(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】カチオン電着塗料組成物の調製方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/02 20060101AFI20230817BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20230817BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230817BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20230817BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230817BHJP
C09D 7/41 20180101ALI20230817BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D5/44 A
C09D7/63
C09D7/65
C09D7/61
C09D7/41
(21)【出願番号】P 2019100016
(22)【出願日】2019-05-29
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】中島 沙理
(72)【発明者】
【氏名】宮前 治広
(72)【発明者】
【氏名】金澤 拓
(72)【発明者】
【氏名】加納 裕久
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/051901(WO,A1)
【文献】国際公開第99/006493(WO,A1)
【文献】国際公開第99/031187(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/02
C09D 5/44
C09D 7/63
C09D 7/65
C09D 7/61
C09D 7/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン電着塗料組成物の調製方法であって、下記工程:
アミン化樹脂(A)およびブロックイソシアネート硬化剤(B)を含む樹脂エマルション(i)を調製する工程、
ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を含むビスマス・金属酸化物混合液(C);顔料分散樹脂(D);多価酸(E);および顔料(F);を含む、顔料分散ペースト(ii)を調製する工程、および
前記樹脂エマルション(i)および顔料分散ペースト(ii)を混合して、カチオン電着塗料組成物を調製する工程、
を包含し、
前記顔料分散ペースト(ii)は、下記工程、
ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を混合してビスマス・金属酸化物混合液(C)を調製する、ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程、および、
得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)および多価酸(E)を混合し、次いで、得られた混合物、顔料分散樹脂(D)および顔料(F)を混合して、顔料分散ペースト(ii)を調製する、顔料分散ペースト(ii)調製工程、
によって調製され、
前記金属酸化物(c2)は、金属元素として、La、Nd、Y、Pr、YbおよびCeからなる群から選択される1種またはそれ以上を含み、
前記全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)は不斉炭素原子を有し、前記モノヒドロキシカルボン酸(c3)は光学異性体のうちL体を80%以上含み、
前記ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程において、前記ビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は2.5mPa・s~15mPa・sの範囲内である、
カチオン電着塗料組成物の調製方法。
【請求項2】
前記ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程において、前記ビスマス化合物(c1)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合、および、前記金属酸化物(c2)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合をそれぞれ行い、次いで、各混合で得られた混合物と溶媒を混合してビスマス・金属酸化物混合液(C)を調製し、
前記ビスマス化合物(c1)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合は、pHが2.0~4.1の範囲内で行われ、
前記ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれるビスマス化合物(c1)の金属元素のモル数とモノヒドロキシカルボン酸(c3)のモル数との比率は(c1):(c3)=1:0.5~1:4.0の範囲内である、
請求項1記載の調製方法。
【請求項3】
前記金属酸化物(c2)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合において、ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれる金属酸化物(c2)の金属元素のモル数とモノヒドロキシカルボン酸(c3)のモル数との比率は(c2):(c3)=1:0.5~1:3.25の範囲内である、
請求項2記載の調製方法。
【請求項4】
前記ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれる、ビスマス化合物(c1)および金属酸化物(c2)の金属元素のモル比は、(c1):(c2)=0.1:1~10:1の範囲内である、
請求項1~3いずれかに記載の調製方法。
【請求項5】
前記多価酸(E)は、2またはそれ以上のカルボン酸基を有する化合物およびリン酸基を有する化合物からなる群から選択される1種またはそれ以上である、
請求項1~4いずれかに記載の調製方法。
【請求項6】
カチオン電着塗料組成物の調製に用いられる顔料分散ペーストであって、
前記顔料分散ペーストは、ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を含む、ビスマス・金属酸化物混合液(C);顔料分散樹脂(D);多価酸(E);および顔料(F);を含み、
前記金属酸化物(c2)は、金属元素として、La、Nd、Y、Pr、YbおよびCeからなる群から選択される1種またはそれ以上を含み、
前記全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)は不斉炭素原子を有し、前記モノヒドロキシカルボン酸(c3)は光学異性体のうちL体を80%以上含み、
前記多価酸(E)は、2またはそれ以上のカルボン酸基を有する化合物およびリン酸基を有する化合物からなる群から選択される1種またはそれ以上であり、
前記ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれる、ビスマス化合物(c1)および金属酸化物(c2)の金属元素の総モル数と、前記モノヒドロキシカルボン酸(c3)のモル数との比は、((c1)+(c2)):(c3)=0.55:1~4:1の範囲内である、顔料分散ペースト。
【請求項7】
請求項6記載の顔料分散ペーストを含む、カチオン電着塗料組成物。
【請求項8】
顔料分散ペーストの調製方法であって、
前記顔料分散ペーストは、ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を含むビスマス・金属酸化物混合液(C);顔料分散樹脂(D);多価酸(E);および顔料(F);を含み、
前記顔料分散ペーストの調製方法は、下記工程、
ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を混合してビスマス・金属酸化物混合液(C)を調製する、ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程、および、
得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)および多価酸(E)を混合し、次いで、得られた混合物、顔料分散樹脂(D)および顔料(F)を混合して、顔料分散ペースト(ii)を調製する、顔料分散ペースト調製工程、
を包含し、
前記金属酸化物(c2)は、金属元素として、La、Nd、Y、Pr、YbおよびCeからなる群から選択される1種またはそれ以上を含み、
前記全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)は不斉炭素原子を有し、前記モノヒドロキシカルボン酸(c3)は光学異性体のうちL体を80%以上含み、および
前記ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程において、前記ビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は2.5mPa・s~15mPa・sの範囲内である、
調製方法。
【請求項9】
前記ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程において、前記ビスマス化合物(c1)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合、および、前記金属酸化物(c2)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合をそれぞれ行い、次いで、各混合で得られた混合物と溶媒を混合してビスマス・金属酸化物混合液(C)を調製し、
前記ビスマス化合物(c1)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合は、pHが2.0~4.1の範囲内で行われ、
前記ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれるビスマス化合物(c1)の金属元素のモル数と(c3)のモル数との比率は(c1):(c3)=1:0.5~1:4.0の範囲内である、
請求項8記載の調製方法。
【請求項10】
前記金属酸化物(c2)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合において、ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれる金属酸化物(c2)の金属元素のモル数とモノヒドロキシカルボン酸(c3)のモル数との比率は(c2):(c3)=1:0.5~1:3.25の範囲内である、
請求項8または9記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗料組成物の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗料組成物は一般に、樹脂エマルションおよび顔料分散ペーストを含む。このようなカチオン電着塗料組成物においては、硬化触媒として、有機錫化合物が広く使用されてきた。しかしながら、有機錫化合物は、昨今の環境規制動向から、今後は使用を制限されるおそれがある。そのため、有機錫化合物の代替触媒を開発する必要がある。
【0003】
ビスマス化合物を、カチオン電着塗料組成物の硬化触媒として用いる検討が行われている。しかしながら、例えば、酸化ビスマスまたは水酸化ビスマスなどのビスマス化合物を顔料分散ペーストに単に分散させるのみでは、ビスマス化合物の触媒活性が低くなり、塗膜を十分に硬化させることができなかった。また、ビスマス化合物をカチオン電着塗料組成物中に加えることによって、塗料組成物または顔料分散ペーストの保存安定性が低下し、保存時に凝集が生じるという問題があった。
【0004】
ビスマス化合物をアミノ酸などのアミン含有カルボン酸と予め混合および溶解させた後、得られた混合物を顔料分散ペーストの調製に用いる方法が開示されている(特許文献1)。またビスマス化合物を乳酸と予め混合および溶解させた後、得られた混合物を塗料に添加する方法も開示されている(特許文献2)。これらの文献に記載されるように、ビスマスを予め溶解させることによって、触媒活性が向上する利点がある。その一方で、ビスマスを予め溶解させるためには、多量の酸を用いる必要がある。ビスマスの溶解に多量の酸を用いることによって、電着塗料組成物の電導度が高くなり、電着塗装作業性が低下し、また得られる塗膜の外観が悪化するという不具合がある。
【0005】
ところで、カチオン電着塗料組成物は一般に、被塗物に対して防錆性を付与することを主目的として塗装されることが多い。防錆性付与の観点において、被塗物のエッジ部の防錆性を向上させることは、塗装分野において強く要望されている技術的課題の1つである。電着塗装後に加熱硬化工程が行われる電着塗料組成物においては、加熱硬化時の熱フローにより塗膜のレベリングが生じる。そして被塗物がエッジ部を有する場合においては、このレベリングにより、エッジ部の膜厚が薄くなりエッジ部の防錆性が劣る傾向がある。
【0006】
エッジ部の防錆性を向上させる方法として、例えば電着塗膜加熱硬化時の熱フローによる電着塗膜の流れを抑制することにより、エッジ部の膜厚を確保し、これにより防錆性を向上させる手法が挙げられる。この手法においては、加熱硬化時の熱フローによる塗膜の流れを抑制するために、電着塗料組成物中に増粘剤を添加するなどの手法によって、電着塗料組成物の粘度を高めるなどの手法がとられる。しかしながら、電着塗料組成物に増粘剤を添加することによって、塗膜のレベリング性が劣ることとなり、エッジ部以外の平坦部などの表面状態が劣ることとなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3293633号
【文献】特許第3874386号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
カチオン電着塗装の分野においては、上記のように、有機錫化合物の代替触媒を開発する、塗膜平滑性を低下されることなくエッジ部防錆性を向上させる、などといった種々の技術的課題がある。本発明は上記従来の課題を解決するものであり、その目的とするところは、硬化触媒としてビスマス化合物を含むカチオン電着塗料組成物の調製において、エッジ部防錆性を向上させる調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
カチオン電着塗料組成物の調製方法であって、下記工程:
アミン化樹脂(A)およびブロックイソシアネート硬化剤(B)を含む樹脂エマルション(i)を調製する工程、
ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を含むビスマス・金属酸化物混合液(C);顔料分散樹脂(D);多価酸(E);および顔料(F);を含む、顔料分散ペースト(ii)を調製する工程、および
上記樹脂エマルション(i)および顔料分散ペースト(ii)を混合して、カチオン電着塗料組成物を調製する工程、
を包含し、
上記顔料分散ペースト(ii)は、下記工程、
ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を混合してビスマス・金属酸化物混合液(C)を調製する、ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程、および、
得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)および多価酸(E)を混合し、次いで、得られた混合物、顔料分散樹脂(D)および顔料(F)を混合して、顔料分散ペースト(ii)を調製する、顔料分散ペースト(ii)調製工程、
によって調製され、
上記金属酸化物(c2)は、金属元素として、La、Nd、Y、Pr、YbおよびCeからなる群から選択される1種またはそれ以上を含み、
上記全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)は不斉炭素原子を有し、上記モノヒドロキシカルボン酸(c3)は光学異性体のうちL体を80%以上含み、
上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程において、上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は2.5mPa・s~15mPa・sの範囲内である、
カチオン電着塗料組成物の調製方法。
[2]
上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程において、上記ビスマス化合物(c1)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合、および、上記金属酸化物(c2)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合をそれぞれ行い、次いで、各混合で得られた混合物と溶媒を混合してビスマス・金属酸化物混合液(C)を調製し、
上記ビスマス化合物(c1)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合は、pHが2.0~4.1の範囲内で行われ、
上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれるビスマス化合物(c1)の金属元素のモル数とモノヒドロキシカルボン酸(c3)のモル数との比率は(c1):(c3)=1:0.5~1:4.0の範囲内である、
上記調製方法。
[3]
上記金属酸化物(c2)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合において、ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれる金属酸化物(c2)の金属元素のモル数とモノヒドロキシカルボン酸(c3)のモル数との比率は(c2):(c3)=1:0.5~1:3.25の範囲内である、
上記調製方法。
[4]
上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれる、ビスマス化合物(c1)および金属酸化物(c2)の金属元素のモル比は、(c1):(c2)=0.1:1~10:1の範囲内である、
上記調製方法。
[5]
上記多価酸(E)は、2またはそれ以上のカルボン酸基を有する化合物およびリン酸基を有する化合物からなる群から選択される1種またはそれ以上である、
上記調製方法。
[6]
カチオン電着塗料組成物の調製に用いられる顔料分散ペーストであって、
上記顔料分散ペーストは、ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を含む、ビスマス・金属酸化物混合液(C);顔料分散樹脂(D);多価酸(E);および顔料(F);を含み、
上記金属酸化物(c2)は、金属元素として、La、Nd、Y、Pr、YbおよびCeからなる群から選択される1種またはそれ以上を含み、
上記全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)は不斉炭素原子を有し、上記モノヒドロキシカルボン酸(c3)は光学異性体のうちL体を80%以上含み、
上記多価酸(E)は、2またはそれ以上のカルボン酸基を有する化合物およびリン酸基を有する化合物からなる群から選択される1種またはそれ以上であり、
上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれる、ビスマス化合物(c1)および金属酸化物(c2)の金属元素の総モル数と、上記モノヒドロキシカルボン酸(c3)のモル数との比は、((c1)+(c2)):(c3)=0.55:1~4:1の範囲内である、顔料分散ペースト。
[7]
上記顔料分散ペーストを含む、カチオン電着塗料組成物。
[8]
顔料分散ペーストの調製方法であって、
上記顔料分散ペーストは、ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を含むビスマス・金属酸化物混合液(C);顔料分散樹脂(D);多価酸(E);および顔料(F);を含み、
上記顔料分散ペーストの調製方法は、下記工程、
ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を混合してビスマス・金属酸化物混合液(C)を調製する、ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程、および、
得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)および多価酸(E)を混合し、次いで、得られた混合物、顔料分散樹脂(D)および顔料(F)を混合して、顔料分散ペースト(ii)を調製する、顔料分散ペースト調製工程、
を包含し、
上記金属酸化物(c2)は、金属元素として、La、Nd、Y、Pr、YbおよびCeからなる群から選択される1種またはそれ以上を含み、
上記全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)は不斉炭素原子を有し、上記モノヒドロキシカルボン酸(c3)は光学異性体のうちL体を80%以上含み、および
上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程において、上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は2.5mPa・s~15mPa・sの範囲内である、
調製方法。
[9]
上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程において、上記ビスマス化合物(c1)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合、および、上記金属酸化物(c2)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合をそれぞれ行い、次いで、各混合で得られた混合物と溶媒を混合してビスマス・金属酸化物混合液(C)を調製し、
上記ビスマス化合物(c1)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合は、pHが2.0~4.1の範囲内で行われ、
上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれるビスマス化合物(c1)の金属元素のモル数と(c3)のモル数との比率は(c1):(c3)=1:0.5~1:4.0の範囲内である、
上記調製方法。
[10]
上記金属酸化物(c2)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合において、ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれる金属酸化物(c2)の金属元素のモル数とモノヒドロキシカルボン酸(c3)のモル数との比率は(c2):(c3)=1:0.5~1:3.25の範囲内である、
上記調製方法。
【発明の効果】
【0010】
上記調製方法を用いて得られたカチオン電着塗料組成物を電着塗装することによって、貯蔵安定性、塗装性に優れ、そしてエッジ部防錆性および塗膜外観が良好な塗膜を提供することができるカチオン電着塗料組成物を調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の経緯
まず、本発明に至った経緯を説明する。本発明者らは、有機錫化合物の代替触媒を開発する課題、および、塗膜平滑性を低下されることなくエッジ部防錆性を向上させる課題の2つの技術的課題を解決することを目的として、ビスマス化合物および金属酸化物を含むカチオン電着塗料組成物について検討を行った。しかしながら、これらの成分を単純に加えた場合は、電着塗料組成物の貯蔵安定性が劣る場合があった。電着塗料組成物の貯蔵安定性については特に、高温多湿の地域で用いる場合において、より重要かつ克服困難な技術的課題となりうる。一方で、高温多湿条件下は錆などの腐食も生じやすい環境であることから、エッジ部防錆性などの防錆性もまた良好であることが求められる。
【0012】
本発明者らは、上記技術的課題の両方を解決することを目的とした。そして、ビスマス化合物および金属酸化物を含む電着塗料組成物の調製において、顔料分散ペーストを特定の手順で調製することによって、両方の技術的課題を解決することができることを実験により見いだし、本発明を完成するに至った。以下、上記調製方法について詳述する。
【0013】
上記カチオン電着塗料組成物の調製方法は、ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を含むビスマス・金属酸化物混合液(C);顔料分散樹脂(D);多価酸(E);および顔料(F);を含む顔料分散ペースト(ii)を調製する工程を包含する。そして上記調製方法は、ビスマス化合物(c1)および金属酸化物(c2)含むビスマス・金属酸化物混合液(C)を特定の工程によって調製することによって、ビスマス化合物を硬化触媒として含むカチオン電着塗料組成物が、良好なエッジ部防錆性能、塗膜外観および塗装性を提供することを特徴とする。
【0014】
樹脂エマルション(i)
上記調製方法によって得られる電着塗料組成物は、アミン化樹脂(A)およびブロックイソシアネート硬化剤(B)を含む樹脂エマルション(i)を含む。樹脂エマルション(i)は、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。
【0015】
アミン化樹脂(A)
アミン化樹脂(A)は電着塗膜を構成する塗膜形成樹脂である。アミン化樹脂(A)として、樹脂骨格中のオキシラン環を有機アミン化合物で変性して得られるカチオン変性エポキシ樹脂が好ましい。一般にカチオン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のオキシラン環を1級アミン、2級アミンあるいは3級アミンおよび/またはその酸塩などのアミン類との反応によって開環して調製される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどの多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。また他の出発原料樹脂の例として、特開平5-306327号公報に記載のオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のイソシアネート基をメタノール、エタノールなどの低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって調製することができる。
【0016】
上記出発原料樹脂は、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸などにより鎖延長して用いることができる。特にビスフェノール類は、アミン類によるオキシラン環の開環反応時に用いて、鎖延長してもよい。
【0017】
また同じく、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良などを目的として、一部のオキシラン環に対して2-エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテルなどのモノヒドロキシ化合物、オクチル酸などのモノカルボン酸化合物を付加して用いることもできる。
【0018】
オキシラン環を開環し、アミノ基を導入する際に使用し得るアミン類の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミンなどの1級アミン、2級アミンまたは3級アミンおよび/もしくはその酸塩を挙げることができる。また、アミノエチルエタノールアミンメチルイソブチルケチミンなどのケチミンブロック1級アミノ基含有2級アミン、ジエチレントリアミンジケチミンも使用することができる。これらのアミン類は、全てのオキシラン環を開環させるために、オキシラン環に対して少なくとも当量で反応させる必要がある。
【0019】
アミン化樹脂(A)の数平均分子量は、1,000~5,000であるのが好ましい。数平均分子量が1,000以上であることにより、得られる硬化電着塗膜の耐溶剤性および耐食性などの物性が良好となる。一方で、数平均分子量が5,000以下であることにより、アミン化樹脂の粘度調整が容易となって円滑な合成が可能となり、また、得られたアミン化樹脂(A)の乳化分散の取扱いが容易になる。アミン化樹脂(A)の数平均分子量は1,600~3,200の範囲であるのがより好ましい。
【0020】
なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0021】
アミン化樹脂(A)のアミン価は、20~100mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。アミン化樹脂(A)のアミン価が20mgKOH/g以上であることにより、電着塗料組成物中におけるアミン化樹脂(A)の乳化分散安定性が良好となる。一方で、アミン価が100mgKOH/g以下であることにより、硬化電着塗膜中のアミノ基の量が適正となり、塗膜の耐水性を低下させるおそれがない。アミン化樹脂(A)のアミン価は、20~80mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましい。
【0022】
アミン化樹脂(A)の水酸基価は、50~400mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。水酸基価が50mgKOH/g以上であることにより、硬化電着塗膜において硬化が良好となる。一方で、水酸基価が400mgKOH/g以下であることにより、硬化電着塗膜中に残存する水酸基の量が適正となり、塗膜の耐水性を低下させるおそれがない。アミン化樹脂(A)の水酸基価は、100~300mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましい。
【0023】
本発明の電着塗料組成物において、数平均分子量が1,000~5,000であり、アミン価が20~100mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が50~400mgKOH/gであるアミン化樹脂(A)を用いることによって、被塗物に優れた耐食性を付与することができるという利点がある。
【0024】
なおアミン化樹脂(A)としては、必要に応じて、アミン価および/または水酸基価の異なるアミン化樹脂を併用してもよい。2種以上の異なるアミン価、水酸基価のアミン化樹脂を併用する場合は、使用するアミン化樹脂の質量比に基づいて算出する平均アミン価および平均水酸基価が、上記の数値範囲であるのが好ましい。また、併用するアミン化樹脂(A)としては、アミン価が20~50mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が50~300mgKOH/gであるアミン化樹脂と、アミン価が50~200mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が200~500mgKOH/gであるアミン化樹脂との併用が好ましい。このような組合わせを用いると、エマルションのコア部がより疎水となりシェル部が親水となるため優れた耐食性を付与することができるという利点がある。
【0025】
なおアミン化樹脂(A)は、必要に応じて、アミノ基含有アクリル樹脂、アミノ基含有ポリエステル樹脂などを含んでもよい。
【0026】
ブロックイソシアネート硬化剤(B)
ブロックイソシアネート硬化剤(B)(以下、単に「硬化剤(B)」ということがある)も電着塗膜を構成する塗膜形成樹脂である。ブロックイソシアネート硬化剤(B)は、ポリイソシアネートを、ブロック剤でブロック化することによって調製することができる。
【0027】
ポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などの脂環式ポリイソシアネート;4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレットおよび/またはイソシアヌレート変性物など);が挙げられる。
【0028】
ブロック剤の例としては、n-ブタノール、n-ヘキシルアルコール、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテルなどのセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノールなどのポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ-t-ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;およびε-カプロラクタム、γ-ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。
【0029】
ブロックイソシアネート硬化剤(B)のブロック化率は100%であるのが好ましい。これにより、電着塗料組成物の貯蔵安定性が良好になるという利点がある。
【0030】
ブロックイソシアネート硬化剤(B)は、脂肪族ジイソシアネートをブロック剤でブロック化することによって調製された硬化剤と、芳香族ジイソシアネートをブロック剤でブロック化することによって調製された硬化剤とを併用することが好ましい。
【0031】
ブロックイソシアネート硬化剤(B)は、アミン化樹脂(A)の1級アミンと優先的に反応し、さらに水酸基と反応して硬化する。
硬化剤としては、メラミン樹脂またはフェノール樹脂などの有機硬化剤、シランカップリング剤、金属硬化剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の硬化剤を、ブロックイソシアネート硬化剤(B)と併用してもよい。
【0032】
樹脂エマルション(i)の調製
樹脂エマルション(i)は、アミン化樹脂(A)およびブロックイソシアネート硬化剤(B)それぞれを、有機溶媒中に溶解させて、溶液を調製し、これらの溶液を混合した後、中和酸を用いて中和することにより、調製することができる。中和酸として、例えば、メタンスルホン酸、スルファミン酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸、ギ酸、酢酸などの有機酸が挙げられる。本発明においては、アミン化樹脂(A)および硬化剤(B)を含む樹脂エマルションを、ギ酸、酢酸および乳酸からなる群から選択される1種またはそれ以上の酸によって中和するのがより好ましい。
【0033】
硬化剤(B)の含有量は、硬化時にアミン化樹脂(A)中の、1級アミノ基、2級アミノ基または水酸基などの活性水素含有官能基と反応して、良好な硬化塗膜を与えるのに十分な量が必要とされる。好ましい硬化剤(B)の含有量は、アミン化樹脂(A)と硬化剤(B)との固形分質量比(アミン化樹脂(A)/硬化剤(B))で表して90/10~50/50、より好ましくは80/20~65/35の範囲である。アミン化樹脂(A)と硬化剤(B)との固形分質量比の調整により、造膜時の塗膜(析出膜)の流動性および硬化速度が改良され、塗装外観が向上する。
【0034】
樹脂エマルション(i)の樹脂固形分量は、通常、樹脂エマルション(i)全量に対して25~50質量%、特に35~45質量%であるのが好ましい。ここで「樹脂エマルションの固形分」とは、樹脂エマルション中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全ての質量を意味する。具体的には、樹脂エマルション(i)中に含まれる、アミン化樹脂(A)、硬化剤(B)および必要に応じて添加される他の樹脂成分の質量の総量を意味する。
【0035】
中和酸は、アミン化樹脂(A)が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率として、10~100%となる量で用いるのがより好ましく、20~70%となる量で用いるのがさらに好ましい。本明細書において、アミン化樹脂(A)が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率を、中和率とする。中和率が10%以上であることにより、水への親和性が確保され、水分散性が良好となる。
【0036】
顔料分散ペースト(ii)
上記調製方法は、顔料分散ペーストの調製工程を含む。そして上記顔料分散ペースト(ii)は、ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を含むビスマス・金属酸化物混合液(C);顔料分散樹脂(D);多価酸(E);および顔料(F);を含み、下記工程、
ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を混合してビスマス・金属酸化物混合液(C)を調製する、ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程、および、
得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)および多価酸(E)を混合し、次いで、得られた混合物、顔料分散樹脂(D)および顔料(F)を混合して、顔料分散ペースト(ii)を調製する、顔料分散ペースト(ii)調製工程、
によって調製される。
【0037】
ビスマス・金属酸化物混合液(C)
ビスマス・金属酸化物混合液(C)の調製は、ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を混合して調製する(ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程)。以下、各成分について詳述する。
【0038】
ビスマス化合物(c1)
ビスマス化合物(c1)はビスマス金属を含有する化合物であり、例えば、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、硝酸ビスマスまたはそれらの混合物が挙げられる。好ましいビスマス化合物(c1)は、酸化ビスマスおよび水酸化ビスマスからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0039】
ビスマス化合物(c1)は、粉体形態のものを用いる。ビスマス化合物(c1)の平均粒子径は、0.5~20μmであるのが好ましく、1~3μmであるのがより好ましい。本明細書中、平均粒子径は体積平均粒子径D50であり、レーザードップラー式粒度分析計(日機装社製、「マイクロトラックUPA150」)を用いて、分散体を信号レベルが適性になるようイオン交換水で希釈して測定した値をいう。
【0040】
本発明における電着塗料組成物中に含まれるビスマス化合物(c1)の量は、電着塗料組成物中に含まれる樹脂エマルション(i)の樹脂固形分に対して、金属元素換算で0.05~1.0質量%であるのが好ましい。ビスマス化合物(c1)の量が上記範囲であることによって、樹脂エマルション(i)の樹脂成分が良好に硬化し、かつ、電着塗料組成物の保存安定性を良好に保つことができる。
【0041】
本明細書において「金属元素換算」とは、金属化合物の含有量に金属元素換算係数(金属化合物量を金属元素量に換算するための係数であり、具体的には、金属化合物中の金属元素の原子量を、金属化合物の分子量で除算した値を意味する。)を積算することにより、目的の金属元素量を求めることである。例えば、ビスマス化合物(c1)が酸化ビスマス(Bi2O3、分子量466)である場合、酸化ビスマスを、樹脂エマルション(i)の樹脂固形分に対して0.5質量%含む電着塗料組成物における、ビスマスの金属元素換算含有量は、0.5質量%×(418÷466)の計算により、0.448質量%と算出される。
【0042】
上記ビスマス化合物(c1)は、カチオン電着塗料組成物に対して良好な硬化性能を付与することができる。カチオン電着塗料組成物が上記ビスマス化合物(c1)を含むことによって、硬化触媒としての鉛化合物、有機錫化合物などを用いる必要なくなる。これにより、実質的に錫化合物および鉛化合物の何れも含まない電着塗料組成物を調製することができる。
【0043】
金属酸化物(c2)
顔料分散ペースト(ii)の調製において用いられる金属酸化物(c2)は、金属元素として、La、Nd、Y、Pr、YbおよびCeからなる群から選択される1種またはそれ以上を含む、希土類化合物である。金属酸化物(c2)に含まれる金属元素は、La、Nd、Y、Ybからなる群から選択される1種またはそれ以上であるのが好ましく、Laであるのがさらに好ましい。本発明における電着塗料組成物は、上記金属酸化物(c2)が含まれることによって、優れたエッジ部防錆性能が得られることとなる。また、上記金属成分として、上記金属元素の酸化物を用いることによって、得られる塗膜において色差が生じ難い、塗膜外観が良好である塗膜を形成することができる利点がある。
【0044】
金属酸化物(c2)は粉体形態であるのが好ましく、その平均粒子径は0.5~20μmであるのが好ましく、1~3μmであるのがより好ましい。平均粒子径は上述と同様にして測定された値を意味する。
【0045】
金属酸化物(c2)の含有量は、電着塗料組成物中に含まれる樹脂エマルション(i)の樹脂固形分に対して、金属元素換算で0.01~2質量%となる量であるのが好ましく、0.05~1.5質量%となる量であるのがより好ましく、0.20~1質量%となる量であるのがさらに好ましい。樹脂エマルション(i)の樹脂固形分に対する、金属酸化物(c2)の含有量比率が上記範囲内であることによって、良好なエッジ部防錆性能が得られ、また、樹脂エマルションおよび電着塗料組成物の良好な保存安定性を確保することができる利点がある。
【0046】
「金属元素換算」とは、上記と同様に、金属化合物の含有量に金属元素換算係数(金属化合物量を金属元素量に換算するための係数である。例えば、金属酸化物(c2)の金属が酸化ランタン(La2O3、分子量325.8)である場合、酸化ランタンを0.1質量%含む電着塗料組成物における、ランタンの金属元素換算含有量は、0.1質量%×(277.8÷325.8)の計算により0.0853質量%と算出される。
【0047】
全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)
上記調製方法において、上記ビスマス化合物(c1)および金属酸化物(c2)に加えて、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)を用いて、ビスマス・金属酸化物混合液(C)を調製する。そして、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)として、不斉炭素原子を有し、そしてモノヒドロキシカルボン酸(c3)は光学異性体のうちL体を80%以上含むものを用いることを条件とする。本明細書において、「L体を80%以上含む」における「%」は質量比による数値であり、「質量%」を意味する。
【0048】
上記全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)は、全炭素数3~5の脂肪族モノヒドロキシモノカルボン酸であるのが好ましい。全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)として、例えば、乳酸(全炭素原子数3)、2-ヒドロキシ酪酸(全炭素原子数4)、3-ヒドロキシ酪酸(全炭素原子数4)などが挙げられる。
【0049】
全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)として、乳酸および2-ヒドロキシ酪酸からなる群から選択される1種またはそれ以上を用いるのがさらに好ましい。
【0050】
全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)の使用形態は特に限定されず、例えば、固体形態、液体形態、溶媒に溶解された溶液形態、特に水溶液形態、などが挙げられる。全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)の水溶液の調製に用いることができる溶媒として、イオン交換水、浄水、蒸留水などの水、そして水を主成分とする水性溶媒などが挙げられる。水性溶媒は、水に加えて、必要に応じた有機溶媒(例えば、アルコール、エステル、ケトンなどの、水溶性または水混和性有機溶媒など)を含んでもよい。
【0051】
上記調製において、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)として、不斉炭素原子を有するものを用い、そしてモノヒドロキシカルボン酸(c3)は光学異性体のうちL体を80%以上含むものを用いることによって、ビスマス化合物(c1)および金属酸化物(c2)の微分散を良好に確保すること、そして得られる電着塗料組成物の良好な保存安定性を確保することができる。理論に拘束されるものではないが、モノヒドロキシカルボン酸(c3)としてその光学異性体のうちL体を80%以上含むものを用いることによって、ビスマス化合物(c1)および金属酸化物(c2)それぞれの成分に対して、分散安定性に寄与する状態で良好に作用し、これにより、ビスマス化合物(c1)および金属酸化物(c2)それぞれの微分散状態および良好な分散安定性が得られることとなるためと考えられる。また、ビスマス化合物(c1)および金属酸化物(c2)それぞれの微分散状態を確保することによって、得られる塗膜において色差が生じ難い、塗膜外観が良好である塗膜を形成することができる利点がある。
【0052】
ビスマス・金属酸化物混合液(C)の調製に用いられる溶媒として、イオン交換水、浄水、蒸留水などの水、そして水を主成分とする水性溶媒などが挙げられる。水性溶媒は、水に加えて、必要に応じた有機溶媒(例えば、アルコール、エステル、ケトンなどの、水溶性または水混和性有機溶媒など)を含んでもよい。
【0053】
ビスマス・金属酸化物混合液(C)の調製
ビスマス・金属酸化物混合液(C)の調製は、ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)および溶媒を混合して調製する(ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程)。上記混合は、各成分を任意の順序で加えて混合することができる。
【0054】
上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程において、上記ビスマス化合物(c1)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合、および、上記金属酸化物(c2)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合をそれぞれ行い、次いで、各混合で得られた混合物と溶媒を混合してビスマス・金属酸化物混合液(C)を調製するのが、より好ましい。このように、ビスマス化合物(c1)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合、および、金属酸化物(c2)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合をそれぞれ行うことによって、ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)それぞれの分散状態に対して最適な量のモノヒドロキシカルボン酸(c3)を混合することができる利点がある。
【0055】
上記混合における温度および撹拌速度などの混合条件は、塗料組成物の製造において通常行われる条件であってよく、例えば10~50℃、好ましくは20~40℃において、各成分を分散させることができる撹拌流が生じる程度の撹拌速度において行うことができる。撹拌時間は、反応系のスケールおよび撹拌装置などに依存して任意に選択することができる。撹拌時間は、例えば、5分~2時間であってよい。
【0056】
上記ビスマス化合物(c1)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合において、pHが2.0~4.1の範囲内で行われるのが好ましい。pHが2.0~4.1の範囲内で混合を行うことによって、ビスマス化合物(c1)をより微細な状態で安定に分散させることができる利点がある。
【0057】
上記混合におけるpHの調整は、例えば、混合するモノヒドロキシカルボン酸(c3)の量によって調整することができる。
【0058】
ビスマス化合物(c1)および全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)を混合することによって、ビスマス化合物(c1)の溶解性および分散安定性が向上し、塗料安定性および硬化性に優れた電着塗料組成物が得られることとなる。このメカニズムの詳細は必ずしも明らかではなく、理論に拘束されるものではないが、ビスマス化合物(c1)および全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)を混合することによって、一部のビスマス化合物が全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)と溶解し、そして一部のビスマス化合物が全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)と共に分散(例えばキレート様分散)し、これによりビスマス化合物(c1)が微分散状態となるためと考えられる。
【0059】
ビスマス化合物(c1)の金属元素のモル数とモノヒドロキシカルボン酸(c3)のモル数との比率は(c1):(c3)=1:0.5~1:4.0の範囲内であるのがより好ましい。上記比率は、(c1):(c3)=1:0.5~1:2の範囲内であるのがさらに好ましい。比率(c1):(c3)が上記範囲内であることによって、ビスマス化合物(c1)をより微細な状態で安定に分散させることができる利点がある。
【0060】
また、金属酸化物(c2)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合において、金属酸化物(c2)の金属元素のモル数とモノヒドロキシカルボン酸(c3)のモル数との比率は(c2):(c3)=1:0.5~1:3.25の範囲内であるのがより好ましい。上記比率は、(c2):(c3)=1:2~1:3.25の範囲内であるのがさらに好ましい。上記モル数の比率において、モノヒドロキシカルボン酸(c3)の含有量のモル比が上記範囲内であることによって、金属酸化物(c2)の溶解性、そして、電着塗料組成物および顔料分散ペーストの保存安定性、エッジ部防錆性能などを良好に確保することができる利点がある。
【0061】
上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)調製工程において、ビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は2.5mPa・s~15mPa・sの範囲内である。ビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度が上記範囲内であることによって、ビスマス化合物(c1)の微分散状態を良好に維持することができる利点がある。ビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度を上記範囲内に維持する手法として、例えば、ビスマス化合物(c1)とモノヒドロキシカルボン酸(c3)との混合においてpHを2.0~4.1の範囲内に維持するなどの手法が挙げられる。より具体的には、例えば上記混合において、モノヒドロキシカルボン酸(c3)の量を調節することでpHを2.0~4.1の範囲内に維持する方法などが挙げられる。また、上記混合において粘度調整剤であるポリオキシアルキレン系界面活性剤(例えば、サンノプコ社製、SN-001S、SN-005Sなど)を用いることでビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度を上記範囲に維持する方法も挙げられる。
【0062】
また、上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれる、ビスマス化合物(c1)および金属酸化物(c2)の金属元素のモル比は、(c1):(c2)=0.1:1~10:1の範囲内であるのが好ましく、(c1):(c2)=0.3:1~3:1の範囲内であるのがより好ましい。金属元素のモル比(c1):(c2)が上記範囲内であることによって、顔料分散ペースト(ii)の良好な保存安定性を維持しつつ、塗膜硬化性およびエッジ部防錆性の高度な両立を図ることができる利点がある。
【0063】
上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)に含まれる、ビスマス化合物(c1)および金属酸化物(c2)の金属元素の総モル数と、前記モノヒドロキシカルボン酸(c3)のモル数との比は、((c1)+(c2)):(c3)=0.55:1~4:1の範囲内であるのが好ましく、((c1)+(c2)):(c3)=0.6:1~3:1の範囲内であるのがさらに好ましい。
【0064】
顔料分散ペースト(ii)の調製
顔料分散ペースト(ii)の調製においては、上記より得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)および多価酸(E)を混合し、次いで、得られた混合物、顔料分散樹脂(D)および顔料(F)を混合する(顔料分散ペースト(ii)調製工程)。
【0065】
顔料分散樹脂(D)
顔料分散樹脂(D)は、顔料を分散させるための樹脂であり、水性媒体中に分散されて使用される。顔料分散樹脂として、4級アンモニウム基、3級スルホニウム基および1級アミン基から選択される少なくとも1種またはそれ以上を有する変性エポキシ樹脂などの、カチオン基を有する顔料分散樹脂を用いることができる。水性溶媒としてはイオン交換水または少量のアルコール類を含む水などを用いる。
【0066】
顔料分散樹脂(D)の一例である、4級アンモニウム基を有する顔料分散樹脂として、4級アンモニウム基を有するアミン変性エポキシ樹脂が好ましく用いられる。4級アンモニウム基を有するアミン変性エポキシ樹脂は、水酸基価が20~120mgKOH/gであるのが好ましい。このようなアミン変性エポキシ樹脂は、例えば、水酸基を有するエポキシ樹脂の水酸基に対して、ハーフブロックイソシアネートを反応させて、ブロックイソシアネート基を導入することによって、調製することができる。
【0067】
上記エポキシ樹脂としては、一般的にはポリエポキシドが用いられる。このエポキシドは、1分子中に平均2個以上の1,2-エポキシ基を有する。このようなポリエポキシドの有用な例として、上述のエポキシ樹脂が挙げられる。
【0068】
エポキシ樹脂と反応させるために用いられるハーフブロックイソシアネートは、ポリイソシアネートを部分的にブロックすることにより調製される。ポリイソシアネートとブロック剤との反応は、必要に応じた硬化触媒(例えばスズ系触媒など)の存在の下で、攪拌下、ブロック剤を滴下しながら40~50℃に冷却することにより行うことが好ましい。
【0069】
上記のポリイソシアネートは、1分子中に平均で2個以上のイソシアネート基を有するものであれば特に限定されない。具体的な例としては、上記ブロックイソシアネート硬化剤の調製で用いることができるポリイソシアネートを用いることができる。
【0070】
上記のハーフブロックイソシアネートを調製するための適当なブロック化剤としては、4~20個の炭素原子を有する低級脂肪族アルキルモノアルコールが挙げられる。具体的には、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ヘプチルアルコールなどが挙げられる。
【0071】
上記のエポキシ樹脂とハーフブロックイソシアネートとの反応は、好ましくは140℃で約1時間保つことにより行われる。
【0072】
上記3級アミンとして、炭素数1~6のものが好ましく用いることができる。3級アミンの具体例として、例えば、ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジエチルベンジルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジフェネチルメチルアミン、ジメチルアニリン、N-メチルモルホリンなどが挙げられる。
【0073】
さらに上記3級アミンと混合して用いられる中和酸としては、特に制限はなく、具体的には、塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸などである。中和酸は、ギ酸、酢酸および乳酸からなる群から選択される1種またはそれ以上の酸であるのがより好ましい。このようにして得られる3級アミンの中和酸塩とエポキシ樹脂との反応は、常法により行うことができる。例えば、エチレングリコールモノブチルエーテルなどの溶剤に上記エポキシ樹脂を溶解させ、得られた溶液を60~100℃まで加熱し、ここへ3級アミンの中和酸塩を滴下して、酸価が1となるまで反応混合物を60~100℃に保持して行われる。
【0074】
上記4級アンモニウム基を有するアミン変性エポキシ樹脂は、エポキシ当量が1000~1800であるのが好ましい。このエポキシ当量は1200~1700であるのがより好ましい。また水酸基価が20~120mgKOH/gであるアミン変性エポキシ樹脂は、数平均分子量が1500~2700であるのが好ましい。
【0075】
顔料分散樹脂(D)の他の一例である、3級スルホニウム基を有する顔料分散樹脂として、3級スルホニウム基変性エポキシ樹脂が好ましく用いられる。3級スルホニウム基変性エポキシ樹脂は、例えば、水酸基を有するエポキシ樹脂の水酸基に対して、ハーフブロックイソシアネートを反応させてブロックイソシアネート基を導入し、これにスルフィド化合物を反応させることによって調製することができる。スルフィド化合物として、例えば、1-(2-ヒドロキシエチルチオ)-2-プロパノール、1-(2-ヒドロキシエチルチオ)-2,3-プロパンジオール、1-(2-ヒドロキシエチルチオ)-2-ブタノールおよび1-(2-ヒドロキシエチルチオ)-3-ブトキシ-1-プロパノールなどが挙げられる。スルフィド化合物の反応は、上記3級アミンの反応と同様にして行うことができる。
【0076】
顔料分散樹脂(D)の量は、顔料分散ペーストに含まれる顔料(F)および顔料分散樹脂(D)の比率(固形分質量比)として、顔料(F)/顔料分散樹脂(D)=1/0.1~1/1.5の範囲内であるのが好ましく、顔料(F)/顔料分散樹脂(D)=1/0.1~1/1.1の範囲内であるのがより好ましい。顔料分散樹脂(D)の量が上記範囲を超える場合は、硬化性能が劣ることとなるおそれがある。また、顔料分散樹脂(D)の量が上記範囲未満である場合は、顔料分散不良が生じるおそれがある。
【0077】
多価酸(E)
本明細書において「多価酸」とは、1価の酸基を2またはそれ以上有する化合物もしくは2価以上の酸基を有する化合物をいう。多価酸(E)は、2またはそれ以上のカルボン酸基を有する化合物およびリン酸基を有する化合物からなる群から選択される1種またはそれ以上であるのが好ましい。多価酸(E)の具体例として、例えば、
2またはそれ以上のカルボン酸基を有する炭素数2~6の化合物、例えば、酒石酸、ブドウ酸、クエン酸、リンゴ酸、ヒドロキシマロン酸、マロン酸、コハク酸、グルタン酸、アジピン酸など;
2またはそれ以上のカルボン酸基を有するポリマー、例えばポリアクリル酸など;
リン酸基を有する化合物、例えば、リン酸、縮合リン酸(例えば二リン酸、三リン酸、ポリリン酸、シクロリン酸など)など;
が挙げられる。
【0078】
本明細書において、縮合リン酸は、2またはそれ以上のリン酸基を有する無機化合物を意味する。縮合リン酸は、例えば、オルトリン酸(H3PO4)の脱水反応またはそれに類する反応によって調製することができる。
【0079】
多価酸(E)として、酒石酸、クエン酸、リン酸、縮合リン酸、リンゴ酸およびポリアクリル酸からなる群から選ばれる1種またはそれ以上であるのが好ましく、酒石酸、クエン酸およびリンゴ酸からなる群から選ばれる1種またはそれ以上であるのがさらに好ましい。
【0080】
顔料分散ペースト(ii)の調製において用いる多価酸(E)の量は、顔料分散樹脂(D)の樹脂固形分100質量部に対して0.01~10質量部であるのが好ましく、0.08~5質量部であるのがより好ましく、0.09~3.5質量部であるのがさらに好ましい。多価酸(E)の量が0.01質量部未満である場合は、多価酸(E)としての効果が得られないおそれがある。また、多価酸(E)の量が10質量部を超える場合は、硬化性が低下するおそれがある。
【0081】
顔料分散ペースト(ii)の調製において、上記より得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)と多価酸(E)とを混合し、その後に顔料分散樹脂(D)および顔料(F)を混合することによって、得られる顔料分散ペースト(ii)の分散安定性が向上し、塗料安定性および硬化性に優れた電着塗料組成物が得られることとなる。このメカニズムの詳細は必ずしも明らかではなく、理論に拘束されるものではないが、以下のように考えられる。
上記ビスマス・金属酸化物混合液(C)において、一部のビスマス化合物が全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)と溶解し、そして一部のビスマス化合物が全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)と共に分散(例えばキレート様分散)し、ビスマス化合物(c1)が微分散状態であると考えられる。しかしながらこの段階におけるビスマス化合物の被覆状態は十分でないと考えられ、顔料(F)を加えると、顔料(F)とビスマス化合物(c1)とが反応し被覆状態が崩れる可能性がある。ここで、上記より得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)に対して多価酸(E)を加えることによって、全炭素原子数3~5のモノヒドロキシカルボン酸(c3)による被覆が強固なものとなり、良好な分散安定性を得ることができ、また得られる塗膜において色差が生じ難い、塗膜外観が良好である塗膜を形成することができると考えられる。
【0082】
顔料(F)
上記顔料(F)として、電着塗料組成物において通常用いられる顔料を用いることができる。顔料として、例えば、通常使用される無機顔料および有機顔料、例えば、チタンホワイト(二酸化チタン)、カーボンブラックおよびベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、およびリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料など、が挙げられる。
【0083】
顔料(F)は、カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分に対して1~30質量%となる量で用いるのが好ましい。
【0084】
顔料分散ペースト(ii)は、上記より得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)および多価酸(E)を混合し、次いで、得られた混合物、顔料分散樹脂(D)および顔料(F)を混合して調製される(顔料分散ペースト(ii)調製工程)。
【0085】
顔料分散樹脂(D)および顔料(F)の混合方法は、任意の方法であってよい。例えば、顔料分散樹脂(D)および顔料(F)を予め混合しておき、次いで、上記より得られた混合物と混合してもよい。この混合によって、顔料分散ペーストが調製される。この混合における温度および撹拌速度などの条件は、塗料組成物の製造において通常行われる条件であってよく、例えば10~50℃、好ましくは20~40℃において、顔料を分散させることができる撹拌流が生じる程度の撹拌速度において行うことができる。撹拌時間は、例えば、顔料の分散粒度が10μm以下となるまで行うのが好ましい。ここで顔料の分散粒度は、顔料の体積平均粒子径を測定することによって確認することができる。
【0086】
電着塗料組成物の製造
本発明における電着塗料組成物は、上記樹脂エマルション(i)および顔料分散ペースト(ii)を混合することによって調製することができる。上記樹脂エマルション(i)および顔料分散ペースト(ii)の混合比率は、固形分質量比率として、樹脂エマルション(i):顔料分散ペースト(ii)=1:0.1~1:0.4の範囲内であるのが好ましく、1:0.15~1:0.3の範囲内であるのがより好ましい。
【0087】
本発明における電着塗料組成物の固形分量は、電着塗料組成物全量に対して1~30質量%であるのが好ましい。電着塗料組成物の固形分量が1質量%未満である場合は、電着塗膜析出量が少なくなり、十分な耐食性を確保することが困難となるおそれがある。また電着塗料組成物の固形分量が30質量%を超える場合は、つきまわり性または塗装外観が悪くなるおそれがある。
【0088】
本発明における電着塗料組成物は、pHが4.5~7であることが好ましい。電着塗料組成物のpHが4.5未満である場合は、耐食性が劣り、また電着塗装においてスラッジの発生が生じるという不具合がある。電着塗料組成物のpHは、用いる中和酸の量、遊離酸の添加量などの調整によって、上記範囲に設定することができる。
【0089】
電着塗料組成物のpHは、温度補償機能を有する市販のpHメーターを用いて測定することができる。
【0090】
電着塗料組成物の固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))は40~120であるのが好ましい。なお、電着塗料組成物の樹脂固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))は、中和酸量および遊離酸の量によって調整することができる。
【0091】
ここでMEQ(A)とは、mg equivalent(acid)の略であり、塗料の固形分100g当たりのすべての酸のmg当量の合計である。このMEQ(A)は、電着塗料組成物の固形分を約10g精秤し約50mlの溶剤(THF:テトラヒドロフラン)に溶解した後、1/10NのNaOH溶液を用いて電位差滴定を行うことによって、電着塗料組成物中の含有酸量を定量して測定することができる。
【0092】
本発明における電着塗料組成物は、塗料分野において一般的に用いられている添加剤、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルなどの有機溶媒、乾き防止剤、消泡剤などの界面活性剤、アクリル樹脂微粒子などの粘度調整剤、はじき防止剤、バナジウム塩、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム塩などの無機防錆剤など、を必要に応じて含んでもよい。またこれら以外に、目的に応じて公知の補助錯化剤、緩衝剤、平滑剤、応力緩和剤、光沢剤、半光沢剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤などを配合してもよい。これらの添加剤は、樹脂エマルション(i)の調製時に混合してもよく、顔料分散ペースト(ii)の調製時に混合してもよく、また、樹脂エマルション(i)と顔料分散ペースト(ii)との混合時または混合後に混合してもよい。
【0093】
本発明における電着塗料組成物は、上記アミン化樹脂(A)以外にも、他の塗膜形成樹脂成分を含んでもよい。他の塗膜形成樹脂成分として、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン系樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂などが挙げられる。上述したようなアミン化樹脂(A)に該当しないアミン化樹脂であってもよい。電着塗料組成物に含まれうる他の塗膜形成樹脂成分として、フェノール樹脂、キシレン樹脂が好ましい。フェノール樹脂、キシレン樹脂として、例えば、2以上10以下の芳香族環を有するキシレン樹脂が挙げられる。
【0094】
電着塗装および電着塗膜形成
本発明における電着塗料組成物を用いて被塗物に対し電着塗装および電着塗膜形成を行うことができる。
本発明における電着塗料組成物を用いる電着塗装においては、被塗物を陰極とし、陽極との間に、電圧を印加する。これにより、電着塗膜が被塗物上に析出する。
【0095】
電着塗装工程において、電着塗料組成物中に被塗物を浸漬した後、50~450Vの電圧を印加することによって、電着塗装が行われる。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となるおそれがあり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となるおそれがある。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10~45℃に調節される。
【0096】
電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2~5分とすることができる。
【0097】
電着塗膜の膜厚は、加熱硬化により最終的に得られる電着塗膜の膜厚が好ましくは5~40μm、より好ましくは10~25μmとなるような膜厚とする。電着塗膜の膜厚が5μm未満であると、耐食性が不充分となるおそれがある。一方40μmを超えると、塗料の浪費につながる。
【0098】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま、または水洗した後、120~260℃、好ましくは140~220℃で、10~30分間加熱することによって、加熱硬化した電着塗膜が形成される。
【0099】
本発明における電着塗料組成物を塗装する被塗物としては、通電可能な種々の被塗物を用いることができる。使用できる被塗物として例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛-鉄合金系めっき鋼板、亜鉛-マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム-シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板などが挙げられる。
【実施例】
【0100】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0101】
製造例1 顔料分散樹脂(D)の製造
2-エチルヘキサノールハーフブロック化イソホロンジイソシアネートの調製
攪拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、メチルイソブチルケトン(MIBK)39.1部で希釈した後、ここヘジブチル錫ジラウレート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2-エチルヘキサノール131.5部を攪拌下、乾燥窒素雰囲気で2時間かけて滴下し、2-エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(固形分90.0質量%)を得た。
【0102】
変性エポキシ樹脂および顔料分散樹脂(D)の調製
撹拌機、窒素導入管、冷却管を備えた反応容器にエポン828(シェル化学社製エポキシ樹脂、エポキシ当量:190)351.6部およびビスフェノールA 99.2部を仕込み、窒素雰囲気下130℃まで加熱し、ベンジルジメチルアミン1.41部を添加し、170℃で約1時間反応させることにより、エポキシ当量450のビスフェノール型エポキシ樹脂を得た。次いで、140℃まで冷却した後、先に調製した2-エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI 218.3部(固形分量196.5部)を加え反応させた。
これを140℃に1時間保った後、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル172.3部を加えて希釈した後に、反応混合物を100℃に冷却し、SHP-100(1-(2-ヒドロキシエチルチオ)-2-プロパノール、三洋化成製)408.0部(固形分量136.0部)、ジメチロールプロピオン酸134.0部および脱イオン水144.0部を加えた。これを70~75℃で酸価3.0以下になるまで反応させ、3級スルホニウム化率70.6%の樹脂を得た。これをジプロピレングリコールモノブチルエーテル324.8部で希釈し、顔料分散樹脂(D)を得た(樹脂固形分50%)。
【0103】
製造例2 アミン化樹脂(A-1)の製造
メチルイソブチルケトン92部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:DER-331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA382部、オクチル酸63部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、反応容器内の温度を140℃に保持し、エポキシ当量が1110g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が120℃になるまで冷却した。ついでジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)78部とジエタノールアミン92部の混合物を添加し、120℃で1時間反応させることにより、アミン化樹脂(A-1)(カチオン変性エポキシ樹脂)を得た。この樹脂の数平均分子量は2,560、アミン価(樹脂固形分100gに対する塩基のミリグラム当量:MEQ(B))は50mgKOH/g(うち1級アミンに由来するアミン価は14mgKOH/g)、水酸基価は240mgKOH/gであった。
【0104】
製造例3-1 ブロックイソシアネート硬化剤(B-1)の製造
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)1680部およびMIBK732部を反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、トリメチロールプロパン346部をMEKオキシム1067部に溶解させたものを60℃で2時間かけて滴下した。さらに75℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK27部を加えて、固形分が78%のブロックイソシアネート硬化剤(B-1)を得た。イソシアネート基価は252mgKOH/gであった。
【0105】
製造例3-2 ブロックイソシアネート硬化剤(B-2)の製造
4,4’-ジフェニルメタンジイソシアナート1340部およびMIBK277部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ε-カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK349部を加えて、ブロックイソシアネート硬化剤(B-2)を得た(固形分80%)。イソシアネート基価は251mgKOH/gであった。
【0106】
製造例4 アミン変性エポキシ樹脂のエマルション(1)の製造
製造例2で得たアミン化樹脂(A-1)350部(固形分)と、製造例3-1で得たブロックイソシアネート硬化剤(B-1)75部(固形分)および製造例3-2で得たブロックイソシアネート硬化剤(B-2)75部(固形分)とを混合し、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(15部)になるように添加した。次に、ギ酸を添加量が樹脂中和率40%相当分になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈し、次いで固形分が40%になるように減圧下でメチルイソブチルケトンを除去して、アミン変性エポキシ樹脂のエマルション(1)を得た。
【0107】
実施例1
顔料分散ペーストの製造
分散ペーストの固形分濃度が47質量%になるように、イオン交換水99部に、乳酸(L体)の50%水溶液4.3部、酸化ビスマス5.5部、および粘度調整剤であるSN-001S(サンノプコ社製) 0.2部を加え、室温で1時間攪拌した。この攪拌時におけるpHは2.9であった。
ここに、さらに乳酸(L体)の50%水溶液13.4部および酸化ランタン5.8部を加え室温で1時間、1000rpmにて攪拌し、ビスマス・金属酸化物混合液(C)を得た。得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は、3.0mPa・sであった。
その後、10%酒石酸水溶液1.9部を加え、製造例1で得られた顔料分散樹脂(D)を90.5部加えて混合し、さらに顔料であるカーボン0.9部、酸化チタン41.7部、サテントン(焼成カオリン)45.6部を加え、サンドミルを用いて40℃で1時間、2000rpmにて撹拌することで顔料分散ペーストを得た。
【0108】
カチオン電着塗料組成物の製造
ステンレス容器に、イオン交換水492.8部、製造例4で調製したアミン変性エポキシ樹脂のエマルション(1)375.1部(樹脂固形分換算量、樹脂エマルション(i)として使用)および上記顔料分散ペースト87.2部を添加し、その後、40℃で16時間エージングして、カチオン電着塗料組成物を得た。
【0109】
なお、ビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は、デジタルストーマー粘度計(上島製作所社製)を用いて、粘度を測定した。サンプルを25℃に調整し100回転するために必要な秒数を計測することから粘度が計測できる。
【0110】
実施例2
分散ペーストの固形分濃度が47質量%になるように、イオン交換水99部に、乳酸(L体)の50%水溶液4.3部、酸化ビスマス5.6部、および粘度調整剤であるSN-001S(サンノプコ社製) 0.2部を加え、室温で1時間攪拌した。この攪拌時におけるpHは2.9であった。
ここに、さらに乳酸(L体)の50%水溶液13.6部および酸化ネオジム 5.9部を加え室温で1時間、1000rpmにて攪拌し、ビスマス・金属酸化物混合液(C)を得た。得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は、3.0mPa・sであった。
その後、10%酒石酸水溶液1.9部を加え、次いで製造例1で得られた顔料分散樹脂(D)を90.5部加えて混合し、さらに顔料であるカーボン0.9部、酸化チタン41.7部、サテントン(焼成カオリン)45.5部を加え、サンドミルを用いて40℃で1時間、2000rpmにて撹拌することで顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0111】
実施例3
酸化ランタン5.8部の代わりに、酸化セリウム5.8部を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0112】
実施例4
酸化ネオジム5.9部の代わりに、酸化イットリウム5.8部を用いたこと以外は、実施例2と同様の手順により、顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0113】
実施例5
酸化ランタン5.8部の代わりに、酸化プラセオジム5.8部を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0114】
実施例6
酸化ランタン5.8部の代わりに、酸化イッテルビウム5.8部を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0115】
実施例7
分散ペーストの固形分濃度が47質量%になるように、イオン交換水99部に、2-ヒドロキシ酪酸(L体)の50%水溶液5部、酸化ビスマス5.6部、および粘度調整剤であるSN-001S(サンノプコ社製) 0.2部を加え、室温で1時間攪拌した。この攪拌時におけるpHは2.9であった。
ここに、さらに乳酸(L体)の50%水溶液13.6部および酸化ランタン 5.9部を加え室温で1時間、1000rpmにて攪拌し、ビスマス・金属酸化物混合液(C)を得た。得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は、3.0mPa・sであった。
その後、10%酒石酸水溶液1.9部を加え、次いで製造例1で得られた顔料分散樹脂(D)を90.5部加えて混合し、さらに顔料であるカーボン0.9部、酸化チタン41.7部、サテントン(焼成カオリン)45.5部を加え、サンドミルを用いて40℃で1時間、2000rpmにて撹拌することで顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0116】
実施例8
酸化ビスマス5.6部の代わりに、水酸化ビスマス5.5部を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0117】
実施例9
10%酒石酸水溶液1.9部の代わりに、10%クエン酸水溶液1.9部を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0118】
実施例10
分散ペーストの固形分濃度が47質量%になるように、イオン交換水99部に、乳酸(L体)の50%水溶液2.8部、酸化ビスマス3.6部、および粘度調整剤であるSN-001S(サンノプコ社製) 0.2部を加え、室温で1時間攪拌した。この攪拌時におけるpHは4.0であった。
ここに、さらに乳酸(L体)の50%水溶液8.8部および酸化ランタン3.8部を加え室温で1時間、1000rpmにて攪拌し、ビスマス・金属酸化物混合液(C)を得た。得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は、3.0mPa・sであった。
その後、10%酒石酸水溶液1.9部を加え、製造例1で得られた顔料分散樹脂(D)を90.5部加えて混合し、さらに顔料であるカーボン0.9部、酸化チタン41.7部、サテントン(焼成カオリン)45.6部を加え、サンドミルを用いて40℃で1時間、2000rpmにて撹拌することで顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0119】
実施例11
分散ペーストの固形分濃度が47質量%になるように、イオン交換水99部に、乳酸(L体)の50%水溶液1.9部、酸化ビスマス5.5部、および粘度調整剤であるSN-001S(サンノプコ社製) 0.2部を加え、室温で1時間攪拌した。この攪拌時におけるpHは2.9であった。
ここに、さらに乳酸(L体)の50%水溶液16部および酸化ランタン 5.8部を加え室温で1時間、1000rpmにて攪拌し、ビスマス・金属酸化物混合液(C)を得た。得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は、3.0mPa・sであった。
その後、10%酒石酸水溶液1.9部を加え、次いで製造例1で得られた顔料分散樹脂(D)を90.5部加えて混合し、さらに顔料であるカーボン0.9部、酸化チタン41.7部、サテントン(焼成カオリン)45.5部を加え、サンドミルを用いて40℃で1時間、2000rpmにて撹拌することで顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0120】
実施例12
分散ペーストの固形分濃度が47質量%になるように、イオン交換水98部に、乳酸(L体)の50%水溶液0.5部、酸化ビスマス0.7部、および粘度調整剤であるSN-001S(サンノプコ社製) 0.2部を加え、室温で1時間攪拌した。この攪拌時におけるpHは4.0であった。
ここに、さらに乳酸(L体)の50%水溶液1.5部および酸化ランタン 9.2部を加え室温で1時間、1000rpmにて攪拌し、ビスマス・金属酸化物混合液(C)を得た。得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は、3.0mPa・sであった。
その後、10%酒石酸水溶液1.9部を加え、次いで製造例1で得られた顔料分散樹脂(D)を90.5部加えて混合し、さらに顔料であるカーボン0.9部、酸化チタン41.7部、サテントン(焼成カオリン)45.5部を加え、サンドミルを用いて40℃で1時間、2000rpmにて撹拌することで顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0121】
実施例13
分散ペーストの固形分濃度が47質量%になるように、イオン交換水99部に、乳酸(L体)の50%水溶液4.3部、酸化ビスマス5.5部、および粘度調整剤であるSN-001S(サンノプコ社製) 0.11部を加え、室温で1時間攪拌した。この攪拌時におけるpHは2.5であった。
ここに、さらに乳酸(L体)の50%水溶液13.4部および酸化ランタン5.8部を加え室温で1時間、1000rpmにて攪拌し、ビスマス・金属酸化物混合液(C)を得た。得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は、2.5mPa・sであった。
その後、10%酒石酸水溶液1.9部を加え、製造例1で得られた顔料分散樹脂(D)を90.5部加えて混合し、さらに顔料であるカーボン0.9部、酸化チタン41.7部、サテントン(焼成カオリン)45.6部を加え、サンドミルを用いて40℃で1時間、2000rpmにて撹拌することで顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0122】
実施例14
分散ペーストの固形分濃度が47質量%になるように、イオン交換水99部に、乳酸(L体)の50%水溶液17.7部、酸化ビスマス5.5部、酸化ランタン5.8部、および粘度調整剤であるSN-001S(サンノプコ社製) 0.2部を加え、室温で1時間、1000rpmにて攪拌し、ビスマス・金属酸化物混合液(C)を得た。この攪拌時におけるpHは2.9であった。また、得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は、3.0mPa・sであった。
その後、10%酒石酸水溶液1.9部を加え、製造例1で得られた顔料分散樹脂(D)を90.5部加えて混合し、さらに顔料であるカーボン0.9部、酸化チタン41.7部、サテントン(焼成カオリン)45.6部を加え、サンドミルを用いて40℃で1時間、2000rpmにて撹拌することで顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0123】
実施例15
分散ペーストの固形分濃度が47質量%になるように、イオン交換水99部に、乳酸(L体)の50%水溶液3.4部、乳酸(DL体)の50%水溶液0.9部、酸化ビスマス5.5部、および粘度調整剤であるSN-001S(サンノプコ社製) 0.2部を加え、室温で1時間攪拌した。この攪拌時におけるpHは2.9であった。
ここに、さらに乳酸(L体)の50%水溶液10.7部、乳酸(DL体)の50%水溶液2.7部および酸化ランタン5.8部を加え室温で1時間、1000rpmにて攪拌し、ビスマス・金属酸化物混合液(C)を得た。得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は、3.0mPa・sであった。
その後、10%酒石酸水溶液1.9部を加え、製造例1で得られた顔料分散樹脂(D)を90.5部加えて混合し、さらに顔料であるカーボン0.9部、酸化チタン41.7部、サテントン(焼成カオリン)45.6部を加え、サンドミルを用いて40℃で1時間、2000rpmにて撹拌することで顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0124】
比較例1
乳酸(L体)の50%水溶液の代わりに、乳酸(DL体)の50%水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0125】
比較例2
分散ペーストの固形分濃度が47質量%になるように、イオン交換水98部に、乳酸(L体)の50%水溶液4.1部、酸化ビスマス5.3部、および粘度調整剤であるSN-001S(サンノプコ社製) 0.2部を加え、室温で1時間攪拌した。この攪拌時におけるpHは5.0であった。得られた混合液の粘度は、2.0mPa・sであった。
その後、10%酒石酸水溶液1.9部を加え、製造例1で得られた顔料分散樹脂(D)を90.5部加えて混合し、さらに顔料であるカーボン0.9部、酸化チタン41.7部、サテントン(焼成カオリン)45.6部を加え、サンドミルを用いて40℃で1時間、2000rpmにて撹拌することで顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0126】
比較例3
分散ペーストの固形分濃度が47質量%になるように、イオン交換水101部に、乳酸(L体)の50%水溶液4.3部、酸化ビスマス5.5部、および粘度調整剤であるSN-001S(サンノプコ社製) 0.2部を加え、室温で1時間攪拌した。この攪拌時におけるpHは2.9であった。
ここに、さらに乳酸(L体)の50%水溶液13.4部および酸化ランタン5.8部を加え室温で1時間、1000rpmにて攪拌し、ビスマス・金属酸化物混合液(C)を得た。得られたビスマス・金属酸化物混合液(C)の粘度は、3.0mPa・sであった。
その後、製造例1で得られた顔料分散樹脂(D)を90.5部加えて混合し、さらに顔料であるカーボン0.9部、酸化チタン41.7部、サテントン(焼成カオリン)45.6部を加え、サンドミルを用いて40℃で1時間、2000rpmにて撹拌することで顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用いて、実施例1と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0127】
比較例4
分散ペーストの固形分濃度が47質量%になるように、イオン交換水86.5部に、顔料分散樹脂(D)を60部(樹脂固形分換算量)加え、次いで製造例4で得られたアミン変性エポキシ樹脂のエマルション(1)7.5部を加えて混合し、さらに顔料であるカーボン1部、酸化チタン40部、サテントン(焼成カオリン)53.6部を加え、サンドミルを用いて40℃で1時間、2000rpmにて撹拌することで顔料分散ペーストを得た。
得られた顔料分散ペーストを用い、そして錫触媒分散ペーストであるジブチル錫オキシド分散ペースト(錫触媒含有量1.2%)20.9部を用いたこと以外は、実施例4と同様の手順により、電着塗料組成物を得た。
【0128】
上記実施例および比較例の調製方法によって得られた電着塗料組成物を用いて、以下の評価を行った。
【0129】
硬化電着塗膜を有する電着塗装板の作成
冷延鋼板(JIS G3141、SPCC-SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)中に50℃で2分間浸漬して、脱脂処理した。次にサーフファインGL1(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)に常温30秒浸漬し、サーフダイン6350(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)に35℃×2分間浸漬した。脱イオン水による水洗を行った。一方、実施例および比較例で得られた電着塗料組成物に、硬化後の電着塗膜の膜厚が15μmとなるように2-エチルヘキシルグリコールを必要量添加した。その後、電着塗料組成物に鋼板を全て埋没させた後、直ちに電圧の印加を開始し、30秒間昇圧し180Vに達してから150秒間保持する条件で電圧を印加して、被塗物(冷延鋼板)上に未硬化の電着皮膜を析出させた。得られた未硬化の電着皮膜を、160℃で15分間加熱硬化させて、硬化電着塗膜を有する電着塗装板を得た。
【0130】
エッジ部防錆性能評価試験
本試験の評価は、上記冷延鋼板ではなく、L 型専用替刃(LB10K:オルファ株式会社製)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)中に50℃で2分間浸漬して脱脂処理し、サーフファインGL-1(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)で表面調整し、次いでリン酸亜鉛化成処理液であるサーフダインSD-5000(日本ペイント・サーフケミカルズ社製、リン酸亜鉛化成処理液)中に40℃で2分間浸漬して、リン酸亜鉛化成処理を行ったものを用いた。これに、上記実施例および比較例によって得られた電着塗料組成物を、上記電着塗装と同様の条件で電着塗装して加熱硬化させ、硬化電着塗膜を形成したのち、JIS Z 2371(2000)に準拠した塩水噴霧試験(35℃×168時間)を行い、L型専用替刃先端部に発生した錆の個数を調べた。評価基準は以下の通りとし、○△以上を合格とした。
評価基準
◎:10個未満
○:10個以上~20個未満
○△:20個以上~50個未満
△:50個以上~100個未満
×:100個以上
【0131】
外観評価(色ムラ)
実施例および比較例で得られた電着塗料組成物を1000rpmで攪拌し、次いで攪拌を止め、鋼板を水平にすべて埋没させた後、3分間保持し、電圧の印加を開始し、30秒間昇圧し180Vに達してから150秒間保持する条件で電圧を印加して、被塗物(冷延鋼板)上に未硬化の電着皮膜を析出させた。得られた未硬化の電着皮膜を、160℃で15分間加熱硬化させて、電着塗膜を有する電着塗装板を得た。電着塗装板について、上下面の塗膜外観における異常の有無を目視で評価した。評価基準は以下の通りとし、○△以上を合格とした。
評価基準
○:上下面ともに均一な塗膜外観を有しており、ムラがない
○△:上下面被膜にややムラがあると視認される部分があるものの、全体として、ほぼ均一な塗膜外観を有している(実用上の問題なし)
△:上下面被膜にムラがあると視認される部分があり、全体として不均一な塗膜外観を有している(実用上の問題あり)
×:水平下面側被膜に著しくムラがあると視認される(実用上問題あり)
【0132】
貯蔵安定性評価
実施例・比較例で使用した顔料分散ペーストを40℃の保温庫で1週間静置したのちの状態を確認した。評価基準は以下の通りとし、○以上を合格とした。
評価基準
○:増粘、沈降のないこと。
△:増粘や沈降が一部あるものの、かき混ぜるとすぐにほぐれる。
×:増粘または沈降があり、撹拌してもほぐれないこと。
【0133】
塗装性評価
電着塗装時におけるガスピン発生抑制性能試験により塗装性を評価した。前処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を陰極として浸漬し、極間距離:15cm、液温30℃に調整した。30秒で所定の電圧となるよう印加電圧を上げ、所定の電圧に達した後、150秒間印加電圧を保持した。焼付け乾燥後の電着塗膜にピンホールが発生する最低電圧を限界電圧とした。この限界電圧が高いほど、ガスピン発生電圧が高く、耐ガスピン性能に優れているということができる。評価基準は以下の通りとし、○△以上を合格とした。
評価基準
○:15μm塗装電圧より50V以上の塗装電圧でガスピンが発生する。
○△:15μm塗装電圧より30V以上50V未満の塗装電圧でガスピンが発生する。
△:15μm塗装電圧以上30V未満の塗装電圧でガスピンが発生する。
×:15μm塗装電圧未満の塗装電圧でガスピンが発生する。
【0134】
【0135】
【0136】
実施例により得られた電着塗料組成物はいずれも、貯蔵安定性、塗装作業性に優れ、かつ、良好なエッジ部防錆性および塗膜外観を有する硬化電着塗膜が得られることが確認された。
比較例1は、L体の量が80%未満であるモノヒドロキシカルボン酸を用いた例である。この例では、貯蔵安定性が劣り、また、硬化電着塗膜の塗膜外観が劣ることが確認された。
比較例2は、金属酸化物(c2)を含まない例である。この例では、エッジ部防錆性が劣ることが確認された。
比較例3は、多価酸(E)を含まない例である。この例では、貯蔵安定性が劣り、また、硬化電着塗膜のエッジ部防錆性が劣ることが確認された。
比較例4は、ビスマス化合物(c1)、金属酸化物(c2)を含まない例であって、これらの代わりに有機錫化合物を含む例である。この例では、硬化電着塗膜のエッジ部防錆性が劣ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の電着塗料組成物は、例えば、自動車塗装における下塗り塗装において好適に用いることができる。