IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特許7332969プレス成形品の製造方法、加熱ワークの搬送装置、及び熱間プレス製造ライン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法、加熱ワークの搬送装置、及び熱間プレス製造ライン
(51)【国際特許分類】
   B21D 43/00 20060101AFI20230817BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20230817BHJP
   B30B 13/00 20060101ALI20230817BHJP
   B25J 13/00 20060101ALI20230817BHJP
   B25J 15/08 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
B21D43/00 E
B21D22/20 H
B30B13/00 D
B25J13/00 Z
B25J15/08 D
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2022544579
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2021030781
(87)【国際公開番号】W WO2022045057
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2020145072
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利哉
(72)【発明者】
【氏名】野村 成彦
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】巽 雄二郎
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/246396(WO,A1)
【文献】特表2016-524043(JP,A)
【文献】特表2014-525838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 43/00
B21D 22/20
B30B 13/00
B25J 13/00
B25J 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱装置により少なくとも2枚の板状のワークを同時に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程にて加熱された少なくとも2枚の加熱ワークを搬送装置によりプレス機まで搬送する搬送工程と、
前記搬送工程にて前記プレス機まで搬送された前記少なくとも2枚の加熱ワークを前記プレス機により加工するプレス工程と、を有し、
前記搬送工程は、
前記搬送装置が備えるベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第1アームを駆動して、前記一対の第1アームの爪で、前記少なくとも2枚の加熱ワークのうち第1加熱ワークの両端部の下面を支持して持ち上げる工程と、
前記搬送装置が備える前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第2アームを、前記一対の第1アームとは異なる系統で駆動して、前記一対の第2アームの爪で、前記少なくとも2枚の加熱ワークのうち第2加熱ワークの両端部の下面を支持して持ち上げる工程と、
前記搬送装置の前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークと、前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークを、前記第1加熱ワークの板面の法線方向において互いに重なる状態で、搬送する工程と、
前記一対の第1アームを駆動して、前記一対の第1アームに支持された前記第1加熱ワークを、前記プレス機のプレス位置に降ろす工程と、
前記一対の第2アームを、前記一対の第1アームとは異なる系統で駆動して、前記一対の第2アームに支持された前記第2加熱ワークを、前記プレス機のプレス位置に降ろす工程と、を含む、プレス成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記搬送工程において、前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークと、前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークとは、前記第1加熱ワークの板面の法線方向において、50mm以下の間隔で互いに重なる状態で搬送される、プレス成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記搬送工程において、前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークと前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークとの間の前記板面の法線方向における最大の間隔D(mm)と、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークの最も薄い部分の最小板厚t(mm)は、下記式の関係にある、プレス成形品の製造方法。
D≦60t
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記搬送装置で、前記板面の法線方向に重ねた状態で搬送される前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークのうち一方の板厚が他方より厚く、且つ、面積が大きい、プレス成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記搬送工程において、前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークと前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークは、搬送方向の前方が側方遮蔽板によって覆われた状態で搬送される、プレス成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記側方遮蔽板は、中央部から端部に近づくにしたがって、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークへ近くなるよう傾斜する傾斜面を有する、プレス成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークの少なくとも一方は、前記搬送装置で搬送される状態において、長尺方向と短尺方向を有し、
前記側方遮蔽板は、前記搬送工程において、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークの前記長尺方向を覆う、プレス成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記搬送工程において、前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークと前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークは、上方が上方遮蔽板によって覆われた状態で搬送される、プレス成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークは、厚肉部と薄肉部を含む差厚板であり、
前記搬送工程において、前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークの厚肉部と、前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークの薄肉部が、前記板面の法線方向において重なる状態で、搬送される、プレス成形品の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記加熱工程では、
前記加熱装置において、前記第1加熱ワークが、板状の蓄熱材の上方に置かれ、前記第1加熱ワークの板面の法線方向において前記蓄熱材と重なる状態で、且つ、前記第2加熱ワークが、前記蓄熱材の上方に置かれ、前記第2加熱ワークの板面の法線方向において前記蓄熱材と重なる状態で加熱され、
前記搬送工程は、前記蓄熱材と、前記蓄熱材の上方に置かれた前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを、前記蓄熱材とともに、前記加熱装置から前記搬送装置による持ち上げ位置に搬送する工程を含む、プレス成形品の製造方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記加熱工程では、
前記第1加熱ワークは、上から見て上下に貫通する中空部を有するトレイ本体から上方に延びる少なくとも3本の第1支柱群の上に置かれ、前記第2加熱ワークは、前記トレイ本体から上方に延びる少なくとも3本の第2支柱群の上に置かれ、且つ、前記第1加熱ワークの上方において、前記第1加熱ワークの板面の法線方向に前記第1加熱ワークと重ねて配置された状態で、前記加熱装置で加熱され、
前記搬送工程では、
前記第1加熱ワークが前記第1支柱群の上に置かれ、前記第2加熱ワークが前記第2支柱群の上に置かれ、且つ、前記第1加熱ワークの上方において、前記第1加熱ワークの板面の法線方向に前記第1加熱ワークと重ねて配置された状態で、前記トレイ本体とともに、前記加熱装置から前記搬送装置による持ち上げ位置に搬送する工程を含む、プレス成形品の製造方法。
【請求項12】
上下方向に垂直な横方向に移動可能なベースフレームと、
前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第1アームと、
前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第2アームと、
前記第1アームを駆動する第1駆動部と、
前記第2アームを駆動する第2駆動部と、
を備え、
前記一対の第1アームは、前記ベースフレームの横方向に並び、前記ベースフレームから上下方向に延びる一対の第1基部と、前記一対の第1基部の各々から横方向に屈曲して延びる第1爪を有し、
前記一対の第2アームは、前記ベースフレームの横方向に並び、前記ベースフレームから上下方向に延びる一対の第2基部と、前記一対の第2基部の各々から横方向に屈曲して延びる第2爪を有し、
前記第1駆動部は、前記一対の前記第1アームを前記ベースフレームに対して回転させることで、前記一対の第1爪の横方向の距離を変化させ、
前記第2駆動部は、前記一対の前記第2アームを前記ベースフレームに対して回転させることで、前記一対の第2爪の横方向の距離を変化させ、
前記第1駆動部及び前記第2駆動部は、互いに独立して、前記第1アームの回転及び前記第2アームの回転をそれぞれ制御可能に構成され、
前記一対の第1爪は、横方向に互いに近づいた状態で、第1加熱ワークの横方向両端部の下面を支持可能であり、
前記一対の第2爪は、横方向に互いに近づいた状態で、第2加熱ワークの横方向両端部の下面を支持可能であり、
前記一対の第1爪の上下方向における位置と、前記一対の第2爪の上下方向における位置は互いに異なっている、加熱ワークの搬送装置。
【請求項13】
請求項12に記載の加熱ワークの搬送装置であって、
前記一対の第1爪と、前記一対の第2爪は、上下方向において、前記第1爪と前記第2爪のうち下方に位置する爪で支持される加熱ワークの最大板厚に加えて0~50mmの距離だけ離れている、加熱ワークの搬送装置。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の加熱ワークの搬送装置であって、
前記一対の第1爪及び前記一対の第2爪の両方を横方向から覆う側方遮蔽板をさらに備える、加熱ワークの搬送装置。
【請求項15】
請求項14に記載の加熱ワークの搬送装置であって、
前記側方遮蔽板は、中央部から端部に近づくに従って、前記一対の第1爪及び前記一対の第2爪に近くなるよう傾斜する面を有する、加熱ワークの搬送装置。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか1項に記載の加熱ワークの搬送装置であって、
前記一対の第1爪及び前記一対の第2爪の両方を上方から覆う上方遮蔽板をさらに備える、加熱ワークの搬送装置。
【請求項17】
請求項12~16のいずれか1項に記載の加熱ワークの搬送装置であって、
前記ベースフレームは、前記上下方向を軸に180度回転可能である、加熱ワークの搬送装置。
【請求項18】
請求項12~17のいずれか1項に記載の加熱ワークの搬送装置であって、
前記一対の第1爪と、前記一対の第2爪の上下方向における距離が調節可能である、加熱ワークの搬送装置。
【請求項19】
請求項12~18のいずれか1項に記載の加熱ワークの搬送装置であって、
前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第3アームと、
前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第4アームと、
前記第3アームを駆動する第3駆動部と、
前記第4アームを駆動する第4駆動部と、
を備え、
前記一対の第3アームは、前記ベースフレームの横方向且つ前記一対の第1基部の並ぶ方向に垂直な方向に並び、前記ベースフレームから上下方向に延びる一対の第3基部と、前記一対の第3基部の各々から横方向に屈曲して延びる第3爪を有し、
前記一対の第4アームは、前記ベースフレームの横方向且つ前記一対の第2基部の並ぶ方向に垂直な方向に並び、前記ベースフレームから上下方向に延びる一対の第4基部と、前記一対の第4基部の各々から横方向に屈曲して延びる第4爪を有し、
前記第3駆動部は、前記一対の前記第3アームを前記ベースフレームに対して回転させることで、前記一対の第3爪の横方向の距離を変化させ、
前記第4駆動部は、前記一対の前記第4アームを前記ベースフレームに対して回転させることで、前記一対の第4爪の横方向の距離を変化させ、
前記一対の第1爪の上下方向における位置と、前記一対の第3爪の上下方向における位置は同じであり、
前記一対の第2爪の上下方向における位置と、前記一対の第4爪の上下方向における位置は同じである、加熱ワークの搬送装置。
【請求項20】
熱間プレス製造ラインであって、
請求項12~19のいずれか1項に記載の搬送装置と、
前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを加熱する加熱装置と、
前記加熱装置で加熱された前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークが置かれる台と、
少なくとも2組の一対の金型を有する、少なくとも1台のプレス機と、
前記搬送装置を、前記台の上方の位置と、前記少なくとも2組の一対の金型の間のプレス位置の間で移動させる移動装置とを備えた、熱間プレス製造ライン。
【請求項21】
請求項20に記載の熱間プレス製造ラインであって、
前記加熱装置で前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを加熱する際に、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを載せるトレイをさらに備え、
前記トレイは、
トレイ本体と、
前記トレイ本体の上に置かれた板状の蓄熱材と、
前記トレイ本体又は前記蓄熱材から上方に延びる少なくとも3本の第1支柱群か、又は、前記蓄熱材から上方に突出し、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを載置可能な前記蓄熱材の凸部と、を備え、
前記第1支柱群は、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置される、熱間プレス製造ライン。
【請求項22】
請求項20に記載の熱間プレス製造ラインであって、
前記加熱装置で前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを加熱する際に、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを載せるトレイをさらに備え、
前記トレイは、
上下方向に垂直な面に沿って広がる形状を有し、上下に貫通する中空部を含むトレイ本体と、
前記トレイ本体から上方に延びる支柱群とを備え、
前記支柱群は、
板状の前記第1加熱ワークの下面を支持可能に構成された少なくとも3本の第1支柱群と、
前記第1支柱群に支持された前記第1加熱ワークの上方に位置する前記第2加熱ワークの下面を支持可能に構成された少なくとも3本の第2支柱群とを含み、
前記第1支柱群は、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置され、
前記第2支柱群は、上から見て前記第1支柱群とは異なる位置に配置され、且つ、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置され、且つ、前記第2支柱群は、いずれも前記第1支柱群のうち最も低い支柱よりも高い、熱間プレス製造ライン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形品の製造方法、加熱ワークの搬送装置、及び熱間プレス製造ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の温度まで加熱した素材をプレス機でプレスする技術が用いられている。例えば、熱間プレスでは、素材である熱間プレス用鋼板をオーステナイト域(約900℃以上)まで加熱し,熱間でプレス成形する。これにより、成形加工とともに焼入れ処理を施し、例えば1500MPa級以上の強度を有するプレス成形品を得ることができる。一般的な熱間プレスでは、焼入れはプレス成形時に金型との接触熱伝達により急冷されることで施される。このため、十分な焼入れの効果を得るためには、焼入れ開始温度におおよそ相当するプレス成形開始時の素材の温度を所定温度以上に確保する必要がある。この場合、プレス成形開始時の所定温度は、素材にもよるが、例えば700℃以上である。
【0003】
特許第5910305号公報及び特許第5910306号公報には、重ね合わせられた導電性の複数の板状ワークに電極を取り付けて通電することにより複数の板状ワークを加熱する工程を有する熱間プレス成形方法が開示されている。加熱された複数の板状ワークを通電位置とは異なる所定のプレス位置に配置される。プレス位置に配置された複数の板状ワークはそれぞれプレス成形される。複数の板状ワークを通電によって同時に加熱することで、生産性の向上が図られる。
【0004】
特開2019-177394号公報に開示の熱間プレス加工方法では、第1ワークと第2ワークを各々互いに重ねることなく加熱して、上型と下型の間に搬入し、第1ワークの上に第2ワークが重なった姿勢にして、上型を下降させてプレスする。プレス工程の前後において、上型とは独立して型具を下降させ、第1ワーク及び第2ワークを塑性変形させる。これにより、第1ワークと第2ワークの重なり部分が互いに係合してずれない状態となる。また、第1ワークを運搬するアームと、第2ワークを運搬するホルダを備える搬入装置が開示されている。
【0005】
上記従来技術においては、ワークの搬送中に熱が放散してワークの温度が低下する。その結果、ワークをプレス機の金型に搬入する際にワークに必要な温度を維持できず、プレス成形品の焼き入れが十分になされないおそれがある。
【0006】
そこで、特許第5814669号公報には、ホットプレスを行う生産ラインの各工程間で加熱状態のパネル状被搬送物を保持して搬送するホットプレス用搬送装置が開示されている。ホットプレス用搬送装置は、加熱状態の被搬送物を保温カバーで覆いながら搬送する。これにより、搬送中の被搬送物を焼き入れに必要な温度に維持する。
【0007】
また、特許第4673656号公報に開示の熱間プレス成形装置は、被加工材である金属板の加熱装置として、誘導加熱又は通電加熱による1次加熱手段と、輻射伝熱による2次加熱手段とを有する。1次加熱手段から熱間プレス成形金型までの搬送装置に、輻射伝熱による2次加熱手段が配置される。輻射伝熱による2次加熱により、金属板を均一に加熱でき、金属板の温度偏差を少なくできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5910305号公報
【文献】特許第5910306号公報
【文献】特開2019-177394号公報
【文献】特許第5814669号公報
【文献】特許第4673656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明者らは、熱間プレスの素材を薄肉化すると、素材を加熱した後にプレス機まで搬送する間の温度降下がプレス成形品の品質に影響し得ることに気付いた。そこで、搬送中の素材の温度降下を抑える方法を検討した。検討において、上記従来技術のように、搬送中の素材を保温カバーで覆うだけでは、十分に温度降下を抑えるのが難しい場合があることがわかった。また、搬送中に、素材を加熱する2次加熱手段を設けることも考えられる。しかし、この場合、2次加熱手段のための熱源を含む設備を搬送経路上に追加する必要がある。これにより、設備が大型化するとともに、設備コストや運転コストの増大に繋がる可能性がある。
【0010】
そこで、本願は、熱間プレス成形における素材の加熱後からプレス成形を開始するまでの搬送時間において、素材の温度降下を、簡便に緩和することができるプレス成形品の製造方法及び加熱ワークの搬送装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態におけるプレス成形品の製造方法は、加熱装置により少なくとも2枚の板状のワークを同時に加熱する加熱工程と、前記加熱工程にて加熱された少なくとも2枚の加熱ワークを搬送装置によりプレス機まで搬送する搬送工程と、前記搬送工程にて前記プレス機まで搬送された少なくとも2枚の前記加熱ワークを前記プレス機により加工するプレス工程と、を有する。前記搬送工程は、前記搬送装置が備えるベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第1アームを駆動して、前記一対の第1アームの爪で、前記少なくとも2枚の加熱ワークのうち第1加熱ワークの両端部の下面を支持して持ち上げる工程と、前記搬送装置が備える前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第2アームを、前記一対の第1アームとは異なる系統で駆動して、前記一対の第2アームの爪で、前記少なくとも2枚の加熱ワークのうち第2加熱ワークの両端部の下面を支持して持ち上げる工程と、前記搬送装置の前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークと、前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークを、前記第1加熱ワークの板面の法線方向において互いに重なる状態で、搬送する工程と、前記一対の第1アームを駆動して、前記一対の第1アームに支持された前記第1加熱ワークを、前記プレス機のプレス位置に降ろす工程と、前記一対の第2アームを、前記一対の第1アームとは異なる系統で駆動して、前記一対の第2アームに支持された前記第2加熱ワークを、前記プレス機のプレス位置に降ろす工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、熱間プレス成形における素材の加熱後からプレス成形を開始するまでの搬送時間において、素材の温度降下を、簡便に緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態に係る熱間プレス製造ラインを示す概略を示す平面図である。
図2A図2Aは、図1の搬送装置のy方向から見た構成例を示す側面図である。
図2B図2Bは、図2Aの搬送装置の第2アーム72が外側に開いた状態を示す図である。
図3図3は、図1の搬送装置のx方向から見た構成例を示す側面図である。
図4図4は、第1~第4駆動部の制御系統例を説明するための図である。
図5図5は、加熱工程の例を示す図である。
図6図6は、第1加熱ワークを搬送装置が持ち上げる工程の例を示す図である。
図7図7は、第2加熱ワークを搬送装置が持ち上げる工程の例を示す図である。
図8図8は、ワークを搬送し、プレス位置へ配置する工程の例を示す図である。
図9図9は、第1加熱ワーク及び第2加熱ワークが中間成形品の場合の例を示す図である。
図10図10は、第1加熱ワークと第2加熱ワークのサイズが異なる場合の例を示す図である。
図11図11は、第1加熱ワークと第2加熱ワークの形状が異なる場合の例を示す図である。
図12図12は、遮蔽板を搬送装置に設けた例を示す図である。
図13図13は、遮蔽板を搬送装置に設けた他の例を示す図である。
図14図14は、遮蔽板の形状の変形例を示す図である。
図15図15は、遮蔽板を搬送装置に設けた他の例を示す図である。
図16図16は、差厚板を搬送する搬送装置の例を示す図である。
図17図17は、第1アーム及び第2アームの変形例を示す図である。
図18図18は、第1アーム及び第2アームの他の変形例を示す図である。
図19図19は、搬送装置による加熱ワークの支持構造の変形例を示す図である。
図20図20は、図19に示す第1及び第2加熱ワークを示す斜視図である。
図21図21は、搬送装置による加熱ワークの支持構造の変形例を示す図である。
図22図22は、図21に示す第1及び第2加熱ワークを示す斜視図である。
図23図23は、図21に示す第1及び第2加熱ワークの変形例を示す図である。
図24図24は、搬送装置による加熱ワークの支持構造の変形例を示す図である。
図25図25は、図24に示す第1及び第2加熱ワークを示す斜視図である。
図26図26は、図24に示す第1及び第2加熱ワークの変形例を示す図である。
図27図27は、図1に示す熱間プレス製造ライン10の変形例を示す図である。
図28図28は、図27に示すトレイ1を上から見た上面図である。
図29図29は、図28に示すトレイを矢印Fの方向から見た側面図である。
図30図30は、図1に示す熱間プレス製造ライン10の変形例を示す図である。
図31図31は、図30に示すトレイ1を上から見た上面図である。
図32図32は、図31に示すトレイを矢印Fの方向から見た側面図である。
図33図33は、実験例1における温度測定位置を示す。
図34図34は、測定結果としての平均降温速度のグラフである。
図35図35は、平均降温速度の導出の対象とした範囲を示すグラフである。
図36図36は、実験例2で使用した遮蔽板の構成を示す図である。
図37図37は、測定結果としての平均降温速度のグラフである。
図38図38は、平均降温速度の導出の対象とした範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
熱間プレス成形において、プレス成形開始時の温度は、素材の加熱温度、及び素材の加熱後にプレス成形用の金型まで搬送する時間内にどれだけ温度が降下するかにより左右される。素材の加熱温度については、冶金的な条件によって決まる。また、加熱後の金型までの搬送時間については設備構成や仕様によって決まる。その搬送の間の温度の降下量は、素材の熱容量に依存する。例えば、鋼板の場合は主に表裏面からの大気への熱伝達と熱放射(輻射)によって熱が逃げる。発明者らは、温度の降下量は、素材の板厚に大きく依存することを見出した。すなわち、前述のように素材の板厚が薄くなっていくと,同じ搬送時間でも温度の下降量が大きくなり、焼入れに必要な成形開始温度を確保することが困難になる場合がある。その結果、プレス成形品に必要な部品強度が得られなくなる場合が生じ得る。
【0015】
発明者らは、熱源を追加せずに、搬送時の温度降下を抑制する方法を検討した。検討の結果、同時に加熱した複数の板状の素材(ワーク)を、板の面に垂直な方向(面直方向)に並べて同時に搬送する構成に想到した。この構成により、向かい合う加熱ワーク同士が互いの輻射熱を受けることで、熱量を補填し合うことができる。さらに、向かい合う加熱ワーク同士の間の空間には、両加熱ワークからの熱伝達により暖められた空気が滞留することによる保温効果を得ることができる。その結果、搬送中の温度降下を緩和することができる。
【0016】
発明者らは、加熱した複数の板状のワークを面直方向に並べて搬送するための方法及び装置について検討した。搬送装置は、加熱装置で加熱された複数のワークのそれぞれに対して面直方向からアクセスして持ち上げ、複数のワークを面直方向に重ねて保持する。また、温度降下を抑制するためには、搬送中の複数のワーク間の距離が近く、且つ面直方向に重なる部分が多い方が好ましい。また、搬送中の複数のワークの端部付近の温度降下が、ワーク間の距離に影響を受けやすいことがわかった。これらを踏まえて、鋭意検討した結果、温度降下を抑えつつ、簡便且つ効率よく搬送するには、吸着パッドは適切でないことがわかった。すなわち、面直方向に重なる部分が多い複数のワークを、ワーク間の距離を近い状態で保持して搬送する場合、吸着パッドでは最も上部にあるワークしか保持できない。また、吸着パッドとワークとの接触部においてパッドによる抜熱が生じるため、パッドの接触面積に相当する温度低下領域が生じる。ワークを保持して搬送するためには吸着パッドの小型化には限界がある。そのため、板厚が薄いワークに用いた場合、パッドの接触による温度低下領域と温度低下量は、成形品の焼き入れの品質において無視することができなくなる。発明者らは、複数のワークそれぞれの両端部の下面を支持する一対のアームを複数対備える構成の搬送装置を用いることで、搬送中に複数のワークの距離を安定して小さく保つことができる構成に想到した。この構成により、複数のワークを、ワークの配置位置によらず同等の条件で保持できるとともに、複数のワーク間を温度降下抑制の観点から適切な位置で保持し搬送できることを見出した。また、この構成により、複数のワークの持ち上げ及び降下を効率よくできる。下記実施形態は、この知見に基づくものである。
【0017】
(製造方法1)
本発明の実施形態におけるプレス成形品の製造方法は、加熱装置により少なくとも2枚の板状のワークを同時に加熱する加熱工程と、前記加熱工程にて加熱された少なくとも2枚の加熱ワークを搬送装置によりプレス機まで搬送する搬送工程と、前記搬送工程にて前記プレス機まで搬送された少なくとも2枚の前記加熱ワークを前記プレス機により加工するプレス工程と、を有する。前記搬送工程は、
前記搬送装置が備えるベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第1アームを駆動して、前記一対の第1アームの爪で、前記少なくとも2枚の加熱ワークのうち第1加熱ワークの両端部の下面を支持して持ち上げる工程と、
前記搬送装置が備える前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第2アームを、前記一対の第1アームとは異なる系統で駆動して、前記一対の第2アームの爪で、前記少なくとも2枚の加熱ワークのうち第2加熱ワークの両端部の下面を支持して持ち上げる工程と、
前記搬送装置の前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークと、前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークを、前記第1加熱ワークの板面の法線方向において互いに重なる状態で、搬送する工程と、
前記一対の第1アームを駆動して、前記一対の第1アームに支持された前記第1加熱ワークを、前記プレス機のプレス位置(第1プレス位置)に降ろす工程と、
前記一対の第2アームを、前記一対の第1アームとは異なる系統で駆動して、前記一対の第2アームに支持された前記第2加熱ワークを、前記プレス機のプレス位置(第2プレス位置)に降ろす工程と、を含む。第1プレス位置は、第2プレス位置と異なる位置であってもよい。
【0018】
上記製造方法1においては、第1加熱ワークの両端部の下面を一対の第1アームの爪で支持し、且つ、第2加熱ワークの両端部の下面を一対の第2アームの爪で支持した状態で搬送する。これにより、簡便な装置構成により、第1加熱ワークと第2加熱ワークが、互いに効率よく熱輻射を受けられる状態で搬送することができる。第1加熱ワーク及び第2加熱ワークの両端部をそれぞれ、第1爪及び第2爪で支持するため、2つのワークの両端部における間隔を安定して保つことができる。すなわち、第1爪、第2爪は第1加熱ワーク、第2加熱ワークを下から支持することで保持するため、その先端は比較的単純で細い形状とすることができる。また、吸着パッドによる保持方法に比べて、ワーク間の距離を近い状態で保持しやすい。さらに、複数のワークを、ワークの配置位置によらず同等の条件で保持することができる。このため、例えば、第1加熱ワーク及び第2加熱ワークの面直方向に重なる領域が多くでき、且つ第1加熱ワーク及び第2加熱ワークの間隔を安定して小さく維持できる。また、第1アームと第2アームを異なる系統で駆動するため、第1加熱ワーク及び第2加熱ワークを順次、持ち上げることができ、第1加熱ワーク及び第2加熱ワークを順次、異なるプレス位置に下ろすこともできる。このように、上記製造方法では、第1及び第2加熱ワークの温度降下を抑えつつ、簡便且つ効率よく搬送することができる。すなわち、熱間プレス成形における素材の加熱後からプレス成形を開始するまでの搬送時間において、ワーク(素材)の温度降下を、簡便に緩和することができる。
【0019】
(製造方法2)
上記製造方法1の前記搬送工程において、前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークと、前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークとは、前記第1加熱ワークの板面の法線方向において、50mm以下の間隔で互いに重なる状態で搬送されることが好ましい。これにより、搬送中の加熱ワークの温度降下が効果的に抑制される。加熱ワーク間の距離が広すぎると、第1及び第2加熱ワークの端部において、一方の加熱ワークから板面の法線に対して傾斜した方向に発せられる熱輻射のうち、対面の他方の加熱ワークに到達しない熱輻射の割合が大きくなる。その結果、温度降下の緩和効果が十分に得られなくなる可能性がある。また、加熱ワーク間の距離が広すぎると、両加熱ワークからの熱伝達により暖められる空気が両加熱ワークの間に滞留しにくくなり、十分な保温効果が得られなくなる可能性がある。
【0020】
上記製造方法1又は2の前記搬送工程において、前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークと、前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークとは、前記第1加熱ワークの板面の法線方向において、間隔をあけて互いに重なる状態で搬送されることが好ましい。これにより、搬送中に、第1加熱ワークと第2加熱ワークの各々の上面と下面が空気に触れる。そのため、第1加熱ワーク及び第2加熱ワークが互いに接触する場合に比べて、搬送における上面と下面の条件の差異が小さくなる。結果として、第1加熱ワーク及び第2加熱ワークの各々の上面と下面の品質の差を抑えることができる。
【0021】
互いに重ねて搬送される前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークのうち上側で支持される加熱ワークの前記アームの爪で支持される支持部において、前記第1加熱ワークと前記第2加熱ワークの、前記第1加熱ワークの板面の法線方向における間隔は、例えば、3mm以上であることが好ましい。例えば、第1加熱ワークと第2加熱ワークが、上から見た形状が等しく、さらに第1加熱ワークの板面の法線方向に重なっている場合は、第1加熱ワークと第2加熱ワークのうち上側にある加熱ワークを支持する一対のアームの爪は、上側の加熱ワークと下側の加熱ワークの間に挿入されることになる。そのため、加熱ワーク間の間隔が狭すぎると、それに合わせて、上側の加熱ワークの下面を支持するアームの部分の厚さを薄くする必要が生じる。その結果、加熱ワークを支える強度を保てなくなる可能性がある。そこで、少なくとも、上側で支持される加熱ワークの爪で支持される部分において、第1加熱ワークと第2加熱ワークの間隔を3~50mmとしてもよい。
【0022】
(製造方法3)
上記製造方法1の前記搬送工程において、前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークと、前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークとの間の前記板面の法線方向における最大の間隔D(mm)と、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークの最も薄い部分の最小板厚t(mm)は、下記式の関係にあることが好ましい。これにより、搬送中の加熱ワークの温度降下が効果的に抑制される。
D≦60t
【0023】
(製造方法4)
上記製造方法1~3のいずれかにおいて、前記搬送装置で前記板面の法線方向に重ねた状態で搬送される前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークのうち一方の板厚が他方より厚く、且つ、面積が大きいことが好ましい。これにより、板厚の薄いワークの温度降下を効率よく抑制することができる。
【0024】
(製造方法5)
上記製造方法1~4のいずれかの前記搬送工程において、前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークと前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークは、搬送方向の前方が側方遮蔽板によって覆われた状態で搬送されることが好ましい。遮蔽板により、加熱ワークの搬送方向の前面に正面から空気が当たることを防ぐことができるため、搬送方向の前面の加熱ワークの端面からの温度低下を緩和できるとともに、両加熱ワークからの熱伝達により暖まった両加熱ワーク間の滞留空気が外部へ移動することを抑制し、保温効果を保つことができる。このため、搬送中の加熱ワークの温度降下がより抑制される。
【0025】
(製造方法6)
上記製造方法5において、前記側方遮蔽板は、中央部から端部に近づくにしたがって、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークへ近くなるよう傾斜する傾斜面を有することが好ましい。これにより、遮蔽板に当たった空気が、傾斜面に沿って第1及び第2加熱ワークから離れる方向に流れる。そのため、搬送中の加熱ワークの温度降下抑制効果が高まる。
【0026】
(製造方法7)
上記製造方法1~6のいずれかの前記搬送工程において、前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークと前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークは、上方が上方遮蔽板によって覆われた状態で搬送されることが好ましい。暖められた空気は上方へ移動しようとするため、下側の加熱ワークの下方では、下側の加熱ワークからの熱伝達により暖められた空気が滞留しやすいため、遮蔽板が無くても下側の加熱ワークの下面に対する保温効果が得られる。一方、上側の加熱ワークの上方では、上側の加熱ワークからの熱伝達により暖められた空気は上方へ移動していくため、これによる保温効果はほとんど得られない。上側の加熱ワークの上方に遮蔽板を設置することで、上側の加熱ワークと上方遮蔽板の間に上側の加熱ワークからの熱伝達により暖められた空気を滞留させることができる。この暖められた滞留空気によって上側の加熱ワークの上面に対する保温効果を得ることができる。これにより、搬送中の上側の加熱ワークの温度降下抑制効果をより高めることができる。
【0027】
前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークの上方を覆う上方遮蔽板と、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークのうち上側で支持される加熱ワークとの前記板面の法線方向における距離は、例えば、200mm以内であることが好ましく、100mm以内であることがより好ましい。これにより、上方遮蔽板による温度降下抑制効果をより高めることができる。
【0028】
前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークの上方を覆う上方遮蔽板は、前記ベースフレームと、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークのうち上側で支持される加熱ワークとの間に配置されてもよい。これにより、加熱ワークの上方の近い位置に上方遮蔽板を配置できる。結果として、上方遮蔽板による温度降下抑制効果をより高めることができる。
【0029】
(製造方法8)
上記製造方法5~7のいずれかにおいて、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークの少なくとも一方は、前記搬送装置で搬送される状態において、長尺方向と短尺方向を有してもよい。この場合、前記側方遮蔽板は、前記搬送工程において、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークの前記長尺方向を覆うことができる。長尺方向を側方遮蔽板で覆うことで、搬送中の加熱ワークの温度降下抑制効果をより高めることができる。
【0030】
(製造方法9)
上記製造方法1~8のいずれかにおいて、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークは、厚肉部と薄肉部を含む差厚板であってもよい。この場合、前記搬送工程において、前記一対の第1アームの爪で両端部の下面を支持された前記第1加熱ワークの厚肉部と、前記一対の第2アームの爪で両端部の下面を支持された前記第2加熱ワークの薄肉部が、前記板面の法線方向において重なる状態で、搬送されることが好ましい。これにより、厚肉部と薄肉部が熱量を補填し合って、全体として効率よく温度降下を抑制することができる。
【0031】
(製造方法10)
上記製造方法1~9のいずれかにおいて、前記加熱工程では、前記加熱装置において、前記第1加熱ワークが、板状の蓄熱材の上方に置かれ、前記第1加熱ワークの板面の法線方向において前記蓄熱材と重なる状態で、且つ、前記第2加熱ワークが、前記蓄熱材の上方に置かれ、前記第2加熱ワークの板面の法線方向において前記蓄熱材と重なる状態で加熱されてもよい。前記搬送工程は、前記蓄熱材と、前記蓄熱材の上方に置かれた前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを、前記蓄熱材とともに、前記加熱装置から前記搬送装置による持ち上げ位置に搬送する工程を含んでもよい。
【0032】
上記の製造方法10においては、加熱装置で、第1及び第2加熱ワークの各々は、板状の蓄熱材と上下に重なった状態で加熱される。加熱後は、第1及び第2加熱ワークの各々は蓄熱材とともに加熱装置から持ち上げ位置まで搬送される。そのため、加熱から搬送装置に持ち上げられるまで、第1及び第2加熱ワークの各々は蓄熱材と上下に重なった状態となる。すなわち、第1及び第2加熱ワークの各々と蓄熱材とは、各加熱ワークの板面に垂直な方向(法線方向)に重なった状態となる。例えば、第1加熱ワークの下面と蓄熱材の上面が互いに対向し、第2加熱ワークの下面と蓄熱材の上面が互いに対向する状態となる。これにより、加熱が終わってから持ち上げ位置に置かれるまでは、第1加熱ワークと蓄熱材、及び、第2加熱ワークと蓄熱材が互いに熱量を補填し合い、持ち上げ位置で搬送装置により持ち上げられてからプレス位置に置かれるまでは、第1加熱ワークと第2加熱ワークが互いに熱量を補填し合うことができる。また、蓄熱材の上方に第1加熱ワーク及び第2加熱ワークが置かれる。そのため、持ち上げ動作を簡単且つ迅速に行うことができる。結果として、熱間プレス成形における素材の加熱後からプレス成形を開始するまでの時間において、素材の温度降下を、簡便に緩和することができる。なお、第1加熱ワークと第2加熱ワークは、蓄熱材の上方で互いに上下方向に重ならない状態で搬送されてもよい。
【0033】
板状の蓄熱材は、平らな板に限られない。例えば、板状の蓄熱材は、板面の法線方向に突出する凸部を有する板、板を貫通する中空部を有する板、又は、湾曲した板等であってもよい。
【0034】
前記加熱工程において、前記蓄熱材は、トレイ本体の上に置かれ、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークのそれぞれは、前記トレイ本体又は前記蓄熱材から上方に前記蓄熱材の上面より高い位置まで延びる少なくとも3本の第1支柱群の上に置かれた状態で加熱されてもよい。この場合、前記搬送工程において、前記トレイ本体に置かれた前記蓄熱材と、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークとが、前記トレイ本体とともに、前記加熱装置から前記持ち上げ位置に搬送されてもよい。この場合、搬送装置が前記第1支柱群の上に置かれた前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを上方に持ち上げる際に、前記第1支柱群は障害にならない。そのため、持ち上げ動作を簡単且つ迅速に行うことができる。
【0035】
前記蓄熱材は、上方に突出する凸部を有してもよい。前記加熱工程において、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークのそれぞれは、前記蓄熱材の凸部に置かれた状態で加熱されてもよい。前記搬送工程において、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークは、前記蓄熱材の凸部に置かれた状態で、前記加熱装置から前記持ち上げ位置まで搬送されてもよい。これにより、搬送装置が、ワークを上方に持ち上げる動作を簡単且つ迅速に行うことができる。
【0036】
前記蓄熱材と前記第1加熱ワークとの上下方向の間隔、及び前記蓄熱材と前記第2加熱ワークの上下方向の間隔の最大間隔Dc(mm)と、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークの最も薄い部分の最小板厚t1(mm)は、下記式の関係にあることが好ましい。これにより、搬送中の第1加熱ワーク及び第2加熱ワークの温度降下が効果的に抑制される。
Dc≦120t1
【0037】
前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークの最も薄い部分の最小板厚t1(mm)と、前記蓄熱材の最も薄い部分の最小板厚t2(mm)は、下記式の関係としてもよい。これにより、ワークの温度降下を効果的に抑制することができる。
0.8≦t2/t1≦20
【0038】
(製造方法11)
上記製造方法1~9のいずれかにおいて、前記加熱工程では、前記第1加熱ワークは、上から見て上下に貫通する中空部を有するトレイ本体から上方に延びる少なくとも3本の第1支柱群の上に置かれ、前記第2加熱ワークは、前記トレイ本体から上方に延びる少なくとも3本の第2支柱群の上に置かれ、且つ、前記第1加熱ワークの上方において、前記第1加熱ワークの板面の法線方向に前記第1加熱ワークと重ねて配置された状態で、前記加熱装置で加熱されてもよい。前記搬送工程では、前記第1加熱ワークが前記第1支柱群の上に置かれ、前記第2加熱ワークが前記第2支柱群の上に置かれ、且つ、前記第1加熱ワークの上方において、前記第1加熱ワークの板面の法線方向に前記第1加熱ワークと重ねて配置された状態で、前記トレイ本体とともに、前記加熱装置から前記搬送装置による持ち上げ位置に搬送する工程を含んでもよい。
【0039】
上記の製造方法11においては、加熱装置において、トレイの支柱群によって、第1加熱ワークと第2加熱ワークが上下に重なった状態で加熱される。加熱後は、第1加熱ワークと第2加熱ワークはトレイごと加熱装置から持ち上げ位置まで搬送される。そのため、加熱装置を出てから搬送装置に持ち上げられるまで、第1加熱ワークと第2加熱ワークは、上下に重なった状態となる。すなわち、第1加熱ワークと第2加熱ワークは、第1加熱ワークの板面に垂直な方向(法線方向)に重なった状態となる。例えば、第1加熱ワークの上面と第2加熱ワークの下面が互いに対向した状態となる。これにより、加熱が終わってから搬送装置により持ち上げられるまで、さらに、搬送装置に持ち上げられてからプレス位置に置かれるまで、第1加熱ワークと第2加熱ワークが互いの輻射熱を受けることで熱量を補填し合うことができる。また、第1支柱群に第1加熱ワークが置かれ、その上方に第2支柱群に置かれた第2加熱ワークが配置される。支柱群はトレイ本体から上方に延びて形成される。そのため、支柱群の上に置かれた第2加熱ワーク及び第1加熱ワークを、順次、又は同時に、搬送装置で上方に持ち上げる際に、支柱群が障害にならない。持ち上げ動作を簡単且つ迅速に行うことができる。結果として、熱間プレス成形における素材の加熱後からプレス成形を開始するまでの搬送時間において、素材の温度降下を、簡便に緩和することができる。
【0040】
前記加熱工程及び前記搬送工程において、前記第1支柱群に置かれた前記第1加熱ワークと、前記第2支柱群に置かれた前記第2加熱ワークとの間の上下方向における最大の間隔Dt(mm)と、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークの最も薄い部分の最小板厚t(mm)は、下記式の関係にあることが好ましい。これにより、搬送中の第1加熱ワーク及び第2加熱ワークの温度降下が効果的に抑制される。
Dt≦120t
同様の観点から、Dt≦100tであることがより好ましく、Dt≦60tであることがさらに好ましい。また、前記第1支柱群に置かれた前記第1加熱ワークと、前記第2支柱群に置かれた前記第2加熱ワークとの間隔は、例えば、100mm以下が好ましく、50m以下がより好ましい。
【0041】
(構成1)
本発明の実施形態における加熱ワークの搬送装置は、上下方向に垂直な横方向に移動可能なベースフレームと、前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第1アームと、前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第2アームと、前記第1アームを駆動する第1駆動部と、前記第2アームを駆動する第2駆動部とを備える。
前記一対の第1アームは、前記ベースフレームの横方向に並び、前記ベースフレームから上下方向に延びる一対の第1基部と、前記一対の第1基部の各々から横方向に屈曲して延びる第1爪を有する。
前記一対の第2アームは、前記ベースフレームの横方向に並び、前記ベースフレームから上下方向に延びる一対の第2基部と、前記一対の第2基部の各々から横方向に屈曲して延びる第2爪を有する。
前記第1駆動部は、前記一対の前記第1アームを前記ベースフレームに対して回転させることで、前記一対の第1爪の横方向の距離を変化させる。
前記第2駆動部は、前記一対の前記第2アームを前記ベースフレームに対して回転させることで、前記一対の第2爪の横方向の距離を変化させる。
前記第1駆動部及び前記第2駆動部は、互いに独立して、前記第1アームの回転及び前記第2アームの回転をそれぞれ制御可能に構成される。
前記一対の第1爪は、横方向に互いに近づいた状態で、第1加熱ワークの横方向両端部の下面を支持可能に構成される。
前記一対の第2爪は、横方向に互いに近づいた状態で、第2加熱ワークの横方向両端部の下面を支持可能に構成される。
前記一対の第1爪の上下方向における位置と、前記一対の第2爪の上下方向における位置は互いに異なっている。
【0042】
上記搬送装置は、第1加熱ワークの両端部の下面を一対の第1アームの爪で支持し、且つ、第2加熱ワークの両端部の下面を一対の第2アームの爪で支持した状態で搬送する。これにより、搬送中の2つの加熱ワークの間隔を安定して保つことができる。また、第1アーム及び第2アームの回転により、第1爪及び第2爪を加熱ワークの両端部の下面に配置するため、加熱ワークの持ち上げ及び降下の動作を簡単且つ確実に行うことができる。すなわち、簡便な装置構成により、第1加熱ワークと第2加熱ワークが、互いに効率よく熱輻射を受けられる状態で搬送することができる。また、第1駆動部が第1アームを駆動し、これとは独立して、すなわち別の系統で、第2駆動部が第2アームを駆動する。そのため、第1加熱ワーク及び第2加熱ワークを順次、持ち上げることができ、第1加熱ワーク及び第2加熱ワークを順次、異なるプレス位置に下ろすこともできる。このように、搬送装置は、第1及び第2加熱ワークの温度降下を抑えつつ、簡便且つ効率よく搬送することができる。そのため、熱間プレス成形における素材の加熱後からプレス成形を開始するまでの搬送時間において、ワーク(素材)の温度降下を、簡便に緩和することができる。
【0043】
ベースフレームの横方向は、上下方向に垂直な面内の方向である。一対の第1アームが並ぶ横方向と、一対の第2アームが並ぶ横方向は、同じであってもよいし、上下方向に垂直な面内で異なっていてもよい。ベースフレームは、上下方向及び横方向の双方に移動可能であってもよい。
【0044】
(構成2)
上記構成1において、前記一対の第1爪と、前記一対の第2爪は、上下方向において、前記第1爪と前記第2爪のうち下方に位置する爪で支持される加熱ワークの最大板厚に加えて0~50mmの距離だけ離れていることが好ましい。これにより、搬送中の加熱ワークの温度降下が効果的に抑制される。例えば、加熱ワークの板厚が1枚の加熱ワーク内で1~3mm程度変化する場合を想定すると、加熱ワークの最大板厚は3mmとなるため、前記一対の第1爪と、前記一対の第2爪は、上下方向において、3~53mmの距離だけ離れている事が好ましい。
【0045】
(構成3)
上記構成1又は2において、上記加熱ワークの搬送装置は、前記一対の第1爪及び前記一対の第2爪の両方を横方向から覆う側方遮蔽板をさらに備えてもよい。側方遮蔽板により、両加熱ワーク間の暖められた滞留空気が外部へ移動することを抑制し、保温効果を保つことができるため、搬送中の加熱ワークの温度降下がより抑制される。
【0046】
(構成4)
上記構成3において、前記側方遮蔽板は、中央部から端部に近づくに従って、前記一対の第1爪及び前記一対の第2爪に近くなるよう傾斜する面を有してもよい。これにより、加熱ワークを搬送中に、側方遮蔽板に当たった空気が、傾斜面に沿って加熱ワークから離れる方向に流れる。そのため、搬送中の加熱ワークの温度降下抑制効果が高まる。
【0047】
(構成5)
上記構成1~4において、上記加熱ワークの搬送装置は、前記一対の第1アームの間及び前記一対の第2アームの間の空間を上方から覆う上方遮蔽板をさらに備えてもよい。これにより、上側の加熱ワークと上方遮蔽板の間に上側の加熱ワークからの熱伝達により暖められた空気を滞留させることができる。その結果、搬送中の上側の加熱ワークの温度降下抑制効果をより高めることができる。前記上方遮蔽板は、前記一対の第1爪及び前記一対の第2爪の各々の少なくとも一部と上から見て重なることが好ましい。これにより、第1爪及び第2爪で支持される第1及び第2加熱ワークの上方が上方遮蔽板で覆われる。そのため、上方遮蔽板による温度降下抑制効果をより高めることができる。さらに好ましくは、前記上方遮蔽板は、上から見て、前記一対の第1アーム及び前記一対の第2アームよりも広い範囲まで延在することが好ましい。この場合、上方遮蔽板は、前記一対の第1アーム及び前記一対の第2アームが閉じた状態を上から見た範囲を除く範囲に延在する。また、上方遮蔽板は、側方遮蔽板と連結されてもよい。なお、上方遮蔽板は、平板に限られず、例えば、搬送される加熱ワーク(例えば、中間成形品)の形状に合わせた形状を有してもよい。
【0048】
前記一対の第1爪及び前記一対の第2爪の両方を上方から覆う上方遮蔽板と、前記第1爪及び第2爪のうち上方に位置する爪との上下方向における距離は、例えば、前記第1爪と前記第2爪のうち上方に位置する爪で支持される加熱ワークの最大板厚に加えて200mm以内であることが好ましい。より好ましくは、この距離は、上記最大板厚に加えて100mm以内であることが好ましい。これにより、上方の遮蔽板による温度降下抑制効果をより高めることができる。例えば、加熱ワークの板厚が1枚の加熱ワーク内で1~3mm程度変化する場合を想定すると、加熱ワークの最大板厚は3mmとなるため、前記一対の第1爪及び前記一対の第2爪の両方を上方から覆う上方遮蔽板と、前記第1爪及び第2爪のうち上方に位置する爪との上下方向における距離は、203mm以内であることが好ましく、より好ましくは103mm以内であることが好ましい。
【0049】
前記第1爪及び前記第2爪の上方を覆う上方遮蔽板は、前記ベースフレームと、前記第1爪及び前記第2爪のうち上方に位置する爪との間に配置されてもよい。これにより、爪に支持された加熱ワークの上方の近い位置に上方遮蔽板を配置できる。結果として、上方遮蔽板による温度降下抑制効果をより高めることができる。
【0050】
(構成6)
上記構成1~5のいずれかにおいて、前記ベースフレームは、前記上下方向を軸に180度回転可能に構成されてもよい。これにより、例えば、第1アームの爪で支持する第1加熱ワークと、第2アームの爪で支持する第2加熱ワークの向きを180度変えることができる。これにより、例えば、加熱ワークが差厚板である場合、第1加熱ワークと第2加熱ワークの向きを180度変えて保持できる。これにより、例えば、第1加熱ワークと第2加熱ワークのうち一方のワークの薄肉部と他方のワークの厚肉部が重なるよう保持することができる。
【0051】
(構成7)
上記構成1~6のいずれかにおいて、前記一対の第1爪と、前記一対の第2爪の上下方向における距離が調節可能であってもよい。これにより、搬送中の第1加熱ワーク及び第2加熱ワークの間隔を、ワークの板厚、材料、その他の条件に合わせて調整することができる。
【0052】
(構成8)
上記構成1~7のいずれかにおいて、上記加熱ワークの搬送装置は、前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第3アームと、前記ベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第4アームと、前記第3アームを駆動する第3駆動部と、前記第4アームを駆動する第4駆動部と、を備えてもよい。
前記一対の第3アームは、前記ベースフレームの横方向且つ前記一対の第1基部の並ぶ方向に垂直な方向に並び、前記ベースフレームから上下方向に延びる一対の第3基部と、前記一対の第3基部の各々から横方向に屈曲して延びる第3爪を有する。
前記一対の第4アームは、前記ベースフレームの横方向且つ前記一対の第2基部の並ぶ方向に垂直な方向に並び、前記ベースフレームから上下方向に延びる一対の第4基部と、前記一対の第4基部の各々から横方向に屈曲して延びる第4爪を有する。
前記第3駆動部は、前記一対の前記第3アームを前記ベースフレームに対して回転させることで、前記一対の第3爪の横方向の距離を変化させる。
前記第4駆動部は、前記一対の前記第4アームを前記ベースフレームに対して回転させることで、前記一対の第4爪の横方向の距離を変化させる。
前記一対の第1爪の上下方向における位置と、前記一対の第3爪の上下方向における位置は同じである。
前記一対の第2爪の上下方向における位置と、前記一対の第4爪の上下方向における位置は同じである。
上記構成により、第1加熱ワーク及び第2加熱ワークを4箇所で支持することができる。
【0053】
(構成9)
本発明の実施形態における熱間プレス製造ラインは、上記構成1~8のいずれかの搬送装置と、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを加熱する加熱装置と、前記加熱装置で加熱された前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークが置かれる台と、少なくとも2組の一対の金型を有する、少なくとも1台のプレス機と、前記搬送装置を、前記台の上方の位置と前記少なくとも2組の一対の金型の間のプレス位置の間で移動させる移動装置とを備える。一対の金型により加熱ワークがプレス成形される。一対の金型の間に加熱ワークを配置した状態で一対の金型を相対的に近づけることで、加熱ワークをプレス成形する。1台のプレス機に、少なくとも2組の一対の金型が設けられてもよいし、少なくとも2台のプレス機の各々が1対の金型を備えてもよい。
【0054】
(構成10)
上記構成9の熱間プレス製造ラインは、前記加熱装置で前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを加熱する際に、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを載せるトレイをさらに備えてもよい。前記トレイは、トレイ本体と、前記トレイ本体の上に置かれた板状の蓄熱材と、前記トレイ本体又は前記蓄熱材から上方に延びる少なくとも3本の第1支柱群と、を備える。前記第1支柱群は、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置される。或いは、前記トレイは、前記第1支柱群の代わりに、前記蓄熱材から上方に突出し、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを載置可能な前記蓄熱材の凸部を有してもよい。前記第1支柱群は、前記トレイ本体又は前記蓄熱材に対して固定されてもよい。
【0055】
(構成11)
上記構成9の熱間プレス製造ラインは、前記加熱装置で前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを加熱する際に、前記第1加熱ワーク及び前記第2加熱ワークを載せるトレイをさらに備えてもよい。前記トレイは、上下方向に垂直な面に沿って広がる形状を有し、上下に貫通する中空部を含むトレイ本体と、前記トレイ本体から上方に延びる支柱群とを備えてもよい。前記支柱群は、板状の前記第1加熱ワークの下面を支持可能に構成された少なくとも3本の第1支柱群と、前記第1支柱群に支持された前記第1加熱ワークの上方に位置する前記第2加熱ワークの下面を支持可能に構成されたな少なくとも3本の第2支柱群とを含んでもよい。前記第1支柱群は、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置される。前記第2支柱群は、上から見て前記第1支柱群とは異なる位置に配置され、且つ、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置され、且つ、前記第2支柱群は、いずれも前記第1支柱群のうち最も低い支柱よりも高い。前記第1支柱群及び前記第2支柱群は、前記トレイ本体に対して固定されてもよい。
【0056】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0057】
(実施形態1)
[装置の構成例]
図1は、本実施形態に係る熱間プレス製造ライン10を示す概略を示す平面図である。熱間プレス製造ライン10は、材料テーブル12と、加熱装置14と、搬送テーブル16、17と、プレス機20と、マニピュレータ41、42、44と、搬送装置46と、成形品テーブル18と、コントローラ22とを備えている。搬送テーブル16の端部は、加熱装置14の出口14Aに接続されている。搬送テーブル17の端部は、加熱装置14の入口14Bに接続されている。搬送テーブル17の加熱装置14と反対側に、材料テーブル12が配置されている。プレス機20の搬送テーブル16と反対側に、成形品テーブル18が配置されている。
【0058】
(材料テーブル、成形品テーブル)
材料テーブル12は、プレス前の材料を載置するテーブルである。例えば、平坦な鋼板が所定形状に切断されたブランク24が材料テーブル12に配置される。成形品テーブル18は、プレス成形品を載置するテーブルである。例えば、プレス機20でプレス成形されたプレス成形品が、成形品テーブル18に配置される。
【0059】
(加熱装置)
加熱装置14は、加熱対象物(ワーク)を加熱する装置である。加熱装置14の例として、抵抗加熱炉、ガス加熱炉、遠赤外線加熱炉及び近赤外線加熱炉等が挙げられる。加熱装置14は、加熱炉に限られず、例えば、高周波誘導加熱装置、低周波誘導加熱装置、又は、加熱対象物に直接通電して加熱する通電加熱装置であってもよい。加熱装置14は、加熱室を有してもよい。加熱装置14は、図示しない駆動機構で回転駆動される複数の室内ローラーを加熱室の内部に備えてもよい。室内ローラーを回転させることにより、室内ローラー上の加熱対象物を搬送する。
【0060】
(搬送テーブル)
搬送テーブル16、17は、図示しない駆動機構で回転駆動される複数の搬送ローラー26を備える。各搬送ローラー26が室内ローラーと同期して回転することで、搬送対象物(加熱ワーク)を搬送テーブル16、17と加熱装置14の加熱室内との間で搬送することができる。複数の搬送ローラー26は、間隔をおいて配置されている。搬送テーブル16は、加熱装置で加熱された加熱ワークが置かれる台の一例である。また、搬送テーブル16は、加熱ワークを加熱装置から持ち上げ位置まで搬送する搬送路の一例でもある。本例では、搬送テーブル16の上は、搬送装置46による加熱ワークの持ち上げ位置となる。なお、搬送路の構成は、図1に示す搬送テーブル16に限られない。例えば、搬送路は、ベルトコンベア又はレール等であってもよい。また、図1に示す例では、持ち上げ位置は、搬送路にあるが、持ち上げ位置は搬送路上でなくてもよい。持ち上げ位置となる台を搬送路とは別に設けてもよい。
【0061】
(プレス機)
プレス機20は、プレス対象物をプレス成形する下金型と上金型とを備える。下金型は、一例として、パンチ金型で構成され、上金型は、一例として、ダイ金型で構成される。上金型及び下金型には冷媒の流路が設けられてもよい。これにより、プレス時にプレス対象物から奪った熱を、冷媒を介して放出することができる。上金型と下金型の間に2つの加熱ワークが配置可能である。上金型と下金型は、相対的に移動可能である。プレス機20は、上金型と下金型の間に2つの加熱ワークが配置された状態で、上金型と下金型を相対的に近づけることで、2つの加熱ワークをプレス成形する。上金型と下金型の動作は、例えば、コントローラ22によって制御可能である。本例では、プレス機20の下金型と上金型は、同時に複数のプレス成形品を製造できる形状となっている。これは、2組の一対の金型が1台のプレス機に設けられる場合の例である。この例では、プレス機20の下金型と上金型の間に複数のワークが配置され、複数のワークが同時にプレスされる。なお、プレス機は、複数台設けられてもよい。例えば、1組の一対の金型を備えるプレス機が2台設けられてもよい。
【0062】
(マニピュレータ)
マニピュレータ44は、搬送装置46を用いて搬送対象物を搬送テーブル16、プレス機20の間で搬送する。搬送装置46は、搬送対象物であるワークを持ち上げる、保持する、及び、置く動作をする。マニピュレータ44は、搬送装置46の位置及び姿勢を制御する。搬送装置46は、マニピュレータ44のエンドエフェクタであってもよい。マニピュレータ44は、搬送装置46を、搬送テーブル16の上方の位置と、プレス機20の2組の一対の金型(上金型と下金型)の間の位置との間で移動させる。マニピュレータ44は、少なくとも1つの軸を中心に回転可能な基部と、基部から延び少なくとも1つの関節を有するアームとを備える。アームの先に搬送装置46が回転可能に取り付けられる。なお、搬送装置46を移動させる移動装置は、マニピュレータに限られない。例えば、移動装置は、搬送テーブル16とプレス機20の間を結ぶレールと、レールに搬送装置46を上下可動に懸架する懸架装置を含む構成であってもよい。なお、図1に示す例では、ワークを材料テーブル12から搬送テーブル17へ移動させるマニピュレータ41、及びプレス機20からワークを搬出して成形品テーブル18へ載置するマニピュレータ42が設けられる。
【0063】
(コントローラ)
コントローラ22は、加熱装置14、搬送テーブル16、17、プレス機20、マニピュレータ41、42、44を制御する。コントローラ22は、例えば、少なくとも1つのコンピュータを含む制御システムとして構成される。一例として、コントローラ22は、加熱装置14、搬送テーブル16、17、マニピュレータ41、42、44、及びプレス機20の各々に設けられ、各装置を制御する制御部(例えば、回路又はプロセッサで構成される)を含んでもよい。この場合、コントローラ22は、各装置の制御部に対して、制御情報を供給し、熱間プレス製造ライン10の全体の動作を制御する全体制御コンピュータを含んでもよい。後述する搬送装置46のアームの動作は、コントローラ22の一部、例えば、マニピュレータ44の制御部によって制御されてもよい。
【0064】
(搬送装置)
図2Aは、図1の搬送装置46の横方向(y方向)から見た構成例を示す側面図である。図2Bは、図2Aの搬送装置46の第2アーム72が外側に開いた状態を示す図である。図3は、図1の搬送装置46の横方向(x方向)から見た構成例を示す側面図である。
【0065】
(ベースフレーム)
図2A及び図2Bに示す例では、搬送装置46は、ベースフレーム48、ベースフレーム48に回転可能に取り付けられた一対の第1アーム71及び一対の第2アーム72を備える。ベースフレーム48の形状は、上から見ると長方形である(図1参照)。本例では、上下方向をz方向とする。上下方向に垂直な面内の方向を横方向とする。横方向のうち、ベースフレーム48の長尺方向をy方向、短尺方向をx方向とする。
【0066】
ベースフレーム48の上面には、マニピュレータ44に接続されるジョイント56が設けられる。ジョイント56は、ベースフレーム48がマニピュレータ44に対して上下方向を軸に回転可能となるように接続される。
【0067】
(第1アーム及び第2アーム)
一対の第1アーム71は、横方向(x方向)に離間して配置される。一対の第1アーム71の各々は、ベースフレーム48から上下方向に延びる第1基部71aと、第1基部71aから横方向に屈曲して延びる第1爪71bを有する。各第1アーム71は、y方向の回転軸60を中心に回転可能にベースフレーム48に取り付けられる。第1基部71aの一方端部がベースフレーム48に回転可能に接続され、他方端部から第1爪71bが延びる。
【0068】
一対の第2アーム72は、横方向(x方向)に離間して配置される。一対の第2アーム72の各々は、ベースフレーム48から上下方向に延びる第2基部72aと、第2基部72aから横方向に屈曲して延びる第2爪72bを有する。各第2アーム72は、y方向の回転軸60を中心に回転可能にベースフレーム48に取り付けられる。第2基部72aの一方端部がベースフレーム48に回転可能に接続され、他方端部から第2爪72bが延びる。
【0069】
一対の第1爪71bの上下方向における位置と、一対の第2爪72bの上下方向における位置は互いに異なっている。図2A及び図2Bに示す例では、上下方向において、第1基部71aの方が、第2基部72aより短くなっている。第1爪71bの方が、第2爪72bよりもベースフレーム48に近い位置にある。
【0070】
一対の第1爪71bと、一対の第2爪72bは、上下方向において、下方に位置する第2爪72bで支持される第2加熱ワークW2の最大板厚に加えて0~50mmの距離だけ離れていることが好ましい。すなわち、第1爪71bで支持される第1加熱ワークW1と第2爪72bで支持される第2加熱ワークW2の間隔Dが、0~50mmとなることが好ましい。例えば、第2加熱ワークW2の板厚が第2加熱ワークW2内で1~3mm程度変化する場合、一対の第1爪71bと、一対の第2爪72bとの、上下方向における距離Hは、3~53mm(間隔Dの範囲に第2加熱ワークW2の最大板厚3mmを足した範囲)であることが好ましい。なお、距離Hは、一対の第1爪71bが第1加熱ワークの下面を支持し、且つ、一対の第2爪72bが第2加熱ワークの下面を支持する状態における第1爪71bと第2爪72bとの間の距離である。距離Hは、第1爪71bの上端と第2爪72bの上端の上下方向における距離とする。
【0071】
一対の第1爪71bに載せた第1加熱ワークW1と、一対の第2爪72bに載せた第2加熱ワークW2が互いに熱輻射を受けあって温度低下を抑制する観点から、間隔D(距離H)は近い方が好ましい。間隔Dは、30mm以下がより好ましく、20mm以下がさらに好ましく、10mm以下がさらにまた好ましい。
【0072】
間隔Dが0となる部分があってもよい。すなわち、第1爪71bで支持される第1加熱ワークW1の少なくとも一部と、第2爪72bで支持される第2加熱ワークW2の少なくとも一部が接していてもよい(具体例は後述)。また、図2Aに一例が示されるように、第1加熱ワークW1を支持する第1爪71bが、第1加熱ワークW1と、第2爪72bに支持された第2加熱ワークW2との間に挿入される場合がある。このような場合、例えば、爪の厚みの下限を間隔Dの下限としてもよい。爪の厚みの下限は、要求される爪の強度に依存する。この観点から、間隔Dの下限は、例えば、3mmであることが好ましく、5mmであることがより好ましい。
【0073】
図2A及び図2Bに示す例では、第1アーム71の回転軸60と、第2アーム72の回転軸60は同軸である。これにより、ベースフレーム48に第1アーム71及び第2アーム72を効率よく配置することができる。なお、第1アーム71の回転軸60と、第2アーム72の回転軸60は同軸でなくてもよい。
【0074】
(駆動部)
一対の第2アーム72は、第2駆動部により駆動される。第2駆動部は、一対の第2アーム72をベースフレーム48に対して回転させることで、一対の第2爪72bの横方向(x方向)の距離を変化させる。図2A及び図2Bに示す例では、第2駆動部は、各第2アーム72に対して設けられるアクチュエータ82で構成される。
【0075】
アクチュエータ82は、例えば、エアシリンダである。アクチュエータ82は、軸方向に移動する作動軸82Aの延び出し量を調整する。作動軸82Aの端部には、ピン82Bが設けられる。ピン82Bは、第2アーム72に固定されたリンク90の長穴に移動及び回転自在に挿入されている。
【0076】
各アクチュエータ82が作動軸82Aを延び出した際には、図2Aに示すように、対応する第2アーム72が下方へ延び、一対の第2アーム72の一対の第2爪72bが互いに近づいた閉状態となる。また、各アクチュエータ82が作動軸82Aを後退させた際には、図2Bに示すように、一対の第2アーム72の一対の第2爪72bが互いに離れるよう移動して開状態となる。
【0077】
一対の第1アーム71は、第1駆動部により駆動される。第1駆動部は、一対の第1アーム71をベースフレーム48に対して回転させることで、一対の第1爪71bの横方向(x方向)の距離を変化させる。第1アーム71を駆動する第1駆動部も、例えば、図2A及び図2Bに示すアクチュエータ82と同様のアクチュエータを備える構成とすることができる。一対の第1アーム71も、第1駆動部により、一対の第1爪71bが互いに近づいた閉状態(図2A参照)、又は、一対の第1爪71bが、閉状態よりも互いに離れた開状態になるよう制御される。なお、第1駆動部及び第2駆動部のアクチュエータは、エアシリンダに限られず、例えば、モータ、又は、液圧シリンダであってもよい。
【0078】
一対の第1爪71bは、横方向に互いに近づいた状態すなわち閉状態で、第1加熱ワークW1の横方向両端部の下面を支持可能である。一対の第2爪72bは、横方向に互いに近づいた状態すなわち閉状態で、第2加熱ワークW2の横方向両端部の下面を支持可能である。
【0079】
(第3アーム及び第4アーム)
図2A図2B及び図3に示す例では、ベースフレーム48に、一対の第3アーム73及び一対の第4アーム74が回転可能に取り付けられる。また、図示しないが、一対の第3アーム73を駆動する第3駆動部、及び一対の第4アーム74を駆動する第4駆動部が、ベースフレーム48に設けられる。なお、図3において、第1~第4駆動部の図示を省略している。
【0080】
一対の第3アーム73は、一対の第1アーム71の並ぶ方向(x方向)に垂直な方向(y方向)に並んで配置される(図3参照)。各第3アーム73は、第1アームの回転軸60に垂直な方向(x方向)の回転軸62を中心に回転可能にベースフレーム48に取り付けられる。各第3アーム73は、各第1アーム71と同様に構成することができる。各第3アーム73は、第3基部73a及び第3爪73bを有する。一対の第3爪73bと、一対の第1爪71bとで、第1加熱ワークW1の下面を支持する。本例では、第3爪73bのベースフレーム48からの距離は、第1爪71bとほぼ同じである。これは、第1加熱ワークW1が平らな板である場合の例である。
【0081】
一対の第4アーム74は、一対の第2アーム72の並ぶ方向(x方向)に垂直な方向(y方向)に並んで配置される(図3参照)。各第4アーム74は、第2アームの回転軸60に垂直な方向(x方向)の回転軸62を中心に回転可能にベースフレーム48に取り付けられる。各第4アーム74は、各第2アーム72と同様に構成することができる。各第4アーム74は、第4基部74a及び第4爪74bを有する。一対の第4爪74bと、一対の第2爪72bとで、第2加熱ワークW2の下面を支持する。本例では、第4爪74bのベースフレーム48からの距離は、第2爪72bとほぼ同じである。これは、第2加熱ワークW2が平らな板である場合の例である。
【0082】
(制御系統)
図4は、第1~第4駆動部の制御系統例を説明するための図である。図4は、ベースフレーム48における第1~第4駆動部の配置の一例を示す。図4に示す例では、4つの第1駆動部のアクチュエータ81、4つの第2駆動部のアクチュエータ82、2つの第3駆動部のアクチュエータ83、及び2つの第4駆動部のアクチュエータ84がベースフレームの上面に配置されている。第1及び第3駆動部のアクチュエータ81、83は、第1の制御系統により制御される。第2及び第4駆動部のアクチュエータ82、84は、第2の制御系統により制御される。
【0083】
例えば、アクチュエータ81、83が同じ制御信号によって制御され、アクチュエータ82、84が同じ制御信号によって制御される。アクチュエータ81~84が、エアシリンダである場合、例えば、アクチュエータ81、83の制御弁を共通化し、アクチュエータ82、84の制御弁を共通化してもよい。
【0084】
上記構成により、第1アーム71及び第2アーム72は異なる系統で駆動される。すなわち、第1アーム71の回転と、第2アーム72の回転は、互いに独立して制御される。また、第3アーム73及び第4アーム74も異なる系統で駆動される。第1アーム71と第3アーム73は同じ系統で駆動される。第2アーム72と第4アーム74は同じ系統で駆動される。なお、第1アーム71と第3アーム73は異なる系統で駆動されてもよい。第2アーム72と第4アーム74も異なる系統で駆動されてもよい。
【0085】
[プレス成形品の製造工程例]
上記の熱間プレス製造ライン10を用いてプレス成形品を製造する工程の例を説明する。本実施形態におけるプレス成形品の製造工程は、ワークを加熱する加熱工程、加熱ワークを搬送する搬送工程、及び、加熱ワークをプレスするプレス工程を有する。
【0086】
(加熱工程)
図5は、加熱工程の例を示す図である。加熱工程では、加熱装置14により少なくとも2枚の板状のワークW1、W2を同時に加熱する。ここで、複数のワークを同時に加熱する態様は、複数のワークの加熱の終了が同時であればよく、加熱の開始は、必ずしも同時でなくてもよい。また、複数のワークの加熱の終了時点が厳密に同時である場合の他、終了時点が若干ずれている場合も、複数のワークを同時に加熱する態様に含まれる。例えば、加熱した加熱ワークを搬送装置46で持ち上げる動作にかかる時間程度のずれがあっても、搬送中のワークの温度降下の観点から、ほぼ同時と見なすことができる。加熱が終了した加熱ワークは、加熱装置14のローラー13及び搬送テーブル16の搬送ローラー26の回転によって、加熱装置14の外へ出される。
【0087】
(搬送工程)
搬送工程は、第1加熱ワークW1を搬送装置46が持ち上げる工程、第2加熱ワークW2を搬送装置46が持ち上げる工程、第1及び第2加熱ワークW1、W2を搬送する工程、第1加熱ワークW1をプレス位置へ降ろす工程、及び、第2加熱ワークW2をプレス位置へ降ろす工程を含む。
【0088】
図6は、第1加熱ワークW1を搬送装置46が持ち上げる工程の例を示す図である。搬送装置46のベースフレームに回転可能に取り付けられた一対の第1アーム71を駆動して、一対の第1アーム71の爪で、第1加熱ワークW1の両端部の下面を支持して持ち上げる。この時、一対の第1アーム71及び一対の第2アーム72を開状態にして、搬送装置46を下降させ、搬送テーブル16の搬送ローラー26上の第1加熱ワークW1に近づける。一対の第1アーム71を回転させて閉状態にすることで、一対の第1アーム71の第1爪を第1加熱ワークW1の両端部の下面の下方へ潜り込ませる。この状態で、搬送装置46を上昇させることで、第1加熱ワークW1の両端部の下面を一対の第1アーム71の第1爪で支持して持ち上げる。
【0089】
図7は、第2加熱ワークW2を搬送装置46が持ち上げる工程の例を示す図である。搬送装置46は、第1加熱ワークW1の下面を一対の第1アーム71で支持して保持した状態で、一対の第2アーム72を駆動して、第2加熱ワークW2を持ち上げる。搬送装置46は、第1加熱ワークW1の持ち上げ動作と同様に、一対の第2アーム72の爪で、第2加熱ワークW2の両端部の下面を支持して持ち上げる。
【0090】
図8の左側に、搬送装置46が、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2を搬送する状態の例を示す。搬送装置46は、一対の第1アーム71の爪で下面を支持された第1加熱ワークW1と、一対の第2アーム72の爪で下面を支持された第2加熱ワークW2を、第1加熱ワークW1の板面の法線方向において互いに重なる状態で、搬送する。
【0091】
搬送工程において、一対の第1アーム71で支持された第1加熱ワークW1と、一対の第2アーム72の爪で支持された第2加熱ワークW2との第1加熱ワークW1の板面の法線方向における間隔Dは、0~50mmであることが好ましい。一対の第1爪71bに載せた第1加熱ワークW1と、一対の第2爪72bに載せた第2加熱ワークW2が互いに熱輻射を受けあって温度低下を抑制する観点、及び第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の間に滞留する、両加熱ワークからの熱伝達により暖められた空気による保温効果を得る観点から、間隔Dは小さい方が好ましい。間隔Dは、30mm以下がより好ましく、20mm以下がさらに好ましく、10mm以下がさらにまた好ましい。間隔Dが0となる部分があってもよい。また、例えば、爪の厚みの下限を間隔Dの下限としてもよい。この観点から、間隔Dの下限は、例えば、3mmであることが好ましく、5mmであることがより好ましい。
【0092】
なお、間隔Dは、第1アーム71の第1爪71bと第2アーム72の第2爪72bとの上下方向の距離Hから第2加熱ワークW2の厚さを差し引いた値に相当する。第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の少なくとも一方の板厚が均一でない場合、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2が上から見て重なる領域において、最も大きな法線方向の間隔を、間隔Dとする。この間隔D(mm)と、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の最も薄い部分の最小板厚t(mm)は、D≦60tの関係にあることが好ましく、D≦40tであることがより好ましい。
【0093】
図8の右側は、搬送装置46が、第2加熱ワークW2をプレス位置へ降ろす例を示す。搬送装置46は、第2加熱ワークW2のプレス位置まで移動する。搬送装置46は、一対の第1アーム71で、第1加熱ワークW1の下面を支持して保持した状態で、一対の第2アーム72を駆動して開状態として、第2加熱ワークW2を、プレス機20のプレス位置に降ろす。その後、搬送装置46は、第1加熱ワークW1のプレス位置まで移動し、一対の第1アーム71を駆動して開状態とし、第1加熱ワークW1を、プレス機のプレス位置に降ろす。
【0094】
図8に示す例では、1つのプレス機の上金型21と下金型23に、2つのワークを配置し、2つのワークを同時にプレスする例である。この場合、上金型21と下金型23の間の異なるプレス位置に、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2がそれぞれ降ろされる。搬送装置46が、保持した2つの加熱ワークをそれぞれのプレス位置に降ろす態様はこれに限られない。例えば、2つのプレス機のそれぞれのプレス位置に、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2を、それぞれ降ろす態様であってもよい。
【0095】
図8に示す例では、第2加熱ワークW2が下金型23のプレス位置に降ろされ、下金型23の上に接する状態で配置されている様子が図示されている。第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2が下金型23の上に配置される態様はこれに限らない。例えば、図示は省略するが、下金型23の上の加熱ワークが配置される位置にプランジャーピン等を設け、プランジャーピンの上に加熱ワークを配置することができる。すなわち、加熱ワークを下金型23の加圧面である上面よりも少し高い位置で支持し、加圧面から浮かせた状態で保持してもよい。このようにすることで、加熱ワークが下金型に配置されてから、上金型21と下金型23で加熱ワークの成形が開始されるまでの間に、加熱ワークが下金型23と接触し続けることを防ぐことができる。これにより、成形開始前に加熱ワークの温度が意図せず部分的に大きく低下することを防ぐことができる。一般的に、プランジャーピンは加熱ワークとの接触面積が小さいため、プランジャーピンが加熱ワークに接触していたとしても、加熱ワークの温度が大きく低下することはない。また、プランジャーピンに上金型21から加熱ワークを介して力が加わると、プランジャーピンはすぐに下金型23の内部に収納されるため、加熱ワークのプレス成形に支障が出ることはない。プランジャーピンは、加熱ワークが配置される際には、下金型23の加圧面である上面から上方に突出し、下死点において下金型23に収納可能に構成される可動突起である。下金型23の加圧面に対して間隔をあけて加熱ワークを配置するための構成は、可動突起を用いた構成に限られない。例えば、成形前に加熱ワークを下金型23及び上金型21に接触しない位置で保持するクッション等がプレス機20に設けられてもよい。
【0096】
[加熱ワークの材料]
加熱ワークの材料は、成形可能な金属であればよい。加熱ワークの材料として、これらに限られないが、例えば、Fe系である炭素鋼やステンレス鋼等、Al系、およびTi系の材料等が挙げられる。また、加熱ワークは、めっき層を有してもよい。例えば、加熱ワークは、めっき鋼板であってもよい。めっき層としては、アルミニウム合金、アルミニウム系合金、亜鉛合金、または亜鉛系合金等のめっき層が挙げられる。
【0097】
加熱ワークがめっき鋼板の場合、搬送中に酸化スケールが生じにくい点で、好ましい。搬送装置46で2つの加熱ワークW1、W2を上下に重ねて搬送中に、上側の加熱ワークW1の下面で酸化スケールが形成されると、酸化スケールが脱落して下側の加熱ワークW2の上面に落ちる可能性がある。また、下側の加熱ワークW2の下面で形成された酸化スケールも、脱落する可能性がある。このような場合、下側の加熱ワークW2の上面と下面の酸化スケールの付着量の差が、上側の加熱ワークW1におけるその差よりも大きくなる可能性がある。スケール付着量の差は、プレス成形における金型とワークの表面との摩擦特性の差につながるおそれがある。その結果、加熱ワーク毎に個別に金型調整や成形条件設定に対応する必要が生じるおそれがある。そこで、加熱ワークをめっき鋼板とすることで、搬送中の酸化スケールの生成を抑え、加熱ワークの特性のばらつきを抑えることができる。
【0098】
[間隔をあけて複数の加熱ワークを搬送することの効果]
上記の例では、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2は、搬送装置46で、上下方向に間隔をあけて重なった状態で搬送される。これにより、各加熱ワークの上面と下面の特性のばらつき、及び上側の加熱ワークと下側の加熱ワークの間での上面と下面の特性のばらつきを抑えることができる。
【0099】
第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2を、隙間のない状態で重ねて搬送した場合、各加熱ワークの重ね合わせ面と、その反対面で空気に触れる時間が異なる。この場合、第1及び第2加熱ワークW1、W2が非めっき板であると、上面と下面で酸化スケールの生じる量も異なる場合がある。上面と下面で酸化スケールの量が異なると、上面と下面の摩擦特性に差が生じる可能性がある。また、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2では、重ね合わせ面およびその反対面の向きが上下逆となるため、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の間でも摩擦特性に差が生じる可能性がある。その結果、プレス成形における金型調整や成形条件設定に要する時間が増える可能性がある。そこで、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2を、間隔をあけて搬送することで、加熱ワークの上面と下面の摩擦特性のばらつきを低減できる。
【0100】
[変形例]
(加熱ワークの形状)
加熱ワークの形状は、上記例のように平板である場合に限られない。加熱ワークは、プレス成形された中間成形品であってもよい。また、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の形状又はサイズは同じでなくてもよい。
【0101】
図9は、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2が中間成形品の場合の例を示す図である。図9に示す例では、第1アーム71の第1爪71bと第3アーム73の第3爪73bの上下方向の位置が異なっている。第1爪71bと第3爪73bの位置関係は、中間成形品の形状に応じて決められる。これにより、第1爪71bと第3爪73bで第1加熱ワークW1の下面を支持するよう構成される。また、第2アーム72の第2爪72bと第4アーム74の第4爪74bの上下方向の位置も異なっている。第2爪72bと第4爪74bの位置関係は、中間成形品の形状に応じて決められる。これにより、第2爪72bと第4爪74bで第2加熱ワークW2の下面を支持するよう構成される。
【0102】
図10は、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2のサイズが異なる場合の例を示す図である。図10に示す例では、一対の第1アーム71が第1加熱ワークW1を支持する時の第1爪71bの横方向内側への突出量と、一対の第2アーム72が第2加熱ワークW2を支持する時の第2爪72bの横方向内側への突出量が異なっている。このように、加熱ワークのサイズ(板面の面積)に応じて、第1爪71b及び第2爪72bの突出量を決定することができる。なお、図10の左の図は、平板の加熱ワークを搬送する搬送装置46の構成例であり、図10の右の図は、平板でない形状の中間成形品を搬送する搬送装置46の構成例である。
【0103】
図11は、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の形状が異なる場合の例を示す図である。図11に示す例では、第1アーム71の第1爪71bの位置と第3アーム73の第3爪73bの位置が、第1加熱ワークW1の形状に合うように配置される。第2アーム72の第2爪72bの位置と第4アーム74の第4爪74bの位置が、第2加熱ワークW2の形状に合うように配置される。
【0104】
(遮蔽板)
搬送装置46は、一対の第1爪71b及び一対の第2爪72bの両方を横方向から覆う側方遮蔽板をさらに備えてもよい。図12は、側方遮蔽板を搬送装置46に設けた例を示す図である。図12に示す例では、側方遮蔽板92は、第2アーム72の横方向の外側に取り付けられる。側方遮蔽板94は、第4アーム74の横方向の外側に取り付けられる。この例では、複数のアームのうち最も下方に爪が位置するアームの横方向外側に側方遮蔽板が取り付けられる。
【0105】
図13は、側方遮蔽板を搬送装置46に設けた他の例を示す図である。図13に示す例では、側方遮蔽板91は、第1アーム71の横方向の内側に取り付けられる。側方遮蔽板93は、第3アーム73の横方向の内側に取り付けられる。この例では、複数のアームのうち最も上方に爪が位置するアームの横方向内側に側方遮蔽板が取り付けられる。
【0106】
側方遮蔽板91~94は、第1アーム71及び第2アーム72が第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2を支持している状態で、第1加熱ワークW1、第2加熱ワークW2及びその間の空間を横方向から覆う位置に設けられる。これにより、搬送中に、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の間の空間に空気が流入し、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の間にもともと存在していた、両加熱ワークからの熱伝達により暖められた空気が、両加熱ワークの間の空間から外へ流出することが側方遮蔽板によって妨げられる。そのため、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の間の暖められた滞留空気による保温効果を保つことができ、搬送中の加熱ワークの温度降下をより抑えることができる。
【0107】
図14は、側方遮蔽板の形状の変形例を示す図である。図14に示す例では、側方遮蔽板92は、中央部から端部に近づくに従って、横方向において一対の第1爪71b及び一対の第2爪72bに近くなるよう傾斜する面を有する。すなわち、側方遮蔽板92は、中央部が横方向の外側に突出し、端部が中央部よりも横方向の内側に位置するよう湾曲した形状を有している。これにより、側方遮蔽板に当たる空気を加熱ワークから上下方向で遠ざかる方向に流すことができる。なお、図14では、搬送装置の側方から見た場合に、側方遮蔽板が、中央部から端部へかけて横方向の内側に傾斜する面を有する構成である。搬送装置の上方から見た場合に、側方遮蔽板が、中央部から端部へかけて横方向の内側に傾斜する面を有する構成としてもよい。
【0108】
また、図14に示す例では、側方遮蔽板92は、ベースフレーム48の長尺方向を覆う。そのため、搬送工程において、側方遮蔽板92は、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の長尺方向を覆うことになる。これにより、搬送中に、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の間の空間に長尺方向から空気が流入することが側方遮蔽板によって妨げられる。なお、図12及び図13の例では、長尺方向及び短尺方向の双方に、側方遮蔽板が設けられている。長尺方向及び短尺方向のいずれか一方に側方遮蔽板が設けられてもよい。
【0109】
図15は、上方遮蔽板を搬送装置46に設けた他の例を示す図である。図15に示す例では、加熱ワークの上方を覆う上方遮蔽板95が設けられる。上方遮蔽板95は、第1爪71b及び第2爪72bの両方と上から見て重なる位置に配置される。上方遮蔽板95は、ベースフレーム48から上下方向に延びる複数の支持部材96によって支持される。上方遮蔽板95は、ベースフレーム48と一対の第1アーム71の第1爪71bの間に配置される。そのため、第1爪71bで支持される第1加熱ワークW1の近くに上方遮蔽板95を配置できる。これにより、第1加熱ワークW1からの熱伝達で暖められた第1加熱ワークW1の上方の空気が、第1加熱ワークW1と上方遮蔽板95の間に滞留しやすくなる。第1加熱ワークW1の上方に暖められた空気を滞留させることで、第1加熱ワークW1の保温効果が得られる。保温効果をより高める観点から、第1加熱ワークW1とその上方の上方遮蔽板95との間の、第1加熱ワークW1の板面の法線方向の距離J1は、200mm以下であることが好ましく、100mm以下であることがより好ましい。同様の観点から、上方遮蔽板95と第1爪71bとの間の上下方向における距離J2は、第1加熱ワークW1の最大板厚に200mmを加えた距離以下であることが好ましい。より好ましくは第1加熱ワークW1の最大板厚に100mmを加えた距離以下であることが好ましい。例えば、第1加熱ワークW1の板厚が第1加熱ワークW1内で1~3mm程度変化する場合、第1加熱ワークW1の最大板厚は3mmであるため、上方遮蔽板95と第1爪71bとの間の上下方向における距離J2は、203mm以下であることが好ましく、103mm以下であることがより好ましい。
【0110】
図15の左の図は、平板の加熱ワークを搬送する搬送装置46の構成例である。この場合、上方遮蔽板95は、平板の形状を有する。図15の右の図は、平板でない形状の中間成形品を搬送する搬送装置46の構成例である。この場合、上方遮蔽板95は、中間成形品に沿った形状を有する。このように、上方遮蔽板95の形状は、特定の物に限定されない。また、上方遮蔽板95は、上から見て、第1アーム71及び第2アーム72の外側に延在してもよい。また、搬送装置46は、図12図13又は図14に示す側方遮蔽板(92、94又は91、93)及び図15に示す上方遮蔽板95の両方を備えてもよい。この場合、例えば、側方遮蔽板(92、94又は91、93)に、上方遮蔽板95を連結してもよい。
【0111】
(差厚板の搬送)
図16は、差厚板を搬送する搬送装置46の例を示す図である。図16に示す例では、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2は、厚肉部と薄肉部を含む差厚板である。搬送工程において、一対の第1アーム71の第1爪71bで支持された第1加熱ワークW1の厚肉部と、一対の第2アーム72の第2爪72bで支持された第2加熱ワークW2の薄肉部が、第1加熱ワークW1の板面の法線方向において重なる状態で搬送される。これにより、板厚が薄く温度が低下しやすい薄肉部に、熱容量が比較的大きい厚肉部が対向した状態で搬送される。そのため、薄肉部の温度低下をより抑えることができる。全体として、加熱ワークの温度の降下を効率良く抑制することができる。
【0112】
搬送装置46は、例えば、第1アーム71を駆動して第1加熱ワークW1を持ち上げた後、ベースフレーム48を、上下方向を軸に180度回転する。その後、第2アーム72を駆動して第2加熱ワークW2を持ち上げることができる。これにより、加熱後に搬送テーブル16上にある第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の向きが同じで、薄肉部の位置が同じであっても、搬送装置46は、第2加熱ワークW2を180度回転して保持するため、薄肉部の位置が、逆になった状態で、第1及び第2加熱ワークW1、W2を重ねて保持することができる。
【0113】
なお、差厚板は、例えば、板厚の異なる鋼板の端部を突合せて接合したテーラードブランク材でもよい。又は、差厚板は、寸法の異なる鋼板を重ねて接合したパッチワーク・テーラードブランク材でもよい。或いは、差厚板は、1枚の鋼板を圧延等の加工によって部分的に板厚を変化させたテーラーロールドブランク材でもよい。
【0114】
(アームの変形例)
図17は、第1アーム71及び第2アーム72の変形例を示す図である。図17に示す例では、第1アーム71の第1基部71aと第1爪71bとの接続部が回転可能となっている。すなわち、第1爪71bが、横方向(y方向)の軸を中心に回転可能に第1基部71aに接続される。第1基部71aは、ベースフレーム48に対して固定されている。第2アーム72も同様に、第2爪72bが、横方向(y方向)の軸を中心に回転可能に第2基部72aに接続される。このように、アームの爪を回転可能とし、爪の回転を制御することで、爪の横方向の位置を制御し、加熱ワークの持ち上げ及び下ろす動作を実現することができる。
【0115】
図17に示す例では、第1アーム71は、第1加熱ワークW1の上面を支持する爪71cをさらに有する。第2アーム72は、第2加熱ワークW2の上面を支持する爪72cをさらに有する。このように、加熱ワークの上面を支持する爪をアームに設けてもよい。一対の第1アーム71の爪71b、71c、及び一対の第2アーム72の爪72b、72cにより第1、第2加熱ワークW1、W2の端部を挟み込んで保持することで、加熱ワークの板厚が薄く、剛性が低い場合でも安定して加熱ワークを保持することができ、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の板面の法線方向における間隔Dを安定して保つことができる。
【0116】
図18は、第1アーム71及び第2アーム72の他の変形例を示す図である。図18に示す例では、第1アーム71は、上下方向(z方向)を軸に回転可能にベースフレーム48に取り付けられる。第2アーム72も、上下方向(z方向)を軸に回転可能にベースフレーム48に取り付けられる。このように、アームを、上下方向を軸に回転させることで、爪の横方向内側への延び出し量を制御するよう構成することもできる。
【0117】
(爪の位置を調整する機構)
一対の第1爪71bと、一対の第2爪72bの上下方向における距離が調節可能であってもよい。例えば、第1アーム71の第1基部71a及び第2アーム72の第2基部72aの少なくとも1つを上下方向に伸縮可能に構成することができる。例えば、第1基部71a及び第2基部72aの少なくとも一方に、上下方向に伸縮する伸縮機構を設けてもよい。これにより、搬送対象の加熱ワークに合うように爪の位置を調整することができる。なお、一対の第3爪73bと、一対の第4爪74bの上下方向における距離も、同様に、調整可能であってもよい。
【0118】
(加熱ワークの支持構造の変形例)
図19は、搬送装置46による第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の支持構造の変形例を示す図である。図20は、図19に示す搬送装置46で支持された状態の第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2のみを示す斜視図である。図19及び図20に示す例では、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2が上下方向(第1加熱ワークW1の法線方向)に重なり、且つ、互いに接した状態で、搬送装置46に支持される。具体的には、第1アーム71の一対の第1爪71bに支持された第1加熱ワークW1の下面と、第2アーム72の一対の第2爪72bに支持された第2加熱ワークW2の上面が互いに接している。この例では、上側で支持される第1加熱ワークW1の下面の一部に、下側で支持される第2加熱ワークW2の上面の全面が接している。この場合、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の間隔Dは、0mmである。上側で支持される第1加熱ワークW1の板面の幅B1は、下側で支持される第2加熱ワークW2の幅B2より大きい。また、第1加熱ワークW1を支持する一対の第1爪71bの間の距離よりも、第2加熱ワークW2を支持する一対の第2爪72bの間の距離の方が小さい。すなわち、第2爪72bの方が、第1爪71bよりも内側に突出している。一対の第1爪71bと、一対の第2爪72bとの、上下方向における距離Hは、第2加熱ワークW2の板厚と略同じに設定される。
【0119】
図21は、搬送装置46による第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の支持構造の他の変形例を示す図である。図22は、図21に示す搬送装置46で支持された状態の第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2のみを示す斜視図である。図21及び図22に示す例では、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2が上下方向(第1加熱ワークW1の法線方向)に重なり、且つ、互いに接した状態で、搬送装置46に支持される。具体的には、第1アーム71の一対の第1爪71bに支持された第1加熱ワークW1の下面と、第2アーム72の一対の第2爪72bに支持された第2加熱ワークW2の上面が、幅方向両端部において離間し、その両端部の間の部分において互いに接している。この場合、両端部の間の部分において、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の間隔Dは、0mmである。上側で支持される第1加熱ワークW1と、下側で支持される第2加熱ワークW2の上から見た形状は同じである。第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の両端部の離間した部分に、第1爪71bが挿入される。両端部の離間部の間隔Dは、第1爪71bの厚み(上下方向の寸法)より大きい。図21図22に示す例では、上側で支持される第1加熱ワークW1の両端部が、両端部の間よりも上方に位置するように湾曲している。下側で支持される第2加熱ワークW2の両端部が、両端部の間よりも下方に位置するように湾曲している。両端部が離間する形態は、これに限られない。例えば、図23に示すように、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2のいずれか一方の両端部が湾曲し、他方の両端部は湾曲しない形態であってもよい。なお、一対の第1爪71bと、一対の第2爪72bとの、上下方向における距離Hは、図2Aの場合と同様に、第2加熱ワークW2の板厚に加えて、0~50mmとすることが好ましい。第1爪71bが、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の両端部の離間した部分に挿入されることから、第2加熱ワークW2の板厚に第1爪71bの厚みの下限を加えた値を距離Hの下限としてもよい。距離Hの下限は、例えば、第2加熱ワークW2の板厚+3mmであることが好ましく、第2加熱ワークW2の板厚+5mmであることがより好ましい。また、図21図22に示す例では、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の端部の離間した部分は一対の長尺方向の辺に設けられているが、端部が離間する形態はこれに限られない。例えば、第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の端部の離間した部分は一対の短尺方向の辺に設けられてもよい。さらに、一対の長尺方向の辺及び一対の短尺方向の辺の両方に設けられてもよい。
【0120】
図21図23に示す例では、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の幅方向の両端部が、幅方向に垂直な長さ方向の全体にわたって離間している。これに対して、幅方向の両端部の一部が、離間していてもよい。図24は、この場合の搬送装置46による第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2の支持構造の例を示す図である。図25は、図24に示す搬送装置46で支持された状態の第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2のみを示す斜視図である。図24及び図25に示す例では、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の幅方向両端部の第1アーム71の一対の第1爪71bに相当する部分が離間しており、幅方向両端部の他の部分は、互いに接触している。また、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の長さ方向両端部の第3アーム73の一対の第3爪73bに相当する部分が離間しており、長さ方向両端部の他の部分は、互いに接触している。これにより、第1及び第2加熱ワークW1、W2の端部の離間する部分を少なくできる。図24及び図25の例では、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の両方の端部が湾曲する形態である。これに対して、例えば、図26に示すように、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2のいずれか一方の両端部が湾曲し、他方の両端部は湾曲しない形態であってもよい。
【0121】
(実施形態2)
(トレイ及び蓄熱材を用いた搬送例)
図27は、トレイ及び蓄熱材を用いて第1及び第2加熱ワークW1、W2を搬送する場合の熱間プレス製造ライン10の構成例を示す図である。図27に示す熱間プレス製造ライン10は、トレイ1をさらに備える。トレイ1は、加熱装置14及び搬送テーブル16において第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2を載せるトレイである。トレイ1は、トレイ本体2と、トレイ本体2の上に置かれた蓄熱材5と、第1支柱群3とを有する。第1支柱群3は、トレイ本体2又は蓄熱材5から上方に、蓄熱材5の上面より高い位置まで延びる少なくとも3本の支柱を含む。第1支柱群3は、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置される。なお、図27では、第1及び第2加熱ワークW1、W2は一つのトレイ1の上に載せられた状態で加熱装置14により加熱され、搬送テーブル16により搬送される例が示されている。変形例として、第1及び第2加熱ワークW1、W2はそれぞれ別々のトレイの上に1枚ずつ載せられた状態で加熱及び搬送されてもよい。また、1つのトレイに3枚以上の加熱ワークが載せられた状態で加熱及び搬送されてもよい。
【0122】
加熱装置14において、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2のそれぞれが、第1支柱群3に支持された状態で加熱される。これにより、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2は、それぞれ、上から見て異なる位置において、蓄熱材5の上方且つ蓄熱材5と重なる位置に支持される。第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2は、加熱装置14から、トレイ1に載せられた状態で、搬送テーブル16上の搬送装置46による持ち上げ位置に搬送される。これにより、第1及び第2加熱ワークW1、W2は、加熱後から搬送装置46に持ち上げられるまでの期間に蓄熱材5と重なる状態となる。そのため、温度降下が緩和される。また、搬送装置46が第1支柱群3の上に置かれた第1加熱ワーク及び第2加熱ワークW2を、上方に持ち上げる際に、第1支柱群3は障害にならない。
【0123】
図27に示す例では、蓄熱材5は、トレイ本体2に接している。蓄熱材5の配置は、これに限られない。例えば、図示しないが、蓄熱材5は、第1支柱群3とは別に設けられた第2支柱群の上に置かれ、トレイ本体2との間に間隔をあけて上下に重なる位置に配置されてもよい。第2支柱群は、トレイ本体2から上方に延び、第1支柱群3とは上から見て異なる位置に配置される少なくとも3本の支柱を含む。これにより、トレイ本体2の熱による変形を抑制することができる。
【0124】
トレイ本体2は、上下方向に垂直に広がる形状であり、上下に貫通する中空部を含んでもよい。これにより、加熱工程において、トレイ本体2の下からの熱が蓄熱材5及び第1及び第2加熱ワークW1、W2に伝わりやすくなる。
【0125】
蓄熱材5の上面の面積は、第1及び第2加熱ワークW1、W2の上面の面積より広くてもよい。この場合、加熱工程、及び第1及び第2加熱ワークW1、W2がトレイ1に載せられた状態で搬送装置46による持ち上げ位置まで搬送される搬送工程において、上から見て、トレイ本体2の上に置かれた蓄熱材5の外縁は、第1支柱群3の上に置かれた第1及び第2加熱ワークW1、W2の外縁の外側に位置することが好ましい。これにより、第1及び第2加熱ワークW1、W2の全体が蓄熱材5から輻射熱を受ける。そのため、加熱ワーク全体の温度が均一に維持されやすくなる。
【0126】
例えば、第1及び第2加熱ワークW1、W2の最大板厚より、蓄熱材5の板厚の方が大きくてもよい。この場合、第1及び第2加熱ワークW1、W2は、熱容量が比較的大きい蓄熱材5からの輻射熱によって、温度降下が抑制される。そのため、加熱ワークの温度降下を効果的に抑制することができる。
【0127】
(トレイ)
図28は、トレイ1を上から見た上面図である。図29は、図28に示すトレイ1を矢印Fの方向から見た側面図である。図28に示す例では、トレイ本体2は、上下方向に垂直な面に沿って広がる形状を有し、上下に貫通する中空部2Gを含む。上から見て、中空部2Gの領域の方が、トレイ本体2の構成部材の領域より広い。トレイ1は、トレイ本体2の上に置かれた蓄熱材5を有する。トレイ1は、蓄熱材5の上方に延びる複数の支柱3を有する。
【0128】
(トレイ本体)
図28に示す例では、トレイ本体2は、枠2cと、枠2cの内側に架け渡たされる棒部材2fを有する。枠2cは、一対の縦枠2b及び一対の横枠2aを含む。一対の縦枠2bは、横方向に離間して平行に配置される。一対の横枠2aは、一対の縦枠2bの間で、縦方向に離間して平行に配置される。一対の縦枠2b及び横枠2aにより、上から見て長方形の枠2cを形成する。棒部材2fは、縦棒部材2dと、横棒部材2eを含む。縦棒部材2dは、一対の横枠2aの間に架け渡される。横棒部材2eは、一対の縦枠2bの間に架け渡される。枠2cの中に棒部材2fが格子状に配置される。
【0129】
棒部材2f(縦棒部材2d及び横棒部材2eの少なくとも一方)は、枠2cにおける位置を調整可能に構成されてもよい。例えば、枠2cに、位置決め穴又は係止片が複数設けられてもよい。この場合、棒部材2fが、枠2cの穴又は係止片に、必要に応じて締結具等を用いて固定される。棒部材2fを固定する穴又は係止片の位置を変えることで、枠2cにおける棒部材2fの位置を調整することができる。
【0130】
なお、トレイ本体2の構成は、図28に示す例に限られない。例えば、トレイ本体は、離間して略平行に配置された一対の縦棒部材と、一対の縦棒部材の間に、一対の縦棒部材に交差する方向に架橋された複数の横棒部材を有する梯子形状に形成されてもよい。また、トレイ本体は、中空部として、複数の上下に貫通する穴を有する板状部材で形成されてもよい。
【0131】
トレイ本体2の構成部材(図28の例では、枠2c及び棒部材2f)は、パイプ材であってもよいし、中実材であってもよい。また、トレイ本体2の構成部材は、断面がL字状のアングル材であってもよいし、断面がコの字状(U字状)のチャンネル材であってもよい。トレイ本体2の構成部材の材料は、特に限定されないが、耐熱性を有する材料、例えば、耐熱鋼等又はセラミックス等で形成される。構成部材の最高使用温度は、例えば、加熱装置で常用する900℃以上、加熱装置の上限設定温度である1050℃以下の範囲とすることが望ましい。構成部材として用いることのできる耐熱鋼(耐熱合金鋼)として、例えば、SCH22(0.4C-25Cr-20Ni)、SCH24(0.4C-25Cr-35Ni-Mo,Si)等が挙げられる。トレイ本体2の構成部材を耐熱合金鋼で形成すれば、加工や製作が容易となる。なお、上記のトレイ本体2の構成部材として用いることができる材料は、支柱3の材料として用いることもできる。
【0132】
(蓄熱材)
蓄熱材5は、トレイ本体2の上に載せられる。蓄熱材5は、板状の部材である。蓄熱材5は、上から見て矩形の形状を有する。蓄熱材5は、支柱3を通すための貫通孔を有する。支柱3は、トレイ本体2の上に置かれた蓄熱材5の貫通孔を通って上方に延びる。
【0133】
蓄熱材5の材料は特に限定されないが、耐熱性を有する材料、例えば、耐熱金属等又はセラミックス等で形成される。蓄熱材5の材料として用いることができる耐熱金属としては、例えば、耐熱鋼、ステンレス鋼、Ni基合金その他の合金が挙げられる。また、蓄熱材5は、熱伝導率が小さい方が好ましい。熱伝導率が小さいと、温度が低下しにくくなり、第1及び第2加熱ワークW1、W2に対する輻射熱による熱量補填の効果をより長く持続することができる。例えば、蓄熱材5は、加熱対象のワークと同程度か又はそれ以下の熱伝導率を有する材料で形成してもよい。蓄熱材5の熱伝導率は、これに限定されないが、例えば、200W/mK以下が好ましく、100W/mK以下がより好ましく、70W/mK以下がさらに好ましい。なお、蓄熱材5及びトレイ1は、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2が搬送装置46により持ち上げられてプレス位置へ搬送された後は、別のワークの加熱工程及び搬送工程に使用されてもよい。
【0134】
(支柱)
支柱3は、トレイ本体2から上方に蓄熱材5の上面より高い位置まで延びて形成される。複数の支柱3は、上から見て、支柱3同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置される。複数の支柱3は、第1加熱ワークW1、又は第2加熱ワークW2を蓄熱材5と間隔をあけて上下に重ねた状態で載置可能に構成される。図28に示す例では、複数の支柱3は、いずれも、上から見てトレイ本体2の中空部2Gの間に位置している。すなわち、中空部2Gに挟まれるトレイ本体2の構造部材に支柱3が設けられる。
【0135】
図29に示す例では、複数の支柱3は、蓄熱材5を貫通する。蓄熱材5は、複数の支柱3を通すための貫通孔を有する。これにより、図28に示すように、上から見て、蓄熱材5の外縁の内側に、複数の支柱3を配置することができる。この場合、蓄熱材5より面積が小さい第1加熱ワークW1の全体が上から見て蓄熱材5と重なるように、第1加熱ワークW1を複数の支柱3の上に配置することができる。図29に示す例では、蓄熱材5は平たい板であるが、蓄熱材5の形状を、例えば、第1加熱ワークW1に応じた形状としてもよい。この場合、第1加熱ワークW1と蓄熱材5との間の距離を、全面に渡って均一に近づけることができる。なお、図29は、第1加熱ワークW1が配置された例を示すが、第2加熱ワークW2も、第1加熱ワークW1と同様に配置することができる。
【0136】
トレイ本体2に置かれた蓄熱材5と、支柱3に置かれた第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2との間の上下方向における最大の間隔Dc(mm)と、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の最も薄い部分の最小板厚t1(mm)は、下記式の関係にあることが好ましい。これにより、搬送中のトレイ1上の第1加熱ワークW1の温度降下が効果的に抑制される。
Dc≦120t1
【0137】
また、上記の最小板厚t1(mm)と、蓄熱材5の最も薄い部分の最小板厚t2(mm)は、下記式の関係としてもよい。これにより、ワークの温度降下を効果的に抑制することができる。
0.8≦t2/t1≦20
【0138】
蓄熱材5の上方に第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2を置く構成は、上記例に限られない。例えば、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2を置くための支柱群3は、蓄熱材5に設けられてもよい。この場合、支柱群3は、蓄熱材5の一部であってもよい。また、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の少なくとも一部が、蓄熱材5に接してもよい。例えば、蓄熱材5は、上方に突出する凸部を有してもよい。凸部は、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2を支持可能な形状にすることができる。例えば、凸部の頂面を平面としてもよい。この場合、頂面が、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の載置面となる。また、凸部は、少なくとも1つの稜であってもよい。また、蓄熱材5は、上下方向に湾曲した形状を有してもよい。
【0139】
蓄熱材5の他の変形例として、上から見て第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の外縁の外側において、蓄熱材5の一部が上方に延びて形成されてもよい。これにより、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の側方の端部と蓄熱材5の上方に延びた部分との間の輻射熱により、熱量を補填し合うことができる。一例として、上から見て第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の外縁の外側において、蓄熱材5の一部が上方に延び、少なくとも第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2と同じ高さに達するよう形成されてもよい。これにより、ワークの側方が蓄熱材5で覆われる。そのため、側方遮蔽板を設けた場合と同様に、保温効果を保つことができる。
【0140】
(実施形態3)
(トレイを用いた搬送例)
図30は、トレイを用いて第1及び第2加熱ワークW1、W2を重ねて加熱、搬送する場合の熱間プレス製造ライン10の構成例を示す図である。図30に示す熱間プレス製造ライン10は、トレイ1をさらに備える。トレイ1は、加熱装置14及び搬送テーブル16において第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2を載せるトレイである。トレイ1は、トレイ本体2と、トレイ本体2から上方に延びる支柱群3とを有する。支柱群3は、第1加熱ワークW1を置くための第1支柱群と、第2加熱ワークW2を置くための第2支柱群を有する。第1支柱群は、第1加熱ワークW1の下面を支持可能に構成された少なくとも3本の支柱を含む。第2支柱群は、第1支柱群に支持された第1加熱ワークW1の上方に第2加熱ワークW2を配置するように、第2加熱ワークW2を支持可能に構成されたな少なくとも3本の支柱を含む。第1支柱群は、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置される。第2支柱群は、上から見て第1支柱群とは異なる位置に配置され、且つ、上から見て支柱同士を結ぶ仮想直線が少なくとも1つの三角形を形成するよう配置される。第2支柱群は、いずれも第1支柱群のうち最も低い支柱よりも高い。
【0141】
加熱装置14において、第1加熱ワークW1は、第1支柱群の上に置かれ、第2加熱ワークW2は、第2支柱群の上に置かれ、且つ、第1加熱ワークW1の上方に重ねて配置された状態で、加熱される。第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2は、トレイ1に載せられた状態で、加熱装置14から搬送テーブル16上の搬送装置46による持ち上げ位置に搬送される。これにより、第1及び第2加熱ワークW1、W2は、加熱後から搬送装置46に持ち上げられるまでの期間に互いに重なる状態となる。そのため、温度降下が緩和される。
【0142】
搬送テーブル16上の持ち上げ位置において、第1支柱群に置かれた第1加熱ワークW1及び第2支柱群に置かれた第2加熱ワークW2は、それぞれ搬送装置46の第2アーム72の第2爪72b及び第1アーム71の第1爪71bによって支持された状態で、同時に上方に持ち上げられて、搬送装置46によってプレス機20のそれぞれのプレス位置に搬送されてもよい。この時、第1アーム71を駆動して一対の第1爪71bを第2加熱ワークW2の下面に配置する動作と、第2アーム72を駆動して一対の第2爪72bを第1加熱ワークW1の下面に配置する動作とが同時に行われてもよいし、順次行われてもよい。トレイ1に載せられた第1及び第2加熱ワークW1、W2を同時に搬送装置46で持ち上げることで、搬送時間を短縮することができ、温度降下をさらに低減できる。また、第2支柱群に置かれた第2加熱ワークW2が搬送装置46の第1アーム71の第1爪71bによって上方に持ち上げられ、その後に第1支柱群に置かれた第1加熱ワークW1が搬送装置46の第2アーム72によって持ち上げられて、それぞれ、搬送装置46によってプレス機20のプレス位置に搬送されてもよい。搬送装置46が支柱群3のうち第1支柱群の上に置かれた第1加熱ワークW1及び第2支柱群の上に置かれた第2加熱ワークW2を、同時に、又は順次、上方に持ち上げる際に、支柱群3は障害にならない。
【0143】
トレイ本体2は、上下方向に垂直に広がる形状であり、上下に貫通する中空部を含んでもよい。これにより、加熱工程において、トレイ本体2の下からの熱が第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2に伝わりやすくなる。第1支柱群及び第2支柱群は、上から見てトレイ本体2の中空部の間に位置してもよい。これにより、トレイ本体2の下からの熱が、第1支柱群及び第2支柱群の周りの中空部を通って、第1支柱群に置かれた第1加熱ワークW1及び第2支柱群に置かれた第2加熱ワークW2により伝わりやすくなる。
【0144】
第2支柱群は、第1支柱群のうち少なくとも3本の支柱それぞれに対して、一定の高さΔHだけ高い少なくとも3本の支柱を含んでもよい。この場合、第1支柱群が支持する第1加熱ワークより、一定の高さΔHだけ高い位置に、第2支柱群が支持する第2加熱ワークを配置することができる。
【0145】
(トレイ)
図31は、トレイ1を上から見た上面図である。図32は、図31に示すトレイ1を矢印Fの方向から見た側面図である。図31に示す例では、トレイ本体2は、上下方向に垂直な面に沿って広がる形状を有し、上下に貫通する中空部2Gを含む。上から見て、中空部2Gの領域の方が、トレイ本体2の構成部材の領域より広い。トレイ1は、トレイ本体2から上方に延びる複数の支柱3(3a、3b)を有する。複数の支柱3は、第1加熱ワークW1を載置可能な第1支柱群3aと、第2加熱ワークW2を、第1加熱ワークW1の上方に載置可能な第2支柱群3bとを含む。第1支柱群3a及び第2支柱群3bは、いずれも、上から見てトレイ本体2の中空部2Gの間に位置している。
【0146】
(トレイ本体)
図31に示す例では、トレイ本体2は、枠2cと、枠2cの内側に架け渡される棒部材2fを有する。枠2cは、一対の縦枠2b及び一対の横枠2aを含む。一対の縦枠2bは、横方向に離間して平行に配置される。一対の横枠2aは、一対の縦枠2bの間で、縦方向に離間して平行に配置される。一対の縦枠2b及び横枠2aにより、上から見て長方形の枠2cを形成する。棒部材2fは、縦棒部材2dと、横棒部材2eを含む。縦棒部材2dは、一対の横枠2aの間に架け渡される。横棒部材2eは、一対の縦枠2bの間に架け渡される。枠2cの中に棒部材2fが格子状に配置される。
【0147】
棒部材2f(縦棒部材2d及び横棒部材2eの少なくとも一方)は、枠2cにおける位置を調整可能に構成されてもよい。例えば、枠2cに、位置決め穴又は係止片が複数設けられてもよい。この場合、棒部材2fが、枠2cの穴又は係止片に、必要に応じて締結具等を用いて固定される。棒部材2fを固定する穴又は係止片の位置を変えることで、枠2cにおける棒部材2fの位置を調整することができる。
【0148】
トレイ本体2の構成部材(図31の例では、枠2c及び棒部材2f)は、パイプ材であってもよいし、中実材であってもよい。また、トレイ本体2の構成部材は、断面がL字状のアングル材であってもよいし、断面がコの字状(U字状)のチャンネル材であってもよい。トレイ本体2の構成部材の材料は、特に限定されないが、耐熱性を有する材料、例えば、耐熱鋼等又はセラミックス等で形成される。構成部材の最高使用温度は、加熱装置で常用する900℃以上、加熱装置の上限設定温度である1050℃以下の範囲とすることが望ましい。構成部材として用いることのできる耐熱鋼(耐熱合金鋼)として、例えば、SCH22(0.4C-25Cr-20Ni)、SCH24(0.4C-25Cr-35Ni-Mo,Si)等が挙げられる。トレイ本体2の構成部材を耐熱合金鋼で形成すれば、加工や製作が容易となる。なお、上記のトレイ本体2の構成部材として用いることができる材料は、支柱3の材料として用いることもできる。
【0149】
(支柱)
第1支柱群3aは、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が三角形を形成する少なくとも3本の支柱を含む。第2支柱群3bは、上から見て、支柱同士を結ぶ仮想直線が三角形を形成する少なくとも3本の支柱を含む。第2支柱群3bは、いずれも、上から見て第1支柱群3aとは異なる位置に配置される。第2支柱群3bは、いずれも、第1支柱群3aのうち最も低い支柱よりも高い。これにより、第1支柱群3aは、第1加熱ワークW1を支持可能となる。また、第2支柱群3bは、第1支柱群3aに支持された第1加熱ワークW1の上方に第2加熱ワークW2を支持可能となる。
【0150】
第2支柱群3bは、上から見て第2加熱ワークW2が置かれる領域であって、第1加熱ワークW1が置かれる領域と重ならない領域に配置される。また、第2支柱群3bは、上から見て、第1加熱ワークW1が置かれる領域と重ならないように構成される。すなわち、第2支柱群3bは、第1加熱ワークW1が、搬送装置46によって上方に持ち上げられる際に、第1加熱ワークW1が第2支柱群3bに引っ掛からないように構成される。
【0151】
第1支柱群3a及び第2支柱群3bの本数は、特に限定されない。第1支柱群3aの本数と、第2支柱群3bの本数は、同じでもよいし、異なっていてもよい。例えば、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の特性や支持位置等を考慮して、第2加熱ワークW2の支持を第1加熱ワークW1より強化したい場合には、第2支柱群3bの本数を、第1支柱群3aの本数より多くしてもよい。
【0152】
図31に示す例では、第1加熱ワークW1は、上から見て縁(端)に切欠きを有する。第1加熱ワークW1の切欠きに相当する領域に第2支柱群3bが配置される。このように、第1加熱ワークW1の切欠き又は穴に相当する領域に第2支柱群3bを配置することで、上から見て第1加熱ワークW1と重ならない領域に第2支柱群3bを配置することができる。なお、第1支柱群、第2支柱群、及び加熱ワークの構成は、図31に示す例に限られない。例えば、同じ形状の第1加熱ワークW1と第2加熱ワークW2が上から見てずれた位置に配置されてもよい。この場合、上から見て、第2加熱ワークW2の一部が第1加熱ワークW1と重ならないように、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2が配置される。第2加熱ワークW2の配置される領域であって、第1加熱ワークW1が配置される領域と重ならない位置に、第2支柱群3bが配置される。この場合、第1加熱ワークW1に、切り欠きや穴等を設けなくてもよい。
【0153】
図32を参照し、第1支柱群3aに置かれた第1加熱ワークW1と、第2支柱群3bに置かれた第2加熱ワークW2との間の上下方向における最大の間隔Dt(mm)と、第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の最も薄い部分の最小板厚t(mm)は、下記式の関係にあることが好ましい。これにより、搬送中の第1加熱ワークW1及び第2加熱ワークW2の温度降下が効果的に抑制される。
Dt≦120t
【0154】
同様の観点から、Dt≦100tであることがより好ましく、Dt≦60tであることがさらに好ましい。また、間隔Dt(mm)は、例えば、100mm以下が好ましく、50m以下がより好ましい。
【0155】
図32に示す例では、ΔHは、第1支柱群3aと第2支柱群3bの高さの差である。ΔH(mm)の範囲は、例えば、上記の間隔Dt(mm)の範囲に第1加熱ワークW1の最大板厚を足した範囲とすることができる。一例として、第1加熱ワークW1の板厚が第1加熱ワークW1内で1~3mm程度変化する場合、ΔHは、3~103mmが好ましく、3~53mmがより好ましい。
【0156】
(他の変形例)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、第3アーム73及び第4アーム74は省略してもよい。また、上記例では、一対の第1アーム71が並ぶ横方向と、一対の第2アーム72が並ぶ横方向がいずれもx方向で同じである。この変形例として、例えば、一対の第1アーム71がx方向に並び、一対の第2アーム72がx方向に垂直なy方向に並ぶ構成であってもよい。上記例では、第2アーム72が第1アーム71より長いが、第1アーム71が第2アーム72より長くてもよい。同様に、第3アーム73が第4アーム74より長くてもよい。
【0157】
上記実施形態は、第1アーム71が複数対、第2アーム72が複数対設けられる。これに対して、第1アーム71が一対、第2アーム72が一対設けられてもよい。
【0158】
ベースフレーム48は、横方向(x方向及びy方向の少なくともいずれか一方)において伸縮自在であってもよい。
【0159】
(実験例1)
鋼板を加熱し、加熱終了後の温度変化を、条件を変えて測定した。具体的には、下記の実験を行った。供試材として、板厚0.8mm及び1.6mmの1.5GPa級熱間プレス用鋼板を使用し、鋼板表面に熱電対を取り付けて温度を測定した。加熱炉で鋼板を950℃まで加熱し、加熱炉から出した後の空冷中の温度降下を計測した。板厚1.6mmの鋼板1枚を単独で加熱、放冷した条件を比較例1、板厚0.8mmの鋼板1枚を単独で加熱、放冷した条件を比較例2、板厚0.8mmの鋼板2枚を、板面の法線方向に重ね、所定の間隔Dだけ離して並べて固定した条件を実施例として測温を実施した。鋼板を2枚重ねた条件では、間隔Dを10mm、30mm、50mmの3水準とし、それぞれ実施例1、実施例2、実施例3とした。図33は、温度測定位置を示す。鋼板の端から5mm、20mm、30mm、50mm、及び鋼板の中央の位置で、上下の鋼板の各々の温度を測定した。
【0160】
図34は、測定結果としての平均降温速度のグラフである。測定した温度降下曲線における800℃から750℃までの区間における平均降温速度を導出した。図35は、平均降温速度の導出の対象とした範囲を示すグラフである。図34に示す結果から、全ての測定位置で板厚0.8mmの鋼板1枚単独の条件である比較例1に対して、板厚0.8mmの鋼板2枚を上下に重ねた条件である実施例1~3の平均降温速度が低減できたことを確認した。また、鋼板を2枚重ねた場合、2枚の鋼板の間の間隔Dが小さい方が、鋼板の端部付近の平均降温速度を低減できるとともに、全ての測定位置で平均降温速度の改善効果が大きいことを確認した。間隔Dを50mmに設定した実施例3では、板厚0.8mmの鋼板1枚単独の条件である比較例1と板厚1.6mmの鋼板1枚単独の条件である比較例2の中間程度まで降温速度は改善した。間隔Dを10mmに設定した実施例1では、板厚1.6mmの鋼板1枚単独の比較例2と同程度まで降温速度は改善した。2枚重ねた鋼板の間の間隔Dを適切に設定することによって、板厚が2倍、すなわち熱容量が2倍の鋼板と同等の降温特性を得ることができた。
【0161】
(実験例2)
次に、板厚0.8mmの鋼板2枚を上下に重ねた条件において、加熱装置で鋼板を950℃まで加熱し、加熱終了後に搬送装置により搬送した際の温度降下を計測した。搬送装置による搬送速度は最大1.6m/秒であり、移動距離は約3.2mであった。さらに、搬送装置に搬送方向の前方及び上方に遮蔽板を設置した場合の温度降下も測定した。図36は、実験に使用した遮蔽板97の構成を示す。搬送中の2枚の鋼板M1、M2の全体が前方から見て全て覆われ、且つ、上方から見ても鋼板M1、M2の全体が覆われるよう遮蔽板97を設置した。2枚の鋼板M1、M2の間の間隔Dは30mmとした。実験において間隔Dを正確に固定するため、上下の鋼板M1、M2を連結材31で固定して加熱及び搬送を実施した。遮蔽板が無い条件を実施例4、遮蔽板が有る条件を実施例5とした。温度測定位置は、鋼板M1、M2の端から5mm、30mm、50mmの位置とした。上下の鋼板M1、M2の各々の温度を熱電対NTにより測定した。
【0162】
図37は、測定結果としての平均降温速度のグラフである。搬送装置により鋼板が移動している期間は加熱炉から出た後の時間が約5秒から8秒までの範囲であったため、測定した温度降下曲線において加熱炉から出た後の5秒から8秒までの区間における平均降温速度を導出した。図38は、平均降温速度の導出の対象とした範囲を示すグラフである。図37に示す結果において、遮蔽板の無い実施例4では鋼板端部での降温速度が比較的大きくなった。また、下側の鋼板に対して上側の鋼板の方が、降温速度が大きい結果となった。これは、図34の間隔Dを30mmに設定して静止状態で温度測定した実施例2の結果と同様の傾向であるが、搬送の影響で降温速度の絶対値は大きくなっている。一方、搬送装置に搬送方向の前方と上方に遮蔽板を設置した実施例5では、鋼板端部及び上側の鋼板の降温速度が大きく改善した。また、板幅方向及び上下の鋼板での降温速度の差も大きく低減することができた。
【0163】
上記の結果から、複数の加熱ワークを板面の法線方向に重ねて搬送する際に、複数の加熱ワークの距離を適切に保つことが、降温速度を低減する観点から重要であることがわかった。上記の実施形態では、第1加熱ワーク及び第2加熱ワークの両端部をそれぞれ、第1爪及び第2爪で支持するため、2つのワークの間隔を安定して保つことができる。そのため、第1及び第2加熱ワークの温度降下を抑えつつ、簡便且つ効率よく搬送することができる。
【符号の説明】
【0164】
46 搬送装置
48 ベースフレーム
71 第1アーム
71b 第1爪
72 第2アーム
72b 第2爪
W1 第1加熱ワーク
W2 第2加熱ワーク
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38