(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】離型用液組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20230817BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20230817BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20230817BHJP
C08K 5/36 20060101ALI20230817BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20230817BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C09K3/00 R
C08L29/04 A
C08K5/10
C08K5/36
C08K5/17
C08K5/05
(21)【出願番号】P 2020002495
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-177401(JP,A)
【文献】特開2016-074830(JP,A)
【文献】特開平01-285312(JP,A)
【文献】特開昭56-053193(JP,A)
【文献】特開昭59-166596(JP,A)
【文献】特開2021-065858(JP,A)
【文献】特開2021-065859(JP,A)
【文献】特開2020-146132(JP,A)
【文献】特開2022-179956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C09K 3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール、フッ素化合物、炭素数が1~3の範囲にある1種又は2種以上のアルコール及び水を含有する離型用液組成物であって、
前記液組成物100質量%に対して前記ポリビニルアルコールと前記フッ素化合物とを合計して0.5質量%~10質量%含み、
前記ポリビニルアルコールと前記フッ素化合物の質量比がポリビニルアルコール:フッ素化合物=99.9:0.1~90:10であり、
前記液組成物100質量%に対して前記アルコールを5質量%~50質量%含み、
前記フッ素化合物が下記式(1)又は式(2)で表される両性型フッ素系化合物であることを特徴とする離型用液組成物。
【化1】
(1)
上記式(1)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数である。また上記式(1)中、Xは、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合、O-CO-NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。また上記式(1)中、Yは、ベタイン構造である親水基である。
【化2】
(2)
上記式(2)中、p及びqは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数である。また上記式(2)中、Xは、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合、O-CO-NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。また上記式(2)中、Yは、ベタイン構造である親水基である。
【請求項2】
前記離型用液組成物100質量%に対して、着色剤が0.01質量%~1質量%含まれる請求項1記載の離型用液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型に代表される型(以下、金型等という。)に離型性を付与する離型用液組成物に関する。更に詳しくは樹脂成形体の金型等からの離型を容易にする離型用液組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の離型用液組成物として、シリコーン系の離型用組成物、フッ素系の離型用組成物、水溶性の離型用組成物が知られている。このシリコーン系の離型用組成物としては、シクロシロキサン置換ポリシロキサン化合物を含む組成物が開示されている(例えば、特許文献1(要約)参照。)。またフッ素系の離型用組成物としては、パーフルオロアルキル又はアルケニル基を有する化合物と、ポリテトラフルオロエチレンと、シリコーンオイル、シリコーン樹脂及び沸点が100℃以上の高度にフッ素化された化合物とを少なくとも1つ有する化合物を含んでなる非粘着性組成物が開示されている(例えば、特許文献2(請求項1)参照。)。更に水溶性の離型用組成物としては、ポリビニルアルコール、タルク、水酸化アルミニウム等を含む組成物が開示されている(例えば、特許文献3(特許請求の範囲第1項)参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2013-539484号公報
【文献】WO1995/00307号公報
【文献】特開昭58-87196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されるシリコーン系の離型用組成物及び特許文献2に示されるフッ素系の離型用組成物は、ともに離型性に優れるけれども、金型等により作られる成形体に離型用組成物が転写した場合に成形体に転写された離型用組成物を除去するために別途専用の剥離溶剤が必要となる不具合があった。また特許文献3に示される水溶性の離型用組成物は、上記不具合がない反面、離型性に劣る問題があった。
【0005】
本発明の目的は、樹脂成形体の金型等からの離型が容易であって、金型等で作られた成形体に離型膜が転写した場合に成形体に転写された離型膜を水で除去することができる離型用液組成物を提供することにある。本発明の別の目的は、成形体に転写された離型膜を目視で容易に確認できる離型用液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、ポリビニルアルコール(以下、PVAという。)、フッ素化合物、炭素数が1~3の範囲にある1種又は2種以上のアルコール及び水を含有する離型用液組成物であって、前記液組成物100質量%に対して前記PVAと前記フッ素化合物とを合計して0.5質量%~10質量%含み、前記PVAと前記フッ素化合物の質量比がPVA:フッ素化合物=99.9:0.1~90:10であり、前記液組成物100質量%に対して前記アルコールを5質量%~50質量%含み、前記フッ素化合物が下記式(1)又は式(2)で表される両性型フッ素系化合物であることを特徴とする。
【0007】
【0008】
上記式(1)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数である。また上記式(1)中、Xは、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合、O-CO-NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。また上記式(1)中、Yは、ベタイン構造である親水基である。
【0009】
【0010】
上記式(2)中、p及びqは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数である。また上記式(2)中、Xは、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合、O-CO-NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。また上記式(2)中、Yは、ベタイン構造である親水基である。
【0011】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記離型用液組成物は、液組成物100質量%に対して、着色剤が0.01質量%~1質量%含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の観点の離型用液組成物は、PVAとフッ素化合物とを合計した質量割合、PVAとフッ素化合物の質量比及びアルコールの質量割合をそれぞれ所定の範囲に制御して構成され、フッ素化合物が両性型フッ素系化合物である。この液組成物はアルコールを所定の質量割合含むため、液組成物の溶液安定性に優れる。PVAは、成膜性に優れ、アルコールに対する溶解性がなく水に溶けやすい。離型用液組成物を金型等の表面に塗工してPVAの離型膜を形成した後、金型等の表面に樹脂を塗工し硬化させて樹脂成形体を作る際に、この離型膜はアルコールに対する溶解性がないため、樹脂との結合が生じにくい。また液組成物は両性型フッ素系化合物を所定の質量割合含むため、金型等に塗工し易くかつ樹脂成形体が金型等から容易に離脱して離型性に優れる。また炭素数が1~3の範囲にあるアルコールを用いるため、両性型フッ素系化合物のアルコールへの溶解性が良好である。更に金型等から離脱した樹脂成形体表面に離型膜が転写していても、PVAが水溶性であることからこの離型膜を水で容易に除去することができる。特に本発明のフッ素化合物は、フッ素を含む官能基のフッ素含有率が高いことから離型性に優れ、更に両性基を含有することから水へのなじみが良く、他のフッ素化合物と異なり、水で容易に除去できる。
【0013】
本発明の第2の観点の離型用液組成物は、着色剤を所定の割合で含むため、成形体に転写された離型膜を目視で容易に確認することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0015】
〔離型用液組成物〕
本実施の形態の離型用液組成物は、PVA、フッ素化合物、炭素数が1~3のアルコール及び水を混合して調製される。更に上記液組成物は、着色剤を含むことが好ましい。着色剤は成形体に転写された離型膜を目視で容易に確認するために用いられる。本実施の形態のPVAは、ビニルエステルの重合体を完全又は部分ケン化したものである。ケン化方法としては、公知のアルカリケン化法や酸ケン化法を用いることができる。中でも、メタノール中で水酸化アルカリを使用して加アルコール分解する方法が好ましい。このPVAは、水と混合して用いるため、水溶性であることが必要である。PVAとしては、一般に離型用液組成物で使用されているものであれば特に限定されず、各種ケン化度や重合度を有する未変性のポリビニルアルコールや、カルボキシル基、スルホ基等のアニオンで変性されたアニオン変性ポリビニルアルコール、アミノ基、アンモニウム基等のカチオンで変性されたカチオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、アルコキシル変性ポリビニルアルコール、エポキシ変性ポリビニルアルコール、チオール変性ポリビニルアルコール等のランダム共重合体;アニオン変性、カチオン変性、チオール変性、シラノール変性、アルコキシル変性及びエポキシ変性等変性が末端基のみに行われているポリビニルアルコール、アクリルアミド、アクリル酸等の水溶性モノマーを導入したブロック共重合ポリビニルアルコール、シラノール基等をグラフトさせたグラフト共重合ポリビニルアルコール等を使用することができる。例えば、完全ケン化型のPVAとしては、クラレ社製PVA103、PVA117,PVA124、日本合成化学社製NH-20、NH-18等が挙げられる。カルボキシ変性PVAとしては、日本合成化学社製T-330H、スルホ基変性PVAとしては、日本合成化学社製L-823等が挙げられる。
【0016】
上記着色剤は、上記液組成物100質量%に対して、0.01質量%~1質量%、好ましくは0.02質量%~0.8質量%含まれる。0.01質量%未満では、塗膜が着色しにくい。1質量%を超えると、塗膜の撥油性が劣り易くなり、液組成物の保存安定性が低下し易くなる。着色剤を例示すれば、β-アポ-8’-カロテナール、β-カロテン、カンタキサンチン、三二酸化鉄、食用赤色2号(別名アマランス)及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色3号(別名エリスロシン)及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色40号(別名アルラレッドAC)及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色102号(別名ニューコクシン)、食用赤色104号(別名フロキシン)、食用赤色105号(別名ローズベンガル)、食用赤色106号(別名アシッドレッド)、食用黄色4号(別名タートラジン)及びそのアルミニウムレーキ、食用黄色5号(別名サンセットイエローFCF)及びそのアルミニウムレーキ、食用緑色3号(別名フアストグリーンFCF)及びそのアルミニウムレーキ、食用青色1号(別名ブリリアントプルーFCF)及びそのアルミニウムレーキ、食用青色2号(別名インジゴカルミン)及びそのアルミニウムレーキ、水溶性アナトー、アナトー色素、アルミニウム、ウコン色素、オレンジ色素、カカオ色素、カキ色素、カラメルI、カラメルII、カラメルIII、カラメルIV、カロブ色素、魚鱗箔、金、銀、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、クチナシ黄色素、クーロー色素、クロロフィリン、クロロフィル、酵素処理ルチン(抽出物)、コウリャン色素、コチニール色素、骨炭色素、シアナット色素、シタン色素、植物炭末色素、スピルリナ色素、タマネギ色素、タマリンド色素、デュナリエラカロテン、トウガラシ色素、トマト色素、ニンジンカロテン、パーム油カロテン、ビートレッド、ファフィア色素、ブドウ果皮色素、ペカンナッツ色素、ベニコウジ黄色素、ベニコウジ色素、ベニバナ赤色素、ベニバナ黄色素、ヘマトコッカス藻色素、マリーゴールド色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ムラサキヤマイモ色素、ラック色素、ルチン(抽出物)、ログウッド色素等が挙げられる。
【0017】
本実施の形態のフッ素化合物は、上記式(1)又は式(2)で示される両性型フッ素系化合物、である。
【0018】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物におけるフッ素系化合物の上記式(1)又は式(2)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(3)~(7)で示されるペルフルオロエーテル基を挙げることができる。
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物におけるフッ素系化合物の上記式(2)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(8)~(11)で示されるペルフルオロエーテル基を挙げることができる。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
また、上記式(1)又は式(2)中のXとしては、下記式(12)~(16)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(12)はエーテル結合、下記式(13)はエステル結合、下記式(14)はアミド結合、下記式(15)はウレタン結合、下記式(16)はスルホンアミド結合を含む例を示している。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
ここで、上記式(12)~(16)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子または炭素数1から6の炭化水素基である。R2及びR3の炭化水素基の例とは、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基が挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基、ビニル基等も挙げられる。
【0036】
また、上記式(1)又は式(2)中のYとしては、Yとしては、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミンオキシド型、フォスフォベタイン型等が挙げられる。
【0037】
ここで、上記式(1)及び式(2)で表されるペルフルオロエーテル構造を有するフッ素系化合物の具体例としては、例えば、下記式(17)~(22)で表される構造が挙げられる。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
本実施の形態の炭素数が1~3の範囲にあるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール(n-プロパノール、イソプロパノール)が挙げられる。炭素数が4以上のアルコールを用いると、上記両性型フッ素系化合物のアルコールへの溶解性が良好でなくなる。本実施の形態の水としては、イオン交換水、蒸留水などの純水、又は超純水が挙げられる。
【0045】
本実施の形態の離型用液組成物におけるPVAとフッ素化合物とを合計した質量割合は液組成物100質量%に対して0.5質量%~10質量%、好ましくは1.5質量%~5質量%である。合計した質量割合が下限値未満では、成膜時に上記液組成物を塗布した膜が弾いてしまい、成膜性に劣る。また上限値を超えると、液組成物の粘度が高過ぎて、成膜時に、表面に凹凸が生じ離型性に劣る。また本実施の形態の離型用液組成物におけるPVAとフッ素化合物の質量比はPVA:フッ素化合物=99.9:0.1~90:10、好ましくは99.8:0.2~95:5である。PVAが99.9を超えかつフッ素化合物が0.1未満である場合、金型等への離型性付与が不十分になる。またPVAが90未満でかつフッ素化合物が10を超えると、フッ素化合物の表面張力が強く出現し、塗布膜の弾きが生じて、塗工性が悪化し成膜できずかつ液組成物の溶液安定性が悪化する。更に本実施の形態の離型用液組成物におけるアルコールの質量割合は液組成物100質量%に対して5質量%~50質量%、好ましくは20質量%~40質量%である。アルコールの質量割合が下限値未満では、液組成物中でフッ素化合物が析出し、溶液安定性が悪化し、上限値を超えると、水の割合が減少し、これによりPVAが析出し、液組成物の溶液安定性が悪化する。またPVAと水のみの系であれば、成膜性に優れているが、アルコールを添加すると、成膜時に塗布膜に弾きが生じてしまう。この弾きを減少させるために、フッ素化合物を添加することで、界面活性性能が発現され、成膜性を大きく改善することができる。そのため本実施の形態では、PVA、水、アルコール、フッ素化合物の4つの組合せをすることで初めて機能を発現できる液組成物になる。本実施の形態の離型用液組成物は、PVAを含むため、金型等表面との濡れ性、密着性に優れる。上記液組成物が着色剤を含む場合には、塗布膜を目視で容易に確認することができる。
【0046】
〔離型膜の形成方法〕
本実施の形態の離型膜は、後述する樹脂成形体の接触面となる金型等の表面に上記液組成物を塗工して乾燥することにより形成される。離型膜の厚さは、金型等の表面形状に依存するが、0.5μm~5μmが好ましい。0.5μm未満では離型効果に乏しく、5μmを超えると塗布膜が不均一になることで膜表面に凹凸が発生し、離型効果に劣る。金型等の基材としては、アルミニウム(Al)、ステンレス鋼(SUS)等の金属製基材の他、ポリ塩化ビニル(PVC)、繊維強化プラスチック(FRP)等の樹脂製基材、木材からなる木製基材等が挙げられる。金型等の表面への塗工法としては、特に制限されず、例えば上記離型用液組成物をディッピング法、刷毛塗り法、スプレーコーティング法等の公知の方法が挙げられる。塗工後の乾燥は、大気雰囲気下、常温で10分~60分間放置して行われる。特に加熱を必要としない。乾燥した離型膜は表面平滑性に優れる。
【0047】
〔金型等による樹脂成形体の作製方法〕
本実施の形態の金型等で成形される樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。上記樹脂に硬化剤を添加し、溶液状態で離型膜を介して金型等の外面又は内面に積層又は注入した後、上記樹脂を硬化させて樹脂成形体を作製する。この硬化した樹脂成形体は、金型等の表面に上述した離型膜が形成されているため、金型等の表面に成形体の一部が付着せずに、所望の形状で円滑かつ容易に金型等から離型することができる。また樹脂成形体を金型等から離型した後で、樹脂成形体の表面に離型膜が残存しても、PVAが水に溶解しやすいために、水で残存した離型膜を除去することができる。
【実施例】
【0048】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0049】
<実施例1>
PVA濃度が4質量%のクラレ社製PVA117を溶解した水溶液30.63gと、蒸留水35.13gと、エタノール85質量%、イソプロパノール5質量%及びn-プロパノール10質量%からなるアルコール34.23gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(17)で表される化合物を0.025g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0050】
<実施例2>
PVA濃度が4質量%のクラレ社製PVA124を溶解した水溶液12.25gと、蒸留水62.74gと、エタノール85質量%、イソプロパノール5質量%及びn-プロパノール10質量%からなるアルコール25.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(18)で表される化合物を0.010g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0051】
<実施例3>
PVA濃度が15質量%のクラレ社製PVA103を溶解した水溶液62.70gと、蒸留水2.21gと、エタノール85質量%、イソプロパノール5質量%及びn-プロパノール10質量%からなるアルコール35.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(19)で表される化合物を0.095g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0052】
<実施例4>
PVA濃度が15質量%のクラレ社製PVA103を溶解した水溶液53.28gと、蒸留水11.71gと、エタノール35.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(20)で表される化合物を0.008g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0053】
<実施例5>
PVA濃度が4質量%の日本合成化学社製ゴーセネックスT-330Hを溶解した水溶液38.80gと、蒸留水36.15gと、エタノール85質量%、イソプロパノール5質量%及びn-プロパノール10質量%からなるアルコール25.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(21)で表される化合物を0.048g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0054】
<実施例6>
PVA濃度が4質量%の日本合成化学社製ゴーセネックスT-330Hを溶解した水溶液16.88gと、蒸留水48.05gと、エタノール85質量%、イソプロパノール5質量%及びn-プロパノール10質量%からなるアルコール35.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(22)で表される化合物を0.075g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0055】
<実施例7>
PVA濃度が4質量%のクラレ社製PVA117を溶解した水溶液24.75gと、蒸留水70.24gと、エタノール85質量%、イソプロパノール5質量%及びn-プロパノール10質量%からなるアルコール5.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(22)で表される化合物を0.010g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0056】
<実施例8>
PVA濃度が4質量%のクラレ社製PVA103を溶解した水溶液24.50gと、蒸留水25.48gと、エタノール85質量%、イソプロパノール5質量%及びn-プロパノール10質量%からなるアルコール50.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(22)で表される化合物を0.020g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0057】
<実施例9>
実施例1で調製した離型用液組成物100g(100質量%)に着色剤として食用青色1号を0.5g(0.5質量%)添加し、十分に混合して、最終的な液組成物を得た。
【0058】
<比較例1>
PVA濃度が4質量%のクラレ社製PVA117を溶解した水溶液9.70gと、蒸留水55.29gと、エタノール85質量%、イソプロパノール5質量%及びn-プロパノール10質量%からなるアルコール35.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(21)で表される化合物を0.012g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0059】
<比較例2>
PVA濃度が15質量%のクラレ社製PVA103を溶解した水溶液69.30gと、蒸留水5.60gと、エタノール85質量%、イソプロパノール5質量%及びn-プロパノール10質量%からなるアルコール25.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(21)で表される化合物を0.105g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0060】
<比較例3>
PVA濃度が4質量%のクラレ社製PVA117を溶解した水溶液24.99gと、蒸留水40.01gと、エタノール85質量%、イソプロパノール5質量%及びn-プロパノール10質量%からなるアルコール35.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(21)で表される化合物を0.0005g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0061】
<比較例4>
PVA濃度が4質量%のクラレ社製PVA117を溶解した水溶液22.25gと、蒸留水42.64gと、エタノール85質量%、イソプロパノール5質量%及びn-プロパノール10質量%からなるアルコール35.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(22)で表される化合物を0.110g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0062】
<比較例5>
PVA濃度が4質量%のクラレ社製PVA117を溶解した水溶液67.50gと、蒸留水29.20gと、エタノール3.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(22)で表される化合物を0.300g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0063】
<比較例6>
PVA濃度が4質量%のクラレ社製PVA124を溶解した水溶液47.50gと、蒸留水0.40gと、エタノール85質量%、イソプロパノール5質量%及びn-プロパノール10質量%からなるアルコール52.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(22)で表される化合物を0.100g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0064】
<比較例7>
PVA濃度が4質量%のクラレ社製PVA117を溶解した水溶液30.63gと、蒸留水34.17gとエタノール85質量%、イソプロパノール5質量%及びn-プロパノール10質量%からなるアルコール35.00gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液にシリコーン系剥離剤(信越化学工業社製KM-244F)を0.20g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0065】
<比較例8>
PVA濃度が4質量%のクラレ社製PVA117を溶解した水溶液30.63gと、蒸留水35.13gと、n-ブタノール34.23gとを秤量し、これらを十分に混合した後、この混合液に上記式(22)で表される化合物を0.025g添加混合して離型用液組成物を調製した。
【0066】
<比較例9>
比較例9では、実施例1で調製した液組成物100g(100質量%)に着色剤として食用青色1号を2.0g(2質量%)添加し、十分に混合して、最終的な液組成物を得た。
【0067】
実施例1~9及び比較例1~9の離型用液組成物における、PVA水溶液の濃度と秤量値、両性型フッ素系化合物の種類と秤量値、アルコール及び水の各秤量値を表1に示す。表1中、両性型フッ素系化合物は、単に「フッ素化合物」と記載し、その種類として、例えば「式(17)」と記載したものは、「式(17)に示される化合物」を意味する。またPVAとフッ素化合物とを合計した質量割合、PVAとフッ素化合物の質量比及びアルコールの質量割合をそれぞれ表2に示す。
【0068】
<比較試験及び評価>
次に述べる方法で、(1) 金型からの樹脂層の剥離性(離型性)と、(2) 離型膜の易洗浄性を調べた。
【0069】
(1) 金型からの樹脂層の剥離性(離型性)
実施例1~9及び比較例1~9で得られた離型用液組成物を厚さ3mm、たて150mm、よこ75mmの板状のSUS基材(金型)表面に刷毛で塗布し、大気雰囲気下、常温で1時間放置し乾燥することにより離型膜を形成した。この離型膜の平均厚さはマイクロメーターにより測定したところ1μmであった。このSUS基材表面に形成された離型膜上に、アクリル樹脂(日本合成化学製コーボニールN-7520)とポリイソシアネート(東ソー社製コロネートL-55E)と希釈用溶媒である酢酸ブチルを質量比で100:0.2:100の割合で混合した樹脂液を刷毛を用いて積層塗布した。樹脂液により形成された樹脂層上にポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルムを置き、PET表面をウレタン製ローラを転がして荷重を加えた。この状態で大気雰囲気下、常温で18時間放置することにより樹脂層を乾燥し、アクリル樹脂を硬化させて厚さ1mmの樹脂層(樹脂成形体)を得た。PETフィルムを樹脂層から静かに剥がした後、SUS基材(金型)からの樹脂層の剥離性(離型性)を目視により調べた。SUS基材(金型)から樹脂層が完全に剥離した場合を「良好」とし、樹脂層が一部でもSUS基材(金型)の表面に付着残存した場合を「不良」と評価した。
【0070】
(2) 離型膜の易洗浄性
SUS基材(金型)から剥離した樹脂層を14℃の水道水で洗浄した。水洗乾燥後、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)(SEM:株式会社日立ハイテクノロジーズ社製S-3500N、EDS:堀場製作所製EMAX モデル7021-H)を用いて、樹脂層の表面に離型膜成分のフッ素が存在しているか調べた。フッ素が全く存在しなかった場合を離型膜の易洗浄性が「良好」であると評価し、フッ素が少しでも存在した場合を離型膜の易洗浄性が「不良」であると評価した。これらの結果を次の表2に示す。
【0071】
【0072】
【0073】
表2から明らかなように、比較例1では、PVAとフッ素化合物を合計した固形分濃度が0.40質量%と低いため、成膜時に、膜の弾きが発生し、均一に成膜できなかった。この結果、金型からの離型性が不良であった。金型からの離型が不良であったため、洗浄テストはできなかった。
【0074】
比較例2では、固形分濃度が10.50質量%と高すぎたため、液組成物の粘度が高く、成膜時に膜に凹凸が発生し、均一に成膜できなかった。この結果、金型からの離型性が不良であった。金型からの離型が不良であったため、洗浄テストはできなかった。
【0075】
比較例3では、フッ素化合物の質量比が0.05と低すぎたため、金型からの離型性が不良であった。金型からの離型が不良であったため、洗浄テストはできなかった。
【0076】
比較例4では、フッ素化合物の質量比が11.0と高すぎたため、成膜時に膜の弾きが発生し、凹凸が発生し、均一に成膜できなかった。この結果、金型からの離型性が不良であった。金型からの離型が不良であったため、洗浄テストはできなかった。
【0077】
比較例5では、アルコール濃度が3.0質量%と低過ぎたため、液組成物中にフッ素化合物が析出しており、成膜時に膜に凹凸が発生し、均一に成膜できなかった。この結果、金型からの離型性が不良であった。金型からの離型が不良であったため、洗浄テストはできなかった。
【0078】
比較例6では、アルコール濃度が52.0質量%と高過ぎたため、液組成物中にPVAが析出しており、成膜時に膜に凹凸が発生し、均一に成膜できなかった。この結果、金型からの離型性が不良であった。金型からの離型が不良であったため、洗浄テストはできなかった。
【0079】
比較例7では、フッ素化合物の代わりに、シリコーンを用いたが、シリコーンの添加量が少なかったため、金型からの離型性が不良であった。金型からの離型が不良であったため、洗浄テストはできなかった。
【0080】
比較例8では、アルコールが炭素数が4であるn-ブタノールであるため、液組成物中にPVAが析出しており、成膜時に膜に凹凸が発生し、均一に成膜できなかった。この結果、金型からの離型性が不良であった。金型からの離型が不良であったため、洗浄テストはできなかった。
【0081】
比較例9では、更に比較例9の液組成物では、着色剤の含有割合が1質量%を超えたため、金型からの離型性が不良であった。金型からの離型が不良であったため、洗浄テストはできなかった。
【0082】
これに対して、表2から明らかなように、実施例1~9では、PVAとフッ素化合物とを合計した質量割合が0.5質量%~10質量%の範囲にあり、PVAとフッ素化合物の質量比が99.9:0.1~90:10の範囲にあり、アルコールの質量割合が5質量%~50質量%の範囲にあり、かつフッ素化合物が式(17)~式(22)で表される両性型フッ素系化合物であったため、金型からの樹脂層の剥離性(離型性)はすべて「良好」であり、また離型膜の易洗浄性もすべて「良好」であった。更に実施例9で形成された膜は着色されていたため、目視で膜を容易に確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の離型用液組成物は、プレス成形法、FRP成形法等により樹脂成形体を作る場合に、樹脂成形体を金型等から容易に離型させる分野に用いられる。