IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヨネックス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ラケット用ストリング 図1
  • 特許-ラケット用ストリング 図2
  • 特許-ラケット用ストリング 図3
  • 特許-ラケット用ストリング 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】ラケット用ストリング
(51)【国際特許分類】
   A63B 51/02 20150101AFI20230817BHJP
   D02G 3/36 20060101ALI20230817BHJP
   D02G 3/38 20060101ALI20230817BHJP
   D02G 3/44 20060101ALI20230817BHJP
   A63B 102/02 20150101ALN20230817BHJP
   A63B 102/04 20150101ALN20230817BHJP
   A63B 102/06 20150101ALN20230817BHJP
【FI】
A63B51/02
D02G3/36
D02G3/38
D02G3/44
A63B102:02
A63B102:04
A63B102:06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020026224
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021129701
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390010917
【氏名又は名称】ヨネックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100120444
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 聖也
(72)【発明者】
【氏名】小澤 佳佑
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-196148(JP,A)
【文献】特開2016-77743(JP,A)
【文献】特開2006-291414(JP,A)
【文献】特開平5-23404(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0096701(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0039938(US,A1)
【文献】特開2020-174854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 51/02
D02G 3/36
D02G 3/38
D02G 3/44
A63B 102/02
A63B 102/04
A63B 102/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸と、該芯糸の外周側にZ巻きに巻回された複数のZ巻き側糸と、前記芯糸の外周側にS巻きに巻回された複数のS巻き側糸とを備えて所定方向に延出するラケット用ストリングにおいて、
前記Z巻き側糸及び前記S巻き側糸とが編み込まれて製紐構造とされ、
前記芯糸より外側に長芯部材が延出して組み込まれていることを特徴とするラケット用ストリング。
【請求項2】
前記長芯部材は、前記Z巻き側糸の形成層と、前記S巻き側糸の形成層との間に編み込まれていることを特徴とする請求項1に記載のラケット用ストリング。
【請求項3】
前記長芯部材は、前記ラケット用ストリングの延出方向に平行に延出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のラケット用ストリング。
【請求項4】
前記長芯部材は、前記芯糸の周方向に所定角度毎に複数本設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のラケット用ストリング。
【請求項5】
前記長芯部材は、前記Z巻き側糸及び前記S巻き側糸より太さが太く形成される構造、前記Z巻き側糸及び前記S巻き側糸と異なる材質によって構成される構造、前記Z巻き側糸及び前記S巻き側糸より弾性率が高い構造、前記Z巻き側糸及び前記S巻き側糸より耐摩耗性が高い材料で被覆又は原糸化した糸とされる構造、天然素材を用いて構成される構造のうちの少なくとも1つの構造を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のラケット用ストリング。
【請求項6】
前記製紐構造は、前記Z巻き側糸と前記S巻き側糸とが二間飛びで編み込まれることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のラケット用ストリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニス、ソフトテニス、バドミントン、スカッシュなどに使用されるラケット用ストリングに関する。
【背景技術】
【0002】
テニスやバドミントンのラケットには、フェース部分にストリングが網目状に張り渡されている。そして、ラケット用のストリングとして、芯糸になるモノフィラメントやマルチフィラメントの外側を細い側糸になるモノフィラメントで巻き付けるストリングが広く利用されている。
【0003】
このようなストリングとしては、特許文献1に開示されるように、芯糸と鞘糸(側糸)とがホットメルト糸を介して一体化された構成が提案されている。具体的には、特許文献1のストリングは、芯糸にホットメルト糸を螺旋状に巻き付けた後、その表面に鞘糸を製紐し、かかる製紐で得られた製紐糸を加熱してホットメルト糸を溶融することで芯糸と鞘糸とを熱接着一体化して構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-187163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1におけるストリングの製造にあっては、芯糸にホットメルト糸を巻き付ける工程と、鞘糸を製紐する工程とを別々に実施している。このため、ストリングの製造工程が複雑化、長時間化し製造コストが増大する、という問題がある。
【0006】
ところで、ストリングにあっては、該ストリングが張設されたラケットにおいて、スピード性能や、スピン性能、耐久性能、飛び性能等、種々の性能が求められる。ここで、1本のラケットにて複数の機能を発揮させるべく、単一のストリングに複数機能を持たせるため、単一のストリングにて鞘糸の素材を物性の異なる複数種類にすることを検討した。ところが、鞘糸に物性の異なる異素材を組み合わせようとしても、製紐加工で鞘糸には多大な遠心力がかかるため、伸度が異なる原糸を組み合わせることは不可能であった。
【0007】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたもので、側糸を製紐構造としつつ製造の容易化を図ることができ、単一のストリングにて複数の機能を発揮することができるラケット用ストリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のラケット用ストリングは、芯糸と、該芯糸の外周側にZ巻きに巻回された複数のZ巻き側糸と、前記芯糸の外周側にS巻きに巻回された複数のS巻き側糸とを備えて所定方向に延出するラケット用ストリングにおいて、前記Z巻き側糸及び前記S巻き側糸とが編み込まれて製紐構造とされ、前記芯糸より外側に長芯部材が延出して組み込まれていることを特徴とする。ここで、長芯部材は、糸状に延出する部材とすることが例示できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長芯部材が組み込まれているので、各側糸の製紐工程にて芯糸より外側に長芯部材を一体に配置することができる。これにより、長芯部材を設けたことによる製造の複雑化、長時間化を抑制することができる。しかも、長芯部材を設けることで、長芯部材を設けていないストリングに対し長芯部材の材質や断面形状等に起因する異なる機能を付加することができる。この結果、単一のストリングに複数機能を持たせ、該複数機能それぞれを発揮することが可能としつつ、製造の複雑化、長時間化を抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係るストリングの部分拡大正面図である。
図2】実施の形態に係るストリングの横断面図である。
図3】前記ストリングを製紐する製紐機を簡略化して表した説明図である。
図4】変形例に係るストリングの図1と同様の部分拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本発明のストリングは、ラケットのフレームに張り渡されてフェースを形成するものであれば、バドミントン、ソフトテニス、テニス、スカッシュ等、種々のラケットに適用することができる。
【0012】
図1は、実施の形態に係るストリングの部分拡大正面図であり、図2は、実施の形態に係るストリングの横断面図である。図1及び図2に示すように、ストリング10は、中央に位置して横断面で概略円形状の外周を形成する芯糸11と、芯糸11の外周側に螺旋状に巻き付けて設けられたZ巻き側糸12a及びS巻き側糸12bとを備え、所定方向に延出するよう構成される。また、ストリング10は、芯糸11より外側に配設される長芯部材13を備えている。ストリング10の外形は横断面で概略円形状に形成され、芯糸11、各側糸12a、12b及び長芯部材13は一体的に接着される。
【0013】
芯糸11は、本実施の形態では、図示省略したがマルチフィラメントで構成されるが、本数は限定されず、モノフィラメントで構成されることを妨げるものでない。また、図2において、芯糸11は横断面で円形状に形成されるが、これに限らず、断面が多角形(例えば、五角形)でもよい。
【0014】
芯糸11の外周側にて、Z巻き側糸12aはZ巻きに、S巻き側糸12bはS巻きに巻回され、それらが編み込まれて組紐状の製紐(ブレーディング)構造とされる。Z巻き側糸12a、S巻き側糸12b及び長芯部材13は、本実施の形態では、複数本の糸(長尺部材)を引き揃えることで1セットとし、帯状若しくは扁平状に形成される。なお、図1では、各側糸12a、12b及び長芯部材13を構成する複数本の糸の境界部分の線を省略している。Z巻き側糸12a、S巻き側糸12b及び長芯部材13は、上記形状に限られず、横断面が円形や楕円形、多角形(例えば、五角形)に形成してもよい。また、本実施の形態では、Z巻き側糸12a及びS巻き側糸12bが8本ずつ設けられた16打の製紐構造とされるが、それらの本数は複数本であればよく、4本ずつ設けられた8打の製紐構造にする等、他の本数として編組してもよい。
【0015】
本実施の形態の製紐構造では、Z巻き側糸12aとS巻き側糸12bとが2本ずつストリング10の径方向にて交差する二間飛びで編み込まれている。Z巻き側糸12a及びS巻き側糸12bは、ストリング10の延出方向に対する傾斜角度が45°に設定されているが、30°にする等、製紐可能な限りにおいて任意の角度、飛び数に設定できる。
【0016】
長芯部材13は、Z巻き側糸12aの形成層と、S巻き側糸12bの形成層との間に編み込まれることで組み込まれている。よって、ストリング10の径方向において、Z巻き側糸12aが外側、S巻き側糸12bが内側となって交差する位置では、長芯部材13がZ巻き側糸12aより内側であってS巻き側糸12bより外側に挟まれて配置される。これとは逆に、Z巻き側糸12aが内側、S巻き側糸12bが外側となって交差する位置では、長芯部材13がZ巻き側糸12aより外側であってS巻き側糸12bより内側に挟まれて配置される。また、Z巻き側糸12aとS巻き側糸12bとが交差しない位置では長芯部材13が外方に表出される。長芯部材13の編み込み方法については後述する。
【0017】
長芯部材13は、ストリング10の延出方向に平行に延出している。従って、図1に示すように、同図中上下方向にストリング10が直線状に延出した状態では、長芯部材13も上下方向に直線状に延出する。ここで「平行」とは、厳密な平行を指すものでなく、製造誤差や意図しない外部要因による若干の変形等を含む概念である。また、長芯部材13は、芯糸11の周方向に所定角度毎に複数本設けられている。本実施の形態では、長芯部材13が8本設けられ、芯糸11の周方向に約45°の等角度毎に配置されている。なお、長芯部材13の本数は、4本等の他の複数本としたり、1本としたりすることを妨げるものでない。
【0018】
芯糸11の外周側に編み込まれた各側糸12a、12b及び長芯部材13の周囲には、内部コーティング層15aが形成された後に、表層コーティング層15bが形成される(何れも図1では不図示)。各コーティング層15a、15bは熱可塑性樹脂全般を用いることができ、特にポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂を用いることが望ましい。なお、本実施の形態では、内部コーティング層15aと表層コーティング層15bとが分かれているが、分かれていなくてもよい。また、各層15a、15bは複数の層となってもよい。
【0019】
また、芯糸11及び各側糸12a、12bの材質は特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミド、ポリエステル等が使用される。なお、芯糸11及び側糸12a、12bにおいて、ポリエステル(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等を用いることを妨げるものでない。さらに、芯糸11及び各側糸12a、12bに中空糸が用いられてもよい。
【0020】
ここで、本実施の形態におけるストリング10の製造について図3を参照しつつ説明する。図3は、前記ストリングを製紐する製紐機を簡略化して表した説明図である。本実施の形態のストリング10の製造には、図3に示す製紐機20が用いられる。製紐機20は、Z巻き側糸12a(図3では不図示)が巻かれるZ巻き用ボビン21(実線の丸で図示)と、S巻き側糸12b(図3では不図示)が巻かれるS巻き用ボビン22(破線の丸で図示)とを備えている。Z巻き用ボビン21及びS巻き用ボビン22は、Z巻き側糸12a及びS巻き側糸12bの本数(8本)に応じ、8錘ずつ設けられる。
【0021】
また、製紐機20は、Z巻き用ボビン21の進行をガイドするZ巻き用溝23(太い実線で図示)と、S巻き用ボビン22の進行をガイドするS巻き用溝24(太い破線で図示)とを備えている。各溝23、24は蛇行しつつ、上下方向(紙面直交方向)に向けられる芯糸11の周りを閉ループ状に囲んでいる。製紐機20による製紐にて、Z巻き用ボビン21がZ巻き用溝23に沿って、S巻き用ボビン22がS巻き用溝24に沿って図中矢印方向の進行がガイドされる。かかる各ボビン21、22の進行によって、芯糸11の外周側にZ巻き側糸12a及びS巻き側糸12bが編み込まれた製紐構造とされる。
【0022】
製紐機20において、Z巻き用溝23及びS巻き用溝24は芯糸11の周方向にて所定間隔毎に交差しており、該周方向で隣り合う2箇所の交差位置の間でZ巻き用溝23及びS巻き用溝24が閉ループ状(円状)をなす。かかる閉ループ状をなす部分の中央に長芯部材13が図3の紙面に交差する方向に配設される。このように長芯部材13が配設されることで、ストリング10の径方向にてZ巻き側糸12a及びS巻き側糸12bの間に長芯部材13を配置することができる。
【0023】
各ボビン21、22が各溝23、24に沿って進行することで、各側糸12a、12bは遠心力を受けることとなる。一方、長芯部材13は各側糸12a、12bのように周方向に進行しないので、各側糸12a、12bの編み込みにて、長芯部材13が遠心力を受けない若しくは殆ど受けずに長芯部材13を一体に編み込むことができる。更には、各側糸12a、12bの編み込みと同じ工程内において、長芯部材13を各側糸12a、12bに編み込むことができる。
【0024】
このように、本実施の形態によれば、Z巻き側糸12a及びS巻き側糸12bを編み込みながら、芯糸11周りを巻回せずに芯糸11と同方向に延出するよう長芯部材13も編み込むことができる。
【0025】
ここで、従来構造となる芯糸にホットメルト糸を螺旋状に巻き付けた後、その表面に側糸を製紐する構造では、巻き付けと製紐との2回の工程が必要になる。これに対し、本実施の形態では、各側糸12a、12bを製紐する1回の工程にて、長芯部材13にホットメルト糸を適用することで芯糸11及び各側糸12a、12bと長芯部材13を一体化できる。これにより、本実施の形態は、ストリング10の製造工程が複雑化、長時間化することを抑制し、製造コストの増大を抑えることができる。
【0026】
また、比較構造として、複数本の側糸を全て同一特性にせずに異なる特性を発揮する側糸を混ぜる構成も考えられる。しかしながら、上述した製紐機20にて各ボビン21、22が高速で進行して遠心力を受けながら製紐加工されるため、複数本となるZ巻き側糸12a及びS巻き側糸12b全てのテンションが均一でないと製紐加工できなくなる。よって、異なる特性の側糸を混ぜる比較構造では、側糸間にて伸度等が異なってしまい、側糸を均一に製紐できるようにすることは現実的でない。
【0027】
本実施の形態の構成では、各側糸12a、12bに対し異なる特性、性能を有する糸(長尺部材)を長芯部材13に用いることができる。これにより、芯糸11及び各側糸12a、12bによって所定の機能を発揮できる上、その機能と異なる機能を長芯部材13によって付加することが可能となる。この結果、単一のストリング10に複数の機能を持たせ、それぞれ発揮することができる。言い換えると、縦糸と横糸とで同じストリング10を張設した状態で複数の機能それぞれを発揮することが可能となる。
【0028】
本実施の形態のストリング10にて長芯部材13を設けたことによる複数の機能は、種々の特性、材質、サイズの長芯部材13を選択することで、組み合わせにバリエーションを持たせることができる。かかる複数の機能の組み合わせについて、具体例を挙げて以下に説明する。なお、以下の説明では、主として、ストリング10をバドミントンラケットに張設した場合について説明するが、テニス等においても同様の機能を発揮し得る。
【0029】
(1)スピード性能とスピン性能
ここでは、スピード性能は、主として芯糸11及び各側糸12a、12bの材質や太さによって発揮し得る性能とされる。スピード性能を発揮することで、速い打球をしている打球感をプレーヤーに付与し易くなったり、打球されたシャトルの速度向上を図ったりすることができる。スピード性能は、以下においても同様となり、説明を省略する場合がある。
【0030】
スピン性能は、上述にように長芯部材13を編み込み、特に長芯部材13の太さを各側糸12a、12bより太く形成することで、ストリング10の表面に凹凸を形成し、ストリング10とシャトルとの摩擦を高めることで発揮し得る性能とされる。なお、ストリング10の表面に凹凸を形成できれば、長芯部材13の太さを各側糸12a、12bより細く形成することを妨げるものでない。スピン性能を発揮することで、プレーヤーがスピンを掛け易くなったり、打球されたシャトルのスピン(回転数)の増加を図ったりすることができる。以上の構成にて、スピード性能に加えてスピン性能を発揮することが可能となる。
【0031】
(2)スピード性能とパワー性能
パワー性能は、長芯部材13が各側糸12a、12bと異なる材質によって構成され、長芯部材13の弾性率を各側糸12a、12bの弾性率より高く形成することで、発揮し得る性能とされる。弾性率は、素材自体の弾性率と、糸としての弾性率との少なくとも一方を含む意味である(特許請求の範囲においても同様とする)。パワー性能を発揮することで、力強い打球をしている打球感をプレーヤーに付与し易くなったり、スマッシュショット時等にてシャトルを潰してシャトルに加わる力の増加を図ったりすることができる。以上の構成にて、スピード性能に加えてパワー性能を発揮することが可能となる。
【0032】
(3)スピード性能と耐久性能
耐久性能は、長芯部材13が低摩擦性のフッ素系樹脂等で被覆され、打球時に交差するストリング10同士を滑り易くすることで発揮し得る性能とされる。なお、上記フッ素系樹脂の被覆以外に、フッ素樹脂そのものを原糸化した糸としてもよい。また、各側糸12a、12bより耐摩耗性の高いフッ素以外の材料で被覆、原糸化した糸としてもよい。耐摩耗性は、低摩擦性と同義であり、耐摩耗性が高いとは、摩擦抵抗が小さくなることを意味する(特許請求の範囲においても同様とする)。耐久性能を発揮することで、ストリング10が交差する箇所が削れ難くなったり、ノッチと称される溝が形成され難くなったりし、ストリング10の切断を抑制して長寿命化を図ることができる。以上の構成にて、スピード性能に加えて耐久性能を発揮することが可能となる。
【0033】
(4)スピード性能と飛び性能
飛び性能は、長芯部材13が各側糸12a、12bと異なる材質によって構成され、長芯部材13が各側糸12a、12bより弾性係数が小さく弾性力のある弾性繊維で形成することで、発揮し得る性能とされる。飛び性能を発揮することで、シャトルを楽に飛ばせる打球感をプレーヤーに付与し易くなったり、打球時にシャトルがストリング10で反発され易くなったりする。なお、弾性繊維で形成される長芯部材13は各側糸12a、12bでカバーされる面積が大きくなり、その耐久性を良好に保つことができる。以上の構成にて、スピード性能に加えて飛び性能を発揮することが可能となる。
【0034】
弾性繊維は、ゴム弾性(例えば10MPa以下)が低く小さい力で大きく伸縮する合成繊維製が使用される。具体例としては、ポリウレタン繊維、ポリエーテル-エステル共重合繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維を挙げることができる。
【0035】
(5)天然繊維の性能と耐久性能
長芯部材13に天然繊維を使用することで、天然繊維独特の打球感及び特性を得られるようにしつつ、長芯部材13が各側糸12a、12bでカバーされることで、長芯部材13の耐久性能を良好に保つことができる。
【0036】
(6)デザイン性
複数本の長芯部材13にて色調を異ならせることができ、ストリング10の延出方向と平行に延出する長芯部材13にて種々の色調を組み合わせることができる。デザイン性は、上述した各機能に加えて更に発揮することが可能となる。
【0037】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状、方向などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0038】
例えば、Z巻き側糸12a及びS巻き側糸12bによる製紐構造は、図4に示す構成に変更してもよい。図4は、変形例に係るストリングの図1と同様の部分拡大正面図である。図4の変形例では、Z巻き側糸12aとS巻き側糸12bとが1本ずつストリング10の径方向にて交差する一間飛びで編み込まれている。
【0039】
また、図1及び図4において、編み込んだZ巻き側糸12a及びS巻き側糸12bの間を通して芯糸11が露出する構成としたが、各側糸12a、12bの間隔を小さくしたり、無くしたりすることで芯糸11が露出しない構成としてもよい。この構成においては、長芯部材13も各側糸12a、12bによって露出しないように設けられる。
【0040】
また、長芯部材13の編み込みにおいて、長芯部材13は図3の二点鎖線で示す位置に変更してもよい。言い換えると、Z巻き用溝23及びS巻き用溝24両方の内側に長芯部材13を配置して各側糸12a、12bの製紐を行ってもよい。これによっても、芯糸11の外周側に長芯部材13を組み込みつつ、各側糸12a、12bの製紐と同時に長芯部材13をストリング10の延出方向に配置することができる。
【0041】
また、長芯部材13は、糸状、紐状、帯状とする他、細長いシート状やフィルム状の長尺部材としてもよい。更に、長芯部材13は、芯糸11及び各側糸12a、12bで用いることができる上記材質から選択できる他、羊の腸、羊毛、絹糸、蜘蛛糸等の動物繊維や、綿、海草等の植物繊維とする天然素材としたり、これらに所定加工を施したものとしたりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のラケット用ストリングは、側糸を製紐構造としつつ製造の容易化を図ることができ、単一のストリングにて複数の機能を発揮することができるという効果を有する。
【符号の説明】
【0043】
10 ストリング
11 芯糸
12a Z巻き側糸
12b S巻き側糸
13 長芯部材
図1
図2
図3
図4