(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】消臭剤及び消臭複合体
(51)【国際特許分類】
A61L 9/014 20060101AFI20230817BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20230817BHJP
C01B 32/372 20170101ALI20230817BHJP
C03C 12/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
A61L9/014
A61L9/01 E
A61L9/01 B
C01B32/372
C03C12/00
(21)【出願番号】P 2020007216
(22)【出願日】2020-01-21
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000198477
【氏名又は名称】石塚硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡山 将也
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-176936(JP,A)
【文献】国際公開第2018/185948(WO,A1)
【文献】特開2017-031375(JP,A)
【文献】特開2016-193406(JP,A)
【文献】特開2014-047087(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147850(WO,A1)
【文献】米国特許第05538929(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00-9/22
C01B 32/00-32/991
C03C 1/00-14/00
B01D 53/02-53/12
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着剤と、表面反応剤との混合物からなる消臭剤であって、前記吸着剤が活性炭であり、表面反応剤は粒径がD
50=0.1~55μmの
溶解性を有するリン酸系ガラスの粉粒体であることを特徴とする消臭剤。
【請求項2】
質量比で、10~90%の活性炭と90~10%の
溶解性を有するリン酸系ガラスとを混合したことを特徴とする請求項1に記載の消臭剤。
【請求項3】
前記リン酸系ガラスが、P
2O
5:30~60モル%、MgO+CaO+ZnO:1~60モル%、SiO
2:0~40モル%の組成を持つことを特徴とする請求項2に記載の消臭剤。
【請求項4】
前記リン酸系ガラスが、さらに1~20モル%のB
2O
3を含有することを特徴とする請求項3に記載の消臭剤。
【請求項5】
前記リン酸系ガラスが、さらに1~20モル%のAl
2O
3を含有することを特徴とする請求項4に記載の消臭剤。
【請求項6】
前記リン酸系ガラスが、さらに1~37モル%のK
2O+Na
2O+Li
2Oを含有することを特徴とする請求項5に記載の消臭剤。
【請求項7】
請求項1~6の何れかに記載の消臭剤を、通気性の容器または袋に充てんしたことを特徴とする消臭複合体。
【請求項8】
請求項1~6の何れかに記載の消臭剤を、樹脂と混合成形するか、樹脂表面に担持させたことを特徴とする消臭複合体。
【請求項9】
請求項1~6の何れかに記載の消臭剤を、フィルタエレメントの表面又は内部に担持させたことを特徴とする消臭フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭剤及びこれを用いた消臭複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消臭剤としては、臭気を吸着して脱臭するタイプのものが一般的である。吸着剤にはシリカゲル、ゼオライト、活性炭などが知られているが、中でも活性炭が広く用いられている。活性炭は非常に微細な細孔構造を有し、多くの種類の臭気を吸着することができるので、特許文献1に記載されているように、冷蔵庫用消臭剤等として古くから用いられ、また特許文献2に記載されているように、空気清浄用フィルタ等にも用いられている。
【0003】
ところが吸着剤はあらゆる臭気を吸着できるものではなく、例えば活性炭は、アンモニアやアミンなどの塩基性の臭気に対しては十分な吸着効果を発揮することができない。そこで特許文献1では、活性炭の表面に硫黄、塩酸、リン酸、クエン酸などの酸成分を添着し、アンモニアやアミンなどの臭気の吸着性能を向上させている。
【0004】
ところが酸成分の添着量が多くなり吸着剤である活性炭の細孔を埋めることとなると活性炭本来の吸着性能が低下するため、酸成分の添着量には制限がある。従ってアンモニアやアミンなどの塩基性の臭気に対する消臭効果は限定的であった。また、長期間の使用により細孔が塞がれて吸着能力は次第に低下して行くため、効果の持続性にも問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭59-151963号公報
【文献】特開2016-112493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、アンモニアやアミンなどの塩基性の臭気をも長期間にわたり効果的に脱臭することができる消臭剤及びこれを用いた消臭複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は長年にわたり消臭剤の開発を行なってきたが、吸着剤を単独で用いた消臭剤の性能が、表面反応剤と組み合わせることにより相乗的に高まることを見出した。ここで表面反応剤とは、吸着剤のように臭気を吸着するのではなく、臭気が接触する表面における化学反応又は触媒反応により臭気を分解し、脱臭する剤を意味する。本発明の消臭剤は上記の発見に基づいてなされたものであり、吸着剤と、表面反応剤との混合物からなることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の消臭剤は、吸着剤と、表面反応剤との混合物からなる消臭剤であって、前記吸着剤が活性炭であり、表面反応剤は粒径がD50=0.1~55μmの溶解性を有するリン酸系ガラスの粉粒体であることを特徴とするものである。本発明の消臭剤は質量比で、10~90%の活性炭と90~10%の溶解性を有するリン酸系ガラスとを混合したものとすることが好ましい。なお、このリン酸系ガラスは、P2O5:30~60モル%、MgO+CaO+ZnO:1~60モル%、SiO2:0~40モル%の組成を持つガラスとすることが好ましい。このリン酸系ガラスは、さらに1~20モル%のB2O3を含有することができ、さらに1~20モル%のAl2O3を含有することができ、さらに1~37モル%のK2O+Na2O+Li2Oを含有することができる。
【0009】
また本発明の消臭複合体は、上記の消臭剤を、通気性の容器または袋に充てんするか、樹脂と混合成形するか、樹脂表面に担持させたことを特徴とするものである。なお、上記の消臭剤をフィルタエレメントの表面又は内部に担持させて消臭フィルタとすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の消臭剤は、吸着剤と、表面反応剤との混合物からなるため、吸着剤が吸着できなかった臭気を表面反応剤の表面反応により分解することができる。吸着剤は活性炭であり、表面反応剤は粒径がD50=0.1~55μmの溶解性を有するリン酸系ガラスの粉粒体である。この消臭剤は、活性炭単体では十分に吸着できなかったアンモニアやアミンなどの塩基性の臭気を、リン酸系ガラスから溶出させたリン酸イオンにより中和して脱臭することができる。しかも後記する実施例のデータに示すように、活性炭とリン酸系ガラスとを混合することによって予期しなかった相乗効果が生じ、夫々を単独で使用した場合における効果の総計よりも、大きい消臭効果を得ることができる。なお、表面反応剤の消臭効果は吸着剤の消臭効果よりも長期間にわたり維持されるので、効果の持続性が得られる。また本発明の消臭複合体は接触する空気中の臭気を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】活性炭とリン酸系ガラスを単独で用いた場合のアンモニアの消臭率を示すグラフである。
【
図2】活性炭とリン酸系ガラスを単独で用いた場合のホルムアルデヒドの消臭率を示すグラフである。
【
図3】活性炭とリン酸系ガラスを混合した場合の、アンモニアとホルムアルデヒドの消臭率を示すグラフである。
【
図4】本発明の消臭剤を担持させたフィルタの、アンモニアとホルムアルデヒドの消臭率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を説明する。
本発明の消臭剤は、吸着剤と、表面反応剤との混合物からなる。吸着剤としてはシリカゲル、ゼオライト、活性炭、珪藻土などが知られているが、本発明では活性炭を用いる。また表面反応剤としては臭気を分解することができる各種の触媒や薬品を用いることができるが、本発明では表面反応剤はD50=0.1~55μmの溶解性を有するリン酸系ガラスの粉粒体である。
【0013】
活性炭は消臭剤として従来から用いられているものであり、ヤシ殻炭、木炭、石炭を原料として水蒸気賦活した粒状活性炭を用いることができるほか、短繊維状の活性炭を用いることもできる。活性炭の表面には非常に微細な細孔構造が形成されており、各種の臭気成分を吸着することができる。
【0014】
しかし前記したように、活性炭はアンモニアやアミンなどの塩基性の臭気成分の吸着性能が不十分である。そこで本発明では表面反応剤として、リン酸系ガラスの粉粒体を混合する。リン酸系ガラスはガラスの網目形成材としてP2O5を含有するガラスであり、大気中の水分と接触すると酸性のリン酸イオンを溶出する溶解性ガラスである。その溶出速度はガラス組成により比較的自由にコントロールすることができる。溶出したリン酸イオンはそれ自体がアンモニアやアミンを中和して消臭するとともに、活性炭の表面を化学的に修飾し、酸成分を添着した活性炭として機能させ、これにより前記した相乗効果を生ずるものである。
【0015】
以下に、リン酸系ガラスの組成を説明する。本発明で用いるリン酸系ガラスは、P2O5:30~60モル%、MgO+CaO+ZnO:1~60モル%、SiO2:0~40モル%の組成とすることが好ましい。
【0016】
P2O5はガラスの網目形成材であり、ガラスに溶解性を与えるとともに、表面のpHを低下させる主要成分である。P2O5が30モル%未満であるとガラスに十分な溶解性を与えることができず、消臭効果に寄与するリン酸成分を十分に得ることができなくなる。逆に60モル%を超えると吸湿性が過度に高くなり、取扱い性が低下するので好ましくない。
【0017】
MgO、CaO、ZnOのアルカリ土類金属成分は何れも、ガラスの溶解速度とpHに影響を与える成分である。MgOはガラスの溶解速度を下げ、pHを上げる性質を持つ。CaOも同様に、ガラスの溶解速度を下げ、pHを上げる性質を持つ。ZnOは溶解速度を上げ、pHを上げる性質を持つ。これらの3成分を合計量で1モル%以上含有させることにより、ガラス化を容易にすることができる。またこれらの3成分の合計量が1モル%未満であると、相対的にP2O5が増加することとなり、吸湿性が過度に高くなり、取扱い性が低下する。逆に合計量が60モル%を超えると白濁化したり不均質となり、ガラス化が困難となる。
【0018】
SiO2はガラスの網目形成材であるが、リン酸系ガラスの必須成分ではない。SiO2を加えることによりガラスの骨格が強化され取扱い性が向上する。しかし40モル%を超えると相対的にP2O5が減少するため、消臭効果に寄与するリン酸成分が減少し、本発明に用いるリン酸系ガラスとしては不適当となる。
【0019】
上記の基本組成に更に、1~20モル%のB2O3を含有することができる。B2O3はpHの低下に直接寄与するものではないが、1モル%以上を添加することにより、リン酸イオンの溶出を促進する効果がある。しかし20モル%を超えるとpHの低下を阻害するので好ましくない。
【0020】
上記の組成に更に、1~20モル%のAl2O3を含有させることができる。Al2O3はガラスの網目を強化し、潮解性を低下させて取扱い性を高める効果がある。しかし20モル%を超えるとリン酸イオンの溶出が抑制されるので、好ましくない。
【0021】
上記の組成に更に、1~37モル%のK2O+Na2O+Li2Oを含有させることができる。これらのアルカリ金属成分は何れもガラスの溶解性を高めるが、pHを上げる成分であるため37モル%を超えることは好ましくない。pHを低く保つために特に好ましい範囲は、1~7モル%である。このほか、着色剤として少量のCu、Co等の金属成分を添加し、青色のガラスとすることもできる。
【0022】
このリン酸系ガラスは、好ましくはD50=0.1~55μm、より好ましくはD50=0.5~5μm、かつD90が20μm以下の粉粒体として活性炭と混合する。消臭効果を高めるためには粒径を小さくして比表面積を高めることが好ましいのであるが、D50を0.1μm未満とすることは粉砕コストが嵩むうえ、活性炭の細孔を埋める可能性があるため、工業的にはD50=0.5~5μmの範囲が好ましい。
【0023】
吸着剤の質量配合比を1~99%とし、表面反応剤の質量配合比を99~1%とすることが好ましい。この範囲を外れると、吸着剤と表面反応剤をそれぞれ単独で使用した状態に近くなり、これらを混合することによる相乗効果を得ることができなくなる。活性炭とリン酸系ガラスの混合比は、質量比で10~90%の活性炭と90~10%のリン酸系ガラスとすることが好ましい。これらの混合比と消臭効果の関係については、次の実施例において詳しく説明する。
【0024】
上記した本発明の消臭剤を、通気性の容器または袋に充てんして消臭複合体とすることができる。この消臭複合体は例えば冷蔵庫、下駄箱、居室等の消臭に用いることができる。また、上記した消臭剤を樹脂と混合成形するか、樹脂表面に担持させた消臭複合体とすることができる。この消臭複合体は樹脂製品に消臭効果を付与したものであり、樹脂が繊維であれば消臭性を持つ衣料を得ることができる。さらに上記の消臭剤をフィルタエレメントの表面又は内部に担持させて消臭フィルタとすれば、例えばエアコンディショナを通過する空気を消臭し、室内や車室内を快適な環境とすることができる。
【実施例】
【0025】
市販の活性炭の粉末と溶解性を有するリン酸系ガラスの粉末を準備した。リン酸系ガラスは、P2O5:57モル%、MgO:10モル%、B2O3:17モル%、Al2O3:8モル%、Li2O:3モル%、ZnO:5モル%となるようにガラス原料を調合し、溶融後に冷却、さらに粉砕してD50=0.5~5μm、かつD90が20μm以下の粉粒体としたものである。これらをリン酸系ガラス:活性炭の質量比が0:100(活性炭のみ)、10:90、50:50、90:10、0:100(リン酸系ガラスのみ)の5段階となるように混合し、試験用の消臭剤とした。消臭試験は、温度20℃の室内に置かれた容量が10LのBSバッグに、10Lの臭気成分と消臭剤を封入し、臭気成分の濃度変化を検知管で測定する方法で行った。臭気成分はアンモニア100ppmとホルムアルデヒド10ppmである。
【0026】
(活性炭のみからなる消臭剤の消臭性能)
活性炭のみからなる消臭剤を用い、10分後のアンモニアとホルムアルデヒドの消臭率を測定したところ、表1の結果が得られた。消臭率が60%未満は△、60%を超え80%未満を〇、80%以上を◎として表示した。
図1はそのグラフである。縦軸は消臭率(%)、横軸は消臭剤の量(mL)である。
【0027】
(リン酸系ガラスのみからなる消臭剤の消臭性能)
リン酸系ガラスのみからなる消臭剤を用い、10分後のアンモニアとホルムアルデヒドの消臭率を測定したところ、表2の結果が得られた。
図2はそのグラフである。縦軸、横軸は前記と同じである。
【0028】
(本発明の消臭剤の消臭性能)
次に、活性炭とリン酸系ガラスを混合した消臭剤を用い、10分後のアンモニアとホルムアルデヒドの消臭率を測定した。混合比は前記した5段階であるが、総量は全て1mLに統一した。その結果は表3の通りであり、
図3はそのグラフである。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
(評価)
表2と
図2に示されるように、リン酸系ガラスはホルムアルデヒドに対する消臭効果がないため、表3と
図3に示される活性炭とリン酸系ガラスを混合した消臭剤の消臭効果は、表1と
図1に示される活性炭単独の消臭効果とほぼ同様である。一方、アンモニアに対しては、活性炭とリン酸系ガラスはともに消臭効果を持つが、消臭剤として活性炭を0.5mLとしたときの消臭率は9%、リン酸系ガラスを0.5mLとしたときの消臭率は68%であり、これらを単に加算すると77%となる。しかし両者を50:50に混合したとき、即ち0.5mLの活性炭と0.5mLのリン酸系ガラスを混合したときのアンモニア消臭率は、表3と
図3に示されるとおり81%であって、4%に相当する相乗効果が認められた。その理由は、リン酸系ガラスが活性炭の吸着性能を高めたためであると想定される。
【0033】
(フィルタに用いた場合の消臭性能)
消臭剤を5質量%の比率で内部に練り込んだ樹脂製のフィルター素材を100cm
2に切断し、18℃の室内に置かれた容量が5LのBSバッグに、3Lの臭気成分とともに封入し、2時間後の臭気成分の濃度変化を検知管で測定した。臭気成分はアンモニア100ppmとホルムアルデヒド10ppmである。その結果は表4と
図4に示す通りであり、本発明の消臭剤を担持させたフィルターは、アンモニアとホルムアルデヒドをともに効果的に消臭することができた。
【0034】