(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】エンジンの電子制御装置及び該電子制御装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20230817BHJP
F02D 9/02 20060101ALI20230817BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20230817BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D9/02 341C
F02D43/00 301B
F02D43/00 301K
F02P5/15 L
(21)【出願番号】P 2019231261
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石川 成昭
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-52169(JP,A)
【文献】特開平8-86266(JP,A)
【文献】特開2018-87499(JP,A)
【文献】特開2019-127832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/02
F02D 41/00-45/00
F02P 5/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジン(1)の動作を制御する電子制御装置(10)において、
前記電子制御装置(10)の動作の故障を検知する監視部(12)と、
前記故障が検知された場合に前記エンジン(1)の動作を制御する制御部(11)と、を備え、
前記監視部(12)は、
前記故障が検知された場合に、前記エンジン(1)のスロットルバルブ(7)を停止させて閉状態に制御し、
前記制御部(11)は、
前記故障が検知された場合に、点火遅延制御を行い、
前記エンジン(1)の回転速度(Ne)が第1基準値(ε)を超える場合に、リンプホーム制御を行い、
前記点火遅延制御では、
少なくとも前記故障の検知過程で取得される前記エンジン(1)の故障検知時回転速度(Ner)に基づいて点火遅延量(At)及び継続期間(γ)の少なくとも一方が設定される
ことを特徴とする電子制御装置(10)。
【請求項2】
前記故障検知時回転速度(Ner)は、前記検知過程が開始されるときに取得される
ことを特徴とする請求項1に記載の電子制御装置(10)。
【請求項3】
前記制御部(11)は、
前記故障検知時回転速度(Ner)及び前記検知過程で取得される前記エンジン(1)の異常トルク量(ΣΔW)に基づいて前記点火遅延量(At)及び前記継続期間(γ)の少なくとも一方を設定する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電子制御装置(10)。
【請求項4】
前記制御部(11)は、
少なくとも前記故障検知時回転速度(Ner)がアイドリング状態での回転速度である場合に、前記点火遅延制御を行う
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電子制御装置(10)。
【請求項5】
前記制御部(11)は、
予め定められたマップを用いて前記点火遅延量(At)及び前記継続期間(γ)を設定する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電子制御装置(10)。
【請求項6】
前記故障は、前記エンジン(1)から実際に出力される実トルク値(Wac)が基準値を上回る故障であり、
前記監視部(12)は、
前記車両の動作状況に応じて許与される前記エンジン(1)の許容トルク値(Wc)と、前記エンジン(1)から実際に出力される実トルク値(Wac)と、を取得し、
前記実トルク値(Wac)が前記許容トルク値(Wc)よりも大きい場合に、前記検知過程を開始させる
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電子制御装置(10)。
【請求項7】
前記故障は、前記エンジン(1)から実際に出力される実トルク値(Wac)が基準値を上回る故障であり、
前記監視部(12)は、
前記検知過程において前記エンジン(1)の出力トルクの時間変化量(ΔW)に基づいて異常トルク量(ΣΔW)を取得し、該異常トルク量(ΣΔW)が第2基準値(α)を超える場合に、前記故障を検知する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電子制御装置(10)。
【請求項8】
前記制御部(11)は、
前記点火遅延制御を実行することが許容される状況か否かを判定する可否判定部を備え、
前記点火遅延制御を実行することが許容される状況である場合に、前記点火遅延制御の実行を許可し、
前記点火遅延制御を実行することが許容されない状況である場合に、前記点火遅延制御の実行を許可しない
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の電子制御装置(10)。
【請求項9】
車両のエンジン(1)の動作を制御する電子制御装置(10)の制御方法であって、
前記電子制御装置(10)が当該電子制御装置(10)の動作の故障を検知する監視ステップと、
前記故障が検知された場合に前記エンジン(1)の動作を前記電子制御装置(10)が制御する制御ステップと、を備え、
前記監視ステップでは、
前記故障が検知された場合に、前記エンジン(1)のスロットルバルブ(7)が停止されて閉状態に制御され、
前記制御ステップでは、
前記故障が検知された場合に、点火遅延制御が行われ、
前記エンジン(1)の回転速度(Ne)が第1基準値(ε)を超える場合に、リンプホーム制御が行われ、
前記点火遅延制御では、
少なくとも前記故障の検知過程で取得される前記エンジン(1)の故障検知時回転速度(Ner)に基づいて点火遅延量(At)及び継続期間(γ)の少なくとも一方が設定される
ことを特徴とする電子制御装置(10)の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるエンジンの電子制御装置及び該電子制御装置制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されるエンジンの電子制御装置として、例えば、該電子制御装置の故障が発生して当該故障が検知された場合に、スロットルバルブを閉状態に制御するとともに点火コイルによる点火を遅延させる制御を行うことにより、当該エンジンの出力を制限し、その後、エンジンの回転速度が所定値(例えば、1500rpm程度)に到達することにより、車両は走行できるものの退避走行が可能な程度の速度しか出せない安全走行状態であるリンプホームモードに制御する構成のものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電子制御装置においては、エンジンの回転速度が低いアイドリング状態であるときに電子制御装置の故障が発生した場合に、エンジンの回転速度がアイドリング状態の回転速度から上昇され、リンプホームモードへの移行条件である回転速度に到達するまでに比較的長い時間を要することとなり、電子制御装置の故障が検知された後にリンプホームモードへ速やかに移行されない虞がある。
【0005】
本発明は、上述の課題を背景としてなされたものであり、故障が検知されるときのエンジンの回転速度に応じた移行時間でリンプホーム制御へ移行させることができる電子制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電子制御装置は、車両のエンジン(1)の動作を制御する電子制御装置(10)において、前記電子制御装置(10)の動作の故障を検知する監視部(12)と、前記故障が検知された場合に前記エンジン(1)の動作を制御する制御部(11)と、を備え、前記監視部(12)は、前記故障が検知された場合に、前記エンジン(1)のスロットルバルブ(7)を停止させて閉状態に制御し、前記制御部(11)は、前記故障が検知された場合に、点火遅延制御を行い、前記エンジン(1)の回転速度(Ne)が第1基準値(ε)を超える場合に、リンプホーム制御を行い、前記点火遅延制御では、少なくとも前記故障の検知過程で取得される前記エンジン(1)の故障検知時回転速度(Ner)に基づく点火遅延量(At)及び継続期間(γ)の少なくとも一方が設定される構成である。
【0007】
このような構成によれば、電子制御装置(10)の動作の故障が検知された場合に、監視部(12)は、スロットルバルブ(7)を停止させて閉状態に制御し、制御部(11)は、点火遅延制御を行うので、エンジンの出力トルクを制限することができるともに、点火遅延制御では、少なくとも故障の検知過程で取得されるエンジン(1)の故障検知時回転速度(Ner)に基づいて点火遅延量(At)及び継続期間(γ)の少なくとも一方が設定されるので、制御部(11)は、故障検知時回転速度(Ner)に応じた所定の移行時間でエンジン(1)の回転速度(Ne)を第1基準値(ε)に到達させて、リンプホーム制御へ移行させることができる。
【0008】
本発明に係る電子制御装置の制御方法は、前記電子制御装置(10)が当該電子制御装置(10)の動作の故障を検知する監視ステップと、前記故障が検知された場合に前記エンジン(1)の動作を前記電子制御装置(10)が制御する制御ステップと、を備え、前記監視ステップでは、前記故障が検知された場合に、前記エンジン(1)のスロットルバルブ(7)が停止されて閉状態に制御され、前記制御ステップでは、前記故障が検知された場合に、点火遅延制御が行われ、前記エンジン(1)の回転速度(Ne)が第1基準値(ε)を超える場合に、リンプホーム制御が行われ、前記点火遅延制御では、少なくとも前記故障の検知過程で取得される前記エンジン(1)の故障検知時回転速度(Ner)に基づいて点火遅延量(At)及び継続期間(γ)の少なくとも一方が設定される構成である。
【0009】
このような構成によれば、電子制御装置(10)の動作の故障が検知された場合に、監視ステップでは、スロットルバルブ(7)が停止されて閉状態に制御され、制御ステップでは、点火遅延制御が行われるので、エンジンの出力トルクを制限することができるともに、点火遅延制御では、少なくとも故障の検知過程で取得されるエンジン(1)の故障検知時回転速度(Ner)に基づいて点火遅延量(At)及び継続期間(γ)の少なくとも一方が設定されるので、制御ステップでは、故障検知時回転速度(Ner)に応じた所定の移行時間でエンジン(1)の回転速度(Ne)を第1基準値(ε)に到達させて、リンプホーム制御へ移行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】電子制御装置の構成について説明するための図である。
【
図2】電子制御装置の制御部の構成について説明するための図である。
【
図3】電子制御装置の第1監視部の構成について説明するための図である。
【
図4】電子制御装置の第2監視部の構成について説明するための図である。
【
図5】制御部が実行する点火遅延制御関連処理について説明するための図である。
【
図6】第1監視部が実行する故障判定関連処理について説明するための図である。
【
図7】故障発生時の実トルク値の遷移について説明するための図である。
【
図8】点火遅延制御及びリンプホーム制御が実行されるタイミングについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るエンジン1の電子制御装置及びエンジン1の制御方法の実施形態の例について図面を用いて説明する。尚、以下で説明する実施形態の構成、動作等は、一例であり、本発明は、そのような構成、動作等である場合に限定されず、本発明の範囲内で適宜変更することができる。また、以下では、同一の又は類似する説明を、適宜簡略化又は省略する場合がある。また、各図において、同一の又は類似する部材又は部分については、符号を付することを省略するか、又は同一の符号を付す場合がる。また、細かい構造については、図示を適宜簡略化又は省略する場合がある。
【0012】
[電子制御装置について]
本実施形態に係るエンジン1の電子制御装置10(以下、ECU(Electrical Control Unit)と呼ぶ場合がある。)の構成について、
図1~
図4に基づいて説明する。ECU10は、車両に搭載されるエンジン1(例えば、ガソリンエンジン等、図示略)を制御する制御装置である。
【0013】
図1に示すように、ECU10には、例えば、車両のCAN4(Controller Area Network)、車両のアクセルペダル(図示略)の操作角度βeを検知するアクセルセンサ5等が入力回路(図示略)を介して接続される。ECU10は、CAN4を介してエンジン1の回転速度Ne、車両の速度(車速)Ve、車両の加速度αe等の各種情報を取得でき、アクセルセンサ5の出力に基づいてアクセルペダルの操作角度βeを取得できるようになっている。
【0014】
また、ECU10には、例えば、車両のエンジン1内で燃料を噴射する燃料噴射装置6、エンジン1の燃焼室への吸気の流入量を調整するスロットルバルブ7、エンジン1内に噴射された燃料に点火する点火コイル8等が出力回路等(図示略)を介して接続される。ECU10は、燃料噴射装置6、スロットルバルブ7、点火コイル8等に対して出力回路等を介して制御信号を出力することにより各装置の動作を制御できるようになっている。
【0015】
尚、回転速度Ne、車両の速度Ve、車両の加速度αe等を検知するセンサ類がECU10に接続されており、ECU10は、当該センサ類からこれらの回転速度Ne等の各種情報を当取得する構成でも良い。また、燃料噴射装置6、スロットルバルブ7、点火コイル8等の各種装置がCAN4を介して接続されおり、ECU10は、CAN4を介してこれらの各種装置を間接的に制御する構成でも良い。また、アクセルセンサ5がCAN4に接続され、ECU10は、CAN4を介してアクセルペダルの操作角度βeを取得する構成でも良い。
【0016】
ECU10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、記憶領域(ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バックアップRAM)、入出力回路等(図示略)を備えるマイクロコンピュータを主体として構成される。ECU10は、エンジン1の動作を制御する制御部11、当該制御部11の動作状況を監視する第1監視部12、当該第1監視部12の動作状況を監視する第2監視部13、燃料噴射装置6の動作を制御するECUパワーステージ部14、スロットルバルブ7及び点火コイル8の動作を制御するスロットルパワーステージ部15等を含む。
【0017】
ECU10は、ROM等の記憶装置に記憶された各種プログラム(例えば、第1レベルプログラム、第2レベルプログラム、第3レベルプログラム等)がCPUにより実行されること等により、例えば、後述の各処理を実行して所定機能を実現できるようになっている。また、ECU10は、その記憶領域内において互いに独立する領域で第1~第3レベルプログラムを実行させることにより、各第1~第3プログラムを互いに独立して実行することが可能である。第1レベルプログラムの実行により制御部11の機能を実現し、第2レベルプログラムの実行により第1監視部12の機能を実現し、第3レベルプログラムの実行及び後述するASIC(Application Specific Integrated Circuit)の動作により第2監視部13の機能を実現するようになっている。
【0018】
本実施形態のECU10は、エンジン1の動作を制御する制御部11と、該制御部11とともにエンジン1の動作を制御しつつ当該制御部11における動作状況を監視して故障の診断を行う第1監視部12と、該第1監視部12における動作状況を監視して故障の診断を行う第2監視部13を備える構成である。このように、制御部11の動作を第1監視部12により監視し、さらに、第1監視部12の動作を第2監視部13により監視する構成では、制御部11または第1監視部12において制御の異常が発生しても、第1監視部12または第2監視部13において当該異常を検知して、制御部11による各装置の制御を制限する等の当該異常への対応を施すことができるため、ECU10によるエンジン1の制御に対する信頼性を向上させることができる。また、第1監視部12は、制御部11と同じCPU、各種回路等のハードウェア資源によって実現される一方、第2監視部13は、ASIC等の当該制御部11及び第1監視部12とは異なるハードウェア資源により実現される。制御部11及び第1監視部12のハードウェア資源又はソフトウェアに資源に故障が生じても、第2監視部13により監視を継続させることができるため、ECU10によるエンジン1の制御に対する信頼性を向上させることができる。
【0019】
[制御部について]
制御部11は、エンジン1に出力させる指示トルク値Wa1を取得し、当該指示トルク値Wa1をECUパワーステージ部14に対して出力することで、燃料噴射装置6の動作を制御する。
【0020】
図2に示すように、制御部11は、アクセルペダルの操作等により車両において要求される総要求トルク値Wbを取得する総要求トルク取得部11a、車両において出力が許容される許容トルク値Wcを取得する許容トルク取得部11b、ECU10の故障が検知されたときに出力トルクを制限するための制限トルク値Wdを取得する制限トルク取得部11c、当該総要求トルク取得部11a、許容トルク取得部11b及び制限トルク取得部11cにより出力されるトルク値の最小値を選択してECUパワーステージ部14に出力する最小値選択部11kを備える。
【0021】
総要求トルク取得部11aは、まず、アクセルセンサ5の出力に基づいてアクセルペダルの操作角度βeを取得し、当該アクセルペダルの操作角度βeに基づいて予め定められた演算式により、車両のドライバにより要求されているドライバ要求トルク値Weを取得する。尚、総要求トルク取得部11aは、予め定められた演算式によりドライバ要求トルク値Weを取得する構成に限られず、例えば、予め定められた特性曲線、予め定められたマップ等の少なくともいずれか1つを用いてドライバ要求トルク値Weを取得する構成でも良いし、これらを組合せてドライバ要求トルク値Weを取得する構成でも良い。また、総要求トルク取得部11aは、ドライバ要求トルク値Weを取得する際に各種情報(例えば、エンジン1の回転速度Ne、スロットルバルブの開度等)を適宜参照して用いる構成でも良い。
【0022】
また、総要求トルク取得部11aは、ECU10の外部からCAN4を介して入力される所定信号に基づいて、前述のドライバにより要求されるドライバ要求トルク値We以外に車載の各種装置からエンジン1に対して要求される外部要求トルク値Wfを取得する。当該外部要求トルク値Wfは、例えば、ECU10が搭載される車両のトランスミッション制御装置、ブレーキシステム制御装置等から要求されるトルクに応じた値であり、総要求トルク取得部11aは、これらの各装置からCAN4を介して外部要求トルク値Wfを取得する。そして、総要求トルク取得部11aは、ドライバ要求トルク値We及び外部要求トルク値Wfを加算した値を総要求トルク値Wbとして取得して最小値選択部11kへ出力する。
【0023】
尚、総要求トルク取得部11aは、CAN4を介して各装置から取得される情報に基づいて、予め定められた演算式、予め定められた特性曲線、予め定められたマップ等の少なくともいずれか1つまたは組合せを用いて外部要求トルク値Wfを取得する構成でも良い。
【0024】
許容トルク取得部11bは、ECU10の所定の記憶領域を参照して、後述するように第1監視部12により取得されて当該記憶領域に記憶される許容トルク値Wcを取得して最小値選択部11kへ出力する。
【0025】
制限トルク取得部11cは、
図2に示すように、点火遅延継続期間設定部11d、故障判定フラグ取得部11e、適合データテーブル部11f、点火遅延制御許容状況判定部11g、点火遅延制御終了判定部11h、制限トルク値取得部11i、制限トルク値出力部11jを備える。
【0026】
点火遅延継続期間設定部11dは、ECU10の所定の記憶領域を参照して、後述するように第1監視部12により取得されて当該記憶領域に記憶される故障検知時回転速度Nerを取得する。そして、当該故障検知時回転速度Ner及び適合データテーブル部11fに記憶されている後述の点火遅延制御期間基準値マップに基づいて、点火遅延制御の実行を継続する期間の長さ示す基準値γを取得する。また、ECU10の所定の記憶領域に設定されており、点火遅延継続期間を計測するための計時カウンタTdを初期化(例えば、初期値として0を設定)するとともに、当該計時カウンタTdによる計時を開始させる。
【0027】
故障判定フラグ取得部11eは、後述するように第1監視部12により設定されるフラグであり、ECU10に故障が生じているか否かを特定可能な故障判定フラグ(正常/異常)を、ECU10の所定の記憶領域を参照して取得する。
【0028】
適合データテーブル部11fは、ECU10の所定の記憶領域(例えば、ROM)に設定されおり、前述の点火遅延制御期間基準値マップ、後述の制限トルク値マップ(第1制限トルク値マップ、第2制限トルク値マップ)、点火遅延制御要否判定マップ、点火遅延量設定マップ等を記憶している。
【0029】
点火遅延制御期間基準値マップには、故障検知時回転速度Ner毎に点火遅延制御を実行する期間となる基準値γが特定可能に設定されている。また、制限トルク値マップのうち第1制限トルク値マップには、エンジン1の回転速度Ne毎にエンジン1の出力トルクの第1制限トルク値ζ1が特定可能に設定されている。また、制限トルク値マップのうち第2制限トルク値マップには、エンジン1の回転速度Ne毎にエンジン1の出力トルクの第2制限トルク値ζ2が特定可能に設定されている。また、点火遅延制御要否判定マップには、異常トルク量Qer、エンジン1の回転速度Ne毎に点火遅延制御を行う状況であるか否かを特定可能な要否データが設定されている。また、点火遅延量設定マップには、点火コイル8による点火タイミングを遅延させる角度またはタイミングであり、エンジン1の出力トルクの第2制限トルク値ζ2を実現するための点火遅延量Atが、当該第2制限トルク値ζ2毎に設定されている。
【0030】
点火遅延制御期間基準値マップ等の各マップに設定されている基準値γ、第1制限トルク値ζ1、第2制限トルク値ζ2、要否データ等は、予め実験等により取得られて各マップに設定されている。また、これらの基準値γ、第1制限トルク値ζ1、第2制限トルク値ζ2、要否データ等は、例えば、機能安全ISO26262に基づくASIL(Automotive Safety Integrity Level)による故障に対するリスク分類において、QM(Quality Management)を満たすように設定されることが好ましい。
【0031】
尚、点火遅延制御期間基準値マップ等の各マップに設定されている基準値γ、第1制限トルク値ζ1、第2制限トルク値ζ2、可否データ、点火遅延量At等が、予め定められた演算式、予め定められた特性曲線、予め定められたマップ等の少なくともいずれか1つまたは組合せを用いて特定可能とされる構成でも良い。
【0032】
点火遅延制御許容状況判定部11gは、ECU10の所定の記憶領域に設定される点火遅延制御許容状況フラグを取得し、点火遅延制御を実行することが許容される状況か否かを判定する。当該点火遅延制御許容状況フラグは、ECU10により制御状況に応じて適宜設定されるフラグであり、点火遅延制御の実行が許容される状況である場合には、点火遅延制御が許容される旨を特定可能なフラグが設定される一方、点火遅延制御の実行が許容されない状況である場合には、点火遅延制御が許容されない旨を特定可能なフラグが設定される。これにより、ECU10による制御状況等を考慮して点火遅延制御が実行されるようになっている。
【0033】
点火遅延制御終了判定部11hは、所定の時間間隔毎にエンジン1の回転速度Neを取得し、当該回転速度Neの履歴をECU10の所定の記憶領域に記憶させる。また、点火遅延制御終了判定部11hは、ECU10の所定の記憶領域を参照して、当該記憶領域に予め設定されるリンプホーム制御開始条件の基準値ε(例えば、1500rpm等)を取得するとともに、エンジン1の回転速度Neを取得する。そして、取得された基準値εと回転速度Neを比較する。そして、回転速度Neが基準値εを上回る場合には、点火遅延制御の強制終了条件が成立するとともにリンプホーム制御の開始条件が成立していると判定する一方、回転速度Neが基準値εを上回らない場合には、点火遅延制御の強制終了条件が成立しておらず、リンプホーム制御の開始条件が成立していないと判定する。
【0034】
制限トルク値取得部11iは、エンジン1の回転速度Neを取得し、当該回転速度Ne及び前述の第1制限トルク値マップに基づいて第1制限トルク値ζ1を取得する。また、制限トルク値取得部11iは、前述の総要求トルク取得部11aにより取得される総要求トルク値Wbを取得し、総要求トルク値Wbと当該第1制限トルク値ζ1との比率を算出て異常トルク量Qerとして取得する。また、制限トルク値取得部11iは、異常トルク量Qer、回転速度Ne及び前述の点火遅延制御要否判定マップに基づいて点火遅延制御を行う状況であるか否かを判定する。また、回転速度Ne及び前述の第2制限トルク値マップに基づいて第2制限トルク値ζ2を取得し、異常トルク量Qer、回転速度Ne及び前述の点火遅延量設定マップに基づいて当該第2制限トルク値ζ2を実現するための点火遅延量Atを取得する。
【0035】
制限トルク値出力部11jは、所定のトルク制限条件(計時カウンタTdが作動している点火遅延制御継続期間中であり、かつ、故障判定フラグに基づいてECU10の故障が特定される場合であり、かつ、点火遅延制御許容状況フラグに基づいて点火遅延制御が許容される旨が特定される場合であり、かつ、点火遅延制御の強制終了条件(回転速度Neに基づく終了条件)が成立していない場合であり、かつ、点火遅延制御を行う状況であると判定される場合であること)が成立する場合に、制限トルク値取得部11iにより取得される第2制限トルク値ζ2と、総要求トルク取得部11aにより取得される総要求トルク値Wbを比較して小さい方の値を制限トルク値Wdとして最小値選択部11kへ出力するとともに、制限トルク値取得部11iにより取得される点火遅延量AtをECU10の所定の記憶領域に記憶させる。
【0036】
一方、制限トルク値出力部11jは、前述のトルク制限条件が成立しない場合は、制限トルク値取得部11iにより取得される第1制限トルク値ζ1と総要求トルク値Wbを比較して小さい方の値を、制限トルク値Wdとして最小値選択部11kへ出力するとともに、点火遅延量Atを0に設定してECU10の所定の記憶領域に記憶させる。
【0037】
最小値選択部11kは、総要求トルク取得部11aにより取得される総要求トルク値Wb、許容トルク取得部11bにより取得される許容トルク値Wc、制限トルク取得部11cにより取得される制限トルク値Wdをそれぞれ取得して比較し、最も小さい値を指示トルク値Wa1としてECUパワーステージ部14に対して出力する。
【0038】
ECUパワーステージ部14は、制御部11から出力される指示トルク値Wa1を取得し、予めECU10の記憶領域に記憶されている燃料噴射量変換マップに基づいて、指示トルク値Wa1を燃料噴射量Qsに変換する。さらに、予めECU10の記憶領域に記憶されている通電期間変換マップに基づいて、該燃料噴射量Qsに応じた燃料噴射装置6の通電期間(燃料噴射装置6を噴射状態に制御する時間)の長さである通電期間長Tijを取得する。そして、ECUパワーステージ部14は、取得された通電期間長Tijにわたり燃料噴射装置6に対して駆動回路(図示略)を介して駆動信号を出力することで、取得された燃料噴射量Qsの燃料をエンジン1内に噴射させるように当該燃料噴射装置6を制御する。
【0039】
燃料噴射量変換マップには、指示トルク値Wa1を燃料噴射量Qsに変換するための所定データが予め実験等により取得されて設定されている。また、通電期間変換マップには、燃料噴射量Qsを通電期間に変換するための所定データが予め実験等により取得されて設定されている。
【0040】
また、ECUパワーステージ部14は、制御部11により出力される点火遅延量Atを取得し、当該点火遅延量Atに応じたタイミング(エンジン1のクランク角度)において、点火コイル8に対して駆動回路(図示略)を介して駆動信号を出力することで、当該タイミングにおいて燃料に点火させるように点火コイル8を制御する。
【0041】
[第1監視部について]
第1監視部12は、ECU10に故障が生じているか否かを判定し、ECU10に故障が生じていると判定される場合には、ECU10に故障が生じている旨を特定可能な故障判定フラグを設定するとともに、スロットルバルブ7を閉状態に制御することにより、エンジン1の動作を安全な状態へ移行させるように制御する。
【0042】
図3に示すように、第1監視部12は、車両において出力が許容される許容トルク値Wcを取得する許容トルク取得部12a、エンジン1の実際の実トルク値Wacを取得する実トルク値取得部12b、ECU10に故障が生じているか否かを判定する故障判定部12c、故障判定フラグを設定する故障判定フラグ設定部12dを備える。
【0043】
許容トルク取得部12aは、前述の制御部11の総要求トルク取得部11aと同様に、アクセルペダルの操作角度βeに基づくドライバ要求トルク値We、エンジン1に対して要求されている外部要求トルク値Wfを取得する。また、CAN4等を介して取得されるエンジン1の制御に関する制御情報(例えば、エンジン1の回転速度Ne、外気温Tout等)に基づいて予め定められた演算式により、エンジン1において損失となるトルクを補償するために必要な補償トルク値Wgを取得する。そして、許容トルク取得部12aは、ドライバ要求トルク値We、外部要求トルク値Wf、補償トルク値Wgの総和を取得して、許容トルク値WcとしてECU10の所定の記憶領域に記憶させるとともに最小値選択部11kへ出力する。当該所定の記憶領域に設定された許容トルク値Wcは、前述の制御部11により参照可能である。尚、許容トルク取得部12aは、予め定められた演算式により補償トルク値Wgを取得する構成に限られず、例えば、予め定められた特性曲線、予め定められたマップ等の少なくともいずれか1つを用いて補償トルク値Wgを取得する構成でも良いし、これらを組合せて補償トルク値Wgを取得する構成でも良い。
【0044】
実トルク値取得部12bは、制御部11により制御される燃料噴射装置6での燃料噴射量Qs、通電期間長Tij、エンジン1の制御に関する制御情報(例えば、燃料噴射装置6内の燃料の圧力値Pij、エンジン1での空気流量Qair等)を取得して、これらのデータに基づいてエンジン1での実際の出力トルク値を推定し、実トルク値Wacとして取得し、故障判定部12cへ出力する。尚、実トルク値取得部12bは、予め定められた演算式により実際の出力トルク値を取得する構成に限られず、例えば、予め定められた特性曲線、予め定められたマップ等の少なくともいずれか1つを用いて実際の出力トルク値を取得する構成でも良いし、これらを組合せて実際の出力トルク値を取得する構成でも良い。
【0045】
故障判定部12cは、許容トルク値Wcと実トルク値Wacとを比較して、実トルク値Wacが許容トルク値Wcを上回り、かつ、実トルク値Wacが許容トルク値Wcを上回ると判定した後の所定期間(本実施形態では、40m秒間)における故障量(本実施形態では、エンジン1の回転速度Neの変化量の積算値)が所定の基準値αを上回る場合に、ECU10に故障が生じていると判定する。一方、実トルク値Wacが許容トルク値Wc以下である場合、及び上記所定期間における故障量が基準値αを上回らない場合に、ECU10に故障が生じていないと判定する。そして、故障判定部12cは、判定結果を故障判定フラグ設定部12dへ出力する。
【0046】
また、故障判定部12cは、ECU10に故障が生じていると判定した場合には、スロットルバルブ7を閉状態に強制的に制御する制御信号を、スロットルパワーステージ部15に対して出力するように制御する。一方、ECU10に故障が生じていないと判定した場合には、スロットルバルブ7を閉状態に強制的に制御するための制御信号をスロットルパワーステージ部15に対して出力しないように制御する。
【0047】
故障判定フラグ設定部12dは、故障判定部12cによる判定結果を取得して、故障判定部12cによりECU10に故障が生じていると判定される場合には、ECU10に故障が生じている旨を特定可能な故障判定フラグ(異常)をECU10の所定の記憶領域に設定する。一方、故障判定部12cによりECU10に故障が生じていないと判定される場合には、ECU10に故障が生じていない旨を特定可能な故障判定フラグ(正常)をECU10の所定の記憶領域に設定する。当該所定の記憶領域に設定された故障判定フラグ(異常/正常)は、前述のように制御部11により参照可能である。
【0048】
スロットルパワーステージ部15は、第1監視部12から出力される制御信号を取得し、スロットルバルブ7を閉状態に強制的に制御する制御信号である旨が特定される場合に、スロットルバルブ7に対して駆動回路(図示略)を介して駆動信号を出力することで、スロットルバルブ7を強制的に閉状態に制御する。これにより、スロットルパワーステージ部15は、ECU10の故障が発生している場合に、スロットルバルブ7を閉状態に制御することにより、エンジン1の動作を安全な状態へ移行させる。一方、スロットルパワーステージ部15は、第1監視部12から出力される制御信号を取得し、スロットルバルブ7を閉状態に強制的に制御する制御信号である旨が特定されない場合には、制御部11等から出力される所定の制御信号に応じてスロットルバルブ7に対して駆動回路(図示略)を介して駆動信号を出力することで、スロットルバルブ7を閉状態または開状態に制御する。
【0049】
[第2監視部について]
第2監視部13は、前述の制御部11及び第1監視部12が実行する第1レベルプログラム及び第2レベルプログラムから独立した第3レベルプログラムにより、第1監視部12の動作等を診断する診断部13aと、制御部11及び第1監視部12とは独立したハードウェア資源により構成されるASIC13b(Application Specific Integrated Circuit)と、を備える。
【0050】
診断部13aは、第1監視部12に割当てられている記憶領域、当該第1監視部12により実行される第2レベルプログラムのコマンド、当該第2レベルプログラムにより実行されるシーケンス、第2レベルプログラムが用いるデータ名等に異常が生じて否かを判断することで、第1監視部12の動作等を診断する。
【0051】
ASIC13bは、燃料噴射装置6、スロットルバルブ7及び点火コイル8等の動作を、ECUパワーステージ部14及びスロットルパワーステージ部15を介して制御できるようになっている。ASIC13bは、診断部13aにより第1監視部12の動作に異常が生じていると診断される場合には、燃料噴射装置6、スロットルバルブ7及び点火コイル8の作動を停止させるように制御する。当該ASIC13bが制御部11及び第1監視部12とは異なるハードウェア資源により構成されることにより、第2監視部13は、制御部11及び第1監視部12のハードウェア資源、ソフトウェア資源に故障が生じてもその影響を受けることなく、第1監視部12の動作を監視できるようになっている。
【0052】
[電子制御装置での制御方法について]
本実施形態のECU10が行う制御の例について、
図5~
図8に基づいて説明する。
【0053】
ECU10は、所定時間間隔(例えば、10m秒間隔等)で、当該ECU10の記憶領域に記憶されているプログラム(例えば、第1~第3レベルプログラム等)を繰り返し実行することにより所定機能を実現できる。ECU10は、例えば、第1レベルプログラムに含まれる所定プログラムを実行することにより、ECU10の故障が検知される場合に点火遅延制御を実行する点火遅延制御関連処理を行い、第2レベルプログラムに含まれる所定プログラムを実行することにより、ECU10の故障判定を実行する故障判定関連処理を行う。
【0054】
具体的には、
図5に示すように、点火遅延制御関連処理では、ECU10は、まず、当該ECU10の所定の記憶領域を参照して故障判定フラグ(正常/異常)を取得して、当該故障判定フラグに基づいてECU10に故障が生じているか否かを判定する(ステップSa01)。故障判定フラグは、前述のようにECU10に故障が生じているか否かを特定可能なフラグであり、後述の故障判定関連処理が行われることで、故障判定フラグ設定部12dによりECU10の所定の記憶領域に設定される。
【0055】
ステップSa01において故障判定フラグ(正常)に基づいてCU10に故障が生じていないと判定される場合(N)には、後述のステップSa02~Sa07に関する処理を行わずに点火遅延制御関連処理を終了させる。一方、ステップSa01において故障判定フラグ(異常)に基づいてECU10に故障が生じていると判定される場合(Y)には、ステップSa02~Sa07に関する処理を実行させる。
【0056】
ステップSa01においてECU10に故障が生じていると判定される場合(Y)には、エンジン1の回転速度Ne、リンプホーム制御開始の基準値ε(例えば、1500rpm等)を取得する。そして、取得されたエンジン1の回転速度Neと基準値εとを比較して(Sa02)、回転速度Neが基準値εを上回る場合に(Y)は、リンプホーム制御の開始条件が成立していると判定して、ステップSa07へ移行させて、リンプホーム制御を実行する(Sa07)。リンプホーム制御では、エンジン1の回転速度Neが基準値εを超えるときには、燃料噴射装置6及び点火コイル8への通電が停止されることで、燃料噴射装置6によるエンジン1内への燃料噴射が停止(ICO:Injection Cut Off)されるとともに点火コイル8による点火が停止されるように制御される。一方、エンジン1の回転速度Neが基準値εを下回るときには、燃料噴射装置6及び点火コイル8への通電が行われることで、燃料噴射装置6によるエンジン1内への燃料噴射が行われるとともに点火コイル8による点火が行われるように制御される。リンプホーム制御が行われることにより、エンジン1の動作が安全な状態に維持され、車両は走行できるものの退避走行が可能な程度の速度しか出せない状態に制御される。
【0057】
ステップSa02において回転速度Neが基準値ε以下である場合に(N)は、計時カウンタTdが作動中でない場合に当該計時カウンタTdを初期化(例えば、0に設定する等)した後に始動させて時間の計測を開始させる一方、計時カウンタTdが作動中である場合に計時を継続させる計時処理を行う(Sa03)。計時カウンタTdは、例えば、ECU10の所定の記憶領域に設けられており、所定の時間間隔(例えば、10m秒等)毎に更新されるようになっている。
【0058】
ステップSa03において計時処理を行った後には、点火遅延制御許容状況フラグを取得し、点火遅延制御の実行が許容される状況か否かを判定する(ステップSa04)。そして、ステップSa04において点火遅延制御の実行が許容される状況でないと判定される場合(N)には、後述のステップSa05~Sa06に関する処理を行わずに点火遅延制御関連処理を終了させる。一方、ステップSa04において点火遅延制御の実行が許容される状況であると判定される場合(Y)には、ECU10の所定の記憶領域を参照して、後述の故障判定関連処理により設定される故障検知時回転速度Nerを取得し、当該故障検知時回転速度Ner及び点火遅延制御期間基準値マップに基づいて故障検知時回転速度Nerに応じた基準値γを取得して、計時カウンタTdの値と取得された基準値γとを比較する(Sa05)。
【0059】
ステップSa05において計時カウンタTdの値が基準値γを上回り、計時カウンタTdの値が基準値γ以下でないと判定される場合(N)には、後述のステップSa06に関する処理を行わずに点火遅延制御関連処理を終了させる。一方、ステップSa05において計時カウンタTdの値が基準値γ以下であると判定される場合(Y)には、点火遅延制御を実行させた後(ステップSa06)、点火遅延制御関連処理を終了させる。
【0060】
ステップSa06における点火遅延制御では、エンジン1の回転速度Neが取得され、当該回転速度Neと第2制限トルク値マップとに基づいて、総要求トルク値Wb及び許容トルク値Wcよりも小さく制限される第2制限トルク値ζ2が取得される。第2制限トルク値ζ2は、制限トルク値Wdとして最小値選択部11kへ出力される。そして、最小値選択部11kにより、第2制限トルク値ζ2が指示トルク値Wa1として選択されて、ECUパワーステージ部14に対して出力される。ECUパワーステージ部14では、指示トルク値Wa1に基づく燃料噴射量Qsを噴射するための通電期間長Tijが取得される。そして、燃料噴射装置6での通電の制御が当該通電期間長Tijにわたって行われることにより、当該燃料噴射装置6から燃料噴射量Qsの燃料が噴射させるように制御される。
【0061】
また、点火遅延制御では、回転速度Ne及び第1制限トルク値マップに基づいてエンジン1の出力トルクの第1制限トルク値ζ1が取得され、当該第1制限トルク値ζ1と当該総要求トルク値Wbとの比率が算出されて異常トルク量Qerとして設定される。そして、異常トルク量Qer、回転速度Ne及び点火遅延量設定マップに基づいて、第2制限トルク値ζ2を実現するための点火遅延量Atが取得されて、ECUパワーステージ部14に対して出力される。ECUパワーステージ部14では、当該点火遅延量Atに応じたタイミングで点火コイル8に対して駆動回路(図示略)を介して駆動信号が出力されることにより、当該タイミングで燃料が点火されるように点火コイル8が制御される。
【0062】
尚、点火遅延制御が行われない場合であって、ステップSa01においてECU10の故障が発生していないと判定される場合には、第1制限トルク値ζ1が総要求トルク値Wbよりも大きな値に設定され、制限トルク値Wdとして総要求トルク値Wbが最小値選択部11kへ出力されることにより、総要求トルク値Wbまたは許容トルク値Wcのうち小さい方の値が指示トルク値Wa1として選択されて、ECUパワーステージ部14に対して出力される。また、点火遅延制御が行われない場合であって、ステップSa01においてECU10の故障が発生していると判定される場合には、第1制限トルク値ζ1が総要求トルク値Wbよりも小さな値に設定され、制限トルク値Wdとして総要求トルク値Wbが最小値選択部11kへ出力されることにより、総要求トルク値Wb、許容トルク値Wc及び制限トルク値Wdとのうち最も小さい値が指示トルク値Wa1として選択されて、ECUパワーステージ部14に対して出力される。ECUパワーステージ部14では、指示トルク値Wa1に基づく燃料噴射量Qsを噴射するための通電期間長Tijが取得される。そして、燃料噴射装置6での通電の制御が当該通電期間長Tijにわたって行われることにより、当該燃料噴射装置6から燃料噴射量Qsの燃料が噴射させるように制御されるようになっている。
【0063】
また、点火遅延制御が行われない場合には、ECU10の故障が発生しているか否かによらず、点火遅延量Atが0に設定されて、ECUパワーステージ部14に対して出力される。ECUパワーステージ部14では、当該点火遅延量At(0)に応じたタイミングで点火コイル8に対して駆動回路(図示略)を介して駆動信号が出力されることにより、当該タイミングで燃料が点火されるように点火コイル8が制御されるようになっている。
【0064】
次に、ECU10の故障判定を実行する故障判定関連処について
図6に基づいて説明する。
【0065】
図6に示すように、故障判定関連処理では、ECU10は、まず、第1監視部12の許容トルク取得部12aにより、アクセルペダルの操作角度βeに基づいてドライバ要求トルク値Weを取得させ(ステップSb01)、CAN4を介して外部要求トルク値Wfを取得させ(ステップSb02)、CAN4を介して取得されるエンジン1の制御情報に基づいて補償トルク値Wgを取得させる(ステップSb03)。そして、許容トルク取得部12aにより、ドライバ要求トルク値We、外部要求トルク値Wf、補償トルク値Wgの総和を許容トルク値Wcとして取得させる(ステップSb04)。
【0066】
次に、実トルク値取得部12bにより、燃料噴射装置6での燃料噴射量Qs、通電期間長Tij、CAN4を介してエンジン1の制御情報(例えば、燃料噴射装置6内の燃料の圧力値Pij、エンジン1での空気流量Qair等)等を取得させ、これらのデータに基づいて実トルク値Wacを取得させる(ステップSb05)。
【0067】
その後、故障判定部12cにより、許容トルク値Wcと実トルク値Wacとを比較させ、実トルク値Wacが許容トルク値Wcを上回るか否かを判定させる(ステップSb06)。ステップSb06において実トルク値Wacが許容トルク値Wcを上回ると判定される場合には(Y)、ECU10の故障を検知する検知過程が開始され、故障判定部12cにより、実トルク値Wacが許容トルク値Wcを上回ると判定された時点でのエンジン1の回転速度Neを取得させて、当該回転速度Neを故障検知時回転速度NerとしてECU10の所定記憶領域に設定させるとともに、当該故障検知時回転速度Nerに応じた基準値αを取得させる(ステップSb07)。また、ECU10の所定記憶領域に設けられており時間を計測するための計時カウンタTmを始動させる(ステップSb08)。
【0068】
尚、故障検知時回転速度Nerは、故障の検知過程の期間中のいずれかのタイミングで取得されても良い。
【0069】
ステップSb08において計時カウンタTmが始動された後から、予め定められた基準時間τ(例えば、40m秒等)が経過したことが、当該計時カウンタTmに基づいて特定されるまでの期間において、故障判定部12cにより、所定時間間隔毎に(例えば、10m秒間隔等)、実トルク値取得部12bから実トルク値Wacを取得させて、当該実トルク値Wacに基づいて実トルク値Wacの時間変化量ΔWacを算出させる。そして、各時間間隔において算出された時間変化量ΔWacの積算値(初期値は、例えば、0等)を異常トルク量ΣΔWとして取得させる(ステップSb09~S10)。
【0070】
その後、故障判定部12cにより、計時カウンタTmに基づいて基準時間τが経過したか否かを判定させ(ステップSb10)、基準時間τが経過していないと判定される場合には(N)、基準時間τが経過したと判定されるときまで、所定時間間隔毎にステップSb09を繰り返し行わせる。一方、基準時間τが経過したと判定される場合には(Y)、後述のステップSb11に進める。尚、故障判定部12cは、計時カウンタTmの値が予め定められた基準時間τに対応する基準値Tmvを最初に上回ったときに、当該計時カウンタTmに基づいて当該基準時間τが経過したと判定するようになっている。
【0071】
ステップSb10において計時カウンタTmに基づいて基準時間τが経過したと判定される場合には(Y)、ステップSb07において取得される基準値αとステップSb09により取得される異常トルク量ΣΔWとを比較させて、異常トルク量ΣΔWが基準値αを上回るか否かを判定させる(ステップSb11)。
【0072】
そして、ステップSb11において異常トルク量ΣΔWが基準値αを上回ると判定される場合には(Y)、ECU10に故障が生じている旨を故障判定部12cから故障判定フラグ設定部12dに対して出力させて、ECU10に故障が生じている旨を特定可能な故障判定フラグ(異常)をECU10の所定の記憶領域に故障判定フラグ設定部12dにより設定させる(ステップSb12)。故障判定フラグ(異常)が設定されることで、検知過程は終了されることとなる。その後、スロットルバルブ7を閉状態に強制的に制御するための閉制御信号をスロットルパワーステージ部15に対して出力するスロットルシャットオフ制御を開始させて(ステップSb13)、故障判定関連処理を終了させる。スロットルシャットオフ制御では、ECU10の所定の記憶領域に故障判定フラグ(異常)が設定されている状態において閉制御信号がスロットルパワーステージ部15に対して出力される制御が継続して行われる。
【0073】
ステップSb06において実トルク値Wacが許容トルク値Wcを上回らないと判定される場合(N)、及び、ステップSb11において異常トルク量ΣΔWが基準値αを上回らないと判定される場合には(N)、ECU10に故障が生じていない旨を故障判定部12cから故障判定フラグ設定部12dに対して出力させて、ECU10に故障が生じていない旨を特定可能な故障判定フラグ(正常)をECU10の所定の記憶領域に故障判定フラグ設定部12dにより設定させる(ステップSb14)。当該故障判定フラグ(正常)が設定されることで、検知過程は終了されることとなる。その後、故障判定関連処理を終了させる。
【0074】
以上のようにECU10により点火遅延制御関連処理、故障判定関連処理が行われることにより、例えば、
図8に示すように、ECU10に故障が発生しておらず正常であるときには(t0~t1)、エンジン1の出力トルクは、制御部11により取得される総要求トルク値Wbに基づいて制御される。また、第1監視部12により許容トルク値Wcが算出される。その後、ECU10に故障が発生して(t1)、エンジン1の実トルク値Wacが上昇し、当該実トルク値Wacが許容トルク値Wcを上回るときに(t2)、第1監視部12により故障の検知過程(t2~t3)が開始される。当該検知過程においてECU10の故障が検知された以後(t3)、所定期間にわたり点火遅延制御が実行される(t3~t4)。その後、エンジン1の回転速度Neがリンプホーム制御の開始条件を満たすことで、リンプホーム制御が実行される(t4~)。
【0075】
次いで、エンジン1がアイドリング状態であるときにECU10に故障が発生し、前述の点火遅延制御関連処理及び故障判定関連処理がECU10により実行される場合において、エンジン1の回転速度Ne、車両の速度Ve、異常トルク量ΣΔW、スロットルシャットオフ制御TSC、点火遅延制御IRC、リンプホーム制御ICOの時間遷移の例について、
図8に基づいて説明する。
【0076】
図8に示すように、例えば、時刻t0では、エンジン1の回転速度(Ne)はアイドリング状態での回転速度(例えば、所定基準値(例えば、500rpm)よりも低い400rpm)であり、車両の速度Veは5kmであり、異常トルク量ΣΔWは0であり、スロットルシャットオフ制御TSC、点火遅延制御IRC、リンプホーム制御ICOはいずれも行われていない状態である。このような状態(時刻t0)において、ECU10の故障が発生した場合には、その後、エンジン1の回転速度Ne、実トルク値Wacが上昇するとともに車両の速度Veが増加して、
図7に示すように、実トルク値Wacが許容トルク値Wcを上回る時刻t1で、ECU10の異常が検知される(ステップSb06)。
【0077】
時刻t1において、ECU10の異常が検知されると、当該時刻t1でのエンジン1の回転速度Neが故障検知時回転速度Nerとして設定されるとともに、当該故障検知時回転速度Nerに応じた基準値αが取得される(ステップSb07)。また、計時カウンタTmによる時間の計測が開始される(ステップSb08)。また、所定時間間隔毎に実トルク値Wacの時間変化量ΔWacを取得して異常トルク量ΣΔWとして積算する処理が開始される(ステップSb09)。
【0078】
そして、時刻t1から予め定められた基準時間τに応じた時間(本実施形態では、40m秒)が経過した時刻t2において(ステップSb10)、異常トルク量ΣΔWが基準値αと比較され(ステップSb11)、異常トルク量ΣΔWが基準値αを上回ることによりECU10に故障が生じていると判定される。
【0079】
時刻t2では、ECU10に故障が生じていると判定されることにより(ステップSb11:Y)、スロットルシャットオフ制御が開始される(ステップSb13)。また、エンジン1Neが基準値ε以下であり(ステップSa02:N)、点火遅延制御が許容される状況であり(ステップSa04:Y)、点火遅延制御の継続期間中である(ステップSa05:Y)場合には、点火遅延制御(IRC)が開始される(ステップSa06)。そして、時刻t2において点火遅延制御(IRC)が開始された後、基準値γに応じた時間(例えば、1~2秒等)が経過する時刻t3において、点火遅延制御は終了される(Sa07)。
【0080】
点火遅延制御が実行され、
図7に示すようにエンジン1の出力トルク(実トルク値Wac)が制限されることにより、点火遅延制御が行われる時刻t2から時刻t3までの期間におけるエンジン1の回転速度Neの増加率、車両の速度Veの増加率は、点火遅延制御が開始される前の期間(時刻t0から時刻t2までの期間)における各増加率に比較して低く抑えられる。
【0081】
点火遅延制御が開始された後、エンジン1の回転速度Neは一端低下し、その後徐々に増加する。そして、エンジン1の回転速度Neが予め設定される基準値ε(例えば、1500rpm等)を上回る時刻t4において、リンプホーム制御ICOが開始される。当該リンプホーム制御ICOが開始された以後は、エンジン1の回転速度Neが基準値εを上回るときに、燃料噴射装置6及び点火コイル8への通電が停止される一方、エンジン1の回転速度Neが基準値εを下回るときに、燃料噴射装置6及び点火コイル8への通電が行われるように制御が行われることにより、エンジン1の回転速度Ne及び車両の速度Veの上昇が制限されて、予め定められた所定の回転速度Ne(本実施形態では、1500rpm)、予め定められた所定の速度Ve(本実施形態では、15km)で維持されるようになっている。
【0082】
例えば、点火遅延量Atが大きく設定されるほど、または基準値γが大きく設定されて点火遅延制御の継続期間が長く設定されるほど、エンジン1の回転速度Nev(図中の一点鎖線)の増加率は緩やかになり、点火遅延制御が開始された後、エンジン1の回転速度Nevが基準値εに到達してリンプホーム制御が開始される状態となるまでに要する時間が長くなる傾向がある。これに対して、本実施形態に係るECU10では、異常トルク量Qer、回転速度Neに応じて点火遅延量Atが設定され、ECU10の異常が検知されたときの故障検知時回転速度Nerに応じて点火遅延制御を実行する期間の長さ示す基準値γが設定されるので、点火遅延制御が開始された後、リンプホーム制御が開始される状態となるまでに要する時間を比較的短くすることができる。
【0083】
[作用効果について]
本実施形態のECU10は、当該ECU10の故障が検知された後にエンジン1の回転速度Neが基準値εに到達することで、リンプホーム制御が実行される安全走行状態に移行する構成であり、ECU10の故障が検知された後らリンプホーム制御に移行されるまでの移行期間において、スロットルバルブ7を閉状態とするスロットルシャットオフ制御する構成であるが、移行期間においてスロットルシャットオフ制御のみを行う構成とすると、ECU10の故障が検知されたときのエンジン1の回転速度Neが比較的低い状態(例えば、アイドリング状態等)である場合には、リンプホーム制御の開始条件となる回転速度Neの基準値εと実際の回転速度Neとの差分が大きく、回転速度Neが基準値εに到達するまで比較的長い時間を要することとなり、リンプホーム制御が行われる安全走行状態(エンジン1の回転速度Neが基準値εを超えるときにリンプホーム制御が実行される状態)へ速やかに移行されない虞がある。すなわち、回転速度Neが基準値εに到達するまでの待機時間により、リンプホーム制御が開始されるタイミングが遅延される虞がある。また、当該移行期間において、スロットルバルブ7を閉状態に制御することのみでは車両に危険な加速度が生じてしまう虞がある。
【0084】
これに対して、本実施形態のECU10は、ECU10の故障が検知された後に、スロットルシャットオフ制御を行いつつ、所定期間にわたり点火コイルによる点火のタイミングを遅延させる点火遅延制御を行う。当該点火遅延制御を所定時間にわたり実行することにより、エンジン1の実際の出力トルクを制限しつつ、エンジン1の回転速度Neを比較的早く上昇させて基準値εに到達させ、リンプホーム制御が実行される安全走行状態へ早く移行させることができる。
【0085】
本実施形態のECU10は、車両のエンジン1の動作を制御する電子制御装置10であり、ECU10の故障を検知する第1監視部12と、該故障が検知された場合にエンジン1の動作を制御する制御部11と、を備え、第1監視部12は、該故障が検知された場合に、エンジン1のスロットルバルブ7を停止させて閉状態に制御し(ステップSb13)、制御部11は、該故障が検知された場合に、少なくとも、該故障の検知過程であって当該検知過程の開始時に取得されるエンジン1の故障検知時回転速度Nerに基づいて点火遅延量At及び継続期間の基準値γの少なくとも一方を設定して点火遅延制御を行い(ステップSa07)、エンジン1の回転速度Neが第1基準値(基準値ε)を超える場合に、リンプホーム制御を行う(ステップSa07)構成である。
【0086】
このような構成では、ECU10の故障が検知された場合に、第1監視部12は、スロットルバルブ7を停止させて閉状態に制御するスロットルシャットオフ制御を実行し、制御部11は、点火コイル8による点火タイミング遅延させる点火遅延制御を行うので、エンジン1の出力トルクを制限することができるともに、制御部11は、ECU10の故障が検知された場合に、少なくとも故障の検知過程の開始時に取得されるエンジン1の故障検知時回転速度Nerに基づいて点火遅延量At及び継続期間の基準値γの少なくとも一方を設定して点火遅延制御を実行するので、故障検知時回転速度(Ner)に応じた所定の移行時間でエンジン(1)の回転速度(Ne)を第1基準値(基準値ε)(例えば、1500rpm等)に到達させて、リンプホーム制御へ移行させることができる。
【0087】
本実施形態のECU10は、故障検知時回転速度Nerに基づいて点火遅延量At及び継続期間の基準値γの少なくとも一方を設定して点火遅延制御を行う構成であり、故障検知時回転速度Nerは、検知過程が開始されるときに取得される構成である。
【0088】
このような構成では、検知過程の期間中の最も早いタイミングでのエンジン1の回転速度Neが取得されることで、ECU10の故障により上昇する前の回転速度Neを故障検知時回転速度Nerとすることができ、故障が生じたとき比較的近い値の故障検知時回転速度Nerに基づいて点火遅延制御を行うことができる。
【0089】
本実施形態のECU10の制御部11は、故障検知時回転速度Ner及び検知過程で取得されるエンジン1の異常トルク量ΣΔWに基づいて点火遅延量At及び継続期間の基準値γの少なくとも一方を設定する構成である。
【0090】
このような構成では、検知過程で取得される故障検知時回転速度Ner及び異常トルク量ΣΔWに基づいて点火遅延量At及び継続期間の基準値γの少なくとも一方を設定するので、故障検知時回転速度Nerのみに基づいて点火遅延量At及び継続期間の基準値γを設定する構成に比較して検知過程でのエンジン1の動作状態をより反映させて点火遅延制御を行うことができる。
【0091】
本実施形態のECU10の制御部11は、少なくとも故障検知時回転速度Nerがアイドリング状態での回転速度Neである場合に、点火遅延制御を行う構成である。
【0092】
このような構成では、エンジン1がアイドリング状態であり、該エンジン1の回転速度Neとリンプホーム制御の開始条件である基準値εとの差分が大きい状態であるときに、ECU10の故障が発生した場合に、点火遅延制御を実行するので、エンジン1の実際の出力トルクを制限しつつ、エンジン1の回転速度Neを比較的早く上昇させて基準値εに到達させ、リンプホーム制御が実行される安全走行状態へ早く移行させることができる。
【0093】
本実施形態のECU10の制御部11は、実験により予め定められたマップとして点火遅延量設定マップ、点火遅延制御期間基準値マップを用いて点火遅延量At及び継続期間の基準値γを設定する構成である。
【0094】
このような構成では、マップを用いて点火遅延量At及び継続期間の基準値γを設定するので、故障検知時回転速度Ner、異常トルク量ΣΔWに応じた点火遅延量At及び継続期間の基準値γを自由に設定でき、ECU10の設計作業や適合作業を容易にすることができる。
【0095】
本実施形態のECU10の第1監視部12は、車両の動作状況に応じて許与されるエンジン1の許容トルク値Wcと、エンジン1から実際に出力される実トルク値Wacとを取得し、実トルク値Wacが許容トルク値Wcよりも大きい場合に、検知過程を開始させる構成である。
【0096】
このような構成では、エンジン1の実トルク値Wacが許容トルク値Wcより大きくなる異常が生じている場合に、ECU10の故障の検知過程を開始させることができる。
【0097】
本実施形態のECU10の第1監視部12は、ECU10の故障の検知過程においてエンジン1の出力トルクの時間変化量ΔWを積算して算出される異常トルク量ΣΔWを取得し、該異常トルク量ΣΔWが第2基準値(基準値α)を超える場合に、ECU10の故障を検知する構成である。
【0098】
このような構成では、第1監視部12は、検知過程においてエンジン1の出力トルクの時間変化量ΔWを積算して算出される異常トルク量ΣΔWが第2基準値(基準値α)を超える場合に、ECU10の故障を検知するので、例えば、ECU10に故障が生じていないが、ノイズ等の影響で一時的に実トルク値Wacが許容トルク値Wcを上回ることで、検知過程が開始されてしまった場合等に、ECU10の故障が誤検知されてしまうことを回避できる。
【0099】
本実施形態のECU10の制御部11は、点火遅延制御を実行することが許容される状況か否かを特定可能な点火遅延制御許容状況フラグを取得し(ステップSa04)、当該点火遅延制御許容状況フラグに基づいて点火遅延制御を実行することが許容される状況である場合に、点火遅延制御の実行を許可し、当該点火遅延制御許容状況フラグに基づいて点火遅延制御を実行することが許容されない状況である場合に、点火遅延制御の実行を許可しない構成である。
【0100】
このような構成では、点火遅延制御を実行することが許容される状況でない場合に、点火遅延制御を実行しないように制御できる。
【0101】
本実施形態のECU10の制御方法は、電子制御装置10が当該電子制御装置10の故障を検知する監視ステップ(Sb01~Sb12)と、故障が検知された場合にエンジン1の動作をECU10が制御する制御ステップ(Sa01~Sa07)と、を備え、監視ステップ(Sb01~Sb12)では、故障が検知された場合に(Sb11:Y)、エンジン1のスロットルバルブ7を停止させて閉状態に制御し(Sb13)、制御ステップ(Sa01~Sa07)では、故障が検知された場合に、少なくとも、故障の検知過程であって当該検知過程の開始時に取得されるエンジン1の故障検知時回転速度Nerに基づいて点火遅延量At及び継続期間の基準値γの少なくとも一方を設定して点火遅延制御を行い(Sa07)、エンジン1の回転速度Neが基準値εを超える場合に(Sa02:Y)、リンプホーム制御を行う(Sa07)構成である。
【0102】
このような構成では、ECU10の故障が検知される場合に、監視ステップにおいてスロットルバルブ7を停止させて閉状態に制御するスロットルシャットオフ制御を実行し、制御ステップにおいて点火コイル8による点火タイミング遅延させる点火遅延制御を行うので、エンジン1の出力トルクを制限することができるともに、制御ステップでは、ECU10の故障が検知された場合に、少なくとも、故障の検知過程の開始時に取得されるエンジン1の故障検知時回転速度Nerに基づいて点火遅延量At及び継続期間の基準値γの少なくとも一方を設定して点火遅延制御を実行するので、故障検知時回転速度Nerに応じた所定の移行時間でエンジン1の回転速度(Ne)を基準値ε(例えば、1500rpm等)に到達させて、リンプホーム制御へ移行させることができる。
【0103】
以上、本発明の実施形態の例を説明してきたが、本発明はこの実施形態の例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0104】
1 エンジン1
4 CAN
5 アクセルセンサ
6 燃料噴射装置
7 スロットルバルブ
8 点火コイル
10 電子制御装置(ECU)
11 制御部
12 第1監視部(監視部)
13 第2監視部
14 ECUパワーステージ部
15 スロットルパワーステージ部