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特許7333149車両のブレーキシステムを作動させるための制御ユニットおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】車両のブレーキシステムを作動させるための制御ユニットおよび方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/20 20060101AFI20230817BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20230817BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20230817BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
B60T13/20
B60T8/00 Z
B60T13/122 C
B60T13/74 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021571673
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2020064740
(87)【国際公開番号】W WO2020245006
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】102019208393.5
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】フォラート,ヘルベルト
(72)【発明者】
【氏名】クッカート,ハーゲン
(72)【発明者】
【氏名】ウィルコム,ヨハネス
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-193664(JP,A)
【文献】国際公開第2006/046318(WO,A1)
【文献】特開2012-096626(JP,A)
【文献】特開2013-056588(JP,A)
【文献】特開2015-146657(JP,A)
【文献】特開2015-202725(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0131154(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102013224776(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/20
B60T 13/74
B60T 8/00
B60T 13/122
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のブレーキシステムのための制御ユニット(40)において、
前記制御ユニット(40)は、少なくとも、前記ブレーキシステムのブレーキ操作要素(22)のドライバーブレーキ力伝達構成部品(24)の変位距離または前記ブレーキシステムのブレーキ倍力装置(26)のブースタ力伝達構成部品(28)の変位距離に関してセンサ(30)から提供されるセンサ信号(10)に基づいて、前記ブレーキシステムのブレーキマスタシリンダ(20)の変位可能なピストン(21)がその出発位置から最大可能減速距離に等しい減速距離(s)だけ前記ブレーキマスタシリンダ(20)内へ変位しているかどうかを検知または査定すると、少なくとも1つの制御信号(14)を前記ブレーキシステムの少なくとも1つの液圧ポンプ(34)のポンプ制御部(36)へ出力するように構成され、前記ポンプ制御部(36)が前記少なくとも1つの制御信号(14)により次のように作動可能であり、すなわち前記ポンプ制御部(36)により起動される前記少なくとも1つの液圧ポンプ(34)によりブレーキ液が前記ブレーキシステムのブレーキ液リザーバ(32)から前記ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(38)内へ搬送可能であるように、作動可能である、前記制御ユニット(40)。
【請求項2】
前記制御ユニット(40)は、少なくとも、電気機械式ブレーキ倍力装置として形成されている前記ブレーキ倍力装置(26)の電動機の回転センサまたはモータ電流センサから提供される、前記ブースタ力伝達構成部品(28)の前記変位距離に関する前記センサ信号(10)に基づいて、前記ブレーキマスタシリンダ(20)の前記変位可能なピストン(21)の前記減速距離(s)が前記最大可能減速距離に等しいかどうかを検知または査定するために構成されている、請求項1に記載の制御ユニット(40)。
【請求項3】
前記制御ユニット(40)は、電気機械式ブレーキ倍力装置として形成されている前記ブレーキ倍力装置(26)の前記ドライバーブレーキ力伝達構成部品(24)の変位距離と前記ブースタ力伝達構成部品(28)の変位距離との間の距離差を測定する距離差センサの距離差信号を考慮して、前記ブレーキマスタシリンダ(20)の前記変位可能なピストン(21)の前記減速距離(s)が前記最大可能減速距離に等しいかどうかを検知または査定するために構成されている、請求項1または2に記載の制御ユニット(40)。
【請求項4】
前記制御ユニット(40)は、入力ロッドとして形成されている前記ドライバーブレーキ力伝達構成部品(24)に設けたロッド距離センサのロッド距離信号を考慮して、前記ブレーキマスタシリンダ(20)の前記変位可能なピストン(21)の前記減速距離(s)が前記最大可能減速距離に等しいかどうかを検知または査定するために構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の制御ユニット(40)。
【請求項5】
前記ブレーキマスタシリンダ(20)の前記変位可能なピストン(21)の前記減速距離(s)が前記最大可能減速距離に等しいことを前記制御ユニット(40)が検知または査定する限りにおいては、前記制御ユニット(40)は、少なくとも提供された前記センサ信号(10)に基づいて、前記ブレーキ液リザーバ(32)から前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(38)内へ搬送すべき目標体積流に関する目標量を決定して、前記目標量に対応する実体積流(Q)が前記ポンプ制御部(36)によって起動される前記少なくとも1つの液圧ポンプ(34)により前記ブレーキ液リザーバ(32)から前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(38)内へ搬送可能であるように前記ポンプ制御部(36)を前記少なくとも1つの制御信号(14)により作動させるために構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の制御ユニット(40)。
【請求項6】
前記制御ユニット(40)は、少なくとも提供された前記センサ信号(10)に基づいて、前記ブレーキ倍力装置(26)を用いて成し遂げるべき目標ブースタ力に関する目標ブースタ量を決定して、前記ブレーキ倍力装置(26)が前記目標ブースタ量に対応するブースタ力(Fsupport)を前記ブースタ力伝達構成部品(28)を介して提供するように前記ブレーキ倍力装置(26)を少なくとも1つのブースタ制御信号(16)により起動させるために構成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の制御ユニット(40)。
【請求項7】
前記制御ユニット(40)は、前記ブレーキマスタシリンダ(20)の前記変位可能なピストン(21)の前記減速距離(s)が前記最大可能減速距離以下であることを前記制御ユニット(40)が検知または査定する限りにおいては、所定の第1の特性曲線に従って前記目標ブースタ量を決定し、そして前記ブレーキマスタシリンダ(20)の前記変位可能なピストン(21)の前記減速距離(s)が前記最大可能減速距離に等しいことを前記制御ユニット(40)が検知または査定する限りにおいては、所定の第2の特性曲線に従って前記目標ブースタ量を決定するために構成されている、請求項6に記載の制御ユニット(40)。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の制御ユニット(40)を備えた、車両のブレーキシステムのためのブレーキ倍力装置(26)。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の制御ユニット(40)と、
少なくとも前記変位可能なピストン(21)を備えた前記ブレーキマスタシリンダ(20)と、
少なくとも前記ドライバーブレーキ力伝達構成部品(24)を備え、前記ドライバーブレーキ力伝達構成部品を介してドライバーブレーキ力(Fdriver)を前記ブレーキマスタシリンダ(20)の前記変位可能なピストン(21)へ伝達可能である前記ブレーキ操作要素(22)と、
少なくとも前記ブースタ力伝達構成部品(28)を備え、前記ブースタ力伝達構成部品を介して、前記ブレーキ倍力装置(26)から提供されるブースタ力(Fsupport)を前記ブレーキマスタシリンダ(20)の前記変位可能なピストン(21)へ伝達可能である前記ブレーキ倍力装置(26)と、
前記ブレーキ操作要素(22)の前記ドライバーブレーキ力伝達構成部品(24)の変位距離または前記ブレーキ倍力装置(26)のブースタ力伝達構成部品(28)の変位距離に関する前記センサ信号(10)を前記制御ユニット(40)へ提供するために構成されている前記センサ(30)と、
前記ブレーキマスタシリンダ(20)に結合されている前記ブレーキ液リザーバ(32)と、
前記ブレーキマスタシリンダ(20)に結合され、ポンプモータ制御部(36)を備えている前記少なくとも1つの液圧ポンプ(34)と、
前記少なくとも1つの液圧ポンプ(34)の搬送側に結合されている前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(38)と、
を備えた車両用ブレーキシステム。
【請求項10】
車両のブレーキシステムを作動させるための方法において、
少なくとも、前記ブレーキシステムのブレーキ操作要素(22)のドライバーブレーキ力伝達構成部品(24)の変位距離または前記ブレーキシステムのブレーキ倍力装置(26)のブースタ力伝達構成部品(28)の変位距離に関してセンサ(30)から提供されるセンサ信号(10)に基づいて、前記ブレーキシステムのブレーキマスタシリンダ(20)の変位可能なピストン(21)がその出発位置から最大可能減速距離に等しい減速距離(s)だけ前記ブレーキマスタシリンダ(20)内へ変位しているかどうかを検査または査定するステップと、
前記ブレーキマスタシリンダ(20)の前記変位可能なピストン(21)の前記減速距離(s)が前記最大可能減速距離に等しいことが検知または査定される限りにおいては、前記ブレーキシステムの少なくとも1つの液圧ポンプ(34)のポンプモータ制御部(36)を次のように作動させるステップであって、すなわち前記ポンプモータ制御部(36)により起動される前記少なくとも1つの液圧ポンプ(34)によりブレーキ液が前記ブレーキシステムのブレーキ液リザーバ(32)から前記ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(38)内へ搬送されるように、作動させるステップと、
を含んでいる前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキシステムのための制御ユニット、車両のブレーキシステムのためのブレーキ倍力装置、車両用ブレーキシステムに関するものである。また、本発明は車両のブレーキシステムを作動させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術から、それぞれのブレーキシステムを備えている車両のドライバーが、車両のブレーキ操作要素/ブレーキペダルの操作により、それぞれのブレーキシステムのブレーキマスタシリンダを介して、ブレーキマスタシリンダに液圧的に結合されている少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内部に減速操作を介入できるようにしたブレーキシステムが知られ、この場合ドライバーは同時に、それぞれのブレーキシステムのブレーキ倍力装置によりパワー支援される。この種のブレーキシステムは、たとえば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】独国特許出願公開第102010001939号明細書
【発明の概要】
【0004】
本発明は、請求項1の構成要件を備えた車両のブレーキシステムのための制御ユニット、請求項8の構成要件を備えた車両のブレーキシステムのためのブレーキ倍力装置、請求項9の構成要件を備えた車両用ブレーキシステム、請求項10の構成要件を備えた車両のブレーキシステムを作動させるための方法を創作する。
【0005】
本発明は、車両/自動車のブレーキシステムのブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンが、車両/自動車のブレーキ操作要素に作用するドライバーブレーキ力により、および/または、ブレーキシステムのブレーキ倍力装置のブースタ力により、場合によっては迅速にブレーキ液が少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内へ搬送されることで、その出発位置から所定の制限減速距離に等しい減速距離だけブレーキマスタシリンダ内へ変位している状況に反応するための有利な可能性を創作する。ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの制限減速距離とは、特に変位可能なピストンの最大可能減速距離と理解してよい。したがって本発明は、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離がすでに所定の制限減速距離/最大可能減速距離に等しいので、ブレーキマスタシリンダ内への更なる減速操作の介入がもはや不可能であるような状況に対して特に適している。しかしながら、ブレーキマスタシリンダ内への更なる減速操作の介入がもはや不可能である場合ですら、本発明は、ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内へのブレーキ液の搬送に対しても配慮するものであり、このようにしてそれぞれの車両/自動車の確実な減速を保証している。
【0006】
それ故、本発明は、従来ではブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離/最大可能減速距離に等しくない/ほとんど等しくないこと、すなわち過剰であることを確定すべきものであるブレーキマスタシリンダ内の「リザーバ体積」を提供する。したがって本発明は、ブレーキマスタシリンダの長さを、すなわち変位可能なピストンの変位方向に沿ったブレーキマスタシリンダの最大拡がりを減少させるために利用できる。したがって、本発明を利用する際に使用されるブレーキマスタシリンダは、従来の/標準的なブレーキマスタシリンダよりも短いブレーキマスタシリンダ長さを持つことができる。対応的に、ブレーキマスタシリンダと協働するブレーキ倍力装置も、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの変位方向に沿ってより短く形成されていてよく、その結果ブレーキ倍力装置が車室内へ(奥深く)突出することなく、ブレーキ倍力装置をより簡単に車両/自動車に組付け可能である。したがって本発明は、車両/自動車の事故の場合のドライバーの傷害リスクを低減させるためにも利用できる。
【0007】
なお、本発明は、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離に等しいかどうかを検知/査定するために、ブレーキマスタシリンダ内にあるブレーキマスタシリンダ圧に対する現時点での測定値を必要とせず、それ故予圧センサをも必要としないことを明確に指摘しておく。したがって本発明は、本発明を利用するブレーキシステムに予圧センサを具備させる手間を省くことに寄与することができる。
【0008】
本発明の有利な作用は、MVR機能(Master Cylinder Volume Replacement)と呼ぶこともできる。
【0009】
有利な実施態様では、制御ユニットは、少なくとも、電気機械式ブレーキ倍力装置として形成されているブレーキ倍力装置の電動機の回転センサまたはモータ電流センサから提供される、ブースタ力伝達構成部品の変位距離に関するセンサ信号に基づいて、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離に等しいかどうかを検知または査定するために構成されている。したがって、ここで述べている制御ユニットの実施態様は、コスト上比較的好ましく且つ比較的小さな構成空間ですむ、すでに頻繁に使用されているタイプのセンサと協働することができる。
【0010】
有利な態様では、制御ユニットは、電気機械式ブレーキ倍力装置として形成されているブレーキ倍力装置の距離差センサの距離差信号を付加的に考慮して、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離に等しいかどうかを検知または査定するためにも構成されている。これにより、ここで述べている制御ユニットの実施態様も、従来既に使用されている距離差センサと協働することができる。
【0011】
択一的または補完的に、制御ユニットは、入力ロッドとして形成されているドライバーブレーキ力伝達構成部品に設けたロッド距離センサのロッド距離信号を付加的に考慮して、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離に等しいかどうかを検知または査定するために構成されていてよい。ロッド距離センサは、コスト上比較的好ましく製造可能であり、比較的小さな構成空間ですむ。それ故、ここで述べている制御ユニットも、有利なタイプのセンサの利用に適している。
【0012】
更なる有利な実施態様では、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離に等しいことを制御ユニットが検知または査定する限りにおいては、制御ユニットは、付加的に、少なくとも提供されたセンサ信号、距離差信号および/またはロッド距離信号に基づいて、ブレーキ液リザーバから少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内へ搬送すべき目標体積流に関する目標量を決定して、目標量に対応する実体積流がポンプ制御部によって起動される少なくとも1つの液圧ポンプによりブレーキ液リザーバから少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内へ搬送可能であるようにポンプ制御部を少なくとも1つの制御信号により作動させるために構成されている。したがって、ここで述べている制御ユニットの実施態様は、どの程度の追加体積をブレーキ液リザーバから少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内へ搬送すべきかを、ポンプ制御部に付加的に知らせることができる。
【0013】
好ましくは、制御ユニットは、付加的に、少なくとも提供されたセンサ信号、距離差信号および/またはロッド距離信号に基づいて、ブレーキ倍力装置を用いて成し遂げるべき目標ブースタ力に関する目標ブースタ量を決定して、ブレーキ倍力装置が目標ブースタ量に対応するブースタ力をブースタ力伝達構成部品を介して提供するようにブレーキ倍力装置を少なくとも1つのブースタ制御信号により起動させるために構成されている。したがって、ここで述べている制御ユニットの実施態様は特にブレーキ倍力装置制御ユニットとして使用することができ、その結果ブレーキ倍力装置に(付加的な)固有の制御部を具備させる従来の必要性がなくなる。
【0014】
有利な更なる構成として、制御ユニットは、付加的に、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離以下であることを制御ユニットが検知または査定する限りにおいては、所定の第1の特性曲線に従って目標ブースタ量を決定し、そしてブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離に等しいことを制御ユニットが検知または査定する限りにおいては、所定の第2の特性曲線に従って目標ブースタ量を決定するために構成されていてよい。以下でより正確に説明しているように、この事例では、制御ユニットは、車輪ブレーキシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離/最大可能減速距離に等しい場合でも、ブレーキ操作要素を操作するドライバーのブレーキ操作感覚/ペダル感覚を改善させることができる。
【0015】
前述した利点は、対応する制御ユニットを備えた、車両のブレーキシステムのためのブレーキ倍力装置においても保証されている。
【0016】
ブレーキシステムが、対応する制御ユニットと、少なくとも変位可能なピストンを備えたブレーキマスタシリンダと、少なくともドライバーブレーキ力伝達構成部品を備え、ドライバーブレーキ力伝達構成部品を介してドライバーブレーキ力をブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンへ伝達可能であるブレーキ操作要素と、少なくともブースタ力伝達構成部品を備え、ブースタ力伝達構成部品を介して、ブレーキ倍力装置から提供されるブースタ力をブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンへ伝達可能であるブレーキ倍力装置と、ブレーキ操作要素のドライバーブレーキ力伝達構成部品の変位距離またはブレーキ倍力装置のブースタ力伝達構成部品の変位距離に関するセンサ信号を制御ユニットへ提供するために構成されているセンサと、ブレーキマスタシリンダに結合されているブレーキ液リザーバと、ブレーキマスタシリンダに結合され、ポンプモータ制御部を備えている少なくとも1つの液圧ポンプと、少なくとも1つの液圧ポンプの搬送側に結合されている少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダとを備えている限りにおいては、車両用ブレーキシステムも上述の利点を有している。
【0017】
さらに、車両のブレーキシステムを作動させるための対応する方法を実施しても、上述の利点を提供する。なお、車両のブレーキシステムを作動させるための方法は、上述した制御ユニットの実施態様に従って更なる構成が可能であることを明確に指摘しておく。
【図面の簡単な説明】
【0018】
次に、本発明の更なる構成要件および利点を、図面を用いて説明する。
図1】車両のブレーキシステムを作動させるための方法の一実施形態を説明する動作ブロック図である。
図2a】制御ユニットの一実施形態を備えたブレーキシステムの概略図である。
図2b】制御ユニットの動作態様を説明するための座標系である。
図2c】制御ユニットの動作態様を説明するための座標系である。
図2d】制御ユニットの動作態様を説明するための座標系である。
図2e】制御ユニットの動作態様を説明するための座標系である。
図2f】制御ユニットの動作態様を説明するための座標系である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、車両のブレーキシステムを作動させる方法の一実施形態を説明するための動作ブロック図である。
【0020】
以下に述べる方法は、車両/自動車のブレーキシステムを作動させるために実施することができる。なお、この方法の実施可能性は、作動するブレーキシステムの特殊なタイプのブレーキシステムにも、ブレーキシステムを備えた車両/自動車の特別なタイプの車両/自動車にも限定されないことを指摘しておく。
【0021】
方法ステップS1で、ブレーキシステムのブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンがその出発位置から所定の制限減速距離に等しい減速距離だけブレーキマスタシリンダ内へ変位しているかどうかを検知または査定する。出発位置とは、特に、変位可能なピストンによって画成されてブレーキ液で充填可能な/充填されるブレーキマスタシリンダのチャンバーが最大容積を有するような、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの位置であり、他方チャンバーの容積はブレーキマスタシリンダ内への変位可能なピストンの変位により減少可能である。ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンとは、特にブレーキマスタシリンダのロッドピストンと理解してよい。所定の制限減速距離は、好ましくは最大可能減速距離に等しく、この最大可能減速距離だけブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンはブレーキマスタシリンダ内へ最大で変位可能である。特に、制限減速距離だけ変位したピストンはブレーキマスタシリンダ内に形成されているストッパーに衝突することができ、それ故ブレーキマスタシリンダ内へそれ以上変位することはできない。
【0022】
方法ステップS1で実施される、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離に等しいかどうかの検知または査定は、少なくとも、ブレーキシステムのブレーキ操作要素のドライバーブレーキ力伝達構成部品またはブレーキシステムのブレーキ倍力装置のブースタ力伝達構成部品の変位距離に関してセンサから提供されるセンサ信号10を用いて行われる。ドライバーブレーキ力伝達構成部品はブレーキ操作要素の構成部品であり、これを介してドライバーブレーキ力をブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンへ伝達可能である。ブレーキシステムのブレーキ操作要素とは、たとえばブレーキペダルであると理解してよい。ドライバーブレーキ力伝達構成部品は、たとえば入力ロッドであってよい。
【0023】
ブースタ力伝達構成部品はブレーキ倍力装置の構成部品であり、これを介して、ブレーキ倍力装置から提供されるブースタ力をブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンへ伝達可能である。ブレーキ倍力装置は、特に電気機械式ブレーキ倍力装置であってよい。ブレーキ倍力装置のブースタ力伝達構成部品とは、たとえばブースタピストンであってよい。「変位距離」という概念により、ドライバーブレーキ力またはブースタ力により生じる、(力が作用しない)出発位置からのドライバーブレーキ力伝達構成部品またはブースタ力伝達構成部品の距離が表される。
【0024】
センサ信号10は、好ましくは、電気機械式ブレーキ倍力装置として形成されるブレーキ倍力装置の電動機の回転センサまたはモータ電流センサから提供される。この種のタイプのセンサは、電気機械式ブレーキ倍力装置に簡単に取り付け可能である。
【0025】
オプションの態様では、さらに、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離に等しいかどうかを検知または査定するための他のセンサ信号12を一緒に評価することができる。他のセンサ信号12は、たとえば、入力ロッドとして形成されるドライバーブレーキ力伝達構成部品の変位距離に関するロッド距離センサのロッド距離信号、または、入力ロッドの変位距離と弁体として形成されるブースタ力伝達構成部品の変位距離との間の距離差に関する距離差センサの距離差信号であってよい。
【0026】
方法ステップS1は、任意の頻度で反復してよい。ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離に等しいことが検知または評定される限りにおいては、少なくとも方法ステップS2を実施する。方法ステップS2として、ブレーキシステムの少なくとも1つの液圧ポンプのポンプモータ制御部を次のように作動させ、すなわちポンプモータ制御によって起動される少なくとも1つの液圧ポンプを用いてブレーキ液がブレーキシステムのブレーキ液リザーバからブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内へ搬送されるように、作動させる。このために、少なくとも1つの制御信号14をポンプモータ制御部に出力する。これにより、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が最大可能減速距離に等しい事例でさえも、それ故ブレーキマスタシリンダ内への更なる減速介入がそれ以上不可能である事例でさえも、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内にさらにブレーキ圧上昇を生じさせる。それ故、ここで説明している方法を実施するために、ブレーキマスタシリンダの長さが比較的短いタイプのブレーキマスタシリンダ、すなわちその変位可能なピストンの変位方向に沿ったブレーキマスタシリンダの最大拡がりが比較的小さなタイプのブレーキマスタシリンダを問題なく使用できる。対応的に、ブレーキマスタシリンダと協働するブレーキ倍力装置も、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの変位方向に沿ってより短く形成されていてよく、このことは、すでに上述したように、車両/自動車の事故の場合にドライバーに対する傷害リスクを減少させる。
【0027】
好ましくは、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離に等しいことを検知または査定する際、ブレーキ液リザーバから少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内へ搬送すべき目標体積流に関する目標量をも決定する。この事例では、ポンプ制御部を少なくとも1つの制御信号14を用いて次のように作動させることができ、すなわちポンプ制御部によって起動される少なくとも1つの液圧ポンプにより、目標量に対応する実体積流がブレーキ液リザーバから少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内へ搬送されるように、作動させることができる。目標量の決定は、少なくとも、センサ信号10を用いておよび/または他のセンサ信号12を用いて行うことができる。ドライバーブレーキ力伝達構成部品および/またはブースタ力伝達構成部品の速度も、たとえば入力ロッドの変位距離の時間的増減、弁体の変位距離の時間的増減および/または距離差の時間的増減も、目標量を決定するために評価してよい。
【0028】
有利な更なる構成として、(オプションの)方法ステップS3において、ブレーキ倍力装置からブースタ力伝達構成部品を介して提供されてブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンへ伝達されるブースタ力を、変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離に等しいという検知/査定状況に適合させることができる。方法ステップS3の実施は、ブレーキ倍力装置を作動させる際に、ブレーキ倍力装置により成し遂げるべき目標ブースタ力に関する目標ブースタ量を少なくとも第1の特性曲線/標準特性曲線または第2の特性曲線/力平衡特性曲線に従って決定し、そして次にブレーキ倍力装置を少なくとも1つのブースタ制御信号16を用いて起動させることでブレーキ倍力装置が目標ブースタ量に対応するブースタ力をブースタ力伝達構成部品を介して提供する限りにおいては、ブレーキ倍力装置を作動させるための1つの有利な更なる構成である。下記でより正確に説明されているように、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離以下であることが検知または査定される限りにおいては、目標ブースタ力は第1の特性曲線/標準特性曲線に従って決定される。これに対して、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が所定の制限減速距離に等しいことが検知または査定されるとの理由で方法ステップS3を実施する場合は、目標ブースタ量は第2の特性曲線/力平衡特性曲線に従って決定される。第2の特性曲線/力平衡特性曲線と第1の特性曲線/標準特性曲線は、たとえば、ドライバーブレーキ力伝達構成部品の変位距離に、特定の目標ブースタ力またはこの目標ブースタ力に対応するブースタ力伝達構成部品の目標変位距離を割り当てる関数、或いは、入力ロッドの変位距離と弁体の変位距離との間の対応する目標距離差を割り当てる関数であってよい。
【0029】
好ましくは、第2の特性曲線/力平衡特性曲線と第1の特性曲線/標準特性曲線は、関数として次のように決定されており、すなわち第2の特性曲線/力平衡特性曲線が、第1の特性曲線/標準特性曲線と比べて、ドライバーブレーキ力伝達構成部品の変位距離により低い目標ブースタ力またはブースタ力伝達構成部品のより短い目標変位距離を割り当てるように、或いは、対応的に適合された目標距離差を割り当てるように、決定されている。このようにして、ブレーキ操作要素を操作するドライバーのブレーキ操作感覚/ペダル感覚は、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンが所定の制限減速距離だけ変位したことの反応をドライバーが感じない/ほとんど感じないように適合される。
【0030】
更なる有利な補完手段として、方法ステップS2(および場合によっては方法ステップS3)を実施した後に、方法ステップS1を少なくとも1回反復してよい。この事例で、ブレーキマスタシリンダの変位可能なピストンの減速距離が制限減速距離よりも短いことが検知または査定されると、方法ステップS4で、ポンプ制御部によって制御される少なくとも1つの液圧ポンプを停止させるようにポンプ制御部を少なくとも1つの動作停止信号18により制御することができる。さらに、方法ステップS5で、ブレーキ倍力装置の成し遂げるべき目標ブースタ力に関する目標ブースタ量を第1の特性曲線/標準特性曲線に従って決定することができ、その結果その後ブレーキ倍力装置は再び「標準どおりに」作動する。
【0031】
図2aないし図2fは、制御ユニットの一実施形態を備えたブレーキシステムの概略図および制御ユニットの動作態様を説明するための座標系である。
【0032】
図2aに概略を図示したブレーキシステムは、少なくとも1つの変位可能なピストン21を備えたブレーキマスタシリンダ20を有している。変位可能なピストン21とは、たとえばブレーキマスタシリンダ20のロッドピストンであると理解してよい。選択的に、ブレーキマスタシリンダ20は、ロッドピストンとして形成された変位可能なピストン21に加えて、フローティングピストンをも有していてよい。
【0033】
ブレーキシステムは、少なくとも1つのドライバーブレーキ力伝達構成部品24を備えたブレーキ操作要素22をも有し、ドライバーブレーキ力伝達構成部品を介してドライバーブレーキ力Fdriverをブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21へ伝達可能である。ブレーキ操作要素22は、たとえばブレーキペダルを含んでいてよい。ドライバーブレーキ力伝達構成部品24は、特に入力ロッドであってよい。
【0034】
さらに、ブレーキシステムは、少なくとも1つのブースタ力伝達構成部品28を備えたブレーキ倍力装置26を含んでおり、ブースタ力伝達構成部品を介して、ブレーキ倍力装置26から提供されるブースタ力Fsupportをブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21へ伝達可能である。ブレーキ倍力装置26は、特に、(図示していない)電動機を備えた電気機械式ブレーキ倍力装置であってよい。それ故、ブースタ力伝達構成部品28はたとえばブースタピストンであると理解してよい。しかしながら、ブレーキシステムの構成可能性は、電気機械式ブレーキ倍力装置をブレーキ倍力装置26として利用することに限定されない。
【0035】
センサ30は、ブレーキ操作要素22のドライバーブレーキ力伝達構成部品24またはブレーキ倍力装置26のブースタ力伝達構成部品28の変位距離に関するすでに上述したセンサ信号10を提供するために構成されている。センサ30に対する実施例は、下記でさらに取り上げる。
【0036】
ブレーキマスタシリンダ20には、さらにブレーキ液リザーバ32も結合されている。また、ポンプ制御部36を備えた少なくとも1つの液圧ポンプ34がブレーキマスタシリンダ20に液圧的に結合されている。好ましくは、ブレーキマスタシリンダ20は、その少なくとも1つのオリフィス孔を密封するための折畳み可能なパッキンを次のように備えて成り、すなわち少なくとも1つのポンプ34により生じる吸込圧がブレーキマスタシリンダ20内にある場合に、ブレーキマスタシリンダのパッキンが折畳まれ、よって液体が通過するように、備えて成る。この事例では、ブレーキマスタシリンダ20の少なくとも1つの漏らし孔の密封後も、少なくとも1つのポンプ34はブレーキマスタシリンダ20を介してなおもブレーキ液をブレーキ液リザーバ32から吸い込むことができる。
【0037】
ポンプ制御部36を備えた少なくとも1つのポンプ34は、特にブレーキシステムのESPシステム(電子スタビリティプログラムのシステム)の一部であってよい。さらに、ブレーキシステムは、少なくとも1つのポンプ34の搬送側に液圧的に結合されている少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ38を有している。
【0038】
ブレーキシステムは、さらに、制御ユニット40をも有し、制御ユニットは図2aないし図2fの実施形態では模範的な例としてブレーキ倍力装置26の従属ユニットである。したがって、制御ユニット40はブレーキ倍力装置制御ユニットと呼ぶことができる。制御ユニット40は、特にブレーキ倍力装置のハウジングの内部に組み込まれていてよい。しかしながら、制御ユニット40は、ブレーキ倍力装置26から間隔をもって/切り離してブレーキシステムに設けられている場合にも、以下に説明するその機能を実施できることを指摘しておく。
【0039】
制御ユニット40は、少なくとも、センサ30から提供される、ドライバーブレーキ力伝達構成部品24またはブースタ力伝達構成部品28の変位距離に関するセンサ信号10に基づいて、ブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21がその出発位置から所定の制限減速距離s0に等しい減速距離sだけブレーキマスタシリンダ20内へ変位しているかどうかを検知または査定するために構成されている。「変位距離」という概念により、ドライバーブレーキ力Fdriverまたはブースタ力Fsupportにより生じる、(力が作用しない)出発位置からのドライバーブレーキ力伝達構成部品24またはブースタ力伝達構成部品28の距離が表される。制限減速距離s0とは、特に、変位可能なピストン21がブレーキマスタシリンダ20内へ最大に変位可能である最大可能減速距離sであると理解してよい。特に、ブレーキマスタシリンダ20は、制限減速距離s0だけ変位したピストン21がストッパーに衝突し、それ故それ以上ブレーキマスタシリンダ20内へ変位できないように形成されていてよい。
【0040】
ブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21の減速距離sが所定の制限減速距離s0に等しいことを制御ユニット40が検知または査定した場合、制御ユニット40は、すでに上述した少なくとも1つの制御信号16を少なくとも1つの液圧ポンプ34のポンプ制御部36へ出力するように構成され、これによってポンプ制御部は、該ポンプ制御部36によって起動される少なくとも1つの液圧ポンプ34によりブレーキ液がブレーキ液リザーバ32から少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ38内へ搬送可能であるように/搬送されるように作動可能であり/作動される。
【0041】
従って制御ユニット40は、ブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21がストッパーに衝突する際でも、すなわち制限減速距離s0だけ変位したピストン21がブレーキマスタシリンダ20内へそれ以上変位できない場合でも、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ38内でのブレーキ圧上昇をまだ発生させることを保証することができる。したがって、制御ユニット40はMVR機能(Master Cylinder Volume Replacement)に適しており、これによってブレーキシステムを備えた車両/自動車の安全基準が改善されている。
【0042】
それ故制御ユニット40は、ブレーキマスタシリンダ20から変位可能なピストン21を用いて押し出し可能な「リザーバ体積」の提供を過剰にさせる。したがって、ブレーキマスタシリンダ20のブレーキマスタシリンダ長さは、すなわちブレーキマスタシリンダ20の、その変位可能なピストン21の変位方向に沿った最大拡がりは、従来技術の場合よりも短くてよい。ブレーキ倍力装置26も、変位可能なピストン21の変位方向に沿ってより短く形成されていてよく、そのためブレーキ倍力装置26が車両/自動車の車室内へ(奥深く)突出することなく、ブレーキ倍力装置26をより簡単に車両/自動車に取り付け可能である。これは、車両/自動車の事故の場合に車両/自動車のドライバーに対する傷害リスクの低減に寄与する。
【0043】
好ましくは、制御ユニット40は、少なくとも、電気機械式ブレーキ倍力装置として形成されているブレーキ倍力装置26の電動機の回転センサまたはモータ電流センサから提供される、ブースタ力伝達構成部品38の変位距離に関するセンサ信号10に基づいて、ブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21の減速距離sが所定の制限減速距離s0に等しいかどうかを検知または査定するために構成されている。したがって、センサ30として、電動機の回転センサまたはモータ電流センサを利用してよい。電動機には通常この種のタイプのセンサがすでに備え付けられているので、制御ユニット40はブレーキシステムのセンサ装置を拡張することなく使用できる。
【0044】
オプションの態様によれば、制御ユニット40は、すでに上述した他のセンサ信号12を付加的に考慮して、ブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21の減速距離sが所定の制限減速距離s0に等しいかどうかを検知または査定するためにも構成されていてよい。他のセンサ信号12は、たとえば、入力ロッドとして形成されているドライバーブレーキ力伝達構成部品24に設けたロッド距離センサの(入力ロッドの変位距離に関する)ロッド距離信号、または、(入力ロッドの変位距離と、ブースタピストンとして形成されているブースタ力伝達構成部品28の変位距離との間の距離差Δに関する)距離差センサの距離差信号であってよい。したがって、すでに公知のタイプのセンサが制御ユニット40と協働することができる。
【0045】
有利な更なる構成として、ブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21の減速距離sが所定の制限減速距離s0に等しいことを制御ユニット40が検知または査定する限りにおいては、制御ユニット40は、付加的に、少なくとも提供されたセンサ信号10および/または他のセンサ信号12に基づいて、ブレーキ液リザーバ32から少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ38内へ搬送すべき目標体積流に関する目標量を決定し、そしてポンプ制御部36を少なくとも1つの制御信号16を用いて次のように作動させるために構成されていてよく、すなわちポンプ制御部36によって起動される少なくとも1つの液圧ポンプ34により、目標量に対応する実体積流Qがブレーキ液リザーバ32から少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ38内へ搬送可能であるように/搬送されるように、作動させるために構成されていてよい。したがって、ブレーキ液リザーバ32から少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ38内へのブレーキ液34の搬送を、ドライバーのブレーキ要求デフォルトに適合させることができる。
【0046】
制御ユニット40は、他の機能を実施するためにも形成されていてよい。たとえば、制御ユニット40は付加的に、少なくとも提供されたセンサ信号10および/または他のセンサ信号12に基づいて、ブレーキ倍力装置26により成し遂げるべき目標ブースタ力に関する目標ブースタ量を決定し、そしてブレーキ倍力装置26をすでに上述した少なくとも1つのブースタ制御信号16により起動させて、ブレーキ倍力装置16が目標ブースタ量に対応するブースタ力Fsupportをブースタ力伝達構成部品28を介して提供するために構成されていてよい。したがって制御ユニット40は、従来の1つのブレーキ倍力装置制御ユニットの複数の機能をも同時に支障なく実施することができる。
【0047】
他の有利な更なる構成として、制御ユニット40は付加的に、ブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21の減速距離sが所定の制限減速距離s0以下であることを制御ユニット40が検知または査定する限りにおいては、目標ブースタ量を所定の第1の特性曲線に従って決定し、そしてブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21の減速距離sが所定の制限減速距離s0に等しいことを制御ユニット40が検知または査定する限りにおいては、目標ブースタ量を所定の第2の特性曲線に従って決定するために構成されていてよい。第1および第2の特性曲線は、たとえば、ドライバーブレーキ力伝達構成部品24の変位距離に、特定の目標ブースタ力、または、目標ブースタ力に対応するブースタ力伝達構成部品28の目標変位距離、或いは、これに対応する入力ロッドの変位距離と弁体の変位距離との間の目標距離差を割り当てる関数であってよい。好ましくは、第1および第2の特性曲線は関数として次のように設定されており、すなわち第2の特性曲線が、第1の特性曲線と比べて、ドライバーブレーキ力伝達構成部品24の変位距離に、より低い目標ブースタ力、または、ブースタ力伝達構成部品28のより短い目標変位距離、或いは、これに対応的に適合される目標距離差を割り当てるように設定されている。したがって、第1の特性曲線は標準特性曲線と呼ぶことができ、他方第2の特性曲線は力平衡特性曲線と言い表すことができる。ここで述べている特性曲線交替により、ブレーキ操作要素22を操作しているドライバーのブレーキ操作感覚/ペダル感覚を次のように適合させることができ、すなわちブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21を所定の制限減速距離s0だけ変位したことの反応をドライバーが感じない/ほとんど感じないように、適合させることができる。特に、ブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21の減速距離sが所定の制限減速距離s0に等しいことを検知または査定した場合、ここで述べている特性曲線交替により、ブレーキ倍力装置26のブースタ力Fsupportを次のように制限することができ、すなわち変位可能なピストン21に反作用するストッパーを押しのけようとする試みをドライバーに起こさせないように制限することができる。というのは、その際にドライバーが感じる「ブレーキ操作要素22の反応」がドライバーを不安にさせるからである。
【0048】
図2bないし図2fの座標系を用いて、制御ユニット40の動作態様をもう一度概略的に説明する。
【0049】
図2bないし図2fの座標系において、横軸はそれぞれ時間軸tである。図2bの座標系の縦軸により、ブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21の減速距離sが示されている。図2cの座標系の縦軸は、距離差Δを示している。少なくとも1つの液圧ポンプ34により発生する、ブレーキ液リザーバ32から少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ38内への実体積流Qは、図2dの座標系の縦軸を用いて示されている。図2eおよび図2fの座標系の縦軸は、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ38内にあるブレーキ圧p38およびブレーキマスタシリンダ20内にあるブレーキマスタシリンダ内圧p20を表している。
【0050】
時間t0から、ドライバーはそのブレーキ操作要素32を操作する。しかしながら、時間t3まではブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21の減速距離sは所定の制限減速距離s0以下のままである。時間t3からはじめて、ブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21の減速距離sは所定の制限減速距離s0に等しくなり、そのため同様に時間t3からはじめて少なくとも1つの液圧ポンプ34が作動される。少なくとも1つの液圧ポンプ34は、時間t3からブレーキマスタシリンダ20内で吸込圧を発生させ、そのためブレーキマスタシリンダ内圧p20は、(ほぼ)ゼロに低下する。同時に、少なくとも1つの液圧ポンプ34はブレーキ液をブレーキ液リザーバ32から少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ38内へ搬送し、その結果少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ38内にあるブレーキ圧p38が上昇する。しかも、図2dの座標系により認められるように、少なくとも1つの液圧ポンプ34により生じる実体積流Qをドライバーブレーキ要求に適合させることができる。同時に、その後もドライバーが標準的なブレーキ操作感覚/ペダル感覚を持つように、距離差Δを調整できる。
【0051】
時間t4からは、ブレーキマスタシリンダ20の変位可能なピストン21の減速距離sは再び所定の制限減速距離s0以下である。それ故、少なくとも1つの液圧ポンプ34は時間t4から再びその非作動モードにある。
【0052】
なお、制御ユニット40/これを備えて成るブレーキシステムの有用性は、特別なタイプの車両/自動車に限定されないことを指摘しておく。制御ユニット40と、センサ30と、ポンプ制御部36と、場合によってはブレーキ倍力装置16との間の通信は、ネットワークを介して、たとえばCAN(Controller Area Network)を介して、または、フレックスレイを介して行うことができる。
【符号の説明】
【0053】
10 センサ信号
14 制御信号
16 ブースタ制御信号
20 ブレーキマスタシリンダ
21 変位可能なピストン
22 ブレーキ操作要素
24 ドライバーブレーキ力伝達構成部品
26 ブレーキ倍力装置
28 ブースタ力伝達構成部品
30 センサ
32 ブレーキ液リザーバ
34 液圧ポンプ
36 ポンプ制御部
38 車輪ブレーキシリンダ
40 制御ユニット
support ブースタ力
driver ドライバーブレーキ力
Q 実体積流
s 減速距離
s0 所定制限減速距離
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f