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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】微生物の特異的検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20230817BHJP
   C12Q 1/6841 20180101ALI20230817BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230817BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12Q1/6841 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020511289
(86)(22)【出願日】2018-08-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2018072240
(87)【国際公開番号】W WO2019038181
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】17187339.1
(32)【優先日】2017-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505021810
【氏名又は名称】フェルミコン・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Vermicon AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イリ・シュナイドル
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア・バイムフォーア
(72)【発明者】
【氏名】ペーター・ミュールハーン
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-525804(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102010012421(DE,A1)
【文献】特開昭63-168563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)試料を取得し;
(b)固定細胞を得るために、前記試料に含まれる細胞を固定剤で所定の位置に固定し、それによって得られた前記固定細胞を前記試料から分離し;
(c)乾燥細胞を得るために、前記固定細胞を化学均質剤に接触させ、それによって得られた均質化された細胞を乾燥させ;
(d)第1反応混合物を得るために、前記乾燥細胞を検出対象の微生物に対して特異的な蛍光標識核酸プローブの溶液に接触させ;
(e)前記検出対象の微生物の細胞内の対応する標的核酸配列に前記蛍光標識核酸プローブを結合させるために、前記第1反応混合物をインキュベートし;
(f)第2反応混合物を得るために、工程(e)に続いて、前記第1反応混合物を消光標識核酸プローブの溶液に接触させ;
(g)前記検出対象の微生物の細胞内の標的核酸配列に結合していない前記蛍光標識核酸プローブの分子の前記消光標識核酸プローブとの結合を引き起こすために、前記第2反応混合物をインキュベートし;
(h)工程(g)後に、前記蛍光標識核酸プローブを含む前記検出対象の微生物の細胞から放出される蛍光を検出するために、前記第2反応混合物をフローサイトメータに配置する、工程を有し、
前記化学均質剤は、(a)単糖類又は二糖類、(b)ポリオール、及び(c)水を含み、
前記消光標識核酸プローブは、前記蛍光標識核酸プローブの蛍光を少なくとも部分的に消光する消光剤を含み、前記蛍光標識核酸プローブの核酸配列に略相補的な核酸配列を含み、
前記単糖類又は二糖類が、フルクトース、ガラクトース、グルコース及びスクロースからなる群から選択される物質であり、
前記ポリオールが、エチレングリコール、グリセリン、マンニトール及びソルビトールからなる群から選択される物質であること
特徴とする試料中微生物の検出方法。
【請求項2】
前記試料は液体試料であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記微生物は細菌、真菌、又は原生動物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記細菌は、アシネトバクター属、アリシクロバチルス属、アクアバクテリア属、アルコバクター属、バチルス属、カンピロバクター属、腸内細菌科、エシェリヒア属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、レジオネラ属、リステリア属、マイクロトリックス属、ニトロバクター属、ニトロソコッカス属、ニトロソモナス属、ニトロスピラ属、ニトロトガ属、プロピオニバクテリウム属、サルモネラ属、志賀菌属、又は連鎖球菌属からの細菌であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記真菌は、アスペルギルス属、カンジダ属、デバロマイセス属、デッケラ属、ペニシリウム属、ピチア属、又はサッカロミセス属からの真菌であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記単糖類又は二糖類が、グルコースであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリオールが、グリセリンであることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記検出対象の微生物の細胞内の標的核酸配列は、16S rRNA、23S rRNA、18S rRNA、tRNA、EF-Tu、mRNA 16S-23S rRNAスペーサー、及び23S-5S rRNAスペーサーからなる群から選択されることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記蛍光標識核酸プローブは、前記検出対象の微生物の細胞中の標的核酸配列と(i)略同一であること、又は(ii)略逆相補的であることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記蛍光標識核酸プローブは、蛍光標識DNAプローブ、RNAプローブ、PNAプローブ、及びLNAプローブから選択されることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(i)蛍光標識核酸プローブの蛍光色素は、蛍光標識核酸プローブの3’末端又は3’末端近くに位置し、そして消光標識核酸プローブの消光剤は、消光標識核酸プローブの5’末端又は5’末端近くに位置し、あるいは、(ii)蛍光標識核酸プローブの蛍光色素は、蛍光標識核酸プローブの5’末端又は5’末端近くに位置し、そして消光標識核酸プローブの消光剤は、消光標識核酸プローブの3’末端又は3’末端近くに位置することを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(d)において、検出対象の各微生物に対して特異的な異なる核酸配列を有する多数の蛍光標識核酸プローブを添加し、そして、工程(f)において、蛍光標識核酸プローブの数に対応する多数の異なる消光標識核酸プローブを添加することを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
試料は1より多くの微生物を含み、そして多数の異なる微生物は同時に検出されることを特徴とする請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法でのフローサイトメータの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロースルーサイトメトリーを用いたin situ ハイブリダイゼーションによる、微生物又は微生物群の特異的検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品業界における微生物ルーチン分析は、多くの分野において、高いサンプリング率(>1日当り100試料)という課題に直面していて、試料をできるだけ同時に迅速に処理しなければならない。特定の、分子生物学的、高速検出システムでこのような高処理量を処理するために、自動的評価及び客観的結果判定を有するシステムがある。
【0003】
いわゆる蛍光in situ ハイブリダイゼーション(FISH)は、これらの要件を満たすことができる細菌判定のための近代的な方法として確立されており、その原実施形態では、蛍光標識核酸プローブ分子を介して顕微鏡下で対象物担体上の細胞は可視化される(Amannら、微生物革命59(1995)、143~169)。しかし、旧来のFISH技術では、顕微鏡による検出には、十分な指導を受けた研究員とかなりの時間が必要であり、当然ながら1日に分析できる試料数には大きな制限があるという問題がある。
【0004】
この問題を解決するために、旧来のFISH技術の反応機構に基づいた液相中の蛍光in situ ハイブリダイゼーションがそれ以来提案されており、蛍光in situ ハイブリダイゼーションにおいて、ハイブリダイゼーション反応の全工程が対象物担体形式から反応容器形式にほぼそのまま移行し、フローサイトメータによる検出が行われている(WO 03/083131 A1)。様々なハイブリダイゼーション溶液及びすすぎ溶液は、遠心分離によりこの方法で除去される。
【0005】
特に、全細胞ハイブリダイゼーションでは、ルーチン分析での信号雑音比を高めるために必要なすすぎ工程には、多くの労力が必要であり、また、十分な指導を受けた研究員が必要である。さらに、遠心分離で水性残渣を除去するために必要な工程は、観察結果と必要な方法の標準化を評価する際に考慮しなければならないさらなる処理パラメータを表す。
【0006】
ドイツ公開公報DE 10 2010 012 421 A1は、迅速に実施可能で、旧来のFISH技術において必要なすすぎ工程を必要としない微生物の特異的検出方法を開示している。詳細には、方法はマイクロタイタープレートでのハイブリダイゼーション反応の実施、及びその後のマイクロタイタープレート読取り機を介した結果判断を含み、出力される蛍光シグナルは、微生物に特異的に結合した蛍光標識核酸プローブの合計に対応する。
【0007】
この半定量的な細菌検出の重要な前提条件は、特異的なシグナルと非特異的なシグナルを区別するために、マイクロタイタープレート上の反応空間内での結合していない蛍光標識核酸プローブ分子の特異的蛍光消光である。この方法では、細胞当りの特異的結合蛍光標識核酸プローブ分子の数(及び測定された蛍光シグナル強度への細胞の寄与度)を明確に決定できないため、細胞の数を正確に定量することができないという欠点がある。単一細胞は通常、5,000~15,000個の蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブと結合可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の基本的な目的は、先行技術の前述の欠点を克服する、一般的には、微生物及び特定微生物を検出するための方法を創出することにある。特に、その方法は可能な限り簡単なものでなければならず(即ち、技術的複雑さが少なく、高度な訓練を受けた研究員を必要とせず)、そして短時間で多数の試料を分析できる実現性を提供すると同時に、試料に関連する微生物に対して高いレベルの特異性を確保しなければならない。この結果判断と分析は、客観的かつ標準化されたものでなければならない。
【0009】
本発明によれば、この問題は、請求項1に規定された方法によって解決される。本発明に係る方法は、旧来のFISH技術で必要とされるようなすすぎ工程を必要とせずに、微生物の迅速かつ特異的検出を可能にする。加えて、評価上問題となるおそれのあるFISH技術、特に、旧来のFISH技術での非特異的自己蛍光の発生が抑制される。
【0010】
さらに、本発明に係る方法は、ドイツ公開公報DE 10 2010 012 421 A1に記載されているマイクロタイタープレート法と比較して、従来の方法工程が2つの反応液を試料へ添加することに短縮される点、及び反応が1つの反応容器で実行可能という点で、実質的に簡素化されている。その上、検出においてフローサイトメータの使用を通して、検出した微生物の数を直接定量することも可能である。
【0011】
最後に、本方法は、その実行及び評価に関して少なくとも自動化することができる。本発明に係る方法は、結果的に、特に、高い処理量を有する分析にも適している。
【0012】
試料中の微生物又は多数の微生物の特異的検出のための発明に係る方法の実行は、以下の工程を含む:
(a)試料を取得し;
(b)固定細胞を得るために、前記試料に含まれる細胞を固定剤で所定の位置に固定し、それによって得られた前記固定細胞を前記試料から分離し;
(c)乾燥細胞を得るために、前記固定細胞を化学均質剤に接触させ、それによって得られた均質化された細胞を乾燥させ;
(d)第1反応混合物を得るために、前記乾燥細胞を検出対象の微生物に対して特異的な蛍光標識核酸プローブの溶液に接触させ;
(e)前記検出対象の微生物の細胞内の対応する標的核酸配列に前記蛍光標識核酸プローブを結合させるために、前記第1反応混合物をインキュベートし;
(f)第2反応混合物を得るために、工程(e)に続いて、前記第1反応混合物を消光標識核酸プローブの溶液に接触させ(ここで、前記消光標識核酸プローブは、前記蛍光標識核酸プローブの蛍光を少なくとも部分的に消光する消光剤を含み、前記蛍光標識核酸プローブの核酸配列に略相補的な核酸配列を含む);
(g)前記検出対象の微生物の細胞内の標的核酸配列に結合していない前記蛍光標識核酸プローブの分子の前記消光標識核酸プローブとの結合を引き起こすために、前記第2反応混合物をインキュベートし、;
(h)工程(g)後に、前記蛍光標識核酸プローブを含む前記検出対象の微生物の細胞から放出される蛍光を検出するために、前記第2反応混合物をフローサイトメータに配置する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の基礎となる方法での反応を模式的に示した図である。
図2】実施例1の測定結果を示した図である。
図3】比較例1の測定結果を示した図である。
図4】比較例2の測定結果を示した図である。
図5】実施例2の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、天然又は合成的に発生する試料中の単一の微生物又は多数の(即ち、少なくとも2つの異なる)微生物の特異的検出に関する。発明に係る方法においてそのような微生物を検出する場合、単一の細胞だけではなく、複数の細胞が検出されることが理解されるべきである。通常は1以上の細胞が検出され、ここで、検出は、単一の細胞から放出される蛍光の検出に基づいている。
【0015】
本願で使用されているように、「微生物」という用語として、病原性又は非病原性の性質を有する自然発生する微生物及び合成生成された微生物の両方が挙げられ、そして、とりわけ、細菌、真菌、微細藻類及び原生動物を含む。検出対象の少なくとも1種の微生物は、好ましくは、細菌、真菌、又は単細胞上位生物(原生動物)であり、ここで、細菌、真菌、及び/又は単細胞上位生物は、任意の分類学的単位に由来することができ、そして「分類学的単位」という用語として、とりわけ、領域/界、門/門、綱、亜綱、目、亜目、科、亜科、属、亜属、型、亜型、系、及び亜系が挙げられる。
【0016】
発明に係る方法によって検出され得る微生物の具体例として、特に、水(排水を含む)、飲料(例えば、水、ビール、フルーツジュース、及びノンアルコール飲料)、及び食品(例えば、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品、及びソーセージなどの肉製品)の品質を損なうことが知られている細菌、真菌(酵母及びカビを含む)、及び原生動物が挙げられ、とりわけ、ドイツ公開公報DE 101 29 410 A1、ドイツ公開公報DE 101 60 666 A1、及び国際公開公報WO 2005/031004 A2に示されている。この中では、細菌、酵母、及びカビの検出が特に好ましい。
【0017】
試料に関連する細菌としては、特に、アセトバクター属、アクロモバクター属、アシネトバクター属、アエロコッカス属、アエロモナス属、アグロバクテリア属、アルカリゲネス属、アリシクロバチルス属、アヌリニバチルス属、アノキシバチルス属、アクアバクテリア属、アルコバクター属、アルトロバクター属、アルトロバクター属、バチルス属、ブレビバチルス属、ブレビバクテリウム属、ブロカルディア属、ブロコトリックス属、バークホルディア属、カルダネロビウス属、カンピロバクター属、カルノバクテリウム属、セルロモナス属、クロロフレクサス門、クリセオバクテリウム属、クリセオバクテリウム属、シトロバクター属、クロアキバクテリウム属、クロストリジウム属、コルウェリア属、コリネバクテリウム属、クロノバクター属、デルフチア属、デスルホトマキュルム属、ディケヤ属、エンテロバクター属、腸内細菌科、エンテロコッカス属、エルウィニア属、エシェリヒア属、ファクラミア属、フラボバクテリウム科、フラボバクテリウム属、フルクトバチルス属、ゲオバチルス属、グルコナセトバクター属、グルコノバクター属、ヤンチノバクテリウム属、ジェオットガリバチルス属、コクリア属、コマガタエイバクター属、クエニア属、クルシア属、乳酸杆菌属、ラクトコッカス属、レジオネラ属、レンチバチルス属、ロイコノストック属、リステリア属、リシニバチルス属、マクロコッカス属、マリニラクチバチルス属、メガスファエラ属、ミクロバクテリウム属、ミクロコッカス属、ミクロスリックス属、乳酸菌、ムーレラ属、モラクセラ属、ニトロバクター属、ニトロソコッカス属、ニトロソモナス属、ニトロスピラ属、ニトロトガ属、ノカルジア属、ノストコイダ属、オベスンバクテリウム属、オセアノバチルス属、オエノコッカス属、パエニバチルス属、パントエア属、ペクチナタス属、ペクトバクテリウム属、ペジオコッカス属、ペドバクター属、フォトバクテリウム属、プレボテラ属、プロピオニバクテリウム属、シュードアルテロモナス属、シュードモナス属、サイクロバチルス属、サイクロバクター属、サイクロフレサス属、リゾビウム属、サルモネラ属、スカリンドゥア属、セラチア属、シェワネラ属、志賀菌属、ソリバチルス属、スフィンゴバクテリウム属、スフィンゴモナス属、スポロラクトバチルス属、スポロサルチーナ属、ブドウ球菌属、ステノトロホモナス属、連鎖球菌属、ストレプトマイセス属、テピドモナス属、サーモアナエロバクテリウム属、好熱性細菌、チオスリックス属、トリココッカス属、ウレイバチラス属、ヴァゴコッカス属、ビブリオ属、バージバチルス属、ヴィリジバチルス属、ワイセラ属、キサントモナス属、イェルシニア属、及びジモモナス属の細菌が挙げられる。
【0018】
本発明の方法によって検出され得る試料に関連する真菌としては、特に、アスペルギルス属、カンジダ属、デバロマイセス属、デッケラ属、ゲオトリクム属、ハンセニアスポラ属、ヒホピキア属、カザツタニア属、クロエケラ属、クルイべロマイセス属、ロドデロマイセス属、ペニシリウム属、ピチア属、ロドトルラ属、サッカロミセス属、サッカロミコプシス属、シゾサッカロミセス属、トルラスポラ属、ウィッカーハモマイセス属、ヤロウイア属、及びジゴサッカロミセス属のカビ及び酵母が挙げられる。
【0019】
本発明の方法によって検出され得る試料に関連する単細胞上位生物(原生動物)として、特に、ギアリダ属、クリプトスポリジウム属、アメーバ属、トリコモナス属、トキソプラズマ、バランチジウム属、及びブラストシスチス属が挙げられる。
【0020】
水、飲料、及び食品中の微生物の検出については、アシネトバクター属、アリシクロバチルス属、アクアバクテリウム属、アルコバクター属、バチルス属、カンピロバクター属、腸内細菌科、エシェリヒア属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、レジオネラ属、リステリア属、マイクロトリックス属、ニトロバクター属、ニトロソコッカス属、ニトロソモナス属、ニトロスピラ属、ニトロトガ属、プロピオニバクテリウム属、サルモネラ属、志賀菌属、及び連鎖球菌属の細菌、及びアスペルギルス属、カンジダ属、デバロマイセス属、デッケラ属、ペニシリウム属、ピチア属、及びサッカロミセス属の真菌が特に関連性があり、その検出結果が特に好ましい。
【0021】
本発明に係る方法で使用されているように、試料は、好ましくは液体試料である。検出対象の微生物の個々の細胞の少なくとも一部が液相中に存在していれば十分である。この点において、溶液が好ましいが、ほんの一部の液体試料、又は、懸濁液又は分散液もまた、本発明に従って使用することができる。液体試料として、例えば、分析の対象となる水試料又は飲料試料(即ち、さらなる液体の添加の無い)、水溶性試料が特に好ましく使用される。
【0022】
本発明に係る方法を実行する枠組みで分析されるべき試料は、二次試料が生成される任意の一次試料であり得る、それは、その後、本発明に係る方法において液体試料として使用される。一次試料は、固体、ペースト状、液体、又は気体の試料であり得る。微生物の代表的な混合物は、一般には、一次試料から得られ、その後、本発明に係る方法において使用されているように、液体試料に変換される。
【0023】
分析用試料が得られた後、試料に含まれる微生物又は複数の微生物の細胞を、固定剤を用いて本発明に係る方法で所定の位置に固定する。本願で使用されているように、「固定」という用語は、細胞生物学の分野でよく知られており、一般に、その後の研究のために生物学的試料を保存することを指す。FISH技術において使用可能な、細胞を所定の位置に固定する方法は、例えば、Amannら(Nature Reviews Microbiology 6 (2008)、339-350)に記載されている。
【0024】
細胞エンベロープ系、特に、検出対象の様々な微生物の細胞壁の多様性のため、固定化の反応条件を、好ましくは検出対象の各微生物に適合させる。本発明において、アルコール、特にメタノール、エタノール、イソプロパノールなどの短鎖アルコール、又はアルデヒド、特にホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒドなどの短鎖アルデヒドが固定剤として使用される。このような固定剤を用いた固定化手順の正確な反応条件は、微生物診断学の分野における当業者により、簡単な標準試験や日常の実験を通して決定することができる。
【0025】
試料に含まれる細胞の固定は、細胞を各微生物に対して特異的な検出試薬に接触させる前に、本発明に従って行われる。これは、検出対象の細胞のある程度の形状だけではなく完全性を維持すること、同時に、特に、溶解によって検出対象の微生物中での細胞の損失を防止することを含む。他方、検出対象の微生物のできるだけ多くの細胞を、固定化を通して透過性にすることが重要であり、そのような場合には、標的配列が存在する場合、標的配列とハイブリダイズさせるために、検出試薬に含まれる核酸プローブが、好ましくは個々に、又は単一株として、細胞に浸透することができる。
【0026】
固定剤による処理に加えて、細胞を固定する工程は、細胞又は細胞エンベロープ系の酵素処理を含むことも可能であり、これはグラム陽性細菌、酵母、又はカビに特に関心がもたれる。後に添加される特異的検出試薬に対する細胞壁の透過性を高めるために、例えば、グラム陽性細菌の場合、リゾチームによるペプチドグリカン殻の修飾、又は、例えば、酵母やカビの場合、プロテアーゼによるタンパク質細胞壁の修飾を行うことができる。
【0027】
さらなる処理は、ろう様層などを除去するために、溶媒又は塩酸での細胞の短時間処理を含むことが可能である。本発明に係る方法の好ましい実施形態において、細胞の固定工程は、固定細胞はもはや生命を維持することはできないが、それにもかかわらず無傷のまま、好ましくは形態的に無傷のままであることをもたらす。
【0028】
細胞が適切な固定剤で固定され、任意に酵素などでさらに処理された後、固定細胞は試料から取り除かれる。このために、試料は遠心分離され、沈降した細胞はさらに処理され、そして余分なものは廃棄される。試料から固定細胞を分離するための他の方法は、微生物診断学の分野において当業者にはよく知られており、状況に応じて適切な方法で使用することができる。
【0029】
フローサイトメータで個々の細胞の定量を可能にするために、本発明に係る方法では、検出対象の各微生物に対して特異的な検出試薬に接触させる前に、固定細胞に化学均質剤を添加し、その後乾燥させる必要がある。ここで使用されているように、用語「化学均質剤」とは、後の乾燥工程中の固定細胞の凝集を防止する化学試薬、例えば、2個以上の固定細胞の細胞壁間の共有結合、イオン性相互作用、等の形成を抑制する化学試薬を言う。その後、細胞を単一化することで、フローサイトメータで個々の細胞を定量することができる。
【0030】
好ましい実施形態において、化学均質剤は、(a)単糖類又は二糖類、(b)ポリオール、及び(c)水を含む。単糖類又は二糖類は、それぞれ天然由来又は合成由来であり得る、特に、D型又はL型のテトロース、ペントース又はヘキソース、例えば、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、リキソース、キシロース、アロース、アルトロース、ガラクトース、グルコース、グロース、イドース、マンノース、タロース、及びフルクトースを単糖類として使用することができる。二糖類としては、特に、ゲンチオビオース、イソマルトース、ラクトース、ラクツロース、マルトース、マルツロース、ラフィノース、スクロース、及びトレハロースからなる群から選択される化合物を使用することができるが、発明はこれらの物質を用いることに限定されるものではない。フルクトース、ガラクトース、グルコース及びスクロースからなる群から選択される単糖類又は二糖類がより好ましく、最も好ましいのはグルコースである。
【0031】
次に、ポリオールは、発明に従って使用される化学均質剤のさらなる成分として機能し、ここで、本願で使用されているように、「ポリオール」という用語は、少なくとも2つのアルコール性ヒドロキシ基を有する低分子有機物質を言い、上記で定義された単糖類及び二糖類を除外する。ポリオールは、天然由来又は合成由来であり得る、そして、立体中心又は多数の立体中心が存在する場合には、D型及びL型の両方で存在し得る。本発明に従って使用されるポリオールの例としては、エチレングリコール、グリセリン、イノシトール、イソマルト、マンニトール、ペンタエリトリトール、ソルビトール、及びキシリトールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。より好ましくは、本発明において、ポリオールは、エチレングリコール、グリセリン、マンニトール及びソルビトールからなる群から選択され、グリセリンが最も好ましい。
【0032】
第3の成分として、化学均質剤には水が含まれる。水の量は、通常、化学均質剤中の単糖類又は二糖類の量が、化学均質剤の全重量に基づいて、約10~70重量%、好ましくは約20~60重量%、より好ましくは約30~50重量%、最も好ましくは約35~45重量%の範囲内になるように設定される。化学均質剤中のポリオールの量は、通常、化学均質剤の全重量に基づいて、約5~50重量%、好ましくは約10~40重量%、より好ましくは約10~30重量%、最も好ましくは約15~25重量%の範囲にある。
【0033】
固定細胞が均質剤によって均質化された後、細胞は、例えば、キルン又は乾燥キャビネット内で、40~90℃の範囲の温度、好ましくは60~80℃の範囲の温度で適切に乾燥される。このようにして得られた乾燥細胞は、その後、検出対象の各微生物に対して特異的な検出試薬に接触させる。詳細には、第1反応混合物を得るために、乾燥細胞は、典型的には、このために適した反応容器に入れられ、次いで、微生物に対して特異的な少なくとも1種の蛍光標識核酸プローブ、即ち蛍光色素で標識された核酸プローブ、の溶液が、最初にそこに添加される。次いで、この第1反応混合物は、少なくとも1種の蛍光標識核酸プローブの、検出対象の微生物の細胞内の対応する標的核酸配列との結合を得るために、適切な条件でインキュベートされる。
【0034】
この工程の後、第2反応混合物を得るために、第1反応混合物を、少なくとも1種の消光標識核酸プローブ、即ち蛍光標識核酸プローブ中の蛍光色素の蛍光を少なくとも部分的に消光する消光剤で標識された核酸プローブ、の溶液に接触させる。ここで、消光標識核酸プローブは、蛍光標識核酸プローブ中の核酸配列に略相補的であり、好ましくは逆相補的である核酸配列を有する。次に、第2反応混合物は、標的核酸配列に結合していない蛍光標識核酸プローブの分子の消光標識核酸プローブとの結合を得て、そして任意に遊離した蛍光標識核酸プローブの蛍光を少なくとも部分的に消光させるために、同様に適切な条件下でインキュベートされる。
【0035】
これは、本発明の方法において、少なくとも1種の消光標識核酸プローブの溶液を、少なくとも1種の蛍光標識核酸プローブの溶液に直接添加することを意味し、これにより、追加的なすすぎ工程による過剰な蛍光標識核酸プローブの旧来の分離を排除することができる。さらに、標的核酸配列に結合した(即ち、特異的に検出される微生物の細胞内の)蛍光標識核酸プローブのみが蛍光シグナルに寄与する。他方で、遊離蛍光標識核酸プローブのシグナルは、消光標識核酸プローブとのハイブリダイゼーションによって実質的に消光される。この反応機構により、シングルステップでの試験システムが可能になる。
【0036】
2つの核酸プローブ、即ち蛍光標識核酸プローブと消光標識核酸プローブの割合に関して、その割合は、本発明に係る方法の具体的な実施形態の条件に依存し、当業者が日常の試験によって容易に決定することができる。しかしながら、消光標識核酸プローブによる、標的核酸配列に結合されていない過剰な蛍光標識核酸プローブに求められる蛍光の消光は、蛍光標識核酸プローブに対する消光標識核酸プローブの割合が少なくとも1:1であること、好ましくは、消光標識核酸プローブを過剰にすることを意味する。
【0037】
第1反応混合物及び第2反応混合物の恒温条件に関して、恒温時間及び恒温温度は、核酸配列の長さ及びGC含有量に基づいて、微生物分析の分野における当業者が決定することができ、簡単な最適化過程で確認することができる。一方、蛍光標識核酸プローブの溶液を乾燥細胞に添加した後に得られる第1反応混合物の恒温時間は、好ましくは約60~120分、特に好ましくは約80~100分であり、一方、恒温温度は好ましくは約30~50℃、特に好ましくは約40℃である。消光標識核酸プローブの溶液を第1反応混合物に添加した後に得られる第2反応混合物の恒温時間は、好ましくは約5~30分、特に好ましくは約10~20分であり、一方、恒温温度は、好ましくは約30~50℃、特に好ましくは約40℃である。
【0038】
図1は、本発明の基礎となる方法での反応を模式的に示し、蛍光標識核酸プローブ及び消光標識核酸プローブの両方が、一本鎖DNA分子として具体例に存在している。詳細には、蛍光標識核酸プローブは、適切に固定及び乾燥させた細胞に添加された後、標的配列に向かって拡散しそして結合する。ここで、rRNAは検出対象の微生物の細胞内の標的分子として機能し、蛍光標識核酸プローブが標的とするrRNAの配列は、検出対象の微生物に対して特異的である。
【0039】
未結合(即ち過剰)の蛍光標識核酸プローブを厳格なすすぎ工程で除去しなければならない旧来のFISH技術に対し、未結合(即ち過剰)の蛍光標識核酸プローブは、消光標識核酸プローブを添加することにより捕捉され、蛍光標識核酸プローブと消光標識核酸プローブからなる蛍光性核酸ハイブリッドはもはや形成されない。蛍光標識核酸プローブが最初に適切な標的核酸配列に結合するなら、この蛍光標識核酸プローブは、もはや消光標識核酸プローブとハイブリダイズすることはない。
【0040】
したがって、蛍光標識核酸プローブが検出対象の微生物の標的核酸配列に結合している場合には、蛍光標識核酸プローブ中の蛍光色素の励起後に蛍光が観測され、一方、蛍光標識核酸プローブが標的核酸配列に結合していない場合には、蛍光標識核酸プローブと消光標識核酸プローブとのハイブリダイゼーションの結果、蛍光が放出されない。その結果、フローサイトメータで検出された粒子の蛍光は、蛍光標識核酸プローブが特異的な微生物に対する直接的定性及び定量化可能なシグナルとなる。
【0041】
以上、本発明に係る方法は、デオキシリボ核酸からなる核酸プローブに基づいて説明されたので、DNAプローブとも呼ぶことができる。しかしながら、これらの核酸プローブが検出対象の微生物におけるハイブリッドの形成に対して上述した挙動を示す限り、他の核酸プローブも使用することができることが理解される。
【0042】
本発明において、蛍光標識核酸プローブ及び/又は消光標識核酸プローブは、好ましくは一本鎖核酸プローブである。しかしながら、本発明において、これらの核酸プローブが、個々に、かつ互いに独立して、二本鎖であることも可能である。核酸プローブの少なくとも1つが二本鎖である場合、蛍光標識核酸プローブの配列の一部のみ、又は消光標識核酸プローブの配列の一部のみが二本鎖であることが好ましい。各プローブにおける二本鎖の形成の程度は、標的核酸配列とのハイブリダイゼーション、特に、各相補的なプローブとのハイブリダイゼーションのための要件に依存する。
【0043】
本発明で使用される核酸プローブの各々、特に、蛍光標識核酸プローブは、好ましくは、DNAプローブ、RNAプローブ、PNAプローブ、LNAプローブ、又は、それらの2種以上の組み合わせとして形成される。各核酸プローブを形成するヌクレオチドの設計又は選択は、本発明の分野における当業者の知識の範囲内であり、本明細書に与えられた開示、及び、特に、本発明の根底にあると推定される機構に照らして、日常的な手順及び考察を通して行うことができる。
【0044】
上述したように、蛍光標識核酸プローブは、検出対象の微生物に対して特異的である。このような核酸プローブの生成は、微生物分析の分野における当業者には知られており、また、ドイツ公開公報DE 10 2010 012 421 A1にもより詳細に記載されている。好ましくは、特異性は、核酸プローブとその標的核酸配列との間の相同性により決定される。相同性は、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも96%、97%、98%、99%、又は100%である。一実施形態では、核酸プローブは、予め定義された相同性の範囲内で標的核酸配列と略同一である。
【0045】
あるいは、蛍光標識核酸プローブの核酸配列は、標的核酸配列と略逆相補的であり得る。そして、上記相同性は、核酸プローブの核酸配列と標的核酸配列との同一性又は相補性としても適用される。あるいは、特に、逆相補的配列の場合、相同性は、核酸プローブと標的配列とのハイブリダイゼーションが依然として行われる条件によって定義することもできる。蛍光標識核酸プローブは、特に、適度の又は厳しい条件下で標的核酸配列とハイブリダイズする場合に、標的配列と逆相補的であることが好ましい。これらの条件は、国際公開公報WO 00/68421 A1に例示的に記載されている。
【0046】
蛍光標識核酸プローブに関してここで述べられたことは、消光標識核酸プローブにも実質的に適用され、消光標識核酸プローブが蛍光標識核酸プローブと略逆相補的であり、消光標識核酸プローブと蛍光標識核酸プローブとの間の相補性度は、検出対象の微生物中の標的核酸配列と蛍光標識核酸プローブとの間の相補性度と同じ方法で定義することができることは、当業者には明らかである。
【0047】
微生物の特異的検出を可能にする標的核酸配列は当該分野で知られており、例えば、Clementinoら(J.Appl.Microbiol.103(2007)、141-151)、Niら(FEMS Microbiol.Lett.270(2007)、58-66)、Leawら(J.Clin.Microbiol.45(2007)、2220-2229)、及びBhardwajら(J.Med.Microbiol.56(2007)、185-189)による出版物で言及されている。好ましい標的核酸配列は、この中では、特に、16S rRNA、23S rRNA、18S rRNA、tRNA、EF-Tu、mRNA、16S-23S rRNAスペーサー、及び23S-5S rRNAスペーサーであり、ここでは16S rRNA及び23S rRNAが特に好ましい。
【0048】
蛍光標識核酸プローブ及び消光標識核酸プローブの長さは、互いに独立して、約15~31ヌクレオチド、好ましくは約17~25ヌクレオチド、より好ましくは約17~23ヌクレオチド、最も好ましくは約17又は18ヌクレオチドである。好ましい実施形態では、蛍光標識核酸プローブ及び消光標識核酸プローブは、実質的に同じ長さである。2つの核酸プローブの長さの選択は、ドイツ公開公報DE 10 2010 012 421 A1に規定されている基準においても言及されている。
【0049】
両方の核酸プローブは、前記長さを形成するために必要以上に多くのヌクレオチドを含むことができ、ここで、蛍光標識核酸プローブが消光標識核酸プローブと塩基対を作り、好ましくは塩基対がワトソン-クリック塩基対であり、ハイブリッド複合体が形成されるなら、これらの追加のヌクレオチドは、好ましくは二本鎖構造の形成に寄与しないか、又は関与しない。一実施形態では、2つの核酸プローブの長さと相補的領域の長さは同じである。
【0050】
フルオロフォアとも呼ばれる蛍光色素は、理想的にはその吸収最大値で、特徴的な波長の光を吸収する、又は光によってエネルギー的に励起される分子である。この光(光子)は、一定時間後に、例えば、蛍光として、あるいは振動エネルギー(熱)として放出される。その後、フルオロフォアは、エネルギー的により好ましい、非励起の基底状態に戻る。消光剤(受容体)とは、励起されたフルオロフォア(供与体)からのエネルギーを吸収して、その蛍光発光を消光する分子のことである。
【0051】
概して、蛍光シグナルの弱体化や消光を蛍光消光という。最適な消光効率のためには、対応する消光剤への蛍光色素の正確な配位が決定的である(Marrasら、Methods in Molecular Biology 335(2006)、3-16)。蛍光色素と消光剤の適切な一対を選択する際には、観察される消光が基本的に静的消光なのか動的消光なのかを区別することでできる。蛍光色素と消光剤の位置付けは、消光が静的か又は動的消光なのかに応じて行うことができる。
【0052】
いわゆる静的消光や接触消光では、励起状態のフルオロフォアと消光剤の間に非蛍光性の錯体が形成される。供与体と受容体は、静的消光で空間的に互いに近接している(≦20Å)。分子は、水素結合の形成によるプロトン共役電子移動を介して直接相互作用する(Fоerster、Ann.Phys.2(1948)、55-75;Lakowicz、Principales of Fluorescence Spectroscopy、Kluwer Academic/Plenum Publishers、New York、1999)。
【0053】
しかし、動的消光、いわゆるFRET消光(蛍光共鳴エネルギー移動)、の方法を用いることも可能である。この場合、励起されたフルオロフォアは、そのエネルギーを消光剤に移動させ、その後、光を発することなく基底状態に戻る。供与体及び受容体は、約40~100Å(二本鎖DNA内の約3~30ヌクレオチドに対応)で互いに空間的に距離を置いている。また、供与体の蛍光発光スペクトルが受容体の吸収スペクトルと重なっていることもFRET消光の前提条件の一つである。
【0054】
このような消光を得るために、本発明によれば、蛍光標識核酸プローブ中の蛍光色素が、蛍光標識核酸プローブの3’末端若しくは3’末端近くに位置し、消光標識核酸プローブ中の消光剤が、消光標識核酸プローブの5’末端若しくは5’末端近くに位置することが好ましい。または、蛍光標識核酸プローブ中の蛍光色素は、蛍光標識核酸プローブの5’末端若しくは5’末端近くに位置することも可能であり、一方、消光標識核酸プローブ中の消光剤は、消光標識核酸プローブの3’末端若しくは3’末端近くに位置することも可能である。ここで、さらなる詳細については、ドイツ公開公報DE 10 2010 012 421 A1を参照する。
【0055】
蛍光標識核酸プローブ中の蛍光色素が発する蛍光は、必ずしも消光標識核酸プローブ中の消光剤によって完全に消光される必要はないことが理解される。本発明の目的のためには、蛍光標識核酸プローブで標識されそして検査対象の微生物に由来する細胞と、蛍光標識核酸プローブと消光標識核酸プローブとからなるハイブリダイゼーション複合体との間で、検出器システム(即ち、フローサイトメータ)で検出可能なシグナルに有意な差があれば十分である。この場合の消光度合は、通常10%~90%であり、好ましくは少なくとも50%である。
【0056】
蛍光標識核酸プローブ製造に使用される蛍光色素は、特に、旧来のFISH技術で使用されるものである。蛍光色素は、例えば、FAM、TAMRA、CY3、アレクサ350、パシフィックブルー、クマリン、Cy2、アレクサ488、TET、アレクサ532、HEX、アレクサ546、TMR、Cy3.5、アレクサ568、テキサスレッド、アレクサ594、アレクサ633、Cy5、Cy5.5、アレクサ660、アレクサ680、ATTO 490LS、ロックス、及びビックからなる群から選択可能である。蛍光色素の適性に関しては、蛍光色素の蛍光を少なくとも部分的に消光する消光剤が同時に存在するものを除いて、いかなる制限も全く無いことが理解される。
【0057】
消光剤の設計又は選択に関しては、同様に基本的な制限は無い。しかしながら、蛍光色素と消光剤の選択は、その励起後に蛍光色素の蛍光シグナルの有意な消光が直接又は間接的に起こるようなものでなければならないことが理解される。この場合、十分な消光とは、消光された状態と消光されていない状態とを区別することができるという意味で定義される。従って、本発明において、消光剤自体が蛍光色素であることが可能である。
【0058】
蛍光色素と消光剤のいくつかの例示的な組み合わせを以下の表に示す。
【表1】
【0059】
蛍光色素及び消光剤のさらなる好適な組み合わせは、Marrasら(Nucl.Acids Res.30(2002)、e122)に述べられており、その開示は参照により明示的に組み込まれる。
【0060】
本発明に係る方法の特異性を高めるために、蛍光標識核酸プローブ及び消光標識核酸プローブに加えて、いわゆる競合プローブを反応に添加することができる。本願で使用されているように、「競合プローブ」という用語は、核酸プローブ、特に蛍光標識核酸プローブの、潜在的に発生する意図しない結合、即ち、特に、結合部位をマスクし、検出対象の微生物よりも検出対象ではない微生物に対してより高い配列類似性を示すオリゴヌクレオチドを特に指す。
【0061】
競合プローブを用いることで、蛍光標識核酸プローブが検出対象でない微生物の核酸配列に結合すること、及びそれにより偽陽性シグナルを引き起こすことを防止することができる。競合プローブは、典型的には非標識であり、好ましくは、蛍光標識核酸プローブ及び消光標識核酸プローブを添加する前に使用される。競合プローブは、検出対象ではない1以上の微生物の標的核酸配列に略相補的であるべきである。
【0062】
本発明において使用可能な競合プローブは、通常、12~100ヌクレオチド、好ましくは15~50ヌクレオチド、特に好ましくは17~25ヌクレオチドを含むDNA配列又はRNA配列であり得る。規定された配列を選択することにより、蛍光標識核酸プローブ又は消光標識核酸プローブと、分類単位又は人工的に生成された微生物群の核酸配列とのハイブリダイゼーションを遮断することができる。
【0063】
遮断されるべき核酸配列に対する相補性は、15ヌクレオチドの競合プローブ中の100%の配列にわたり存在するべきである。15ヌクレオチド以上の競合プローブでは、長さに応じて1つ以上のミスマッチ部位が許容される。そのような競合プローブは、例えば、国際公開公報WO 2005/031004 A2に記載されており、その開示は、参照によりここに明示的に組み込まれる。
【0064】
蛍光標識核酸プローブと消光標識核酸プローブからなる対(第1核酸プローブ対)に加えて、蛍光標識核酸プローブと各一致した消光標識核酸プローブからなる少なくとも1つのさらなる対(第2核酸プローブ対、第3核酸プローブ対、等)を用いることができることは、本発明の範囲内である。更なる核酸プローブ対のそれぞれは、第1核酸プローブ対に準じて設計されており、第2、第3、等の核酸プローブ対の蛍光標識核酸プローブは、それぞれ、第1核酸プローブ対の蛍光標識核酸プローブ以外の検出対象の微生物中の標的核酸配列に対応する。
【0065】
これは、本発明に係る方法の好ましい変形において、次のようなことを意味する。工程(d)において、検出対象の微生物に対しそれぞれ特異的な場合に、異なる核酸配列を有する多数の蛍光標識核酸プローブは、検出対象の微生物の標的核酸配列上で多数の蛍光標識核酸プローブを並列にハイブリダイズさせるために、単一の溶液又は多数の溶液の形態で、固定及び乾燥させた細胞に最初に添加される。そして、工程(f)において、蛍光標識核酸プローブの数に対応する多数の異なる消光標識核酸プローブは、異なる蛍光標識核酸プローブを捕捉し、それらの蛍光を少なくとも部分的に消光させるために、単一の溶液又は多数の溶液の形態で、添加される。
【0066】
本発明に係る方法の別の実施形態では、分析対象の試料は、1種より多くの微生物、即ち、少なくとも2つの異なる微生物を含み、これらの微生物は、並列に検出される。この場合、第2核酸プローブ対の蛍光標識核酸プローブは、検出対象の第2微生物に特異的であること、第3核酸プローブ対の蛍光標識核酸プローブは、検出対象の第3微生物に特異的であること等が好ましい。しかし、当然のことながら、検出対象の各微生物の検出において、それぞれの場合に、各微生物に特異的な1種より多くの蛍光標識核酸プローブを使用することも可能である。
【0067】
潜在的に過剰な蛍光標識核酸プローブの蛍光が少なくとも部分的に消光された後、検出対象の微生物の蛍光標識核酸プローブを含む細胞によって放出される蛍光を検出するための第2反応混合物を、従来のフローサイトメータに入れ、そこで分析する。第2反応混合物は、そのように(即ち、さらなる処理及びすすぎ工程無しで)フローサイトメータに配置することができるので、作業の労力が軽減され、潜在的な試料の損失を防止することができる。これに関して、本発明は、本発明に係る方法で使用するためのフローサイトメータにも関する。
【0068】
細胞から発せられた蛍光は、検出対象の微生物の細胞数、特に、全細胞の数を定量するために直接使用することができる。この測定で得られた値は、ヒストグラムやドットプロットの形でコンピュータ上で可視化され、試料に含まれる微生物の種類や量について確実な結論を得ることができる。従って、本発明に係る方法は、全細胞ハイブリダイゼーションの枠組みの中で、全細胞として、微生物又は多数の微生物を直接検出するだけでなく、定量することを可能にする。
【0069】
従って、本発明に係る方法の大きな利点は、試料中の微生物の特異的検出が可能であるとともに、実行が非常に簡単であるだけでなく、速度、再現性、信頼性、及び客観性もある。別の利点は、溶液中のin situ ハイブリダイゼーションの有利な方法が、任意のすすぎ工程を必ずしも必要とせず実施可能であることである。これにより、方法による実行が簡素化され、その結果、準備工程に必要な時間が短縮される。1つの反応容器で全ての方法を行うことができるため、新しい反応容器に移す際のロスがなく、より精密な定量が可能である。
【0070】
以下、本発明を以下の実施例、比較例及び図面に基づいてより詳細に説明する。
【実施例
【0071】
実施例1
微生物の特異的検出方法としては、果汁飲料中のアリシクロバチルス種の検出を例示する。
【0072】
調査対象のオレンジジュース濃縮試料を、少なくとも48時間、適切に培養した。続いて、0.9mlのこの培養物を適切な反応容器に移し、80%エタノールを含む固定剤を0.9ml添加した。
【0073】
固定細胞を遠心分離(4,000×g、5分、室温)で沈降させた後、50重量%グルコース水溶液とグリセリンを8:2の重量比で混合して得られた均質剤を20μl添加し、その後、キルンにおいて80℃で20分間乾燥させた。
【0074】
続いて、反応容器中の乾燥及び均質化した細胞に、ハイブリダイゼーション溶液35μlを添加した。ハイブリダイゼーション溶液には、アリシクロバチルス属種に特異的で、蛍光色素としてFAMで標識された核酸プローブ20ngが水性緩衝液(水65重量%とホルムアミド35重量%の混合液に0.9M NaClと0.02M トリス-HCl(pH8.0)を加えた溶液)に溶解されている。蛍光標識核酸プローブは、20ヌクレオチドの長さを有し、標的核酸配列と100%の相同性を有していた。
【0075】
このようにして得られた反応混合物を40℃で1.5時間、インキュベートした後、反応混合物に消光剤溶液35μlを加えた。消光剤溶液には、消光剤としてBHQ1で標識した核酸プローブ20ngが水性緩衝液(水に0.14M NaClと0.04Mトリス-HCl(pH8.0)を加えた溶液)に溶解されている。消光標識核酸プローブは、20ヌクレオチドの長さを有し、蛍光標識核酸プローブの核酸配列と100%の相同性を有していた。
【0076】
このようにして得られた反応混合物を、40℃でさらに15分間インキュベートし、その後、さらに処理することなく、フローサイトメータ(Sysmex Deutschland GmbH製モデルCyFlow(登録商標) Cube6)に入れ、そこで、0.5μl/秒の貫流速度で分析し評価した。
【0077】
図2に測定結果を示す。細胞の蛍光シグナルは、粒子の大きさの尺度であるx軸に沿った分散上のy軸に沿ったドットプロット図にプロットされる。
【0078】
比較例1
固定細胞を乾燥させる前に均質剤を添加しないことを除いて、上述した実施例1を繰り返した。その結果を図3に示す。
【0079】
均質剤が無いため、少数ではあるが非常に大きな粒子が検出され、それぞれが異なる数の合着した個々の細胞のクラスターを構成していた。クラスターが形成されたため、フローサイトメータで検出された粒子数に基づく細胞数の定量がもはやできなくなった。
【0080】
クラスター形成の更なる欠点は、大きさ(ドットプロットのx軸)と検出された蛍光シグナルの強度(ドットプロットのy軸)との関係において、検出された粒子の強く分散された分布に起因する。なぜなら、多数の個々の細胞によって形成されたクラスターは、個々の細胞の数が少ないクラスターよりも蛍光シグナルの強度が高い粒子として検出器によって認識されるからである。従って、検出された粒子の分布がドットプロット上に大きく分散しており、生物の識別判定を強く制限する。
【0081】
比較例2
上記の実施例1は、国際公開公報WO 03/083131 A1に記載の方法を採用し、消光標識核酸プローブを使用しなかったことを除いて、実質的に繰り返される。その結果を図4に示す。
【0082】
消光剤が無いため、結合されていない蛍光標識核酸プローブの蛍光は消光されなかった。すすぎによって完全に除去することができなかった結合されていない蛍光標識核酸プローブの残りは、測定においてバックグラウンドノイズの増加に寄与し、結果として、蛍光シグナルとバックグラウンドノイズとの分離はより不十分になった。
【0083】
実施例2
実施例1で使用した均質剤の代わりに、70%エタノールを均質剤として使用したことを除いて、上記実施例1を繰り返した。その結果を図5に示す。
【0084】
均質剤として70%エタノールを使用したため、固定細胞を乾燥させる前に均質剤を添加しなかった比較例1と比較して、検出粒子の分布の明確な改善が得られた。
【0085】
しかし、蛍光シグナルの強い大きな粒子の数が比較的多いことからわかるように、均質剤として70%エタノールを使用しても、多数の合着した個々の細胞からなるクラスターである、クラスターが形成されていた。
図1
図2
図3
図4
図5