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  • 特許-アメリシウムの抽出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】アメリシウムの抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 60/02 20060101AFI20230817BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20230817BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20230817BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C22B60/02
C22B3/26
B01D11/04 B
G21F9/06 581H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019151070
(22)【出願日】2019-08-21
(65)【公開番号】P2021031713
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英哉
(72)【発明者】
【氏名】松村 達郎
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113674(JP,A)
【文献】特開昭53-024997(JP,A)
【文献】特許第3677013(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 60/02
G21F 9/06
B01D 11/04
G21C 19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アメリシウムを含む酸性水溶液を準備する準備工程、
下記一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドの存在下、前記準備工程で準備した酸性水溶液と有機溶媒を接触させる液液接触工程、
前記液液接触工程で接触させた酸性水溶液と有機溶媒を分液する分液工程、及び
前記分液工程で分液した有機溶媒に水溶性錯化剤を含む酸性水溶液を接触させる逆抽出工程、
を含むことを特徴とする、アメリシウムの抽出方法であって、
前記準備工程で準備した酸性水溶液が、アメリシウムと、非抽出対象元素としてキュリウム及び/又はネオジムとを含み、アメリシウムを前記非抽出対象元素と分離する、アメリシウムの抽出方法
【化1】

(式(A)中、R及びR’はそれぞれ独立して炭素数1~20の炭化水素基又は水素原子を表す。)
【請求項2】
前記準備工程で準備した酸性水溶液が、硝酸イオン(NO )を含む、請求項1に記載のアメリシウムの抽出方法。
【請求項3】
式(A)中、R及びR’がいずれも炭素数8のアルキル基である、請求項1または2に記載のアメリシウムの抽出方法。
【請求項4】
液液接触工程で使用する一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドの濃度が0.1~
0.3Mである、請求項1~3のいずれか一項に記載のアメリシウムの抽出方法。
【請求項5】
前記逆抽出工程で接触させる酸性水溶液に含まれる水溶性錯化剤が窒素ドナー系の水溶性錯化剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載のアメリシウムの抽出方法。
【請求項6】
窒素ドナー系の水溶性錯化剤がジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)である、請求項5に記載のアメリシウムの抽出方法。
【請求項7】
前記逆抽出工程で接触させる酸性水溶液が、0.01~0.05MのDTPAを含む、請求項6に記載のアメリシウムの抽出方法。
【請求項8】
前記非抽出対象元素が、イットリウム、ネオジム以外のランタノイド、ストロンチウム、バリウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ジルコニウム、セシウム、モリブデンから選択される1種類以上の元素をさらに含み、アメリシウムを前記非抽出対象元素と分離する、請求項1~7の何れか1項に記載のアメリシウムの抽出方法。
【請求項9】
前記アメリシウムと非抽出対象元素を含む酸性水溶液が使用済燃料の再処理廃液である、請求項1~8の何れか1項に記載のアメリシウムの抽出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アメリシウムの分離方法に関し、より詳しくはイミノ二酢酸アミドを用いたアメリシウムの抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所で用いた後の核燃料(使用済燃料)の再処理に伴って発生する高レベル放射性廃液(HLLW)は、安定な形態にガラス固化し、数十年程度の間、冷却貯蔵を行った後、地下の深い地層中に処分(地層処分)することが検討されている。一方で、長半減期核種のアメリシウム(Am)や発熱性核種のキュリウム(Cm)等のマイナーアクチノイドを高レベル放射性廃液から分離し、核変換する「分離・変換技術」の研究開発が世界各国で進められている。分離・変換技術により、ガラス固化体の発生量の削減が可能となり、処分場面積や地層処分による環境負荷を大幅に低減することができる。
【0003】
アメリシウムを核変換するためには、高レベル放射性廃液中からアメリシウムのみを分離する必要がある。しかしながら、高レベル放射性廃液中には多種多様な元素が含まれており、さらにアメリシウムと同一の安定原子価を有し、かつイオン半径が類似している希土類元素との相互分離が困難であることが知られている。また、3価のアメリシウムと3価のキュリウムは化学的性質が酷似しており、アメリシウムとキュリウムの相互分離は極めて難しい。そのため、高レベル放射性廃液中からアメリシウムを分離するためには、段階的な分離プロセスが必要となり、3種類の抽出剤を用いた分離プロセスが提案されている。
【0004】
特許文献1,2にはイミノ二酢酸アミドを用いたアクチノイド、ランタノイド、又はレアアースの抽出方法が開示されている。しかしながら、アメリシウムを単独分離するためには改善が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-94236号公報
【文献】特開2016-1193674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アメリシウムの効率的な分離回収方法、特に溶媒抽出法を用いた高レベル放射性廃液中からのアメリシウムの分離回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アメリシウムを含む酸性水溶液を、特定のイミノ二酢酸アミド(IDAA)の存在下で有機溶媒に接触させることにより、アメリシウムを有機溶媒に溶解させ、さらにジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)などの窒素ドナー系の水溶性錯化剤を含む酸性水溶液を接触させる逆抽出工程を行うことにより、高レベル放射性廃液中からアメリシウムを直接、且つ高選択的に分離回収できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]アメリシウムを含む酸性水溶液を準備する準備工程、
下記一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドの存在下、前記準備工程で準備した酸性
水溶液と有機溶媒を接触させる液液接触工程、
前記液液接触工程で接触させた酸性水溶液と有機溶媒を分液する分液工程、及び
前記分液工程で分液した有機溶媒に水溶性錯化剤、好ましくはジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)などの窒素ドナー系の水溶性錯化剤を含む酸性水溶液を接触させる逆抽出工程、
を含むことを特徴とする、アメリシウムの抽出方法。
【化1】


(式(A)中、R及びR’はそれぞれ独立して炭素数1~20の炭化水素基又は水素原子を表す。)
[2]前記準備工程で準備した酸性水溶液が、硝酸イオン(NO )を含む、[1]に記載のアメリシウムの抽出方法。
[3]式(A)中、R及びR’がいずれも炭素数8のアルキル基である、[1]または[2]に記載のアメリシウムの抽出方法。
[4]液液接触工程で使用する一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドの濃度が0.1~0.3Mである、[1]~[3]のいずれかに記載のアメリシウムの抽出方法。
[5]前記逆抽出工程で接触させる酸性水溶液が、0.01~0.05MのDTPAを含む、[1]~[4]のいずれかに記載のアメリシウムの抽出方法。
[6]前記準備工程で準備した酸性水溶液が、アメリシウムと、キュリウム、イットリウム、ランタノイド、ストロンチウム、バリウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ジルコニウム、セシウム、モリブデンから選択される1種類以上の非抽出対象元素とを含み、アメリシウムを前記非抽出対象元素と分離する、[1]~[5]の何れかに記載のアメリシウムの抽出方法。
[7]前記アメリシウムと非抽出対象元素を含む酸性水溶液が使用済燃料の再処理廃液である、[6]に記載のアメリシウムの抽出方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、使用済燃料の再処理廃液などのアメリシウムを含む溶液からアメリシウムを効率良く抽出分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】3価のアメリシウムイオン(Am(III))、3価の希土類元素イオンであるランタンイオン(La(III))、セリウムイオン(Ce(III))、プラセオジムイオン(Pr(III))、ネオジムイオン(Nd(III))、サマリウムイオン(Sm(III))、6価のモリブデンイオン(Mo(VI))の逆抽出率とDTPA濃度との関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0012】
<アメリシウムの抽出方法>
本発明の一態様であるアメリシウムの抽出方法(以下、「本発明の抽出方法」と略す場合がある。)は、アメリシウムを含む酸性水溶液を準備する準備工程(以下、「準備工程」と略す場合がある。)、下記一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドの存在下、準備工程で準備した酸性水溶液と有機溶媒を接触させる液液接触工程(以下、「液液接触工程」と略す場合がある。)、前記液液接触工程で接触させた酸性水溶液と有機溶媒を分液する分液工程(以下、「分液工程」と略す場合がある。)、及び前記分液工程で分液した有機溶媒に逆抽出水溶液を接触させる逆抽出工程(以下、「逆抽出工程」と略す場合がある。)を含むことを特徴とする。
【0013】
【化2】


(式(A)中、R及びR’はそれぞれ独立して炭素数1~20の炭化水素基又は水素原子を表す。)
【0014】
イミノ二酢酸アミドは、アルキル基の炭素数を変えることで、水に対しても有機溶媒に対しても親和性が高くできる。また、アメリシウムとの結合に非常に適した構造を有していると考えられる。そのため、水溶液と有機溶媒の液液接触によって、イミノ二酢酸アミドがアメリシウムと会合し、水溶液中のアメリシウムが有機溶媒に可溶化して、抽出される。
【0015】
なお、「一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドの存在下」とは、通常有機溶媒にイミノ二酢酸アミドが存在していることを意味し、予め有機溶媒に含有させていても、或いは酸性水溶液と有機溶媒を接触させるときに別途イミノ二酢酸アミドを添加するものであってもよいものとする。
【0016】
本発明の好ましい態様では、アメリシウムを含む酸性水溶液はランタノイドなどの希土類元素を含む。本発明のさらに好ましい態様では、アメリシウムを含む酸性水溶液は使用済燃料の再処理廃液である。
【0017】
「希土類元素」とは、ランタノイド、スカンジウム、及びイットリウムの総称であり、「ランタノイド」とは、ランタノイドに属する金属元素を意味し、酸性水溶液や有機溶媒中の酸化数、状態等は特に限定されないものとする。
なお、ランタノイドは、具体的にはランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)である。
なお、スカンジウム、イットリウム、ランタノイドの酸化数は、通常1~6価であり、それぞれの元素に応じた安定な酸化数を有しているが、3価、4価、5価が好ましく、3価が特に好ましい。
【0018】
(準備工程)
酸性水溶液は、抽出対象元素であるアメリシウム及び希土類元素以外に、その他の元素を含むものであってもよい。その他の元素としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属元素、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)等のアルカリ土類金属元素、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)等の遷移金属元素等が挙げられる。
【0019】
酸性水溶液の水素イオン濃度は、通常0.001~12Mの範囲であり、好ましくは6.0M以下、より好ましくは4.0M以下、さらに好ましくは2.0M以下であり、好ましくは0.01M以上、より好ましくは0.1M以上、さらに好ましくは1.0M以上である。
また、アメリシウムを抽出対象元素とする場合の酸性水溶液の水素イオン濃度は、好ましくは5.0M以下、より好ましくは4.0M以下、さらに好ましくは2.0M以下であり、好ましくは0.01M以上、より好ましくは0.1M以上、さらに好ましくは1.0M以上である。
【0020】
酸性水溶液に使用する酸の具体的種類は、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。なお、塩酸を使用する場合、酸性水溶液は塩化物イオン(Cl)を含み、硫酸を使用する場合、酸性水溶液は硫酸イオン(SO 2-)を含み、硝酸を使用する場合、酸性水溶液は硝酸イオン(NO )を含むと表現することができる。アメリシウムを抽出する場合、この中でも硝酸を使用すること、即ち酸性水溶液は硝酸イオン(NO )を含むことが好ましい。
【0021】
酸性水溶液の抽出対象元素であるアメリシウムの濃度は、通常0M(mol/dm)より大きく、0.1M以下の範囲であり、好ましくは0.05M以下、より好ましくは0.02M以下、さらに好ましくは0.01M以下である。上記範囲内であると、アメリシウムを効率良く抽出し易くなる。
【0022】
(液液接触工程)
液液接触工程は、下記一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドの存在下、準備工程で準備した酸性水溶液と有機溶媒を接触させる工程であるが、一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドの具体的種類は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【化3】


(式(A)中、R及びR’はそれぞれ独立して炭素数1~20の炭化水素基又は水素原子を表す。)
R及びR’はそれぞれ独立して炭素数1~20の炭化水素基を表しているが、「炭化水素基」は、直鎖状の飽和炭化水素基に限られず、炭素-炭素不飽和結合、分岐構造、環状構造のそれぞれを有していてもよいことを意味する。また、R及びR’の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上、さらに好ましくは6以
上であり、好ましくは18以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下である。特に好ましくは、R及びR’は炭素数8のアルキル基である。
【0023】
R及びR’として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2-エチルへキシル基、2,2-ジメチルへキシル基、フェニル基、フェニルメチル等、ピリジル基、ピコリル基が挙げられる。
【0024】
一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドとしては、下記式で表されるものが挙げられる。
【化4】

【0025】
一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドの使用量(存在量)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、有機溶媒の容積を基準(有機溶媒に溶解している場合の濃度)とした場合、通常0.001~2M(mol/dm)の範囲であり、好ましくは0.01M以上、より好ましくは0.1M以上、さらに好ましくは0.2M以上であり、好ましくは1.5M以下、より好ましくは1M以下、さらに好ましくは0.3M以下である。上記範囲内であると、アメリシウムを効率良く抽出し易くなる。
【0026】
液液接触工程の操作手順は、特に限定されず、液液抽出に利用される公知の操作手順を適宜選択することができる。例えば、任意の容器に酸性水溶液と有機溶媒を投入し、振とう機等を用いて酸性水溶液と有機溶媒を十分に混合した後、遠心分離によって相分離させて、分液を行うことが挙げられる。また、容器の代わりに向流抽出装置等の抽出装置や分液漏斗等の公知の抽出装置又は抽出器具を用いることもできる。
【0027】
なお、酸性水溶液と有機溶媒を振とうする場合の振とう時間は、通常5秒以上、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上、さらに好ましくは60秒以上である。上記範囲内であると、アメリシウムをより効率良く抽出することができる。
【0028】
液液接触工程は、1回に限られず、接触と分液を複数回繰り返してもよい。液液接触工
程の回数は、通常1回~20回の範囲であり、好ましくは2回以上、より好ましくは5回以上、さらに好ましくは10回以上である。上記範囲内であると、アメリシウムを効率良く抽出し易くなる。
【0029】
また、一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドの存在下で酸性水溶液と有機溶媒を接触させる方法は、例えば下記の(a)~(c)の方法が挙げられる。
(a)一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドを含む有機溶媒溶液を、容器内等で酸性水溶液と接触させる方法。
(b)一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドを含む酸性水溶液を、容器内等で有機溶媒と接触させる方法。
(c)一般式(A)で表されるイミノ二酢酸アミドと酸性水溶液と有機溶媒をそれぞれ容器等に投入し、接触させる方法。
この中でも、より効率良く抽出することができることから、(a)が特に好ましい。
【0030】
有機溶媒は、特に限定されず、水との液液抽出に利用される公知のものを適宜選択することができる。具体的には、n-ヘキサン、n-ドデカン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒等が挙げられる。この中でも、疎水性が高いことから炭化水素系溶媒が好ましく、n-ドデカンが特に好ましい。
【0031】
接触させる酸性水溶液と有機溶媒の容積比(酸性水溶液/有機溶媒)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、通常1/100~100/1の範囲であり、好ましくは1/50以上、より好ましくは1/10以上、さらに好ましくは1/5以上であり、好ましくは50/1以下、より好ましくは10/1以下、さらに好ましくは5/1以下である。上記範囲内であると、アメリシウムを効率良く抽出し易くなる。
【0032】
液液接触工程により、アメリシウムを効率よく有機溶媒中に抽出することができる。この工程により、アメリシウムを、Cm、Sm、Eu、Sr、Y、Zr、Ru、Rh、Pd、Cs、Baなどと分離することができる。
ただし、酸性溶液にLa、Ce、Pr、Nd、Moなどが含まれていた場合、アメリシウムと一緒に有機溶媒中に回収されるため、本発明においては、次の逆抽出工程を行う。
【0033】
本発明の抽出方法は、液液接触工程で接触させた酸性水溶液と有機溶媒を分液する(第一の)分液工程、前記分液工程で分液した有機溶媒に酸性水溶液を接触させる逆抽出工程(以下、「逆抽出工程」と略す場合がある。)を含み、さらに、逆抽出工程で接触させた酸性水溶液と有機溶媒を分液する(第二の)分液工程、有機溶媒又は水を留去する溶媒留去工程を含んでもよい。
以下、逆抽出工程の詳細について説明する。
【0034】
(逆抽出工程)
逆抽出工程は、分液工程で分液した有機溶媒に水溶性錯化剤、好ましくはDTPAなどの窒素ドナー系の水溶性錯化剤を含んだ酸性水溶液を接触させる工程であるが、逆抽出工程で接触させる酸性水溶液の水素イオン濃度等は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
逆抽出工程で接触させる酸性水溶液の水素イオン濃度は、通常0.0001~12Mの範囲であり、好ましくは1M以下、より好ましくは0.1M以下、さらに好ましくは0.01M以下であり、好ましくは0.0001M以上、より好ましくは0.001M以上、さらに好ましくは0.01M以上である。また、マロン酸を加えることで、水素イオン濃度を一定に保ちやすくすることができる。さらに、硝酸アンモニウムや硝酸ナトリウムを
加えると、アメリシウム以外の元素を有機相に残したまま、希土類元素を逆抽出することができる。水相中に添加するDTPAなどの窒素ドナー系の水溶性錯化剤の濃度は、特に限定されず、適宜選択することができるが、通常0.001~1Mの範囲であり、好ましくは0.001M以上、より好ましくは0.01M以上、さらに好ましくは0.02M以上であり、好ましくは1M以下、より好ましくは0.1M以下、さらに好ましくは0.05M以下である。
窒素ドナー系の水溶性錯化剤としては、DTPA以外にも、ジカルボキシメチルグルタミン酸(CMGA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)、ジヒドロキシエチルグリシ
ン(DHEG)、ジアミノヒドロキシ三酢酸(DPTA-OH)、エチレンジアミンコハク酸(EDDS
)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、
エチレンジアミンヒドロキシエチル三酢酸(HEDTA)、ヒドロキシエチルイミノニ酢酸(HIDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、プロピレンジアミン四酢酸(PDTA)、またはトリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)、及びテトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン誘導体などを使用することもできる。
【0035】
逆抽出工程で接触させる酸性水溶液に使用する酸の具体的種類は、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。なお、塩酸を使用する場合、酸性水溶液は塩化物イオン(Cl)を含み、硫酸を使用する場合、酸性水溶液は硫酸イオン(SO 2-)を含み、硝酸を使用する場合、酸性水溶液は硝酸イオン(NO )を含むと表現することができる。アメリシウムを逆抽出する場合、この中でも硝酸を使用すること、即ち酸性水溶液は硝酸イオン(NO )を含むことが好ましい。
【0036】
逆抽出工程の操作手順は、特に限定されず、逆抽出に利用される公知の操作手順を適宜選択することができる。
【0037】
逆抽出工程において接触させる酸性水溶液と有機溶媒の容積比(酸性水溶液/有機溶媒)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、通常1/100~100/1の範囲であり、好ましくは1/50以上、より好ましくは1/10以上、さらに好ましくは1/5以上であり、好ましくは50/1以下、より好ましくは10/1以下、さらに好ましくは5/1以下である。上記範囲内であると、アメリシウムを効率良く逆抽出し易くなる。
逆抽出工程により、アメリシウムが選択的に酸性水溶液中に回収されるため、アメリシウムをLa、Ce、Pr、Nd、Moなどから分離して回収することができる。
【0038】
<アメリシウムの分離回収方法>
前述のように、イミノ二酢酸アミドは、例えば水素イオン濃度やアニオン濃度によって、それぞれの元素に対する親和性が変化するため、特定の元素を選択的に抽出することも可能となる。これに、DTPAなどの窒素ドナー系の水溶性錯化剤を用いた逆抽出を組み合わせることにより、アメリシウムを非抽出対象元素から分離して回収することができる。
【0039】
非抽出対象元素であるとしては、キュリウム、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイド、ストロンチウム、バリウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、セシウム、ジルコニウム、モリブデン等が挙げられる。
アメリシウムと、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド(Lu)との分離は、特に困難であるが、イミノ二酢酸アミドを用いた液液抽出におけるこれらの元素の分配比(後述の実施例1を参照。)に差が出る、即ちこれらの元素同士について十分な分離係数(後述の実施例1を参照。)が得られることを本発明者らは明らかとしている。特に分配比と分離係数が高くなるように、抽出装置、有機溶媒、添加剤等を選択する
ことによって、これらを効率良く抽出分離することができる。そして、さらにDTPAなどの窒素ドナー系の水溶性錯化剤を用いた逆抽出を組み合わせることにより、アメリシウムを非抽出対象元素から分離して回収することができる。
【実施例
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0041】
<実施例1:アメリシウムやキュリウムとイットリウム及びランタノイド(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム)、ストロンチウム、バリウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ジルコニウム、モリブデンとの抽出分離
アメリシウムイオン(Am(III))、3価のキュリウムイオン(Cm(III))、種々の3価の希土類元素イオンであるランタンイオン(La(III))、セリウムイオン(Ce(III))、プラセオジムイオン(Pr(III))、ネオジムイオン(Nd(III))、サマリウムイオン(Sm(III))、ユウロピウムイオン(Eu(III))、イットリウムイオン(Y(III))、種々の2価のアルカリ土類金属元素イオンである2価のストロンチウムイオン(Sr(II))、2価のバリウムイオン(Ba(II))、種々の白金族元素イオンであるルテニウムイオン(Ru(III))、ロジウムイオン(Rh(III))、パラジウムイオン(Pd(II))、6価のモリブデンイオン(Mo(VI))、4価のジルコニウムイオン(Zr(IV))、1価のセシウムイオン(Cs(IV))をそれぞれ濃度約1ppm含んだ1.5Mの硝酸水溶液(0.1M HEDTA含む)と、下記式で表されるイミノ二酢酸アミド(IDAA(EH))を0.2M含んだn-ドデカン溶液をそれぞれ準備した。
なお、硝酸として多摩化学工業株式会社製の超高純度分析用試薬TAMAPURE-AA-100を、希釈水として超純水製造装置(Milli-Q Merck Millipore社製)を用いて調製した超純水を、n-ドデカンとして和光純薬株式会社製の特級試薬を用いた。
【化5】

【0042】
準備した硝酸水溶液(模擬HLLW)とn-ドデカン溶液を等量(容積比)容器に投入
し、振とう機(YS-8D 株式会社ヤヨイ社製)を用いて、25℃±1℃で10分間振とうした。その後、5分間遠心分離(CN-820 アズワン株式会社製)を行って相分離させ、水相と有機相からそれぞれ溶液をサンプリングし、溶液中の金属イオン濃度をICP-MS(Agilent7500cx アジレント・テクノロジー社製)により計測
して、Am(III)、Cm(III)、La(III)、Ce(III)、Pr(III)、Nd(III)、Sm(III)、Eu(III)、Y(III)、Sr(II)、Ba(II)、Ru(III)、Rh(III)、Pd(II)、Mo(VI)、Zr(IV)、Cs(IV)の濃度をそれぞれ定量した。得られた値から各イオンの分配比(D)または抽出率を算出し、その値を表にまとめた。結果を表1に示す。
【0043】
なお、分配比(D)、分離係数(SFAm/Ln)は、下記式により算出することができる。
【数1】

【0044】
表1に、3価のアメリシウムイオン(Am(III))、3価のキュリウムイオン(Cm
(III))、種々の3価の希土類元素イオンであるランタンイオン(La(III))、
セリウムイオン(Ce(III))、プラセオジムイオン(Pr(III))、ネオジムイオン(Nd(III))、サマリウムイオン(Sm(III))、ユウロピウムイオン(Eu(III))、イットリウムイオン(Y(III))、種々の2価のアルカリ土類金属元素イオンである2価のストロンチウムイオン(Sr(II))、2価のバリウムイオン(Ba(II))、種々の白金族元素イオンであるルテニウムイオン(Ru(III))、ロジウムイオン(Rh(III))、パラジウムイオン(Pd(II))、6価のモリブデンイオン(Mo(VI))、4価のジルコニウムイオン(Zr(IV))、1価のセシウムイオン(Cs(IV))の抽出率を示した。
【0045】
【表1】
【0046】
表1の結果から、1.5M 硝酸の条件において、Am(III)の抽出率は77.8
%となり、有機相に抽出されることがわかる。このとき、La(III)、Ce(III)、Pr(III)、Nd(III)、Mo(VI)の抽出率はそれぞれ98.2%、97.3%、94.9%、87.3%、67.2%となり、Am(III)とともに有機相に抽出されることがわかる。
一方、Cm(III)及び種々の金属イオンの抽出率は、何れも50%を下回ることから、水相中に移行することがわかる。
また、いずれの濃度であっても、Am(III)とCm(III)の分離係数(SFAm/Cm)、及びAm(III)とSm(III)、Eu(III)等のランタノイドイ
オンの分離係数(SFAm/Ln)はそれぞれ、6.7以上、53.2以上となり、Am(III)とCm(III)、及びAm(III)と種々のランタノイドイオンとの分離が可能であることが明らかである。
【0047】
<実施例2:アメリシウムとランタノイド(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム)、及びモリブデンとの抽出分離(逆抽出率とDTPA濃度依存性)>
実施例1の条件によって、有機相に抽出されたアメリシウム、及びランタノイド(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、モリブデン)を含む有機相(イミノ二酢酸アミド濃度0.2M)と逆抽出水相を接触させて、有機相中からの金属イオン逆抽出率を調べた。
【化6】

【0048】
【数2】

【0049】
逆抽出水相中のDTPA濃度を0.005~0.5Mに変化させたときの逆抽出水相中に逆抽出される金属イオンの濃度を定量し、逆抽出率を算出して、その値とDTPA濃度との関係をグラフにまとめた。結果を図1に示す。このとき、水相中には、1.5Mの硝酸アンモニウム、または硝酸ナトリウム、及び、0.3Mのマロン酸を加えている。
【0050】
図1の結果から、Am(III)、及び種々のランタノイドイオンの逆抽出率は、DTPA濃度の増減に伴って増減する。また、例えばDTPA濃度0.02M(20mM)において、Am(III)の逆抽出率は、90%を超える一方、種々のランタノイドイオンの抽出率は20%未満となるため、Am(III)と、種々のランタノイドイオンとの分離が可能であることが明らかである。
【0051】
3価のアメリシウムイオン(Am(III))、3価の希土類元素イオンであるランタン
イオン(La(III))、セリウムイオン(Ce(III))、プラセオジムイオン(Pr(III))、ネオジムイオン(Nd(III))、サマリウムイオン(Sm(III))、6価のモリブデンイオン(Mo(VI))の逆抽出率とDTPA濃度との関係を調べた。
0.2MのADAAMをドデカンに溶解した有機相中に抽出された元素を、1.5M
硝酸アンモニウム、0.3M マロン酸、20 mM DTPAと接触させた逆抽出試験の
結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2の結果から、0.02M DTPAの条件において、Am(III)の逆抽出率は
94.3%となり、水相中に逆抽出されることがわかる。このとき、La(III)、Ce(III)、Pr(III)、Nd(III)、Mo(VI)の抽出率はそれぞれ0.961%、1.88%、5.35%、19.7%、7.57%となり、逆抽出されずに有機相に残ることがわかる。この結果から、Am(III)と、種々のランタノイドイオンとの分離が可能であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の方法によれば、放射性廃液中に存在するアメリシウムを効率よく抽出分離することができる。
図1