(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法、並びに、プレス成形品の製造に用いられるトレイ及び熱間プレス製造ライン
(51)【国際特許分類】
B21D 43/00 20060101AFI20230817BHJP
B30B 13/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
B21D43/00 E
B21D43/00 K
B30B13/00 D
(21)【出願番号】P 2022544578
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2021030780
(87)【国際公開番号】W WO2022045056
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2020145074
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利哉
(72)【発明者】
【氏名】野村 成彦
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】巽 雄二郎
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特公平3-67799(JP,B2)
【文献】特表2014-525838(JP,A)
【文献】特表2016-524043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 43/00
B30B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の第1ワーク及び第2ワークを同時に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程にて加熱された前記第1ワーク及び前記第2ワークをプレス機まで搬送する搬送工程と、
前記プレス機まで搬送された前記第1ワーク及び前記第2ワークを前記プレス機により加工するプレス工程と、を有し、
前記加熱工程では、
前記第1ワークは、上から見て上下に貫通する中空部を有するトレイ本体から上方に延びる少なくとも3本の第1支柱群の上に置かれ、前記第2ワークは、前記トレイ本体から上方に延びる少なくとも3本の第2支柱群の上に置かれ、且つ、前記第1ワークの上方において、前記第1ワークの板面の法線方向に前記第1ワークと重ねて配置された状態で、加熱装置により加熱され、
前記搬送工程は、
前記第1ワークが前記第1支柱群の上に置かれ、前記第2ワークが前記第2支柱群の上に置かれ、且つ、前記第1ワークの上方において、前記第1ワークの板面の法線方向に前記第1ワークと重ねて配置された状態で、前記トレイ本体とともに前記加熱装置から持ち上げ位置まで搬送される第1搬送工程と、
前記持ち上げ位置において前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークが搬送装置によって上方に持ち上げられて前記第2ワークのプレス位置に搬送され、前記持ち上げ位置において前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークが前記搬送装置によって上方に持ち上げられて前記第1ワークのプレス位置に搬送される第2搬送工程とを含む、
プレス成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記加熱工程及び前記第1搬送工程において、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークと、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークとは、上下方向において、100mm以下の間隔で重ねて配置される、プレス成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記加熱工程及び前記第1搬送工程において、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークと、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークとの間の上下方向における最大の間隔D(mm)と、前記第1ワーク及び前記第2ワークの最も薄い部分の最小板厚t(mm)は、下記式の関係にある、プレス成形品の製造方法。
D≦120t
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記第1ワークの板面の面積より、前記第2ワークの板面の面積の方が広く、
前記加熱工程及び前記第1搬送工程において、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークの全体と、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークが、上下方向に重なる、プレス成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記第1ワークの板厚より、前記第2ワークの板厚の方が大きい、プレス成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記加熱工程及び前記第1搬送工程において、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークの上から見た場合の端と、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークの上から見た場合の端との距離ΔWの最小値は、5mm以上である、プレス成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記加熱工程及び前記第1搬送工程において、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークの上から見た場合の端と、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークの上から見た場合の端との距離ΔWの最大値は、30mm以下である、プレス成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記第1搬送工程において、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークと前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークは、搬送方向の前方が遮蔽板によって覆われた状態で搬送される、プレス成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記遮蔽板は、中央部から端部に近づくにしたがって、前記第1ワーク及び前記第2ワークに近づくよう傾斜する傾斜面を有する、プレス成形品の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記第1支柱群に置かれた前記第1ワーク及び前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークの少なくとも一方は、長尺方向と短尺方向を有し、
前記遮蔽板は、前記第1搬送工程において、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワーク及び前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークの前記長尺方向を覆う、プレス成形品の製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記第1ワーク及び前記第2ワークは、厚肉部と薄肉部を含む差厚板であり、
前記加熱工程及び前記第1搬送工程において、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークの厚肉部と、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークの薄肉部が、上下方向において重なる、プレス成形品の製造方法。
【請求項12】
上下方向に垂直な面に沿って広がる形状を有し、上下に貫通する中空部を含むトレイ本体と、
前記トレイ本体から上方に延びる支柱群とを備え、
前記支柱群は、
板状の第1ワークの下面を支持可能に構成された少なくとも3本の第1支柱群と、
前記第1支柱群に支持された前記第1ワークの上方に位置する板状の第2ワークの下面を支持可能に構成された少なくとも3本の第2支柱群とを含み、
前記第1支柱群は、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置され、
前記第2支柱群は、上から見て前記第1支柱群とは異なる位置に配置され、且つ、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置され、且つ、前記第2支柱群は、いずれも前記第1支柱群のうち最も低い支柱よりも高い、トレイ。
【請求項13】
請求項12に記載のトレイであって、
前記第2支柱群は、前記第1支柱群のうち少なくとも3本の支柱それぞれに対して、一定の高さΔHだけ高い少なくとも3本の支柱を含む、トレイ。
【請求項14】
請求項13に記載のトレイであって、
前記一定の高さΔHは、前記第1ワークの最大板厚に0~100mmを加えた高さである、トレイ。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか1項に記載のトレイであって、
前記第1支柱群及び前記第2支柱群のうち最も低い支柱の高さと最も高い支柱の高さの間の高さ領域を、上下方向に垂直な方向から覆う遮蔽板をさらに備える、トレイ。
【請求項16】
請求項15に記載のトレイであって、
前記遮蔽板は、中央部から端部に近づくに従って、前記第1支柱群及び前記第2支柱群に近づくよう傾斜する傾斜面を有する、トレイ。
【請求項17】
請求項15又は16に記載のトレイであって、
前記トレイ本体は上から見て長尺方向及び短尺方向を有し、
前記遮蔽板は、上から見て前記トレイ本体の前記長尺方向を覆う、トレイ。
【請求項18】
熱間プレス製造ラインであって、
請求項12~17のいずれか1項に記載のトレイと、
前記トレイに載せられた前記第1ワーク及び前記第2ワークを加熱する加熱装置と、
前記加熱装置と前記第1ワーク及び前記第2ワークの持ち上げ位置との間に配置され、前記トレイを前記加熱装置から前記持ち上げ位置に搬送する搬送路と、
前記持ち上げ位置において、前記トレイに載せられた前記第1ワーク及び前記第2ワークを支持して上方へ持ち上げる搬送装置と、
少なくとも2組の一対の金型を有する、少なくとも1台のプレス機と、
前記搬送装置を、前記持ち上げ位置と、前記少なくとも2組の一対の金型の間のプレス位置の間で移動させる移動装置とを備えた、熱間プレス製造ライン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱、搬送、プレスの工程を含むプレス成形品の製造方法、並びに、プレス成形品の製造に用いられるトレイ及び熱間プレス製造ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の温度まで加熱した素材をプレス機でプレスする技術が用いられている。例えば、熱間プレスでは、素材である熱間プレス用鋼板をオーステナイト域(約900℃以上)まで加熱し,熱間でプレス成形する。これにより、成形加工とともに焼入れ処理を施し、例えば1500MPa級以上の強度を有するプレス成形品を得ることができる。一般的なホットスタンプでは、焼入れはプレス成形時に金型との接触熱伝達により急冷されることで施される。このため、十分な焼入れの効果を得るためには、焼入れ開始温度におおよそ相当するプレス成形開始時の素材の温度を所定温度以上に確保する必要がある。この場合、プレス成形開始時の所定温度は、素材にもよるが、例えば700℃以上である。
【0003】
特許第5910305号公報及び特許第5910306号公報には、重ね合わせられた導電性の複数の板状ワークに電極を取り付けて通電することにより複数の板状ワークを加熱する工程を有する熱間プレス成形方法が開示されている。加熱された複数の板状ワークを通電位置とは異なる所定のプレス位置に配置される。プレス位置に配置された複数の板状ワークはそれぞれプレス成形される。複数の板状ワークを通電によって同時に加熱することで、生産性の向上が図られる。
【0004】
上記従来技術においては、ワークの搬送中に熱が放散してワークの温度が低下する。その結果、ワークをプレス機の金型に搬入する際にワークに必要な温度を維持できず、プレス成形品の焼き入れが十分になされなくなってしまうおそれがある。
【0005】
そこで、特許第5814669号公報には、ホットプレスを行う生産ラインの各工程間で加熱状態のパネル状被搬送物を保持して搬送するホットプレス用搬送装置が開示されている。ホットプレス用搬送装置は、加熱状態の被搬送物を保温カバーで覆いながら搬送する。これにより、搬送中の被搬送物を焼き入れに必要な温度に維持する。
【0006】
また、特許第4673656号公報に開示の熱間プレス成形装置は、被加工材である金属板の加熱装置として、誘導加熱又は通電加熱による1次加熱手段と、輻射伝熱による2次加熱手段とを有する。1次加熱手段から熱間プレス成形金型までの搬送装置に、輻射伝熱による2次加熱手段が配置される。輻射伝熱による2次加熱により、金属板を均一に加熱でき、金属板の温度偏差を少なくできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5910305号公報
【文献】特許第5910306号公報
【文献】特許第5814669号公報
【文献】特許第4673656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らは、熱間プレスの素材を薄肉化すると、素材を加熱した後にプレス機まで搬送する間の温度降下がプレス成形品の品質に影響し得ることに気付いた。そこで、搬送中の素材の温度降下を抑える方法を検討した。検討において、上記従来技術のように、搬送中の素材を保温カバーで覆うだけでは、十分に温度降下を抑えるのが難しい場合があることがわかった。また、搬送中に、素材を加熱する2次加熱手段を設けることも考えられる。しかし、この場合、2次加熱手段のための熱源を含む設備を搬送経路上に追加する必要がある。これにより、設備が大型化するとともに、設備コストや運転コストの増大に繋がる可能性がある。
【0009】
そこで、本願は、熱間プレス成形における素材の加熱後からプレス成形を開始するまでの搬送時間において、素材の温度降下を、簡便に緩和することができるプレス成形品の製造方法及びトレイを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態におけるプレス成形品の製造方法は、板状の第1ワーク及び第2ワークを同時に加熱する加熱工程と、前記加熱工程にて加熱された前記第1ワーク及び前記第2ワークをプレス機まで搬送する搬送工程と、前記プレス機まで搬送された前記第1ワーク及び前記第2ワークを前記プレス機により加工するプレス工程と、を有する。前記加熱工程では、前記第1ワークは、上から見て上下に貫通する中空部を有するトレイ本体から上方に延びる少なくとも3本の第1支柱群の上に置かれ、前記第2ワークは、前記トレイ本体から上方に延びる少なくとも3本の第2支柱群の上に置かれ、且つ、前記第1ワークの上方において、前記第1ワークの板面の法線方向に前記第1ワークと重ねて配置された状態で、加熱装置により加熱される。
前記搬送工程は、第1搬送工程と第2搬送工程を含む。前記第1搬送工程では、前記第1ワークが前記第1支柱群の上に置かれ、前記第2ワークが前記第2支柱群の上に置かれ、且つ、前記第1ワークの上方において、前記第1ワークの板面の法線方向に前記第1ワークと重ねて配置された状態で、前記トレイ本体とともに前記加熱装置から持ち上げ位置まで搬送される。前記第2搬送工程では、前記持ち上げ位置において前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークが搬送装置によって上方に持ち上げられて前記第2ワークのプレス位置に搬送され、前記持ち上げ位置において前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークが前記搬送装置によって上方に持ち上げられて前記第1ワークのプレス位置に搬送される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、熱間プレス成形における素材の加熱後からプレス成形を開始するまでの搬送時間において、素材の温度降下を、簡便に緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る熱間プレス製造ラインの概略を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態のトレイを上から見た上面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すトレイを矢印Fの方向から見た側面図である。
【
図4】
図4は、第1支柱群及び第2支柱群の配置の他の例を示す上面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示すトレイを矢印Fの方向から見た側面図である。
【
図6】
図6は、第1及び第2ワークが平らな板でない場合の支柱群の例を示す側面図である。
【
図7】
図7は、第1及び第2ワークが平らな板でない場合の支柱群の例を示す側面図である。
【
図8】
図8は、上から見た第1ワークW1と第2ワークW2の面積が異なる場合のトレイの例を示す上面図である。
【
図9】
図9は、
図8に示すトレイを矢印Fの方向から見た側面図である。
【
図10】
図10は、第1及び第2ワークが差厚板である場合の例を示す側面図である。
【
図11】
図11は、遮蔽板を備えるトレイの構成例を示す上面図である。
【
図13】
図13は、本実施形態の熱間プレス製造ラインの変形例を示す図である。
【
図16】
図16は、測定結果としての平均降温速度のグラフである。
【
図17】
図17は、平均降温速度の導出の対象とした範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
熱間プレス成形において、プレス成形開始時の温度は、素材の加熱温度、及び素材の加熱後にプレス成形用の金型まで搬送する時間内にどれだけ温度が降下するかにより左右される。素材の加熱温度は、冶金的な条件によって決まる。また、加熱後の金型までの搬送時間は設備構成や仕様によって決まる。その搬送の間の温度の降下量は、素材の熱容量に依存する。例えば、鋼板の場合は主に表裏面からの大気への熱伝達と熱放射(輻射)によって熱が逃げる。発明者らは、搬送の間の温度の降下量が、素材の板厚に大きく依存することに気がついた。すなわち、前述のように素材の板厚が薄くなっていくと、同じ搬送時間でも温度の下降量が大きくなり、焼入れに必要な成形開始温度を確保することが困難になる場合がある。その結果、プレス成形品に必要な部品強度が得られなくなる場合が生じ得る。
【0014】
発明者らは、熱源を追加せずに、搬送時の温度降下を抑制する方法を検討した。板状の素材(ワーク)を加熱装置で加熱した場合、ワークは、ローラー等の搬送路により加熱装置から、搬送装置に持ち上げられる位置まで搬送される。ワークは、搬送装置によって、持ち上げられ、プレス機のプレス位置に置かれる。発明者らは、加熱装置から搬送装置に持ち上げられるまでのワークの状態に着目し、この搬送工程で、ワークの温度降下を抑制することを検討した。
【0015】
鋭意検討の結果、板状のワークを複数枚(例えば、2枚)を、トレイ上に、上下に重なるように配置して、加熱装置で加熱し、加熱後は、上下に重ねた状態のままトレイごと加熱装置から搬出することに想到した。これにより、加熱後の搬送中に、複数の向かい合うワーク同士が互いの輻射熱を受けることで熱量を補填し合うことができる。さらに、ワークからは輻射熱の他に熱伝達によって周囲の空気へ熱量が移動する。例えば、複数のワークを、互いに接触させてワークの板面に垂直な方向に重なった状態で配置した場合、接触部分は空気に触れないため、ワークから空気への熱伝達による熱量の移動が低減する。また、複数のワークを、間隔をあけてワークの板面に垂直な方向に重なった状態で配置すると、加熱された複数のワークの間の空間には、複数のワークからの熱伝達により暖められた空気が滞留する。この暖められた滞留空気が複数のワークの間に存在することによって、複数のワークの間の空気と複数のワークとの温度差が減少する。そのため、ワークから空気への熱伝達による熱量の移動が低減し、保温効果を得ることができる。そのため、搬送中の複数のワークの温度降下を緩和することができる。下記実施形態は、この知見に基づくものである。
【0016】
本発明の実施形態におけるプレス成形品の製造方法は、板状の第1ワーク及び第2ワークを同時に加熱する加熱工程と、前記加熱工程にて加熱された前記第1ワーク及び前記第2ワークをプレス機まで搬送する搬送工程と、前記プレス機まで搬送された前記第1ワーク及び前記第2ワークを前記プレス機により加工するプレス工程と、を有する。前記加熱工程では、前記第1ワークは、上から見て上下に貫通する中空部を有するトレイ本体から上方に延びる少なくとも3本の第1支柱群の上に置かれ、前記第2ワークは、前記トレイ本体から上方に延びる少なくとも3本の第2支柱群の上に置かれ、且つ、前記第1ワークの上方において、前記第1ワークの板面の法線方向に前記第1ワークと重ねて配置された状態で、加熱装置により加熱される。
前記搬送工程は、第1搬送工程と第2搬送工程を含む。前記第1搬送工程では、前記第1ワークが前記第1支柱群の上に置かれ、前記第2ワークが前記第2支柱群の上に置かれ、且つ、前記第1ワークの上方において、前記第1ワークの板面の法線方向に前記第1ワークと重ねて配置された状態で、前記トレイ本体とともに前記加熱装置から持ち上げ位置まで搬送される。前記第2搬送工程では、前記持ち上げ位置において前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークが搬送装置によって上方に持ち上げられて前記第2ワークのプレス位置に搬送され、前記持ち上げ位置において前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークが前記搬送装置によって上方に持ち上げられて前記第1ワークのプレス位置に搬送される。
【0017】
上記の製造方法においては、加熱装置において、トレイの支柱群によって、第1ワークと第2ワークが上下に重なった状態で加熱される。加熱後は、第1ワークと第2ワークはトレイごと加熱装置から持ち上げ位置に搬送される。そのため、加熱装置から搬送装置に持ち上げられるまで、第1ワークと第2ワークは、上下に重なった状態となる。すなわち、第1ワークと第2ワークは、第1ワークの板面に垂直な方向(法線方向)に重なった状態となる。例えば、第1ワークの上面と第2ワークの下面が互いに対向した状態となる。これにより、加熱が終わってから搬送装置により持ち上げられるまで、複数のワーク同士が互いの輻射熱を受けることで熱量を補填し合うことができる。また、例えば、複数のワークを、間隔をあけて重ねて配置した場合、複数のワークの間の空間には、ワークからの熱伝達により暖められた空気が滞留する。これにより、保温効果を得ることができる。さらに、第1支柱群に第1ワークが置かれ、その上方に第2支柱群に置かれた第2ワークが配置される。支柱群はトレイ本体から上方に延びて形成される。そのため、支柱群の上に置かれた第2ワーク及び第1ワークを、搬送装置で上方に持ち上げる際に、支柱群が障害にならない。持ち上げ動作を簡単且つ迅速に行うことができる。結果として、熱間プレス成形における素材の加熱後からプレス成形を開始するまでの搬送時間において、素材の温度降下を、簡便に緩和することができる。
【0018】
トレイ本体は、上から見て、中空部の領域の方が、トレイ本体の構成部材より広くなるよう構成されてもよい。これにより、加熱工程において、トレイ本体の下からの熱が第1ワーク及び第2ワークに伝わりやすくなる。第1支柱群及び第2支柱群は、上から見てトレイ本体の中空部の間に位置してもよい。これにより、トレイ本体の下からの熱が、第1支柱群及び第2支柱群の周りの中空部を通って、第1支柱群に置かれた第1ワーク及び第2支柱群に置かれた第2ワークにより伝わりやすくなる。
【0019】
板状の第1ワーク及び第2ワークは、平らな板に限られない。板状の第1ワーク及び第2ワークの少なくとも1つは、例えば、板面の法線方向に突出する凸部を有する板、板を貫通する中空部を有する板、又は、湾曲した板等であってもよい。第1ワーク及び第2ワークの少なくとも1つは、例えば、平らな板(ブランク)を成形又は加工した中間成形品であってもよい。
【0020】
前記第1搬送工程において、前記第1支柱群により下面を支持された前記第1ワークと、前記第2支柱群により下面を支持された前記第2ワークとは、前記第1ワークの板面の法線方向において、間隔をあけて互いに重なる状態で搬送されることが好ましい。これにより、搬送中に、第1ワークと第2ワークの各々の上面と下面が空気に触れる。そのため、第1ワーク及び第2ワークが互いに接触する場合に比べて、搬送における上面と下面の条件の差異が小さくなる。結果として、第1ワーク及び第2ワークの各々の上面と下面の品質の差を抑えることができる。
【0021】
前記加熱工程及び前記第1搬送工程において、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークと、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークとは、上下方向において、100mm以下の間隔で重ねて配置されることが好ましい。これにより、トレイに載せて搬送中の第1ワーク及び第2ワークの間隔を適切にして、温度降下を効果的に抑制できる。ワーク間の間隔が広すぎると、加熱された第1及び第2ワークの端部において、一方のワークから板面の法線に対して傾斜した方向に発せられる熱輻射のうち、対面の他方のワークに到達しない熱輻射の割合が大きくなる。その結果、温度降下の緩和効果が十分に得られなくなる可能性がある。また、ワーク間の間隔が広すぎると、両ワークからの熱伝達により暖められる空気が両ワークの間に滞留しにくくなり、十分な保温効果が得られなくなる可能性がある。
【0022】
前記加熱工程及び前記第1搬送工程において、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークと、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークとの間の上下方向における最大の間隔D(mm)と、前記第1ワーク及び前記第2ワークの最も薄い部分の最小板厚t(mm)は、下記式の関係にあることが好ましい。これにより、搬送中の第1ワーク及び第2ワークの温度降下が効果的に抑制される。
D≦120t
【0023】
前記第1ワークの板面の面積より、前記第2ワークの板面の面積の方が広くてもよい。この場合、前記加熱工程及び前記第1搬送工程において、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークの全体と、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークが、上下方向に重なることが好ましい。これにより、第1ワークの全体が第2ワークから輻射熱を受ける。そのため、第1ワーク全体の温度が均一に維持されやすくなる。また、第2ワークの第1ワークと重なっていない部分に、第2支柱群を配置することができる。ここで、第1ワークの板面の面積は、第1支柱群に置かれた第1ワークの上面視の面積とする。第2ワークの板面の面積は、第2支柱群に置かれた第2ワークの上面視の面積とする。
【0024】
前記第1ワークの板厚より、前記第2ワークの板厚の方が大きくてもよい。すなわち、第1ワークと第2ワークの板厚は、異なっていてもよい。また、この場合、板厚が薄い第1ワークは、熱容量が比較的大きい第2ワークからの輻射熱によって、温度降下が抑制される。そのため、温度降下がしやすい薄い第1ワークの温度降下を効果的に抑制することができる。特に、上記のように第1ワークの全体と第2ワークが上下方向に重なる状態で搬送される場合にこの効果がより顕著になる。
【0025】
前記加熱工程及び前記第1搬送工程において、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークの上から見た場合の端と、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークの上から見た場合の端との距離ΔWの最小値は、5mm以上であることが好ましい。これにより、第1ワークを避けて第2支柱群を配置する場所を確保することができる。
【0026】
前記加熱工程及び前記第1搬送工程において、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークの上から見た場合の端と、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークの上から見た場合の端との距離ΔWの最大値は、30mm以下であることが好ましい。これにより、第2ワークが第1ワークから輻射熱を受けない領域が大きくなり過ぎないことで、第2ワークの温度降下抑制効果を確保することができる。
【0027】
前記第1搬送工程において、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークと前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークは、搬送方向の前方が遮蔽板によって覆われた状態で搬送されてもよい。遮蔽板により、ワークの搬送方向の前面に空気が当たることを防ぐことができるため、搬送方向の前面のワークの端面からの温度低下を緩和できるとともに、両ワークからの熱伝達により暖まった両ワーク間の滞留空気が外部へ移動することを抑制することができる。その結果、保温効果を保つことができる。このため、搬送中のワークの温度降下がより抑制される。
【0028】
前記遮蔽板は、中央部から端部に近づくにしたがって、前記第1ワーク及び前記第2ワークに近づくよう傾斜する傾斜面を有してもよい。これにより、遮蔽板に当たった空気が、傾斜面に沿って第1及び第2ワークから離れる方向に流れる。そのため、搬送中のワークの温度降下抑制効果が高まる。
【0029】
前記第1支柱群に置かれた前記第1ワーク及び前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークの少なくとも一方は、長尺方向と短尺方向を有してもよい。前記遮蔽板は、前記第1搬送工程において、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワーク及び前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークの前記長尺方向を覆うことができる。長尺方向を遮蔽板で覆うことで、搬送中のワークの温度降下抑制効果をより高めることができる。
【0030】
前記第1ワーク及び前記第2ワークは、厚肉部と薄肉部を含む差厚板であってもよい。この場合、前記加熱工程及び前記第1搬送工程において、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークの厚肉部と、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークの薄肉部が、上下方向において重なっていてもよい。これにより、厚肉部と薄肉部が熱量を補填し合って、全体として効率よく温度降下を抑制することができる。
【0031】
上記第2搬送工程において、前記搬送装置は、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワーク及び前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークを同時に持ち上げ、前記第1ワーク及び前記第2ワークが、前記第1ワークの板面の法線方向に重なった状態で、前記持ち上げ位置から前記プレス位置まで搬送してもよい。第1ワーク及び第2ワークを同時に持ち上げることで、持ち上げ時間を短縮できる。また、第1ワーク及び第2ワークが互いに重なった状態で、持ち上げ位置からプレス位置まで搬送される。そのため、搬送中の温度降下を抑制する効果がより向上する。
【0032】
一例として、前記第2搬送工程は、
前記搬送装置が備えるベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第1アームを駆動して、前記一対の第1アームの爪で、前記第1支柱群に置かれた前記第1ワークの両端部の下面を支持して持ち上げる工程と、
前記搬送装置が備える前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第2アームを、前記一対の第1アームとは異なる系統で駆動して、前記一対の第2アームの爪で、前記第2支柱群に置かれた前記第2ワークの両端部の下面を支持して持ち上げる工程と、
前記搬送装置の前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1ワークと、前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2ワークを、前記第1ワークの板面の法線方向において互いに重なる状態で、搬送する工程と、
前記一対の第1アームを駆動して、前記一対の第1アームに支持された前記第1ワークを、前記プレス機のプレス位置に降ろす工程と、
前記一対の第2アームを、前記一対の第1アームとは異なる系統で駆動して、前記一対の第2アームに支持された前記第2ワークを、前記プレス機のプレス位置に降ろす工程と、を含んでもよい。
【0033】
これにより、第2ワーク及び第1ワークを同時に持ち上げ、且つ、第1ワーク及び第2ワークが、第1ワークの板面の法線方向に重なった状態で、持ち上げ位置から前記プレス位置まで搬送することができる。なお、搬送装置は、第2ワーク及び第1ワークを同時に持ち上げ、これらのワークが重なった状態で搬送する構成に限られない。例えば、搬送装置は、第2ワークを持ち上げ、搬送する第1搬送装置と、第1ワークを持ち上げ、搬送する第2搬送装置を含んでもよい。
【0034】
本発明の実施形態におけるトレイは、上下方向に垂直な面に沿って広がる形状を有し、上下に貫通する中空部を含むトレイ本体と、前記トレイ本体から上方に延びる支柱群とを備える。前記支柱群は、板状の第1ワークの下面を支持可能に構成された少なくとも3本の第1支柱群と、前記第1支柱群に支持された前記第1ワークの上方に位置する板状の第2ワークの下面を支持可能に構成された少なくとも3本の第2支柱群とを含む。前記第1支柱群は、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置される。前記第2支柱群は、上から見て前記第1支柱群とは異なる位置に配置され、且つ、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置される。前記第2支柱群は、いずれも前記第1支柱群のうち最も低い支柱よりも高い。
【0035】
上記構成によれば、第1支柱群及び第2支柱群によって、第1ワークと第2ワークが上下に重なった状態でトレイ上に支持される。例えば、第1ワークの上面と第2ワークの下面が互いに対向した状態で、第1ワークと第2ワークがトレイに支持される。そのため、トレイに第1ワーク及び第2ワークが上下に重なるように載せた状態で、加熱装置で加熱し、その状態で、加熱装置から持ち上げ位置に搬送することができる。これにより、加熱が終わってから搬送装置により持ち上げられるまで、第1ワークと第2ワークが互いの輻射熱を受けることで熱量を補填し合うことができる。また、支柱群はトレイ本体から上方に延びて形成される。そのため、支柱群の上に置かれた第2ワーク及び第1ワークを、搬送装置で上方に持ち上げる際に、支柱群が障害にならない。持ち上げ動作を簡単且つ迅速に行うことができる。結果として、熱間プレス成形における素材の加熱後からプレス成形を開始するまでの搬送時間において、素材の温度降下を、簡便に緩和することができる。すなわち、搬送時間における素材の温度降下を簡便に緩和できる、熱間プレス成形の素材の加熱搬送用トレイが提供される。
【0036】
前記支柱群は、前記トレイ本体に対して固定されていてもよい。すなわち、前記支柱群は、前記トレイ本体に対して固定された状態で取り付けられてもよい。これにより、トレイの構造を簡単にできる。これに対して、例えば、支柱群のそれぞれのトレイ本体に対する高さを可変とすると、耐熱性を有する駆動機構が必要となる。この場合、構成が複雑化し、製造コストが増加する。
【0037】
前記第2支柱群は、前記第1支柱群のうち少なくとも3本の支柱それぞれに対して、一定の高さΔHだけ高い少なくとも3本の支柱を含んでもよい。この場合、第1支柱群が支持する第1ワークより、一定の高さΔHだけ高い位置に、第2支柱群が支持する第2ワークを配置することができる。
【0038】
前記一定の高さΔHは、前記第1ワークの最大板厚に0~100mmを加えた高さであることが好ましい。これにより、トレイに載せて搬送中の第1ワーク及び第2ワークの間隔を適切に保ち、温度降下を効果的に抑制できる。
【0039】
前記トレイは、前記第1支柱群及び前記第2支柱群のうち最も低い支柱の高さと最も高い支柱の高さの間の高さ領域を、上下方向に垂直な方向から覆う遮蔽板をさらに備えてもよい。遮蔽板により、トレイに載せて搬送中の第1ワーク及び第2ワークの温度降下がより抑制される。
【0040】
前記遮蔽板は、中央部から端部に近づくに従って、前記第1支柱群及び前記第2支柱群に近づくよう傾斜する傾斜面を有してもよい。これにより、トレイに第1ワーク及び第2ワークを載せて搬送中に、遮蔽板に当たった空気が、傾斜面に沿って第1ワーク及び第2ワークから離れる方向に流れる。そのため、搬送中の第1ワーク及び第2ワークの温度降下抑制効果が高まる。
【0041】
前記トレイ本体は上から見て長尺方向及び短尺方向を有してもよい。前記遮蔽板は、上から見て前記トレイ本体の前記長尺方向を覆うよう構成されてもよい。トレイ本体の長尺方向を遮蔽板で覆うことで、トレイに載せて搬送されるワークの温度降下抑制効果をより高めることができる。
【0042】
本発明の実施形態における熱間プレス製造ラインは、前記トレイと、前記トレイに載せられた前記第1ワーク及び前記第2ワークを加熱する加熱装置と、前記加熱装置と前記第1ワーク及び前記第2ワークの持ち上げ位置との間に配置され、前記トレイを前記加熱装置から前記持ち上げ位置に搬送する搬送路と、前記持ち上げ位置において、前記トレイに載せられた前記第1ワーク及び前記第2ワークを支持して上方へ持ち上げる搬送装置と、少なくとも2組の一対の金型を有する、少なくとも1台のプレス機と、前記搬送装置を、前記持ち上げ位置と、前記少なくとも2組の一対の金型の間のプレス位置の間で移動させる移動装置と、を備える。
【0043】
搬送装置は、上下方向に垂直な横方向に移動可能なベースフレームと、前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第1アームと、前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第2アームと、前記第1アームを駆動する第1駆動部と、前記第2アームを駆動する第2駆動部とを備えてもよい。
前記一対の第1アームは、前記ベースフレームの横方向に並び、前記ベースフレームから上下方向に延びる一対の第1基部と、前記一対の第1基部の各々から横方向に屈曲して延びる第1爪を有する。
前記一対の第2アームは、前記ベースフレームの横方向に並び、前記ベースフレームから上下方向に延びる一対の第2基部と、前記一対の第2基部の各々から横方向に屈曲して延びる第2爪を有する。
前記第1駆動部は、前記一対の前記第1アームを前記ベースフレームに対して回転させることで、前記一対の第1爪の横方向の距離を変化させる。
前記第2駆動部は、前記一対の前記第2アームを前記ベースフレームに対して回転させることで、前記一対の第2爪の横方向の距離を変化させる。
前記第1駆動部及び前記第2駆動部は、互いに独立して、前記第1アームの回転及び前記第2アームの回転をそれぞれ制御可能に構成される。
前記一対の第1爪は、横方向に互いに近づいた状態で、第1ワークの横方向両端部の下面を支持可能に構成される。
前記一対の第2爪は、横方向に互いに近づいた状態で、第2ワークの横方向両端部の下面を支持可能に構成される。
前記一対の第1爪の上下方向における位置と、前記一対の第2爪の上下方向における位置は互いに異なっている。
【0044】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0045】
[装置の構成例]
図1は、本実施形態に係る熱間プレス製造ライン10の概略を示す図である。熱間プレス製造ライン10は、加熱装置14と、搬送テーブル16と、マニピュレータ44と、搬送装置46と、プレス機20と、コントローラ22とを備えている。搬送テーブル16は、加熱装置14の出口14Aの近くに配置されている。搬送テーブル16は、加熱装置14とプレス機20の間に配置されている。
【0046】
加熱装置14内では、複数のワークW1、W2が、1台のトレイ1に上下に重なる状態で載せられる。トレイ1に載せられた複数のワークW1、W2は、加熱装置14で加熱された後、トレイ1ごと加熱装置14から出される。複数のワークW1、W2を載せたトレイ1は、加熱装置14から出て、搬送テーブル16の上を、搬送装置46に持ち上げられる位置まで搬送される。
【0047】
(加熱装置)
加熱装置14は、加熱対象物を加熱する装置である。加熱装置14の例として、抵抗加熱炉、ガス加熱炉、遠赤外線加熱炉及び近赤外線加熱炉等が挙げられる。加熱装置14は、加熱炉に限られず、例えば、高周波誘導加熱装置、低周波誘導加熱装置、又は、加熱対象物に直接通電して加熱する通電加熱装置であってもよい。加熱装置14は、加熱室を有してもよい。加熱装置14は、図示しない駆動機構で回転駆動される複数の室内ローラー13を加熱室の内部に備えてもよい。室内ローラー13を回転させることにより、室内ローラー13上の加熱対象物(すなわちワークW1、W2)を搬送する。加熱室内の加熱対象物の搬送方向の前方及び後方に、加熱装置14の出口14A、入口14Bが設けられる。
【0048】
(搬送テーブル)
搬送テーブル16は、図示しない駆動機構で回転駆動される複数の搬送ローラー26を備える。各搬送ローラー26が室内ローラー13と同期して回転することで、搬送対象物を搬送テーブル16と加熱装置14の加熱室内との間で搬送することができる。複数の搬送ローラー26は、間隔をおいて配置されている。搬送テーブル16は、加熱された第1ワークW1及び第2ワークW2が置かれたトレイ1を加熱装置14から持ち上げ位置まで搬送する搬送路の一例である。搬送テーブル16の上に、搬送装置46によるワークの持ち上げ位置が設けられる。なお、搬送路の構成は、
図1に示す搬送テーブル16に限られない。例えば、搬送路は、ベルトコンベア又はレール等であってもよい。また、
図1に示す例では、持ち上げ位置は、搬送路にあるが、持ち上げ位置は搬送路上でなくてもよい。搬送路とは別に、搬送先に設けられた台等に、持ち上げ位置があってもよい。
【0049】
(プレス機)
プレス機20は、プレス対象物をプレス成形する下金型23と上金型21とを備える。下金型23は、一例として、パンチ金型で構成され、上金型21は、一例として、ダイ金型で構成される。上金型21及び下金型23には冷媒の流路が設けられてもよい。これにより、プレス成形時にプレス対象物から奪った熱を、冷媒を介して放出することができる。上金型21と下金型23の間に2つのワークが配置可能である。上金型21と下金型23は、相対的に移動可能である。プレス機20は、上金型21と下金型23の間に2つのワークが配置された状態で、上金型21と下金型23を相対的に近づけることで、2つのワークをプレス成形する。上金型21と下金型23の動作は、例えば、コントローラ22によって制御可能である。本例では、プレス機20の下金型23と上金型21は、同時に複数のプレス成形品を製造できる形状となっている。これは、2組の一対の金型が1台のプレス機に設けられる場合の例である。この例では、プレス機20の下金型23と上金型21の間に複数のワークW1、W2が配置され、複数のワークW1、W2が同時にプレス成形される。なお、プレス機20は、複数台設けられてもよい。例えば、1組の一対の金型を備えるプレス機が2台設けられてもよい。
【0050】
(マニピュレータ)
マニピュレータ44は、搬送装置46を用いて搬送対象物を搬送テーブル16とプレス機20との間で搬送する。搬送装置46は、搬送対象物であるワークを持ち上げる、保持する、及び、置く動作をする。マニピュレータ44は、搬送装置46の位置及び姿勢を制御する。搬送装置46は、マニピュレータ44のエンドエフェクタであってもよい。マニピュレータ44は、搬送装置46を、搬送テーブル16の上の持ち上げ位置と、プレス機20の2組の一対の金型(上金型21と下金型23)の間のプレス位置との間で移動させる。マニピュレータ44は、少なくとも1つの軸を中心に回転可能な基部と、基部から延び少なくとも1つの関節を有するアームとを備える。アームの先に搬送装置46が回転可能に取り付けられる。なお、搬送装置46を移動させる移動装置は、マニピュレータに限られない。例えば、移動装置は、搬送テーブル16とプレス機20の間を結ぶレールと、レールに搬送装置46を上下可動に懸架する懸架装置を含む構成であってもよい。
【0051】
(コントローラ)
コントローラ22は、加熱装置14、搬送テーブル16、プレス機20、マニピュレータ44(搬送装置46)を制御する。コントローラ22は、例えば、プロセッサとメモリを備えた1又は複数のコンピュータにより構成される。プロセッサがメモリに記録されたプログラムを実行することで、これらの制御を実現できる。コントローラ22は、加熱装置14、搬送テーブル16、プレス機20、マニピュレータ44(搬送装置46)に制御信号又は制御データを送信する。また、コントローラ22は、これらの状態を示す信号又はデータを受信してもよい。一例として、コントローラ22は、加熱装置14、搬送テーブル16、マニピュレータ44、及びプレス機20の各々に設けられ、各装置を制御する制御部(例えば、回路又はプロセッサで構成される)を含んでもよい。この場合、コントローラ22は、各装置の制御部に対して、制御情報を供給し、熱間プレス製造ライン10の全体の動作を制御する全体制御コンピュータを含んでもよい。後述する搬送装置46のアーム71の動作は、コントローラ22の一部、例えば、マニピュレータ44の制御部によって制御されてもよい。
【0052】
(搬送装置)
搬送装置46は、ベースフレーム48、ベースフレーム48に回転可能に取り付けられた少なくとも一対のアーム71を備える。ベースフレーム48の上面には、マニピュレータ44に接続されるジョイント56が設けられる。ジョイント56は、ベースフレーム48がマニピュレータ44に対して上下方向を軸に回転可能となるように接続される。
【0053】
一対のアーム71は、ベースフレーム48の横方向(上下方向に垂直な方向)に離間して配置される。一対のアーム71の各々は、ベースフレーム48から上下方向に延びる基部と、基部から横方向に屈曲して延びる爪を有する。アーム71のベースフレーム48に対する回転を制御することで、一対のアーム71の爪が互いに近づく閉状態と、互いに離れる開状態とに制御できる。
【0054】
(トレイ)
図2は、トレイ1を上から見た上面図である。
図3は、
図2に示すトレイ1を矢印Fの方向から見た側面図である。トレイ1は、熱間プレスの素材(ワーク)の加熱搬送用トレイである。トレイ1は、ワークの加熱温度に耐えられるよう構成される。
図2に示す例では、トレイ本体2は、上下方向に垂直な面に沿って広がる形状を有し、上下に貫通する中空部2Gを含む。上から見て、中空部2Gの領域の方が、トレイ本体2の構成部材の領域より広い。トレイ1は、トレイ本体2から上方に延びる複数の支柱3を有する。複数の支柱3は、第1ワークW1を載置可能な第1支柱群3aと、第2ワークW2を、第1ワークW1の上方に載置可能な第2支柱群3bとを含む。第1支柱群3a及び第2支柱群3bは、いずれも、上から見てトレイ本体2の中空部2Gの間に位置している。
【0055】
(トレイ本体)
図2に示す例では、トレイ本体2は、枠2cと、枠2cの内側に架け渡される棒部材2fを有する。枠2cは、一対の縦枠2b及び一対の横枠2aを含む。一対の縦枠2bは、横方向に離間して平行に配置される。一対の横枠2aは、一対の縦枠2bの間で、縦方向に離間して平行に配置される。一対の縦枠2b及び横枠2aにより、上から見て長方形の枠2cを形成する。棒部材2fは、縦棒部材2dと、横棒部材2eを含む。縦棒部材2dは、一対の横枠2aの間に架け渡される。横棒部材2eは、一対の縦枠2bの間に架け渡される。枠2cの中に棒部材2fが格子状に配置される。
【0056】
棒部材2f(縦棒部材2d及び横棒部材2eの少なくとも一方)は、枠2cにおける位置を調整可能に構成されてもよい。例えば、枠2cに、位置決め穴又は係止片が複数設けられてもよい。この場合、棒部材2fが、枠2cの穴又は係止片に、必要に応じて締結具等を用いて固定される。棒部材2fを固定する穴又は係止片の位置を変えることで、枠2cにおける棒部材2fの位置を調整することができる。
【0057】
なお、トレイ本体2の構成は、
図2に示す例に限られない。例えば、トレイ本体は、離間して略平行に配置された一対の縦棒部材と、一対の縦棒部材の間に、一対の縦棒部材に交差する方向に架橋された複数の横棒部材を有する梯子形状に形成されてもよい。また、トレイ本体は、中空部として、複数の上下に貫通する穴を有する板状部材で形成されてもよい。
【0058】
トレイ本体2の構成部材(
図2の例では、枠2c及び棒部材2f)は、パイプ材であってもよいし、中実材であってもよい。また、トレイ本体2の構成部材は、断面がL字状のアングル材であってもよいし、断面がコの字状(U字状)のチャンネル材であってもよい。トレイ本体2の構成部材の材料は、特に限定されないが、耐熱性を有する材料、例えば、耐熱鋼等又はセラミックス等で形成される。構成部材の最高使用温度は、例えば、加熱装置で常用する900℃以上、加熱装置の上限設定温度である1050℃以下の範囲とすることが望ましい。構成部材として用いることのできる耐熱鋼(耐熱合金鋼)として、例えば、SCH22(0.4C-25Cr-20Ni)、SCH24(0.4C-25Cr-35Ni-Mo,Si)等が挙げられる。トレイ本体2の構成部材を耐熱合金鋼で形成すれば、加工や製作が容易となる。
【0059】
(支柱)
第1支柱群3aは、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が三角形を形成する少なくとも3本の支柱を含む。第2支柱群3bは、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が三角形を形成する少なくとも3本の支柱を含む。第2支柱群3bは、いずれも、上から見て第1支柱群3aとは異なる位置に配置される。第2支柱群3bは、いずれも、第1支柱群3aのうち最も低い支柱よりも高い。これにより、第1支柱群3aは、第1ワークW1を支持可能となる。また、第2支柱群3bは、第1支柱群3aに支持された第1ワークW1の上方において第2ワークW2を支持可能となる。
【0060】
第2支柱群3bは、上から見て第2ワークW2が置かれる領域であって、第1ワークW1が置かれる領域と重ならない領域に配置される。また、第2支柱群3bは、上から見て、第1ワークW1が置かれる領域と重ならないように構成される。すなわち、第2支柱群3bは、第1ワークW1が、搬送装置46によって上方に持ち上げられる際に、第1ワークW1が第2支柱群3bに引っ掛からないように構成される。
【0061】
第1支柱群3a及び第2支柱群3bの本数は、特に限定されない。第1支柱群3aの本数と、第2支柱群3bの本数は、同じでもよいし、異なっていてもよい。例えば、第1ワークW1及び第2ワークW2の特性や支持位置等を考慮して、第2ワークW2の支持を第1ワークW1より強化したい場合には、第2支柱群3bの本数を、第1支柱群3aの本数より多くしてもよい。
【0062】
第1支柱群3a及び第2支柱群3b(以下、特に区別しない場合は、単に支柱3と言う。)は、例えば、円柱又は角柱等の柱状若しくは、円錐又は角錐等の錐体状に形成される。支柱3は、中実材であってもよいし、パイプ材であってもよい。支柱3の材料は、特に限定されないが、耐熱性を有する材料、例えば、耐熱鋼等又はセラミックス等で形成される。支柱3の最高使用温度は、例えば、加熱装置で常用する900℃以上、加熱装置の上限設定温度である1050℃以下の範囲とすることが望ましい。支柱3の構成部材として用いることのできる耐熱鋼(耐熱合金鋼)として、例えば、SCH22(0.4C-25Cr-20Ni)、SCH24(0.4C-25Cr-35Ni-Mo,Si)等が挙げられる。支柱3は、トレイ本体2に固定される。例えば、支柱3は、トレイ本体2が有する穴に挿入された状態でトレイ本体2に取り付けられてもよい。この場合、例えば、支柱3の端部の外周に設けられた雄ねじとトレイ本体2の穴の内周の雌ねじが噛み合うことで支柱3がトレイ本体2に固定されてもよい。又は、支柱3がトレイ本体2の穴に圧入されてもよい。なお、支柱3の固定手段は、トレイ本体2の穴に限られない。他の固定手段により、支柱3がトレイ本体2に固定されてもよい。
【0063】
(第1ワーク及び第2ワークの配置例)
図2に示す例では、第1ワークW1は、上から見て縁(端)に切欠きを有する。第1ワークW1の切欠きに相当する領域に第2支柱群3bが配置される。このように、第1ワークW1の切欠き又は穴に相当する領域に第2支柱群3bを配置することで、上から見て第1ワークW1と重ならない領域に第2支柱群3bを配置することができる。例えば、第1ワークW1のロケート穴に相当する領域に第2支柱群3bの少なくとも1本を配置することができる。ロケート穴は、プレス成形時の第1ワークW1の位置決めに用いられる穴である。
【0064】
図4は、第1支柱群3a及び第2支柱群3bの配置の他の例を示す上面図である。
図5は、
図4に示すトレイ1を矢印Fの方向から見た側面図である。
図4及び
図5に示す例では、同じ形状の第1ワークW1と第2ワークW2が上から見てずれた位置に配置される。すなわち、上から見て、第2ワークW2の一部が第1ワークW1と重ならないように、第1ワークW1及び第2ワークW2が配置される。第2ワークW2の配置される領域であって、第1ワークW1が配置される領域と重ならない位置に、第2支柱群3bが配置される。この場合、第1ワークW1に、切り欠きや穴等を設けなくてもよい。
図4に示す例では、上から見ると、第1ワークW1の形状は、板面の法線方向を軸に第2ワークW2を180度回転した形状となっている。
【0065】
図2~
図5に示す例では、第2支柱群3bと第1支柱群3aの高さ(上下方向の長さ)の差はΔHである。このように、第1支柱3aとそれよりΔHだけ高い第2支柱3bの対を、少なくとも3対設けることができる。これにより、第1ワークW1の下面と第2ワークW2の下面がΔHだけ離間した状態で、上下方向に重なるよう配置することができる。例えば、
図2~
図5の例のように、第1ワークW1と第2ワークW2がいずれも平らな板である場合は、第1支柱群3aの全ての支柱の高さは同じであり、第2支柱群3bの全て支柱の高さは同じである。そのため、第2支柱群3bは、いずれも第1支柱群3aよりΔHだけ高くなっている。ΔHが第1ワークW1の板厚と等しい場合は、第1ワークW1の上面と第2ワークW2の下面は接触した状態となる。
【0066】
第1ワークW1及び第2ワークW2は、平らな板でなくてもよい。
図6及び
図7は、第1ワークW1及び第2ワークW2が、平らな板でない場合の支柱群の例を示す側面図である。
図6は、第1ワークW1及び第2ワークW2が同じ形状の中間成形品である場合の例を示す。この例では、第1ワークW1及び第2ワークW2が、いずれも、同じ断面形状のハット形状に加工されている。この例でも、第1支柱3aとそれよりΔHだけ高い第2支柱3bの対が、少なくとも3対設けられる。第1ワークW1の下面及び第2ワークW2の下面との上下方向の距離は、ΔHとなる。
【0067】
図7に示すように、第1ワークW1の断面形状と第2ワークW2の断面形状は、異なる形状であってもよい。この例においても、第1支柱3aとそれよりΔHだけ高い第2支柱3bの対が、少なくとも3対設けられる。
【0068】
トレイ1に載せられた第1ワークW1と第2ワークW2との距離は、第1支柱群3aと対応する第2支柱群3bの高さの差ΔHによって決まる。すなわち、ΔHによって、加熱中及び搬送中のトレイ1における第1ワークW1と第2ワークW2との上下方向の間隔D(距離)が決まる。加熱中及び搬送中のトレイ1における第1ワークW1と第2ワークW2の間隔Dの最大値は、例えば、100mm以下であることが好ましい。トレイ1に載せられた第1ワークW1と第2ワークW2が互いに輻射熱を受けあって温度低下を抑制する観点から、間隔Dは小さい方が好ましい。間隔Dの最大値は、50mm以下がより好ましく、30mm以下がさらに好ましく、10mm以下がさらにまた好ましい。間隔Dの下限は、特に限られないが、トレイ1への載置及び持ち上げの動作に必要な距離が間隔Dの下限となる。ΔHの好ましい範囲は、間隔Dの好ましい範囲に第1ワークW1の最大板厚を加えた値と同じである。例えば、第1ワークW1として、板厚3mm程度のワークを対象とする場合、ΔHの好ましい範囲を、3~103mmとすることができる。
【0069】
図8は、上から見た第1ワークW1と第2ワークW2の面積が異なる場合のトレイ1の例を示す上面図である。
図9は、
図8に示すトレイ1を矢印Fの方向から見た側面図である。
図8及び
図9に示す例では、第1ワークW1の板面の面積より、第2ワークW2の板面の面積の方が広い。このように、第1ワークW1と第2ワークW2は、サイズが異なっていてもよい。第2ワークW2は、第1ワークW1の全体と上下方向に重なっている。これにより、上から見て第2ワークW2の端(縁)は、第1ワークW1の端(縁)の外側に位置する。第2支柱群3bは、上から見て第2ワークW2の端と第1ワークW1の端の間の領域に配置される。すなわち、上から見て第2ワークW2の第1ワークW1と重なっていない領域に第2支柱群3bが配置される。これにより、第1ワークW1に切欠きや穴等を設けなくても第1支柱群3a及び第2支柱群3bにより第1ワークW1と第2ワークW2を上下に重ねた状態で支持することができる。この場合、上から見て、第1支柱群3aが配置される領域の外側の領域に第2支柱群3bが配置される。
【0070】
第2支柱群3bに置かれた第2ワークW2の上から見た場合の端と、第1支柱群3aに置かれた第1ワークW1の上から見た場合の端との距離ΔWは、特に限られないが、30mm以下であることが好ましい。ΔWが長すぎると、第2ワークW2の端部において第1ワークW1と重ならない領域が大きくなる。この場合、第2ワークW2の端部の温度降下を抑える効果が低くなる。この観点から、ΔWは、20mm以下がより好ましく、15mm以下がさらに好ましい。ΔWが短すぎると、第2支柱群3bを配置する領域を確保するのが難しくなる。この観点から、ΔWの最小値は、5mm以上が好ましく、8mm以上がより好ましく、10mm以上がさらに好ましい。
【0071】
なお、ΔWは、上から見て第2ワークW2の端の線に垂直な方向、(端の線が曲線の場合は法線の方向)における第2ワークW2の端から第1ワークW1の端までの距離とする。
【0072】
図8及び
図9は、第1ワークW1及び第2ワークW2がいずれも平らな板であるが、第1ワークW1及び第2ワークW2の少なくとも一方が平らな板でなく中間成形品であってもよい。この場合も、上から見た、第2支柱群3bに置かれた第2ワークW2の面積が、第1支柱群3aに置かれた第1ワークW1の面積より大きくなるよう配置することができる。
【0073】
図9に示す例では、第1ワークW1の板厚より、第2ワークW2の板厚の方が大きい。板厚が小さい方が、温度降下の速度が速くなる。そのため、板厚が小さい第1ワークW1の全体を板厚の大きい第2ワークW2と重ねて配置することで、第1ワークW1の温度降下抑制効果を高めることができる。結果として、第1ワークW1及び第2ワークW2の全体として温度降下抑制効果を高めることができる。なお、第1ワークW1と第2ワークW2の板厚は同じであってもよい。
【0074】
(差厚板の配置例)
第1ワークW1及び第2ワークW2の少なくとも一方は、厚肉部と薄肉部を含む差厚板であってもよい。
図10は、第1ワークW1及び第2ワークW2が差厚板である場合の例を示す側面図である。
図10に示す例では、第1支柱群3aに置かれた第1ワークW1の厚肉部と、第2支柱群3bに置かれた第2ワークW2の薄肉部が、上下方向において重なる。これにより、一方のワークの中で板厚が薄く温度が低下しやすい薄肉部に、他方のワークの中で熱容量が比較的大きい厚肉部が対向した状態で搬送される。そのため、両ワークの薄肉部の温度低下をより効果的に抑えることができる。このため、両ワーク全体の温度降下を効率良く抑制できるとともに、各々のワークの薄肉部と厚肉部の温度差を効率よく抑制できる。
【0075】
例えば、第1ワークW1及び第2ワークW2が、同じ形状で、同じ分布の薄肉部と厚肉部を有する場合、第1ワークW1を第1支柱群3aに載せた後、第2ワークW2の向きを、第1ワークW1の向きと異なるように上下方向を軸に(例えば、180度)回転させた状態で、第2ワークW2を第2支柱群3bに載せることができる。この時に、上から見て、第1ワークW1の厚肉部の少なくとも一部と、第2ワークW2の薄肉部の少なくとも一部が重なるように、第2ワークW2の向きすなわち回転量を調整することができる。
【0076】
なお、差厚板は、例えば、板厚の異なる鋼板の端部を突合せて接合したテーラードブランク材でもよい。又は、差厚板は、寸法の異なる鋼板を重ねて接合したパッチワーク・テーラードブランク材でもよい。或いは、差厚板は、1枚の鋼板を圧延等の加工によって部分的に板厚を変化させたテーラーロールドブランク材でもよい。
【0077】
(遮蔽板)
図11は、遮蔽板4(4A~4D)を備えるトレイ1の構成例を示す上面図である。
図12は、
図11に示すトレイ1を矢印Fの方向から見た側面図である。
図11及び
図12に示すトレイ1は、
図1及び
図2に示すトレイ1に、遮蔽板4(4A~4D)を追加した構成である。
図11に示すように、上から見てトレイ本体2の全周を囲むよう遮蔽板4A~4Dが設けられる。遮蔽板4は、上から見てトレイ本体2の短尺方向(短辺)を覆う一対の遮蔽板4A、4C、及び長尺方向(長辺)を覆う一対の遮蔽板4B、4Dを含む。
【0078】
図12に示すように、遮蔽板4A~4Dは、いずれも、第1支柱群3a及び第2支柱群3bのうち最も低い支柱の高さと最も高い支柱の高さの間の高さ領域を、側方(上下方向に垂直な方向)から覆う。すなわち、遮蔽板4A~4Dは、最も低い支柱より低い位置から最も高い支柱より高い位置まで延びて形成される。これにより、第1支柱群3aに載せられた第1ワークW1と第2支柱群3bに載せられた第2ワークW2との間の空間への空気の流入を遮蔽板4A~4Dにより妨げることができる。
【0079】
遮蔽板4A~4Dは、トレイ本体2に取り付けられる。
図12に示す例では、遮蔽板4B、4Dは、トレイ本体2の側面に接続され、上方に延びて形成される。遮蔽板4は、トレイ本体2に対して、例えば、溶接又はボルト等の締結部材によって接続される。遮蔽板4は、トレイ本体2に対して着脱可能であってもよい。
【0080】
図11及び
図12に示す例では、遮蔽板4A~4Dの各々は、中央部から端部に近づくにしたがって、支柱3すなわち第1ワークW1及び第2ワークW2に近づくよう傾斜する傾斜面を有する。言い換えれば、遮蔽板4A~4Dの各々は、中央部が外側に突出し、端部が中央部よりも内側に位置するよう湾曲した形状を有している。これにより、遮蔽板4に当たる空気をトレイ1に載せられた第1ワークW1及び第2ワークW2から遠ざかる方向に導くことができる。
図12に示すように、遮蔽板4B、4Dは、上から見ても側方から見ても、中央部が端部より外側に位置する構成である。
【0081】
なお、遮蔽板4の形状は上記例に限られない。例えば、遮蔽板4は、平らな板で形成されもよい。側面視又は平面視のいずれか一方で中央部が端部より外側に位置する形状であってもよい。
【0082】
遮蔽板4を設ける位置も、
図11及び
図12に示す例に限られない。
図11に示す例では、長尺方向を覆う遮蔽板4B、4Dと短尺方向を覆う遮蔽板4A、4Cが設けられる。長尺方向及び短尺方向の少なくとも一方を遮蔽板4で覆う構成であってもよい。長尺方向を遮蔽板4で覆うことにより、広い範囲で空気の流入を妨げることができる。また、少なくとも搬送方向の前方を遮蔽板4で覆う構成であってもよい。これにより、搬送中の空気の流入をより効率よく妨げることができる。
【0083】
[プレス成形品の製造工程例]
再び、
図1を参照して、上記の熱間プレス製造ライン10を用いてプレス成形品を製造する工程の例を説明する。本実施形態におけるプレス成形品の製造工程は、第1ワークW1及び第2ワークW2を加熱する加熱工程、第1ワークW1及び第2ワークW2を搬送する搬送工程、及び、第1ワークW1及び第2ワークW2をプレスするプレス工程を有する。
【0084】
(加熱工程)
加熱工程では、加熱装置14内で、第1ワークW1及び第2ワークW2がトレイ1に載せられた状態で加熱される。例えば、
図2~
図12に示したように、第1ワークW1が第1支柱群3aに載せられ、第2ワークW2が第2支柱群3bに載せられる。トレイ1に載せられた第1ワークW1と第2ワークW2は、上下方向に、すなわち第1ワークW1の板面の法線方向に重なる。
【0085】
トレイ本体2は、上下に貫通する中空部2Gを有する。そのため、トレイ1の下に熱源がある場合であっても、熱源から第1ワークW1及び第2ワークW2への熱の伝達がトレイ本体2によって妨げられにくくなる。
【0086】
第1ワークW1及び第2ワークW2を載せたトレイ1は、入口14Bから加熱装置14の加熱室に入る。トレイ1は、室内ローラー13によって、出口14Aへ搬送される。加熱装置14は、第1ワークW1及び第2ワークW2を搬送しながら、所定の加熱温度まで加熱する。この加熱温度は、例えば、第1ワークW1及び第2ワークW2を構成する鋼材のフェライトがオーステナイトへの変態を完了する温度であるAc3変態点以上とする。
【0087】
なお、加熱装置14に入れる前のトレイ1に、第1ワークW1及び第2ワークW2を順に重ねて置く搬送装置とマニピュレータが設けられてもよい。この搬送装置は、第1ワークW1をトレイ1の第1支柱群3aの上に置き、その後、第2ワークW2を第2支柱群3bの上に置く。この搬送装置は、例えば、
図1に示す第1ワークW1及び第2ワークW2を持ち上げてプレス位置へ置く搬送装置46と同様の構成とすることができる。この搬送装置は、加熱装置14の上流側に配置される。
【0088】
(第1搬送工程)
第1搬送工程では、第1ワークW1及び第2ワークW2がトレイ1に乗せられた状態で、加熱装置14から出され、搬送装置46への受け渡し場所、すなわち持ち上げ位置まで搬送される。これにより、第1ワークW1は第1支柱群3aの上に置かれ、第2ワークW2は第2支柱群3bの上に置かれ、且つ、第1ワークW1の上方に重ねて配置された状態で、トレイ1とともに加熱装置14から持ち上げ位置まで搬送される。加熱装置14の外において、トレイ1は、搬送ローラー26によってプレス機20の近くに搬送される。例えば、
図2~
図12に示したような態様で、第1ワークW1及び第2ワークW2がトレイ1に載せられて、加熱装置14から持ち上げ位置まで搬送される。第1搬送工程における第1ワークW1と第2ワークW2の位置関係は、加熱工程におけるそれらの位置関係と同じである。すなわち、トレイ1により、加熱時の第1ワークW1と第2ワークW2の位置関係を保ったまま、第1搬送工程において、第1ワークW1及び第2ワークW2を持ち上げ位置へ搬送することができる。これにより、搬送中の第1ワークW1及び第2ワークW2の温度降下が緩和される。また、搬送経路において、熱エネルギーを発生させるヒータ等の熱源を設けなくても、搬送中のワークの温度降下を緩和できる。そのため、簡便に温度降下を緩和できる。
【0089】
なお、トレイ1は、第1ワークW1及び第2ワークW2が搬送装置46により持ち上げられてプレス位置へ搬送された後は、別のワークの加熱工程及び搬送工程に使用されてもよい。
【0090】
(第2搬送工程)
第2搬送工程では、プレス機20の近傍において、第2支柱群3bに置かれた第2ワークW2が搬送装置46によって上方に持ち上げられ、その後、第1支柱群3aに置かれた第1ワークW1が搬送装置46によって持ち上げられる。上述したように、搬送装置46は、第1ワークW1をアーム71で保持した状態で上方に移動する。第1ワークW1は、第1支柱群3aに置かれた状態と同じ姿勢を保ったまま、上方に移動する。この時、第2支柱群3bは、第1支柱群3aに置かれた第1ワークW1と上から見て重ならないよう構成されるため、搬送装置46によって上方に持ち上げられる第1ワークW1に引っ掛からない。そのため、第1ワークW1を持ち上げるための制御又は装置構成を簡単にできる。
【0091】
なお、第2ワークW2を持ち上げる搬送装置と、第1ワークW1を持ち上げる搬送装置は、必ずしも同じ装置でなくてもよい。搬送装置46に持ち上げられた第1ワークW1及び第2ワークW2は、それぞれ、プレス位置にセットされる。プレス位置は、例えば、プレス機20の上金型21と下金型23の間となる。
【0092】
なお、第1ワークW1及び第2ワークW2がセットされるプレス位置は、同じであってもよいし、異なってもよい。また、1台のプレス機20の金型の異なる位置に、第1ワークW1及び第2ワークW2がセットされてもよい。また、プレス機20が2台あってもよい。この場合、2台のプレス機20のうち一方のプレス機の金型に第1ワークW1、他方のプレス機の金型に第2ワークW2がセットされてもよい。
【0093】
(プレス工程)
プレス機20は、第1ワークW1及び第2ワークW2を、上金型21及び下金型23でプレス成形する。ここで、プレス成形の対象となる第1ワークW1及び第2ワークW2は、加熱装置14によりAc3変態点以上に加熱された後、搬送テーブル16及び搬送装置46によりプレス位置まで搬送されたワークである。プレス機20は、この第1ワークW1及び第2ワークW2に対して、上金型21及び下金型23を用いたプレス成形を開始し、成形加工すると共に焼入れ処理を施すことができる。具体的には、プレス機20は、上金型21及び下金型23の間に第1ワークW1及び第2ワークW2を配置した状態で、上金型21を下金型23に相対的に近づけて下死点まで移動させ成形する。下死点に達した後、型締めした状態で、上金型21と下金型23が第1ワークW1及び第2ワークW2に接触して第1ワークW1及び第2ワークW2から急速に熱を奪う。これにより、第1ワークW1及び第2ワークW2をマルテンサイト変態又はベイナイト変態させる。その結果、第1ワークW1及び第2ワークW2を、上金型21及び下金型23に応じた形状でかつ焼入れされた成形品とすることができる。
【0094】
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、2つのワーク(第1ワークW1及び第2ワークW2)が、トレイ1に上下方向に重ねて載せる例を説明したが、3つ以上のワークを、トレイ1に上下方向に重ねて載せてもよい。
【0095】
[ワークの材料]
ワークの材料は、成形可能な金属であればよい。ワークの材料として、これらに限られないが、例えば、Fe系である炭素鋼やステンレス鋼等、Al系、およびTi系の材料等が挙げられる。また、ワークは、めっき層を有してもよい。例えば、ワークは、めっき鋼板であってもよい。めっき層としては、アルミニウム合金、アルミニウム系合金、亜鉛合金、または亜鉛系合金等のめっき層が挙げられる。
【0096】
ワークがめっき鋼板の場合、搬送中に酸化スケールが生じにくい点で、好ましい。トレイ1上で2つのワークW1、W2を上下に重ねて搬送中に、上側の第2ワークW2の下面で酸化スケールが形成されると、酸化スケールが脱落して下側の第1ワークW1の上面に落ちる可能性がある。また、下側の第1ワークW1の下面で形成された酸化スケールも、脱落する可能性がある。このような場合、下側の第1ワークW1の上面と下面の酸化スケールの付着量の差が、上側の第2ワークW2におけるその差よりも大きくなる可能性がある。スケール付着量の差は、プレス成形における金型とワークの表面との摩擦特性の差につながるおそれがある。その結果、ワーク毎に個別に金型調整や成形条件設定に対応する必要が生じるおそれがある。そこで、ワークをめっき鋼板とすることで、搬送中の酸化スケールの生成を抑え、ワークの特性のばらつきを抑えることができる。
【0097】
[間隔をあけて複数のワークを搬送することの効果]
上記の例では、第1ワークW1と第2ワークW2は、トレイ1上で、上下方向に間隔をあけて重なった状態で搬送される。これにより、各ワークの上面と下面の特性のばらつき、及び上側のワークと下側のワークの間での上面と下面の特性のばらつきを抑えることができる。
【0098】
第1ワークW1及び第2ワークW2を、隙間のない状態で重ねて搬送した場合、各ワークの重ね合わせ面と、その反対面で空気に触れる時間が異なる。この場合、第1及び第2ワークW1、W2が非めっき鋼板であると、上面と下面で酸化スケールの生じる量も異なる場合がある。上面と下面で酸化スケールの量が異なると、上面と下面の摩擦特性に差が生じる可能性がある。また、第1ワークW1と第2ワークW2では、重ね合わせ面およびその反対面の向きが上下逆となるため、第1ワークW1と第2ワークW2の間でも摩擦特性に差が生じる可能性がある。その結果、プレス成形における金型調整や成形条件設定に要する時間が増える可能性がある。また、めっき鋼板の第1ワークW1及び第2ワークW2を、加熱工程において、両ワーク間に隙間のない状態で重ねて加熱した場合、ワークの重ね合わせ面と反対面で昇温速度が異なり、温度履歴に差が生じる可能性がある。この場合、めっきと母材の合金化にワークの上下面で差が生じ、めっきの品質に差が生じる場合がある。そこで、第1ワークW1及び第2ワークW2を、間隔をあけて加熱及び搬送することで、ワークの上面と下面の摩擦特性やめっき品質等の特性のばらつきを低減できる。
【0099】
[熱間プレス製造ラインの変形例]
図13は、熱間プレス製造ライン10の変形例を示す図である。
図13に示す熱間プレス製造ライン10は、加熱装置14と、搬送テーブル16と、マニピュレータ44と、搬送装置46と、プレス機20と、コントローラ22とを備えている。
図13の熱間プレス製造ライン10において、搬送装置46以外は、
図1と同様に構成することができる。
【0100】
(搬送装置)
図14Aは、
図13の搬送装置46の横方向(y方向)から見た構成例を示す側面図である。
図14Bは、
図14Aの搬送装置46の第1アーム71が外側に開いた状態を示す図である。
【0101】
(ベースフレーム)
図14A及び
図14Bに示す例では、搬送装置46は、ベースフレーム48、ベースフレーム48に回転可能に取り付けられた一対の第1アーム71及び一対の第2アーム72を備える。ベースフレーム48の形状は、上から見ると長方形である。本例では、上下方向をz方向とする。上下方向に垂直な面内の方向を横方向とする。横方向のうち、ベースフレーム48の長尺方向をy方向、短尺方向をx方向とする。
【0102】
ベースフレーム48の上面には、マニピュレータ44に接続されるジョイント56が設けられる。ジョイント56は、ベースフレーム48がマニピュレータ44に対して上下方向を軸に回転可能となるように接続される。
【0103】
(第1アーム及び第2アーム)
一対の第1アーム71は、横方向(x方向)に離間して配置される。一対の第1アーム71の各々は、ベースフレーム48から上下方向に延びる第1基部71aと、第1基部71aから横方向に屈曲して延びる第1爪71bを有する。各第1アーム71は、y方向の回転軸60を中心に回転可能にベースフレーム48に取り付けられる。第1基部71aの一方端部がベースフレーム48に回転可能に接続され、他方端部から第1爪71bが延びる。
【0104】
一対の第2アーム72は、横方向(x方向)に離間して配置される。一対の第2アーム72の各々は、ベースフレーム48から上下方向に延びる第2基部72aと、第2基部72aから横方向に屈曲して延びる第2爪72bを有する。各第2アーム72は、y方向の回転軸60を中心に回転可能にベースフレーム48に取り付けられる。第2基部72aの一方端部がベースフレーム48に回転可能に接続され、他方端部から第2爪72bが延びる。
【0105】
一対の第1爪71bの上下方向における位置と、一対の第2爪72bの上下方向における位置は互いに異なっている。
図14A及び
図14Bに示す例では、上下方向において、第1基部71aの方が、第2基部72aより長くなっている。第1爪71bの方が、第2爪72bよりもベースフレーム48に遠い位置にある。
【0106】
図14A及び
図14Bに示す例では、第1アーム71の回転軸60と、第2アーム72の回転軸60は同軸である。これにより、ベースフレーム48に第1アーム71及び第2アーム72を効率よく配置することができる。なお、第1アーム71の回転軸60と、第2アーム72の回転軸60は同軸でなくてもよい。
【0107】
(駆動部)
一対の第1アーム71は、第1駆動部により駆動される。第1駆動部は、一対の第1アーム71をベースフレーム48に対して回転させることで、一対の第1爪71bの横方向(x方向)の距離を変化させる。
図14A及び
図14Bに示す例では、第1駆動部は、各第1アーム71に対して設けられるアクチュエータ82で構成される。
【0108】
アクチュエータ82は、例えば、エアシリンダである。アクチュエータ82は、軸方向に移動する作動軸82Aの延び出し量を調整する。作動軸82Aの端部には、ピン82Bが設けられる。ピン82Bは、第1アーム71に固定されたリンク90の長穴に移動及び回転自在に挿入されている。
【0109】
各アクチュエータ82が作動軸82Aを延び出した際には、
図14Aに示すように、対応する第1アーム71が下方へ延び、一対の第1アーム71の一対の第1爪71bが互いに近づいた閉状態となる。また、各アクチュエータ82が作動軸82Aを後退させた際には、
図14Bに示すように、一対の第1アーム71の一対の第1爪71bが互いに離れるよう移動して開状態となる。
【0110】
一対の第2アーム72は、第2駆動部(図示略)により駆動される。第2駆動部は、一対の第2アーム72をベースフレーム48に対して回転させることで、一対の第2爪72bの横方向(x方向)の距離を変化させる。第2アーム72を駆動する第2駆動部も、例えば、
図14A及び
図14Bに示すアクチュエータ82と同様のアクチュエータを備える構成とすることができる。一対の第2アーム72も、第2駆動部により、一対の第2爪72bが互いに近づいた閉状態、又は、一対の第2爪72bが、閉状態よりも互いに離れた開状態になるよう制御される。なお、第1駆動部及び第2駆動部のアクチュエータは、エアシリンダに限られず、例えば、モータ、又は、液圧シリンダであってもよい。
【0111】
一対の第1爪71bは、横方向に互いに近づいた状態すなわち閉状態で、第1ワークW1の横方向両端部の下面を支持可能である。一対の第2爪72bは、横方向に互いに近づいた状態すなわち閉状態で、第2ワークW2の横方向両端部の下面を支持可能である。
[プレス成形品の製造工程例]
図13に示す熱間プレス製造ライン10を用いてプレス成形品を製造する工程の例を説明する。プレス成形品の製造工程は、加熱工程、第1搬送工程、第2搬送工程及び、プレス工程を有する。加熱工程、第1搬送工程は、
図1に示す熱間プレス製造ライン10の製造工程と同様にすることができる。
【0112】
(加熱工程)
加熱工程では、加熱装置14において、第1ワークW1、及び第2ワークW2がトレイ本体2に載せられた状態で加熱される。第1ワークW1及び第2ワークW2が、第1ワークW1の板面の法線方向に重なる状態で加熱される。第1ワークW1は、第1支柱群3aの上に置かれる。第2ワークW2は、第2支柱群3bの上に置かれる。
【0113】
(第1搬送工程)
第1搬送工程では、第1ワークW1及び第2ワークW2が、トレイ本体2に載せられた状態で、搬送テーブル16によって、加熱装置14から搬送装置46による持ち上げ位置へ搬送される。
【0114】
(第2搬送工程)
第2搬送工程は、第1ワークW1及び第2ワークW2を搬送装置46が同時に持ち上げる工程、第1及び第2ワークW1、W2を搬送する工程、第1ワークW1をプレス位置へ降ろす工程、及び、第2ワークW2をプレス位置へ降ろす工程を含む。
【0115】
搬送装置46は、マニピュレータ44の動作により、トレイ1に載せられた第1ワークW1及び第2ワークW2に上方から近づく。この時、搬送装置46は、一対の第1アーム71及び一対の第2アーム72は開状態にする。搬送装置46は、上から見て一対の第2アーム72の間に、第2支柱群3bに置かれた第2ワークW2が位置した状態で、上方から第2ワークW2に近づく。搬送装置46は、第2アーム72の第2爪72bを第2支柱群3bに置かれた第2ワークW2の下方に潜り込ませられる高さまで近づくと、一対の第2アーム72を回転させて閉状態にする。これにより、一対の第2アーム72の第2爪72bを第2ワークW2の両端部の下面の下方へ潜り込ませる。搬送装置46は、第2アーム72の第2爪72bで第2ワークW2の下面を支持する状態となる。
図13及び
図14Bは、搬送装置46が、第2ワークW2を第2アーム72で支持した状態を示している。
【0116】
搬送装置46は、第2アーム72で第2ワークW2を支持した状態で、第1アーム71を回転させて閉状態にする。これにより、一対の第1アーム71の第1爪71bを第1ワークW1の両端部の下面の下方へ潜り込ませる。搬送装置46は、第1アーム71の第1爪71bで第1ワークW1の下面を支持する状態となる。この状態で、搬送装置46は、マニピュレータ44の動作により上方へ移動する。これにより、第1ワークW1及び第2ワークW2が同時に持ち上げられる。なお、本例では、第2アーム72が回転して第2ワークW2を支持する動作と、第1アーム71が回転して第1ワークW1を支持する動作を順次行っているが、これらは同時であってもよいし、順番が逆でもよい。
【0117】
搬送装置46は、一対の第1アーム71の爪で下面を支持された第1ワークW1と、一対の第2アーム72の爪で下面を支持された第2ワークW2を、第1ワークW1の板面の法線方向において互いに重なる状態で、搬送する。
【0118】
図13には、搬送装置46が、第1ワークW1をプレス位置へ置いた直後の様子が示されている。搬送装置46は、第1ワークW1を置く際、第1ワークW1を一対の第1アーム71の爪(第1爪71b)で支持した状態で、第1ワークW1のプレス位置に載置し、その位置で、第1アーム71を回転させて開状態とする。第1ワークW1を置く時に、搬送装置46は、第2アーム72で第2ワークW2を保持した状態を保っている。その後、搬送装置46は、第2ワークW2のプレス位置まで移動し、一対の第2アーム72を駆動して開状態とし、第2ワークW2を、プレス位置に置く。
【0119】
図13に示す例では、1つのプレス機の上金型21と下金型23に、2つのワークを配置し、2つのワークを同時にプレス成形する例である。この場合、上金型21と下金型23の間の異なるプレス位置に、第1ワークW1及び第2ワークW2がそれぞれ降ろされる。搬送装置46が、保持した2つのワークをそれぞれのプレス位置に降ろす態様はこれに限られない。例えば、2つのプレス機のそれぞれのプレス位置に、第1ワークW1及び第2ワークW2を、それぞれ降ろす態様であってもよい。
【0120】
(実験例)
鋼板を加熱し、加熱終了後の温度変化を、条件を変えて測定した。具体的には、下記の実験を行った。供試材として、板厚0.8mm及び1.6mmの1.5GPa級熱間プレス用鋼板を使用し、鋼板表面に熱電対を取り付けて温度を測定した。加熱炉で鋼板を950℃まで加熱し、加熱炉から出した後の空冷中の温度降下を計測した。板厚1.6mmの鋼板1枚を単独で加熱、放冷した条件を比較例1、板厚0.8mmの鋼板1枚を単独で加熱、放冷した条件を比較例2、板厚0.8mmの鋼板2枚を、板面の法線方向に重ね、所定の間隔Dだけ離して並べて固定した条件を実施例として測温を実施した。鋼板を2枚重ねた条件では、間隔Dを10mm、30mm、50mmの3水準とし、それぞれ実施例1、実施例2、実施例3とした。
図15は、温度測定位置を示す。鋼板の端から5mm、20mm、30mm、50mm、及び鋼板の中央の位置で、上下の鋼板の各々の温度を測定した。
【0121】
図16は、測定結果としての平均降温速度のグラフである。測定した温度降下曲線における800℃から750℃までの区間における平均降温速度を導出した。
図17は、平均降温速度の導出の対象とした範囲を示すグラフである。
図16に示す結果から、全ての測定位置で板厚0.8mmの鋼板1枚単独の条件である比較例1に対して、板厚0.8mmの鋼板2枚を上下に重ねた条件である実施例1~3の平均降温速度が低減できたことを確認した。また、鋼板を2枚重ねた場合、2枚の鋼板の間の間隔Dが小さい方が、鋼板の端部付近の平均降温速度を低減できるとともに、全ての測定位置で平均降温速度の改善効果が大きいことを確認した。間隔Dを50mmに設定した実施例3では、板厚0.8mmの鋼板1枚単独の条件である比較例1と板厚1.6mmの鋼板1枚単独の条件である比較例2の中間程度まで降温速度は改善した。間隔Dを10mmに設定した実施例1では、板厚1.6mmの鋼板1枚単独の比較例2と同程度まで降温速度は改善した。2枚重ねた鋼板の間の間隔Dを適切に設定することによって、板厚が2倍、すなわち熱容量が2倍の鋼板と同等の降温特性を得ることができた。
【0122】
上記の結果から、複数のワークを上下方向に重ねて搬送する際に、複数のワークの距離を適切に保つことが、降温速度を低減する観点から重要であることがわかった。上記の実施形態では、加熱工程及びその後の搬送工程において、トレイに載せた第1ワーク及び第2ワークの間隔を安定して保つことができる。そのため、第1及び第2ワークの温度降下を抑えつつ、簡便且つ効率よく搬送することができる。
【符号の説明】
【0123】
1 トレイ
2 トレイ本体
3 支柱
3a 第1支柱群
3b 第2支柱群
W1 第1ワーク
W2 第2ワーク