(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】鋳造合金、母合金粉末の製造方法、および母合金粉末
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20230817BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20230817BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20230817BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230817BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20230817BHJP
【FI】
C22C21/00 N
C22C14/00 Z
B22F9/04 C
B22F1/00 N
B22F1/00 R
C22C1/04 C
C22C1/04 E
(21)【出願番号】P 2019033349
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】早川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋介
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-271901(JP,A)
【文献】特開平07-016764(JP,A)
【文献】特開平08-144000(JP,A)
【文献】特開平08-060266(JP,A)
【文献】特開平02-175831(JP,A)
【文献】特開2016-094628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00、14/00、30/00
B22F 9/04
B22F 1/00
C22C 1/00-1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tiを40質量%~50質量%、Feを8質量%~10質量%で含有するとともに、残部がAl及び不可避的不純物であり、TiAl
(3-x)Fe
x(原子数比xは0.1≦x≦0.4を満たす。)を含む鋳造合金。
【請求項2】
ディフラクトメーター法を用いたCuKα線によるX線回折結果で、検出ピークの最大強度の絶対値からバックグラウンドを差し引いて得られるネット強度に、当該検出ピークの半値幅を乗じて算出されるピーク面積について、
2θが35°~50°の範囲内に存在する全ての検出ピークのピーク面積の合計に対する、2θが39.300°~39.650°の範囲内に存在するTiAl
(3-x)Fe
x{111}面のピーク面積の比が、0.10以上である請求項1に記載の鋳造合金。
【請求項3】
母合金粉末を製造する方法であって、請求項1又は2に記載の鋳造合金を粉砕する粉砕工程を含む、母合金粉末の製造方法。
【請求項4】
TiAl
(3-x)Fe
x(原子数比xは0.1≦x≦0.4を満たす。)を含み、
Tiを40質量%~50質量%、Feを8質量%~10質量%、酸素を0.6質量%以下で含有するとともに、残部がAl及び不可避的不純物である母合金粉末。
【請求項5】
ディフラクトメーター法を用いたCuKα線によるX線回折結果で、検出ピークの最大強度の絶対値からバックグラウンドを差し引いて得られるネット強度に、当該検出ピークの半値幅を乗じて算出されるピーク面積について、
2θが35°~50°の範囲内に存在する全ての検出ピークのピーク面積の合計に対する、2θが39.300°~39.650°の範囲内に存在するTiAl
(3-x)Fe
x{111}面のピーク面積の比が、0.50以上である請求項4に記載の母合金粉末。
【請求項6】
平均粒子径D50が20μm以下である請求項4又は5に記載の母合金粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粉末冶金法の原料作製等に用いられ得る鋳造合金、母合金粉末の製造方法、および母合金粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は、軽量で優れた耐食性及び高い比強度を有する等といった理由から、航空宇宙機器用材料として広く利用されている。その他、チタン合金はさらに生体適合性を有し、医療機器用材料としても用いられる。
一方、チタン合金は成形加工性に難があり、溶解鋳造法では、最終形状を得るまでに多数の複雑な工程が必要になる。このことは、製造コストの増大を招く。また、チタン合金の溶解鋳造法では合金元素の偏析が生じやすく、用途によっては要求特性を満たすことが容易ではない場合がある。
【0003】
これに対し、近年は、素粉末混合法等の粉末冶金法が、比較的低コストで溶解鋳造法と同程度の機械的特性が得られること等から注目されている。粉末冶金法では一般に、所望の組成になるように調整した原料粉末を成形し、必要に応じて焼結等することが行われ、これにより容易にニアネットシェイプ製品が得られる。なお、製品の種類や用途等によっては、成形の後に焼結をせずに、当該成形体のまま流通することがある。
【0004】
この種の粉末冶金法に用いる原料粉末に関し、特許文献1には、「Ti-5Al-2.5Fe組成の焼結合金用の母合金であって、AlとFeの割合が目標比率を維持していて、使用にあたり配合が単純にでき、しかも粉砕性が良くて、150μm以下の粉末が容易に得られる母合金用の合金組成物を提供すること」を目的とし、「Ti:5~50wt%、Fe:11~38wt%を含み、残部が不可避的不純物を含むAlからなることを特徴とする焼結合金用母合金」が提案されている。
【0005】
特許文献2は、「Al20~80原子%、Fe0.5~10原子%および残部が実質的にTiからなることを特徴とする焼結性に優れたTi-Al系金属間化合物粉末」を開示している。この「Ti-Al系金属間化合物粉末」によれば、「Ti-Al系金属間化合物粉末成形体の焼結時に現われる液相の範囲が低温側に広くなるので、低温での焼結によっても高い焼結密度を有する製品が得られ、さらに比較的粗い原料粉末を使用する場合にも、高い焼結密度が得られる。従って、Ti-Al系金属間化合物焼結体の機械的特性のみならず、耐熱性、対酸化性、耐磨耗性などをも大幅に改善することができる。」としている。
また特許文献2には、「Al20~80原子%、Fe0.5~10原子%および残部が実質的にTiである組成になるように配合された原料粉末混合物を成形し、成形体を不活性雰囲気下で加熱して1100~1400℃の温度範囲で焼結を行なうことを特徴とする高密度Ti-Al系金属間化合物焼結体の製造方法」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2-175831号公報
【文献】特開平6-271901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1及び2にも記載されているような、Al及びFeを含有するチタン合金は、いわゆるユビキタス元素を合金元素とするので、低コストで製品の製造が可能である。したがって、所要の特性を損なうことなしに、そのようなTi-Al-Fe合金の製品を粉末冶金法により製造できれば、製造コストの更なる低減を実現できる。なお特に、5質量%程度のAl及び、1質量%程度のFeを含有するTi-5Al-1Fe合金は、Ti-6Al-4V合金とほぼ同レベルの機械的特性を有することから有望と考えられる。
このような状況の下、粉末冶金法によるTi-Al-Fe合金製品の製造技術を確立させることが望ましい。
【0008】
Ti-Al-Fe合金の粉末冶金法では、原料粉末として、純Ti粉末等の合金元素粉末や、Ti-Al母合金粉末、Ti-Al-Fe母合金粉末等の母合金粉末を用いることができるが、なかでも、三元素を含むTi-Al-Fe母合金粉末を用いることが、焼結後のAlやFeの偏析を抑制する観点から好ましい。
【0009】
かかるTi-Al-Fe母合金粉末は、溶解鋳造によるインゴット等の鋳造合金を粉砕することにより作製できる。
ここで、Ti-Al-Fe合金の粉末冶金法で、Al及びFeの偏析を抑制して、それらの合金成分を均一に拡散させるため、Ti-Al-Fe母合金粉末の作製時には、鋳造合金をできる限り微細に粉砕することが望まれる。粗粒の母合金粉末を使用しAlとFeの拡散が不十分となった場合、結果として偏析に近い状態が生じうるからである。しかしながら、一般にTi-Al-Fe合金は粉砕性に乏しいことから、Ti-Al-Fe母合金粉末の微細化は困難であった。
【0010】
特許文献1に記載された合金組成の「焼結合金用母合金」では、粉砕により十分微細な母合金粉末を容易に作製できるとは言い難い。
特許文献2では、実施例として実際に作製されたのは、TiとAlの原子数比が実質的に1:1である粉体を燃焼合成した金属間化合物であり、このような金属間化合物は粉砕性に劣るものであった。また特許文献2では、Ti-Al-Fe合金粉末を得るため、所定の粉末を溶解した後にアトマイズを行っており、比較的高価であるアトマイズ装置が必要になることもあってコストの増大が否めない。
【0011】
この発明の目的は、Ti-Al-Fe合金の粉末冶金法の原料粉末の作製に良好に用いることができる鋳造合金、母合金粉末の製造方法、および母合金粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は鋭意検討の結果、所定の組成で、かつTiAl(3-x)Fexを含む鋳造合金であれば、該鋳造合金は良好な粉砕性を有することから、粉砕により微細な母合金粉末が得られやすくなるとの新たな知見を得た。該母合金粉末はTi-5Al-1Fe合金の製造において特に有用である。
【0013】
この知見の下、この発明の鋳造合金は、Tiを40質量%~50質量%、Feを8質量%~10質量%で含有するとともに、残部がAl及び不可避的不純物であり、TiAl(3-x)Fex(原子数比xは0.1≦x≦0.4を満たす。)を含むものである。
【0014】
上記の鋳造合金は、ディフラクトメーター法を用いたCuKα線によるX線回折結果で、検出ピークの最大強度の絶対値からバックグラウンドを差し引いて得られるネット強度に、当該検出ピークの半値幅を乗じて算出されるピーク面積について、2θが35°~50°の範囲内に存在する全ての検出ピークのピーク面積の合計に対する、2θが39.300°~39.650°の範囲内に存在するTiAl(3-x)Fex{111}面のピーク面積の比が、0.10以上であることが好ましい。
【0015】
この発明の母合金粉末の製造方法は、上記のいずれかの鋳造合金を粉砕する粉砕工程を含むものである。
【0016】
この発明の母合金粉末は、TiAl(3-x)Fex(原子数比xは0.1≦x≦0.4を満たす。)を含み、酸素含有量が0.6質量%以下であるものである。
【0017】
上記の母合金粉末は、ディフラクトメーター法を用いたCuKα線によるX線回折結果で、検出ピークの最大強度の絶対値からバックグラウンドを差し引いて得られるネット強度に、当該検出ピークの半値幅を乗じて算出されるピーク面積について、2θが35°~50°の範囲内に存在する全ての検出ピークのピーク面積の合計に対する、2θが39.300°~39.650°の範囲内に存在するTiAl(3-x)Fex{111}面のピーク面積の比が、0.50以上であることが好ましい。
【0018】
また、上記のいずれかの母合金粉末は、平均粒子径D50が20μm以下であることが好ましい。
【0019】
また、上記のいずれかの母合金粉末の組成は、Tiを40質量%~50質量%、Feを8質量%~10質量%、酸素を0.6質量%以下で含有するとともに、残部がAl及び不可避的不純物であることが好適である。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、鋳造合金を、Ti-Al-Fe合金の粉末冶金法の原料粉末の作製に良好に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
(鋳造合金)
鋳造合金の組成は、Tiを40質量%~50質量%で含有するとともに、Feを8質量%~10質量%で含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるものである。
【0022】
Ti含有量が40質量%~50質量%の範囲から外れる場合、又は、Fe含有量が8質量%~10質量%の範囲から外れる場合は、後述するTiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)を含むものが得られなくなる可能性がある。また、仮にTiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)を含む鋳造合金が得られたとしても、それを粉砕して作製した母合金粉末の酸素含有量が増大し得る。
【0023】
具体的には、Ti含有量が40質量%より少ないと、延性に富むAlが過多となり、鋳造合金の粉砕性が低下する。Ti含有量を50質量%より多くすると、粉砕困難なTi、Al系化合物が生成し、粉砕性が低下することが懸念される。
また、Fe含有量を8質量%未満にすると、TiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)が生成するものの粉砕性は不十分となる。Fe含有量を10質量%より多くすると、TiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)の生成量が低減され、粉砕性が低下するおそれがある。
【0024】
このような観点から、Ti含有量は、好ましくは40質量%~48質量%、より好ましくは41質量%~44質量%とする。Fe含有量は、好ましくは9質量%~10質量%とする。
【0025】
なお、鋳造合金のAl含有量は、42質量%~52質量%、好ましくは47質量%~52質量%、より好ましくは47質量%~50質量%とすることができる。
【0026】
鋳造合金には、不可避的不純物として、Cu及びOからなる群から選択される少なくとも一種の元素が含まれることがある。なお、Cuは、たとえば溶解時の水冷るつぼの材質に由来して、鋳造合金に含まれることがある。このような不可避的不純物を含む場合、当該不可避的不純物の含有量は、複数種を含む場合はそれらの合計で、たとえば0.01質量%~0.2質量%、典型的には0.05質量%~0.3質量%である。
【0027】
鋳造合金は、TiAl(3-x)Fexの金属間化合物を含む。ここで、xは原子数比であり、0.1≦x≦0.4の関係を満たす。鋳造合金がTiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)を含むことにより、粉砕性が向上し、微細な母合金粉末を得ることが容易になる。その理由は必ずしも明確ではないが、TiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)が、非常に脆性の高いTiAl3中のAlの一部がFeに置換されたものであると考えられ、TiAl3と同程度の脆性を有することによるものと考えられる。但し、この発明は、このような理由に限定されるものではない。
したがって、TiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)を含む鋳造合金は優れた粉砕性を備え母合金粉末の製造に適する。そして、それを粉砕して得られる母合金粉末はそのAlおよびFe含有比から粉末冶金法によるTi-5Al-1Fe合金等のチタン合金の製造に有利である。
【0028】
TiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)の有無は、次のようにして確認することができる。鋳造合金から採取したサンプルから、X線回折法を用いて、X線回折結果であるX線回折プロファイルを得る。そして、X線回折プロファイルに、Kα2線に起因するピークの除去等の所要の処理を施す。その後、ICDD(International Centre for Diffraction Data)のPDF(Powder Diffraction File)に基いて、2θ=39.300°~39.650°の範囲内で、TiAl(3-x)Fex{111}面の検出ピークの有無を確認する。
【0029】
TiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)は、鋳造合金中に所定の量以上含まれることが好ましい。具体的には、鋳造合金についての上述したX線回折プロファイルで、2θが35°~50°の範囲内に存在する全ての検出ピークのピーク面積の合計(「全ピーク面積合計」ともいう。)に対する、2θが39.300°~39.650°の範囲内に存在するTiAl(3-x)Fex{111}面のピーク面積(「TiAl(3-x)Fexピーク面積」ともいう。)の比が、0.10以上であることが好適である。
このピーク面積は、検出ピークの最大強度の絶対値からバックグラウンドを差し引いて得られるネット強度に、当該検出ピークの半値幅を乗じて算出されるものである。ここで、バックグラウンドは、Sonneveld-Visser法により得られる。検出ピークの半値幅は、山形の検出ピークにおけるネット強度の半分の値での幅を意味する。
【0030】
X線回折プロファイルで、2θ=35°~50°の範囲内の全ピーク面積合計(A)に対する、2θ=39.300°~39.650°の範囲内のTiAl(3-x)Fexピーク面積(B)の比(B/A)が、0.10未満である場合は、粉砕性の発揮は不十分であることが懸念される。またこの場合、当該鋳造合金を粉砕して作製した母合金粉末の酸素含有量を、所期したほどに低減できない可能性がある。この観点から、全ピーク面積合計に対するTiAl(3-x)Fexピーク面積の比は、0.30以上であることが好ましい。
なお、全ピーク面積合計に対するTiAl(3-x)Fexピーク面積の比は大きいほど望ましいが、たとえば0.60以下になることがある。
【0031】
上述したような鋳造合金は、所定の組成になるように配合した原料を、アーク溶解炉等で溶解鋳造することにより製造することができる。ここでは、少なくとも、狙いの組成を、上述したように、Ti:40質量%~50質量%かつ、Fe:8質量%~10質量%に設定することが重要である。後述の試験結果から解かるように、Ti及びFeの含有量が少しでもこの範囲から外れると、鋳造合金の構成相が大きく変化するおそれがある。
【0032】
また溶解時には、Ti、Al及びFeのそれぞれの純金属原料を準備し、それらのうち、比重の軽い純金属原料から順番に層状に溶解炉に配置することが望ましい。具体的には、下側から順に純Al原料、純Ti原料及び純Fe原料を配置する。これにより、溶湯の分離を防止することができる。
そしてまた、鋳造合金での偏析を防止するため、所定の溶解処理後にインゴットを上下反転して再度溶解処理を行うといったような、インゴットを反転させる複数回の溶解処理を行うことが好ましい。
これらのことは、鋳造合金でのTiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)の生成及び、その含有量の増大に影響し得ると考えられる。
【0033】
(母合金粉末の製造方法)
上述した鋳造合金から母合金粉末を製造する方法には、該鋳造合金を粉砕する粉砕工程が含まれる。粉末の製造にはアトマイズ法もあるが、この実施形態では、粉砕という簡易な処理にて、高価な装置を使用することなしに、母合金粉末を製造することができる。
【0034】
粉砕工程では、種々の粉砕方法を採用可能である。粉砕方法として具体的には、たとえば、ボールミル又は破砕ローターを使用することや、高圧ガスの噴出による粒子同士の衝突を利用すること等を挙げることができる。
【0035】
粉末冶金法で母合金粉末を用いる場合、偏析の抑制及び密度の向上等の観点から、母合金粉末は微細なものであることが好ましい。
微細な母合金粉末を得るため、必要に応じて、粉砕工程後に、粒径の小さいものを得るための分級工程を行うことができる。分級工程では、気流による乾式分級が可能であり、また篩を用いる篩別でもよい。なお、この分級工程で篩により篩別する場合、目開きの異なる複数の篩を用いた複数段階の篩別を行うことが好ましい。
【0036】
母合金粉末を製造するに当っては、粉砕工程に先立ち、必要に応じて、その粉砕に供する鋳造合金等の合金材料の粉砕性を推定する粉砕性推定方法を実施することができる。そして、これにより推定された粉砕性に応じて、その合金材料に対して粉砕工程を行うか否かを決定することが好適である。ここで推定された粉砕性が良好であれば、微細な母合金粉末を容易に製造することができるとともに、さらに粉末冶金法による偏析の少ない最終製品の製造が可能になる。一方、推定された粉砕性が良好でなければ、粉砕工程を行わず、たとえば、当該鋳造合金等を再度溶解させることができる。
【0037】
かかる合金材料の粉砕性推定方法は、Ti、Fe及びAlを含有する合金材料に対し、X線回折を行う分析工程と、その分析により得られるX線回折結果で、合金材料中におけるTiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)の有無を確認する判定工程とを含む。
【0038】
分析工程では、合金材料に対し、上述したところと同様の条件の下で、ディフラクトメーター法を用いたCuKα線によるX線回折を行い、そのX線回折結果としてのX線回折プロファイルを得ることができる。
その後の判定工程では、X線回折プロファイルで、これも上述したように、2θ=39.300°~39.650°の範囲内で、TiAl(3-x)Fex{111}面の検出ピークの有無を確認することにより、合金材料中におけるTiAl(3-x)Fex(原子数比xは0.1≦x≦0.4を満たす。)の有無を確認する。
【0039】
判定工程では、X線回折プロファイルにおける先述のピーク面積について、2θが35°~50°の範囲内に存在する全ての検出ピークのピーク面積の合計に対する、2θが39.300°~39.650°の範囲内に存在するTiAl(3-x)Fex{111}面のピーク面積の比を算出することが好ましい。
そして、全ピーク面積合計に対するTiAl(3-x)Fexピーク面積の比が、0.10以上であれば、粉砕工程の所定の粉砕で十分に微細化できて、微細な母合金粉末を高い回収率で得ることができると考えられる。このようなピーク面積の比を、粉砕性推定等における判断基準の少なくとも一つとすることが好適である。
【0040】
(母合金粉末)
上記のようにして製造される母合金粉末は、Ti、Al及びFeを含有し、TiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)の金属間化合物を含むものである。
特に、上記の粉砕工程及び分級工程等を経たことにより、粉砕性が良好で微細化されやすいTiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)の金属間化合物以外のものが除かれて、母合金粉末中でTiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)の割合が増大していることがある。結果として、母合金粉末の酸素含有量の低下を実現し、それにより粉末冶金法で作製されるチタン合金の最終製品の所要の延性が確保されるので望ましい。また、母合金粉末に含まれるAlとFeの含有量比から、TiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)を含む母合金粉末は粉末冶金法によるTi-5Al-1Fe合金等のチタン合金の製造に有利である。
【0041】
より具体的には、母合金粉末については、X線回折プロファイルで、2θが35°~50°の範囲内に存在する全ての検出ピークのピーク面積の合計(全ピーク面積合計)に対する、2θが39.300°~39.650°の範囲内に存在するTiAl(3-x)Fex{111}面のピーク面積(TiAl(3-x)Fexピーク面積)の比が、好ましくは0.50以上、より好ましくは0.60以上である。母合金粉末では、全ピーク面積合計に対するTiAl(3-x)Fexピーク面積の比は、たとえば0.90以下になることがある。多結晶では、単一化合物であっても面方位に応じていくつかのピークが検出される。ここでは、これらのピークのうちの一つのピークの面積を指標としていることから、該面積比は通常、1.00よりも小さくなる。
母合金粉末のTiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)の有無、当該ピーク面積の比も、鋳造合金について先述したところと同様にして確認ないし測定する。
【0042】
この場合、母合金粉末の酸素含有量は、0.6質量%以下、さらには0.5質量%以下になることがある。母合金粉末のこのような少ない酸素含有量は、当該母合金粉末を用いて粉末冶金法でチタン合金の製品を製造する上で好適である。チタン合金の製品の延性は、酸素含有量による影響が大きい。酸素含有量の少ない母合金粉末を用いることで、製品の所要の延性を確保しやすくなる。なお、母合金粉末の酸素含有量は、たとえば0.1質量%以上、典型的には0.3質量%以上になることがある。
母合金粉末の酸素含有量は、赤外線吸収法により測定することができる。
【0043】
また、母合金粉末の平均粒子径D50は、20μm以下であることが好ましい。このような微細な母合金粉末は、それを用いて粉末冶金法により製造した製品でのAl及びFeの偏析を抑制し、それらをTi中に十分に拡散させることをもたらすからである。この観点から、母合金粉末の平均粒子径D50は、15μm以下であることがより一層好ましい。なお、母合金粉末の平均粒子径D50は、たとえば7μm以上、典型的には10μm以上となることがある。
【0044】
この平均粒子径D50は、メジアン径とも称され得るものである。母合金粉末の平均粒子径D50は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定して得られる粒子径分布グラフで、体積基準の頻度の累積が50%になる粒子径を求めることにより行う。
【0045】
なお、母合金粉末は、Tiを例えば40質量%~50質量%、40質量%~48質量%、41質量%~44質量%含有してよい。また、Feを、例えば8質量%~10質量%、9質量%~10質量%含有してよい。また、Alを、例えば41質量%~51質量%、46質量%~51質量%、46質量%~49質量%含有してよい。
とする。
その他、母合金粉末は、鋳造合金に含まれ得る先述の不純物を含有することがある。
【0046】
上述した母合金粉末は、必要に応じて、純チタン粉末及び/又はAl、Fe以外の合金元素からなる粉末等と混合させて、粉末冶金法による、Ti-5Al-1Fe合金の製造や、Ti-5Al-1Fe-x合金のような、5mass%Al、1mass%Feを有してかつ、さらに第3、第4の合金成分を含むチタン合金の製造等に好適に用いることができる。ここで、Al、Fe以外の元素からなる粉末とは、一般的なチタン合金に用いられる合金元素、例えば、V、Cr、Mn、Sn、Zr、Si、またはセラミック粉末、もしくは対象成分同士の母合金粉末を指すが、上記元素に限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
次に、この発明を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0048】
純Fe原料、純Al原料及び、純Fe原料を、電子天秤を用いて秤量した後、比重の軽い純金属原料から順番に層状に溶解炉に配置した。具体的には、下側から順に純Al原料、純Ti原料及び純Fe原料を配置し、これらの原料に対してアーク溶解を行った。一回目の溶解後、インゴットを上下反転させて二回目の溶解を行い、それにより、寸法が約φ50×7mmt、質量が約50gのボタンインゴットを作製した。
【0049】
この方法にて、組成以外の製造条件を揃えて、表1に示すように、試験例1~8のボタンインゴットを得た。各ボタンインゴット中のTi、Al、Feの成分値は、株式会社日立ハイテクサイエンス社製のSPS-3100を用いて、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)により測定した。なお、インゴットの成分でTi及びFe以外の残部はほぼAlであった。
【0050】
また各インゴットについて、一部をサンプリングし、厚さ1mmにスライスした試料をX線回折により分析した。ここでは、X線回折装置として、PANalytical社製のX’pert-PRO-MPDを用いて、X線をCuKα線とした。これにより得たX線回折プロファイルより、主要なインゴット構成相の確認と、TiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)が存在する場合は、2θが35°~50°の範囲内に存在する全ピーク面積合計に対するTiAl(3-x)Fexピーク面積の比を算出した。表1中、ボタンインゴットにおける2θが35°~50°の範囲内に存在する全ピーク面積合計に対するTiAl(3-x)Fexピーク面積の比は、インゴットのTiAl(3-x)Fex含有比率として示している。
【0051】
次いで、上記の各ボタンインゴットを、プレス機(最大荷重20tоn)を用いて粗砕した後、目開きが約5mmの篩による篩別を行った。その後、当該篩別の篩下(約350g)を、粉砕用SUS製ボール(φ10mm、10kg)とともに、SUS製ボールミル容器に投入し、容器内を三回にわたってアルゴンガスで置換して、篩下の粉砕を行った。なお、粉砕条件として、ボールミル容器回転数は84rpmとし、粉砕時間は20時間とした。さらにその後、粉砕で得られた粉末を、目開きが150μmの篩及び、目開きが45μmの篩で順次に篩別し、篩下となった母合金粉末を得た。
【0052】
試験例1~4について、上記の母合金粉末に対し、上記と同様の装置で誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)を行い、Ti、Al及びFeの含有量を測定するとともに、LECO社製のTCH-600型を用いて赤外線吸収法により酸素含有量を測定した。また、株式会社堀場製作所製のLA-920を用いたレーザ回折/散乱法による粒度分布の測定および、X線回折による構成相の分析をも行った。それらの結果を表1に示す。なお、表1の母合金粉末TiAl(3-x)Fex含有比率は、母合金粉末における2θが35°~50°の範囲内の全ピーク面積合計に対するTiAl(3-x)Fexピーク面積の比である。表1中、母合金粉末歩留まりは、ボールミル容器への投入質量に対する、45μmの篩下質量の割合を意味する。歩留まり40%以上を歩留まり良好と判断した。
【0053】
なお、粉砕が不可であった試験例5及び6並びに、母合金粉末の歩留まりが低かった試験例7及び8については、母合金粉末に対する分析等を行わなかった。
【0054】
【0055】
表1に示すように、Ti及びFeの含有量をそれぞれ所定の範囲内とし、TiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)を含む試験例1及び2のボタンインゴットは、所定の組成で、所定の条件により鋳造されたことにより、粉砕性が良好であった。
【0056】
また、試験例1及び2は、粉砕性が良好であったことにより、平均粒子径D50が20μm以下と微粉である母合金粉末が高い歩留まりで得られた。なお、試験例3は母合金粉末の歩留まりは良好であったものの酸素含有量が0.6質量%超と多かった。試験例4は歩留まりが不十分であるだけでなく、粉末の平均粒子径D50が20μmを超えた。
【0057】
母合金粉末のTiAl(3-x)Fex含有比率が高いと、その酸素含有量が良好に低減されていることが解かる。
【0058】
以上より、この発明によれば、鋳造合金を、Ti-Al-Fe合金の粉末冶金法の原料粉末の作製に良好に用いることが可能になることが解かった。