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特許7333384心房細動の評価における循環SPON-1(スポンジン-1)
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】心房細動の評価における循環SPON-1(スポンジン-1)
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230817BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/68
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021510029
(86)(22)【出願日】2019-08-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 EP2019072381
(87)【国際公開番号】W WO2020039001
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】18190237.0
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(73)【特許権者】
【識別番号】503285519
【氏名又は名称】ユニベルシテイト マーストリヒト
(73)【特許権者】
【識別番号】517079054
【氏名又は名称】アカデミシュ ジーケンハウス マーストリヒト
【氏名又は名称原語表記】ACADEMISCH ZIEKENHUIS MAASTRICHT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【弁理士】
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】カストナー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ディートリッヒ,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ツィーグラー,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ビーンヒューズ-テレン,ウルスラ-ヘンリケ
(72)【発明者】
【氏名】ロルニー,ビンツェント
(72)【発明者】
【氏名】ショッテン,ウルリヒ
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-528576(JP,A)
【文献】国際公開第2018/024905(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0015904(US,A1)
【文献】CHEN, C-L. et al.,Altered expressionofFHL1,CARP,TSC-22andP311provideinsightsinto complex transcriptionalregulationinpacing-inducedatrialfibrillation,BIOCHIMICA ET BIOPHYSICA ACTA,2006年11月06日,Vol.1772,p.317-329
【文献】KIRCHHOF, P. et al.,Overexpression of cAMP-response element modulator causes abnormal growth and development of the atrial myocardium resulting in a substrate for sustained atrial fibrillation in mice,INTERNATIONAL JOURNAL OF CARDIOLOGY,2013年06月20日,Vol.166/No.2,p.366-374
【文献】DE GROOT, N.M.S. et al.,Electropathological Substrate of Longstanding Persistent Atrial Fibrillation in Patients With Structural Heart Disease,CIRCULATION,2010年10月26日,Vol.122/No.17,p.1674-1682
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象の心房細動を評価するための方法であって、
a)前記ヒト対象からの少なくとも1つの血液、血清、または血漿サンプルにおいて、SPON-1(スポンジン-1)ポリペプチドの量、または、SPON-1(スポンジン-1)ポリペプチドの量およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、ならびに
b)前記SPON-1ポリペプチドの量をSPON-1の参照量と比較する工程、または前記SPON-1ポリペプチドの量をSPON-1の参照量と比較する工程および前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それによって心房細動を評価するための指標が提供される、方法。
【請求項2】
前記心房細動の評価が心房細動の診断であ、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記参照量を超える前記SPON-1ポリペプチドの量、もしくは、前記参照量を超える前記SPON-1ポリペプチドの量および前記参照量を超える前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、心房細動に罹患している対象の指標であり、かつ/または
前記参照量以下の前記SPON-1ポリペプチドの量、もしくは、前記参照量以下の前記SPON-1ポリペプチドの量および前記参照量以下の前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、心房細動に罹患していない対象の指標である、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象が心房細動に罹患しており、前記心房細動の評価が発作性心房細動と持続性心房細動との区別であ、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記参照量を超える前記SPON-1ポリペプチドの量、もしくは、前記参照量を超える前記SPON-1ポリペプチドの量および前記参照量を超える前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、持続性心房細動に罹患している対象の指標であり、かつ/または
前記参照量以下の前記SPON-1ポリペプチドの量、もしくは、前記参照量以下の前記SPON-1ポリペプチドの量および前記参照量以下の前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、発作性心房細動に罹患している対象の指標である、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記心房細動の評価が、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測であり、前記心房細動に関連する有害事象が、心房細動の再発および/または脳卒中である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記参照量を超える前記SPON-1ポリペプチドの量、もしくは、前記参照量を超える前記SPON-1ポリペプチドの量および前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、心房細動に関連する有害事象に罹患するリスクがある対象の指標であり、かつ/または
前記参照量以下の前記SPON-1ポリペプチドの量、もしくは、前記参照量を超える前記SPON-1ポリペプチドの量および前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、心房細動に関連する有害事象に罹患するリスクがない対象の指標である、
請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記心房細動の評価が心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定であるか、または前記心房細動の評価が、抗凝固療法の評価を含む心房細動の治療の評価である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ヒト対象の脳卒中のリスクを予測するための方法であって、
(a)前記ヒト対象からの少なくとも1つの血液、血清、または血漿サンプルにおいて、SPON-1(スポンジン-1)ポリペプチドの量、または、SPON-1(スポンジン-1)ポリペプチドの量およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、(b)前記ヒト対象の臨床的脳卒中リスクスコアを評価する工程、ならびに
(c)工程a)およびb)の結果に基づいて、脳卒中のリスクの指標が提供される工程を含み、
ここで前記臨床的脳卒中リスクスコアが、CHA DS -VAScスコア、CHADS スコア、またはABCスコアである、方法。
【請求項10】
ヒト対象の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
a)既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有するヒト対象からの少なくとも1つの血液、血清または血漿サンプルにおいて、SPON-1(スポンジン-1)ポリペプチドの量、または、SPON-1(スポンジン-1)ポリペプチドの量およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、ならびに
b)前記SPON-1ポリペプチドの量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANGT2、IGFBP7を含む1つ以上のバイオマーカーの量の値を前記臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせる工程を含み、それによって前記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する、方法。
【請求項11】
心房細動の評価を支援する方法であって、
a)ヒト対象からの少なくとも1つの血液、血清、または血漿サンプルを提供する工程、
b)工程a)で提供された前記少なくとも1つの血液、血清、または血漿サンプルにおいて、SPON-1(スポンジン-1)ポリペプチドの量、または、SPON-1(スポンジン-1)ポリペプチドの量およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、ならびに
c)前記SPON-1ポリペプチドの決定された量に関する情報、または、前記SPON-1ポリペプチドの決定された量に関する情報および前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供する工程を含み、それによって心房細動の評価を支援する、方法。
【請求項12】
ヒト対象の心房細動の評価を支援するための方法であって、
a)SPON-1ポリペプチドのアッセイ、または、SPON-1ポリペプチドのアッセイおよびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択されるさらなるバイオマーカーの少なくとも1つのさらなるアッセイを提供する工程、ならびに
b)心房細動の評価での前記アッセイによって得られたアッセイ結果の使用についての指示を提供する工程を含む、方法。
【請求項13】
心房細動を評価するためのコンピュータ実装方法であって、
a)処理ユニットで、ヒト対象からの血液、血清、または血漿サンプルにおいて決定されたSPON-1ポリペプチドの量の値、または、SPON-1ポリペプチドの量の値およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量の少なくとも1つのさらなる値を受けとること、
b)前記処理ユニットによって、工程a)で受信した1つまたは複数の値を1つまたは複数の参照と比較すること、および
c)比較工程b)に基づいて心房細動を評価することを含む、方法。
【請求項14】
心房細動を評価するためのキットであって、ヒトSPON-1ポリペプチドに特異的に結合する薬剤と、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM-1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤とを含む、キット。
【請求項15】
インビトロ使用であって、
i)SPON-1ポリペプチド、または、SPON-1ポリペプチドおよびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカー、ならびに/または
ii)前記SPON-1ポリペプチドに特異的に結合する薬剤、または、前記SPON-1ポリペプチドに特異的に結合する薬剤およびナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM-1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤の、
ヒト対象からの血液、血清または血漿サンプル中における、
a)心房細動の評価、b)対象の脳卒中のリスクの予測、およびc)臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度の改善のための、インビトロ使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における心房細動を評価するための方法であって、前記方法が、対象からのサンプル中のSPON-1の量を決定する工程、およびSPON-1の量を参照量と比較する工程とを含み、それによって心房細動を評価する、方法に関する。さらに、本発明は、SPON-1の量に基づいて脳卒中を予測するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動(AF)は、最も一般的なタイプの心不整脈であり、高齢者の間で最も蔓延している状態の1つである。心房細動は、不規則な心臓の拍動を特徴とし、短時間の異常な拍動から始まることが多く、時間の経過とともに増加し、永続性の状態となる可能性がある。米国では推定270~610万人が心房細動を発症し、全世界で約3300万人が心房細動を発症している(Chugh S.S.et al.,Circulation 2014;129:837-47)。
【0003】
心房細動などの心不整脈の診断には、通常、不整脈の原因の特定、および不整脈の分類が含まれる。米国心臓病学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、および欧州心臓病学会(ESC)による心房細動の分類のガイドラインは、主に単純性および臨床的関連性に基づいている。第1のカテゴリーは、「最初に検出されたAF」と呼ばれる。このカテゴリーの人々は、初めてAFと診断され、過去に検出されなかったエピソードがあったかどうかは不明である。最初に検出されたエピソードは1週間未満で自然に止むが、その後に別のエピソードが続く場合、カテゴリーは「発作性AF」へと変わる。このカテゴリーの患者のエピソードは最大7日間続くが、発作性心房細動のほとんどのケースでは、エピソードは24時間未満で止まる。エピソードが1週間を超えて続く場合は、「持続性AF」に分類される。そのようなエピソードが電気的または薬理学的除細動によって止められず、1年を超えて続く場合、分類は「永続性AF」に変更される。心房細動は脳卒中および全身性塞栓症の重要な危険因子であるため、心房細動の早期診断が強く望まれている(Hart et al.,Ann Intern Med 2007,146(12):857-67;Go AS et al.JAMA 2001;285(18):2370-5)。脳卒中は、高所得国における失われた障害調整生存年数の原因として、また世界中の死因として、虚血性心疾患に次いで、2番目となっている。脳卒中のリスクを低減するためには、抗凝固療法が最も適切な治療法と考えられる。
【0004】
心房細動の評価および脳卒中の予測を可能にするバイオマーカーが、強く望まれる。
【0005】
Latini R.et al.(J Intern Med.2011 Feb;269(2):160-71)は、心房細動を有する患者の様々な循環バイオマーカー(hsTnT、NT-proBNP、MR-proANP、MR-proADM、コペプチン、およびCT-プロエンドセリン-1)を測定した。
【0006】
スポンジン-1(SPON-1)は、脊髄と感覚ニューロン細胞との付着、および神経突起の成長をインビトロで促進する細胞接着タンパク質である。(類似性により)脊髄およびPNSの両方の軸索の成長および誘導に寄与し得る。血管平滑筋細胞の主な要素。それは、細胞外マトリックスに位置する神経調節タンパク質であり、血管平滑筋細胞の軸索の成長および誘導において役割を果たすことが示された。(Klar et al.Cell、1992、Vol.69、pp 95-110)変形性関節症におけるSPON-1の役割は、例えば、Tan et al.BMC structural biology,2011,Vol.11,pp22)に記載された。
【0007】
Stenemo et al.は、UlsamコホートのSPON-1ベースラインレベルと心エコー検査による左心室収縮機能の悪化の転帰との関連を説明する(Stenemo et al.、2017、EJHF;20:1:55)。
【0008】
Lind et al.は、2つの集団コホートでの数年間の追跡調査後に、心房細動を発症するリスクに関するバイオマーカーの特定について説明する(Lind et al.Heart 2017;103:377-382)。85のマーカー、とりわけSPON-1が試験された。SPON-1は、心房細動のリスクに関して有意に関連していないことが示された。
【0009】
心房細動の診断、心房細動患者のリスク(脳卒中の発生など)階層化、および心房細動の重症度の評価を含む、心房細動の評価のための信頼できる方法が必要である。さらに、脳卒中を予測する方法の改善が強く望まれている。
【0010】
本発明の根底にある技術的な課題は、上述のニーズに対応する方法の提供としてとらえることができる。この技術的な課題は、以下の特許請求の範囲および本明細書において特徴付けられる実施形態によって、解決される。
【0011】
有利なことに、対象からのサンプル中のSPON-1の量の決定によって心房細動の評価を改善できることが、本発明の研究の文脈において見出された。本発明によって、例えば、対象が心房細動に罹患しているのか、または脳卒中に罹患するリスクがあるのかを診断できる。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、対象の心房細動を評価するための方法であって、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーSPON-1の量をSPON-1の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それによって心房細動を評価する方法に関する。
【0013】
本発明はさらに、心房細動の評価を支援する方法であって、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルを提供する工程、
b)工程a)で提供された少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
c)バイオマーカーSPON-1の決定された量に関する情報、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供する工程を含み、それによって心房細動の評価を支援する方法に関する。
【0014】
さらに、本発明は、心房細動の評価を支援するための方法であって、
a)バイオマーカーSPON-1のアッセイ、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択されるさらなるバイオマーカーの少なくとも1つのさらなるアッセイを提供すること、および
b)心房細動の評価における上記アッセイによって得られた、または得られ得るアッセイ結果の使用についての指示を提供することを含む、方法を企図する。
【0015】
また、本発明は、心房細動を評価するためのコンピュータ実装方法であって、
a)処理ユニットで、対象からのサンプルにおいて決定されたSPON-1の量の値、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量の少なくとも1つのさらなる値を受信すること、
b)前記処理ユニットによって、工程a)で受信した1つまたは複数の値を1つまたは複数の参照と比較すること、および
c)比較工程b)に基づいて心房細動を評価すること、を含む方法を含有する。
【0016】
本発明はさらに、対象の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
(a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
(b)前記対象の臨床的脳卒中リスクスコアを評価する工程、および
(c)工程a)およびb)の結果に基づいて、脳卒中のリスクを予測する工程を含む、方法に関する。
【0017】
本発明はさらに、対象の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
a)既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)SPON-1の量、および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANGT2、IGFBP7を含む1つ以上のバイオマーカーの量の値を臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせる工程を含み、それによって前記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法に関する。
【0018】
本発明はさらに、SPON-1に特異的に結合する薬剤と、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM-1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤とを含むキットに関する。
【0019】
さらに、本発明は、
i)バイオマーカーSPON-1、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカー、ならびに/または
ii)SPON-1に特異的に結合する少なくとも1つの薬剤、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM-1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤の、
a)心房細動の評価、b)対象の脳卒中のリスクの予測、およびc)臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度の改善のための、インビトロ使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、対象の心房細動を評価するための方法であって、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量を決定する工程、および
b)バイオマーカーSPON-1の量をSPON-1の参照量と比較する工程を含み、それによって心房細動を評価する方法に関する。
【0021】
本発明の方法の一実施形態では、この方法は、工程a)の対象からのサンプル中において、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定すること、および少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、工程b)の参照量と比較することをさらに含む。
【0022】
したがって、本発明は、対象の心房細動を評価するための方法であって、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーSPON-1の量をSPON-1の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それによって心房細動を評価する方法に関する。
【0023】
心房細動(AF)の評価は、比較工程b)の結果に基づくものとする。
【0024】
したがって、本発明の方法は、好ましくは、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、
b)バイオマーカーSPON-1の量をSPON-1の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程、および
c)比較工程b)の結果に基づいて心房細動を評価する工程を含む。
【0025】
本発明によって言及される方法は、本質的に上述の工程からなる方法、またはさらなる工程を含む方法、を含む。さらに、本発明の方法は、好ましくは、エクスビボ、より好ましくはインビトロの方法である。さらに、それは、上記で明示的に述べられたものに加えた工程を含んでもよい。例えば、さらなる工程では、さらにマーカーを決定したり、および/または治療前のサンプルを採取したり、その方法で得られた結果を評価したりし得る。この方法は、手動で実行しても、自動化によって支援してもよい。好ましくは、工程(a)、(b)および/または(c)は、全体的または部分的に、自動化によって、例えば、工程(a)における決定または工程(b)におけるコンピュータ実装計算のため、適切なロボットおよび感覚的機器によって、支援されてもよい。
【0026】
本発明に従って、心房細動が評価されるものとする。本明細書で使用される「心房細動を評価する」という用語は、好ましくは、心房細動の診断、発作性心房細動と持続性心房細動との区別、心房細動に関連する有害事象(脳卒中など)のリスクの予測、心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定、または心房細動の治療の評価を指す。
【0027】
当業者によって理解されるように、本発明の評価は、通常、試験される対象の100%について正しいことを意図するものではない。この用語は、好ましくは、対象の統計的に有意な部分に対して、正しい評価(例えば、本明細書でいう治療の診断、区別、予測、特定、または評価)を行うことができること、を必要とする。部分が統計的に有意であるかどうかは、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定などの様々な周知の統計評価ツールを使用して、当業者がすぐさま決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden、Statistics for Research、John Wiley&Sons、New York 1983に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.4、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0028】
本発明によれば、「心房細動の評価」という表現は、心房細動の評価の支援として、したがって心房細動の診断の支援として、発作性心房細動と持続性心房細動との区別の支援として、心房細動に関連する有害事象のリスク予測の支援として、心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定の支援として、または心房細動の治療の評価の支援として理解される。最終的な診断は、原則として医師が行う。
【0029】
本発明の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、心房細動の診断である。したがって、対象が心房細動に罹患しているか否かが診断される。
【0030】
したがって、本発明は、対象の心房細動を診断する方法であって、
a)対象からのサンプル中のSPON-1の量を決定する工程、および
b)SPON-1の量を参照量と比較する工程を含み、それによって心房細動を診断する方法を想定する。
【0031】
一実施形態では、前述の方法は、
(a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
(b)バイオマーカーSPON-1の量をSPON-1の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それによって心房細動を診断する。
【0032】
好ましくは、心房細動を診断する方法に関連して試験される対象は、心房細動の罹患が疑われる対象である。しかしながら、対象がAFに罹患していると以前にすでに診断されていること、および以前の診断が本発明の方法を実施することによって確認されることも企図される。
【0033】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、発作性心房細動と持続性心房細動との間の区別である。したがって、対象が発作性心房細動または持続性心房細動に罹患しているかどうかが決定される。
【0034】
したがって、本発明は、対象における発作性心房細動と持続性心房細動とを区別するための方法であって、
a)対象からのサンプル中のSPON-1の量を決定する工程、および
b)SPON-1の量を参照量と比較する工程を含み、それによって発作性心房細動と持続性心房細動とを区別する方法を想定する。
【0035】
一実施形態では、前述の方法は、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーSPON-1の量をSPON-1の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それによって発作性心房細動と持続性心房細動とを区別する。
【0036】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、心房細動に関連する有害事象(脳卒中など)のリスクの予測である。したがって、対象が前記有害事象のリスクがあるかどうか、および/またはリスクがないかどうかが予測される。
【0037】
したがって、本発明は、対象における心房細動に関連する有害事象のリスクを予測する方法であって、
a)対象からのサンプル中のSPON-1の量を決定する工程、および
b)SPON-1の量を参照量と比較する工程を含み、それによって心房細動に関連する有害事象のリスクを予測する方法を想定する。
【0038】
一実施形態では、前述の方法は、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーSPON-1の量をSPON-1の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それによって心房細動に関連する有害事象のリスクを予測する。
【0039】
様々な有害事象を予測できることが想定される。予測される有害事象は、好ましくは脳卒中である。
【0040】
したがって、本発明は、特に、対象の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a)対象からのサンプル中のSPON-1の量を決定する工程、および
b)SPON-1の量を参照量と比較する工程を含み、それによって脳卒中のリスクを予測する方法を企図する。
【0041】
前述の方法は、工程b)の比較結果に基づいて脳卒中を予測する工程c)をさらに含み得る。したがって、工程a)、b)、c)は、好ましくは以下の通りである。
【0042】
a)対象からのサンプル中のSPON-1の量を決定する工程、および
b)SPON-1の量を参照量と比較する工程、および
c)工程b)の比較結果に基づいて脳卒中を予測する工程。
【0043】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、心房細動の治療の評価である。
【0044】
したがって、本発明は、対象における心房細動の治療を評価するための方法であって、
a)対象からのサンプル中のSPON-1の量を決定する工程、および
b)SPON-1の量を参照量と比較する工程を含み、それによって心房細動の治療を評価する方法を想定する。
【0045】
一実施形態では、前述の方法は、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーSPON-1の量をSPON-1の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それによって心房細動の治療を評価する。
【0046】
好ましくは、前述の区別、前述の予測、および心房細動の治療の評価に関連する対象は、心房細動に罹患している、特に心房細動に罹患していることが知られている(したがって、心房細動の既知の病歴を有する)対象である。しかしながら、前述の予測方法に関して、対象が心房細動の既知の病歴を有していないことも想定される。
【0047】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定である。したがって、誰が心電図検査を受けるべきかを特定する。
【0048】
この方法は、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーSPON-1の量をSPON-1の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み得、それによって心電図検査を受けるべき対象を特定する。
【0049】
好ましくは、心電図検査を受けるべき対象を特定する前述の方法に関連する対象は、心房細動の既知の病歴を有さない対象である。「心房細動の既知の病歴がない」という表現は、本明細書の他の場所で定義されている。
【0050】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、対象の抗凝固療法の有効性の評価である。したがって、前記療法の有効性が評価される。
【0051】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、対象における脳卒中のリスクの予測である。したがって、本明細書で言及される対象に、脳卒中のリスクがあるか否かが予測される。
【0052】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格であるか、または少なくとも1つの抗凝固薬の投与量を増やすのに適格である対象の特定である。したがって、対象が前記投与および/または前記投与量の増加に適格であるかどうかが評価される。
【0053】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、抗凝固療法のモニタリングである。したがって、対象が前記療法に反応するか否かが評価される。
【0054】
「心房細動」(「略して」AFまたはAFib)という用語は、当技術分野でよく知られている。本明細書で使用される場合、この用語は、好ましくは、心房の機械的機能の結果としての悪化を伴う非協調的な心房活性化を特徴とする、上室性頻脈性不整脈を指す。特に、この用語は、急速で不規則な鼓動を特徴とする異常な心臓のリズムを指す。それは、心臓の2つの上部房と関連する。正常な心臓のリズムでは、洞房結節によって生成されたインパルスが心臓全体に広がり、心筋の収縮と血液のポンピングを引き起こす。心房細動では、洞房結節の規則的な電気インパルスが、不規則な心拍を引き起こす、無秩序で急速な電気インパルスに置き換えられる。心房細動の症状は、心臓の動悸、失神、息切れ、または胸痛である。ただし、ほとんどのエピソードには症状がない。心電図では、心房細動は、振幅、形状、およびタイミングが変化する急速な振動または細動波による均一なP波の置換を特徴とし、心房室伝導が正常な場合に、不規則に頻繁に心室応答が速くなることに関連する。
【0055】
米国心臓病学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、および欧州心臓病学会(ESC)は、次の分類システムを提案する(これとともに、その全体が参考として組み込まれるFuster V.et al.,Circulation 2006;114(7):e257-354を参照のこと、例えば、文書中図3を参照のこと)。最初に検出されたAF、発作性AF、持続性AF、および永続性AF。
【0056】
AFがあるすべての人々は、病初では、最初に検出されたAFと呼ばれるカテゴリーに属する。ただし、対象は、以前に検出されなかったエピソードを持っている場合と持っていない場合があってもよい。AFが1年を超えて持続し、特に洞調律への転換が起こらない場合(または医学的介入がある場合のみ)、対象は永続性心房細動に罹患している。AFが7日を超えて続く場合、対象は持続性AFに罹患している。対象は、心房細動を止めるために、薬理学的または電気的介入のいずれかを必要とする場合がある。好ましくは、持続性AFはエピソードで発生するが、不整脈は、通常自然には(つまり、医学的介入なしで)洞調律に戻らない。発作性心房細動は、好ましくは、最大7日間続く心房細動の断続的なエピソードを指す。発作性AFのほとんどの場合、エピソードが続くのは、24時間未満である。心房細動のエピソードは、自然に、つまり医学的介入なしに終了する。したがって、発作性心房細動のエピソードは、好ましくは自然に終了するが、持続性心房細動のエピソードは、好ましくは自然に終了しない。好ましくは、持続性心房細動は、終了させるために、電気的もしくは薬理学的電気除細動、またはアブレーション治療などの他の方法を必要とする(Fuster V.et al.,Circulation 2006;114(7):e257-354)。持続性AFおよび発作性AFの両方が再発する可能性があり、それによって発作性AFと持続性AFとの区別がECG記録によって提供される。患者が2回以上のエピソードを経験した場合、AFは再発と見なされる。不整脈が自然に終了する場合、AF、特に再発性AFは発作性に指定される。AFは、7日を超えて続く場合、持続性と指定される。
【0057】
本発明の好ましい実施形態では、「発作性心房細動」という用語は、自然に終了するAFのエピソードとして定義され、前記エピソードは24時間未満続く。代替の実施形態では、自然に終了するエピソードは、最大7日間続く。
【0058】
本明細書でいう「対象」は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物としては、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(例えば、ヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、対象は、ヒト対象である。
【0059】
好ましくは、試験される対象は、任意の年齢であり、より好ましくは、試験される対象は、50歳以上、より好ましくは60歳以上、最も好ましくは65歳以上である。さらに、試験される対象は、70歳以上であることが想定される。
【0060】
加えて、試験される対象は、75歳以上であることが想定される。また、対象は、50歳~90歳の間であってよい。
【0061】
心房細動を評価する方法の好ましい一実施形態では、試験される対象は、心房細動に罹患しているものとする。したがって、対象は、既知の心房細動の病歴を有するものとする。したがって、対象は、試験サンプル採取の前に心房細動のエピソードを経験したものとし、以前の心房細動のエピソードの少なくとも1つが、例えばECGによって診断されたものとする。例えば、心房細動の評価が発作性心房細動と持続性心房細動との区別である場合、または心房細動の評価が心房細動に関連する有害事象のリスクの予測である場合、または心房細動の評価が心房細動の治療の評価である場合、対象は心房細動に罹患していることが想定される。
【0062】
心房細動を評価する方法の別の好ましい実施形態では、例えば心房細動の評価が心房細動の診断、または心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定である場合、試験される対象は、心房細動に罹患していることが疑われる。
【0063】
好ましくは、心房細動の罹患が疑われる対象は、心房細動を評価するための方法を実施する前に、心房細動の少なくとも1つの症状を示した対象である。上記の症状は通常一過性であり、数秒で発生し、同じくらい早く消える可能性がある。心房細動の症状には、めまい、失神、息切れ、特に心臓の動悸が含まれる。好ましくは、対象は、サンプル採取の前の6ヶ月以内に心房細動の少なくとも1つの症状を示した。
【0064】
代替的または追加的に、心房細動の罹患が疑われる対象は、70歳以上であるものとする。
【0065】
好ましくは、心房細動の罹患が疑われる対象は、心房細動の既知の病歴を有さないものとする。
【0066】
本発明によれば、心房細動の既知の病歴を有さない対象は、好ましくは、過去に、すなわち本発明の方法を実施する前(特に対象からサンプルを採取する前)に心房細動に罹患していると診断されていない対象である。しかしながら、対象は、過去に診断されなかった心房細動のエピソードを有しても、有さなくてもよい。
【0067】
好ましくは、「心房細動」という用語は、すべてのタイプの心房細動を指す。したがって、この用語は、発作性、持続性、または永続性の心房細動を包含することが好ましい。
【0068】
しかしながら、本発明の一実施形態では、試験される対象は、永続性心房細動に罹患していない。この実施形態では、「心房細動」という用語は、発作性心房細動および持続性心房細動のみを指す。
【0069】
しかしながら、本発明の別の実施形態では、試験される対象は、発作性心房細動および永続性心房細動に罹患していない。この実施形態では、「心房細動」という用語は、持続性心房細動のみを指す。
【0070】
試験される対象は、サンプルの採取時に心房細動のエピソードを経験しても、しなくてもよい。したがって、心房細動の評価の好ましい実施形態では(例えば心房細動の診断では)、対象は、サンプルの採取時に心房細動のエピソードを経験しない。この実施形態では、対象は、サンプルの採取時に正常な洞調律を有するものとする(したがって、洞調律であるものとする)。したがって、心房細動の(一時的な)不在下でも心房細動の診断が可能である。本発明の方法によれば、本明細書で言及されるバイオマーカーの上昇は、心房細動のエピソード後に維持され、したがって、心房細動に罹患した対象の診断を提供する。本発明の方法を実施した後(より正確には、サンプルを採取した後)、約3日以内、約1ヶ月以内、約3ヶ月以内、または約6ヶ月以内のAFの診断が好ましい。好ましい実施形態では、エピソード後約6ヶ月以内で心房細動の診断が実行可能である。好ましい実施形態では、エピソード後約6ヶ月以内で心房細動の診断が実行可能である。したがって、本明細書で言及される心房細動の評価、特に心房細動の評価に関連して本明細書で言及される診断、リスクの予測、または区別は、心房細動の最後のエピソードから好ましくは約3日後、より好ましくは約1ヶ月後、さらにより好ましくは約3ヶ月後、最も好ましくは約6ヶ月後に実施される。したがって、試験されるサンプルは、心房細動の最後のエピソード後、好ましくは約3日後、より好ましくは約1ヶ月後、さらにより好ましくは約3ヶ月後、最も好ましくは約6ヶ月後に採取されることが想定される。したがって、心房細動の診断は、サンプルが採取される前の好ましくは約3日以内、より好ましくは約3ヶ月以内、最も好ましくは約6ヶ月以内に発生した心房細動のエピソードの診断も包含することが好ましい。
【0071】
しかしながら、サンプルの採取時に(例えば、脳卒中の予測に関して)、対象が心房細動のエピソードを経験することも想定される。
【0072】
「サンプル」という用語は、体液のサンプル、分離された細胞のサンプル、または組織や器官からのサンプルを指す。体液のサンプルは、周知の技術によって採取することができ、また血液、血漿、血清、尿、リンパ液、痰、腹水、またはその他の体分泌物もしくはその誘導体のサンプルが含まれる。組織または器官のサンプルは、例えば生検によって、任意の組織または器官から採取してもよい。分離された細胞は、体液または組織または器官から、遠心分離または細胞選別などの分離技術によって、採取してもよい。例えば、バイオマーカーを発現または産生する細胞、組織、器官から、細胞、組織、器官のサンプルを採取してもよい。サンプルは、凍結されても、生であっても、固定(例えば、ホルマリン固定)されても、遠心分離および/または包埋(例えば、パラフィン包埋)されてもよい。もちろん、細胞サンプルは、サンプル中のバイオマーカーの量を評価する前に、様々な周知の収集後の分取および保管技術(例えば、核酸および/またはタンパク質の抽出、固定、保管、凍結、限外濾過、濃縮、蒸発、遠心分離など)を実施され得る。
【0073】
本発明の好ましい一実施形態では、サンプルは、血液(すなわち、全血)、血清または血漿サンプルである。血清とは、血液が血餅になった後に採取される全血の液体画分である。血清を採取するためには、血餅を遠心分離によって除去し、上清を収集する。血漿は、血の無細胞流動部分である。血漿サンプルを得るために、全血は、抗凝固剤処理されたチューブ(例えば、クエン酸塩処理またはEDTA処理されたチューブ)で収集される。遠心分離により細胞をサンプルから除去し、それから上清(すなわち、血漿サンプル)を採取する。
【0074】
上記のように、対象はサンプルが採取された時点で、洞調律であっても、または心房細動のエピソード患っていてもよい。
【0075】
本発明によれば、バイオマーカーSPON1(スポンジン-1)の量を決定するものとする。バイオマーカーは、F-スポンジン、f-スポンジン、およびVSGP/F-スポンジン(血管平滑筋細胞の成長促進因子)としても知られている。SPON1は、発達中の脊椎動物の神経系における神経細胞のパターン形成および軸索成長の制御に関係する腹側構造の、ラット胚の底板で最初に同定された。SPON1は、N末端リーリンドメイン、スポンジンドメイン、および6つのトロンボスポンジン1型リピートを含む複数のドメインを有する、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質である。バイオマーカーは、卵巣、肺、腎臓、前立腺、および精巣などの様々な臓器で発現することが知られている。
【0076】
一実施形態では、SPON1は、ヒトSPON1である。ヒトSPON1は、807アミノ酸長を有する。ヒトSPON1のアミノ酸配列は当技術分野で知られており、例えば、Uniprotによって評価することができる(配列については、Q9HCB6-1を参照されたい)。ヒトSPON1は、翻訳後に切断される短いシグナルペプチド(アミノ酸1~28)を含む。
【0077】
「ナトリウム利尿ペプチド」という用語は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)型および脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)型のペプチドを含む。したがって、本発明によるナトリウム利尿ペプチドは、ANP型ペプチドおよびBNP型ペプチドおよびそれらの変異体を含む(例えば、Bonow RO.et al.,Circulation 1996;93:1946-1950を参照のこと)。
【0078】
ANP型ペプチドには、pre-proANP、proANP、NT-proANP、およびANPが含まれる。
【0079】
BNP型ペプチドには、pre-proBNP、proBNP、NT-proBNP、およびBNPが含まれる。
【0080】
pre-proペプチド(pre-proBNPの場合は134アミノ酸)は、酵素的に切断されてプロペプチド(proBNPの場合は108アミノ酸)を放出する短いシグナルペプチドを含む。proペプチドはさらにN末端proペプチド(NT-proペプチド、NT-proBNPの場合は76アミノ酸)と活性ホルモン(BNPの場合は32アミノ酸、ANPの場合は28アミノ酸)とに切断される。
【0081】
本発明による好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT-proANP、ANP、NT-proBNP、BNPである。ANPおよびBNPは活性ホルモンであり、それぞれの不活性な対応物であるNT-proANPおよびNT-proBNPよりも半減期が短い。BNPは血中で代謝されるが、NT-proBNPは無傷の分子として血中を循環し、腎臓で除去される。
【0082】
本発明による最も好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT-proBNPおよびBNP、特にNT-proBNPである。上で簡単に論じたように、本発明に従って言及されるヒトNT-proBNPは、好ましくは、ヒトNT-proBNP分子のN末端部分に対応する長さ76アミノ酸を含むポリペプチドである。ヒトBNPおよびNT-proBNPの構造は、先行技術、例えば、国際公開第02/089657号、国際公開第02/083913号、およびBonow RO.Et al.,New Insights into the cardiac natriuretic peptides.Circulation 1996;93:1946-1950に、すでに詳細に記載されている。好ましくは、本明細書で使用されるヒトNT-proBNPは、欧州特許第0648228B1に開示されるヒトNT-proBNPである。
【0083】
IGFBP-7(インスリン様増殖因子結合タンパク質7)は、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞から分泌されることが知られている30kDaのモジュラー糖タンパク質である(Ono,Y.,et al、Biochem Biophys Res Comm 202(1994)1490-1496)。好ましくは、「IGFBP-7」という用語は、ヒトIGFBP-7を指す。タンパク質の配列は、当該技術分野で周知であり、例えば、UniProt(Q16270、IBP7 HUMAN)、またはGenBank(NP 001240764.1)を介してアクセスできる。バイオマーカーのIGFBP-7の詳細な定義は、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2008/089994号に提供されている。IGFBP-7には2つのアイソフォーム、アイソフォーム1および2があり、これらは選択的スプライシングによって生成される。本発明の一実施形態では、両方のアイソフォームの総量が測定される(配列については、UniProtデータベースエントリ(Q16270-1およびQ16270-2)を参照のこと)。
【0084】
バイオマーカー内皮細胞特異的分子1(略してESM-1)は、当技術分野でよく知られている。そのバイオマーカーは、エンドカンと呼ばれることも多い。ESM-1は、主にヒトの肺および腎臓組織の内皮細胞で発現する、分泌タンパク質である。パブリックドメインのデータは、甲状腺、肺、腎臓だけでなく、心臓組織でも発現することを示唆しており、例えばProtein AtlasデータベースのESM-1のエントリ(Uhlen M.et al.、Science 2015;347(6220):1260419)を参照されたい。この遺伝子の発現は、サイトカインによって調節される。ESM-1は、20kDaの成熟ポリペプチドおよび30kDaのO-結合型グリカン鎖で構成されるプロテオグリカンである(Bechard D et al.、J Biol Chem 2001;276(51):48341-48349)。本発明の好ましい実施形態では、ヒトESM-1ポリペプチドの量は、対象からのサンプルにおいて決定される。ヒトESM-1ポリペプチドの配列は、当技術分野でよく知られている(例えば、Lassale P.et al.,J.Biol.Chem.1996;271:20458-20464を参照。Uniprotデータベースを介して評価することができ、エントリQ9NQ30(ESM1_HUMAN)を参照)。選択的スプライシングによって、ESM-1の2つのアイソフォーム、アイソフォーム1(Uniprot識別子Q9NQ30-1を有する)およびアイソフォーム2(Uniprot識別子Q9NQ30-2を有する)が生成される。アイソフォーム1は、184アミノ酸長を有する。アイソフォーム2では、アイソフォーム1のアミノ酸101~150が欠落している。アミノ酸1~19は、シグナルペプチド(切断され得る)を形成する。
【0085】
好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム1、すなわち、UniProtアクセッション番号Q9NQ30-1の下に示されるような配列を有するアイソフォーム1の量が決定される。
【0086】
別の好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム2、すなわち、UniProtアクセッション番号Q9NQ30-2の下に示されるような配列を有するアイソフォーム2の量が決定される。
【0087】
別の好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム-1およびアイソフォーム2の量、すなわちESM-1の総量が決定される。
【0088】
例えば、ESM-1の量は、ESM-1ポリペプチドのアミノ酸85~184に対するモノクローナル抗体(マウス抗体など)、および/またはヤギポリクローナル抗体を用いて決定され得る。
【0089】
バイオマーカーのアンジオポエチン-2(略して「Ang-2」、しばしばANGPT2とも呼ばれる)は、当技術分野でよく知られている。これは、Ang-1とTIE2の両方に対する、天然に存在する拮抗薬である(例えば、Maisonpierre et al.,Science 277(1997)55-60を参照のこと)。タンパク質は、ANG-1の不存在下で、TEK/TIE2のチロシンのリン酸化を誘導できる。VEGFなどの血管新生誘発物質が存在しない場合、ANG2を介した細胞マトリックス接触の緩みにより、結果として生じる血管退縮を伴う内皮細胞アポトーシスが誘発されることがある。VEGFと連携して、内皮細胞の遊走と増殖を促進することがあり、それ故に許容的な血管新生シグナルとして機能する。ヒトのアンジオポエチンの配列は、当該技術分野において周知である。Uniprotは、アンジオポエチン-2の3つのアイソフォーム:アイソフォーム1(Uniprot識別子:O15123-1)、アイソフォーム2(識別子:O15123-2)およびアイソフォーム3(O15123-3)を収載する。好ましい実施形態では、アンジオポエチン-2の総量が決定される。この総量は、好ましくは複合型および遊離型のアンジオポエチン-2の量の合計である。
【0090】
本明細書で言及されるバイオマーカー(SPON-1またはナトリウム利尿ペプチドなど)の量を「決定する」という用語は、バイオマーカーの定量化、例えば、本明細書の他の場所に記載されている適切な検出方法を使用して、サンプル中のバイオマーカーのレベルを測定することを指す。「測定する」および「決定する」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0091】
一実施形態では、バイオマーカーの量は、サンプルをバイオマーカーと特異的に結合する作用物質と接触させ、それにより作用物質と上記バイオマーカーとの間に複合体を形成し、形成された複合体の量を検出し、それから上記バイオマーカーの量を測定することにより、決定される。
【0092】
本明細書でいうバイオマーカー(SPON-1など)は、当該技術分野で一般的に知られている方法を使用して検出することができる。検出方法は、一般に、サンプル中のバイオマーカーの量を定量化する方法(定量的方法)を包含する。以下の方法のどれがバイオマーカーの定性的および/または定量的検出に適しているかは、当業者に一般に知られている。サンプルは、例えば、ウエスタン法およびELISA、RIA、蛍光および発光ベースの免疫学的検定法のような免疫学的検定法、ならびに市販されている近接拡張アッセイを使用して、タンパク質について簡便にアッセイすることができる。バイオマーカーを検出するためのさらに適切な方法は、ペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理的または化学的特性、例えば、その正確な分子量またはNMRスペクトルなどを測定することを含む。上記方法は、例えば、バイオセンサー、免疫学的検定法と連結した光学装置、バイオチップ、分析装置、例えば質量分析計、NMR分析器、またはクロマトグラフィー装置を含む。さらに、方法には、マイクロプレートELISAベースの方法、完全自動化またはロボット免疫学的検定(Elecsys(商標)アナライザーなどで利用可能)、CBA(酵素的Cobalt Binding Assay、Roche-Hitachi(商標)アナライザーなどで利用可能)、およびラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche-Hitachi(商標)アナライザーで使用可能)が含まれる。
【0093】
本明細書でいうバイオマーカータンパク質の検出については、そのようなアッセイ形式を使用する幅広い免疫学的測定技術が利用可能であり、例えば、米国特許第4,016,043号明細書、第4,424,279号明細書、および第4,018,653号明細書を参照されたい。これらは、従来の競合結合アッセイだけでなく、非競合型の1部位および2部位または「サンドイッチ」アッセイの両方を含む。これらのアッセイは、標識された抗体の標的バイオマーカーへの直接結合も含む。
【0094】
電気化学発光標識を用いる方法は、周知である。そのような方法は、特殊な金属錯体の能力を利用して、酸化によって、励起状態となり、そこから基底状態へ減衰して、電気化学発光の放出を得る。概説については、Richter,M.M.,Chem.Rev.2004;104:3003-3036を参照のこと。
【0095】
一実施形態において、バイオマーカーの量を測定するのに使用される検出抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム化(ruthenylated)またはイリジウム化(iridinylated)されている。したがって、抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム標識を含むものとする。一実施形態において、上記ルテニウム標識は、ビピリジン-ルテニウム(II)錯体である。あるいは、抗体(またはその抗原結合断片)は、イリジウム標識を含むものとする。一実施形態において、前記イリジウム標識は、国際公開第2012/107419号で開示される錯体である。
【0096】
SPON-1の決定のためのサンドイッチアッセイの実施形態では、アッセイは、(捕捉抗体として)SPON-1に特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体、および検出抗体としてSPON-1と特異的に結合するルテニウム化された第2のモノクローナルのF(ab’)2-断片を含む。2つの抗体は、サンプル中のSPON-1とサンドイッチ免疫学的測定複合体を形成する。
【0097】
ナトリウム利尿ペプチドの決定のためのサンドイッチアッセイの実施形態では、アッセイは、(捕捉抗体として)ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体、および検出抗体としてナトリウム利尿ペプチドと特異的に結合するルテニウム化された第2のモノクローナルのF(ab’)2-断片を含む。2つの抗体は、サンプル中のナトリウム利尿ペプチドとサンドイッチ免疫学的測定複合体を形成する。
【0098】
ポリペプチド(例えば、SPON-1またはナトリウム利尿ペプチド)の量を測定することは、好ましくは、(a)ポリペプチドを上記ポリペプチドと特異的に結合する薬剤と接触させる工程、(b)(任意選択で)結合していない薬剤を除去する工程、(c)結合した結合剤、すなわち工程(a)で形成された薬剤の複合体の量を測定する工程、を含んでよい。好ましい実施形態によれば、上記接触工程、除去工程および測定工程は、分析装置ユニットにより実施してもよい。いくつかの実施形態によれば、上記工程は、上記システムの単一の分析装置ユニット、または互いに作動可能に連絡した2つ以上の分析装置ユニットにより実施してもよい。例えば、特定の実施形態によれば、本明細書で開示される上記システムは、上記接触工程および除去工程を実施するための第1の分析装置ユニット、ならびに上記測定工程を実施する輸送ユニット(例えば、ロボットアーム)により、上記第1の分析装置ユニットに作動可能に接続された第2の分析装置ユニットを含んでよい。
【0099】
バイオマーカーと特異的に結合する薬剤(本明細書では「結合剤」とも呼ばれる)は、結合した薬剤の検出および測定を可能にする標識に、共有結合または非共有結合をしてよい。標識は、直接または間接方法により行ってもよい。直接標識は、標識を結合剤に直接(共有結合または非共有結合で)結合させることを含む。間接標識は、第2の結合剤を第1の結合剤に(共有結合または非共有結合により)結合させることを含む。第2の結合剤は、第1の結合剤に特異的に結合するものとする。上記第2の結合剤は、適切な標識と結合し、および/または第2の結合剤に結合する第3の結合剤の標的(受容体)となり得る。好適な第2の、およびより高次の結合剤は、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)を含んでよい。結合剤または基質は、当該技術分野で公知の1つまたは複数のタグで「タグ付け」されていてもよい。そうすることで、このようなタグは、より高次の結合剤の標的となり得る。好適なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン(digoxygenin)、His-タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質などが挙げられる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端および/またはC末端にある。好適な標識は、適切な検出方法で検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム錯体、イリジウム錯体、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性および超常磁性標識を含む)、および蛍光標識が挙げられる。酵素的に活性な標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびそれらの誘導体が挙げられる。検出のための好適な基質としては、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’-5,5’-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnosticsから既成品の保存溶液として入手可能な4-ニトロブルーテトラゾリウム塩化物および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-リン酸塩)、CDP-Star(商標)(Amersham Bio-sciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が挙げられる。適切な酵素-基質の組合せにより、着色された反応産物、蛍光または化学発光が生じてもよく、これは、当該技術分野で公知の方法に従って(例えば感光膜または適切なカメラシステムを使用して)、決定することができる。酵素反応の測定に関しては、上記の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(例えばAlexa 568)が挙げられる。さらなる蛍光標識が、例えばMolecular Probes(オレゴン州)から入手可能である。また、蛍光標識としての量子ドットの使用が企図される。放射性標識は、公知かつ好適な、例えば感光膜またはホスホイメージャー(phosphor imager)などの任意の方法により検出され得る。
【0100】
ポリペプチドの量はまた、好ましくは、以下の通り測定することもできる:(a)本明細書の別の箇所で記載されるようなポリペプチド用の結合剤を含む固体支持体を、ペプチドまたはポリペプチドを含むサンプルと接触させること、および(b)支持体に結合したペプチドまたはポリペプチドの量を測定すること。支持体を製造するための物質は、当該技術分野で周知であり、とりわけ、市販のカラム物質、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェルおよび壁、プラスチックチューブなどが挙げられる。
【0101】
さらに一態様では、サンプルは、形成された複合体の量を測定する前に、結合剤と少なくとも1つのマーカーとの間に形成された複合体から除去される。したがって、一態様では、結合剤は固体支持体に固定されてもよい。さらなる態様では、洗浄溶液を使用することによって、固体支持体上で形成された複合体からサンプルが除去され得る。
【0102】
「サンドイッチアッセイ」は、サンドイッチアッセイ技術の多くのバリエーションを含有する、最も有用で一般的に使用されるアッセイの1つである。簡単に言えば、典型的なアッセイでは、未標識(捕捉)結合剤が固定化されるか、または固体基質上に固定化することができ、試験されるサンプルが捕捉結合剤と接触させられる。結合剤-バイオマーカー複合体を形成させるのに十分な、適切なインキュベーション期間の後、検出可能なシグナルを生成できるレポーター分子で標識された第2の(検出)結合剤を添加し、インキュベーションし、結合剤-バイオマーカー-標識結合剤という別の複合体の形成に十分な時間を確保する。未反応の物質は洗い流されてよく、バイオマーカーの存在は、検出結合剤に結合したレポーター分子により生成されるシグナルの観察により、決定される。結果は、可視シグナルの単純な観察による定性的なものでもよく、既知量のバイオマーカーを含む対照サンプルとの比較による定量的なものであってもよい。
【0103】
典型的なサンドイッチアッセイのインキュベーション工程は、必要に応じて適切であるように変更することができる。このような変更には、例えば、2種以上の結合剤およびバイオマーカーがともにインキュベーションされる同時インキュベーションが含まれる。例えば、分析されるサンプルおよび標識された結合剤の両方が、固定化された捕捉結合剤に同時に添加される。また、分析されるサンプルおよび標識された結合剤を最初にインキュベーションし、その後、固相に結合した抗体、または固相に結合することができる抗体を添加することもできる。
【0104】
特異的な結合剤とバイオマーカーの間で形成される複合体は、サンプル中に存在するバイオマーカーの量に比例するものとする。適用される結合剤の特異性および/または感度が、サンプル中に含まれる、特異的に結合されうる少なくとも1種のマーカーの割合の程度を定義することが理解されるであろう。測定を実行する方法の詳細については、本明細書の別の箇所にも記載されている。形成された複合体の量は、サンプル中に実際に存在する量を反映するバイオマーカーの量に変換されるものとする。
【0105】
「結合剤」、「特異的な結合剤」、「検体に特異的な結合剤」、「検出剤」および「バイオマーカーに特異的に結合する薬剤」という用語は、本明細書では互換可能に使用される。好ましくは、それは、対応するバイオマーカーと特異的に結合する結合部分を含む薬剤に関する。「結合剤」、「検出剤」、「薬剤」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)または化学化合物である。好ましい薬剤は、決定されるバイオマーカーに特異的に結合する抗体である。本明細書で使用される「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および所望の抗原結合活性を示す限り抗体断片(すなわちその抗原結合断片)を含むが、これらに限定されず、様々な抗体構造を包含する。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体(または、それからの抗原結合断片)である。より好ましくは、抗体は、モノクローナル抗体(または抗原結合断片であり、したがって、さらに、本明細書の他の箇所で説明するように、(サンドイッチ免疫学的検定において)SPON-1の異なる位置で結合する2つのモノクローナル抗体が使用されることが想定される。したがって、SPON-1の量を決定するために少なくとも1つの抗体が使用される。
【0106】
一実施形態では、少なくとも1つの抗体は、マウスモノクローナル抗体である。別の実施形態では、少なくとも1つの抗体は、ウサギモノクローナル抗体である。さらなる実施形態では、抗体は、ヤギポリクローナル抗体である。さらに別の実施形態では、抗体は、ヒツジポリクローナル抗体である。
【0107】
「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、結合する対の分子が、その他の分子に有意に結合しない条件下で、互いに結合することを示す結合反応を指す。「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、バイオマーカーとしてのタンパク質またはペプチドに言及する場合、好ましくは結合剤が、対応するバイオマーカーに少なくとも10-1の親和性(「会合定数」K)で結合する結合反応を指す。「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、標的分子に対して、好ましくは少なくとも10-1、またはさらにより好ましくは少なくとも10-1の親和性を指す。「特異的な」または「特異的に」という用語は、サンプル中に存在するその他の分子が、標的分子に特異的な結合剤に、有意に結合しないことを示すために使用される。
【0108】
一実施形態では、本発明の方法は、ヒトSPON-1および非ヒトまたはキメラSPON-1特異的結合剤を含むタンパク質複合体を検出することに基づいている。そのような実施形態では、本発明は、対象における心房細動を評価するための方法について読み、前記方法は、(a)前記対象からのサンプルを非ヒトSPON-1特異的結合剤とともにインキュベーションする工程、(b)(a)で形成されたSPON-1特異的結合剤およびSPON-1間の複合体を測定する工程、および(c)測定された複合体の量を参照量と比較する工程を含む。参照量以上である複合体の量は、心房細動の診断(したがって存在)、持続性心房細動の存在、ECGを受けるべき対象、または有害事象のリスクがある対象の指標ある。参照量以下の複合体の量は、心房細動の不存在、発作性心房細動の存在、ECGを受けなくてもよい対象、または有害事象のリスクがない対象の指標である。
【0109】
「量」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書でいうバイオマーカー(例えば、SPON-1またはナトリウム利尿ペプチド)の絶対量、前記バイオマーカーの相対量または濃度、およびそれらと相関するまたはそれらから導き出され得る任意の値またはパラメータを包含する。このような値またはパラメータは、直接測定により前記ペプチドから得られる、特定の物理的または化学的特性すべてに由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトルまたはNMRスペクトルでの強度値を含む。さらに、本明細書の別の箇所で明示される間接測定により得られる値またはパラメータすべて、例えば、特異的に結合したリガンドから得られるペプチドまたは強度シグナルに応答して生物学的読み出しシステムにより決定される応答量、が包含される。上述の量またはパラメータに相関する値は、すべての標準的な数学的演算によっても得られるということを理解されたい。
【0110】
本明細書で使用される「比較する」という用語は、対象からのサンプル中のバイオマーカー(SPON-1およびNT-proBNPまたはBNPなどのナトリウム利尿ペプチドなど)の量を、本明細書の他の場所で明示されたバイオマーカーの参照量と比較することを指す。本明細書で使用される比較は、通常、対応するパラメータまたは値の比較を指すことを理解すべきである。例えば、絶対量は絶対参照量と比較され、濃度は参照濃度と比較され、サンプル中のバイオマーカーから得られる強度シグナルは、最初のサンプルから得られた同じタイプの強度シグナルと比較される。比較は、手作業またはコンピュータを利用して実施してもよい。したがって、比較は、計算装置により実施してもよい。対象からのサンプル中のバイオマーカーの決定量または検出量、および参照量についての値は、例えば、互いに比較することができ、また前記比較は、比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムにより自動的に実施され得る。前記評価を実施するコンピュータプログラムは、好適なアウトプット様式で、所望の評価を提供することになる。コンピュータを利用した比較において、決定量の値が、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている好適な参照に対応する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果をさらに評価できる、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の評価を自動的に提供する。コンピュータを利用した比較において、決定量の値が、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている好適な参照に対応する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果をさらに評価できる、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の評価を自動的に提供する。
【0111】
本発明によれば、バイオマーカーSPON-1の量、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカー(ナトリウム利尿ペプチドなど)の量を参照と比較するものとする。参照は、好ましくは参照量である。「参照量」という用語は、当業者によく理解されている。参照量は、本明細書に記載の心房細動の評価を可能にすべきであることを理解されたい。例えば、心房細動を診断するための方法に関連して、参照量は、好ましくは対象を(i)心房細動を患う対象のグループ、または(ii)心房細動を患わない対象のグループのいずれかに割り当てることを可能にする量を指す。好適な参照量は、試験サンプルと一緒に、すなわち同時にまたは連続して分析される最初のサンプルから決定されてもよい。
【0112】
SPON-1の量は、SPON-1の参照量と比較され、一方、少なくとも1つのさらなるバイオマーカー(ナトリウム利尿ペプチドなど)の量は、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカー(ナトリウム利尿ペプチドなど)の参照量と比較されることが理解されるべきである。2つ以上のマーカーの量が決定される場合、2つ以上のマーカーの量(SPON-1の量およびナトリウム利尿ペプチドの量など)に基づいて合計スコアが計算されることも想定される。次の工程で、このスコアが参照スコアと比較される。
【0113】
参照量は、原則として、統計学の標準的方法を適用することにより、所定のバイオマーカーの平均または平均値に基づいて、上記で特定したように対象のコホートに対し算出され得る。特に、事象の診断を目的とする方法などの試験精度は、受信者動作特性(ROC)により最もよく説明される(特に、Zweig MH.et al.,Clin.Chem.1993;39:561-577を参照のこと)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を継続的に変動させることにより生じる、すべての感度対特異性のペアのプロットである。診断方法の臨床成績は、その精度、すなわち対象を特定の予後または診断に正確に割り当てる能力に依存する。ROCプロットは、区別を行うのに適した閾値の全範囲について、感度対1-特異性をプロットすることにより、2つの分布間の重複を示す。y軸は、感度、すなわち真陽性率であり、真陽性試験結果の数および偽陰性試験結果の数の積に対する、真陽性試験結果の数の比率として定義される。それは影響を受けるサブグループからのみ計算される。x軸上は、偽陽性率、すなわち1-特異性であり、真陰性結果の数および偽陽性結果の数の積に対する、偽陽性結果の数の比率として定義される。これは特異性の指標であり、影響を受けないサブグループからのみ計算される。真陽性および偽陽性率は、2つの異なるサブグループからの試験結果を使用して完全に別々に算出されるため、ROCプロットはコホートにおける事象の有病率から独立している。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に対応する感度/1-特異性のペアを表す。完全な区別のある(結果の2つの分布に重複がない)試験は、左上隅を通るROCプロットを有し、真陽性率は1.0、または100%(完全な感度)、偽陽性率は0(完全な特異性)となる。区別のない(2つのグループでの結果の分布が同一である)試験における理論上のプロットは、左上隅から右上隅への45°の対角線となる。ほとんどのプロットは、これらの2つの極値の間にある。ROCプロットが45°対角線を完全に下回る場合、これは、「陽性」の基準を「より高い」から「より低い」に入れ替え、逆もまた同様にすることで、容易に修正される。性質的に、プロットが左上隅に近いほど、試験の全体的な精度が高くなる。所望の信頼区間に応じて、ROC曲線から閾値を導き出すことができ、これにより、感度および特異性それぞれの適切なバランスを備えた、所定の事象についての診断が可能になる。したがって、本発明の方法に使用される参照、すなわち心房細動の評価を可能にする閾値は、好ましくは、上記のように前記コホートのROCを確立し、そこから閾値量を導出することによって生成され得る。診断方法における所望の感度および特異性に応じて、ROCプロットは、好適な閾値を導出することができる。対象を心房細動の罹患から除外する(すなわち、ルールアウト)ための最適な感度が所望される一方、対象を心房細動に罹患していると評価する(すなわち、ルールイン)ための最適な特異性が想定されることが理解されるだろう。一実施形態では、本発明の方法によって、対象が心房細動に関連する有害事象、例えば心房細動の発生もしくは再発および/または脳卒中のリスクを有するか、予測することができる。
【0114】
好ましい実施形態では、本明細書の「参照量」という用語は、所定の値を指す。前記所定の値によって、心房細動の評価、したがって心房細動の診断、発作性心房細動と持続性心房細動との区別、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測、心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定、または心房細動の治療の評価が可能になるものとする。参照量は、評価の種類によって異なり得ることを理解されたい。例えば、AFの区別用のSPON-1の参照量は、通常、AFの診断用の参照量よりも高くなるだろう。しかしながら、これは当業者により考慮される。
【0115】
上記のように、「心房細動の評価」という用語は、好ましくは、心房細動の診断、発作性心房細動と持続性心房細動との区別、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測、心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定、または心房細動の治療の評価を指す。以下では、本発明の方法のこれらの実施形態をより詳細に説明する。上記の定義は、適宜適用される。
【0116】
心房細動の診断方法
本明細書で使用される「診断する」という用語は、本発明の方法に従って言及される対象が心房細動(AF)に罹患しているか否かを評価することを意味する。好ましい実施形態では、対象は発作性AFに罹患していると診断される。代替の実施形態では、対象はAFに罹患していないと診断される。
【0117】
本発明によれば、すべてのタイプのAFを診断することができる。したがって、心房細動は、発作性、持続性、または永続性AFであり得る。好ましくは、発作性または持続性心房細動は、特に永続性心房細動に罹患していない対象において診断される。
【0118】
対象がAFに罹患しているかどうかの実際の診断は、診断の確認(例えば、Holter-ECGなどのECGによる)などのさらなる工程を含み得る。したがって、本発明によって、患者が心房細動に罹患している可能性を評価することができる。参照量を超えるSPON-1の量を有する対象は、心房細動に罹患している可能性が高いが、参照量を下回る(または等しい)SPON-1の量を有する対象は、心房細動に罹患している可能性が低い。したがって、本発明の文脈における「診断する」という用語は、対象が心房細動に罹患しているかどうかを評価するために医師を支援することも包含する。
【0119】
好ましくは、試験対象からのサンプル中のSPON-1の量(および任意選択で、ESM-1、Ang-2、IGFBP-7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した増加は、心房細動に罹患している対象の指標であり、かつ/または対象からのサンプル中のSPON-1の量(および任意選択で、ESM-1、Ang-2、IGFBP-7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した減少は、心房細動に罹患していない対象の指標である。
【0120】
好ましい実施形態では、参照量、すなわち参照量のSPON-1、および決定されれば、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量は、心房細動に罹患している対象と心房細動に罹患していない対象との区別を可能にするものとする。好ましくは、前記参照量は所定の値である。
【0121】
一実施形態では、本発明の方法は、心房細動に罹患する対象の診断を可能にする。好ましくは、SPON-1の量(および任意選択で、ESM-1、Ang-2、IGFBP-7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)が参照量を上回る場合、対象はAFに罹患している。一実施形態では、SPON-1の量が参照量の特定のパーセンタイル(例えば、99パーセンタイル)の参照上限(URL)を超える場合、対象はAFに罹患している。
【0122】
心房細動を診断する方法の一実施形態では、前記方法は、診断の結果に基づいて心房細動の治療を推奨および/または開始する工程をさらに含む。好ましくは、対象がAFに罹患していると診断された場合、治療が推奨または開始される。心房細動の好ましい治療は、本明細書の他の場所に開示されている(抗凝固療法など)。
【0123】
発作性心房細動と持続性心房細動とを区別する方法
本明細書で使用される「区別する」という用語は、対象における発作性心房細動と持続性心房細動とを区別することを意味する。この用語は、本明細書で使用される場合、好ましくは、対象における発作性心房細動および持続性心房細動を区別して診断することを含む。したがって、本発明の方法は、心房細動を有する対象が発作性心房細動、または持続性心房細動に罹患しているかどうかを評価することを可能にする。実際の区別は、区別の確認などのさらなる工程を含み得る。したがって、本発明の文脈における「区別」という用語は、医師が発作性心房細動と持続性心房細動とを区別するのを支援することも包含する。
【0124】
好ましくは、対象からのサンプル中のSPON-1の量(および任意選択で、ESM-1、Ang-2、IGFBP-7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した増加は、持続性心房細動に罹患している対照の指標であり、かつ/または対象からのサンプル中のSPON-1の量(および任意選択で、ESM-1、Ang-2、IGFBP-7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した減少は、発作性心房細動に罹患している対象の指標である。両方のAFタイプ(発作性および持続性)で、SPON-1の量は、非AF対象の参照量と比較して増加している。
【0125】
好ましい実施形態では、参照量は、発作性心房細動に罹患している対象と持続性心房細動に罹患している対象との区別を可能にするものとする。好ましくは、前記参照量は所定の値である。
【0126】
発作性心房細動と持続性心房細動とを区別する上記の方法の実施形態では、対象は、永続性心房細動に罹患していない。
【0127】
心房細動に関連する有害事象のリスクを予測する方法
本発明の方法はまた、有害事象のリスクを予測するための方法を企図する。
【0128】
一実施形態では、本明細書に記載の有害事象のリスクは、心房細動に関連する任意の有害事象の予測であり得る。好ましくは、前記有害事象は、心房細動の再発(電気的除細動後の心房細動の再発など)および脳卒中から選択される。したがって、対象(心房細動に罹患している)が将来、有害事象(脳卒中または心房細動の再発など)を患うリスクが予測されるものとする。
【0129】
さらに、心房細動に関連する前記有害事象は、既知の心房細動の病歴を有さない対象における心房細動の発生であることが想定される。
【0130】
特に好ましい実施形態では、脳卒中のリスクが予測される。
【0131】
したがって、対象の脳卒中のリスクを予測する本発明の方法は、
a)対象からのサンプル中のSPON-1の量を決定する工程、および
b)SPON-1の量を参照量と比較する工程を含み、それによって脳卒中のリスクを予測する。
【0132】
特に、本発明は、対象における脳卒中のリスクを予測する方法であって、
(a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
(b)バイオマーカーSPON-1の量をSPON-1の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それによって脳卒中のリスクを予測する方法に関する。
【0133】
好ましくは、本明細書で使用される「リスクを予測する」という用語は、対象が本明細書で言及される有害事象(例えば、脳卒中)に罹患するであろう確率を評価することを指す。通常は、対象が有害事象に罹患するリスクがある(よって、リスクが高い)か、リスクがない(よって、リスクが低い)かどうかが予測される。したがって、本発明の方法は、前記有害事象に罹患するリスクのある対象と、リスクのない対象とを区別することを可能にする。さらに、本発明の方法は、リスクが低い、平均的、および高い対象間の区別を可能にすることが想定される。
【0134】
上記のように、特定の時間ウィンドウ内に有害事象に罹患するリスク(および確率)が予測されるものとする。本発明の好ましい実施形態では、予測ウィンドウは、約3ヶ月、約6ヶ月、または特に約1年の期間である。したがって、短期的なリスクが予測される。
【0135】
別の好ましい実施形態では、予測ウィンドウは、約5年の期間である(例えば脳卒中の予測用)。さらに、予測ウィンドウは、約6年の期間であってもよい(例えば、脳卒中の予測用)。あるいは、予測ウィンドウは、約10年であってもよい。また、予測ウィンドウは、1~3年の期間であることが想定される。したがって、1~3年以内に脳卒中に罹患するリスクが予測される。また、予測ウィンドウは、1~10年の期間であることが想定される。したがって、1~10年以内に脳卒中に罹患するリスクが予測される。
【0136】
好ましくは、前記予測ウィンドウは、本発明の方法の完了から計算される。より好ましくは、上記予測ウィンドウは、試験されるサンプルが採取された時点から計算される。当業者によって理解されるように、リスクの予測は、通常、対象の100%について正しいことを意図するものではない。しかしながら、この用語は、予測が対象の統計的に有意な部分について、適切かつ正確な方法で行われることを必要とする。部分が統計的に有意であるかどうかは、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定などのさまざまな周知の統計評価ツールを使用して、当業者がすぐさま決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden、Statistics for Research、John Wiley&Sons、New York 1983に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0137】
好ましい実施形態では、「前記有害事象に罹患するリスクを予測する」という表現は、本発明の方法によって分析される対象が、前記有害事象に罹患するリスクがある対象のグループ、または前記有害事象(脳卒中など)に罹患するリスクがない対象のグループのいずれかに割り当てられることを意味する。このように、対象が前記有害事象に罹患するリスクがあるか否かが予測される。本明細書で使用される「前記有害事象に罹患するリスクがある対象」は、好ましくは前記有害事象に罹患する(好ましくは、予測ウィンドウ内に)リスクが高い。好ましくは、上記リスクは、対象のコホートにおける平均リスクと比較して上昇する。本明細書で使用される場合、「前記有害事象に罹患するリスクがない対象」は、好ましくは、前記有害事象に罹患する(好ましくは予測ウィンドウ内に)リスクが低い。好ましくは、上記リスクは、対象のコホートにおける平均リスクと比較して低下する。前記有害事象に罹患するリスクがある対象は、好ましくは約1年の予測ウィンドウ内で、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%の、心房細動の再発または発症などの有害事象に罹患するリスクを有する。前記有害事象に罹患するリスクがない対象は、好ましくは1年の予測ウィンドウ内で、好ましくは12%未満、より好ましくは10%未満の、前記有害事象に罹患するリスクを有する。
【0138】
脳卒中の予測に関して、前記有害事象に罹患するリスクがある対象は、好ましくは約5年、特に約6年の予測ウィンドウ内で、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも13%の前記有害事象に罹患するリスクを有する。前記有害事象に罹患するリスクがない対象は、好ましくは約5年、特に約6年の予測ウィンドウ内で、好ましくは10%未満、より好ましくは8%未満、最も好ましくは5%未満の前記有害事象に罹患するリスクを有する。対象が抗凝固療法を受けていない場合、リスクは上昇し得る。しかしながら、これは当業者により考慮される。
【0139】
好ましくは、対象からのサンプル中のSPON-1の量(および任意選択で、ESM-1、Ang-2、IGFBP-7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した増加は、心房細動に関連する有害事象のリスクがある対象の指標であり、かつ/または対象からのサンプル中のSPON-1の量(および任意選択で、ESM-1、Ang-2、IGFBP-7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した減少は、心房細動に関連する有害事象のリスクがない対象の指標である。
【0140】
好ましい実施形態では、1つまたは複数の参照量は、本明細書で言及される有害事象のリスクがある対象と、前記有害事象のリスクがない対象との区別を可能にするものとする。好ましくは、前記参照量は所定の値である。
【0141】
予測される有害事象は、好ましくは脳卒中である。「脳卒中」という用語は、当該技術分野において周知である。本明細書で使用される場合、この用語は、好ましくは、虚血性脳卒中、特に脳虚血性脳卒中を指す。本発明の方法によって予測される脳卒中は、脳細胞への酸素の供給不足をもたらす脳またはその部分への血流の減少によって、引き起こされるものとする。特に、脳卒中は、脳細胞死による不可逆的な組織損傷をもたらす。脳卒中の症状は、当該技術分野において周知である。例えば、脳卒中の症状としては、顔、腕、脚、特に体の片側の突然のしびれや脱力、突然の混乱、会話や理解の障害、片目または両目の突然の見えづらさ、突然の歩行困難、めまい、バランスまたは調整の喪失などが挙げられる。虚血性脳卒中は、主要な大脳動脈のアテローム血栓症または塞栓症によって、凝固障害または非アテローム性血管疾患によって、または全体的な血流の減少につながる心虚血によって引き起こされる可能性がある。虚血性脳卒中は、アテローム血栓性脳卒中、心塞栓性脳卒中および小窩性卒中からなる群から選択されることが好ましい。好ましくは、予測される脳卒中は、急性虚血性脳卒中、特に心塞栓性脳卒中である。心塞栓性脳卒中(しばしば塞栓性または血栓塞栓性脳卒中とも呼ばれる)は、心房細動によって引き起こされ得る。
【0142】
好ましくは、前記脳卒中は、心房細動に関連しているものとする。より好ましくは、脳卒中は、心房細動によって引き起こされるものとする。しかしながら、対象が心房細動の病歴を有さないことも想定されている。
【0143】
好ましくは、脳卒中と心房細動のエピソードとの間に時間的関係がある場合、脳卒中は心房細動と関連している。より好ましくは、脳卒中が心房細動によって引き起こされる場合、脳卒中は心房細動と関連している。最も好ましくは、脳卒中が心房細動によって引き起こされ得る場合、脳卒中は心房細動に関連している。例えば、心塞栓性脳卒中(しばしば塞栓性または血栓塞栓性脳卒中とも呼ばれる)は、心房細動によって引き起こされ得る。好ましくは、AFに関連する脳卒中は、経口抗凝固療法によって予防することができる。また好ましくは、試験される対象が心房細動に罹患している、かつ/またはその既知の病歴を有する場合、脳卒中は心房細動に関連していると見なされる。また、一実施形態では、対象が心房細動に罹患している疑いがある場合、脳卒中は心房細動に関連していると見なすことができる。
【0144】
「脳卒中」という用語は、好ましくは、出血性脳卒中を含まない。
【0145】
有害事象(脳卒中など)を予測する前述の方法の好ましい実施形態では、試験される対象は、心房細動に罹患している。より好ましくは、対象は、心房細動の既知の病歴を有する。有害事象を予測するための方法によれば、対象は、好ましくは永続性心房細動、より好ましくは持続性心房細動、最も好ましくは発作性心房細動に罹患している。
【0146】
有害事象を予測する方法の一実施形態では、心房細動に罹患している対象は、サンプルの採取時に心房細動のエピソードを経験する。有害事象を予測する方法の別の実施形態では、心房細動に罹患している対象は、サンプルの採取時に心房細動のエピソードを経験しない(したがって、正常な洞調律を有するものとする)。さらに、リスクが予測される対象は、抗凝固療法を受けている可能性がある。
【0147】
有害事象を予測する方法の別の実施形態では、試験される対象は、心房細動の既知の病歴を有していない。特に、対象は心房細動に罹患していないことが想定される。
【0148】
本発明の方法は、個別化医療を支援することができる。好ましい一実施形態では、対象の脳卒中のリスクを予測する方法は、上記対象が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合に、i)抗凝固療法を推奨する工程、またはii)抗凝固療法の強化を推奨する工程をさらに含む。
【0149】
好ましい一実施形態では、対象の脳卒中のリスクを予測する方法は、対象が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合(本発明の方法によって)、i)抗凝固療法を開始する工程、またはii)抗凝固療法を強化する工程をさらに含む。
【0150】
対象が抗凝固療法を受けている場合、かつ対象が脳卒中を患うリスクがないと特定された場合(本発明の方法により)、抗凝固療法の投与量を減らすことができる。したがって、投与量の削減が推奨され得る。投与量を減らすことで、副作用(出血など)を被るリスクを減らすことができる。
【0151】
本明細書で使用される「推奨する」という用語は、対象に適用できる治療法の提案を確立することを意味する。しかしながら、実際の治療を適用することは、どんなものであれ、この用語に含まれないことを理解されたい。推奨される治療は、本発明の方法によって提供される結果に依存する。
【0152】
特に、以下が適用される。
【0153】
試験される対象が抗凝固療法を受けていない場合、対象が脳卒中を患うリスクがあると特定されていれば、抗凝固療法の開始が推奨される。したがって、抗凝固療法が開始されるものとする。
【0154】
試験される対象がすでに抗凝固療法を受けている場合、対象が脳卒中を患うリスクがあると特定されていれば、抗凝固療法の強化が推奨される。したがって、抗凝固療法が強化されるものとする。
【0155】
好ましい実施形態では、抗凝固療法は、抗凝固剤の投与量、すなわち、現在投与されている凝固剤の量を増やすことによって強化される。
【0156】
特に好ましい実施形態では、抗凝固療法は、現在投与されている抗凝固剤の、より効果的な抗凝固剤への置き換えを増やすことによって強化される。したがって、抗凝固剤の置き換えが推奨される。
【0157】
Hijazi at al.,The Lancet 2016 387,2302-2311、(図4)に示されているように、高リスク患者のより良い予防は、ビタミンK拮抗薬ワルファリンと比較して経口抗凝固剤アピキサバンで達成されることが記載されている。
【0158】
したがって、試験される対象は、ワルファリンまたはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬で治療される対象であることが想定される。対象が脳卒中を患うリスクがあると(本発明の方法により)特定された場合、ビタミンK拮抗薬を経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバロキサバンまたはアピキサバンによる置き換えが推奨される。ビタミンK拮抗薬による治療が中止されることにより、経口抗凝固剤による治療が開始される。
【0159】
心電図検査(ECG)を受けるべき対象を特定する方法
本発明の方法のこの実施形態によれば、バイオマーカーで試験される対象が、心電図検査(ECG)、すなわち心電図検査評価を受けるべきかどうかが評価されるものとする。前記評価は、前記対象において、診断のために、すなわち、AFの欠如の存在を検出するために実施されるものとする。
【0160】
本明細書で使用される「対象を特定する」という用語は、好ましくは、対象のサンプル中のSPON-1の量(および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)に関して生成された情報またはデータを使用して、ECGを受けるべき対象を特定することを指す。特定された対象は、AFに罹患する可能性が高い。ECG評価は、確認として行われる。
【0161】
心電図検査(略してECG)は、好適なECGによって心臓の電気的活動を記録するプロセスである。ECG装置は、心臓によって生成され、体全体から皮膚に広がる電気信号を記録する。電気信号の記録は、対象の皮膚をECG装置に含まれる電極と接触させることによって達成される。記録を取得するプロセスは、非侵襲的であり、リスクがない。ECGは、心房細動の診断のために、すなわち、対象における心房細動の欠如の存在の評価のために実行される。本発明の方法の実施形態では、ECG装置は、1リード装置(1リードハンドヘルドECG装置)である。別の好ましい実施形態では、ECG装置は、ホルターモニターなどの12リードECG装置である。
【0162】
好ましくは、試験対象からのサンプル中のSPON-1量(および任意選択で、ESM-1、Ang-2、IGFBP-7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した増加は、心房細動に罹患している対象の指標であり、かつ/または試験対象からのサンプル中のSPON-1の量(および任意選択で、ESM-1、Ang-2、IGFBP-7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した減少は、心房細動に罹患していない対象の指標である。
【0163】
好ましい実施形態では、参照量は、ECGを受けるべき対象と、ECGを受けなくてもよい対象との区別を可能にするものとする。好ましくは、前記参照量は所定の値である。
【0164】
心房細動の治療の評価方法
本明細書で使用される場合、「心房細動の治療を評価する」という用語は、好ましくは、心房細動を治療することを目的とする治療の評価を指す。特に、治療の有効性を評価するものとする。好ましい実施形態では、前記治療は抗凝固療法である。したがって、本発明は、抗凝固療法を評価するための方法を包含する。
【0165】
評価される治療は、心房細動を治療することを目的とする任意の治療であり得る。好ましくは、前記治療は、少なくとも1つの抗凝固剤の投与、リズムコントロール、レートコントロール、電気的除細動およびアブレーションからなる群から選択される。前記治療は当技術分野でよく知られており、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Fuster V et al.Circulation 2011;123:e269-e367にて概説されている。
【0166】
一実施形態では、治療は、少なくとも1つの抗凝固剤の投与、すなわち抗凝固療法である。抗凝固療法は、好ましくは、上記対象における抗凝固のリスクを低減することを目的とする治療法である。少なくとも1つの抗凝固剤を投与することは、血液の凝固および関連する脳卒中を抑制または防止することを目的とする。
【0167】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの抗凝固剤(すなわち、抗凝固療法)は、ヘパリン、クマリン誘導体(すなわち、ビタミンK拮抗薬)、特にワルファリンまたはジクマロール、経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバロキサバンまたはアピキサバン、組織因子経路阻害剤(TFPI)、アンチトロンビンIII、第IXa因子阻害剤、第Xa因子阻害剤、第Va因子阻害剤および第VIIIa因子阻害剤、およびトロンビン阻害剤(抗IIa型)からなる群から選択される。したがって、対象は上記の少なくともいずれか1つの薬剤を服用することが想定される。
【0168】
好ましい実施形態では、抗凝固剤は、ワルファリンまたはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬である。ワルファリンまたはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬は、安価だが、不便で扱いにくく、また治療範囲において時間変動を伴う信頼性の低い治療が多いため、患者のコンプライアンスを向上する必要がある。NOAC(新しい経口抗凝固剤)は、直接第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン)、直接トロンビン阻害剤(ダビガトラン)およびPAR-1拮抗薬(ボラパクサル、アトパキサール)を含む。
【0169】
別の好ましい実施形態では、抗凝固剤は、経口抗凝固剤、特にアピキサバン、リバロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン、ダビガトラン、ボラパクサル、またはアトパキサールである。
【0170】
したがって、試験される対象は、試験時(すなわち、サンプルを受け取る時)に、経口抗凝固剤またはビタミンK拮抗薬による治療を受けている可能性がある。
【0171】
好ましい実施形態では、心房細動の治療の評価は、前記治療のモニタリングである。この実施形態では、参照量は、好ましくは、初期に得られたサンプル(すなわち、工程aの試験サンプルの前に採取されたサンプル)におけるSPON-1の量である。
【0172】
任意選択で、SPON-1の量に加えて、本明細書で言及される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が決定される。
【0173】
したがって、本発明は、対象、好ましくは心房細動に罹患している対象において、抗凝固療法をモニタリングする方法など、心房細動の治療をモニタリングするための方法に関するものであり、前記方法は、
(a)対象からの最初のサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、
(b)対象からの、前記第1のサンプルの後に採取された第2のサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
(c)第1のサンプル中のSPON-1の量を前記第2のサンプル中のSPON-1の量と比較する工程、および任意選択で、第1のサンプル中の前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記第2のサンプル中の前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量と比較する工程を含み、それにより、抗凝固療法などの治療をモニタリングする。
【0174】
上記の方法の一実施形態では、対象は、心房細動に罹患している。上記の方法の他の実施形態では、対象は、心房細動に罹患していない。
【0175】
本明細書で使用される「モニタリング」という用語は、好ましくは、本明細書の他の場所で言及される治療の効果を評価することに関する。したがって、治療(抗凝固療法など)の有効性がモニタリングされる。
【0176】
前述の方法は、工程c)で実行された比較工程の結果に基づいて治療をモニタリングする、さらなる工程を含み得る。当業者によって理解されるように、リスクの予測は、通常、対象の100%について正しいことを意図するものではない。しかしながら、この用語は、予測が対象の統計的に有意な部分について、適切かつ正確な方法で行われることを必要とする。したがって、実際のモニタリングは、確認などのさらなる工程を含み得る。
【0177】
好ましくは、本発明の方法を実施することにより、対象が前記治療に反応するか否かを評価することができる。第1のサンプルと第2のサンプルを採取する間に対象の状態が改善した場合、対象は治療に反応する。好ましくは、対象は、第1のサンプルと第2のサンプルを採取する間に状態が悪化した場合、治療に反応しない。
【0178】
あるいは、抗凝固療法に反応する対象は、好ましくは、第1のサンプルと第2のサンプルを採取する間に脳卒中のリスクが減少する対象である。抗凝固療法に反応しない対象は、好ましくは、脳卒中のリスクが増加するか、または第1のサンプルと第2のサンプルを採取する間に変化しないままである対象である。脳卒中のリスクが増加するか、減少するか、または変化しないかは、例えば、対象の臨床的脳卒中リスクスコアを評価することによって決定できる。好ましいスコアは、本明細書の他の場所に開示されている。
【0179】
好ましくは、第1のサンプルは、前記治療の開始前に採取される。より好ましくは、サンプルは、前記治療の開始前1週間以内、特に2週間以内に採取される。しかしながら、第1のサンプルは、前記治療の開始後(ただし、第2のサンプルが採取される前)に採取できることも企図される。この場合、進行中の治療がモニタリングされる。
【0180】
したがって、第2のサンプルは、第1のサンプルの後に採取されるものとする。第2のサンプルは、前記治療の開始後に採取されなければならないことを理解されたい。
【0181】
さらに、第2のサンプルは、第1のサンプルの採取後、合理的な期間の後に採取されることが特に企図される。本明細書で言及されるバイオマーカーの量は、即座に(例えば、1分または1時間以内)変化しないことを理解されたい。したがって、この文脈における「合理的」は、バイオマーカーの調整を可能にする、第1および第2のサンプルの採取の間隔を指す。したがって、第2のサンプルは、好ましくは、前記第1のサンプルの少なくとも1ヶ月後、前記第1のサンプルの少なくとも3ヶ月後、特に、少なくとも6ヶ月後に採取される。
【0182】
第2のサンプル中のバイオマーカー、すなわちSPON-1、および任意選択でナトリウム利尿ペプチドの量の、第1のサンプル中のバイオマーカーの量と比較した、好ましくは減少、より好ましくは有意な減少、最も好ましくは統計的に有意な減少は、治療に反応する対象の指標である。したがって、治療は有効である。また、第1のサンプル中のバイオマーカーの量と比較した、第2のサンプル中の、好ましくはSPON-1の濃度の無変化またはバイオマーカーの量の増加、より好ましくは有意な増加、最も好ましくは統計的に有意な増加は、治療に反応しない対象の指標である。したがって、治療は有効ではない。
【0183】
「有意」および「統計的に有意」という用語は、当業者に知られている。したがって、増加または減少が有意であるか統計的に有意であるかは、様々な周知の統計評価ツールを使用して、さらに苦労することなく当業者によって決定することができる。例えば、有意な増加または減少は、少なくとも10%、特に少なくとも20%の増加または減少である。
【0184】
通常、治療が対象の心房細動の再発のリスクを低減すれば、対象は治療に反応すると見なされる。治療が対象の心房細動の再発のリスクを低減しなければ、対象は治療に反応しないと見なされる。
【0185】
一実施形態では、対象が治療に反応しない場合、治療の強度が上げられる。さらに、対象が治療に反応する場合、治療の強度が下げられることが想定される。あるいは、対象が治療に反応した場合、治療は同じ強度で継続することができる。
【0186】
例えば、治療の強度は、投与される薬剤の量を増やすことによって上げることができる。例えば、治療の強度は、投与される薬剤の量を減らすことによって下げることができる。これにより、出血などの望ましくない有害な副作用を回避できる可能性がある。同じ強度で治療を継続する場合、投与される薬剤および投与量は変えなくてもよい。抗凝固療法の強度を高めることに関しては、本明細書の他の場所でなされた説明、例えば、対象の抗凝固療法の有効性の評価に関連してなされた説明などを参照されたい。
【0187】
別の好ましい実施形態では、心房細動の治療の評価は、心房細動の治療のガイダンスである。本明細書で使用される「ガイダンス」という用語は、好ましくは、治療中のバイオマーカー、すなわちSPON-1の決定に基づく経口抗凝固の投与量の増加または削減など、治療の強度の調整に関する。
【0188】
さらに好ましい実施形態では、心房細動の治療の評価は、心房細動の治療の階層化である。したがって、心房細動の特定の治療に適格である対象が特定されるものとする。本明細書で使用される「階層化」という用語は、好ましくは、特定のリスク、同定された分子経路、および/または特定の薬物または処置の予想される有効性に基づいて適切な治療を選択することに関する。検出されたリスクに応じて、特に不整脈に関連する症状が最小限またはまったくない患者は、心室レートコントロール、電気的除細動またはアブレーションに適格となるか、そうでなければ抗血栓療法のみを受けるだろう。
【0189】
上記の定義および説明は、必要な変更を加えて以下に適用される(特に明記されていない限り)。
【0190】
本発明はさらに、心房細動の評価を支援する方法に関するものであり、前記方法は、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルを提供する工程、
b)工程a)で提供された少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
c)バイオマーカーSPON-1の決定された量に関する情報、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供する工程を含み、それによって心房細動の評価を支援する。
【0191】
医師は主治医、すなわちバイオマーカーの決定を要求した医師であるものとする。上記方法は、心房細動の評価において主治医を支援するものとする。したがって、この方法は、心房細動を評価する方法に関連して上記で言及された診断、予測、モニタリング、区別、特定を含まない。
【0192】
サンプルを採取する上記方法の工程a)は、対象からのサンプルの抽出を包含しない。好ましくは、サンプルは、上記対象からサンプルを受け取ることによって採取する。このように、サンプルは引き渡される可能性がある。
【0193】
一実施形態では、上記の方法は、脳卒中の予測を支援する方法であり、前記方法は、
a)心房細動を評価する方法に関連して、特に心房細動を予測する方法に関連して本明細書で言及される対象からの、少なくとも1つのサンプルを提供する工程、
b)バイオマーカーSPON-1の量、およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
c)バイオマーカーSPON-1の決定された量に関する情報、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供する工程を含み、それによって脳卒中の予測を支援する。
【0194】
本発明はさらに、
a)バイオマーカーSPON-1のアッセイ、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択されるさらなるバイオマーカーの少なくとも1つのさらなるアッセイを提供すること、および
b)心房細動の評価での上記アッセイによって得られた、または得られ得るアッセイ結果の使用についての指示を提供することを含む、方法に関する。
【0195】
前述の方法の目的は、好ましくは、心房細動の評価における支援である。
【0196】
本明細書に記載されるように、上記指示は、心房細動を評価する方法を実行するためのプロトコルを含むものとする。さらに、指示は、SPON-1の参照量の少なくとも1つの値、および任意選択でナトリウム利尿ペプチドの参照量の少なくとも1つの値を含むものとする。
【0197】
「アッセイ」は、好ましくは、バイオマーカーの量を決定するために構成されたキットである。「キット」という用語については、以下で説明する。例えば、前記キットは、バイオマーカーSPON-1の少なくとも1つの検出剤、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM-1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤、およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤を含む。したがって、1~4つの検出剤が存在し得る。1~4つのバイオマーカーの検出剤は、単一のキットまたは個別のキットで提供され得る。
【0198】
上記試験により得られた試験結果または得ることができる試験結果は、バイオマーカーの量の値である。
【0199】
一実施形態では、工程b)は、(本明細書の他の箇所で記載されるように)脳卒中の予測における上記試験によって得られたまたは得ることができる試験結果を使用するための指示を提供することを含む。
【0200】
本発明はさらに、心房細動を評価するためのコンピュータ実装方法であって、
a)処理ユニットで、対象からのサンプルにおいて決定されたSPON-1の量の値、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量の少なくとも1つのさらなる値を受け取ること、
b)前記処理ユニットによって、工程(a)で受け取った1つまたは複数の値を1つまたは複数の参照と比較すること、および
c)比較工程b)に基づいて心房細動を評価すること含む、方法に関する。
【0201】
上記の方法は、コンピュータ実装方法である。好ましくは、コンピュータ実装方法のすべての工程は、コンピュータ(またはコンピュータネットワーク)の1つ以上の処理ユニットによって実行される。したがって、工程(c)での評価は、処理ユニットによって実行される。好ましくは、前記評価は、工程(b)の結果に基づく。
【0202】
工程(a)で受け取った1つまたは複数の値は、本書の他の場所で説明されているように、対象からのバイオマーカーの量の決定から導き出されるものとする。好ましくは、値は、バイオマーカーの濃度の値である。値は通常、値を処理ユニットにアップロードまたは送信することによって、処理ユニットで受け取られる。あるいは、ユーザインターフェースを介して値を入力することにより、値が処理ユニットによって受け取られ得る。
【0203】
前述の方法の実施形態では、工程(b)に示される1つまたは複数の参照は、メモリから確立される。好ましくは、参照用の値はメモリから確立される。
【0204】
本発明の前述のコンピュータ実装方法の実施形態では、工程c)で行われた評価の結果は、結果を提示するように構成されたディスプレイを介して提供される。
【0205】
本発明の前述のコンピュータ実装方法の実施形態では、この方法は、工程c)で行われた評価に関する情報を対象の電子医療記録に転送する、さらなる工程を含み得る。
【0206】
脳卒中の予測方法
上記のように、本明細書で言及されるバイオマーカーの決定は、心房細動に関連する脳卒中のリスクなどの(ただしこれらに限定されない)脳卒中のリスクの予測を可能にする。
【0207】
本発明の基礎となる研究では、SPON-1(および本明細書で言及されるさらなるバイオマーカー)の決定により、対象の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善できることがさらに示されている。したがって、臨床的脳卒中リスクスコアの決定とSPON-1の決定とを組み合わせることにより、SPON-1の決定または臨床的脳卒中リスクスコアの決定のみと比較して、より信頼性の高い脳卒中の予測が可能になる。
【0208】
したがって、脳卒中のリスクを予測するための方法は、SPON-1の量と臨床的脳卒中リスクスコアとの組み合わせをさらに含んでもよい。SPON-1の量と臨床的リスクスコアとの組み合わせに基づいて、対象の脳卒中のリスクが予測される。
【0209】
前述の方法の実施形態では、方法は、SPON-1の量と参照量との比較をさらに含む。この場合、比較の結果は、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。
【0210】
したがって、本発明は、特に、対象の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a)対象からのサンプル中のSPON-1の量を決定する工程、および
b)SPON-1の量の値と臨床的脳卒中リスクスコアとを組み合わせる工程を含み、それによって、前記対象の脳卒中のリスクを予測する方法に関する。
【0211】
この方法によれば、対象は、既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する対象であることが想定される。したがって、臨床的脳卒中リスクスコアの値は、対象について既知である。
【0212】
好ましい実施形態では、前述の方法の工程a)およびb)は、以下の通りである。
【0213】
a)既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)SPON-1の量、および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、Ang2、IGFBP7を含む1つ以上のバイオマーカーの量の値を臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせ、それによって前記対象の脳卒中のリスクを予測する工程。
【0214】
あるいは、この方法は、臨床的脳卒中リスクスコアの値を取得することまたは提供することを含んでもよい。
【0215】
好ましくは、上記値は数値である。一実施形態では、臨床的脳卒中リスクスコアは、医師が利用できる臨床ベースのツールの1つによって生成される。好ましくは、その値は、対象の臨床的脳卒中リスクスコアの値を決定することによって提供されたものである。より好ましくは、値は、対象の患者記録データベースおよび病歴から得られる。したがって、上記スコアの値は、対象の病歴または公開データを使用して決定することもできる。
【0216】
本発明によれば、SPON-1(および任意選択でさらなるマーカー)の量は、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。これは、好ましくは、SPON-1の量の値が臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされることを意味する。したがって、これらの値は、対象が脳卒中に罹患するリスクを予測するために機能的に組み合わされる。これらの値を組み合わせることにより、単一の値を計算でき、それ自体を予測に使用することができる。
【0217】
臨床的脳卒中リスクスコアは、当該技術分野において周知である。例えば、前記スコアは、その開示内容全体について参照により本明細書に組み込まれている、Kirchhof P.et al.、(European Heart Journal 2016;37:2893-2962)に記載されている。一実施形態では、スコアは、CHADS-VAScスコアである。別の実施形態では、スコアは、CHADSスコア(Gage BF.Et al.,JAMA,285(22)(2001),pp.2864-2870)およびABCスコア(Hijazi Z.et al.,Lancet 2016;387(10035):2302-2311)である。
【0218】
本発明の方法はまた、臨床的リスクスコアを評価する工程を含み得る。したがって、脳卒中に罹患するリスクは、
(a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON1の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定すること、および
(b)前記対象の臨床的脳卒中リスクスコアを評価すること、および
(c)工程a)およびb)の結果に基づいて脳卒中のリスクを予測すること、によって予測される。
【0219】
臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法
本発明はさらに、対象の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
a)サンプル中のSPON-1の量を決定する工程、
b)SPON-1の量の値を臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせる工程を含み、それによって、前記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法に関する。
【0220】
この方法は、工程b)の結果に基づいて上記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する、さらなる工程c)を含んでもよい。
【0221】
好ましい実施形態では、前述の方法の工程a)およびb)は、以下の通りである。
c)既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーSPON-1(スポンジン-1)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
d)SPON-1の量、および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、Ang2、IGFBP7を含む1つ以上のバイオマーカーの量の値を臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせ、それによって前記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する工程。
【0222】
本明細書での上記の定義および説明は、心房細動の評価方法、特に有害事象(脳卒中など)のリスクを予測する方法に関連して、好ましくは、上述の方法にも適用され、なお、例えば、対象は、既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する対象であることが想定される。あるいは、この方法は、臨床的脳卒中リスクスコアの値を取得することまたは提供することを含んでもよい。
【0223】
本発明によれば、SPON-1の量は、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。これは、好ましくは、SPON-1の量の値が臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされることを意味する。その結果、これらの値を機能的に組み合わせて、臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を向上させる。
【0224】
さらに、本発明は
i)バイオマーカーSPON-1、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカー、ならびに/または
ii)SPON-1に特異的に結合する少なくとも1つの薬剤、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM-1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤の、
a)心房細動の評価、b)対象の脳卒中のリスクの予測、およびc)臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度の改善のための使用(特に、例えば、対象からのサンプルでのインビトロ使用)に関する。
【0225】
好ましくは、前述の使用は、インビトロ使用である。さらに、検出剤は、好ましくはモノクローナル抗体などの抗体(またはその抗原結合断片)である。
【0226】
本発明はまた、キットに関する。一実施形態では、本発明のキットは、SPON-1に特異的に結合する薬剤と、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM-1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤とを含む。
【0227】
好ましくは、前記キットは、本発明の方法、すなわち心房細動を評価するための方法を実行するために構成されている。任意選択で、前記キットは、前記方法を実行するための説明書を含む。
【0228】
本明細書で使用される「キット」という用語は、好ましくは、別個にまたは単一の容器内に提供される、前述の構成要素の集合を指す。容器はまた、本発明の方法を実施するための説明書を含む。これらの説明書は、マニュアルの形式であってもよく、または本発明の方法で言及される計算および比較を実行でき、コンピュータまたはデータ処理装置で実施されると、それに応じて評価または診断を確立するコンピュータプログラムコードによって提供されてもよい。コンピュータプログラムコードは、光記憶媒体(例えば、コンパクトディスク)などのデータ記憶媒体もしくは装置上に、またはコンピュータもしくはデータ処理装置に直接提供されてもよい。さらに、キットは、好ましくは、キャリブレーション目的で、バイオマーカーSPON-1の標準量を含み得る。好ましい実施形態では、キットは、キャリブレーション目的で、本明細書で言及される少なくとも1つのさらなるバイオマーカー(ナトリウム利尿ペプチド、またはESM-1など)の標準量をさらに含む。
【0229】
一実施形態では、前記キットは、心房細動を評価するため、またはリスクをインビトロで予測するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0230】
図は以下を示す。
図1】マッピング研究におけるSPON-1の測定:探索的AFibパネル:開胸手術を受ける心房細動の病歴を有する患者および発作性AF、持続性AFまたはSRの心外膜マッピング(マッピング研究)。循環SPON-1レベルを評価した(上:箱ひげ図、下:ROC曲線)。
図2】Beat AF研究におけるSPON-1の測定:脳卒中の転帰を伴うAFibパネル:異なるタイプの心房細動、発作性AF、持続性AF、および永続性AFの患者。循環SPON-1レベルを評価した。箱ひげ図は、BEAT-AF研究におけるAFタイプ別のSPON-1の分布を示す。
図3】脳卒中のリスクの予測SPON-1(Beat AF研究):カプランマイヤー曲線は、SPON-1値<=1.4NPX、または>1.4NPXを有することで定義された2つのグループの、脳卒中のない生存率を示す。SPON-1の力価の上昇は、脳卒中のリスクの増加に関連する。SPON-1は、いくつかの臨床的リスクスコアのC-indexを改善した。
図4】経口抗凝固療剤の摂取によって分類した、BEAT-AF研究で観察されたSPON-1値:リバロキサバンを使用する患者は、残りの患者と比較して、SPON-1の濃度の低下を示す。
【実施例
【0231】
本発明は、以下の実施例によって単に例示されるものである。上記実施例は、いかなる場合でも、本発明の範囲を限定する方法で解釈されないものとする。
【0232】
実施例1:循環SPON-1によるAFの評価
開胸手術を受けている患者に関連するマッピング研究。サンプルは、麻酔および手術の前に採取した。患者は、多電極アレイを使用した高密度心外膜マッピング(高密度マッピング)を使用して電気生理学的に特徴付けた。
【0233】
循環SPON-1レベルは、16人の持続性心房細動患者、および(年齢、性別、併存疾患で)可能な限り一致させた30人の対照で決定した。SPON-1は、マッピング研究のサンプルで決定した。
【0234】
測定は、30人の洞調律(SR)患者および16人の持続性心房細動(persAF)患者で行った。
【0235】
図1は、SR患者と比較して、persAF患者でSPON-1が有意に上昇していることを示す(AUC 0.87)。図1の箱ひげ図は、SR患者およびpersAF患者のSPON-1分布を示す。ROC曲線は、SR患者とpersAF患者とを区別するSPON-1の診断能力を示す。したがって、SPON-1は、persAFの診断を支援するために使用できる。SPON-1の高い値は、persAFの可能性が高いことを示す。
【0236】
さらに、BEAT-AF研究(実施例2に記載)では、SPON-1濃度は、心房細動の重症度と相関した。図2は、BEAT-AF研究におけるAFタイプ別のSPON-1の分布を示す。
【0237】
実施例2:脳卒中の予測
分析アプローチ
脳卒中の発症リスクを予測する循環SPON-1の能力は、心房細動が確認された患者の、予想される多中心的レジストリ(multicentric registry)において評価された(Conen D.,Forum Med Suisse 2012;12:860-862)。SPON-1は、Borgan(2000)に記載されている階層化症例コホートデザインを使用して測定した。
【0238】
追跡中に脳卒中(「事象」)を経験した70人の患者のそれぞれについて、1人の見合う対照を選択した。対照は、年齢、性別、高血圧の病歴、心房細動のタイプ、心不全の病歴(CHFの病歴)の人口統計学的および臨床的情報に基づいて一致させた。
【0239】
SPON-1の結果は、事象を有する67人の患者および事象を有さない66人の患者で利用可能であった。
【0240】
SPON-1は、Olinkプラットフォームを使用して測定されたため、絶対濃度値は入手できず、報告できない。結果は、任意の信号スケール(NPX)で報告する。
【0241】
SPON-1の一変量予後値を定量化するために、比例ハザードモデルを転帰脳卒中で使用した。
【0242】
SPON-1の一変量予後診断性能は、SPON-1によって与えられた予後情報の2つの異なる組み込みによって評価した。
【0243】
最初の比例ハザードモデルには、中央値(1.4 NPX)で二値化されたSPON-1が含まれていたため、SPON-1が中央値以下の患者と、SPON-1が中央値を超える患者とでリスクを比較した。
【0244】
2番目の比例ハザードモデルは、元のSPON-1レベルを含んだが、log2スケールに変換した。log2変換は、モデルキャリブレーションを改善するために実行された。
【0245】
症例対照コホートのナイーブ比例ハザードモデルからの推定値には偏りがあるため(症例と対照との比率の変化による)、加重比例ハザードモデルを使用した。重みは、Mark(2006)で説明されているように、症例対照コホートに選択される各患者の逆確率に基づく。
【0246】
二分されたベースラインSPON-1測定値(<=1.4 NPXか、> 1.4 NPXか)に基づいて、2つのグループの絶対生存率の推定値を得るために、Mark(2006)に記載されているようにカプランマイヤープロットの加重バージョンを作成した。
【0247】
SPON-1の予後値が、既知の臨床的および人口統計学的リスク因子から独立しているかどうかを評価するために、年齢、性別、CHF病歴、高血圧の病歴、脳卒中/TIA/血栓塞栓症の病歴、血管疾患の病歴、糖尿病の病歴を追加して含む、加重比例コックスモデルが、計算された。
【0248】
脳卒中の予後に関する既存のリスクスコアを改善するSPON-1の能力を評価するために、CHADS、CHADS-VAScおよびABCスコアをSPON-1(log2変換)によって拡張した。拡張は、SPON-1およびそれぞれのリスクスコアを独立変数として含む、分割したハザードモデルを作成することによって行った。
【0249】
CHADS、CHADS-VASc、およびABCスコアのc-インデックスを、これらの拡張モデルのc-インデックスと比較した。症例コホート設定でのc-indexの計算には、Ganna(2011)で提案されているように、c-indexの加重バージョンを使用した。
【0250】
結果
表1は、二値化またはlog2変換されたSPON-1を含む、2つの一変量加重比例ハザードモデルの結果を示す。
【0251】
脳卒中を経験するリスクとSPON-1のベースライン値との関連は、両モデルともに非常に有意である。
【0252】
二値化されたSPON-1のハザード比は、ベースラインSPON-1>=1.4 NPXの患者グループが、ベースラインSPON-1<1.4 NPXの患者グループに対して、脳卒中のリスクが1.51倍高くなることを意味する。これは、脳卒中事象の発生までの生存確率を経時的に示すカプランマイヤー曲線を示す図3でも認識できる。
【0253】
しかしながら、p値が0.05を超えていることは、この症例での二値化が最適ではないことを示している可能性がある。
【0254】
log2変換線形リスク予測因子としてSPON-1を含む比例ハザードモデルの結果は、log2変換値SPON-1が脳卒中を経験するリスクに比例することを示唆する。ハザード比5.22は、SPON-1の2倍の増加が、脳卒中のリスクの5.22の増加に関連すると解釈され得る。
【0255】
これに関連して、SPON-1レベルが特定の経口抗凝固剤(OAK)の摂取量と相関していることに注目するのは、興味深い。図4は、リバロキサバンを使用している患者が、残りの患者と比較してSPON-1の濃度が低いことを示す。しかし、数名のリバロキサバンを摂取する患者も、1.4 NPXを超えるSPON-1値を有する。これは、SPON-1を使用してOAK摂取の有効性をモニタリングできることを示している可能性がある。
【表1】
【0256】
表2は、臨床的および人口統計学的変数を組み合わせたSPON-1(log2変換)を含む、比例ハザードモデルの結果を示す。これは、関連する臨床的および人口統計学的変数の予後効果を調整すると、SPON-1の予後効果が安定したままであることを明確に示す。
【表2】
【0257】
表3は、CHADSスコアにSPON-1(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、SPON-1は、予後情報をCCHADSスコアに追加できる。
【表3】
【0258】
表4は、CHADS-VAScスコアにSPON-1(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、SPON-1は、予後情報をCHADS-VAScスコアに追加できる。
【表4】
【0259】
表5は、ABCスコアにSPON-1(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、SPON-1は、予後情報をリスクスコアに追加できる。
【表5】
【0260】
表6は、SPON-1(log2)単独、CHADS-VAScスコア、およびCHADS-VAScスコアとSPON-1との組み合わせの推定C-index、ならびにCHADS、ABCスコア、およびそれらのSPON-1との組み合わせの推定C-indexを示す。
【0261】
SPON-1の追加により、3つのリスクモデルすべてのc-indexが改善されることがわかる。改善は、CHADS、CHADS-VASc、ABCスコアでそれぞれ0.0158、0.0164、0.0410である。
【0262】
表6は、NTproBNP単独、ESM-1単独、Ang-2単独、IGFBP-7単独、CHADS-VAScスコア、およびCHADS-VAScスコアとNTproBNP(log2)、ESM-1(log2)、ANG-2(log2)、IGFBP-7(log2)を組み合わせた、症例コホート選択に関する加重比例ハザードモデルの推定c-indexを示す。すべてのバイオマーカーを追加すると、CHADS-VAScスコアのc-indexが改善することがわかる。CHADS-VAScスコアの改善は、NTproBNP、ESM-1、Ang-2、IGFBP-7で、0.002、0.064、0.036、0.006である。
【0263】
この文脈では、SPON-1と確立されたマーカー(NTproBNPおよびChadsVasc)との相関が、ESM-1との相関と同様に低いことは興味深い。a)SPON-1とNTproBNPとの相関係数=0.44、b)SPON-1とESM1との相関係数=0.37、c)SPON-1とCHADsVAScとの相関係数=0.25。これらのデータは、SPON-1が補足情報を提供し、SPON-1および/またはNTproBNPおよび/またはESM1および/またはCHADsVAScマーカーの組み合わせが、各マーカー単独と比較して、脳卒中の高いリスクを有する患者の検出を改善し得ることを示唆している。
【表6】
【0264】
症例研究
心房細動のない患者においても虚血性脳卒中のリスクを知り、低減することに関心が高まっている(Yao X et al、Am Heart J.2018 May;199:137-143)。脳卒中のリスクが高いこれらの患者を特定することは、それらを薬物研究(経口抗凝固療法)に含め、最適な治療戦略を確立するために不可欠である。例えば、脳卒中のリスクが高く、かつ心房細動のないこれらの患者が、どのCHADS-VAScレベルで、どの用量で経口抗凝固療法を受けるべきかの臨床ガイダンスが不十分である(Yao X et al、Am Heart J.2018 May;199:137-143)。例えば、CHADS-VAScスコアによって、心房細動のない患者でも虚血性脳卒中の発生率は予測されるが、絶対事象率は低くなる(Mitchell LB et al、Heart.2014;100:1524-30)。そのため、SPON-1などの追加的な脳卒中リスクマーカーが脳卒中リスクの評価に役立ち、経口抗凝固療法のガイダンスを提供する。
【0265】
高血圧で心房細動の病歴のない70歳の男性患者が洞調律を示す。SPON-1は、患者から採取したEDTA血漿サンプルで決定する。臨床的情報(高齢および高血圧)は、特定の脳卒中リスクを示すが、SPON-1値も参照値を超えて測定される(高い脳卒中リスクの指標である)。結果として、患者は抗凝固療法を受けることができる。
【0266】
心房細動の病歴のない75歳の女性患者が、診療所での診察を依頼する。患者は洞調律を示すが、構造的心臓疾患と診断される。脳卒中の病歴および全体的に高いCHADS-VAScスコアのため、患者は、直ちに経口抗凝固療法(低用量)を受ける。2回目の来院時の残存脳卒中リスクを判断し、最終的な薬剤投与量の変更を結論付けるために、患者から採取した血清サンプルでSPON-1を測定する。観測されたSPON-1値は、参照値を上回る。他のリスクパラメータ(脳卒中の病歴)と組み合わせたSPON-1力価の上昇は、残存脳卒中リスクが、出血リスクよりも高いことを示す(他の臨床情報で評価)。結果として、抗凝固療法の投与量が増加される。
【0267】
糖尿病で駆出率の低下を伴う心不全の68歳の肥満女性患者が、息切れの急性症状を示す。以前の来院では、患者に心房細動の病歴はない。全体的に高いCHADS-VASCリスクスコアにより、医師は、心房細動がなくても経口抗凝固療法(低用量)を開始することを決定した。SPON-1レベルは、抗凝固療法の開始前後に決定する。患者は現在、抗凝固療法が有効であるか、まだ必要であるかどうか疑問に思っている。脳卒中の現在のリスクを特定するために、患者から採取されたEDTAサンプル中のSPON-1を決定する。観察されたSPON-1値は、参照値を下回る。SPON-1力価の低下は、有効な抗凝固療法の指標であり、抗凝固療法は継続される。
図1
図2
図3
図4