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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】電気化学式水素圧縮機
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20230817BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20230817BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20230817BHJP
   C25B 1/02 20060101ALI20230817BHJP
   C25B 9/05 20210101ALI20230817BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20230817BHJP
   C25B 9/77 20210101ALI20230817BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20230817BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20230817BHJP
【FI】
C25B9/00 Z
C01B3/00 Z
C01B3/56 Z
C25B1/02
C25B9/05
C25B9/23
C25B9/77
C25B15/08 302
H01M8/04 N
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021142092
(22)【出願日】2021-09-01
(65)【公開番号】P2023035321
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000151346
【氏名又は名称】株式会社タツノ
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大滝 勉
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-082486(JP,A)
【文献】特開2007-131514(JP,A)
【文献】特開2015-101791(JP,A)
【文献】特開2017-133103(JP,A)
【文献】特開2020-105024(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0117731(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00
C01B 3/56
C25B 1/00 - 15/08
F17C 5/06
H01M 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードとカソードにより電解質膜を挟み込んで構成されたセルを複数備え、複数のセルを収容するセル用ケーシングと、水分離装置と、水分離装置を収容する水分離装置用ケーシングと、バブラーと、バブラーを収容するバブラー用ケーシングを有し、
セルを収容するセル用ケーシングと、水分離装置を収容する水分離装置用ケーシングと、バブラーを収容するバブラー用ケーシングは一体的に結合され、
セル用ケーシングの上方に水分離装置を設け、セル用ケーシングの下方にバブラーを設け、水分離装置の内部空間とバブラーを連通する水降下用パイプが設けられていることを特徴とする電気化学式水素圧縮機。
【請求項2】
バブラーで生じた水素と水蒸気の混合気は、セル用ケーシング内に収容された複数のセル内のポート及び溝を連通して構成した部分を有する水素ガス流路を介してセルに供給され、セルのアノードで発生したオフガスは当該水素ガス流路を介してバブラーに戻される請求項1の電気化学式水素圧縮機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜と電極(アノード及びカソード)を有し、電流を流すことによりアノードへ供給された水素がイオン化されてカソードへ移動し、カソードで水素を出力させて高圧の水素を得る電気化学的水素圧縮機(EHC:Electric Hydrogen Compressor)に関する。そして本発明は、電解質膜として固体高分子膜(PEM:Polymer Electrolyte Membrane)を用いた電気化学式水素圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
係る電気化学式水素圧縮機は、従来から提案されている(例えば特許文献1参照)。
図7で示す従来の電気化学式水素圧縮機100(特許文献1参照)では、ポンプP1を駆動して、水素配管58を介して、バブラー52の液体貯留部52Aに水素が供給される。バブラー52では、バブラー用チラー72により液体貯留部52Aが温度調整されて、貯留された液相の水の飽和蒸気が気化される。水素配管58から導入された水素と水蒸気は気体貯留部52Bへ移動し、加湿された水素として水素導入路60を経由して水素圧縮機54(セル)のアノード54Aへ供給される。
アノード54Aでは、電力が与えられることにより水素がイオン化され、イオン化された水素が電解質膜54Bを透過してカソード54C側へ移動し、カソード54Cで水素に戻る。そして、カソード54Cからは、水を含んだ圧縮水素(カソードからの排出ガス)が、カソード排出路66を介して水分離部56へ送出される。
ここで、アノード14A、電解質膜54B、カソード54Cから構成されるセル54は、セル用チラー74により温度調整されている。
【0003】
水分離部56では、高圧の圧縮水素であるカソード排出ガスから水が分離され、高圧の圧縮水素が圧縮水素出力路64に送出され、例えば、燃料電池自動車(図示せず)の水素充填に用いられる。一方、分離された水は、カソード排出水循環路68に送出され、減圧バルブV1で減圧され、液相の水としてバブラー52へ供給される(戻される)。バブラー52では、液体貯留部52Aに水が貯留され、水に溶解していた水素は気体貯留部52Bへ放出される。
アノード54Aからは、カソード54Cへ移動しなかったアノードオフガス(水蒸気、水素を含む)は、アノードオフガス路62及び水素導入路60(オフガス循環系統)を介して再びアノード54Aへ供給される。
【0004】
しかし、従来の電気化学式水素圧縮機では、低圧側と高圧側に曝されるセル或いは電解質膜に対しても圧力容器としての基準を充足することが要求され、例えば4倍圧の基準(要求された4倍の圧力に耐えられるという基準)の充足を要求される。そのため、燃料電池自動車の水素充填に用いられる場合(80MPaの高圧水素が要求される場合)には、セル或いは電解質膜が4倍圧(320MPaでも無事稼働する)というハードな基準をクリアする必要があった。
また、図7で示す様に、従来技術の電気化学式水素圧縮機では、セル或いはセルのスタックの外部にオフガス循環系統(アノードオフガス路62、水素導入路60、ポンプP2、バルブV2)と、カソード排出水循環経路68が設けられているので、複数のセルを積層或いは密集して配置することが困難であり、大きなスペースが必要となり、且つ、各セルとオフガス循環系統及び/又はカソード排出水循環系統との干渉を防止するため、レイアウトが困難であった。
さらに従来の電気化学式水素圧縮機では、セル冷却とバブラー温調のために、高精度のチラーを少なくとも2台用意しなければならず、製造コストが高騰するという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6795439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、電解質膜に圧力装置としての基準を適用する必要がない電気化学式水素圧縮機の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電気化学式水素圧縮機(40)は、アノード(1A)とカソード(1C)により電解質膜(1B:固体高分子膜:PEM)を挟み込んで構成されたセル(1)を複数備え、複数のセル(1)を収容するセル用ケーシング(11)と、水分離装置(2)と、水分離装置(2)を収容する水分離装置用ケーシング(12)と、バブラー(3)と、バブラー(3)を収容するバブラー用ケーシング(13)を有し、
セル(1)を収容するセル用ケーシング(11)と、水分離装置(2)を収容する水分離装置用ケーシング(12)と、バブラー(3)を収容するバブラー用ケーシング(13)は一体的に結合され、
セル用ケーシング(11)の上方に水分離装置(2)を設け、セル用ケーシング(11)の下方にバブラー(3)を設け、水分離装置(2)の内部空間とバブラー(3)を連通する水降下用パイプ(26)が設けられていることを特徴としている。
【0008】
本発明において、バブラー(3)で生じた水素と水蒸気の混合気は、セル用ケーシング(11)内に収容された複数のセル(1)内のポート及び溝を連通して構成した部分を有する水素ガス流路(4)を介してセル(1)に供給され、セル(1)のアノード(1A)で発生したオフガスは当該水素ガス流路(4)を介してバブラー(3)に戻されることが好ましい。
【0009】
本発明において、セル収容部外殻(11:セル用ケーシング)内に収容された複数のセル(1)内のポート及び溝を連通して構成した部分を有する水素ガス流路(4)を備え、
水素ガス流路(4)を介してバブラー(3)で生じた水素と水蒸気の混合気がセル(1)に供給され、水素ガス流路(4)を介してセル(1)のアノード(1A)で発生したオフガスがバブラー(3)に戻されるのが好ましい。
【0010】
また本発明において、セル収容部外殻(11)の上方に水分離装置(2)を設け、カソード(1C)の圧縮水素は水(水蒸気)と共に水分離装置2の内部空間に供給され、
水分離装置(2)の内部空間には水が貯留しており、カップフロート(25)が配置されており、カップフロート(25)は中心部に棒状部(25B)を有し。棒状部(25B)の先端(下端)にはバルブ本体(25C)が設けられ、
水分離装置(2)の内部空間の中心部とバブラー(3)を連通する水降下用パイプ(26)が設けられて、水降下用パイプ(26)は水分離装置用ケーシング(12)を貫通してバブラー(3)に連通しており、
水降下用パイプ(26)の上端部(26A)は水分離装置(2)の内部空間の下方で開放され、カップフロート(25)に設けられたバルブ本体(25C)が座着可能な弁座を構成しているのが好ましい。
【0011】
また本発明において、バブラー(3)とセル(1)とを接続するヒートチューブ(5)を有し、ヒートチューブ(5)の一端はヒートチューブ受熱部(5A)として複数分散設置(固体伝熱)されて複数のセル(1)の各々に接続(固体接続)されており、ヒートチューブ(5)の他端はヒートチューブ放熱部(5B)としてバブラー(3)の液相領域(3B)に浸漬しているのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上述の構成を具備する本発明の電気化学式水素圧縮機(40)によれば、バブラー(3)に水素ガスを供給し、バブラー(3)内に供給された水素ガスは水蒸気を連行して水素ガス流路(4)を流れ、セル(1)のアノード(1A)に供給される。供給された水素はイオン化され、電解質膜である固体高分子膜(1B:PEM)を透過してカソード(1C)側に移動する。そしてカソード(1C)において水素に戻り、圧縮される。圧縮された水素は水分離装置(2)に送られ、水分が分離され、高圧水素ガスとして水素容器(例えばFCVの水素充填タンク)に充填される。
本発明では、セル(1)がバブラー(3)、水分離装置(2)と一体的に構成されており、複数のセル(1)が圧力容器状のセル収容部外殻(11:セル用ケーシング)に収容されているので、電解質膜(1B:固体高分子膜:PEM)には圧力容器としての基準(4倍圧の基準)は適用されない。そのため、例えば燃料電池自動車の水素充填に用いられる場合(80MPaの高圧水素が要求される場合)に、バブラー用ケーシング(13)及び水分離装置用ケーシング(12)と一体に構成されたセル収容部外殻(11)が4倍圧の基準を充足すれば(320MPaでも無事稼働することが出来れば)、セル収容部外殻(11)に収容されたセル(1)或いはその電解質膜(1B:固体高分子膜:PEM)は圧力容器としての基準(4倍圧の基準:例えば320MPa)を充足する必要がない。
そして、チェック弁等の低圧回路保護機構を設けることにより圧力容器を守ることが出来るので、電解質膜(1B)が圧力容器としての基準を満たす必要がない。仮に電解質膜(1B)が少々破損したとしても、セル(1)全体を交換する必要は無く、セル交換のため電気化学式水素圧縮機(40)の稼働を中止する必要も無くなる。
【0013】
ここで、本発明の様に、セル(1)がバブラー(3)、水分離装置(2)と一体的に構成されており、複数のセル(1)が圧力容器状のセル収容部外殻(11:セル用ケーシング)に収容されている電気化学式水素圧縮機(40)は、従来は提案されていない。そして、本発明の電気化学式水素圧縮機(40)において、水分離装置(2)でカソード(1C)の圧縮水素から分離された水を再利用することが出来る機能を有するバブラー(3)も従来は提案されていなかった。
それに対して本発明では、セル収容部外殻(11)の上方に水分離装置(2)を設け、セル収容部外殻(11)の下方にバブラー(3)を設け、水分離装置(2)の内部空間とバブラー(3)を連通する水降下用パイプ(26)が設けられている。水分離装置(2)でカソード(1C)の圧縮水素から分離された水は、重力により水降下用パイプ(26)内を流れ、バブラー(3)に流入するので、バブラー(3)から水素に連行してアノード(1A)に供給され、再利用される。
【0014】
また従来技術では、セル(1)がバブラー(3)、水分離装置(2)と一体的に構成されており、複数のセル(1)が圧力容器状のセル収容部外殻(11)に収容されている電気化学式水素圧縮機(40)は提案おらず、そのため、セル(1)のアノード(1A)で発生したオフガスをバブラー用ケーシング(13)及びセル収容部外殻(11)内で循環させる機能を有するバブラー(3)も提案されていない。
これに対して、本発明において、バブラー(3)で生じた水素と水蒸気の混合気は、セル用ケーシング(11)内に収容された複数のセル(1)内のポート及び溝を連通して構成した部分を有する水素ガス流路(4)を介してセル(1)に供給され、セル(1)のアノード(1A)で発生したオフガスは当該水素ガス流路(4)を介してバブラー(3)に戻される様に構成すれば、セル(1)或いはセルスタック外にオフガス循環系統を構成しなくても、バブラー用ケーシング(13)及びセル収容部外殻(11)内でオフガスを循環させることが出来る。
そして、複数のセル(1)を積層或いは密集して配置してもオフガス循環系統と干渉することはなく、複数のセル(1)を積層或いは密集してセル収容部外殻(11)内に配置(収容)することが出来る。従って、複数のセル(1)を配置するのに大きなスペースは必要とせず、各セル(1)とオフガス循環系統との干渉を防止するレイアウトを考慮する必要がない。
【0015】
本発明において、セル収容部外殻(11)の上方に水分離装置(2)を設け、カソード(1C)の圧縮水素は水(水蒸気)と共に水分離装置2の内部空間に供給され、
水分離装置(2)の内部空間には水が貯留しており、カップフロート(25)が配置されており、カップフロート(25)は中心部に棒状部(25B)を有し。棒状部(25B)の先端(下端)にはバルブ本体(25C)が設けられ、水分離装置(2)の内部空間の中心部とバブラー(3)を連通する水降下用パイプ(26)が設けられて、水降下用パイプ(26)は水分離装置用ケーシング(12)を貫通してバブラー(3)に連通しており、水降下用パイプ(26)の上端部(26A)は水分離装置(2)の内部空間の下方で開放され、カップフロート(25)に設けられたバルブ本体(25C)が座着可能な弁座を構成すれば、セル1のカソード1Cから水分離装置2に移動した水素はカップフロート(25)を介して水分離装置(2)内の水中を浮上する。そして、高圧の水素ガスは水分除去装置(18)へ移動する。
水分離装置(2)内の水によりカップフロート(25)に浮力が作用して浮き上がると、カップフロート(25)に設けられたバルブ本体(25C)は弁座である水降下用パイプ(26)の上端開口部(26A)から離隔する。そして、水分離装置2内の水は水降下用パイプ26内を降下し、バブラー(3)側に戻される。
一方、水分離装置(2)内の水量が減少すると、カップフロート(25)が下降し、バルブ本体(25C)が弁座である水降下用パイプ(26)の上端開口部(26A)に座着して閉鎖する。その状態では、水分離装置(2)内の水はバブラー(3)側に下降することはなく、水分離装置(2)内に留まる。
すなわち、水分離装置(2)内の水は、水分離装置(2)の内部空間の中心部とバブラー(3)を連通する水降下用パイプ(26)によりバブラー(3)に戻されるので、従来技術の様にセルスタック外部に別途水循環系統を形成する必要がない。そして、セルスタック外部に水循環系統を形成する必要がないため、セルを集積し易く、レイアウトが容易になる。
さらに、カップフロート(25)は下方に開口部(25D)を有し、内部空間が開空間であるため、高圧下においてもカップフロート(25)内外の圧力差が無い。そのため、外殻が薄いカップフロート(25)を高圧環境下の水分離装置(2)内に設けても潰れることはない。
【0016】
本発明において、バブラー(3)とセル(1)の間をヒートチューブ(5)で接続し、ヒートチューブ(5)の一端はヒートチューブ受熱部(5A)が複数分散設置(固体伝熱)されて複数のセル(1)の各々に接続(固体接続)されており、ヒートチューブ(5)の他端をヒートチューブ放熱部(5B)としてバブラー(3)の液相領域(3B)に浸漬すれば、セル(1)における熱量が複数分散設置(固体伝熱)したヒートチューブ受熱部(5A)に伝熱され、ヒートチューブ(5)の受熱部(5A)を介して当該熱量はヒートチューブ(5)内の純水に伝達されて純水を水蒸気に気化し、当該水蒸気がヒートチューブ(5)内を移動してバブラー(3)の液相領域(3B)に投与されることにより、セル(1)を運転状態に応じてセルフ冷却をすることが出来る。そのため、セル(1)には高品質のチラーを設ける必要がない。
さらに本発明では、バブラー用ケーシング(13)にフィン(6)を設け、ブロワ(7)により熱風或いは冷風をフィン(6)に向かって噴射すれば、バブラー(3)の温度調整が可能である。或いは、バブラー(3)を加熱するヒーター機構(8)及び/又はバブラーを冷却するクーラー機構を設ければ、バブラー(3)の温度調整が可能である。さらに、バブラーに供給される水素の温度を温調装置(9)により調節することで、バブラー(3)の温度調整が出来る。そのため、本発明では、バブラー(3)の温度調整に高品質な機器であるチラーを設ける必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の電気化学式水素圧縮機の実施形態を示す説明図である。
図2】実施形態における水分離装置を示す説明図である。
図3】実施形態におけるバブラーを示す説明図である。
図4】ヒートチューブによるセルの冷却を模式的に示す説明図である。
図5】起動時にバブラーを加熱する機構を示す説明図である。
図6図1と同様な説明図であって、実施形態におけるセルが積層されている態様を具体的に示している。
図7】従来の電気化学式水素圧縮機を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1図6を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、図示の実施形態に係る電気化学式水素圧縮機40は、複数のセル1(図2参照:図1では引き出し線と符号1のみでセルを示す)(或いはセルスタック)と、複数のセル1を収容するセル用ケーシング11と、水分離装置2と、水分離装置2を収容する水分離装置用ケーシング12と、バブラー3と、バブラー3を収容するバブラー用ケーシング13を有している。
セル1を収容するセル用ケーシング11と、水分離装置2を収容する水分離装置用ケーシング12と、バブラー3を収容するバブラー用ケーシング13は、例えばボルト14(図1では中心軸を一点鎖線で示す)により一体的に結合されている。
【0019】
セル用ケーシング11内には、セル1が例えば40個程度収容されている。図1では明示されていないが、セル1は電極であるアノード1Aと、カソード1Cと、電解質膜である固体高分子膜1B(PEM)を有しており、アノード1Aとカソード1Cにより電解質膜1Bを挟み込んでセル1を構成している。
セル1の各々は、1枚で80MPa程度まで水素ガスを加圧する機能を有する様に構成されている。図示の実施形態では、例えば80MPaという高圧は、複数のセルを直列につないで、セルごとに数MPaずつ加圧して得ている訳ではなく、水素を80MPaまで加圧できる能力を有する個々のセルを、複数(例えば40個)、積層している。
【0020】
図7を参照して上述した様に、従来技術では、低圧側と高圧側に曝されるセル或いは電解質膜に対して、圧力容器としてのハードな基準を充足することが要求される。例えば、電解質膜が4倍圧の基準(例えば、80MPaの高圧ガスを充填する充填機に用いられる電気化学室水素圧縮機では、320MPaでも無事稼働するという基準)をクリアしなければならなかった。
図示の実施形態では、セル1がバブラー3、水分離装置2と一体的に構成されており、複数のセル1が圧力容器状のセル用ケーシング11(セル収容部外殻)に収容されているので、電解質膜1B(固体高分子膜:PEM)そのものには圧力容器としての基準(4倍圧の基準)は適用されない。そのため、例えば燃料電池自動車の水素充填に用いられる場合(80MPaの高圧水素が要求される場合)に、セル用ケーシング11が4倍圧の基準を充足すれば(320MPaでも無事稼働することが出来れば)、セル用ケーシング11に収容されたセル1或いは固体高分子膜1B(PEM)には、圧力容器としての基準(4倍圧の基準)を充足することは要求されない。また、チェック弁等の低圧回路保護機構(図示せず)を設けることにより守ることが出来るので、固体高分子膜1B(PEM)には圧力容器としての基準は要求されない。
そのため、固体高分子膜1B(PEM)には気密性のみが要求され、4倍圧の基準に耐える様な耐圧性は必要なく、一般高圧容器程度の耐圧性を有していれば足りる。
【0021】
図示の実施形態ではセル1或いは固体高分子膜1B(PEM)は4倍圧の様な厳しい基準を充足する必要がないので、バブラー3(を収容するバブラー用ケーシング13)、水分離装置2(を収容する水分離装置用ケーシング12)と一体的に構成されたセル用ケーシング11が圧力容器としての基準を充足するのであれば、仮に固体高分子膜1B(PEM)が僅かに破損したとしても、セル1全体としては水素を圧縮する機能を発揮するのであれば、破損したセル1を交換することなく、アノード1A側にチャッキ弁(図示せず)を配置して、水素や水が排出される様に構成して、稼働し続けることが出来る。
【0022】
図1において、水素供給源から、配管15及び温調装置9を経由して供給された水素は、バブラー3内の気泡発生器16(図3参照:図1では図示せず)に供給される。配管15には、水循環ポンプ33を介装した水供給源からの配管28が合流している。
水素供給源から流路15を介して供給された水素は、バブラー3の液相領域3B内に貯留された水(純水)内を大量の気泡となって浮上し、その際に水蒸気を連行する。そして、水素と水蒸気の混合気体は、バブラー3の気相領域3Aから水素ガス流路4(図1の左側の水素ガス流路4)を流れ、セル1のアノード1A(図2)に供給される。符号29は気体用ポンプを示している。
明確には図示されていないが、セル用ケーシング11内に収容された複数のセル1内のポート及び溝を連通して、水素ガス流路4が構成されている。
セル1のアノード1Aに供給された水素は、イオン化されて電解質膜1B(固体高分子膜:PEM)(図2)を透過してカソード1C(図2)側に移動して水素に戻り、圧縮された状態で水分離装置2に送られて、水分離される。
一方、カソード1C側に移動しなかった水素はオフガスとして水素ガス流路4(図1の右側の水素ガス流路4)を流れてバブラー3に戻される。
図1では水素ガス流路4がアノード1A側に向かう流路と、アノード1A側から戻る流路を、象徴的に、単一の太い配管状に表示しているが、実機では、アノード1A側に向かう水素ガス流路4と、アノード1A側から戻る水素ガス流路4、セル1の数に応じて必要な数だけ分岐、合流して構成されている。
【0023】
図1において、カソード1C(図2)側に移動した水素は、図2を参照して後述する水分離装置2を流過した後、配管17により水分除去装置18に供給され、水分除去装置18で水分を除去される。符号19は、水分離装置2内の高圧水素を水分除去装置18に送るための気体ポンプを示している。
水分を除去された水素は、例えば、図示しない水素充填装置(ディスペンサー)を介して高圧水素容器(例えば、燃料電池自動車の水素容器)に充填される。
水分除去装置18は、例えばカートリッジ内に吸着剤(ゼオライト等)を充填して構成されている。吸着剤は定期的に交換されるか、或いは、図1で示す様に真空ポンプ20に直結して再生される。
図1において、水分除去装置18は配管21を介して吸着剤再生用ポンプ20(真空ポンプ:図示せず)に連通している。水分除去装置18の吸着剤が水分を十分に吸着したならば、真空ポンプ20を稼働して、配管21を介して水分除去装置18の吸着剤を真空乾燥して、吸着剤から水分を除去して再生させる。吸着剤の再生後、開閉弁22を開放し、配管23を介して配管21を外気に連通して、真空状態を開放する。
【0024】
上述した様に、セル用ケーシング11と水分離装置用ケーシング12とバブラー用ケーシング13は、図示の実施形態ではボルト14により一体的に結合されている。
また、水分離装置2とバブラー3は水降下用パイプ26により連通しており、セル1とバブラー3は水素ガス流路4、ヒートチューブ5等により接続されている。
水分離装置2については図2を参照して後述する。また、バブラー3については図3を参照して後述する。
【0025】
次に、図2を参照して水分離装置2について説明する。なお、図2では、セル用ケーシング11の図示は省略している。
図2において、水分離装置2の内部空間には水(ハッチングで示している)が貯留しており、カップフロート25が浮いている。カップフロート25は、図2において下方に突出した外方縁部25Aを有し、中心部には図2の下方に延在する棒状部25Bを有している。棒状部25Bの先端(下端)にはバルブ本体25Cが形成されている。そしてカップフロート25は、その下方に開口部25Dを有する開放された形状となっており、カップフロート25の内部空間は開空間となっている。
水分離装置2の内部空間の中心部と、バブラー3(図1図3参照:図2では図示せず)は、水降下用パイプ26により連通されている。水降下用パイプ26は水分離装置2及び水分離装置用ケーシング12の底部を貫通して下方(図2では図示しないバブラー3側)に延在して、バブラー3に連通する。水降下用パイプ26の上端部26Aは水分離装置2の内部空間の下方で開放され、カップフロート25に形成されたバルブ本体25Cが座着可能な弁座を構成している。そして、カップフロート25のバルブ本体25Cと、水降下用パイプ26の上端開口部26Aにより、上端開口部26Aを開閉する機能を有する弁機構(ニードルバルブ)を構成している。
【0026】
図1を参照して述べた様に、図2における水分離装置2の下方の領域には、セル1が配置されている。セル1のアノード1Aに供給され、電解質膜1Bを経てカソード1C側に移動した水素は、高圧の圧縮水素として、水(水蒸気)と共に、経路27によりセル1側から水分離装置2の内部空間に供給される。水は固体高分子膜(PEM)の様な電解質膜1Bに必要であり、電解質膜1Bを水が透過して、カソード1C側に溜まるので、水分離装置2側には水が貯留する。
カップフロート25は、セル1のカソード1Cから水分離装置2に移動した水素の全量が、水中を浮上してカップフロート25の内部空間内に移動する様に構成されており、セル1が作動してカソード1Cに水素が移動する限り、当該水素はカップフロート25の内部空間に移動する様に構成されている。
【0027】
図2において、下方に開口部25Dを有して内部空間が開空間を形成するカップフロート25を用いたのは、開口部を有しておらず内部空間が閉空間であるフロートでは、高圧(例えば80MPa)に耐えきれないからである。内部空間が閉空間である通常のフロートでは、内部空間は常圧であるため、高圧環境下では内部空間との圧力差でフロートが潰れてしまう。これに対して、当該圧力差の下でも潰れない様にフロートの外殻を厚くすると、フロートが水分離装置2内の水(カソード水)に浮かばない。
それに対して、図示の実施形態におけるカップフロー25であれば、下方に開口部25Dを有し、内部空間は開空間であるため、高圧下においてもカップフロート25の内部空間の圧力は水分離装置2内の圧力差と等しく、上述した圧力差は存在しない。そのため、カップフロート25の外殻が薄くても、カップフロート25が潰れることはない。
【0028】
水分離装置2内の水によりカップフロート25に浮力が作用し、カップフロート25が浮き上がると、カップフロート25に設けられたバルブ本体25Cは、弁座である水降下用パイプ26の上端開口部26Aから離隔して開弁する。そして、水分離装置2内の水は上端開口部26Aから水降下用パイプ26内を流下して、バブラー3側に戻される。
水分離装置2内の水量が減少すると、カップフロート25が下降し、バルブ本体25Cが弁座である水降下用パイプ26の上端開口部26Aに座着して、上端開口部26Aが閉鎖される。水降下用パイプ26の上端開口部26Aが閉鎖されるので、水分離装置2内の水はバブラー側に下降せず、水分離装置2内に留まる。
【0029】
図2において、セル1側から水分離装置2の水の中を浮上してカップフロート25の内部空間に到達して溜まった高圧の水素ガスは、図2において矢印H2で示す様にカップフロート25の外側に移動する。セル1側から水分離装置2の水中を浮上してカップフロート25の内部空間に至る経路と、矢印H2で示す経路を高圧水素が移動する際に、水分が分離される。カップフロート25の外側に移動した高圧の水素ガスは、気体ポンプ19を介して、配管17を流れて水分除去装置18へ移動する。
ここで、カップフロート25内の水を経由してカップフロート25の外側に移動した高圧の水素ガスが水分を連行したとしても、水素ガスは高圧になるほどドライになる傾向があり、また、水分を連行しても水分吸着除去装置18で除去されるので、問題はない。
【0030】
セル1のカソード1Cから水分離装置2に移動した水素は、その全量がカップフロート25の内部空間に移動する様に、カップフロート25の位置を含めて構成されている。水分離装置2に移動した水素の全量がカップフロート25の内部空間内に進入する様に構成しないと、カップフロート25が下降した後(バルブ本体25Cが閉鎖された後)、水素がカップフロート25内に入らなくなる恐れがあり、水素がカップフロート25内に入らないとカップフロート25が浮き上がらなくなり、水降下用パイプ26の上端開口部26Aが開放されなくなってしまうからである。
また、カップフロート25を長期間放置すると、その内部に水が置換してカップフロート25が沈んでしまう。しかし図示の実施形態では、カップフロート25の内部空間内にカソード1Cからの水素が進入し続けるので、当該内部空間には常に水素が供給されて、カップフロート25が沈んでしまうことを防止出来る。
上述した様に、水分離装置2側に移動した水素の全量がカップフロート25の内部空間に入る様に構成されているので、水分離装置2内の水が増加すれば、カップフロート25は確実に当該水に浮いた状態を保持するので、水降下用パイプ26の上端開口部26Aが開放しないという事態を防止出来る。
【0031】
ここで、図3で示すバブラー3内に貯留した純水は、水素と共にセル1のアノード1Aに供給され、カソード1Cから水分離装置2(カソード側)に移動し、水分離装置2内に貯留されるが、上述した様に、カップフロート25が水に浮いた状態を保持できれば、水分離装置2内の水は確実に水降下用パイプ26内を流過して、バブラー3内に流れ込む。これにより、バブラー3、セル1、水分離装置2の間で水が循環し続ける。
そのため、従来技術の様にセル1或いはセルスタック外部に別途水循環系統を形成する必要がなく、セルを集積し易く、レイアウトが容易になる。
図示の実施形態では、水分離装置2において水が水素ガスから分離してバブラー3に戻り、バブラー3、セル1、水分離装置2の間で、常時、循環し続ける。しかし、水分離装置2から水分除去装置18(図1参照)に移動した高圧水素は、図1を参照して上述した様に、水分除去装置18で水分が吸着除去され、吸着除去された水分はバブラー3には戻されない。水分除去装置18で除去された分の水を補給する必要がある場合には、図3において水循環ポンプ33を駆動し、水供給源からの配管28、バブラー3に水素を供給する配管15を介して給水すれば良い。係る給水を定期的に行うことも可能である。
【0032】
図2において、カソード側に水が無くなると電解質膜1B(固体高分子膜:PEM、図2)が乾燥し、PEMにおける抵抗が増大する。そしてPEMの抵抗が増大するとPEMにおける水素移動の効率が低下する。そのため、カソード側には常に水がある状態にしておくことが好ましい。
図示の実施形態では、水分離装置2に移動した水素は常にカップフロート25の内部空間に向かって浮上する様に配置されており、且つ、カップフロート25に設けたバルブ本体25Cが水降下用パイプ26の上端開口部26Aにより構成された弁座に座着しても水分離装置2に水が残留している。明確には図示されていないが、水分離装置2に水が残留している限り、カソード側には常時水が保持される。
【0033】
次に図3を参照して、バブラー3について説明する。
図3において、バブラー3はウォーターパン或いはドレンパンとして構成されており、上方の領域は気相領域3A(水素と水蒸気の混合気が貯留する領域)であり、下方の領域は液相域3B(水が貯留する領域)となっている。
バブラー3の液相域3Bには気泡発生器16(気化器)が配置されており、気泡発生器16には、温調装置器9を介装した配管15を介して水素が供給される。
気泡発生器16はストーンで構成されるタイプ、メッシュで構成されるタイプ、自然蒸発するタイプの何れのタイプで構成しても良く、その他のタイプの気泡発生器を用いることも出来る。
【0034】
図2を参照して上述した様に、水分離装置2(図1図2)内の水をバブラー3内に戻すために、水分離装置2から水降下用パイプ26がバブラー3まで延設されている。
図3において、温調装置9で温度調節された水素が気泡発生器16に供給されると、バブラー3内に貯留された水(純水)中に、大量の水素気泡が噴出し、噴出した水素と共に水蒸気がバブラー3の気相領域3Aへ移動する(矢印AB)。そして、水素及び水蒸気の混合気は、気体用ポンプ29を介して、水素ガス流路4(図3の左側の水素ガス流路4)によりセル1のアノード1A(図2)へ供給される(矢印A1)。上述した様に、水素ガス流路4は、複数のセル1内のポート及び溝を連通して構成されている。
アノード1Aにおけるオフガスはカソード1C側に移動しなかった水素ガス、水蒸気を含んでおり、係るオフガスは水素ガス流路4(図3の右側の水素ガス流路4)により、バブラー3の気相領域3Aに流入する(戻される:矢印A2)。
そのため、セル1或いはセルスタックの外部にオフガス循環系統を構成しなくても、バブラー用ケーシング13及びセル用ケーシング11(図1参照)内でオフガスを循環させることが出来、複数のセル1を積層或いは密集して配置してもオフガス循環系統と干渉するが防止される。その際、複数のセル1を配置するのに大きなスペースは必要とせず、各セル1とオフガス循環系統との干渉を防止するレイアウトを考慮する必要がない。
【0035】
従来技術では、チラーによりセルを冷却しているが、図示の実施形態では、バブラー3からセル1(複数のセル群)に亘って配置したヒートチューブ5によりセル1を冷却している。ヒートチューブ5によるセルの冷却について、図4を参照して説明する。
図4において模式的に示す様に、ヒートチューブ5はバブラー3とセル1(実機では、ケーシング11内の複数のセル1の各々)とを接続している。ヒートチューブ5の一端はヒートチューブ受熱部5Aとして複数分散設置(固体伝熱)されて、複数のセル1の各々に接続(固体接続)されており、ヒートチューブ5の他端はヒートチューブ放熱部5Bとしてバブラー3の液相領域3Bに浸漬している。図示の簡略化のため、図4では単一のセル1のみが示されている。
ヒートチューブ5は銅製であり、内管5C及び外管5Dの二重管構造を有しており、内管5Cと外管5Dはヒートチューブ受熱部5A及びヒートチューブ放熱部5Bにおいて連通している。ヒートチューブ5の二重管には純水が充填されており、高速で熱を伝達する機能を有している。そして、ヒートチューブ5の高伝熱特性を利用して、電解質膜1B(PEM、図2)に電流を流す際にセル1に発生した熱をバブラー3内に排出することが出来る。
【0036】
ヒートチューブ5でセル1を冷却するに際しては、セル1に発生した熱量が複数分散設置(固体伝熱)されたヒートチューブ5の受熱部5Aに伝熱され、伝熱された熱量は受熱部5Aを介してヒートチューブ5内の純水に伝達され、純水は気化熱を奪って直ちに気化する。気化した水蒸気はヒートチューブ5の内管5C内を高速で流過して(矢印F1)、ヒートチューブ5におけるバブラー3の液相領域3Bに浸漬された放熱部5Bに到達し、放熱部5Bで気化熱がバブラー3内に貯留された純水に投与される。
熱量をバブラー3内の純水に投与すると、ヒートチューブ5の内管5Cを流過した水蒸気は凝縮して純水となり、当該純水はヒートチューブ5の外管5D内を再びヒートチューブ5の受熱部5Aに向かって流れ(矢印F2)、受熱部5Aにおいて再びセル1の熱量で気化する。そして、ヒートチューブ5の内管5C、外管5D内に純水或いは水蒸気を循環させることにより、継続的にセル1を冷却する。
【0037】
ここで、セル1とバブラー3内の純水間のヒートチューブ5による熱移動は、セル1における(受熱)温度とバブラー3内の純水(放熱)温度との温度差に依存する。
電解質膜1B(固体高分子膜:PEM)或いはセル1には最適運転温度があり、適正に電気化学式水素圧縮機40を運転するためには電解質膜1B(固体高分子膜:PEM)或いはセル1を温度調整する必要がある。また、セル1内での結露を防止するために、セル1の温度をバブラー3内の純水よりも所定温度だけ(例えば5℃程度)高めに設定する必要がある。この設定すべき温度差があるので、ヒートチューブ5を介してセル1からバブラー3まで熱を移動することが可能となる。
ここで、バブラー3とセル1をヒートチューブ5でつないだ系は、例えばバブラー3に供給する水素の温度制御をすること、或いは、バブラー3を加熱、冷却することにより、(バブラー3とセル1をヒートチューブ5でつないだ系の)外部から同時に温度調整することが出来て、バブラー3の温度もセル1の温度も、適切にコントロールすることが出来る。
すなわち、セル1とバブラー3は、ヒートチューブ5により熱交換され、セル1、バブラー3、ヒートチューブ5は連鎖的に作用するので、温度制御が容易且つ正確に行うことが出来る。そのため、特別な制御機器を必要とせず、安定的にセル1を冷却することが出来る。そして、セル1に高品質のチラーを設ける必要もない。
【0038】
図6を参照して、図1図5を参照して説明した電気化学式圧縮機40の構造であるが、図1図5では明示されていない機器について説明する。
図6において、ケーシングの内部には4個のセルが示されており、それぞれのセルの電解質膜が符号1B-1~1B-4で示されている。実機において、セルの数は4個よりもはるかに多い。
図6において、電解質膜1B-1~1B-4の各々の下方がアノード(1A-1~1A-4:図示の煩雑化を避けるため、図6では符号は示していない)であり、電解質膜1B-1~1B-4の各々の上方がカソード(1C-1~1C-4:図示の煩雑化を避けるため、図6では符号は示していない)である。4つのセルは、絶縁体ISにより仕切られており、図6において絶縁体ISは太い点線で表示されている。
4つのセルに対しては、電源PSから、符号ECで包括的に示す導線を介して電力が供給されている。
【0039】
図6において、バブラー3の気泡発生器16の水素の泡BHで加湿された水素ガスは、矢印ABHで示す様に、循環用ポンプPBにより吸い込まれて図6の左側の水素ガス流路4Iに吐出される。水素ガス流路4Iを流れる水素は水蒸気と共に各セルのアノード1A-1~1A-4(図示せず)に供給される。そして水素イオンとなって電解質膜1B-1~1B-4を透過して、カソード1C-1~1C-4(図示せず)で水素に戻る。カソード1C-1~1C-4の高圧水素は、水素経路42、42(図6では2本のみ示すが、実機ではそれ以上の本数を設けている)を介して水分離装置2に移動する。図6では、水分離装置2に移動する高圧の水素は、水素経路42における上方に向かう矢印として表示されている。
各セルのアノード1A-1~1A-4に水素と水蒸気を供給した水素ガス流路4Iは、水平方向(図6では左右方向)に延在する水素ガス流路4Hを経由して図6の右側の水素ガス流路4Oに到達し、アノード1A-1~1A-4のオフガスは水素ガス流路4H、4Oを介して、バブラー3に戻る。
【0040】
カソード1C-1~1C-4から水素経路42を介して水分離装置2に移動した高圧の水素ガスは、泡Hと矢印AHとして水分離装置2内を移動して、配管17を流れ、水分除去装置18(図1)に送られる。そして水分離装置2において高圧の水素ガスから分離された水は、水降下用パイプ26を流れてバブラー3に戻される。
バブラー3にはヒートチューブ5が設けられており、ヒートチューブ5については、図1図4で前述した通りである。
【0041】
図6において、水分離用ケーシング12にはコンディショニングポートCPが形成されており、電気化学式コンプレッサーのメンテナンスの際に、コンディショニングポートCPを介して電解質膜1B-1~1B-4に酸素を供給する様に構成されている。図6において、コンディショニングポートCPは水素経路42に連通している様にも見えるが、コンディショニングポートCPは水素経路42に連通してはおらず、図示しない流路を介して各セルのカソード1C1~1C4に連通している。
電気化学式コンプレッサーの運転前に、コンディショニングポートCPから酸素を供給し且つバブラー3から水素を供給することにより、電解質膜1B-1~1B-4において燃料電池と同様に 2H+O→2HO+電気 という反応が行われ、これにより電解質膜1B-1~1B-4の状態が向上する。
【0042】
図示の実施形態で、起動時等においてセル1を加熱するためには、例えば図5(A)で示す様に、バブラー3を収容するバブラー用ケーシング13には加熱用のフィン6を設け、起動時には、ブロワ7により熱風をフィン6に噴射する(矢印H)。これにより、バブラー3が加熱され、バブラー3内の水も加熱され、昇温した水がヒートチューブ5を介してセル1を好適な温度まで加熱する。
一方、ブロワ7により冷風をバブラー用ケーシング13のフィン6に噴射すればバブラー3の温度が低下し、バブラー3内の水の温度も低下し、温度が低下した水がヒートチューブ5を介してセル1を好適な温度まで低下させる。
【0043】
また、バブラー3を加熱する機構としては、図5(B)で示す様に、バブラー3を収容するバブラー用ケーシング13にセル起動用のヒーター8を設け、ヒーター8によりバブラー用のケーシング13を加熱しても良い。
一方、バブラー3を冷却する機構としては、バブラー冷却用のクーラー(図示せず)を用いることが出来る。
バブラー3を加熱或いは冷却するには、図示した以外の機構も選択することが可能である。
さらに、配管15(図1図3)を介してバブラー3に供給される水素の温度を温調装置9(図1図3)により調節することにより、バブラー3内の水の温度を調節して、セル1を好適な温度に調節することも出来る。
係る構成を採用可能であるため、図示の実施形態では、バブラー3の温度調整に高品質機器であるチラーを設ける必要がない。
【0044】
図7では明示されていないが、従来技術ではバブラーとセルの間をチューブで接続している。そのため、当該チューブに特別な被覆をして断熱しないと結露を生じ、セルに悪影響を及ぼしてしまう。そして、特別な被覆で断熱されていないチューブでバブラーとセルを接続する場合には、バブラー、セル、その間の空間、チューブの温度をコントロールして、チューブにおける結露を防止しなければならない。
それに対して図示の実施形態では、ヒートチューブ5は、複数分散設置(固体伝熱)したヒートチューブ受熱部5A内が各セル1に接続(固体接続)した部分を有しており、バブラー3から供給される水素と水蒸気の混合気が流れる水素流路4はヒートチューブ5とは異なるレイアウト(経路)となっており、水素流路4を流れる気体(水素と水蒸気の混合気)はヒートチューブ5とは接触せず、水素流路4、ヒートチューブ5は結露しない。すなわち、ヒートチューブ5内を流れる冷媒である純水と、水素流路4を流れる気体は接触せず、熱交換することは無いため、水素流路4、ヒートチューブ5は結露しない。そのため、従来技術における結露防止の温度制御或いは特別な被覆による断熱が不要である。
そして、パブラやチラーの温度制御のため、高品質の機器を使用する必要も無い。
【0045】
上述した構成を有する図示の実施形態に係る電気化学式水素圧縮機40は、レイアウトの自由度が高く、水素及び水を装置内で循環させるための特別な装置をセルスタック外部に設ける必要が無く、高価な設備を必要とせず、セルの温度管理も容易である。
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【符号の説明】
【0046】
1・・・セル
1A・・・アノード
1B・・・電解質膜(固体高分子膜:PEM)
1C・・・カソード
2・・・水分離装置
3・・・バブラー
3A・・・気相領域
3B・・・液相領域
4・・・水素ガス流路
5・・・ヒートチューブ
5A・・・ヒートチューブ受熱部
5B・・・ヒートチューブ放熱部
11・・・セル用ケーシング(セル収容部外殻)
12・・・水分離装置用ケーシング
13・・・バブラー用ケーシング
26・・・水降下用パイプ
40・・・電気化学式水素圧縮機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7