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特許7333010電気接点材料、端子金具、コネクタ、ワイヤーハーネス、及び電気接点材料の製造方法
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  • 特許-電気接点材料、端子金具、コネクタ、ワイヤーハーネス、及び電気接点材料の製造方法 図1
  • 特許-電気接点材料、端子金具、コネクタ、ワイヤーハーネス、及び電気接点材料の製造方法 図2
  • 特許-電気接点材料、端子金具、コネクタ、ワイヤーハーネス、及び電気接点材料の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】電気接点材料、端子金具、コネクタ、ワイヤーハーネス、及び電気接点材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/10 20060101AFI20230817BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20230817BHJP
   H01R 43/16 20060101ALI20230817BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20230817BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C25D5/10
H01R13/03 D
H01R43/16
C25D5/50
C25D7/00 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019119508
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021004405
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】白井 善晶
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寧
(72)【発明者】
【氏名】古川 欣吾
(72)【発明者】
【氏名】公文代 充弘
(72)【発明者】
【氏名】細江 晃久
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-067861(JP,A)
【文献】特開2008-248332(JP,A)
【文献】特開平11-135226(JP,A)
【文献】特開昭64-086417(JP,A)
【文献】特表2016-518528(JP,A)
【文献】特開2015-133306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる基材と、
前記基材の表面に設けられる金属層と、
前記金属層の表面に設けられる酸化物層とを備え、
前記金属層は、
前記基材側に設けられる第一金属層と、
前記酸化物層側に設けられる第二金属層とを備え、
前記第一金属層は、亜鉛、銅、及びスズを含む合金からなり、(Cu,Zn) Sn からなる金属間化合物を含有し、
前記第二金属層は、スズ又はスズ合金からなり、前記第一金属層に比較して銅の原子濃度がスズの原子濃度よりも小さく、
前記酸化物層は、亜鉛、銅、及びスズを含む酸化物からなり、
前記酸化物層の直下において、スズの原子濃度に対する銅の原子濃度の比率が1.4未満である、
電気接点材料。
【請求項2】
前記酸化物層中の各元素の原子濃度は、
酸素が0原子%超70原子%以下、
亜鉛が0原子%超70原子%以下、
銅が0原子%超30原子%以下、
スズが0原子%超30原子%以下、である請求項1に記載の電気接点材料。
【請求項3】
前記酸化物層の平均厚さは、1nm以上1000nm以下である請求項1又は請求項2に記載の電気接点材料。
【請求項4】
前記第一金属層の平均厚さは、0.1μm以上5μm以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電気接点材料。
【請求項5】
前記第二金属層の平均厚さは、0.1μm以上5μm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電気接点材料。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の電気接点材料からなる、
端子金具。
【請求項7】
請求項に記載の端子金具を備える、
コネクタ。
【請求項8】
電線と、
前記電線に取り付けられる請求項に記載の端子金具、又は請求項に記載のコネクタとを備える、
ワイヤーハーネス。
【請求項9】
基材の表面の少なくとも一部に、前記基材側から順に、第一層、第二層、及び第三層をめっきにより被覆した被覆材料を作製する工程と、
前記被覆材料に、酸素雰囲気中、232℃以上400℃以下の温度かつ1秒以上5分以下の保持時間で熱処理を施す工程とを備え、
前記被覆材料を作製する工程では、
前記第一層は、スズを含む金属からなり、
前記第二層は、亜鉛を含む金属からなり、
前記第三層は、銅を含む金属からなり、
前記第一層の厚さを3.5μm以上5μm以下、
前記第二層の厚さを0.1μm以上0.6μm以下、
前記第三層の厚さを0.05μm以上0.4μm以下とする、
電気接点材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気接点材料、端子金具、コネクタ、ワイヤーハーネス、及び電気接点材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属材料からなる基材と、基材上に形成された合金層と、合金層の表面に形成された導電性皮膜層(酸化物層)とを備えるコネクタ用電気接点材料が開示されている。合金層は、Sn及びCuを必須元素として含み、かつZn、Co、Ni、及びPdから選択される1種又は2種以上の添加元素(M)を含む。また、合金層は、CuSnで示される金属間化合物のCuを上記添加元素(M)に置換してなる(Cu,M)Snで示される金属間化合物を含む。酸化物層は、合金層の構成元素が酸化されて形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-67861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気接点材料の最表面に形成される酸化物層は、接触抵抗を上昇させ得る。しかし、この酸化物層は、電気接点材料の使用時における相手材との嵌合によって荷重が加わることで破壊され易い。酸化物層が破壊されることで、電気接点材料における接触抵抗の上昇を抑制でき、合金層を介して電気接点材料と相手材との間で良好な電気的接続を確保し易い。これは、破壊された酸化物層から露出される電気接点材料の新生面に相手材が接触できるからである。
【0005】
相手材との接触圧力が小さく、使用時に電気接点材料に加わる荷重が小さい場合であっても、相手材と良好な電気的接続を確保できる電気接点材料が求められている。例えば、コネクタの端子金具が従来に比較して小さくなると、相手材との接触圧力が小さくなり、使用時に電気接点材料に加わる荷重も小さくなる。電気接点材料に加わる荷重が小さくなると、酸化物層が破壊され難く、接触抵抗の上昇を引き起こし、相手材と良好な電気的接続を確保し難い。
【0006】
そこで、本開示は、相手材との接触圧力が小さい場合であっても、接触抵抗の上昇を抑制できる電気接点材料を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、上記電気接点材料からなる端子金具、上記端子金具を備えるコネクタ、及び上記端子金具又はコネクタを備えるワイヤーハーネスを提供することを目的の一つとする。更に、本開示は、相手材との接触圧力が小さい場合であっても、接触抵抗の上昇を抑制できる電気接点材料を容易に得られる電気接点材料の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電気接点材料は、
金属からなる基材と、
前記基材の表面に設けられる金属層と、
前記金属層の表面に設けられる酸化物層とを備え、
前記金属層は、亜鉛、銅、及びスズを含む金属からなり、
前記酸化物層は、亜鉛、銅、及びスズを含む酸化物からなり、
前記酸化物層の直下において、スズの原子濃度に対する銅の原子濃度の比率が1.4未満である。
【0008】
本開示の端子金具は、本開示の電気接点材料からなる。
【0009】
本開示のコネクタは、本開示の端子金具を備える。
【0010】
本開示のワイヤーハーネスは、
電線と、
前記電線に取り付けられる本開示の端子金具、又は本開示のコネクタとを備える。
【0011】
本開示の電気接点材料の製造方法は、
基材の表面の少なくとも一部に、前記基材側から順に、第一層、第二層、及び第三層をめっきにより被覆した被覆材料を作製する工程と、
前記被覆材料に、酸素雰囲気中、232℃以上500℃以下の温度で熱処理を施す工程とを備え、
前記被覆材料を作製する工程では、
前記第一層は、スズを含む金属からなり、
前記第二層は、亜鉛を含む金属からなり、
前記第三層は、銅を含む金属からなり、
前記第一層の厚さを3.5μm以上5μm以下、
前記第二層の厚さを0.1μm以上0.6μm以下、
前記第三層の厚さを0.05μm以上0.4μm以下とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示の電気接点材料は、相手材との接触圧力が小さい場合であっても、接触抵抗の上昇を抑制できる。また、本開示の端子金具、コネクタ、及びワイヤーハーネスは、相手材との接触圧力が小さい場合であっても、接触抵抗の上昇を抑制できる。更に、本開示の電気接点材料の製造方法は、相手材との接触圧力が小さい場合であっても、接触抵抗の上昇を抑制できる電気接点材料を容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係る電気接点材料を示す概略構成図である。
図2図2は、実施形態に係る電気接点材料の製造方法に関して、被覆材料を作製する工程を示す概略構成図である。
図3図3は、実施形態に係る電気接点材料からなる端子金具を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0015】
(1)本開示の実施形態に係る電気接点材料は、
金属からなる基材と、
前記基材の表面に設けられる金属層と、
前記金属層の表面に設けられる酸化物層とを備え、
前記金属層は、亜鉛、銅、及びスズを含む金属からなり、
前記酸化物層は、亜鉛、銅、及びスズを含む酸化物からなり、
前記酸化物層の直下において、スズの原子濃度に対する銅の原子濃度の比率が1.4未満である。
【0016】
本開示の電気接点材料は、酸化物層の直下におけるスズの原子濃度に対する銅の原子濃度の比率(以下、原子濃度比Cu/Snと呼ぶことがある)が1.4未満を満たすことで、酸化物層に銅の酸化物が形成され難い。銅の酸化物が少ない酸化物層は、低抵抗で導電性を確保し易い。そのため、本開示の電気接点材料は、金属層の表面に酸化物層が存在する状態であっても、相手材との間で良好な電気的接続を確保できる。よって、本開示の電気接点材料は、相手材との接触圧力が小さい場合であっても、接触抵抗の上昇を抑制できる。
【0017】
(2)本開示の電気接点材料の一例として、
前記酸化物層中の各元素の原子濃度は、
酸素が0原子%超70原子%以下、
亜鉛が0原子%超70原子%以下、
銅が0原子%超30原子%以下、
スズが0原子%超30原子%以下、である形態が挙げられる。
【0018】
上記に列挙する原子濃度を満たす酸化物層は、導電率を向上し易い。そのため、上記に列挙する原子濃度を満たす酸化物層を備える電気接点材料は、金属層の表面に酸化物層が存在する状態であっても、相手材との間でより良好な電気的接続を確保できる。また、上記に列挙する原子濃度を満たす酸化物層を備える電気接点材料は、基材の酸化を抑制し易く、安定した耐久性を確保し易い。
【0019】
(3)本開示の電気接点材料の一例として、
前記酸化物層の平均厚さは、1nm以上1000nm以下である形態が挙げられる。
【0020】
酸化物層の平均厚さが1nm以上であることで、基材の表面に被覆される被覆層(金属層と酸化物層とを合わせた層)の厚さを厚くでき、基材の酸化を抑制し易い。一方、酸化物層の平均厚さが1000nm以下であることで、低抵抗の酸化物層とし易い。酸化物層が低抵抗であることで、本開示の電気接点材料は、金属層の表面に酸化物層が存在する状態であっても、相手材との間でより良好な電気的接続を確保できる。
【0021】
(4)本開示の電気接点材料の一例として、
前記金属層は、
前記基材側に設けられる第一金属層と、
前記酸化物層側に設けられる第二金属層とを備え、
前記第一金属層は、亜鉛、銅、及びスズからなる群より選択される2種以上の元素を含む合金からなり、
前記第二金属層は、スズ又はスズ合金からなる形態が挙げられる。
【0022】
金属層における酸化物層側に第二金属層を備えることで、金属層に含まれる銅が酸化物層側に拡散することを抑制し易い。酸化物層側への銅の拡散を抑制できることで、酸化物層の直下における原子濃度比Cu/Snが1.4未満を満たし易い。そのため、酸化物層に銅の酸化物がより形成され難い。酸化物層に銅の酸化物がより少ないことで、本開示の電気接点材料は、金属層の表面に酸化物層が存在する状態であっても、相手材との間でより良好な電気的接続を確保できる。
【0023】
(5)金属層が第一金属層及び第二金属層を備える本開示の電気接点材料の一例として、
前記第一金属層の平均厚さは、0.1μm以上5μm以下である形態が挙げられる。
【0024】
第一金属層の平均厚さが0.1μm以上であることで、基材の表面に被覆される被覆層(金属層と酸化物層とを合わせた層)の厚さを厚くでき、基材の酸化を抑制し易い。一方、第一金属層の平均厚さが5μm以下であることで、金属層の厚肉化を抑制できる。また、第一金属層の平均厚さが5μm以下であることで、金属層を形成する際の長時間化を抑制できる。
【0025】
(6)金属層が第一金属層及び第二金属層を備える本開示の電気接点材料の一例として、
前記第二金属層の平均厚さは、0.1μm以上5μm以下である形態が挙げられる。
【0026】
第二金属層の平均厚さが0.1μm以上であることで、基材の表面に被覆される被覆層(金属層と酸化物層とを合わせた層)の厚さを厚くでき、基材の酸化を抑制し易い。また、第二金属層の平均厚さが0.1μm以上であることで、金属層に含まれる銅が酸化物層側に拡散することをより抑制し易い。酸化物層側への銅の拡散を抑制できることで、酸化物層の直下における原子濃度比Cu/Snが1.4未満を満たし易い。そのため、酸化物層に銅の酸化物がより形成され難い。一方、第二金属層の平均厚さが5μm以下であることで、金属層の厚肉化を抑制できる。また、第二金属層の平均厚さが5μm以下であることで、金属層を形成する際の長時間化を抑制できる。
【0027】
(7)本開示の実施形態に係る端子金具は、
上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の電気接点材料からなる。
【0028】
本開示の端子金具は、本開示の電気接点材料からなるため、相手材との接触圧力が小さい場合であっても、接触抵抗の上昇を抑制できる。
【0029】
(8)本開示の実施形態に係るコネクタは、
上記(7)に記載の端子金具を備える。
【0030】
本開示のコネクタは、本開示の端子金具を備えるため、相手材との接触圧力が小さい場合であっても、接触抵抗の上昇を抑制できる。
【0031】
(9)本開示の実施形態に係るワイヤーハーネスは、
電線と、
前記電線に取り付けられる上記(7)に記載の端子金具、又は上記(8)に記載のコネクタとを備える。
【0032】
本開示のワイヤーハーネスは、本開示の端子金具又は本開示のコネクタを備えるため、相手材との接触圧力が小さい場合であっても、接触抵抗の上昇を抑制できる。
【0033】
(10)本開示の実施形態に係る電気接点材料の製造方法は、
基材の表面の少なくとも一部に、前記基材側から順に、第一層、第二層、及び第三層をめっきにより被覆した被覆材料を作製する工程と、
前記被覆材料に、酸素雰囲気中、232℃以上500℃以下の温度で熱処理を施す工程とを備え、
前記被覆材料を作製する工程では、
前記第一層は、スズを含む金属からなり、
前記第二層は、亜鉛を含む金属からなり、
前記第三層は、銅を含む金属からなり、
前記第一層の厚さを3.5μm以上5μm以下、
前記第二層の厚さを0.1μm以上0.6μm以下、
前記第三層の厚さを0.05μm以上0.4μm以下とする。
【0034】
本開示の電気接点材料の製造方法は、基材側から順に、スズを含む第一層、亜鉛を含む第二層、及び銅を含む第三層をめっきにより被覆する。第一層、第二層、及び第三層からなる被覆層が被覆された被覆材料は、経時的に合金化反応を起こす。一方で、上記被覆材料に熱処理を施すことで、被覆材料の表面に酸化物層が形成される。このとき、被覆層における各層の厚さが上記範囲を満たすことで、酸化物層側にスズが拡散され易く、銅が拡散され難い。具体的には、232℃以上の温度で熱処理を行うことで、スズを液相状態とでき、上記範囲の厚さを有する第一層中のスズが上記酸化物層側に拡散され易い。また、232℃以上の温度で熱処理を行うことで、酸化物層中にスズや亜鉛を含有させ易く、銅を含有させ難い。一方、500℃以下の温度で熱処理を行うことで、上記範囲の厚さを有する第三層中の銅が上記酸化物層側に拡散され難い。以上より、本開示の電気接点材料の製造方法によれば、基材の表面にスズ、亜鉛、及び銅を含む合金からなる金属層を形成できると共に、その金属層の表面にスズ、亜鉛、及び銅を含む酸化物からなる酸化物層を形成できる。このとき、被覆層における各層の厚さが上記範囲を満たすと共に、上記範囲の温度で熱処理を施すことで、スズと銅の拡散が制御され、酸化物層直下における原子濃度比Cu/Snを1.4未満とできる。
【0035】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態の詳細を、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0036】
≪電気接点材料≫
実施形態に係る電気接点材料1は、図1に示すように、金属からなる基材10と、基材10の表面に設けられる金属層20と、金属層20の表面に設けられる酸化物層30とを備える。金属層20は、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、及びスズ(Sn)を含む金属からなる。酸化物層30は、Zn、Cu、及びSnを含む酸化物からなる。実施形態に係る電気接点材料1は、酸化物層30の直下において、Snの原子濃度に対するCuの原子濃度の比率(以下、原子濃度比Cu/Snと呼ぶことがある)が1.4未満である点を特徴の一つとする。
【0037】
〔基材〕
基材10は、金属からなる。特に、基材10は、導電性に優れるCu、Cu合金、アルミニウム(Al)、Al合金、鉄(Fe)、及びFe合金から選択される一種以上の金属からなることが好適である。基材10の形状は、棒状や板状などの種々の形状を適宜選択できる。また、基材10の寸法は、用途に応じて種々の寸法を適宜選択できる。
【0038】
基材10の表面には、めっき層(図示せず)を備えてもよい。めっき層は、例えば、Cu、Cu合金、ニッケル(Ni)、Ni合金、コバルト(Co)、及びCo合金からなる群より選択される1種以上の金属を含むことが挙げられる。基材10の表面にめっき層を備えることで、基材10の表面に設けられる金属層20との密着性を向上できる。また、基材10とめっき層とが同種金属の場合、基材10の構成元素が金属層20側に拡散することを促進できる。例えば、Cuを含む金属板の表面にCuを含むめっき層を備える場合、基材10中のCuが金属層20側に拡散することを促進できる。めっき層の厚さは、0.01μm以上5μm以下が挙げられ、更に0.1μm以上3μm以下が挙げられる。ここでのめっき層の厚さは、電気接点材料1の製造過程において、基材10の表面にめっきしたときの厚さである。
【0039】
〔金属層〕
金属層20は、基材10の酸化を抑制する機能を有する。金属層20は、基材10とは組成が異なる。金属層20は、基材10よりも酸化し難い組成からなることが好ましい。この例では、金属層20は、第一金属層21と第二金属層22とを備える多層構造となっている。
【0040】
(第一金属層)
第一金属層21は、金属層20における基材10側に設けられる。第一金属層21は、Zn、Cu、及びSnからなる群より選択される2種以上の元素を含む合金からなる。第一金属層21中の各元素の原子濃度は、Znが0.01原子%以上50原子%以下、Cuが10原子%以上90原子%以下、Snが10原子%以上90原子%以下であることが挙げられる。上記に列挙する原子濃度を満たすことで、第一金属層21は、例えば、(Cu,Zn)Snで示される金属間化合物を含有する。第一金属層21中の各元素の原子濃度は、更にZnが0.1原子%以上30原子%以下、Cuが40原子%以上80原子%以下、Snが20原子%以上50原子%以下であることが挙げられる。第一金属層21中の各元素の原子濃度は、例えば、蛍光X線分析装置を用いて測定できる。第一金属層21は、主に、電気接点材料1の製造過程において、基材10の表面に金属層20の構成材料をめっきした後に経時的に生じる合金化反応によって形成される。つまり、この第一金属層21は、主に、電気接点材料1の製造過程において、基材10の表面に金属層20の構成材料をめっきした後の放置時及び熱処理時に形成される。
【0041】
第一金属層21は、平均厚さが0.1μm以上5μm以下であることが挙げられる。第一金属層21の平均厚さが0.1μm以上であることで、基材10の表面に被覆される被覆層(金属層20と酸化物層30とを合わせた層)の厚さを厚くでき、基材10の酸化を抑制し易い。一方、第一金属層21の平均厚さが5μm以下であることで、金属層20の厚肉化を抑制できる。また、第一金属層21の平均厚さが5μm以下であることで、金属層20を形成する際の長時間化を抑制できる。第一金属層21の平均厚さは、更に0.5μm以上4.5μm以下、特に1.0μm以上4.0μm以下、2.0μm以上4.0μm以下が挙げられる。第一金属層21の平均厚さは、例えば、蛍光X線膜厚計を用いて以下のように測定できる。第一金属層21よりも上層の酸化物層30及び第二金属層22を除去する。その後、第一金属層21における特定面積中のSnの含有量を蛍光X線膜厚計により測定し、第一金属層21の組成及び密度から第一金属層21の厚さを演算する。第一金属層21における上記特定面積を例えば10箇所選択し、各特定面積について演算して得られた第一金属層21の厚さの平均値を算出し、その平均値を第一金属層21の平均厚さとする。
【0042】
(第二金属層)
第二金属層22は、金属層20における酸化物層30側に設けられる。第二金属層22は、Sn又はSn合金からなる。第二金属層22は、第一金属層21と酸化物層30との間に介在される。第二金属層22は、第一金属層21に比較して、Cuの原子濃度がSnの原子濃度よりも十分に小さい層である。第二金属層22がSn合金からなり、Sn以外の添加元素としてCuを含む場合、Cuの原子濃度は、0.01原子%以上50原子%以下が挙げられ、更に0.1原子%以上30原子%以下が挙げられる。また、第二金属層22がSn合金からなり、Sn以外の添加元素としてZnを含む場合、Znの原子濃度は、0.01原子%以上50原子%以下が挙げられ、更に0.1原子%以上40原子%以下が挙げられる。第二金属層22中の各元素の原子濃度は、例えば、蛍光X線分析装置を用いて測定できる。第二金属層22は、主に、電気接点材料1の製造過程において、基材10の表面に設けられたSnが液相状態となることで形成される。つまり、第二金属層22は、主に、電気接点材料1の製造過程において、基材10の表面に金属層20の構成材料をめっきした後の熱処理時に形成される。
【0043】
第二金属層22は、平均厚さが0.1μm以上5μm以下であることが挙げられる。第二金属層22の平均厚さが0.1μm以上であることで、基材10の表面に被覆される被覆層(金属層20と酸化物層30とを合わせた層)の厚さを厚くでき、基材10の酸化を抑制し易い。また、第二金属層22の平均厚さが0.1μm以上であることで、第一金属層21に含まれるCuが酸化物層30側に拡散することを抑制し易い。更に、第二金属層22の平均厚さが0.1μm以上であることで、基材10にCuを含む場合には、基材10に含まれるCuが酸化物層30側に拡散することも抑制し易い。酸化物層30側へのCuの拡散を抑制できることで、酸化物層30の直下における原子濃度比Cu/Snが1.4未満を満たし易い。一方、第二金属層22の平均厚さが5μm以下であることで、金属層20の厚肉化を抑制できる。また、第二金属層22の平均厚さが5μm以下であることで、金属層20を形成する際の長時間化を抑制できる。第二金属層22の平均厚さは、更に0.2μm以上4.0μm以下、特に0.3μm以上3.0μm以下、0.3μm以上1.0μm以下が挙げられる。第二金属層22の平均厚さは、例えば、蛍光X線膜厚計を用いて以下のように測定できる。金属層20全体における特定面積中のSnの含有量を蛍光X線膜厚計により測定する。その後、第二金属層22のみを溶解できる処理液を用いて、エッチングにより第二金属層22のみを除去する。残存した第一金属層21における上記特定面積中のSnの含有量を蛍光X線膜厚計により測定する。第二金属層22の厚さは、測定した金属層20全体における特定面積中のSnの含有量と、第一金属層21における同特定面積中のSnの含有量との差から演算できる。上記特定面積を例えば10箇所選択し、各特定面積について演算して得られた第二金属層22の厚さの平均値を算出し、その平均値を第二金属層22の平均厚さとする。
【0044】
〔酸化物層〕
酸化物層30は、金属層20の表面に設けられる。酸化物層30は、主に、電気接点材料1の製造過程において、金属層20の構成元素が酸化されて形成される。酸化物層30は、電気接点材料1の最表面を構成する。
【0045】
酸化物層30は、例えば、ZnO、SnO、SnO、CuO、CuOなどの酸化物が混合して存在し得る。また、酸化物層30は、上記各種酸化物からなる化合物として存在し得る。ZnOは、Znの一部がCuやSnに置換して、(Zn,Cu)Oや(Zn,Sn)Oの形態で存在し得る。酸化物層30は、後述するようにCuの酸化物が他の酸化物に比較して少ない。具体的には、酸化物層30は、Cuの酸化物がZnの酸化物に比較して少ない。Cuの酸化物が少ない酸化物層30は、導電性を確保し易い。
【0046】
酸化物層30中の各元素の原子濃度は、Oが0原子%超70原子%以下、Znが0原子%超70原子%以下、Cuが0原子%超30原子%以下、Snが0原子%超30原子%以下であることが挙げられる。上記に列挙する原子濃度を満たすことで、酸化物層30は、導電率を向上し易い。また、上記に列挙する原子濃度を満たすことで、基材10の酸化を抑制し易い。酸化物層30中の各元素の原子濃度は、更にOが10原子%以上60原子%以下、Znが10原子%以上60原子%以下、Cuが0.1原子%以上20原子%以下、Snが0.1原子%以上20原子%以下であることが挙げられる。酸化物層30中の各元素の原子濃度は、特にOが40原子%以上55原子%以下、Znが35原子%以上60原子%以下、Cuが5原子%以上15原子%以下、Snが0.1原子%以上10原子%以下であることが挙げられる。酸化物層30中の各元素の原子濃度は、例えば、X線光電子分光分析を用いて測定できる。酸化物層30は、主に、電気接点材料1の製造過程において、基材10の表面に設けられた金属層20の構成元素が酸化されて形成される。つまり、酸化物層30は、主に、電気接点材料1の製造過程において、基材10の表面に金属層20の構成材料をめっきした後の熱処理時に形成される。
【0047】
酸化物層30は、平均厚さが1nm以上1000nm以下であることが挙げられる。酸化物層30の平均厚さが1nm以上であることで、基材10の表面に被覆される被覆層(金属層20と酸化物層30とを合わせた層)の厚さを厚くでき、基材10の酸化を抑制し易い。一方、酸化物層30の平均厚さが1000nm以下であることで、低抵抗の酸化物層30とし易い。酸化物層30の平均厚さは、更に3nm以上500nm以下、特に10nm以上300nm以下、15nm以上100nm以下、20nm以上80nm以下が挙げられる。酸化物層30の平均厚さは、例えば、任意の測定点を例えば10箇所選択し、X線光電子分光分析を用いて、各測定点の厚さを測定し、それらの平均値を算出することで求められる。
【0048】
〔酸化物層の直下〕
酸化物層30の直下は、Snの原子濃度に対するCuの原子濃度の比率(原子濃度比Cu/Sn)が1.4未満である。原子濃度比Cu/Snが1.4未満を満たすことで、酸化物層30の直下に存在するCuは、主にCuSnの形態で存在し得る。CuがCuSnの形態で存在することで、酸化物層30にCuの酸化物が形成され難い。Cuの酸化物が少ない酸化物層30は、導電性を確保し易い。そのため、電気接点材料1は、最表面に酸化物層30が存在する状態であっても、導電性の酸化物層30及び金属層20を介して、基材10と相手材との間で良好な電気的接続を確保できる。なお、上記原子濃度比Cu/Snが1.4以上を満たす場合、酸化物層30の直下に存在するCuは、主にCuSnの形態で存在し得る。CuがCuSnの形態で存在すると、酸化物層30にCuの酸化物が形成され易い。
【0049】
酸化物層30の直下における原子濃度比Cu/Snは、小さいほど酸化物層30にCuの酸化物が形成され難い。よって、酸化物層30の直下における原子濃度比Cu/Snは、更に1.3以下が挙げられ、特に1.2以下が挙げられる。ここで言う酸化物層30の直下とは、酸化物層30と第二金属層22との界面からの第二金属層22側のSiOのスパッタリングレート換算で0.05μm以下の範囲を言う。上記原子濃度比Cu/Snは、X線光電子分光分析を用いて測定できる。
【0050】
≪端子金具、コネクタ、及びワイヤーハーネス≫
上記電気接点材料1は、端子金具、コネクタ、及びワイヤーハーネスに好適に利用することができる。図3にメス型の端子金具200を示す。この端子金具200は、電線300に備わる導体310を接続する導体接続部として、一対の圧着片を主体とするワイヤバレル部210を備える圧着タイプである。端子金具200は、更に電線300の絶縁層320を圧着するインシュレーションバレル部220も備える。端子金具200は、ワイヤバレル部210の一方の側にメス型の嵌合部230を備える。嵌合部230は、筒状の箱部231と、箱部231の内面に対向配置された弾性片232,233とを備える。この弾性片232,233の少なくとも一方が、上記電気接点材料1からなる。メス型の嵌合部230の箱部231にオス型の嵌合部(図示せず)が挿入されることで、オス型の嵌合部がメス型の嵌合部230の弾性片232,233の付勢力によって強固に挟持され、メス型の端子金具200とオス型の端子金具とが電気的に接続される。上記電気接点材料1は、相手材との接触圧力が小さい場合であっても、接触抵抗の増加を抑制できることから、上記弾性片232,233が小さいような端子金具に好適に利用できる。
【0051】
≪電気接点材料の製造方法≫
実施形態に係る電気接点材料の製造方法は、めっき工程と熱処理工程とを備える。
【0052】
〔めっき工程〕
めっき工程では、図2に示すように、基材110の表面の少なくとも一部に被覆層120をめっきにより被覆した被覆材料100を作製する。基材110は、上述した電気接点材料1における基材10である。被覆層120は、基材110側から順に、Snを含む金属からなる第一層121、Znを含む金属からなる第二層122、及びCuを含む金属からなる第三層123が積層された多層構造である。めっき方法としては、電気めっき、無電解めっき、溶融めっきなどが挙げられる。
【0053】
(第一層)
第一層121は、後述する熱処理により第一金属層21及び第二金属層22を形成し、得られる電気接点材料1における表層(酸化物層30)側へのCuの拡散を抑制するために設けられる。第一層121は、Sn又はSn合金からなる。第一層121がSn合金からなる場合、Sn以外の添加元素としてCuやZnを含むことが挙げられる。添加元素の原子濃度としては、0.1原子%以上50原子%以下が挙げられ、更に1原子%以上30原子%以下が挙げられる。
【0054】
第一層121の厚さは、得られる電気接点材料1における第二金属層22の厚さに大きく影響する。第一層121の厚さは、3.5μm以上5μm以下とする。第一層121の厚さを3.5μm以上とすることで、第二金属層22の平均厚さが厚くなり易く、酸化物層30側へのCuの拡散を抑制し易い。一方、第一層121の厚さを5μm以下とすることで、金属層20の厚肉化を抑制できる。また、第一層121の厚さを5μm以下とすることで、金属層20を形成する際の長時間化を抑制できる。第一層121の厚さは、更に3.5μm以上4.5μm以下、特に3.5μm以上4.0μm以下が挙げられる。第一層121の厚さは、例えば、めっき時の電流や時間によって所望の厚さとできる。
【0055】
(第二層)
第二層122は、第一層121と第三層123の積層の順番が決まると一意的に決まり、第一層121の表面に設けられる。第二層122は、Zn又はZn合金からなる。第二層122がZn合金からなる場合、Zn以外の添加元素としてSnを含むことが挙げられる。添加元素の原子濃度としては、0.1原子%以上50原子%以下が挙げられ、更に1原子%以上30原子%以下が挙げられる。
【0056】
第二層122の厚さは、0.1μm以上0.6μm以下とする。第二層122の厚さを0.1μm以上とすることで、酸化物層30中にZnを含有させ易く、基材110の酸化を抑制し易い。一方、第二層122の厚さを0.6μm以下とすることで、酸化物層30にSnやZnを含有させ易く、Cuを含有させ難い。第二層122の厚さは、更に0.2μm以上0.5μm以下、特に0.2μm以上0.4μm以下が挙げられる。第二層122の厚さは、例えば、めっき時の電流や時間によって所望の厚さとできる。
【0057】
(第三層)
第三層123は、後述する熱処理により酸化し難いように、第二層122の表面に設けられる。第三層123の構成元素は、第一層121の構成元素と反応する。この反応によって、基材110の構成元素が、得られる電気接点材料1における表層(酸化物層30)側へ過剰に拡散することを抑制できると推測される。第三層123は、被覆層120の最表層である。第三層123は、Cu又はCu合金からなる。第三層123がCu合金からなる場合、Cu以外の添加元素としてSnを含むことが挙げられる。添加元素の原子濃度としては、0.1原子%以上50原子%以下が挙げられ、更に1原子%以上30原子%以下が挙げられる。
【0058】
第三層123の厚さは、0.05μm以上0.4μm以下とする。第三層123の厚さを0.05μm以上とすることで、酸化物層30を形成し、基材110の酸化を抑制し易い。一方、第三層123の厚さを0.4μm以下とすることで、酸化物層30にSnやZnを含有させ易く、Cuを含有させ難い。第三層123の厚さは、更に0.1μm以上0.4μm以下、特に0.2μm以上0.4μm以下が挙げられる。第三層123の厚さは、例えば、めっき時の電流や時間によって所望の厚さとできる。
【0059】
〔熱処理工程〕
熱処理工程では、上記めっき工程後、被覆材料100に熱処理を施す。熱処理は、酸素雰囲気中で行う。また、熱処理は、232℃以上500℃以下の温度で行う。熱処理温度を232℃以上とすることで、Snを液相状態とでき、酸化物層30にSnやZnを含有させ易く、Cuを含有させ難い。一方、熱処理温度を500℃以下とすることで、酸化物層30側にCuの原子濃度がSnの原子濃度よりも十分に小さい第二金属層22を形成し易く、酸化物層30側へのCuの拡散を抑制し易い。熱処理温度は、更に240℃以上450℃以下、特に250℃以上400℃以下が挙げられる。熱処理の保持時間は、1秒以上5分以下とすることが挙げられる。熱処理の保持時間を1秒以上とすることで、Snを液相状態とでき、酸化物層30にSnやZnを含有させ易く、Cuを含有させ難い。一方、熱処理の保持時間を5分以下とすることで、酸化物層30側にCuの原子濃度がSnの原子濃度よりも十分に小さい第二金属層22を形成し易く、酸化物層30側へのCuの拡散を抑制し易い。熱処理の保持時間は、更に2秒以上4分以下、特に3秒以上3分以下が挙げられる。
【0060】
熱処理は、めっき工程後14日以内に行うことが挙げられる。めっき工程後の被覆材料100は、被覆層120を構成する第一層121、第二層122、及び第三層123が経時的に合金化反応を起こす。めっき工程後14日以内に熱処理を行うことで、第一層121、第二層122、及び第三層123の間で合金を形成する前に熱処理を行うことができる。よって、Snの融点以上の温度で熱処理を行うことで、液相状態のSnと、ZnやCuとの反応を適切に行える。この反応によって、最表面に酸化物層30を備えると共に、酸化物層30側に第二金属層22を有する金属層20を備える電気接点材料1を得ることができる。第二金属層22は、Cuの原子濃度がSnの原子濃度よりも十分に小さい層である。めっき工程後の熱処理までの時間は、短いほど被覆層120の合金化を抑制し易い。そのため、めっき工程後の熱処理までの時間は、更に10日以内、5日以内、2日以内、特に1日以内が挙げられる。
【0061】
≪効果≫
実施形態に係る電気接点材料1は、酸化物層30の直下において、Snの原子濃度に対するCuの原子濃度の比率が1.4未満を満たす。そのため、上記電気接点材料1は、酸化物層30にCuの酸化物が形成され難い。Cuの酸化物が少ない酸化物層30は、導電性を確保し易い。よって、上記電気接点材料1は、最表面に酸化物層30が存在する状態であっても、導電性の酸化物層30及び金属層20を介して、基材10と相手材との間で良好な電気的接続を確保できる。従って、上記電気接点材料1は、相手材との接触圧力が小さい場合であっても、接触抵抗の上昇を抑制できる。
【0062】
実施形態に係る電気接点材料の製造方法では、基材110側から順に、Snを含む金属からなる第一層121、Znを含む金属からなる第二層122、及びCuを含む金属からなる第三層123を被覆した被覆材料100を作製する。このとき、各層121,122,123を、特定の範囲の厚さで被覆する。そして、その被覆材料100に特定の範囲の温度で熱処理を施す。そうすることで、基材110(基材10)の表面にSn、Zn、及びCuを含む合金からなる金属層20を形成でき、その金属層20の表面に形成される酸化物層30の直下において、Snの原子濃度に対するCuの原子濃度の比率を、1.4未満とできる。
【0063】
[試験例1]
基材と、基材の表面に設けられる金属層と、金属層の表面に設けられる酸化物層とを備える電気接点材料を作製した。そして、電気接点材料について、酸化物層の直下におけるSnとCuの原子濃度の比率、及び接触抵抗を調べた。
【0064】
≪試料の作製≫
基材の表面に、基材側から順に、有機酸Snめっき(第一層)、硫酸Znめっき(第二層)、及びピロリン酸Cuめっき(第三層)を電気めっきにより施した。各層の厚さは、表1に示す。基材には、Cuからなる金属板の表面に、0.2μmの硫酸銅めっきを施した被覆金属板を用いた。基材の表面にめっき処理を施した後、めっき付き基板に熱処理を施した。熱処理の条件は、表1に示す。なお、熱処理の保持時間は、いずれも3分とした。表1における「熱処理までの時間」は、めっき終了直後から熱処理を行うまでの時間である。
【0065】
【表1】
【0066】
≪組成分析≫
作製した各試料の電気接点材料について、X線光電子分光分析を用いて表層の酸化物層の組成分析を行った。その結果、試料No.1-1~試料No.1-7は、Zn、Cu、及びSnを含む酸化物層が形成されていることがわかった。また、試料No.1-1~試料No.1-7について、蛍光X線分析装置を用いて酸化物層の下層の組成分析を行った。その結果、酸化物層の下層には、主にSnからなる層(第二金属層)と、更にその下層には、主に(Cu,Zn)Snからなる金属間化合物を含有する層(第一金属層)とが形成されていることがわかった。
【0067】
≪酸化物層≫
作製した各試料の電気接点材料について、酸化物層の厚さ、及び酸化物層中の各元素の原子濃度を、X線光電子分光分析を用いて調べた。酸化物層の厚さ、及び酸化物層中の各元素の原子濃度を表2に示す。なお、酸化物層中にはO、Zn、Cu、及びSn以外に不純物が含有されていたが、その不純物は表中からは除外している。
【0068】
≪酸化物層の直下≫
作製した各試料の電気接点材料について、酸化物層の直下におけるSnの原子濃度に対するCuの原子濃度の比率(原子濃度比Cu/Sn)を、X線光電子分光分析を用いて調べた。なお、酸化物層の直下は、酸化物層と第二金属層との界面からの第二金属層側のSiOのスパッタリングレート換算で0.05μm以下の範囲とした。その結果を表2に併せて示す。
【0069】
≪第二金属層及び第一金属層≫
作製した各試料の電気接点材料について、酸化物層の下層の第二金属層及び第一金属層の厚さを調べた。第二金属層の厚さは、蛍光X線膜厚計を用いて以下のように求めた。まず、第二金属層及び第一金属層の全体における特定面積(0.03mm)中のSnの含有量を蛍光X線分析膜厚計により測定した。その後、水酸化ナトリウム、P-ニトリルフェノール、及び蒸留水から成る混合液を用いて第二金属層のみをエッチングで除去した。そして、残存した第一金属層における上記特定面積中のSnの含有量を蛍光X線分析膜厚計により測定した。第二金属層の厚さは、それぞれ測定した各層におけるSnの含有量の差から算出した。第一金属層の厚さは、第二金属層を除去した後に、Snの含有量を蛍光X線分析膜厚計により測定し、第一金属層の組成、密度、及び上記特定面積から換算した。その結果を表2に併せて示す。
【0070】
≪接触抵抗≫
作製した各試料の電気接点材料について、金めっきした半径1mmの球状の圧子を1Nの荷重で接触させ、4端子法の抵抗測定装置を用いて測定した。接触抵抗は、熱処理後、常温に冷却したままの試料の接触抵抗(初期抵抗)と、160℃で120分保持した後の試料の接触抵抗(耐久後抵抗)とを測定した。その結果を表2に併せて示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表1及び表2に示すように、試料No.1-1~試料No.1-7は、原子濃度比Cu/Snが1.4未満を満たしている。これは、試料No.1-1~試料No.1-7は、電気接点材料の製造過程において、基材側から順に、第一層、第二層、及び第三層を特定の厚さとなるようにめっき処理を施し、その後270℃又は300℃で熱処理を施したからと考えられる。具体的な各層の厚さは、第一層が0.5μm以上5μm以下、第二層が0.1μm以上0.6μm以下、第三層が0.05μm以上0.4μm以下としている。
【0073】
基材上に、第一層、第二層、及び第三層からなる被覆層を被覆した被覆材料は、経時的に合金化反応を起こす。一方で、上記被覆材料に熱処理を施すと、被覆材料の表面に酸化物層が形成される。このとき、各層を特定の厚さとし、かつ特定の温度で熱処理を施すことで、以下の現象が生じていると考えられる。上記特定の温度で熱処理を行うことで、Snが液相状態となる。Snめっきされた第一層が上記特定の厚さを有することで、第一層中のSnは、液相状態となり、酸化物層側に拡散される。このSnによって、酸化物層にSnの酸化物が形成されると共に、酸化物層の直下に主にSnからなる第二金属層が形成されると考えられる。また、Znめっきされた第二層が上記特定の厚さを有することで、第二層中のZnも、Snと同様に、酸化物層側に拡散され、酸化物層にZnの酸化物が形成されると考えられる。しかし、上記特定の温度では、Znは液相状態となり難く、第二金属層には、Znが含まれたとしても微量であると考えられる。一方、Cuめっきされた第三層が上記特定の厚さを有することで、第三層中のCuは、酸化物層側に拡散され難く、第二金属層中には、Cuが含まれたとしても微量であり、かつ酸化物層中に形成されるCuの酸化物も少ないと考えられる。以上より、試料No.1-1~試料No.1-7は、基材の表面に、主に(Cu,Zn)Snからなる金属間化合物を含有する第一金属層が形成され、最表面に、めっきした各層の構成元素を含有する酸化物層が形成されたと考えられる。なお、(Cu,Zn)Snとは、主にCuSnであるが、一部のCuがZnに置き換わっていることを意味する。このとき、試料No.1-1~試料No.1-7は、液相状態のSnによって、第一金属層と酸化物層との間に、主にSnからなる第二金属層が形成され、酸化物層の直下における原子濃度比Cu/Snが0.22以下と小さくなったと考えられる。
【0074】
酸化物層の直下における原子濃度比Cu/Snが1.4未満であることで、酸化物層にCuの酸化物が形成され難い。銅の酸化物が少ない酸化物層は、低抵抗で導電性を確保し易い。そのため、試料No.1-1~試料No.1-7は、金属層の表面に酸化物層が存在する状態であっても、初期抵抗と耐久後抵抗とがほぼ同じであり、接触抵抗の上昇を抑制できたと考えられる。
【0075】
一方、試料No.1-15及び試料No.1-16は、原子濃度比Cu/Snが1.4以上と大きい。これは、電気接点材料の製造過程において、第一層の厚さが薄いからと考えらえる。第一層の厚さが薄いことで、第一層中のSnが酸化物層側に拡散され難く、相対的に酸化物層の直下のCu量が増加したと考えられる。酸化物層の直下における原子濃度比Cu/Snが1.4以上と大きいことで、酸化物層にCuの酸化物が形成され易い。そのため、試料No.1-15及び試料No.1-16は、初期抵抗に比較して耐久後抵抗が増加したと考えられる。特に、第一層の厚さがより薄い試料No.1-15は、酸化物層の下層に第二金属層は形成されず、かつ酸化物層中にSnは含有されなかった。よって、試料No.1-15は、初期抵抗も大きくなっていた。
【0076】
試料No.1-14は、原子濃度比Cu/Snが4と非常に大きい。これは、電気接点材料の製造過程において、第二層の厚さが厚いからと考えらえる。第二層の厚さが厚いことで、第一層中のSnが酸化物層側に拡散され難く、相対的に酸化物層の直下のCu量が増加したと考えられる。実際に、酸化物層中にSnは含有されなかった。よって、試料No.1-14は、初期抵抗も大きくなっていた。
【0077】
試料No.1-12は、原子濃度比Cu/Snが1.72と大きい。これは、電気接点材料の製造過程において、第三層を設けていないからと考えらえる。第三層を設けていないことで、第一層中のSnと反応する元素がなく、基材110の構成元素(本例ではCu)が酸化物層側に拡散され易く、酸化物層の直下に基材に由来するCu量が増加したと考えられる。よって、試料No.1-12は、初期抵抗に比較して耐久後抵抗が増加したと考えられる。
【0078】
試料No.1-13は、原子濃度比Cu/Snが1.41と大きい。これは、電気接点材料の製造過程において、第三層の厚さが厚いからと考えらえる。第三層の厚さが厚いことで、第三層中のCuが酸化物層側に拡散され易く、相対的に酸化物層の直下のSn量が減少したと考えられる。酸化物層の直下における原子濃度比Cu/Snが1.4以上と大きいことで、酸化物層にCuの酸化物が形成され易い。実際に、酸化物層中のCuの原子濃度は、50.7原子%と非常に多くなっている。そのため、試料No.1-13は、初期抵抗に比較して耐久後抵抗が増加したと考えられる。また、試料No.1-13は、酸化物層中にSnは含有されなかった。よって、試料No.1-13は、初期抵抗も大きくなっていた。
【0079】
試料No.1-11は、原子濃度比Cu/Snが1.4未満を満たしている。しかし、試料No.1-11は、初期抵抗が大きく、また初期抵抗に対する耐久後抵抗も大きい。これは、電気接点材料の製造過程において、第二層を設けていないからと考えられる。第二層を設けていないことで、酸化物層中にZnが含有されず、酸化物層の抵抗が増加したと考えられる。
【符号の説明】
【0080】
1 電気接点材料
10 基材
20 金属層、21 第一金属層、22 第二金属層
30 酸化物層
100 被覆材料
110 基材
120 被覆層、121 第一層、122 第二層、123 第三層
200 端子金具
210 ワイヤバレル部、220 インシュレーションバレル部
230 嵌合部、231 箱部、232、233 弾性片
300 電線、310 導体、320 絶縁層
図1
図2
図3