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特許7333249免疫グロブリンFcフラグメント結合を用いたタンパク質及びペプチドの溶解度を改善する方法
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  • 特許-免疫グロブリンFcフラグメント結合を用いたタンパク質及びペプチドの溶解度を改善する方法 図1
  • 特許-免疫グロブリンFcフラグメント結合を用いたタンパク質及びペプチドの溶解度を改善する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】免疫グロブリンFcフラグメント結合を用いたタンパク質及びペプチドの溶解度を改善する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/68 20170101AFI20230817BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230817BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20230817BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20230817BHJP
【FI】
A61K47/68
A61K9/08
A61K38/00
A61K47/60
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019212180
(22)【出願日】2019-11-25
(62)【分割の表示】P 2016560523の分割
【原出願日】2015-03-31
(65)【公開番号】P2020040983
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2019-11-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-26
(31)【優先権主張番号】10-2014-0038032
(32)【優先日】2014-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515022445
【氏名又は名称】ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】リム ヒョン キュ
(72)【発明者】
【氏名】リ ジョン スー
(72)【発明者】
【氏名】キム デ ジン
(72)【発明者】
【氏名】ベ スン ミン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン スン ヨプ
(72)【発明者】
【氏名】クォン セ チャン
【合議体】
【審判長】森井 隆信
【審判官】星 功介
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/133659(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/173422(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/017849(WO,A1)
【文献】特表2013-523722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
CAplus/WPIDS(STN)
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫グロブリンFcフラグメントを生理活性タンパク質又はペプチドに結合させて、免疫グロブリンFcフラグメントが結合されていない生理活性タンパク質又はペプチドに比べてpH5.0~7.0である水溶液において生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度を改善するための、免疫グロブリンFcフラグメントの使用であって、
前記結合させることは、生理活性タンパク質又はペプチドと免疫グロブリンFcフラグメントのN末端をポリエチレングリコールを介して結合させることである、使用。
【請求項2】
免疫グロブリンFcフラグメントがポリエチレングリコールに連結された形態である、請求項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性タンパク質又はペプチドを免疫グロブリンFcフラグメントに結合させるステップを含む、免疫グロブリンFcフラグメントが結合されていない生理活性タンパク質又はペプチドに比べて生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度を改善する方法、及び免疫グロブリンFcフラグメントを含む、免疫グロブリンFcフラグメントを含まない組成物に比べて改善された溶解度を示すことを特徴とする、生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物は溶解している状態でのみ薬理作用を示すことができるので、薬物の溶解度は薬効と密接な関係を有する。水に溶解しやすい薬物の場合、注射剤としても容易に製造でき、精製して服用すると胃腸で溶解するが、難溶性薬物の場合、それを可溶化していない状態で服用すると胃腸でペレットなどの集合体の状態で存在し、単分子として溶解されないので吸収されないことがある。また、難溶性薬物を可溶化していない状態で注射剤として用いると血管が塞がって血栓が生じるため、注射剤として用いることができないので、薬物の溶解度は薬物の剤形化において重要な問題である。
【0003】
薬物の溶解における周知の方法の1つとして、可溶化剤として界面活性剤を用いる方法が挙げられる。界面活性剤は分子内に親油性基と親水性基の両方を有するため、水中で疎水性炭化水素鎖が中心に集まり、親水性基が水と接するように球状のミセル(micelle)を形成するので、ミセル内に薬物を封入することにより薬物を溶解することができる。ただし、界面活性剤を用いるこのような方法は、界面活性剤を高濃度で用いる場合、静脈内の投与に適さないことがある。また、ミセル形成に対する臨界濃度以下にマイクロエマルジョン(microemulsion)の濃度が希釈されると、ミセル内に含まれる薬物の凝集が誘導されることがある(非特許文献1)。よって、界面活性剤を用いず、製剤の濃度変化に関係なく、薬物の溶解度を持続的に増加させる方法の開発が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第97/034631号
【文献】国際公開第96/032478号
【文献】韓国登録特許第0755315号公報
【文献】韓国登録特許第0775343号公報
【文献】韓国登録特許第0824505号公報
【文献】韓国公開特許第10-2012-0137271号公報
【文献】国際公開第2012/169798号
【文献】韓国公開特許第10-2009-0008151号公報
【文献】国際公開第2009/011544号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of Advanced Pharmacy Education & Research 2 (1) 32-67 (2012) ISSN 2249-3379
【文献】H. Neurath, R.L. Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした背景の下、本発明者らは、生理活性タンパク質又はペプチドなどの薬物の溶解度を向上させる方法を開発すべく鋭意努力した結果、生理活性タンパク質又はペプチドに免疫グロブリンFcフラグメントを結合(conjugation)させると、生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度を効果的に増加させることにより、生理活性タンパク質又はペプチドを含む、薬理学的に有効な濃度の製剤を容易に製造できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生理活性タンパク質又はペプチドを免疫グロブリンFcフラグメントに結合させるステップを含む、免疫グロブリンFcフラグメントが結合されていない生理活性タンパク質又はペプチドに比べて生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度を改善する方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、免疫グロブリンFcフラグメントを含む、免疫グロブリンFcフラグメントを含まない組成物に比べて改善された溶解度を示すことを特徴とする、生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度改善用組成物を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により生理活性タンパク質及びペプチドに免疫グロブリンFcフラグメントを結合させると、生理活性タンパク質及びペプチドの溶解度を効果的に改善することができるので、様々な薬物の剤形化に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】インスリン及び持続型インスリン結合体の標準検量曲線を示す図である。
図2】表1の組成を有するインスリン及び持続型インスリン結合体の溶解度を確認した結果を示す図であり、インスリンは0.628mg/mLの溶解度を示し、持続型インスリン結合体はインスリンに換算すると15mg/mLを示す。
図3】配列番号27のオキシントモジュリン誘導体及び前記誘導体-PEG-免疫グロブリンFcフラグメント結合体の標準検量曲線を示す図である。
図4】表4の組成を有する配列番号27のオキシントモジュリン誘導体及び前記誘導体-PEG-免疫グロブリンFcフラグメント結合体の溶解度を確認した結果を示す図であり、オキシントモジュリン誘導体は0.188mg/mLの溶解度を示し、前記結合体はオキシントモジュリンに換算すると11mg/mLを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、生理活性タンパク質又はペプチドを免疫グロブリンFcフラグメントに結合させるステップを含む、免疫グロブリンFcフラグメントが結合されていない生理活性タンパク質又はペプチドに比べて生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度を改善する方法を提供する。
【0012】
一具体例として、本発明による方法に用いられる免疫グロブリンFcフラグメントは、IgG、IgA、IgD、IgE又はIgMに由来するFcフラグメントであることを特徴とする。
【0013】
他の具体例として、本発明による方法に用いられる免疫グロブリンFcフラグメントは、それぞれのドメインがIgG、IgA、IgD、IgE及びIgMからなる群から選択される免疫グロブリンに由来する異なる起源を有するドメインのハイブリッドであることを特徴とする。
【0014】
さらに他の具体例として、本発明による方法に用いられる免疫グロブリンFcフラグメントは、同一起源のドメインからなる単鎖免疫グロブリンで構成された二量体又は多量体であることを特徴とする。
【0015】
さらに他の具体例として、本発明による方法に用いられる免疫グロブリンFcフラグメントは、ヒト非グリコシル化IgG4 Fcフラグメントであることを特徴とする。
【0016】
さらに他の具体例として、本発明による方法は、生理活性タンパク質又はペプチドに連結された非ペプチド性重合体に免疫グロブリンFcフラグメントを結合させるステップを含むことを特徴とする。
【0017】
さらに他の具体例として、本発明による方法で製造した、生理活性タンパク質又はペプチドと免疫グロブリンFcフラグメントが結合された物質は、融合タンパク質の形態であることを特徴とする。
【0018】
さらに他の具体例として、本発明による方法に用いられる非ペプチド性重合体は、ポリエチレングリコールであることを特徴とする。
【0019】
さらに他の具体例として、本発明による方法に用いられる非ペプチド性重合体は、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(ポリ乳酸,polylactic acid)やPLGA(ポリ乳酸-グリコール酸,polylactic-glycolic acid)などの生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする。
【0020】
さらに他の具体例として、本発明による方法は、水溶液において生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度を改善することを特徴とする。
【0021】
さらに他の具体例として、本発明による方法に用いられる水溶液は、クエン酸又は酢酸緩衝液、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート、糖アルコールとしてのマンニトール、等張化剤としての塩化ナトリウム又はメチオニンを含むことを特徴とする。
【0022】
さらに他の具体例として、本発明による方法に用いられる水溶液は、pH5.0~7.0であることを特徴とする。
【0023】
さらに他の具体例として、本発明による方法における前記生理活性タンパク質又はペプチドは、エキセンジン-4、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、インスリン又はオキシントモジュリンであることを特徴とする。
【0024】
さらに他の具体例として、本発明による方法に用いられる水溶液は、界面活性剤をさらに含むことを特徴とする。
【0025】
本発明の他の態様は、免疫グロブリンFcフラグメントを含む、免疫グロブリンFcフラグメントを含まない組成物に比べて改善された溶解度を示すことを特徴とする、生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度改善用組成物を提供する。
【0026】
一具体例として、前記組成物は、生理活性タンパク質又はペプチドが免疫グロブリンFcフラグメントにペプチド性リンカー又は非ペプチド性リンカーを介して連結された、生理活性タンパク質又はペプチドと免疫グロブリンFcフラグメントの結合体を有効成分として含むことを特徴とする。
【0027】
本発明は、生理活性タンパク質又はペプチドを免疫グロブリンFcフラグメントに結合させるステップを含む、免疫グロブリンFcフラグメントが結合されていない生理活性タンパク質又はペプチドに比べて生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度を改善する方法に関する。本発明の方法は、溶媒に界面活性剤を追加しない場合も生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度を効果的に改善する効果を有する。従来のタンパク質医薬品の構成成分である生理活性タンパク質又はペプチド、具体的にはインスリン、オキシントモジュリンなどの場合、体内投与用製剤の一般的なpHの範囲であるpH5~7において低い溶解度を示すので所望の濃度の製剤への製造に困難があり、また注射用製剤においては生体内で沈殿を誘発するので意図しない副作用を引き起こすことがあるという問題があった。しかし、驚くべきことに、前記生理活性タンパク質又はペプチドに免疫グロブリンFcフラグメントを結合させると、前記pHの範囲内で溶解度が増加することが本発明において確認された。すなわち、本発明の方法は、pH5~7の弱酸性領域で低い溶解度を示すインスリン、オキシントモジュリンなどのペプチド又はタンパク質の溶解度を向上させることができるという効果を有する。
【0028】
本発明における「溶解度」とは、生理活性タンパク質又はペプチドが人体への投与に適した溶媒に溶解する程度を意味する。具体的には、特定の温度で与えられた溶媒に対して溶質が飽和した程度を示すものである。溶解度は溶質の飽和濃度を決定することにより測定することができ、例えば溶媒に溶質を過剰量で添加してそれを攪拌して濾過すると、濃度をUV分光器やHPLCなどで測定することができるが、これらに限定されるものではない。生理活性タンパク質又はペプチドが治療用に用いられるためには薬理学的に有効な量で溶媒に溶解することが重要であり、これは凍結乾燥製剤の再構成の際の濃度や、液状製剤の活性物質の濃度などを決定する上で重要な考慮事項となる。
【0029】
本発明は、生理活性タンパク質又はペプチドに免疫グロブリンFcフラグメントを結合させると、前記フラグメントが結合されていない生理活性タンパク質又はペプチドに比べて溶解度が大幅に増加することが確認されたことに基づくものであり、よって水溶液において生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度を改善したことを1つの特徴とする。
【0030】
本発明の一実施例によれば、代表的な生理活性ペプチドとしてインスリン及びオキシントモジュリンを用いて、それに免疫グロブリンFcをそれぞれ結合させると、インスリン及びオキシントモジュリンの溶解度が大幅に増加する結果を示した(図2及び図4)。
【0031】
本発明における「水溶液」とは、生理活性タンパク質又はペプチドを溶解する溶液を意味する。前記水溶液は、生理活性タンパク質又はペプチドを人体に投与するのに適した溶液である。本発明の具体的な一実施形態において、水溶液のpHは中性又は弱酸性、例えばpH5.0~7.0であってもよい。本発明の方法が用いられる水溶液は、その種類が特に限定されるものではないが、クエン酸又は酢酸緩衝液、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート、糖アルコールとしてのマンニトール、等張化剤としての塩化ナトリウム又はメチオニンを含む組成を有してもよい。
【0032】
本発明による方法における前記免疫グロブリンFcフラグメントとは、生理活性タンパク質又はペプチドに非ペプチド性重合体結合されたものであってもよい。具体的には、前記免疫グロブリンFcフラグメントは、生理活性タンパク質又はペプチドに連結された非ペプチド性重合体を介して結合されてもよく、免疫グロブリンFcフラグメント-非ペプチド性重合体が生理活性タンパク質又はペプチドに連結されてもよい。
【0033】
本発明における「非ペプチド性重合体」とは、繰り返し単位が少なくとも1つ結合された生体適合性重合体を意味し、前記繰り返し単位はペプチド結合を除く任意の共有結合により互いに連結される。
【0034】
本発明に使用可能な非ペプチド性重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(ポリ乳酸,polylactic acid)やPLGA(ポリ乳酸-グリコール酸,polylactic-glycolic acid)などの生分解性高分子、脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよく、ポリエチレングリコールであることが好ましいが、これらに限定されるものではない。当該分野で公知のこれらの誘導体や当該分野の技術水準で容易に作製できる誘導体も本発明に含まれる。
【0035】
前記非ペプチド性重合体は、免疫グロブリンFcフラグメントがキャリアとしての役割を十分に果たせるように、生体内タンパク質分解酵素により切断されにくい、生体内タンパク質分解酵素に抵抗性のある重合体を用いることが好ましく、このような重合体であれば制限なく用いられる。このような非ペプチド性重合体の分子量は、1~100kDaの範囲、より具体的には1~20kDaの範囲である。また、前記免疫グロブリンFcフラグメントに結合される本発明の非ペプチド性重合体は、1種類の重合体だけでなく、異なる種類の重合体の組み合わせが用いられてもよい。
【0036】
非ペプチド性重合体は、免疫グロブリンFcフラグメント、及びタンパク質又はペプチド薬物に結合される反応基を有し、免疫グロブリンFcフラグメントとタンパク質又はペプチド薬物を互いに連結させるリンカーの役割を果たすことができる。
【0037】
非ペプチド性重合体をリンカーとして用いて生理活性タンパク質又はペプチドを免疫グロブリンFcフラグメントに結合させることは、(1)非ペプチド性重合体を生理活性タンパク質もしくはペプチド、又は免疫グロブリンFcフラグメントのいずれかと反応させるステップと、(2)ステップ(1)の反応混合物を生理活性タンパク質もしくはペプチド、又は免疫グロブリンFcフラグメントの他のいずれかと反応させるステップとを順次行うことにより達成することができる。
【0038】
ただし、ステップ(1)で両末端に反応基を有する非ペプチド性重合体に免疫グロブリンFcフラグメントを反応させると、具体的な反応条件によってはステップ(1)の生成物の一部において、免疫グロブリンFcフラグメントの2つのN末端が非ペプチド性重合体の両末端に全て結合する橋(bridge)の形態になることがある。このような橋の形態のステップ(1)の生成物は、生理活性タンパク質又はペプチドを連結させる2次カップリング反応を不可能にするか、カップリング収率を大幅に低下させる。よって、一実施形態においては、免疫グロブリンFcフラグメントと非ペプチド性重合体間に橋の形態の反応が起こることを防止するために、非ペプチド性重合体と生理活性タンパク質又はペプチドを先に反応させ、その後非ペプチド性重合体が連結された生理活性タンパク質又はペプチドを免疫グロブリンFcフラグメントと反応させる順序で行ってもよい。しかし、本発明の溶解度改善方法を必ずこのような順序で行わなければならないわけではない。
【0039】
ステップ(1)において、非ペプチド性重合体を生理活性タンパク質もしくはペプチド、又は免疫グロブリンFcフラグメントに結合させるために用いる化学反応には公知の方法を用いることができ、例えば両末端に反応基を有する非ペプチド性重合体と生理活性タンパク質もしくはペプチド、又は免疫グロブリンFcフラグメントを0~25℃で1~16時間反応させてもよい。このような反応により、生理活性タンパク質もしくはペプチド、又は免疫グロブリンFcフラグメントに1つの非ペプチド性重合体が反応基を介して共有結合される。
【0040】
ステップ(1)において、生理活性タンパク質又はペプチドと非ペプチド性重合体を互いに連結させる反応は、有機溶媒を含む反応溶液で行われてもよい。ここで、前記有機溶媒としては当業界で通常用いられる有機溶媒を全て用いることができ、これらに限定されるものではないが、好ましくは第一級、第二級、第三級アルコールを全て用いることができ、また炭素数1~10のアルコールを用いることができ、前記アルコールはイソプロパノール、エタノール又はメタノールであることがより好ましい。前記有機溶媒は、生理活性タンパク質又はペプチドの種類に応じて好ましい有機溶媒を適宜選択することができる。また、前記有機溶媒は、生理活性タンパク質又はペプチドと非ペプチド性重合体間の連結のために用いられるものであり、これらに限定されるものではないが、反応溶液総量に対して、好ましくは10~60%含まれ、より好ましくは30~55%含まれ、さらに好ましくは45~55%含まれる。さらに、前記反応溶液のpHは、これらに限定されるものではないが、好ましくは4.5~7.0、より好ましくは5.0~6.5である。
【0041】
また、反応に関与する反応基の種類によっては、還元剤をさらに含んで前記ステップを行ってもよい。
【0042】
具体的には、本発明における還元剤とは、非ペプチド性重合体の反応基であるアルデヒドとポリペプチド(生理活性タンパク質又はペプチド,免疫グロブリンFcフラグメント)のアミノ基が結合して生成される可逆的なイミン二重結合を還元することにより共有結合を生成することのできる当該分野で公知の全ての還元剤を意味し、本発明の目的上、非ペプチド性重合体が生理活性タンパク質もしくはペプチド、又は免疫グロブリンFcフラグメントと共有結合できるようにするために反応溶液に含まれる。前記還元剤は、当業界で通常用いられる還元剤を全て用いることができ、これらに限定されるものではないが、シアノ水素化ホウ素酸ナトリウム(Sodium cyanoborohydride)、ボラン-ピリジン錯体(Borane pyridine complex)、水素化ホウ素ナトリウム(Sodium borohydride)、ボラン-ジメチルアミン錯体(Borane dimethylamine complex)、ボラン-トリメチルアミン錯体(Borane trimethylamine complex)又はトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(Sodium triacetoxyborohydride)であることが好ましい。前記還元剤は、生理活性タンパク質もしくはペプチド、又は免疫グロブリンFcフラグメントの種類と反応溶媒に応じて好ましい還元剤を適宜選択することができる。
【0043】
また、前記還元剤は、生理活性タンパク質もしくはペプチドと非ペプチド性重合体、又は免疫グロブリンFcフラグメントと非ペプチド性重合体間の連結反応(ステップ(1)の反応)時に最終濃度1~20mM、カップリング反応(ステップ(2)の反応)時に最終濃度1~100mMで含まれてもよい。
【0044】
一方、前記非ペプチド性重合体は、両末端にそれぞれ免疫グロブリンFcフラグメント及び生理活性タンパク質又はペプチド薬物に結合される反応基、具体的には生理活性タンパク質もしくはペプチド、又は免疫グロブリンFcフラグメントのN末端、あるいはリシンに位置するアミノ基に結合されるか、システインのチオール基に結合される反応基を含む。このような両末端の反応基は、反応アルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド(maleimide)基及びスクシンイミド(succinimide)誘導体からなる群から選択されることが好ましい。前記、スクシンイミド誘導体としては、スクシンイミジルカルボキシメチル、スクシンイミジルバレレート、スクシンイミジルメチルブタノエート、スクシンイミジルメチルプロピオネート、スクシンイミジルブタノエート、スクシンイミジルプロピオネート、N-ヒドロキシスクシンイミド又はスクシンイミジルカーボネートが用いられてもよいが、これらに限定されるものではなく、免疫グロブリンFcフラグメントと生理活性タンパク質又はペプチドのアミノ酸残基のアミノ基又はチオール基に連結される反応基であれば制限なく含まれる。
【0045】
特に、前記非ペプチド性重合体が両末端に反応アルデヒド基の反応基を有する場合、非特異的反応を最小限に抑え、非ペプチド性重合体の両末端に生理活性タンパク質又はペプチド及び免疫グロブリンがそれぞれ結合するのに効果的である。アルデヒド結合による還元性アルキル化で生成された最終産物は、アミド結合により連結されたものよりはるかに安定している。アルデヒド反応基は、低いpHではN末端に選択的に反応し、高いpH、例えばpH9.0の条件ではリシン(lysine, Lys)残基と共有結合を形成することができる。
【0046】
前記非ペプチド性重合体のリンカーの両末端の反応基は、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。例えば、一末端にはマレイミド基、他の末端にはアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基又はブチルアルデヒド基を有してもよい。両末端にヒドロキシ反応基を有するポリエチレングリコールを非ペプチド性重合体として用いる場合、公知の化学反応により前記ヒドロキシ基を前述した様々な反応基として活性化するか、商業的に入手可能な修飾された反応基を有するポリエチレングリコールを用いることにより、本発明の持続型タンパク質結合体を製造することができる。
【0047】
また、特にこれらに限定されるものではないが、前記非ペプチド性重合体の反応基は、各生理活性タンパク質又はペプチド及び免疫グロブリンFcフラグメントのN末端のアミノ基又はリシン残基の側鎖のアミノ基に結合することができる。ここで、生理活性タンパク質又はペプチド及び免疫グロブリンFcフラグメントにおけるリシン残基の位置は、特定の位置に限定されるものでなく、また前記リシン残基も、天然リシンだけでなく、非ペプチド性重合体の反応基に連結されるアミノ基を有するものであれば、非天然アミノ酸及びLys誘導体が制限なく含まれる。
【0048】
一方、ステップ(1)で生理活性タンパク質又はペプチドを非ペプチド性重合体と先に反応させる場合、生理活性タンパク質又はペプチドと非ペプチド性重合体を1:1~1:20のモル比で反応させ、ステップ(2)ではステップ(1)の生成物である生理活性タンパク質又はペプチドと非ペプチド性重合体の連結体と免疫グロブリンFcフラグメントを1:0.5~1:10のモル比で反応させることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0049】
また、ステップ(1)を行ってステップ(2)を行う前に、ステップ(1)の生成物から生理活性ポリペプチド-非ペプチド性重合体の連結体又は免疫グロブリンFcフラグメント-非ペプチド性重合体の連結体を分離精製する過程を含んでもよい。本過程は、当業界で公知のクロマトグラフィーなどの様々な物質分離方法を用いて行うことができる。
【0050】
ステップ(2)で生理活性ポリペプチド-非ペプチド性連結体を免疫グロブリンFcフラグメントに連結させる場合、pH条件は、特にこれに限定されるものではないが、pH4.0~9.0とすることができる。
【0051】
一方、前記生理活性タンパク質又はペプチドと免疫グロブリンFcフラグメントは、融合タンパク質の形態で結合された形態であってもよい。
【0052】
本発明における「融合タンパク質」とは、別個にコードされた少なくとも2つの遺伝子を結合(joining)させて作製したタンパク質を意味する。前記融合タンパク質は、組換えDNA技術により人工的に作製することができる。また、前記融合タンパク質は、生理活性タンパク質又はペプチドと免疫グロブリンFcフラグメントがリンカーを介さずに連結された形態であってもよく、ペプチド性リンカーを介して連結された形態であってもよい。
【0053】
ここで、ペプチド性リンカーとは、融合タンパク質を構成する2種類のタンパク質を互いに連結するペプチドを意味する。前記ペプチド性リンカーは、融合タンパク質の構成要素である2つのタンパク質が融合タンパク質の形態でも独立して折りたたまれる(folding)ものであってもよく、それぞれの機能を維持できるように含まれるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0054】
本発明における「免疫グロブリンFcフラグメント」とは、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域、重鎖定常領域1(CH1)及び軽鎖定常領域1(CL1)を除いたものであり、重鎖定常領域2(CH2)及び重鎖定常領域3(CH3)部分を意味し、重鎖定常領域にヒンジ(hinge)部分を含むこともある。また、本発明の免疫グロブリンFcフラグメントは、天然のものと実質的に同等又は向上した効果を有するものであれば、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除き、一部又は全部の重鎖定常領域1(CH1)及び/又は軽鎖定常領域1(CL1)を含む拡張されたFcフラグメントであってもよい。さらに、CH2及び/又はCH3に相当する非常に長い一部のアミノ酸配列が除去された領域であってもよい。すなわち、本発明の免疫グロブリンFcフラグメントは、1)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、2)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、3)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、4)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、5)1つ又は2つ以上のドメインと免疫グロブリンヒンジ領域(又はヒンジ領域の一部)との組み合わせ、6)重鎖定常領域の各ドメインと軽鎖定常領域の二量体であってもよい。
【0055】
本発明の目的上、前記免疫グロブリンFcフラグメントは、これに結合する薬物、すなわち生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度を増加させる効果をもたらす物質としての意味を有し、さらに薬物のキャリアとしての意味をも有する。
【0056】
本発明における「キャリア」とは、薬物と共に結合される物質を意味し、一般に薬物に結合されることにより薬物の生理活性を増減させるか、除去する。しかし、本発明の目的上、本発明における前記キャリアとは、結合する薬物の生理活性の減少を最小限に抑え、薬物の生体内安定性及び皮下投与時に投与部位から血中への移動を遅延させることによる効力の持続性を増加させると共に、タンパク質とペプチドの溶解度を改善するためのものを意味する。このような薬物のキャリアとして、従来から脂質(lipid)、重合体(polymer)など様々な物質が研究されてきたが、本発明は、結合される薬物の生体内持続性を増加させ、生体内活性の減少を最小限に抑え、さらに溶解度を最大限に増加させるためのキャリアとして免疫グロブリンFcフラグメントを提供することを特徴とする。また、前記免疫グロブリンFcフラグメントは、生体内で代謝される生分解性のポリペプチドであるので、薬物のキャリアとして安全に用いられるという利点も有する。これらの特性から、生理活性タンパク質又はペプチドに免疫グロブリンFcフラグメントが結合された結合体は、本発明において持続型結合体と命名される。
【0057】
また、本発明において生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度の改善のために用いられる免疫グロブリンFcフラグメントは、リンカーを介して、又は生理活性タンパク質又はペプチドに直接結合させることができる。ここで、免疫グロブリンFcフラグメントが結合される生理活性タンパク質又はペプチドの位置は、特に限定されるものではなく、タンパク質又はペプチド内、又はN末端もしくはC末端のいずれの部位であってもよい。もっとも、本発明の方法により製造された生理活性タンパク質又はペプチドと免疫グロブリンFcフラグメントの結合体が人体に投与されたときに薬理活性を示すように、用いる生理活性タンパク質又はペプチドの種類に応じてその生理活性を阻害しない部位を選択することが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。
【0058】
また、免疫グロブリンFcフラグメントは、免疫グロブリン分子全体に比べて相対的に分子量が小さいので、結合体の作製、精製及び収率の面で有利であるだけでなく、アミノ酸配列は抗体毎に異なるため、高い非均質性を示すFab部分を除去することにより、物質の同質性が非常に高くなり、血中抗原性を誘発する可能性が低くなるという効果も期待することができる。
【0059】
また、本発明の免疫グロブリンFcフラグメントには、天然アミノ酸配列だけでなく、その配列誘導体(derivatives)も含まれる。アミノ酸配列誘導体とは、天然アミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸残基が異なる配列を有するものを意味し、自然に発生したものであってもよく、人為的に発生させたものであってもよい。免疫グロブリンのFcフラグメントには、欠失、挿入、非相補もしくは相補置換又はそれらの組み合わせによる誘導体が含まれる。挿入は、通常約1個~20個のアミノ酸の連続配列で行われるが、それより大きな挿入も可能である。欠失は、通常約1個~30個の残基で行われる。これらの免疫グロブリンFcフラグメントの配列誘導体を作製する技術は、本発明に参照として取り込まれる特許文献1、2などに開示されている。分子の活性を全体的に変化させないタンパク質及びペプチドにおけるアミノ酸交換は当該分野において公知である(非特許文献2)。最も一般的な交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thy/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly間の交換である。場合によっては、リン酸化、硫酸化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化、アミド化(amidation)などにより修飾(modification)されてもよい。
【0060】
前述した免疫グロブリンFc誘導体は、本発明のFcフラグメントと同じ生物学的活性を示すが、Fcフラグメントの熱、pHなどに対する構造的安定性を向上させた誘導体である。
【0061】
また、このような免疫グロブリンFcフラグメントは、ヒト、及びウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物の生体内から分離した天然のものから得てもよく、形質転換された動物細胞もしくは微生物から得られた組換えたもの又はその誘導体であってもよい。ここで、天然のものから得る方法においては、全免疫グロブリンをヒト又は動物の生体から分離し、その後タンパク質分解酵素で処理することにより得ることができる。パパイン(papain)で処理するとFab及びFcに切断され、ペプシン(pepsin)で処理するとpF’c及びF(ab’)2に切断される。これらは、サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)などを用いてFc又はpF’cを分離することができる。本発明による免疫グロブリンFcフラグメントは、ヒト由来の免疫グロブリンFcフラグメントが微生物から得られた組換え免疫グロブリンFcフラグメントであることが好ましい。
【0062】
また、免疫グロブリンFcフラグメントは、天然糖鎖、天然のものに比べて増加した糖鎖、天然のものに比べて減少した糖鎖、又は糖鎖が除去された形態であってもよい。このような免疫グロブリンFc糖鎖の増減又は除去には、化学的方法、酵素学的方法、微生物を用いた遺伝工学的手法などの通常の方法が用いられる。ここで、Fcから糖鎖が除去された免疫グロブリンFcフラグメントは、補体(c1q)の結合力が著しく低下し、抗体依存性細胞傷害又は補体依存性細胞傷害が低減又は除去されるので、生体内で不要な免疫反応を誘発しない。このようなことから、糖鎖が除去されるか、非グリコシル化された免疫グロブリンFcフラグメントは、薬物のキャリアとしての本発明の目的に適する。
【0063】
本発明における「糖鎖の除去(deglycosylation)」とは、酵素で糖を除去した免疫グロブリンFcフラグメントを意味し、「非グリコシル化(aglycosylation)」とは、原核細胞、好ましくは大腸菌で産生されてグリコシル化されていない免疫グロブリンFcフラグメントを意味する。
【0064】
一方、免疫グロブリンFcフラグメントはヒト起源、又はウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物起源であり、ヒト起源であることが好ましい。また、免疫グロブリンFcフラグメントは、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM由来であるか、又はそれらの組み合わせ(combination)もしくはそれらのハイブリッド(hybrid)によるFcフラグメントであってもよい。ヒト血液に最も豊富なIgG又はIgM由来であることが好ましく、リガンド結合タンパク質の半減期を延長させることが知られているIgG由来であることが最も好ましい。
【0065】
一方、本発明における「組み合わせ(combination)」とは、二量体又は多量体を形成する際に、同一起源の単鎖免疫グロブリンFcフラグメントをコードするポリペプチドが異なる起源の単鎖ポリペプチドに結合することを意味する。すなわち、IgG Fc、IgA Fc、IgM Fc、IgD Fc及びIgE Fcフラグメントからなる群から選択される少なくとも2つのフラグメントから二量体又は多量体を作製することができる。
【0066】
本発明における「ハイブリッド(hybrid)」とは、単鎖の免疫グロブリンFcフラグメント内に、少なくとも2つの異なる起源の免疫グロブリンFcフラグメントに相当する配列が存在することを意味する。本発明においては、様々な形態のハイブリッドが可能である。すなわち、IgG Fc、IgM Fc、IgA Fc、IgE Fc及びIgD FcのCH1、CH2、CH3及びCH4からなる群から選択される1つ~4つのドメインのハイブリッドが可能であり、ヒンジ領域を含んでもよい。
【0067】
一方、IgGもIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のサブクラスに分けられ、本発明にはそれらの組み合わせ及びそれらのハイブリッドも含まれる。IgG2及びIgG4サブクラスであることが好ましく、補体依存性細胞傷害(complement-dependent cytotoxicity, CDC)などのエフェクター機能のほとんどないIgG4のFcフラグメントであることが最も好ましい。
【0068】
一方、本発明の免疫グロブリンFcフラグメントは、そのN末端にヒンジ領域が連結された組換え形態であってもよいが、その場合、凝集体の形態で発現した免疫グロブリンFcフラグメントは、活性の損失をもたらすことなく、開始コドンによりコードされる開始メチオニン残基が除去された活性型の二量体又は単量体の形態のFcフラグメントに可溶化(solublization)及びリフォールディング(refolding)されるという利点がある。
【0069】
前述したように、本発明に適した免疫グロブリンFcフラグメントについての説明は、本発明に参照として取り込まれる特許文献3、4及び5に詳細に記述されている。
【0070】
すなわち、薬物のキャリアとして本発明によるインスリン及びオキシントモジュリンとの融合タンパク質に用いる上で最も好ましい免疫グロブリンFcフラグメントは、ヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFcフラグメントである。ヒト由来のFcフラグメントは、ヒト生体において抗原として作用し、それに対する新規な抗体を生成するなどの好ましくない免疫反応を起こす非ヒト由来のFcフラグメントに比べて好ましい。
【0071】
本発明における「生理活性タンパク質又はペプチド」とは、遺伝子発現又は生理機能を調節するタンパク質又はペプチドを意味する。本発明の目的上、前記生理活性タンパク質又はペプチドは、溶解度を増加させるタンパク質又はペプチドであれば制限なく含まれる。
【0072】
一方、本発明におけるアミノ酸は、IUPAC-IUB命名法に従って次のように略語で記載した。
アラニン Ala又はA
アルギニン Arg又はR
アスパラギン Asn又はN
アスパラギン酸 Asp又はD
システイン Cys又はC
グルタミン酸 Glu又はE
グルタミン Gln又はQ
グリシン Gly又はG
ヒスチジン His又はH
イソロイシン Ile又はI
ロイシン Leu又はL
リシン Lys又はK
メチオニン Met又はM
フェニルアラニン Phe又はF
プロリン Pro又はP
セリン Ser又はS
トレオニン Thr又はT
トリプトファン Trp又はW
チロシン Tyr又はY
バリン Val又はV
【0073】
また、本明細書全体を通して、アミノ酸を示す通常の1文字及び3文字のコードが全て用いられる。
【0074】
さらに、前記生理活性タンパク質又はペプチドは、天然生理活性タンパク質又はペプチド以外にも、その誘導体、変異体、フラグメントなどが全て含まれる概念である。
【0075】
本発明における「誘導体」とは、天然生理活性タンパク質又はペプチドのアミノ酸配列において、アミノ酸残基の一部の基が化学的に置換(例;alpha-methylation, alpha-hydroxylation)、除去(例;deamination)、又は修飾(例;N-methylation)された形態を意味する。前記誘導体には、天然生理活性ペプチドと配列相同性がないにもかかわらず前記天然生理活性ペプチドの活性を有するペプチド模倣体の形態も含まれる。
【0076】
本発明における「ペプチド模倣体」とは、ペプチドを模倣したタンパク質様鎖を意味する。前記ペプチド模倣体の例としては、D-アミノ酸を含むD-ペプチド模倣体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記ペプチド模倣体は、ペプチド模倣体の作製に関する当業界で公知の技術を用いて容易に作製することができる。
【0077】
本発明における「変異体」とは、天然タンパク質又はペプチドとアミノ酸配列が少なくとも1つ異なるタンパク質又はペプチドであり、天然タンパク質の活性を示すものを意味する。前記変異体は、天然タンパク質又はペプチドから一部のアミノ酸の置換(substitution)、追加(addition)、除去(deleteion)及び修飾(modification)のいずれかの方法又はそれらの方法の組み合わせにより作製することができる。ここで、追加されるアミノ酸は天然に存在しないアミノ酸(例えば、D型アミノ酸)であってもよい。
【0078】
本発明における「フラグメント」とは、天然タンパク質又はペプチドのN末端又はC末端の1つ又はそれ以上のアミノ酸が除去された形態を意味し、天然タンパク質の活性を有するものであることが好ましい。
【0079】
このような生理活性タンパク質又はペプチドは、天然又は組換え起源のいかなる方法で作製されたものであってもよく、例えば大腸菌などの原核細胞を宿主細胞として用いて作製した組換えタンパク質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
一方、前記生理活性タンパク質又はペプチドは、オキシントモジュリン、エキセンジン-4(exendin-4)、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、GLP-2、グルコース依存性インスリン分泌ペプチド(glucose-dependent insulinotropic peptide, GIP)などのインスリン分泌ペプチド、インスリン、グルカゴン、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone, PTH)、又はカルシトニン(Calcitonin)であってもよいが、これらに限定されるものではない。また、前述したように、前記生理活性タンパク質又はペプチドは、天然生理活性タンパク質又はペプチド以外にも、その誘導体、変異体、フラグメントなどが全て含まれる概念である。
【0081】
本発明における「インスリン」とは、体内の血糖が高いときに膵臓から分泌され、肝臓、筋肉、脂肪組織で糖を吸収してグリコーゲンとして貯蔵し、脂肪を分解してエネルギー源として用いることを抑制して血糖調節機能を有するペプチドを意味する。前記ペプチドには、天然インスリン、基礎インスリン(basal insulin)、インスリンアゴニスト(agonist)、前駆体(precursor)、誘導体(derivatives)、フラグメント(fragments)、変異体(variants)などが含まれる。
【0082】
本発明における「天然インスリン」とは、膵臓から分泌されるホルモンであり、一般に細胞内へのグルコース取り込みを促進し、脂肪の分解を抑制し、体内の血糖を調節する役割を果たす。インスリンは、血糖調節機能のないプロインスリン(proinsulin)前駆体の形態からプロセシングを経て血糖調節機能を有するインスリンとなる。インスリンアミノ酸配列は次の通りである。
A鎖:Gly-Ile-Val-Glu-Gln-Cys-Cys-Thr-Ser-Ile-Cys-Ser-Leu-Tyr-Gln-Leu-Glu-Asn-Tyr-Cys-Asn(配列番号1)
B鎖:Phe-Val-Asn-Gln-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Phe-Phe-Tyr-Thr-Pro-Lys-Thr(配列番号2)
【0083】
本発明における「基礎インスリン(basal insulin)」とは、1日の血糖値(daily blood glucose level)を正常なレベルに調節するペプチドであり、例えばレベミル(levemir)、ランタス(lantus)、デグルデク(degludec)などが挙げられる。
【0084】
本発明における「インスリンアゴニスト」とは、インスリンの構造に関係なく、インスリンの生体内の受容体に結合してインスリンと同じ生物学的活性を示す物質を意味する。
【0085】
前記インスリン変異体は、インスリンとアミノ酸配列が少なくとも1つ異なるペプチドであり、体内で血糖調節機能を有するペプチドである。
【0086】
また、インスリン誘導体とは、天然インスリンと比較して、少なくとも80%のアミノ酸配列相同性を有し、アミノ酸残基の一部の基が化学的に置換、除去又は修飾された形態であり、体内で血糖を調節する機能を有するペプチドを意味する。さらに、インスリンフラグメントは、インスリンのN末端又はC末端に1つ又はそれ以上のアミノ酸が除去された形態であり、体内で血糖調節機能を有する。
【0087】
インスリンアゴニスト、誘導体、フラグメント及び変異体において用いる各作製方法は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。例えば、アミノ酸配列が少なくとも1つ異なり、N末端アミノ酸残基が脱アミノ化(deamination)された体内で血糖調節機能を有するペプチドも含まれる。本発明に用いられるインスリンは、組換え法で生産したものであってもよく、Solid phase合成法で合成して生産したものであってもよい。
【0088】
また、本発明に用いられるインスリンは、非ペプチド性重合体が結合されたものであってもよく、このような非ペプチド性重合体は、本発明においてリンカーとして用いられる。前記非ペプチド性重合体をリンカーとして用いて免疫グロブリンFcフラグメントを連結することにより、インスリンの活性を保持すると共に、溶解度を向上させ、さらには安定性までも向上させることができる。遺伝子組換え技術を用いたペプチドリンカーも用いることができる。
【0089】
また、本発明は、生理活性タンパク質又はペプチドに免疫グロブリンFcフラグメントを結合させて前記タンパク質又はペプチドの溶解度を向上させることを特徴とするものであり、特に結合位置に制限はないが、インスリンの場合はA鎖を修飾すると活性が減少して安定性が低下することがあるので、B鎖に免疫グロブリンFcフラグメントがリンカーを介して、又は介さずに連結される。特に、インスリンB鎖のN末端に非ペプチド性リンカーを介して、又は介さずに免疫グロブリンFcフラグメントが連結されるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0090】
本発明における「オキシントモジュリン」とは、グルカゴンの前駆体であるプレグルカゴン(pre-glucagon)から作られるペプチドを意味し、天然オキシントモジュリン、前駆体(precursor)、誘導体(derivatives)、フラグメント(fragments)、変異体(variants)などが含まれる。
【0091】
前記オキシントモジュリンは、HSQGTFTSDYSKYLDSRRAQDFVQWLMNTKRNRNNIAのアミノ酸配列(配列番号3)を有することが好ましい。
【0092】
前記オキシントモジュリン誘導体には、前記オキシントモジュリンの配列の一部のアミノ酸を付加、欠失又は置換して修飾することにより、GLP-1受容体とグルカゴン受容体の両方を活性化させることができ、天然オキシントモジュリンに比べて前記各受容体を高いレベルで活性化できる、ペプチド、ペプチド誘導体、ペプチド模倣体などが含まれる。本発明におけるオキシントモジュリン誘導体は、例えば配列番号4~36のいずれかのアミノ酸配列を有する。
【0093】
また、前記オキシントモジュリンフラグメントは、体内で血糖調節機能を有する。
【0094】
さらに、前記オキシントモジュリン変異体は、天然オキシントモジュリンとアミノ酸配列が少なくとも1つ異なるペプチドであり、GLP-1及びグルカゴン受容体活性化機能を有する。オキシントモジュリン変異体、誘導体及びフラグメントにおいて用いられる各作製方法は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。例えば、アミノ酸配列が少なくとも1つ異なり、N末端アミノ酸残基が脱アミノ化(deamination)されたGLP-1受容体とグルカゴン受容体の両方に対する活性化機能を有するペプチドも含まれる。
【0095】
本発明におけるオキシントモジュリン誘導体には、配列番号3のアミノ酸配列においてアミノ酸の置換、付加、欠失又は翻訳後修飾(例えば、メチル化、アシル化、ユビキチン化、分子内の共有結合)が生じ、グルカゴン及びGLP-1受容体を同時に活性化し得る任意のペプチドが含まれる。前記アミノ酸の置換又は付加の際に、ヒトタンパク質において通常観察される20種のアミノ酸だけでなく、非定型又は非天然アミノ酸を用いることができる。非定型アミノ酸の商業的出所には、Sigma-Aldrich、ChemPep、Genzyme pharmaceuticalsが含まれる。これらのアミノ酸が含まれるペプチドと定型的なペプチド配列は、民間のペプチド合成会社、例えば米国のAmerican peptide companyやBachem、又は韓国のAnygenにおいて合成及び購入することができる。
【0096】
具体的な一態様において、本発明のオキシントモジュリン誘導体は、一般式1のアミノ酸を含む新規なペプチドである。
【0097】
R1-X1-X2-GTFTSD-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-X14-X15-X16-X17-X18-X19-X20-X21-X22-X23-X24-R2(一般式1)
【0098】
上記式において、R1はヒスチジン、デスアミノ-ヒスチジル(desamino-histidyl)、ジメチル-ヒスチジル(N-dimethyl-histidyl)、β-ヒドロキシイミダゾプロピオニル(beta-hydroxyimidazopropionyl)、4-イミダゾアセチル(4-imidazoacetyl)、β-カルボキシイミダゾプロピオニル(beta-carboxy imidazopropionyl)又はチロシンであり、X1はAib(aminoisobutyric acid)、D-アラニン、グリシン、Sar(N-methylglycine)、セリン又はD-セリンであり、X2はグルタミン酸又はグルタミンであり、X3はロイシン又はチロシンであり、X4はセリン又はアラニンであり、X5はリシン又はアルギニンであり、X6はグルタミン又はチロシンであり、X7はロイシン又はメチオニンであり、X8はアスパラギン酸又はグルタミン酸であり、X9はグルタミン酸、セリン、α-メチルグルタミン酸又は欠失した配列であり、X10はグルタミン、グルタミン酸、リシン、アルギニン、セリン又は欠失した配列であり、X11はアラニン、アルギニン、バリン又は欠失した配列であり、X12はアラニン、アルギニン、セリン、バリン又は欠失した配列であり、X13はリシン、グルタミン、アルギニン、α-メチルグルタミン酸又は欠失した配列であり、X14はアスパラギン酸、グルタミン酸、ロイシン又は欠失した配列であり、X15はフェニルアラニン又は欠失した配列であり、X16はイソロイシン、バリン又は欠失した配列であり、X17はアラニン、システイン、グルタミン酸、リシン、グルタミン、α-メチルグルタミン酸又は欠失した配列であり、X18はトリプトファン又は欠失した配列であり、X19はアラニン、イソロイシン、ロイシン、セリン、バリン又は欠失した配列であり、X20はアラニン、リシン、メチオニン、グルタミン、アルギニン又は欠失した配列であり、X21はアスパラギン又は欠失した配列であり、X22はアラニン、グリシン、トレオニン又は欠失した配列であり、X23はシステイン、リシン又は欠失した配列であり、X24はアラニン、グリシン及びセリンの組み合わせで構成された2~10個のアミノ酸を有するペプチド又は欠失した配列であり、R2はKRNRNNIA(配列番号37)、GPSSGAPPPS(配列番号38)、GPSSGAPPPSK(配列番号39)、HSQGTFTSDYSKYLD(配列番号40)、HSQGTFTSDYSRYLDK(配列番号41)、HGEGTFTSDLSKQMEEEAVK(配列番号42)又は欠失した配列である(ただし、一般式1のアミノ酸配列が配列番号3と同じ場合は除く)。
【0099】
本発明のオキシントモジュリン誘導体は、野生型オキシントモジュリンのグルカゴン受容体及びGLP-1受容体に対する活性を向上させるために、配列番号3で表されるアミノ酸配列の1番目のアミノ酸であるヒスチジンのα炭素を欠失させた4-イミダゾアセチル(4-imidazoacetyl)、N末端アミノ基を欠失させたデスアミノ-ヒスチジル(desamino-histidyl)、N末端アミノ基を2つのメチル基で修飾したジメチル-ヒスチジル(N-dimethyl-histidyl)、N末端アミノ基をヒドロキシ基に置換したβ-ヒドロキシイミダゾプロピオニル(beta-hydroxyimidazopropionyl)、又はN末端アミノ基をカルボキシ基に置換したβ-カルボキシイミダゾプロピオニル(beta-carboxy imidazopropionyl)に置換することができる。また、GLP-1受容体に結合する部位を、疎水性結合とイオン結合を強化するアミノ酸に置換するか、又はそれらを組み合わせることができる。さらに、オキシントモジュリン配列の一部の配列をGLP-1のアミノ酸配列又はエキセンジン-4(Exendin-4)のアミノ酸配列に置換してGLP-1受容体の活性を向上させることができる。
【0100】
また、オキシントモジュリン配列の一部の配列を、αヘリックスを強化する配列に置換することができる。例えば、一般式1のアミノ酸配列の10、14、16、20、24及び28番目のアミノ酸を、αヘリックスをサポートすることが知られているTyr(4-Me)、Phe、Phe(4-Me)、Phe(4-Cl)、Phe(4-CN)、Phe(4-NO2)、Phe(4-NH2)、Phg、Pal、Nal、Ala(2-thienyl)又はAla(benzothienyl)で構成されるアミノ酸又はアミノ酸誘導体に置換することができる。
【0101】
ここで、Tyr(4-Me)は、チロシンの誘導体であり、チロシンのヒドロキシル基の水素がメチル基に置換された形態である。また、Phe(4-Me)は、フェニルアラニンの誘導体であり、フェニルアラニンのパラ位がメチル基に置換された形態である。さらに、Phe(4-Cl)は、フェニルアラニンの誘導体であり、フェニル基のパラ位が塩素に置換された形態である。さらに、Phe(4-CN)は、フェニルアラニンの誘導体であり、フェニル基のパラ位がシアノ基(cyanide)に置換された形態である。さらに、Phe(4-NO2)は、フェニルアラニンの誘導体であり、フェニル基のパラ位がニトロ基に置換された形態である。さらに、Phe(4-NH2)は、フェニルアラニンの誘導体であり、フェニル基のパラ位がアミンに置換された形態である。
【0102】
さらに、Phgはフェニルグリシンである。さらに、Palは、アラニンの誘導体であり、アラニンのβ-メチル基がピリジル基に置換された形態である。さらに、Nalは、アラニンの誘導体であり、アラニンのβ-メチル基がナフチル基に置換された形態である。さらに、Ala(2-thienyl)は、アラニンの誘導体であり、アラニンのβ-メチル基が2-チエニル基(2-thienyl group)に置換された形態である。さらに、Ala(benzothienyl)は、アラニンの誘導体であり、アラニンのβ-メチル基がベンゾチエニル基に置換された形態である。
【0103】
αヘリックス構造を強化するために挿入するアミノ酸又はアミノ酸誘導体の種類や数には制限がない。また、具体的な一実施形態においては、アミノ酸残基間に分子内の環を形成することができる。例えば、10番目と14番目、12番目と16番目、16番目と20番目、20番目と24番目、及び24番目と28番目の位置に分子内の環を形成することができ、その際に用いる残基としては、例えばグルタミン酸とリシンの対を該当位置に置換して用いることができる。本発明の方法により溶解度を改善できるオキシントモジュリン誘導体において、その中に形成される分子内の環の数は特に限定されるものではない。
【0104】
一実施形態において、本発明の方法により溶解度を改善できるオキシントモジュリン又はその誘導体は、一般式2~6から選択されるアミノ酸配列を有するオキシントモジュリン誘導体であってもよい。具体的な一態様において、本発明のオキシントモジュリン誘導体は、オキシントモジュリンのアミノ酸配列にエキセンジン又はGLP-1の配列に置換した一般式2のアミノ酸を含むペプチドである。
【0105】
R1-A’-R3(一般式2)
【0106】
他の具体的な態様において、本発明のオキシントモジュリン誘導体は、オキシントモジュリンのアミノ酸配列の一部と、エキセンジン又はGLP-1の配列の一部とを適当なアミノ酸リンカーで連結した一般式3のアミノ酸を含むペプチドである。
【0107】
R1-B’-C’-R4(一般式3)
【0108】
さらに他の具体的な態様において、本発明のオキシントモジュリン誘導体は、オキシントモジュリンのアミノ酸配列の一部をGLP-1受容体との結合力を向上させるアミノ酸に置換したものを用いることができる。例えば、天然オキシントモジュリンの26番目のロイシンはGLP-1受容体と疎水性結合を行うが、疎水性を増加させるアミノ酸であるIle又はValに置換することにより、GLP-1受容体に対する結合力を向上させることができる。より具体的には、このように受容体結合力を向上(D6置換)させたオキシントモジュリンペプチドを含むペプチドを一般式4に示す。
【0109】
R1-SQGTFTSDYSKYLD-D1-D2-D3-D4-D5-LFVQW-D6-D7-N-D8-R3(一般式4)
【0110】
さらに他の具体的な態様において、本発明のオキシントモジュリン誘導体は、固有のオキシントモジュリンのGLP-1受容体とグルカゴン受容体の活性を向上させるために、アミノ酸配列の一部を欠失させるか、アミノ酸の一部を挿入するか、アミノ酸の一部を他のアミノ酸に置換した一般式5を含むペプチドである。
【0111】
R1-E1-QGTFTSDYSKYLD-E2-E3-RA-E4-E5-FV-E6-WLMNT-E7-R5(一般式5)
【0112】
一般式2~5において、R1は一般式1における構成と同一であり、A’はSQGTFTSDYSKYLDSRRAQDFVQWLMNT(配列番号43)、SQGTFTSDYSKYLDEEAVRLFIEWLMNT(配列番号44)、SQGTFTSDYSKYLDERRAQDFVAWLKNT(配列番号45)、GQGTFTSDYSRYLEEEAVRLFIEWLKNG(配列番号46)、GQGTFTSDYSRQMEEEAVRLFIEWLKNG(配列番号47)、GEGTFTSDLSRQMEEEAVRLFIEWAA(配列番号48)及びSQGTFTSDYSRQMEEEAVRLFIEWLMNG(配列番号49)から構成される群から選択され、B’はSQGTFTSDYSKYLDSRRAQDFVQWLMNT(配列番号43)、SQGTFTSDYSKYLDEEAVRLFIEWLMNT(配列番号44)、SQGTFTSDYSKYLDERRAQDFVAWLKNT(配列番号45)、GQGTFTSDYSRYLEEEAVRLFIEWLKNG(配列番号46)、GQGTFTSDYSRQMEEEAVRLFIEWLKNG(配列番号47)、GEGTFTSDLSRQMEEEAVRLFIEWAA(配列番号48)、SQGTFTSDYSRQMEEEAVRLFIEWLMNG(配列番号49)、GEGTFTSDLSRQMEEEAVRLFIEW(配列番号50)及びSQGTFTSDYSRYLD(配列番号51)からなる群から選択され、C’はアラニン、グリシン及びセリンの組み合わせで構成された2~10個のアミノ酸を有するペプチドであり、D1はセリン、グルタミン酸又はアルギニンであり、D2はアルギニン、グルタミン酸又はセリンであり、D3はアルギニン、アラニン又はバリンであり、D4はアルギニン、バリン又はセリンであり、D5はグルタミン、アルギニン又はリシンであり、D6はイソロイシン、バリン又はセリンであり、D7はメチオニン、アルギニン又はグルタミンであり、D8はトレオニン、グリシン又はアラニンであり、E1はセリン、Aib、Sar、D-アラニン又はD-セリンであり、E2はセリン又はグルタミン酸であり、E3はアルギニン又はリシンであり、E4はグルタミン又はリシンであり、E5はアスパラギン酸又はグルタミン酸であり、E6はグルタミン、システイン又はリシンであり、E7はシステイン、リシン又は欠失した配列であり、R3はKRNRNNIA(配列番号37)、GPSSGAPPPS(配列番号38)又はGPSSGAPPPSK(配列番号39)であり、R4はHSQGTFTSDYSKYLD(配列番号40)、HSQGTFTSDYSRYLDK(配列番号41)又はHGEGTFTSDLSKQMEEEAVK(配列番号42)であり、R5はKRNRNNIA(配列番号37)、GPSSGAPPPS(配列番号38)、GPSSGAPPPSK(配列番号39)又は欠失した配列である(ただし、一般式2~5のアミノ酸配列が配列番号3と同じ場合は除く)。
【0113】
本発明のオキシントモジュリン誘導体は、一般式6のペプチドであることが好ましい。
【0114】
R1-X1-X2-GTFTSD-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-X14-X15-X16-X17-X18-X19-X20-X21-X22-X23-X24-R2(一般式6)
【0115】
一般式6において、R1はヒスチジン、デスアミノ-ヒスチジル(desamino-histidyl)、4-イミダゾアセチル(4-imidazoacetyl)又はチロシンであり、X1はAib(aminoisobutyric acid)、グリシン、セリン又はD-セリンであり、X2はグルタミン酸又はグルタミンであり、X3はロイシン又はチロシンであり、X4はセリン又はアラニンであり、X5はリシン又はアルギニンであり、X6はグルタミン又はチロシンであり、X7はロイシン又はメチオニンであり、X8はアスパラギン酸又はグルタミン酸であり、X9はグルタミン酸、α-メチルグルタミン酸又は欠失した配列であり、X10はグルタミン、グルタミン酸、リシン、アルギニン又は欠失した配列であり、X11はアラニン、アルギニン又は欠失した配列であり、X12はアラニン、バリン又は欠失した配列であり、X13はリシン、グルタミン、アルギニン、α-メチルグルタミン酸又は欠失した配列であり、X14はアスパラギン酸、グルタミン酸、ロイシン又は欠失した配列であり、X15はフェニルアラニン又は欠失した配列であり、X16はイソロイシン、バリン又は欠失した配列であり、X17はアラニン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、α-メチルグルタミン酸又は欠失した配列であり、X18はトリプトファン又は欠失した配列であり、X19はアラニン、イソロイシン、ロイシン、バリン又は欠失した配列であり、X20はアラニン、リシン、メチオニン、アルギニン又は欠失した配列であり、X21はアスパラギン又は欠失した配列であり、X22はトレオニン又は欠失した配列であり、X23はシステイン、リシン又は欠失した配列であり、X24はグリシンで構成された2~10個のアミノ酸を有するペプチド又は欠失した配列であり、R2はKRNRNNIA(配列番号37)、GPSSGAPPPS(配列番号38)、GPSSGAPPPSK(配列番号39)、HSQGTFTSDYSKYLD(配列番号40)、HSQGTFTSDYSRYLDK(配列番号41)、HGEGTFTSDLSKQMEEEAVK(配列番号42)又は欠失した配列である(ただし、一般式6のアミノ酸配列が配列番号3と同じ場合は除く)。
【0116】
本発明のオキシントモジュリン誘導体は、配列番号4~36のペプチドからなる群から選択されるものであることがより好ましい。
【0117】
オキシントモジュリンは、GLP-1とグルカゴンの2つのペプチド活性を有し、GLP-1にはインスリン分泌による血糖降下効力があるが、グルカゴンには血糖上昇効力があり、GLP-1には食物摂取抑制と胃排出遅延、グルカゴンには脂肪分解及びエネルギー代謝量増加による体重減少効力など異なる生物学的効能がある。よって、1つのペプチドに前述した2つのペプチドが存在する場合、いずれか一方の効力が大きいと望ましくない効力を発揮することがある。例えば、グルカゴンの効力がGLP-1の効力より大きいと血糖が上昇することがあり、GLP-1の効力が大きいと吐気や嘔吐などの副作用が大きくなることがある。また、2つのペプチドの活性比率によって全体の効力が変化し得る。
【0118】
本発明における「インスリン分泌ペプチド」とは、インスリン分泌機能を有するペプチドを意味する。前記インスリン分泌ペプチドは、膵臓β細胞のインスリンの合成及び発現を刺激することができる。このようなインスリン分泌ペプチドの例として、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)、エキセンジン-3(exendin-3)、エキセンジン-4(exendin-4)、イミダゾ-アセチルエキセンジン-4(Imidazoacetyl(CA)exendin-4)、又はグルコース依存性インスリン分泌ペプチド(glucose-dependent insulinotropic peptide, GIP)が挙げられるが、インスリン分泌機能を有するペプチドであればいかなるものでもよく、これらに限定されるものではない。本発明に用いられるインスリン分泌ペプチドには、天然インスリン分泌ペプチドだけでなく、その誘導体、変異体又はフラグメントの形態が全て含まれ、その一般的な内容については前述した通りである。
【0119】
このようなGLP-1、エキセンジン-3又はエキセンジン-4、及びその誘導体に関しては、オキシントモジュリン誘導体の例について記述した特許文献6(又は特許文献7)、及びインスリン分泌ペプチド誘導体の例について記述した特許文献8(又は特許文献9)に開示されている内容が全て含まれ、上記特許の明細書全体が本発明に参照として取り込まれるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
本発明における「グルカゴン」とは、血糖値を引き上げるペプチドホルモンを意味する。前記グルカゴンは、肝臓においてグリコーゲンをブドウ糖に分解して血糖量を増加させる作用を有する。
【0121】
一方、天然グルカゴンは下記配列を有する。
His-Ser-Gln-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Tyr-Ser-Lys-Tyr-Leu-Asp-Ser-Arg-Arg-Ala-Gln-Asp-Phe-Val-Gln-Trp-Leu-Met-Asn-Thr(配列番号52)
【0122】
また、本発明に用いられるグルカゴンには、天然グルカゴンだけでなく、その誘導体、変異体又はフラグメントの形態が全て含まれ、その一般的な内容については前述した通りである。
【0123】
本発明における「副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone, PTH)」とは、副甲状腺が分泌するホルモンであり、血中カルシウム濃度を増加させる活性を有する。前記副甲状腺ホルモンのアミノ酸配列などの情報については、米国国立衛生研究所のGenBankなどの公知のデータベースから得ることができる。また、前記副甲状腺ホルモンには、天然副甲状腺ホルモンだけでなく、その誘導体、変異体又はフラグメントの形態が全て含まれる。
【0124】
本発明における「カルシトニン(Calcitonin)」とは、血液中のカルシウム濃度を調節する甲状腺ホルモンであり、血中カルシウム濃度を低下させる活性を有する。前記カルシトニンのアミノ酸配列などの情報については、米国国立衛生研究所のGenBankなどの公知のデータベースから得ることができる。また、前記カルシトニンには、天然カルシトニンだけでなく、その誘導体、変異体、又はフラグメントの形態が全て含まれる。
【0125】
一方、本発明による方法は、界面活性剤を含まなくても生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度を効果的に増加させることができるが、溶解度をさらに増加させるために界面活性剤を共に用いてもよい。
【0126】
すなわち、水溶液に界面活性剤を共に含ませて生理活性タンパク質又はペプチドに免疫グロブリンFcフラグメントが結合された持続型結合体を封入したミセル(micelle)を形成させることにより、前記結合体の溶解度をさらに増加させてもよい。
【0127】
また、本発明の他の態様は、免疫グロブリンFcフラグメントを含む、免疫グロブリンFcフラグメントを含まない組成物に比べて改善された溶解度を示すことを特徴とする、生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度改善用組成物に関する。
【0128】
ここで、前記組成物は、生理活性タンパク質又はペプチドと免疫グロブリンFcフラグメントがペプチド性リンカー又は非ペプチド性リンカーで連結された、生理活性タンパク質又はペプチドと免疫グロブリンFcフラグメントの結合体を有効成分として含むことを特徴とする。
【0129】
本発明の一実施例においては、代表的な生理活性ペプチドであるインスリン及びオキシントモジュリンを用いて、それらに免疫グロブリンFcをそれぞれ結合させた場合に、弱酸性のpHでインスリン及びオキシントモジュリンの溶解度を増加させることができるか否かを確認した。その結果、免疫グロブリンFcフラグメントを結合させると、そうでない場合に比べてインスリン及びオキシントモジュリンの溶解度が大幅に増加した(表2及び3,図2,表5及び6,図4)。これらの結果は、本発明の方法がタンパク質又はペプチドの溶解度を向上させることができること、特に中性や弱酸性の条件で溶解度が非常に低いため薬理学的に有効な濃度に作製することが困難であったタンパク質又はペプチドの溶解度を画期的に向上させることができることを示すものである。
【0130】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0131】
[実施例1]
インスリン及び持続型インスリン結合体の溶解度評価
(1)持続型インスリン結合体の作製
インスリン粉末を10mM HClに溶解し、その後3.4K propion-ALD2 PEG(プロピオンアルデヒド基を2つ有するPEG,NOF社,日本)をインスリンB鎖のN末端にペグ化(PEGylation)させるために、インスリン:PEGのモル比を1:2とし、インスリン濃度を5mg/mlとして、4℃で約2時間反応させた。ここで、反応は50mMクエン酸ナトリウム(pH5.0)、45%イソプロパノールにおいて行われ、2~20mMの濃度のシアノ水素化ホウ素酸ナトリウム還元剤を添加して反応させた。反応液はクエン酸ナトリウム(pH3.0)バッファとKCl濃度勾配を用いたSP-HP(GE Healthcare)カラムにかけて精製した。インスリン-PEG-免疫グロブリンFcフラグメント結合体を作製するために、モノペグ化(mono-PEGylated)インスリンと免疫グロブリンFcフラグメントのモル比を1:1.2とし、総タンパク質濃度を20mg/mlとして、常温で13時間反応させた。ここで、反応液は100mM HEPES、22mMリン酸カリウム、pH8.2であり、還元剤として20mMシアノ水素化ホウ素酸ナトリウムを添加した。
【0132】
反応終了後に、反応液は第1次としてTris-HCl(pH7.5)バッファとNaCl濃度勾配を用いたQ sepharode HP(GE Healthcare)カラムにかけ、第2次としてTris-HCl(pH7.5)バッファと硫酸アンモニウムの濃度勾配を用いたSource 15 ISO(GE Healthcare)にかけてインスリン-PEG-免疫グロブリンFc結合体を最終精製した。
【0133】
(2)インスリン及び持続型インスリン結合体の溶解度評価の実験
インスリン及び持続型インスリン結合体の溶解度を確認するために、表1の組成でそれぞれインスリン及び持続型インスリン結合体の標準品及び試験物質を作製した。
【0134】
前記インスリン及び持続型インスリン結合体試験物質は、pH6.0であり、酢酸緩衝液、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート、糖アルコールとしてのマンニトール、等張化剤としての塩化ナトリウムを含む組成を有する。また、表2及び3の定量値に従って常温で溶解させ、完全に溶解していないインスリン試験物質は遠心分離後にその上清のみ回収して溶解度試験に用いた。
【0135】
ここで、インスリン試験物質の理論定量値のうち最大定量値は、持続型インスリン結合体100mg/mLをインスリンに換算すると定量値が約10mg/mLとなるが、この値を最大定量値に選定し、最大定量値で溶解したインスリン試験物質を希釈し続けて異物やペレットがなくなった完全溶解時点のインスリン量(0.008mg/mL)を最小定量値に選定した。
【0136】
逆相クロマトグラフィー法(Reverse Phase-High Performance Liquid Chromatography, RP-HPLC)を用いて、図1に示すインスリン及び持続型インスリン結合体の標準検量曲線(Standard curve)を先に確認した。逆相クロマトグラフィー法で確認されたインスリン及び持続型インスリン結合体試験物質のピーク面積値を標準検量曲線に代入してインスリン及び持続型インスリン結合体の定量値を計算した。その結果を表2及び3並びに図2に示す。
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
【表3】
【0140】
表2及び3から分かるように、持続型インスリン結合体剤形バッファに溶解した持続型インスリン結合体試験物質の定量値は理論値と実際の測定値が類似しているのに対して、持続型インスリン結合体剤形バッファに溶解したインスリン試験物質の定量値は理論値と実際の測定値に大きな差が確認された(最大で約16倍の差)。また、持続型インスリン結合体剤形バッファにインスリン試験物質を溶解させた場合、0.008mg/mLを除く他の全てにおいて溶解後に遠心分離するとペレットが確認された。
【0141】
これらの結果から分かるように、持続型インスリン結合体のキャリアとして用いられた免疫グロブリンFcフラグメントにより溶解度が改善された。
【0142】
[実施例2]
オキシントモジュリン及び持続型オキシントモジュリン結合体の溶解度評価
(1)持続型オキシントモジュリン誘導体結合体の作製
MAL-10K-ALD PEG(NOF,日本)を配列番号27のオキシントモジュリン誘導体のアミノ酸配列の30番目のシステイン残基にペグ化させるために、前記オキシントモジュリン誘導体とMAL-10K-ALD PEGのモル比を1:1とし、オキシントモジュリン誘導体の濃度を3mg/mLとして、4℃で1時間反応させた。ここで、反応は50mMトリス(Tris)(pH7.5)に60%イソプロパノールが添加された環境下で行われた。反応終了後に、前記反応液をクエン酸ナトリウム(pH3.0)バッファとKCl濃度勾配を用いたSP HP(GE healthcare, Sweden)にかけてシステインにモノペグ化されたオキシントモジュリン誘導体を精製した。
【0143】
次に、前述したように精製されたモノペグ化オキシントモジュリン誘導体と免疫グロブリンFcのモル比を1:4とし、タンパク質濃度を20mg/mLとして、4℃で16時間反応させた。ここで、反応は100mM Potassium phosphate(pH6.0)に還元剤である20mM SCBが添加された環境下で行われた。反応終了後に、前記反応液は第1次としてビストリスバッファとNaCl濃度勾配を用いたButyl sepharose FF精製カラム(GE healthcare, Sweden)にかけ、第2次としてクエン酸ナトリウムバッファと硫酸アンモニウムの濃度勾配を用いたSource ISO精製カラム(GE healthcare, Sweden)にかけてオキシントモジュリン誘導体-PEG-免疫グロブリンFcを含む結合体を精製した。
【0144】
(2)オキシントモジュリン及び持続型オキシントモジュリン結合体の溶解度評価の実験
配列番号27のオキシントモジュリン誘導体及び持続型オキシントモジュリン誘導体結合体の溶解度を確認するために、表4の組成でそれぞれオキシントモジュリン誘導体及び持続型オキシントモジュリン誘導体結合体の標準品及び試験物質を作製した。
【0145】
前記オキシントモジュリン誘導体及び持続型オキシントモジュリン誘導体結合体試験物質は、pH5.6であり、クエン酸緩衝液、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート、糖アルコールとしてのマンニトール、メチオニンを含む組成を有する。また、表5及び6の定量値に従って常温で溶解させ、完全に溶解していないオキシントモジュリン誘導体試験物質は遠心分離後にその上清のみ回収して溶解度試験に用いた。
【0146】
ここで、オキシントモジュリン誘導体試験物質の理論定量値のうち最大定量値は、持続型オキシントモジュリン誘導体結合体80mg/mLをオキシントモジュリン誘導体に換算すると定量値が約5mg/mLとなるが、この値を最大定量値に選定し、最大定量値で溶解したオキシントモジュリン誘導体試験物質を希釈し続けて異物やペレットがなくなった完全溶解時点のオキシントモジュリン誘導体量(0.008mg/mL)を最小定量値に選定した。
【0147】
逆相クロマトグラフィー法を用いて、図3に示すオキシントモジュリン誘導体及び持続型オキシントモジュリン誘導体結合体の標準検量曲線(Standard curve)を先に確認した。逆相クロマトグラフィー法で確認されたオキシントモジュリン誘導体及び持続型オキシントモジュリン誘導体結合体試験物質のピーク面積値を標準検量曲線に代入してオキシントモジュリン誘導体及び持続型オキシントモジュリン誘導体結合体の定量値を計算した。
【0148】
【表4】
【0149】
【表5】
【0150】
【表6】
【0151】
表5及び6並びに図4から分かるように、持続型オキシントモジュリン結合体剤形バッファに溶解した持続型オキシントモジュリン誘導体結合体試験物質の定量値は理論値と実際の測定値が類似しているのに対して、持続型オキシントモジュリン結合体剤形バッファに溶解したオキシントモジュリン誘導体試験物質の定量値は理論値と実際の測定値に大きな差が確認された(最大で約27倍の差)。また、持続型オキシントモジュリン結合体剤形バッファにオキシントモジュリン誘導体試験物質を溶解させた場合、0.008mg/mLを除く他の全てにおいて溶解後に遠心分離するとペレットが確認された。これらの結果から分かるように、持続型オキシントモジュリン誘導体結合体のキャリアとして用いられた免疫グロブリンFcフラグメントによりオキシントモジュリン誘導体の溶解度が改善された。
【0152】
これらの結果は、本発明の生理活性タンパク質及びペプチドのキャリアとして用いられる免疫グロブリンFcフラグメントがタンパク質及びペプチドの溶解度を効果的に改善できることを示すものである。
【0153】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は、明細書ではなく特許請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態を含むものであると解釈すべきである。
次に、本発明の好ましい態様を示す。
1. 生理活性タンパク質又はペプチドを免疫グロブリンFcフラグメントに結合させるステップを含む、免疫グロブリンFcフラグメントが結合されていない生理活性タンパク質又はペプチドに比べて生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度を改善する方法。
2. 前記免疫グロブリンFcフラグメントは、IgG、IgA、IgD、IgE又はIgMに由来するFcフラグメントである上記1に記載の方法。
3. 前記免疫グロブリンFcフラグメントは、それぞれのドメインがIgG、IgA、IgD、IgE及びIgMからなる群から選択される免疫グロブリンに由来する異なる起源を有するドメインのハイブリッドである上記2に記載の方法。
4. 前記免疫グロブリンFcフラグメントは、同一起源のドメインからなる単鎖免疫グロブリンで構成された二量体又は多量体である上記2に記載の方法。
5. 前記免疫グロブリンFcフラグメントは、ヒト非グリコシル化IgG4 Fcフラグメントである上記4に記載の方法。
6. 前記結合させるステップは、生理活性タンパク質又はペプチドと免疫グロブリンFcフラグメントを非ペプチド性重合体を介して結合させるものである上記1に記載の方法。
7. 前記方法により製造した、生理活性タンパク質又はペプチドと免疫グロブリンFcフラグメントが結合された物質は、融合タンパク質の形態である上記1に記載の方法。
8. 前記非ペプチド性重合体は、ポリエチレングリコールである上記6に記載の方法。
9. 前記非ペプチド性重合体は、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(ポリ乳酸,polylactic acid)やPLGA(ポリ乳酸-グリコール酸,polylactic-glycolic acid)などの生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択される上記6に記載の方法。
10. 前記方法は、水溶液において生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度を改善する上記1に記載の方法。
11. 前記水溶液は、クエン酸又は酢酸緩衝液、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート、糖アルコールとしてのマンニトール、及び等張化剤としての塩化ナトリウム又はメチオニンを含む上記10に記載の方法。
12. 前記水溶液は、pH5.0~7.0である上記10に記載の方法。
13. 前記生理活性タンパク質又はペプチドは、エキセンジン-4、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、インスリン又はオキシントモジュリンである上記1に記載の方法。
14. 免疫グロブリンFcフラグメントを含む、免疫グロブリンFcフラグメントを含まない組成物に比べて改善された溶解度を示すことを特徴とする、生理活性タンパク質又はペプチドの溶解度改善用組成物。
15. 前記組成物は、生理活性タンパク質又はペプチドが免疫グロブリンFcフラグメントにペプチド性リンカー又は非ペプチド性リンカーを介して連結された、生理活性タンパク質又はペプチドと免疫グロブリンFcフラグメントの結合体を有効成分として含む上記14に記載の組成物。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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