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  • -揚げ物用衣材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】揚げ物用衣材
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20230817BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20230817BHJP
   A23L 35/00 20160101ALN20230817BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
A23L35/00
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019516255
(86)(22)【出願日】2019-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2019011637
(87)【国際公開番号】W WO2019188637
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2018069221
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018221611
(32)【優先日】2018-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505126610
【氏名又は名称】株式会社ニチレイフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智樹
(72)【発明者】
【氏名】石嵜 雄一
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-111960(JP,A)
【文献】特開2008-136445(JP,A)
【文献】特許第3317647(JP,B2)
【文献】MUTOH, Taka-Aki et al.,Moisture Migration in Deep-Fried Food during Frozen Storage,Food Sci. Technol. Res.,2002年,Vol. 8, No. 1,p. 50-54,全体
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質、穀物粉および水を含んでなる油ちょう食品用バッターであって、該油ちょう食品用バッターの糖質の含有量と水の含有量の質量比(糖質/水)が0.6~4.0であり、
前記油ちょう食品用バッターを含んでなる油ちょう用加工食品を油ちょうした油ちょう食品において、前記油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層を含む衣層の水分活性値が0.620~0.900である、油ちょう食品用バッター。
【請求項2】
油ちょう食品用バッターにおける糖質の含有割合が18~75質量%であり、穀物粉の含有割合が5~50質量%である、請求項1に記載の油ちょう食品用バッター。
【請求項3】
糖質が、単糖、二糖、三糖、四糖、五糖、糖アルコールおよびデキストリンからなる群から選択される、請求項1または2に記載の油ちょう食品用バッター。
【請求項4】
糖質が、単糖、二糖、三糖、四糖、五糖およびデキストリンからなる群から選択される、請求項1または2に記載の油ちょう食品用バッター。
【請求項5】
穀物粉が、澱粉、小麦粉およびコーンフラワーからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の油ちょう食品用バッター。
【請求項6】
目的とする油ちょう食品の中種と、該中種の外側に位置する請求項1~5のいずれか一項に記載の油ちょう食品用バッターの層とを含んでなる、油ちょう用加工食品。
【請求項7】
冷凍されている、請求項6に記載の油ちょう用加工食品。
【請求項8】
油ちょう用加工食品を製造する方法であって、目的とする油ちょう食品の中種を、請求項1~5のいずれか一項に記載の油ちょう食品用バッターで処理するバッター処理工程を含んでなる、方法。
【請求項9】
バッター処理工程よりも後に行われる冷凍工程をさらに含んでなる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
中種と、該中種の外側に位置する請求項1~5のいずれか一項に記載の油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層とを含んでなる、油ちょう食品。
【請求項11】
冷凍されている、請求項10に記載の油ちょう食品。
【請求項12】
油ちょう食品を製造する方法であって、請求項6または7に記載の油ちょう用加工食品を油ちょうする工程を含んでなる、方法。
【請求項13】
油ちょう食品を製造する方法であって、請求項8または9に記載の方法により油ちょう用加工食品を製造する工程、ならびに該油ちょう用加工食品を油ちょうする工程を含んでなる、方法。
【請求項14】
油ちょう工程よりも後に行われる冷凍工程をさらに含んでなる、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
油ちょう食品用バッターであって、該油ちょう食品用バッターが糖質の含有量と水の含有量の質量比(糖質/水)が0.6~4.0となるように糖質および水を含み、該油ちょう食品用バッターを含んでなる油ちょう用加工食品を油ちょうした油ちょう食品において、前記油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層を含む衣層の水分活性値が0.620~0.900である、油ちょう食品用バッター。
【請求項16】
目的とする油ちょう食品の中種と、該中種の外側に位置する油ちょう食品用バッターの層とを含んでなる油ちょう用加工食品であって、該油ちょう食品用バッターが糖質の含有量と水の含有量の質量比(糖質/水)が0.6~4.0となるように糖質および水を含み、該油ちょう用加工食品を油ちょうした油ちょう食品において、前記油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層を含む衣層の水分活性値が0.620~0.900である、油ちょう用加工食品。
【請求項17】
中種と、該中種の外側に位置する油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層とを含んでなる油ちょう食品であって、該油ちょう食品用バッターが糖質の含有量と水の含有量の質量比(糖質/水)が0.6~4.0となるように糖質および水を含み、前記加熱後バッター層を含む衣層の水分活性値が0.620~0.900である、油ちょう食品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、先に出願された日本国における特許出願である特願2018-69221号(出願日:2018年3月30日)および特願2018-221611号(出願日:2018年11月27日)に基づく優先権の主張を伴うものである。これらの先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【発明の背景】
【0002】
技術分野
本発明は、油ちょう食品に用いられる衣材に関し、より詳細にはバッターに関する。
【0003】
背景技術
衣つきフライ商品の調理後、数時間経過した場合、および数時間経過した後喫食前に温め直す場合において、サクサク感の持続は永遠の課題である。従来、衣付き油ちょう食品のサクミの向上および維持の目的で、衣バッターへ糖類(糖アルコール、トレハロース等)の添加が行われてきた(特許文献1および2)。
【0004】
しかし、従来技術では、揚げ物を油ちょうした後、蓋付きパック等の容器に入れて販売する場合など、調理後から喫食までの時間経過により、容器内の水蒸気や中種からの水分移行により衣が吸水してしまい、そのまま喫食しても、あるいは電子レンジで温めてから喫食しても、衣の食感は好ましいものとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-295360号公報
【文献】特開2004-57041号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、糖質、穀物粉および水を含むバッターを用いて油ちょう食品を製造したときに、前記バッターに由来する加熱後バッター層を含む衣層の水分活性値を特定の範囲に調整することにより、油ちょう食品の経時に伴う衣の食感の劣化が抑制されることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0007】
従って、本発明の目的は、油ちょう食品において優れた衣の食感を持続させるバッター、該バッターを含む油ちょう用加工食品、および該バッターを用いて得られる油ちょう食品を提供することにある。
【0008】
そして、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)糖質、穀物粉および水を含んでなる油ちょう食品用バッターであって、前記油ちょう食品用バッターを含んでなる油ちょう用加工食品を油ちょうした油ちょう食品において、前記油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層を含む衣層の水分活性値が0.620~0.900である、油ちょう食品用バッター。
(2)油ちょう食品用バッターにおける糖質の含有割合が18~75質量%であり、穀物粉の含有割合が5~50質量%であり、糖質の含有量と水の含有量の質量比(糖質/水)が0.3~4.5である、前記(1)に記載の油ちょう食品用バッター。
(3)糖質が、単糖、二糖、三糖、四糖、五糖、糖アルコールおよびデキストリンからなる群から選択される、前記(1)または(2)に記載の油ちょう食品用バッター。
(4)糖質が、単糖、二糖、三糖、四糖、五糖およびデキストリンからなる群から選択される、前記(1)または(2)に記載の油ちょう食品用バッター。
(5)穀物粉が、澱粉、小麦粉およびコーンフラワーからなる群から選択される、前記(1)~(4)のいずれかに記載の油ちょう食品用バッター。
(6)目的とする油ちょう食品の中種と、該中種の外側に位置する前記(1)~(5)のいずれかに記載の油ちょう食品用バッターの層とを含んでなる、油ちょう用加工食品。
(7)冷凍されている、前記(6)に記載の油ちょう用加工食品。
(8)油ちょう用加工食品を製造する方法であって、目的とする油ちょう食品の中種を、前記(1)~(5)のいずれかに記載の油ちょう食品用バッターで処理するバッター処理工程を含んでなる、方法。
(9)バッター処理工程よりも後に行われる冷凍工程をさらに含んでなる、前記(8)に記載の方法。
(10)中種と、該中種の外側に位置する前記(1)~(5)のいずれかに記載の油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層とを含んでなる、油ちょう食品。
(11)冷凍されている、前記(10)に記載の油ちょう食品。
(12)油ちょう食品を製造する方法であって、前記(6)または(7)に記載の油ちょう用加工食品を油ちょうする工程を含んでなる、方法。
(13)油ちょう食品を製造する方法であって、前記(8)または(9)に記載の方法により油ちょう用加工食品を製造する工程、ならびに該油ちょう用加工食品を油ちょうする工程を含んでなる、方法。
(14)油ちょう工程よりも後に行われる冷凍工程をさらに含んでなる、前記(12)または(13)に記載の方法。
(15)油ちょう食品用バッターであって、該油ちょう食品用バッターを含んでなる油ちょう用加工食品を油ちょうした油ちょう食品において、前記油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層を含む衣層の水分活性値が0.620~0.900である、油ちょう食品用バッター。
(16)目的とする油ちょう食品の中種と、該中種の外側に位置する油ちょう食品用バッターの層とを含んでなる油ちょう用加工食品であって、該油ちょう用加工食品を油ちょうした油ちょう食品において、前記油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層を含む衣層の水分活性値が0.620~0.900である、油ちょう用加工食品。
(17)中種と、該中種の外側に位置する油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層とを含んでなる油ちょう食品であって、前記加熱後バッター層の水分活性値が0.620~0.900である、油ちょう食品。
【0009】
本発明のバッターを用いることにより、ばら売りの状態(開放状態)はもちろん、袋や容器に入れた状態であっても、油ちょう食品の揚げ衣のサクミ、噛み切り易さ等の食感の経時的な劣化を抑制することができ、揚げ衣特有のサクサクとした食感を維持することができる。特に、本発明によれば、貯蔵後に電子レンジによる再加熱を行った場合でも、サクミが維持される。例えば、油ちょう食品を、油ちょう後にトレーや袋等の容器に詰めて常温で静置した場合、従来品では3時間程度で品質限界以下(サクサク感の顕著な低下)に陥るが、本発明の油ちょう食品では3時間経過した後でも油ちょう直後の品質と同等のサクサク感を維持できる。さらに、本発明の油ちょう食品は、3時間後に電子レンジで再加熱しても、サクミが損なわれることなく、従来の衣つき揚げ物食品よりもサクミが維持される。さらに、本発明によれば、油ちょう後に長時間貯蔵しても揚げ衣特有の適度に乾燥した外観が維持され、特に、貯蔵後に電子レンジによる再加熱を行った場合でも適度に乾燥した外観が維持される油ちょう食品を提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、試験区1のサンプルと、陰性対照である試験区5のサンプルとについて、油ちょう直後および3時間パック保管後を比較した外観の写真である。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明のバッターは、糖質、穀物粉および水を含む。本発明のバッターは、油ちょう食品に衣材として用いたときに、該油ちょう食品において、該バッターに由来する加熱後バッター層を含む衣層の水分活性値が0.620~0.900、好ましくは0.620~0.860となることを特徴とする。
【0012】
本発明において「衣層」とは、油ちょう食品に含まれる衣部分を意味し、中種(具材)の外側に層を形成している部分である。別の言い方をすると、衣層は、油ちょう食品を構成する、中種(具材)以外の部分である。例えば、油ちょう食品を中種とバッターのみを使用して製造する場合には、衣層は加熱後バッター層である。油ちょう食品を、中種とバッターの他に、打ち粉やパン粉などの衣素材を用いて製造する場合には、衣層は、加熱後バッター層だけを意味するのではなく、バッターと衣素材の両方に由来する加熱後の層を意味する。
【0013】
水分活性値とは、食品中の自由水の割合を表す数値であり、食品の保存性の指標として一般的に用いられている。水分活性値は、例えば、次のようにして測定することができる。まず、中種の表面に衣材を付着させ、油ちょうする。ここで、衣材は、バッターのみからなるものであってもよいし、所望によりバッターおよび他の衣素材からなるものであってもよい。得られた油ちょう食品を約-35℃の凍結庫で凍結する。次いで、冷凍物を175℃で7分間油ちょうする。得られた油ちょう食品を常温で放置して粗熱をとり、速やかに衣層(中種以外の部分)を剥離する。次いで、剥離した衣層を、測定の偏りを避けるために小片にカットし、3~3.5gの小片をシャーレに入れ、市販の水分活性測定システムを用いて水分活性を測定する。この測定により得られる数値を、そのサンプルの水分活性値とすることができる。
【0014】
本発明のバッターは、糖質、穀物粉および水を混合用容器中に投入し、バッター状になるまで混合することにより製造することができる。ここで、それぞれの材料の配合量は、様々なバッターを用いて油ちょう食品を製造し、その衣層の水分活性値を測定し、得られた水分活性値が上記の数値範囲に含まれることを確認することにより決定することができる。
【0015】
本発明に用いられる糖質としては、炭水化物のうち、澱粉などの多糖類および食物繊維を除いた、比較的鎖長の短い糖質であればよく、特に限定されるものではない。このような糖質としては、例えば、単糖またはオリゴ糖が挙げられ、好ましくは単糖、二糖、三糖、四糖または五糖、より好ましくはトレハロースまたはグルコース、さらに好ましくはトレハロースを用いることができる。また、糖質としては、デキストリンを挙げることができ、好ましくはDE20~4、より好ましくはDE18~4、さらに好ましくはDE18~8のデキストリンを用いることができる。さらに、糖質としては糖アルコールを挙げることができ、好ましくは単糖またはオリゴ糖の還元糖、例えば、単糖、二糖、三糖、四糖または五糖の還元糖を、それぞれ単独で、あるいはこれらの混合物として用いることができる。本発明のバッター中の糖質の含有量は特に限定されるものではないが、好ましくは18~75質量%とすることができる。また、本発明のバッター中における糖質の含有量と水の含有量の質量比(糖質/水)は特に限定されるものではないが、好ましくは0.3~4.5、より好ましくは0.6~4.0とすることができる。
【0016】
本発明に用いられる穀物粉としては、穀物を粉状にしたもの、あるいはその加工品であればよく、特に限定されるものではない。穀物粉としては、例えば、タピオカ、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、コメ、緑豆、小麦等の粉体が挙げられ、好ましくは小麦粉またはコーンフラワーを用いることができる。また、穀物粉としては澱粉を好適に用いることができる。本発明に用いられる澱粉としては、澱粉構造を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、タピオカ、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、コメ、緑豆、小麦等の様々な原料から精製して得られる澱粉、これらの澱粉を適宜化学的に加工して得られる加工澱粉やα化澱粉などが挙げられる。本発明のバッターにおける穀物粉の含有量は特に限定されるものではないが、好ましくは5~50質量%とすることができる。
【0017】
本発明の他の態様によれば、糖質、穀物粉および水を含んでなる油ちょう食品用バッターであって、糖質の含有割合が18~75質量%であり、穀物粉の含有割合が5~50質量%であり、糖質の含有量と水の含有量の質量比(糖質/水)が0.3~4.5である、油ちょう食品用バッターが提供される。
【0018】
本発明のバッターは、上記必須成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、また、他の効果を発揮させるために、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、増粘剤、食塩、砂糖、アミノ酸等の調味料、β-カロテン等の色素、香料、酸味料、pH調整剤、糖類、食物繊維、動物性または植物性タンパク質素材などが挙げられる。
【0019】
本発明の油ちょう用加工食品は、目的とする油ちょう食品の中種と、該中種の外側に位置する本発明のバッターの層とを含んでなる。本発明において「油ちょう用加工食品」とは、油ちょう処理用の加工がなされ、かつ、油ちょう処理前である食品をいう。一方で、本発明において「油ちょう食品」とは、油ちょう用加工食品を油ちょうしてなる食品をいう。
【0020】
本発明の油ちょう用加工食品は、目的とする油ちょう食品の中種を、本発明のバッターで処理するバッター処理工程を含む方法により製造することができる。例えば、目的とする油ちょう食品の具材に、少なくとも本発明のバッターを付着させることにより、好ましくは具材の表面を本発明のバッターでコーティングすることにより、本発明の油ちょう用加工食品を製造することができる。
【0021】
このような油ちょう用加工食品としては、例えば、本発明のバッターと、衣素材とを中種に付着させて得られる、油ちょう処理前のコロッケ、メンチカツ、トンカツ、エビフライ、魚介類フライ等のフライ類;本発明のバッターで直接衣層を形成するか、あるいは本発明のバッターと衣素材とを中種に付着させて得られる、油ちょう処理前の天ぷら類や唐揚げ類等が挙げられる。衣素材としては、典型的にはパン粉が用いられるが、パン粉以外の衣素材を用いることも可能である。このようなパン粉の代用品としては、例えば、クラッカー、コーンフレーク、穀物を主体とする押出し成形による膨化物、麩、高野豆腐、おから等が知られており、これらを、そのまま、あるいは適当な大きさまですり下ろしたり、砕いたりした上で使用することができる。また、衣素材として、小麦粉、澱粉(コーンスターチなど)、乾燥卵白等を用いることもできる。
【0022】
例えば、本発明の油ちょう用加工食品として油ちょう前の鶏から揚げを製造する場合、適当な大きさにカットした鶏肉に下味を付けた中種の表面に、本発明のバッターを付着させることにより、油ちょう前の鶏から揚げを得ることができる。ここで、中種に本発明のバッターを付着させる前に、馬鈴薯澱粉などの打ち粉を中種の表面に付着させてもよい。また、中種に本発明のバッターを付着させた後に、ブレッダー(例えば、小麦粉、澱粉および乾燥卵白の混合物など)をまぶしてもよい。
【0023】
また、本発明の油ちょう用加工食品として油ちょう前コロッケを製造する場合、ジャガイモ、タマネギ等の野菜類と、牛肉、豚肉等の肉類とを混捏し、成形して得られた中種の表面に、本発明のバッターを均一に付着させ、次いでパン粉を付着させることにより、油ちょう前コロッケを得ることができる。また、中種に一次パン粉(微粉パン粉など)を均一に付着させた後に本発明のバッターを付着させ、次いで、二次パン粉を付着させてもよい。さらに、このような方法において、中種を、エビ、豚肉、魚介類等の素材に代えることにより、油ちょう前の、エビフライ、トンカツ、魚介フライ等を製造することができる。
【0024】
本発明の油ちょう用加工食品は、製造した直後に油ちょう処理を行って油ちょう食品としてもよいが、冷凍または冷蔵保存し、その後に油ちょう処理を行って油ちょう食品としてもよい。冷凍または冷蔵の方法は特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、冷凍保存の場合、エアーブラスト式凍結法、セミエアーブラスト式凍結法、コンタクト式凍結法等の凍結法に従って油ちょう用加工食品を凍結した後に、-18℃以下で保存する方法や、液化窒素や液化炭酸を噴霧して油ちょう用加工食品を凍結した後に、-18℃以下で保存する方法を用いることができる。特に、凍結方法としては、-35℃前後での急速冷凍が望ましい。
【0025】
本発明の油ちょう食品は、中種と、該中種の外側に位置する本発明のバッターに由来する加熱後バッター層とを含んでなるものである。このような油ちょう食品は、本発明の油ちょう用加工食品を油ちょうすることにより製造することができる。例えば、油ちょう処理は、製造された直後の油ちょう用加工食品、または製造された後に冷凍若しくは冷蔵保存された油ちょう用加工食品を、140~200℃の食用油脂中で60~600秒間油ちょう加熱することにより、行うことができる。
【0026】
このようにして製造された油ちょう食品は、製造後すぐに食卓に供されてもよく;冷凍または冷蔵保存し、その後、マイクロ波調理等の二次調理を施した後に食卓に供されてもよく;常温で保存された後に食卓に供されてもよい。本発明の油ちょう食品の冷凍または冷蔵の方法は、本発明の油ちょう用加工食品について上述したものと同様である。
【0027】
さらに、本発明の油ちょう食品は、製造後に20~75℃において保存してもよい。油ちょう食品を上記温度において保存する方法は特に限定されるものではないが、例えば、ホットウォーマー等の加温器または保温器を用いて、その内部で油ちょう食品を保存する方法が挙げられる。
【0028】
本発明の油ちょう食品の特性を調べたところ、該油ちょう食品に含まれる衣層の水分活性値が0.620~0.900、好ましくは0.620~0.860の範囲にあることが分かっている。この特徴は従来品には見られず、また、衣のサクサクとした食感の持続に直結する特徴であると考えられる。
【0029】
従って、本発明の他の態様によれば、中種と、該中種の外側に位置する油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層とを含んでなる油ちょう食品であって、前記加熱後バッター層の水分活性値が0.620~0.900、好ましくは0.620~0.860である、油ちょう食品が提供される。衣層の水分活性値の測定方法は上述した通りである。また、この油ちょう食品も冷凍保存することができる。
【0030】
また、本発明の他の態様によれば、目的とする油ちょう食品の中種と、該中種の外側に位置する油ちょう食品用バッターの層とを含んでなる油ちょう用加工食品であって、該油ちょう用加工食品を油ちょうした油ちょう食品において、前記油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層を含む衣層の水分活性値が0.620~0.900、好ましくは0.620~0.860である、油ちょう用加工食品が提供される。衣層の水分活性値の測定方法は上述した通りである。また、この油ちょう用加工食品も冷凍保存することができる。
【0031】
さらに、本発明の他の態様によれば、油ちょう食品用バッターであって、該油ちょう食品用バッターを含んでなる油ちょう用加工食品を油ちょうした油ちょう食品において、前記油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層を含む衣層の水分活性値が0.620~0.900である、油ちょう食品用バッターが提供される。
【実施例
【0032】
以下の実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1:衣のサクサクした食感を維持するために有効な条件の検討
(1)バッターサンプルの製造
下記の表1に示す配合表に従って材料を投入し、ハンドブレンダー(ブラウン社製、型番:MQ500)を用いて、約4分間、バッターの状態を目指して混合した。
【0034】
【表1】
【0035】
各サンプルについて、バッターとして必要な流動性を有するか否かを評価した。
【0036】
(2)バッターサンプルを用いた鶏から揚げの製造
得られたバッターサンプルのうち、バッターとして必要な流動性を有するバッターサンプルを用いて、以下の手順に従って鶏から揚げを製造した。
1.原料生肉の鶏肉を、一つの質量が32±2gとなるようにカットした。
2.調味液(食塩6.1%、リン酸塩(リン酸塩No.35;株式会社第一化成製)3.0%、水90.9%)を、原料生肉100gに対して16.5gになるよう計量し、肉とともにPE袋に投入した。
3.PE袋の開口部をシールした。
4.PE袋に入った肉を、タンブラー(真空マッサージタンブラーMG-40型)を用いて、常圧下、チルド温度帯にて、12rpmで30分間マッサージした。
5.タンブリング後の肉をボールにとり、馬鈴薯澱粉(スタビローズ1000;松谷化学工業株式会社製)を原料生肉100gに対し6.5gになるように投入し、混合した。
6.さらに、バッターサンプルを、原料生肉100gに対し27.0gになるようにボールに投入し、混合した。
7.さらに、小麦粉(バイオレット;日清製粉株式会社製)を88.9%、コーンスターチ(コーンスターチY;三和澱粉株式会社製)を7.8%、乾燥卵白(乾燥卵白Kタイプ;キューピータマゴ株式会社製)を3.3%含むブレッダーを、原料生肉100gに対し26.0gになるように、1個ずつ粉付けした。
8.得られた衣付きの肉を、2度揚げにより油ちょうした。1度目は、165℃で2分15秒間油ちょう後、常温で3分間静置し、2度目は165℃で2分15秒間油ちょうした。
9.得られた鶏のから揚げを、約-35℃の凍結庫で凍結した。
【0037】
(3)試食用の鶏から揚げの調製
上記(2)で得られた冷凍の鶏から揚げを175℃で7分間油ちょうした。油ちょう後の鶏から揚げを約5分間放冷し、エフピコ社製フードパックSA-20(縦130mm×横201mm×高さ49mmの二軸延伸ポリスチレンシート製の透明蓋付きパック)に4個入れて蓋をし、常温で約3時間静置した。4個の貯蔵後サンプルを皿に乗せ、電子レンジに投入し、出力600Wで1分10秒間加熱し、官能評価に供した。
【0038】
(4)官能評価
上記(3)で製造された鶏から揚げサンプルについて、専門パネル3名による官能評価を行った。評価項目および評価基準は以下のとおりとし、各項目とも、油ちょう調理直後品(上記(3)における油ちょうの直後)を5点満点とした。
(i)衣のサクミ:
1点:サクミがない~(3点以上:許容)~5点:サクミがある
(ii)衣のひき(噛み切り易さ):
1点:噛み切り難い~(3点以上:許容)~5点:噛み切り易い
(iii)衣の軟化(衣の硬さ維持):
1点:軟化している~(3点以上:許容)~5点:軟化していない
(iv)総合評価:
◎:衣の品質がかなり良好である
○:衣の品質が良好である
×:衣の品質が許容できない
【0039】
(5)衣層の水分活性の測定
上記(3)における油ちょう直後の鶏から揚げについて、以下の手順で衣層の水分活性を測定した。
1.常温放置して粗熱を取り、速やかに衣部分(中種以外の部分)を剥離した。
2.剥離した衣を、小片にカットし、均一化した。
3.サンプル3~3.5gをシャーレに入れ、ロトロニック社製水分活性測定システム(rotoronic hygrolab)にセットし、水分活性を測定した。
【0040】
(6)結果と考察
各サンプルについての官能評価の結果および水分活性測定の結果を下記の表2に示す。
【表2】
【0041】
表2から明らかなように、官能評価において良好な評価結果を示すサンプルでは、衣層の水分活性値は0.900以下となり、0.860以下を示すサンプルではより良好な評価結果となった。
【0042】
また、官能評価において良好な評価結果を示すサンプルでは、バッターにおける糖質の含有割合は18~75質量%であり、穀物粉の含有割合は5~50質量%であった。さらに、官能評価において良好な評価結果を示すサンプルでは、バッターにおける糖質の含有量と水の含有量の質量比(糖質/水)は0.3~4.5であり、0.6~4.0であるサンプルではより良好な評価結果となった。
【0043】
さらに、糖質としては、単糖、二糖、三糖、四糖、五糖、デキストリン、糖アルコールなど、様々な糖質が利用できることが分かった(試験区1、10、11、19、39~43および46~48)。また、穀物粉についても、澱粉、小麦粉、コーンフラワーなど、様々な穀物粉が利用できることが分かった(試験区1、17および18)。
【0044】
(7)衣素材としてパン粉を使用したフライ類における効果の確認
次のとおり、コロッケを製造した。まず、バッターサンプルとして、トレハロース40.00g、水50.00g、馬鈴薯澱粉48.00gおよびキサンタンガム0.50gをハンドブレンダー(ブラウン社製、型番:MQ500)を用いて混合し、本実施例のバッターを得た。これとは別に、陰性対照のバッターサンプルとして、水75.00g、馬鈴薯澱粉40.00gおよびキサンタンガム0.44gをハンドブレンダー(ブラウン社製、型番:MQ500)を用いて混合してバッターを得た。
【0045】
一方で、前処理具として、たまねぎ(4mmみじん切り)16.1質量%、食塩2.4質量%、黒コショウ0.3質量%、牛ひき肉64.5質量%、しょうゆ7.3質量%、みりん3.0質量%、および上白糖6.4質量%を一緒に炒めた。得られた前処理具28.4質量%、マッシュポテト69.6質量%および微粉パン粉2.0質量%を混合し、成形してコロッケの中種を得た。
【0046】
得られた中種52.00gの表面に、打ち粉として微粉パン粉0.70gをまぶし、その上を各バッターサンプル15.0gでコーティングし、その表面に半生パン粉(14mm)12.0gを付着させた。得られた油ちょう前のコロッケを約-35℃の凍結庫で急速凍結した。
【0047】
上記のようにして製造した油ちょう前の冷凍コロッケを、175℃で6分30秒間油ちょうした。油ちょう後のコロッケを約5分間放冷し、2個のコロッケをエフピコ社製フードパックSA-20(縦130mm×横201mm×高さ49mmの二軸延伸ポリスチレンシート製の透明蓋付きパック)に入れて蓋をし、常温で約3時間静置した。2個の貯蔵後サンプルを皿に乗せ、電子レンジに投入し、出力600Wで1分10秒間加熱し、上記と同様の官能評価に供した。
【0048】
結果を下記の表3に示す。
【表3】
【0049】
表3から明らかなように、本実施例のサンプルと、バッター中に糖質を配合していない陰性対照サンプルとの比較から、コロッケのようなパン粉を使用したフライ類においても、鶏から揚げについて実証された効果と同様の効果が確認された。
【0050】
(8)衣の外観の官能評価
上記(6)において良好と評価されたサンプルの一部について、専門パネル3名による衣の外観(3時間パック保管後)の官能評価を行った。評価基準は、1点:湿潤している~5点:適度に乾燥している、とし、油ちょう調理直後品(上記(3)における油ちょうの直後)を5点満点とした。陰性対照としては、試験区5(糖質なし)のサンプルを用いた。
【0051】
まず、試験区1のサンプルと、陰性対照である試験区5のサンプルとについて、油ちょう直後および3時間パック保管後を比較した外観の写真を図1に示す。図1によれば、油ちょう直後ではいずれのサンプルも適度に乾燥した好ましい外観を呈していることが分かる。これに対し、3時間パック保管後では、試験区1のサンプル(衣外観の官能評価結果:4.3)は油ちょう直後の外観を維持しているのに対し、陰性対照である試験区5のサンプル(衣外観の官能評価結果:3.0)では、衣の面積の半分程度が湿潤しており、好ましい外観とはいえなかった。
【0052】
次に、衣外観の官能評価の結果を下記の表4に示す。
【表4】
【0053】
表4から明らかなように、上記(6)において良好と評価されたサンプルでは、油ちょう後3時間の保管後においても良好な衣の外観を有していた。
図1