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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】接合体
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/06 20060101AFI20230817BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20230817BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20230817BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20230817BHJP
   C23F 13/02 20060101ALI20230817BHJP
   C23F 13/14 20060101ALI20230817BHJP
   C23F 13/16 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C23F13/06
B32B15/01 A
C22C18/04
C23C2/06
C23F13/02 A
C23F13/14
C23F13/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023531120
(86)(22)【出願日】2023-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2023001511
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2022074577
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】上野 晋
(72)【発明者】
【氏名】莊司 浩雅
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-64860(JP,A)
【文献】特開2016-124029(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079131(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0069457(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/01
C22C 18/04
C23F 13/02
C23F 13/06
C23F 13/14
C23F 13/16
C23C 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理層を有する鋼材で構成されており、当該鋼材を貫通する開口部と、当該開口部に隣接しており鋼素地が露出している部位である露出部と、が存在する第1の部材と、
めっき層を有する鋼材で構成されており、前記第1の部材の前記開口部を少なくとも覆うように設けられた第2の部材と、
が接合されたものであり、
前記第2の部材の前記めっき層は、質量%で、
Al:15.0%超30.0%以下、
Mg:5.0%超15.0%以下、
Sn:0%~0.70%、
Ca:0.03%~0.60%、
Si:0.01%~0.75%、
Ti:0%~0.25%、
Ni:0%~1.00%、
Co:0%~0.25%、
Fe:0%~5.0%、
B :0%~0.5%、
を含有し、残部が、Zn及び不純物からなり、
前記第2の部材と接していない側での前記第1の部材の前記開口部の周囲長さをL[mm]、前記第1の部材における前記第2の部材と接していない前記露出部の面積をS[mm]、前記第2の部材の片面当たりの前記めっき層の平均付着量をM[g/m]としたときに、L<100の場合は、M/S≧0.008が成立し、L≧100の場合は、L×M/S≧1.300が成立し、
前記第1の部材と接している側の前記第2の部材の前記めっき層において、全体でのMg、Al、Znの含有量(単位:質量%)を、それぞれ[Mg]’、[Al]’、[Zn]’と表記し、
前記第1の部材及び前記第2の部材を、前記第1の部材の前記開口部の位置で厚み方向に切断することで得られる断面において、前記第1の部材と接している側の前記第2の部材の前記めっき層を、電界放出形走査電子顕微鏡のエネルギー分散形X線分析装置(FE-SEM/EDX)により、表層から3μmの深さまでを面分析して得られるMg、Al、Znの含有量(単位:質量%)を、それぞれ[Mg]、[Al]、[Zn]と表記し、
前記面分析の分析結果に基づき算出される比率Rを、以下の式(1)のように定義し、
前記断面において、前記開口部の一方の端部を起点として前記開口部の中心から離れる方向に20mmの位置を位置Aとしたときに、前記位置Aにおける前記比率Rの値であるRは、1.10~5.00の範囲内であり、かつ、
前記断面において、前記開口部の一方の端部の位置を位置Bとしたときに、前記位置Bにおける前記比率Rの値であるRは、前記Rの値以下である、接合体。
【数1】
【請求項2】
前記Rは、0.30~5.00の範囲内である、請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記第2の部材の前記めっき層の表面には、四端子四探針法で測定したときの抵抗が1×10-2Ω未満である化成処理皮膜が存在する、請求項1に記載の接合体。
【請求項4】
前記第1の部材の前記表面処理層は、Znを含有する、請求項1に記載の接合体。
【請求項5】
前記第1の部材の前記表面処理層は、1又は複数の層で構成されており、最表面は塗膜である、請求項1に記載の接合体。
【請求項6】
前記第1の部材の前記露出部には、鉄酸化物が付着している、請求項1~5の何れか1項に記載の接合体。
【請求項7】
前記第1の部材の前記開口部には、前記第2の部材の側に向いたバリが存在する、請求項1~5の何れか1項に記載の接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
表面処理が施されている鋼材であっても、ネジやボルト等といった締結部品を設けるための穴、運搬用の穴、位置合わせ用の穴等のように、各種の開口部が設けられていることが多い。また、これら開口部に隣接する部分は、鋼素地が露出していることが多い。
【0003】
鋼材に施されている表面処理が塗装である場合には、かかる鋼素地の露出部分から腐食が進行することとなる。鋼材に施されている表面処理が亜鉛系めっきである場合には、亜鉛系めっきが有する犠牲防食能により、ある程度腐食速度が抑えられるが、長寿命化は期待できない。また、開口部の近傍を塗装等で補修することもあるが、コストや工数がかかるという問題がある。
【0004】
他方、鋼素地の露出部分に鉄酸化物(鉄錆を含む。)が発生した場合には、ケレンやショットブラスト等により鉄酸化物を物理的に除去した後に、塗料などで補修することがある。しかしながら、ケレンやショットブラストは、現場での作業が容易ではない。加えて、処理が不十分な場合には、鉄酸化物が残存して、早期に補修の効果が喪失する。そのため、鉄酸化物を除去せずに、鉄酸化物の上から塗装することで、錆の更なる発生を防止する技術が提案されている(例えば、以下の特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-70328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1で提案されている技術では、塗装作業が複数必要となって煩雑であり、乾燥のための養生時間による工期の長期化が懸念される。また、このような塗料は、高コストであるだけでなく、塗装が不十分な場合には早期に補修の効果が喪失する。その結果、開口部の周辺を起点として、開口部がある部材やその開口部を塞いでいる部材の腐食が早期に進行してしまい、構造体の全体として長寿命が期待できない。このような事情から、開口部を有する鋼材を用いて構成される構造体において、より優れた耐食性を有し長寿命化が可能なものが希求されている。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、開口部が設けられた鋼材を用いた接合体において、開口部とその周囲の耐食性をより向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者が鋭意検討した結果、めっき層を有する鋼材を用いて、少なくとも開口部を覆った上で、開口部とその周囲に存在する鋼素地の露出部位が腐食環境下に曝された場合に、上記めっき層からめっき成分を溶出させるという着想を得た。加えて、本発明者は、溶出させためっき成分を開口部や鋼素地の露出部位に到達させることで、耐食性の更なる向上が可能である旨の着想を得た。
かかる着想に基づき更なる検討を行った結果完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
(1)表面処理層を有する鋼材で構成されており、当該鋼材を貫通する開口部と、当該開口部に隣接しており鋼素地が露出している部位である露出部と、が存在する第1の部材と、めっき層を有する鋼材で構成されており、前記第1の部材の前記開口部を少なくとも覆うように設けられた第2の部材と、が接合されたものであり、前記第2の部材の前記めっき層は、質量%で、Al:15.0%超30.0%以下、Mg:5.0%超15.0%以下、Sn:0%~0.70%、Ca:0.03%~0.60%、Si:0.01%~0.75%、Ti:0%~0.25%、Ni:0%~1.00%、Co:0%~0.25%、Fe:0%~5.0%、B:0%~0.5%を含有し、残部が、Zn及び不純物からなり、前記第2の部材と接していない側での前記第1の部材の前記開口部の周囲長さをL[mm]、前記第1の部材における前記第2の部材と接していない前記露出部の面積をS[mm]、前記第2の部材の片面当たりの前記めっき層の平均付着量をM[g/m]としたときに、L<100の場合は、M/S≧0.008が成立し、L≧100の場合は、L×M/S≧1.300が成立し、前記第1の部材と接している側の前記第2の部材の前記めっき層において、全体でのMg、Al、Znの含有量(単位:質量%)を、それぞれ[Mg]’、[Al]’、[Zn]’と表記し、前記第1の部材及び前記第2の部材を、前記第1の部材の前記開口部の位置で厚み方向に切断することで得られる断面において、前記第1の部材と接している側の前記第2の部材の前記めっき層を、電界放出形走査電子顕微鏡のエネルギー分散形X線分析装置(FE-SEM/EDX)により、表層から3μmの深さまでを面分析して得られるMg、Al、Znの含有量(単位:質量%)を、それぞれ[Mg]、[Al]、[Zn]と表記し、前記面分析の分析結果に基づき算出される比率Rを、以下の式(1)のように定義し、前記断面において、前記開口部の一方の端部を起点として前記開口部の中心から離れる方向に20mmの位置を位置Aとしたときに、前記位置Aにおける前記比率Rの値であるRは、1.10~5.00の範囲内であり、かつ、前記断面において、前記開口部の一方の端部の位置を位置Bとしたときに、前記位置Bにおける前記比率Rの値であるRは、前記Rの値以下である、接合体。
(2)前記Rは、0.30~5.00の範囲内である、(1)に記載の接合体。
(3)前記第2の部材の前記めっき層の表面には、四端子四探針法で測定したときの抵抗が1×10-3Ω未満である化成処理皮膜が存在する、(1)に記載の接合体。
(4)前記第1の部材の前記表面処理層は、Znを含有する、(1)に記載の接合体。
(5)前記第1の部材の前記表面処理層は、1又は複数の層で構成されており、最表面は、塗膜である、(1)に記載の接合体。
(6)前記第1の部材の前記露出部には、鉄酸化物が付着している、(1)~(5)の何れか1つに記載の接合体。
(7)前記第1の部材の前記開口部には、前記第2の部材の側に向いたバリが存在する、(1)~(5)の何れか1つに記載の接合体。
【0010】
【数1】
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、開口部が設けられた鋼材を用いた接合体において、開口部とその周囲の耐食性をより向上させて、接合体の長寿命化を実現させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る接合体の一例を模式的に示した説明図である。
図2】同実施形態に係る接合体の構造の一例を説明するための説明図である。
図3】同実施形態に係る接合体における第1の部材の構造の一例を模式的に示した説明図である。
図4A】同実施形態に係る接合体における第2の部材の構造の一例を模式的に示した説明図である。
図4B】同実施形態に係る接合体における第2の部材の構造の一例を模式的に示した説明図である。
図5】同実施形態に係る接合体におけるめっき層について説明するための説明図である。
図6】同実施形態に係る接合体におけるめっき層について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
(接合体について)
以下では、図1を参照しながら、本発明の実施形態に係る接合体について説明する。図1は、本実施形態に係る接合体の一例を模式的に示した説明図である。
【0015】
本実施形態に係る接合体は、以下で詳述するように、複数の鋼材を接合することで形成されるものである。図1では、かかる接合体の一例として、箱状の外形を有する接合体1を模式的に図示している。このような箱状の外形を有する接合体1としては、例えば、配電盤、室外機、給湯器等が挙げられる。このような接合体1は、先だって言及したように、ネジやボルト等といった締結部品を設けるための穴、運搬用の穴、位置合わせ用の穴等のように、様々な形状を有する開口部3が、様々な部位に設けられていることが多い。
【0016】
上記のような各種の接合体を製造する際には、耐食性の観点から、素材となる鋼材として各種の表面処理が施された表面処理鋼材が用いられることが一般的である。素材となる表面処理鋼材に対して、上記のような開口部3を形成する際、鋼材に施されている表面処理層が一部剥離することで鋼素地が露出してしまう。鋼素地が露出したままの接合体が腐食環境に曝されると、かかる鋼素地が起点となって、腐食反応が進行してしまう。そこで、本実施形態に係る接合体1では、少なくとも開口部3の近傍について、以下で詳述するような構造を採用することで、開口部3とその周囲の耐食性をより向上させて、接合体の長寿命化を実現させる。
【0017】
なお、本実施形態で着目する接合体1は、上記のような箱状のものに限定されるものではない。本実施形態で着目する接合体1は、例えば、建造物の屋根や壁のような、板状の鋼材を用いた板状の接合体であってもよいし、太陽光パネル架台のような、各種の形鋼を用いた接合体であってもよいし、構造物の骨組みのような、各種のH形鋼や角柱を用いた接合体であってもよいし、標識、信号機、ガードレール等のような、各種の鋼管を用いた接合体であってもよい。
【0018】
<接合体の構造について>
次に、図2を参照しながら、本実施形態に係る接合体1がどのような鋼材を用いて構成されているか、詳細に説明する。なお、以下では、便宜的に、接合体1が板状の鋼材(すなわち、鋼板)を用いて構成されている場合を例に挙げて説明を行う。図2は、本実施形態に係る接合体の構造の一例を説明するための説明図であり、本実施形態に係る接合体を、素材となっている鋼材の厚み方向に切断した断面の一部を模式的に示したものである。
【0019】
図2に示したように、本実施形態に係る接合体1は、鋼材を貫通する開口部11が存在する第1の部材10と、第1の部材10の開口部11を少なくとも覆うように設けられた第2の部材20と、が接合されたものである。
【0020】
≪第1の部材10の構成について≫
図3は、本実施形態に係る接合体1における第1の部材10の構造の一例を模式的に示した説明図である。図3に示したように、本実施形態に係る第1の部材10は、鋼素地の一例としての素地鋼材101と、素地鋼材101の表面に位置する表面処理層103と、を有している。かかる第1の部材10の少なくとも一部に、図1図2に例示したような各種の開口部が設けられている。なお、図3では、素地鋼材101の両面に表面処理層103が設けられる場合について図示しているが、表面処理層103は、素地鋼材101の一方の表面にのみ設けられていてもよい。
【0021】
◇素地鋼材101
本実施形態に係る第1の部材10の母材として用いられる素地鋼材101は、特に限定されるものではなく、接合体1に求められる機械的強度(例えば、引張強度)等に応じて、各種の鋼材を用いることが可能である。このような素地鋼材101として、例えば、各種のAlキルド鋼、Ti、Nb等を含有させた極低炭素鋼、極低炭素鋼にP、Si、Mn等の強化元素を更に含有させた高強度鋼等のような種々の鋼材を挙げることができる。
【0022】
また、素地鋼材101の厚みについては、特に限定されるものではなく、接合体1に求められる機械的強度等に応じて、適宜設定すればよい。
【0023】
◇表面処理層103
本実施形態に係る表面処理層103は、第1の部材10における素地鋼材101の耐食性を向上させるために設けられる層である。かかる表面処理層103を形成するための表面処理については、特に限定されるものではなく、例えば、各種のめっき処理や、各種の防錆塗料等を用いた塗装処理(粉体塗装も含む。)など、公知の各種の処理方法を適用することが可能である。また、表面処理層103を形成するための表面処理として、複数の処理方法を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
ここで、本実施形態に係る表面処理層103は、Znを含有する表面処理層であることが好ましい。Znを含有する表面処理層を設けることで、Znによる犠牲防食能を利用することが可能となり、第1の部材10の耐食性を更に向上させることが可能となる。Znを含有する表面処理層の具体例は、特に限定されるものではない。Znを含有する表面処理層は、例えば、各種の亜鉛系めっき層であってもよいし、めっき層の表面に化成処理が施されたもの(すなわち、めっき層+化成処理皮膜)であってもよいし、Znを含有する塗料を用いた塗膜であってもよい。
【0025】
また、かかる表面処理層103を、複数の層で構成される多層構造としてもよい。この際に、表面処理層103の最表面は、各種の塗料を用いて形成された塗膜としてもよい。例えば各種の着色顔料を含有する塗料を用いて、表面処理層103の最表面となる塗膜を形成することで、接合体1の意匠性を向上させることができる。また、塗膜を形成するための塗料として、その他の各種の塗料を用いることで、塗料に含有されている添加剤により発現される各種の機能を、接合体1に適用することができる。また、塗装前にリン酸塩処理などの塗装前処理を施してから、所望の塗装を行ってもよい。
【0026】
≪第2の部材20の構成について≫
図4A及び図4Bは、本実施形態に係る接合体1における第2の部材20の構造の一例を模式的に示した説明図である。図4Aに示したように、本実施形態に係る第2の部材20は、鋼素地の一例としての素地鋼材201と、素地鋼材201の表面に位置するめっき層203と、を有している。また、図4Bに示したように、本実施形態に係る第2の部材20は、めっき層203の表面に、化成処理皮膜205を更に有していてもよい。
【0027】
なお、図4A及び図4Bでは、素地鋼材201の両面に、めっき層203や化成処理皮膜205が設けられる場合について図示しているが、めっき層203や化成処理皮膜205は、素地鋼材201の一方の表面にのみ設けられていてもよい。
【0028】
◇素地鋼材201
本実施形態に係る第2の部材20の母材として用いられる素地鋼材201は、特に限定されるものではなく、接合体1に求められる機械的強度(例えば、引張強度)等に応じて、各種の鋼材を用いることが可能である。このような素地鋼材201として、例えば、各種のAlキルド鋼、Ti、Nb等を含有させた極低炭素鋼、極低炭素鋼にP、Si、Mn等の強化元素を更に含有させた高強度鋼等のような種々の鋼材を挙げることができる。
【0029】
また、素地鋼材201の厚みについては、特に限定されるものではなく、接合体1に求められる機械的強度等に応じて、適宜設定すればよい。
【0030】
◇めっき層203
本実施形態に係る第2の部材20におけるめっき層203は、第2の部材20の耐食性を向上させるのみならず、接合体1が腐食環境に曝された場合に、第1の部材10の開口部11周辺の耐食性を担保するために機能する層である。
【0031】
本実施形態に係るめっき層203は、その化学組成が、質量%で、Al:15.0%超30.0%以下、Mg:5.0%超15.0%以下、Ca:0.03%~0.60%、Si:0.01%~0.75%を含有し、残部がZn及び不純物からなる、Zn-Al-Mg系合金めっき層である。
【0032】
以下、これら成分とその含有量について、詳細に説明する。
【0033】
[Al:15.0質量%超30.0質量%以下]
Alは、本実施形態に係るめっき層203の主相(Zn-Al-Mg系合金相)を構成するために必要な元素である。めっき層203におけるAl含有量が15.0質量%以下である場合には、接合体1の耐食性を担保することができない。そのため、本実施形態に係るめっき層203において、Al含有量は、15.0質量%超である。Al含有量は、好ましくは17.0質量%以上である。Al含有量が、上記のような範囲となることで、接合体1の耐食性を更に向上させることが可能となる。
【0034】
一方、めっき層203におけるAl含有量が30.0質量%超となる場合には、腐食環境に置かれた場合にカソードとして機能するAl相が過剰に増加して、素地鋼材201の腐食が進行しやすくなるため、接合体1の耐食性を担保することができない。そのため、本実施形態に係るめっき層203において、Al含有量は、30.0質量%以下である。Al含有量は、好ましくは25.0質量%以下である。
【0035】
[Mg:5.0質量%超15.0質量%以下]
Mgは、本実施形態に係るめっき層203の主相(Zn-Al-Mg系合金相)を構成するために必要な元素である。そのため、本実施形態に係るめっき層203において、Mg含有量は、5.0質量%超である。Mg含有量が、上記のような範囲となることで、接合体1の耐食性を担保することが可能となる。
【0036】
一方、めっき層203におけるMg含有量が15.0質量%超となる場合には、腐食環境に置かれた場合にめっき層のアノード溶解が進みやすくなるため、接合体1の耐食性を担保することができない。そのため、本実施形態に係るめっき層203において、Mg含有量は、15.0質量%以下である。Mg含有量は、好ましくは13.0質量%以下である。Mg含有量が、上記のような範囲となることで、接合体1の耐食性を更に向上させることが可能となる。
【0037】
[Ca:0.03~0.60質量%]
Caは、めっき層203中に含有されることで、Al及びZnと金属間化合物相を形成する元素である。また、めっき層203中にCaと共にSiが含有されることで、CaはSiとも金属間化合物相を形成する。これらの金属間化合物相が形成されることで、接合体1の耐食性を担保することが可能となる。かかる金属間化合物相の形成効果は、Ca含有量を0.03質量%以上とすることで発現される。めっき層203中におけるCa含有量は、好ましくは0.05質量%以上である。
【0038】
一方、めっき層203中のCa含有量が0.60質量%を超える場合には、接合体1の耐食性が低下する。かかる観点から、めっき層203中のCa含有量は、0.60質量%以下である。めっき層203中のCa含有量は、好ましくは0.40質量%以下である。
【0039】
[Si:0.01~0.75質量%]
Siは、めっき層203と素地鋼材201との界面に形成するFe-Al系金属間化合物相の過剰な成長を抑制し、めっき層203と素地鋼材201との密着性を向上させる元素である。かかるFe-Al系金属間化合物相の形成抑制効果は、Si含有量を0.01質量%以上とすることで発現される。めっき層203中におけるSi含有量は、好ましくは0.03質量%以上である。
【0040】
一方、めっき層203を製造するためのめっき浴中のSi含有量が多すぎる場合、めっき浴の粘性が必要以上に増加してめっき操業性が低下する可能性がある。そのため、めっき操業性の観点からめっき浴中のSi含有量が調整されることにより、めっき層203中のSi含有量は、0.75質量%以下となる。めっき層203中のSi含有量は、好ましくは0.65質量%以下である。
【0041】
めっき層203において、上記Al、Mg、Ca、Siの残部は、Znと、不純物である。
Znは、本実施形態に係るめっき層203の主相(Zn-Al-Mg系合金相)を構成するために必要な元素であり、接合体1の耐食性を向上させるために重要な元素である。
【0042】
また、本実施形態に係るめっき層203の化学組成は、残部のZnの一部に換えて、選択的に、Sn:0%~0.70%、Ti:0%~0.25%、Ni:0%~1.00%、Co:0%~0.25%、Fe:0%~5.0%、B:0%~0.5%を含有していてもよい。つまり、本実施形態に係るめっき層203は、任意添加元素として、Sn、Ti、Ni、Co、Fe、Bの少なくとも何れかの元素を含有してもよい。なお、本実施形態に係るめっき層203が、これら任意添加元素を含有しない場合もあるため、これら任意添加元素の含有量の下限値は、0%となっている。
【0043】
[Sn:0~0.70質量%]
Snは、Zn、Al、Mgを含むめっき層203が腐食環境に置かれた場合に、Mg溶出速度を上昇させる元素である。Mgの溶出速度が上昇すると、素地鋼材201が露出した部分にMgイオンが供給され、犠牲防食性が更に向上する。一方で、過剰なSnの添加は、Mg溶出速度を過剰に促進し、接合体1の耐食性が低下する可能性がある。かかるMg溶出速度の上昇は、Sn含有量が0.70質量%を超えると顕著となるため、Sn含有量は、0.70質量%以下である。Sn含有量は、より好ましくは0.50質量%以下である。一方、Sn含有量の下限は、特に規定されるものではなく、0質量%であってもよいが、Snを含有させる場合には、Sn含有量は、0.005質量%以上とすることが好ましい。これにより、めっき層203の犠牲防食性を更に向上させることが可能となる。
【0044】
[Ti:0~0.25質量%]
[Ni:0~1.00質量%]
Ti、Niの少なくとも何れかがめっき層203中に含有されると、かかるめっき層203を有する第2の部材20を溶接した際に、これら元素が、溶接によって生成されるAl-Fe合金層に取り込まれ、形成される溶接部の耐食性を向上させることが可能となる。かかる耐食性の向上効果は、めっき層203中のTi、Niの何れかの含有量が0.005質量%以上となった場合に発現される。そのため、Ti、Niの少なくとも何れかをめっき層203中に含有させる場合には、これら元素の含有量は、それぞれ独立に、0.005質量%以上とされることが好ましい。
【0045】
一方、Ti含有量が0.25質量%を超える、又は、Ni含有量が1.0質量%を超えるようなめっき層203を形成する場合には、めっき層203を形成するためのめっき浴中でこれら元素が様々な金属間化合物相を形成し、めっき浴の粘性の上昇を招いて、めっき性状の良好な第2の部材20を製造できない。よって、めっき層203中のTi含有量は、0.25質量%以下とされ、めっき層203中のNi含有量は、1.0質量%以下とされる。Ti含有量は、より好ましくは0.20質量%以下である。また、Ni含有量は、より好ましくは0.85質量%以下である。
【0046】
[Co:0~0.25質量%]
Coがめっき層203中に含有されると、めっき操業性を向上させることが可能となる。かかるめっき操業性の向上効果は、Co含有量が0.003質量%以上となった場合に発現される。そのため、Coを含有させる場合には、その含有量は、0.003質量%以上とすることが好ましい。
【0047】
一方、めっき層203中のCo含有量が0.25質量%を超える場合には、めっき層203の耐食性を低下させる可能性がある。そのため、Co含有量は、0.25質量%以下である。
【0048】
[Fe:0~5.0質量%]
めっき層203には、母材である素地鋼材201から、鋼材を構成する元素が混入することがある。特に、溶融めっき法では、素地鋼材201とめっき層203との間での固液反応による元素の相互拡散によって、素地鋼材201を構成する元素がめっき層203へ混入しやすくなる。このような元素の混入により、めっき層203中には、一定量のFeが含有されることがある。上記相互拡散が促進されれば、素地鋼材201とめっき層203との密着性が更に向上する。素地鋼材201とめっき層203との密着性の向上という観点からは、めっき層203中のFe含有量は、0.05質量%以上であることが好ましい。
【0049】
また、本発明の効果を損なわない範囲内で、めっき層203を製造する際に用いられるめっき浴中に意図的にFeを添加してもよい。ただし、めっき層203中のFe含有量が5.0質量%以上となる場合には、めっき浴中にFeとAlの高融点な金属間化合物が形成し、かかる高融点の金属間化合物がドロスとしてめっき層に付着して外観品位を著しく低下させるため、好ましくない。かかる観点から、めっき浴中のFe含有量が調整されることにより、めっき層203中のFe含有量は、5.0質量%以下である。めっき層203中のFe含有量は、より好ましくは3.5質量%以下である。
【0050】
[B:0~0.5質量%]
Bは、めっき層203中に含有されると、液体金属脆化割れ(Liquid Metal Embrittlement:LME)を抑制する効果がある。これは、Bがめっき層203中に含有されると、Zn、Al、Mg、Caの少なくとも何れかと化合して、様々な金属間化合物相を形成するためと推察される。これらの改善効果は、Bを0.03質量%以上含有させることで発現される。そのため、めっき層203中におけるBの含有量は、より好ましくは0.03質量%以上である。
【0051】
一方、めっき層203中にBを含有させるために、めっき浴中に過剰にBを含有させると、めっき融点の急激な上昇を引き起こしてめっき操業性が低下し、めっき性状に優れるめっき鋼板を製造することができない。かかるめっき操業性の低下は、Bの含有量が0.5質量%を超える場合に顕著となるため、B含有量は0.5質量%以下である。
【0052】
[化学成分の計測方法]
上記のめっき層203の化学成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)又はICP-MS(lnductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)を使用して、計測することが可能である。なお、0.1質量%単位までの化学成分の分析を行う場合には、ICP-AESを用いることとし、0.1質量%未満の微量な化学成分の分析を行う場合には、ICP-MSを用いることとする。第2の部材20を、インヒビターを加えた10%HCl水溶液に対して1分程度浸潰し、めっき層部分を剥離し、このめっき層を溶解した溶液を準備する。得られた溶液を、ICP-AES又はICP-MSによって分析して、めっき層203の全体平均としての化学成分を得ることができる。
【0053】
本実施形態に係る第2の部材20におけるめっき層203では、上記のような化学成分のうちMgが、めっき層203の表層おいて濃化した状態となっている。このMgの濃化状態については、以下で改めて説明する。
【0054】
また、本実施形態に係る第2の部材20におけるめっき層203の片面当たりの平均付着量は、以下で説明するような条件を満たしつつ、20~600g/mの範囲内であることが好ましい。めっき層203の片面当たりの平均付着量は、より好ましくは40~400g/mである。
【0055】
以上説明したような成分を有するめっき層203は、JIS Z2244-1:2009で規定されているビッカース硬度(より詳細には、荷重を10gf(1gfは、約9.8mNである。)としたときのビッカース硬度)が150Hv以上と、優れた硬度を有している。そのため、第1の部材10に開口部11を形成する際に、第1の部材10側から第2の部材20側に向かってバリが生成されてしまう場合があるが、めっき層203自体が硬質であるため、めっき層203がバリによって疵付いて部分的に剥離してしまう事態を、防止することができる。
【0056】
◇化成処理皮膜205
本実施形態に係る第2の部材20における化成処理皮膜205は、四端子四探針法で測定したときの抵抗が1×10-2Ω未満である皮膜である。かかる抵抗は、各種の抵抗率計(例えば、ロレスタ-GX MCP-T700、プローブ:MCP-TP03P:いずれも日東精工アナリテック株式会社製)を用いて測定することができる。化成処理皮膜205が上記のような抵抗を示すことで、かかる化成処理皮膜205は、犠牲防食作用を発現し、接合体1の耐食性を更に向上させることが可能となる。なお、化成処理皮膜205を四端子四探針法で測定したときの抵抗の下限値は、特に規定するものではなく、抵抗は、低ければ低いほどよい。
【0057】
本実施形態に係る化成処理皮膜205の具体的な成分については、上記のような抵抗を示すものであれば特に限定されるものではなく、公知の各種の化成処理剤を用いて化成処理皮膜205を形成することが可能である。このような化成処理剤として、例えば、日本パーカライジング株式会社製パルコートE300系の化成処理剤等を挙げることができる。
【0058】
本実施形態に係る化成処理皮膜205の膜厚については、特に限定されるものではないが、例えば、0.2~3.0μmの範囲内とすることが好ましい。
【0059】
◇めっき層203におけるMgの表面濃化状態
以下では、図5及び図6を参照しながら、本実施形態に係るめっき層203におけるMgの表面濃化状態について、詳細に説明する。図5及び図6は、本実施形態に係る接合体におけるめっき層203について説明するための説明図である。
【0060】
以下の説明に先立ち、先だって説明したような方法で、めっき層203の全体でのMg、Al、Znの含有量(単位:質量%)が測定されているものとする。以下の説明では、特に、第1の部材10と接している側のめっき層203における各成分の含有量に着目する。以下で説明するようなめっき層203におけるMgの表面濃化は、接合体1の耐食性(特に、開口部11の近傍における耐食性)に寄与するものであり、かかる耐食性への寄与においては、第1の部材10に接している側のめっき層203が主な役割を果たすものだからである。
【0061】
ここで、第1の部材10と接している側のめっき層203において、全体でのMg、Al、Znの含有量(単位:質量%)を、それぞれ[Mg]’、[Al]’、[Zn]’と表記する。
【0062】
次に、図5に着目する。図5の上段は、接合体1において、第1の部材10の開口部11が形成されている位置の近傍を、上方から平面視したときの上面図である。図5の下段は、上段に示した上面図を、A-A切断線で、第1の部材10及び第2の部材20の厚み方向に切断した場合の切断図である。
【0063】
図5の上段の上面図に示したように、本実施形態に係る第1の部材10の一部には、素地鋼材101を貫通する孔部を有する開口部11が存在している。また、第1の部材10には、開口部11(より詳細には、孔部)に隣接するように、鋼素地(すなわち、素地鋼材101)が露出している部位である露出部13が存在している。ここで、開口部11には、第2の部材20の側に向いたバリ15が存在する場合がある。また、露出部13の表面には、各種の鉄酸化物17が付着している場合がある。
【0064】
ここで、バリ15の大きさ(素地鋼材101の表面位置からの突出の大きさ)は、素地鋼材101の板厚や、開口部11を設けるための穴あけ条件等にもよるが、例えば0.2mm以下であることが好ましい。バリ15の大きさが0.2mm以下であれば、バリ15によって第2の部材20の表面が過度に傷つけられることを防止でき、第2の部材20の耐食性を担保することができる。
【0065】
また、露出部13の表面に付着しうる各種の鉄酸化物17としては、例えば、α-FeOOH、β-FeOOH、γ-FeOOH、Fe(OH)、Fe(OH)、Fe、Fe、FeO等がある。
【0066】
第1の部材10の露出部13では、素地鋼材101が露出していることから、表面処理層103が存在している他の部位と比較して、耐食性が低下している。そのため、露出部13が腐食環境に曝された場合、露出部13の耐食性と、表面処理層103が存在している部位との耐食性とに、差異が生じてしまう。そこで、本実施形態に係る接合体1では、第2の部材20のめっき層203からめっき層の成分をイオンとして適切に溶出させて、露出部13の保護被膜として機能させる。めっき層203を構成するZnやMgは、犠牲防食能を示すため、保護被膜の主成分として好適である。なお、めっき層203の上層として化成処理皮膜205を設けた場合であっても、上記のようなめっき成分の溶出が発生することは、別途確認済みである。
【0067】
本実施形態に係るめっき層203が有しているZn-Al-Mg系のめっき成分において、Mgは、めっき層203中に金属間化合物として存在している。Mgは、Alと比較するとより優れた犠牲防食能を示し、また、溶出後のMgイオンの移動度が高いため、保護被膜の主成分として特に有用な元素である。そこで、本実施形態に係るめっき層203では、Mgをめっき層203の表面近傍に意図的に濃化させて、Mgを溶出させやすいようにしている。
【0068】
本実施形態に係るめっき層203において、上記のようなMgの表面濃化状態は、第1の部材10及び第2の部材20を、図5の下段に示したように、第1の部材10の開口部11の位置で厚み方向に切断することで得られる断面において、第1の部材10と接している側のめっき層203を、電界放出形走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FE-SEM)のエネルギー分散形X線分析装置(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)(以下、「FE-SEM/EDX」と略記する。)により面分析することで、評価する。
【0069】
かかる評価に際して、本実施形態では、めっき層203の断面における2箇所に着目して、FE-SEM/EDXによる面分析を実施する。すなわち、図5下段の断面図における、位置A及び位置Bの2箇所である。位置Aは、図5下段に示したような断面において、開口部11の一方の端部を起点として、開口部11の中心から離れる方向に20mmの位置とする。また、位置Bは、図5下段に示したような断面において、開口部11の一方の端部の位置とする。
【0070】
着目する接合体1から、サンプルとなる試験片を3つ取り出し、それぞれ、樹脂に埋め込んだうえで研磨して、図5下段に示したような、観察対象とする断面を準備する。断面のそれぞれを、FE-SEM/EDXにより観察して、位置A及び位置Bにおけるめっき成分の元素分析を行う。位置A及び位置Bの面分析を実施する際には、図6に模式的に示したように、「めっき層203の表面(第1の部材10とめっき層203との界面と捉えることもできる。)からめっき層203の深さ方向に3μmまでの範囲」×「めっき層203の表面法線方向に直交する方向(表面が拡がっている方向)に100μmの範囲」を、分析対象領域r、rとする。その上で、各位置について、Zn、Mg、Alそれぞれの元素の平均組成を分析する。なお、表面が拡がっている方向に関しては、図6に示したように、位置A又は位置Bを中心に、左右それぞれに50μmまでの範囲とすることが好ましい。
【0071】
ここで、上記の断面観察は、日本電子株式会社製JSM-7800F/EDX等のFE-SEM/EDXを使用し、加速電圧15kV、エミッション電流65μA、ワーキングディスタンス10mmで、3μm深さまでの範囲を、20μm幅のサイズで、5回つなぎで分析することで実施する。
【0072】
このようにして得られる、表層から3μmの深さまでの領域のMg、Al、Znの含有量(単位:質量%)を、それぞれ[Mg]、[Al]、[Zn]と表記する。その上で、位置A及び位置Bのそれぞれにおいて、面分析の分析結果に基づき、以下の式(101)に示したような比率Rを定義する。より詳細には、位置Aにおける比率RをRと表記し、位置Bにおける比率RをRと表記する。上記の3つのサンプルについて、上記のようにして、それぞれ比率R、比率Rを算出する。得られた3つの比率Rの値の平均値を、着目する接合体1における比率Rとする。同様に、得られた3つの比率Rの値の平均値を、着目する接合体1における比率Rとする。
【0073】
【数2】
【0074】
本実施形態に係るめっき層203において、上記比率Rの値は、1.10~5.00となっている。すなわち、位置Aにおいて、めっき層203の表面から深さ3μmまでの領域のMgの含有量は、めっき層203全体でのMgの含有量に対して、1.10~5.00倍となっている。位置Aは、開口部11の一方の端部を起点として、開口部11の中心から離れる方向に20mmの位置であるから、接合体1が腐食環境に曝された際に腐食の起点となる位置から、十分に離隔した位置と考えることができる。そのため、上記比率Rは、めっき層203が元来有しているMgの表面濃化状態を反映した値であると言える。
【0075】
比率Rが上記のような値となっていることで、先だって言及したような、腐食環境に曝された際のMgの溶出に伴う保護被膜形成効果を実現することができる。比率Rの値が1.10未満であるときには、上記のようなMgの溶出に伴う保護被膜形成効果を実現することができない。比率Rの値は、好ましくは1.50以上である。一方、上記Mgの濃化状態には限界があることから実質的な比率Rの上限値は5.00となる。なお、比率Rの値が高くなりすぎると、めっき層203からのMgの溶出量が多くなりすぎて、めっき層203自体の耐食性(より詳細には、長期的な耐食性)が低下してしまう。そのため、比率Rの値は、好ましくは4.00以下である。
【0076】
他方、本実施形態に係るめっき層203において、位置Bにおける比率Rは、比率R以下の値となっている。例えば接合体1の製造直後等のように、接合体1が腐食環境に曝されていない状況下では、めっき層203からのMg等の溶出は生じていないため、位置Bにおける比率Rの値は、位置Aにおける比率Rの値と等しくなっている。しかしながら、接合体1が腐食環境に曝されてMg等の溶出が開始すると、上記比率Rの値は、比率R未満となり、露出部13に保護被膜が形成された時点で、Mg等の溶出が停止し、比率Rの値は、ある値に落ち着くこととなる。本実施形態に係るめっき層203において、比率Rの値は、比率R以下であり、かつ、0.30~5.00の範囲内であることが好ましい。比率Rの値が0.30未満であるときには、上記のようなMgの溶出に伴う保護被膜形成効果が、低下する可能性がある。また、上記Mgの表面濃化状態には限界があることから、実質的な比率Rの上限値は5.00となる。比率Rの値は、より好ましくは、比率R以下であり、かつ、0.50~4.00の範囲内である。
【0077】
≪開口部の周囲長さ、露出部の面積及びめっき層の平均付着量の関係≫
本実施形態に係る接合体1において、露出部13に保護被膜を適切に形成させるためには、Mgの溶出速度だけではなく、露出部13に保護被膜が生成されるまでの時間にも注目すべきである。
【0078】
例えば、めっき層203から露出部13までの距離が最も遠いところが、Mg等の保護被膜になりうる成分が移動しなければならない、最大の距離となる。例えば、めっき層203に接している側の第1の部材10の露出部13の場合は、めっき層203からの距離は近い。他方、例えば、図5における点pは、めっき層203に接していない側の露出部13において、めっき層203から最も遠い点となる。めっき層203からの距離が遠ければ遠いほど、保護被膜ができるまでに時間がかかり、保護被膜が形成されるまでの間、犠牲防食によりめっき層203が溶解し続ける。保護被膜が早期に生成されればされるほど、犠牲防食によるMg等のめっき成分の溶出は減少し、接合体1の長寿命化を図ることが可能となる。
【0079】
また、露出部13の面積が大きすぎると、犠牲防食により溶出するめっき層(MgやZn等)が多量になるだけでなく、露出部13に保護被膜が生成されるまでに要する時間も長期になってしまう。
【0080】
このように、露出部13に保護被膜が生成されるまでに要する時間を考慮する場合には、めっき層203から露出部13までの距離や、露出部13自体の広さ(面積)を考慮すべきである。このような観点から、本発明者らは、(a)第2の部材20と接していない側での第1の部材10の開口部11の周囲長さL[mm]、(b)第1の部材10における第2の部材20と接していない露出部13の面積S[mm]、(c)第2の部材20の片面当たりのめっき層203の平均付着量M[g/m]、の3種類の要因を考慮すべきであるとの知見を得るに至った。
【0081】
ここで、(a)開口部11の周囲長さLは、例えば図5上段に示したような楕円形状の開口部11の場合、楕円の周の長さに対応する。このような周囲長さLは、接合体1を製造する際の設計図等に記載されている設計値を用いてもよいし、例えば曲線計などの任意の曲線の長さを計測可能な機器を用いて計測した実測値を用いてもよい。
【0082】
また(b)第2の部材20と接していない露出部13の面積Sについては、第1の部材10の上面における露出部13の面積だけでなく、開口部11の壁面として存在している、素地鋼材101の露出部位についても、考慮するものとする。例えば図5に示したような円筒形状の開口部11に着目する場合、円筒側面に対応する素地鋼材101の露出部位についても、露出部13として考慮する。かかる面積Sについては、市販のデジタルカメラを用いて、露出部13を、露出部13の全体が視野内に収まるようにして撮像した後、得られた撮像画像に対して、市販の画像編集アプリケーションを用いて露出部13を囲むように境界線を設定し、境界線で囲まれた部分の面積を特定する。また、素地鋼材101の板厚と、開口部11の周囲長さLとから、開口部11の壁面として存在する素地鋼材101の露出部位の面積を算出する。これらの結果から、面積Sを特定することが可能である。
【0083】
また、(c)めっき層203の平均付着量Mmについては、以下のようにして測定する。すなわち、接合体1から、第2の部材20に対応する部位を取り外したうえで、30mm×30mmの大きさにサンプル(裏面に対しテープシールを施し、裏面は溶解しないようにしたもの)を切り出し、予めその質量を測定しておく。その上で、インヒビター添加した10%HCl水溶液にかかるサンプルを浸漬してめっき層203を酸洗剥離し、酸洗後のサンプルの質量を測定する。酸洗前後のサンプルの質量変化から、片面当たりのめっき層203の付着量を決定することが可能である。
【0084】
本発明者は、上記のような3つの要因の関係について鋭意検討を行ったところ、保護被膜を適切に生成させて、開口部11とその周囲(すなわち、露出部13)の耐食性を向上させるためには、L<100mmの場合には、M/S≧0.008が成立することが必要であり、L≧100mmの場合には、L×M/S≧1.300が成立することが必要である、との知見を得た。上記のような関係が成立することで、露出部13が腐食環境に曝された場合に、保護被膜が速やかに生成して露出部13の耐食性を向上させ、接合体1の長寿命化を実現することができる。
【0085】
ここで、L<100mmの場合に、(M/S)の値は、好ましくは0.020以上である。一方、(M/S)の上限は、特に規定するものではなく、分母となるSが小さくなって(M/S)の値が大きくなればなるほど好ましい。ただし、めっき層203の平均付着量Mmが取りうる範囲や、素地鋼材101の板厚及び穴あけ条件等を考慮すると、100.000程度が実質的な上限となる。
【0086】
また、L≧100mmの場合に、(L×M/S)の値は、好ましくは1.400以上である。一方、(L×M/S)の上限は、特に規定するものではなく、分母となるSが小さくなって(L×M/S)の値が大きくなればなるほど好ましい。ただし、めっき層203の平均付着量Mmが取りうる範囲や、素地鋼材101の板厚及び穴あけ条件等を考慮すると、600.000程度が実質的な上限となる。
【0087】
以上、図1A図6を参照しながら、本実施形態に係る接合体1について、詳細に説明した。
【0088】
(接合体の製造方法について)
次に、本実施形態に係る接合体の製造方法について説明する。
本実施形態に係る接合体の製造方法は、(a)表面処理層を有する鋼材で構成されており、かかる鋼材を貫通する開口部と、この開口部に隣接しており鋼素地が露出している部位である露出部と、が存在する第1の部材を準備する工程と、(b)めっき層を有する鋼材で構成されており、かかるめっき層において、上記のような特定のMgの表面濃化状態が実現されている第2の部材を準備する工程と、(c)準備した第1の部材と第2の部材と、を接合する工程と、を有している。
【0089】
また、第2の部材を準備する工程においては、第1の部材の開口部の周囲長さL[mm]、第1の部材における露出部の面積S[mm]に応じて、第2の部材における片面当たりのめっき層の平均付着量M[g/m]を制御して、周囲長さL、露出部の面積S、めっき層の平均付着量Mmが、先だって説明したような特定の条件を満たすようにする。
【0090】
なお、本説明では、周囲長さL及び露出部の面積Sに応じて、平均付着量M[g/m]を制御する旨を説明した。だが、周囲長さL及び平均付着量Mの設計値等に応じて、露出部の面積Sが条件を満たすように開口部の形成処理を実施することで、露出部の面積Sを制御してもよい。
【0091】
ここで、第1の部材を構成する鋼材において、表面処理層を形成する方法については、特に限定されるものではなく、形成する表面処理層の種別に応じて、公知の各種の方法を用いることが可能である。また、第2の部材を接合するに先立って、第1の部材を所望の形状となるように予め加工しておいてもよい。
【0092】
また、第2の部材を構成する鋼材に対してめっき層を形成する際には、溶融めっき法の他、溶射法、コールドスプレー法、スパッタリング法、蒸着法、電気めっき法等を適用できる。ただし、溶融めっき法がコスト面で最も好ましい。
【0093】
以下では、溶融めっき法を用いて、板状の第2の部材を得る製造方法の一例について、詳細に説明する。
かかる製造工程では、まず、母材として用いる素地鋼板を、ゼンジミア法により圧延して所望の板厚とした後、コイル状に巻き取って、溶融めっきラインに設置する。
【0094】
溶融めっきラインでは、鋼板をコイルから繰り出しながら連続的に通板させる。その際、ライン上に設けられた焼鈍設備により、鋼板を、例えば、酸素濃度が20ppm以下の環境下、N-5%Hガス雰囲気にて、800℃で加熱還元処理した後、後段のめっき浴の浴温+20℃前後までNガスで空冷して、めっき浴に浸漬させる。
【0095】
ここで、めっき浴中には、前述のような化学成分を有する、溶融状態にあるめっき合金を準備しておく。めっき浴の温度は、めっき合金の融点以上(例えば、400~600℃程度)としておく。めっき合金の材料作製の際は、合金材料として純金属(純度99%以上)を用いて調合することが好ましい。まず、上記のようなめっき層の組成となるように合金金属の所定量を混合して、高周波誘導炉やアーク炉などを使用して、完全に溶解させて合金とする。更に、所定の成分(上記めっき層の組成)で混合された当該合金を大気中で溶解して、得られた溶融物をめっき浴として利用する。
【0096】
なお、以上述べたようなめっき合金の作製には、特に純金属を使用する制約はなく、既存のZn合金、Mg合金、Al合金を溶解して使用してもよい。この際、不純物が少ない所定の組成合金さえ用いれば、問題はない。
【0097】
鋼板を、上記のようなめっき浴中に浸漬させた後、所定の引上速度で引き上げる。この際に、形成されるめっき層が所望の厚みとなるように、例えばNワイピングガスによりめっき付着量を制御する。ここで、浴温以外の条件については、一般的なめっき操業条件を適用すればよく、特別な設備や条件は要しない。
【0098】
ここで、先だって説明したようなMgの表面濃化状態を実現するためには、例えば上記のようなめっき処理の後、めっきが凝固するまでの間の冷却速度を10~50℃/秒の範囲内とするか、又は、素地鋼材の表面を、JIS B0601:2001に規定されている表面粗度Raが0.1μm以上となるように物理的又は化学的に表面加工するか、の少なくとも何れかを実施すればよい。また、素地鋼材の表面粗度を上記のような状態とした上で、めっき凝固時の冷却速度を制御することで、Mgの表面濃化状態をより好ましい状態とすることができる。
【0099】
また、めっき層の表面に、化成処理皮膜を形成する場合には、公知の各種の化成処理剤を用いて、かかる化成処理剤を塗布すればよい。
【0100】
第1の部材と第2の部材との接合方法については、特に限定されるものではない。例えば、各種の溶接方法による溶接、ネジやボルト、かしめ等といった締結部品を用いた接合、熱圧着、各種の接着剤による接着等のような、公知の各種の接合方法を用いることが可能である。
【0101】
以上、本実施形態に係る接合体の製造方法について、簡単に説明した。
なお、このような接合体の製造方法は、例えば、鋼材を用いて形成されている既存の物品の開口部に対して、本実施形態に係る第2の部材を用いて補強を行い、接合体を形成するような場合にも、適用することが可能である。
【実施例
【0102】
以下では、実施例を示しながら、本発明に係る接合体について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る接合体の一例に過ぎず、本発明に係る接合体が下記の例に限定されるものではない。
【0103】
<第1の部材の準備>
以下では、第1の部材として、以下の表1に示したような、板厚1.6mm、150mm×150mmの鋼板(冷延鋼板、及び、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、いずれも日本製鉄株式会社製)を用意した。粉体塗装には、大日本塗料株式会社製V-PET#1340QDを用い、膜厚が50μmとなるようにした。また、ノンクロメート化成処理剤としては、日本パーカライジング株式会社製パルコートE384を用いた。
【0104】
このようにして準備した第1の部材の略中央部に、以下の表2に示した条件で打抜き加工を実施し、開口部を形成した。なお、開口部の周囲長さL、及び、開口部に隣接して存在する露出部の面積Sについては、先だって説明した方法により測定した。なお、形成した開口部の周囲には、打抜き加工における打抜き方向側(換言すれば、第2の部材が位置する側)に向かって、バリが存在していた。
【0105】
なお、以下の表4に示したNo.57~60、62、76、77、80、81の試験例では、第1の部材は、評価サンプルの作製前に、接合前の第1の部材を、JIS Z2371:2015に規定された塩水噴霧試験(SST)6時間に供し、開口部に隣接する露出部に、鉄酸化物である赤錆を発生させておいた。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
<第2の部材の準備>
以下の表3に示した化学成分を有する溶融めっき浴を作製した。厚さ0.8mmの冷延鋼板(日本製鉄株式会社製)を既存の溶融めっきプロセスにてめっきし、片面当たりのめっき付着量Mを制御することで、第2の部材(150mm×150mm)を準備した。この際、以下のNo.1~15、No.17、No.19~27については、めっきが凝固するまでの間の冷却速度を10~50℃/秒の範囲内に制御した。また、以下のNo.16~18については、めっきが凝固するまでの間の冷却速度を50℃/秒超に制御した。準備した第2の部材のそれぞれについて、先だって説明した方法により、めっき層の全体でのMg、Al、Zn含有量を測定し、以下の表3にあわせて示した。
【0109】
なお、以下の表4に示したNo.61、62、82の試験例については、めっき層の表面に、ノンクロメート化成処理剤(日本パーカライジング株式会社製パルコートE384)を用いて化成処理皮膜を形成した。得られた化成処理皮膜について、四端子四探針法による表面抵抗値を計測したところ、No.61、62については、1×10-4~1×10-3Ωの範囲内であり、No.82については、1×10-3~1×10-4の範囲内であった。
【0110】
【表3】
【0111】
<第1の部材と第2の部材との接合>
第1の部材に設けられた開口部を覆うように、第2の部材を重ね合わせ、四隅をプラスチックボルトで締結することで、以下の表4-1、表4-2に示したような接合体を、各例について2つずつ作製した。
【0112】
作製した2つずつの接合体は、以下で説明するような、150サイクルの中性塩水噴霧サイクル腐食試験に供した。2つずつの接合体の一方を、50サイクル経過後に試験から取り出し、先だって説明した方法に即して、断面観察用のサンプルを作製した。50サイクル経過後のサンプルについて、FE-SEM/EDXにより、位置A及び位置Bにおける、めっき表面から深さ3μmまでのMg、Al、Zn含有量を測定した。かかる含有量の測定結果、及び、算出した比率R、Rの値を、以下の表4-1、表4-2にあわせて示した。なお、作製後、中性塩水噴霧サイクル腐食試験に供する前の接合体において、R=Rが成立していることは、別途確認している。
【0113】
<中性塩水噴霧サイクル腐食試験>
得られた各評価サンプルについて、開口部が見える側を評価面として、JIS H8502:1999に規定されている中性塩水噴霧サイクル腐食試験(CCT)150サイクルに供した。なお、各評価サンプルの外周4辺は、試験に先立ちシールしておいた。
【0114】
サイクル腐食試験後の評価サンプルからボルトを外し、リムーバーや塩酸により、塗装、めっき層、腐食生成物等を除去してから、素地鋼板の侵食深さを測定した。以下の評価基準に即して評価を行った。評点A及び評点Bを合格とした。
【0115】
[評価基準]
評点A:第1の部材、第2の部材ともに、侵食深さが0mm
B:第1の部材、第2の部材それぞれの侵食深さのうち、大きい方の侵食深さが0mm超0.2mm未満
C:第1の部材、第2の部材それぞれの侵食深さのうち、大きい方の侵食深さが0.2mm以上0.5mm未満
D:第1の部材、第2の部材それぞれの侵食深さのうち、大きい方の侵食深さが0.5mm以上
【0116】
【表4-1】
【0117】
【表4-2】
【0118】
上記表4-1、表4-2から明らかなように、本発明例に該当する試験例では、侵食深さの判定が合格となり、優れた耐食性を示す一方で、本発明の比較例に該当する試験例では、侵食深さの判定が不合格となり、耐食性に劣ることがわかった。
【0119】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0120】
なお、以下のような構成も本発明の技術的範囲に属する。
(1)表面処理層を有する鋼材で構成されており、当該鋼材を貫通する開口部と、当該開口部に隣接しており鋼素地が露出している部位である露出部と、が存在する第1の部材と、めっき層を有する鋼材で構成されており、前記第1の部材の前記開口部を少なくとも覆うように設けられた第2の部材と、が接合されたものであり、前記第2の部材の前記めっき層は、質量%で、Al:15.0%超30.0%以下、Mg:5.0%超15.0%以下、Sn:0%~0.70%、Ca:0.03%~0.60%、Si:0.01%~0.75%、Ti:0%~0.25%、Ni:0%~1.00%、Co:0%~0.25%、Fe:0%~5.0%、B:0%~0.5%、を含有し、残部が、Zn及び不純物からなり、前記第2の部材と接していない側での前記第1の部材の前記開口部の周囲長さをL[mm]、前記第1の部材における前記第2の部材と接していない前記露出部の面積をS[mm]、前記第2の部材の片面当たりの前記めっき層の平均付着量をM[g/m]としたときに、L<100の場合は、M/S≧0.008が成立し、L≧100の場合は、L×M/S≧1.300が成立し、前記第1の部材と接している側の前記第2の部材の前記めっき層において、全体でのMg、Al、Znの含有量(単位:質量%)を、それぞれ[Mg]’、[Al]’、[Zn]’と表記し、前記第1の部材及び前記第2の部材を、前記第1の部材の前記開口部の位置で厚み方向に切断することで得られる断面において、前記第1の部材と接している側の前記第2の部材の前記めっき層を、電界放出形走査電子顕微鏡のエネルギー分散形X線分析装置(FE-SEM/EDX)により、表層から3μmの深さまでを面分析して得られるMg、Al、Znの含有量(単位:質量%)を、それぞれ[Mg]、[Al]、[Zn]と表記し、前記面分析の分析結果に基づき算出される比率Rを、以下の式(1)のように定義し、前記断面において、前記開口部の一方の端部を起点として前記開口部の中心から離れる方向に20mmの位置を位置Aとしたときに、前記位置Aにおける前記比率Rの値であるRは、1.10~5.00の範囲内であり、かつ、前記断面において、前記開口部の一方の端部の位置を位置Bとしたときに、前記位置Bにおける前記比率Rの値であるRは、前記Rの値以下である、接合体。
(2)前記Rは、0.30~5.00の範囲内である、(1)に記載の接合体。
(3)前記第2の部材の前記めっき層の表面には、四端子四探針法で測定したときの抵抗が1×10-2Ω未満である化成処理皮膜が存在する、(1)又は(2)に記載の接合体。
(4)前記第1の部材の前記表面処理層は、Znを含有する、(1)~(3)の何れか1つに記載の接合体。
(5)前記第1の部材の前記表面処理層は、1又は複数の層で構成されており、最表面は塗膜である、(1)~(4)の何れか1つに記載の接合体。
(6)前記第1の部材の前記露出部には、鉄酸化物が付着している、(1)~(5)の何れか1つに記載の接合体。
(7)前記第1の部材の前記開口部には、前記第2の部材の側に向いたバリが存在する、(1)~(6)の何れか1つに記載の接合体。
【0121】
【数3】
【符号の説明】
【0122】
1 接合体
3 開口部
10 第1の部材
11 開口部
13 露出部
15 バリ
17 鉄酸化物
20 第2の部材
101 素地鋼材
103 表面処理層
201 素地鋼材
203 めっき層
205 化成処理皮膜
【要約】
【課題】開口部が設けられた鋼材を用いた接合体において、開口部とその周囲の耐食性をより向上させて、接合体の長寿命化を実現させること。
【解決手段】本発明に係る接合体は、表面処理層を有する鋼材で構成され、開口部と、開口部に隣接した鋼素地が露出している露出部と、が存在する第1の部材と、所定の化学成分を含有するめっき層を有する鋼材で構成されており、第1の部材の開口部を少なくとも覆うように設けられた第2の部材とが接合されたものである。開口部の周囲長さL、露出部の面積S、めっき層の平均付着量Mは、特定の条件を満足し、めっき層の全体のMg、Al、Zn含有量、及び、めっき層の表層から深さ3μmまでのMg、Al、Zn含有量から算出される比率Rは、特定の条件を満足する。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6