(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】ホットスタンプ部品
(51)【国際特許分類】
C23C 2/12 20060101AFI20230817BHJP
C23C 2/28 20060101ALI20230817BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230817BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20230817BHJP
C21D 1/18 20060101ALN20230817BHJP
C21D 9/00 20060101ALN20230817BHJP
【FI】
C23C2/12
C23C2/28
C22C38/00 301T
C22C38/00 301Z
C21D9/46 J
C21D1/18 C
C21D9/00 A
(21)【出願番号】P 2022544029
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2021030679
(87)【国際公開番号】W WO2022039275
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2020139257
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優貴
(72)【発明者】
【氏名】楠見 和久
(72)【発明者】
【氏名】江口 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 宗士
(72)【発明者】
【氏名】布田 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】田畑 進一郎
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/128225(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/137687(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/162513(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00
C21D 9/46
C22C21/00
C22C21/02
C22C21/06
C22C21/10
C22C38/00
C22C38/60
C21D 1/18
C23C 2/12
C23C 2/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材鋼板と、
前記母材鋼板上に形成されたAl-Fe合金めっき層と、
前記Al-Fe合金めっき層上に形成された、Al酸化物とMg及びCaの1種または2種の酸化物とからなり厚みが0.05μm以上3.0μmである、酸化物層と、
を有するホットスタンプ部品であって、
前記Al-Fe合金めっき層は、
厚みが10.0μm以上であり、
質量%で、30%以上のAlと、
耐食性向上元素であるW,Mo,Sb,Sn,Cr,Co,Cu,Ni,Ta,Ca,Mg,Sr,Se,Re,Hfからなる群から選択される1種または2種以上と、
を含有し、
前記Al-Fe合金めっき層の表面から前記ホットスタンプ部品の板厚中心部方向へ8.0μmまでの範囲において、最大濃度が前記耐食性向上元素のうち最大となる元素をB1元素、前記B1元素の前記最大濃度をC
maxとし、前記ホットスタンプ部品の板厚をt、前記ホットスタンプ部品の表面から前記板厚中心部方向へt/4の位置をt
Qとし、前記t
Qの位置における前記B1元素の濃度をC
Qとした場合に、C
max/C
Qが0.05以上30.00以下であ
り、
前記Al-Fe合金めっき層の表面から前記板厚中心部方向へ2.0μmの位置における前記B1元素の濃度をC
2
とし、前記表面から前記板厚中心部方向へ8.0μmの位置における前記B1元素の濃度をC
8
とすると、C
2
/C
8
が1.1以上4.0以下である、
ことを特徴とする、ホットスタンプ部品。
【請求項2】
前記Al-Fe合金めっき層が1種または2種以上の金属間化合物で構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のホットスタンプ部品。
【請求項3】
前記母材鋼板が、質量%で、
C :0.03~0.60%、
Si:0.005~2.00%、
Mn:0.10~3.00%、
P :0.001~0.100%、
S :0.0001~0.100%、
Al:0.010~0.500%、及び、
N :0.001~0.010%、並びに、
W :0.01~3.00%、
Mo:0.005~2.00%
Sb:0.005~0.30%、
Sn:0.005~0.50%、
Cr:0.005~2.00%、
Co:0.01~2.00%、
Cu:0.01~2.00%、
Ni:0.01~2.00%、
Ta:0.0001~0.300%、
Ca:0.0001~0.300%、
Mg:0.0001~0.300%、
Sr:0.0001~0.300%、
Se:0.0001~0.300%、
Re:0.0001~0.300%、及び
Hf:0.0001~0.300%、からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、
残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のホットスタンプ部品。
【請求項4】
前記母材鋼板の前記化学組成が、更に、質量%で、
B:0.0002~0.0100%、
V:0.005~0.500%、
Ti:0.005~0.500%、
Nb:0.010~0.500%、
Zr:0.005~0.500%、
O :0.0001~0.0070%、及び
REM:0.0001~0.3000%、
からなる群から選択される1種または2種以上を含有する
ことを特徴とする、請求項3に記載のホットスタンプ部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットスタンプ部品に関する。
本願は、2020年08月20日に、日本に出願された特願2020-139257号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護及び地球温暖化の防止のために、化学燃料の消費を抑制する要請が高まっており、この要請は、様々な製造業に対して影響を与えている。例えば、移動手段として日々の生活や活動に欠かせない自動車についても例外ではなく、車体の軽量化などによる燃費の向上等が求められている。しかしながら、自動車では単に車体の軽量化を行うことは安全性の低下につながる可能性があるので、製品品質上許されない。そのため、車体の軽量化を行う場合には、適切な安全性を確保する必要がある。
【0003】
自動車の構造の多くは、鉄、特に鋼板により形成されており、鋼板の重量を低減することが、車体の軽量化にとって重要である。また、このような鋼板に対する要請は、自動車製造業のみならず、様々な製造業でも同様になされている。このような要請に対し、単に鋼板の重量を低減するのであれば、鋼板の板厚を薄くすることが考えられる。しかしながら、鋼板の板厚を薄くすることは、構造物の強度の低下につながるので好ましくない。そのため、近年、鋼板の機械的強度を高めることにより、それ以前に使用されていた鋼板より薄くしても鋼板によって構成される構造物の機械的強度を維持又は高めることが可能な鋼板について、研究開発が行われている。
【0004】
一般的に、高い機械的強度を有する鋼板は、曲げ加工等の成形加工において、形状凍結性が低下する傾向にある。そのため、複雑な形状に加工する場合、加工そのものが困難となる。この成形性についての問題を解決する手段の一つとして、いわゆる「ホットスタンプ法(熱間プレス法、ホットプレス法、高温プレス法、ダイクエンチ法ともいう場合がある)」が挙げられる。このホットスタンプ法では、成形対象である材料を高温に加熱し、加熱により軟化した鋼板に対してプレス加工を行って成形し、成形と同時または成形後に冷却する。このホットスタンプ法によれば、材料を一旦高温に加熱して軟化させるので、その材料を容易にプレス加工することができる。更に、成形時または成形後の冷却による焼入れ効果により、材料の機械的強度を高めることができる。従って、このホットスタンプ法により、良好な形状凍結性と高い機械的強度とを有した成形品が得られる。
【0005】
しかしながら、このホットスタンプ法を鋼板に適用した場合、耐食性(例えば塗装後耐食性)を必要とする部材等では、加工後に部材表面へ防錆処理や金属被覆をする必要がある。そのため、部材への表面清浄化工程、表面処理工程などが必要となり、生産性が低下する。
【0006】
このような課題に対し、特許文献1には、鋼の表面に、Alを主体としMgとSiとを含有するAl系金属被覆を有する、ホットプレス用アルミ系めっき鋼板が記載されている。
特許文献2には、ホットスタンプ用鋼板の表面の組成が規定されており、鋼の表面のAl-Fe合金層表面のAlN量が0.01~1g/m2であることが記載されている。
特許文献3には、鋼板の表面に、Al-Fe金属間化合物層を有し、更にその表面に酸化膜を有し、鋼板とAl-Fe金属間化合物層との間にAlを有するbcc層がある自動車部材が記載され、ホットスタンプ後のAl-Fe合金層表面の酸化膜厚みが記載されている。この特許文献3では、酸化膜が所定の厚みとなるようアルミめっき鋼板を加熱することにより、表層までAl-Fe合金層を形成させ、かつ、電着塗装後の塗膜欠陥や密着性低下を抑制して、塗装後耐食性を確保することが記載されている。
【0007】
しかしながら、近年、塗装後耐食性に対して要求される水準がより高度になっており、特許文献1に記載のホットプレス用アルミ系めっき鋼板では、そのような高い要求に対しては、塗装後耐食性が必ずしも十分ではない。また、特許文献1に記載のホットプレス用アルミ系めっき鋼板では、最表面の組成や構造に関して規定されておらず、最表面の組成や構造と塗装後耐食性との関係が明らかになっていない。
特許文献2では、Al-Fe合金層の表面のAlN量を所定の範囲とすることで、塗装後耐食性にある程度の改善がみられるが、更なる改善の余地がある。
また、特許文献3に記載のように、Al-Fe合金層の構造や厚みを制御したとしても、近年要求される高い水準に対して塗装後耐食性が必ずしも十分ではない。この原因は、酸化膜と化成処理剤との反応性低下による化成処理剤付着量の減少などである可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特開2003-034845号公報
【文献】日本国特開2011-137210号公報
【文献】日本国特開2009-293078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、従来の技術では、ホットスタンプ部品の塗装後耐食性を十分に確保できないという課題があった。本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、めっき密着性及び塗装後耐食性に優れるホットスタンプ部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、加工後に部材表面へ防錆処理や金属被覆を行わない製造方法を前提として、ホットスタンプ部品の塗装後耐食性を向上させる方法について検討を行った。その結果、ホットスタンプに供するアルミめっき鋼板の母材に耐食性向上元素を含有させ、この耐食性向上元素を、ホットスタンプの加熱によって形成されるAl-Fe合金めっき層に所定の濃度分布を有するように拡散させることで、塩水等の腐食因子に対してAl-Fe合金めっき層が従来よりも溶解しにくくなったり、Al-Fe合金めっき層が一部溶解した後に強固で緻密な腐食生成物がAl-Fe合金めっき層の表面に生成したりすること、また、その結果として、塗装後耐食性に優れるホットスタンプ部品を製造することが可能となることを見出した。
また、耐食性向上元素をAl-Fe合金めっき層中で所定の濃度分布となるように制御するためには、母材を製造する熱延工程およびホットスタンプ工程における製造条件を適切に制御することによって、めっき完了時までに冷延鋼板表面に特定の元素を濃化させ、その状態でホットスタンプを行うことが重要であることを知見した。
【0011】
上記知見に基づいてなされた本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係るホットスタンプ部品は、母材鋼板と、前記母材鋼板上に形成されたAl-Fe合金めっき層と、前記Al-Fe合金めっき層上に形成された、Al酸化物とMg及びCaの1種または2種の酸化物とからなり厚みが0.05μm以上3.0μmである、酸化物層と、を有するホットスタンプ部品であって、前記Al-Fe合金めっき層は、厚みが10.0μm以上であり、質量%で、30%以上のAlと、耐食性向上元素であるW,Mo,Sb,Sn,Cr,Co,Cu,Ni,Ta,Ca,Mg,Sr,Se,Re,Hfからなる群から選択される1種または2種以上と、を含有し、前記Al-Fe合金めっき層の表面から前記ホットスタンプ部品の板厚中心部方向へ8.0μmまでの範囲において、最大濃度が前記耐食性向上元素のうち最大となる元素をB1元素、前記B1元素の前記最大濃度をCmaxとし、前記ホットスタンプ部品の板厚をt、前記ホットスタンプ部品の表面から前記板厚中心部方向へt/4の位置をtQとし、前記tQの位置における前記B1元素の濃度をCQとした場合に、Cmax/CQが0.05以上30.00以下であり、
前記Al-Fe合金めっき層の表面から前記板厚中心部方向へ2.0μmの位置における前記B1元素の濃度をC
2
とし、前記表面から前記板厚中心部方向へ8.0μmの位置における前記B1元素の濃度をC
8
とすると、C
2
/C
8
が1.1以上4.0以下である。
(2)上記(1)に記載のホットスタンプ部品は、前記Al-Fe合金めっき層が1種または2種以上の金属間化合物で構成されていてもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載のホットスタンプ部品は、前記母材鋼板が、質量%で、C :0.03~0.60%、Si:0.005~2.00%、Mn:0.10~3.00%、P :0.001~0.100%、S :0.0001~0.100%、Al:0.010~0.500%、及び、N :0.001~0.010%、並びに、W :0.01~3.00%、Mo:0.005~2.00%Sb:0.005~0.30%、Sn:0.005~0.50%、Cr:0.005~2.00%、Co:0.01~2.00%、Cu:0.01~2.00%、Ni:0.01~2.00%、Ta:0.0001~0.300%、Ca:0.0001~0.300%、Mg:0.0001~0.300%、Sr:0.0001~0.300%、Se:0.0001~0.300%、Re:0.0001~0.300%、及びHf:0.0001~0.300%、からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有してもよい。
(4)上記(3)に記載のホットスタンプ部品は、前記母材鋼板の前記化学組成が、更に、質量%で、B:0.0002~0.0100%、V:0.005~0.500%、Ti:0.005~0.500%、Nb:0.010~0.500%、Zr:0.005~0.500%、O:0.0001~0.0070%、及びREM:0.0001~0.3000%、からなる群から選択される1種または2種以上を含有してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、長時間腐食環境に曝された場合であっても優れためっき密着性及び塗装後耐食性を有する、ホットスタンプ部品を提供することができる。
このホットスタンプ部品は、自動車用部品として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の一形態に係るホットスタンプ部品(本実施形態に係るホットスタンプ部品)について詳細に説明する。まず、本実施形態に係るホットスタンプ部品の限定理由について説明する。
以下に記載する「~」を挟んで記載される数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。ただし、「未満」または「超」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。
【0014】
<ホットスタンプ部品>
本実施形態に係るホットスタンプ部品は、母材鋼板と、母材鋼板上に形成されたAl-Fe合金めっき層と、を有する。
【0015】
(Al-Fe合金めっき層について)
本実施形態に係るホットスタンプ部品において最も重要なAl-Fe合金めっき層について、詳細に説明する。
本実施形態に係るホットスタンプ部品が有するAl-Fe合金めっき層の厚みは、10.0μm以上である。Al-Fe合金めっき層の厚みが10.0μm未満である場合には、塗装後耐食性が低下する。Al-Fe合金めっき層の厚みは、好ましくは15.0μm以上、より好ましくは20.0μm以上である。
一方、Al-Fe合金めっき層の厚みの上限は限定されるものではないが、厚みが60.0μmを超える場合には、めっき層が厚いためにホットスタンプ成形時にめっきが金型から受けるせん断力や圧縮変形時の応力が大きくなる。この場合、めっき層が剥離しやすくなり、塗装後耐食性が低下することが懸念される。そのため、Al-Fe合金めっき層の厚みは、60.0μm以下が好ましい。より好ましくは55.0μm以下、さらに好ましくは50.0μm以下である。
また、本実施形態に係るホットスタンプ部品のAl-Fe合金めっき層は、Alと、Feと、耐食性向上元素である「W,Mo,Sb,Sn,Cr,Co,Cu,Ni,Ta,Ca,Mg,Sr,Se,Re,Hf」(B群元素)から選択される1種または2種以上と、を含有する。さらに、Si、Mn、B等の元素を含有してもよい。Li、Znを含有してもよい。
また、Al-Fe合金めっき層におけるAl含有量は、30質量%以上である。Al含有量とFe含有量との合計は80質量%以上であることが好ましい。耐食性向上元素は、合計含有量(質量%)で、0.005~8.0%であることが好ましい。より好ましくは、0.005%超、8.0%以下であり、さらに好ましくは、0.010~8.0%である。
【0016】
本実施形態に係るホットスタンプ部品のAl-Fe合金めっき層は、1種または2種以上の金属間化合物を含むことが好ましく、実質的に1種または2種以上の金属間化合物と不可避的に含有される不純物とからなることがより好ましい。
具体的なAl-Fe合金めっき層を構成する金属間化合物としては、例えば、Fe2Al5、FeAl2、FeAl(規則BCCとも呼ばれる。)、α-Fe(不規則BCCとも呼ばれる。)、Al固溶α-Feや、これら組成にSiが固溶したもの、更には、詳細な化学量論組成は特定出来ない場合があるがAl-Fe-Siの3元合金組成等(12種類のτ1~τ12が特定されており、特にτ5は、α相とも呼ばれ、τ6は、β相とも呼ばれる。)を挙げることができる。
また、Al-Fe合金めっき層に含まれる不純物としては、例えば、溶融めっき時の溶融めっき設備として一般に使用されるステンレス、セラミック、及びこれら素材への溶射皮膜などの成分が挙げられる。
耐食性向上元素(B群元素)は、金属間化合物に固溶あるいは置換して存在する。
ホットスタンプ前に母材に含有されていた耐食性向上元素(B群元素)がホットスタンプ後にAl-Fe合金めっき層に含有される理由は必ずしも明らかではないが、上記合金めっき層の粒界を固相中拡散したり、あるいは液相を経由したりすることで、熱力学的安定性を求めてAl-Fe合金めっき層中あるいはAl-Fe合金めっき層の最表面まで拡散するものと推定される。本発明者らが検討を行った結果、母材に含有させる代わりにめっき浴に同程度のB群元素を添加しても、必ずしも本実施形態に係るホットスタンプ部品とB群元素の存在状態は同様にはならないことも分かった。
【0017】
Al-Fe合金めっき層が、上記の金属間化合物を含むことは、透過型電子顕微鏡(Field Emission-Transmission Electron Microscopy:FE-TEM)の制限視野電子線回折機能およびEDS機能を用いることで確認できる。具体的には、板厚方向に沿ったホットスタンプ部品の断面を、試料が100nm程度の厚さになるように加工した後、表面から板厚中心部方向へ8.0μmまでの範囲において、FE-TEMで測定した際に、上記化合物の回折像が検出された場合、その地点には該金属間化合物が有るものと判断できる。上記測定で結晶に由来する回折像が測定されなかった場合でも、同地点においてEDS機能を用いて解析することで、各元素の比率から化合物を特定することができる。また、上記の要領でランダムに5地点を測定し、いずれの地点にも金属間化合物が存在する場合、本実施形態では、Al-Fe合金めっき層が実質的に1種または2種以上の金属間化合物で構成されていると判断する。
【0018】
さらに、塗装後耐食性への影響が大きいAl-Fe合金めっき層の表面からホットスタンプ部品の板厚中心部方向へ8.0μmまでの範囲(厚み)において、Al-Fe合金めっき層中の耐食性向上元素(B群元素)のうち、最大濃度が最も大きくなる元素をB1元素とし、このB1元素の上記範囲における最大濃度をCmax(%)、ホットスタンプ部品の板厚をt、ホットスタンプ部品の表面から板厚中心部方向へt/4の位置をtQとして、tQの位置におけるB1元素(表面から8μmの範囲において最大濃度が最も大きい耐食性向上元素)の濃度(含有量)をCQ(%)とした場合、Cmax/CQを0.05以上30.00以下とすることで塗装後耐食性が向上する。
この理由は定かではないが、Al-Fe合金めっき層内において、耐食性向上元素(B群元素)のCmax/CQが0.05以上となる場合、耐食性向上元素(B群元素)が腐食に対して比較的安定となり、腐食環境におけるAl-Fe合金めっき層の溶解速度が低減されると推定される。さらには、Al-Fe合金めっき層から溶解した耐食性向上元素(B群元素)により、それ以上のAl-Fe合金めっき層の溶解を妨げる効果が得られる上、溶解した耐食性向上元素(B群元素)が、腐食環境中の水酸化物イオンや塩化物イオンと結合して生成する化合物である腐食生成物(錆)を安定化させるからであると考えられる。
一方で、Cmax/CQが30.00超の場合には、表面での化成処理液や電着塗膜用の処理液に対する反応性が低下することにより、腐食試験の過程で電着塗膜が剥離しやすくなって塗装後耐食性が低下する。
また、Cmax/CQを0.05以上とすることで、めっき密着性も向上する。理由は定かではないが、耐食性向上元素(B群元素)によりAl-Fe合金めっき層の電気的な偏りである極性が変化することで物理的・化学的結合が強固になり、剥離に対する耐性が向上するためと考えられる。
【0019】
B1元素となる耐食性向上元素(表面から板厚中心部方向へ8.0μmまでの範囲において、最大濃度が最も大きくなる元素)としては、塗装密着性(二次密着性)に優れるという理由で、W、Sn、Cuであることが好ましい。
【0020】
ホットスタンプ部品の耐食性向上元素(B群元素)のCmax及びCQは以下の方法により分析する。
ホットスタンプ部品の、端面(素材とした鋼板の幅方向及び圧延方向の端面)から50mm以上離れた任意の位置(この位置から採取できない場合は端部を避けた位置)から、表面に垂直な断面(板厚断面)が観察できるようにサンプルを切り出す。サンプルの大きさは、測定装置にもよるが、圧延方向に10mm程度観察できる大きさとする。
上記サンプルを樹脂に埋め込み、研磨した後に、板厚断面の層構造を、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて、表面(Al-Fe合金めっき層の表面)から板厚方向に向かって8.0μmにわたって直線状に、0.5μmおきに17か所(表面、表面から0.5μm、表面から1.0μm、...表面から8.0μm)で、Al濃度、Fe濃度、および各耐食性向上元素(B群元素)濃度を点分析で測定し、Al濃度(Al含有量)とFe濃度(Fe含有量)との合計が80%以上となった位置の中で、最大濃度が、上記耐食性向上元素(B群元素)のうちで最も大きくなる元素(B1元素)の、最大濃度をCmaxとする。また、上記17点における平均のAl濃度をAl-Fe合金めっき層中のAl濃度とする。
【0021】
また、CQは以下の方法で測定する。
上記サンプルを用いて、表面から板厚中心部方向へ向かって板厚tの1/4の位置(t/4の位置)tQにおいて、EPMAを用いて、B群元素(特にB1元素)の濃度を点分析で測定することにより求める。
【0022】
Al-Fe合金めっき層の厚みは、以下の方法で測定する。
めっき層の厚み方向が観察できるように試料を採取し、樹脂で埋込み、研磨した試料を、EPMAを用いてAl濃度およびFe濃度を点分析により、部品表面から板厚中心部へ向かって測定する。位置tQにおけるAl濃度の0.9倍から1.1倍の範囲内に最初になった板厚位置を鋼板とめっき層との界面と判断し、EPMAの二次電子像あるいは反射電子像において、この界面と部品表面との距離をAl-Fe合金めっき層の厚みとすればよい。
【0023】
ホットスタンプ部品としての耐食性を確保するため、Al-Fe合金めっき層は、面積率で、表面の90%以上を覆っている(被覆率が90%以上である)ことが好ましい。
【0024】
(酸化物層について)
本実施形態に係るホットスタンプ部品では、Al-Fe合金めっき層の表面に、更に、Al酸化物とMg及び/又はCaの酸化物とからなり、厚みが0.05μm以上3.0μmである酸化物層を有することが、塗装密着性(二次密着性)向上の点で好ましい。Al-Fe合金めっき層の表面に、Mg及び/又はCaの酸化物を含む酸化物層が形成されることで、化成皮膜の形成が促進されるので、塗装密着性が向上する。Mgの酸化物はMgとAlとの複合酸化物でもよく、Caの酸化物はCaとAlとの複合酸化物でもよい。
酸化物層の厚みが0.05μm未満である場合には、上記のような効果は得られず、酸化物層の厚みが3.00μmを超える場合には、酸化物層の密着性が低下して、後に形成される電着塗膜の剥離を招く場合があるので好ましくない。
ここで言う、Mg及び/又はCaの酸化物を含む酸化物層は、MgとCaとを合計で2質量%以上含有する層である。
【0025】
Mg及び/又はCaの酸化物からなる酸化物層の厚み及び組成の特定方法としては、前述したものと同様、めっきを断面研磨した後にエッチングを実施せずに、得られた断面をEPMAで観察し、表面と垂直に、線上に連続的に元素分析し、Mg及び/又はCaが合計で2質量%以上である領域の厚み(表面からの距離)から求める方法が挙げられる。
【0026】
本実施形態に係るホットスタンプ部品に関し、母材及びAl-Fe合金めっき層については、以上述べた通りであるが、ホットスタンプ部品は、自動車用部品として使用される際には、後に、溶接、化成処理、電着塗装等の各種の処理を経て、最終製品となる。
【0027】
(母材鋼板について)
本実施形態に係るホットスタンプ部品は、Al-Fe合金めっき層に大きな特徴があり、母材鋼板については必ずしも限定されない。しかしながら、母材鋼板は、化学組成が、質量%で、C:0.03~0.60%、Si:0.005~2.00%、Mn:0.10~3.00%、P:0.001~0.100%、S:0.0001~0.100%、Al:0.010~0.50%、N:0.001~0.010%以下、及び耐食性向上元素(B群元素:W,Mo,Sb,Sn,Cr,Co,Cu,Ni,Ta,Ca,Mg,Sr,Se,Re,Hf)の1種または2種以上、を含有し、残部がFe及び不純物からなることが好ましい。
【0028】
以下、ホットスタンプ部品の母材鋼板の各元素の好ましい範囲及びその理由について詳細に説明する。化学組成についての%は全て質量%を示す。
【0029】
C:0.03~0.60%
Cは、ホットスタンプ後のホットスタンプ用鋼板(ホットスタンプ部品)の強度に大きく影響する元素である。C含有量が低いと、ホットスタンプ部品の強度が低くなり、衝突時のエネルギー吸収量が小さくなる。そのため、C含有量は0.03%以上とすることが好ましい。C含有量は、より好ましくは、0.04%以上である。
一方、C含有量が高いと、ホットスタンプ部品の強度が高くなりすぎて、衝突時の変形時に割れが生じる場合がある。そのため、C含有量は0.60%以下とすることが好ましい。C含有量は、より好ましくは、0.40%以下、0.35%以下である。
【0030】
Si:0.005~2.00%
Siは、固溶強化型の合金元素であり、ホットスタンプ部品の強度を確保するために必要な元素である。Si含有量が著しく低い場合には、この効果を得ることができないので、Si含有量は0.005%以上とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは、0.01%以上、0.02%以上である。
一方、Si含有量が2.00%を超えると、表面スケールの問題が生じる。すなわち、熱間圧延時に生成するスケールを酸洗した後に、表面凹凸に起因した模様が発生して、表面外観が劣位となる。また、鋼板表面にめっき処理を行う場合は、Si含有量が高いとめっき性が劣化する。そのため、Si含有量は2.00%以下とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは、1.50%以下、1.00%以下、0.60%以下である。
【0031】
Mn:0.10~3.00%
Mnは、鋼の焼入れ性を向上させ、ホットスタンプ部品の強度を向上させる元素である。Mn含有量が0.10%未満では、ホットスタンプ部品において十分な強度を得ることができない。そのため、Mn含有量は0.10%以上とすることが好ましい。Mn含有量は、より好ましくは、0.20%以上、0.40%以上、0.70%以上、1.00%以上である。
一方、Mn含有量が3.00%を超えても上記効果が飽和する。そのため、Mn含有量は3.00%以下とすることが好ましい。Mn含有量は、より好ましくは、2.80%以下、2.60%以下である。
【0032】
P:0.001~0.100%
Pは、固溶強化型の合金元素であり、ホットスタンプ部品の強度を向上させるために有用な元素である。そのため、P含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
一方、P含有量が0.100%を超えると、溶接割れ性および靱性に悪影響を及ぼす。そのため、P含有量は0.100%以下とすることが好ましい。P含有量は、より好ましくは、0.020%以下である。
【0033】
S:0.0001~0.100%
Sは、鋼中の非金属介在物に影響してホットスタンプ用鋼板の延性を劣化させる元素である。そのため、S含有量は0.100%以下に制限することが好ましい。S含有量は、より好ましくは、0.080%以下、0.050%以下、0.008%以下、0.005%以下である。
一方、S含有量を過度に低減すると脱硫工程の製造コストが増加する。そのため、S含有量は0.0001%以上とすることが好ましく、0.001%以上とすることがより好ましい。
【0034】
Al:0.010~0.500%
Alは、溶鋼の脱酸材として使われる元素である。溶鋼を十分に脱酸させるために、Al含有量は0.010%以上とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは、0.020%以上、0.030%以上である。
一方、Al含有量が0.500%を超えると、非金属介在物が多く形成され、製品に表面疵が発生しやすくなる。そのため、Al含有量は0.500%以下とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは、0.100%以下、0.060%以下である。
【0035】
N:0.001~0.010%
Nは不純物として鋼中に含有される元素であり、N含有量が0.010%を超えると窒化物の粗大化により、ホットスタンプ用鋼板の延性が劣化する場合がある。そのため、N含有量は0.010%以下に制限することが好ましい。N含有量は、より好ましくは、0.008%以下、0.006%以下である。
一方、N含有量を過度に低減すると製鋼工程の製造コストが増加する。そのため、N含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
【0036】
耐食性向上元素(B群元素)
以下、耐食性向上元素(B群元素)であるW,Mo,Sb,Sn,Cr,Co,Cu,Ni,Ta,Ca,Mg,Sr,Se,Re,Hfについて詳細に説明する。耐食性向上元素(B群元素)は、1種または2種以上を下記に示す範囲で含むことが好ましいが、B群元素の含有量の合計は10.00%以下とすることが好ましい。B群元素の含有量の合計が10.00%超の場合、合金コストが増加するため経済的に不利である。B群元素は、1種以上が以下に示す範囲で含有されていれば、それ以外の元素は0%または以下に示す下限未満の含有量でもよい。
【0037】
W:0.01~3.00%
Wはホットスタンプ部品の耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るために、W含有量は0.01%以上とすることが好ましい。W含有量は、より好ましくは、0.015%以上、0.03%以上、0.045%以上、0.06%以上である。
一方、W含有量が3.00%を超えると鋳造性が低下する場合がある。そのため、W含有量は3.00%以下とすることが好ましい。W含有量は、より好ましくは、2.00%以下、1.50%以下である。
【0038】
Mo:0.005~2.00%
Moは鋼の耐食性、焼入れ性を向上させる元素であり、また、ホットスタンプ部品の強度を向上させる効果を有する元素である。この効果を確実に発揮させるためには、Mo含有量を0.005%以上とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.01%以上である。
一方、Mo含有量が2.00%を超えると、熱間圧延後、冷間圧延後または焼鈍後(めっき処理後も含む)に存在する炭化物が安定化し、ホットスタンプ時の加熱での炭化物の溶解が遅れて焼入れ性が低下する場合がある。そのため、Mo含有量は2.00%以下とすることが好ましい。
【0039】
Sb:0.005~0.30%
Sbはホットスタンプ部品の耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るために、Sb含有量は0.005%以上とすることが好ましい。Sb含有量は、より好ましくは、0.01%以上、0.03%以上、0.04%以上、0.06%以上である。
一方、Sb含有量が0.30%を超えても上記効果は飽和する。そのため、Sb含有量は0.30%以下とすることが好ましい。Sb含有量は、より好ましくは、0.22%以下である。
【0040】
Sn:0.005~0.50%
Snはホットスタンプ部品の耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るために、Sn含有量は0.005%以上とすることが好ましい。Sn含有量は、より好ましくは、0.01%以上、0.03%以上、0.04%以上、0.06%以上である。
一方、Sn含有量が0.50%を超えても上記効果は飽和する。そのため、Sn含有量は0.50%以下とすることが好ましい。Sn含有量は、より好ましくは、0.18%以下、0.16%以下である。
【0041】
Cr:0.005~2.00%
Crは鋼の焼入れ性及び耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を確実に発揮させるためには、Cr含有量を0.005%以上とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは、0.01%以上である。
一方、Cr含有量が2.00%を超えると、熱間圧延後、冷間圧延後または焼鈍後(めっき処理後も含む)に存在する炭化物が安定化し、ホットスタンプ時の加熱での炭化物の溶解が遅れて焼入れ性が低下する場合がある。そのためCr含有量は2.00%以下とすることが好ましい。
【0042】
Co:0.01~2.00%
Coはホットスタンプ部品の耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るために、Co含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Co含有量は、より好ましくは、0.02%以上、0.03%以上である。
一方、Co含有量が2.00%を超えても上記効果は飽和する。そのため、Co含有量は2.00%以下とすることが好ましい。Co含有量は、より好ましくは、1.80%以下、1.00%以下である。
【0043】
Cu:0.01~2.00%
Cuはホットスタンプ部品の耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るために、Cu含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Cu含有量は、好ましくは、0.02%以上、0.03%以上、0.05%以上、0.06%以上である。
一方、Cu含有量が2.00%を超えると鋳造性が低下する場合がある。そのため、Cu含有量は2.00%以下とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは、1.80%以下、1.00%以下である。
【0044】
Ni:0.01~2.00%
Niはホットスタンプ部品の耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るために、Ni含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Ni含有量は、より好ましくは、0.02%以上、0.03%以上、0.05%以上、0.06%以上である。
一方、Ni含有量が2.00%を超えると鋳造性が低下する場合がある。そのため、Ni含有量は2.00%以下とすることが好ましい。Ni含有量は、より好ましくは、1.80%以下、1.00%以下である。
【0045】
Ta:0.0001~0.300%
Taはホットスタンプ部品の耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るために、Ta含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。Ta含有量は、より好ましくは、0.001%以上、0.003%以上、0.004%以上、0.006%以上である。
一方、Ta含有量が0.300%を超えても上記効果は飽和する。そのため、Ta含有量は0.300%以下とすることが好ましい。Ta含有量は、より好ましくは、0.280%以下、0.260%以下である。
【0046】
Ca:0.0001~0.300%
Caはホットスタンプ部品の耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るために、Ca含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは、0.0005%以上、0.001%以上、0.002%以上である。
一方、Ca含有量が0.300%を超えても上記効果は飽和する。そのため、Ca含有量は0.300%以下とすることが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは、0.010%以下、0.005%以下である。
【0047】
Mg:0.0001~0.300%
Mgはホットスタンプ部品の耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るために、Mg含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。Mg含有量は、より好ましくは、0.0005%以上、0.001%以上、0.002%以上である。
一方、Mg含有量が0.300%を超えても上記効果は飽和する。そのため、Mg含有量は0.300%以下とすることが好ましい。Mg含有量は、より好ましくは、0.010%以下、0.005%以下である。
【0048】
Sr:0.0001~0.300%
Srはホットスタンプ部品の耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るために、Sr含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。Sr含有量は、より好ましくは、0.0005%以上、0.001%以上、0.002%以上である。
一方、Sr含有量が0.300%を超えても上記効果は飽和する。そのため、Sr含有量は0.300%以下とすることが好ましい。Sr含有量は、より好ましくは、0.010%以下、0.005%以下である。
【0049】
Se:0.0001~0.300%
Seはホットスタンプ部品の耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るために、Se含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。Se含有量は、より好ましくは、0.0005%以上、0.001%以上、0.002%以上である。
一方、Se含有量が0.300%を超えても上記効果は飽和する。そのため、Se含有量は0.300%以下とすることが好ましい。Se含有量は、より好ましくは、0.010%以下、0.005%以下である。
【0050】
Re:0.0001~0.300%
Reはホットスタンプ部品の耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るために、Re含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。Re含有量は、より好ましくは、0.0005%以上、0.001%以上、0.002%以上である。
一方、Re含有量が0.300%を超えても上記効果は飽和する。そのため、Re含有量は0.300%以下とすることが好ましい。Re含有量は、より好ましくは、0.010%以下、0.005%以下である。
【0051】
Hf:0.0001~0.300%
Hfはホットスタンプ部品の耐食性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るために、Hf含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。Hf含有量は、より好ましくは、0.0005%以上、0.001%以上、0.002%以上である。
一方、Hf含有量が0.300%を超えても上記効果は飽和する。そのため、Hf含有量は0.300%以下とすることが好ましい。Hf含有量は、より好ましくは、0.010%以下、0.005%以下である。
【0052】
[その他元素]
本実施形態に係るホットスタンプ部品の母材鋼板の化学組成の残部は、Fe及び不純物である。不純物としては、鋼原料もしくはスクラップから、及び/又は製鋼工程で混入し、本実施形態に係るホットスタンプ用鋼板の特性を阻害しない範囲で許容される元素が例示される。
【0053】
本実施形態に係るホットスタンプ部品の母材鋼板は、Feの一部に代えて、任意元素として、以下の元素を以下に示す範囲で含有してもよい。以下の任意元素は、含有されなくてもよいので、含有量の下限は0%である。また、含有量が下記の範囲の下限未満であっても特性等に悪影響を及ぼすものではない。
【0054】
B:0.0002~0.0100%
Bは、ホットスタンプのプレス成形中あるいはホットスタンプのプレス成形後の冷却での焼入れ性を向上させて、ホットスタンプ部品の強度を向上させる効果を有する元素である。そのため、必要に応じて含有させてもよい。この効果を確実に発揮させるためには、B含有量は0.0002%以上とすることが好ましい。
一方、B含有量が過剰になると、上記効果が飽和する上、熱間圧延時に割れが生じる場合がある。そのため、含有させる場合、B含有量は0.0100%以下とすることが好ましい。
【0055】
V:0.005~0.500%
Ti:0.005~0.500%
Nb:0.010~0.500%
Zr:0.005~0.500%
上述した元素の他にも、本実施形態に係るホットスタンプ部品の母材鋼板は、V、Ti、Nb及び/またはZrを含んでもよい。これらの元素は鋼中に炭窒化物を形成して、析出強化によりホットスタンプ部品の強度を向上させる効果を有する元素である。
この効果を得る場合、V:0.005%以上、Ti:0.005%以上、Nb:0.010%以上、及び/またはZr:0.005%以上を含有させることが好ましい。
一方、これらの元素のうち1種でもその含有量を0.500%超とした場合には、多量に炭窒化物が生成してホットスタンプ部品の母材鋼板の延性が低下する。そのため、含有させる場合、V、Ti、Nb、Zrの含有量はそれぞれ0.500%以下とすることが好ましい。
【0056】
O:0.0001~0.0070%
Oは、例えば鋼中に不純物として含有される元素である。Oは酸化物を形成し、耐食性を高める可能性がある一方、ホットスタンプ部品の特性劣化をもたらす可能性のある元素である。例えば、鋼板表面の近傍に存在する酸化物は、表面疵の原因となる。酸化物が切断面に存在すると、端面に切り欠き状の疵が形成され、ホットスタンプ部品の特性が劣化する。このため、O含有量は低い方が好ましい。特に、O含有量が0.0070%超で特性劣化が顕著となるため、O含有量は0.0070%以下とすることが好ましい。O含有量は0.0050%以下とすることがより好ましい。
一方、O含有量は、精錬限界上の経済的なコストから、0.0001%以上であることが好ましい。
【0057】
REM:0.0001~0.3000%
また、上述した元素の他にも、本実施形態に係るホットスタンプ部品の母材鋼板は、REMを含んでもよい。
REMは、Caと同様に鋼中の介在物を微細化し、焼入れ後の鋼部材の耐水素脆性を向上させる効果を有する元素である。上記の効果を得るためには、REM含有量を0.0001%以上とすることが好ましく、0.0002%以上、0.0200%以上とすることがより好ましい。
しかしながら、REM含有量が0.3000%を超えるとその効果は飽和する上、コストが増加する。したがって、含有させる場合のREM含有量は0.3000%以下とすることが好ましい。REM含有量は、0.2000%以下がより好ましい。
ここで、REMは、Sc、Y及びLa、Nd等のランタノイドの合計17元素を指し、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、例えばFe-Si-REM合金を使用して溶鋼に添加され、この合金には、例えば、La、Nd、Ce、Prが含まれる。
【0058】
上述したホットスタンプ部品の母材鋼板の化学組成は、一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用い、Oは不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて測定すればよい。ホットスタンプ用鋼板が表面にめっき層を備える場合は、機械研削により表面のめっき層を除去してから、化学組成の分析を行えばよい。
【0059】
本実施形態に係るホットスタンプ部品では、Al-Fe合金めっき層の表面から板厚中心部方向(厚み方向)へ2.0μmの位置におけるB1元素(耐食性向上元素)の濃度(質量%)をC2、表面から板厚中心部方向(厚み方向)へ8.0μmの位置におけるB1元素(耐食性向上元素)の濃度(質量%)をC8とすると、C2/C8は1.1以上4.0以下であることが好ましい。この場合、塗装密着性(二次密着性)が良好となるという効果が得られる。
C2/C8が1.1よりも小さい場合、Al-Fe合金めっき層の表面付近の電位が相対的に小さくなり過ぎるため、温水などへの浸漬時にめっき層が溶解しやすく、二次密着性の向上効果が十分に得られない。一方、C2/C8が4.0よりも大きい場合、Al-Fe合金めっき層の表面付近の電位が相対的に大きくなり過ぎることで不均一に溶解しやすくなり、同じく二次密着性の向上効果が十分に得られない。C2/C8は1.5以上、3.0以下とすることがより好ましい。
【0060】
本実施形態に係るホットスタンプ部品は、部品内で強度を変化させて自動車用に使用してもよい。強度を変化させる方法は、ホットスタンプ後に異なる強度となるように2枚以上の鋼板を溶接などでつなぎ合わせたテーラードブランクと呼ばれる鋼板を用いてもよい。溶接方法はレーザー溶接、シーム溶接、アーク溶接、プラズマ溶接など様々な方法が考えられるが、特に限定はされない。また、テーラードブランクを用いずに、本実施形態に係るホットスタンプ部品を製造してもよい。さらに、本実施形態に係るホットスタンプ部品は、2枚以上の鋼板をスポット溶接により接合して重ねたパッチワークブランクをホットスタンプして得ることもできる。
【0061】
<ホットスタンプ部品の製造方法>
以下に説明される製造条件を満たす製造方法によれば、本実施形態に係るホットスタンプ部品を好適に製造することができる。ただし当然ながら、本実施形態に係るホットスタンプ部品は特に製造方法に限定されない。すなわち、上述した構成を有するホットスタンプ部品は、その製造条件に関わらず、本実施形態に係るホットスタンプ部品とみなされる。
【0062】
本実施形態に係るホットスタンプ部品の製造方法は、
(I)鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を得る工程(熱間圧延工程)と、
(II)熱延鋼板を巻き取る工程(巻取り工程)と、
(III)熱延鋼板を酸洗する工程と(酸洗工程)と、
(IV)熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る工程(冷間圧延工程)と、
(V)冷延鋼板に連続的に焼鈍及び溶融アルミめっき処理をする工程(焼鈍工程及び溶融めっき処理工程)と、
(VI)溶融アルミめっき処理した鋼板を加熱および成形するホットスタンプ工程と、
を備える。
以下、各工程の好ましい条件について説明する。以下説明しない条件については、公知の条件を採用することができる。
【0063】
(製鋼工程、鋳造工程、熱間圧延工程)
熱間圧延に先立ち、先に説明した母材鋼板の化学組成を満足するように、製鋼工程で鋼の化学成分を調整した後、この鋼を鋳造工程で連続鋳造にて鋼スラブとする。
得られた鋼スラブを、例えば、1300℃以下(例えば、1000~1300℃)の温度に加熱後、熱間圧延を開始し、900℃前後(例えば、850~950℃)で熱間圧延を終了させ、これにより熱延鋼板を得る。
【0064】
(巻取り工程)
熱間圧延後の熱延鋼板を所定の巻取り温度CTで巻き取る。巻取り温度CT(以後単にCTと称する場合がある)は、塗装後耐食性に優れたホットスタンプ部品の製造にとって重要な条件の一つであり、熱間圧延工程における巻取り温度を制御することで、ホットスタンプ後に優れた塗装後耐食性が得られる。
熱間圧延は大気雰囲気で行われる。そのため、熱間圧延後の巻取りまでの間に、Feスケールが母材鋼板(熱延鋼板)表面に形成されるとともに、母材鋼板表面に到達したFe以外の元素も容易に酸化され、FeとFe以外の元素との複合酸化スケールが形成されたり、Feスケールと母材鋼板との界面にサブスケールなどが形成されたりする。かかるスケールは、いずれも後工程の酸洗処理工程で除去されるが、母材鋼板の表面においてFe以外の元素の濃度は減少する。
一般に、巻取り温度CTは巻取り後の放冷中に、母材鋼板中に生成して素材の延性を劣化させる炭化物の生成を抑制する目的から、480~580℃未満程度の低温で行われることが多い。しかしながら、本発明者らは、巻取り温度CTを580~780℃の温度範囲(以後中CTと称する)とすることで、ホットスタンプ後の塗装後耐食性が優れるように制御可能であることを見出した。この理由については定かではないが、本発明者らは、次の通り推定している。
【0065】
巻取り温度CTが高過ぎる(780℃超:以後高CTと称する)場合、母材鋼板に含有される耐食性向上元素(B群元素)の鋼板表面への拡散が促進され、巻取り完了後の母材鋼板表層部での耐食性向上元素(B群元素)濃度は高い。一方で、巻取り完了までに形成されるスケール厚みが厚いため、後述する酸洗処理工程において除去されるスケール厚みも大きくなる。その結果、スケール除去後の鋼板表面付近における耐食性向上元素(B群元素)の濃度はスケール除去前に比べると大きく低減される。
一方、巻取り温度CTが低過ぎる(480~580℃未満:以降低CTと称する)場合、母材鋼板に含有される耐食性向上元素(B群元素)の鋼板表面への拡散は起こりにくく、巻取り完了後の母材鋼板表層部での耐食性向上元素(B群元素)の濃度は高CTの場合よりも低くなる。巻取り完了までに形成されるスケール厚みは薄いため、酸洗処理工程において除去されるスケール厚みも小さいものの、巻取り完了後の耐食性向上元素(B群元素)の濃度が低いため、スケール除去後の母材鋼板表面における耐食性向上元素(B群元素)の濃度も低くなる。
これに対し、巻取り温度CTを好ましい巻取り温度(580~780℃:中CTと称する)とすることで、適度に耐食性向上元素(B群元素)の母材鋼板表面への拡散が促進される。そのため、巻取り完了後の母材鋼板表層部での耐食性向上元素(B群元素)の濃度は比較的高い。また、巻取り完了までに形成されるスケール厚みは高CTほど厚くないので、酸洗処理工程において除去されるスケール厚みは大きくない。その結果、スケール除去後の母材鋼板表面における耐食性向上元素(B群元素)の濃度は高CT、低CTのいずれの場合よりも高くなるものと推定される。
酸洗処理工程のスケール除去後の耐食性向上元素(B群元素)の濃度が高いことで、後述する冷間圧延工程、溶融めっき工程、ホットスタンプ工程の後においても、母材鋼板表面の耐食性向上元素(B群元素)の濃度が高くなる。その結果、優れた塗装後耐食性を有することができる。
尚、中CTとすることで炭化物が生成する場合があるものの、ホットスタンプ時の加熱によって炭化物は固溶するので、巻取り温度CTを580℃以上としても部品特性として重要なホットスタンプ後のホットスタンプ部品の材質に劣化は生じない。
以上の効果を得るために、鋼板の巻取り温度CTを中CT(580~780℃)とする。熱間圧延後の鋼板の巻取り温度CTの下限は、好ましくは610℃、更に好ましくは620℃である。また、鋼板の巻取り温度CTの上限は、好ましくは770℃、より好ましくは760℃である。
【0066】
<酸洗工程>
巻き取り後の熱延鋼板の酸洗処理の条件は、特に限定されるものではなく、塩酸酸洗、硫酸酸洗などいずれの方法でも良いが、硫酸酸洗よりも塩酸酸洗の方が鋼板表面のFe以外の元素濃度の減少を抑制し易いことから、塩酸酸洗であることが好ましい。また、FeとFe以外の元素との複合酸化スケール、及び、Feスケールと母材との界面に発生するサブスケールを一部残存させることで、後工程の溶融アルミめっき処理後の母材内部に、酸化物含有領域を形成させることもできる。このため、酸洗時間は、600秒以下にすることが好ましい。ただし、酸洗時間が10秒未満である場合には、Feスケールが残存し溶融めっき処理時に不めっきを形成するため実用的でない。従って、酸洗時間は、10秒以上600秒以下であることが好ましい。より好ましくは、20秒以上400秒以下である。
用いる酸の濃度は特に限定されないが、5~20質量%であることが好ましい。
処理温度は30~60℃であることが好ましい。30℃よりも低い場合、スケールと酸との反応が進行しにくく、Feスケールが残存しやすい。一方、60℃を超えると、Feを酸化させる働きが大きくなりスケール除去する機能が弱くなってしまう。酸洗により、FeO、Fe2O3、Fe3O4といった酸化物を除去することが好ましい。これらの物質が除去されたことは、例えば、透過型電子顕微鏡の回折像を解析することで確認することができる。
【0067】
<冷間圧延工程>
(冷間圧延率について)
熱延鋼板は酸洗処理後に冷間圧延され、冷延鋼板となる。係る冷間圧延における冷間圧延率は、例えば30~90%とすることができ、好ましくは、40%以上70%以下である。
【0068】
<焼鈍工程>
上記処理で得られた冷延鋼板は、溶融めっきラインで、連続的に、焼鈍(再結晶焼鈍)及び溶融めっき処理される。溶融めっきラインにおける焼鈍は、ラジアントチューブ加熱を用いた全還元炉、又は一般にゼンジミア型焼鈍炉と呼ばれる燃焼ガスで加熱される酸化炉とラジアントチューブ加熱を用いて加熱される還元炉とを併設した酸化-還元炉等が用いられるが、いずれのタイプの加熱炉でも本実施形態は達成される。
アルミめっき後に焼鈍する場合、表面のアルミめっきは放射率が低いため、温度が上昇する速度が比較的遅い。そのため焼鈍時間が長くなり、生産性が必ずしも高くない。また、焼鈍時間が長い場合、めっき工程及びホットスタンプ時の加熱工程を経た後のAl-Fe合金めっき層中の耐食性向上元素(B群元素)の濃度が不十分となり、ホットスタンプ後の耐食性が確保できなくなるおそれがある。そのため、焼鈍を行ってから溶融めっき処理を行う。
また、レーザー光などで加熱することでAl-Fe合金めっき層を形成した場合、広範囲にわたり均一な相となりやすい。この場合、ホットスタンプ後の耐食性を得るために好ましいAl-Fe合金めっき層及び耐食性向上元素(B群元素)の濃度分布を得ることが困難になるので、好ましくない。
焼鈍工程の最高到達板温度Tmaxは、700~900℃とすることが好ましい。
【0069】
さらに、鋼板の表面から板厚中心部方向へt/4の位置tQにおける各耐食性向上元素(B群元素)の濃度の合計をΣFQiとすると、以下の式を満たすことが好ましい。
1.00 ≦Tmax×ΣFQi ≦900
ΣFQiは、表面からt/4の位置tQにおいて、各耐食性向上元素(B群元素)の濃度(mass%)をEPMA点分析により測定し、これらの値を合計して得られる。EPMA分析を行う場合、鋼板端部から10mm以上離れた位置において、低倍率の二次電子像にて表面からt/4の位置tQを選択する。同位置において倍率3000倍以上とし、電子線の加速電圧を10kV~30kV、照射電流10~30nAで測定する。ここで得られた定量値を各耐食性向上元素(B群元素)の濃度(mass%)とする。
Tmax×ΣFQiが1.00未満の場合、めっき工程及びホットスタンプ時の加熱工程を経た後のAl-Fe合金めっき層中の耐食性向上元素(B群元素)の濃度が小さくなり、ホットスタンプ後の耐食性が低下するおそれがある。
一方、Tmax×ΣFQiが900を超えると、合金コスト及び加熱に要するコストや生産性が劣位になるので好ましくない。そのため、Tmax×ΣFQiは1.00~900の範囲とすることが好ましい。Tmax×ΣFQiは、好ましくは30以上、600以下、より好ましくは、50以上、500以下である。
【0070】
また、ホットスタンプ部品の母材鋼板の耐食性向上元素の濃度勾配については、上述の通りC2/C8を1.1以上4.0以下とすることが好ましい。
C2及びC8は、tQでの測定と同様の要領で、Al-Fe合金めっき層の表面から2.0μmの位置及び8.0μmの位置で、低倍率の二次電子像を選択し、同位置においてEPMA点分析によって濃度を測定することで得られる。
【0071】
また、焼鈍において板温度が650~900℃である範囲内において、焼鈍雰囲気は、水蒸気分圧PH2Oを水素分圧PH2で除した値の常用対数であるlog(PH2O/PH2)で表される酸素ポテンシャルの値が、-3.0以上0.5以下である雰囲気とすることが好ましい。その理由は、log(PH2O/PH2)が-3.0未満である場合、易酸化性元素のMnやSiを選択的に酸化・還元させることができず、後工程の溶融めっき処理においてめっき浴の成分の濡れ性が不足し、その結果、めっき欠陥が生じるおそれがあるほか、酸素ポテンシャルを低減するために必要なH2ガスなどのコストがかかるため経済的でないからである。一方、log(PH2O/PH2)が0.5を超える場合、酸化物の生成量が多くなるため、後工程の溶融めっき処理においてめっき浴の成分の濡れ性が不足し、その結果、めっき欠陥が生じるおそれがある。
また650~900℃である範囲内においてlog(PH2O/PH2)を-3.0以上0.5以下とする時間を、60~500秒とすることが好ましい。例えば、最高到達板温度を750℃とした場合、上記酸素ポテンシャルを制御する温度範囲は、板温度が650℃以上750℃以下の範囲とすることが好ましく、この温度範囲における焼鈍時間を60秒以上500秒以下とすることが好ましい。焼鈍時間が60秒未満であると、鋼板表面に酸化物が多く残存するために後工程の溶融めっき処理においてめっき浴の成分の濡れ性が不足する。その結果、めっき欠陥が生じるおそれがある。一方、上記焼鈍時間が500秒超であると易酸化性元素の酸化物の存在により後工程の溶融めっき処理においてめっき浴の成分の濡れ性が不足する。その結果、めっき欠陥が生じるおそれがある。さらに、生産性が低下することが懸念される。
【0072】
<溶融めっき処理工程>
焼鈍後の冷延鋼板に対し、溶融めっき(溶融アルミめっき)を行い、溶融めっき鋼板を得る。
溶融めっき処理におけるめっき浴は、Al-Fe合金めっき層を有するホットスタンプ部品を得る場合、例えば、質量%で、80%以上97%以下のAlと、0%以上15%以下のSiと、0%以上5%以下のZnと、0%以上5%以下のFeと、合計で0%以上3%以下のMg、Ca、Sr及びLiからなる群から選択される一種以上と、不純物とを合計で100%となるように含有する浴を用いてアルミめっき鋼板を製造する。
【0073】
(Si:0~15.0%)
アルミめっき鋼板のめっき層に含有されるSiは、ホットスタンプ加熱時に生じるAlとFeとの反応に影響を及ぼす。ホットスタンプ時の加熱工程において、AlとFeとが過度に反応すると、Al-Fe合金めっき層自身のプレス成形性を損ねることがある。一方、ホットスタンプ時の加熱工程において、かかる反応が過度に抑制されると、プレス金型へのAlの付着を招くことがある。かかる問題点を回避するために、溶融アルミ浴中のSi含有量は、0%以上15.0%以下が好ましい。
【0074】
(Mg、Ca、Sr、Li:合計で0~3.0%)
めっき層の耐酸化性を上げるため、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びリチウム(Li)の少なくとも何れかを3.0%以下含有させることも可能であり、特に、溶融アルミ浴に対して、Mg、Ca、Sr及びLiの少なくとも何れかを、合計で0.01%以上3.0%以下含有させることが好ましい。
めっき層中のMg、Ca、Sr及びLiの合計含有量を0.01%以上とした場合に、めっき層の耐酸化性向上効果を得ることができる。Mg、Ca、Sr及びLiの合計含有量は、より好ましくは0.05%以上である。ただし、Mg、Ca、Sr及びLiが含まれないめっき浴を用いても、優れた耐食性及び熱特性を有するアルミめっき鋼板を製造することはできるので、めっき浴のMg、Ca、Sr及びLiの合計含有量は0%であってもよい。また、Al酸化物とMg及び/又はCaの酸化物とからなる酸化物層を形成するため、Mg及び/又はCaを含有させてもよい。
一方、Mg、Ca、Sr及びLiの合計含有量が3.0%を超える場合には、過剰な酸化物の生成により溶融めっき処理時に不めっきの問題が生じ得る。Mg、Ca、Sr及びLiの合計含有量は、より好ましくは、1.0%以下である。
【0075】
(Zn:0~5.0%)
めっき層の犠牲防食性を上げるため、めっき浴に亜鉛(Zn)を含有させてもよい。切断面などの地鉄が露出した部位において、雨水や塩水に曝された場合、Znの電位は地鉄よりも低いので、地鉄の代わりに溶解することにより基材の地鉄が腐食されるのを防ぐことが可能となる。溶融めっき浴中のZn含有量は、0%以上5.0%以下が好ましい。
【0076】
(Fe:0~5.0%)
アルミめっき鋼板のめっき密着性を確保するためにめっき浴に鉄(Fe)を含有させてもよい。Feを含有させることでめっき鋼板の鋼板との界面にAl-Fe金属間化合物層を形成することにより密着性を上げることができる。浴中で鋼板を連続的に浸漬したり、浴中に存在する機器や容器から溶融する鉄を含めて、溶融めっき浴中のFe含有量は、0%以上5.0%以下が好ましい。
【0077】
かかる溶融めっき浴は、上記のような成分とAl及び不純物とを、合計で100%となるように含有することが好ましい。
【0078】
(アルミめっき層の付着量)
アルミめっき鋼板の場合、上記のような焼鈍後、冷却中に連続的に溶融めっき浴(溶融アルミ浴)に鋼板を浸漬し、ワイピング処理にてめっき浴成分の付着量を制御して、アルミめっき層を形成させる。アルミめっき層の付着量は、特に限定されるものではないが、例えば、鋼板片面あたりで20g/m2以上130g/m2以下であることが好ましい。
付着量が20g/m2未満である場合には、ホットスタンプ後の耐食性が不足することがある。より好ましくは、30g/m2以上である。
一方、付着量が130g/m2を超える場合には、ホットスタンプの加熱工程において、Feが十分拡散するまでの時間が長くなる。その結果、生産性が低下したり、ホットスタンプの成形時にめっきが剥離したりすることがある。アルミめっき層の付着量は、より好ましくは、100g/m2以下である。
【0079】
(アルミめっき層の付着量測定方法について)
上記アルミめっき層の付着量の特定方法として、例えば、水酸化ナトリウム-ヘキサメチレンテトラミン・塩酸はく離重量法が挙げられる。具体的には、JIS G 3314:2011に記載の通り、所定の面積S(m2)(例えば50mm×50mm)の試験片を準備し、重量w1(g)を測定しておく。その後、水酸化ナトリウム水溶液、ヘキサメチレンテトラミンを添加した塩酸水溶液に順次浸漬し、めっきの溶解に起因した発泡が収まるまで浸漬した後、直ちに水洗し再び重量w2を(g)を測定する。この時、アルミめっき層の付着量(g/m2)は(w1-w2)/Sより求めることができる。
【0080】
<ホットスタンプ工程>
上記の工程を経て得られたアルミめっき鋼板をホットスタンプすることで、ホットスタンプ部品が得られる。
【0081】
(ホットスタンプ法について)
ホットスタンプは、塗装後耐食性に優れたホットスタンプ部品を製造するにあたって重要な工程の一つであり、本工程によりAl-Fe合金めっき層中の耐食性向上元素(B群元素)の濃度を制御することで、塗装後耐食性に優れたホットスタンプ部品を得ることができる。
具体的には、上記で得られたアルミめっき鋼板を、所定の加熱条件で850℃以上まで加熱した後、金型により、30℃/秒以上の平均冷却速度で急冷すると同時に成形することで、塗装後耐食性に優れたホットスタンプ部品を製造することができる。
加熱条件としては、ホットスタンプ加熱時における、室温から600℃までの時間をt1(秒)、600℃を超えてから加熱炉抽出までの時間をt2(秒)とした場合、下記の式(1)を満たすことで、耐食性向上元素(B群元素)がAl-Fe合金めっき層に拡散させることができる。この場合、ホットスタンプ部品の塗装後耐食性が向上する。
一方、t2が0.9×t1未満の場合、耐食性向上元素(B群元素)の合金めっき層への移動が不十分なために塗装後耐食性が向上しない。
また、t2が20×t1を超える場合、合金化が進み過ぎてめっき剥離が多くなり、めっき密着性を確保する上で好ましくない。
0.9×t1≦t2 ・・・ 式(1)
【0082】
さらに、ホットスタンプ工程の加熱過程では、母材鋼板のt/4の位置tQにおける各耐食性向上元素(B群元素)の濃度の合計ΣFQiと600℃を超えてから加熱炉抽出までの時間をt2とが、下記の式(2)を満足することがより好ましい。
10000×(ΣFQi)/t2が0.05未満の場合、耐食性向上元素(B群元素)のAl-Fe合金めっき層への拡散が不十分となり、耐食性が十分に向上しない場合がある。また、10000×(ΣFQi)/t2が500を超える場合、Al-Fe合金めっき層の合金化が進み過ぎてめっき剥離が多くなり、めっき密着性を確保する上で好ましくない。
0.05≦ 10000×(ΣFQi)/t2≦500 ・・・ 式(2)
また、C2/C8を1.1~4.0の範囲とする場合、ホットスタンプ加熱時における、室温から600℃までの時間t1(秒)と600℃を超えてから加熱炉抽出までの時間t2(秒)との関係が次式を満たすことが好ましい。
15≦t2×t2/(t1+t2)≦2300
【0083】
ホットスタンプ時の加熱方式については、通常の電気ヒーターによる炉加熱や、遠赤外線、中赤外線、近赤外線方式などの輻射熱を利用した加熱方式を使用することが可能である。
また、かかる加熱工程において、最高到達板温度は、850℃以上とする。最高到達板温度を850℃以上とする理由は、以下の2つである。第1の理由は、鋼板をオーステナイト域まで加熱し、その後急冷させるためである。第2の理由は、上記アルミめっき鋼板の表面まで十分にFeを拡散させ、Al-Fe合金めっき層の合金化を進行させるためである。ホットスタンプ加熱時における最高到達板温度は、好ましくは、870℃以上である。
一方、ホットスタンプ加熱時におけるアルミめっき鋼板の最高到達板温度の上限は、特に制限されるものではないが、加熱ヒーターや加熱炉体の耐久性という観点から、最高到達板温度は1050℃以下とすることが好ましい。ホットスタンプ加熱時における最高到達板温度は、より好ましくは、1000℃以下である。
【0084】
(ホットスタンプ成形及び冷却速度について)
次いで、加熱された状態にあるアルミめっき鋼板を、例えば上下一対の成形金型間に配置してプレス成形し、かかるプレス中に急冷することで所望の形状に成形する。上記アルミめっき鋼板をプレス下死点で数秒間程静止保持することで、成形金型との接触冷却により焼入れを実施し、ホットスタンプ成形された部品を得ることができる。
かかる冷却時の冷却速度は、ホットスタンプ部品の母材鋼板の組織の少なくとも一部にマルテンサイト相またはベイナイト相を含むよう、30℃/秒以上とすることが好ましい。この冷却速度とは、金型を用いた強制冷却の開始温度(つまり、金型と材料を最初に接触させた時の材料の板温度)と終了温度(つまり、金型と材料を離したときの材料の板温度)との差を、強制冷却を行った時間で割ることにより得られる値であり、いわゆる平均冷却速度である。より好ましい冷却速度は、50℃/秒以上である。また、冷却速度の上限は、とくに制限するものではないが、冷却速度は、例えば1000℃/秒以下とすることができる。より好ましい冷却速度は、500℃/秒以下である。
以上、本実施形態に係るホットスタンプ部品の製造方法について、詳細に説明した。
【実施例】
【0085】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
【0086】
<アルミめっき鋼板>
表1-1、表1-2に示す化学組成(残部はFe及び不純物)を有する鋼片を用いて、加熱、熱間圧延後、表2に示す温度にて巻取を行い、その後、酸洗、冷間圧延、連続焼鈍、連続溶融アルミめっきを施すことにより、板厚0.5~3.5mmのめっき鋼板を製造した。熱間圧延時の仕上げ圧延完了温度は800~1000℃であり、冷間圧延における累積圧下率は30~80%であった。連続焼鈍では、最高到達板温度Tmaxを、700~900℃とし、アルミめっき浴の温度は660~690℃に設定した。また、焼鈍パラメータTmax×ΣFQi、650~900℃である範囲内の焼鈍雰囲気log(PH2O/PH2)及び650~900℃である範囲内においてlog(PH2O/PH2)を-3.0以上0.5以下とする時間は表5-1、表5-2の通りであった。めっき浴の組成は、表3の通りとした。めっき付着量は両面で40g/m2~160/m2となるようワイピング処理にて調整した。
これらによってアルミめっき鋼板を製造した。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
<ホットスタンプ部品>
製造したアルミめっき鋼板を、300mm×220mmに切断し、表4、表5-1、表5-2に示すホットスタンプ加熱条件となるよう加熱炉の雰囲気温度を870℃から980℃とし、室温から600℃までの時間を単位秒でt1、600℃を超えてから加熱炉抽出までの時間を単位秒でt2とした。雰囲気ガスはO2とN2の混合ガスとした。加熱に際しては、t1、t2を制御するため、必要に応じて加熱中に雰囲気温度を変更した。加熱後は、40℃/秒以上の冷却速度で、金型で冷却し、下死点での保持時間は8秒とすることで、ホットスタンプを行い、ホットスタンプ部品を得た。
【0092】
【0093】
得られたホットスタンプ部品について、Al-Fe合金めっき層の厚み、Al濃度、Cmax、CQを含むB群元素の種類及び濃度、その他の含まれる元素の種類、Fe-Al合金めっき層が金属間化合物を含む場合にはその種類、Al酸化物とMg及び/又はCaの酸化物とからなる酸化物層の厚みを、C2/C8を上述した方法で測定した。また、鋼板の表面積に占めるAl-Fe合金めっき層の被覆率も求めた。
結果を表5-3、表5-4に示す。
表5-3、表5-4において、Al-Fe合金めっき層に複数のB群が含まれる場合、最大濃度が大きい順にB1、B2、B3と記載している。
また、実施例No.A1~A43、A45~A49、a1~a12については、Al-Fe合金めっき層は、表5-3、表5-4に示す金属間化合物で構成されていた。A44については、FE-TEMの制限視野電子線回折機能およびEDS機能を用いても同定されなかった。
【0094】
また、以下に示す要領で、塗装後耐食性及びめっき密着性について評価した。また、二次密着性についても評価した。
【0095】
<塗装後耐食性>
塗装後耐食性は、次の方法により評価した。例えば日本産業規格(JIS)K 3151-1996等に記載の方法で浸漬処理によりリン酸化成処理を施した後、厚さ20μmの電着塗膜を付与したホットスタンプ部品の平面部に、長さ70mm、幅1mmの地鉄に到達する加工を直線状に施した。その後、自動車技術会制定のJASO M609に規定するサイクル腐食試験(塩水噴霧2時間、乾燥4時間、湿潤2時間)に供した。90サイクル後または120サイクル後に試料を取り出し、疵の長さ10mmごとに7分割し、疵の両側に広がった錆の片側あたりの最大幅を測定した。7か所の平均値を算出し、以下の基準で塗装後耐食性を評価した。
【0096】
評価がAおよびBの場合、長時間腐食環境に曝された場合であっても優れた耐食性を得られたとして合格と判定した。一方、評価がCの場合、長時間腐食環境に曝された場合に優れた耐食性が得られなかったとして不合格と判定した。
[評価基準]
A:0.10mm未満
B:0.10mm以上、0.40mm未満
C:0.40mm以上
【0097】
<めっき密着性>
めっき密着性は次のように評価した。JIS H 8504:1999に記載の引張試験方法に準じて試験し、剥離の程度によって以下の基準でめっき密着性を評価した。各伸び率で引張試験した後、板平行部中心付近の面積2cm2にJIS Z 1522:2009に規定された粘着テープを貼り付け、これを急速にかつ強く引きはがした際に、前記2cm2のうち1cm2以上で試料の一部が粘着テープに付着していれば剥離あり、1cm2未満であれば剥離なし、とみなした。
[評価基準]
A:伸び率2%で剥離なし
B:伸び率2%で剥離あり、伸び率1%で剥離なし
C:伸び率1%で剥離あり
【0098】
評価がAおよびBの場合、厳しい加工条件においても優れためっき密着性を得られたとして合格と判定した。一方、評価がCの場合、優れためっき密着性が得られなかったとして不合格と判定した。
【0099】
<二次密着性>
二次密着性は次のように評価した。試料に対し、例えば日本産業規格(JIS)K 3151-1996等に記載の方法で浸漬処理によりリン酸化成処理を施した後、厚み10μmの電着塗装を施し、170℃で15分間焼き付けた。その後、50℃の脱イオン水に360時間浸漬し、その後にカッターで1mm間隔の碁盤目を100個切り、碁盤目部の剥離した部分の個数を目視で測定することで、剥離した部分の面積率を算出した。算出した面積率に基づいて、評点をつけた。
(評点)
A:剥離面積0%以上5%未満
B:剥離面積5%以上20%未満
C:剥離面積20%以上100%以下
【0100】
以上の結果を表5-1~表5-4に示す。表5-1~表5-4によると、本発明例A1~A49は、めっき密着性に優れ、かつ長時間腐食環境に曝された場合であっても優れた耐食性が得られたことが分かる。
一方、表5-1~表5-4の比較例a1~a12では、塗装後耐食性、めっき密着性のうち1つ以上が合格基準を満足しなかったことが分かる。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る上記態様によれば、優れためっき密着性及び長時間腐食環境に曝された場合であっても優れた耐食性が得られるホットスタンプ部品、並びにそのホットスタンプ部品を得ることができるホットスタンプ用鋼板を提供することができる。本発明に係る上記態様は、耐食性に優れたホットスタンプ部品を得ることができ、自動車車体の軽量化および衝突安全性の向上に寄与する。