(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】単一の多重電極冠状静脈洞リードを使用した適応性のある心臓再同期療法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/365 20060101AFI20230817BHJP
【FI】
A61N1/365
(21)【出願番号】P 2020547071
(86)(22)【出願日】2019-04-29
(86)【国際出願番号】 US2019029595
(87)【国際公開番号】W WO2019212943
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-05-02
(32)【優先日】2018-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507020152
【氏名又は名称】メドトロニック,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100119781
【氏名又は名称】中村 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】サンベラシビリ,アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ヨーン
(72)【発明者】
【氏名】ギルバーグ,ジェフリー
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第6907286(US,B1)
【文献】特開平7-16303(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0340887(US,A1)
【文献】特表2011-507595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36 - A61N 1/368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に
左心室心臓ペーシング療法を送達するための植え込み可能な医療デバイスシステムであって、
植え込み可能な医療デバイスハウジングと、
前記ハウジングに電気的に結合されることが可能な単一パス(single-pass)冠状静脈洞(coronary sinus)リードと、
前記患者の遠方場(far-field)心臓信号を検知するため、および心臓ペーシング療法を送達するために、前記単一パス冠状静脈洞リードに沿って位置付けられる複数の電極と、
前記ハウジング内に位置付けられ、前記
左心室心臓ペーシング療法の送達を一時停止し、複数の電極の間に形成される1つまたは複数の遠方場検知ベクトルを介して遠方場心臓信号を検知し、検知された前記遠方場心臓信号に応答して遠方場心臓特徴を決定し、決定された前記遠方場心臓特徴に応答して第1のオフセット間隔および第2のオフセット間隔を決定し、決定された前記第1のオフセット間隔および前記第2のオフセット間隔に応答して前記
左心室心臓ペーシング療法のAV遅延を調整し、調整された前記AV遅延を有する前記
左心室心臓ペーシング療法の送達を再開するように構成されるプロセッサと
、
を備える、植え込み可能な医療デバイスシステム。
【請求項2】
前記プロセッサが、
検知された前記遠方場心臓信号に応答して、P波の始まり、前記P波の終わり、およびQRS群の始まりを決定し、
前記P波
の始まりから前記P波
の終わりまでに及ぶP波持続時間、および前記P波
の始まりから前記QRS群
の始まりまでに及ぶPQ持続時間を決定し、
前記P波持続時間に応答して前記第1のオフセット間隔を決定し、前記PQ持続時間に応答して前記第2のオフセット間隔を決定するように構成される、
請求項1に記載の医療デバイスシステム。
【請求項3】
前記プロセッサが、
前記1つまたは複数の遠方場検知ベクトルの各々によって検知される前記遠方場心臓信号の各々に沿った第1の偏向(deflection)を決定して、第1に発生する偏向を生成し、
前記P波
の始まりを前記第1に発生する偏向のうちの最早のものであるとして決定し、
前記第1の偏向の直後に発生する、前記1つまたは複数の遠方場ベクトルの各々によって検知される遠方場心臓信号の各々に沿った第2の偏向を決定して、第2に発生する偏向を生成し、
前記P波
の終わりを前記第2に発生する偏向のうちの
最後のものであるとして決定し、
前記第2の偏向の直後に発生する、前記1つまたは複数の遠方場ベクトルの各々によって検知される遠方場心臓信号の各々に沿った第3の偏向を決定して、第3に発生する偏向を生成し、
前記QRS群
の始まりを前記第3に発生する偏向のうちの最早のものであるとして決定するように構成される、
請求項2に記載の医療デバイスシステム。
【請求項4】
前記プロセッサが、前記P波持続時間および第1のオフセット
間隔の合計を決定し、決定された前記合計に応答して前記第1のオフセット間隔を決定するように構成される、請求項2に記載の医療デバイスシステム。
【請求項5】
前記プロセッサが、前記PQ持続時間を第2のオフセット
間隔だけ低減し、低減された前記PQ持続時間に応答して前記第2のオフセット間隔を決定するように構成される、請求項4に記載の医療デバイスシステム。
【請求項6】
前記第1の
オフセット間隔が、30ミリ秒と設定され、前記第2の
オフセット間隔が、50msと設定される、請求項5に記載の医療デバイスシステム。
【請求項7】
前記プロセッサが、前記第1のオフセット間隔および第2のオフセット間隔のうちの最早のものを決定するように構成され、前記AV遅延を調整することが、前記第1のオフセット間隔および前記第2のオフセット間隔のうちの決定された前記最早のものに等しいAV遅延を設定することを含む、請求項5に記載の医療デバイスシステム。
【請求項8】
前記プロセッサが、前記1つまたは複数の遠方場検知ベクトルの各々によって検知される前記遠方場心臓信号の各々について、固有伝導が検知されているかどうかを決定し、固有伝導が検知されている遠方場検知ベクトルについてのみ前記遠方場信号特徴を決定するように構成される、請求項1に記載の医療デバイスシステム。
【請求項9】
前記プロセッサが、
前記1つまたは複数の遠方場検知ベクトルの各々によって検知される前記遠方場心臓信号の各々に沿った第1の偏向を決定して、第1に発生する偏向を生成し、
P波の始まりを前記第1に発生する偏向のうちの最早のものであるとして決定し、
前記第1の偏向の直後に発生する、前記1つまたは複数の遠方場ベクトルの各々によって検知される遠方場心臓信号の各々に沿った第2の偏向を決定して、第2に発生する偏向を生成し、
前記P波の終わりを前記第2に発生する偏向のうちの
最後のものであるとして決定し、
前記第2の偏向の直後に発生する、前記1つまたは複数の遠方場ベクトルの各々によって検知される遠方場心臓信号の各々に沿った第3の偏向を決定して、第3に発生する偏向を生成し、
QRS群の始まりを前記第3に発生する偏向のうちの最早のものであるとして決定し、
前記P波の始まりから前記P波の終わりまでに及ぶP波持続時間、および前記P波の始まりから前記QRS群の始まりまでに及ぶPQ持続時間を決定し、
前記P波持続時間および前記第1のオフセット
間隔の合計を決定し、前記第1のオフセット間隔を生成し、前記PQ持続時間を前記第2のオフセット
間隔だけ低減し、前記第2のオフセット間隔を生成し、
前記第1のオフセット間隔および前記第2のオフセット間隔のうちの最早のものを決定するように構成され、前記AV遅延を調整することが、前記第1のオフセット間隔および前記第2のオフセット間隔のうちの決定された前記最早のものに等しいAV遅延を設定することを含む、
請求項1に記載の医療デバイスシステム。
【請求項10】
命令が記憶されている非一時的なコンピュータ可読媒体であって、前記命令が、請求項1~9
のいずれか一項に規定されるような動作を植え込み可能な医療デバイスに実施させる、非一時的なコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、心臓ペーシング方法およびシステム、ならびに、より詳細には、単一の多重電極冠状静脈洞リードのみを有する植え込み可能な医療デバイスシステムにおいて心臓ペーシング療法を送達するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
正常な健全な心臓の活動は、心臓の心房および心室の同期した収縮を伴う。血液が心房に迎え入れられ、心房が収縮して、血液を心室へと送り込む。次に、心室のこれに続く収縮により、全身に血液が送り出され、最終的に心房に戻ってくる。心臓の室の収縮は、心筋の部分の協調した電気的活性化によって引き起こされる。
【0003】
心拍周期は、上大静脈への入口における右心房の上部近くの、心臓の洞房結節内に位置する繊維の束による電気インパルスの発生から始まる。このインパルスが心房にわたって伝播し、心房筋を刺激して心房収縮を引き起こし、これにより血液を心室へと送り込む。心房収縮は、心電図上の信号内にいわゆる「P波」として現れる。次いで、心房筋に伝導された電気インパルスは、右心房と右心室との間の弁のすぐ横の隔壁において、房室(atrio-venticular)すなわちA-V結節において、受け取られる。A-V結節は、電気インパルスの心室への伝達にわずかな遅延をもたらす。このA-V遅延は、典型的には、100ミリ秒ほどである。A-V遅延後、電気インパルスは、心室へ伝導され、心電図上の信号の「QRS群」として現れる心室収縮を引き起こす。心室筋のその後の再分極および弛緩は、心周期の終わりに発生し、これは、心電図上の信号の「T波」部分として現れる。
【0004】
心筋への電気インパルスの上記伝導が何らかの形で損なわれる患者については、ペースメーカが、自然な電気インパルスが存在しない場合に人工的な電気刺激を提供することができる。したがって、例えば、心室ペースメーカは、自然な電気的心臓インパルスが、何らかの理由でA-V結節を越えて伝達されない患者において心室収縮を引き起こすように機能することができる。しかしながら、いかなる人工的な刺激パルスも、心房および心室活動の適切な同期が維持されるように適正な時間に送達されることが重要である。加えて、心周期の終わりの再分極相の間に心筋に送達される電気インパルスは、頻脈性不整脈の発症を引き起こし得ることが分かっている。したがって、ペースメーカがT波の間に刺激パルスを送達しないようにすることが重要である。
【0005】
A-V同調性を維持するため、および望ましくない時のペーシングパルスの送達を防ぐため、ペースメーカは、好ましくは、ペースメーカによって検知される心房および心室の心臓電位図信号を介して、それぞれP波およびQRS群(またはより典型的には、R波)により明らかにされる心房活動、心室活動のいずれか、または両方を検出することが可能である。
【0006】
ペースメーカは、一般的には、それらが検知することが可能である心臓の室、それらがペーシング刺激を送達することができる室、および、もしあるならば、検知された固有電気的心臓活動に対するそれらの反応によって特徴付けられる。一部のペースメーカは、ペーシング刺激を、自然発生の心臓活動に関係なく、固定された規則的な間隔で送達する。しかしながら、より一般的には、ペースメーカは、心臓の室の一方または両方における電気的心臓活動を検知し、検知された固有電気的事象の発生および認識に基づいて心臓へのペーシング刺激の送達を抑制またはトリガする。
【0007】
心臓再同期療法(CRT)は、医療電気リードを通じて一方または両方の心室または心房にペーシング療法を提供して、左または右心室のより早い活性化を促すことによって電気的同期不全の症状を是正し得る。心室の収縮をペーシングすることにより、心室は、心室が同調して収縮するように制御され得る。CRTの1つの形態は、固有右心室(RV)活性化と連携してLV医療電気リード上の電極を用いた左心室(LV)のみのペーシングに典型的には関与する融合ペーシングである。効果的な融合は、例えば、LVペーシングのタイミングがRV室の最早の活性化と同調していることを必要とする。例えば、融合ペーシング構成では、医療デバイスは、LVを早期興奮させ、LVの脱分極を先に収縮する右心室(RV)の脱分極と同期させるために、1つまたは複数の融合ペーシングパルスを、後で収縮する左心室(LV)に送達する。LVの心室活性化は、心臓の固有伝導に起因するRVの心室活性化と「融合」(または「合併」)し得る。このやり方で、固有の興奮波面およびペーシング誘起された興奮波面は、LVの脱分極がRVの脱分極と再同期されるように融合し得る。
【0008】
LVペーシングの送達のタイミングがRV室の最早の活性化と同調していることを確実にするために、RV室の活性化の検知は、極めて重要である。CRTを送達するための現在の療法システムは、典型的には、患者の心臓の右心房(RA)内へ延びる右心房リード、右心房を通り右心室(RV)内へ延びる右心室リード、および右を通り、冠状静脈洞内から、心臓の左心室(LV)の自由壁に隣接する領域へと延びる左心室リードを含む。したがって、LVぺービングの送達の効果的なタイミングが決定されることを可能にするためのRVの活性化の検知は、RVリードにより直接行われ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明の一実施例は、例えば、単一の多重電極冠状静脈洞リードを使用した適応性のある心臓再同期療法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、単一パス冠状静脈洞リードのみを含むLVペーシング療法を送達するための方法および植え込み可能な医療デバイスシステムを対象とする。単一パス冠状静脈洞リードは、リードが患者の冠状静脈洞内に位置付けられたときに、電極が、左心室近く、ならびに左心房および/または右心房近くに位置し得るような様式で離間される電極を含む。いくつかの例では、左心室近くの電極は、心室内中隔近くに位置し得る。
【0011】
このやり方では、本開示に従うリードは、右心室内へのリードまたは電極の導入を必要とすることなく心房および心室の両方のペーシングおよび検知を提供するように設計され、単一パス、左側のDDDリードと称され得る。リードは、単一のリードが電極を心房および心室の両方に近接して置くという点で単一パスと称され得、またリードが電極を左心室に近接して、例えば、右心室ではなく冠状静脈洞を介して、置くという点で左側と称され得る。リードは、単一パス冠状静脈洞リードとも称され得る。
【0012】
本開示の1つの例によると、左心室(LV)心臓ペーシング療法を患者に送達するための方法は、LV心臓ペーシング療法の送達を一時停止すること、複数の電極の間に形成される1つまたは複数の遠方場検知ベクトルを介して遠方場心臓信号を検知すること、検知された遠方場心臓信号に応答して遠方場心臓特徴を決定すること、決定された遠方場心臓特徴に応答して第1のオフセット間隔および第2のオフセット間隔を決定すること、決定された第1のオフセット間隔および第2のオフセット間隔に応答してLV心臓ペーシング療法のAV遅延を調整すること、ならびに調整されたAV遅延を有するLV心臓ペーシング療法の送達を再開することを含む。
【0013】
本開示の別の例によると、心臓ペーシング療法を患者に送達するための植え込み可能な医療デバイスシステムは、植え込み可能な医療デバイスハウジングと、ハウジングに電気的に結合されることが可能な単一パス冠状静脈洞リードと、患者の遠方場心臓信号を検知するため、および心臓ペーシング療法を送達するために、単一パス冠状静脈洞リードに沿って位置付けられる複数の電極と、ハウジング内に位置付けられ、LV心臓ペーシング療法の送達を一時停止し、複数の電極の間に形成される1つまたは複数の遠方場検知ベクトルを介して遠方場心臓信号を検知し、検知された遠方場心臓信号に応答して遠方場心臓特徴を決定し、決定された遠方場心臓特徴に応答して第1のオフセット間隔および第2のオフセット間隔を決定し、決定された第1のオフセット間隔および第2のオフセット間隔に応答してLV心臓ペーシング療法のAV遅延を調整し、調整されたAV遅延を有するLV心臓ペーシング療法の送達を再開するように構成されるプロセッサと、を備える。
【0014】
本開示の別の例は、植え込み可能な医療デバイスに方法を実施させる命令を格納する非一時的なコンピュータ可読媒体を含み、該方法は、左心室(LV)心臓ペーシング療法の送達を一時停止すること、単一パス冠状静脈洞リード上に位置付けられる複数の電極の間に形成される1つまたは複数の遠方場検知ベクトルを介して遠方場心臓信号を検知すること、検知された遠方場心臓信号に応答して遠方場心臓特徴を決定すること、決定された遠方場心臓特徴に応答して第1のオフセット間隔および第2のオフセット間隔を決定すること、決定された第1のオフセット間隔および第2のオフセット間隔に応答してLV心臓ペーシング療法のAV遅延を調整すること、ならびに調整されたAV遅延を有するLV心臓ペーシング療法の送達を再開することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示に従う、ペーシング刺激を患者の心臓に送達するための医療デバイスシステム例を例証する概念図である。
【
図2】本開示に従う、ペーシング療法を患者の心臓に送達するための医療デバイスシステムのリードの構成例を例証する概念図である。
【
図3】本開示に従う、ペーシング療法を患者の心臓に送達するための医療デバイスシステムのリードの構成例を例証する概念図である。
【
図4】本開示に従う、ペーシング療法を患者の心臓に送達するための医療デバイスシステムのリードの構成例を例証する概念図である。
【
図5】本開示に従う、ペーシング療法を送達するための植え込み可能な医療デバイスシステムの機能ブロック図である。
【
図6】本開示に従う、医療デバイスシステムにおいてペーシング療法を送達する方法のフローチャートである。
【
図7】本開示に従う、医療デバイスシステムにおいてペーシング療法の送達を調整するための遠方場固有心臓信号の検知のグラフィック表示である。
【
図8】本開示に従う、LVペーシング療法を調整するための遠方場心臓特徴を決定するフローチャートである。
【
図9】本開示に従う、医療デバイスシステムにおいてペーシング療法の送達を調整するための遠方場固有心臓信号の検知のグラフィック表示である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1つの実施形態からの要素またはプロセスが、他の実施形態の要素またはプロセスと組み合わせて使用され得ること、ならびに本明細書に明記される特徴の組み合わせを使用したそのような方法、デバイス、およびシステムの潜在的な実施形態が、図に示されるおよび/または本明細書に説明される特定の実施形態に限定されないことは当業者には明らかである。さらに、本明細書に説明される実施形態は、必ずしも縮尺通りに示されない多くの要素を含み得ることを理解されたい。
【0017】
一般に、本開示は、RV室内に直接位置付けられる右心室リードを含まない植え込み可能な医療デバイスシステムにおいて心臓再同期ペーシング療法の送達のタイミングを決定するための右心室の活性化を検知する方法を対象とする。例えば、本医療デバイスシステムは、ハウジング、およびハウジングに電気的に結合される、左心室LV DDDペーシングを提供することが可能である単一のリードを含み得る。本開示のリードは、リードが患者の冠状静脈洞内に位置付けられるときに、電極が、左心室近くに、ならびに左心房および/または右心房近くに位置し得るような様式で離間される4つの電極を含む。いくつかの例では、左心室近くの電極は、心室内中隔近くに位置し得る。
【0018】
このやり方では、本開示に従うリードは、右心室内へのリードまたは電極の導入を必要とすることなく心房および心室の両方のペーシングおよび検知を提供するように設計され、単一パス、左側のDDDリードと称され得る。リードは、単一のリードが電極を心房および心室の両方に近接して置くという点で単一パスと称され得、またリードが電極を左心室に近接して、例えば、右心室ではなく冠状静脈洞を介して、置くという点で左側と称され得る。リードは、単一パス冠状静脈洞リードとも称され得る。
【0019】
図1は、本開示に従う、ペーシング刺激を患者の心臓に送達するための医療デバイスシステム例を例証する概念図である。
図1に例証されるように、1つの例では、植え込み可能な医療デバイスシステム10は、植え込み可能な医療デバイス(IMD)12、およびIMD12に電気的に結合される植え込み可能な医療リード16を含み得る。
図1に示される例では、システム10は、電気刺激療法を患者18の心臓20に送達するために患者18内に植え込まれる。患者18は、通常、人間の患者であるが、必ずしもそうであるとは限らない。
【0020】
図1に示される例では、IMD12は、パルス、例えば、1分あたり約50~約150パルスの速度で約1~約5ボルトのペーシングパルス、または約100~約800ボルトの低頻度の心臓除細動/除細動刺激の形態をとり得る、ペーシング、心臓除細動、または除細動のための治療用電気刺激を生成する心臓ペースメーカ、心臓除細動器、除細動器、またはペースメーカ-心臓除細動器-除細動器(PCD)である。リード16は、治療用電気刺激をIMD12から心臓20に送達するために、各々が心臓20内に(例えば、血管内に)位置付けられる4つの電極を含む。
【0021】
例証された例では、リード16の遠位端は、患者18の左心室(LV)に近接して、およびより詳細には、冠状静脈洞内または冠状静脈洞を介してアクセスされる冠状静脈内に、位置付けられる。例証された例では、リード16は、心臓20内への静脈内導入のために構成される。例えば、リード16は、約1~約3ミリメートルのリード本体直径を有し得る。リード16が、冠状静脈洞または冠状静脈内に位置付けられるとき、4つの電極(
図1には示されない)は、2つの最近接の電極がAV結節に極めて近接して右心房(RA)内またはその近くに位置付けられるように位置付けられ得る。いくつかの例では、1つの電極は、RA内にあり得、1つの電極は、冠状静脈洞内にあり得る。第3の電極は、大心臓静脈内に位置し、第4の最も遠位の電極は、大冠状静脈の支流のうちの1つに位置し得る。例えば、第4の電極は、側方冠状静脈、前冠状静脈、または前-側方冠状静脈内に位置し得る。以下にさらに詳細に説明されるように、電極のこのような構成は、単一のリードを使用して、必要に応じて、心房検知およびペーシングならびに心室検知およびペーシングを可能にする。IMD12のハウジング14は、いくつかの例では、陽極として使用され得る。
【0022】
狭い血管を通る道を促進するため、リード16の電極は、リード本体とほぼ同じ直径であり、通常、それらが血管壁に接触することを確実にするために数分の1ミリメートルだけより厚い。同様に、らせん状の固定部材32(
図2)もまた、リード本体よりもわずかに厚く、例えば、数分の1ミリメートル厚くてもよい。電極は、典型的には、約0.2~約0.5cmの長さである。リード全体は、患者のサイズに応じて、長さが約50~約100cmである。
【0023】
図1に例証されるように、システム10はまた、臨床医または他のユーザにユーザインターフェースを提供する携帯用デバイス、ポータブルコンピュータ、またはワークステーションであり得るプログラマ22を含み得る。臨床医は、ユーザインターフェースと対話して、刺激か検知かを提供するために活性化されるリード16の電極を例として含み得るIMD12のための刺激および検知パラメータ、ならびに異なるペーシングモード、レート応答モード、室間の間隔、不整脈検出アルゴリズム、不整脈終了療法進行からの選択をプログラムすることができる。
【0024】
プログラマ22は、刺激パラメータをダウンロードするため、および任意選択的に、IMD12により格納される動作または生理学的データをアップロードするために、IMD12による遠隔測定(例えば、無線周波数遠隔測定)をサポートする。この様式では、臨床医は、定期的にIMD12に問い合わせを行って効果を評価し、必要な場合は、IMDの動作パラメータを修正することができる。IMD12およびプログラマ22は、
図1に示されるように、ワイヤレス通信を介して通信し得る。プログラマ22は、例えば、当該技術分野において知られているRF遠隔測定技術を使用して、IMD12とワイヤレス通信を介して通信し得る。
【0025】
いくつかの例では、リード16の電極のうちの少なくとも1つは、限定されるものではないが、電位図(EGM)パラメータ、心拍数、QRS幅、または房室(AV)解離などの、患者12の生理学的パラメータを検知するセンサとして機能し得る。センス電極は、患者18への電気刺激の送達のために使用される同じ電極であり得るか、または異なる電極であり得る。
【0026】
図2は、本開示に従う、ペーシング療法を患者の心臓に送達するための医療デバイスシステムのリードの構成例を例証する概念図である。
図2に例証されるように、医療デバイスシステム10Aのリード16Aは、らせん状の固定部材32と一緒に、電極24、26、28、および30を含み得る。いくつかの例では、らせん状の固定部材32はまた、電極28であってもよく、例えば、らせん状の固定部材32は、伝導性であり、電極28として、またはその部分として作用する。リード16Aは、らせん状の固定部材32により入口34の近くの冠状静脈洞36の壁に固着され得る。リード16Aは、電極が心臓20内で所望の通りに位置するときにリードを時計回りに回転させてらせん状の固定部材32を冠状静脈洞36の壁内に埋め込むことによって固着され得る。
【0027】
図2に例証されるように、リード16の電極は、電極24および26がRA40内に位置するように離間される。いくつかの例では、電極24および26は、RA40内の浮遊電極であり、例えば、必ずしもRA40の組織と接触しない。例えば、電極24および26は、従来のVDDリード内の浮遊センス電極に類似した様式で機能する浮遊心房センス電極であってもよい。いくつかの例では、電極24および26は、心臓中隔の近くに位置する。
図2の例では、電極28は、冠状静脈洞36内に位置し、電極30は、大冠状静脈の支流静脈のうちの1つの中で、リード16の遠位端に位置する。例えば、電極30は、側方冠状静脈、前冠状静脈、または前-側方冠状静脈内に位置し得る。支流静脈は、電極30が左心室(LV)にほぼ隣接し、右心室(RV)心尖の近くにないように選択される。電極24および26は、およそ1cm未満離れて位置し得る。いくつかの例では、電極24および26は、およそ0.5cm未満離れていてもよい。心房電極24および26の密接な間隔は、遠方場R波過剰検知を含むR波過剰検知を回避するのに役立ち得る。加えて、電極の場所は、A-Vブロックの発生を検出することを助け得る。いくつかの例では、電極24および26のいずれかは、心房活動を検知するために、ハウジング14上に形成されるか、またはハウジング14によって形成される電極とユニポーラ構成で使用され得る。いくつかの例では、電極28は、IMD12のハウジング14が心房ペース陽極として機能している状態で、心房ペース陰極として働き得る。電極28はまた、心室センス陽極として働き得る一方、電極30が、心室センス陰極として働き得る。ハウジング14はまた、電極30がLV40に刺激を送達するとき、陽極として機能し得る。
【0028】
図3は、本開示に従う、ペーシング療法を患者の心臓に送達するための医療デバイスシステムのリードの構成例を例証する概念図である。
図3に例証されるように、植え込み可能な医療デバイスシステム10Bのリード16Bは、電極24、26、28、および30を、電極26として作用し得るか、または電極26に電気的に結合され得るらせん状の固定部材32と一緒に、含み得る。リード16Bは、らせん状の固定部材32により入口34の近くの冠状静脈洞36の壁に固着され得る。リード16Bは、電極が心臓内で所望の通りに位置するときにリードを時計回りに回転させてらせん状の固定部材32を冠状静脈洞36の壁内に埋め込むことによって固着され得る。
図3に例証されるように、リード16の電極は、電極24がRA40内に位置し、電極26が冠状静脈洞入口34に近接して位置し、電極28が左心房近くの大心臓静脈内に位置し、電極30が大冠状静脈の支流静脈のうちの1つの中で、リード16の遠位端に位置するように離間される。例えば、電極30は、側方冠状静脈、前冠状静脈、または前-側方冠状静脈内に位置し得る。支流静脈は、電極30が左心室(LV)にほぼ隣接し、右心室(RV)心尖の近くにないように選択される。
【0029】
電極24および26は、心房活動を検知するためにバイポーラペアとして作用し得る。電極24および26は、およそ1cm未満離れて位置し得る。いくつかの例では、電極24および26は、およそ0.5cm未満離れていてもよい。心房電極24および26の密接な間隔は、遠方場R波過剰検知を含むR波過剰検知を回避するのに役立ち得る。加えて、電極の場所は、A-Vブロックの発生を検出することを助け得る。いくつかの例では、電極24および26のいずれかは、心房活動を検知するために、ハウジング14上に形成されるか、またはハウジング14によって形成される電極とユニポーラ構成で使用され得る。
【0030】
いくつかの例では、電極26は、IMD12のハウジング14が心房ペース陽極として機能している状態で、心房ペース陰極として働き得る。電極28は、心室センス陽極として働き得る一方、電極30は、心室センス陰極として働き得るか、または、電極28および30のいずれかは、心室の電気的活動を検知するためにユニポーラ構成で使用され得る。さらには、電極28および30は、バイポーラペーシングもしくは他の刺激をLV40に送達するために使用され得るか、または電極28および30のいずれかもしくは両方が、ユニポーラ刺激を送達するためにハウジング14の電極とユニポーラ構成で使用され得る。ハウジング14は、電極28または30が刺激するときに陽極として機能し得る。いくつかの例では、電極28および30の両方が、連続的なペーシングを心室に送達するためにユニポーラ構成で使用され得る。例えば、電極28は、第1のペーシングパルスを提供し得る。およそ10ミリ秒の遅延が、電極28からのペーシングパルスと電極30からの第2のペーシングパルスとの間にプログラムされ得る。遅延の間、電極30は、検知モードにある。電極30が、電極28からのパルスが心臓を捕捉することに成功したことを検知した場合、電極30からのペーシングパルスは抑制される。しかしながら、電極28からのペーシングパルスが捕捉を結果としてもたらさない場合、電極30が第2のペーシングパルスを提供する。
【0031】
図4は、本開示に従う、ペーシング療法を患者の心臓に送達するための医療デバイスシステムのリードの構成例を例証する概念図である。
図4に例証されるように、植え込み可能な医療デバイスシステム10Bのリード16Cは、電極24、26、28、および30を、電極26として作用し得るか、または電極26に電気的に結合され得るらせん状の固定部材32と一緒に、含み得る。リード16Cは、らせん状の固定部材32により入口34の近くの冠状静脈洞36の壁に固着され得る。リード16Cは、電極が心臓20内で所望の通りに位置するときにリード16Cを時計回りに回転させてらせん状の固定部材32を冠状静脈洞36の壁内に埋め込むことによって固着され得る。
図4に例証されるように、リード16の電極は、電極24が冠状静脈洞36と共に遠位に、および冠状静脈洞入口34に極めて近接して位置付けられ、電極26が冠状静脈洞36内に電極24から遠位におよびそれに極めて近接して位置し、電極28が左心房近くの大心臓静脈内に位置し、電極30が、大冠状静脈の支流静脈のうちの1つの中で、リード16の遠位端に位置するように離間される。例えば、電極30は、側方冠状静脈、前冠状静脈、または前-側方冠状静脈内に位置し得る。支流静脈は、電極30が左心室(LV)にほぼ隣接し、右心室(RV)心尖の近くにないように選択される。
【0032】
上に説明されるように、電極24および26は、心房活動を検知するためにバイポーラペアとして作用し得る。電極24および26は、およそ1cm未満離れて位置し得る。いくつかの例では、電極24および26は、およそ0.5cm未満離れていてもよい。心房電極24および26の密接な間隔は、遠方場R波過剰検知を含むR波過剰検知を回避するのに役立ち得る。加えて、電極の場所は、A-Vブロックの発生を検出することを助け得る。いくつかの例では、電極24および26のいずれかは、心房活動を検知するために、ハウジング14上に形成されるか、またはハウジング14によって形成される電極とユニポーラ構成で使用され得る。
【0033】
いくつかの例では、電極26は、IMD12のハウジング14が心房ペース陽極として機能している状態で、心房ペース陰極として働き得る。電極28は、心室センス陽極として働き得る一方、電極30は、心室センス陰極として働き得るか、または、電極28および30のいずれかは、心室の電気的活動を検知するためにユニポーラ構成で使用され得る。さらには、電極28および30は、バイポーラペーシングもしくは他の刺激をLV40に送達するために使用され得るか、または電極28および30のいずれかもしくは両方が、ユニポーラ刺激を送達するためにハウジング14の電極とユニポーラ構成で使用され得る。ハウジング14は、電極28または30が刺激するときに陽極として機能し得る。いくつかの例では、電極28および30の両方が、連続的なペーシングを心室に送達するためにユニポーラ構成で使用され得る。例えば、電極28は、第1のペーシングパルスを提供し得る。およそ10ミリ秒の遅延が、電極28からのペーシングパルスと電極30からの第2のペーシングパルスとの間にプログラムされ得る。遅延の間、電極30は、検知モードにある。電極30が、電極28からのパルスが心臓を捕捉することに成功したことを検知した場合、電極30からのペーシングパルスは抑制される。しかしながら、電極28からのペーシングパルスが捕捉を結果としてもたらさない場合、電極30が第2のペーシングパルスを提供する。
【0034】
図5は、本開示に従う、ペーシング療法を送達するための植え込み可能な医療デバイスシステムの機能ブロック図である。
図5に例証されるように、本開示の例によると、IMD12は、プロセッサ70、メモリ72、信号発生器74、検知モジュール76、遠隔測定モジュール78、および信号分析器80を含み得る。メモリ72は、プロセッサ70によって実行されるとき、IMD12およびプロセッサ70に本明細書内のIMD12およびプロセッサ70に起因する様々な機能を実施させるコンピュータ可読命令を含み得る。メモリ72は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、不揮発性RAM(NVRAM)、電気的に消去可能なプラグラマブルROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、または任意の他のデジタルもしくはアナログ媒体など、任意の揮発性、不揮発性、磁気、光学、または電気媒体を含み得る。プロセッサ70は、マイクロプロセッサ、コントローラ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、または等価の離散もしくはアナログ論理回路のうちの任意の1つまたは複数を含み得る。いくつかの例では、プロセッサ70は、1つもしくは複数のマイクロプロセッサ、1つもしくは複数のコントローラ、1つもしくは複数のDSP、1つもしくは複数のASIC、または1つもしくは複数のFPGA、ならびに他の離散もしくは集積論理回路の任意の組み合わせなど、複数のコンポーネントを含み得る。本明細書内のプロセッサ70に起因する機能は、ソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、またはそれらの任意の組み合わせとして具現化され得る。一般には、プロセッサ70は、心臓活動を検知し、メモリ72に格納され得る選択された1つもしくは複数の動作モード、プログラム、またはパラメータに従って刺激療法を患者18の心臓20に送達するように信号発生器74および検知モジュール76を制御する。
【0035】
信号発生器74は、電気刺激療法を生成して患者18に送達するように構成される。
図5に例証されるように、信号発生器74は、リード16の電極24、26、28、および30に電気的に結合される。信号発生器74はまた、ハウジング14上の、またはそれと一体になったハウジング電極50に接続される。例えば、信号発生器74は、電極24、26、28、30、および50のうちの少なくとも2つを介して、ペーシングパルスを心臓20に送達し得る。他の例では、信号発生器74は、正弦波、方形波、または他の実質的に連続した時間信号など、パルス以外の信号の形態で刺激を送達する。
【0036】
信号発生器74は、スイッチモジュール(図示せず)を含み得、プロセッサ70は、スイッチモジュールを使用して、例えばデータ/アドレスバスを介して、利用可能な電極のうちのどれが電気刺激を送達するために使用されるかを選択し得る。スイッチモジュールは、スイッチアレイ、スイッチマトリックス、マルチプレクサ、または刺激エネルギーを選択した電極に選択的に結合するのに好適な任意の他の種類の切り替えデバイスを含み得る。電気検知モジュール76は、電極24、26、28、30、および50の任意の組み合わせからの電気心臓信号をモニタする。検知モジュール76はまた、プロセッサ70が、利用可能な電極のうちのどれが心臓活動を検知するために使用されるかを、どの電極組み合わせが現在の検知構成において使用されるかに応じて選択するように制御するスイッチモジュールを含み得る。
【0037】
検知モジュール76は、1つまたは複数の検出チャネルを含み得、その各々が、増幅器を備え得る。検出チャネルは、心臓信号を検知するために使用され得る。いくつかの検出チャネルは、R波またはP波などの事象を検出し、そのような事象の発生の指標をプロセッサ70および/または信号分析器80に提供し得る。1つまたは複数の他の検出チャネルは、プロセッサ70または信号分析器80による処理または分析のためにデジタル信号への変換のため、信号をアナログデジタル変換器に提供し得る。
【0038】
例えば、検知モジュール76は、1つまたは複数の狭帯域チャネルを備え得、その各々が、検出された信号をしきい値と比較する狭帯域フィルタリングされたセンス増幅器を含み得る。フィルタリングされ増幅された信号が、しきい値よりも大きい場合、狭帯域チャネルは、特定の電気的心臓事象、例えば、脱分極、が発生したことを示す。次いで、プロセッサ70は、その検出を、検知された事象の周波数を測定することに使用する。
【0039】
1つの例では、少なくとも1つの狭帯域チャネルは、R波またはP波増幅器を含み得る。いくつかの例では、R波およびP波増幅器は、測定されたR波またはP波振幅の関数として調整可能な検知しきい値を提供する自動利得制御増幅器の形態をとり得る。R波およびP波増幅器の例は、1992年6月2日に発行され、「APPARATUS FOR MONITORING ELECTRICAL PHYSIOLOGIC SIGNALS(電気的生理信号をモニタするための装置)」という名称の、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Keimelらに対する米国特許第5,117,824号に説明される。
【0040】
いくつかの例では、検知モジュール76は、狭帯域チャネルよりも比較的広い通過帯域を有する増幅器を備え得る広帯域チャネルを含む。広帯域増幅器に結合するために選択される電極からの信号は、例えば、検知モジュール76、プロセッサ70、または信号分析器80によって提供されるアナログデジタル変換器(ADC)によってマルチビットデジタル信号に変換され得る。プロセッサ70は、広帯域チャネルからの信号のデジタル化されたバージョンを分析し得る。プロセッサ70は、デジタル信号分析技術を用いて、例えば、患者の心臓リズムを検出し、分類するために、広帯域チャネルからのデジタル化された信号を特徴付けることができる。他の例では、信号分析器80が、デジタル信号分析技術を用いて、広帯域チャネルからのデジタル化された信号を特徴付ける。
【0041】
プロセッサ70は、当該技術分野において知られている多数の信号処理方法論のうちのいずれかを用いて、検知モジュール76によって検知される心臓電気信号に基づいて患者の心臓リズムを検出し、分類し得る。他の例では、検知モジュール76は、検知される心臓電気信号を信号分析器80へ向けて提供する。いくつかの例では、検知モジュール76は、検知された心臓電気信号を、異なる信号処理のために、プロセッサ70および信号分析器80の両方に提供する。様々な例において、プロセッサ70は、検知モジュール76によるR波の検知時にリセットし得る補充収縮間隔カウンタを維持し得る。検知された脱分極によってリセットされるときに補充収縮間隔カウンタ内に存在する計数の値は、R-R間隔の持続時間を測定するためにプロセッサ70によって使用され得、このR-R間隔の持続時間は、メモリ72に格納され得る測定値であり、また心臓信号分析器80によって使用され得る。プロセッサ70は、間隔カウンタ内の計数を使用して、心室細動または心室頻拍などの頻脈性不整脈を検出し得る。メモリ72の一部分は、患者の心臓20が現在、心房または心室頻脈性不整脈を提示しているかどうかを決定するためにプロセッサ70によって分析され得る一連の測定された間隔を保持することができる複数の再循環バッファとして構成され得る。
【0042】
脱分極-再分極シーケンスを含む心臓の心周期の持続時間は、心拍数など、患者の様々な生理学的因子に応じて変化し得る。患者の心拍数が変化すると、融合ペーシング療法中の左心室へのペーシングパルスの送達のタイミング、または両心室ペーシング療法中の右心室および左心室へのペーシングパルスの送達のタイミングは、変化し得る。したがって、植え込み可能な医療デバイスが融合ペーシングを心臓に送達しているとき、該デバイスが、同時に左心室ペーシングパルスの送達を維持し、その結果として左右の心室の脱分極の融合があることをもたらすために、融合ペーシング間隔を定期的に調整することが有用であり得る。加えて、本デバイスが両心室ペーシング療法を心臓に送達しているとき、該デバイスが、右心室ペーシングパルスに対して同時に左心室ペーシングパルスの送達を維持し、その結果として左右の心室の収縮の同調をもたらすために、両心室ペーシング間隔を定期的に評価することが有用であり得る。
【0043】
例えば、プロセッサ70によって実施される捕捉管理テストの部分として、本デバイスは、ペーシング療法の送達を一時停止するか、または遅らせ、例えば300msなどのプログラムされた時間の長さだけ待機して、患者の心臓が心臓再同期療法の送達がない場合に伝導することを可能にし、固有のペーシングされていない右心室事象が右心室内で検知されるかどうかを決定することによって、左心室ペーシング療法の送達中に利用されるAV遅延を定期的に調整し得る。固有の事象が決定される場合、本デバイスは、プログラムされた時間期間内で識別されるペーシングAV遅延を設定することによって、心室ペーシング療法の送達中に後で利用されるAV遅延を調整する。
【0044】
しかしながら、本開示に従う医療デバイスシステムは、上に説明されるように、単一パスの左側DDDリード構成のみを含み、したがってRVリードを介してRV室内に直接位置付けられる検知電極を含まないため、本デバイスは、リードの電極によって形成される1つまたは複数の遠方場検知ベクトルを介して固有電気心臓活動を検知することによって、固有のペーシングされていない事象が発生するかどうかを決定する。本デバイスは、固有のペーシングされていない事象が発生することが決定される遠方場検知ベクトルから検知される遠方場心臓信号に応答して遠方場心臓特徴を決定し、決定された遠方場心臓信号特長に応答して第1のオフセット間隔および第2のオフセット間隔を決定する。次いで本デバイスは、以下に詳細に説明されるように、決定された第1のオフセット間隔および第2のオフセット間隔に応答してLV心臓ペーシング療法のAV遅延を調整する。
【0045】
図6は、本開示に従う、医療デバイスシステムにおいてペーシング療法を送達する方法のフローチャートである。本開示の例に従う医療デバイスシステムにおいて心臓再同期療法を送達する方法によると、例えば、AV遅延などのペーシングパラメータを適応的に調整するために、プロセッサ70は、固有電気伝導を評価し、それに応じて1つまたは複数のペーシングパラメータを調整するために、定期的に、例えば60秒ごとまたは120秒ごとに、例えば、CRTペーシング療法の送達を一時停止するか、または遅らせることができる。例えば、
図6に例証されるように、CRT LVペーシングの送達の間、プロセッサ70が、固有電気伝導を評価する時間であることを一旦決定すると(ブロック100におけるYES)、プロセッサ70は、LVペーシング療法の送達を一時停止するか、または遅らせて(ブロック102)、1つまたは複数の遠方場ベクトルを介して遠方場固有の心臓信号を検知する(ブロック104。)1つまたは複数の遠方場ベクトルは、リード16の電極24~30の任意の組み合わせの間に形成されるベクトル、および/またはリード16の電極24~30のうちの1つもしくは複数の任意の数とデバイス12のハウジング14との間に形成されるベクトルを含み得る。例えば、デバイス12は、電極24とデバイス12のハウジング14によって形成される電極との間、電極30とデバイス12のハウジング14によって形成される電極との間、およびリード16の電極24と電極30との間に形成される遠方場検知ベクトルを介して、遠方場固有心臓信号を検知し得る(ブロック104)。
【0046】
遠方場固有心臓信号の検知の間(ブロック104)、プロセッサ70は、各遠方場ベクトルについて、固有伝導が、各遠方場検知ベクトルと関連付けられた固有心臓信号について検知されるかどうかを決定する(ブロック106)。例えば、プロセッサ70は、各遠方場検知ベクトルを介して検知される固有信号を処理し、検知ベクトルの信号の振幅が、例えば300msなど、既定の時間期間内のR波振幅しきい値を超えるかどうかを決定する。信号の振幅が既定の時間期間内のR波振幅しきい値を超える場合、固有伝導またはR波が発生することが決定され、したがって、固有伝導が、そのベクトルについて検知される(ブロック106におけるYES)。一方、信号の振幅が既定の時間期間内のR波振幅しきい値を超えない場合、固有電動はそのベクトルについて検知されない(ブロック106におけるNO)。
【0047】
このやり方では、決定は、各遠方場検知ベクトル、即ち、電極24とデバイス12のハウジング14によって形成される電極との間、電極30とデバイス12のハウジング14によって形成される電極との間、およびリード16の電極24と電極30との間に形成される遠方場検知ベクトルについて行われ、心臓の固有伝導に起因する心室活性化が発生することが決定されず(ブロック106におけるNO)、したがって、遠方場検知ベクトルが廃棄されるか(ブロック108)、または、心臓の固有伝導に起因する心室活性化が発生することが決定される(ブロック106におけるYES)。決定が各遠方場検知ベクトルについて完了すると(ブロック110におけるNO)、プロセッサ70は、遠方場検知ベクトルのすべてが廃棄されたかどうかを決定する(ブロック112)。遠方場検知ベクトルの各々が破棄されている場合(ブロック112におけるYES)、プロセッサ70は、固有伝導が存在しないことを決定し、したがって、本デバイスがペーシングモードを切り換えるようにさせる(ブロック114)。例えば、プロセッサ70は、本デバイスが、VVIなどの非同期ペーシングモードへ切り換わるようにさせ得る。
【0048】
一方、遠方場検知ベクトルのすべてが廃棄されていない場合(ブロック114におけるNO)、プロセッサ70は、廃棄されなかった遠方場検知ベクトルの各々について、すなわち、心臓の固有伝導に起因する心室活性化が発生することが決定された(ブロック106におけるYES)遠方場ベクトルについて、検知される固有信号の信号特徴を決定する(ブロック116)。次いでプロセッサ70は、決定された信号特徴(ブロック116)に基づいてAV間隔を調整し(ブロック118)、デバイス12が、調整されたAV間隔を使用してLVペーシング療法を送達することを再開するようにさせる(ブロック120)。
【0049】
図7は、本開示に従う、医療デバイスシステムにおいてペーシング療法を調整するための遠方場固有心臓信号の検知のグラフィック表示である。
図7に例証されるように、固有伝導が発生することが決定される各遠方場検知ベクトルについての信号特徴の決定の間(
図6のブロック116)、プロセッサ70は、各遠方場検知ベクトル内の遠方場心臓信号200を検知する。
図7の例では、電極24とデバイス12のハウジング14によって形成される電極との間(FFベクトル1)、電極30とデバイス12のハウジング14によって形成される電極との間(FFベクトル2)、およびリード16の電極24と電極30との間(FFベクトル3)に形成される遠方場(FF)検知ベクトルが利用される。固有伝導は、遠方場ベクトルの各々について発生することが決定されるが、それは、対応する心臓信号200の各々が、既定の時間期間内の振幅しきい値を超える振幅202を有することが決定されるためである(
図6のブロック106におけるYES)。
【0050】
図8は、本開示に従う、LVペーシング療法を調整するための遠方場心臓特徴を決定するフローチャートである。
図7および
図8に例証されるように、遠方場心臓特徴の決定の間(
図6のブロック120)、プロセッサ70は、各遠方場心臓信号200を処理し、検知された遠方場信号200に基づいて、P波の始まり205およびP波の終わり206(ブロック300)を、QRS群の始まり208(ブロック302)と一緒に決定する。1つの例では、プロセッサ70は、P波の始まり204を、
図7の例では第2の遠方場検知ベクトル(FFベクトル2)の心臓信号200において発生する、3つの遠方場ベクトルによって検知される心臓信号200の最早の偏向210であるとして決定し得る。同じやり方で、プロセッサ70は、P波の終わり206を、第1のまたは最早の偏向210の直後に発生する、3つの遠方場ベクトルによって検知される心臓信号200の最後の偏向212であるとして決定し得る。
図7の例では、最後の偏向212は、第1の遠方場検知ベクトル(FFベクトル1)の心臓信号200内で発生する。同様に、プロセッサ70は、QRS群の始まり208を、
図7の例では第3の遠方場検知ベクトル(FFベクトル3)の心臓信号200内で発生する、最後の偏向212の直後またはそれに続いて発生する、3つの遠方場ベクトルによって検知される心臓信号200の最早の偏向214であるとして決定し得る。
【0051】
他の方法が、P波の始まり204、P波の終わり206、およびQRS群の始まり208を決定するために利用され得る。例えば、プロセッサ70は、P波の始まり204を決定するために、P波が発生することが決定される3つの遠方場検知ベクトルによって検知される(P波は第3の遠方場検知ベクトル(FFベクトル3)の遠方場信号200内では発生しない)心臓信号200の各々について発生する第1の偏向の平均、および第1の偏向の直後の3つの遠方場ベクトルによって検知される心臓信号200の後続の偏向の平均を決定し得る。次いでプロセッサは、同様に、第1の偏向の直後に発生することが以前に決定された後続の偏向の直後に発生する、3つの遠方場ベクトルによって検知される遠方場心臓信号200の第3の偏向の平均を決定する。
【0052】
P波の始まり204、P波の終わり206(ブロック300)、およびQRS群の始まり208(ブロック302)を決定することに加えて、プロセッサ70は、P波の始まり204からP波の終わり206までに及ぶP波持続時間216(ブロック304)、P波の始まり204からQRS群の始まり208までに及ぶPQ持続時間226(ブロック306)を決定する。P波持続時間216およびPQ持続時間226が一旦決定されると、プロセッサ70は、第1のオフセット220をP波持続時間216に追加して第1のオフセット間隔224を生成し、第2のオフセット222をPQ持続時間226から差し引いて第2のオフセット間隔218を生成することによって、オフセット間隔を決定する(ブロック308)。オフセット220、222は、プログラム可能であり、1つの例では、第1のオフセット220は、30msと設定され得、第2のオフセット222は、50msと設定され得る。
【0053】
次いでプロセッサ70は、第1のオフセット間隔224および第2のオフセット間隔218を比較し(ブロック310)、比較に基づいて、調整されたAV間隔を決定する(
図6のブロック122)。例えば、プロセッサ70は、第1のオフセット間隔224および第2のオフセット間隔218のうちの最早のものであるようにAV間隔を調整し得、これは、
図7の例では第1のオフセット間隔224である。例証のため、第1のオフセットが30msと設定され、第2のオフセット222が50msと設定されると仮定すると、PQ持続時間226が190msであると決定され、P波持続時間216が100msであると決定される場合、第2のオフセット間隔218、すなわち、PQ持続時間228-第2のオフセット222は、140msであると決定され、第1のオフセット間隔224、すなわち、P波持続時間216+第1のオフセット220は、130msであると決定される。したがって、第1のオフセット間隔224が、第2のオフセット間隔218よりも小さく、およびしたがって最早のものであるため、プロセッサ70は、AV間隔を第1のオフセット間隔224に等しくなるように調整する。その結果、プロセッサ70は、デバイス12が、第1のオフセット間隔224および第2のオフセット間隔218のうちの最早のものの値に設定される調整されたAV間隔を用いてLVペーシング療法を送達することを再開するようにさせる(
図6のブロック120)。
【0054】
図9は、本開示に従う、医療デバイスシステムにおいてペーシング療法を調整するための遠方場固有心臓信号の検知のグラフィック表示である。
図9に例証される例では、第1のオフセット間隔224および第2のオフセット間隔218のうちの最早のものは、第2のオフセット間隔218である。その結果、プロセッサ70は、デバイス12が、第2のオフセット間隔218の値に設定される調整されたAV間隔を用いてLVペーシング療法を送達することを再開するようにさせる(
図6のブロック120)。
【0055】
IMD12、プロセッサ70、プログラマ22、または様々な構成コンポーネントに起因するものを含む、本開示に説明される技術は、少なくとも部分的に、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはそれらの任意の組み合わせで実装され得る。例えば、本技術の様々な態様は、1つもしくは複数のマイクロプロセッサ、DSP、ASIC、FPGA、または任意の他の等価の集積もしくは離散論理回路、ならびに、医師もしくは患者プログラマ、刺激装置、画像処理デバイス、または他のデバイスなど、プログラマにおいて具現化されるそのようなコンポーネントの任意の組み合わせを含む、1つまたは複数のプロセッサ内で実装され得る。用語「モジュール」、「プロセッサ」、または「処理回路」は、一般的に、単独の、もしくは他の論理回路と組み合わせた、先述の論理回路のいずれかを、または任意の他の等価の回路を指し得る。
【0056】
そのようなハードウェア、ソフトウェア、および/またはファームウェアは、本開示に説明される様々な動作および機能をサポートするために、同じデバイス内または別個のデバイス内に実装され得る。加えて、説明されたユニット、モジュール、またはコンポーネントのいずれかは、一緒に、または、離散であるが相互運用可能な論理デバイスとして別個に、実装され得る。モジュールまたはユニットとしての異なる機能の説明は、異なる機能的態様を強調することが意図されるものであり、そのようなモジュールまたはユニットが別個のハードウェアまたはソフトウェアコンポーネントとして実現されなければならないことを必ずしも示唆しない。むしろ、1つまたは複数のモジュールまたはユニットと関連付けられた機能は、別個のハードウェアもしくはソフトウェアコンポーネントによって実施され得るか、または共通もしくは別個のハードウェアもしくはソフトウェアコンポーネント内に統合され得る。
【0057】
ソフトウェアで実装されるとき、本開示において説明されるシステム、デバイス、および技術に帰する機能は、RAM、ROM、NVRAM、EEPROM、FLASH(登録商標)メモリ、磁気データ記憶媒体、光学データ記憶媒体、または同様のものなどのコンピュータ可読媒体上の命令として具現化され得る。命令は、本開示において説明される機能の1つまたは複数の態様をサポートするために、1つまたは複数のプロセッサによって実行され得る。
【0058】
本開示は、例証的な実施形態を参照して提供されており、限定する意味に解釈されることは意図されない。以前に説明されるように、当業者は、他の様々な例証的な応用が、本明細書に説明される装置および方法の有益な特徴を活用するために本明細書に説明されるような技術を使用し得ることを認識するものとする。例証的な実施形態の様々な修正形態、ならびに本開示の追加の実施形態は、本説明を参照する際に明らかになるものとする。