(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】抗菌組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 25/10 20060101AFI20230817BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230817BHJP
A01N 31/16 20060101ALI20230817BHJP
A01N 37/44 20060101ALI20230817BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20230817BHJP
A61K 8/73 20060101ALN20230817BHJP
A61K 8/34 20060101ALN20230817BHJP
A61Q 5/00 20060101ALN20230817BHJP
A61Q 19/00 20060101ALN20230817BHJP
A61Q 1/00 20060101ALN20230817BHJP
A61Q 11/00 20060101ALN20230817BHJP
【FI】
A01N25/10
A01P3/00
A01N31/16
A01N37/44
A01N61/00 D
A61K8/73
A61K8/34
A61Q5/00
A61Q19/00
A61Q1/00
A61Q11/00
(21)【出願番号】P 2019109051
(22)【出願日】2019-06-11
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山脇 有希子
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐未
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 啓文
(72)【発明者】
【氏名】田村 周子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆儀
(72)【発明者】
【氏名】伊森 洋一郎
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088516(JP,A)
【文献】特開2017-214309(JP,A)
【文献】特開2017-071588(JP,A)
【文献】特開2016-185938(JP,A)
【文献】特表2012-526857(JP,A)
【文献】特表2004-519519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A61K
A61Q
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)変性ヒドロキシ
エチルセルロース及び(B)抗菌剤を含有し、
前記(A)変性ヒドロキシ
エチルセルロースは、ヒドロキシ
エチルセルロースに、カチオン性基及び炭素数4以上
24以下の炭化水素基を含む疎水性基が結合している、
抗菌組成物
であって
前記カチオン性基が下記式(2-1)又は(2-2)で表され、
前記炭素数4以上24以下の炭化水素基を含む疎水性基が下記式(1-1)又は(1-1’)で表される疎水性基を含み、
前記(B)抗菌剤が、フェノール系抗菌剤及び天然物系抗菌剤よりなる群から選択される、
抗菌組成物。
【化1】
(式(2-1)及び式(2-2)中、R
21
~R
23
はそれぞれ独立に、炭素数1以上3以下の炭化水素基を示し、X
1a-
はアニオンを示し、tは0以上3以下の整数を示し、*はヒドロキシエチルセルロースの水酸基から水素原子を除いた基との結合位置を示す。)
【化2】
(式(1-1)及び式(1-1’)中、R
11
はそれぞれ独立に、炭素数2~4のアルキレン基を示し、R
1
は炭素数4以上24以下の炭化水素基を示し、*はヒドロキシエチルセルロースの水酸基から水素原子を除いた基との結合位置を示し、n1は-R
11
O-の付加モル数を示し、n1は0以上30以下の整数である。)
【請求項2】
ヒドロキシ
エチルセルロースの重量平均分子量が、1,000以上3,000,000以下である、請求項
1に記載の抗菌組成物。
【請求項3】
(A)変性ヒドロキシ
エチルセルロースにおける炭素数4以上
24以下の炭化水素基を含む疎水性基の置換度が、0.0001以上1以下である、請求項1
または2に記載の抗菌組成物。
【請求項4】
(A)変性ヒドロキシ
エチルセルロースにおけるカチオン性基の置換度が、0.001以上1以下である、請求項1~
3のいずれかに記載の抗菌組成物。
【請求項5】
(B)抗菌剤が、5-クロロ-2-(2,4-ジクロロフェノキシ)フェノール、4,4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル、o-ベンジル-p-クロロフェノール、イソプロピルメチルフェノール、パラクロロメタキシレノール、アミノ配糖体化合物、ポリリジン、及びバクテリオシンよりなる群から選択される、請求項1~4のいずれかに記載の抗菌組成物。
【請求項6】
(B)抗菌
剤が、イソプロピルメチルフェノール、
4,4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル、及びポリリジンよりなる群から選択される、請求項
5に記載の抗菌組成物。
【請求項7】
抗菌組成物中の(A)変性ヒドロキシ
エチルセルロースと(B)抗菌剤との質量比((A)/(B))が、0.1以上10以下である、請求項1~
6のいずれかに記載の抗菌組成物。
【請求項8】
(A)変性ヒドロキシ
エチルセルロースの含有量が0.01ppm以上である、請求項1~
7のいずれかに記載の抗菌組成物。
【請求項9】
更に、アニオン性界面活性剤を含有する、請求項1~
8のいずれかに記載の抗菌組成物。
【請求項10】
更に、ノニオン性界面活性剤を含有する、請求項1~
9のいずれかに記載の抗菌組成物。
【請求項11】
更に、水を含有する、請求項1~
10のいずれかに記載の抗菌組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖誘導体は、シャンプーやリンス、トリートメント、コンディショナー等の毛髪化粧料や衣料の洗浄剤組成物及び仕上げ剤組成物の配合成分に用いられ、その用途は多岐にわたる。
特許文献1には、特定のアルキル基、カルボキシメチル基、及びカチオン基で置換されている多糖誘導体を含有する洗濯用仕上げ剤が記載されている。
特許文献2には、特定の界面活性剤、カチオン性基含有セルロースエーテル、及び特定のグリセリルエーテルを含有する、水性毛髪洗浄剤が記載されている。
特許文献3には、多糖類、及びカチオン性モノマーを含有する合成ポリマーからなる群から選択される特定の持続性ポリマーを含む、パーソナルケア組成物添加剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-178303号公報
【文献】特開2015-168666号公報
【文献】特表2013-529644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、微生物によるニオイや着色、感染、生物汚染や腐食が問題となっており、微生物による害を防止できる、抗菌組成物が求められている。一般的に抗菌剤は高価であることから、より少量の抗菌剤で高い抗菌性能を発揮することができる抗菌組成物が求められている。
本発明は、抗菌剤と特定の多糖誘導体を用いることで、抗菌性能を向上することができる抗菌組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、抗菌剤と特定の多糖誘導体を含有する抗菌組成物により、上記の課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明は以下の<1>に関する。
<1> (A)変性ヒドロキシアルキルセルロース及び(B)抗菌剤を含有し、前記(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシアルキルセルロースに、カチオン性基及び炭素数4以上の炭化水素基を含む疎水性基が結合している、抗菌組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、抗菌性能を向上することができる抗菌組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
[抗菌組成物]
本発明の抗菌組成物は、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロース及び(B)抗菌剤を含有し、前記(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシアルキルセルロースに、カチオン性基及び炭素数4以上の炭化水素基を含む疎水性基が結合している。
本発明の抗菌組成物によれば、抗菌性能が向上する。ここで、抗菌性能が向上するとは、同じ抗菌剤の含有量に対して、抗菌活性が向上すること、又は抗菌剤の含有量を減少させても、同等の抗菌活性が得られることをいう。
【0009】
本発明者は、(B)抗菌剤を含有する組成物が、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースを含有することによって、抗菌性能が向上することを見出した。その詳細な作用機構は不明であるが、一部は以下のように推定される。
本発明の抗菌組成物が含有する(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、カチオン性基と疎水性基の両方を有するため、衣類等の対象物の表面に吸着することにより表面に均質かつ適度な親水性を付与すると考えられる。また、その作用機構は不明であるが、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロース自体に、(B)抗菌剤が有する抗菌性能を向上させる効果があることも示唆され、これにより、更に抗菌性能が向上するものと考えられる。
【0010】
<(A)変性ヒドロキシアルキルセルロース>
本発明の抗菌組成物は、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースを含み、該(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシアルキルセルロースに、カチオン性基及び炭素数4以上の炭化水素基を含む疎水性基が結合している。
【0011】
抗菌性能向上の観点から、前記ヒドロキシアルキルセルロースが有するヒドロキシアルキル基は、ヒドロキシエチル基及びヒドロキシプロピル基から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、ヒドロキシエチル基又はヒドロキシプロピル基のみであることがより好ましく、ヒドロキシエチル基のみであることが更に好ましい。
ヒドロキシアルキルセルロースは、抗菌性能向上の観点から、好ましくはヒドロキシエチルセルロース(以下、「HEC」ともいう)、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシブチルセルロースから選ばれる1種又は2種以上、より好ましくはHEC及びヒドロキシプロピルセルロースから選ばれる1種又は2種以上、更に好ましくはHECである。
本発明において、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、抗菌性能向上の観点から、好ましくは変性ヒドロキシエチルセルロース(以下、「M-HEC」ともいう)、変性ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、より好ましくはM-HEC、変性ヒドロキシプロピルセルロース、更に好ましくはM-HECである。
【0012】
ヒドロキシアルキルセルロースにおけるヒドロキシアルキル基の置換度は、溶解性向上の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは1.5以上、更に好ましくは2以上であり、そして、抗菌性能向上の観点から、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
本発明において、X基の置換度とは、X基のモル平均置換度であり、セルロースの構成単糖単位あたりのX基の置換数を意味する。例えば、「ヒドロキシエチル基の置換度」は、アンヒドログルコース単位1モルに対して導入された(結合している)ヒドロキシエチル基の平均モル数を意味する。
前記ヒドロキシアルキルセルロースが、ヒドロキシエチル基及びヒドロキシプロピル基の双方を有する場合には、ヒドロキシアルキル基の置換度は、ヒドロキシエチル基の置換度と、ヒドロキシプロピル基の置換度の合計である。
【0013】
(重量平均分子量)
本発明において、ヒドロキシアルキルセルロースの重量平均分子量は、抗菌性能向上の観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは1万以上、更に好ましくは10万以上、更に好ましくは13万以上であり、そして、組成物中での溶解性向上の観点から、好ましくは300万以下、より好ましくは150万以下、更に好ましくは120万以下である。
ヒドロキシアルキルセルロースとして、製品を入手して使用する場合には、製造社の公表値を使用してもよい。
【0014】
(カチオン性基)
本発明において、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、好ましくはヒドロキシアルキルセルロースの水酸基から水素原子を除いた基に、カチオン性基が結合している。前記水酸基は、セルロースに結合したヒドロキシアルキル基が有する水酸基と、セルロース骨格を形成するグルコースが有する水酸基(ヒドロキシアルキル基が結合していない水酸基)とを含む。
(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースが有するカチオン性基は、第4級アンモニウムカチオンを含むことが好ましく、以下の式(2-1)又は式(2-2)で表されることが好ましく、少なくとも式(2-1)で表される第4級アンモニウムカチオンを含むことがより好ましい。
【0015】
【化1】
(式(2-1)及び式(2-2)中、R
21~R
23はそれぞれ独立に、炭素数1以上3以下の炭化水素基を示し、X
1a-はアニオンを示し、tは0以上3以下の整数を示し、*はヒドロキシアルキルセルロースの水酸基から水素原子を除いた基との結合位置を示す。)
【0016】
R21~R23はそれぞれ独立に、炭素数1以上3以下の直鎖又は分岐の炭化水素基であることが好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、R21~R23の全てがメチル基又はエチル基であることが更に好ましく、R21~R23の全てがメチル基であることが更に好ましい。
tは、好ましくは1以上3以下の整数、より好ましくは1又は2、更に好ましくは1である。
X1a-は、第4級アンモニウムカチオンの対イオンであり、炭素数1以上3以下のアルキル硫酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、炭素数1以上3以下のカルボン酸イオン(ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン)、及びハロゲン化物イオンが例示される。
これらの中でも、製造の容易性及び原料入手容易性の観点から、X1a-は、好ましくはメチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、塩化物イオン、及び臭化物イオンから選択される1種以上であり、得られる(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースの水溶性及び化学的安定性の観点から、より好ましくは塩化物イオンである。
X1a-は1種単独であってもよく、2種以上であってもよい。
【0017】
式(2-1)又は式(2-2)で表される基は、カチオン性基の導入剤(以下、「カチオン化剤」ともいう)を使用することによって得ることができる。カチオン化剤としては、例えば、グリシジルトリアルキルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムクロリドが挙げられ、原料の入手の容易性及び化学的安定性の観点、並びにヒドロキシアルキルセルロースとの反応時に塩が副生しない観点から、グリシジルトリアルキルアンモニウムクロリドが好ましい。
これらのカチオン化剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明において、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースにおけるカチオン性基の置換度(以下、「MSC」ともいう)は、抗菌性能向上の観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.07以上であり、そして、好ましくは1以下、より好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.1以下である。
カチオン性基の導入量は、実施例に記載の方法により測定される。
【0019】
(疎水性基)
本発明において、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシアルキルセルロースに上述したカチオン性基、及び炭素数4以上の炭化水素基を含む疎水性基が結合している。
疎水性基が含有する炭化水素基は、抗菌性能向上の観点から、好ましくはアルキル基又はアルケニル基、より好ましくはアルキル基、更に好ましくは直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、更に好ましくは直鎖状のアルキル基である。
疎水性基が含有する炭化水素基の炭素数は、抗菌性能向上の観点から、4以上、好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、そして、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは18以下、更に好ましくは14以下である。
炭素数4以上の炭化水素基を含む疎水性基は、下記式(1)で表される基であることが好ましい。
【0020】
【化2】
(式(1)中、Zは単結合、又は酸素原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも1つを有する炭化水素基を示し、R
1は炭素数4以上の炭化水素基を示し、*はヒドロキシアルキルセルロースの水酸基から水素原子を除いた基との結合位置を示す。)
【0021】
R1の好ましい態様は、前述の疎水性基が含有する炭化水素基と同様である。
R1は、炭化水素基の炭素数が最大となるように定義される。従って、式(1)において、Z中のR1と結合する原子は、例えば酸素原子、窒素原子、カーボネート炭素、水酸基が結合している炭素原子、ヒドロキシアルキル基が結合している炭素原子等である。
【0022】
Zは、単結合又は酸素原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも1つを有する炭化水素基を表す。Zは、単結合又は少なくとも酸素原子を有する炭化水素基であることが好ましく、単結合又は酸素原子を有する炭化水素基であることがより好ましい。前記炭化水素基は、アルキレン基であることが好ましく、アルキレン基の中のメチレン基の一部がエーテル結合で置換されていてもよく、メチレン基の一部がカルボニル基(-C(=O)-)で置換されていてもよく、メチレン基の一部がアミド結合で置換されていてもよく、アルキレン基の一部の水素原子が、水酸基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基で置換されていてもよい。
Zが酸素原子を有する炭化水素基(以下、炭化水素基(Z)ともいう。)である場合、炭化水素基(Z)は、エポキシ基由来の基、オキシグリシジル基由来の基、又はカルボン酸(もしくはその無水物)由来の基を含むが好ましく、抗菌性能向上の観点から、オキシグリシジル基由来の基を含むことがより好ましい。
式(1)で表される基は、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースの製造時に塩の副生がなく、また、洗浄性能向上の観点から、下記式(1-1)及び式(1-1’)(以下、「式(1-1)~式(1-1’)」ともいう)のいずれかで表される基を含むことがより好ましく、少なくとも式(1-1)で表される基を含むことが更に好ましい。
【0023】
【化3】
(式(1-1)~式(1-1’)中、R
11はそれぞれ独立に、炭素数2~4のアルキレン基を示し、R
1は式(1)におけるR
1と同義であり、n1は-R
11-O-の付加モル数を示し、n1は0以上30以下の整数であり、*はヒドロキシアルキルセルロースの水酸基から水素原子を除いた基との結合位置を示す。)
【0024】
式(1-1)~式(1-1’)におけるR1の好ましい態様は、式(1)中のR1と同じである。式(1-1)~式(1-1’)からR1を除いた基は、炭化水素基Zの好ましい態様である。
R11はそれぞれ独立に、好ましくはエチレン基又はプロピレン基、より好ましくはエチレン基である。R11の炭素数は、好ましくは2以上3以下である。R11が複数存在する場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。n1は、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、更に好ましくは1以下であり、そして、0以上であってもよく、0であることが更に好ましい。
【0025】
式(1)で表される基が、式(1-1)で表される基及び式(1-1’)で表される基から選択される1又は2以上の基を含有する場合、-R11-O-の平均付加モル数は、抗菌性能向上の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、更に好ましくは1以下であり、そして、好ましくは0以上である。
【0026】
式(1-1)及び式(1-1’)は、グリシジル((ポリ)アルキレンオキシ)ヒドロカルビルエーテルに由来する基であり、Zがオキシグリシジル基又は(ポリ)アルキレンオキシグリシジル基由来の基である。式(1-1)又は式(1-1’)で表される基は、疎水性基の導入剤(以下、「疎水化剤」ともいう)として、グリシジル((ポリ)アルキレンオキシ)ヒドロカルビルエーテル、好ましくはグリシジル((ポリ)アルキレンオキシ)アルキルエーテル、より好ましくはグリシジルアルキルエーテルを使用することによって得られる。
式(1)で表される疎水性基の中で、式(1-1)で表される疎水性基、及び式(1-1’)で表される疎水性基の合計含有量は、好ましくは50mol%、より好ましくは80mol%以上、更に好ましくは90mol%以上であり、100mol%以下であり、100mol%であることが更に好ましい。
【0027】
本発明において、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースにおける疎水性基の置換度(以下、「MSR」ともいう)は、抗菌性能向上の観点から、好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.001以上、更に好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.015以上であり、そして、溶解性向上の観点から、好ましくは1以下、より好ましくは0.1以下、更に好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.03以下である。
【0028】
本発明において、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースの疎水性基の置換度(MSR)とカチオン性基の置換度(MSC)の比(MSR/MSC)は、抗菌性能向上の観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.1以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.5以下である。
【0029】
本発明において、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、疎水性基とカチオン性基とが互いに異なる側鎖上に結合していてもよく、一つの側鎖上に疎水性基及びカチオン性基を有してもよい。抗菌性能向上の観点から、疎水性基とカチオン性基とは、ヒドロキシアルキルセルロースの有する、異なる水酸基から水素原子を除いた基と結合していることが好ましい。すなわち、疎水性基及びカチオン性基が、ヒドロキシアルキルセルロースの異なる側鎖上に結合していることが好ましい。
【0030】
(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースが一つの側鎖上にカチオン性基及び疎水性基を有する場合、例えば、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、下記式(3-1)又は(3-2)で表される基を有することができる。
【0031】
【化4】
(式(3-1)及び式(3-2)中、R
31~R
33はそれぞれ独立に、炭素数1以上24以下の炭化水素基を示し、R
31~R
33のうち、少なくとも1つは炭素数4以上24以下の炭化水素基を示し、X
2a-はアニオンを示し、sは0以上3以下の整数を示し、*はヒドロキシアルキルセルロースの水酸基から水素原子を除いた基との結合位置を示す。)
【0032】
R31~R33のうち、少なくとも1つは、炭素数4以上24以下の炭化水素基を示し、好ましくは直鎖状又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、より好ましくは直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、更に好ましくは直鎖状のアルキル基である。
前記炭素数4以上24以下の炭化水素基の炭素数は、R31~R33の少なくとも1つは、抗菌性能向上の観点から、好ましくは4以上であり、より好ましくは8以上、更に好ましくは12以上であり、そして、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは18以下、更に好ましくは14以下である。
R31~R33のうちの1つが炭素数4以上24以下の炭化水素基であり、2つが炭素数1~3の炭化水素基であることが好ましい。前記炭素数1~3の炭化水素基としては、メチル基又はエチル基がより好ましく、R31~R33の2つがメチル基又はエチル基であることがより好ましく、R31~R33の2つがメチル基であることが更に好ましい。
【0033】
sは、好ましくは1以上3以下の整数、より好ましくは1又は2、更に好ましくは1である。
X2a-は、第4級アンモニウムカチオンの対イオンである。具体的には、炭素数1以上3以下のアルキル硫酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、炭素数1以上3以下のカルボン酸イオン(ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン)、及び塩化物イオン等のハロゲン化物イオンが例示される。
これらの中でも、製造の容易性及び原料入手容易性の観点から、X2a-は、好ましくはハロゲン化物イオンから選択される1種以上であり、得られる(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースの水溶性及び化学的安定性の観点から、より好ましくは塩化物イオンである。
X2a-は1種単独であってもよく、2種以上であってもよい。
【0034】
式(3-1)又は式(3-2)で表される基を有する(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、例えば、後述の(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースの製造工程において、カチオン性基及び疎水性基の導入剤を作用させることによって得ることができる。前記導入剤としては、グリシジルジメチルラウリルアンモニウムクロリド、及びグリシジルジエチルラウリルアンモニウムクロリドが好ましく挙げられる。
前記導入剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
本発明において、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、アニオン性基を有していてもよい。(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースにおけるアニオン性基の置換度(以下、「MSA」ともいう)とカチオン性基の置換度の比(MSA/MSC)は、抗菌性能向上の観点から、例えば、3以下である。
MSAは、抗菌性能向上の観点から、例えば、0.01未満である。
(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースがアニオン性基を有する場合、該アニオン性基としては、カルボキシメチル基等が例示される。
カルボキシメチル基の導入反応(カルボキシメチル化反応)は、ヒドロキシアルキルセルロースに塩基性化合物の存在下、モノハロゲン化酢酸及び/又はその金属塩を反応させることにより行われる。
【0036】
本発明において、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、置換基としてグリセロール基を有していてもよい。グリセロール基の置換度は、抗菌性能向上の観点から、例えば、0.5未満である。
グリセロール基を有する(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、例えば、後述の(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースの製造工程において、グリセロール化剤を作用させることによって得られる。該グリセロール化剤としては、グリシドール、3-クロロ-1,2-プロパンジオール、3-ブロモ-1,2-プロパンジオール、グリセリン、グリセリンカーボネート等が挙げられる。
【0037】
<(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法>
本発明において、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシアルキルセルロースに対し、カチオン化剤及び疎水化剤から選ばれる1種以上と反応させて、カチオン性基及び疎水性基を導入して得ることが好ましい。
ヒドロキシアルキルセルロースに対する、カチオン性基の導入反応(以下、「カチオン化反応」ともいう)及び疎水性基の導入反応(以下、「疎水化反応」ともいう)は、いずれも塩基性化合物の共存下で行うことが好ましい。導入反応の反応速度の観点から、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましい。
前記反応は、反応性の観点から、非水溶剤の存在下で行ってもよい。前記非水溶剤としては、2-プロパノール等の極性溶剤が挙げられる。
反応後は、酸を用いて塩基性化合物を中和することができる。酸としては、例えばリン酸等の無機酸、酢酸等の有機酸が挙げられる。
得られた(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、必要に応じて、濾過、洗浄等により精製してもよい。
【0038】
<(B)抗菌剤>
本発明の抗菌組成物は、(B)抗菌剤を含有する。
(B)抗菌剤とは、抗菌作用のある物質を意味し、抗菌作用とは、滅菌作用、殺菌作用、消毒作用、静菌作用、制菌作用、除菌作用、防腐作用、防菌作用、防カビ作用などの全ての作用を含む。(B)抗菌剤としては、例えば、殺菌剤、抗菌剤、防カビ剤、抗カビ剤、防腐剤、消臭剤、殺虫剤等として作用するものが挙げられ、中でも、殺菌剤、抗菌剤、防カビ剤、抗カビ剤等の微生物制御剤や消臭剤を好適に用いることができる。(B)抗菌剤としては、上記の作用を有する公知の化合物を適宜選択して使用すればよい。
公知の抗菌剤としては、例えば、有機合成系抗菌剤、天然物系抗菌剤、無機物系抗菌剤などが挙げられる。
これらの抗菌剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
(有機合成系抗菌剤)
有機合成系抗菌剤としては、ビグアナイド系抗菌剤、カルバニリド系抗菌剤、界面活性剤系抗菌剤(両性界面活性剤系抗菌剤、第4級アンモニウム塩系抗菌剤)、カルボン酸系抗菌剤、アルコール系抗菌剤、フェノール系抗菌剤、アミノ酸系抗菌剤、スルフィド系抗菌剤、ピリジン系抗菌剤、ニトリル系抗菌剤、ポリマー系抗菌剤等が例示される。
ビグアナイド系抗菌剤としては、クロルヘキシジンジグルコネート(CHG)、クロルヘキシジンジアセテート、クロルヘキシジンジヒドロクロリド、クロルヘキシジンジホスファニレート、ポリ(ヘキサメチレンビグアナイド)塩酸塩(PHMB)、クロルヘキシジン・2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合物、等が例示される。
カルバニリド系抗菌剤としては、トリクロカルバン、フェニルアミド系化合物が例示される。
【0040】
両性界面活性剤系抗菌剤としては、アルキルアミドプロピルジメチルβ-ヒドロキシエチルアンモニウム塩、ポリ[オキシエチレン(ジメチルアミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンクロライド]が例示される。
第4級アンモニウム塩系抗菌剤としては、第4級窒素原子の置換基として、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~16のアルキル基、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~16のアルケニル基、炭素数1~16のヒドロキシアルキル基又は炭素数1~16のフェニルアルキル基を有する第4級アンモニウム塩が好ましく、例えば、塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;塩化セチルピリジニウム;有機シリコーン第4アンモニウム塩(例えば、3-(メトキシシリル)プロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド);N-ポリオキシアルキレン-N,N,N-トリアルキルアンモニウム塩;N-アルキルアンモニウム塩、N,N-ジアルキルアンモニウム塩、N,N,N-トリアルキルアンモニウム塩、N,N,N,N-テトラアルキル第4アンモニウム塩等(例えば、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、トリドデシルメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド);クロロアリルヘキサミニウムクロリド;リン酸エステルモノマーの共重合体の第4級アンモニウム塩化合物;ジシアンアミド・ジエチレントリアミン・塩化アンモニウム縮合物、ジシアンジアミド・ポリアルキレン ポリアミンアンモニウム重縮合物、カチオンポリマー((ポリ-β-1,4)-N-アセチル-D-グルコサミンの部分脱アセチル化合物とヘキサメチレンビス(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)との反応生成物)が例示される。
なお、上記第4アンモニウム塩は、塩化物等のハロゲン化物であってもよく、カルボン酸塩であってもよく、ジアルキルリン酸塩であってもよい。
【0041】
カルボン酸系抗菌剤としては、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸と硫酸亜鉛の配合物、ナリジクス酸(1-エチル-1,4-ジハイドロ-7-メチル-4-オキソ-1,8-ナフチリジン-3-カルボン酸)が例示される。
アルコール系抗菌剤としては、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、フェネチルアルコール、3-フェニルプロパノールが例示される。
フェノール系抗菌剤は、芳香族炭化水素核の水素原子の1つ以上がヒドロキシ基で置換された構造を有する抗菌剤であり、例えば、5-クロロ-2-(2,4-ジクロロフェノキシ)フェノール(慣用名:トリクロサン)、4,4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル(慣用名:ダイクロサン)、o-ベンジル-p-クロロフェノール(クロロフェン)、イソプロピルメチルフェノール(3-メチル-4-イソプロピルフェノール、IPMP)、パラクロロメタキシレノール(4-クロロ-3,5-ジメチルフェノール、PCMX)などが挙げられる。
【0042】
アミノ酸系抗菌剤としては、N-アルキロイル-L-グルタミン酸銀鋼などが例示され、スルフィド系抗菌剤としては、N,N-ジメチル-N’-(フルオロジクロロメチルチオ)-N”-フェニルスルフィドが例示される。
ピリジン系抗菌剤としては、ジンクピリチオン、亜鉛ピリチオンが例示される。
ニトリル系抗菌剤としては、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリルが例示される。
ポリマー系抗菌剤としては、アクリロニトリル・アクリル酸共重合物鋼架橋物、アクリロニトリル硫化銅複合体、アクリルアミド-ジアリルアミン塩酸塩共重合体、メタクリレート共重合体、フッ素系ポリマー、ポリエステル系ポリマーが例示される。
【0043】
(天然物系抗菌剤)
天然物系抗菌剤としては、動物由来及び魚由来の天然系抗菌剤である、キチン、キトサン、プロポリス、プロタミン、リゾチームなどの抗菌剤;微生物由来の天然系抗菌剤であるアミノ配糖体化合物、ポリリジン、バクテリオシンなどの抗菌剤;植物由来の天然系抗菌剤である、ヒノキチオール(2-ヒドロキシ-4-イソプロピルシクロヘプタ-2,4,6-トリエン-1-オン)、ヨモギエキス(抗菌成分:シネオール、α-ツヨン)、アロエエキス(抗菌成分:アロエチン)、シソの葉エキス(抗菌成分:ベリラアルデヒド)、ワサビ抽出物(抗菌成分:アリルイソチオシアネート)、ドクダミエキス(抗菌成分:デカノイルアルデヒド)、甘草抽出物(抗菌成分:グリチルリチンサンジカリウム)、茶(ツバキ科茶)抽出物(抗菌成分:ポリフェノール類)、孟宗竹抽出物(抗菌成分:硫黄塩)、タイム(タチジャコウソウ)抽出物(抗菌成分:チモール(6-イソプロピル-3-メチルフェノール));焼成貝殻(抗菌成分:酸化カルシウム焼成物)などが挙げられる。
【0044】
(無機物系抗菌剤)
無機物系抗菌剤としては、金属系の無機物系抗菌剤、光触媒系の無機物系抗菌剤、酸化物/天然物系の無機系抗菌剤が例示される。
金属系の無機物系抗菌剤としては、ゼオライト、粘土鉱物、シリカゲル、シリカ/アルミナ、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ガラス等のケイ酸塩系;リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウム(アパタイト)等のリン酸塩系;活性炭、酸化チタン、錯塩等のその他の金属系が例示される。
また、光触媒系としては、アナターゼ型酸化チタン、白金担持酸化チタン、アパタイトコート酸化チタン、窒素ドープ酸化チタン等の酸化チタン;銀担持リン酸ジルコニウム、銀担持アクリル繊維等のその他の光触媒系が例示される。
酸化物/天然物系としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、焼成ホタテ貝殻、焼成カキ殻、天然鉱物(ドロマイト、カルサイト)等が例示される。
【0045】
これらの中でも、(B)抗菌剤は、本発明の抗菌剤の抗菌効果を得る観点から、好ましくはアルコール系抗菌剤、フェノール系抗菌剤、ビグアニド系抗菌剤、第4級アンモニウム塩系抗菌剤、及び天然物系抗菌剤よりなる群から選択される1種又は2種以上、より好ましくは、フェノール系抗菌剤及び天然物系抗菌剤よりなる群から選択される1種又は2種以上、更に好ましくはフェノール系抗菌剤及び微生物由来の天然物系抗菌剤から選択される1種又は2種以上、更に好ましくはイソプロピルメチルフェノール、ダイクロサン及びポリリジンから選択される1種又は2種以上、更に好ましくはダイクロサン及びポリリジンから選択される1種又は2種以上である。
【0046】
本発明において、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースは、(B)抗菌剤が有する抗菌活性自体を向上させることで、特に、効果を発揮すると考えられる。
本発明の抗菌組成物を衣料用洗浄剤等の、処理後に対象物を濯ぐ処理を行う組成物として使用する場合には、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースによって、(B)抗菌剤が有する抗菌活性自体を向上させる観点から、疎水的である抗菌剤であることが好ましく、オクタノール/水分配係数(logP)が、好ましくは0.1以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは3以上、更に好ましくは4以上である。logP値の上限は特に限定されないが、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは7以下である。
ここで、化合物の構造からlogP値を予測する各種のソフトウェアが開発されており、本発明において、Chem Draw Professional 17.1を用いて算出された値をlogP値として採用する。
(B)抗菌剤のlogP値の例を以下に挙げる。化合物名の後の括弧内は、logP値である。
ヒノキチオール(0.59)、ベンジルアルコール(1.46)、PCMX(3.18)、チモール(3.37)、IPMP(3.37)、ダイクロサン(4.3)、N-テトラデシル-N,N-ジメチル-N-エチルアンモニウムエチルサルフェイト(7.00)、ポリリジン(6.00)。
【0047】
<抗菌組成物の組成>
本発明の抗菌組成物は、少なくとも(A)変性ヒドロキシアルキルセルロース及び(B)抗菌剤を含有する。
本発明の抗菌組成物において、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースと(B)抗菌剤との質量比((A)/(B))は、抗菌性能向上の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.7以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。
【0048】
本発明の抗菌組成物における(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースの含有量は、抗菌性能向上の観点から、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上、更に好ましくは1ppm以上、更に好ましくは10ppm以上、更に好ましくは100ppm以上、更に好ましくは1000ppm以上であり、そして、好ましくは100000ppm以下、より好ましくは50000ppm以下、更に好ましくは30000ppm以下である。
【0049】
本発明の組成物は、前記成分に加え、必要に応じて他の成分を含有していてもよい。本発明の抗菌組成物を、繊維製品用洗浄剤として使用する場合、水、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、有機溶剤、香料、pH調整剤等を含有してもよく、安定性の観点から、好ましくは水、ノニオン性界面活性剤、及びアニオン性界面活性剤を含有する。
ここで、アニオン性界面活性剤は、一般的には(B)抗菌剤の抗菌活性を抑制する傾向にあるが、本発明の抗菌組成物は、アニオン性界面活性剤を含有しても、優れた抗菌性能を有する。本発明において、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤を併用することがより好ましい。
【0050】
(アニオン性界面活性剤)
アニオン性界面活性剤としては、界面活性剤の疎水基、好ましくはアルキル基の1級炭素原子又はフェニル基にアニオン性基が結合した末端アニオン性界面活性剤、及び疎水基、好ましくはアルキル基の2級炭素原子にアニオン性基が結合した内部アニオン性界面活性剤が挙げられる。
末端アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩(AS)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩(AES)、α-スルホ脂肪酸エステル塩、及び脂肪酸塩から選ばれる1種以上のアニオン性界面活性剤が挙げられる。
内部アニオン性界面活性剤としては、特開2015-028123の段落0011に記載の、内部オレフィンスルホン酸塩のオレフィン体(IOS)及びヒドロキシ体(HAS)が挙げられる。
洗浄性能向上の観点から、これらの中でも、LAS、AS、AES、IOS、及びHASから選ばれる1種以上のアニオン性界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤のアルキル基の炭素数は、好ましくは12以上、より好ましくは14以上であり、そして、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、より好ましくは18以下である。
アニオン性界面活性剤の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩が好ましい。
アニオン性界面活性剤は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
(ノニオン性界面活性剤)
ノニオン性界面活性剤としては、アルキル基等の疎水基と、ポリオキシエチレン基等の非イオン性の親水基とを有するものが挙げられる。前記疎水基としては、洗浄性能向上の観点から、好ましくは炭化水素基、より好ましくはアルキル基である。前記疎水基の炭素数は、洗浄性能向上の点から、前記疎水基の炭素数は、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上、そして、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下である。
【0052】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン基を有するノニオン性界面活性剤、アルキルポリグリコシド、アルキルグリセリルエーテル、モノアルカノールアミド、ジアルカノールアミド等の脂肪族アルカノールアミドなどが挙げられる。これらの中でも、洗浄性能向上の観点から、ポリオキシアルキレン基を有するノニオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマーから選ばれる1種以上がより好ましく、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースの水への分散性に優れる点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが更に好ましい。
洗浄性能向上の観点から、オキシアルキレン基としては、好ましくはオキシエチレン基、オキシプロピレン基及びオキシエチレン・オキシプロピレン基から選ばれる1種又は2種以上である。
洗浄性能向上の観点から、オキシアルキレン基の平均付加モル数は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上であり、そして、好ましくは40以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは25以下である。
ノニオン性界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
本発明の組成物中の界面活性剤の総含有量は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
界面活性剤として、アニオン性界面活性剤及び非ノニオン性界面活性剤を併用する場合、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤との含有量の質量比(アニオン性界面活性剤/ノニオン性界面活性剤)は、抗菌性能向上の観点から、好ましくは5/95以上、より好ましくは20/80以上、更に好ましくは40/60以上、更に好ましくは50/50以上であり、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは70/30以下、更に好ましくは60/40以下である。
【0054】
<用途>
本発明の抗菌組成物は、抗菌性能が求められる、種々の用途に使用可能であり、特に限定されない。
具体的には、農業用途、化粧品、医薬部外品、医薬品、ハウスホールド製品等に配合又は使用でき、例えば、植物病害防除剤、土壌病害防除剤、種子消毒剤、ポストハーベスト剤等の農業用途、口紅、乳液、保湿パック、美容液、化粧水等の化粧品:液剤、ゲル剤、クリーム剤、パップ剤、エアゾール剤、ローション剤等の皮膚外用剤:洗顔料、メイク落とし、ボディシャンプー、ハンドソープ等の皮膚洗浄剤、シェービングフォーム、シャンプー等の毛髪洗浄剤、ボディデオドラント剤等のトイレタリー用品:歯磨剤、洗口剤、口中清涼剤、義歯用品等のオーラルケア用品:台所用洗剤、衣類洗浄剤や柔軟剤、トイレ洗浄剤等の洗浄剤:殺虫剤、防虫剤、除湿剤、除菌剤、抗菌剤、消臭剤、芳香剤等の家庭用化学製品に配合することができる。また、紙製品、生理用品、紙おむつ、医療品等の衛生用品等には、例えば紙おむつ等に本発明の組成物を吹き付けることやシート状の紙・不職布製品に本発明の組成物を含む洗浄剤等を含浸することで使用できる。また、コンタクトレンズ洗浄・保存剤等に配合できる。
また、上記化粧品等の他、保存剤、防腐剤、抗菌剤や抗菌剤等として飲食品に配合することができる。
【0055】
これらの中でも、本発明の抗菌組成物は、衣料用洗浄剤組成物である場合、好ましくは使用時には水等の溶剤で希釈される。本発明の抗菌組成物は、その用途によって、使用時に希釈されてもよい。また、衣料用洗浄剤組成物に、別途添加して、消臭効果を付与してもよい。
本発明において、抗菌組成物を衣料用洗浄剤組成物として使用する場合、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースの水溶液中の濃度、すなわち、衣類等の対象物に対して処理する際の水溶液中の(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースの濃度が、抗菌効果を得る観点から、好ましくは0.01mg/L以上、より好ましくは0.1mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上であり、そして、経済性の観点から、好ましくは10,000mg/L以下、より好ましくは1,000mg/L以下、更に好ましくは100mg/L以下である。
【実施例】
【0056】
実施例及び比較例で使用した測定方法は以下の通りである。
[置換度(モル平均置換度(MS))の測定]
・前処理
粉末状の変性ヒドロキシアルキルセルロース1gを100gの脱イオン水に溶かした後、水溶液を透析膜(スペクトラポア社製、分画分子量1,000)に入れ、2日間透析を行った。得られた水溶液を、凍結乾燥機(eyela社製,FDU1100)を用いて凍結乾燥することで精製した変性ヒドロキシアルキルセルロースを得た。
【0057】
<ケルダール法によるカチオン性基質量の算出>
精製した変性ヒドロキシアルキルセルロースの200mgを精秤し、硫酸10mLとケルダール錠(Merck社製)1錠を加え、ケルダール分解装置(BUCHI社製、K-432)にて加熱分解を行った。分解終了後、サンプルに脱イオン水30mLを加え、自動ケルダール蒸留装置(BUCHI社製、K-370)を用いてサンプルの窒素含量(質量%)を求めることで、カチオン性基の質量を算出した。
【0058】
<Zeisel法による疎水性基(炭化水素基)質量の算出>
以下に、実施例1(炭化水素基の導入剤として、ラウリルグリシジルエーテルを使用)の場合を例に、炭化水素基質量の算出方法を説明する。なお、他の導入剤を使用した場合も、検量線用の試料(ヨードアルカンや炭化水素基の導入剤など)を適宜選択することによって測定可能である。
精製したセルロース誘導体200mg、アジピン酸220mgを10mLバイアル(マイティーバイアルNo.3)に精秤し、内標溶液(テトラデカン/o-キシレン=1/25(v/v)) 3mL及びヨウ化水素酸3mLを加えて密栓した。また、セルロース誘導体の代わりに1-ヨードドデカンを2、4、又は9mg加えた検量線用の試料を調製した。各試料をスターラーチップにより撹拌しながら、ブロックヒーター(PIERCE社製、Reacti-Therm III Heating/Stirring module)を用いて160℃、2時間の条件で加熱した。試料を放冷した後、上層(o-キシレン層)を回収し、ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、GC-2010 plus)にて、1-ヨードドデカン量を分析した。
【0059】
・GC分析条件
カラム:Agilent HP-1(長さ:30m、液相膜厚:0.25μL、内径:32mm)(アジレント・テクノロジー社製)
スプリット比:20
カラム温度:100℃(2min)→10℃/min→300℃(15min)
インジェクター温度:300℃
検出器:FID
検出器温度:330℃
打ち込み量:2μL
GCにより得られた1-ヨードドデカンの検出量から、サンプル中のアルキル基の質量を求めた。
【0060】
<ヒドロキシアルキル基質量の測定>
ヒドロキシアルキル基由来のヨウ化アルキルを定量することで、前述のアルキル基質量の測定と同様にして行った。
【0061】
<カチオン性基、疎水性基、及びヒドロキシアルキル基の置換度(モル平均置換度)の算出>
上述のカチオン性基と疎水性基(炭化水素基)の質量及び全サンプル質量からHEC骨格の質量を計算し、それぞれ物質量(mol)に変換することで、カチオン性基の置換度(MSC)、及び疎水性基であるアルキル基の置換度(MSR)を算出した。
【0062】
[布帛処理組成物の組成]
表1及び表2に示す配合組成にて、本発明の組成物を調製した。各配合量は、固形分換算(有効成分量)である。組成物の合計が100質量部となるように、脱イオン水を配合した。使用した各成分は、以下の通りである。
【0063】
(A)多糖誘導体
・M-HEC1
合成例1:M-HEC1の合成
Natrosol 250 JR 90gを1Lセパラフラスコに入れ、窒素フローを行った。IPA 414.5g、脱イオン水77.2gを加え、5分間撹拌した後、48質量%水酸化ナトリウム水溶液10.9gを加え、更に15分間撹拌した。
次に、LA-EP 5.4gを加え、80℃で13時間疎水化反応を行った。更にGMAC 12gを加え、50℃で1.5時間カチオン化反応を行った。その後、90質量%酢酸水溶液10.9gを加え、30分撹拌することで中和反応を行った。
次に精製工程として、以下の操作を行った。
得られた懸濁液を500mLの遠沈管2本に均等に移し替え、高速冷却遠心機(日立工機社製、CR21G III)を用いて1,500Gで40秒遠心分離を行った。上澄みをデカンテーションにより取り除き、取り除いた上澄みと同量の85質量%IPA水溶液を加え、再分散を行った。再度、遠心分離と再分散の操作を繰り返し、3回目の遠心分離を行った後に沈殿物を取り出した。得られた沈殿物を真空乾燥機(アドバンテック社製、VR-420)を用いて80℃で12時間以上減圧乾燥し、エクストリームミル(ワーリング社製、MX-1200XTM)により解砕することで、粉末状の(A)変性ヒドロキシエチルセルロース(M-HEC1)を得た。
得られたM-HEC1のカチオン性基の置換度(MSC)は、0.085であり、疎水性基の置換度(MSR)は0.027であった。
【0064】
・M-HEC2
合成例2:M-HEC2の合成
Natrosol 250 JRをNastrosol 250 MRに変え、LA-EP 3.6g、GMAC 11gに変えた以外は合成例1と同様の操作を行い、粉末状の(A)変性ヒドロキシエチルセルロース(M-HEC2)を得た。得られたM-HEC2のカチオン性基の置換度(MSC)は、0.079であり、疎水性基の置換度(MSR)は0.018であった。
【0065】
・M-HEC3
合成例3:M-HEC3の合成
Natrosol 250 JRをNastrosol 250 HRに変え、LA-EP 3.6g、GMAC 12gに変えた以外は合成例1と同様の操作を行い、粉末状の(A)変性ヒドロキシエチルセルロース(M-HEC3)を得た。得られたM-HEC3のカチオン性基の置換度(MSC)は、0.085であり、疎水性基の置換度(MSR)は0.018であった。
【0066】
・C-HEC
合成例4:C-HECの合成
Natrosol 250 JRをNastrosol 250 GRに変え、LA-EPを加えて80℃で13時間疎水化反応する工程を行わずに、GMAC 6.9gに変えた以外は合成例1と同様の操作を行い、粉末状の変性ヒドロキシエチルセルロース(C-HEC)を得た。得られたC-HECのカチオン性基の置換度(MSC)は、0.050であった。
【0067】
・SL-60
SoftCATTM SL Polymer SL-60(ダウ・ケミカル社製、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基から水素原子を除いた基に、式(3-1)で表される基が結合しており、s=1、R31=C12H25、R32=R33=CH3、X-が塩化物イオンである化合物)
【0068】
なお、上記の合成例で使用した成分は、以下の通りである。
・Natrosol 250 JR:HEC(ヒドロキシエチルセルロース、重量平均分子量:15万、ヒドロキシエチル基の置換度:2.5、Ashland社製)
・Natrosol 250 MR:HEC(ヒドロキシエチルセルロース、重量平均分子量72万、ヒドロキシエチル基の置換度=2.5、Ashland社製)
・Natrosol 250 HR:HEC(ヒドロキシエチルセルロース、重量平均分子量:100万、ヒドロキシエチル基の置換度:2.5、Ashland社製)
・Natrosol 250 GR:HEC(ヒドロキシエチルセルロース、重量平均分子量:30万、ヒドロキシエチル基の置換度:2.5、Ashland社製)
・LA-EP:ラウリルグリシジルエーテル、四日市合成社製
・GMAC:グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、阪本薬品工業社製「SY-GTA80」
・IPA:イソプロピルアルコール
【0069】
<(B)抗菌剤>
・ダイクロサン:BASF社製、TINOSAN HP100
・ポリリジン:JNC社製、ポリリジン
【0070】
<界面活性剤>
・EPE:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル
【0071】
・C16IOS(IOS)
撹拌装置付きフラスコに1-ヘキサデカノール(花王社製、カルコール6098)7000g、触媒としてγ-アルミナ(Strem Chemicals, Inc.)700gとを仕込み、撹拌下、280℃にて、系内に窒素(7000mL/分)を流通させながら3時間以上反応を行い、C16内部オレフィン純度99.6%の粗内部オレフィンを得た。前記粗内部オレフィンを、136~160℃、4.0mmHgで蒸留することで、オレフィン純度100%の炭素数16の内部オレフィンを得た。得られた内部オレフィンの二重結合分布は、C1位2.3%、C2位23.6%、C3位18.9%、C4位17.6%、C5位13.6%、C6位11.4%、C7位、8位の合計が7.4%であった。
前記内部オレフィンを、薄膜式スルホン化反応器に入れ、反応器外部ジャケットに20℃の冷却水を通液する条件下で、SO3ガスを用いてスルホン化反応を行った。反応モル比(SO3/内部オレフィン)は1.005に設定した。得られたスルホン化物を、理論酸価に対し1.05モル倍に相当する水酸化カリウム水溶液と混合し、30℃で1時間中和した。中和物をオートクレーブ中で170℃、1時間加熱することで加水分解を行い、対スルホン化物1.0質量%の過酸化水素水で脱色し、対スルホン化物0.15質量%の亜硫酸ナトリウムで還元することで、炭素数16の内部オレフィンスルホン酸カリウム(C16IOS)を得た。
C16IOSにおけるヒドロキシ体とオレフィン体との質量比(HAS/IOS)は84/16であった。C16IOSの固形分中の原料内部オレフィンの含有量は0.5質量%、無機化合物は1.2質量%であった。
【0072】
実施例1~3、参考例4、比較例1~7
(1)試験布の調製(累積2回)
操作はクリーンベンチ内で行い、器具は無菌処理品を使用した。100mLのサンプル瓶に表1に示す組成の抗菌組成物0.05mL、硬度が4°dHである水49.95mL、及び6cm×6cmの正方形にカットした木綿布(木綿平織り布、染色試材社製)5枚(合計2g)を投入した。往復振とう機(TITEC社製、STRONG SHAKER SA-2DW)を用い、20℃にて300r/minで10分間振とうして木綿布の処理を行った。次いで、脱水を行った後、100mLのサンプル瓶に得られた木綿布、及び4°dH水100mLを投入した。往復振とう機を用い、室温にて300r/minで3分間振とうして濯ぎを行い、脱水した。得られた木綿布、及び表1に示す組成の抗菌組成物を再び100mLのサンプル瓶に投入して、上記と同様に振とうして木綿布の処理、脱水、濯ぎ、脱水操作を行った。次いで、1時間自然乾燥して試験用の布帛(試験布)を得た。
【0073】
(2)試験菌液の調製
SCDLP寒天培地(富士フイルム和光純薬社製)にモラクセラ・エスピー4-1株(分離株)を供試細菌として塗抹し、37℃で24時間静置培養を行った。培養後の菌体を生理食塩水に浮遊させ、遠心分離(8000×g、10分)にかけて上清を取り除いた後、生理食塩水5mLに懸濁し、再度遠心分離(8000×g、10分)にかけて上清を取り除き、生理食塩水を用いてOD600=1.0(約108CFU/mL)となるようにして微生物液を調製した。
【0074】
(3)試験布への菌液接触
(1)で用意した試験布の断片1枚あたり(2)で用意した微生物液200μLを植菌し、37℃、18時間静置した。
【0075】
(4)菌濃度の測定
(3)で得られた試験布に15mLのLP希釈液(日本製薬社製)を加えて菌を抽出した。試験液をLP希釈液を用いて段階希釈し、SCDLP寒天培地にて混釈後、37℃にて24時間の静置培養を行った。培地上に現れたコロニー数を計測し、コロニー数の常用対数値を算出した。この値を「常用対数値(試験液)」とした。上記(1)において、抗菌組成物の代わりに硬度4°dHの水のみを用いて同様に処理した試験布を用いて、同様に微生物液の植菌、培養、抽出、希釈及び培養を行って、培地上に現れたコロニー数を計測し、コロニー数の常用対数値を算出した。この値を「常用対数値(ブランク)」とした。「常用対数値(ブランク)」とそれぞれの実施例(又は参考例、比較例)における「常用対数値(試験液)」との差を、それぞれの実施例(又は参考例、比較例)における静菌活性値とした。静菌活性値の値が大きいほどその抗菌組成物の抗菌効果が高いことを意味する。
結果を以下の表1に示す。
【0076】
実施例5~6、比較例8~11
(1)試験布の調製(累積なし)
操作はクリーンベンチ内で行い、器具は無菌処理品を使用した。100mLのサンプル瓶に表2に示す組成の抗菌組成物0.05mL、硬度が4°dHである水49.95mL、及び6cm×6cmの正方形にカットした木綿布(木綿平織り布、染色試材社製)6枚を投入した。往復振とう機(TITEC社、STRONG SHAKER SA-2DW)を用い、20℃にて300r/minで10分間振とうして木綿布の処理を行った。次いで、脱水を行った後、100mLのサンプル瓶に得られた木綿布、及び4°dH水100mLを投入した。往復振とう機を用い、室温にて300r/minで3分間振とうして濯ぎを行い、脱水した。次いで、1時間自然乾燥して試験用の布帛(試験布)を得た。以降の操作は実施例1~3、参考例4と同様におこなった。
結果を以下の表2に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
表1及び表2から明らかなように、本発明の抗菌組成物の処理により、優れた抗菌性が得られることが明らかとなった。比較例6に示すように、ダイクロサン単独では、抗菌活性が得られない処理濃度であっても、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースと共に使用することによって、優れた抗菌性を示すことが明らかとなった(実施例1~3、参考例4)。同様に、比較例9及び10に示すように、ダイクロサン、ポリリジン単独では抗菌活性が得られない処理濃度であっても、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロースと共に使用することによって、優れた抗菌性を示すことが明らかとなった(実施例5及び6)。
また、比較例2~5、比較例8に示されるように、(A)変性ヒドロキシアルキルセルロース単独では、抗菌性を示さなかった。更に、比較例1に示すように、カチオン性基のみを有する変性ヒドロキシアルキルセルロースでは、抗菌性能の向上効果は認められなかった。
【0080】
実施例7
本発明の抗菌組成物を処理した布帛と、抗菌剤のみを処理した布帛とにおいて、布帛への(B)抗菌剤の吸着量、及び抗菌活性について検討した。
ダイクロサンの添加量を変化させて、実施例1と同様にして、試験布を調製した。その後、同様に試験菌液の調製、試験布への菌液接触を行い、生菌数(菌濃度)を測定した(上記実施例1における(1)~(4)を行った)。
更に、以下に示す方法で試験布へのダイクロサンの吸着量を定量した。
(5)試験布へのダイクロサンの吸着量の測定
サンプル瓶に処理した布帛1枚(0.4g)とメタノール40mLを入れ、超音波処理を20分間行った。その後、抽出液を希釈してLC-MS(LCMS-2020、島津製作所社製)にて分析した。
・LC-MS分析条件
検出器:MS:m/z(-)=253
カラム:L-column ODS φ2.1mm×150mm(化学物質評価研究機構製)
カラム温度:40℃
サンプル注入量:5μL
溶離液A:10mM 酢酸アンモニウム水溶液、溶離液B:10mM 酢酸アンモニウムメタノール溶液
グラジエント:B%(min) 40(0)-100(20)-100(35)-40(40)-40(70)、流量:0.25mL/min
結果を
図1に示す。
【0081】
図1から明らかなように、本発明の抗菌組成物は、同程度の抗菌剤の付着量であっても、高い抗菌活性を示し、(B)抗菌剤の有する抗菌活性自体を増強する効果があることが示された。
【0082】
実施例8、比較例12~14
(1)試験液の菌液接触
マイクロプレートのウェルに表3に示す組成の抗菌組成物0.2μL、硬度が4°dHである水199.8μLを添加した。そこに、前記と同様に調製した菌液2μLを添加した。マイクロプレートミキサーにて25℃で150r/minで20時間撹拌した。
(2)菌濃度の測定
(1)で得られた試験液を、LP希釈液を用いて段階希釈し、SCDLP寒天培地にて混釈後、37℃にて24時間の静置培養を行った。培地上に現れたコロニー数を計測し、コロニー数の常用対数値を算出した。この値を「常用対数値(試験液)」とした。上記(1)において、抗菌組成物の代わりに硬度4°dHの水のみを用いて同様に微生物液の植菌、培養、接触、希釈及び培養を行って、培地上に現れたコロニー数を計測し、コロニー数の常用対数値を算出した。この値を「常用対数値(ブランク)」とした。「常用対数値(ブランク)」と「常用対数値(試験液)」との差を、それぞれの実施例又は比較例における静菌活性値とした。静菌活性値の値が大きいほどその抗菌組成物の抗菌効果が高いことを意味する。
結果を以下の表3に示す。
【0083】
【0084】
表3の結果から、本発明の抗菌組成物は、界面活性剤の存在なしに、抗菌性能を向上させることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の抗菌組成物によれば、衣類等の対象物に処理することで、抗菌性能を向上させることができる。本発明の抗菌組成物は、衣料用洗浄剤組成物又はその成分として使用することが好適である。本発明の抗菌組成物は、(B)抗菌剤の有する抗菌活性を増強させるため、結果として、(B)抗菌剤の使用量を削減することができると期待される。