(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】高周波加熱装置用の加熱コイル
(51)【国際特許分類】
H05B 6/44 20060101AFI20230817BHJP
H05B 6/42 20060101ALI20230817BHJP
H05B 6/36 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
H05B6/44
H05B6/42
H05B6/36 F
(21)【出願番号】P 2021176905
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2022-04-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 展示日時:令和 3年 4月 7日 展示会名:名古屋ものづくりワールド2021 第3回名古屋 次世代3Dプリンタ展 開催場所: ポートメッセ名古屋
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522455940
【氏名又は名称】ティーケーエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【氏名又は名称】井上 敬也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 英昭
(72)【発明者】
【氏名】阿部 一博
【審査官】吉澤 伸幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-181828(JP,A)
【文献】特開2010-065313(JP,A)
【文献】特開平09-035892(JP,A)
【文献】特開2021-170443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/44
H05B 6/42
H05B 6/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電流による電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための高周波加熱装置に用いる加熱コイルであって、
三次元データに基づいて電導物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法を用いて一体的に形成されたものであり、
高周波電流を通電させる電極に当着させるための一対の板状の接地部と、
前記各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部と、
それらの支持部の先端同士を繋ぐように設けられた環状の加熱部とを有しており、
前記環状の加熱部が、異なる高さ位置において水平に配置される複数の周状加熱体を、鉛直状に配置される複数の柱状加熱体によって連結した形状を有しているとともに、
前記電導物質が、98.71~99.45質量%の銅と、0.50~1.00質量%のクロムと、0.05~0.25質量%のジルコニウムとを含有する高銅合金
であり、かつ、
前記各接地部、前記各支持部および前記加熱部の内部に、冷却用の媒体を流下させるための一連の冷却媒体流下路が形成されており、なおかつ、その冷却媒体流下路が、左右の各支持部の内部において分岐し別々に同側の接地部の内部に導かれた後に1本に結束した形状を有するものであることを特徴とする高周波加熱装置用の加熱コイル。
【請求項2】
前記環状の加熱部が、5個に分割された周状加熱体を、4本の柱状加熱体によって連結したものであることを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置用の加熱コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電流による電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための高周波加熱装置に用いられる加熱コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製の被加工物(ワーク)の表面際の部分の硬さを高めるために、金属の変態点(オーステナイト変態点)以上の温度まで被加工物の表面を加熱した後に急冷する加工(所謂、焼入れ加工)が行われている。また、そのような焼き入れ加工を行うための方法として、高周波加熱装置を用いて、高周波電流を流した金属製の部材(加熱コイル)を被加工物の表面に近接させることによって被加工物を加熱する方法(所謂、高周波誘導加熱処理)が広く採用されている。そして、当該高周波誘導加熱処理に用いられる加熱コイルには、通常、高周波電源に接地させる一対の接地部、被加工物に外嵌させるための環状の加熱部、および、それらの接地部と加熱部とを連結する(繋ぐ)ための一対の支持部が設けられている。さらに、高周波電流を流したときに過度に発熱する事態を抑制するために、環状の加熱部の内部に、水等の冷却媒体を流下させるための冷却水通路が設けられている。
【0003】
また、高周波誘導加熱処理を利用して、軸状(円柱状、球状、円環状、大径部と小径部とが連続した形状等)の被加工物に焼き入れ加工を施す場合には、被加工物の周面に均一に焼き入れがなされるように、被加工物を中心軸の回りに回転させながら、焼き入れ加工が施されることがある。しかしながら、単純な円環状の加熱部を有する加熱コイルを利用して、大径部と小径部とが連続した軸状の被加工物に焼き入れ加工を施すと、
図8の如く、環状の加熱部Hcが溝肩部に近い位置で磁束Fを発生させ続けることに起因したエッジ効果により溝肩部(被加工物の径が変化している部分)に多量の渦電流Eが流れることによって、被加工物Wの溝肩部が過度に加熱されてしまい、結晶粒の粗大化によって脆くなる虞がある。それゆえ、そのような事態を防止するために、被加工物Wの軸方向に誘導電流を流させるような複雑な形状を有する環状の加熱部を備えた加熱コイルを利用して被加工物に焼き入れ加工が施される(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-161218号公報
【文献】特開2015-10260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2の如き従来の加熱コイルは、環状の加熱部が複雑な形状であるにも拘わらず、加熱部内に冷却水通路を設ける必要から複数の部品を銀ロウ等で接着することによって形成しなければならないため、高い出力条件の下で(高電圧の高周波電源を印可する加工条件で)使用し続けると、破損して冷却媒体が漏れ出す事態が発生し易い。さらに、上記した従来の加熱コイルは、複数の部品をロウ付けすることによって形成しなければならないため、製造時に同一特性のものを再現性良く製造することが困難であり、そのことに起因して、加熱される被加工物の品質にバラツキを生じてしまう、という不具合もあった。
【0006】
本発明の目的は、上記した従来の高周波加熱処理用の加熱コイルの問題点を解消し、大径部と小径部とが連続した軸状の被加工物であっても、溝肩部に多量の電流が流れて過度に加熱されてしまう事態が起こりにくく、表層に均一に焼き入れ加工を施すことが可能である上、製造時に同一特性のものを再現性良く安価かつ容易に製造することができる高周波加熱装置用の加熱コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、高周波電流による電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための高周波加熱装置に用いる加熱コイルであって、三次元データに基づいて電導物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法(以下、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法という)を用いて一体的に形成されたものであり、高周波電流を通電させる電極に当着させるための一対の板状の接地部と、前記各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部と、それらの支持部の先端同士を繋ぐように設けられた環状の加熱部とを有しており、前記環状の加熱部が、異なる高さ位置において水平に配置される複数の周状加熱体を、鉛直状に配置される複数の柱状加熱体によって連結した形状を有しているとともに、前記電導物質が、98.71~99.45質量%の銅と、0.50~1.00質量%のクロムと、0.05~0.25質量%のジルコニウムとを含有する高銅合金であり、かつ、前記各接地部、前記各支持部および前記加熱部の内部に、冷却用の媒体を流下させるための一連の冷却媒体流下路が形成されており、なおかつ、その冷却媒体流下路が、左右の各支持部の内部において分岐し別々に同側の接地部の内部に導かれた後に1本に結束した形状を有するものであることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記環状の加熱部が、5個に分割された周状加熱体を、4本の柱状加熱体によって連結したものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の高周波加熱装置用の加熱コイル(以下、単に加熱コイルという)は、環状の加熱部が、異なる高さ位置において水平に配置される複数の周状加熱体を、鉛直状に配置される複数の柱状加熱体によって連結した形状を有しているため、大径部と小径部とが連続した軸状の被加工物に焼き入れ加工をする場合でも、環状の加熱部が溝肩部に近い位置で被加工物に多くの磁束を発生させ続ける事態が生じない。したがって、請求項1に記載の加熱コイルによれば、被加工物の溝肩部に多量の電流が流れて溝肩部が過度に加熱されてしまう事態を効果的に防止することができ、被加工物の表層に均一な焼き入れを施すことができる。
【0011】
また、請求項1に記載の加熱コイルは、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法によって形成されるものであるため、環状の加熱部が複雑な形状を有しているにも拘わらず、安価かつ非常に容易に製造することができる上、同一形状、同一特性を有する製品を、製造作業者の技量に左右されることなく再現性良く効率的に製造することができる。さらに、請求項1に記載の加熱コイルは、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法あるいは導電性物質の溶融押出積層方法によって形成されるものであるので、従来の加熱コイルのように銀ロウによる接着部分が存在しないため、連続使用により温度が上昇しても変形したりせず、長期間に亘って規格通りの加熱処理(焼入れ処理)を実施することができる。
【0012】
請求項2に記載の加熱コイルは、環状の加熱部の周状加熱体が被加工物の周方向に適度な渦電流を発生させるとともに、環状の加熱部の柱状加熱体が被加工物の鉛直方向に適度な渦電流を発生させるため、被加工物の溝肩部に多量の電流が流れて過度に加熱されてしまう事態を防止しつつ、被加工物に効率的に焼き入れ加工を施すことができる。
【0013】
請求項1に記載の高周波加熱装置用の加熱コイルは、環状の加熱部の内部のみならず、各接地部および各支持部の内部にも、冷却用の媒体を流下させるための一連の冷却媒体流下路が形成されており、被加工物の加熱処理中に加熱部のみならず接地部および支持部も同時に冷却されるため、長時間に亘って高温のまま保持される部分が生じない。それゆえ、請求項1に記載の加熱コイルは、絶縁板の炭化・劣化等に起因した絶縁破壊や特定の部分への応力集中による破損等の事態が起こりにくいため、耐久性に優れており、高い出力条件の下でも長期間に亘って被加工物への加熱処理を繰り返すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】加熱コイルの加熱部の概念図である(a~cにおいて(i)は斜視図であり、(ii)は側面図であり、(iii)は平面図である)。
【
図2】加熱コイルの作用を示す説明図(鉛直断面図)である。
【
図4】加熱コイルの平面図(内部の冷却媒体流下路を透視した平面図)である。
【
図5】加熱コイルの接地部の断面図(
図4におけるA-A線端面図)である。
【
図6】加熱コイルの支持部の断面図(
図4におけるB-B線端面図)である。
【
図7】加熱コイルを製造する様子を示す説明図である(aは平面図であり、bは鉛直断面図である)。
【
図8】従来の加熱コイルの作用を示す説明図(鉛直断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る加熱コイルは、三次元プリンタを利用して三次元データに基づく造形方法によって一体的に形成されたものであることが必要である。かかる造形方法としては、三次元データに基づいて導電性物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法(導電性物質粉末層の部分溶着積層方法)、あるいは、三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法(導電性物質の溶融押出積層方法)を採用することができる。なお、加熱コイルの造形方法として、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法を用いると、複雑な形状・構造を有する加熱コイルを容易に製造することが可能となるので好ましい。
【0016】
本発明において造形の原料として用いる導電性物質とは、実質的に磁性を有しておらず、かつ、良好な導電性を有する物質のことを言う。かかる導電性物質としては、銅、黄銅、銀等を挙げることができる。それらの導電性物質の中でも、銅を用いると、材料費等のコストの低減が可能となり、加熱コイルを三次元プリンタによって安価かつ容易に製造することが可能となる上、導電性がきわめて良好なものとなり、電磁誘導による発熱効率が高いものとなるので好ましい。
【0017】
また、導電性物質として銅を用いる場合には、純銅を用いることも可能であるが、銅に、鉄、スズ、ニッケル、チタン、ベリリウム、ジルコニウム、クロム、ケイ素等を銅に比べて少ない割合で含有させた合金(高銅合金)を用いると、レーザの吸収を高めて温度上昇を促進することが可能となるので好ましい。さらに、それらの銅合金の中でも、銅にクロムを含有させた銅クロム合金を用いると、三次元プリンタによる製造効率を高く維持したまま加熱コイルの強度を効果的に高めることが可能となるのでより好ましく、銅に所定の割合でクロムおよびジルコニウムを含有させた合金(たとえば、98.71~99.45質量%の銅と、0.50~1.00質量%のクロムと、0.05~0.25質量%のジルコニウムとを含有するもの(高銅合金)等)を用いると、特に好ましい。
【0018】
導電性物質粉末層の部分溶着積層方法を利用して本発明に係る加熱コイルを造形する場合には、敷設された造形の原料(すなわち、導電性物質からなる粉末)をレーザあるいは電子ビームの照射によって溶融させる必要がある。その際のレーザとしては、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、YAGレーザ、ファイバレーザ等を好適に用いることができるが、ファイバレーザ(すなわち、Yb等の希土類元素を添加した光ファイバをレーザ媒質として用いるレーザ)を用いると、小型の装置により高い出力で光軸にずれのないレーザ光を得ることが可能となり、寸法精度の高い加熱コイルを非常に効率良く製造することが可能となるので好ましい。
【0019】
また、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法により加熱コイルを造形する場合のファイバレーザの出力、波長は、特に限定されないが、出力を400~1,000wの範囲内に調整し、波長を1,000~1,100nmの範囲内に調整すると、短時間での効率的な造形が可能となるので好ましい。また、導電性物質として銅(純銅)を用いる場合には、銅粉末におけるレーザの吸光率を向上させて加熱コイルの製造効率を高めるために、銅粉末中に、黒鉛と無機酸化物との混合粉末等からなる吸収剤を添加することも可能である。
【0020】
また、本発明に係る加熱コイルは、高周波電流を通電させる電極に当着させるための一対の板状の接地部と、各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部と、それらの支持部の先端同士を繋ぐように設けられた環状の加熱部とを有していることが必要である。各支持部は、各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状(あるいは棒状)のものであれば、その形状は特に限定されないが、電力印可時に放電現象が生じないように角部を面取りしたものであると好ましい。
【0021】
一方、加熱部は、環状に形成されていることが必要であるが、円環状のものに限定されず、非円環状(たとえば、平面視が矩形状)のもの等でも良い。そして、本発明に係る加熱コイルにおいては、環状の加熱部が、異なる高さ位置において水平に配置される複数の周状加熱体を、鉛直状に配置される複数の柱状加熱体によって連結した形状を有している必要がある。また、当該環状の加熱部は、冷却用の媒体を流下させるための冷却媒体流下路が内部に形成されている必要がある。すなわち、周状加熱体および柱状加熱体が、概ね連続した筒状になっている必要がある(周状加熱体あるいは柱状加熱体の一部が筒状になっていない形状のものも含まれる)。
【0022】
そのような形状を有する環状の加熱部としては、
図1(a)の如く、円等の環状体を3分割した形状(たとえば、円弧状)を有する上下二段に配置された周状加熱体Ha,Haを2本の鉛直な柱状加熱体Hc,Hcによって連結したもの、
図1(b)の如く、環状体を5分割した形状を有する上下二段に配置された周状加熱体Ha,Ha・・を4本の鉛直な柱状加熱体Hc,Hc・・によって連結したもの、
図1(c)の如く、環状体を5分割した形状を有する上下三段に配置された周状加熱体Ha,Ha・・を4本の鉛直な柱状加熱体Hc,Hc・・によって連結したもの等を挙げることができる。なお、上記した環状の加熱部は、隣り合った周状加熱体Ha,Haの各端縁E,Eを、それぞれ、左右の支持部の先端際に連結させる態様で設けることができる。
【0023】
そして、上記の如く上下に分割された周状加熱体Ha,Ha・・を柱状加熱体Hc,Hc・・によって連結してなる環状の加熱部を有する加熱コイルを用いることによって、大径部と小径部とが連続した軸状の被加工物Wに焼き入れ加工をする際に、
図2の如く、周状加熱体Ha,Ha・・が被加工物Wの溝肩部に近い位置で被加工物Wの周方向に沿って多くの磁束Fを発生させ続ける事態が回避される。したがって、被加工物Wの溝肩部に多量の渦電流Eが流れて溝肩部が過度に加熱されてしまう事態を効果的に防止して、被加工物Wの表層に均一な焼き入れを施すことが可能となる。また、本発明に係る加熱コイルは、上記の如く環状の加熱部の形状が複雑であるにも拘わらず、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法あるいは導電性物質の溶融押出積層方法によって形成されるものであるため、非常に容易に製造することができる。
【0024】
また、本発明に係る加熱コイルは、上記の如く、加熱部の内部に冷却用の媒体を流下させるための冷却媒体流下路が形成されていることが必要であるが、各接地部および各支持部の内部にも、加熱部の内部の冷却媒体流下路と連なるように、冷却用の媒体を流下させるための一連の冷却媒体流下路が形成されていると好ましい。それらの冷却媒体流下路は、左右の接地部、左右の支持部および加熱部の内部を繋ぐように設けられた単一のものでも良いし、加熱コイルの左右において、それぞれ、接地部、支持部および加熱部の内部を繋ぐように設けられた2本のものでも良い。加えて、冷却媒体流下路を、内壁に継ぎ目や所定の高さ以上(1.0mm以上)の段差のないものや、屈曲部分、連結部分がなだらかな曲線状(曲率半径が5mm以上の曲線状)に形成されたものとすると、冷却媒体の流下態様が非常にスムーズなものとなり、加熱コイルの接地部や支持部の冷却効率がきわめて良好なものとなるので好ましい。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
<加熱コイルの構造>
以下、本発明に係る加熱コイルの一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
図3~
図6は、加熱コイルを示したものであり、加熱コイル1は、銅合金(高銅合金)によって一体的に形成されたコイル本体21、絶縁性および耐熱性を有する合成樹脂(フッ素樹脂)によってシート状に形成された絶縁板31、ネジ部材(図示せず)によって構成されている。そして、加熱コイル1は、縦(前後)×横(幅)×高さ=300mm×225mm×200mm(縦、横、高さとも最大部分の長さ)の大きさを有している。
【0026】
コイル本体21は、後述する三次元プリンタを利用した造形方法によって成形されたものであり、高周波電源の電極に当着させるための接地部2a,2b、誘導加熱により被加工物(ワーク)を加熱するための環状の加熱部4、および、各接地部2a,2bから離れた位置で加熱部4を支持するための支持部3a,3bを有している。なお、コイル本体21は、三次元プリンタを利用した造形方法によって成形されているため、全体が同一色を呈しており、表面全体が同じ粗度(表面粗さ)になっている。
【0027】
各接地部2a,2bは、左右一対の扁平な直方体状(板状)に形成されており、片方の側面を向かい合わせた状態で、所定の距離(約2mm)を隔てて左右に隣り合うように配置されている。また、各接地部2a,2bの上面には、それぞれ、円筒形の排水管7a,7bが上方に突出するように設けられている。
【0028】
また、各支持部3a,3bは、左右一対の扁平な直方体状(板状)に形成されており、片方の板面を向かい合わせた状態で、所定の距離(約2mm)を隔てて左右に隣り合うように配置されている。そして、各支持部3a,3bの基端縁の部分が、左右の接地部2a,2bの内側の端縁際に連なり、各支持部3a,3bの板面が、各接地部2a,2bの板面に対して直交した状態になっている。
【0029】
<加熱部の構造>
一方、加熱部4は、被加工物を挿入させた状態で加熱するためのものであり、上側に配置された円弧状の上周状加熱体9a,9bと下側に配置された円弧状の下周状加熱体10a~10cとを、それぞれ、4本の鉛直な柱状加熱体11a~11dによって連結した形状(繋いだ形状)を有している。そして、上周状加熱体9a,9bおよび下周状加熱体10a~10cの平面視がリング状(円環状)になっている。なお、下周状加熱体10a,10bは、内側の板面を向かい合わせた状態で、所定の距離(約2mm)を隔てて左右に隣り合うように配置されており、一つの円弧を形成した状態になっている。また、平面視において、上周状加熱体9a,9b、下周状加熱体10a,10b、下周状加熱体10cが、それぞれ、約1/3の円弧を形成した状態になっている(すなわち、各上周状加熱体9a,9bは、約1/6の円弧を形成した状態になっている)。加えて、上周状加熱体9a,9bと下周状加熱体10a~10cとが、約20mmの距離を隔てた状態になっている。そして、各下周状加熱体10a,10bが、それぞれ、管状の連結体12a,12bを介して左右の支持部3a,3bの先端と繋がった状態になっている。
【0030】
また、上周状加熱体9a,9b、下周状加熱体10a~10cとも、長手方向に対して垂直な鉛直断面の形状が(面取した角の丸い矩形状)になっている。そして、上周状加熱体9aの上面には、外部から冷却媒体を注入するための内側注入管13aおよび外側注入管13bが、鉛直方向に沿って上方に伸長するように設けられている。
【0031】
加えて、加熱コイル1は、加熱部4(すなわち、上周状加熱体9a,9b、下周状加熱体10a~10c、および、柱状加熱体11a~11d)の内部に、冷却用の媒体(水)を流下させるための冷却媒体流下路が形成されている(すなわち、上周状加熱体9a,9b、下周状加熱体10a~10c、および、柱状加熱体11a~11dが筒状になっている)。また、加熱コイル1は、加熱部4のみならず、接地部2a,2bおよび支持部3a,3bの内部にも、加熱部4の内部と連なるように、冷却用の媒体を流下させるための左右2つの一連の冷却媒体流下路6a,6bが形成されている。
【0032】
すなわち、左側の冷却媒体流下路6aは、内側注入管13aから上周状加熱体9aの内部、左後方の柱状加熱体11aの内部、下周状加熱体10aの内部、連結体12aの内部、左側の支持部3aの内部、左側の接地部2aを経由して左側の排水管7aに至っている。一方、右側の冷却媒体流下路6bは、外側注入管13bから上周状加熱体9aの内部、左前方の柱状加熱体11bの内部、下周状加熱体10cの内部、右前方の柱状加熱体11cの内部、右側の上周状加熱体9bの内部、右後方の柱状加熱体11dの内部、下周状加熱体10bの内部、連結体12bの内部、右側の支持部3bの内部、右側の接地部2bを経由して右側の排水管7bに至っている。なお、左側の冷却媒体流下路6a、右側の冷却媒体流下路6bとも、それぞれ、支持部3a,3bの内部において、一旦、3本に分岐しており(6α,6β,6γ)、それぞれ、別々に左右の接地部2a,2bの内部に導かれた後に、各接地部2a,2bの内部において1本に結束した状態になっている。
【0033】
なお、加熱コイル1は、三次元プリンタによって一体的に形成されたものであるため、左側の冷却媒体流下路6a、右側の冷却媒体流下路6bとも、すべての屈曲部分、連結部分がなだらかな曲線状(曲率半径が5mm以上の曲線状)に形成されており、急峻な折れ曲がり形状が形成されていない状態になっている。加えて、左側の冷却媒体流下路6a、右側の冷却媒体流下路6bとも、内壁に継ぎ目や所定の高さ(1.0mm)以上の段差が形成されていない状態になっている。
【0034】
さらに、コイル本体21の左右の接地部2a,2bの間、左右の支持部3a,3bの間、加熱部4の左右の下周状加熱体10a,10bの間、および、左右の連結体12a,12bの間には、所定の厚み(約2.0mm)のシート状の絶縁板31が挟み込まれており、その状態で、左右の支持部3a,3bおよび絶縁板31が、ネジ孔8,8を挿通させたボルト(図示せず)によって螺着されている。なお、それらのボルトは、絶縁性・耐熱性を有する合成樹脂(ガラスエポキシ樹脂)製のブッシュ(図示せず)を介して支持部3a,3bおよび絶縁板31を螺着した状態になっており、当該ボルトを介して支持部3a,3b同士が導通しないようになっている。
【0035】
<加熱コイルの製造方法>
図7は、加熱コイル1を形成する様子を示したものであり、加熱コイル1を形成するための三次元プリンタ装置Mは、中央に直方体状の凹状部を形成してなるフレームF、そのフレームFに対して昇降可能に設けられた昇降部材、レーザLを照射するための照射手段S、レーザを反射させるための反射手段R、昇降部材を昇降させるための駆動手段(図示せず)等を有している。そして、昇降部材には、フレームFの凹状部の開口部分と略同一の面積を有するテーブルTが設けられている。
【0036】
三次元プリンタ装置Mにより加熱コイル1を製造する際には、まず、上昇位置にある昇降部材のテーブルTの表面に、銅合金(高銅合金)の粉末を、所定の厚み(たとえば、30μm)になるように敷設する(テーブルTの表面とフレームFの外枠の表面とのギャップだけ銅粉末を敷き詰める)。そして、その銅合金粉末に対して、所定の出力のレーザ(ファイバレーザ)Lを所定の形状に照射して銅合金粉末の一部を溶融させ、冷却して凝固させることによって、加熱コイル1の一部を形成する。
【0037】
上記の如く、加熱コイル1の一部を形成した後には、駆動手段により昇降部材のテーブルTを所定の高さ(たとえば、30μm)だけ降下させる。そして、その高さ位置において、“先に形成された加熱コイル1の一部の上側での銅合金粉末の敷設→銅合金粉末に対するレーザLの照射→溶融した銅合金の冷却・固化(凝固による固化)”という動作を繰り返す。そして、上記の如く、“昇降部材のテーブルTを降下→銅合金粉末の敷設→銅合金粉末に対するレーザLの照射→溶融した銅合金の冷却・固化”という動作を、所定の回数(たとえば、5,000回)だけ繰り返すことによって、銅合金からなる加熱コイル1を一体的に形成することができる。
【0038】
<加熱コイルの使用方法>
上記の如く構成された加熱コイル1は、左右の接地部2a,2bを電極に接地させ、加熱部4の環状部分(すなわち、上周状加熱体9a,9bおよび下周状加熱体10a~10cによって形成されるリング)の内部に被加工物を挿入させた状態で、電極を介して外部電源(高周波電源)を投入し、電磁誘導現象を利用して、被加工物を加熱することができる。また、内側注入管13aから冷却媒体(水)を左側の冷却媒体流下路6aに注入して排水管7aから排水するとともに、外側注入管13bから冷却媒体を右側の冷却媒体流下路6bに注入して排水管7bから排水することで、加熱部4とともに接地部2a,2bおよび支持部3a,3bを効率的に冷却することによって、絶縁板31の溶融による損傷等の事態を防止することができる。
【0039】
<加熱コイルの効果>
加熱コイル1は、上記の如く、環状の加熱部4が、異なる高さ位置において水平に配置される複数の周状加熱体Ha,Ha・・を、鉛直状に配置される複数の柱状加熱体Hc,Hc・・によって連結した形状を有しているため、大径部と小径部とが連続した軸状の被加工物Wに焼き入れ加工をする場合でも、環状の加熱部4が溝肩部に近い位置で被加工物Wの周方向に沿って多くの磁束を発生させ続ける事態が生じない。したがって、加熱コイル1によれば、被加工物Wの溝肩部に多量の電流が流れて溝肩部が過度に加熱されてしまう事態を効果的に防止することができ、被加工物Wの表層に均一な焼き入れを施すことができる。
【0040】
また、加熱コイル1は、三次元プリンタ装置Mを用いた造形方法(すなわち、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法)によって形成されるものであるため、環状の加熱部4が複雑な形状を有しているにも拘わらず、非常に容易に製造することができる上、同一形状、同一特性を有する製品を、製造作業者の技量に左右されることなく再現性良く効率的に製造することができる。さらに、加熱コイル1は、三次元プリンタ装置Mを用いた造形方法によって形成されるものであるので、従来の加熱コイルのように銀ロウによる接着部分が存在しないため、連続使用により温度が上昇しても変形したりせず、長期間に亘って規格通りの加熱処理(焼入れ処理)を実施することができる。
【0041】
さらに、加熱コイル1は、環状の加熱部4が5個に分割された周状加熱体Ha,Ha・・を4本の柱状加熱体Hc,Hc・・によって連結したものであり、周状加熱体Ha,Ha・・が被加工物Wの周方向に適度な渦電流を発生させるとともに、柱状加熱体Hc,Hc・・が被加工物Wの鉛直方向に適度な渦電流を発生させるため、被加工物Wの溝肩部に多量の電流が流れて過度に加熱されてしまう事態を防止しつつ、被加工物Wに効率的に焼き入れ加工を施すことができる。
【0042】
加えて、加熱コイル1は、加熱部4の内部のみならず、各接地部2a,2bおよび各支持部3a,3bの内部にも、冷却用の媒体を流下させるための一連の冷却媒体流下路6a,6bが形成されているので、被加工物Wの加熱処理中に加熱部4のみならず各接地部2a,2bおよび各支持部3a,3bも同時に冷却され、長時間に亘って高温のまま保持される事態が生じない。それゆえ、加熱コイル1は、絶縁板31の炭化・劣化に起因した絶縁破壊や特定の部分への応力集中による破損等の事態が起こらないため、耐久性に優れており、高い出力条件の下でも長期間に亘って被加工物Wへの加熱処理を繰り返すことができる。
【0043】
さらに、加熱コイル1は、冷却媒体流下路6a,6bから冷却媒体を排出するための排出口7a,7bが接地部2a,2bに設けられているため、高周波加熱装置の加熱コイルの装着部分を省スペースでコンパクトに設計することができる上、高周波加熱装置の本体への装着・脱着が容易である。
【0044】
また、加熱コイル1は、冷却媒体流下路6a,6bへ冷却媒体を注入するための注入口13a,13bが加熱部4に設けられており、最も高温になり易い加熱部4に、水源から導き入れた直後の低温の冷却媒体を供給することができるので、きわめて冷却効率に優れており、非常に高い出力で高周波電源を印可した状態で使用することが可能である。
【0045】
<加熱コイルの変更例>
本発明に係る加熱コイルは、上記した実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、材質や、接地部、支持部、環状の加熱部(周状加熱体、柱状加熱体)の形状、構造等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0046】
たとえば、環状の加熱部は、上記実施形態の如く、5分割した円弧状を有する上下二段に配置された周状加熱体を4本の鉛直な柱状加熱体によって連結してなるものに限定されず、5分割した円弧状を有する周状加熱体を上下三段に配置したものや、7分割した円弧状を有する周状加熱体を上下四段に配置したもの等に変更することも可能である。また、環状の加熱部は、上記実施形態の如く、支持部の先端の左右において同一の高さで周状加熱体と連結したものに限定されず、支持部の先端の左右において異なる高さで周状加熱体と連結したものに変更することも可能である。
【0047】
さらに、本発明に係る加熱コイルは、上記実施形態の如く、複数の冷却媒体流下路が設けられたものに限定されず、単一の冷却媒体流下路が設けられたもの(たとえば、片側の注入管から同側の接地部、支持部を経由して同側の加熱部に至り、加熱部から反対側の支持部、接地部を経由して反対側の注入管に至っているもの)等に変更することも可能である。
【0048】
加えて、本発明に係る加熱コイルは、上記実施形態の如く、フッ素樹脂(PTFE、PFA、FEP、ETFE、PCTFE、ECTFE、PVDF)からなる絶縁板によって一対の接地部および一対の支持部が絶縁されているものに限定されず、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の絶縁性および耐熱性を有する他の合成樹脂からなる絶縁板によって一対の接地部および一対の支持部が絶縁されているもの等に変更することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る加熱コイルは、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための部材として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0050】
1・・加熱コイル
2a,2b・・接地部
3a,3b・・支持部
4・・加熱部
Ha・・周状加熱体
Hc・・柱状加熱体
6a,6b・・冷却媒体流下路
7a,7b・・排出管
13a・・内側注入管
13b・・外側注入管
14・・注入管
15・・排出管