(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】モズク用異物除去器具
(51)【国際特許分類】
A23L 17/60 20160101AFI20230817BHJP
【FI】
A23L17/60 A
(21)【出願番号】P 2020176983
(22)【出願日】2020-10-21
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】591124385
【氏名又は名称】理研食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄三
(72)【発明者】
【氏名】沼田 雄一郎
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-165691(JP,A)
【文献】特開平07-116418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A01G
B07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェッジワイヤーを所定間隔で配置したワイヤースクリーンを前後に2段以上重ねてなるモズク用異物除去器具であって、異物を含むモズクを当該モズク用異物除去器具の前面側に供給し、後面側から排出するようにした場合、ウェッジワイヤーの上部をウェッジワイヤーの下部に対して前面側に向かって前傾するように配置したことを特徴とするモズク用異物除去器具。
【請求項2】
前後で隣接するワイヤースクリーンのウェッジワイヤーは前面側から見て交差していることを特徴とする請求項1に記載のモズク用異物除去器具。
【請求項3】
ウェッジワイヤーの断面形状が多角形であって、当該多角形の頂点を前面側に向けて配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載のモズク用異物除去器具。
【請求項4】
ウェッジワイヤーの前傾角度は垂線に対して1~25°であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のモズク用異物除去器具。
【請求項5】
前面側からみたワイヤースクリーンの交差角度は10~25°であることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載のモズク用異物除去器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モズク用異物除去器具に関する。
【背景技術】
【0002】
モズク、ワカメ等の海藻類には、海に浮遊しているゴミの他、カニ、エビ、オキアミ等の甲殻類、貝類、小石等の異物が付着しており、収穫後にこれらの異物を除去する工程が必要になる。従来、異物を除去する工程としては、作業員の目視による手作業で実施されてきたが、全ての異物を除去できるわけではなく非常に時間と手間がかかるため、非効率である。
【0003】
特に、モズクについては、他の海藻類と比較し、細長く柔らかい形態をしているため、異物の除去が難しいことに加え、船上に設置したポンプを用いて潜水したダイバーが、海底に張り巡らされた養殖網からモズクを吸引する方法で収穫されるため、海底付近に溜まったゴミ、甲殻類、貝類、小石等も一緒に吸引されることによる異物の混入が多く、生産者を悩ませている。このため、船上において、モズク収穫時の粗選別に使用される器具として「トバシ」と称されるものが用いられている。トバシには、配管内にボルトやピンが取り付けられており、その下部にモズク回収口が設けられている。収穫時に吸水した海水をトバシに通すことで、モズクは配管内のボルトやピンに引っ掛かりモズク回収口に落ち、異物はボルトやピンを通り抜けて排出される仕組みであるが、決まった型がなく、生産者各々の手作りであり、使用方法もそれぞれであるため、異物除去率はそれほど高くないうえ、良品となるモズクが排出されてしまう量も少なくない。
【0004】
その他、異物除去に関する技術としては、糸状海藻類と水とを投入する洗浄槽、洗浄槽に配置された多孔板、洗浄槽の底部に配置され気泡を混入した水を噴射する気泡水噴射手段等を備えた糸状海藻類の異物除去及び洗浄装置(特許文献1)、海藻等を拡げて搬送し、一直線状に高圧水を噴射することを特徴とする洗浄及び異物除去装置(特許文献2)、モズク処理槽内の浸漬水を攪拌する攪拌手段と処理槽の底部に空気溶解水を供給する処理水供給手段とを備えたモズクの異物除去設備(特許文献3)、海藻等は入り込まないが異物は入り込むような幅寸法を有し、流体が通過可能に形成された多数の隙間に向けて所定の勢いを有する流体を供給することにより、海藻等から異物を除去するための方法(特許文献4)等が提案されている。しかし、これらの方法では、隙間にモズクが詰まりやすい、モズクが異物とともに排出されやすい等、作業効率や歩留りの点で必ずしも満足できる効果が得られるとはいえず、また、収穫時に大量の海水を吸水しモズク処理量が多くなる場合には不向きである。
【0005】
また、特許文献5には、断面形状が多角形である複数のワイヤーからなるワイヤースクリーンを重ねた異物除去器具が開示されているが、船上でのモズク収穫時等のモズク処理量が多い場合における異物除去率向上や歩留り向上の点で課題が残されている。そのため、さらなる異物除去率の向上とともに、モズク収穫量の歩留り向上を兼ね備えた技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-057020号公報
【文献】特開2000-000058号公報
【文献】特開2004-275182号公報
【文献】特開2006-191829号公報
【文献】特開2019-165691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、収穫時等のモズク処理量が多い場合でも、モズクの歩留りを向上させ、より効率的にモズクの異物除去ができるモズク用異物除去器具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、2段以上からなる特定構造のワイヤースクリーンを、前面側に向かって前傾させることで、モズクの歩留りを向上させ、より効率的にモズクの異物除去ができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本願第一発明は、
(1)ウェッジワイヤーを所定間隔で配置したワイヤースクリーンを前後に2段以上重ねてなるモズク用異物除去器具であって、異物を含むモズクを当該モズク用異物除去器具の前面側に供給し、後面側から排出するようにした場合、ウェッジワイヤーの上部をウェッジワイヤーの下部に対して前面側に向かって前傾するように配置したことを特徴とする。
【0010】
本願第二発明は、本願第一発明において、前後で隣接するワイヤースクリーンのウェッジワイヤーは前面側から見て交差していることを特徴とする。
【0011】
本願第三発明は、本願第一又は第二発明において、ウェッジワイヤーの断面形状が多角形であって、当該多角形の頂点を前面側に向けて配置したことを特徴とする。
【0012】
本願第四発明は、本願第一ないし第三のいずれかの発明において、ウェッジワイヤーの前傾角度は垂線に対して1~25°であることを特徴とする。
【0013】
本願第五発明は、本願第二ないし第四のいずれかの発明において、前面側から見たワイヤースクリーンの交差角度は10~25°であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、収穫時等のモズク処理量が多い場合でも、モズクの歩留りを向上させ、より効率的にモズクの異物除去ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明のモズク用異物除去器具の一実施形態を斜め下方から見た斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明のモズク用異物除去器具の一実施形態の縦断面図である。
【
図3】
図3(a)はウェッジワイヤーのウェッジの方向を示す図、
図3(b)は前後で隣接するワイヤースクリーンの配置を示す図である。
【
図4】
図4は、前後で隣接するワイヤースクリーンの一実施形態を前面側から見た図であり(
図3(b)参照)、前後で隣接するワイヤースクリーンのウェッジワイヤーが、前面側から見て交差していることを示す。
【
図5】
図5は、本発明のモズク用異物除去器具を備えた異物除去装置の一実施例の概略図である。
【
図6】
図6は、従来技術である、船上でのモズク収穫時に用いられる異物除去器具(トバシ)を斜め下方から見た斜視図である。
【
図7】
図7は、異物除去試験で用いた異物の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のモズク用異物除去器具のワイヤースクリーンは、複数のウェッジワイヤーからなり、
図3(a)に示すように、ワイヤースクリーン上の左右で隣接するウェッジワイヤーW1とW2の間隔であるスリット幅(左側のウェッジワイヤーW1の右端と右側のウェッジワイヤーW2の左端との間隔:
図3(a)のL1)は、除去すべき異物の形状、大きさ等やモズクの効率的な捕捉を考慮し、4~10mmが好ましく、4~8mmがより好ましい。ワイヤースクリーン上のウェッジワイヤーの数は、特に制限はないが、水流とワイヤースクリーンの接触面積を大きくする観点から、ワイヤースクリーンの全面にわたってウェッジワイヤーを配置することが好ましい。
【0017】
異物を含むモズクを本発明のモズク用異物除去器具の前面側に供給し、後面側から排出するようにした場合、ウェッジワイヤーを所定間隔で配置したワイヤースクリーンを前後に2段以上重ねて配置することにより、最も前面に設置されたワイヤースクリーンによりモズクを捕捉し、モズクが前面のワイヤースクリーンを通過した場合であっても、この後方に設置されたワイヤースクリーンにより、前面のワイヤースクリーンを通過したモズクを捕捉することができる。
図3(b)に示すように、前後で隣接するワイヤースクリーンS1とS2の間隔(前のワイヤースクリーンS1上のウェッジワイヤーの後方の端から、後のワイヤースクリーンS2上のウェッジワイヤーの前方の端までの長さのうち最短のもの:
図3(b)のL2)は、特に制限はないが、10~30mmが好ましく、15~21mmがより好ましい。また、前後に重ねるワイヤースクリーンの段数は、効率的に異物を除去しつつ、モズクの歩留りを向上させる観点と製造上の煩雑さを回避する目的から2~4段が好ましく、2~3段がより好ましい。
【0018】
異物を含むモズクを当該モズク用異物除去器具の前面側に供給し、後面側から排出するようにした場合、ウェッジワイヤーの上部をウェッジワイヤーの下部に対して前面側に向かって前傾するように配置する。このウェッジワイヤーの前傾姿勢により、ワイヤースクリーンで捕捉したモズクが水流によって、ウェッジワイヤーをつたって下部へ送り出されることで、モズクがワイヤースクリーンに詰まりにくいため、モズクの歩留りを向上しつつ、異物を効率的に除去することができる。一方、ウェッジワイヤーが前傾せず、前面側から見て垂直に配置された場合は、ワイヤースクリーンで捕捉したモズクがウェッジワイヤーの下部へ送り出されにくく、モズクがワイヤースクリーンに詰まりやすいため、異物除去率の低下を招くおそれがある。ワイヤースクリーン上のウェッジワイヤーを前面側に向かって前傾させる角度(ウェッジワイヤーが垂線となす角度:
図2のα)は1~25°が好ましく、10~20°がより好ましい。
【0019】
図3(b)に示すように、前後で隣接するワイヤースクリーンS1とS2のウェッジワイヤーは前面側から見て交差していることが好ましい。ウェッジワイヤーが前面側から見て交差していることにより、前面側から見て、ウェッジワイヤー間の隙間は網目状となり、実際の網目状の構造を有するワイヤースクリーンに近いかたちでモズクを捕捉しつつ、実際の網目状の構造を有するワイヤースクリーンよりも目詰まりが生じにくいため、捕捉したモズクがスムーズにウェッジワイヤーをつたって下部へ送り出されることにより、異物除去率も向上させることができる。前面側から見てウェッジワイヤーを交差させる角度(
図4において、前面側のワイヤースクリーンのウェッジワイヤーW3が後面側のワイヤースクリーンのウェッジワイヤーW4と交差する角度β)は、10~25°が好ましく、13~17°がより好ましい。
図3(b)に示す前後で隣接するワイヤースクリーンS1とS2において、前面側のワイヤースクリーンS1は多数のウェッジワイヤー(
図4のW3)が所定間隔で紙面と直交する方向(
図3(b)のS1は、多数のウェッジワイヤー(
図4のW3)が紙面と垂直に交わる方向)に配置されており、後面側のワイヤースクリーンS2は多数のウェッジワイヤー(
図4のW4)が所定間隔で紙面と直交する方向(
図3(b)のS2は、多数のウェッジワイヤー(
図4のW4)が紙面と垂直に交わる方向)に配置されている。
【0020】
ウェッジワイヤーの上端部をモズク用異物除去器具に固定し、ウェッジワイヤーの下端部をフリーとすることが好ましい。このように、ウェッジワイヤーの下端部をフリーとすることにより、ワイヤースクリーンによって捕捉されたモズクがウェッジワイヤーをつたって下部へと送り出されやすくなり、モズクの歩留り向上を図ることができる。
【0021】
ウェッジワイヤーの断面形状は多角形であることが好ましく、例えば、ウェッジワイヤーの断面として、三角形、正方形、長方形、台形、菱形、五角形等を挙げることができ、少なくとも一箇所の頂点が鋭角である形状が好ましく、二等辺三角形がより好ましい。断面形状が多角形である場合、円形のような滑らかな形状のものと比較し、モズクがウェッジワイヤーに接触した際に、その頂点の抵抗により、モズクが捕捉しやすくなる。
【0022】
ウェッジワイヤーの多角形の頂点を前面側に向けて配置することが好ましい。多角形の頂点を前面側に向けて配置することにより、さらに頂点での抵抗力が増すため、モズクをより捕捉しやすくなることに加え、異物は頂点の傾斜に沿って、左右で隣接するウェッジワイヤーのスリットを通過するように誘導され、異物除去率が向上する。
【0023】
ウェッジワイヤーの断面寸法は、特に制限はないが、例えば断面形状が二等辺三角形である場合、ウェッジワイヤーの長手方向に対して垂直に切断した際の断面の底辺が1~4mmで、高さが2~12mmである二等辺三角形を採用することができる。また、ウェッジワイヤーの長さは、モズク用異物除去器具内の空間の大きさにより変動するが、水流とワイヤースクリーンの接触面積を大きくする観点から、モズク用異物除去器具内の空間の高さよりも長いことが好ましい。
【0024】
本発明のモズク用異物除去器具は、モズクを含有する水を吸水するための吸水口と、異物除去部と、異物除去部で処理された水及び除去された異物を排出するための排出口を備える構成にすることができる。この場合、水流とワイヤースクリーンの接触面積を大きくし、異物除去率の向上を図る観点で、吸水口に後続する異物除去部の前面部分(
図2の2a参照)の断面積が、吸水口(
図2の1参照)の断面積よりも大きいことが好ましい。また、処理された水を効率的に排出する観点で、排出口(
図2の3参照)の断面積は、上記の吸水口に後続する異物除去部の前面部分の断面積よりも大きいことが好ましい。
【0025】
異物除去部は、その内部空間にワイヤースクリーンを前後に2段以上配置することができれば、形状、大きさ等に特に制限はないが、モズクの歩留りを向上させる観点で、配管等の丸型の形状よりも角型の形状が好ましく、角型の形状の場合、異物除去部の底面が水平である六面体であることが好ましく、異物除去部の底面が水平である直方体であることがより好ましい。また、異物除去部は、異物が除去されたモズクを回収するために異物除去部の下部にモズク回収口を備えることが好ましい。
【0026】
吸水口の形状、大きさ等に特に制限はないが、円形状のホース、配管等を接続することができるよう円筒状の形状を用いることが好ましく、吸水量を確保するために、例えば円筒状の形状の場合は、断面の内径が50mm以上であることが好ましい。
【0027】
排出口は、処理された水及び除去された異物を排出することができれば、排出口の形状、大きさ等に特に制限はないが、円形状のホース、配管等を接続することができるよう円筒状の形状を用いることが好ましく、断面の内径が100mm以上であることが好ましい。
【0028】
モズク回収口は、ワイヤースクリーンで捕捉したモズクを回収できる形状、大きさ等であれば、特に制限はないが、例えば、異物除去部の底面が水平である六面体又は直方体からなる場合、底面の一部又は全部を開口させ、モズク回収口とすることが好ましい。
【0029】
本発明のモズク用異物除去器具には、異物除去部の前部に水流の角度を変更できる角度変更板を設置することもできる。角度変更板は、異物除去部内において、水流を水平方向よりも上向きに変更することができるものが好ましく、例えばその角度の変更幅は水平面を0°とした場合、0~30°に設定することができる。角度変更板の角度が0°の場合は、吸水口から吸水されたモズクを含有する水を水流方向へと水平に送り出しやすくすることができ、角度変更板の角度が0°より大きい場合は、モズクを含有する水を水流方向よりも上部に跳ね上げることで、モズクを含有する水がワイヤースクリーンに接触しやすくなり、モズクの歩留り向上と異物除去率の向上を図ることができる。
【0030】
本発明のモズク用異物除去器具には、モズク回収口の周りを囲むようにモズク回収カバーを設置することもできる。これにより、回収されたモズクの外部への飛散を防止することで、モズクの歩留り向上を図ることができる。
【0031】
本発明のモズク用異物除去器具の異物除去部、吸水口、排出口、角度変更板、モズク回収カバー、ウェッジワイヤーの材質は、特に制限はないが、水流や異物の接触に耐え得る強度を有するものであれば、金属製、樹脂製等のいずれであってもよく、例えばステンレス鋼、チタン、塩化ビニル樹脂等を挙げることができる。
【0032】
本発明のモズク用異物除去器具を用いて異物を除去するモズクの種類は、特に制限はないが、例えばオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus)、フトモズク(Tinocladia cressa)、イシモズク(Sphaerotrichia divariata)、モズク(Nemacystus decipiens)等を挙げることができる。本発明のモズク用異物除去器具を用いて異物を除去するモズクの大きさは、特に制限はないが、オキナワモズクの場合、例えば長さ20~450mm、太さ2~3mmのものを挙げることができる。
【0033】
本発明のモズク用異物除去器具を用いてモズクから除去される異物は、ワイヤースクリーン上の左右に隣接するウェッジワイヤーのスリット幅を通過できるものであれば、特に制限はないが、例えばカニ、エビ、オキアミ等の甲殻類、貝類、小石等を挙げることができる。本発明のモズク用異物除去器具を用いてモズクから除去される異物の大きさは、例えば小エビの場合、体長1~15mm、体幅1~3mmのものを挙げることができる。
【0034】
本発明のモズク用異物除去器具の使用方法は、モズクを含有する水をモズク用異物除去器具の前面側から供給することができれば、特に制限はないが、例えば次のような方法を採用することができる。異物除去部に吸水口と排出口を接続し、樹脂製のホースの一方の口を吸水口に接続し、もう一つの樹脂製のホースの一方の口を排出口に接続する。排出口に接続したホースのもう一方の口を異物回収籠上に設置する。異物除去部の下部に設けられたモズク回収口の下部にモズク回収籠を設置し、モズク回収口を下部にしたままの状態で、吸水口に接続したホースのもう一方の口から、ポンプを利用してモズクを含有する水を吸水する。本発明のモズク用異物除去器具は、船上からモズクをホース等で収穫する際に用いることができ、収穫したモズクの異物除去を陸上で行う際にも用いることができる。陸上で使用する際は、十分な水、海水又は海水と同等の塩分濃度を有する食塩水と収穫したモズクをタンクに投入し、ポンプを利用して吸水口へ送り込むことができる。本発明のモズク用異物除去器具は、効率的に異物を除去し、モズクの歩留りを向上させる観点で、モズク回収口を真下に向け、モズクを含有する水の流れ方向と平行に設置することが好ましい。
【0035】
本発明のモズク用異物除去器具において「モズクを含有する水」は、水、海水又は海水と同等の塩分濃度を有する食塩水等とモズクが含まれるものをいう。
【0036】
本発明のモズク用異物除去器具において「モズクを含有する水の吸水量」は、モズクをモズク回収口へ送り出し、異物を効率よく排出口へ排出する水流を確保する観点から、10トン/時間以上が好ましく、20トン/時間以上がより好ましい。
【0037】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例】
【0038】
[異物除去装置の設置]
後述する異物除去試験を実施するために、異物除去装置を設置した。
図5は、本発明のモズク用異物除去器具を備えた異物除去装置の一実施例の概略図である。
図5において、モズクを含有する海水が投入されたタンク10と海水供給タンク11から、モズクを含有する海水と海水を同時にポンプ12によって汲み上げ、ホース13を経て本発明のモズク用異物除去器具14に送り込む。本発明のモズク用異物除去器具14は、異物の除去率向上とモズクの歩留り向上を図るために、モズク回収口を真下に向け、モズクを含有する水の流れ方向と平行に設置する。本発明のモズク用異物除去器具14の異物除去部で異物が除去されたモズクは、モズク回収口の下部に設置されたモズク回収籠15に回収される。本発明のモズク用異物除去器具14の排出口から排出される異物を含んだ海水は、配管16を経て異物回収籠17に送り出され、異物が回収される。処理された海水は、モズク回収籠15及び異物回収籠17の下部に設置された循環タンク18を経て、タンク10に供給される。
【0039】
[モズク用異物除去器具の作製]
(1)モズク用異物除去器具1(実施例品1)の作製
図1に示すように、内径78mm、長さ65mmの円筒状の吸水口1と、吸水口1が接続する前面が横90mm、高さ125mmの長方形であり、後記する排出口3が接続する後面が横90mm、高さ116mmの長方形であって、長さが239mmの直方体状の異物除去部2と、内径144mm、長さ84mmの円筒状の排出口3とを水流方向に直線的に接続し、異物除去部2の底面のうちワイヤースクリーンが配置されている下部をモズク回収口4として開口させ、モズク回収口4の左右と後方を囲うようにモズク回収カバー5を設置した。
【0040】
また、
図2に示すように、異物除去部2内の前部に角度変更板6を水平面に対して15°上方を向くように設置した。
図2に示すように、長手方向に対して垂直に切断した際の断面が底辺2mm、高さ4mmの二等辺三角形であり、長さが110mmであるウェッジワイヤーがスリット幅(
図3(a)のL1)4mmの間隔で異物除去部の右端から左端にかけて配列されたワイヤースクリーンである第一スクリーン7を異物除去部の最前面に配置し、その後方に第二スクリーン8として、長手方向に対して垂直に切断した際の断面が底辺2mm、高さ4mmの二等辺三角形であり、長さが110mmであるウェッジワイヤーがスリット幅4mmの間隔で異物除去部の右端から左端にかけて配列されたワイヤースクリーンを、第一スクリーン7と第二スクリーン8が前面側から見て15°交差するように配置した。すなわち、
図4に示すように、前後で隣接するワイヤースクリーン7と8の各ウェッジワイヤーW3とW4が、前面側から見て角度β(15°)で交差している。
【0041】
また、第二スクリーン8の後方に第三スクリーン9として、長手方向に対して垂直に切断した際の断面が底辺2mm、高さ4mmの二等辺三角形であり、長さが110mmであるウェッジワイヤーがスリット幅4mmの間隔で異物除去部の右端から左端にかけて配列されたワイヤースクリーンを、第一スクリーン7と第三スクリーン9が前面側から見て交差角度0°となるように(すなわち、第二スクリーン8と第三スクリーン9が前面側から見て15°交差するように)配置した。その際、第一スクリーン7、第二スクリーン8及び第三スクリーン9は、異物を含むモズクを当該モズク用異物除去器具の前面側に供給し、後面側から排出するようにした場合、それぞれ、ウェッジワイヤーの上部をウェッジワイヤーの下部に対して前面側に向かって前傾するように配置した。ウェッジワイヤーの垂線に対する前傾角度(
図2のα)は15°であり、第一スクリーン7と第二スクリーン8、第二スクリーン8と第三スクリーン9の間隔幅(
図3(b)のL2)はそれぞれ18mmとした。なお、異物除去部2、吸水口1、排出口3、角度変更板6及びウェッジワイヤーは全てステンレス鋼を使用した。なお、第一スクリーン7、第二スクリーン8及び第三スクリーン9のすべてのウェッジワイヤーは、二等辺三角形の頂点が前面側を向くように配置されている。
【0042】
(2)モズク用異物除去器具2(実施例品2)の作製
ウェッジワイヤーのスリット幅(
図3(a)のL1)を6mmの間隔に変更すること以外は、モズク用異物除去器具1と同様の方法でモズク用異物除去器具2を作製した。
【0043】
(3)モズク用異物除去器具3(実施例品3)の作製
ウェッジワイヤーのスリット幅(
図3(a)のL1)を8mmの間隔に変更すること以外は、モズク用異物除去器具1と同様の方法でモズク用異物除去器具3を作製した。
【0044】
(4)モズク用異物除去器具4(実施例品4)の作製
第一スクリーン7と第二スクリーン8、第二スクリーン8と第三スクリーン9の間隔幅(
図3(b)のL2)をそれぞれ10mmに変更すること以外は、モズク用異物除去器具1と同様の方法でモズク用異物除去器具4を作製した。
【0045】
(5)モズク用異物除去器具5(実施例品5)の作製
第三スクリーン9を配置しないこと以外は、モズク用異物除去器具1と同様の方法でモズク用異物除去器具5を作製した。
【0046】
(6)モズク用異物除去器具6(比較例品1)の作製
第一スクリーン7、第二スクリーン8及び第三スクリーン9を前面側に向かって前傾させず、垂直に配置することに変更すること以外は、モズク用異物除去器具1と同様の方法でモズク用異物除去器具6を作製した。
【0047】
(7)モズク用異物除去器具7(対照品)の作製
従来技術として船上のモズク収穫時に用いられている異物除去器具(トバシ)を再現し、
図6に示すように、モズク用異物除去器具21を次の通り作製した。塩化ビニル管VP65(参照番号22)の直径の1/3の深さの切れ込みを幅100mmの間隔で2箇所入れ、この2箇所の切れ込み部分をつなぐかたちで水平に上部を切り落とし、長方形となる開口部23を設けた。また、開口部23を下部にして、塩化ビニル管VP65の上部からM6寸切りステンレスボルト24を開口部に向けて前方から一列目3本、二列目2本、三列目3本の合計8本を垂直に差し込み、固定した。
【0048】
[異物除去試験]
(1)試験1
上記異物除去装置のタンク10に異物を含まないオキナワモズク2kg、海水28kg、異物として用意した小エビ(体長5~10mm、体幅2~3mm、10個:
図7の参照番号31)及び巻貝(体長5~10mm、体幅2~3mm、10個:
図7の参照番号32)を投入した。これをポンプ12によってタンク10から10トン/時間、海水を海水供給タンク11から10トン/時間の合計20トン/時間の吸水量で汲み上げ、モズク用異物除去器具1を使用して10秒間異物除去処理を行い、モズク回収籠15に回収されたモズク重量の測定と異物回収籠17に回収された小エビ及び巻貝の個数をそれぞれ数えた。この操作を3回実施し、回収されたモズク重量の平均値、回収された小エビ及び巻貝の個数のそれぞれの平均値、小エビ及び巻貝の合計個数の平均値を算出した。
【0049】
(2)試験2
タンク10に投入する海水量を42kgに変更し、ポンプ12によってタンク10から15トン/時間、海水供給タンク11から15トン/時間の合計30トン/時間の吸水量で汲み上げることに変更すること以外は、試験1と同様の方法で試験2を実施した。
【0050】
(3)試験3
モズク用異物除去器具1をモズク用異物除去器具2に変更すること以外は、試験1と同様の方法で試験3を実施した。
【0051】
(4)試験4
モズク用異物除去器具1をモズク用異物除去器具3に変更すること以外は、試験1と同様の方法で試験4を実施した。
【0052】
(5)試験5
モズク用異物除去器具1をモズク用異物除去器具4に変更すること以外は、試験1と同様の方法で試験5を実施した。
【0053】
(6)試験6
モズク用異物除去器具1をモズク用異物除去器具5に変更すること以外は、試験1と同様の方法で試験6を実施した。
【0054】
(7)試験7
モズク用異物除去器具1をモズク用異物除去器具6に変更すること以外は、試験1と同様の方法で試験7を実施した。
【0055】
(8)試験8
モズク用異物除去器具1をモズク用異物除去器具7に変更すること以外は、試験1と同様の方法で試験8を実施した。
【0056】
[モズクの歩留り、異物除去率に関する評価方法]
モズクの歩留りを評価するために、モズクのロス率(%)を下記計算式にて算出した。また、異物除去率に関する評価として、小エビ又は巻貝の異物除去率(%)及び合計異物除去率(%)を下記計算式にて算出し、異物除去評価を下記基準による記号化で示した。
【0057】
[数1]
モズクのロス率(%)=(2kg-回収されたモズク重量の平均値(kg))×100/2kg
【0058】
[数2]
小エビ又は巻貝の異物除去率(%)=回収された小エビ又は巻貝の個数の平均値×100/10
【0059】
[数3]
合計異物除去率(%)=回収された小エビ及び巻貝の合計個数の平均値×100/20
【0060】
異物除去評価◎:合計異物除去率(%)が、30%以上
異物除去評価○:合計異物除去率(%)が、20%以上30%未満
異物除去評価△:合計異物除去率(%)が、10%以上20%未満
異物除去評価×:合計異物除去率(%)が、10%未満
【0061】
各試験におけるモズクのロス率(%)、小エビ又は巻貝の異物除去率(%)、合計異物除去率(%)及び異物除去評価結果を表1に示す。段落0062の表1を、スリット幅による影響、ワイヤースクリーンの間隔による影響、ワイヤースクリーンの段数による影響、吸水量(ポンプの排水量)による影響及びワイヤースクリーンの設置角度による影響に基づいて整理したのが、以下の表2である。
【0062】
【0063】
【0064】
表1に示すように、実施例品であるモズク用異物除去器具1~5を用いた試験1~試験6は、対照品であるモズク用異物除去器具7を用いた試験8と比較すると、いずれも合計異物除去率が向上し、かつモズクのロス率が低下、すなわちモズクの歩留りが向上することがわかった。
【0065】
特に、ワイヤースクリーンが3段設置され、それらの間隔が18mmであるモズク用異物除去器具1~3は、高い合計異物除去率であり、さらにその中でもウェッジワイヤーのスリット幅が4mmであるモズク用異物除去器具1を用いた試験1は、同じ吸水量(20トン/時間)においてモズクの歩留りが最も高かった(モズクのロス率が最も少なかった)。この結果から、モズク用異物除去器具1~5を用いることで、従来、船上で用いられている異物除去器具(トバシ)よりもモズクの歩留りを向上しつつ、異物除去率の向上も達成できることがわかった。
【0066】
一方、実施例品であるモズク用異物除去器具1に配置されたワイヤースクリーンと同じ形状であるが、ワイヤースクリーンが前傾せずに前面側から見て垂直に配置された比較例品であるモズク用異物除去器具6を用いた試験7については、モズクの歩留りは高いものの、合計異物除去率が対照品であるモズク用異物除去器具7よりも低くなることがわかった。これは、モズク用異物除去器具6は、ワイヤースクリーンが前傾せずに前面側から見て垂直に配置されていることにより、ワイヤースクリーンで捕捉されたモズクがモズク回収口方向に送り出されにくく、捕捉されたモズクが排出口への流路を塞ぐため、排出口への異物の排出が低下することが原因と考えられる。この結果から、本発明の効果であるモズクの歩留り向上と異物除去率の向上の両立を図るためには、ワイヤースクリーンは前傾させることが重要であることがわかった。
【0067】
以上の異物除去試験の結果によれば、異物除去率の点からは、スリット幅が8mmであるモズク用異物除去器具3を用いた試験4が最も好ましいようにみえるが、モズクのロス率の点からは、スリット幅が4mmであるモズク用異物除去器具1を用いた試験1に比べて2.3%程度モズクのロス率が増加しており、モズクの歩留りと異物除去率の両方を向上させるためには、スリット幅が4mmで、ワイヤースクリーン間隔が18mmで、ワイヤースクリーンの段数が3段で、ワイヤースクリーンの前傾角度が15°で、吸水量(ポンプの排水量)が20トン/時間であるモズク用異物除去器具1を用いた試験1が最良の条件であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、収穫時等のモズク処理量が多い場合でも、モズクの異物除去率の向上及びモズクの歩留り向上の点で優れているため、モズクを取り扱う産業において利用することができる極めて有用な発明である。
【符号の説明】
【0069】
1 吸水口
2 異物除去部
3 排出口
4 モズク回収口
5 モズク回収カバー
6 角度変更板
7 第一スクリーン
8 第二スクリーン
9 第三スクリーン
10 タンク
11 海水供給タンク
12 ポンプ
13 ホース
14 モズク用異物除去器具
15 モズク回収籠
16 配管
17 異物回収籠
18 循環タンク
α ウェッジワイヤーを前面側に向かって前傾させる角度(ウェッジワイヤーが垂線となす角度)
β 前面側のワイヤースクリーンのウェッジワイヤーが後面側のワイヤースクリーンのウェッジワイヤーと交差する角度
L1 スリット幅(ワイヤースクリーン上の左右で隣接するウェッジワイヤーの間隔)
L2 前後で隣接するワイヤースクリーンの間隔