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特許7333315熱可塑性樹脂フィルム、熱可塑性樹脂被覆金属板、及び熱可塑性樹脂被覆金属容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルム、熱可塑性樹脂被覆金属板、及び熱可塑性樹脂被覆金属容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/09 20060101AFI20230817BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230817BHJP
   B32B 15/085 20060101ALI20230817BHJP
   B32B 1/02 20060101ALI20230817BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230817BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230817BHJP
   B65D 25/14 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
B32B15/09 Z
B32B15/09 A
B32B15/08 Q
B32B15/085 Z
B32B15/085 A
B32B1/02
B32B27/36
B32B27/32 Z
B65D25/14 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020521239
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2019020033
(87)【国際公開番号】W WO2019225574
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018099226
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武永 智靖
(72)【発明者】
【氏名】西田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】河村 悟史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康介
(72)【発明者】
【氏名】廣森 修平
(72)【発明者】
【氏名】梁田 健司
(72)【発明者】
【氏名】粟飯原 光英
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-220220(JP,A)
【文献】特開2004-083736(JP,A)
【文献】特開平06-080789(JP,A)
【文献】特開2015-189516(JP,A)
【文献】特開平09-286905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
B32B 1/00-43/00
B65D 23/00-25/56
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と、
前記金属板の少なくとも片面に積層された熱可塑性樹脂フィルムと、を含み、
前記熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性ポリエステル樹脂成分を70~97重量%と、ポリオレフィン樹脂成分を3~30重量%含み、
前記ポリオレフィン樹脂成分が、無極性ポリオレフィン樹脂、及び、側鎖にエステルを含む官能基を持ったポリオレフィン樹脂からなる群から選択される1種類以上を含有するものであり、
前記ポリオレフィン樹脂成分が、前記熱可塑性ポリエステル樹脂成分中において、フィルムの押出方向に平均長さ5μm~300μm、フィルムの厚さ方向に平均長さ0.2μm~5μm、且つアスペクト比が8以上の繊維状に分散されていることを特徴とする熱可塑性樹脂被覆金属板。
ただし前記「アスペクト比」は、前記ポリオレフィン樹脂成分におけるフィルムの押出方向の平均長さを「a」、押出方向と直角の方向の断面で観察されるフィルム厚さ方向の平均長さを「b」とした場合の、「a÷b」の値を表すものとする。
【請求項2】
前記無極性ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂被覆金属板
【請求項3】
前記側鎖にエステルを含む官能基を持ったポリオレフィン樹脂が、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体のいずれかであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂被覆金属板
【請求項4】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(PET/IA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のうち1種類以上を含有するものであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂被覆金属板
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、前記熱可塑性樹脂フィルムとは別の種類の熱可塑性ポリエステル樹脂層を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂被覆金属板
【請求項6】
少なくとも容器内面側に熱可塑性樹脂層を有し、
前記熱可塑性樹脂層が、熱可塑性ポリエステル樹脂成分を70~97重量%と、ポリオレフィン樹脂成分を3~30重量%含み、
前記ポリオレフィン樹脂成分が、無極性ポリオレフィン樹脂、及び、側鎖にエステルを含む官能基を持ったポリオレフィン樹脂からなる群から選択される1種類以上を含有するものであり、
前記ポリオレフィン樹脂成分が、前記熱可塑性ポリエステル樹脂成分中において、フィルムの押出方向に平均長さ5μm~300μm、フィルムの厚さ方向に平均長さ0.2μm~5μm、且つアスペクト比が8以上の繊維状に分散されていることを特徴とする熱可塑性樹脂被覆金属容器。
ただし前記アスペクト比は、前記ポリオレフィン樹脂成分におけるフィルムの押出方向の平均長さを「a」、押出方向と直角の方向の断面で観察されるフィルム厚さ方向の平均長さを「b」とした場合の、「a÷b」の値を表すものとする。
【請求項7】
請求項に記載の熱可塑性樹脂被覆金属容器において、
前記ポリオレフィン樹脂成分の少なくとも一部が、前記熱可塑性ポリエステル樹脂成分中において、平均粒径2~10μmの粒状に分散しており、前記アスペクト比が1~3であることを特徴とする熱可塑性樹脂被覆金属容器。
ただし前記平均粒径は、「(a+b)/2」の値を表すものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルム、熱可塑性樹脂被覆金属板、及び熱可塑性樹脂被覆金属容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料や食品用の金属缶等の容器の材料として、熱可塑性樹脂フィルムを金属板表面に積層した樹脂被覆金属板が知られている。前記熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルム等が使用されている。
【0003】
上記のような飲料や食品用の金属缶等の容器において、特に内面側に積層された樹脂は、容器をぶつけたり落としたりした時の衝撃に耐えられる必要がある。衝撃を受けた際に内面側の樹脂が割れたり剥離した場合、その部分が腐食の原因となり、内容物の品質を著しく損なう可能性がある。
【0004】
ポリエステルフィルムの耐衝撃性を向上させる方法のひとつとして、ポリオレフィン樹脂をポリエステル樹脂中に混合(以下、「ブレンド」とも称する。)させ、分散させる方法が知られている(特許文献1)。ポリオレフィン樹脂は耐衝撃性に優れる素材であるため、ポリエステル樹脂中に分散させた場合、樹脂全体の耐衝撃性を向上させることが可能となる。
【0005】
しかしながら、従来の問題として、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂とを混合させた樹脂(以下、「ブレンド樹脂」とも称する)の場合、両樹脂の相溶性が低いという問題があった。すなわちポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂とのブレンド樹脂は、両樹脂の界面の密着性が低い。そのため、そのようなブレンド樹脂を用いて容器を製造した場合、成形時にポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂との界面が破壊の起点となり、樹脂フィルムに割れや削れが生じる可能性があった。
【0006】
ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂における、上述した成形性や密着性の問題に鑑みて、例えば特許文献2には、エチレンテレフタレート等を基本骨格としたポリエステル樹脂に、ポリエチレンやポリプロピレン等からなる平均粒子径が0.01~5 μmの粒状樹脂を分散させた混合樹脂からなるラミネート金属板用のフィルムが開示されている。このようなフィルムの課題としては、優れた成形性、耐衝撃性、成形後密着性を得ることである。またその用途としては特に、過酷な成形を強いられる薄肉深絞り缶用途への使用が挙げられている。
【0007】
また、特許文献3には、ポリエステル樹脂中に、ポリオレフィン樹脂であるゴム状弾性体樹脂が等価球換算径1μm以下で微細分散されている金属板被覆用樹脂フィルムが開示されている。また、ポリオレフィン樹脂の表面は極性基を有するビニル重合体で覆われている。このようなフィルムの課題としては、優れた耐衝撃性、成形性、等を得ることである。またその用途としては、上記のような樹脂フィルムが被覆された樹脂被覆金属板を成形してなる樹脂被覆金属容器への使用が挙げられている。
【0008】
特許文献4には、ポリブチレンテレフタレートとポリオレフィン樹脂成分とをブレンドしてなる熱可塑性樹脂組成物から成る熱可塑性樹脂被覆金属板であって、前記熱可塑性樹脂中のポリオレフィン樹脂成分の含有量が5~30重量%であり、被覆層中のポリオレフィン樹脂成分が、押出方向に1~10μm、押出方向と直角方向に0.1 ~2μmの大きさで分散して存在していることを特徴とする熱可塑性樹脂被覆金属板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3284741号公報
【文献】特許第3858140号公報
【文献】特許第3895924号公報
【文献】特許第3768145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した特許文献2~4に開示された技術はいずれも、ポリオレフィン樹脂をポリエステル樹脂中に極めて微小なサイズで分散させて、上記課題を解決しようとするコンセプトのものである。すなわち、ポリオレフィン樹脂成分を極微小サイズとすることにより分散するポリオレフィン樹脂の合計の表面積を大きくし、ポリエステル樹脂との密着性の問題を解決しようとするものである。しかしながら、これら従来技術では、微分散化させることで相対的に耐衝撃性が低下してしまうため、その対応策としてポリオレフィン樹脂の配合量を増やす必要が生じてくる。しかしながらポリオレフィン樹脂の配合量を増やすと製缶工程において缶の抜け性が悪くなるなどの問題が発生するため、成形性と耐衝撃性の両立が難しく、特に絞りしごき缶のような厳しい成形条件の缶において十分な耐衝撃性を確保することができていない。
【0011】
また、特許文献3は、ポリオレフィン樹脂に極性基を導入した変性ポリオレフィン樹脂により、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂の極性基との反応性を利用して密着性を高めようとする技術である。しかしながらこのような変性ポリオレフィン樹脂は、反応性の制御が難しく、また熱安定性に劣るという問題がある。すなわち、変性ポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂とを混合させて連続してフィルムを製造する際には、それらの反応生成物(以下「ブツ」とも称する。)が発生するという問題があった。前記「ブツ」が製造したフィルムに混入した場合、容器を製造する際に樹脂の孔開きの原因となるため、製造過程で除去する必要があり、著しく生産性を低下させており、コスト高の要因となっている。
【0012】
前記「ブツ」の発生を抑制するため、ポリフェノールやビタミンE(トコフェロール)等の酸化防止剤を添加する技術も存在する。しかしながら、樹脂組成が複雑となり特別な生産設備が必要となる、これらの添加剤が押出し機内で焦げてブツの原因となる、等の問題があり、未だ改善の余地があった。
【0013】
上記のような問題点に鑑み、本発明者らは、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂とのブレンド樹脂を使用したフィルムにおいて、安定してロングラン生産するための技術を鋭意模索した。その結果、特定のポリオレフィン樹脂を用いて、それらを特定の配合量及び特定の形状でポリエステル樹脂中に分散させることにより、上記課題を解決できることを見出し本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明は、以下の特徴を有する。
(1)本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性ポリエステル樹脂成分を70~97重量%と、ポリオレフィン樹脂成分を3~30重量%含み、前記ポリオレフィン樹脂成分が、無極性ポリオレフィン樹脂、及び、側鎖にエステルを含む官能基を持ったポリオレフィン樹脂からなる群から選択される1種類以上を含有するものであり、前記ポリオレフィン樹脂成分が、前記熱可塑性ポリエステル樹脂成分中において、フィルムの押出方向に平均長さ5μm~300μm、フィルムの厚さ方向に平均長さ0.2μm~5μm、且つアスペクト比が8以上の繊維状に分散されていることを特徴とする。
(2)上記(1)において、前記無極性ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体のいずれかであることが好ましい。
(3)上記(1)又は(2)において、前記側鎖にエステルを含む官能基を持ったポリオレフィン樹脂が、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体のいずれかであることが好ましい。
(4)上記(1)~(3)のいずれかにおいて、前記熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(PET/IA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のうち1種類以上を含有するものであることが好ましい。
(5)上記(1)~(4)のいずれかにおいて、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、前記熱可塑性樹脂フィルムとは別の種類の熱可塑性ポリエステル樹脂層を有することが好ましい。
(6)本発明の熱可塑性樹脂被覆金属板は、金属板の少なくとも片面に、上記(1)~(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムが積層されてなることを特徴とする。
(7)本発明の熱可塑性樹脂被覆金属容器は、少なくとも容器内面側に熱可塑性樹脂層を有し、前記熱可塑性樹脂層が、熱可塑性ポリエステル樹脂成分を70~97重量%と、ポリオレフィン樹脂成分を3~30重量%含み、前記ポリオレフィン樹脂成分が、無極性ポリオレフィン樹脂、及び、側鎖にエステルを含む官能基を持ったポリオレフィン樹脂からなる群から選択される1種類以上を含有するものであり、前記ポリオレフィン樹脂成分が、前記熱可塑性ポリエステル樹脂成分中において、フィルムの押出方向に平均長さ5μm~300μm、フィルムの厚さ方向に平均長さ0.2μm~5μm、且つアスペクト比が8以上の繊維状に分散されていることを特徴とする。
(8)上記(7)において、ポリオレフィン樹脂成分が、前記熱可塑性ポリエステル樹脂成分中において、平均粒径2~10μmの粒状に分散していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムによれば、ポリオレフィン樹脂をポリエステル樹脂中に分散させた樹脂フィルムを製造する際に、反応生成物(ブツ)の発生が無く安定してロングラン生産することが可能となる。また、両樹脂の界面の接着性を向上させ、容器成形時の成形性を向上させることができる。加えて、フィルムの切れ性が良くなることと相俟って、例えば容器製造ラインの缶胴成形後に開口端不要部を除去するトリミング工程において、トリミング時の缶先端にフィルム切断不良により開口不要部が切れ残る現象を抑制することができる。
本発明によれば、上記熱可塑性樹脂フィルムを用いた熱可塑性樹脂被覆金属板、及び熱可塑性樹脂被覆金属容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの断面図(フィルム押出方向)を示す写真であり、(b)は本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの断面図(フィルム押出方向と直角の方向)を示す写真であり、(c)は本実施形態に係る熱可塑性樹脂のフローダウン時にTダイから吐出した直後の膜における断面図(膜の押出方向)を示す写真であり、(d)は本実施形態に係る熱可塑性樹脂のフローダウン時にTダイから吐出した直後の膜における断面図(膜の押出方向と直角の方向)を示す写真である。
図2図1に示した写真に基づいて、ポリエステル樹脂中におけるポリオレフィン樹脂の分散状態などを模式的に示した模式図である。
図3】本実施形態における熱可塑性樹脂フィルムのうち多層フィルム10の構成を示す模式図である。
図4】本実施形態における熱可塑性樹脂被覆金属板20の積層状態を説明する模式図である。
図5】実施例1におけるフィルム断面状態を示す写真である。
図6図5に示した写真に基づいて、ポリエステル樹脂フィルム中におけるポリオレフィン樹脂の分散状態を模式的に示した模式図である。
図7】180°ピール試験の方法の概要を示す模式図である。
図8】実施例4におけるフィルム断面状態を示す写真である。
図9図8に示した写真に基づいて、ポリエステル樹脂中におけるポリオレフィン樹脂の分散状態を模式的に示した模式図である。
図10】実施例24における熱処理前後のフィルム断面状態を示す写真である。
図11図10に示した写真に基づいて、ポリエステル樹脂中におけるポリオレフィン樹脂の分散状態を模式的に示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を以下の実施形態により詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
[熱可塑性樹脂フィルム]
本実施形態における熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性ポリエステル樹脂成分と、ポリオレフィン樹脂成分とを混合(ブレンド)してなる樹脂である。特に、熱可塑性ポリエステル樹脂成分を70~97重量%と、ポリオレフィン樹脂成分を3~30重量%含み、前記ポリオレフィン樹脂成分が、無極性ポリオレフィン樹脂、及び、側鎖にエステルを含む官能基を持ったポリオレフィン樹脂からなる群から選択される1種類以上を含有するものである。
【0019】
本実施形態の熱可塑性ポリエステル樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等を挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0020】
本実施形態において、上記熱可塑性ポリエステル樹脂は、共重合成分を有していてもよい。
共重合成分としては、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、P-β-オキシエトキシ安息香酸、ナフタレン2,6-ジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸及びピロメリット酸、の一種又は二種以上を含んでいてもよい。
【0021】
また、グリコール成分として、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6-ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の一種又は二種以上を含んでいてもよい。
【0022】
なお、本実施形態において、上記熱可塑性ポリエステル樹脂は、1種類を使用してもよいし、2種類以上の樹脂をブレンドして使用してもよい。
【0023】
本実施形態における熱可塑性ポリエステル樹脂としては、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンイソフタレート共重合体(PET/IA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のうち1種類以上を含有するものであることが好ましい。
なお以下、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンイソフタレート共重合体において、イソフタル酸の共重合量を数値で記載する場合もある。例えば、イソフタル酸2mol%共重合体の場合は「PET/IA2」と記載する。
【0024】
一方で、本実施形態におけるポリオレフィン樹脂は、無極性ポリオレフィン樹脂、及び、側鎖にエステルを含む官能基を持ったポリオレフィン樹脂からなる群から選択される1種類以上を含有することを特徴とする。
【0025】
なお、本実施形態において、上記したようなポリオレフィン樹脂が使用されるのは以下のような理由によるものである。
すなわち従来技術においては、上述したように、ポリオレフィン樹脂を極めて微小な粒子によりポリエステル樹脂中に分散させることにより、ポリオレフィン樹脂の合計の表面積を大きくすることで両樹脂の密着性の問題を解決していた。また、極性を有するポリオレフィン樹脂とポリエステルとの反応性を利用して両樹脂の密着性の問題を解決していた。
【0026】
これに対して本実施形態は、従来技術とは全く反対に、無極性あるいは極性の低いポリオレフィン樹脂を選択し、従来技術では想定されていなかった粗大なサイズで繊維状にポリエステル樹脂中に分散させた。これにより、本実施形態においては、分散されたポリオレフィン樹脂は良好な耐衝撃性を維持しつつ、かつ表面積を大きくすることで両樹脂の密着性の課題を解決することが可能となった。また粗大なサイズで繊維状に分散されたポリオレフィン樹脂が破壊の起点となることでフィルムの切れ性が良くなり、容器製造ラインにおけるトリミング性の向上、すなわちトリミング時の缶先端にフィルム切断不良により開口不要部が切れ残る問題を解決し得る。
【0027】
また、本実施形態において使用される無極性あるいは極性の低いポリオレフィン樹脂は、熱可塑性ポリエステル樹脂に対する反応性が低いため、従来の課題であったフィルム製造時のブツの問題も生じない。
さらには、無極性あるいは極性の低いポリオレフィン樹脂をポリエステル樹脂に混合することにより、樹脂フィルムの製造時に、加熱溶融した樹脂を押出機から押し出した後の膜の安定性に優れる。これは、上記ポリオレフィン樹脂を混合することにより、溶融樹脂の溶融張力を大きく維持できるからである。その結果、フィルム製造の速度を大きくすることができ、また溶融樹脂を直接板にコーティングするダイレクトコートの作業性も非常に良好となるのでコストの観点からもメリットがある。
その他のメリットとしては、滑剤の添加が不要になる点も挙げられる。すなわち、通常のポリエステルフィルムの製膜では、フィルムの滑り性を確保するためにシリカ等の滑剤を添加する。一方で本実施形態においては、粗大なサイズで繊維状に分散したポリオレフィン樹脂により滑り性が確保できるため、滑剤を必要とせず、コストダウンが可能となる。
【0028】
このようにして本実施形態においては、フィルム製造における安定性、加工時の成形性、及び容器製造後の耐衝撃性、のすべての課題を同時に解決することが可能となったのである。また、容器製造ラインにおけるトリミング性の問題についても解決し得るものである。
【0029】
次に、本実施形態におけるポリオレフィン樹脂について詳細に説明する。
本実施形態における無極性ポリオレフィン樹脂は、極性成分と水素結合成分を持たないポリオレフィン樹脂である。特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体のいずれかであることが好ましいが、これらに限られるものではない。
【0030】
一方で本実施形態における側鎖にエステルを含む官能基を持ったポリオレフィン樹脂としては特に、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体のいずれかであることが好ましいが、これらに限られるものではない。
【0031】
なお、本実施形態において前記ポリオレフィン樹脂成分は、上記した無極性ポリオレフィン樹脂、及び、側鎖にエステルを含む官能基を持ったポリオレフィン樹脂からなる群から選択された、1種類を使用してもよいし、2種類以上を使用してもよい。
【0032】
本実施形態における熱可塑性樹脂フィルムにおいて、前記した熱可塑性ポリエステル樹脂成分とポリオレフィン樹脂との配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂成分を70~97重量%に対して、ポリオレフィン樹脂成分が3~30重量%であることが好ましい。
【0033】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂成分が70重量%未満の場合、熱可塑性樹脂フィルムを用いた容器を製造する際に、成形でフィルム削れやフィルム剥離が生じるため好ましくない。一方で、前記熱可塑性ポリエステル樹脂成分が97重量%を超える場合、本発明の課題である容器内面側の好ましい耐衝撃性を得ることができないため好ましくない。
【0034】
次に、本実施形態において、前記熱可塑性ポリエステル樹脂成分中における、前記ポリオレフィン樹脂成分の形状及び分散状態について説明する。
本実施形態においては、前記ポリオレフィン樹脂成分が、前記熱可塑性ポリエステル樹脂成分中において、特定の形状及び方向で分散されていることを特徴とする。すなわち、前記ポリオレフィン樹脂成分が、前記熱可塑性ポリエステル樹脂成分中において繊維状に分散されていることを特徴とする。
ここで「繊維状」とは、図1のようなフィルム断面を示す写真において、フィルムの押出方向と直角の方向(TD)(図1(b))に対して、フィルムの押出方向(MD)(図1(a))に長い状態であることをいう。また本発明においては、後述するアスペクト比の計算方法において、アスペクト比が8以上の状態であるものを「繊維状」と呼び、アスペクト比が8未満の状態であるものを「粒状」と呼ぶこととする。
なお、「フィルムの押出方向」(MD)とは、「フィルムの長手方向」とも言い換えることができ、さらに、「フィルムの押出方向と直角の方向」(TD)は「フィルムの幅方向」と言い換えることができる。
また、図2には、図1に示した写真をトレースした模式図を示す。すなわち図2においては、図1の写真に基づいて、熱可塑性ポリエステル樹脂成分α中におけるポリオレフィン樹脂成分βの形状及び分散状態が模式的に示されている。
【0035】
具体的には、本実施形態の樹脂フィルム中に分散されたポリオレフィン樹脂のサイズは、フィルムの押出方向の平均長さが5μm~300μmであり、フィルム厚さ方向の平均長さが0.2μm~5μm、であることを特徴とする。
上記したようなポリオレフィン樹脂の形状及び分散状態は、以下のようにして実現される。すなわち、フィルム製造時に、溶融樹脂の混練条件とTダイからの吐出量及びリップの開度、キャスティングロールでの引取り速度を適宜調節することにより、ポリオレフィン樹脂が繊維状に引き延ばされた状態とすることが可能となる。このようにして、ポリオレフィン樹脂を、上記した形状及びサイズで、ポリエステル樹脂中に分散させることが可能となった。
なお、本実施形態において、ポリオレフィン樹脂の押出方向の平均長さがμm未満であった場合、容器の製造の際に成形性が低下するため、好ましくない。一方で、ポリオレフィン樹脂の押出方向の平均長さが300μmを超えた場合、押出方向と直角の方向における耐衝撃性が低下する可能性が生じるため、好ましくない。
なお、本実施形態において上記「平均長さ」とは以下のように定義される。すなわち、フィルムの押出方向(MD)及び押出方向と直角の方向(TD)の任意の断面を鋭利な刃物で切り出した後、透過型電子顕微鏡(TEM)もしくは走査型電子顕微鏡(SEM)で断面を押出方向及び押出方向と直角の方向にそれぞれ任意の箇所を1mm観察し、ポリオレフィン樹脂部分の長さを、長い順に3点測定し、その平均値を「平均長さ」とする。 その際、フィルムの押出方向の平均長さを「a」、フィルムの押出方向と直角の方向の断面で観察されるフィルム厚さ方向の平均長さを「b」とする。アスペクト比の計算にはこれら2種類の平均長さである「a」及び「b」の値を用いる。
【0036】
さらに、本実施形態の樹脂フィルム中に分散されたポリオレフィン樹脂の形状の特徴としては、アスペクト比が8以上であることが挙げられる。ここで「アスペクト比」とは、上記したポリオレフィン樹脂のフィルムの押出方向と直角の方向の断面で観察されるフィルム厚さ方向の平均長さに対する、フィルム押出方向の平均長さのことである。
本実施形態において発明者らが鋭意検討した結果、ポリオレフィン樹脂のアスペクト比を8以上とすることにより、容器の製造時において好ましい成形性が得られることを見出した。また、アスペクト比を8以上とすることにより、容器の製造後における金属板と樹脂フィルムとの密着性が向上することも見出した。
なお、アスペクト比の上限については、樹脂フィルム押出方向と直角の方向における容器内面側の耐衝撃性を維持できる範囲であれば、特に制限はない。
本実施形態において、アスペクト比の算出方法として、具体的には、上記のようにして得られた、フィルムの押出方向の平均長さを、押出方向と直角の方向の断面で観察されるフィルム厚さ方向の平均長さで割って得られた値を、アスペクト比とした。すなわち、上記のようにして得られた2種類の平均長さ「a」及び「b」を用い、a÷bの値を「アスペクト比」とする。
【0037】
このように本実施形態における熱可塑性樹脂フィルムは、(1)上記した特定の種類のポリオレフィン樹脂成分が、(2)特定量、且つ、(3)上記した従来技術とは全く異なる特定の大きさで、さらには、(4)特定のアスペクト比で、熱可塑性ポリエステル樹脂成分中に分散されている、という4つの特徴要素を併せ持つ技術思想に基づくものである。
これにより、本実施形態における熱可塑性樹脂フィルムは、成形性に悪影響を与えることなく、特定サイズで特定アスペクト比のポリオレフィン樹脂成分が熱可塑性ポリエステル樹脂成分に対して密着力を充分に発揮することが可能となっている。
【0038】
本実施形態における熱可塑性樹脂フィルムは、単層フィルムであってもよい。また、上記したブレンド樹脂と他の種類の樹脂とを積層した多層フィルムであってもよい。
上記したブレンド樹脂の単層フィルムの場合には、フィルム厚さTを5μm~200μmとすることが、上記した成形性等の観点からは好ましい。フィルム厚さが5μmより薄いと成形後にフィルムが裂けてしまい、基材が露出するため耐食性が不足する可能性がある。一方でフィルム厚さを200μmより厚くすると成形時の缶の抜け性が悪化し、内面削れ等の問題が発生する。またコストの観点からはフィルムは可能な範囲で薄い方がよく、より好ましくは5μm~50μmの範囲となる。
【0039】
また、図3に示す多層フィルム10の場合には、例えば図3(a)に示すように2層フィルムであってもよいし、図3(b)に示すように3層フィルムであってもよい。あるいは図示しないが4層以上のフィルムであってもよい。
3層フィルムの場合には、図3(b)-1に示すように、ブレンド樹脂層Aが中間層であってもよい。あるいは、図3(b)-2に示すように、上記したブレンド樹脂層Aが上層あるいは下層であってもよい。
【0040】
4層以上のフィルムとする場合も同様で、いずれかの層が上記したブレンド樹脂で構成されていればよい。
なお多層フィルムの場合、図3に示すように、フィルム厚さ(多層フィルムの合計厚さ)Tを5μm~200μmとすることが、上記した成形性等の観点からは好ましい。フィルム厚さが5μmより薄いと成形後にフィルムが裂けてしまい、基材が露出するため耐食性が不足する可能性がある。一方でフィルム厚さを200μmより厚くすると成形時の缶の抜け性が悪化し、内面削れ等の問題が発生する。またコストの観点からはフィルムは可能な範囲で薄い方がよく、より好ましくは5μm~50μmの範囲となる。
【0041】
次に、本実施形態における熱可塑性樹脂フィルムの製造方法について以下に説明する。
本実施形態における熱可塑性樹脂フィルムは、例えば次に記載するような公知の方法で製造することが可能である。すなわち、ブレンドする樹脂ペレットを、使用する樹脂の中で最も高い融点を有するポリエステル樹脂の融点よりも5~40℃高い温度(約200~300℃)で加熱溶融する。次に、ブレンドした樹脂を押出機のTダイからキャスティングロール上に押し出し、冷却固化してフィルムとする。
【0042】
上記のような製造方法により得られた本実施形態の熱可塑性樹脂フィルムは、上述したように、前記ポリオレフィン樹脂成分が、前記熱可塑性ポリエステル樹脂成分中において、フィルム押出方向に平均長さ5μm~300μm、フィルム厚さ方向に平均長さ0.2μm~5μm、且つアスペクト比が8以上の繊維状に分散されていることを特徴とする。
このようなポリオレフィン樹脂の形状及び分散状態は、以下のようにして実現される。すなわち、フィルム製造時に、ブレンドされた溶融樹脂を、Q/N=0.1~2.0の条件で混練し、予め計算されたリップの開度に調整されたTダイから所定の量の樹脂を吐出させ、キャスティングロールでの引取り速度を適宜調節することにより、ポリオレフィン樹脂が繊維状に引き延ばされた状態とすることが可能となる。なお、上記においてQは樹脂吐出量(kg/h)と、Nは押出機スクリュー回転数(rpm)を意味する。このようにして、ポリオレフィン樹脂を、上記した形状及びサイズで、ポリエステル樹脂中に分散させることが可能となった。
【0043】
なお、本実施形態の熱可塑性樹脂フィルム製造工程において、加熱溶融樹脂が押出機のTダイから吐出された直後(フローダウン時の膜)の状態では、ポリオレフィン樹脂成分は、図1(c)(d)に示されるように、粒状に分散していることが好ましい。これは、溶融樹脂がTダイから吐出された直後は、フィルムを引き延ばす力が付与されていないためである。
なお、図1(c)(d)に示されるポリオレフィン樹脂成分の平均粒径は、2μm~10μmであることが好ましい。
【0044】
[熱可塑性樹脂被覆金属板]
次に、本実施形態における熱可塑性樹脂被覆金属板20について説明する。
図4(a)に示すように、本実施形態の熱可塑性樹脂被覆金属板20は、金属板100の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層200を有する。そして、前記熱可塑性樹脂層200は、上述したブレンド樹脂層Aを含むことを特徴とする。なお図3と同様に、この図4における熱可塑性樹脂層200のフィルム厚さ(フィルムの合計厚さ)Tを5μm~200μmとすることが、上記した成形性等の観点からは好ましい。換言すれば、熱可塑性樹脂層200がブレンド樹脂層Aの単層構成である場合にはそのフィルム厚さTが5μm~200μmであり、熱可塑性樹脂層200が多層構成である場合にはトータル膜厚としてのフィルム厚さTが5μm~200μmであるとよいと言える。
【0045】
すなわち、本実施形態における熱可塑性樹脂被覆金属板20は、図4(a)に示すように、金属板100の少なくとも片面に、単層からなる熱可塑性樹脂層を有していてもよい。また、図4(b)に示すように、2層からなる熱可塑性樹脂層を有していてもよい。さらには、図示はしないが、3層以上からなる熱可塑性樹脂層を有していてもよい。
【0046】
本実施形態における熱可塑性樹脂被覆金属板20が2層からなる熱可塑性樹脂層を有する場合には、図4(b)-1に示すように、上記したブレンド樹脂層Aを上層(金属板100と接しない層)、前記ブレンド樹脂とは別の種類の熱可塑性ポリエステル樹脂層を下層(金属板100と接する層)としてもよい。また図4(b)-2に示すように、前記ブレンド樹脂とは別の種類の熱可塑性ポリエステル樹脂層を上層とし、前記ブレンド樹脂層Aを下層としてもよい。
【0047】
また、本実施形態における熱可塑性樹脂被覆金属板20が3層からなる熱可塑性樹脂層を有する場合には、図示はしないが、上記したブレンド樹脂層Aを上層としてもよいし、下層(金属板100と接する層)としてもよいし、芯層(上層と下層に挟まれる層)としてもよい。
【0048】
本実施形態における熱可塑性樹脂被覆金属板において、使用される金属板100としては、通常の金属缶等の容器に使用される公知の金属板を使用することが可能であり、特に制限されるものではない。例えば好ましく使用される金属板として、表面処理鋼板や、アルミニウム板及びアルミニウム合金板等の軽金属板を使用することができる。
【0049】
表面処理鋼板としては、アルミキルド鋼や低炭素鋼等が使用できる。例えば、冷延鋼板を焼鈍した後に二次冷間圧延し、錫めっき、ニッケルめっき、亜鉛めっき、電解クロム酸処理、クロム酸処理、アルミやジルコニウムを用いたノンクロム処理などの、一種または二種以上を行ったものを用いることができる。
軽金属板としては、アルミニウム板およびアルミニウム合金板が使用される。アルミニウム合金板としては、金属缶体用としては、例えば、JISA3000系(Al-Mn系)を使用することができる。また、缶蓋用としては、例えば、JISA5000系(Al-Mg系)を使用することができる。
なお、金属板の厚みは、使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0050】
本実施形態の熱可塑性樹脂被覆金属板において、熱可塑性樹脂層200の厚みTを5μm~200μmとすることが容器の成形性等の観点からは好ましい。
【0051】
本実施形態の熱可塑性樹脂被覆金属板の製造方法について以下に説明する。本実施形態の熱可塑性樹脂被覆金属板は、例えば以下に記載するような公知の方法により製造することができる。
すなわち、図4(a)に示すような単層の樹脂層を有する熱可塑性樹脂被覆金属板は、以下のような手順により製造される。
【0052】
まず、ブレンドする樹脂ペレットを計量混合機にて所定の配合にブレンドし、押出機に搬送する。押出機にて使用する樹脂の中で最も高い融点を有するポリエステル樹脂の融点よりも5~40℃高い温度(約200~300℃)で加熱溶融させ、Tダイから冷却ロールを介して、直接、アンコイラーから解き戻された長尺帯状の金属板上に押し出す。圧着ロールで樹脂を金属板に押しつけた後、直ちに水中で急冷して熱可塑性樹脂被覆金属板を作製する。
【0053】
図4(b)に示すような複層の樹脂層を有する熱可塑性樹脂被覆金属板は、以下のように製造される。ブレンド樹脂と、前記ブレンド樹脂とは別の種類の樹脂とを、それぞれ別の押出機で加熱溶融したのち、複数のダイノズルを有するTダイから冷却ロールを介して、直接、アンコイラーから解き戻された長尺帯状の金属板上に共押し出しする。そして、圧着ロールで複層となった樹脂を金属板に押しつけた後、直ちに水中で急冷して熱可塑性樹脂被覆金属板を作製する。
【0054】
上記は、樹脂を溶融した状態で直接金属板に押し出してラミネートする方法を記載したが、上述した熱可塑性樹脂フィルムを金属板に熱融着して熱可塑性樹脂被覆金属板を製造してもよい。この場合、製造したフィルムを、公知のラミネーターを用い、加熱された長尺帯状の金属板に当接し、1対のラミネートロールで挟み付けて圧着し、直ちに水中で急冷して熱可塑性樹脂被覆金属板を作製する。
【0055】
又は、上述した熱可塑性樹脂フィルムを、接着剤を介して金属板に積層してもよい。この場合接着剤としては、一般的な接着剤を使用することができる。例えば、ポリエステル系エマルジョン型接着剤、ポリエステルウレタン樹脂系エマルジョン型接着剤、エポキシ-フェノール樹脂系熱硬化型接着剤、などを挙げることができる。
【0056】
[熱可塑性樹脂被覆金属容器]
次に、本実施形態における熱可塑性樹脂被覆金属容器について説明する。本実施形態において、金属容器としては、食缶や飲料缶に用いられる缶体、及び、缶蓋、を含むものとする。
本実施形態の熱可塑性樹脂被覆金属容器は、その内面側に、熱可塑性ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂とをブレンドした樹脂(ブレンド樹脂)からなる樹脂層を有することを特徴とする。なお、前記ブレンド樹脂の構成については既に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0057】
本実施形態の熱可塑性樹脂被覆金属容器においては、成形後にポリエステル樹脂の融点±30℃の温度で0.5~5分程度の熱処理を行ってもよく、その場合は前記ポリオレフィン樹脂成分が、前記熱可塑性ポリエステル樹脂成分中において、平均粒径2~10μmの粒状に分散していることを特徴とする。この成形後に行う熱処理はフィルムの密着力を回復させる手段として有効だが、用途によっては行わなくてもよい。
【0058】
すなわち、上述したとおり、本実施形態の熱可塑性樹脂フィルム及び熱可塑性樹脂被覆金属板においては、ブレンド樹脂中に含まれるポリオレフィン樹脂成分が特定の大きさ・形状で繊維状に分散されていることを特徴とする。具体的には、分散されたポリオレフィン樹脂のサイズが、フィルムの押出方向において平均長さ5μm~300μm、フィルムの厚さ方向において平均長さ0.2μm~5μmであることを特徴とする。さらには、アスペクト比が8以上であることを特徴とする。
【0059】
一方で、金属容器の成形後における熱処理工程により、熱可塑性樹脂層には軟化点以上の熱が与えられる場合がある。その場合は繊維状に分散されたポリオレフィン樹脂のサイズ及び形状は、その熱により変化する。具体的には、フィルム製造の際に加熱溶融樹脂をTダイから吐出した直後(フローダウン時の膜)におけるサイズ及び形状に戻ると考えられる。
【0060】
本実施形態の熱可塑性樹脂フィルム及び熱可塑性樹脂被覆金属板において、ポリオレフィン樹脂が粗大なサイズで繊維状に分散している理由としては、ポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂との界面の表面積を増加させ、厳しい製缶加工時の両樹脂の密着性の問題を解決するためである。また、本実施形態によれば、容器製造ラインにおけるトリミング性の問題をも解決し得る。
【0061】
しかしながら、金属容器の成形後における熱処理工程は、絞りしごき加工等の厳しい成形加工及びトリム工程を経た後であるため、熱処理を受けた後の金属容器には成形性、及びトリミング性は必要とされない。すなわち、金属容器の成形後に熱処理を受けた後にあっては、ポリオレフィン樹脂の分散形状が繊維状となっている必要はない。
【0062】
一方で、金属容器の成形後に熱処理を受けた後においては、ポリオレフィン樹脂が熱可塑性ポリエステル樹脂中に、結果的に平均粒径2~10μmの粒状で分散されている。これは繊維状に分散していたポリオレフィン樹脂が熱処理によって粒状(フローダウン時の膜で確認される状態)に戻るためである。
なお、本実施形態において、上記した「平均粒径」は以下のように定義される。すなわち、フィルムの押出方向(MD)及び押出方向と直角の方向(TD)の任意の断面を鋭利な刃物で切り出した後、透過型電子顕微鏡(TEM)もしくは走査型電子顕微鏡(SEM)で断面を押出方向及び押出方向と直角の方向にそれぞれ任意の箇所を1mm観察し、ポリオレフィン樹脂部分の長さを、長い順に3点測定し、その平均値を「平均長さ」とする。 その際、フィルムの押出方向の平均長さを「a」、フィルムの押出方向と直角の方向の断面で観察されるフィルム厚さ方向の平均長さを「b」とする。平均粒径=(a+b)/2(μm)の値を採用した。
なお、金属容器の成形後に熱処理を受けた後のポリオレフィン樹脂のアスペクト比としては、上記のようにして得られた2種類の平均長さ「a」及び「b」を用い、a÷bの値を「アスペクト比」とした場合、1~3程度となるが、特にこの値に制限されるものではない。
【0063】
なお、本実施形態の熱可塑性樹脂被覆金属容器の製造方法は、公知の方法を適用することができる。公知の方法としては例えば、絞り成形、絞りしごき成形、ストレッチドローアイアニング成形、等挙げられる。
缶蓋としては、いわゆるステイオンタブタイプの飲料缶蓋やフルオープンタイプのイージーオープン缶蓋が挙げられる。または、3ピース缶の天地蓋を挙げることもできる。これらの缶蓋も、公知の方法により製造することができる。
【実施例
【0064】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
[熱可塑性樹脂フィルムの作製]
熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート(ホモポリマー)、ポリオレフィン樹脂成分として、無極性のエチレン-プロピレン(PE-PP)共重合体を準備した。表1に示す割合で両成分の樹脂ペレットを混合し、この混合チップを押出機に投入して溶融し混練した。
【0066】
混練条件は、混練温度260℃、吐出量Q(kg/h)と押出機スクリュー回転数N(rpm)の比はQ/N=0.4、押出機内での滞留時間は20分とした。
このように加熱溶融したブレンド樹脂を押出機のTダイからキャスティングロール上にフィルム厚さ20μmとなるように押し出し、冷却固化して、単層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
得られたフィルムに対して、ポリオレフィン樹脂成分の分散径(フィルムの押出方向の平均長さ「a」及びフィルムの厚さ方向の平均長さ「b」)の測定及びアスペクト比の算出を行った。具体的には、フィルムの押出方向及び押出方向と直角の方向の任意の断面を鋭利な刃物で切り出した後、透過型電子顕微鏡(TEM)で断面を押出方向及び押出方向と直角の方向にそれぞれ任意の箇所を1mm観察し、ポリオレフィン樹脂部分の長さを、長い順に3点測定し、その平均値を「平均長さ」とした。 その際、フィルムの押出方向の平均長さを「a」、フィルムの押出方向と直角の方向の断面で観察されるフィルム厚さ方向の平均長さを「b」とし、a÷bの値を「アスペクト比」とした。なお、実施例1において、a=80μm、b=1.5μm、アスペクト比=53.3であった。
得られた値を表1に示す。また、実施例1におけるフィルム断面状態を示す写真を図5に示す。さらに図6には、図5に示した写真をトレースした模式図を示す。すなわち図6においては、図5の写真に基づいて、フィルム断面における熱可塑性ポリエステル樹脂成分α中のポリオレフィン樹脂成分βの形状及び分散状態が模式的に示されている。
【0067】
[耐衝撃性の評価]
上記のようにして得られた熱可塑性樹脂フィルムを、樹脂融点+30℃の温度で加熱した板厚0.225mmのティンフリースチール(TFS)に当接し、一対のラミネートロールで挟み付けて圧着し、直ちに水中で急冷して熱可塑性樹脂被覆金属板を得た。
【0068】
次いで、ブレンド樹脂層が内面側となるように、絞り-再絞り(Draw and Redraw)成形により絞り比2.3のカップに成形した。得られたカップの上端部まで水を入れ、125℃にて45分間のレトルト処理を実施した。
【0069】
カップ胴部を金切りバサミで切り開いて平板状とした後、カップの底から40mmの高さに相当する位置にデュポン衝撃試験機を用いて高さ50mmから172gのおもりをポンチ(先端R=0.5mm)に落下させ、カップの外面側からデントを付与した。なお、デントの付与位置としては、板の圧延方向(0°方向)、圧延方向から45°の方向、圧延方向から直角の方向(90°方向)の3箇所に付与した。
【0070】
そして、デント部のカップ内面側でERV(Enamel Rater Value)を測定した。測定には、指定の電解液(1%NaCl+界面活性剤(ラピゾール、日本油脂製)・200mg/L)を2:1の割合にてエタノールで希釈した液を使用し、デント部を電解液に浸漬させた後に6.3Vの電圧を印可し、開始から4秒後の電流値を測定した。
【0071】
得られた3箇所(圧延0°、45°、90°方向)のERVの平均値から、以下の基準で耐衝撃性を評価した。
◎・・・0.005mA以下
○・・・0.005mAを超え0.05mA以下
△・・・0.05mAを超え0.5mA以下
×・・・0.5mAを超えるもの
得られた結果を表1に示す。
【0072】
[成形性及びトリミング性の評価]
上記と同様にして得られた熱可塑性樹脂被覆金属板に、パラフィンワックスを片面50mg/mずつ両面に塗布した。次いで、Φ151mmで打ち抜き、ブレンド樹脂層が内面側となるようにして、1stカップに成形した。成形した1stカップをB/M(Body Maker)にてリダクション率50%の絞りしごき(DI)缶に、200cpmの速度で100缶連続製缶した。この製缶後の缶開口端部は高さが缶周方向で異なり、缶高さを一定にする必要があるため、トリムカッターにより開口端不要部をトリミングし、缶径Φ66mm×高さ102mmの7号缶を作製した。成形性(内面フィルム削れの有無の目視による確認)、及びトリミング性(フィルムの切断不良による開口端不要部の切れ残りの有無の目視による確認)の評価を行った。
【0073】
上記成形性及びトリミング性を以下の基準で評価した。
○・・・成形性、トリミング性共に実機生産が可能なレベル(内面フィルム削れが無く、かつ、フィルムの切断不良による開口端不要部の切れ残りが無い)。
△・・・成形性は問題無かったが、トリミング性が不良(フィルムの切断不良による開口端不要部の切れ残り有り)。
×・・・成形性が不良(内面フィルム削れ有り)。
得られた結果を表1に示す。
【0074】
[製缶後の密着性の評価]
上記と同様にして得られた熱可塑性樹脂被覆金属板に、ブレンド樹脂層が内面側となるように、絞り-再絞り(Draw and Redraw)成形を施して、絞り比2.3のカップに成形した。成形したカップの側壁部を図7(a)に示す位置及び寸法でT字形に切り出した後、図7(b)に示す180°ピール試験で15mm幅のフィルムのピール強度を測定した。測定には引張試験機を用い、常温で5mm/minの引張速度で測定した。
【0075】
また、180°ピール試験の結果から製缶後の密着性を以下の基準で評価した。
◎・・・引張試験機による最大引張強度が6N/15mm以上
○・・・引張試験機による最大引張強度が3N/15mm以上6N/15mm未満
△・・・引張試験機による最大引張強度が1N/15mm以上3N/15mm未満
×・・・引張試験機による最大引張強度が1N/15mm未満
評価結果を表1に示す。
【0076】
[生産性の評価]
上記熱可塑性樹脂フィルム作製時の連続操業性及び品質安定性を、生産性として評価した。
具体的には、押出機にて加熱溶融したブレンド樹脂を吐出量80kg/hで押し出し、濾過精度20μmの不織布タイプの樹脂フィルター(長瀬産業(株)製「F020」フィルター)を通過させた際に、24時間の連続操業において、フィルター差圧の上昇の有無を確認した。ブレンド樹脂がゲル化する場合にはフィルター内で目詰まりを引き起こし、フィルター差圧は徐々に上昇する。
さらに、フィルターを通過したブレンド樹脂を1500mm幅のTダイから吐出させ、キャスティングロール上で冷却しフィルムとして巻き取る一連の工程において、キャスティングロールの引取り速度を50mpmから段階的に100mpmまで上げていき、キャスティングロール上の膜の耳揺れの有無を確認した。ブレンド樹脂の溶融張力が低い場合には速度を上げるほど耳揺れが大きくなり、膜厚変動を引き起こす。
【0077】
以上の観点から、生産性は以下の基準で評価した。
○・・・フィルター差圧の上昇が0.5MPa以下であり、且つ、引取り速度100mpmでキャスティングロール上の耳揺れが小さく、連続生産が可能な状態の場合。
△・・・フィルター差圧の上昇が0.5MPaを超えた、もしくは引取り速度100mpmでキャスティングロール上の耳揺れが大きく連続生産が困難な状態の場合。
×・・・フィルター差圧の上昇が0.5MPaを超えており、且つ、引取り速度100mpmでキャスティングロール上の耳揺れが大きく連続生産が困難な場合。
結果を表1に示す。
【0078】
(実施例2)
熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)を使用した以外は、実施例1と同様にして単層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価についても実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0079】
(実施例3)
熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)とポリブチレンテレフタレート(ホモポリマー)を6:4の割合でブレンドした樹脂を使用した以外は、実施例1と同様にして単層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価についても実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0080】
(実施例4)
熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリブチレンテレフタレート(ホモポリマー)、ポリオレフィン樹脂成分として無極性のエチレン-プロピレン(PE-PP)共重合体を準備した。表1に示す割合で両成分の樹脂ペレットを混合し、この混合チップを押出機に投入して溶融し混練した。混練条件は、混練温度250℃、吐出量Q(kg/h)と押出機スクリュー回転数N(rpm)の比はQ/N=1.8、押出機内での滞留時間は20分とした。
【0081】
同時に、別の押出機でポリエチレンテレフタレート(ホモポリマー)を加熱溶融したのち、2つの流路を有するTダイから、ブレンド樹脂層の表層にPETホモポリマーが積層されるように、2種類の加熱溶融樹脂をキャスティングロール上に押し出した。厚みは、表層(PET)が15μm、ブレンド樹脂層が5μmとなるようにした。
【0082】
次いで、押し出した樹脂を直ちに冷却固化して、2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
得られたフィルムに対して、ポリオレフィン樹脂成分の分散径の測定及びアスペクト比の算出を行った。具体的には、フィルムの押出方向及び押出方向と直角の方向の任意の断面を鋭利な刃物で切り出した後、透過型電子顕微鏡(TEM)で断面を押出方向及び押出方向と直角の方向にそれぞれ任意の箇所を1mm観察し、ポリオレフィン樹脂部分の長さを、長い順に3点測定し、その平均値を「平均長さ」とした。 その際、フィルムの押出方向の平均長さを「a」、フィルムの押出方向と直角の方向の断面で観察されるフィルム厚さ方向の平均長さを「b」とし、a÷bの値を「アスペクト比」とした。なお、実施例4において、a=24μm、b=3.0μm、アスペクト比=8であった。
得られた値を表1に示す。また、実施例4におけるフィルム断面状態を示す写真を図8に示す。さらに図9には、図8に示した写真をトレースした模式図を示す。すなわち図9においては、図8の写真に基づいて、フィルム断面における熱可塑性ポリエステル樹脂成分α中のポリオレフィン樹脂成分βの形状及び分散状態が模式的に示されている。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0083】
(実施例5)
ブレンド樹脂の熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンナフタレート(ホモポリマー)を表1に示す割合で使用し、混練温度を280℃、Q/N=0.5としたこと、下層としてポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を15mol%共重合)を15μm積層した以外は、実施例4と同様にして2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0084】
(実施例6)
ブレンド樹脂の熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を15mol%共重合)を表1に示す割合で使用し、混練温度を260℃、Q/N=0.4とした。また、ブレンド樹脂層の表層としてポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)を積層した。フィルムの厚みは、表層(PET/IA2)が5μm、ブレンド樹脂層が15μmとなるようにした。それ以外は、実施例4と同様にして2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0085】
(実施例7)
ブレンド樹脂の熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)とポリブチレンテレフタレート(ホモポリマー)を7:3の割合でブレンドした樹脂を表1に示す割合で使用し、混練温度を260℃、Q/N=0.7とした。
また、ブレンド樹脂層の表層としてポリエチレンテレフタレート(ホモポリマー)を積層した。フィルムの厚みは、表層(PET)が4μm、ブレンド樹脂層が16μmとなるようにした。それ以外は、実施例4と同様にして2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0086】
(実施例8)
ブレンド樹脂の熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート(ホモポリマー)を表1に示す割合で使用し、混練温度を270℃、Q/N=1.0とした。
また、ブレンド樹脂層の表層として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)を使用した。
フィルムの厚みは、表層(PET/IA2)が15μm、ブレンド樹脂層が5μmとなるようにした。それ以外は、実施例4と同様にして2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0087】
(実施例9)
ブレンド樹脂の熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)を表1に示す割合で使用し、混練温度を260℃、Q/N=0.6とした。
また、ブレンド樹脂層の表層として、ポリエチレンナフタレート(PEN)を使用した。
フィルムの厚みは、表層(PEN)が2μm、ブレンド樹脂層が18μmとなるようにした。それ以外は、実施例4と同様にして2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0088】
(実施例10)
ブレンド樹脂におけるポリオレフィン樹脂成分の配合量を表1に示す割合とし、混練温度を250℃、Q/N=1.0とした。またブレンド樹脂層の下層として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を15mol%共重合)を使用した。
フィルムの厚みは、ブレンド樹脂層が16μm、下層(PET/IA15)が4μmとなるようにした。それ以外は、実施例9と同様にして2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0089】
(実施例11)
ブレンド樹脂の熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)を使用した。また、側鎖にエステルを含む官能基を有するポリオレフィン樹脂成分として、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体を準備した。
表1に示す割合で両成分の樹脂ペレットを混合し、この混合チップを押出機に投入して溶融し混練した。混練条件は、混練温度260℃、吐出量Q(kg/h)と押出機スクリュー回転数N(rpm)の比はQ/N=0.8、押出機内での滞留時間は20分とした。
【0090】
同時に、別の押出機でポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)を加熱溶融したのち、2つのダイノズルを有するTダイから、ブレンド樹脂層の表層にPET/IA2ポリマーが積層されるように、2種類の加熱溶融樹脂をキャスティングロール上に押し出した。厚みは、表層(PET/IA2)が4μm、ブレンド樹脂層が16μmとなるようにした。
【0091】
次いで、押し出した樹脂を直ちに冷却固化して、2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0092】
(実施例12)
ブレンド樹脂の熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)を使用した。また、側鎖にエステルを含む官能基を有するポリオレフィン樹脂成分として、エチレン-アクリル酸エチル共重合体を表1に示す割合で使用した。
フィルムの厚みを、表層(PET/IA2)が8μm、ブレンド樹脂層が12μmとなるようにした以外は、実施例11と同様にして2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0093】
(実施例13)
ブレンド樹脂のポリオレフィン樹脂成分として、無極性の直鎖状低密度ポリエチレン(「メタロセン触媒PE」とも称する。)を表1に示す割合で使用した。また、ブレンド樹脂層の表層として、ポリエチレンテレフタレート(ホモポリマー)を使用した。それ以外は実施例11と同様にして2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0094】
(実施例14)
ブレンド樹脂のポリオレフィン樹脂成分である直鎖状低密度ポリエチレンの配合量(表1に示す)以外は、実施例13と同様にして2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0095】
(実施例15)
ブレンド樹脂の熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)とポリエチレンナフタレート(ホモポリマー)を7:3の割合でブレンドした樹脂を使用した。ポリオレフィン樹脂成分として無極性のブロックポリプロピレンを表1に示す割合で使用した。それ以外は実施例1と同様にして単層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価についても実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0096】
(実施例16)
ブレンド樹脂の熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)を使用した。また、ポリオレフィン樹脂成分として無極性のブロックポリプロピレンを準備した。
表1に示す割合で両成分の樹脂ペレットを混合し、この混合チップを押出機に投入して溶融し混練した。混練条件は、混練温度260℃、吐出量Q(kg/h)と押出機スクリュー回転数N(rpm)の比はQ/N=0.8、押出機内での滞留時間は20分とした。
【0097】
同時に、別の押出機でポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)、及び、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を15mol%共重合)を加熱溶融した。3つの流路を有するTダイから、ブレンド樹脂の表層にPET/IA2ポリマー、ブレンド樹脂の下層にPET/IA15ポリマーが積層されるように、3種類の加熱溶融樹脂をキャスティングロール上に押し出した。厚みは、表層(PET/IA2)が5μm、ブレンド樹脂層が10μm、下層(PET/IA15)が5μm、となるようにして3層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0098】
(実施例17)
ブレンド樹脂の熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)とポリブチレンテレフタレート(ホモポリマー)を9:1の割合でブレンドした樹脂を表1に示す割合で使用し、混練温度を250℃、Q/N=0.2とした。それ以外は、実施例1と同様にして単層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0099】
(実施例18)
ブレンド樹脂の熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)とポリブチレンテレフタレート(ホモポリマー)を19:1の割合でブレンドした樹脂を表1に示す割合で使用した以外は、実施例17と同様にして単層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0100】
(比較例1)
ブレンド樹脂層が無い2層の熱可塑性樹脂フィルムであり、樹脂を押し出した表層は、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)を使用し、下層は、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を15mol%共重合)を使用した。フィルム厚みは、表層が11μm、下層が9μmとなるようにした。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表2に示す。
【0101】
(比較例2)
ブレンド樹脂の熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を5mol%共重合)を使用した。ポリオレフィン樹脂成分として、極性基を有するアイオノマー(三井デュポン社製、商品名「ハイミラン」)を表2に示す割合で使用した。混練条件は、混練温度265℃、Q/N=0.8とした。
また、ブレンド樹脂層の表層として、ポリエチレンテレフタレート(ホモポリマー)を使用した。フィルム厚みは、表層が4μm、ブレンド樹脂層が16μmとなるようにした。それ以外は、実施例4と同様にして2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表2に示す。
【0102】
(比較例3)
ブレンド樹脂のポリオレフィン樹脂成分であるPE-PP共重合体の配合量を表2に示すように変更した以外は、実施例2と同様にして単層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表2に示す。
【0103】
(比較例4)
ブレンド樹脂の熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)とポリブチレンテレフタレート(ホモポリマー)を6:4の割合でブレンドした樹脂を表2に示す割合で使用した。混練条件は、混練温度260℃、Q/N=0.2とした。
また、ブレンド樹脂層の表層としてポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)を積層した。
それ以外は実施例7と同様にして2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表2に示す。
【0104】
(比較例5)
ブレンド樹脂において、ポリオレフィン樹脂成分であるPE-PP共重合体の配合量を表2に示すとおり変更した以外は、実施例10と同様にして2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表2に示す。
【0105】
(比較例6)
ブレンド樹脂において、熱可塑性ポリエステル樹脂成分として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(イソフタル酸を2mol%共重合)を使用した。ポリオレフィン樹脂成分の配合量は、表2に示す値とした。
また、ブレンド樹脂層の表層としてポリエチレンテレフタレート(ホモポリマー)を積層した。フィルムの厚みは、表層(PET)が10μm、ブレンド樹脂層が10μmとなるようにした。それ以外は、実施例4と同様にして2層の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、の各評価については実施例1と同様に行った。得られた結果を表2に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
表1及び表2によれば、本実施形態における熱可塑性樹脂フィルム、熱可塑性樹脂被覆金属板、及び熱可塑性樹脂被覆金属容器は、耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性及び生産性のいずれにも優れることが明らかである。
【0109】
比較例1は、ポリエステル樹脂にポリオレフィン樹脂成分が含まれていない場合を示す例である。比較例1によれば、耐衝撃性が不十分である結果、容器製造ラインにおけるビード成形や内容物充填後に発生する可能性のある缶の変形などにより、フィルムが割れる可能性があるため、耐衝撃性において好ましくない結果となった。また、繊維状に分散したポリオレフィン樹脂が存在しないため、フィルムが切れ難く、成形後に行うトリミング工程でフィルム切断不良により開口端不要部が切れ残るトリミング不良が発生する結果となった。
【0110】
比較例2は、ブレンド樹脂のポリオレフィン樹脂成分として、極性基を有する樹脂をブレンドした場合を示す例である。比較例2によれば、ポリオレフィン樹脂が熱可塑性ポリエステル樹脂と反応するため、優れた耐衝撃性及び成形性を示す。
しかしながら、樹脂フィルムの成膜時に反応生成物を生じ、重大な品質欠陥及び歩留まりの低下を引き起こす可能性がある。そのため、生産性において好ましくない結果となった。
【0111】
比較例3及び比較例4は、熱可塑性ポリエステル樹脂中に繊維状に分散されるポリオレフィン樹脂成分のアスペクト比が8未満である場合を示す例である。比較例3及び比較例4によれば、熱可塑性ポリエステル樹脂におけるポリオレフィン樹脂の表面積が少ないため、両樹脂の界面接着力が不足する。そのため、絞りしごき成形時にフィルム削れが発生してしまい、成形性において好ましくない結果となった。
【0112】
比較例5は、ブレンド樹脂におけるポリオレフィン樹脂の配合量が少ない場合を示す例である。
比較例5によれば、ブレンド樹脂におけるポリオレフィン樹脂の配合量が3wt%未満であるため、耐衝撃性において好ましくない結果となった。
【0113】
比較例6は、ブレンド樹脂におけるポリオレフィン樹脂の配合量が多い場合を示す例である。
比較例6によれば、ブレンド樹脂におけるポリオレフィン樹脂の配合量が30wt%を超えており、絞りしごき成形時にフィルム削れが発生してしまい、成形性において好ましくない結果となった。
【0114】
(実施例19~26)
[熱処理前後のポリオレフィン樹脂の分散状態の観察]
実施例1~6及び実施例16、実施例17において得られた熱可塑性樹脂被覆金属板を用いて缶体(絞り比2.3の絞り-再絞りカップ)を作製した。
次いで、表3に示す条件において熱処理を施した。熱処理の温度は、ブレンド樹脂のポリエステル樹脂成分の融点±30℃の範囲となるようにした。ポリエステル樹脂成分が2種類である場合には、高融点の樹脂の融点±30℃の範囲となるようにした。
【0115】
熱処理前後の容器を用いて底面(平坦部)内面側の樹脂層におけるポリオレフィン樹脂の分散径の測定及びアスペクト比及び平均粒径を算出した。具体的には、フィルムの押出方向及び押出方向と直角の方向の任意の断面を鋭利な刃物で切り出した後、透過型電子顕微鏡(TEM)で断面を押出方向及び押出方向と直角の方向にそれぞれ任意の箇所を1mm観察し、ポリオレフィン樹脂部分の長さを、長い順に3点測定し、その平均値を「平均長さ」とした。 その際、フィルムの押出方向の平均長さを「a」、フィルムの押出方向と直角の方向の断面で観察されるフィルム厚さ方向の平均長さを「b」とし、a÷bの値を「アスペクト比」とした。
【0116】
TEMによる樹脂層断面の観察により、ポリオレフィン樹脂は、熱処理前はアスペクト比8以上の繊維状に分散していた一方で、熱処理後は平均粒径が2~10μmの粒状に分散していることが確認できた。得られたポリオレフィン樹脂の平均粒径を表3に示す。
また、熱処理後の缶体に関しても、実施例1と同様の方法で耐衝撃性及び製缶後の密着性についての評価を行った。その結果を表3に示す。また、実施例24における熱処理前後のフィルム断面状態の写真を図10に示す。さらに図11には、図10に示した写真をトレースした模式図を示す。すなわち図11においては、図10の写真に基づいて熱可塑性ポリエステル樹脂成分α中のポリオレフィン樹脂成分βの形状及び分散状態が模式的に示されている。
【0117】
【表3】
【0118】
実施例19~実施例26の結果によれば、熱可塑性樹脂被覆金属板に熱処理を施すことにより、樹脂中に分散しているポリオレフィン樹脂が、繊維状から粒状に形状が変化することが確認できた。粒状となることにより、ポリオレフィン樹脂の表面積が減少するため、熱可塑性ポリエステル樹脂成分とポリオレフィン樹脂成分との界面接着力は低下すると考えられる。
しかしながら、既に容器成形後の状態であるため、成形性に関する問題発生の心配はない。また、耐衝撃性及び密着性は、ポリオレフィン樹脂成分の形状変化により低下することはないことは、表3に示す結果より明らかである。
【0119】
缶体の成形後に、樹脂融点±30℃の温度で熱処理を行うことは、成形後のフィルムの密着性改善のための公知の手法である。
上記実施例19~実施例26の結果によれば、熱処理によりポリオレフィン樹脂成分の分散状態が繊維状から粒状に変化するが、缶体としての特性には影響を与えず、実用可能であることが確認できた。
すなわち、ポリオレフィン樹脂が繊維状に分散している必要があるのは、缶体の成形前までであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、耐衝撃性、成形性及びトリミング性、製缶後の密着性、生産性、等を兼ね備えた熱可塑性樹脂フィルム、熱可塑性樹脂被覆金属板、及びそれらを使用した金属容器を提供することができる。
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムや熱可塑性樹脂被覆金属板は、飲料缶や食品缶のみならず、角形缶、一斗缶、ドラム缶、パウチ、バッテリー用などの金属ケース、あるいは建築物や自動車の外壁等に適用することも可能であり、産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0121】
10 多層フィルム
20 熱可塑性樹脂被覆金属板
100 金属板
200 熱可塑性樹脂層
A ブレンド樹脂層
α 熱可塑性ポリエステル樹脂成分
β ポリオレフィン樹脂成分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11