材10の軸方向に加圧することにより、軸部12の先端を潰して板材20をかしめる。これにより、軸部12の先端部には、軸部12の径方向外側に拡がるかしめ部15が形成される。このかしめ部15は、軸部12の周方向に沿って環状に形成される。なお、一対の電極40による締結部材10の加熱及び加圧は、必ずしも同時に行う必要はなく、別々に行うことも可能である。
【0042】
このとき、かしめ部15の外径D4が、貫通穴22の径d3よりも大きくなるように、かしめ部15が形成される。これにより、かしめ部15は、第二板面21Bにおける貫通穴22の周囲部に圧着(係止)される。つまり、フランジ状に形成されたかしめ部15が、第二板面21Bにおける貫通穴22の周囲部に重なり、この貫通穴22の周囲部に引っ掛かった状態となる。
【0043】
このようにして、フランジ11を第一板面21Aにおける貫通穴22の周囲部に当接させる。また、第二板面21Bにおける貫通穴22の周囲部に圧着するかしめ部15を軸部12の先端部に形成する。これにより、フランジ11及びかしめ部15によって被接合部21を挟んだ状態で、被接合部21に締結部材10が固定される。また、フランジ11及びかしめ部15によって被接合部21を加圧した状態で挟むことにより、被接合部21に対する締結部材10の回転が規制される。
【0044】
なお、軸部12の先端が変形することにより、この軸部12の先端部には、上述のかしめ部15に加えて、軸部12の径方向内側に延出する延出部16が形成される。この延出部16は、軸部12の周方向に沿って環状に形成される。
【0045】
ところで、延出部16の内径d4がネジ穴13の谷径d1よりも小さくなると、後述するように、締結部材10の軸方向一方側(矢印A1側)からネジ穴13にボルトをねじ込むことができなくなる(螺入できなくなる)。
【0046】
そこで、第二工程では、延出部16の内径d4がネジ穴13の谷径d1よりも小さくならないように、一対の電極40による加熱温度、加圧力、加圧時間、又は一対の電極40の形状等により、軸部12の先端部の径方向内側への変形量が調整される。また、延出部16の内径d4がネジ穴13の谷径d1よりも小さくならないように、加圧変形前の軸部12の貫通穴14の径d2の大きさが設定される。これにより、延出部16の内径d4が、ネジ穴13の谷径d1よりも小さくなることが抑制される。さらに、加圧変形前の軸部12の貫通穴14には、フランジ11側に向かって先細りになるテーパを設けてもよい。これにより、軸部12が軸方向に変形する際に、軸部12が内側に変形し難くなるため、内径d4がネジ穴13の谷径d1よりも小さくなることが抑制される。
【0047】
この第二工程は、溶接工程ではなく、かしめ工程である。そのため、この第二工程では、被接合部21が溶融しない加熱温度で、一対の電極40によって締結部材10を通電加熱しながら加圧する。
【0048】
この第二工程では、鋼板である板材20が溶融しないため、大気中や板材20の表面の防錆油から水素が板材20の内部に侵入することが抑制される。また、板材20が高温から急冷されず、フレッシュマルテンサイトにならないことから、板材20に水素脆化が生じることが抑制される。これらのことは、プロジェクション溶接に比べて、第一実施形態の優位な特徴である。なお、水素脆化とは、鋼板中に吸収された水素により鋼板に割れが生じたり、鋼板の強度(延性又は靭性)が低下したりする現象のことである。
【0049】
第一実施形態に係る継手の製造方法では、以上の要領により、板材20に形成された被接合部21に締結部材10が接合される。これにより、被接合部21及び締結部材10を備える接合継手30が得られる。この接合継手30は、例えば、自動車部品に好適である。このような接合継手30を備える自動車部品としては、例えば、Aピラー、Bピラー、サイドメンバ、ロッカ、ルーフサイドレール、及びバンパリインフォースメント等の車体骨格部材が挙げられる。
【0050】
この接合継手30において、締結部材10は、ネジ穴13を有するフランジ11と、フランジ11の軸方向一方側の端部(軸方向端部)から突出する軸部12とを備える。軸部12は、ネジ穴13と同軸に形成された貫通穴14を有する。軸部12は、被接合部21に形成された貫通穴22に通されている。フランジ11は、第一板面21Aにおける貫通穴22の周囲部に当接している。軸部12の先端部は、被接合部21の第二板面21Bから突出している。この軸部12の先端部には、第二板面21Bにおける貫通穴22の周囲部に圧着(係止)されたかしめ部15が形成されている。
【0051】
続いて、第一実施形態に係る板材接合方法について説明する。
【0052】
図3A、及び
図3Bは、第一実施形態に係る板材接合方法を説明する図である。
図3Aは、板材接合方法の第一工程を説明する図である。
図3Bは、板材接合方法の第二工程を説明する図である。
【0053】
なお、以降の説明では、板材接合方法によって得らえる板材接合構造70の第2の板材50及び第2の被接合部51と区別するために、板材20を第1の板材20と称し、被接合部21を第1の被接合部21と称する。
【0054】
第一実施形態に係る板材接合方法は、第1の板材20の第1の被接合部21に、第1の板材20とは別の第2の板材50の第2の被接合部51を接合する方法である。
【0055】
第一実施形態に係る板材接合方法は、第1の被接合部21に第2の被接合部51を接合する工程として、第一工程及び第二工程を備える。
【0056】
図3Aに示されるように、第一工程では、上述の第一実施形態に係る継手の製造方法によって製造された接合継手30における第1の被接合部21に、第2の板材50の第2の被接合部51を重ね合わせる。
【0057】
第2の被接合部51は、膨出部53を有する。膨出部53は、第2の板材50の平坦部54に対して第1の板材20と反対側に膨出する形状を有する。膨出部53の頂部には、第2の板材50の板厚方向に貫通する貫通穴52(挿通穴)が形成されている。第二工程では、膨出部53の内側に軸部12の先端部が位置すると共に、貫通穴52が締結部材10と同軸上に位置するように、第1の被接合部21に対して第2の被接合部51が位置決めされる。なお、貫通穴52は、第3の貫通穴の一例である。
【0058】
図3Bに示されるように、第二工程では、ボルト60を用いる。ボルト60は、頭部61及び雄ネジ部63を有する。この第二工程では、第2の被接合部51側から雄ネジ部63を貫通穴52に通すと共に、雄ネジ部63を締結部材10のネジ穴13にねじ込む(螺入する)。これにより、締結部材10のフランジ11とボルト60の頭部61とによって、第1の被接合部21及び第2の被接合部51が挟まれた状態で、第1の被接合部21及び第2の被接合部51が接合される。なお、ボルト60は、ネジ部材の一例である。
【0059】
第一実施形態に係る板材接合方法では、以上の要領により、締結部材10及びボルト60を用いて第1の被接合部21及び第2の被接合部51が接合される。これにより、締結部材10、ボルト60、第1の被接合部21、及び第2の被接合部51を備える板材接合構造70が得られる。
【0060】
このような板材接合構造70は、例えば、自動車の車体パネルの接合構造、特に、高強度鋼板である車体パネルを含む自動車部品に好適である。板材接合構造70を備える自動車部品としては、例えば、Aピラー、Bピラー、サイドメンバ、ロッカ、ルーフサイドレール、バンパリインフォースメント等の車体骨格部材が挙げられる。この板材接合構造70は、負荷応力が高い部位(点)に特に好適である。しかしながら、板材接合構造70は、自動車部品以外に適用されてもよいことは勿論である。
【0061】
なお、
図2A、及び
図2Bに示される継手の製造方法における第一工程及び第二工程を、第一実施形態に係る板材接合方法における第一工程及び第二工程(前工程)とする場合、
図3A、及び
図3Bに示される第一工程及び第二工程(後工程)は、第一実施形態に係る板材接合方法における第三工程及び第四工程にそれぞれ相当する。
【0062】
また、第一実施形態に係る継手の製造方法は、貫通穴22のある第1の板材20の貫通穴22に、締結部材10の軸部12を通すこと、第1の板材20にフランジ11を当接させること、軸部12の先端を潰して第1の板材20をかしめること、貫通穴52のある第2の板材50の貫通穴52に、ネジ部材としてのボルト60の雄ネジ部63を通すこと、雄ネジ部63を軸部12の貫通穴14に通すこと、雄ネジ部63をネジ穴13にねじ込んで第2の板材50を固定すること、を備える。
【0063】
続いて、第一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0064】
第一実施形態によれば、継手の製造方法(
図2B参照)の第二工程において、締結部材10の軸方向両側から締結部材10を一対の電極40で挟んだ状態で、一対の電極40によって締結部材10を通電加熱しながら加圧する。そして、軸部12の先端を潰すことにより、軸部12の先端部に第二板面21Bにおける貫通穴22の周囲部に圧着されるかしめ部15を形成する。
【0065】
したがって、かしめ部15が貫通穴22の周囲部に圧着することにより、かしめ部15が貫通穴22の周囲部に引っ掛かる抜止部として機能するので、締結部材10の剥離強度が高められる。これにより、
図3A、及び
図3Bに示されるように、ボルト60の雄ネジ部63を締結部材10のネジ穴13にねじ込む際に、締結部材10が第1の被接合部21から剥離する方向の押し込み荷重が締結部材10に作用しても、第1の被接合部21から締結部材10が剥離することが抑制される。
【0066】
特に、かしめ部15は、軸部12の周方向に沿って環状に形成される。そのため、第一実施形態は、例えば、複数の点接触部でナットと第1の被接合部21が接合されるプロジェクション溶接と比べて、締結部材10の剥離強度を高めることができる。
【0067】
また、第一実施形態によれば、継手の製造方法(
図3A、及び
図3B参照)の第二工程において、第1の被接合部21が溶融しない加熱温度で、一対の電極40によって締結部材10を通電加熱しながら加圧し、軸部12の先端を潰す。つまり、この第二工程では、プロジェクション溶接よりも第1の被接合部21の加熱温度が低いかしめ加工の条件の下で、締結部材10を通電加熱しながら加圧する。したがって、第1の被接合部21は溶融しないので、第1の被接合部21に水素脆化が生じることが抑制される。これにより、第1の被接合部21、及び接合継手30の品質を確保することができる。
【0068】
また、締結部材10は、フランジ11と、フランジ11の軸方向一方側の端部から突出する軸部12とを備えている。この締結部材10のネジ穴13は、軸部12に形成されておらず、フランジ11にのみ形成されている。したがって、継手の製造方法(
図2A、及び
図2B参照)の第二工程において、軸部12の先端を潰してかしめ部15を形成する際に、ネジ穴13が変形し難くなる。しかも、上述の通り、第二工程では、第1の被接合部21は溶融しないので、ネジ穴13にスパッタが付着することが抑制される。以上により、ネジ穴13にボルト60の雄ネジ部63がねじ込み難くなることが抑制される。
【0069】
また、継手の製造方法の第二工程において、潰される軸部12の先端は、ネジ穴13を有するフランジ11から離れた位置にあるので、ネジ穴13の変形がさらに抑制される。しかも、フランジ11の肉厚が、軸部12の肉厚よりも厚いので、一対の電極40で通電しながら締結部材10を加圧したときに、フランジ11の電流密度が、軸部12の電流密度よりも低くなる。そのため、フランジ11は、軸部12に比べて、温度が上がらないので、フランジ11のネジ穴13の変形がさらに抑制される。なお、フランジ11の肉厚は、軸部12の肉厚の例えば、1.5倍以上が好適である。
【0070】
このように、第一実施形態では、締結部材10の剥離、及び締結部材10のネジ穴13にボルト60の雄ネジ部63がねじ込み難くなることを抑制すると共に、第1の板材20と第2の板材50とを適切に接合することができる。
【0071】
また、第一実施形態では、第1の被接合部21の貫通穴22は、断面が円形状の丸穴である。そのため、例えば、板材接合構造70が自動車の車体パネルの接合構造に適用された場合に、ボルト60及び締結部材10を通じて第1の被接合部21に荷重が作用しても、貫通穴22の周囲部の一部に、応力が集中することを抑制することができる。
【0072】
続いて、第一実施形態と比較例との比較について説明する。
【0073】
(第一比較例との比較)
図11A、及び
図11Bは、第一比較例に係るナット110を示す図である。
図11Aは、ナット110の正面図である。
図11Bは、ナット110の縦断面図である。
【0074】
第一比較例に係るナット110は、プロジェクション溶接装置によって板材に接合されるプロジェクションナットである。このナット110の軸方向一方側の端部には、複数の凸部115が形成されている。複数の凸部115は、ナット110の周方向に間隔を空けて配置されている。
【0075】
図12A、及び
図12Bは、第一比較例に係る継手の製造方法を説明する図である。
図12Aは、継手の製造方法の第一工程を説明する図である。
図12Bは、継手の製造方法の第二工程を説明する図である。
【0076】
第一比較例に係る継手の製造方法では、第一工程において、ナット110が板材150の被接合部151の上にセットされる。次いで、第二工程において、一対の電極160によって被接合部151及びナット110を挟んだ状態で、一対の電極160間が通電される。
【0077】
そして、複数の凸部115と被接合部151との複数の点接触部で、ナット110及び被接合部151がプロジェクション溶接により接合される。このプロジェクション溶接により、ナット110と被接合部151との接合部には、複数の溶接部116が形成される。第一比較例に係る継手の製造方法では、以上の要領で、ナット110及び被接合部151を有する接合継手が得られる。
【0078】
しかしながら、第一比較例では、ナット110の周方向の全長に亘ってナット110と被接合部151とが溶接で接合されず、ナット110に形成された複数の凸部115と被接合部151との複数の点接触部が、プロジェクション溶接により接合される。このため、ボルトがナット110に押し込まれる際に、ナット110に作用する押し込み荷重に対して、ナット110の剥離強度が不足する虞がある。
【0079】
第一比較例では、特に、板材150の鋼板強度が高くなると、溶接部116の靱性が低下するため、ナット110の剥離強度が不足する虞が高くなる。また、鋼板強度が高くなると、溶接部116が硬くなるため、溶接部116に水素脆化が生じる虞がある。
【0080】
また、第一比較例では、複数の凸部115と第1の被接合部21との複数の点接触部の加熱温度が高くなると共に加圧時間が長くなると、次のようになる。すなわち、溶接部116が硬くなると共に、複数の点接触部に形成される複数の溶接部116に、大気中、又は第1の板材150の表面の防錆油から水素が侵入しやすくなる。そのため、第1の板材150が高強度鋼板の場合は、水素脆化が生じる可能性が高くなる。特に、1.5GPa級を超える高強度鋼板では、水素脆化の問題が顕在化する。
【0081】
ここで、水素脆化の影響を小さくするために、溶接部116の大きさを小さくすることが考えられる。しかしながら、この場合には、ナット110の剥離強度が低下する。一方、ナット110の剥離強度を向上させるために、溶接部116の大きさを大きくすることが考えられる。しかしながら、この場合には、水素脆化の影響が大きくなる。すなわち、剥離強度と水素脆化とは、トレードオフの関係にある。
【0082】
これに対して、第一実施形態(
図1A、
図1B、
図2A、及び
図2B参照)では、一対の電極40によって締結部材10を通電加熱しながら加圧して、軸部12の先端を潰す。これにより、軸部12の先端部に、第二板面21Bにおける貫通穴22の周囲部に圧着されるかしめ部15を形成する。このかしめ部15は、軸部12の周方向に沿って環状に形成され、貫通穴22の周囲部に引っ掛かる抜止部として機能する。したがって、第一実施形態は、第一比較例に係るプロジェクション溶接と比べて、締結部材10の剥離強度を高めることができる。また、第1の被接合部21は溶融しないので、第1の被接合部21を含む第1の板材20が高強度鋼板の場合でも、第1の被接合部21の靱性が低下しにくい。すなわち、第一実施形態は、高強度鋼板においても、高い効果を得ることができる。
【0083】
また、第一実施形態は、第1の被接合部21が溶融しない加熱温度で、一対の電極40によって締結部材10を通電加熱しながら加圧する。つまり、第一実施形態では、プロジェクション溶接よりも第1の被接合部21の加熱温度が低いかしめ加工の条件の下で、締結部材10を通電加熱しながら加圧する。したがって、第1の被接合部21は溶融しないので、第1の被接合部21に水素脆化が生じることが抑制される。特に、第一実施形態は、1.5GPa級を超える高強度鋼板において、水素脆化を抑制することができるので、高強度鋼板において、高い効果を得ることができる。
【0084】
このように、第一実施形態は、剥離強度の向上と水素脆化の抑制とを両立させることができる。
【0085】
(第二比較例、及び第三比較例との比較)
図13A、及び
図13Bは、第二比較例に係るナット120及び接合継手を示す図である。
図13Aは、ナット120の縦断面図である。
図13Bは、接合継手の縦断面図である。
【0086】
第二比較例に係るナット120は、ナット本体121の軸方向一方側の端部に内筒122と外壁125(外筒)を有するピアスナットである。この第二比較例では、板材150にセットされたナット120を打込工具で打込む。これにより、内筒122によって板材150の一部が打ち抜かれ、板材150に穴152が形成される。この穴152に内筒122が挿入されると共に、穴152の周囲部が内筒122と外壁125との間でかしめられることにより、板材150にナット120が固定される。
【0087】
しかしながら、第二比較例では、ナット本体121から内筒122に亘ってネジ穴123が形成されている。したがって、打ち込まれたナット120の内筒122によって、板材150の一部を打ち抜く際に、内筒122が変形するとともに、当該内筒122の変形に伴ってネジ穴123も変形する虞がある。
【0088】
また、第二比較例は、冷間で板材150にナット120を打ち込むので、高強度鋼板への適用が困難である。
【0089】
図14A、及び
図14Bは、第三比較例に係るナット130及び接合継手を示す図である。
図14Aは、ナット130の縦断面図である。
図14Bは、接合継手の縦断面図である。
【0090】
第三比較例に係るナット130は、外壁125が凸部である以外は、第二比較例に係るナット120(
図13A、及び
図13B参照)と同様の構成である。第三比較例において、第二比較例と同様の構成については、同一の符号を用いている。
【0091】
第三比較例に係るナット130においても、ナット本体121から内筒122に亘ってネジ穴123が形成されている。したがって、打ち込まれたナット130の内筒122によって、板材150の一部を打ち抜く際に、内筒122が変形するとともに、当該内筒122の変形に伴ってネジ穴123も変形する虞がある。
【0092】
また、第三比較例においても、冷間で板材150にナット130を打ち込むので、高強度鋼板への適用が困難である。
【0093】
これに対し、第一実施形態(
図1A、
図1B、
図2A、及び
図2B参照)に係る締結部材10は、フランジ11と、フランジ11の軸方向一方側の端部から突出する軸部12とを備えている。締結部材10のネジ穴13は、軸部12に形成されておらず、フランジ11にのみ形成されている。したがって、継手の製造方法の第二工程において、軸部12の先端を潰してかしめ部15を形成しても、ネジ穴13の変形が抑制される。
【0094】
また、第一実施形態では、軸部12の先端を潰して締結部材10を第1の板材20に固定するので、高強度鋼板への適用が可能である。
【0095】
(第四比較例との比較)
図15A、及び
図15Bは、第四比較例に係る継手の製造方法を示す図である。
図15Aは、継手の製造方法の第一工程を説明する図である。
図15Bは、継手の製造方法の第二工程を説明する図である。
【0096】
第四比較例では、フランジ部141と胴部142を有するナット140、すなわち、かしめナットが用いられている。この第四比較例では、板材150の穴152にナット140の胴部142が挿入された状態で、当該胴部142を軸方向に潰すことにより、環状のかしめ変形部145が胴部142に形成される。これらのナット140のフランジ部141及びかしめ変形部145によって板材150を挟んだ状態で、板材150にナット140が固定される。
【0097】
しかしながら、この第四比較例では、ナット140の胴部142にネジ穴143が形成されている。このネジ穴143にかしめ変形部145が隣接するため、胴部142にかしめ変形部145が形成される際に、ネジ穴143が変形する虞がある。
【0098】
これに対し、第一実施形態(
図1A、
図1B、
図2A、及び
図2B参照)に係る締結部材10は、フランジ11と、フランジ11の軸方向一方側の端部から突出する軸部12とを備えている。この締結部材10のネジ穴13は、軸部12に形成されておらず、フランジ11にのみ形成されている。したがって、継手の製造方法の第二工程において、軸部12の先端を潰してかしめ部15を形成しても、ネジ穴13の変形が抑制される。
【0099】
特に、継手の製造方法の第二工程において、潰される軸部12の先端は、ネジ穴13を有するフランジ11から離れた位置にある。そのため、第一実施形態は、第四比較例(
図15A、及び
図15B参照)のようにネジ穴13にかしめ変形部145が隣接する場合に比して、ネジ穴13の変形が抑制される。
【0100】
続いて、実施例について説明する。
【0101】
【0102】
実施例では、板材として、1.5GPa級亜鉛めっきホットスタンプ鋼板を用いた。板材の板厚は、2.0mmである。実施例で用いた締結部材の形状は、雌ネジ部の外径が16mm、雌ネジ部の長さが10mm、ネジ穴の谷径(内径)が6mm(M6)、軸部の長さが8mm、軸部の外径が14mm、軸部の貫通穴の径が8mm、軸部の肉厚が3mmである。比較例では、JIS B 1163に記載の四角ナットを用いた。実施例で使用する一対の電極は、直径が16mm、先端がフラット、材料がCu-Cr合金の電極とした。プロジェクション溶接である比較例でも本実施例と同じ電極を用いた。
【0103】
実施例では、かしめ加工に応じた電流を一対の電極間に流した。比較例では、プロジェクション溶接に応じた電流を一対の電極間に流した。実施例では、加圧力を3920N、通電時間を10cycle、保持時間を10cycle(1cycle=1/60秒)とした。比較例1では、一対の電極間に流す電流を10.0kAとし、比較例2では、一対の電極間に流す電流を13.0kAとした。
【0104】
表1には、実施例、比較例1、及び比較例2の結果が示されている。評価項目は、「締結部材又はナットの剥離強度」と、「ボルトの螺入不良」とした。締結部材又はナットの剥離強度は、JIS B 1196付属書Aで評価した。ボルトのねじ込み不良は、ボルトをナットにねじ込めるか否かで評価した。そして、ボルトをナットにねじ込めた場合を「無し」とし、ボルトをナットにねじ込めない場合を「有り」とした。
【0105】
表1に示されるように、比較例1では、ボルトのねじ込み不良が「無し」となったが、一対の電極間に流す電流を小さくしたため、点接触部の溶融径が小さくなり、ナットの剥離強度が低くなった。また、比較例2では、ナットの剥離強度は高かったが、一対の電極間に流す電流を大きくしたため、スパッタが発生した。この結果、スパッタがナットのネジ穴に付着し、ボルトのねじ込み不良が「有り」となった。一方、実施例では、締結部材の高い剥離強度が得られると共に、ボルトのねじ込み不良が「無し」となった。また、比較例1,2において、1.5GPa級亜鉛めっきホットスタンプ鋼板の代わりに、引張強度が2.0GPa以上の鋼板を用いた場合では、水素脆化割れが発生することがあった。これに対し、実施例において、1.5GPa級亜鉛めっきホットスタンプ鋼板の代わりに、引張強度が2.0GPa以上の鋼板を用いた場合では、水素脆化割れは認められなかった。
【0106】
【0107】
続いて、第一実施形態の変形例について説明する。
【0108】
上記第一実施形態では、好ましい例として、第1の板材20が鋼板とされ、締結部材10が金属製とされている。しかし、第1の板材20は鋼板以外でもよい。また、締結部材10は、金属製以外でもよい。
【0109】
また、例えば、第1の板材20及び締結部材10は、樹脂製でもよい。第1の板材20及び締結部材10が樹脂製の場合には、一対の電極40の代わりに、例えばヒータ等の加熱機能を有する一対の加熱加圧部材を用いて、締結部材10を加熱しながら加圧すればよい。
【0110】
また、上記第一実施形態では、第1の被接合部21の第二板面21Bに第2の被接合部51が重ね合わされ、これらの第1の被接合部21及び第2の被接合部51が締結部材10及びボルト60によって接合される。しかし、第1の被接合部21の第一板面21Aに第2の被接合部51が重ね合わされ、これらの第1の被接合部21及び第2の被接合部51が締結部材10及びボルト60によって接合されてもよい。
【0111】
また、上記第一実施形態では、貫通穴14及びネジ穴13の境界と、軸部12及びフランジ11の境界との位置が、軸方向で一致している。しかし、貫通穴14及びネジ穴13の境界と、軸部12及びフランジ11の境界との軸方向の位置は、例えば、第1の板材20の板厚分程度ずれてもよい。
【0112】
[第二実施形態]
次に、第二実施形態について説明する。
【0113】
図4A、及び
図4Bは、第二実施形態に係る継手の製造方法を説明する図である。
図4Aは、継手の製造方法の第一工程を説明する図である。
図4Bは、継手の製造方法の第二工程を説明する図である。
【0114】
第二実施形態では、上述の第一実施形態に対し、第1の被接合部21の構成が次のように変更されている。すなわち、第1の被接合部21は、膨出部23を有する。膨出部23は、第1の板材20の平坦部24に対して第一板面21A側に膨出する。膨出部23の頂部には、貫通穴22が形成されている。膨出部23は、電極40と干渉しない程度の内径を有している。膨出部23は、例えば、プレス成形により作製できる。
【0115】
第二実施形態に係る継手の製造方法では、上記第一実施形態と同様に、第一工程で締結部材10の軸部12を貫通穴22に通し、第二工程で一対の電極40によって締結部材10を通電加熱しながら加圧する。
【0116】
ただし、第二実施形態に係る継手の製造方法では、第二工程において、一対の電極40で締結部材10を通電加熱しながら加圧する。これにより、膨出部23の頂部に対する軸部12の先端の突出高さh2が、第二板面21Bにおいて膨出部23の頂部と平坦部24との間に形成された段差の高さh1よりも低くなるように、軸部12の先端を潰す。すなわち、第二工程において、一対の電極40で締結部材10を通電加熱しながら加圧することによって、軸部12が膨出部23内に収まるように、軸部12の先端を潰す。これにより、軸部12の先端が、平坦部24よりも突出することが抑制される。
【0117】
図5A、及び
図5Bは、第二実施形態に係る板材接合方法を説明する図である。
図5Aは、板材接合方法の第一工程を説明する図である。
図5Bは、板材接合方法の第二工程を説明する図である。
【0118】
第2の被接合部51は、一例として、平坦に形成されている。そして、第二実施形態に係る板材接合方法では、上記第一実施形態と同様に、第2の被接合部51側からボルト60の雄ネジ部63を貫通穴52に通す。そして、ボルト60の雄ネジ部63を締結部材10のネジ穴13にねじ込むことにより、第1の被接合部21及び第2の被接合部51を接合する。
【0119】
第二実施形態によれば、膨出部23の頂部に対する軸部12の先端の突出高さh2が、第二板面21Bにおいて膨出部23の頂部と平坦部24との間に形成された段差の高さh1よりも低い。そのため、軸部12の先端が、平坦部24よりも突出することが抑制される。したがって、軸部12の先端が第2の被接合部51に干渉することが抑制されるので、第2の被接合部51を平坦な形状にすることができる。これにより、第2の被接合部51を含む第2の板材50の形状の自由度を向上させることができる。
【0120】
[第三実施形態]
次に、第三実施形態について説明する。
【0121】
図6A、及び
図6Bは、第三実施形態に係る締結部材10を示す図である。
図6Aは、締結部材10の正面図である。
図6Bは、締結部材10の縦断面図である。
【0122】
第三実施形態では、上述の第一実施形態に対し、締結部材10の構成が次のように変更されている。すなわち、軸部12は、外周面にネジ山を有する雄ネジとされている。なお、軸部12の外周面に形成されたネジ山以外の構成は、上述の第一実施形態と同様である。
【0123】
図7A、及び
図7Bは、第三実施形態に係る継手の製造方法を説明する図である。
図7Aは、継手の製造方法の第一工程を説明する図である。
図7Bは、継手の製造方法の第二工程を説明する図である。
【0124】
第三実施形態では、上述の第一実施形態に対し、第1の被接合部21の構成が次のように変更されている。すなわち、第1の被接合部21に形成された貫通穴22は、内周面にネジ溝を有するネジ穴とされている。なお、貫通穴22の内周面に形成されたネジ穴以外の構成は、上述の第一実施形態と同様である。
【0125】
第三実施形態に係る継手の製造方法では、第一工程において、雄ネジである軸部12をネジ穴である貫通穴22にねじ込む。このとき、フランジ11が第一板面21Aにおける貫通穴22の周囲部に当接すると共に、軸部12の先端が第1の被接合部21の第二板面21Bから突出するまで、雄ネジである軸部12をネジ穴である貫通穴22にねじ込む。
【0126】
次いで、第二工程において、一対の電極40によって締結部材10を通電加熱しながら加圧する。このとき、軸部12の先端に、第二板面21Bにおける貫通穴22の周囲部に圧着するかしめ部15を形成することは、第一実施形態と同様である。これにより、フランジ11及びかしめ部15によって、第1の被接合部21を挟んだ状態で、第1の被接合部21に締結部材10が固定される。
【0127】
図8A、及び
図8Bは、第三実施形態に係る板材接合方法を説明する図である。
図8Aは、板材接合方法の第一工程を説明する図である。
図8Bは、板材接合方法の第二工程を説明する図である。
【0128】
第三実施形態に係る板材接合方法では、上記第一実施形態と同様に、第2の被接合部51側からボルト60の雄ネジ部63を貫通穴52に通す。そして、雄ネジ部63を締結部材10のネジ穴13にねじ込むことにより、第1の被接合部21及び第2の被接合部51を接合する。
【0129】
第三実施形態によれば、軸部12は、雄ネジとされている。また、貫通穴22は、ネジ穴とされている。雄ネジである軸部12は、ネジ穴である貫通穴22にねじ込まれている。また、締結部材10は、軸部12の先端にかしめ部15が形成された状態では、第1の被接合部21が、当該第1の被接合部21の板厚方向の両側からフランジ11及びかしめ部15によって挟まれた状態になる。したがって、締結部材10が、第1の被接合部21に対して回転することが抑制される。
【0130】
つまり、締結部材10に回転力が作用した場合には、雄ネジである軸部12とネジ穴である貫通穴22とのネジ構造によって、締結部材10に作用した回転力が締結部材10の軸力に変換される。しかし、フランジ11及びかしめ部15によって、第1の被接合部21を挟み込むことにより、締結部材10の軸方向の移動が拘束される。このようにフランジ11及びかしめ部15によって締結部材10の軸方向の移動を拘束すると、締結部材10の回転も拘束される。これにより、締結部材10が第1の被接合部21に対して回転することが抑制される。
【0131】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態について説明する。
【0132】
図9は、第四実施形態に係る接合継手30の分解斜視図である。第四実施形態では、上述の第一実施形態に対し、締結部材10及び第1の被接合部21の構成が次のように変更されている。
【0133】
すなわち、軸部12は、多角筒とされている。また、貫通穴22は、多角穴とされている。軸部12の外周形状及び貫通穴22の内周形状は、一例として、正六角形とされているが、正六角形以外の多角形状でもよい。また、軸部12と貫通穴22とで多角形状が異なっていてもよい。軸部12は、貫通穴22に係合される。つまり、軸部12は、軸周りに回転不能に貫通穴22に固定される。
【0134】
第四実施形態において、上記以外の構成は、第一実施形態と同様である。また、第四実施形態において、継手の製造方法及び板材接合方法は、第一実施形態と同様である。
【0135】
第四実施形態では、多角筒である軸部12が、多角穴である貫通穴22に係合されることにより、締結部材10が第1の被接合部21に対して回転することを防止することができる。
【0136】
なお、貫通穴22は、八角形以下が望ましい。貫通穴22の角の数が増えるに従って貫通穴22が円形に近づき、締結部材10の回転抑制効果が減少するためである。
【0137】
また、第四実施形態では、多角筒である軸部12が、多角穴である貫通穴22に通される。しかし、例えば、円筒である軸部12を、多角穴である貫通穴22に通してもよい。この場合、一対の電極40によって、軸部12の先端を潰してかしめ部15を形成する際に、貫通穴22内において軸部12が拡径し、貫通穴22の内周面に係合される。これにより、締結部材10が第1の板材20に対して回転することを防止することができる。
【0138】
[第五実施形態]
次に、本発明の第五実施形態について説明する。
【0139】
図10A、及び
図10Bは、第五実施形態に係る継手の製造方法を説明する図である。
図10Aは、継手の製造方法の第一工程を説明する図である。
図10Bは、継手の製造方法の第二工程を説明する図である。
【0140】
第五実施形態では、複数枚の第1の板材20が重ねられている。また、複数枚の第1の板材20の各々に、第1の被接合部21が形成されている。そして、重ね合わされた複数枚の第1の被接合部21に締結部材10を固定することにより、複数枚の第1の被接合部21と締結部材10とを備える接合継手30が製造される。
【0141】
なお、複数枚の第1の板材20のうち少なくとも1枚は、引張強さが780MPa以上の鋼板であり、好ましくは、引張強さが980MPa以上の鋼板である。また、その鋼板の板厚は、例えば、0.5mm~4.0mmである。なお、複数枚の第1の板材20のうち少なくとも1枚は、表面処理鋼板でもよい。
【0142】
第五実施形態のように、重ね合わされた複数枚の第1の被接合部21に締結部材10を固定する場合でも、第一実施形態と同様の作用及び効果を奏することができる。
【0143】
以上、第一実施形態~第五実施形態について説明した。しかし、本願が開示する技術は、上記第一実施形態~第五実施形態に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0144】
また、上記第一実施形態~第五実施形態のうち、組み合わせ可能な実施形態は、適宜組み合わされてもよい。
【0145】
また、2020年7月3日に出願された日本国特許出願2020-115833号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【0146】
なお、以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0147】
(付記1)
板材に形成された接合部にナットを固定して、前記接合部及び前記ナットを備える接合継手を得る接合継手の製造方法において、
前記ナットは、ネジ穴を有する雌ネジ部と、前記ネジ穴と同軸に形成された貫通穴を有し、前記雌ネジ部の軸方向一方側の端部から突出する軸部とを備え、前記雌ネジ部の外径は、前記軸部の外径より大きく、前記雌ネジ部の肉厚は、前記軸部の肉厚より厚く、
前記ナットを前記接合部に固定する工程として、
前記軸部を前記接合部に形成された通し穴に挿通して、前記雌ネジ部を前記接合部の第一板面に当接させると共に、前記軸部の先端部を前記接合部の第二板面から突出させる第一工程と、
前記ナットの軸方向両側から前記ナットを一対の加熱加圧部材で挟んだ状態で、前記一対の加熱加圧部材によって前記ナットを加熱しながら加圧することにより前記軸部の先端部をかしめて、前記軸部の先端部に前記第二板面における前記通し穴の周囲部に係止するかしめ部を形成する第二工程と、
を備える接合継手の製造方法。
(付記2)
前記通し穴は、ネジ穴であり、
前記軸部は、雄ネジであり、
前記第一工程において、前記軸部を前記通し穴に螺入する、
付記1に記載の接合継手の製造方法。
(付記3)
前記通し穴は、多角穴であり、
前記軸部は、多角筒であり、
前記第一工程において、前記軸部を前記通し穴に係合する、
付記1に記載の接合継手の製造方法。
(付記4)
前記接合部は、前記板材に形成された平坦部に対して前記第一板面の側に膨出し、頂部に前記通し穴が形成された膨出部を有する、
付記1~付記3のいずれか一つに記載の接合継手の製造方法。
(付記5)
前記第二工程において、前記一対の加熱加圧部材で前記ナットを加熱しながら加圧することによって、前記膨出部の頂部に対する前記軸部の先端部の突出高さが、前記膨出部の頂部と前記平坦部との間で前記第二板面に形成された段差の高さよりも低くなるように、前記軸部の先端部をかしめる、
付記4に記載の接合継手の製造方法。
(付記6)
前記ナットは、金属製であり、
前記板材は、引張強さが780MPa以上の鋼板であり、
前記加熱加圧部材は、電極である、
付記1~付記5のいずれか一つに記載の接合継手の製造方法。
(付記7)
付記1~付記6のいずれか一つに記載の接合継手の製造方法によって製造された前記接合継手における前記接合部としての第一接合部に、前記板材としての第一板材とは別の第二板材に形成された第二接合部を重ね合わせ、
前記第二接合部に形成された挿通穴にボルトのネジ部を挿通すると共に、前記ネジ部を前記ナットの前記ネジ穴に螺入して、前記第一接合部及び前記第二接合部を接合する、
ことを含む板材接合方法。
(付記8)
板材に形成された接合部と、前記接合部に接合されたナットとを備える接合継手において、
前記ナットは、ネジ穴を有する雌ネジ部と、前記ネジ穴と同軸に形成された貫通穴を有し、前記雌ネジ部の軸方向一方側の端部から突出する軸部とを備え、前記雌ネジ部の外径は、前記軸部の外径より大きく、前記雌ネジ部の肉厚は、前記軸部の肉厚より厚く、
前記軸部は、前記接合部に形成された通し穴に挿通され、
前記雌ネジ部は、前記接合部の第一板面に当接し、
前記軸部の先端部は、前記接合部の第二板面から突出し、
前記軸部の先端部には、前記第二板面における前記通し穴の周囲部に係止されたかしめ部が形成されている、
接合継手。
(付記9)
前記通し穴は、ネジ穴であり、
前記軸部は、雄ネジであり、前記通し穴に螺入されている、
付記8に記載の接合継手。
(付記10)
前記通し穴は、多角穴であり、
前記軸部は、多角筒であり、前記通し穴に係合されている、
付記8に記載の接合継手。
(付記11)
前記接合部は、前記板材に形成された平坦部に対して前記第一板面の側に膨出し、頂部に前記通し穴が形成された膨出部を有する、
付記8~付記10のいずれか一つに記載の接合継手。
(付記12)
前記膨出部の頂部に対する前記軸部の先端部の突出高さが、前記膨出部の頂部と前記平坦部との間で前記第二板面に形成された段差の高さよりも低い、
付記10に記載の接合継手。
(付記13)
前記ナットは、金属製であり、
前記板材は、引張強さが780MPa以上の鋼板である、
付記8~付記12のいずれか一つに記載の接合継手。
(付記14)
付記8~付記13のいずれか一つに記載の接合継手を備える自動車部品。
(付記15)
付記8~付記13のいずれか一つに記載の接合継手と、
前記板材としての第一板材とは別の第二板材に形成され、前記接合部としての第一接合部に重ね合わされた第二接合部と、
前記第二接合部に形成された挿通穴にネジ部が挿通されると共に、前記ネジ部が前記ナットの前記ネジ穴に螺入され、前記第一接合部及び前記第二接合部を接合するボルトと、
を備える板材接合構造。
(付記16)
付記15に記載の板材接合構造を備える自動車部品。
(付記17)
ネジ穴を有する雌ネジ部と、
前記ネジ穴と同軸に形成された貫通穴を有し、前記雌ネジ部の軸方向一方側の端部から突出する軸部と、
を備え、
前記雌ネジ部の外径は、前記軸部の外径より大きく、前記雌ネジ部の肉厚は、前記軸部の肉厚より厚い、
ナット。
(付記18)
前記軸部は、雄ネジである、
付記17に記載のナット。
(付記19)
前記軸部は、多角筒である、
付記17に記載のナット。