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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】イメージセンサ
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/78 20060101AFI20230817BHJP
   H04N 25/78 20230101ALI20230817BHJP
   H03M 1/10 20060101ALI20230817BHJP
   H03M 1/56 20060101ALI20230817BHJP
   H03M 1/68 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
H03M1/78
H04N25/78
H03M1/10 B
H03M1/56
H03M1/68
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019175854
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021052363
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】516205214
【氏名又は名称】株式会社テックイデア
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】松澤 昭
(72)【発明者】
【氏名】余 力瀾
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-033305(JP,A)
【文献】特開2002-190737(JP,A)
【文献】特開平09-121159(JP,A)
【文献】特開2001-127634(JP,A)
【文献】特開平03-238927(JP,A)
【文献】国際公開第2015/079597(WO,A1)
【文献】特開2013-085104(JP,A)
【文献】特開2013-229853(JP,A)
【文献】特開2011-041205(JP,A)
【文献】特開2018-014689(JP,A)
【文献】特開2005-065166(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0123572(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0103220(US,A1)
【文献】特開2017-158061(JP,A)
【文献】特開2011-259407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/78
H04N 25/78
H03M 1/10
H03M 1/56
H03M 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然界に存在する物理量を検出して電気信号に変換するセンサ素子を備える複数の画素が行方向及び列方向に2次元配置された画素部と、
CMOSインバータの出力端に抵抗が接続された複数の単位回路が並列接続され、ランプ波を生成する抵抗型デジタル-アナログ変換器と、
複数の積分型アナログ-デジタル変換器を備え、前記画素からの信号を前記ランプ波と比較してデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換部と
を有し、
前記ランプ波の電圧の時間変化率が変化するときに、前記抵抗型デジタル-アナログ変換器に対して前記電圧の時間変化率に比例するオフセット値が入力されるイメージセンサ。
【請求項2】
前記オフセット値は、前記電圧の時間変化率と応答時定数の積に相当する値である請求項1に記載のイメージセンサ。
【請求項3】
前記抵抗型デジタル-アナログ変換器は、
抵抗の一端がCMOSインバータの出力端に接続され、抵抗の他端が出力端に接続された単位回路が、上位ビットの数分並列接続された上位ビット変換部と、
抵抗の一端がCMOSインバータの出力端に接続され、抵抗の他端が端子間の抵抗に接続された単位回路が下位ビットの数分並列接続された下位ビット変換部
を備える請求項1又は2に記載のイメージセンサ。
【請求項4】
前記単位回路のCMOSインバータは、チャネル長が90nm以下のトランジスタを備える請求項1~3のいずれか1項に記載のイメージセンサ。
【請求項5】
前記抵抗型デジタル-アナログ変換器は、前記アナログ-デジタル変換部にランプ波を供給する信号線の両端に設けられている請求項1~4のいずれか1項に記載のイメージセンサ。
【請求項6】
前記ランプ波の電圧の時間変化率は時刻と共に複数回変化し、前記時間変化率の変化に比例して前記オフセット値も変化させる請求項1~5のいずれか1項に記載のイメージセンサ。
【請求項7】
前記オフセット値は、第1基準電圧と、前記第1基準電圧とは異なる第2基準電圧と、前記ランプ波の電圧が前記第1基準電圧となる第1の時刻と、前記ランプ波の電圧が前記第2基準電圧となる第2の時刻に基づき算出される請求項1~5のいずれか1項に記載のイメージセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イメージセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、代表的なイメージセンサとしてCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサがある。図15は従来のCMOSイメージセンサの構成を示すブロック図である。図15に示すように、従来のCMOSイメージセンサ100は、画素部101に画素101aが水平方向及び垂直方向に2次元的に配置されており、垂直制御回路102がロウアクセス線103のうちの1本を”H”にすることにより、任意の行の画素101aを選択する。
【0003】
そして、選択された行の画素101aは、一斉に画素の明るさに応じた電圧を出力する。この電圧は、画素信号線104を介して、複数の積分型アナログ・デジタル変換器(以下、アナログ・デジタル変換をA/D変換といい、図においてはA/D変換器をADCと示す。)を備えるA/D変換部105の各積分型A/D変換器に入力される。そして、A/D変換部105においてデジタル信号に変換され、水平制御回路106を経て出力端子から出力される。
【0004】
通常、A/D変換は、電流型デジタル・アナログ変換器(以下、デジタル・アナログ変換をD/A変換といい、図においてはD/A変換器をDACと示す。)で発生させたランプ波とカウンタを用いてクロックの回数を計測する積分型A/D変換器でなされる。図16はCMOSイメージセンサに用いられる積分型A/D変換器の基本構成を示す回路図であり、図17はA/D変換器に入力されるランプ波の波形を示す図である。
【0005】
図16に示すように、積分型A/D変換器によりA/D変換を行う場合、先ず、比較器111の入出力間のスイッチSを閉じる。このとき、入力電圧Vinには基準の電圧Vin_0を印加する。通常は、画素101内のソースフォロワのゲートに画素側の基準電圧を加え、ソースの電圧をVin_0とすることが多い。その際、参照電圧Vrefには、D/A変換器の基準出力電圧を与える。このような状態でスイッチSを開き、入力電圧Vinに明るさを反映した画素101からの信号を入力する。
【0006】
次に、図17に示すように、D/A変換器を制御して下降するランプ波を発生させる。カウンタ112では、最初にリセットされてからクロック信号が印加されて、クロック数のカウントが開始される。そして、入力基準電圧と入力電圧Vinの差分と、D/A変換器の基準電圧と参照電圧Vrefの差分信号が一致したところで比較器111の出力が反転してカウンタ112が停止し、この時のカウント値がA/D変換値として出力される。ただし、微弱信号に対する変換精度を確保するため、参照電圧VrefはD/A変換器の基準電圧からVoffだけ一旦上昇したところから下降することが多い。変換時間Tcからオフセット時間Toffを引いた時間は、入力電圧Vinに比例するので、変換時間Tcを用いて入力電圧VinのA/D変換値を得ることができる。
【0007】
ところで、イメージセンサに用いられる積分型A/D変換器はランプ波を必要とするが、このランプ波はD/A変換器で形成されることが多い(例えば、特許文献1~3及び非特許文献1参照)。図18は従来のCMOSイメージセンサに用いられる電流型D/A変換器の構成を示す回路図である。図18に示すように、従来の代表的な電流型D/A変換器には、複数の単位電流源122が設けられている。
【0008】
この電流型D/A変換器では、デコーダ121によりデコードされた入力信号によって制御されたスイッチ123を用いて、電流が流れる方向を負荷抵抗124側又は電源125側のいずれかに切り替えることにより、負荷抵抗124を流れる電流値を制御し、負荷抵抗124に電圧を発生させる。そして、負荷抵抗124を流れる電流を経時的に順次増加させることにより、出力としてランプ波を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2013/122221号
【文献】特開2013-239951号公報
【文献】特開2018-148541号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】S. Yoshihara, et al.、“A 1/1.8-inch 6.4 MPixel 60 frames/s CMOS Image Sensor With Seamless Mode Change”、IEEE Journal of Solid-State Circuits、2006年12月、Vol.41、No.12、pp.2998-3006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述した従来の電流型D/A変換器には、以下に示す課題がある。第1の課題は、消費電力である。図19は電流型D/A変換器の単位電流源の構成を示す回路図である。図19に示すように、電流型D/A変換器の単位電流源には、電流値を決定するトランジスタM、定電流性を増して直線性を向上させるためのカスコードトランジスタM、電流パスを切り替えるスイッチの働きをするトランジスタM,Mが設けられている。
【0012】
COMSイメージセンサの場合、出力電圧Voutの電圧振幅Vは、最大1.2V程度である。トランジスタM,Mは飽和領域で動作する必要があることから、ドレイン・ソース間電圧VDS1,VDS2は、最低でも0.3Vは必要である。従って、電源電圧VDDは、1.8Vは必要ということになる。ここで、負荷抵抗をRとすると、D/A変換器に流れる電流IDACは、下記数式1で表される。
【0013】
【数1】
【0014】
また、D/A変換器の消費電力PDACは、下記数式2で表される。
【0015】
【数2】
【0016】
近年、画素数の増加や要求フレーム数の増加により負荷容量は増加しているが、一定の応答時定数を確保するためには負荷抵抗Rを下げる必要がある。このため、D/A変換器の消費電力は増加する傾向にあり、消費電力の低減が大きな課題となっている。また、イメージセンサは温度に敏感であり、動作温度が上がると暗電流が著しく増加するため、画質の観点からも消費電力は極力抑えたいという要望が強くなっている。
【0017】
第2の課題は、応答速度である。D/A変換器の時間応答特性が不十分であると、イメージセンサの動作の高速化の妨げになる。図20は微小な電圧区間を多数回スイープした場合のランプ波の波形を示す図である。近年、図20に示すような50mV程度の微小な電圧区間を複数回スイープしてA/D変換を行い、得られた変換値の平均を取ることで変換ノイズを低減させる方法が提案されている。しかしながら、この方法は、D/A変換器の時間応答特性が不十分なため、一定時間にA/D変換を多数回行うことが困難である。
【0018】
図21はD/A変換器を用いて形成したランプ波の理想の波形と実際の波形を示す図である。図21に示すように、従来のD/A変換器では、50nsで50mVのランプ波を発生させても、波形歪が生じ、40nsで40mVの領域しか直線性が確保できない。このため、従来のD/A変換器では、よりマージンをとったランプ波を発生させる必要があり高速動作の妨げとなる。
【0019】
そこで、本発明は、低消費電力で、高速かつ高精度で動作するイメージセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、前述した課題を解決するため、イメージセンサにおいてランプ波を発生させるデジタル-アナログ変換器について検討を行い、インバータの出力端に接続された抵抗を並列に接続した抵抗型デジタル-アナログ変換器は、従来の電流源を用いた電流型デジタル-アナログ変換器に比べて本質的に低消費電力であることを見出し、本発明に至った。
【0021】
即ち、本発明に係るイメージセンサは、自然界に存在する物理量を検出して電気信号に変換するセンサ素子を備える複数の画素が行方向及び列方向に2次元配置された画素部と、CMOSインバータの出力端に抵抗が接続された複数の単位回路が並列接続され、ランプ波を生成する抵抗型デジタル-アナログ変換器と、複数の積分型アナログ-デジタル変換器を備え、前記画素からの信号を前記ランプ波と比較してデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換部とを有する。
記抵抗型デジタル-アナログ変換器は、抵抗の一端がCMOSインバータの出力端に接続され、抵抗の他端が出力端に接続された単位回路が、上位ビットの数分並列接続された上位ビット変換部と、抵抗の一端がCMOSインバータの出力端に接続され、抵抗の他端が端子間の抵抗に接続された単位回路が下位ビットの数分並列接続された下位ビット変換部を備えていてもよい。
前記単位回路のCMOSインバータのトランジスタは、チャネル長を90nm以下とすることができる。
前記抵抗型デジタル-アナログ変換器は、前記アナログ-デジタル変換部にランプ波を供給する信号線の両端に設けてもよい。
【0022】
また、本発明者は、デジタル-アナログ変換器によるランプ波発生時の時間応答を解析し、オフセット電圧の制御により波形歪が生じないランプ波の発生方法を見出した。
即ち、本発明のイメージセンサは、前記ランプ波の電圧の時間変化率が変化するときに、前記抵抗型デジタル-アナログ変換器に対して前記電圧の時間変化率に比例するオフセット値が入力される。
前記オフセット値は、例えば前記電圧の時間変化率と応答時定数の積に相当する値とすることができる。
前記ランプ波の電圧の時間変化率が時刻と共に複数回変化する場合、前記時間変化率に比例して前記オフセット値を変化させてもよい。
また、第1基準電圧と、前記第1基準電圧とは異なる第2基準電圧と、前記ランプ波の電圧が前記第1基準電圧となる第1の時刻と、前記ランプ波の電圧が前記第2基準電圧となる第2の時刻に基づいて前記オフセット値を算出してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、抵抗型デジタル-アナログ変換器を用いてランプ波を生成しているため、出力抵抗が同一の電流型D/A変換器に比べて平均消費電力を大幅に低減でき、低消費電力で、高速かつ高精度で動作するイメージセンサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態に係るイメージセンサの構成を示すブロック図である。
図2】Aは図1に示す抵抗型D/A変換器8の構成例を示す回路図であり、Bはそのインバータ81を示す回路図である。
図3図1に示す抵抗型D/A変換器8の消費電流及び消費電力を求めるための回路図である。
図4図1に示す抵抗型D/A変換器8の出力端から見た等価回路を表す回路図である。
図5】D/A変換器の出力電圧に対する電流型D/A変換器の消費電流と、抵抗型D/A変換器の消費電流及び平均消費電流を示すグラフ図である。
図6】ランプ波を発生させるD/A変換器と負荷となる分布RC回路を示す回路図である。
図7】本発明の第1実施形態のイメージセンサにおける分布RC回路とそれを両側から駆動するD/A変換器を示す回路図である。
図8】負荷を考慮したD/A変換器の等価回路を示す回路図である。
図9】本発明の第2の実施形態に係るイメージセンサの抵抗型D/A変換器の構成を示すブロック図である。
図10図9に示す抵抗型D/A変換器28において、ランプ波の電圧の時間変化率が変化するときに一定量のオフセット値を与えた時の出力電圧と容量を有する負荷回路の電圧を示す波形図である。
図11】時間変化率が2回変化するときに補正値を加えない場合の抵抗型D/A変換器の出力電圧VDACと、容量を有する負荷回路の電圧Voutを示す波形図である。
図12】ランプ波の時間変化率が時刻と共に複数回変化し、それに応じてランプ波の電圧の時間変化率が変化するときにオフセット値を変化させたときのD/A変換器の出力電圧と容量を有する負荷回路の電圧を示す波形図である。
図13】キャリブレーション回路の構成を示す図である。
図14図13に示すキャリブレーション回路における出力電圧と基準電圧と時間の関係を示す図である。
図15】従来のCMOSイメージセンサの構成を示すブロック図である。
図16】CMOSイメージセンサに用いられる積分型A/D変換器の基本構成を示す回路図である。
図17】積分型A/D変換器に入力されるランプ波の波形を示す図である。
図18】従来のCMOSイメージセンサに用いられる電流型D/A変換器を示す回路図である。
図19】電流型D/A変換器の単位電流源の構成を示す回路図である。
図20】微小な電圧区間を多数回スイープした場合のランプ波の波形を示す図である。
図21】D/A変換器を用いたランプ波の理想の波形と実際の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0026】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係るイメージセンサについて説明する。図1は本実施形態のイメージセンサの構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態のイメージセンサ10には、複数の画素1aを備える画素部1、画素信号をデジタル信号に変換するA/D変換部5、A/D変換部5に参照電圧となるランプ波を供給する抵抗型D/A変換器8などが設けられている。即ち、本実施形態のイメージセンサ10は、A/D変換部5に供給されるランプ波を生成するD/A変換器に、電流型D/A変換器ではなく、抵抗型D/A変換器8を用いている。
【0027】
また、本実施形態のイメージセンサ10には、例えば図15に示すCMOSイメージセンサと同様に、画素1aに接続されたロウアクセス線3を制御する垂直制御回路2、画素1aに接続され画素信号をA/D変換部5に送る画素信号線4、A/D変換部5で生成したデジタル信号の出力を制御する水平制御回路6、全体制御回路7及びクロック回路9などが設けられていてもよい。
【0028】
[画素部1]
画素部1には、複数の画素1aが行方向及び列方向に2次元配置されている。画素部1の各画素1aは、それぞれ自然界に存在する物理量を検出して電気信号に変換するセンサ素子を備える。ここで、自然界に存在する物理量とは、可視光、赤外光、紫外線、X線、電磁波、電界、磁界、温度、圧力などをいう。
【0029】
[A/D変換部5]
A/D変換部5は、抵抗型D/A変換器8からのランプ波と比較することで、画素部1の各画素1aからの画素信号をデジタル信号に変換するものであり、複数の積分型A/変換器5aで構成されている。
【0030】
[抵抗型D/A変換器8]
図2A図1に示す抵抗型D/A変換器8の構成例を示す回路図であり、図2Bはそのインバータ81を示す回路図である。図2Aに示す抵抗型D/A変換器8では、インバータ81の出力端に抵抗を接続した単位回路が並列に接続されている。また、抵抗型D/A変換器8のインバータ81の電源は、参照電圧VREFを用いているものとする。この抵抗型D/A変換器8では、デコーダ回路82に入力信号が入力され、デコードされた信号が各インバータ81に入力される。
【0031】
抵抗型D/A変換器8は、例えば上位2ビットがサーモメータコードを用いたセグメント型D/A変換器で、下位2ビットがR-2R抵抗ラダーを用いたバイナリ型D/A変換器で構成されており、4ビットのD/A変換器として動作する。上位ビット変換部を構成するセグメント型D/A変換器は、抵抗の他端が出力端に接続された単位回路が、上位ビットの数分並列接続されている。
【0032】
一方、下位ビットの変換を行う下位ビット変換部は、R-2R抵抗ラダーを用いたバイナリ型D/A変換器で構成することができる。バイナリ型D/A変換器は、抵抗の一端がCMOSインバータの出力端に接続され、抵抗の他端が端子間に設けられた抵抗に接続された単位回路が、下位ビット数分並列接続されている。この場合、抵抗値を図2Aに示す比率とすることで、正確な出力電圧が得られる。上位ビットと下位ビットのビット配分は、用途や仕様に応じて適宜設定することができるが、精度と面積の観点から、両者をほぼ等しいビット数とすることが好ましい。
【0033】
インバータ81としては、例えば図2Bに示すNMOSとPMOSを備えるCMOSインバータを用いることができる。従来の電流D/A変換器に用いられるトランジスタは、内部ロジックに用いられる微細なゲートを用いたコアトランジスタではなく、最低1.8Vの耐圧が必要なため、3.3V程度の耐圧のI/Oトランジスタが用いられている。このため、電流D/A変換器は、面積が大きいだけでなく、容量も大きいため高速動作が困難で消費電力も大きい。
【0034】
これに対して、本実施形態のイメージセンサ10で用いる抵抗型D/A変換器8は、トランジスタの耐圧が1.0~1.2V程度で良いため、例えばチャネル長90nm以下のようにチャネル長を最小にすることが可能な微細なコアトランジスタを用いることができる。このように、抵抗型D/A変換器では、小さなトランジスタを用いても十分低いオン抵抗を得ることができるので、良好なD/A変換器の直線性が実現できる。その結果、抵抗型D/A変換器を用いることで、D/A変換器の専有面積や消費電力を低減すると共に、処理を高速化することが可能となる。更に、D/A変換器をこのような構成にすることで、従来の電流型D/A変換器に比べて大幅な消費電力の削減を図ることが可能になる。
【0035】
図3は抵抗型D/A変換器8の消費電流及び消費電力を求めるための回路図であり、図4は抵抗型D/A変換器8の出力端から見た等価回路を表す回路図である。図3に示すように、抵抗型D/A変換器8は、出力端に対して参照電圧VREF側のコンダクタンスをGx、設置側のコンダクタンスをG(1-x)と表わすことができる。このとき、出力抵抗Rは、下記数式3で表され、一定となる。
【0036】
【数3】
【0037】
また、出力電圧Voutは、下記数式4で表され、xに比例する。
【0038】
【数4】
【0039】
従って、図4に示すように、出力抵抗Rが一定のまま出力電圧Voutを変化させることができる。また、電圧源を流れる電流Iは下記数式5で表される。
【0040】
【数5】
【0041】
従って、消費電力Pは、下記数式6で表される。
【0042】
【数6】
【0043】
その結果、抵抗型D/A変換器8に流れる電流はx=0.5で最大となり、その最大電流は上記数式に示した電流型D/A変換器の1/4となる。イメージセンサに用いるD/A変換器は、0から参照電圧VREF間のランプ波を発生させるので、平均電流IAVEは、下記数式7により求められる。
【0044】
【数7】
【0045】
従って、本質的にランプ波を発生させる抵抗型D/A変換器の消費電流は、電流型D/A変換器の1/6と小さい。更に、電流型D/A変換器の場合の電源電圧VDDはVREFよりも0.6V程度高くなるので、参照電圧VREFを1.2V、電源電圧VDDを1.8Vとすると、消費電力比率は下記数式8で算出される。
【0046】
【数8】
【0047】
図5はD/A変換器の出力電圧に対する電流型D/A変換器の消費電流と、抵抗型D/A変換器の消費電流及び平均消費電流を示すグラフ図である。図5及び数式8に示すように、抵抗型D/A変換器を用いると、同一の出力抵抗であっても、電流型D/A変換器に対して1/9の消費電力にすることができる。
【0048】
CMOSイメージセンサにおいては、暗いシーンの撮像を高品質にするために、図20に示すように0~50mV程度の信号のみを変換し、場合によってはノイズの低減のために複数回のランプ波の掃引を行い、多数回変換してその平均値を取ることが行われることもある。この場合、その振幅をフルスケールのβ倍とすると,抵抗型D/A変換器の消費電流は、下記数式9で表される。
【0049】
【数9】
【0050】
上記数式9において、例えβを0.05とすると、β/2は0.025となり、平均電流は上記数式7に示したフルスケールを掃引したときの電流に比べて0.15倍となり、きわめて小さな消費電流になる。
【0051】
一方、電流型D/A変換器の場合は、掃引レベルによらず電流は一定のため、このような消費電流の低減はできない。従って、抵抗型D/A変換器をCMOSイメージセンサに用いることは消費電力の低減において極めて有益である。場合によっては、フルスケールの掃引を行うD/A変換器の他に図20に示した部分的な電圧の掃引を行うD/A変換器を設ける場合もあるが、そのようなD/A変換器を設けたとしても抵抗型D/A変換器を用いることにより、消費電力の増大を極めて効果的に抑制できる。
【0052】
図15に示すように、CMOSイメージセンサにおいては、D/A変換器の出力は空間的に分布した多数の比較器に供給されている。図6はランプ波を発生させるD/A変換器と負荷となる分布RC回路を示す回路図である。負荷回路は、正確には図6に示すように抵抗と容量が分布しているRC分布定数回路になる。このため、D/A変換器の駆動端と開放端では信号が遅延し、振幅の減少が発生する。ここで、単位長さあたりの抵抗をR、容量をC、長さをLとすると、RC分布定数回路の基準時定数τは、下記数式10で表される。
【0053】
【数10】
【0054】
この基準時定数τが長いほど影響が大きい。図7は本実施形態のイメージセンサにおける分布RC回路とそれを両側から駆動するD/A変換器を示す回路図である。本実施形態のイメージセンサ10においては、図7に示すように比較器へのランプ波の供給を両側から行ってもよい。これにより、各D/A変換器に対するRC分布定数回路の長さLが等価的に1/2になるため、時定数は1/4に短縮され、その影響を低減することができる。その結果、より高精度なA/D変換や高速なA/D変換を実現することができる。また、各D/A変換器の負荷容量は、等価的に1/2になり、出力抵抗は2倍でも良いため、全体の消費電力の増加はほとんど生じない。
【0055】
以上詳述したように、本実施形態のイメージセンサは、CMOSインバータの出力端に抵抗を接続した単位回路を並列に接続してランプ波を発生させる抵抗型D/A変換器と、画素からの信号とランプ波を比較してデジタル値に変換する複数のA/D変換器で構成されるA/D変換部を備えているため、従来のCMOSイメージセンサに比べて、消費電力を大幅に低減できる。
【0056】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るイメージセンサについて説明する。図8は負荷を考慮したD/A変換器の等価回路を示す回路図である。CMOSイメージセンサに設けられるD/A変換器の課題の1つは、高速なランプ波の発生である。図21に示すようにD/A変換器では、波形の歪によって有効に使用できる時間範囲が限られるため、高速変換が困難になる。その原因は、図8に示すように回路に容量Cが存在することによる。このような回路にランプ波を入力したときの応答は、下記数式11で表される。
【0057】
【数11】
【0058】
また、上記数式11で表される波形を入力とする負荷回路における電圧Voutをラプラス変換すると、下記数式12となる。
【0059】
【数12】
【0060】
そして、上記数式12にラプラス逆変換をかけて時間応答を求めると、下記数式13となる。
【0061】
【数13】
【0062】
上記数式13においては、第1項が理想のランプ波を表し、第2項が電圧エラーを表している。この電圧エラーはステップ波の応答を表しているので、オフセット電圧Voffは下記数式14で表される。
【0063】
【数14】
【0064】
これにより、D/A変換器の出力電圧が変化するときに上記数式14で表されるオフセット電圧Voffを加えると、出力電圧の変化をキャンセルできることがわかる。図9は本実施形態のイメージセンサにおける抵抗型D/A変換器の構成を示すブロック図である。そこで、本実施形態のイメージセンサでは、D/A変換器においてランプ波を生成する際に、設定された初期値に対してクロックの加算又は減算を行うのではなく、図9に示すように、上記数式14で表されるオフセット電圧Voffに相当する補正値(オフセット値)を加えてからクロックの加算又は減算を行う。これにより、高速なランプ波の発生の問題を解決することができる。
【0065】
図10図9に示す抵抗型D/A変換器28において、ランプ波の電圧の時間変化率が変化するときに一定量のオフセット値を与えた時の出力電圧VDACと容量を有する負荷回路の電圧Voutを示す波形図である。図10に示すように、電圧の時間変化率が変化するときにオフセット電圧Voffに相当する補正値を加えることで、正確なランプ波を発生できることが分かる。
【0066】
また、ランプ波の時間変化率が時刻と共に複数回変化する場合でも、それに応じてオフセット値を変化させることで正確なランプ波を発生させることができる。図11は時間変化率が2回変化するときに補正値を加えない場合の抵抗型D/A変換器の出力電圧VDACと、容量を有する負荷回路の電圧Voutを示す波形図である。図11に示すように、ランプ波が発生したときを0sとすると、この時に時間変化率が変化して誤差Verrorが発生し、波形歪が生じる。50nsに時間変化率を4倍に引き上げたところ、大きな誤差Verrorが発生し、大きな波形歪が生じた。
【0067】
図12はランプ波の時間変化率が時刻と共に複数回変化し、それに応じてランプ波の電圧の時間変化率が変化するときにオフセット値を変化させたときのD/A変換器の出力電圧VDACと容量を有する負荷回路の電圧Voutを示す波形図である。図12に示すように、ランプ波が発生したときを0sとすると、この時に時間変化率が変化して誤差Verrorは0である。50nsに時間変化率を4倍に引き上げたところ、補正値を変化せることで誤差Verrorが0となり、波形歪は発生せず、この方法が効果的に波形歪を抑制できることがわかる。
【0068】
このように、CMOSイメージセンサに時刻と共に時間変化率が複数回変化するランプ波を用いた場合は、信号強度がある程度強くなったらランプ波の変化率を大きくすることで、変換時間を短縮してフレームレートを上げることができる。これにより、高速化又は変換時間短縮による低消費電力化を実現することができるという利点がある。
【0069】
一方、前述した方法を実際のイメージセンサに適用するには、負荷の時定数をあらかじめ求めることは困難であるため、キャリブレーション回路が必要となる。図13はキャリブレーション回路の構成を示す図であり、図14はその出力電圧と基準電圧と時間の関係を示す図である。図13に示すように、キャリブレーション回路は、負荷回路に表れる抵抗型D/A変換器28の出力電圧と、2種類の基準電圧(第1基準電圧,第2基準電圧)、補正用A/D変換器23、補正論理回路24で構成されている。
【0070】
図14では理想的なランプ波を破線で示している。時刻0のときの電圧を0とすると、図14に実線で示すように実際の応答はRC時定数によりシフトする。電圧は正であるが、負の部分の破線は補助線を表している。このような状態において、時刻Tにおける電圧をV、時刻Tにおける電圧をVとすると、オフセット電圧Voffは下記数式15により求められる。
【0071】
【数15】
【0072】
従って、本実施形態のイメージセンサでは、上記数式15により算出されたオフセット電圧Voffを補正値として加えればよい。具体的には、図13に示すように、抵抗型D/A変換器28の出力を基準電圧V,Vと比較し、そのときの時間情報を出力する比較器21とカウンタ22で構成されるタイムドメインの補正用A/D変換器23を用いてカウンタ値から時刻T,Tを求める。そして、上記数式15から補正値を算出し、補正論理回路24から必要なオフセット電圧(オフセット値)を出力する。
【0073】
なお、抵抗型D/A変換器28の入力値を出力する加減算器20に、補正論理回路24で求めた補正値を供給し、再度抵抗型D/A変換器28の出力を基準電圧V,Vと比較して、補正用A/D変換器23を用いてカウンタ値から時刻T,Tを求めることにより、漸近的に理想値に近づけた方がより正確であることは言うまでもない。また2つの電圧と2つの時刻を用いずに、1つの電圧と1つの時刻から補正値を算出することも可能であるが、この場合は、比較器のオフセット電圧や遅延による誤差が生じやすい。このため、2つの電圧と2つの時刻を用いる方法の方が正確である。
【0074】
このように、本実施形態のイメージセンサにおける抵抗型D/A変換器は、ランプ波の電圧の時間変化率が変化するときに一定量のオフセット値を与えることにより、ランプ波の波形歪を低減して、高精度でかつ高速なA/D変換を実現することができる。なお、本実施形態のイメージセンサにおける上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0075】
また、前述した第1及び第2の実施形態においては、CMOSイメージセンサを例に説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、他の用途の二次元イメージセンサに対しても適用可能である。更に、本発明のイメージセンサは、赤外線センサ、テラヘルツセンサ、磁気センサ及び圧力センサなどを含む。
【符号の説明】
【0076】
1、101 画素部
1a、101a 画素
2、102 垂直制御回路
3、103 ロウアクセス線
4、104 画素信号線
5、105 A/D変換部
5a 積分型A/D変換
6、106 水平制御回路
7 全体制御回路
8、28 抵抗型D/A変換器
9 クロック回路
10、100 CMOSイメージセンサ
20 減加算器
21、111 比較器
22、112 カウンタ
23 補正用A/D変換器
24 補正論理回路
81 インバータ
82 デコーダ回路
121 デコーダ
122 電流源
123 スイッチ
124 負荷抵抗
125 電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21