(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】接合用組成物、接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/00 20060101AFI20230817BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230817BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20230817BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20230817BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20230817BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20230817BHJP
C22C 12/00 20060101ALN20230817BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20230817BHJP
【FI】
B22F9/00 B
B22F1/00 K
B22F1/102
B22F7/08 C
B22F1/00 R
H01B1/22 D
H01B1/00 L
C22C12/00
B23K35/26 310C
(21)【出願番号】P 2019133450
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】小山 優
(72)【発明者】
【氏名】清水 嘉人
(72)【発明者】
【氏名】地曳 智広
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/007011(WO,A1)
【文献】特開2017-179403(JP,A)
【文献】特開2017-110274(JP,A)
【文献】特開2009-006337(JP,A)
【文献】特開2010-120089(JP,A)
【文献】特開2019-099900(JP,A)
【文献】特開2010-153118(JP,A)
【文献】特開2011-240406(JP,A)
【文献】特開2012-045617(JP,A)
【文献】特開2016-113629(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025798(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
H01B 1/00-1/24
C22C 12/00
B23K 35/00-35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀ナノ粒子(A)と、
スズを含むはんだ粒子(B)と、
溶媒(C)と、を含有する組成物であって、
前記銀ナノ粒子(A)が、表面に脂肪酸及び脂肪族アルデヒドより選択される1種以上が被覆した被覆層を有し、
前記溶媒(C)が、沸点が200℃以上400℃以下の溶媒を含み、
当該組成物中の銀の質量(a)と、スズの質量(b)が下記式(1)を満たす、接合用組成物。
{a/(a+b)}×100 ≦ 40 :式(1)
【請求項2】
第1被接合部材と、第2被接合部材とが、接合層を介して接合された接合体であって、
前記接合層が、請求項
1に記載の接合用組成物の焼結体を含む、
接合体。
【請求項3】
第1被接合部材と、第2被接合部材とが、接合層を介して接合された接合体の製造方法であって、
前記第1被接合部材の接合面と、前記第2被接合部材との間に、請求項
1に記載の接合用組成物の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を加熱して焼結体を形成する工程と、を有する、
接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合用組成物、接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属間の接合材として、はんだが広く知られている。はんだは表面に酸化膜等が形成されると融解性が低下するため、フラックス剤と組み合わせて用いられる。
フラックス剤は、はんだ表面や接合させる金属表面の酸化膜を除去し、金属表面に対するはんだの濡れ広がり性を向上するなどの効果がある。
【0003】
一方、接合強度向上等の観点から、はんだと金属ナノ粒子等を組み合わせた接合材料が検討されている。
特許文献1には、所定の温度で剥離するべく予め設計された被覆材により被覆された低温焼結性を有する金属ナノ粒子と、当該剥離温度より低温の融点を有するはんだ粒子及び当該融点より低温で揮散するペースト化剤の三成分で構成された接合剤用組成物が開示されている。特許文献1によれば、はんだが融解した後に焼結現象が起きる加熱条件の下で溶融接合を行なうことにより基板へ強固に接着するとされている。特許文献1ではアルコールを被覆した銀ナノ粒子と、錫-ビスマス系はんだ粒子とを組み合わせた導電性接合材が開示されている。
【0004】
特許文献2には、上記特許文献1の耐熱性などの改良を目的として、上記組成物において、錫系ハンダ成分1に対する当該ナノ銀成分の量が、0.91sn/a(但しs=錫系ハンダ中の錫の含有率wt%、a=銀のナノ粒子中の銀の純分wt%、n=1~4の整数)である金属材料が開示されている。
特許文献2によれば化学量論的に計算された特定の配合比の場合のみ高い耐熱性能を持つとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5442566号
【文献】特開2017-110274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
銀ナノ粒子と、はんだ粒子とを組み合わせた組成物を焼結した際に、得られた焼結体に細孔が形成されることがあった。このような細孔は接合強度の低下の原因となる。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するものであり、接合強度に優れた接合層を形成できる接合用組成物、接合強度に優れた接合層を備える接合体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る接合用組成物は、
銀ナノ粒子(A)と、
スズを含むはんだ粒子(B)と、
溶媒(C)と、を含有する組成物であって、
当該組成物中の銀の質量(a)と、スズの質量(b)が下記式(1)を満たす。
{a/(a+b)}×100 ≦ 40 :式(1)
【0009】
上記接合用組成物の一実施形態は、前記銀ナノ粒子(A)が、前記銀ナノ粒子(A)が、表面に脂肪酸及び脂肪族アルデヒドより選択される1種以上が被覆した被覆層を有する。
【0010】
本発明に係る接合体は、第1被接合部材と、第2被接合部材とが、接合層を介して接合された接合体であって、
前記接合層が、前記接合用組成物の焼結体を含む。
【0011】
また、本発明に係る接合体の製造方法は、第1被接合部材と、第2被接合部材とが、接合層を介して接合された接合体の製造方法であって、
前記第1被接合部材の接合面と、前記第2被接合部材との間に、前記本発明に係る接合用組成物の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を加熱して焼結体を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、接合強度に優れた接合層を形成可能な接合用組成物、接合強度に優れた接合層を備える接合体及びその製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】実施例1及び比較例1で得られた接合層の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[接合用組成物]
本実施形態の接合用組成物(以下、本接合用組成物ということがある)は、銀ナノ粒子(A)と、スズを含むはんだ粒子(B)と、溶媒(C)と、を含有する組成物であって、当該組成物中の銀の質量(a)と、スズの質量(b)が下記式(1)を満たす。
{a/(a+b)}×100 ≦ 40 :式(1)
【0015】
銀とスズとの合金としてAg3Snが知られている。Ag3Snは、銀ナノ粒子と、スズを含むはんだ粒子を含有する組成物を焼結すると、焼結時に銀とスズとがAg3Snなどを形成して合金化すると考えられる。そのため、銀3molに対しスズ1molを組み合わせることで高強度の焼結体が得られることが予測された。しかしながら本発明者らの実験の結果、銀ナノ粒子とはんだ粒子とを、銀とスズとが3:1程度となるように調製した組成物を用いて接合層を形成しても、層内にボイド(空隙)が形成されて、接合強度が特に優れているという結果にはならなかった。
銀ナノ粒子と、スズを含むはんだ粒子とを含有する組成物を加熱すると、まず、銀ナノ粒子の一部が融解して焼結体を形成し始める。はんだ粒子は融解すると当該銀焼結体表面に濡れ広がりながら、当該銀焼結体が有するボイド(細孔)内を充填するというプロセスを経ていると推定される。そのため銀とスズとの合金化も銀焼結体表面付近でのみ起こり、焼結体内部の銀の合金化は進行しないものと予測された。
本発明はこのような知見に基づいて、銀に対するスズの配合割合を高めることにより完成したものである。銀とスズとを上記式(1)を満たすように配合することにより銀焼結体の細孔内をスズが充填し空隙の少ない接合層が得られる。また、銀ナノ粒子の割合が低いため銀焼結体内部に配置される銀の割合が相対的に低くなり、合金化する銀の割合が高まる結果、接合層自体の強度が高まるものと推定される。
【0016】
本接合用組成物は少なくとも、銀ナノ粒子(A)と、はんだ粒子(B)と、溶媒(C)とを含有するものであり、更に必要に応じて他の成分を含有してもよいものである。このような本接合用組成物の各成分について順に説明する。
【0017】
[銀ナノ粒子(A)]
本接合用組成物において、銀ナノ粒子(A)は低温焼結性を有するものの中から適宜選択して用いる。銀ナノ粒子(A)を用いることで、はんだ粒子が有するスズとスズ銀合金を形成して接合強度が向上する。
【0018】
銀ナノ粒子(A)の平均一次粒径は、特に限定されず、焼結温度等の観点から適宜選択すればよい。具体的には銀ナノ粒子の平均一次粒径が500nm以下であればよく、400nm以下が好ましく、300nm以下が更により好ましい。また、銀ナノ粒子の平均一次粒径は、通常、1nm以上であり、5nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。当該銀ナノ粒子(A)の平均一次粒径は、SEMにより観察された任意の20個の銀ナノ粒子の一次粒子径の算術平均値である。
銀ナノ粒子(A)の形状は、真球を含む略球状、板状、棒状などいずれの形状であってもよいが、略球状が好ましい。
【0019】
銀ナノ粒子(A)の焼結温度は、例えば100~350℃の範囲で調整すればよく、100~300℃の範囲が好ましく、100~250℃の範囲がより好ましい。焼結温度は銀粒子の粒径などにより調整できる。なお、銀ナノ粒子(A)の焼結温度は、熱重量示唆熱(TG-DTA)測定により得られた発熱ピーク温度から求めることができる。
【0020】
銀ナノ粒子(A)は、前記銀ナノ粒子(A)が、表面に有機物が被覆した被覆銀ナノ粒子であってもよい。被覆銀ナノ粒子とすることより、銀ナノ粒子(A)の酸化が抑制され、導電性に優れた接合層が得られる。当該有機物は、150~400℃の加熱により、分解又は揮発しやすいものを選択して用いることが好ましい。当該有機物としては、表面酸化の抑制の点から、脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪族アルデヒドなどが挙げられる。本実施形態では、接合強度の点から、中でも、銀ナノ粒子(A)が表面に脂肪酸及び脂肪族アルデヒドより選択される1種以上が被覆した被覆層を有する被覆銀ナノ粒子であることが好ましい。脂肪酸及び脂肪族アルデヒドは銀ナノ粒子(A)の表面酸化を抑制すると共に、焼結時にはんだ粒子(B)の表面の酸化被膜を除去する効果も有する。
【0021】
銀ナノ粒子(A)を被覆する脂肪酸又は脂肪族アルデヒドは、100~400℃の加熱により銀粒子表面から脱離するものの中から適宜選択すればよい。
脂肪酸及び脂肪族アルデヒドの炭素数は、分散性の点から、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、7以上が更に好ましい。また、加熱時の脱離性及び、はんだ粒子への作用の点から、脂肪酸及び脂肪族アルデヒドの炭素数は24以下が好ましく、16以下がより好ましく、12以下が更に好ましい。
好ましい脂肪酸の具体例としては、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ウンデカン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸が挙げられる。また、好ましい脂肪族アルデヒドの具体例としては、ブタナール、ヘキサナール、オクチナール、ノナナール、デカナール、ウンデシルアルデヒド、オクタデシルアルデヒド、ヘキサデセニルアルデヒドが挙げられる。脂肪酸等は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
銀ナノ粒子の表面酸化抑制の点から、脂肪酸等は銀粒子側にカルボキシ基又はアルデヒド基が配置された単分子膜を形成していることが好ましい。このとき銀ナノ粒子とカルボキシ基又はアルデヒド基とは物理吸着している。また、脂肪酸等が単分子膜を形成している場合において、銀ナノ粒子表面の被覆密度は、2.5~5.2分子/nm2であることが好ましい。
【0023】
上記被覆銀ナノ粒子は、例えば、特開2017-179403号公報などを参考に製造できる。当該特開2017-179403号公報の方法によれば、略球状の銀粒子表面に、脂肪酸等が配置され、単分子膜の被覆層が形成される。当該被覆層の被覆密度は2.5~5.2分子/nm2となり、表面酸化の抑制及び分散性に優れた被覆金属粒子が形成される。なお、被覆密度は、特開2017-179403号公報の方法を用いて算出できる。
【0024】
[はんだ粒子(B)]
本接合用組成物において、はんだ粒子は、スズ(Sn)を含むはんだ粒子(B)を用いる。当該はんだ粒子(B)を用いることにより、前記銀ナノ粒子(A)との組合せにより、焼結時にスズ銀合金が形成されるため、得られる接合層の機械強度が向上する。
はんだ粒子(B)としては、スズ(Sn)を含み、更に、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、銅(Cu)、インジウム(In)、銀(Ag)等の元素を含む合金が挙げられ、不可避的に混入する他の元素を含有してもよい。はんだの具体例としては、Sn-Pb系、Pb-Sn-Sb系、Sn-Sb系、Sn-Pb-Bi系、Sn-Bi系、Sn-Zn-Bi系、Sn-Zn系、Sn-Cu系、Sn-Pb-Cu系、Sn-In系、Sn-Ag系、Sn-Pb-Ag系、Pb-Ag系はんだ等が挙げられる。本実施形態においてはんだ粒子は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
はんだ粒子は所望の金属を公知の方法により混合して製造してもよく、また、はんだ粒子の市販品を用いてもよい。
【0025】
環境に対する負荷軽減の観点から鉛フリーはんだ(Sn-Sb系、Sn-Bi系、Sn-Zn-Bi系、Sn-Zn系、Sn-Cu系、Sn-In系、Sn-Ag系はんだ等)を用いることが好ましく、中でも、Sn-Bi系はんだ、Sn-Zn-Bi系はんだ、又はSn-Zn系はんだを用いることがより好ましい。Znを含むはんだを用いることにより、高強度で実装密度の高い焼結体が得られる。また、ガラス等への濡れ性に優れたBiを含むはんだを用いることにより、密着性に優れた焼結体を得ることができる。
【0026】
はんだ粒子中のスズの含有割合は、接合強度の点から、はんだ粒子全量に対して、30質量%以上80質量%以下が好ましい。
【0027】
はんだ粒子の平均一次粒径は、特に限定されず、例えば、0.5~500μmのものの中から適宜選択して用いることができる。なお、本発明においてはんだ粒子の平均一次粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察された任意の20個のはんだ粒子の一次粒子径の算術平均値である。粒子形状は、真球を含む略球状、板状、棒状などいずれの形状であってもよい。
【0028】
はんだ粒子の融点は、金属の含有比率等によって変動があるが、概ね135~250℃の範囲内であり、135~200℃が好ましく、135~155℃がより好ましい。また、はんだ粒子の融点は、銀ナノ粒子(A)の焼結温度以下であることが好ましい。
前記はんだ粒子としてSn-Bi系はんだ、Sn-Zn-Bi系はんだ、又はSn-Zn系はんだを用いた場合は、はんだ粒子の融点は、例えば135~200℃の範囲内である。なおはんだ粒子の融点は、熱重量示唆熱(TG-DTA)測定により得られた吸熱ピーク温度から求めることができる。
【0029】
[銀ナノ粒子(A)とはんだ粒子(B)の配合比率]
本接合用組成物において、銀ナノ粒子(A)と、スズを含むはんだ粒子(B)との比率は、成物中の銀の質量(a)と、スズの質量(b)が下記式(1)を満たすように調製する。
{a/(a+b)}×100 ≦ 40 :式(1)
【0030】
式(1)を満たす組成物を用いることにより、ボイドが抑制され接合強度に優れた接合層が得られる。本実施形態においては、ボイドが抑制される点から中でも、{a/(a+b)}×100が35以下であることが好ましく、30以下がより好ましく、接合層機械強度が向上する点から25以下が更に好ましい。一方、{a/(a+b)}×100は、1以上であれば接合強度向上の効果が得られ、2以上が好ましく、5以上がより好ましい。
【0031】
[溶媒(C)]
本接合用組成物において溶媒(C)は、上記各成分を溶解乃至分散可能な溶媒の中から塗膜形成方法(印刷方法)などに応じて適宜選択できる。溶媒は1種単独であっても2種以上を組み合わせた混合溶媒であってもよい。溶媒としては、中でも、脂肪族アミン系溶媒、脂肪族アルコール系溶媒、脂肪族アミノアルコール系溶媒、テルピンアセテート系溶媒、脂肪族アルカン系溶媒、カルビトール系溶媒や、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(KHネオケム株式会社製、キョーワノールM)などが挙げられる。
【0032】
脂肪族アミン系溶媒としては、例えば、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン等が挙げられる。
脂肪族アミノアルコール系溶媒としては、例えば、エタノールアミン、プロパノールアミン、オクタノールアミン、デカノールアミン、ドデカノールアミン、オレイルアルコールアミン等が挙げられる。
脂肪族アルコール系溶媒としては、例えば、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、オレイルアルコール等が挙げられる。
テルピンアセテート系溶媒としては、例えば、1,8-テルピン-1-アセテート、1,8-テルピン-8-アセテート、1,8-テルピン-1,8-ジアセテート等が挙げられる。
脂肪族アルカン系溶媒としては、例えば、オクタン、デカン、ドデカン、流動パラフィン等が挙げられる。
また、カルビトール系溶媒としては、例えば、ブチルカルビトール、ヘキシルカルビトール、デシルカルビトール等が挙げられる。
【0033】
また、中でも溶媒としてテルピンアセテート系溶媒を含むことが好ましい。テルピンアセテート系溶媒を用いることにより、接合用組成物をスクリーン印刷に好適な組成物とすることができる。テルピンアセテート系溶媒は、例えば、日本テルペン化学(株)のテルソルブTHA-90、テルソルブTHA-70等を用いることができる。
【0034】
また本接合用組成物においては、溶媒(C)として、沸点が160℃以上400℃以下の溶媒(高沸点溶媒ということがある)を含むことが好ましい。このような溶媒を含むことにより銀ナノ粒子の焼成時に塗膜内に溶媒が残存し、はんだ粒子や銀ナノ粒子が塗膜内で適切に再配置やすくなり、ボイドが抑制される。また、高沸点溶媒は、銀ナノ粒子から脱離した脂肪酸等をはんだ粒子に接触させる媒体としての役割を有する。このような観点から、中でも、沸点が200℃以上の溶媒を含むことが好ましい。また、接合層中の溶媒の残留を抑制する点から、溶媒の沸点は350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。
【0035】
溶媒(C)は、更に沸点が160℃未満の低沸点溶媒を組み合わせてもよい。
低沸点溶媒の含有割合は、溶媒全量を100質量%として、35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。
【0036】
本接合用組成物中の溶媒(C)の割合は、塗膜の形成方法などに応じて適宜調整すればよく、接合用組成物全量に対して、0.1~95質量%とすることができ、0.2質量%~90質量%が好ましく、0.4質量%~80質量%がより好ましい。
【0037】
<他の成分>
本接合用組成物は、必要に応じてさらに他の成分を含有してもよい。他の成分としては、フラックス剤、還元剤、分散剤、増粘剤、ゲル化剤等が挙げられる。
【0038】
本接合用組成物は、はんだ粒子(B)などの酸化を抑制するため、フラックス剤又は還元剤を含有してもよい。フラックス剤等を含有することにより、焼成時におけるはんだ粒子(B)の濡れ性が向上して、接合強度に優れた接合層が形成される。
【0039】
フラックス剤は、はんだのフラックス剤として公知のものの中から、適宜選択できる。フラックス剤としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、酢酸、プロピオン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの脂肪族カルボン酸;安息香酸、サリチル酸、フタル酸などの芳香族カルボン酸;アビエチン酸、ロジンなどのテルペン系カルボン酸などの有機カルボン酸;アニリン塩酸塩、ヒドラジン塩酸塩などの有機ハロゲン化合物;尿素、ジエチレントリアミンヒドラジンなどのアミン類などが挙げられる。また還元剤としては、例えば、塩酸、フッ酸、燐酸などの無機酸;フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、フッ化銅、フッ化亜鉛などのフッ化物、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化第一銅、塩化ニッケル、塩化アンモニウム、塩化第一錫などの塩化物、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化アンモニウム、臭化錫、臭化亜鉛などの臭化物や、脂肪酸、脂肪族アルデヒドなどが挙げられる。上記脂肪酸及び脂肪族アルデヒドは、前記銀ナノ粒子(A)で例示した脂肪酸等と同様のものが挙げられる。
フラックス剤等(C)は1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができ、たとえば、フラックス剤と還元剤とを組み合わせて用いてもよい。
【0040】
フラックス剤等(C)の合計の含有割合は、はんだ粒子の酸化被膜を除去する観点から、はんだ粒子に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1%以上が更に好ましい。一方、フラックス剤等(C)の合計の含有割合は、はんだ粒子に対し2質量%以下が好ましく、1.8質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。上記上限値以下とすることで組成物中における銀ナノ粒子の焼結性が向上し、焼結強度が向上する。
【0041】
分散剤としてはポリエステル系分散剤やポリアクリル酸系分散剤等の、公知の分散剤が挙げられる。得られる接合層の強度の点から、接合用組成物中の分散剤の割合は、組成物全量100質量%に対し、0.1~5質量%が好ましく、0.5~2質量%がより好ましい。
【0042】
また、本接合用組成物は、粘度を調整するために増粘剤やゲル化剤を含有してもよい。
ゲル化剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィンが挙げられ、これらは前記流動パラフィンをゲル化できる。中でもポリエチレンが好ましい。ポリオレフィンの重量平均分子量は、例えば、10,000以上のものの中から適宜選択することができ、10,000~5,000,000が好ましく、20,000~3,000,000がより好ましい。接合用組成物をゲル化することにより、塗膜のパターン形状を保持することができる。
流動パラフィンとゲル化剤との配合比率は、パターン保持性を向上する観点点から、流動パラフィンとゲル化剤の合計100質量%に対し、ゲル化剤が0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上12質量%以下が更に好ましい。
【0043】
本接合用組成物の調製方法は、溶媒中に銀ナノ粒子とはんだ粒子と他の成分を均一に分散できる方法であればよい。例えば、溶媒に各成分を添加し、公知の撹拌機や分散機を用いて分散することで接合用組成物が得られる。
【0044】
[接合体]
本発明の接合体(以下、本接合体ということがある)は、第1被接合部材と、第2被接合部材とが、接合層を介して接合された接合体であって、前記接合層が前記本接合用組成物の焼結体を含む。
本接合体は、2つの被接合部材を前記本接合用組成物により接合しているため、接合共同に優れている。
【0045】
以下、本接合用組成物を用いた接合体の製造方法の一例を説明する。本接合体の製造方法は、前記第1被接合部材の接合面と、前記第2被接合部材との間に、前記本接合用組成物の塗膜を形成する工程と、前記塗膜を加熱して焼結体を形成する工程と、を有する。
まず、接合対象となる第1被接合部材と、第2被接合部材とを準備する。被接合部材は接合体の用途に応じて適宜選択すればよい。被接合部材の接合面の材質は、焼結温度に対する耐熱性があればよく、例えば、金、銅等の金属類、シリコン、無機系セラミックスなどが挙げられる。
【0046】
次いで、第1被接合部材の接合面に、前記接合用組成物を塗布して塗膜を形成する。塗膜の形成方法は、公知の塗布手段及び印刷手段の中から適宜選択できる。塗膜をパターン状に形成でき、厚膜化が可能な点から、ディスペンサー塗布、又はスクリーン印刷が好ましい。
【0047】
ディスペンサー塗布は、前記接合用組成物を定量吐出する装置を用いて塗布する方法である。吐出方式は、特に限定されず、例えば、エアパルス方式、メカニカル方式、非接触方式、プランジャー方式などの中から適宜選択できる。一例として、エアパルス方式のディスペンサーの場合、シリンジに前記接合用組成物を充填し、エアパルスをかけることで接合用組成物を一定量ずつ吐出させ、ドット状など所定のパターンに塗布する方法である。第2被接合部材を軽く押し付けることで、接合用組成物は接合面に濡れ広がる。
またスクリーン印刷は、所定の開口部を有するスクリーンに接合用組成物を塗布し、前記第1被接合部材上に前記スクリーンを配置し、スキージを用いて第1被接合部材にスクリーンを押し付けることで接合用組成物を所定パターンに転写する方法である。
接合用組成物の塗膜の膜厚は、例えば、1~100μmの範囲で適宜調整すればよく、2~80μmが好ましい。
なお第1被接合部材と第2被接合部材は、製造する接合体の用途に応じて適宜選択すればよい。被接合部材の接合面の材質は、焼結温度に対する耐熱性があればよく、例えば、金、銅等の金属類、シリコン、無機系セラミックスなどが挙げられる。
【0048】
次いで前記塗膜上に第2被接合部材を配置した後、塗膜に対して必要に応じて加圧をしながら、加熱する。加熱温度は、銀ナノ粒子の焼結温度、及び、はんだ粒子の融点に応じて150~400℃の範囲で適宜調整すればよい。このようにして接合層を介して第1被接合部材と第2被接合部材とが接合された接合体が得られる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0050】
(製造例1:被覆銀粒子Ag1の製造)
特開2017-179403号を参考に、銀粒子の表面にウンデカン酸が被覆密度2.5~5.2nm2で被覆した銀ナノ粒子Ag1を得た。平均一次粒径は65nmであった。
【0051】
(実施例1:接合用組成物の調製)
前記銀ナノ粒子Ag1を0.588質量部、SnBi合金粒子(三井金属鉱業製、ST-3, Sn:Bi=42:58(モル比), 粒子径約3μm)9.5質量部、テルソルブTHA-70(日本テルペン化学株式会社製、溶媒、沸点223℃)0.3質量部、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(KHネオケム株式会社製、キョーワノールM、溶媒)0.397質量部、エスリームC-2093I(日油社製、酸性分散剤)を混合して、実施例1の接合用組成物を得た。なお、実施例1の接合用組成物中の銀とスズの合計に対する銀の割合は11wt%(12mol%)であった。
【0052】
(実施例2~4)
実施例1において各成分の配合比率を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2~4の接合用組成物を得た。
【0053】
(比較例1~2)
実施例1において各成分の配合比率を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして比較例1~2の接合用組成物を得た。
【0054】
【0055】
<せん断強度評価>
実施例及び比較例で得られた各接合用組成物を、各々メタルマスクを用いてガラス基板上に印刷し、175℃で1時間加熱し仮固定した。次いで、仮固定した接合用組成物上に金メッキされたセラミックス基板を乗せて、0.7MPaの荷重下で175℃1分間加熱し、更に250℃で1時間加熱して積層体を得た。
また、実施例1及び比較例1の接合体をエポキシ樹脂でモールドした後、研磨をし、その断面を、走査型電子顕微鏡により観察した。結果を
図2に示す。
【0056】
また、得られた接合体をそれぞれボンドテスター(Condor Sigma:オランダXYZTEC社製)を用いてダイシェアテストを行い、せん断強度及びせん断状態を観察した。結果を表1及び
図1に示す。
図1は、上記せん断強度評価結果を示すグラフである。
図1中の1~4はこの順番に実施例1~4に対応する。また
図1中の5,6はこの順番に比較例1,2に対応する。横軸は質量比である。
銀の質量(a)と、スズの質量(b)が前記式(1)を満たす実施例1~4の接合用組成物により形成された接合層は、当該式(1)を満たさない比較例1~2の組成物に対し、せん断強度が格段に優れている。また、せん断時の状態を確認したところ、実施例3~4及び比較例1~2の接合層は凝集破壊によるせん断であったのに対し、実施例1~2の接合層は凝集破壊されず、接合界面の剥離によるせん断であった。このことは実施例1~2の接合層が特に機械強度に優れていることを示している。
【0057】
また
図2は、実施例1(右)及び比較例1(左)の接合層の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図2に示されるとおり、比較例1の接合層では、はんだ粒子径程度の孔や、銀ナノ粒子間の細孔が観察された。これに対し実施例1の接合層では比較例1と比較して孔が抑制されており、密に充填された接合層が形成されることが明らかとなった。