(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】ランキンサイクルシステムの運転方法および廃熱回収装置
(51)【国際特許分類】
F01K 23/06 20060101AFI20230817BHJP
F01P 3/20 20060101ALI20230817BHJP
F01P 7/16 20060101ALI20230817BHJP
F01P 3/12 20060101ALI20230817BHJP
F02G 5/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
F01K23/06 P
F01P3/20 G
F01P3/20 E
F01P7/16 504D
F01P7/16 504C
F01P3/20 L
F01P3/12
F02G5/00 A
(21)【出願番号】P 2019117848
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 真一朗
(72)【発明者】
【氏名】永井 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】越島 将史
【審査官】落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-128254(JP,A)
【文献】特開2017-110551(JP,A)
【文献】特開2010-007570(JP,A)
【文献】国際公開第2013/011767(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0126783(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01K 23/00-27/02
F01P 1/00-11/20
F02G 1/00-5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気生成部と、
作動流体の流れの方向に、前記蒸気生成部の下流側に配置された凝縮器と、
を備えるランキンサイクルシステムの運転方法であって、
第1熱媒体の第1回路に、
内燃エンジンの冷却水通路を介して前記第1熱媒体を循環させる主流路と、
前記第1熱媒体を、前記冷却水通路を迂回して循環させる副流路と、を形成し、
前記副流路に、
前記内燃エンジンの廃熱を受容し、前記第1熱媒体をこの廃熱により加熱可能に受熱部を介装するとともに、
前記受熱部の下流側に、前記廃熱による加熱後の前記第1熱媒体により前記ランキンサイクルシステムの作動流体を蒸発させまたは蒸発後の前記作動流体をさらに昇温可能に前記蒸気生成部を介装し、
前記ランキンサイクルシステムの作動時は、前記内燃エンジンの暖機中であり、
前記ランキンサイクルシステムの作動時に、前記冷却水通路を介する前記第1熱媒体の流れを制限し、前記副流路において、前記主流路よりも相対的に大きな流量の前記第1熱媒体を循環させる、
ランキンサイクルシステムの運転方法。
【請求項2】
前記副流路は、前記主流路よりも一周の流路長が短い、
請求項
1に記載のランキンサイクルシステムの運転方法。
【請求項3】
前記ランキンサイクルシステムが、
前記第1回路とは独立に構成された第2熱媒体の第2回路をさらに備えるとともに、
前記第1回路に、前記冷却水通路を通じて加熱された前記第1熱媒体を冷却可能に介装された第1放熱器を、前記第2回路に、前記第2熱媒体を冷却可能に介装された、前記第1放熱器よりも冷却容量が小さい第2放熱器を、夫々備える、
請求項
1に記載のランキンサイクルシステムの運転方法。
【請求項4】
前記蒸気生成部が、
前記作動流体を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器で生じさせた前記作動流体の蒸気をさらに昇温させる加熱器と、
を含み、
前記副流路に、前記加熱器が介装された、
請求項
1に記載のランキンサイクルシステムの運転方法。
【請求項5】
蒸気生成部と、作動流体の流れの方向に、前記蒸気生成部の下流側に配置された凝縮器と、を備えるランキンサイクルシステムと、
第1熱媒体の第1回路であって、
前記第1熱媒体を循環させる流路として、内燃エンジンの冷却水通路を介する主流路と、前記冷却水通路を迂回して形成された副流路と、を有し、
前記副流路に、前記内燃エンジンの廃熱を受容し、前記第1熱媒体をこの廃熱により加熱可能に構成された受熱部が介装されるとともに、前記受熱部の下流側に、前記廃熱による加熱後の前記第1熱媒体により前記ランキンサイクルシステムの作動流体を蒸発させまたは蒸発後の前記作動流体をさらに昇温可能に前記蒸気生成部が介装された、第1回路と、
前記第1回路に、前記冷却水通路を介する前記第1熱媒体の流れを制限可能に介装された流量制御弁と、
前記流量制御弁の動作を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記ランキンサイクルシステムを前記内燃エンジンの暖機中に作動させ、前記ランキンサイクルシステムの作動時に、前記流量制御弁により前記第1熱媒体の流れを制限し、前記副流路において、前記主流路よりも相対的に大きな流量の前記第1熱媒体を循環させる、
廃熱回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランキンサイクルシステムの運転方法およびランキンサイクルシステムを備える廃熱回収装置に関し、特にランキンサイクルによる廃熱回生効率を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ランキンサイクルシステムは、蒸発器と凝縮器とを介する作動流体の回路を有し、蒸発器により作動流体を蒸発させ、これにより得られた蒸気で膨張機を作動させ、さらに、作動流体の蒸気を凝縮器により凝縮させるシステムとして構成される。車両全体でのエネルギ効率の改善のため、内燃エンジンからの廃熱を回収する手段としてランキンサイクルシステムを導入し、膨張機が行う仕事により走行動力を補助したり、発電機を駆動して、電気を生じさせたりすることが知られている(特許文献1)。蒸発器および加熱器に加え、蒸発器の下流側に加熱器を備え、蒸発器で生成された蒸気を、この加熱器によりさらに昇温させるものも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-232273号公報(段落0023)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ランキンサイクルシステムにおいて、エネルギ効率の改善の観点から充分な廃熱回生効率を得るには、蒸発器(または加熱器)と凝縮器との間での作動流体の熱落差を大きくすることが重要であり、この熱落差が大きいほど、廃熱回生効率を増大させることが可能である。ここで、熱落差とは、作動流体の蒸気が有する熱量と、凝縮後の液体の作動流体が有する熱量と、の差として与えられることから、作動流体の蒸気をより高温にすることが、熱落差を拡大させる方法の一つとして挙げられる。
【0005】
本発明は、以上の問題を考慮し、ランキンサイクルシステムおよびこれを備える廃熱回収装置において、より高温の蒸気を得ることにより熱落差を拡大させ、廃熱回生効率の改善に資することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態では、蒸気生成部と、作動流体の流れの方向に、蒸気生成部の下流側に配置された凝縮器と、を備えるランキンサイクルシステムの運転方法が提供される。本形態では、第1熱媒体の第1回路に、内燃エンジンの冷却水通路を介して第1熱媒体を循環させる主流路と、第1熱媒体を、冷却水通路を迂回しまたは主流路とは並列に循環させる副流路と、を形成し、副流路に、内燃エンジンの廃熱を受容し、第1熱媒体をこの廃熱により加熱可能に受熱部を介装するとともに、受熱部の下流側に、廃熱による加熱後の第1熱媒体によりランキンサイクルシステムの作動流体を蒸発させまたは蒸発後の作動流体をさらに昇温可能に蒸気生成部を介装する。そして、ランキンサイクルシステムを内燃エンジンの暖機中に作動させ、ランキンサイクルシステムの作動時に、冷却水通路を介する第1熱媒体の流れを制限し、副流路において、主流路よりも相対的に大きな流量の第1熱媒体を循環させる。
【0007】
上記ランキンサイクルシステムの作動時における流れの制限に代えるかまたはこれに加え、ランキンサイクルシステムの作動時に、副流路における第1熱媒体の流量を、ランキンサイクルシステムの停止時よりも減少させてもよい。冷却水通路を介する流れの制限と、副流路における流量の減少と、を併用する場合は、第1熱媒体の温度に応じて両者を切り換えることが可能である。
【0008】
他の形態では、ランキンサイクルシステムを備える廃熱回収装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
ランキンサイクルシステムの作動時に、内燃エンジンの冷却水通路を介する第1熱媒体の流れを制限することで、冷却水通路における第1熱媒体の昇温を促すことが可能である。これに併せ、副流路において、主流路よりも相対的に大きな流量の第1熱媒体を循環させることで、内燃エンジンの廃熱からの受熱を副流路を流れる第1熱媒体に集中させ、より高温の蒸気を生成可能として、廃熱回生効率を改善することができる。さらに、ランキンサイクルシステムの作動時に、副流路における第1熱媒体の流量を停止時よりも減少させることで、内燃エンジンの廃熱からの第1熱媒体の受熱を促進させ、より高温の蒸気を生成可能として、廃熱回生効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る廃熱回収装置の全体的な構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の他の実施形態に係る廃熱回収装置の全体的な構成を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の更に別の実施形態に係る廃熱回収装置に適用可能な高温および低温冷却液回路の構成を示す概略図であり、熱媒体の流れを同時に示す。
【
図4】
図4は、同上廃熱回収装置に適用可能な高温および低温冷却液回路の構成を示す概略図であり、
図3とは異なる熱媒体の流れを同時に示す。
【
図5】
図5は、同上廃熱回収装置の動作のフローチャートによる説明図である。
【
図6】
図6は、内燃エンジンのウォータジャケットにおける冷却液温度Tjktと高温冷却液回路の局所的な循環流路における冷却液温度Tmlpとの関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る廃熱回収装置1の全体的な構成を示している。
【0013】
本実施形態に係る廃熱回収装置(以下、単に「廃熱回収装置」という)1は、ランキンサイクルシステムSを備え、熱源11が生じさせた廃熱を、ランキンサイクルシステムSを通じて回収する装置として構成される。本実施形態において、廃熱回収装置1は、ハイブリッド車両に搭載され、その駆動源を構成する内燃エンジン11を熱源とし、ランキンサイクルシステムSにより、内燃エンジン11からの廃熱を、電気的なエネルギに変換して回収する。駆動源の形式は、シリーズ式であっても、パラレル式であってもよく、本実施形態では、シリーズ式である。
【0014】
ランキンサイクルシステムSは、主な要素として、蒸発器21と凝縮器22とを備え、作動流体が、これらの熱機器21、22をこの順で流れる。本実施形態では、蒸発器21と凝縮器22との間に、付加的な要素として加熱器23がさらに備わり、ポンプ24が作動すると、作動流体が、蒸発器21、加熱器23および凝縮器22を順に通過し、ランキンサイクルシステムSを、その相変化を伴って循環する。つまり、作動流体は、標準状態(例えば、25℃、1気圧)のもとで液体であり、ポンプ24から吐出された後、蒸発器21で蒸発し、さらに、加熱器23で加熱されてその更なる昇温が図られる。そして、膨張機25を作動させ、その後、凝縮器22で凝縮し、元の液体に復帰する。蒸発器21および加熱器23は、作動流体を蒸発させ、その蒸気をさらに昇温させることで、所定の温度および圧力の蒸気を生じさせるものであり、本実施形態に係る「蒸気生成部」に相当する。
【0015】
本実施形態に適用可能な膨張機25として、タービンを例示することができる。蒸気が有するエネルギをこのタービンにより機械的な仕事(つまり、回転動力)に変換し、さらに、発電機を駆動して電気を生じさせ、駆動源である電気モータに供給したり、バッテリを充填したりすることが可能である。膨張機25が行う仕事は、他の形態のエネルギに変換するばかりでなく、機械的な仕事のまま利用することも可能である。例えば、膨張機25の仕事により、車両の走行動力を補助することができる。
【0016】
廃熱回収装置1は、ランキンサイクルシステムS、特にその蒸発器21および加熱器23に熱を付与する手段として、高温冷却液回路Chを備える。さらに、廃熱回収装置1は、ランキンサイクルシステムSの凝縮器22において、蒸気である作動流体が有する熱を回収する手段として、高温冷却液回路Chよりも温度の低い熱媒体を循環させる低温冷却液回路Clを備える。本実施形態において、高温冷却液回路Chおよび低温冷却液回路Clは、いずれも駆動源の冷却回路であり、本実施形態に係る「第1回路」、「第2回路」に夫々相当する。
【0017】
高温冷却液回路Chは、「第1熱媒体」として冷却液(以下「高温冷却液」という場合がある)を循環させる回路であり、熱源である内燃エンジン11が介装されるとともに、ラジエータ(以下、後に述べる「低温ラジエータ」との区別のため、特に高温ラジエータという)12が介装されている。高温ラジエータ12は、本実施形態に係る「第1放熱器」に相当し、高温冷却液回路Chは、基本的には、内燃エンジン11と高温ラジエータ12との間で高温冷却液(具体的には、エンジン冷却水)を循環させ、高温冷却液が内燃エンジン11から受けた熱を、高温ラジエータ12により放熱させる回路として構成される。
【0018】
ここで、ランキンサイクルシステムSの蒸発器21および加熱器23に対し、高温冷却液回路Chが、内燃エンジン11の冷却水通路(以下「ウォータジャケット」という場合がある)を通じて加熱された高温冷却液により作動流体を加熱可能に接続されている。具体的には、蒸発器21および加熱器23は、いずれも熱交換器として構成され、高温冷却液回路Chの一部である導管が、蒸発器21および加熱器23に引き込まれ、それらの内部を通過することで、加熱後の高温冷却液が高温流体として、作動流体が低温流体として機能し、両者の間での熱交換により、作動流体が加熱される。高温ラジエータ12は、高温冷却液の流れの方向に、加熱器23の下流側に配置されている。
【0019】
他方で、低温冷却液回路Clは、「第2熱媒体」として、高温冷却液よりも温度が低い冷却液(以下「低温冷却液」という場合がある)を循環させる回路であり、高温ラジエータ12よりも小さな冷却容量を有するラジエータ(以下「低温ラジエータ」という)16が介装されている。低温冷却液回路Clは、駆動源である電気モータ17がその冷却対象として介装され、基本的には、電気モータ17と低温ラジエータ16との間で低温冷却液を循環させ、低温冷却液が電気モータ17の冷却により受けた熱を、低温ラジエータ16により放熱させる回路として構成される。低温冷却液回路Clによる冷却対象として、電気モータ17に代えるかまたはこれに加え、インバータを採用してもよい。
【0020】
ここで、低温冷却液回路Clは、高温冷却液回路Chとは独立に熱媒体を循環させる回路であり、基本的には、熱的に分離された状態にある。低温冷却液回路Clで循環させる冷却液と、高温冷却液回路Chで循環させるのとは、同種の冷却液であってもよいし、異なる種類の冷却液であってもよい。本実施形態では、低温冷却液回路Clの冷却液として、高温冷却液回路Chと同じエンジン冷却水を採用する。
【0021】
さらに、ランキンサイクルシステムSの凝縮器22に対し、低温冷却液回路Clが、低温ラジエータ16を通じて冷却された低温冷却液により作動流体の熱を回収可能に接続されている。具体的には、蒸発器21等と同様に、凝縮器22も熱交換器として構成され、低温冷却液回路Clの一部である導管が、凝縮器22に引き込まれ、その内部を通過することで、蒸気である作動流体が高温流体として、冷却後の低温冷却液が低温流体として機能し、両者の間での熱交換により、作動流体が冷却される。
【0022】
以上に加え、高温冷却液回路Chおよび低温冷却液回路Clには、熱媒体を圧送する手段として、ポンプ13、18が夫々介装され、高温冷却液回路Chには、内燃エンジン11の廃熱を回収する別個の手段として、EGRクーラ14が介装されている。EGRクーラ14は、高温冷却液回路Chにおいて、蒸発器21と加熱器23との間に介装され、蒸発器21を通過して温度がやや低下した高温冷却液を、内燃エンジン11の排気との熱交換により再度加熱する。ここで、EGRクーラ14は、図示しないEGR通路を介して内燃エンジン11の廃熱を受容し、第1熱媒体である高温冷却液をこの廃熱により加熱するものであり、本実施形態に係る「受熱部」に相当する。
【0023】
先に述べたように、ランキンサイクルシステムSは、エネルギ効率の改善の観点から充分な廃熱回生効率を得るには、蒸発器21(蒸発器21とは別に加熱器23を備える本実施形態では、加熱器23)と凝縮器22との間での作動流体の熱落差を大きくすることが重要であり、この熱落差が大きいほど、廃熱回生効率を増大させることが可能である。熱落差とは、作動流体の蒸気が有する熱量と、凝縮後の液体の作動流体が有する熱量と、の差として与えられる。
【0024】
そこで、本実施形態では、作動流体の蒸気をより高温にすることで、熱落差を拡大させる。
【0025】
具体的には、「第1回路」である高温冷却液回路Chに、内燃エンジン11の本体ないしシリンダに形成されたウォータジャケットを介して高温冷却液を循環させる主流路と、ウォータジャケットを迂回しまたは主流路とは並列に高温冷却液を循環させる副流路と、を形成する。そして、「受熱部」であるEGRクーラ14を、この副流路に介装するとともに、EGRクーラ14の下流側に、蒸気生成部を介装する。本実施形態では、蒸発器21および加熱器23のうち、加熱器23のみを副流路に介装する。
【0026】
図1を参照すると、内燃エンジン11(ウォータジャケット)の入口側と蒸発器21の下流側とを直に連通させ、ウォータジャケット(本実施形態では、ウォータジャケットおよび蒸発器21)を通じて加熱された高温冷却水を、蒸気生成部(本実施形態では、加熱器23)を迂回させて流すことで、加熱器23を介する流路とは並列な流路を形成するバイパス流路Pb1が設けられている。つまり、本実施形態では、高温冷却液を循環させる流路として、ウォータジャケットから出た高温冷却液が、バイパス流路Pb1を介してウォータジャケットに戻る流路と、ウォータジャケットから出た高温冷却液が、加熱器23を介してウォータジャケットに戻る流路と、が設けられ、前者の流路が「主流路」に、後者の流路が「副流路」に相当し、主流路と副流路とは、互いに並列な関係にある。
【0027】
さらに、副流路には、副流路を流れる高温冷却液の流量を制御可能な流量制御弁v1が設置されている。流量制御弁v1は、本実施形態に係る「流量制御弁」に相当し、その機能については後に述べる。
【0028】
このような構成のもと、本実施形態では、ランキンサイクルシステムSの作動時に、流量制御弁v1により、副流路における高温冷却液の流量を、ランキンサイクルシステムSの停止時よりも減少させる。
【0029】
このように、本実施形態では、主流路とは並列に副流路を形成し、ランキンサイクルシステムSの作動時に、副流路における流量を減少させ、EGRクーラ14における高温冷却液の受熱を促進させることで、蒸気をさらに昇温させる。しかし、蒸気の更なる昇温は、これに限定されるものではなく、ウォータジャケットを迂回させて高温冷却液を流す、高温冷却液の局所的な循環流路を形成することによっても可能である。
図2は、その場合の例として、本発明の他の実施形態に係る廃熱回収装置1の全体的な構成を示している。
図2(後に述べる
図3および4についても同様である)において、対応する構成には、
図1におけると同じ符号を付している。
【0030】
本実施形態では、内燃エンジン11(ウォータジャケット)の入口側と蒸発器21の下流側とを直に連通させ、蒸気生成部(本実施形態では、加熱器23)を介した高温冷却水を、ウォータジャケットを迂回させて流し、EGRクーラ14を介して加熱器23に再度導入するバイパス流路Pb2が設けられている。つまり、本実施形態では、高温冷却液を循環させる流路として、ウォータジャケットから出た高温冷却液が、EGRクーラ14および加熱器23を介してウォータジャケットに戻る流路と、ウォータジャケットを迂回し、EGRクーラ14から出た高温冷却液が、加熱器23およびバイパス流路Pb2を介してEGRクーラ14に戻る流路と、が設けられ、前者の流路が「主流路」に、後者の流路が「副流路」に相当する。
【0031】
主流路には、ウォータジャケットを流れる高温冷却液の流量を制御可能な流量制御弁v2が設置されている。流量制御弁v2は、本実施形態に係る「流量制御弁」に相当し、その機能については後に述べる。
【0032】
そして、本実施形態では、ランキンサイクルシステムSの作動時に、流量制御弁v2により、ウォータジャケットを介する高温冷却液の流れを制限し、副流路において、主流路よりも相対的に大きな流量の高温冷却液を循環させる。
【0033】
流量制御弁v1およびv2の動作は、コントローラ101により制御される。コントローラ101は、電子制御ユニットとして構成され、中央演算ユニット(CPU)、ROMおよびRAM等の各種記憶ユニット、入出力インタフェース等を備えたマイクロコンピュータにより構成される。コントローラ101は、車両の運転状態を検出可能に設けられた各種センサからの入力情報をもとに、これらの弁装置v1、v2に対する操作量を演算し、操作量に応じた指令信号をアクチュエータに出力する。本実施形態では、運転状態センサとして、車速VSPを検出する車速センサ111、高温冷却液回路Chを流れる冷却液(エンジン冷却水)の温度である高温回路水温Twhを検出する第1冷却液温度センサ112、低温冷却液回路Clを流れる冷却液(エンジン冷却水)の温度である低温回路水温Twlを検出する第2冷却液温度センサ113が設けられる。ここで、第1冷却液温度センサ112は、内燃エンジン11の暖機状態の判定を目的として、例えば、ウォータジャケット(特にその第1部分)の下流側に設置され、第2冷却液温度センサ113は、高温冷却液の冷却能力の判定を目的として、例えば、低温ラジエータ16の下流側に設置される。本実施形態では、以上に加え、高温冷却液回路Chの副流路を流れる冷却液の温度である局所回路水温Tlocalを検出する第3冷却液温度センサ114が設けられる。第3冷却液温度センサ114は、例えば、副流路において、EGRクーラ14と加熱器23との間に設置される。コントローラは、本実施形態に係る「コントローラ」に相当する。
【0034】
図3および4は、本発明の更に別の実施形態に係る廃熱回収装置1に適用可能な内燃エンジン11の高温冷却液回路Chおよび低温冷却液回路Clの構成を概略的に示し、
図3は、
図1に示す実施形態と同様に、副流路における流量を減少させる場合の熱媒体の流れを、
図4は、
図2に示す実施形態と同様に、高温冷却液を局所的に循環させる場合の熱媒体の流れを、いずれも矢印により併せて示している。
【0035】
本実施形態において、高温冷却液回路Chには、内燃エンジン1の本体に形成されたウォータジャケット11pを介して高温冷却液が供給される要素として、暖房用のキャビンヒータ31、スロットルチャンバ32、ターボチャージャ33(特にその排気タービン)およびEGRクーラ14が設けられるほか、ウォータジャケット11pを介さずに高温冷却液が直に供給される要素として、オイルクーラ34およびインタクーラ35が設けられている。ポンプ13から吐出され、これらの各部に分配された高温冷却液は、各部の冷却後(キャビンヒータ31およびスロットルチャンバ32については加熱)、合流し、ポンプ13により再度圧送される。ここで、ランキンサイクルシステムSの蒸発器21および加熱器23は、高温冷却水の流れの方向に、いずれも内燃エンジン11(特にその本体)の下流側に配置され、蒸発器21は、キャビンヒータ31の下流側に、加熱器23は、EGRクーラ14の下流側に、夫々配置されている。
図3および4は、ランキンサイクルシステムSの作動流体を循環させる流路を太い点線により概念的に示しており、この循環流路は、作動流体の流れの方向に、蒸発器21、EGRクーラ14および加熱器23をこの順で経由した後、後に述べる凝縮器22を通過する。
【0036】
高温冷却液回路Chには、さらに、高温冷却液が貯蔵されたリザーバタンク36、高温ラジエータ12が介装されている。本実施形態において、リザーバタンク36および高温ラジエータ12は、高温冷却液の流れに関して互いに並列に配置され、先に述べた高温冷却液が供給される要素とも並列な関係にある。
【0037】
低温冷却液回路Clには、冷却対象として電気モータ17が設けられるとともに、低温冷却液が貯蔵されたリザーバタンク37、低温ラジエータ16が介装されている。ポンプ18から吐出された低温冷却液は、電気モータ17に供給され、電気モータ17の冷却後、リザーバタンク37を介して低温ラジエータ16に導入され、冷却される。ランキンサイクルシステムSの凝縮器22は、低温冷却液の流れに関して電気モータ17とは並列な関係にある。
【0038】
ここで、本実施形態では、ポンプ13から出た高温冷却液を循環させる流路として、主流路と副流路とが設けられ、ポンプ13からの吐出後、ウォータジャケット11pの第1部分を介し、キャビンヒータ31および蒸発器21を経るかまたはスロットルチャンバ32を経てポンプ13に戻る流路を、「主流路」とする。他方で、ポンプ13からの吐出後、ウォータジャケット11pのうち、第1部分とは異なる第2部分を介し、EGRクーラ14および加熱器23を経てポンプ13に戻る流路を、「副流路」とする。
図3および4は、二点鎖線の枠により、ウォータジャケットの全体を概念的に示す。そして、先に述べたように、副流路には、副流路を循環させる高温冷却液の流量を制御可能に流量制御弁v1が設置され、主流路には、ウォータジャケット(特にその第1部分)を流れる高温冷却液の流量を制御可能に流量制御弁v21、v22が設置される。本実施形態において、流量制御弁v21、v22は、いずれも開閉弁(第1開閉弁v21、第2開閉弁v22)として構成され、ウォータジャケットの下流側に設置される。
【0039】
そして、高温冷却液の更なる昇温を図る際に、副流路における流量を減少させる場合は、
図3に示すように、流量制御弁v1の開度を減少させる。
【0040】
他方で、高温冷却液を局所的に循環させる場合は、
図4に示すように、第1および第2開閉弁v21、v22を閉弁させる。これにより、ウォータジャケットの第1部分を通過した後の高温冷却液の流路を、互いに並列な関係にある複数の流路のうちの一部、本実施形態では、スロットルチャンバ32が介装された流路に制限し、この第1部分における高温冷却液の流量を、ごく少量に減少させる。そして、これに付随して、副流路において、主流路よりも相対的に大きな流量の高温冷却液を循環させる。これは、例えば、第1および第2開閉弁v21、v22の閉弁に対し、ポンプ13の吐出量を維持することによる。
【0041】
図5は、
図3および4に示す実施形態において、コントローラ101が行う制御の内容をフローチャートにより示している。コントローラ101は、
図1または2に示すのと同様な構成であってよく、
図5に示す制御を、電源投入による起動後、所定の時間毎に実行するようにプログラムされている。
【0042】
S101では、車両の運転状態を示す各種入力情報として、車速VSP、高温回路水温Twh、低温回路水温Twlおよび局所回路水温Tlocalを読み込む。
【0043】
S102および103では、ランキンサイクルシステムSの作動条件が成立しているか否かを判定する。S102および103の全ての条件が成立している場合にのみ、ランキンサイクルシステムSの作動を許可し、いずれか一方の条件でも成立していない場合は、ランキンサイクルシステムSの作動を禁止ないし保留する。
【0044】
S102では、車速VSPが所定速度VSP1以上であるか否かを判定する。相当量の走行風を受けることが、高温ラジエータ12および低温ラジエータ16を機能させるのに必要だからである。車速VSPが所定速度VSP1以上である場合は、S103へ進み、所定車速VSP1未満である場合は、S113へ進む。
【0045】
S103では、低温回路水温Twlが所定温度Tl1以下であるか否かを判定する。所定温度Tl1は、低温冷却液が、低温冷却液回路Clの本来の冷却対象である電気モータ17の冷却に必要な範囲の温度であることを判定するためのものであり、本実施形態では、そのような範囲の最高温度に対し、ある程度の余裕代を持たせた温度として、例えば、55℃に設定される。低温回路水温Twlが所定温度Tl1以下である場合は、S104へ進み、所定温度Tl1よりも高い場合は、S113へ進む。
【0046】
S104では、高温回路水温Twhが所定温度Th1未満であるか否かを判定する。所定温度Th1は、内燃エンジン11の暖機が完了したことを判定するためのものであり、本実施形態では、例えば、80℃に設定される。高温回路水温Twhが所定温度Th1未満であり、内燃エンジン11が暖機中である場合は、S105へ進み、所定温度Th1以上であり、内燃エンジン11の暖機が既に完了している場合は、S108へ進む。
【0047】
S105では、流量制御弁v1を開弁させるとともに、第1および第2開閉弁v21、v22を閉弁させ、内燃エンジン11のウォータジャケットにおける高温冷却液の流量を減少させる一方、高温冷却液を副流路で局所的に循環させる。これにより、内燃エンジン11の暖機が促進され、併せて、副流路における高温冷却液の加熱を通じて、蒸気の更なる昇温が図られる。
【0048】
S106では、局所回路水温Tlocalが第1の所定温度Tthr1以上であるか否かを判定する。第1の所定温度Tthr1は、副流路を流れる高温冷却液が加熱器23による蒸気の更なる昇温に必要な温度にあることを判定するためのものであり、本実施形態では、例えば、80℃に設定される。局所回路水温Tlocalが第1の所定温度Tthr1以上である場合は、S107へ進み、第1の所定温度Tthr1未満である場合は、S113へ進む。
【0049】
S107では、ポンプ24を作動させ、ランキンサイクルシステムSを作動させる。
【0050】
S108では、ポンプ24を作動させ、ランキンサイクルシステムSを作動させる。
【0051】
S109では、第1および第2開閉弁v21、v22を開弁させ、副流路を介する高温冷却液の局所的な循環を解消し、高温冷却液回路Chの全体で高温冷却液を循環させる。
【0052】
S110では、局所回路水温Tlocalが第2の所定温度Tthr2未満であるか否かを判定する。第2の所定温度Tthr2は、加熱器23による蒸気の更なる昇温に対し、副流路を流れる高温冷却液が過剰に高い温度にあることを判定するためのものであり、本実施形態では、第1の所定温度Tthr1よりも高い温度として、例えば、80℃を超える温度に設定される。局所回路水温Tlocalが第2の所定温度Tthr2未満である場合は、S111へ進み、第2の所定温度Tthr2以上である場合は、S112へ進む。
【0053】
S111では、流量制御弁v1を閉弁させ、副流路を流れる高温冷却液の流量を減少させる。これにより、EGRクーラ14における高温冷却液の受熱が促進され、蒸気の更なる昇温が図られる。本実施形態では、副流路における流量を、ランキンサイクルシステムSの停止時よりも減少させる。
【0054】
S112では、流量制御弁v1を開弁させ、副流路を流れる高温冷却液の流量を、廃熱回収装置1の通常時における流量にまで増大させる。
【0055】
S113では、ポンプ24を停止させ、ランキンサイクルシステムSを停止させる。
【0056】
本実施形態に係る廃熱回収装置1は、以上のように構成され、本実施形態により得られる作用および効果について、以下に説明する。
【0057】
第1に、ランキンサイクルシステムSの作動時に、内燃エンジン11のウォータジャケットにおける高温冷却液の流れを制限することで、ウォータジャケットにおける高温冷却液の昇温を促進させ、内燃エンジン11の暖機を促すことが可能である。これに併せ、副流路において、主流路よりも相対的に大きな流量の高温冷却液を循環させることで、内燃エンジン11の廃熱からの受熱を副流路を流れる高温冷却液に集中させ、より高温の蒸気を生成可能として、廃熱回生効率を改善することができる。
【0058】
ここで、高温冷却液の局所的な循環による昇温を、内燃エンジン11の暖機時に行うことで、内燃エンジン11の暖機の促進と、廃熱回生効率の改善と、の両立を図ることが可能である。
【0059】
さらに、ランキンサイクルシステムSの作動時に、副流路における高温冷却液の流量を停止時よりも減少させることで、内燃エンジン11の廃熱からの高温冷却液の受熱を促進させ、より高温の蒸気を生成可能として、廃熱回生効率を改善することができる。
【0060】
ここで、高温冷却液の流量の減少による昇温を、内燃エンジン11の暖機完了後に行うことで、内燃エンジン11の冷却と、廃熱回生効率の改善と、の両立を図ることができる。
【0061】
第2に、内燃エンジン11のウォータジャケット(第2部分)で加熱された高温冷却液を、受熱部であるEGRヒータ14によりさらに加熱可能としたことで、副流路における高温冷却液の温度を、段階的な加熱を通じてさらに上昇させることが可能である。
【0062】
第3に、副流路の一周の流路長を主流路よりも短くすることで、副流路を循環させる高温冷却液の熱容量を低減させ、その昇温を促すことが可能である。
【0063】
図6は、内燃エンジン11のウォータジャケットにおける冷却液温度Tjktと高温冷却液回路Chの局所的な循環流路、つまり、副流路における冷却液温度Tmlpとの関係を示している。このように、副流路における高温冷却液の熱容量が小さいことから、副流路では、ウォータジャケットよりも急速に冷却液温度Tmlpが上昇する。よって、内燃エンジン11の始動後、比較的早い時点からより高温の蒸気を生成可能として、廃熱回生効率を改善することができる。
【0064】
第4に、高温冷却液を循環させる回路として、高温冷却液回路Ch以外に低温冷却液回路Clを設け、高温および低温冷却液回路Ch、Clのそれぞれに放熱器(高温ラジエータ12、低温ラジエータ16)を介装したことで、異なる対象を冷却しながら、ランキンサイクルシステムSを作動させることが可能となる。
【0065】
第5に、蒸発器21に加えて加熱器23を設け、蒸発器21で得られた作動流体の蒸気を、加熱器23によりさらに昇温させることで、より高温の蒸気を得て、廃熱回生効率を改善することが可能となる。そして、蒸発器21および加熱器23のうち、加熱器23のみを副流路に設置したことで、副流路の短縮および熱容量の低減を図り、副流路における高温冷却液の昇温を促すことができる。しかし、蒸発器21と加熱器23との配置は、これに限定されるものではなく、それらの双方を副流路に設置することも可能である。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を、上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上記実施形態に対し、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で様々な変更および修正が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…廃熱回収装置
11…熱源(内燃エンジン)
12…高温ラジエータ
14…EGRクーラ
16…低温ラジエータ
17…電気モータ
21…蒸発器
22…凝縮器
23…加熱器
25…膨張機
S…ランキンサイクルシステム
Ch…高温冷却液回路
Cl…低温冷却液回路
Pb1、Pb2…バイパス流路
v1…流路切替弁
v21、v22…開閉弁