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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】インクセット
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/40 20140101AFI20230817BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230817BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C09D11/40
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019124708
(22)【出願日】2019-07-03
(65)【公開番号】P2021011515
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】百田 博和
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105951(JP,A)
【文献】国際公開第2019/013173(WO,A1)
【文献】特開2012-162655(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0200651(US,A1)
【文献】特開2013-185135(JP,A)
【文献】特開2012-097142(JP,A)
【文献】特開2012-097143(JP,A)
【文献】特開2017-119845(JP,A)
【文献】特開2018-048282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/40
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒インク及びカラーインクを有するインクセットであって、
各インクは、顔料をポリマーで水系媒体に分散させた水系インクであり、
黒インクに使用するポリマーは、酸価が70mgKOH/g以上140mgKOH/g以下のポリマーを架橋剤で架橋してなる架橋ポリマー(A)であり、該架橋ポリマー(A)の残酸価aが30mgKOH/g以上60mgKOH/g以下であり、
カラーインクに使用するポリマーは、酸価が180mgKOH/g以上250mgKOH/g以下のポリマーを架橋剤で架橋してなる架橋ポリマー(B)であり、該架橋ポリマー(B)の残酸価bが55mgKOH/g以上110mgKOH/g以下であ
ポリマーが、カルボキシ基を有するポリマーであり、
カルボキシ基を有するポリマーが、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上のカルボキシ基含有ビニルモノマー由来の構成単位と、炭素数6以上18以下のアルキル基又は炭素数6以上22以下のアリール基を有するアクリレートモノマー、メタクリレートモノマー及び芳香族基含有モノマーから選ばれる1種以上の疎水性モノマー由来の構成単位を含有するビニル系ポリマーであり、
ポリマーの数平均分子量が、5,000以上18,000以下であり、
架橋剤が、炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのグリシジルエーテル化合物であり、
架橋剤のエポキシ当量が、110以上160以下である、
インクセット。
【請求項2】
カラーインクに使用する架橋ポリマー(B)の残酸価bと、黒インクに使用する架橋ポリマー(A)の残酸価aとの差(b-a)が、10mgKOH/g以上55mgKOH/g以下である、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
疎水性モノマーが、スチレン系モノマー、及び芳香族基含有(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上であり、
スチレン系モノマーが、スチレン、2-メチルスチレン、α-メチルスチレン、及びビニルトルエンから選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項4】
多価アルコールのグリシジルエーテル化合物が、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルである、請求項1~3のいずれかに記載のインクセット。
【請求項5】
カラーインクが、少なくともシアン、イエロー、及びマゼンタの3色のインクを有する、請求項1~4のいずれかに記載のインクセット。
【請求項6】
インクジェット記録用である、請求項1~5のいずれかに記載のインクセット。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のインクセットを用いて、記録媒体に記録するインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録媒体に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録媒体として普通紙が使用可能、記録媒体に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。近年では、記録物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料を用いるものが主流となってきている。
【0003】
インクジェット記録方法では、生産性向上のため高速印刷が求められる。水系顔料インクを用いる高速印刷では、記録媒体の巻き取り時や重ね合わせ時に未乾燥インクが記録物を汚染しないように、インクの速乾性が求められる。更に、市場競争力を向上させるためには、インクジェットの高速印刷に加え、画像濃度の向上も重要であり、テキスト等で主として用いられる黒の画像濃度が特に重要視される。
一方、顔料とポリマー分散剤を含む水系インクを用いるインクジェットプリンタでは、顔料やポリマー残渣が記録ヘッドの吐出ノズル内で乾燥固化すると目詰まりの原因となり、印刷性能に悪影響を及ぼす。そこで、プリンタには、一般にヘッドクリーニング装置が付設されており、定期的にインクを空打ちするリフレッシュ動作などが行われている。このリフレッシュ動作により、廃インクが発生するが、廃インクが増粘すると、廃液タンクへの流れが悪くなり、メンテナンス不良となる。
【0004】
従来、インクジェット記録用のインクセットが種々提案されている。
例えば、特許文献1には、色再現性に優れたインクセットとして、処理液、架橋された水溶性樹脂によって顔料が被覆されている樹脂被覆顔料、重合性化合物及び水を含有し、2色を重ねて赤、緑又は青の画像を形成し、マゼンタインク、シアンインク、イエローインクは、それぞれ架橋された水溶性樹脂と特定の質量比を有するインクセットが開示されている。
特許文献2には、記録速度とブリーディング抑制を両立させ、吐出口面での固着を抑制できるインクセットとして、インクAは、アニオン性基を有する水溶性樹脂分散顔料、界面活性剤及び多価金属イオンを含有してなり、界面活性剤がアルコールのエチレンオキサイド付加物であり、界面活性剤の含有量がインク中0.3~5.0質量%、顔料の平均粒子径が200nm以下であり、インクBは、アニオン性基を有する水溶性樹脂分散顔料及び自己分散顔料の少なくとも一方を含有してなり、インクA中の多価金属イオンの含有量が特定の範囲にあるインクセットが開示されている。
特許文献3には、写像性に優れる画像を記録できるインクセットとして、第1インク(クリアインク)が水溶性樹脂及び樹脂粒子を含有し、第2インク(顔料インク)が、顔料の粒子表面に樹脂が結合している自己分散顔料を含有し、第2インク中の樹脂の酸価Bと、第1インク中の水溶性樹脂の酸価Aとの比率B/Aが特定範囲であるインクセットが開示されている。
特許文献4には、カラーブリードのない高画像を形成できるインクセットとして、インク中に、それぞれ樹脂で覆われた複数の顔料粒子が分散しており、複数種のインクとして、樹脂酸価が100~180mgKOH/gである第1インクと、樹脂酸価が60~90mgKOH/gである第2インクとを含むインクセットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-162655号公報
【文献】特開2012-224738号公報
【文献】特開2016-160384号公報
【文献】特開2016-199684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1~4のインクセットは、得られる記録物の黒画像濃度、インクの乾燥性、廃インク流動性の全てを満足し得るものではなかった。
本発明は、得られる記録物の黒画像濃度に優れ、インクを重ね打ちしても乾燥性に優れ、かつ廃インク流動性(メンテナンス性)にも優れるインクセット、及び該インクセットを用いるインクジェット記録方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、黒インク及びカラーインクを有するインクセットにおいて、黒インクとカラーインクとで異なる酸価を有する各ポリマーを使用し、該各ポリマーをそれぞれ架橋してなる架橋ポリマー(A)と架橋ポリマー(B)とで異なる残酸価を有し、該架橋ポリマー(A)を含む黒インクと、該架橋ポリマー(B)を含むカラーインクと、を組み合わせて用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]及び[2]を提供する。
[1]黒インク及びカラーインクを有するインクセットであって、
各インクは、顔料をポリマーで水系媒体に分散させた水系インクであり、
黒インクに使用するポリマーは、酸価が70mgKOH/g以上140mgKOH/g以下のポリマーを架橋剤で架橋してなる架橋ポリマー(A)であり、該架橋ポリマー(A)の残酸価aが30mgKOH/g以上60mgKOH/g以下であり、
カラーインクに使用するポリマーは、酸価が180mgKOH/g以上250mgKOH/g以下のポリマーを架橋剤で架橋してなる架橋ポリマー(B)であり、該架橋ポリマー(B)の残酸価bが55mgKOH/g以上110mgKOH/g以下である、インクセット。
[2]前記[1]に記載のインクセットを用いて、記録媒体に記録するインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、得られる記録物の黒画像濃度に優れ、インクを重ね打ちしても乾燥性に優れ、かつ廃インク流動性にも優れるインクセット、及び該インクセットを用いるインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[インクセット]
本発明のインクセットは、黒インク及びカラーインクを有するインクセットであって、
各インクは、顔料をポリマーで水系媒体に分散させた水系インクであり、
黒インクに使用するポリマーは、酸価が70mgKOH/g以上140mgKOH/g以下のポリマーを架橋剤で架橋してなる架橋ポリマー(A)であり、該架橋ポリマー(A)の残酸価aが30mgKOH/g以上60mgKOH/g以下であり、
カラーインクに使用するポリマーは、酸価が180mgKOH/g以上250mgKOH/g以下のポリマーを架橋剤で架橋してなる架橋ポリマー(B)であり、該架橋ポリマー(B)の残酸価bが55mgKOH/g以上110mgKOH/g以下である。
【0010】
なお、本明細書において、次の用語は、以下の意味を有する。
・「水系媒体」とは、顔料を分散させる媒体中で、水が最大割合を占めている媒体を意味し、「水系インク」とは、インク中の水の含有量が40質量%以上を占めているインクを意味する。
・「記録」とは、文字や画像を記録する印刷、印字を含む概念であり、「記録物」とは、文字や画像が記録された印刷物、印字物を含む概念である。
・「重ね打ち」とは、複数種のインクを記録物の同一範囲内に打ち込んで記録することをいう。
【0011】
本発明のインクセットは、得られる記録物の黒画像濃度に優れ、インクを重ね打ちしても乾燥性に優れ、かつ廃インク流動性にも優れる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明においては、画像濃度が重要視される黒インクに使用するポリマーとして、酸価が70mgKOH/g以上140mgKOH/g以下の低酸価のポリマーを架橋剤で架橋し、架橋後の残酸価aを30mgKOH/g以上60mgKOH/g以下とした架橋ポリマー(A)を用いる。
この架橋ポリマー(A)は、架橋後のポリマーの酸価が比較的低く、かつ架橋点の密度が低いため、インク中の溶剤等によりポリマーが適度に膨潤し、それに伴って増粘が生じる。そのため、この架橋ポリマー(A)を含む黒インクは、記録媒体上に着弾した際にドットが広がり難くなる。この結果、記録媒体上に着弾した黒インク液滴の拡散が抑制され、画像濃度を高めることができると考えられる。
一方、インクを重ね打ちした際の乾燥性が重要視されるカラーインクに使用するポリマーとして、酸価が180mgKOH/g以上250mgKOH/g以下の高酸価のポリマーを架橋剤で架橋し、架橋後の残酸価bを55mgKOH/g以上110mgKOH/g以下とした架橋ポリマー(B)を用いる。
この架橋ポリマー(B)は、高酸価のポリマーが顔料表面に吸着し、架橋されて十分な立体網目構造が形成され、インク中の溶剤等によるポリマーの膨潤が抑制されて増粘が生じ難くなる。そして、この架橋ポリマー(B)を含むカラーインクは、記録媒体上に着弾するとドットが広がり易くなる。この結果、記録媒体上に着弾したカラーインク液滴の速乾性が高まり、インクを重ね打ちしても乾燥性を高めることができると考えられる。
【0012】
本発明のインクセットは、上記のとおり異なる特性を有する黒インクとカラーインクとを組み合わせて使用するものである。このため、黒インクとカラーインクとがそれぞれ記録媒体上に着弾された際には、それぞれの特性が記録媒体上で効果的に発揮される。更に、インクの空打ちによる廃インク発生時には、架橋ポリマー(A)を含む黒インクによる増粘が廃液性を低下させる懸念が生じるが、架橋ポリマー(B)を含むカラーインクの流動性が高いため、黒インクとの混合によっても流動性が維持され、廃インク流動性が優れたものになると考えられる。
また、本発明に係る黒インク及びカラーインクにおいては、ポリマーが架橋されているため、顔料からポリマーが脱離し難く、また、顔料粒子同士の静電反発力が大きくなり凝集が抑制されるため、インク中の顔料粒子の粒径が安定に保たれ、インクの保存安定性も維持されると考えられる。
【0013】
以上のとおり、本発明のインクセットは、得られる記録物の黒画像濃度に優れ、インクを重ね打ちしても乾燥性に優れ、かつ廃インク流動性にも優れており、また、用いるインクは保存安定性に優れているため、インクジェット記録用インクセットとして用いることが好ましい。
【0014】
<インク>
本発明のインクセットに用いられる黒インクは、黒顔料を架橋ポリマー(A)で水系媒体中に分散させた水系インクであり、カラーインクは、有彩色顔料を架橋ポリマー(B)で水系媒体中に分散させた水系インクである。
架橋ポリマー(A)は、酸価が70mgKOH/g以上140mgKOH/g以下のポリマー(以下、「架橋前ポリマーa」ともいう)を架橋剤で架橋してなり、架橋ポリマー(A)の残酸価aは30mgKOH/g以上60mgKOH/g以下である。
架橋ポリマー(B)は、酸価が180mgKOH/g以上250mgKOH/g以下のポリマー(以下、「架橋前ポリマーb」ともいう)を架橋剤で架橋してなり、架橋ポリマー(B)の残酸価bは55mgKOH/g以上110mgKOH/g以下である。
本発明のインクセットには、黒インク、及びシアン、マゼンタ、イエロー等のカラーインク以外のその他のインクも装填することができるが、その他のインクは、必ずしも本発明に係る黒インク又はカラーインクに該当するインクである必要はない。しかしながら、本発明のインクセットにおいては、全てのインクが本発明に係る黒インク又はカラーインクのいずれかに該当するインクのみからなることが好ましい。
以下、顔料、ポリマー等について順次説明する。
【0015】
<顔料>
本発明に用いられる顔料は、黒インク又はカラーインクに用いられるものであり、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよく、レーキ顔料、蛍光顔料を用いることもできる。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、ベンガラ、酸化クロム等の金属酸化物顔料、真珠光沢顔料等が挙げられる。特に黒インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
【0016】
カラーインクにおける有機顔料の具体例としては、アゾレーキ顔料、不溶性モノアゾ顔料、不溶性ジスアゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料類;フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ベンツイミダゾロン顔料、スレン顔料等の多環式顔料類等が挙げられる。
カラーインクは、少なくともシアン、マゼンタ、イエローの3色の有彩色顔料を有すればよく、その他の色は特に限定されず、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等のいずれの有彩色顔料も用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンから選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。インクを重ね打ちする場合、少なくともシアン、マゼンタ、イエローの3色については、C.I.ピグメント・ブルー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・イエローの3種を選択することが好ましい。
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
上記の顔料は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
本発明において、顔料は、インク中で、架橋ポリマー(A)又は(B)で分散された顔料、又は顔料を含有する架橋ポリマー粒子として含有される。
顔料は、耐水性を維持しつつ、得られる記録物の黒画像濃度、インクの乾燥性、廃インク流動性を向上させる観点から、架橋ポリマー(A)又は(B)中に顔料を含有する架橋ポリマー粒子(以下、総称して「顔料含有架橋ポリマー粒子」ともいい、個別に「架橋ポリマー粒子(A)」又は「架橋ポリマー粒子(B)」ともいう)として含有されることが好ましい。
【0018】
<ポリマー>
黒インクに使用するポリマーは、架橋前ポリマーaを架橋剤で架橋してなる架橋ポリマー(A)であり、カラーインクに使用するポリマーは、架橋前ポリマーbを架橋剤で架橋してなる架橋ポリマー(B)である。
架橋前ポリマーa及びbは、好ましくはカルボキシ基を有するポリマーであり、水溶性ポリマーでも水不溶性ポリマーでもよいが、水不溶性ポリマーが好ましい。
架橋前ポリマーのカルボキシ基の一部又は全部は、架橋剤で架橋され架橋構造を形成する。架橋前ポリマーが水溶性ポリマーであっても架橋により水不溶性ポリマーとなる。
なお、「水不溶性ポリマー」とは、ポリマーを水に分散させたとき透明とならないものを意味し、具体的には、ポリマーを105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下であるポリマーをいう。一方、「水溶性ポリマー」とは、上記条件における溶解量が10g以上であるポリマーをいう。
なお、前記溶解量は、ポリマーのカルボキシ基等のアニオン性基をNaOHで100%中和した時の溶解量である。
【0019】
架橋ポリマー(A)及び(B)は、カルボキシ基を有する架橋前ポリマーa及びbの一部又は全部を中和剤で中和した状態で顔料を水系媒体中に分散した後、架橋剤で架橋させることによって、水系媒体中で形成されることが好ましい。こうすると架橋ポリマー(A)及び(B)は単離されないが、該ポリマーのモノマー構成、分子量、中和剤の種類と使用量、架橋剤の種類と使用量の関係でその状態を調整することができる。
架橋前ポリマーaの酸価は、得られる記録物の黒画像濃度、廃インク流動性を向上させる観点から、70mgKOH/g以上であり、好ましくは80mgKOH/g以上、より好ましくは90mgKOH/g以上、更に好ましくは100mgKOH/g以上であり、そして、140mgKOH/g以下であり、好ましくは135mgKOH/g以下、より好ましくは130mgKOH/g以下、更に好ましくは120mgKOH/g以下である。
架橋前ポリマーbの酸価は、インクの乾燥性、廃インク流動性を向上させる観点から、180mgKOH/g以上であり、好ましくは190mgKOH/g以上、より好ましくは195mgKOH/g以上であり、そして、250mgKOH/g以下であり、好ましくは245mgKOH/g以下、更に好ましくは240mgKOH/g以下である。
【0020】
一方、黒インクにおける架橋ポリマー(A)の残酸価aは、得られる記録物の黒画像濃度、廃インク流動性を向上させる観点から、30mgKOH/g以上であり、好ましくは32mgKOH/g以上、より好ましくは34mgKOH/g以上、更に好ましくは36mgKOH/g以上であり、そして、60mgKOH/g以下であり、好ましくは58mgKOH/g以下、より好ましくは56mgKOH/g以下、更に好ましくは54mgKOH/g以下である。
カラーインクにおける架橋ポリマー(B)の残酸価bは、インクの乾燥性、廃インク流動性を向上させる観点から、55mgKOH/g以上であり、好ましくは60mgKOH/g以上、より好ましくは65mgKOH/g以上、更に好ましくは70mgKOH/g以上であり、そして、110mgKOH/g以下であり、好ましくは100mgKOH/g以下、より好ましくは90mgKOH/g以下、更に好ましくは80mgKOH/g以下である。
【0021】
なお、架橋ポリマー(A)の残酸価a、及び架橋ポリマー(B)の残酸価bは、架橋後の残酸価として次式により算出される。
架橋ポリマーの残酸価(mgKOH/g)
=架橋前のポリマーの酸価(mgKOH/g)×(100-架橋度(モル%))
架橋ポリマー(B)の残酸価bと、架橋ポリマー(A)の残酸価aとの差(b-a)は、得られる記録物の黒画像濃度、インクの乾燥性、廃インク流動性を向上させる観点から、好ましくは10mgKOH/g以上、より好ましくは15mgKOH/g以上、更に好ましくは20mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは55mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以下、更に好ましくは45mgKOH/g以下である。
シアン、マゼンタ、イエロー等のカラーインクに使用する複数の架橋ポリマーの残酸価が異なる場合、黒インクに係る残酸価bとカラーインクに係る残酸価aとの差(b-a)は、両者の残酸価の差(b-a)が最大となる組合せで、前記範囲に入っていることが好ましい。
架橋前ポリマーa又はbの酸価、架橋ポリマー(A)の残酸価a、及び架橋ポリマー(B)の残酸価bが前記の範囲であれば、カルボキシ基及び中和されるカルボキシ基の量は十分であり、顔料の分散安定性が確保される。またポリマーと水系媒体の親和性と、ポリマーと顔料との相互作用とのバランスの点からも好ましい。
なお、ポリマーの酸価は、実施例に記載の滴定法により行うことができる。また、構成するモノマーの質量比から算出することもできる。
【0022】
(架橋前ポリマー)
黒インク又はカラーインクに使用する架橋前ポリマーa又はbとしては、ポリエステル、ポリウレタン、及びビニル系ポリマーから選ばれる1種以上が挙げられるが、水系インクの保存安定性を向上させる観点から、ビニル化合物、ビニリデン化合物、及びビニレン化合物から選ばれる1種以上のビニルモノマーの付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
ビニル系ポリマーとしては、(a)カルボキシ基含有ビニルモノマー(以下、「(a)成分」ともいう)と、(b)疎水性ビニルモノマー(以下、「(b)成分」ともいう)とを含むビニルモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(a)成分由来の構成単位と(b)成分由来の構成単位とを有する。このビニル系ポリマーは、更に(c)マクロモノマー由来の構成単位や、(d)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有することができる。
【0023】
〔(a)カルボキシ基含有ビニルモノマー〕
(a)カルボキシ基含有ビニルモノマーは、顔料含有架橋ポリマー粒子の水系インク中における分散安定性を向上させる観点から、ポリマーのモノマー成分として用いられる。カルボキシ基含有ビニルモノマーとしては、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0024】
〔(b)疎水性ビニルモノマー〕
(b)疎水性ビニルモノマーは、ポリマーの顔料への吸着性を高め、顔料含有架橋ポリマー粒子の水系インク中における分散安定性を向上させる観点から、ポリマーのモノマー成分として用いられる。疎水性ビニルモノマーとしては、炭素数1以上22以下のアルキル基又は炭素数6以上22以下のアリール基を有するアルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が好ましく挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1以上22以下、好ましくは炭素数6以上18以下のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートから選ばれる1種以上を意味する。以下における「(メタ)」も同義である。
【0025】
芳香族基含有モノマーとしては、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニル系モノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート等がより好ましい。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート等が好ましい。
(b)疎水性モノマーは、前記のモノマーを2種以上使用してもよく、スチレン系モノマーと芳香族基含有(メタ)アクリレートを併用してもよい。
〔(c)マクロモノマー〕
(c)マクロモノマー(以下、「(c)成分」ともいう)は、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物である。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
(c)マクロモノマーとしては、芳香族基含有モノマー系及びシリコーン系のマクロモノマーが挙げられる。芳香族基含有モノマー系マクロモノマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記(b)成分で記載したものと同様のものが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロモノマーの具体例としては、AS-6(S)、AN-6(S)、HS-6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
【0026】
〔(d)ノニオン性モノマー〕
(d)ノニオン性モノマー(以下、「(d)成分」ともいう)としては、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(メタ)アクリレート等が挙げられる。
商業的に入手しうる(d)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社製のNKエステルMシリーズ製品、日油株式会社製のブレンマーPEシリーズ、PMEシリーズ、50PEPシリーズ、50POEPシリーズ等の製品が挙げられる。
上記モノマー成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
以上のとおり、本発明で用いられる架橋前ポリマーa又はbは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上の(a)カルボキシ基含有ビニルモノマー由来の構成単位と、炭素数1以上22以下のアルキル基又は炭素数6以上22以下のアリール基を有するアクリレートモノマー、メタクリレートモノマー及び芳香族基含有モノマーから選ばれる1種以上の(b)疎水性ビニルモノマー由来の構成単位と、を含有するビニル系ポリマーであることが好ましい。
【0028】
(モノマー混合物中の各成分又はポリマー中の各構成単位の含有量)
(a)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
(b)成分の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、更に好ましくは92質量%以下である。
(c)成分を含有する場合、その含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
(d)成分を含有する場合、その含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。
(a)成分及び(b)成分の質量比[(a)成分/(b)成分]は、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上であり、そして、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下である。
【0029】
〔架橋前ポリマーの製造〕
架橋前ポリマーは、前記モノマーの混合物を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に特に制限はないが、ケトン類等の極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。
重合開始剤としては、アゾ化合物や有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができ、重合連鎖移動剤としては、メルカプタン類等の公知の連鎖移動剤を用いることができる。
また、重合モノマーの連鎖の様式に制限はなく、ランダム、ブロック、グラフト等のいずれの重合様式でもよい。
【0030】
好ましい重合条件は、使用する重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、通常、重合温度は、好ましくは30℃以上95℃以下である。また、重合雰囲気は、好ましくは窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気である。
ポリマー溶液の固形分濃度は、水系顔料分散体Bの生産性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。
架橋前ポリマーの数平均分子量は、顔料表面への吸着性及び顔料含有架橋ポリマー粒子の分散安定性の観点から、好ましくは2,000以上、より好ましくは5,000以上であり、そして、好ましくは20,000以下、より好ましくは18,000以下である。
なお、数平均分子量の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0031】
〔顔料含有架橋ポリマー粒子の製造〕
顔料含有架橋ポリマー粒子は、下記の工程I~IIIを有する方法により、水系媒体中に分散した状態で効率的に製造することができる。
工程I:架橋前ポリマー、有機溶媒、中和剤、顔料(黒顔料又は有彩色顔料)、及び水を含有する混合物(以下、「顔料混合物」ともいう)を分散処理して、顔料を含有するポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料を含有するポリマー粒子の水分散体(以下、「顔料水分散体A」ともいう)を得る工程
工程III:工程IIで得られた顔料水分散体Aを、架橋剤で架橋処理し、顔料含有架橋ポリマー粒子を含有する水系顔料分散体(以下、「水系顔料分散体B」ともいう)を得る工程
【0032】
(工程I)
工程Iでは、まず、架橋前ポリマーを有機溶媒に溶解させ、更に中和剤、顔料、水、及び必要に応じて、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。
ここで用いる有機溶媒に制限はないが、顔料への濡れ性、ポリマーの溶解性、及びポリマーの顔料への吸着性を向上させる観点から、炭素数4以上8以下のケトンが好ましい。
架橋前ポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
【0033】
(中和)
架橋前ポリマーのカルボキシ基の少なくとも一部は中和されることが好ましい。中和する場合、pHは、好ましくは6以上11以下にすることが好ましい。
中和剤としては、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属化合物、アンモニア等が挙げられる。また、ポリマーを予め中和しておいてもよい。
【0034】
中和剤の使用当量(ポリマーの中和度)は、得られる水系顔料分散体Bの保存安定性の観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。
ここで中和剤の使用当量は、下記式によって求めることができる。
中和剤の使用当量(モル%)=〔[中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価(mgKOH/g)×ポリマーの質量(g)/(56×1000)]〕×100
中和剤の使用当量が100モル%以下の場合、該使用当量は中和度と同義であり、上記式で中和剤の使用当量が100モル%を超える場合は、中和剤がポリマーのカルボキシ基に対して過剰であることを意味し、この場合の中和度は100モル%とみなす。
【0035】
(顔料混合物中の各成分の含有量)
顔料混合物中の各成分の含有量は、得られる水系顔料分散体Bの保存安定性、及び生産性を向上させる観点から、以下のとおりである。
顔料の顔料混合物中の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
架橋前ポリマーの顔料混合物中の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは8質量%以下、より好ましくは7質量%以下である。
有機溶媒の顔料混合物中の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上であり、そして、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
水の顔料混合物中の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0036】
架橋前ポリマーに対する顔料の顔料混合物中の質量比〔顔料/架橋前ポリマー〕は、水系顔料分散体Bの保存安定性を更に向上させる観点から、好ましくは40/60以上、より好ましくは50/50以上、更に好ましくは60/40以上であり、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは85/15以下である。
【0037】
(顔料混合物の分散処理)
工程Iにおける分散処理に特に制限はなく、例えば、特開2018-83938号公報の段落〔0032〕に記載の機械力を付与する方法が挙げられる。好ましい分散処理方法としては、アンカー翼、ディスパー翼等の公知の混合撹拌装置で予備分散した後、顔料を小粒径化する観点から、高圧ホモジナイザー等を用いて本分散する方法が挙げられる。
分散処理を行う場合、分散圧力等を制御することにより、顔料を所望の粒径になるように調整することができる。
【0038】
(工程II)
工程IIでは、工程Iで得られた顔料含有ポリマー粒子の分散体から、公知の方法で有機溶媒を除去するが、得られた顔料水分散体A中の有機溶媒は本発明の目的を損なわない限り、多少残存していてもよい。
得られた顔料水分散体Aの不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料水分散体Aの分散安定性を向上させる観点、及び水系顔料分散体Bの調製を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
なお、顔料水分散体Aの固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
顔料水分散体A中の顔料を含有するポリマー粒子の平均粒径は、粗大粒子を低減し、水系インクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは70nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは180nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
なお、前記ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0039】
(工程III)
工程IIIでは、架橋前ポリマーのカルボキシ基の一部又は全部を架橋し、顔料を含有するポリマー粒子の表層部に架橋構造を形成させる。すなわち、本発明に係る架橋ポリマー(A)、(B)は、顔料表面上で架橋前ポリマーと架橋剤との架橋反応によって得られ、顔料を含有するポリマー粒子に含まれる架橋前ポリマーが架橋剤によって架橋された架橋ポリマーとなる。
【0040】
<架橋剤>
架橋剤は、架橋前ポリマーのカルボキシ基と反応する官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上有する化合物が好ましい。
架橋剤の好適例としては、分子中に2以上のエポキシ基、オキサゾリン基、又はイソシアネート基を有する化合物が挙げられるが、分子中に2以上6以下のエポキシ基を有する化合物が好ましく、炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのグリシジルエーテル化合物がより好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが更に好ましい。
水不溶性多官能エポキシ化合物のエポキシ当量は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上であり、そして、好ましくは300以下、より好ましくは220以下、より好ましくは160以下である。
【0041】
(架橋反応)
架橋前ポリマーと架橋剤との架橋反応は、架橋前ポリマーで顔料を分散した後に行うことが好ましい。
その反応温度は、反応の完結と経済性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であり、そして、好ましくは90℃以下である。
架橋ポリマーの架橋度は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。架橋度はポリマーの酸価と架橋剤のエポキシ基の当量から計算される見かけの架橋度である。即ち、架橋度は「架橋剤のエポキシ基のモル当量数/ポリマーのカルボキシ基のモル当量数」の百分比(モル%)である。
【0042】
水系顔料分散体B中の顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、粗大粒子を低減し、水系インクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは70nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは180nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
また、水系インク中の顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、水系顔料分散体B中の顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径と同じであり、好ましい平均粒径の態様は、水系顔料分散体B中の平均粒径の好ましい態様と同じである。
【0043】
水系顔料分散体BのpHは、皮膚刺激性を低減する等の取扱い性の観点から、7.5以上10.5以下であることが好ましい。pHがこの範囲であれば、アニオン性基の解離が促進され、顔料分散体の電荷量が十分であり、水系顔料分散体B中の顔料含有架橋ポリマー粒子の粒径安定性を高めることができる。
pHの測定法に特に制限はないが、ガラス電極を用いたpH測定法がJIS Z8802に規定されており、簡便かつ正確な点から、この方法が好ましい。具体的には、実施例に記載の方法により測定される。
【0044】
[水系インク]
本発明のインクセットは、黒インクを有し、少なくともシアン、イエロー、マゼンタの3色のインクを有するカラーインクを有することが好ましい。
前記水系顔料分散体Bは、そのまま、又は必要に応じて、有機溶媒や水の含有量を調整し、水系インクとして利用することができる。
有機溶媒としては、沸点が好ましくは90℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは260℃以下、より好ましくは240℃以下、更に好ましくは220℃以下であるものが好ましい。当該有機溶媒の具体例としては、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル等が挙げられる。
本発明に係る水系インクには、必要に応じて、水系インクに通常用いられる保湿剤、湿潤剤、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を添加し、更にフィルター等によるろ過処理を行うことができる。
水系インクの各成分の含有量、インク物性は以下のとおりである。
【0045】
(顔料の含有量)
黒インク中の黒顔料及びカラーインク中の有彩色顔料の含有量は、水系インクの画像濃度を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上である。また、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましく7質量%以下である。
(顔料と架橋ポリマーとの合計含有量)
黒インク中の黒顔料と架橋ポリマー(A)との合計含有量、及びカラーインク中の有彩色顔料と架橋ポリマー(B)との合計含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上、より更に好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは8質量%以下である。
【0046】
(水系インク物性)
水系インクの32℃の粘度は、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは3.0mPa・s以上、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9.0mPa・s以下である。
水系インクのpHは、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.2以上であり、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは11以下、より好ましくは10以下である。
【0047】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクセットを用いて記録媒体に記録する方法である。
本発明のインクジェット記録方法においては、本発明のインクセットに装填されたカラーインクは、重ね打ちしても乾燥性に優れ好適に用いられる。カラーインクを吐出して記録する場合、例えば、シアン、マゼンタ、イエローの3色のインクの記録順序には特に制限はなく、いずれの順番で記録してもよい。
本発明のインクセットに装填されるインクは、黒インク又はカラーインクのいずれかに該当し、かつ、全てのインクが黒インクに該当すること、又は全てのインクがカラーインクに該当することはない。一方、全てのインクが本発明に係る黒インク又はカラーインクのいずれかに該当するインクのみからなることが好ましい。
【0048】
本発明に用いられる記録媒体に特に制限はなく、紙媒体、樹脂フィルム等が挙げられる。
紙媒体としては、普通紙、フォーム用紙、コート紙、写真用紙等が挙げられる。
樹脂フィルムとしては、透明合成樹脂フィルムが挙げられ、例えば、ポリエステルフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム等が挙げられる。これらのフィルムは、二軸延伸フィルム、一軸延伸フィルム、無延伸フィルムであってもよい。
これらの中では、生産性の観点から、高速で記録されるフォーム用紙を記録媒体として用いることが好ましい。フォーム用紙は、一般にビジネスフォームの分野で用いられ、連続フォーム用紙、単片フォーム用紙、特殊フォーム用紙等が含まれる。
【0049】
本発明においては、シリアルヘッド方式及びラインヘッド方式のいずれの記録ヘッドも用いることができるが、高速印刷を可能とする観点から、ラインヘッド方式が好ましい。ラインヘッド方式は、ヘッドを固定して、記録媒体を搬送方向に移動させ、この移動に連動してヘッドのノズル開口からインク液滴を吐出させ、記録媒体に付着させる方式であり、画像等をワンパス方式で記録することができる。
インク液滴の吐出方式はピエゾ方式が好ましい。ピエゾ方式では、多数のノズルが、各々圧力室に連通しており、この圧力室の壁面をピエゾ素子で振動させることにより、ノズルからインク液滴を吐出させる。なお、サーマル方式を採用することもできる。
【実施例
【0050】
以下の調製例、製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
【0051】
(1)ポリマーの数平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolumn SuperAW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
【0052】
(2)ポリマーの酸価の測定
電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、電動ビューレット、型番:APB-610)に樹脂をトルエンとアセトン(2+1)を混合した滴定溶剤に溶かし、電位差滴定法により0.1N水酸化カリウム/エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とした。水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から酸価を算出した。
【0053】
(3)顔料を含有する(架橋)ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELSZ-1000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い、キュムラント平均粒径を測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度165°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定濃度が5×10-3質量%(固形分濃度換算)になるように水で希釈して行った。
【0054】
(4)顔料水分散体の固形分濃度の測定
30mlのポリプロピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃、ゲージ圧-0.08MPaの環境下にて2時間維持して、揮発分を除去し、更に室温(25℃)のデシケーター内で15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0055】
(5)顔料水分散体A、水系顔料分散体BのpHの測定
pH電極「6337-10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F-71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、20℃における分散体のpHを測定した。
【0056】
<ポリマーの合成>
合成例1
アクリル酸15.5部、スチレン175.5部、α-メチルスチレン9.0部を混合しモノマー混合液を調製した。反応容器内に、メチルエチルケトン(MEK)20部、2-メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部及びアゾ系ラジカル重合開始剤(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:V-65、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル))2.2部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の前記モノマー混合液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.3部をMEK5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、カルボキシ基を有するポリマー溶液(a)(ポリマーの数平均分子量:12000、酸価:60mgKOH/g、固形分濃度:71質量%)を得た。結果を表1に示す。
【0057】
合成例2~7
合成例1において、表1に示すようにアクリル酸、スチレン、α-メチルスチレンの混合量を変更した以外は、合成例1と同様の手順でポリマー溶液(b)~(g)を得た。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
<顔料水分散体Aの製造>
製造例A1
合成例3で得られたポリマー溶液(c)を減圧乾燥させて得られたポリマー25部をMEK78.6部と混合し、更に5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム水溶液の固形分濃度:16.9%)(中和剤)5.8部を加え、ポリマーのカルボキシ基のモル数に対する水酸化ナトリウムのモル数の割合が50モル%になるように中和した(中和度50モル%)。更にイオン交換水400部を加えた。
更に、カーボンブラック顔料(C.I.ピグメント・ブラック7、キャボット社製)100部を加え、ディスパー(浅田鉄工株式会社製、ウルトラディスパー:商品名)を用いて、20℃でディスパー翼を7000rpmで回転させる条件で60分間攪拌した。
得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で200MPaの圧力で10パス分散処理した。得られた分散液にイオン交換水250部を加え、攪拌した後、減圧下、60℃でMEKを完全に除去し、更に一部の水を除去し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム和光純薬株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去することにより、固形分濃度が20%の顔料水分散体A1を得た。結果を表2に示す。
【0060】
製造例A2~A9、比較製造例A1~A2
製造例A1において、カーボンブラック顔料の代わりに表2に記載の顔料を使用し、ポリマー溶液(c)の代わりに、表1に記載の合成例1、2、4~7で得られたポリマー溶液(a)、(b)、(d)~(g)を減圧乾燥させて得られたポリマーを25部とし、5N水酸化ナトリウム水溶液(中和剤)の添加量を調整し、中和度50モル%とした以外は、製造例A1と同様の手順で顔料水分散体A2~A11を得た。結果を表2に示す。
なお、表2に示す顔料の詳細は、以下のとおりである。
・ブラック:C.I.ピグメント・ブラック7(キャボット社製)
・シアン :C.I.ピグメント・ブルー15:3(DIC株式会社製)
・マゼンタ:C.I.ピグメント・レッド122(大日精化工業株式会社製)
・イエロー:C.I.ピグメント・イエロー74(大日精化工業株式会社製)
【0061】
【表2】
【0062】
<水系顔料分散体Bの製造>
製造例B1
製造例A1で得られた顔料水分散体A1の100部(固形分濃度:20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、1分子内に3個のエポキシ基を有する架橋剤として、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX-321、分子量:302、エポキシ当量:140、水溶率:27%)0.83部(架橋度:60モル%)を加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。5時間経過後、室温まで降温し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム和光純薬株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過して、水系顔料分散体B1を得た。
得られた水系顔料分散体B1を用いて、後述する実施例1の「(1)水系インクの調製」と同様の方法でインクを調製し、得られたインクを用いて、次の方法で保存安定性を評価した。
(保存安定性の評価)
各水系インクを、株式会社マルエム社製のスクリュー管に密栓して70℃に設定した恒温室内にそれぞれ2週間静置した後、平均粒径を測定して、下記式から平均粒径増大率を算出した。この平均粒径増大率が小さいほど顔料粒子の凝集が抑制され、保存安定性が優れている。
平均粒径増大率(%)=〔(保存後のインクの平均粒径-保存前のインクの平均粒径)/保存前のインクの平均粒径〕×100
また、後述する〔インクジェット印刷物の調製〕と同様の方法で印刷物を調製し、試験1と同様の方法で、光学濃度計により黒画像濃度を評価した。結果を表3-1に示す。
【0063】
製造例B2~B17、比較製造例B1~B7
表2に示す顔料水分散体A1~A11を用いて、架橋剤の添加量を調整し、表3-1及び表3-2に示す条件としたこと以外は、製造例B1と同様の手順で水系顔料分散体B2~B24を得た。結果を表3-1及び表3-2に示す。
【0064】
【表3-1】
【0065】
【表3-2】
【0066】
<水系インク、インクセットの調製と評価試験>
実施例1~12、比較例1~2
(1)水系インクの調製
製造例B1~B17、比較製造例B1~B7で得られた水系顔料分散体B1~B24を用いて、水系インク全体に対して、顔料濃度5%、プロピレングリコール18%、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)7%、アセチレノールE100(川研ファインケミカル株式会社製、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキシド10モル付加物)1.0%とし、イオン交換水を加えて、全量が100%になるよう計量した。その後、上記成分をマグネチックスターラーで撹拌してよく混合し、1.2μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム和光純薬株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジで濾過して、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの水系インクを得た。
(2)インクセットの調製
上記(1)で得られた水系インクを表4に示すように組み合わせて、インクセット1~14を得た。
(3)インクセットの評価
得られたインクセット1~14を用いて、下記の方法でインクジェット印刷物を調製し、下記の試験1~3を行った。結果を表4に示す。
【0067】
〔インクジェット印刷物の調製〕
温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境で、インクジェット記録ヘッド(京セラ株式会社製、「KJ4B-HD06MHG-STDV」、ピエゾ式)を装備した印刷評価装置(株式会社トライテック製)に製造例、比較例で得られた水系インクを装填したインクセットを装着した。
ヘッド電圧26V、駆動周波数30kHz、吐出液適量12pl、ヘッド温度32℃、ヘッド解像度600dpi、吐出前フラッシング回数200発、負圧-4.0kPaを設定した。
記録媒体の長手方向と搬送方向が同じになる向きに、記録媒体(日本製紙株式会社製、「NPiフォームNext-IJ」、A4サイズ)を搬送台に減圧で固定した。
印刷命令を前記印刷評価装置に転送し、水系インクを用い、インクジェット記録方式で記録媒体上に、打ち込み量12pl、600×600dpiの高速印刷条件で、各種印刷物を作成した。
【0068】
〔試験1:黒画像濃度の評価〕
黒インクを用いて、100%dutyのベタ画像を印刷した後に、一日放置後した。この印刷物のベタ画像部に対し、光学濃度計(グレタグマクベス社製、「SpectroEye」)を用いて任意の10箇所の画像濃度を測定し、平均値を求めた。
この黒インクの黒画像濃度が大きいほど、黒色インクの印字性能に優れる。
【0069】
〔試験2:重ね打ち印刷による乾燥性の評価)
第1のインクを70%Dutyで30mm×30mmの大きさのベタ画像を印刷(1C)した後、1秒以内に、この第1のインクが記録された部位に重ねて第2のインクを70%Dutyでベタ印刷(2C)した後、1秒以内に、更に第3のインクを70%Dutyで重ね打ちによりベタ印刷(3C、計210%)した。
第3のインクを印刷後、30秒間放置し、印刷画像の上から別の印刷媒体(フォーム用紙、日本製紙株式会社製、「NPiフォームNext-IJ」、A4サイズ)を重ね、更に上から490g(荷重面積43mm×30mm)の荷重をかけた状態で、ベタ印刷画像表面を10回(10往復)移動させた。この重ねた紙のベタ印刷画像表面と接触していた部分の画像濃度(転写濃度)を光学濃度計「SpectroEye」を用いて測定し、5点平均で評価した。この画像濃度(転写濃度)が小さいほど、ベタ画像に由来するインクの転写が少なく、乾燥性に優れる。
第1、第2、第3のインクの組み合わせを(i)シアン、マゼンタ、イエロー、(ii)イエロー、マゼンタ、シアン、(iii)マゼンタ、シアン、イエローで同様に評価し、これら3つの評価結果の最も劣る値(画像濃度(転写濃度)としては最も高い値)を評価値とした。
【0070】
〔試験3:廃インク流動性の評価〕
金属製のトレイ上に黒インクのフラッシングを行い、同じ位置で、その30秒後にシアンインクのフラッシングを行い、その30秒後にマゼンタインクのフラッシングを行い、その30秒後にイエローインクのフラッシングを行った後、30秒間放置した。なお、フラッシングは、全ノズルにつき各々6000回行った。
その後、トレイを45度に傾け、トレイ上に溜まった廃インクの流動性を以下の評価基準により評価した。
(評価基準)
A:トレイを傾けると速やかに流動した。
B:インクの増粘が見られるもの、トレイを傾けた後、3秒未満で流動し始めた。
C:インクの増粘が大きく、トレイを傾けた後、3秒以上後に流動し始めた。
D:インクの増粘が激しく、流動しなかった。
【0071】
【表4】
【0072】
表4から、実施例のインクセットによれば、比較例のインクセットに比べて、黒画像濃度、乾燥性に優れた記録物を得ることができ、また廃インク流動性も優れていることが分かる。