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特許7333063センシングデータ圧縮装置およびセンシングデータ復元装置およびセンシングデータ伝送装置およびセンシングデータ圧縮プログラムおよびセンシングデータ復元プログラムおよびセンシングデータ伝送プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】センシングデータ圧縮装置およびセンシングデータ復元装置およびセンシングデータ伝送装置およびセンシングデータ圧縮プログラムおよびセンシングデータ復元プログラムおよびセンシングデータ伝送プログラム
(51)【国際特許分類】
   H03M 7/30 20060101AFI20230817BHJP
【FI】
H03M7/30 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019211362
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021083036
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-06-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度 総務省、異システム間の周波数共用技術の高度化に関する研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】田久 修
(72)【発明者】
【氏名】白井 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】不破 泰
(72)【発明者】
【氏名】山本 健一郎
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087829(JP,A)
【文献】特開2019-092099(JP,A)
【文献】Poekaew,Patcharapol et al.,“Adaptive-PCA: An event-based data aggregation using principal component analysis for WSNs”,2015 International Conference on Smart Sensors and Application (ICSSA),2015年,p.50-55,DOI: 10.1109/ICSSA.2015.7322509
【文献】Abdallah JARWAN etal.,“Data Transmission Reduction Schemes in WSNs for Efficient IoT Systems”,IEEE Journal on Selected Areas in Communications,2019年06月,Vol. 37, No. 6,p.1307-1324,DOI: 10.1109/JSAC.2019.2904357
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 7/30
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のエリアにおける任意の位置から送信される無線端末の信号より前記エリアに設置された複数のセンサが検知した物理量の空間分布情報を送信するセンシングデータ圧縮装置であって、
前記空間分布情報から基底セットパターン集合に基づいて重み集合情報を作成するユニットと、
前記空間分布情報に代えて前記重み集合情報の全部または一部の要素を送信するユニットを備え、
さらに前記基底セットパターン集合は、予め前記エリアにおける複数の位置から送信された既存無線局の信号の物理量を前記複数のセンサが検知して得たデータ集合に基づく空間分布情報集合の主成分分析を実行するユニットにより、予め取得されたものであることを特徴とする、センシングデータ圧縮装置。
【請求項2】
前記主成分分析を実行するユニットは、前記空間分布情報集合を中心化するユニットと、前記中心化された空間分布情報集合から共分散行列を生成するユニットと、前記共分散行列を固有値分解するユニットを備えたことを特徴とする請求項1に記載のセンシングデータ圧縮装置。
【請求項3】
前記重み集合情報の要素を送信するユニットは、前記重み集合情報を構成する要素の絶対値を評価し、当該絶対値の大きい順に要素を選択して送信するものであって、送信する前記要素の数の上限が全要素の内の上位25%乃至50%の範囲にあることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のセンシングデータ圧縮装置。
【請求項4】
前記物理量は電波強度であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のセンシングデータ圧縮装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のセンシングデータ圧縮装置より送信された重み集合情報から前記空間分布情報を復元するセンシングデータ復元装置であって、
予め保持されている前記エリアに係る基底セットパターン集合を前記重み集合情報を用いて重み付け演算するユニットを備えたことを特徴とする、センシングデータ復元装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のセンシングデータ圧縮装置と請求項5に記載のセンシングデータ復元装置を備えた、センシングデータ伝送装置。
【請求項7】
所定のエリアにおける任意の位置から送信される無線端末の信号より前記エリアに設置された複数のセンサが検知したデータに基づく空間分布情報に係る圧縮情報を生成するセンシングデータ圧縮プログラムであって、
前記空間分布情報から基底セットパターン集合に基づいて重み集合情報を作成するステップと、
前記空間分布情報に代えて前記重み集合情報の全部または一部の要素を送信するステップを含み、
さらに前記基底セットパターン集合は、予め前記エリアにおける複数の位置から送信された既存無線局の信号の物理量を前記複数のセンサが検知して得たデータ集合に基づく空間分布情報集合の主成分分析を実行するステップにより、予め取得されたものであることを特徴とする、センシングデータ圧縮プログラム。
【請求項8】
前記主成分分析を実行するプログラムは、前記空間分布情報集合を中心化するステップと、前記中心化された空間分布情報集合から共分散行列を生成するステップと、前記共分散行列を固有値分解するステップを含むことを特徴とする請求項7に記載のセンシングデータ圧縮プログラム。
【請求項9】
前記重み集合情報の要素を送信するステップは、前記重み集合情報を構成する要素の絶対値を評価し、当該絶対値の大きい順に要素を選択して送信するものであって、送信する前記要素の数の上限が全要素の内の上位25%乃至50%の範囲にあることを特徴とする請求項7または請求項8のいずれかに記載のセンシングデータ圧縮プログラム。
【請求項10】
前記物理量は電波強度であることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれかに記載のセンシングデータ圧縮プログラム。
【請求項11】
請求項7から請求項10のいずれかに記載のセンシングデータ圧縮プログラムより生成された重み集合情報から前記空間分布情報を復元するセンシングデータ復元プログラムであって、
予め保持されている前記エリアに係る基底セットパターン集合を前記重み集合情報を用いて重み付け演算するステップを含むことを特徴とする、センシングデータ復元プログラム。
【請求項12】
請求項7から請求項10のいずれかに記載のセンシングデータ圧縮プログラムまたは請求項11に記載のセンシングデータ復元プログラム含む、センシングデータ伝送プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間的な空き周波数リソースの探知に向けた、センシングデータ圧縮装置およびセンシングデータ復元装置およびセンシングデータ伝送装置およびセンシングデータ圧縮プログラムおよびセンシングデータ復元プログラムおよびセンシングデータ伝送プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
物体の状態を認識するセンサに無線機能を取り付けることで、インターネット上でセンサ情報を記録し、状態モニタや機器制御、課金情報の収集などを行う技術は、近年、Machine to Machine (M2M) Communications やInternet of Things (IoT)と呼ばれ、幅広い方面への応用が検討されている。特にセンサ情報収集用の無線通信は、無線センサネットワーク(WSN)と呼ばれている。
【0003】
こういったIoT技術等の普及に伴い、2.4GHz帯付近のいわゆるアンライセンスバンドと称される周波数帯の使用頻度が増加する傾向にある。アンライセンスバンドは管理者が無くしかも無線局免許の取得が不要であり、ユーザが自由に周波数リソースを共有することができる。しかしその一方、帯域が非常に限られている(100MHz程度)。そこで、空間的な空き周波数リソースの探査および周波数リソースの有効利用に関する技術が研究開発されている。
【0004】
例えば、屋外に固定された受信装置の各周波数帯において受信した電波の受信電力に基づいて、各周波数帯の電波を使用する装置が存在する範囲を推定し、特定されるエリアを表示するマップ情報を表示し、空き周波数リソースの探査に使用する方法が検討されている(特許文献1)。
【0005】
また、LPWAにおいては、周波数を共有する端末数が増加した場合、パケット衝突が発生する頻度が増え、これを防ぐために、実観測型スペクトラムデータベースと連携し、他システムへの干渉時間比率およびアップリンク通信時のパケットロス率を許容値以下に抑える検討もなされている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-118078号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】山崎悠大、藤井威生、田久修、太田真衣、安達宏一、スペクトラムデータベースを活用したLPWA向け周波数共用手法の検討、信学技報、vol.119、no.62、SR2019-10、pp.63-68、2019年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、エリア内のセンサ群が測定した電波強度等のデータを集めてエリアマップ情報等として基地局にリアルタイムで送信する場合、周波数リソースを少なからず消費することになる。しかも、リアルタイム性が要求されるほど、言い換えれば遅延の低減が要求されるほど、エリアマップ情報の送信頻度が増え、限りある周波数リソースをさらに圧迫する、といった矛盾が生じる。そこで前記エリアマップの情報量をいかに低減するかが重要となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係るセンシングデータ圧縮装置は、所定のエリアにおける任意の位置から送信される無線端末の信号より前記エリアに設置された複数のセンサが検知した物理量の空間分布情報を送信するセンシングデータ圧縮装置であって、前記空間分布情報から基底セットパターン集合に基づいて重み集合情報を作成するユニットと、前記空間分布情報に代えて前記重み集合情報の全部または一部の要素を送信するユニットを備え、さらに前記基底セットパターン集合は、予め前記エリアにおける複数の位置から送信された既存無線局の信号の物理量を前記複数のセンサが検知して得たデータ集合に基づく空間分布情報集合の主成分分析を実行するユニットにより、予め取得されたものであることを特徴とする。
【0010】
前記主成分分析を実行するユニットは、前記空間分布情報集合を中心化するユニットと、前記中心化された空間分布情報集合から共分散行列を生成するユニットと、前記共分散行列を固有値分解するユニットを備えていてもよい。
【0011】
前記重み集合情報の要素を送信するユニットは、前記重み集合情報を構成する要素の絶対値を評価し、当該絶対値の大きい順に要素を選択して送信するものであって、送信する前記要素の数の上限が全要素の内の上位25%乃至50%の範囲にあってもよい。
【0012】
前記物理量は電波強度であってもよい。
【0013】
本開示の一態様に係るセンシングデータ復元装置は、前記センシングデータ圧縮装置より送信された重み集合情報から前記空間分布情報を復元するセンシングデータ復元装置であって、予め保持されている前記エリアに係る基底セットパターン集合を前記重み集合情報を用いて重み付け演算するユニットを備えたことを特徴とする。
【0014】
本開示の一態様に係るセンシングデータ伝送装置は、前記センシングデータ圧縮装置と前記センシングデータ復元装置を備えていてもよい。
【0015】
本開示の一態様に係るセンシングデータ圧縮プログラムは、所定のエリアにおける任意の位置から送信される無線端末の信号より前記エリアに設置された複数のセンサが検知したデータに基づく空間分布情報に係る圧縮情報を生成するセンシングデータ圧縮プログラムであって、前記空間分布情報から基底セットパターン集合に基づいて重み集合情報を作成するステップと、前記空間分布情報に代えて前記重み集合情報の全部または一部の要素を送信するステップを備え、さらに前記基底セットパターン集合は、予め前記エリアにおける複数の位置から送信された既存無線局の信号の物理量を前記複数のセンサが検知して得たデータ集合に基づく空間分布情報集合の主成分分析を実行するステップにより、予め取得されたものであることを特徴とする。
【0016】
前記主成分分析を実行するプログラムは、前記空間分布情報集合を中心化するステップと、前記中心化された空間分布情報集合から共分散行列を生成するステップと、前記共分散行列を固有値分解するステップを含んでもよい。
【0017】
前記重み集合情報の要素を送信するステップは、前記重み集合情報を構成する要素の絶対値を評価し、当該絶対値の大きい順に要素を選択して送信するものであって、送信する前記要素の数の上限が全要素の内の上位25%乃至50%の範囲にあってもよい。
【0018】
前記物理量は電波強度であってもよい。
【0019】
本開示の一態様に係るセンシングデータ復元プログラムは、前記記載のセンシングデータ圧縮プログラムより生成された重み集合情報から前記空間分布情報を復元するセンシングデータ復元プログラムであって、予め保持されている前記エリアに係る基底セットパターン集合を前記重み集合情報を用いて重み付け演算するステップを含むことを特徴とする。
【0020】
本開示の一態様に係るセンシングデータ伝送プログラムは、前記データ圧縮プログラムと前記センシングデータ復元プログラムを含む。
【発明の効果】
【0021】
本開示の一態様によれば、任意のエリアにおけるエリアマップ情報(空間分布情報)を、そのエリア特有の地形、建物、気候が反映された基底セットパターン集合を用いて固有値分解し、その固有値の全部または一部を送信することにより、エリアマップ情報の伝送に要する周波数リソースを大幅に削減することができる。その結果、時々刻々と変化するエリアマップ情報のリアルタイム伝送も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示の実施の形態の全体の概念図(センシング情報の伝送)である。
図2】本開示の実施の形態のフローチャート(重み集合情報wの生成と送信)である。
図3】本開示の実施の形態の概念図(基底セットパターンUの生成と送信)である。
図4】本開示の実施の形態のフローチャート(基底セットパターンUの生成と送信)である。
図5】本開示の実施の形態のフローチャート(センシング情報の復元)である。
図6】本開示の一実施例におけるシミュレーションの建物配置図である。
図7】本開示の一実施例におけるシミュレーションの送受信点の配置図である。
図8】本開示の一実施例におけるシミュレーションの概念図である。
図9】本開示の一実施例におけるシミュレーション結果(電波強度分布)である。
図10】本開示の一実施例におけるシミュレーション結果(重み集合要素の絞り込み)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の一態様に係る実施の形態(以降、本実施の形態)について説明する。図1は本実施の形態の概念図を示す。図1において、所定のエリアの任意の位置に無線端末4(スマートフォン等)が既存無線局として所定の周波数を占有しているとする。同エリアには複数のセンサ5a~5fが設置されている。前記センサ5a~5fは、それぞれ検知した無線端末4の送信する信号の電波強度をデータとして中継局3に送る。
【0024】
(センシングデータ圧縮)
センシング情報圧縮装置1は中継局3が収集したセンサ5a~5fのデータを並べて電波強度の空間分布情報(ベクトル)xを作成し、さらにこの空間分布情報から重み集合情報(ベクトル)wを生成する。センシング情報圧縮装置1は中継局3の機能の一部であってもよいし、中継局3にインターフェースを介して接続されたものであってもよい。本実施の形態においては、センシング情報圧縮装置1はさらにプロセッサ100を有しており、プロセッサ100は図2のフローチャートで表されるプログラムを実行する。以下、詳細に説明する。
【0025】
まず、センサ5a~5fから、中継局3を介して、それぞれデータを受け取る(S101)。次に、これらのデータを並べて空間分布情報xを生成する(S102)。なお、空間分布情報xは(x、x、・・xのようにベクトル(N×1の行列)で表わされるとする。ここでNは中継局3が受信したセンサ5a~5fの信号の総数である。後述の実施例ではN=70としている。次に、この空間分布情報xから重み集合情報wを作成する(S103)。重み集合情報wは、中継局3を介して、チャネル割り当てを行う基地局等に送信される(S104)。
【0026】
重み集合情報wの演算は、例えば下記式(1)を用いて実行される。


ここで、Aは予め前記エリアにおける複数(K箇所)の位置から送信された既存無線局40の電波等をセンサ5a~5f(N個)が検知して得たデータ集合に基づく空間分布情報集合を表し、Uは空間分布情報集合Aを主成分分析することにより求めた基底セットパターン集合を表す。以下、空間分布情報集合Aおよび基底セットパターン集合Uについて図3および図4を用いて説明する。
【0027】
(空間分布情報集合Aと基底セットパターン集合Uの生成)
図3において、40は電波環境測定用の既存無線局であり、エリア内の複数(K個)の送信ポイントにおいて所定周波数の試験電波を送信する。既存無線局40はK個の送信ポイントを循環してもよいし、予めK個の地点に分散配置され、順次試験電波を送信するものであってもよい。後述の実施例ではK=70としている。本実施の形態において、空間分布情報集合Aと基底セットパターン集合Uの生成は、いずれもプロセッサ100により、図4のフローチャートで表されるプログラムにより実行されるものとする。
【0028】
センシング情報圧縮装置1は送信ポイントごとに、中継局3を介して、センサ5a~5fのデータを受け取り(S140)、送信ポイントごとにセンサ5a~5fのデータの集合体を並べて空間分布情報集合Aを生成する(S150)。空間分布情報集合AはN×Kの行列((a11,a12,・・a1K),(a21,・・),・・・,(aN1,・・aNK))で表すことができる。ここでNは中継局3が受信したセンサ5a~5fの信号の総数であり、Kは既存無線局40が試験電波を送信したポイントの個数である。
【0029】
センシング情報圧縮装置1は、次に、空間分布情報集合Aの主成分分析を行い(S160)、基底セットパターン集合Uを抽出する。主成分分析は、空間分布情報集合(行列)Aの中心化(S161)、共分散行列の生成(S162)、および共分散行列の固有値分解(S163)の3段のステップを含む。まず、中心化は以下の式(2)を用いて実行される。


ここで、mean()は、空間分布情報集合(行列)Aの各行の要素の平均値(重心)のベクトル(Σk=1,K 1k ,Σk=1,K 2k ,・・,Σk=1,K Nk)/Kを演算する関数を意味し、式(2)は行列Aの各行の要素(ank)からその行の平均値(Σk=1,K nk/K)を差し引く処理を意味する。次に、以下(3)式を用いて共分散行列Cを生成する。


さらに、この共分散行列Cは、固有値が対角線上に配された対角行列Dと固有ベクトル群よりなる行列Vを用いて、以下の式(4)のように分解することができる。

【0030】
次に、このように得られた対角行列Dと固有ベクトル行列Vから基底セットパターン集合Uを生成する(S170)。例えば、以下式(5)のように、基底セットパターン集合Uを定義する。


すると、中心化された空間分布情報集合Aは式(6)のように変形することができる。

【0031】
さらに、重み集合を以下の式(7)のように定義することにより、


空間分布情報集合Aは以下の式(8)のように書き表せる。

【0032】
以上のように求められた基底セットパターン集合Uは、基地局等に設けられたデータベース20に適宜送信される(S180)。併せてmean(A)を送信してもよい。このときリアルタイム性は不要である。つまり、基底セットパターン集合Uはセンサ5a~5fが属するエリアの地形もしくは建物、あるいは天候によって決定されるものであり、変動するとしても分単位であることが多く、データベースの更新も分単位で行えば十分と考えられる。あるいは、データベースが無線端末から事前に収集したセンシングデータを用いて、パターン集合Uを形成してもよい。なお、既存無線局40を用いた基底セットパターン集合Uの生成ステップによって得られた重み集合W(行列)については特に送信する必要はない。
【0033】
(センシングデータ復元)
無線端末4がエリア内の任意の位置で発した電波をセンサ5a~5fが検知したした場合、式(1)により演算された重み集合情報(ベクトル)w(=(w1、w2、・・wN)のみを基地局にリアルタイムに送信すればよい。基地局側にはセンシングデータ復元装置2が設けられており、センシングデータ復元装置2内のプロセッサ200が図5のフローチャートで表されるプログラムを実行させて、空間分布情報x(=(x1、x2、・・xN)を復元する。
【0034】
まず、中継局3から重み集合情報wを受け取り(S201)、次にデータベース20から対応する基底セットパターン集合Uを読み出し(S202)、最後に重み付け演算を実行する(S203)。重み付け演算は、例えば以下の式(9)のように実行される。

【0035】
なお、重み集合情報wは、言い換えれば、基底セットパターン集合(行列)Uを構成する基底セットパターンベクトル(u1、u2、・・uN)のうち、どのベクトルをどれだけ使って、無線端末4による空間分布情報を復元できるかを示す情報である。よって、N個の要素のうち、ゼロあるいはゼロに近い要素もあるので、多少の誤差が許されるのであれば、全要素を送信しなくとも、適当に足切りをして、要素を絞り込んで送信してもよい。
【0036】
例えば、重み集合情報wの各要素の絶対値を評価し、絶対値の大きい順に送信してもよい、後述の実施例によれば、上位25%(N=70個中18個)の要素に絞って伝送しても誤差率10%強に収まる。N個の要素のうち送信する要素の数を増やせば誤差率は低減するが、送信情報の削減効果と誤差率の改善効果とのトレードオフから、送信する要素の数の上限は上位50%程度としておくのが好ましい。
【0037】
ただ、重み集合wの要素を並び替えた場合、その並び替えの情報も基地局側に知らせねばならず、若干のオーバーヘッドが生じる。例えば、wの集合の一部の要素を送る際に、wの何番目の要素を送ったかの情報をヘッダー等に含ませる必要がある。しかし、高々数バイト増える程度であり、全体の削減量と比べれば十分に小さいと考えられる。
【0038】
以上、本実施の形態について説明した。なお、本実施の形態ではセンシングデータの圧縮と復元はそれぞれプロセッサ100とプロセッサ200に組み込まれたプログラムによって実行されるとしたが、処理の全部または一部をハードウェアまたはFPGAを用いたユニットで構成されてもよい。
【実施例
【0039】
以下、本開示の実施例について説明する。本実施例では市街地モデル(図6)を用いたレイトレーシングによるシミュレーションとその結果を示す。シミュレーションの条件を表1に示す。

【表1】
既存無線局(FPU)の位置は70カ所、センサの数も70個とした。参考までに、試験用の既存無線局の送信位置とセンサの配置図を図7のそれぞれ(a)と(b)に示す。なお、図7(a)において、試験用の既存無線局の送信位置が71点存在しているが、シミュレーション実行時、#64(図右下)は使用していないため、実質送信位置は70カ所となっている。
【0040】
図8に、既存無線局40が順次位置を変えて3カ所から送信した試験電波を70個のセンサが検知したときの電波強度の分布と、これらを集めて空間分布情報集合Aが生成される様子を、概念的に示す。先述のように、空間分布情報集合AはN×K=70×70の行列を成し、既存無線局の任意の位置における70個のセンサの出力はそれぞれ1本の列上に配置される。また、無線端末4が2350MHzの周波数を使用しているときの同市街地モデルにおける電波強度をレイトレーシングを用いて計算した例を図9に示す。
【0041】
図10に、重み集合情報(ベクトル)wの要素のうち絶対値の大きいものから絞り込んだときの空間分布情報xの復元率を計算したグラフを示す。横軸は誤差率を、縦軸は累積分布(CDF)である。グラフ中の数値(%表示)はwの要素のうち絶対値が大きい順に何%まで絞り込んだか(それら以外を足切りしたか)を示す。例えば、絶対値が大きい順に33%までのwを伝送した場合(残りを足切りした場合)でも、すべての空間分布情報が誤差率10%以下で復元できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、例えば、アンライセンスバンドにおける空き周波数リソースの探査に用いることができる。また、ライセンスバンドにおいても、周波数の共用化が行われる場合などに用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 センシング情報圧縮装置
2 センシング情報復元装置
20 データベース
3 中継局
4 無線端末
40 既存無線局
5a~5f センサ
100 プロセッサ
200 プロセッサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10