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特許7333258角度測定デバイスの基準方向を判定する方法およびデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】角度測定デバイスの基準方向を判定する方法およびデバイス
(51)【国際特許分類】
   G01C 19/00 20130101AFI20230817BHJP
   G01C 19/5776 20120101ALI20230817BHJP
   G01C 17/38 20060101ALI20230817BHJP
   G01C 21/28 20060101ALN20230817BHJP
【FI】
G01C19/00 Z
G01C19/5776
G01C17/38 P
G01C21/28
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019224143
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2020197521
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】1907968.0
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508296554
【氏名又は名称】アトランティック・イナーシャル・システムズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Atlantic Inertial Systems Limited
【住所又は居所原語表記】Clittaford Road,Southway,Plymouth,Devon PL6 6DE,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー ヘンダーソン
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-017984(JP,A)
【文献】特開2011-185899(JP,A)
【文献】特開2013-170903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/00-19/72
G01C 17/38
G01C 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角度測定デバイスの基準方向を判定する方法であって、
剛構造であって、その第1の点に固定された、全地球的航法衛星システム用のアンテナを有する前記剛構造を提供すること、
前記剛構造上の第2の点に、前記角度測定デバイスを固定することであって、前記第2の点が前記第1の点から少なくとも0.5メートルだけ離れ、前記角度測定デバイスの受感軸が、前記第1の点と前記第2の点との間の方向と整列していない、前記角度測定デバイスを固定すること、
前記角度測定デバイスの前記受感軸周りの前記アンテナの回転運動を引き起こすように、前記剛構造を回転させながら、前記全地球的航法衛星システムから速度測定データを取得し、前記角度測定デバイスから角運動速度測定データを取得すること、および
前記速度測定データと前記角運動速度測定データとを使用して、前記角度測定デバイスの基準方向を判定することを含む、方法。
【請求項2】
前記第2の点が前記第1の点から少なくとも1メートルだけ離れ、より好ましくは少なくとも1.5メートルだけ離れている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記剛構造がロッドであり、好ましくは、実質的に直線形のロッドである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記剛構造が枢着部を備え、前記剛構造を回転させることが、前記剛構造を前記枢着部の周りに回転させることを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記枢着部が前記角度測定デバイスの近くに位置している、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記角度測定デバイスがジャイロスコープであり、任意選択でMEMSジャイロスコープである、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記角度測定デバイスが少なくとも2つの角度測定デバイスを含み、好ましくは少なくとも3つの角度測定デバイスを含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記角度測定デバイスがさらに、少なくとも1つの直線加速度計を含み、好ましくは3次元位置測定のために配置された少なくとも2つまたは3つの直線加速度計を含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記角運動速度測定データおよび速度測定データが取得されている間に、前記直線加速度計または各直線加速度計からの加速度データが、前記角度測定デバイスの任意の位置移動を補正するために使用される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記角度測定デバイスが慣性計測装置であり、好ましくは3つのジャイロスコープと3つの直線加速度計とを備える、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記剛構造を回転させることが、前記剛構造を実質的に円運動で連続的に回転させることを含み、任意選択で地面に平行に回転させることを含む、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記剛構造を回転させることが、前記剛構造を倒立振り子として前記アンテナの上で回転させることを含み、任意選択で実質的に垂直な円弧に回させることを含む、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記剛構造を回転させることが、前記アンテナを円弧に沿って前後に移動させるように、前記剛構造を振動させることを含む、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記剛構造を回転させることが、判定される前記基準方向の精度を改善するための反復測定値を取得するように、前記剛構造を同じ運動によって繰り返し回転させることを含む、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
角度測定デバイスの基準方向を判定するデバイスであって、
剛構造であって、その第1の点に固定された、全地球的航法衛星システム用のアンテナを有する前記剛構造と、
前記剛構造上の第2の点に、前記角度測定デバイスの受感軸が、前記第1の点と前記第2の点との間の方向と整列しないように、前記角度測定デバイスを取り付けるための取付け点であって、前記第2の点が前記第1の点から少なくとも0.5メートル離れている、前記取付け点と、
前記角度測定デバイスの前記受感軸周りのアンテナの回転運動を引き起こすように、前記剛構造が回転する間に、前記全地球的航法衛星システムから速度測定データを取得し、前記角度測定デバイスから角運動速度測定データを取得すること、および
前記速度測定データと前記角運動速度測定データとを使用して、前記角度測定デバイスの基準方向を判定すること、を行うように構成された処理デバイスと、
を備える、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、方位を判定するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
方位探知(通常は「北方位検出」のことを言うが、他の基準方向についても同様に実行可能である)は、正確なナビゲーションのため、例えば、局所的な方位を判定するため、および/または、離れた位置または物体への方向を判定するために重要である。方位探知は、固定された静的な観測システムかまたはポータブル機(例えばハンドヘルドデバイス)で使用できる。高度な北方位検出モジュールは、磁気計の代わりにジャイロコンパスを使用する。これにより、地球の磁場の変動による誤差や、または磁場に対する影響が不明であるかもしくは補正が困難である局所的な磁気デバイスによる誤差が回避される。加えて、磁気計ベースのシステムは、絶えず動いている磁北に対する方向を提供するため、さらなる誤差が発生し、さらなる補正を必要とする。その一方で、ジャイロコンパスは、真北(true North)、すなわち地球の回転軸によって定義される北を判定する。
【0003】
北方位検出は、慣性計測装置(IMU)の基準を設定するのに特に役立つ。そのようなシステムを作動させると、線加速度および角回転率(3つの加速度計と3つのジャイロスコープとを備えた完全な3軸IMUを想定)の測定および統合が行われて、作動後のIMUの位置および姿勢の変更内容を提供する。ただし、絶対的な位置決定および方位の提供には、IMUは、それらの累積された変更内容を加えることができる基準位置および基準姿勢を必要とする。本開示は、そのような基準方向、例えば北(または、より一般に3次元姿勢方向基準)を見つけ出すためのプロセスに関する。
【0004】
ジャイロスコープは、その慣性位置に対して角運動速度(すなわち回転率)を測定する。ジャイロスコープには、様々な原理に基づいて動作する多くの種類がある。これらには、標準的な機械式ジャイロスコープ(すなわちジンバルに取り付けられた回転ホイール)、サニャック効果に基づいて動作する光ファイバジャイロ(FOG)およびリングレーザジャイロ(RLG)の両方を含む光ジャイロスコープ、ならびにコリオリ効果に基づいて動作する半球状共振ジャイロ(HRG)およびマイクロメカニカルジャイロ(MEMS)を含む振動ジャイロスコープが含まれる。
【0005】
全地球的航法衛星システム(GNSS)は、衛星の一群によって送信される信号を使用して受信アンテナの位置を判定する測位システムであり、衛星の既知の(定期的に更新される)位置情報を、送信信号にエンコードされた時間信号とともに使用する。全地球測位システム、Galileo、GLONASS、BeiDou-2などといった、いくつかのそのようなGNSSシステムが存在し、または進展中である。
【0006】
GNSSは、(特にキャリア位相速度が使用される場合)北を基準とした基準系での非常に正確な速度情報を提供することができる。この速度情報を使用して、GNSSから速度情報を読み取りながら一直線に移動することによって、方向基準を見つけることができる。その直線運動の方向はGNSSの速度から分かり、これを絶対方向基準としてそのまま用いてもよい。あるいは、その方向基準を使用して、どの方向が北であるかを導き出してもよく、この結果として、より一般に有用な絶対方向基準がもたらされる。同様の技法が、ある距離だけ離れた2地点のGNSS位置を読み取ることにより、GNSS位置情報に基づいて用いられ得る。一方の地点から他方の地点への方向は、2つの位置の間の差分を取ることにより算出できる。しかし、そのような基準検出プロセスは、少なくとも良好な精度が要求される場合には実用的ではない。例えば、高価なジャイロコンパスの精度と同等の精度、例えば1ミリラジアンの精度を得るには、1メートルの位置精度を有する高品位なGNSS(安価なGNSSシステムは精度が10メートル程度しかない)を使用する場合でも、2つの地上位置を1km離す必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、方位を判定するための改善された方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示によれば、角度測定デバイスの基準方向を判定する方法であって、
剛構造であって、その第1の点に固定された、全地球的航法衛星システム用のアンテナを有する剛構造を提供すること、
剛構造上の第2の点に、角度測定デバイスを固定することであって、第2の点が第1の点から少なくとも0.5メートルだけ離れ、角度測定デバイスの受感軸が、第1の点と第2の点との間の方向と整列していない、角度測定デバイスを固定すること、
角度測定デバイスの受感軸周りのアンテナの回転運動を引き起こすように、剛構造を回転させながら、全地球的航法衛星システムから速度測定データを取得し、角度測定デバイスから角運動速度測定データを取得すること、および
速度測定データと角運動速度測定データとを使用して、角度測定デバイスの基準方向を判定することを含む方法が提供される。
【0009】
本開示の別の態様によれば、角度測定デバイスの基準方向を判定するデバイスであって、
剛構造であって、その第1の点に固定された、全地球的航法衛星システム用のアンテナを有する剛構造と、
剛構造上の第2の点に、角度測定デバイスの受感軸が、第1の点と第2の点との間の方向と整列しないように、角度測定デバイスを取り付けるための取付け点であって、第2の点が第1の点から少なくとも0.5メートル離れている、取付け点と、
角度測定デバイスの受感軸周りのアンテナの回転運動を引き起こすように、剛構造が回転する間に、全地球的航法衛星システムから速度測定データを取得し、角度測定デバイスから角運動速度測定データを取得すること、および
速度測定データと角運動速度測定データとを使用して、角度測定デバイスの基準方向を判定することを行うように構成された処理デバイスとを備えるデバイスが提供される。
【0010】
アンテナを角度測定デバイスの周りで回転させることにより、アンテナは全地球的航法衛星システム(GNSS)の基準系に対して移動し、それに伴ってその基準系内で速度を持つ。さらに、GNSSから取得される速度測定データは、GNSSシステムの基準系(通常は地球中心の地球に固定された基準系)内でのアンテナの移動方向の測定値を提供し、したがって角度測定デバイスの現在の角度位置に対応付けることができる方向を提供する。よって、角度測定デバイスの全てのさらなる慣性測定を関係付けることができる基準方向を提供することが可能であり、それによって、その基準系内での絶対方位を提供する。基準方向は、角度測定デバイスからのアンテナの分離と、角度測定デバイスの周りのアンテナの回転とによって生成されるレバーアーム効果を利用することによって取得される。レバーアーム効果は、角度測定デバイスがNED座標基準系内で回転している間に、アンテナがNED座標基準系内を移動していることを結果としてもたらす。基本的に、(アンテナを介した)GNSSからの情報は、NED座標基準系での絶対的な方向情報を提供し、次いで、この方向情報を角度測定デバイスからの現在の角度情報と対応付けて、アンテナの基準系(NED系)内での角度測定デバイスの現在の絶対方向を判定することができる。
【0011】
基準方向を計算するこのプロセスは、アンテナの運動が角度測定デバイスの運動と異なるという事実を利用する。次に、これらの運動の違いを使用して基準方向を計算する。これは、アンテナおよび角度測定デバイスが、運動が実質的に同じになるように(運動の違いを誤差として扱うことができるように)、実質的に同じ場所に配置される「転送アライメント」プロセスとは非常に異なる概念であることに留意すべきである。そのような転送アライメントプロセスは、本質的に、アンテナの運動がデバイスの運動と一致することを前提としており、したがって、検出されたアンテナの運動は、デバイスの運動と仮定して用いられ、結果として、デバイスの基準方向を判定するのに用いられ得る。それに反して、本開示は、アンテナとデバイスとが同じ場所に配置されておらず、アンテナが角度測定デバイスの周りを回転するときに、レバーアーム効果が存在するように互いに離されている場合に、アンテナおよびデバイスの運動の違いを用いて基準方向を計算する。
【0012】
速度測定データは、様々に取得できることが理解されよう。例えば、速度データは、連続的な位置測定を行い、次に、これらの間の差(および測定と測定との間の時間)を用いて速度を計算することによって得ることができる。あるいは、より高価なGNSSシステムでは、衛星信号の搬送波のドップラーシフトを測定することによって、衛星信号から速度測定値を直接得ることができる。ドップラーベースの速度測定は、上記の基本的なデルタ位置技法よりも正確な速度測定を行うことができ、毎秒数センチメートル以内の精度であり得る。さらにより好ましくは、速度測定値を、さらに一層正確な速度測定を提供し得る搬送波位相速度測定技法を用いて取得してもよい。さらに、これらの速度測定の精度は、計算能力と共に常に向上しており、毎秒1センチメートルよりも高い精度を得ることさえも可能になり得る。データは、1Hzよりも大きな率で取得することができ、好ましくは5Hzよりも大きく、より好ましくは約10Hzの率でGNSSから取得できる。
【0013】
GNSS計算から得られた位置および速度の測定値は、信号を受信したアンテナの位置と速度(すなわち向き)とを提供する。アンテナおよび角度測定デバイスは、両方とも、同じ剛構造に取り付けられているので、それらの相対位置および相対配向は固定されており、はっきり分かっている。したがって、アンテナの位置と向きとを知ることで、比較的簡単な数学によって、角度測定デバイスの位置と向きとを導き出すことができ、したがって所望の基準方向を提供できることになる。
【0014】
剛構造上の第1の点と第2の点との間に十分な物理的分離を確保することにより、アンテナが角度測定デバイスの周りを回転するときに、アンテナが十分な速さの速度を有することが保証される。分離距離を大きくすると、レバーアーム効果が増大し、その結果、角度測定デバイスの所与の角変位が、アンテナのより大きな速度に対応するようになる。十分な速度を有することにより、基準方向が十分に正確であるように速度誤差を低減する十分な信号対雑音比を有することが保証される。
【0015】
この方法の利点の1つは、高価で高品位なGNSS機器を必要とする代わりに、安価な機器、すなわち安価なGNSS検出器(アンテナおよび対応するプロセッサ)を用いて、高度に正確な基準方向を取得できることである。
【0016】
GNSSから取得した速度測定値(複数可)は、簡単な数学によって角度測定デバイスの角速度に関係付けられる。角度測定デバイスが、GNSS基準系内で完全に静止している(例えば、角度測定デバイスが、固定構造にしっかりと枢着され得る)単純な事例を取り上げてみると、アンテナの速度は、式v=rωによって、角度測定デバイスの角速度に関係付けられる(上式で、vは、GNSSから判定されたアンテナの速度であり、rは、第1の点と第2の点との間の距離、つまりアンテナと角度測定デバイスとの間の距離であり、ωは、(使用されているデバイスの種類に応じて、デバイスから直接出力されるか、または連続的な角度測定から導出される)角度測定デバイスの角速度である)。
【0017】
アンテナと角度測定デバイスとの間の距離は、アンテナの速度に関わる。距離が長くなるほど(したがって、レバーアームが長くなるほど)速度が大きくなり、速度がより正確になるために、基準方向がより正確になる。ただし、機器の大きさしたがって携帯性と剛構造の剛性とのトレードオフが存在する。少なくとも0.5メートルの分離では、非常にコンパクトなデバイスがもたらされ、基準方向の精度は良好である可能性がある。また一方、基準方向のより高い精度が要求される場合には、速度測定結果のノイズを低減するのに十分な測定値を取得するために、かなりの期間にわたってシステムを動作させることが必要となり得る。したがって、いくつかの好ましい例では、第2の点は第1のポイントから少なくとも1メートルだけ離れ、より好ましくは少なくとも1.5メートルだけ離れている。実際、いくつかの例では、分離は少なくとも2メートルであってもよい。
【0018】
しかしながら、剛構造は長いほど重くなる。距離が長くなると、構造を十分に剛性に保つため(したがって、第1の点と第2の点との相対位置を十分に固定された状態に維持するため)に必要な材料の量が増加し、機器を重く、大きくする。したがって、いくつかの好ましい例では、分離は3メートル以下であり、好ましくは2.5メートル以下、いくつかの例では2メートル以下である。
【0019】
いずれかの好適な形状および大きさの剛構造を使用することができる。例えば、構造は、第1の点と第2の点との間を真っ直ぐに延在する直線形である必要はなく、構造がアンテナおよび角度測定デバイスの相対位置をしっかりと画定する限り、(例えば)湾曲していてもよい。ただし、軽量と製造の容易さとのためには、剛構造がロッドであり、好ましくは、実質的に直線形のロッドであることが好ましい。剛構造は、任意の適切な剛性材料、例えば、木材、金属、または炭素繊維から作られてもよい。もちろん、剛構造の厚さおよび他の特性は、必要な剛性を提供するために、所望の長さに基づいて選択することができる。
【0020】
上記のように、理想的なシナリオでは、角度測定デバイスは、アンテナがその周りを回転している(例えば、軌道を回っている)状態で、完全に静止している必要がある。これにより、アンテナの速度測定結果から角度測定デバイスの基準方向を算出するのに必要な計算が簡略化される。そのためにも、いくつかの例では、剛構造が枢着部を備え、剛構造を回転させることが、剛構造を枢着部の周りに回転させることを含むことが好ましい。枢着部は、固定構造に回転可能に取り付けられるように設計された取付け点であってもよい。例えば、枢着部は、比較的安定した取付け構造を提供するように現場でセットアップすることができる三脚台への回転可能な取付けのために設計されてもよい。枢着部に適した他の取付け点は、車両、建物、または測量で使用される三角点(triangulation station)などの他の参照構造(「三角点(trig point)」と呼ばれることもある)に設けることができる。
【0021】
上記のように、枢着部は、角度測定デバイスの近くに位置してもよい。その場合、角度測定デバイスが枢動軸上でのみ回転し、その結果、枢着部の周りに角度測定デバイスの軌道運動がないようにしてもよい。また一方、角度測定デバイスをピボットからある程度離すことを受け入れることができる。角度測定デバイスが枢着部の周りをある程度は周回しても、枢着部が十分にしっかりと取り付けられている場合、角度測定デバイスとアンテナとの間の位置関係は依然として十分に明確であり、角度測定デバイスと枢着部との間の分離(すなわちレバーアーム)を、基準方向の計算において考慮することができる。
【0022】
角度測定デバイスは、方向の変化を測定することが可能な任意の種類のデバイスとすることができる。例えば、角度測定デバイスは、角度パターン(例えば、既知の規則的な間隔の黒と白のストライプのパターン)が適切なセンサによって検出される、例えば、光学式または磁気式の回転エンコーダであってもよい。しかし、大抵の場合、本開示の技法および装置は、典型的には角速度測定用のジャイロスコープを必要とするナビゲーションシステムに用途を見出すであろう。したがって、好ましい例では、角度測定デバイスはジャイロスコープである。例えば、ジャイロスコープは、標準的な回転ジャイロスコープ、光ファイバジャイロ(FOG)、またはリングレーザジャイロ(RLG)を含む、あらゆる種類のジャイロスコープであってもよい。ただし、いくつかの好ましい例では、角度測定デバイスはMEMSジャイロスコープである。MEMS(マイクロ電気機械システム)ジャイロスコープは比較的安価であり、そのため、本明細書で説明する低コストの基準方向検出システムと組み合わせると、全体的に安価でありながら正確なナビゲーションシステムを提供することができる。あらゆる種類のMEMSジャイロスコープ、例えば、振動リングジャイロ、音叉型ジャイロ、半球共振器ジャイロ、またはさらにその他のあらゆるMEMSジャイロを使用できることが理解されよう。
【0023】
上に述べた技法は、単一の角度測定デバイス、例えば、単一の回転エンコーダまたは単一のジャイロスコープで使用できるが、それらの技法は、複数のそのような角度測定デバイスを有したデバイスにも等しく適用することができる。いくつかの例では、角度測定デバイスは、少なくとも2つの角度測定デバイスを含み、好ましくは少なくとも3つの角度測定デバイスを含んでもよい。特定の好ましい例では、複数(2つ、3つ、またはそれ以上)の角度測定デバイスがジャイロスコープである。好ましくは、そのようなジャイロスコープは、2次元または3次元の方向測定のために配置される。通常は、そのようなデバイスは、互いに実質的に直交して配置されるが、このことは厳密には必要ではない。角度測定デバイスが2つ以上の角度測定デバイスを含む場合、剛構造の全体的な向きは複数の次元で知られており(より具体的には、剛構造上の第1の点から第2の点への方向が複数の次元で知られている)、このことは、アンテナの運動が1つの次元に制限される必要はなく、より自由に移動できることを意味する。第1の点と第2の点との相対位置が十分に明確であることが重要であることに変わりないが、アンテナの運動はより一般的であってもよい。このことは、例えば、ピボットを介した剛構造の取り付けにそれほど厳格な要件を課さなくてもよく、その結果、アンテナをしっかり固定しなくてもよくなり、機器の軽量化およびコストの低減につながる。また、機器の低コスト化および使用の容易化をも可能にし得る。例えば、一様な平面回転の場合は、角度測定デバイスの周りにアンテナを回転させるために、モータを使用する必要があり得る。ただし、面外の運動に対応できる場合は、例えば、(剛構造上の)アンテナを、角度測定デバイスの周りを歩く人によって、角度測定デバイスの周りに回転させることができる。人の歩みによって導入される任意の面外振動が、複数の角度測定デバイスによって剛構造の向きの変化として検出され、したがって、その面外振動を、基準方向の計算で考慮することができる。同じ原理により、アンテナが回転している間に、アンテナの面外運動をも導入し得る強風などの厳しい条件でのデバイスの動作が可能になる。
【0024】
さらに、角度測定デバイスは、少なくとも1つの直線加速度計を含み、好ましくは3次元位置測定のために配置された少なくとも2つまたは3つの直線加速度計を含んでもよい。上記のように、これらは互いに直交することが好ましいが、このことは厳密には必要ではない。直線加速度計の存在により、角度測定デバイスの回転運動のみならず、その位置変位も検出されるようになる。これにより、機器を地面に対してどのように取り付けるかに関する制約が、さらにまた大幅に削減される。具体的には、剛構造の取り付けの際の任意の位置移動、例えばピボットでの移動は、角度測定デバイス(複数可)によって検出できないように剛構造の向きを変更する。したがって、精度を高めるためには、位置不変の取付け点が理想的に使用される。ただし、そのような取付け点は、多くの用途、特に現場での使用や、または迅速にセットアップして使用する必要のある携帯機器では実用的ではない可能性がある。直線加速度計を備えることにより、角度測定デバイス(複数可)の位置移動を検出し、結果として、この位置移動を補正できるようにする。基本的には、加速度計を(任意選択でジャイロスコープと組み合わせて)使用して、角度測定デバイスの慣性航法を実行し、結果として、枢着部が移動するときの角度測定デバイスの位置変化を追跡することができる。したがって、剛構造の取付けは、単に回転運動のための支持構造を提供するだけであり、それほど安定している必要はない。例えば、枢着部の移動が加速度計によって検出され、基準方向の計算において補正されるので、基準方向検出の精度を低下させることなく、湾曲しまたは移動する(例えば、剛構造およびアンテナの回転運動によって振動が導入される)可能性のある三脚台への取付けが実用になる。これは、携帯可能であり、迅速にセットアップでき、迅速に動作し得る、安価で軽量な機器を用いて非常に正確な基準方向を取得できるようにするという点で重要な特徴であり、したがって現場での使用や時間的制約のあるシナリオに最適である。十分に良い加速度計を用いれば、角度測定デバイスを身体の近くに保持し、剛構造の端部にあるアンテナを身体から延ばして離している状態で、人によって剛構造が保持されることさえ可能であり得る。人がその場で自身の身体を回転させると、その身体は、角度測定デバイスの多くの望ましくない位置移動および回転運動を伴う枢着部として機能する。ただし、加速度計およびジャイロスコープが、それらの望ましくない動きを検出して補正できる場合は、(GNSS基準系内の)剛構造の向きを依然として正確に知ることができ、したがってGNSSから取得したアンテナの運動の速度(したがって方向)測定値を、角度測定デバイスの向きに正確に変換し戻すことができる。
【0025】
したがって、好ましい例では、角運動速度測定データおよび速度測定データが取得されている間に、直線加速度計または各直線加速度計からの加速度データ、およびジャイロスコープまたは各ジャイロスコープからの潜在的な角回転データが、角度測定デバイスの位置移動を補正するために使用される。加速度データを使用して、剛構造の第2の端部の移動を追跡し、したがって取付け点および角度測定デバイスの移動を追跡することができる。
【0026】
上記のように、複数のジャイロスコープと複数の加速度計とを用いることで、角度測定デバイスの運動、したがって剛構造上の第2の点の運動と剛構造の向きとに関する最良のデータが得られる。したがって、特定の好ましい例では、角度測定デバイスが慣性計測装置であり、好ましくは3つのジャイロスコープと3つの直線加速度計とを備える。そのような自己充足型の慣性計測装置は、容易に入手でき、多くのデバイスで頻繁に使用される。ここで提供される技法は、堅く固定されたピボットを必要とせず、現場での較正に使用し得るそのようなデバイスの高速、効率的、正確な較正を提供する。
【0027】
剛構造が回転する方法、つまり、アンテナが角度測定デバイスの周りを回転する方法は、様々な形態をとることができる。いくつかの例では、剛構造を回転させることは、剛構造を実質的に円運動で連続的に回転させることを含む。このような運動は単純であり、単一面内で容易に行うことができ、非常に少ないエネルギーで容易に繰り返すことができる。例えば、単純なモータを配置して、そのような運動を達成するように剛構造を回転させることができる。円運動は地面に平行であってもよく、つまり水平運動であってもよい。ただし、運動は円形である必要はなく、代わりに、複数の平面での運動を含む、より複雑な運動にしてもよい。そのような運動は、完全な円回転が実現不可能であり、または望まれないような、スペースが制限されている領域で役立ち得る。例えば、略円運動の一部を平面から曲げて、障害物を切り抜けることができる。一般に、回転は、特定の平面内で(または実際は実質的に特定の平面内で)行われる必要がないことも理解されたい。例えば、角度測定デバイスに対するアンテナのほとんど全ての運動は、角度測定デバイスの基準方向に変換することができる情報の取得をもたらすことになる。いくつかの好ましい例では、運動は倒立振り子の円弧、すなわち枢着部の上方を横切る円弧である。したがって、剛構造は、倒立振り子としてアンテナの上方を回転する場合があり、この運動は、実質的に垂直な円弧となり得る。したがって、アンテナは、角度測定デバイスの上および周囲を円弧状に前後に移動する。倒立振り子が好ましいが、非倒立振り子は、GNSS信号を遮りまたは妨害する可能性のあるGNSSアンテナの上方に少しも構造を必要としないため、非倒立振り子の配置を使用することもできる。
【0028】
他の例では、剛構造を回転させることが、アンテナを円弧に沿って前後に移動させるように、剛構造を振動させることを含み得る。そのような運動は、より一層制限された空間での動作を可能にし、また、オペレータが角度測定デバイスの近くに立っている間に行うことがより容易になり得る(完全な円運動では、較正動作の実行中にオペレータが移動したり、立ったりする必要があり得る)。一般に、可能な限り大きな円弧を使用することが好ましく、例えば、いくつかの例では、少なくとも60度、好ましくは少なくとも90度、より好ましくは少なくとも120度、または少なくとも180度の円弧を使用することが好ましい。上記のように、運動は正確な円弧である必要はなく、(円弧の)平面外の運動を含めることができる。必要に応じて、一連の円弧を使用することもできる。加えて、振動性円弧運動と一般的な円運動とは相容れないものではなく、両方とも、例えば、一方を他方の後に移動させたり、必要に応じて交互に移動させてもよいことが理解されよう。
【0029】
場合によっては、必要な較正を実行するために、つまり、高精度で基準方向を見つけるために、十分な情報を取得するには、単一の回転または円弧の運動で十分な場合があるが、好ましい例では、剛構造を回転させることが、判定される基準方向の精度を改善するための反復測定値を取得するように、剛構造を同じ運動によって繰り返し回転させることを含む。当然ながら、多くの測定は、単一の運動を通して行われ得る(例えば、多くの測定は、単一の円回転運動または単一の円弧運動を通して行われる)。ただし、そのようないくつかの運動の間に測定を繰り返すことで、より多くのデータが収集され、測定のランダム誤差が減少し、したがって基準方向の全体的な精度の向上をもたらす。いくつかの例では、GNSS速度データは、1Hz~10Hzの率で取得される。測定は、必要な精度によって決定され得るいずれかの好適な期間にわたって行われ得る。いくつかの例では、測定値は、少なくとも10秒、好ましくは少なくとも30秒、好ましくは少なくとも1分、好ましくは少なくとも5分の期間にわたって取得される。いくつかの例では、ユーザに過度の不便を掛けない比較的短い時間スケールで較正を行うことができるようにするために、期間は20分以下、より好ましくは10分以下である。
【0030】
一般に、アンテナは、理にかなった範囲内で可能な限り速く移動することが好ましい。誤差の大きさが固定されているので、アンテナの動きが速くなると、GNSSからの速度測定の信号対雑音比が向上する結果になり、したがって測定値の大きさを増加させると、より良好な精度が与えられる。ただし、危険を引き起こさず、過剰なエネルギーコスト(例えば、強力なモータ)を発生させることなく、アンテナを移動できる速度には、実際的な制限がある。したがって、特定の好ましい例では、アンテナは少なくとも毎秒0.1メートル、好ましくは毎秒少なくとも0.5メートル、好ましくは毎秒少なくとも1メートルの速度で移動される。いくつかの例では、速度は、好ましくは毎秒10メートル以下、好ましくは毎秒5メートル以下である。速度を下げると、エネルギー消費量が減少し(電動機器の場合)、衝突に伴うリスクが軽減される。
【0031】
反復測定が行われる場合に、これらを組み合わせて基準方向を改善することは、いくつかの異なる方法で実現することができる。例えば、測定値は、時間の経過とともに単純に平均化されてもよい。しかし、より洗練されたアプローチが使用されることが好ましい。例えば、ベイズ推定、最確推定、最小二乗推定などを含む様々な統計的手法が適用され得る。特定の好ましい例では、取得したデータを全て、適切なインプリケーションエンジン(システムの力学を知り、システムの既知の力学を使用してデータとそのデータの意味を処理し、システムの状態の推定値を出力できるプロセス)に入力することができる。1つの特に好ましいインプリケーションエンジンは、カルマンフィルタである。カルマンフィルタは、必要に応じて、例えば第1の点と第2の点との間の離隔距離、アンテナの向き、および剛構造に対する角度測定デバイスなどを含む、測定値間の様々な関係をプログラムすることができる。次に、角度測定デバイス(複数可)からの未処理GNSSデータと未処理角速度測定値とを、現在の推定状態を新しいデータと組み合わせて用いて、状態の新しい改善された推定値(基準方向を含む)と各状態変数における誤差の改善された推定値とを出力し得るカルマンフィルタに入力することができる。カルマンフィルタは、GNSSシステム、および角度測定デバイス(複数可)、ならびに使用されている任意の直線加速度計に関連する既知の誤差変数を監視し推定することもできる。例えば、ジャイロスコープおよび加速度計は、バイアス誤差および倍率誤差の影響を受けており、これらの誤差は、カルマンフィルタ(またはその他の計算プロセス)によって、これらの誤差が基準方向の計算に与える影響を最小限に抑え、したがって全体の精度を向上させるように、監視、推定、および修正が行われ得る。
【0032】
次に、1つ以上の非限定的な例を、単なる例示として、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】ピボットに取り付けられたロッドおよびアンテナを示し、速度データおよび角運動速度データを使用して方向を計算し得る方法を示す図である。
図2】一端にアンテナが付き、他端にIMUが付いたロッドを示す図である。
図3】垂直面内の移動を伴って使用されているロッドおよびアンテナを示す図である。
図4】データの処理方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、本開示の原理を示す。ロッド10の形をした剛構造が、ロッド10の第1の端部12に固定された全地球航法衛星システム(GNSS)アンテナ20を有する。ロッド10の第2の端部14は、ロッド10の枢着部17でピボット16に取り付けられている。ロッド10は、ピボット16を中心にして回転するように、水平面内で(すなわち地面と平行に)移動可能に配置されている。より具体的には、アンテナ20は、ロッド10がピボット16の周りを回転するときに、ピボット16の周りに弧(または完全な円)を掃引する。角度測定デバイス(図1には示さず)が、ロッド10の第2の端部14に設けられ(例えば、ロッド上の取付け点に取り付けられる)、角度測定デバイスの受感軸15の周りの回転率を判定することができる(角度測定デバイスの受感軸15がロッド10の長手方向に直接向いていないことを条件とする)。アンテナ20は、NED座標基準系でのアンテナの速度が導出され得るGNSS信号を受信する。
【0035】
ロッド10の長さ(具体的にアンテナとピボットとの間の距離)が分かっているため、次の式により、アンテナの円運動(または円弧運動)を、角度測定デバイスによって測定された角速度に関係付けることができる。
【0036】
v=ω×r
上式で、
vは、GNSS信号から導出される速度ベクトルである。
【0037】
rは、アンテナとピボットとの間の分離ベクトルである。
【0038】
ωは、角度測定デバイスによって測定される角運動速度ベクトルである。
【0039】
GNSS受信機からの速度vは、NED座標基準系のベクトルであるので、速度vを北成分と東成分とに分離できる。これらの成分の比率は、ロッド10の現在の向首角θに直接的に関連している。例えば、ロッド10が真北(due North)を指している場合は、GNSS速度vは、ゼロの北成分と大きな(大きさの)東成分とを有するようになる。同様に、ロッドが真東を指している場合は、GNSS速度vは、大きな北成分とゼロの東成分とを有するようになる。したがって、ロッド10の向首角の角度θ(すなわち、真北(true North)に対する現在の方向)は、次のように計算することができる。
【0040】
N=-ωDrsinθ
E=ωDrcosθ
θ=atan2(vE,-vN
上式で、ωDは(NED座標基準系での)下方向を中心とした正回転であり、向首角の増加を表す。atan2関数は、4象限逆正接関数である。
【0041】
基本的な実装では、ロッド10の第2の端部14が枢着部17を介してピボット16にしっかりと固定され、アンテナ速度の測定値が結果として得られるGNSS速度vの観測を用いて、ロッド10の向首角(すなわち、北に対するロッド10の角度)、したがってロッド10に固定的に取り付けられた任意の角度測定デバイスの向首角を導き出すことができる。このようにして、ロッドの向きと角度測定デバイスの向きとが、固定された既知の関係であるように(すなわち、角度測定デバイスの受感軸15の向きがロッド10の向きに対して既知であるように)、角度測定デバイスをロッド10に取り付けることによって、角度測定デバイスを(その基準方向を判定することにより)較正することができる。
【0042】
この原理は、回転によりアンテナが基準のNED座標基準系内において十分な速度で移動することを確実にするために、アンテナ20が角度測定デバイスから空間的に分離されていることから機能し、つまりアンテナは、GNSS信号がNED座標基準系の速度を提供するように、地面に対して移動する必要がある。この例では、ロッド10は長さ2メートルであり、したがってアンテナ20からピボット16は2メートルであり、アンテナ20がピボットの周りを回転すると、ロッド10は直径4メートルの円の弧をたどる。アンテナの速度は、信号ノイズに関連して十分に高い必要があり、そのために、ロッド10を長くすることで、低速の角運動速度に対処し、所与の線速度を目指す。したがって、ロッド10を短くしてもよいが、その場合は、ロッド10をより速く(より高い角速度で)回転させることが望ましい。
【0043】
上記の例は、ピボットに関する情報、つまりピボットが固定されていて、移動していないことが分かっていることに依拠する。これは、少なくとも短い期間内で、そのような剛性のピボットを即座に実現できない場合がある現場での使用には役に立たない。本開示は、現場でIMUを較正する際の使用に特に有利である。
【0044】
図2は、図1と同様の第1の端部12にGNSSアンテナ20を備えたロッド10を示す。ただし、第2の端部14では、慣性計測装置(IMU)18が取付け点19でロッド10に固定されている。ロッド10の第2の端部14は、ピボットにしっかりと固定されているのではなく、わずかに動くことが可能になっている。第2の端部14(したがってIMU18)は、アンテナ20がIMU18の周りを回転し、結果としてNED座標基準系において比較的高い速度を有するように、装置の回転中心として引き続き用いられる。ロッド10の第2の端部14が堅固に固定されていないので、アンテナ20からの速度データを、IMU18のジャイロによって検出される角運動速度に直接対応付けることは、その角運動速度の一部が、第1の端部12ではなく第2の端部14の移動に起因する可能性があるためにできない。しかしながら、IMU18(通常は、完全な3次元慣性航法のために3つのジャイロスコープと3つの加速度計とを備える)は、直線加速度計によって装置自体の移動の検出および定量化を行い得るので、IMU18は、第2の端部14が堅固に固定されていないという事実を埋め合わせることができ、結果として第2の端部14の位置の相対的変動を判定することができ、このようにしてアンテナ20からの速度データが、ジャイロスコープの角運動速度データに正しく対応付けられるようにする。
【0045】
また、アンテナ20の移動は、水平面内の回転に制約される必要はなく、他の平面内、例えば垂直面内の移動を含んでもよいことが理解されよう。このことは図3に示され、アンテナ20およびIMU18を備えたロッド10が、ピボット16に取り付けられ、地面25の上の垂直面内で円弧状に前後に振動する。ピボット16は、剛性のピボットである必要はなく、第1の端部12およびアンテナ20が、第2の端部14の周りを回転するように、第2の端部14をおおむね束縛された状態にするが、ある程度の移動を可能にし得る(例えばIMU18の加速度計データにより、数センチメートルの移動は難なく許容され補正され得る)三脚台、または間に合わせの器具など、暫定的なピボットであってもよい。
【0046】
アンテナ20からの速度データを、IMU18(またはその他の角度測定デバイス)からの角運動速度データに対応付ける処理を、様々に行うことができる。例えば、GNSSは、速度データに加えて位置データを提供し、したがってアンテナ20(および第1の端部12)の位置の相対的変動を判定するために使用され得る。その一方で、IMU18からの加速度計データを使用して、第2の端部14の位置の相対的変動を判定することができる。これらを合わせて使用して、ロッド10の方向、したがってIMU18(ロッド10に対し既知の相対配向に固定されている)の基準方向を、幾何学的計算を用いて計算することができる。ただし、十分な正確さを求めるには、一般に、精度を許容可能な大きさにまで低減させ得るように、多数の測定が必要とされる。これを行う便利な方法は、利用可能な全ての情報、つまりGNSSの位置および速度情報、IMUジャイロスコープの測定値、ならびに加速度計の測定値をサンプリングし、これら全てをカルマンフィルタ(または同様の反復プロセス)への観測入力として用いることである。カルマンフィルタは、システムの動力学、例えば、アンテナ20およびIMU18(およびその全てのセンサ)の相対的な位置配置によってプログラムされている。各測定が行われると、カルマンフィルタは、その内部システムモデルを使用して、システムの現在の状態を推定し、また、各状態変数の誤差を推定する。次いで、カルマンフィルタはシステム状態の最適な推定値を出力し、この推定値が、IMU18を較正するのに必要な基準方向を含む。新たな測定を行うたびに、カルマンフィルタの推定値が改善され、したがって基準方向の推定値が改善される。
【0047】
このプロセスは、その信号31が、ロッド10の第1の端部12に取り付けられたアンテナ20によって受信される3つのGNSS衛星30を示す図4に示されている。IMU18は、図2と同じようにして、ロッド10の第2の端部14の取付け点19に取り付けられている。次いで、アンテナ20からのGNSSデータは、41において処理されて、アンテナ20の速度および位置の情報を導出する。同時に、IMUデータ(ジャイロスコープおよび直線加速度計のデータ)は、42において、ストラップダウン慣性航法アルゴリズムによって処理される。これらは、初期の基準からの位置および姿勢(向首角、高さ、バンク角)の相対的変動を判定する。GNSS処理41からのデータと慣性航法処理42からのデータとは、全てのデータを処理して現在の状態とシステム誤差とを推定するカルマンフィルタ43に入力される。カルマンフィルタによって推定される現在の状態の一部には、IMU18の現在の位置および姿勢の推定が含まれる。これを、44に示すように、IMU18にフィードバックして、IMU18を較正することができる。
図1
図2
図3
図4