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▶ サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】新しい二相ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230817BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230817BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
C22C38/00 302H
C22C38/58
C21D8/00 E
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020543555
(86)(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 EP2019053735
(87)【国際公開番号】W WO2019158663
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】18157043.3
(32)【優先日】2018-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アントンソン, トマス
(72)【発明者】
【氏名】ニーレフ, ラーシュ
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-107909(JP,A)
【文献】特表平08-511829(JP,A)
【文献】特表2003-502506(JP,A)
【文献】特表2014-532811(JP,A)
【文献】特表2005-520934(JP,A)
【文献】特表2008-519165(JP,A)
【文献】特表2003-503596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二相ステンレス鋼であって、重量%(wt%)で、
C 0.03未満;
Si 0.60未満;
Mn 0.40から2.00;
P 0.04未満;
S 0.01以下;
Cr 30.0超から33.00;
Ni 6.50から9.50
Mo 1.30から2.90;
N 0.15から0.28;
Cu 1.10から1.90
Al 0.05未満;
加工性を改善するための、合計で0.05重量%未満の、Ca、Mg、B、及びCeから選択される1つ以上の合金元素;
残部のFe及び不可避不純物
からなり、
フェライト含有量が40から70体積%であり、残部がオーステナイトであり、
G48A法によって決定される、50℃以上65℃以下のCPTを有し、
ASTM A-370規格によって決定される、610MPaを超える降伏強度Rp0.2を有する、二相ステンレス鋼。
【請求項2】
前記二相ステンレス鋼が36以上のPREを有し、PRE=重量%Cr+3.3*重量%Moである、請求項1に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項3】
Alの含有量が0.03重量%未満である、請求項1又は請求項2に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項4】
Siの含有量が0.30重量%未満である、請求項1から3のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項5】
Mnの含有量が0.60~1.80重量%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項6】
Nの含有量が0.17~0.25重量%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項7】
Crの含有量が30.50~32.50重量%である、請求項1からのいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項8】
Moの含有量が1.35~2.90重量%である、請求項1から7のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項9】
請求項1からのいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼を含む構成要素を製造するための方法であって、
- 請求項1からのいずれか一項に記載の合金組成物を含む溶融物を提供すること;
- 溶融物を物体へと鋳造すること;
- 物体を任意選択的に熱処理すること;
- 物体を構成要素へと熱間加工すること;
- 構成要素を熱処理すること;
- 構成要素を任意選択的に冷間加工すること;
- 構成要素を任意選択的に熱処理すること;
の各工程を含み、
熱間加工と任意選択的な冷間加工との間の熱処理が溶体化熱処理である、
方法。
【請求項10】
請求項1からのいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼を含む構成要素。
【請求項11】
構成要素が、鍛造品、バー、ロッド、プレート、ワイヤ、シート、管、又はパイプである、請求項10に記載の構成要素。
【請求項12】
請求項1からのいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼を含む建築材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、材料が腐食性環境で高応力に曝される用途に適した二相ステンレス鋼に関する。さらには、本開示はまた、二相ステンレス鋼の使用、及び、とりわけオフショア用途での使用に適した、それらの製造された製品にも関する。
【背景技術】
【0002】
多くの用途では、高い機械的特性と優れた耐食性との組合せは、構造部品及び構成要素の設計及び構築にとって重要である。腐食性環境に曝される部品及び構成要素はまた、とりわけ海水用途では、多くの場合、高い応力がかかる。スーパー二相及びハイパー二相ステンレス鋼は、これらの鋼が高い強度を有しているため、特に小さい寸法の構成要素に対し、この問題に対する確立された解決策を提供する。しかしながら、スーパー二相、とりわけハイパー二相ステンレス鋼は、微細構造における金属間相の析出に対して敏感である。これにより、部品及び構成要素の腐食特性及び、衝撃靱性などの機械的特性が低下する。より重い又はより厚いセクションの冷却速度が低いために、金属間相は、通常、ロッド、バー、中空、プレート、及び肉厚のチューブなど、大きい寸法の構成要素が製造又は溶接されるときに形成される。
【0003】
したがって、高強度及び衝撃靭性などの高い機械的特性と、可能な限り良好な耐食性との組合せを提供する、構造部品及び構成要素のための建築材料が必要とされている。このような建築材料は、十分な構造的安定性も備えていなければならず、これは、有害な金属間相を形成せずに、又は本質的に形成せずに、大きい寸法の構成要素の製造の可能性、並びにこれらの構成要素の溶接の可能性を提供しなければならないことを意味している。本開示の目的は、これらの要件を満たす新しい二相ステンレス鋼を提供することである。
【発明の概要】
【0004】
したがって、本開示は、二相ステンレス鋼であって、重量%(wt%)で、
C 0.03未満;
Si 0.60未満;
Mn 0.40から2.00;
P 0.04未満;
S 0.01以下;
Cr 30.0超から33.00;
Ni 6.00から10.00;
Mo 1.30から2.90;
N 0.15から0.28;
Cu 0.60から2.20;
Al 0.05未満;
残部のFe及び不可避不純物
を含む、二相ステンレス鋼を提供する。
【0005】
本発明の鋼は、今日利用可能なハイパー二相ステンレス鋼と比較して、良好な耐食性及び改善された構造的安定性を併せ持つ、非常に高い降伏強度を有している。よって、本発明の二相ステンレス鋼は、海水又は同様の環境などの高応力及び腐食性環境に曝される大きい寸法を有する部品に有利に使用される。さらには、本発明の二相ステンレス鋼は、Moなどの高価な合金元素を比較的少量で含み、したがって、本発明の二相ステンレス鋼は、より低コストで入手可能である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本開示は、二相ステンレス鋼であって、重量%(wt%)で、
C 0.03未満;
Si 0.60未満;
Mn 0.40から2.00;
P 0.04未満;
S 0.01以下;
Cr 30.0超から33.00;
Ni 6.00から10.00;
Mo 1.30から2.90;
N 0.15から0.28;
Cu 0.60から2.20;
Al 0.05未満;
残部のFe及び不可避不純物
を含む、二相ステンレス鋼に関する。
【0007】
上記のように、この二相ステンレス鋼は、高い機械的特性と、非常に高い降伏強度及び高い衝撃靭性、並びに耐孔食性などの良好な腐食特性との一意の組合せを有する。さらには、本発明の二相ステンレス鋼は、例えば、限定はしないが、約250mmまでの直径、例えば約50mmまでの直径、例えば150×50mmなどを有する構成要素など、大きい寸法を有する構成要素に用いられる場合に、溶体化熱処理及びその後の冷却中に少量の金属間相を形成する。溶体化熱処理及びその後の冷却中の金属間相の遅い析出は、本発明の二相ステンレス鋼が安定した微細構造を有することを意味する。したがって、形成される有害な金属間相が少量の場合には、製造された構成要素の最終的な微細構造及び最終的な特性には本質的に影響を与えないであろう。有害な金属間相の一例はシグマ相である。
【0008】
本開示では、二相ステンレス鋼は、フェライト含有量が40から70体積%であり、残部がオーステナイトである、鋼である。
【0009】
本開示による二相ステンレス鋼の特性に対するさまざまな合金元素及びそれらの効果を以下に説明する。効果に関する説明は限定的であると見なされるべきではなく、元素は、本明細書で言及されていない他の効果を提供することもできる。「重量%」、「wt%」、及び「%」という用語は互換的に用いられる:
【0010】
炭素(C):0.03重量%未満
Cは強力なオーステナイト相安定化合金元素である。しかしながら、過剰のCは、炭化クロムの形成に起因して、溶接又は製造中の感受性化のリスクを高め、したがって、耐食性を低下させる。よって、本発明の二相ステンレス鋼のC含有量は0.03重量%未満に設定される。
【0011】
ケイ素(Si):0.60重量%未満
Siは、強力なフェライト相安定化合金元素であり、したがって、所望の二相構造を実現するためには、その含有量は、Cr及びMoなどの他のフェライト形成元素の量に対して調整する必要がある。Siを過剰量で添加すると、フェライト相の形成が高すぎるだけでなく、有害なシグマ相などの金属間析出物の形成もまた高すぎることとなる。これにより、腐食特性と機械的特性の両方が低下する。したがって、Si含有量は、0.30重量%未満など、0.60重量%未満に設定される。
【0012】
マンガン(Mn):0.40から2.00重量%
Mnは、オーステナイト相安定化合金元素であり、これは、高温でのオーステナイト相における窒素(N)の溶解性を促進し、それによって変形硬化を増加させる。Mnは、MnS析出物を形成することによって硫黄(S)の有害な影響をさらに低減し、これにより、本発明の二相ステンレス鋼の熱間延性及び靭性を向上させる。これらの好ましい効果を達成するためには、最低のMn含有量は0.40重量%でなければならない。加えて、Mn含有量が過剰の場合、オーステナイトの量が多くなりすぎることがあり、硬度及び耐食性などのさまざまな機械的特性が低下する可能性がある。また、Mnの含有量が高すぎると、熱間加工特性が低下し、表面品質が損なわれる。したがって、存在することができるMnの最大量は2.00重量%である。よって、Mnの含有量は0.40から2.00重量%である。一実施形態によれば、Mnの含有量は0.60から1.80重量%である。
【0013】
クロム(Cr):30.0超から33.00重量%
Crは、この元素が、必要とされる耐食性及び強度を提供することから、ステンレス鋼の主要な合金元素の1つである。上記又は下記で定義される二相ステンレス鋼は、所望の耐食性及び強度を達成するために、30.00重量%を超えるCrを含む。さらには、Crは、強力なフェライト相安定化合金元素であり、したがって、望ましい量のフェライト及びオーステナイト相を達成するために、鋼中に存在する他のフェライト及びオーステナイト形成元素に対してバランスをとらなければならない。加えて、Crが過剰量で存在する場合には、靭性に影響を与え、窒化クロムの形成及び有害なシグマ相の促進に起因して靭性は低下する。したがって、Crの含有量は30.0超から33.00重量%である。一実施形態によれば、Crの含有量は30.50から32.50重量%である。
【0014】
モリブデン(Mo):1.30から2.90重量%
Moは、強力なフェライト相安定化合金元素であり、フェライト相の形成を促進する。さらには、Moは耐孔食性に強く寄与し、機械的特性、とりわけ降伏強度を改善する。本発明の二相ステンレス鋼においてこれらの効果を達成するためには、Moの最低含有量は1.30重量%である。しかしながら、Moは高価な元素であり、有害なシグマ相の形成を強く促進する。したがって、本発明の二相ステンレス鋼は、2.90重量%以下のMoを含む。より良好な特性を得るために、実施形態によれば、Moの含有量は、1.35から2.90重量%、例えば1.40から2.80重量%、例えば1.50から2.75重量%、例えば1.50~2.50重量%である。稼働中に「機能する」場合、このような間隔が必要である。すべての間隔がその要件内である必要はない。
【0015】
ニッケル(Ni):6.00から10.00重量%
Niはオーステナイト相安定化合金元素である。Niが、衝撃靱性が向上した本発明の二相ステンレス鋼を提供することが判明した。Niはまた、Nの溶解性を高め、窒化物の析出のリスクを低減する。しかしながら、所望の二相微細構造を達成するためには、Ni含有量は、前記二相ステンレス鋼に存在する他のフェライト及びオーステナイト形成元素と調整する必要がある。したがって、Niの最大含有量は10.00重量%に制限される。したがって、Niの含有量は6.00から10.00重量%である。一実施形態によれば、Niの含有量は6.50から9.50重量%である。
【0016】
窒素(N):0.15から0.28重量%
Nは、オーステナイト相安定化合金元素であり、非常に強力な侵入型固溶強化効果を有する。したがって、Nは、本発明の二相ステンレス鋼の強度に強く寄与する。Nはまた、本発明のステンレス鋼の耐孔食性を大幅に改善する。しかしながら、Nの含有量が高いと、高温での熱間加工性及び室温での靭性が低下する可能性がある。さらには、N含有量が高すぎると、靭性及び耐食性をさらに低下させる窒化クロムが形成される。したがって、N含有量は、0.15から0.28重量%、例えば0.17から0.25重量%である。
【0017】
リン(P):0.04重量%未満
Pは、任意選択的な元素であり、含めることができる。通常、Pは有害な不純物と見なされており、溶融物に用いられる原料にはPが含まれうるため、存在する。0.04重量%未満のPを有することが望ましい。
【0018】
硫黄(S):0.01重量%以下
Sは、任意選択的な元素であり、不純物と見なされる場合があり、あるいは、被削性を改善するために含まれる場合がある。Sは、粒界偏析及び包有物を形成する可能性があり、したがって、熱間延性の低下に起因して高温での加工性を制限する。したがって、Sの含有量は0.01重量%を超えるべきではない。
【0019】
銅(Cu):0.60から2.20重量%
Cuはオーステナイト相安定化合金元素である。Cuは、降伏強度に寄与するが、少量では二相ステンレス鋼への影響は限定される。さらには、本発明の二相ステンレス鋼では、銅が0.60重量%以上の場合、とりわけ硫酸溶液中では、Cuは全体的な耐食性にプラスの影響を及ぼす。しかしながら、Cuの量が多すぎると、熱間加工特性に悪影響を及ぼし、Nの溶解性が低下するため、Cuの最大含有量は2.20重量%である。したがって、驚くべきことに、Cuの含有量が0.60から2.20重量%の場合に、得られる二相ステンレス鋼は予想よりも高い降伏強度を有するであろうことが示され、これは、材料がより強くなることを意味し、例えば、非常にストレスのかかる海水用途に使用される場合に有利である。一実施形態によれば、最良の特性を有するためには、Cu含有量は1.10から1.90重量%である。
【0020】
アルミニウム(Al):0.05重量%未満
Alは、任意選択的な元素であり、製鋼中の酸素含有量を低減するのに有効であることから、脱酸剤として使用することができる。しかしながら、Alの含有量が高すぎると、AlNが析出するリスクが高まり、これは、機械的特性を低下させる。したがって、Alの含有量は、0.05重量%未満、例えば0.03重量%未満である。
【0021】
本発明の二相ステンレス鋼では、驚くべきことに、合金元素Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、及びNの含有量のバランスをとることにより、得られる二相ステンレス鋼は、フェライト相の所望の特性と所望の含有量との組合せを有することが見出された。
【0022】
例えば熱間延性などの加工性を改善するために、任意選択的に、少量の他の合金元素を上記又は下記で定義される二相ステンレス鋼に添加することができる。このような元素の例は、限定はしないが、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、及びセリウム(Ce)である。一実施形態によれば、これらの元素の1つ以上の量は、上記又は下記で定義される二相ステンレス鋼において、約0.05重量%未満である。
【0023】
上記又は下記で定義される二相ステンレス鋼の元素の残部は、鉄(Fe)及び通常発生する不純物である。
【0024】
不純物の例としては、意図的に添加されてはいないが、通常は、例えば二相ステンレス鋼の製造に用いられる原料内に不純物として生じるために、完全には回避することができない元素及び化合物が挙げられる。
【0025】
「未満」又は「以下」という用語が用いられる場合、当業者は、別の数が具体的に述べられていない限り、範囲の下限は0重量%であることを知得している。
【0026】
一実施形態によれば、本発明の二相ステンレス鋼は、上記又は下記の範囲のすべての合金元素からなる。
【0027】
一実施形態によれば、本発明の二相ステンレス鋼は、36以上の耐孔食性当量(PREと略されることもある)を有し、PRE=重量%Cr+3.3*重量%Moである。PRE値は、さまざまなタイプのステンレス鋼の耐孔食性の予測指標である。
【0028】
本開示はまた、上記又は下記で定義される二相ステンレス鋼を含む構成要素に関する。構成要素は、例えば、鍛造品、バー、ロッド、プレート、ワイヤ、シート、管、又はパイプから選択することができる。構成要素は、例えば、熱間加工され、熱処理される。
【0029】
本開示はまた、上記又は下記で定義される二相ステンレス鋼を含む建築材料に関する。建築材料は、例えば、熱間加工及び熱処理することができる。
【0030】
一実施形態によれば、上記又は下記で定義される二相ステンレス鋼を含む構成要素は、以下の方法に従って製造することができる:
溶融物が提供される。溶融物は、例えば、高周波炉でスクラップ及び/又は原材料を溶融することによって得ることができる。溶融物は、本発明の二相ステンレス鋼の量に従う合金元素が含まれるように、化学的に分析される。得られた溶融物は、その後、例えばインゴット、スラブ、ビレット、又はブルームなどであるがこれらに限定されない物体へと鋳造される。その後、物体は任意選択的に熱処理されうる。熱処理プロセスに限定されない例は、溶体化熱処理又は均質化である。物体は、その後、所望の構成要素又は前構成要素(pre-component)へと熱間加工される。熱間加工プロセスの例は、鍛造、熱間圧延、及び押出しである。所望の構成要素又は前構成要素を得るために、1つ以上の熱間加工プロセスを使用することができる。熱間加工は通常、約1000℃から約1300℃の温度で行われる。その後、得られた構成要素は、所望の微細構造及び特性を達成するために熱処理される。熱処理は、約1000℃から約1100℃の間の温度での溶体化熱処理である。溶体化熱処理の後、構成要素は、その後、例えば、水中又は油中で急冷することにより、冷却される。その後、得られた構成要素を、任意選択的に冷間加工及び/又は熱処理してもよい。冷間加工プロセスの例としては、圧延、ピルガー、延伸、矯正がある。冷間加工後の熱処理プロセスの例は、アニーリング及びエイジングである。これらのプロセスのうちの1つより多くが、最終的な構成要素の製造に任意選択的に使用される場合がある。
【0031】
本開示は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明される。
【実施例
【0032】
さまざまな合金とそれらに対応する合金番号が表1に示されている。本開示の範囲内にある合金は、「*」でマークされている。実施例1の合金は、高周波炉で溶融することによって製造され、その後、9インチの鋼金型を使用してインゴットへと鋳造した。インゴットの重量は約270kgであった。次に、インゴットを約1050℃で約1時間熱処理し、水中で急冷した後、インゴットの表面を研削した。
【0033】
その後、インゴットを約1250℃に加熱し、ハンマーで鍛造して、約150×50mmの長方形断面を有するバーとし、その後、鍛造直後に水中で急冷した。得られたバーを1050℃で約1時間、溶体化熱処理し、その後、水中で急冷した。これらのバーに由来する材料を、膨張測定試験、腐食試験、及び機械試験用のサンプルの製造に使用した。
【0034】
寸法10×10×55mmのノッチ付きシャルピー-V試料の衝撃靭性試験の形態での機械試験を、すべての合金に対して-50℃の試験温度で実施した。衝撃靱性試験の結果は、各合金の3つのシャルピー-V試料の平均値に基づいている。
【0035】
ASTM A-370規格に準拠して、引張試験を行った。降伏応力の結果は、各合金の3つの引張試験片の平均値に基づいている。
【0036】
臨界孔食温度腐食試験(CPTと略されることもある)を、G48A法に準拠して行った。各試験温度での試験に、2つの試料を使用した。
【0037】
構造安定性は、膨張計熱処理又は等温炉熱処理のいずれかによって試験した。
【0038】
連続冷却析出物(Continuous Cooling Precipitates)(略称CCP)の試験はすべて、膨張計で温度サイクルに曝されたφ3×10mmの円柱状試料に対して実施した。温度サイクルには、1050℃で5分間の溶液アニーリングと、それに続く、100℃/分、30℃/分、10℃/分、2℃/分、及び0.5℃/分の冷却速度での室温までの線形冷却が含まれていた。微細構造内の析出した金属間相の量を光学顕微鏡で評価し、特定のケースでは、検証のために、EBSDとも略される、電子線後方散乱回折法(Electron Back Scatter Diffraction)で補足した。
【0039】
TTPとも略される、温度-時間-析出物(Temperature Time Precipitates)のすべての試験を、20×20×20mmの試料に対して実行し、これは、1050℃で2時間溶体化熱処理し、その後、水中で急冷するものであった。その後、TTP試料を900℃の温度で3時間の等温熱処理に曝露し、次いで、水中で急冷した。微細構造内の析出した金属間相の量を、X線回折分析(略してXRD)で評価し、光学顕微鏡で補足し、特定のケースでは検証のためにEBSDでも補足した。
【0040】
上記表2から分かるように、「*」でマークされた本発明にかかる合金は、二相ステンレス鋼の本発明の使用及び用途の要件を満たすために必要な所望の特性の組合せを有する。これらの合金では、有害な金属間相、すなわちシグマ相の量は、TTP値及びCCP値によって示されるように、低くなる。さらには、降伏強度Rp0.2が610MPaを超え、衝撃靭性シャルピー-Vが-50℃で130Jを超えることから、強度などの機械的特性が高くなる。加えて、これらの合金はいずれも36以上のPRE及び50℃以上のCPTを有しているため、耐食性は良好である。
【0041】
有害な量の金属間相を防ぐために、等温加熱条件又は連続冷却条件下でのこのような相の析出に関して、ある特定の要件を満たす必要がある。
【0042】
「金属間化合物TTP」は、金属間相の体積%を示し、その値は、900℃の温度で3時間の等温加熱中に形成された金属間相の体積%を表す。金属間相の臨界量は、好ましくは、これらの条件下で25体積%未満であり、それによって、この材料の所望の用途のための材料要件が達成される。
【0043】
「金属間化合物CCP」は臨界冷却速度を示している。低い値ほど、構造的安定性の向上を示す。臨界冷却速度は、3体積%未満の金属間相を与える線形冷却速度として定義される。30℃/分以下のCCP値は、この材料の所望の用途のための材料要件を達成するために好ましい。
【0044】
上記表に示されるように、本発明の二相ステンレス鋼は、すべての所望される特性の組合せを有する。