(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】瘻孔用治療器具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/00 20060101AFI20230817BHJP
A61B 17/24 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
A61B17/00 500
A61B17/24
(21)【出願番号】P 2019173401
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 桂太郎
(72)【発明者】
【氏名】森山 正章
(72)【発明者】
【氏名】谷口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】永安 武
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-518742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0058438(US,A1)
【文献】特表平9-510386(JP,A)
【文献】特表2015-510409(JP,A)
【文献】特開2003-33362(JP,A)
【文献】特開2018-33780(JP,A)
【文献】国際公開第98/48706(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0148035(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00
A61B 17/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
瘻孔を閉鎖するための細胞構造体を所定の位置まで運搬し、供給するための瘻孔用治療器具であって、
略円柱状の貫通孔を有する外装部と、
前記外装部の前記貫通孔内に挿嵌される無底円筒状の円筒体と、
前記円筒体の内部を軸方向にスライド自在な押出部材と、
を備え、
前記円筒体は、一端側に位置する第1円筒部と、他端側に位置する第2円筒部とを備え、かつ、前記第2円筒部は、前記第1円筒部よりも径大であり、
前記第1円筒部は、一端に前記外装部の外側に突出する突出部を備えるとともに、他端が前記第2円筒部と接続しており、
前記第2円筒部は前記貫通孔内に挿嵌され、内部に固形化された細胞構造体を保持可能であり、
前記押出部材は、
前記第1円筒部および前記第2円筒部の内部に挿通されている略円柱状の本体部と、
前記本体部の一端に設けられており、前記第1円筒部の外側に露出する略円盤状のフランジ部と、
前記本体部の他端に設けられており、前記第2円筒部の内部に位置する略円盤状の押出部と、
を備え、
前記フランジ部および前記押出部の外径は、前記第1円筒部の内径よりも大きく、
前記円筒体の前記一端側から前記他端側へ向かって前記押出部材をスライドさせると、
前記第2円筒部の内部に保持された前記細胞構造体が外側に押し出され、前記円筒体から脱離可能であることを特徴とする瘻孔用治療器具。
【請求項2】
前記押出部材は、前記フランジ部の中央付近から突出する取手部を備えることを特徴とする請求項
1の瘻孔用治療器具。
【請求項3】
請求項1の瘻孔用治療器具の組み立てキットであって、
略円柱状の貫通孔を有する外装部と、
前記外装部の前記貫通孔内に挿嵌される無底円筒状の円筒体と、
前記円筒体の内部を軸方向にスライド自在である押出部材と、
を備え、
前記円筒体は、第1円筒部と、前記第1円筒部よりも径大な第2円筒部とを備え、
前記押出部材は、
前記第1円筒部および前記第2円筒部の内部に挿通されている略円柱状の本体部と、
前記本体部の一端に設けられており、前記第1円筒部の外側に露出する略円盤状のフランジ部と、
前記本体部の他端に設けられており、前記第2円筒部の内部に位置する略円盤状の押出部と、
を備え、
前記フランジ部および前記押出部の外径は、前記第1円筒部の内径よりも大きい
ことを特徴とする組み立てキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、瘻孔用治療器具に関する。より詳しくは、気管支断端瘻などの瘻孔の治療に使用可能な治療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
気管支断端瘻は、肺切除後の重篤な合併症として、肺葉切除後の0.5%、肺全摘後の4.5~20%の頻度で起こり、その死亡率は16~70%であることが知られている。
【0003】
気管支断端瘻の治療方法としては、手術療法と気管支鏡的治療法に大別される。しかしながら、手術療法は、高侵襲であり、また炎症が広範囲に広がっていれば、開窓ドレナージを含むさらに侵襲の大きな二期的な手術が必要となり、長期間の治療を要する。一方、気管支鏡的治療法は手術療法に比べると比較的患者への負担も少なく、全身麻酔も必要としないことから、様々な治療法が報告されている。
【0004】
例えば、気管支鏡的治療法の一つとして、EWS(Endobronchial Watanabe Spigot)と呼ばれるシリコン製充填材を気管支断端に一時的に留置し、瘻孔閉鎖を促進する方法が提案されている(非特許文献1)。
【0005】
また、別の方法としては、例えば、自家脂肪幹細胞を単離して気管支鏡下で気管支断端に注入することで瘻孔閉鎖を促進する方法なども提案されている(非特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】気管支学 JJSB 23(6):510-515,2001
【文献】Thorax 2008;63:374-376
【文献】Cytotherapy, 2016;18:36-40
【文献】Sayako Morikawa et al. Ther Adv Respir Dis 2016, Vol. 10(6): 518-524
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1の方法は、問題点として、閉鎖率の低さおよび合併症の発生が挙げられる。具体的には、EWSによる瘻孔閉鎖率は83%と言われているが、これはEWS施行以前に胸膜癒着術等の何らかの治療介入が行われている症例も含まれており、実際のEWS単独での成功率は33%程度と試算される。また全身麻酔を必要としない比較的侵襲の少ない局所治療と考えられているが、心筋梗塞や不整脈、閉塞性肺炎といった重篤な合併症も報告されている(非特許文献4)。また、EWS自体は非生体材料であり、生体適合性の低さからくる機械的な刺激が上記の合併症を引き起こしている可能性がある。一方、非特許文献2、3の方法は、液体を注入する形態であるため、目的となる気管支断端から胸腔内に漏れ出す可能性がある。このように、いずれの方法も治療成績が芳しくなく、気管支断端瘻を効果的に治療するための新たな治療方法の開発が望まれていた。
【0008】
このような状況にあって、本発明者らは、鋭意研究により、スフェロイドを融合させて固形化した細胞構造体を気管支断端に供給することができれば、瘻孔の閉鎖が促進され、気管支断端瘻を効果的に治療することができるのではないかとの新規な着想を得た。
【0009】
しかしながら、この場合、細胞構造体を気管支鏡などで直接保持することはできないため、細胞構造体を所定の位置まで確実に運搬し、供給するための新しい器具の開発が必要であると考えられた。
【0010】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、気管支断端瘻などの瘻孔を閉鎖するための細胞構造体を所定の位置まで運搬し、供給するための瘻孔用治療器具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明の瘻孔用治療器具は、瘻孔を閉鎖するための細胞構造体を所定の位置まで運搬し、供給するための瘻孔用治療器具であって、
略円柱状の貫通孔を有する外装部と、
前記外装部の前記貫通孔内に挿嵌される無底円筒状の円筒体と、
前記円筒体の内部を軸方向にスライド自在な押出部材と、
を備え、
前記円筒体は、一端側が前記外装部の外側に突出しているとともに、他端側の内部に固形化された細胞構造体を保持可能であり、
前記円筒体の前記一端側から前記他端側へ向かって前記押出部材をスライドさせると、前記他端側の内部に保持された前記細胞構造体が外側に押し出され、前記円筒体から脱離可能であることを特徴としている。
【0012】
この瘻孔用治療器具では、前記円筒体は、第1円筒部と、前記第1円筒部よりも径大な第2円筒部とを備え、
前記第1円筒部は、一端に前記外装部の外側に突出する突出部を備えるとともに、他端が前記第2円筒部と接続しており、
前記第2円筒部は前記貫通孔内に挿嵌され、内部に前記細胞構造体を保持可能であることが好ましい。
【0013】
この瘻孔用治療器具では、前記押出部材は、
前記第1円筒部および前記第2円筒部の内部に挿通されている略円柱状の本体部と、
前記本体部の一端に設けられており、前記第1円筒部の外側に露出する略円盤状のフランジ部と、
前記本体部の他端に設けられており、第2円筒部の内部に位置する略円盤状の押出部と、
を備え、
前記フランジ部および前記押出部の外径は、前記第1円筒部の内径よりも大きいことが好ましい。
【0014】
この瘻孔用治療器具では、前記押出部材は、前記フランジ部の中央付近から突出する取手部を備えることが好ましい。
【0015】
本発明の組み立てキットは、前記瘻孔用治療器具の組み立てキットであって、
略円柱状の貫通孔を有する外装部と、
前記外装部の前記貫通孔内に挿嵌される無底円筒状の円筒体と、
前記円筒体の内部を軸方向にスライド自在である押出部材と、
を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の瘻孔用治療器具は、瘻孔を閉鎖するための細胞構造体を所定の位置まで確実に運搬し、供給することができ、瘻孔を伴う各種疾患を効果的に治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の瘻孔用治療器具の一実施形態を例示した内部透視斜視図である。
【
図3】
図1に示した瘻孔用治療器具における外装部を示した斜視図である。
【
図4】
図1に示した瘻孔用治療器具における円筒体を示した斜視図である。
【
図5】
図1に示した瘻孔用治療器具の組み立て工程と、細胞構造体の保持工程の概要を例示した概要図である。
【
図6】気管支鏡の鉗子を用いて本発明の瘻孔用治療器具を気管支断端瘻の瘻孔に運搬した状態を例示した概要図である。
【
図7】運搬した瘻孔用治療器具から細胞構造体を脱離させ、瘻孔に供給する形態を例示した概要図である。
【
図8】運搬した瘻孔用治療器具から鉗子を引き抜いた状態を例示した概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の瘻孔用治療器具は、瘻孔を閉鎖するための細胞構造体を所定の位置まで運搬し、供給するための瘻孔用治療器具である。
【0019】
本発明の瘻孔用治療器具は、種々の臓器、例えば、消化器、呼吸器、循環器などに生じた瘻孔の閉鎖に好適に使用することができる。具体的には、気管支断端瘻、消化管皮膚瘻(クローン病、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、術後の消化管縫合不全の遅延化による瘻孔、術後胆汁瘻、術後膵液瘻など)、痔瘻、膀胱膣瘻、直腸膣瘻、気管食道瘻などに好適に使用することができる。また肺気腫に対する気管支鏡的肺容量減量療法 (BLVR)にも応用できる可能性がある。
【0020】
本発明の瘻孔用治療器具の一実施形態について図面とともに説明する。
図1は、本発明の瘻孔用治療器具の一実施形態を例示した内部透視斜視図である。
図2は、
図1におけるA-A’矢視断面図である。
図3は、
図1に示した瘻孔用治療器具における外装部を示した斜視図である。
図4(A)(B)は、
図1に示した瘻孔用治療器具における円筒体を示した斜視図である。
【0021】
瘻孔用治療器具1は、外装部2と、円筒体3と、押出部材4とを備えている。
【0022】
外装部2は、略円柱状の貫通孔21を有している。この実施形態では、外装部2は、上面部23と底面部24とを有する略円柱状であり、上面部23側から底面部24側に向かって外径が小さくなっている。また、貫通孔21は、上面部23と底面部24の中央付近を上下に貫通している。
【0023】
外装部2の大きさは、適宜設計することができるが、例えば、外径は、5mm~10mm、長さ(上面部から底面部までの長さ)は、8mm~12mmの範囲を例示することができる。
【0024】
また、外装部2の材料は特に限定されないが、例えば、シリコンなどの樹脂製であることが好ましい。外装部2がシリコンなどの樹脂製であると、取り扱いが容易であるとともに、瘻孔の治療において患者に悪影響を与えることが抑制される。
【0025】
円筒体3は、底部を有していない円筒状(略無底円筒状)であり、外装部2の貫通孔21内に挿嵌される。また、円筒体3は、一端3A側(上端側)が外装部2の外側に突出しているとともに、他端3B側(下端側)の内部に固形化された細胞構造体5を保持可能である。円筒体3の材料は特に限定されず、適宜設計することができるが、例えば、ステンレス鋼、チタン合金、コバルト合金などの金属を例示することができる。
【0026】
より具体的には、この実施形態では、円筒体3は、第1円筒部31と、第1円筒部31よりも径大な第2円筒部32とが上下に接続している。
【0027】
第1円筒部31の一端には、外装部2の外側に突出する突出部31aが形成されている。また、第1円筒部31の他端は、第2円筒部32と接続しており、第1円筒部31と第2円筒部32との間の外周には、周方向に亘って、外側に広がる段部33が形成されている。さらに、第1円筒部31の内部の空間と第2円筒部32の内部の空間とは互いに連通している。
【0028】
第2円筒部32は、全体が貫通孔21内に挿嵌されており、開口端部32aから内部に細胞構造体5を保持可能である。第2円筒部32の内径および外径は、第1円筒部31の内径および外径よりも大きく設計されている。また、第2円筒部32の長さは、第1円筒部31の長さより長く設計されている。
【0029】
第1円筒部31および第2円筒部32の寸法は特に限定されず、適宜設計することができるが、例えば、第1円筒部31の内径は、2mm~6mm、外径は、3mm~7mmの範囲を例示することができる。また、第2円筒部32の内径は、3mm~7mm、外径は、4mm~8mmの範囲を例示することができる。
【0030】
この実施形態では、押出部材4は、本体部41と、フランジ部42と、押出部43とを備えている。
【0031】
本体部41は、縦長の略円柱状であり、第1円筒部31および第2円筒部32の内部に挿通されている。本体部41は、外径が第1円筒部31の内径と略等しく設計されており、第1円筒部31の内周面と当接している。本体部41は、第1円筒部31と当接した状態で軸方向(長手方向)に摺動可能であり、これによって、押出部材4が円筒体3の内部を軸方向にスライドする。
【0032】
フランジ部42は、本体部41の一端(上端)に設けられており、第1円筒部31の外側(上側)に露出している。フランジ部42は、第1円筒部31の内径よりも大きい外径を有する略円盤状である。この実施形態では、フランジ部42の外径は、第1円筒部31の外径と略等しく設計されている。また、フランジ部42の上面には、中央付近から突出する取手部44が設けられている。取手部44は、例えば気管支鏡の鉗子などによって把持することが可能な形状、大きさに設計されている。
【0033】
押出部43は、本体部41の他端(下端)に設けられており、第2円筒部32の内部に位置している。押出部43は、第1円筒部31の内径よりも大きい外径を有する略円盤状である。この実施形態では、押出部43の外径は、第2円筒部の内径よりも一回り小さく、かつ、第1円筒部31の外径と略等しく設計されている。押出部43は、本体部41と一体に形成することもできるし、別体として形成することもできる。
【0034】
押出部材4の材料は特に限定されず、適宜設計することができるが、例えば、ステンレス鋼、チタン合金、コバルト合金などの金属を例示することができる。
【0035】
次に、本発明の瘻孔用治療器具の組み立て工程および細胞構造体の保持工程の概要について説明する。
図5は、
図1に示した瘻孔用治療器具の組み立て工程と、細胞構造体の保持工程の概要を例示した概要図である。
【0036】
図5(A)(B)に例示したように、細胞構造体5を第2円筒部32の開口端部32aに挿入することで、第2円筒部32の内部に細胞構造体5を保持する。そして、
図5(C)に例示したように、細胞構造体5を保持した円筒体3を外装部2の貫通孔21の一方から挿入することで瘻孔用治療器具1を得ることができる。外装部2の弾性によって、外装部2の貫通孔21と円筒体3の周囲とを密着させることができ、円筒体3を安定に固定することができる。
【0037】
このように、本発明の瘻孔用治療器具1は、それぞれの部材を使用者が適宜組み立てることもできる。したがって、本発明の瘻孔用治療器具1の組み立てキットは、上述したように、略円柱状の貫通孔21を有する外装部2と、外装部2の貫通孔21内に挿嵌される無底円筒状の円筒体3と、円筒体3の内部を軸方向にスライド自在である押出部材4とを含むことができる。
【0038】
次に、本発明の瘻孔用治療器具に保持して使用可能な細胞構造体について説明する。
【0039】
細胞構造体5は、間葉系幹細胞を含むスフェロイドが融合して固形化されている。間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells:MSC)は、様々な種類の細胞に分化することができ、自己再生能力をもつ多能性細胞である。間葉系幹細胞は、例えば、被検動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、イヌ、ブタ、ヤギ、ウシなどの実験動物)またはヒトの骨髄からDexter法、磁気ビーズ法、セルソーティング法などの公知手法により採取することができる。さらに、皮膚、皮下脂肪、筋肉組織などから間葉系幹細胞を採取することも可能である。
【0040】
間葉系幹細胞として、例えば、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞、ヒト臍帯マトリックス由来間葉系幹細胞、ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞などを例示することができる。また、間葉系幹細胞は、気管支断端瘻の治療が必要とされる患者の自家細胞であることが好ましい。
【0041】
「スフェロイド」とは、細胞同士が集合・凝集化した球状の細胞集合体をいう。
【0042】
スフェロイドは、間葉系幹細胞以外にも各種の細胞を含むことができ、その種類等は特に限定されない。具体的には、スフェロイドを構成する細胞としては、例えば、線維芽細胞、血管内皮細胞、軟骨細胞、iPS細胞などのうちの1種または2種以上の細胞を例示することができるが、線維芽細胞または血管内皮細胞を含むことが好ましい。この場合、スフェロイド中に含まれる間葉系幹細胞の割合は、50%以上であることがより好ましい。また、スフェロイドを構成する各種の細胞は、瘻孔の治療が必要とされる患者の自家細胞であることが好ましい。
【0043】
スフェロイドの作製方法は特に限定されず、従来知られた方法を採用することができる。例えば、テフロン(登録商標)加工されたプレート上で細胞を培養すると、細胞は足場を求めて、お互いに接着し合い、細胞凝集塊すなわちスフェロイドが形成される。さらに、スフェロイド同士が接着して融合するとスフェロイドはさらに大きな形状となる。また、例えば、細胞非接着性のプレートに細胞を播いて培養すると、細胞は自然に凝集してスフェロイドが形成される。スフェロイドが形成されるまでの培養時間は、およそ6~48時間、好ましくは24~48時間である。
【0044】
スフェロイドの作製方法は、上述した方法に限定されず、旋回している溶液中に細胞懸濁液を入れる旋回培養法、試験管に細胞懸濁液を入れて遠心分離器で沈殿させる方法、あるいはアルギネートビーズ法など、多数の方法が知られている。なかでも、均質なスフェロイドを大量に処理および回収できる点で、撥水性や細胞非接着性のマルチウェルに細胞懸濁液を入れる方法を好ましく例示することができる。
【0045】
細胞構造体5は、間葉系幹細胞を含む複数のスフェロイドが互いに接着することで固形化した構造体である。細胞構造体5は、例えば、上述した手順によって接触し融合したスフェロイドを回収することによって得ることができる。細胞構造体5は、間葉系幹細胞を含むことで、強度や安定性に優れている。また、ここで、「固形化している」とは、液状ではなく、一定の形を有することを言うが、液体と固体の両方の属性を備えた半固形化した状態のもの(半流動体)の形態も含まれ得る。
【0046】
細胞構造体5の製造においては、公知の3Dバイオプリンティング技術を利用することが好ましい。3Dバイオプリンティングは、3Dプリンターの技術を用いて、ある限定された空間に細胞パターンを作成する方法である。「生物学的な「インク」(バイオインク)」として、上述した間葉系幹細胞等またはこれを含むゲルなどを使用して、スフェロイドが融合した所望の形状の細胞構造体5を作り出すことができる。また、このような細胞構造体5を得るためには、例えば、特許4517415の記載などを参照することができる。
【0047】
また、細胞構造体5の製造には、市販の3Dバイオプリンターを使用することができ、例えば、サイフューズ社製Regenovaなどを例示することができる。これらの3Dバイオプリンターを使用することで、スフェロイドを融合させ、空間的に配置された任意の形状の細胞構造体5を得ることができる。
【0048】
細胞構造体5の形状は特に限定されないが、例えば、球状、略円柱状などの形態を好ましく例示することができる。また、細胞構造体5の大きさなどは適宜設計することができる。
【0049】
また、2種以上の細胞を含む細胞構造体5は、異なる種類の細胞からそれぞれ形成されたスフェロイドを融合させることで得ることができる。なかでも、その強度や安定性の観点から、細胞構造体5は、間葉系幹細胞以外に、線維芽細胞または血管内皮細胞を含むことができる。
【0050】
次に、本発明の瘻孔用治療器具の使用方法の一実施形態について、気管支断端瘻の治療を例に説明する。
図6は、気管支鏡の鉗子を用いて本発明の瘻孔用治療器具を気管支断端瘻の瘻孔に運搬した状態を例示した概要図である。
図7は、運搬した瘻孔用治療器具から細胞構造体を脱離させ、瘻孔に供給する形態を例示した概要図である。
図8は、運搬した瘻孔用治療器具から鉗子を引き抜いた状態を例示した概要図である。
【0051】
図6に例示したように、気管支鏡6の鉗子61を用いて瘻孔用治療器具1の押出部材4の取手部44を把持することができる。取手部44は、フランジ部42の中央付近から上方に向かって突出しているため、気管支鏡6の鉗子61を用いて容易に把持することができ、治療すべき気管支断端瘻Sまで確実に運搬することができる。また、押出部材4は、フランジ部42および押出部43の外径が第1円筒部31の内径よりも大きいため、押出部材4が第1円筒部31から抜け落ちることがない。このため、気管支鏡6の鉗子61などによって取手部44を把持して、瘻孔用治療器具1を操作、運搬する際も、安定に行うことができる。
【0052】
図7(A)に例示したように、気管支鏡6の鉗子61などによって取手部44を把持して本発明の瘻孔用治療器具1を治療すべき気管支断端瘻Sまで運搬した後、
図7(B)に例示したように、押出部材4を円筒体3(第1円筒部31および第2円筒部32)の内部に押し込むことができる。これによって、押出部材4が、第2円筒部32の開口端部32a側へスライドする。この際、フランジ部42は、第1円筒部31の上端3Aに当接するとともに、押出部43は、第2円筒部32の開口端部32a付近に達する。これに伴って、押出部43によって細胞構造体5が外側に押し出されることで細胞構造体5が円筒体3(第2円筒部32)から脱離する。その後は、鉗子61による取手部44の把持を開放して、鉗子61を引き抜くことができる。これにより、細胞構造体5を気管支断端瘻Sまで確実に運搬、供給することができる。
【0053】
そして、
図8に例示したように、本発明の瘻孔用治療器具1は、細胞構造体5を気管支断端瘻Sに供給した後、所定の期間、気管支断端に残存させることができる。これにより、瘻孔用治療器具1が重石の役割を果たし、供給された気管支断端瘻Sに供給された細胞構造体5を安定化させることができる。気管支断端瘻Sの改善が確認された後は、再び気管支鏡6を導入して、鉗子61で瘻孔用治療器具1の取手部44を把持して引き抜くことで瘻孔用治療器具1を回収することができる。
【0054】
以上のように、本発明の瘻孔用治療器具1は、略円柱状の貫通孔21を有する外装部2と、外装部2の貫通孔21内に挿嵌される無底円筒状の円筒体3と、円筒体3の内部軸方向にスライド自在な押出部材4とを備えている。円筒体3は、一端側が外装部2の外側に突出しているとともに、他端側の内部に固形化された細胞構造体5を保持可能である。一端側から他端側へ向かって、押出部材4をスライドさせると、他端側の内部に保持された細胞構造体5が外側に押し出され、円筒体3から脱離可能である。このため、瘻孔を閉鎖するための細胞構造体5を所定の位置まで確実に運搬し、供給することができ、瘻孔を伴う各種疾患を効果的に治療することができる。
【0055】
本発明の瘻孔用治療器具およびその組み立てキットは、以上の実施形態に限定されることはない。例えば、円筒部は、内部に固形化された細胞構造体を保持可能であればよく、上述した第1円筒部と第2円筒部によって構成されている形態に限定されるものではない。また、押出部材は、円筒体の内部を軸方向にスライド自在であり、細胞構造体を押し出すことができる形態であればよく、上述した形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0056】
1 瘻孔用治療器具
2 外装部
21 貫通孔
3 円筒体
31 第1円筒部
31a 突出部
32 第2円筒部
4 押出部材
41 本体部
42 フランジ部
43 押出部
44 取手部
5 細胞構造体