(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】精製された両親媒性ペプチド組成物を用いた、外科的方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/10 20060101AFI20230817BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20230817BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20230817BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20230817BHJP
C07K 7/00 20060101ALN20230817BHJP
A61K 9/08 20060101ALN20230817BHJP
A61M 5/28 20060101ALN20230817BHJP
【FI】
A61K38/10
A61P7/04 ZNA
A61L31/14 300
A61L31/14 500
A61L31/06
C07K7/00
A61K9/08
A61M5/28
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022004913
(22)【出願日】2022-01-17
(62)【分割の表示】P 2020090312の分割
【原出願日】2014-03-06
【審査請求日】2022-02-10
(32)【優先日】2013-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505043041
【氏名又は名称】株式会社スリー・ディー・マトリックス
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】野原 正広
(72)【発明者】
【氏名】小林 智
(72)【発明者】
【氏名】松田 範昭
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6709826(JP,B2)
【文献】国際公開第2012/008967(WO,A1)
【文献】特表2008-539257(JP,A)
【文献】国際公開第2010/041636(WO,A1)
【文献】特開2009-011341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61L 31/00-31/18
A61M 5/00-5/52
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者において実施された体内における外科的手順の後の術後出血の低減のための方法における使用のための組成物であって、
約1~約3%(w/v)のペプチドを含むペプチド溶液を含み、
前記ペプチドは、n-RADARADARADARADA-cのアミノ酸配列を含み、
前記溶液は、2つの状態(1つまたは複数の特定のイオンが実質的に不在の場合に採択される未ゲル化状態、および、前記の1つまたは複数のイオンが閾値レベル以上で存在する場合に採択されるゲル化状態)の間を移行する能力により特徴付けられ、
前記の1つまたは複数のイオンは、存在する、または存在するようになり、
前記の1つまたは複数のイオンは、カリウム(K
+)およびナトリウム(Na
+)である、
組成物。
【請求項2】
請求項1
に記載の使用のための組成物であって、
前記体内における外科的手順が、内視鏡的または腹腔鏡下での外科的手順
を含む、
組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の使用のための組成物であって、
前記使用が、前記外科的手順の前に、前記外科的手順の部位へ前記組成物を
投与するステップ、を含む、
組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための組成物であって、
前記使用が、前記外科的手順の部位へ前記組成物を投与するステップを含み、前記部位が出血している、
組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の使用のための組成物であって、
前記使用が、前記外科的手順の部位への前記組成物の投与の後に、生理食塩水による洗浄で前記部位を洗浄することにより、前記
外科的手順の部位から前記組成物を除去するステップ、を含む、
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、米国特許法第119条(e)の下、2013年3月6日に出願された米国仮特許出願第61/773,359の利益を主張し、その出願は、その全体で参照により本明細書に援用される。
【0002】
[配列リスト]
本出願は、2014年3月6日に「2004837-0033_ST」という名称のasciiテキストファイルとして電子書式で提出された配列リストを参照する。テキストファイルは2014年2月27日に作られた。サイズは13kbである。
【背景技術】
【0003】
外科的手順は、患者が直面する様々な医学的問題を正すために行なわれる。典型的に、切開をして患者の体内の外科的部位(surgical site)にアクセスする。出血を防ぎ、および/または最小限にするために、血管をクランプしてよく;外科的部位を露出させ、または、それを開いたままにしておくことを可能にするために、開創器を用いてよく、それにより、外科医が、手順と関連する1つまたは複数のタスクを行なうことを可能にする。行なわれるワークに応じて、外科的部位へ貫入するために、数回の切開および/または切離が必要であり得る。例えば、腹部内の位置にアクセスするためには、皮膚、皮下組織、筋層および/または腹膜を切離する必要があり得る。一部の外科的手順でのケースのように、外科医は、骨を切り込む必要もあり得る。例えば、一部の外科的手順は、脳にアクセスするために頭蓋骨を切ること、または、心臓にアクセスするために胸部を切ることを伴い得る。任意または全てのこれらの手順を行なう複数点で、出血が生じる可能性があり、および、典型的に出血が生じる。
【0004】
外科的処置中の一部の出血は、予期されるものである。しかしながら、広範囲の出血(すなわち、所定の外科的手順において典型的に直面するものを超える)は、生命を危うくするほど危険である可能性があり得る。ある場合には、重篤な出血は、外科的手順を終わらせ得る。ある場合には、輸血が必要であり得る。血液または血液拡張が、外科的手順中に典型的に用いられて、失血を補充する。ある場合には、失血を対処するために取られるステップは、外科的手順にかなりの時間を追加する可能性があり、および/または、より長い回復時間を患者にもたらす可能性がある。
【0005】
外科的手順中の出血を調節するケアの基準は、必要に応じた態様または確立された方法によって局所的に投与される、ヒトの血液成分、合成の産物、または、動物由来の物質の使用を含む。そのような産物および物質は、主に、組織を形成するタンパク質からなり、それらは生体適合性であって有効性を示すので、外科的適用に良く適している。しかしながら、それらは無制限ではない。例えば、これらの産物は、感染物質(例えばウイルス)の存在を介した感染のリスクがあり得る。さらに、動物由来の産物は、患者の体が、産物中の外来抗原に対して反応するときに、アナフィラキシーショックを潜在的に含む有害な免疫応答を引き起こす可能性がある、それら自身のリスクを示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、とりわけ、例えば、外科医が外科的タスクを行なっている間に直面する出血の調節および止血において、より安全かつより効果的な物質を用いる、改善された外科的手順を提供する。また、本発明は、より短時間で行なわれ、および/または、標準的な手順で典型的に生じるよりも少ない出血を伴う、外科的手順も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、とりわけ、外科的処置中の、出血(例えば滲出性出血)を処置する、および/または止めるための、改善された外科的方法を提供する。本発明により提供されるペプチド組成物は、止血するために用いられる外科的方法(例えば、冠動脈バイパスおよび全体的または部分的な肝臓切除)での使用に特に有用であると考えられる。一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物の外科的方法での使用は、(例えば体内の)外科的手順中の出血を止める、および/または、調節することにおいて、改善を提供する。
【0008】
一部の実施態様では、本発明は、患者または対象に対して体内の外科的手順を行なう方法において、切開が、体内で、a)内部の臓器または組織の損傷部分を含む部位へのアクセスが第一の期間に提供され、b)一部または全部の損傷部分の除去、修復、または置換が、前記の第一の期間中に行なわれ、および、c)前記切開が、前記の第一の期間の終わりに閉じられる、というように行なわれ、改善は、前記部位内で、前記の第一の期間内に、0.1~10%のペプチド溶液を含む組成物を少なくとも1回適用すること(ここで前記ペプチドは、RADAリピートのアミノ酸配列を含み;およびここで前記溶液は、2つの状態(1つまたは複数の特定のイオンが実質的に不在の場合に採択される未ゲル化状態、および、前記の1つまたは複数のイオンが閾値レベル以上で存在する場合に採択されるゲル化状態)の間を移行する能力により特徴付けられ、ここで、前記の1つまたは複数のイオンは、前記位置に存在し、または存在するようになる);および、前記組成物中の前記ペプチドがそれらのゲル化状態に移行するのに十分に、第二の期間、前記組成物が前記部位内に留まるのを可能にすること、を含む方法を提供する。
【0009】
一部の実施態様では、第一の期間は、5分よりも長く;一部の実施態様では、10、20、30、40、50、または60分よりも長い。一部の実施態様では、第一の期間は、約1時間である。一部の実施態様では、第一の期間は、5分未満であり;一部の実施態様では、10、20、30、40、50または60分未満である。一部の実施態様では、第一の期間は、1時間未満である。
【0010】
一部の実施態様では、本発明は、第二の期間内に、部位において、少なくとも1つの他の医療手順を行なう改善をさらに含む。一部の実施態様では、第二の期間は、5分未満であり;一部の実施態様では、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1分未満である。一部の実施態様では、第二の期間は、約5分である。一部の実施態様では、第二の期間は、5分よりも長く;一部の実施態様では、第二の期間は、6、7、8、9、10、またはそれよりも長い分よりも長い。一部の実施態様では、第二の期間は、約10である。
【0011】
一部の実施態様では、1つまたは複数のイオンは、カリウム(K+)およびナトリウム(Na+)から選択される。一部の実施態様では、1つまたは複数のイオンは、カリウム(K+)およびナトリウム(Na+)である。様々な実施態様では、閾値レベルは、患者または対象の外科的部位内に存在する生理学的条件によって特徴付けられる。一部の実施態様では、閾値レベルは、患者または対象の外科的部位内の、体液、血液、組織、および/または、それらの組み合わせとの接触により提供される。
【0012】
様々な実施態様では、患者または対象は、ヒトまたは非ヒトである、一部の特定の実施態様では、非ヒト対象は、哺乳類を含む。一部の特定の実施態様では、哺乳類は、齧歯類(例えばマウスまたはラット)、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、アルパカ、バンテン、バイソン、ラクダ、シカ、ロバ、ガヤル、モルモット、ラマ、ラバ、ウサギ、トナカイ、水牛、および、ヤクを含む。
【0013】
一部の実施態様では、本発明の体内の外科的手順は、肝臓の切除または肝臓の少なくとも一部分の切除である。一部の実施態様では、肝臓の全体的または部分的な切除が行われる。本発明の一部の実施態様では、4時間未満(例えば、3.75、3.50、3.00、2.75、2.00、1.75、1.50、または1.00未満)であって、したがってそのような改善が存在しない標準的な第一の期間(標準的な第一の期間は、5~6時間の範囲内(例えば、約5~約6時間を含めた範囲内;一部の実施態様では、約5.0、5.1、5.2、5.3.5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0時間)である)と比較して減少した、第一の期間内に肝臓切除を完了するという改善をさらに含む。
【0014】
一部の実施態様では、本発明は、第一の期間中に、部位内で、フィブリン糊またはSURGICEL(登録商標)またはそれらの組み合わせを適用しないという改善をさらに含む。一部の実施態様では、本発明は、第一の期間中に、部位内で、フィブリン糊またはSURGICEL(登録商標)またはそれらの組み合わせに加えて、ペプチドの溶液を含む組成物を適用するという改善を含む。
【0015】
一部の実施態様では、少なくとも1回の第一の適用は、部位内での任意の他の外科的活動の前に完了する。
【0016】
一部の実施態様では、本発明の体内の外科的手順は、冠動脈バイパスである。
【0017】
一部の実施態様では、患者または対象は、外科的処置の前に、抗凝血剤を投薬される。
【0018】
一部の実施態様では、本発明の体内の外科的手順は、冠動脈バイパスであり、ここで、改善は、移植あたり、少なくとも20分(例えば、少なくとも21、22、23、24、25、26、27、28、29または30分)である第一の期間内に(そのような改善が存在しない標準的な第一の期間よりも短い)、外科的手順を完了することをさらに含み;一部の特定の実施態様では、約20分である。
【0019】
一部の実施態様では、本発明のペプチド溶液は、約0.1%~約10%(例えば、約0.1~10%;0.2~9.9%、0.3~9.8%、0.4~9.7%、0.5~9.6%、0.6~9.5%、0.7~9.4%、0.8~9.3%、0.9~9.2%、1.0~9.1%、1.1~9.0%、1.2~8.9%、1.3~8.8%、1.4~8.7%、1.5~8.6%、1.6~8.5%、1.7~8.4%、1.8~8.3%、1.9~8.2%、2.0~8.1%、2.1~8.0%、2.2~7.9%、2.3~7.8%、2.4~7.7%、2.5~7.6%、2.6~7.5%、2.7~7.4%、2.8~7.3%、2.9~7.2%、3.0~7.1%、3.1~7.0%、3.2~6.9%、3.3~6.8%、3.4~6.7%、3.5~6.6%、3.6~6.5%、3.7~6.4%、3.8~6.3%、3.9~6.2%、4.0~6.1%、4.1~6.0%、4.2~5.9%、4.3~5.8%、4.4~5.4%、4.6~5.3%、4.7~5.2%、4.8~5.1%または4.9~5.0%)の範囲内の濃度を有する。様々な実施態様では、濃度は、0.1~5%、0.25~4.75%、0.5~4.5%、0.75~4.25%、1.0~4.0%、1.25~3.75%、1.5~3.5%、1.75~3.25%、2.0~3.0%、または2.25~2.75%の範囲内である。様々な実施態様では、本発明のペプチド溶液は、1~3%を含めた範囲内;一部の特定の実施態様では、約1.0%、一部の実施態様では、約1.5%;一部の実施態様では、約2.0%;一部の実施態様では、約2.5%;一部の実施態様では、約3%の濃度を有する。
【0020】
様々な実施態様では、本発明のペプチドは、2、3または4回リピートのRADA(配列番号:1)を含むアミノ酸配列;一部の実施態様では、2回のRADAリピート(例えば、RADARADA;配列番号:2)のアミノ酸配列;一部の実施態様では、3回リピート(例えば、RADARADARADA;配列番号:3)のアミノ酸配列;一部の実施態様では、4回のRADAリピート(例えば、RADARADARADARADA;配列番号:4)のアミノ酸配列を含む。
【0021】
一部の実施態様では、本発明は、患者または対象に対して体内の外科的手順を行なう方法を提供し、その方法は、第一の期間、内部の臓器または組織の損傷部分にアクセスするために患者の体内の位置を露出させるステップ(第一の期間中に臓器または組織の少なくとも一部分を、除去、修復、または置換するため)、0.1~10%ペプチド溶液を含む組成物を前記位置の部位に適用するステップ(ここで前記ペプチドは、RADAリピートのアミノ酸配列を含み;およびここで前記溶液は、2つの状態(1つまたは複数の特定のイオンが実質的に不在の場合に採択される未ゲル化状態、および、前記の1つまたは複数のイオンが閾値レベル以上で存在する場合に採択されるゲル化状態)の間を移行する能力により特徴付けられ、ここで前記の1つまたは複数のイオンは、前記位置に存在し、または存在するようになる)、第二の期間、前記位置に組成物を留まらせるステップ(ここで組成物中のペプチドは、ゲル化状態に移行する)、を含む。
【0022】
一部の実施態様では、第一の期間は、5分よりも長く;一部の実施態様では、10、20、30、40、50、または60分よりも長い。一部の実施態様では、第一の期間は、約1時間である。一部の実施態様では、第一の期間は、5分未満であり;一部の実施態様では、10、20、30、40、50または60分未満である。一部の実施態様では、第一の期間は、1時間未満である。
【0023】
一部の実施態様では、本発明は、第二の期間中に、位置において、少なくとも1つの他の医療手順を行なうという改善をさらに含む。一部の実施態様では、第二の期間は、5分未満であり;一部の実施態様では、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1分未満である。一部の実施態様では、第二の期間は、約5分である。一部の実施態様では、第二の期間は、5分よりも長く;一部の実施態様では、第二の期間は、6、7、8、9、10、またはそれより長い分よりも長い。一部の実施態様では、第二の期間は、約10分である。
【0024】
一部の実施態様では、1つまたは複数のイオンは、カリウム(K+)およびナトリウム(Na+)から選択される。一部の実施態様では、1つまたは複数のイオンは、カリウム(K+)およびナトリウム(Na+)である。様々な実施態様では、閾値レベルは、患者または対象の外科的部位内に存在する生理学的条件により特徴付けられる。一部の実施態様では、閾値レベルは、患者または対象の外科的部位内の、体液、血液、組織、および/または、それらの組み合わせとの接触により提供される。
【0025】
様々な実施態様では、患者または対象は、ヒトまたは非ヒトである。一部の特定の実施態様では、非ヒト患者は、哺乳類を含む。一部の特定の実施態様では、哺乳類は、齧歯類(例えばマウスまたはラット)、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、アルパカ、バンテン、バイソン、ラクダ、シカ、ロバ、ガヤル、モルモット、ラマ、ラバ、ウサギ、トナカイ、水牛、および、ヤクを含む。
【0026】
一部の実施態様では、本発明の体内の外科的手順は肝臓切除であり、4時間未満(例えば、3.75、3.50、3.00、2.75、2.00、1.75、1.50、または1.00未満)であって、したがって、適用が存在しない標準的な第一の期間(標準的な第一の期間は、5~6時間の範囲内(例えば、約5~約6時間を含めた範囲内;一部の実施態様では、約5.0、5.1、5.2、5.3.5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0時間)である)と比較して減少した、第一の期間内に完了する。
【0027】
一部の実施態様では、本発明は、第一の期間中に、部位内で、フィブリン糊またはSURGICEL(登録商標)またはそれらの組み合わせの適用を除外する方法の改善をさらに含む。一部の実施態様では、本発明は、第一の期間中に、部位内で、フィブリン糊またはSURGICEL(登録商標)またはそれらの組み合わせに加えて、ペプチドの溶液を含む組成物を適用するという改善をさらに含む。
【0028】
一部の実施態様では、少なくとも1つの第一の適用は、部位内での任意の他の外科的活動の前に完了する。一部の実施態様では、患者は、外科的処置の前に、抗凝血剤を投薬される。
【0029】
一部の実施態様では、本発明のペプチド溶液は、約0.1%~約10%(例えば、約0.1~10%;0.2~9.9%、0.3~9.8%、0.4~9.7%、0.5~9.6%、0.6~9.5%、0.7~9.4%、0.8~9.3%、0.9~9.2%、1.0~9.1%、1.1~9.0%、1.2~8.9%、1.3~8.8%、1.4~8.7%、1.5~8.6%、1.6~8.5%、1.7~8.4%、1.8~8.3%、1.9~8.2%、2.0~8.1%、2.1~8.0%、2.2~7.9%、2.3~7.8%、2.4~7.7%、2.5~7.6%、2.6~7.5%、2.7~7.4%、2.8~7.3%、2.9~7.2%、3.0~7.1%、3.1~7.0%、3.2~6.9%、3.3~6.8%、3.4~6.7%、3.5~6.6%、3.6~6.5%、3.7~6.4%、3.8~6.3%、3.9~6.2%、4.0~6.1%、4.1~6.0%、4.2~5.9%、4.3~5.8%、4.4~5.4%、4.6~5.3%、4.7~5.2%、4.8~5.1%または4.9~5.0%)の範囲内の濃度を有する。様々な実施態様では、濃度は、0.1~5%、0.25~4.75%、0.5~4.5%、0.75~4.25%、1.0~4.0%、1.25~3.75%、1.5~3.5%、1.75~3.25%、2.0~3.0%、または2.25~2.75%の範囲内である。
【0030】
一部の実施態様では、本発明のペプチド溶液は、1~3%を含めた範囲内の濃度を有する。一部の特定の実施態様では、約1.0%、一部の実施態様では、約1.5%;一部の実施態様では、約2.0%;一部の実施態様では、約2.5%;一部の実施態様では、約3%である。
【0031】
様々な実施態様では、本発明のペプチドは、2、3または4回リピートのRADA(配列番号:1)を含むアミノ酸配列;一部の実施態様では、2回のRADAリピート(例えば、RADARADA;配列番号:2)のアミノ酸配列;一部の実施態様では、3回リピート(例えば、RADARADARADA;配列番号:3)のアミノ酸配列;一部の実施態様では、4回のRADAリピート(例えば、RADARADARADARADA;配列番号:4)のアミノ酸配列を含む。
【0032】
一部の実施態様では、本発明は、患者または対象における肝臓の外科的処置中の、滲出性出血を処置する方法を提供し、その方法は、以下のステップを含む。(a)0.1~10%のペプチド溶液を含む組成物を、患者または対象における滲出性出血の位置に適用するステップ(ここで前記ペプチドは、RADAリピートのアミノ酸配列を含み;およびここで前記溶液は、2つの状態(1つまたは複数の特定のイオンが実質的に不在の場合に採択される未ゲル化状態、および、前記の1つまたは複数のイオンが閾値レベル以上で存在する場合に採択されるゲル化状態)の間を移行する能力により特徴付けられ、ここで、前記の1つまたは複数のイオンは、前記位置に存在し、または存在するようになる);(b)組成物がゲル化するのに十分な期間、前記の1つまたは複数のイオンとともに、前記位置に適用した組成物を留めておくステップ;および(c)組成物を最初に除去するというステップを伴わずに、前記位置において、1つまたは複数の肝臓の外科的処置のタスクを行なうステップ。
【0033】
一部の実施態様では、滲出性出血は、電気焼灼に起因する。
【0034】
一部の実施態様では、患者または対象は、肝臓の外科的処置の開始前に、抗凝血剤を投与される。
【0035】
一部の実施態様では、溶液を含む本発明のペプチド組成物は、内視鏡的に適用される。一部の実施態様では、1つまたは複数の肝臓の外科的処置のタスクは、内視鏡的に行われる。一部の実施態様では、1つまたは複数の肝臓の外科的処置のタスクは、腹腔鏡下で行なわれる。一部の特定の実施態様では、1つまたは複数の肝臓の外科的処置のタスクは、肝臓の分離を含む。一部の特定の実施態様では、1つまたは複数の肝臓の外科的処置のタスクは、血管の剥脱を含む。
【0036】
一部の実施態様では、本発明のペプチド溶液は、約0.1%~約10%(例えば、0.1~10%;0.2~9.9%、0.3~9.8%、0.4~9.7%、0.5~9.6%、0.6~9.5%、0.7~9.4%、0.8~9.3%、0.9~9.2%、1.0~9.1%、1.1~9.0%、1.2~8.9%、1.3~8.8%、1.4~8.7%、1.5~8.6%、1.6~8.5%、1.7~8.4%、1.8~8.3%、1.9~8.2%、2.0~8.1%、2.1~8.0%、2.2~7.9%、2.3~7.8%、2.4~7.7%、2.5~7.6%、2.6~7.5%、2.7~7.4%、2.8~7.3%、2.9~7.2%、3.0~7.1%、3.1~7.0%、3.2~6.9%、3.3~6.8%、3.4~6.7%、3.5~6.6%、3.6~6.5%、3.7~6.4%、3.8~6.3%、3.9~6.2%、4.0~6.1%、4.1~6.0%、4.2~5.9%、4.3~5.8%、4.4~5.4%、4.6~5.3%、4.7~5.2%、4.8~5.1%または4.9~5.0%)の範囲内の濃度を有する。様々な実施態様では、濃度は、0.1~5%、0.25~4.75%、0.5~4.5%、0.75~4.25%、1.0~4.0%、1.25~3.75%、1.5~3.5%、1.75~3.25%、2.0~3.0%、または2.25~2.75%の範囲内である。一部の実施態様では、本発明のペプチド溶液は、1~3%を含めた範囲内の濃度を有する。一部の特定の実施態様では、約1.0%、一部の実施態様では、約1.5%;一部の実施態様では、約2.0%;一部の実施態様では、約2.5%;一部の実施態様では、約3%である。
【0037】
様々な実施態様では、本発明のペプチドは、2、3または4回リピートのRADA(配列番号:1)を含むアミノ酸配列;一部の実施態様では、2回のRADAリピート(例えば、RADARADA;配列番号:2)のアミノ酸配列;一部の実施態様では、3回リピート(例えば、RADARADARADA;配列番号:3)のアミノ酸配列;一部の実施態様では、4回のRADAリピート(例えば、RADARADARADARADA;配列番号:4)のアミノ酸配列を含む。
【0038】
一部の実施態様では、1つまたは複数のイオンは、カリウム(K+)およびナトリウム(Na+)から選択される。一部の実施態様では、1つまたは複数のイオンは、カリウム(K+)およびナトリウム(Na+)である。様々な実施態様では、閾値レベルは、患者または対象の外科的部位内に存在する生理学的条件により特徴付けられる。一部の実施態様では、閾値レベルは、患者または対象の外科的部位内の、体液、血液、組織、および/または、それらの組み合わせとの接触により提供される。
【0039】
様々な実施態様では、患者または対象は、ヒトまたは非ヒトである。一部の特定の実施態様では、非ヒト患者または対象は、哺乳類を含む。一部の特定の実施態様では、哺乳類は、齧歯類(例えばマウスまたはラット)、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、アルパカ、バンテン、バイソン、ラクダ、シカ、ロバ、ガヤル、モルモット、ラマ、ラバ、ウサギ、トナカイ、水牛、および、ヤクを含む。
【0040】
一部の実施態様では、本発明は、患者または対象における冠動脈バイパスの外科的処置中の、移植片採取中の出血を処置する方法を提供し、その方法は、(a)0.1~10%のペプチド溶液を含む組成物を、移植片採取部位に適用するステップ(ここで前記ペプチドは、RADAリピートのアミノ酸配列を含み;およびここで前記溶液は、2つの状態(1つまたは複数の特定のイオンが実質的に不在の場合に採択される未ゲル化状態、および、前記の1つまたは複数のイオンが閾値レベル以上で存在する場合に採択されるゲル化状態)の間を移行する能力により特徴付けられ、ここで、前記の1つまたは複数のイオンは、前記位置に存在し、または存在するようになる);および(b)組成物がゲル化するのに十分な期間、前記の1つまたは複数のイオンとともに、組成物を前記位置に留めておくステップ、を含む。
【0041】
一部の実施態様では、出血は、電気焼灼に起因する。
【0042】
一部の実施態様では、本発明のペプチド組成物を適用するステップは、移植片採取の開始前に行なわれる。一部の特定の実施態様では、移植片採取は、適用されたペプチド組成物(ゲル化状態で存在する)を除去せずに行われる。
【0043】
一部の実施態様では、本発明のペプチド組成物を適用するステップは、移植片採取の開始後であるが完了前に行なわれる。一部の特定の実施態様では、移植片採取は、適用されたペプチド組成物(ゲル化状態で存在する)を除去せずに行われる。
【0044】
一部の実施態様では、本発明のペプチド組成物を位置に留めておくステップは、少なくとも1つのステップの移植片採取ステップの実施を介して留めておくステップを含む。一部の実施態様では、本発明のペプチド組成物を位置に留めておくステップは、移植片採取ステップの完了を介して留めておくステップを含む。様々な実施態様では、移植片採取は、本発明の適用されたペプチド組成物を除去せずに行なわれ、および/または完了される。
【0045】
一部の実施態様では、本発明のペプチド溶液は、約0.1%~約10%(例えば、0.1~10%;0.2~9.9%、0.3~9.8%、0.4~9.7%、0.5~9.6%、0.6~9.5%、0.7~9.4%、0.8~9.3%、0.9~9.2%、1.0~9.1%、1.1~9.0%、1.2~8.9%、1.3~8.8%、1.4~8.7%、1.5~8.6%、1.6~8.5%、1.7~8.4%、1.8~8.3%、1.9~8.2%、2.0~8.1%、2.1~8.0%、2.2~7.9%、2.3~7.8%、2.4~7.7%、2.5~7.6%、2.6~7.5%、2.7~7.4%、2.8~7.3%、2.9~7.2%、3.0~7.1%、3.1~7.0%、3.2~6.9%、3.3~6.8%、3.4~6.7%、3.5~6.6%、3.6~6.5%、3.7~6.4%、3.8~6.3%、3.9~6.2%、4.0~6.1%、4.1~6.0%、4.2~5.9%、4.3~5.8%、4.4~5.4%、4.6~5.3%、4.7~5.2%、4.8~5.1%または4.9~5.0%)の範囲内の濃度を有する。様々な実施態様では、濃度は、0.1~5%、0.25~4.75%、0.5~4.5%、0.75~4.25%、1.0~4.0%、1.25~3.75%、1.5~3.5%、1.75~3.25%、2.0~3.0%、または2.25~2.75%の範囲内である。一部の実施態様では、本発明のペプチド溶液は、1~3%を含めた範囲内の濃度を有する。一部の特定の実施態様では、約1.0%、一部の実施態様では、約1.5%;一部の実施態様では、約2.0%;一部の実施態様では、約2.5%;一部の実施態様では、約3%である。
【0046】
様々な実施態様では、本発明のペプチドは、2、3または4回リピートのRADA(配列番号:1)を含むアミノ酸配列;一部の実施態様では、2回のRADAリピート(例えば、RADARADA;配列番号:2)のアミノ酸配列;一部の実施態様では、3回リピート(例えば、RADARADARADA;配列番号:3)のアミノ酸配列;一部の実施態様では、4回のRADAリピート(例えば、RADARADARADARADA;配列番号:4)のアミノ酸配列を含む。
【0047】
一部の実施態様では、1つまたは複数のイオンは、カリウム(K+)およびナトリウム(Na+)から選択される。一部の実施態様では、1つまたは複数のイオンは、カリウム(K+)およびナトリウム(Na+)である。様々な実施態様では、閾値レベルは、患者または対象の外科的部位内に存在する生理学的条件により特徴付けられる。一部の実施態様では、閾値レベルは、患者または対象の外科的部位内の、体液、血液、組織、および/または、それらの組み合わせとの接触により提供される。
【0048】
様々な実施態様では、患者または対象は、ヒトまたは非ヒトである。一部の特定の実施態様では、非ヒト患者または対象は、哺乳類を含む。一部の特定の実施態様では、哺乳類は、齧歯類(例えばマウスまたはラット)、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、アルパカ、バンテン、バイソン、ラクダ、シカ、ロバ、ガヤル、モルモット、ラマ、ラバ、ウサギ、トナカイ、水牛、および、ヤクを含む。
【0049】
一部の実施態様では、本発明は、患者または対象において、冠動脈バイパス移植の手順を行なう方法を提供し、その方法は、以下のステップを含む。(a)0.1~10%のペプチド溶液を含む組成物を、患者内の心臓位置に適用するステップ、ここで前記ペプチドはRADAリピートのアミノ酸配列;およびここで前記溶液は、2つの状態(1つまたは複数の特定のイオンが実質的に不在の場合に採択される未ゲル化状態、および、前記の1つまたは複数のイオンが閾値レベル以上で存在する場合に採択されるゲル化状態)の間を移行する能力により特徴付けられ、ここで、前記の1つまたは複数のイオンは、前記位置内に存在する、または存在するようになる。
【0050】
一部の実施態様では、心臓位置は、冠動脈上の解剖学的な(anastomy)部位である。一部の実施態様では、心臓位置は、移植血管上の解剖学的な部位である。一部の実施態様では、心臓位置は、酸素供給器のためのカニューレ(annula)連結の部位である。
【0051】
様々な実施態様では、本発明のペプチド組成物は、圧力を加えずに、心臓位置に適用される。
【0052】
一部の実施態様では、本発明のペプチド組成物を適用するステップは、移植片採取の開始後であるが完了前に行なわれる。一部の特定の実施態様では、移植片採取は、適用されたペプチド組成物(ゲル化状態で存在する)を除去せずに行われる。
【0053】
一部の実施態様では、本発明のペプチド組成物を適用するステップは、移植片採取の開始後であるが完了前に行なわれる。一部の特定の実施態様では、移植片採取は、適用されたペプチド組成物(ゲル化状態で存在する)を除去せずに行われる。
【0054】
一部の実施態様では、適用された本発明のペプチド組成物は、少なくとも1つのステップの移植片採取ステップの実施を介して、部位に留まる。一部の実施態様では、適用された本発明のペプチド組成物は、移植片採取ステップの完了を介して、その部位に留まる。様々な実施態様では、移植片採取は、適用された本発明のペプチド組成物を除去せずに行なわれ、および/または、完了する。
【0055】
一部の実施態様では、患者または対象において冠動脈バイパス移植の手順を行なう方法が提供され、改善は、部位内のフィブリン糊またはSURGICEL(登録商標)の適用を除外することを含む。
【0056】
一部の実施態様では、患者または対象において冠動脈バイパス移植の手順を行なう方法は、部位内で、フィブリン糊またはSURGICEL(登録商標)の適用に加えて、本発明のペプチド組成物を適用することを含む改善が提供される。
【0057】
一部の実施態様では、本発明のペプチド溶液は、約0.1%~約10%(例えば、0.1~10%;0.2~9.9%、0.3~9.8%、0.4~9.7%、0.5~9.6%、0.6~9.5%、0.7~9.4%、0.8~9.3%、0.9~9.2%、1.0~9.1%、1.1~9.0%、1.2~8.9%、1.3~8.8%、1.4~8.7%、1.5~8.6%、1.6~8.5%、1.7~8.4%、1.8~8.3%、1.9~8.2%、2.0~8.1%、2.1~8.0%、2.2~7.9%、2.3~7.8%、2.4~7.7%、2.5~7.6%、2.6~7.5%、2.7~7.4%、2.8~7.3%、2.9~7.2%、3.0~7.1%、3.1~7.0%、3.2~6.9%、3.3~6.8%、3.4~6.7%、3.5~6.6%、3.6~6.5%、3.7~6.4%、3.8~6.3%、3.9~6.2%、4.0~6.1%、4.1~6.0%、4.2~5.9%、4.3~5.8%、4.4~5.4%、4.6~5.3%、4.7~5.2%、4.8~5.1%または4.9~5.0%)の範囲内の濃度を有する。様々な実施態様では、濃度は、0.1~5%、0.25~4.75%、0.5~4.5%、0.75~4.25%、1.0~4.0%、1.25~3.75%、1.5~3.5%、1.75~3.25%、2.0~3.0%、または2.25~2.75%の範囲内である。一部の実施態様では、本発明のペプチド溶液は、1~3%を含めた範囲内の濃度を有する。一部の特定の実施態様では、約1.0%、一部の実施態様では、約1.5%;一部の実施態様では、約2.0%;一部の実施態様では、約2.5%;一部の実施態様では、約3%である。
【0058】
様々な実施態様では、本発明のペプチドは、2、3または4回リピートのRADA(配列番号:1)を含むアミノ酸配列;一部の実施態様では、2回のRADAリピート(例えば、RADARADA;配列番号:2)のアミノ酸配列;一部の実施態様では、3回リピート(例えば、RADARADARADA;配列番号:3)のアミノ酸配列;一部の実施態様では、4回のRADAリピート(例えば、RADARADARADARADA;配列番号:4)のアミノ酸配列を含む。
【0059】
一部の実施態様では、1つまたは複数のイオンは、カリウム(K+)およびナトリウム(Na+)から選択される。一部の実施態様では、1つまたは複数のイオンは、カリウム(K+)およびナトリウム(Na+)である。様々な実施態様では、閾値レベルは、患者または対象の外科的部位内に存在する生理学的条件により特徴付けられる。一部の実施態様では、閾値レベルは、患者または対象の外科的部位内の、体液、血液、組織、および/または、それらの組み合わせとの接触により提供される。
【0060】
様々な実施態様では、患者または対象は、ヒトまたは非ヒトである。一部の特定の実施態様では、非ヒト患者または対象は、哺乳類を含む。一部の特定の実施態様では、哺乳類は、齧歯類(例えばマウスまたはラット)、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、アルパカ、バンテン、バイソン、ラクダ、シカ、ロバ、ガヤル、モルモット、ラマ、ラバ、ウサギ、トナカイ、水牛、および、ヤクを含む。
【0061】
一部の実施態様では、本発明は、本明細書に記載の本発明のペプチド組成物を含む外科的手順での使用のための、プレフィルドシリンジを提供する。
【0062】
一部の実施態様では、外科的手順での使用のためのプレフィルドシリンジが提供され、それは、0.1~10%のペプチド溶液を含むバレル(ここで前記ペプチドは、RADAリピートのアミノ酸配列を含み;およびここで前記ペプチド溶液は、2つの状態(1つまたは複数の特定のイオンが実質的に不在の場合に採択される未ゲル化状態、および、前記の1つまたは複数のイオンが閾値レベル以上で存在する場合に採択されるゲル化状態)の間を移行する能力により特徴付けられ、ここで、前記の1つまたは複数のイオンは、前記位置に存在し、または存在するようになる);および、非金属ノズル(ここで、前記バレルおよび非金属ノズルは、液密な様式でしっかりした連結を形成することが可能である)を備える。
【0063】
一部の実施態様では、本発明のペプチド溶液は、約0.1%~約10%(例えば、0.1~10%;0.2~9.9%、0.3~9.8%、0.4~9.7%、0.5~9.6%、0.6~9.5%、0.7~9.4%、0.8~9.3%、0.9~9.2%、1.0~9.1%、1.1~9.0%、1.2~8.9%、1.3~8.8%、1.4~8.7%、1.5~8.6%、1.6~8.5%、1.7~8.4%、1.8~8.3%、1.9~8.2%、2.0~8.1%、2.1~8.0%、2.2~7.9%、2.3~7.8%、2.4~7.7%、2.5~7.6%、2.6~7.5%、2.7~7.4%、2.8~7.3%、2.9~7.2%、3.0~7.1%、3.1~7.0%、3.2~6.9%、3.3~6.8%、3.4~6.7%、3.5~6.6%、3.6~6.5%、3.7~6.4%、3.8~6.3%、3.9~6.2%、4.0~6.1%、4.1~6.0%、4.2~5.9%、4.3~5.8%、4.4~5.4%、4.6~5.3%、4.7~5.2%、4.8~5.1%または4.9~5.0%)の範囲内の濃度を有する。様々な実施態様では、濃度は、0.1~5%、0.25~4.75%、0.5~4.5%、0.75~4.25%、1.0~4.0%、1.25~3.75%、1.5~3.5%、1.75~3.25%、2.0~3.0%、または2.25~2.75%の範囲内である。一部の実施態様では、本発明のペプチド溶液は、1~3%を含めた範囲内の濃度を有する。一部の特定の実施態様では、約1.0%、一部の実施態様では、約1.5%;一部の実施態様では、約2.0%;一部の実施態様では、約2.5%;一部の実施態様では、約3%である。
【0064】
様々な実施態様では、本発明のペプチドは、2、3または4回リピートのRADA(配列番号:1)を含むアミノ酸配列;一部の実施態様では、2回のRADAリピート(例えば、RADARADA;配列番号:2)のアミノ酸配列;一部の実施態様では、3回リピート(例えば、RADARADARADA;配列番号:3)のアミノ酸配列;一部の実施態様では、4回のRADAリピート(例えば、RADARADARADARADA;配列番号:4)のアミノ酸配列を含む。
【0065】
一部の実施態様では、1つまたは複数のイオンは、カリウム(K+)およびナトリウム(Na+)から選択される。一部の実施態様では、1つまたは複数のイオンは、カリウム(K+)およびナトリウム(Na+)である。様々な実施態様では、閾値レベルは、患者または対象の外科的部位内に存在する生理学的条件により特徴付けられる。一部の実施態様では、閾値レベルは、患者または対象の外科的部位内の、体液、血液、組織、および/または、それらの組み合わせとの接触により提供される。
【0066】
様々な実施態様では、患者または対象は、ヒトまたは非ヒトである。一部の特定の実施態様では、非ヒト患者または対象は、哺乳類を含む。一部の特定の実施態様では、哺乳類は、齧歯類(例えばマウスまたはラット)、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、アルパカ、バンテン、バイソン、ラクダ、シカ、ロバ、ガヤル、モルモット、ラマ、ラバ、ウサギ、トナカイ、水牛、および、ヤクを含む。
【0067】
一部の実施態様では、本発明のプレフィルドシリンジは、冠動脈バイパス移植(CABG)、肝切除、完全腹腔鏡下肝切除(PLH)、内視鏡的粘膜切除(EMR)、内視鏡的粘膜下剥離(ESD)、胸腔鏡的部分的肺切除、リンパ節郭清、開腹部分的腎摘出、腹腔鏡下部分的腎摘出、大動脈置換および整形外科的な骨の外科的処置からなる群から選択される外科的手順において用いられる。
【0068】
一部の実施態様では、本発明のプレフィルドシリンジは、剛体の非金属ノズルを備える。一部の実施態様では、本発明のプレフィルドシリンジは、可撓性の非金属ノズルを備える。一部の特定の実施態様では、非金属ノズルは、内視鏡的な外科的手順での使用が可能であるように可撓性である。一部の特定の実施態様では、非金属ノズルは、腹腔鏡下の外科的手順での使用が可能であるように可撓性である。
【0069】
一部の実施態様では、本発明のプレフィルドシリンジは、本明細書に記載のペプチド溶液を、約1~50mLの範囲内(例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50mL)の容量で含む。一部の実施態様では、約1~約10mLを含めた範囲内の容量;一部の特定の実施態様では、約1、2、3、4、5、6、7、8、9または10mLである。一部の実施態様では、約1mLである。一部の実施態様では、約3mLである。一部の実施態様では、約5mLであり;一部の実施態様では、約10mLである。一部の実施態様では、約20mL~約30mLの範囲内の容量である。一部の実施態様では、約30mL~約40mLの範囲内の容量である。一部の実施態様では、約40mL~約50mLの範囲内の容量であり;一部の実施態様では約30mLである。
【0070】
一部の実施態様では、本明細書に記載の1つまたは複数のプレフィルドシリンジを含むキットが提供される。一部の特定の実施態様では、キットは1、2、3、4、5個、またはそれより多くのプレフィルドシリンジを含む。
【0071】
一部の実施態様では、本明細書に記載のプレフィルドシリンジ、および、そのようなプレフィルドシリンジを受け入れるための特別な形状をしたブリスターパックを含む、製剤パッケージが提供される。
【0072】
以下の図からなる本明細書に包含される図面は、説明目的のみのためであり、限定のためでない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【
図1】ペプチド足場におけるペプチド間の相互作用の概略図である。疎水性残基と親水性残基が交互のアミノ酸配列を有する様々なペプチドは、生理的に等価な電解質溶液に曝されると、自己組織化してβシートの安定した足場を形成する(US5,955,343およびUS5,670,483)。ペプチド足場は、ペプチド間の非常に多くの相互作用によって安定化される。例えば、隣接ペプチド由来の正電荷および負電荷のアミノ酸側鎖が、相補イオンペアを形成し、他の親水性残基(例えばアスパラギンおよびグルタミン)が、水素結合の相互作用に関与する。隣接ペプチド上の疎水基は、ファンデルワールス相互作用に関与する。また、ペプチド主鎖上のアミノ基およびカルボニル基は、分子間水素結合の相互作用にも関与する。
【
図2】ペプチド溶液の成分、および、ペプチド溶液が繊維状の網目を形成して溶液をゲル化させる条件の説明を示す。RADAリピートのペプチド鎖(上、左)、および、生理学的条件への露出後に生じる繊維状の網目の形成を示す(上、右)。採択されたゲル化状態(下、左)に加えて、繊維状の網目の電子顕微鏡写真を示す(下、右)。
【
図3】典型的な冠動脈バイパス移植(CABG)の外科的処置において、心臓に対して外科的に行われる、移植の位置の概略図(正確な縮尺ではない)を示す。CABG外科的処置で行なわれる典型的なステップを右側に詳述する。
【
図4】転子間骨折を修復するための外科的手順での、金属ネイルプレート(左)、ガンマネイル(中央)、および、エンダーピン(右)の配置の概略図(正確な縮尺ではない)を示す。
【
図5】腹腔鏡検査を用いた胸腔鏡下の部分的肺切除の外科的部位の概略図(正確な縮尺ではない)を示す。
【
図6】外科的部位および/または出血部位へのペプチド溶液の送達のために用いることのできる、シリンジの写真を示す。プランジャー、フィンガーグリップ、ガスケット、バレルおよびヘッドキャップはラベルされている。
【
図7】外科的部位および/または出血部位へのペプチド溶液の送達のために取り付けられる、特殊なノズル/カニューレを付けた、およびそれを外した、プレフィルドシリンジを示す。
【
図8】カテーテルを通って投与される外科的部位および/または出血部位へのペプチド溶液の送達のために取り付けられる特殊なコネクターを付けた、およびそれを外した、プレフィルドシリンジを示す。
【
図9】滅菌ブリスターパック内に個々に供給される、プレフィルドシリンジおよび特殊なノズル/カニューレを含む、製剤パッケージを示す。
【
図10】止血するためのオペレーション中の時間(分)(x軸)および、3つの例示的な外科的手順(肝切除、血管吻合、内視鏡検査)による適用部位の数(y軸)の棒グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0074】
本発明は、特定の方法および記載される実験条件に限定されず、したがって、方法および条件は変更し得る。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書中で用いられる専門用語は、特定の実施態様を説明する目的のみであり、指示がない限り、限定を意図しないことも理解されるべきである。
【0075】
別段の断りがない限り、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的な用語および語句は、当業者の一人により一般に理解されるのと同じ意味を持つ。本明細書に記載のものと同様または同等の任意の方法および材料を、本発明の実施または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料をここで説明する。本明細書で言及する全ての刊行物は、参照により本明細書中に援用される。
【0076】
[定義]
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに別段の指示をしない限り、複数の言及を含む。したがって例えば、「方法(a method)」との言及は、1つまたは複数の方法、および/または、本明細書に記載のタイプの、および/または、本開示を読んだ際に当業者に明らかになる、ステップなどを含む。
【0077】
用語「担体」は、組成物が一緒に投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。担体は、滅菌された液体、例えば、水および油などを含むことができ、石油、動物油、植物油または合成起源の油類、例えば、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などを含む。
【0078】
用語「相補」は、足場へと自己組織化するペプチド(イオンまたは水素結合の相互作用が、足場内の隣接ペプチド由来の親水性残基間で生じる)を指すために本明細書において用いられる。多くの実施態様では、
図1に示すように、ペプチド内の各親水性残基が、隣接ペプチド上の親水性残基と相互作用するか(例えば、水素結合またはイオンペア)、または、溶媒に露出される。
【0079】
用語「賦形剤」は、所望の濃度または安定化作用を提供するために医薬組成物に添加される、非治療剤を指す。適切な製剤賦形剤は、例えば、スターチ、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどを含む。
【0080】
語句「生理学的条件」は、生物または細胞系に関して天然に生じ得る、外部または内部の環境(mileu)の状態を指す。本明細書において用いられる生理学的条件は、ヒトまたは非ヒト動物の体内に存在するこれらの条件、特に外科的部位に、および/または、外科的部位内に、存在するこれらの条件である。例示的な生理学的条件は、研究室のセッティング(比較して人工的であると解釈される)の状態とは対照的である。生理学的条件は、典型的に、例えば、20~40℃の温度範囲、1大気圧、pH6~8、1~20mMのグルコース濃度、大気レベルの酸素濃度、および、地球上で直面する重力を含む。
【0081】
用語「純粋な(pure)」は、本明細書に記載のペプチド組成物が他の化学種を含まない度合いを示すために用いられ、問題としているペプチドの欠失付加および異なる長さのペプチドを含む。例えば、一部の実施態様では、ペプチド組成物は、組成物中の実質的に全てのペプチドが、特定の配列またはそのトランケーション(例えば、その末端トランケーション、例えばそのカルボキシ末端トランケーション)と、同一のアミノ酸配列を有する場合に、特定のペプチドの(すなわち、特定のアミノ酸配列を有するペプチドの)「純粋な」組成物であると見なされる。一部の実施態様では、特定のペプチドの(すなわち、特定のアミノ酸配列を有するペプチドの)純粋な組成物中のペプチドの少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれより多くが、特定の配列またはそのトランケーション(例えば、その末端トランケーション、例えば、そのアミノ末端トランケーション)と、同一のアミノ酸配列を有する。一部の実施態様では、特定のペプチドの(すなわち、特定のアミノ酸配列を有するペプチドの)純粋な組成物中のペプチドの少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれよりも多くが全長である。
【0082】
語句「治療的に有効量」によって意味するものは、投与される、所望の効果を生じる量である。一部の実施態様では、その用語は、疾患、障害および/または状態を治療するために、治療の投与レジメンに従って、疾患、障害および/または状態を患っている個体群、またはかかりやすい個体群に投与される場合に、十分である量を指す。一部の実施態様では、治療的に有効量は、疾患、障害および/または状態の1つまたは複数の症状の、発生率および/または重症度を低減し、および/または、その発症を遅延させる量である。当業者は、用語「治療的に有効量」は、成功する治療が特定の個人において達成されることを実際に要求しないということを理解するであろう。むしろ、治療的に有効量は、そのような治療を必要とする患者に投与した場合に、有意数の対象において特定の所望の薬理学的応答を提供する量であってよい。一部の実施態様では、治療的に有効量に対する言及は、1つまたは複数の特定の組織(例えば、疾患、障害または状態により影響を受けた組織)または流体(例えば、血液、唾液、血清、汗、涙、尿など)において測定される量に対する言及であってよい。当業者は、一部の実施態様では、治療的に有効量の特定の薬剤または治療は、単回投与で処方および/または投与されてよいことを理解するであろう。一部の実施態様では、治療的に効果的な薬剤は、複数回の投与で、例えば投与レジメンの一部として、処方および/または投与されてよい。
【0083】
本明細書において用いられる、用語「局所」は、組成物の適用を説明するために用いられる場合、典型的に、同様の様式で用いられる公知の組成物、例えば、クリーム、フォーム、ジェル、ローションおよび軟膏などとの関連でのケースのように、組成物が、体の表面(例えば皮膚または粘膜)に適用されるときの状況を説明することを意図する。局所投与は経皮であることが理解され、それらが皮膚へ直接適用されることを意味する。また、局所投与は、皮膚以外の組織表面に適用され得る他の製剤(例えば、結膜に適用される点眼薬、または耳の中に置かれる点耳薬、または歯の表面に適用される処置)を含むことも意図する。投与経路として、局所投与は、腸内(消化管内)および非経口投与(循環系に注入される)と対比される。
【0084】
本明細書において用いられる語句「保管および/または薬物輸送システム」は、本明細書に記載のペプチド組成物を保管および/または送達するためのシステムを指す。本明細書に記載のペプチド組成物に適切な例示的な保管および/または送達システムは、バイアル、ボトル、ビーカー、バッグ、シリンジ、アンプル、カートリッジ、リザーバーまたはLYO-JECTS(登録商標)である。保管および/または送達システムは、同一の1つになっている必要はなく、分離することができる。
【0085】
本明細書において用いられる用語「ノズル」は、一般に細い円柱状の物体を指し、狭い末端および幅広い末端を有することが多く、本明細書に記載の送達器具上への固定に適合される。一部の実施態様では、用語「ノズル」および「カニューレ」は、相互交換可能に用いられる。ノズルは2つの連結ポイントまたは末端(送達システム(例えばシリンジ)に連結するための第一の連結ポイントまたは末端、および、医薬組成物の送達が投与されるポイントまたは第二の器具(例えばカテーテル)に連結させるためのポイントとしての役割を果たし得る第二の連結ポイント)からなる。
【0086】
用語「穴」は、本明細書において、本明細書に記載の本発明のペプチド組成物を含んでいる送達および/または保管システム(例えばシリンジ)に関連して用いられるノズル、カニューレおよび/またはカテーテルの開口部を指すために用いられる。典型的に、穴は、内壁の直径厚さ、外壁の直径および壁の厚さのような、様々な寸法またはゲージによって特徴付けられる。本発明のペプチド組成物を含んでいる送達および/または保管システム(例えばシリンジ)との関連での使用のためのノズル、カニューレおよび/またはカテーテルの穴の例示的な寸法またはゲージ(例えば、直径、厚さなど)は、任意のニードルゲージシステム(needle gauge system)(例えば、フレンチスケールまたはフレンチゲージシステム、Birmingham Wire Gaugeとしても知られるStubs Iron Wire Gaugeシステム)において見ることができる。
【0087】
用語「構造上適合する」は、本明細書において、足場形成を可能にするのに十分に一定であるペプチド間距離を維持することが可能なペプチドを指すために用いられる。本発明の特定の実施態様では、ペプチド間距離の変動は、4、3、2、または1オングストローム未満である。また、安定させる力が十分存在するならば、ペプチド間距離のより大きな変動も、足場形成を妨げないであろうと考えられる。ペプチド間距離は、分子モデリングに基づいて、または当技術分野で知られている簡略化された手順に基づいて、計算され得る(例えば、米国特許第5,670,483号を参照)。ある例示的な方法では、ペプチド間距離は、ペアの各アミノ酸の側鎖上の分岐していない原子の数の合計をとることにより計算される。例えば、リジン-グルタミン酸イオンペアのペプチド間距離は、5+4=9原子であり、グルタミン-グルタミン水素結合ペアの距離は、4+4=8原子である。原子あたり3オングストロームの換算係数を用いると、リジン-グルタミン酸ペアおよびグルタミン-グルタミンペア(例えば、9対8原子)を有するペプチドのペプチド間距離の変動は、3オングストロームである。
【0088】
本明細書において用いられる用語「対象」は、ヒトを含む任意の哺乳類を意味する。本発明の特定の実施態様では、対象は成人、青年または幼児である。一部の実施態様では、用語「個人」または「患者」が用いられ、「対象」と相互交換可能であることが意図される。医薬組成物の投与および/または子宮内処置の方法の実施もまた、本発明により検討される。
【0089】
自己ゲル化ペプチド組成物
本開示は、本明細書に記載の特定の滅菌自己ゲル化ペプチド組成物の使用を介して改善される外科的方法論を提供する。本開示は、特定の外科的手順中の投与のために特別に調製されるそのような組成物をさらに提供する。例えば、本開示は、そのような自己ゲル化ペプチド組成物を含んでいる、特別に設計された送達システム(例えば、予め充填された(pre-loaded)シリンジおよび/またはカニューレ)を提供する。
【0090】
本明細書に開示される組成物、外科的方法および器具は、既存の方法に対して様々な改善を提供する。
【0091】
本明細書に記載のペプチド組成物での使用に適切な特定の例示的なペプチドは、米国特許第5,670,483号、および/または第5,955,343号、および/または米国特許出願第09/778,200号(それぞれ参照により本明細書中に援用される)に報告される配列を有するものを含む。これらのペプチドは、交互の親水性および疎水性アミノ酸からなるアミノ酸配列を有し、電解質(例えば一価のカチオン)の存在下で、安定したβシートの巨視的構造に自己組織化する能力によって特徴付けられる。例示的な電解質は、Na+およびK+である。これらのペプチド鎖は、自己相補的であり、構造上適合する。βシート構造に集合すると、ペプチド内の残基のアミノ酸側鎖は、2つの面(荷電イオン側鎖を有する極性面およびアラニンまたは他の疎水基を有する非極性面)の1つに区切る。
【0092】
多くの実施態様では、使用されるペプチドは、正電荷および負電荷が交互のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有する。そのようなペプチドは、正電荷および負電荷のアミノ酸残基が相補イオンペアを形成することができる場合、自己相補性であると考えられる。そのようなペプチド鎖は、イオン性自己相補ペプチド、またはI型自己組織化ペプチドと呼ばれる。イオン性残基が、1つの正電荷および1つの負電荷の残基が交互になっている場合(-+-+-+-+)、ペプチド鎖は「係数I」と記載され;イオン性残基が、2つの正電荷および2つの負電荷の残基が交互になっている場合(--++--++)、ペプチド鎖は「係数II」と記載される。本発明での使用に関する例示的なペプチドは、配列が表1に示されるものを含む(N/A:該当なし;アスタリスク:これらのペプチドは、NaClを含む溶液中でインキュベートするとβシートを形成するが、それらは、自己組織化して巨視的足場を形成することは観察されていない)。
【0093】
【0094】
以前の研究は、表1内のペプチド中の電荷残基が、自己組織化に悪影響を及ぼさずに、同じ電荷の他の残基と置換され得ることを示している(例えば、正電荷のアルギニンと正電荷のリジンとの置換、および/または、負電荷のアスパラギン酸と負電荷のグルタミン酸との置換)。しかしながら、反対電荷の残基との置換(例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸などの負電荷の残基と、正電荷のリジンおよび/またはアルギニンとの置換)は、自己組織化を崩壊させる。
【0095】
これに代え又はこれに加えて、水素結合を形成する他の親水性残基(アスパラギンおよびグルタミンなど)が、電荷残基の代わりに、またはこれに加えて、ペプチド鎖へ取り込まれ得る。ペプチド鎖中のアラニンが、より疎水性の残基、例えばロイシン、イソロイシン、フェニルアラニンまたはチロシンに替えられると、これらのペプチド鎖は、より自己組織化する傾向があり、高い強度のペプチドマトリックスを形成する。前述のペプチド鎖と同様の組成物および長さを有する一部のペプチドは、βシートではなくてα-へリックスおよびランダムコイルを形成し、巨視的構造を形成しない。したがって、自己相補性に加えて、他の因子(鎖長、分子間相互作用の度合い、および、千鳥配列を形成する能力など)が、巨視的足場の形成に重要である可能性がある。
【0096】
他の自己組織化ペプチド鎖(例えば、任意の自己組織化ペプチド鎖のアミノ酸配列とは単一のアミノ酸残基または複数のアミノ酸残基が異なるアミノ酸配列を有する)が生じ得る。さらに、特異的な細胞認識リガンド(例えばRGDまたはRAD)の、自己組織化ペプチドへの取り込みは、足場内の細胞の増殖を促進し得て、および/または、細胞を足場へ引き寄せ得る。
【0097】
一部の実施態様では、例えばジスルフィド結合の形成を可能にするために、システインが自己組織化ペプチド中に含まれる。これに代え又はこれに加えて、ペプチド鎖間の架橋がUV光への曝露によって生じることができるように、芳香族環を有する残基が自己組織化ペプチド中に取り込まれてよい。表2は、UV架橋が生じやすいペプチドのアミノ酸配列の代表例を示す。架橋の程度は、UV光への所定の長さの曝露および所定のペプチド鎖濃度によって正確に調整し得る。架橋の程度は、標準的な方法を用いて、例えば、光散乱、ゲル濾過、または走査電子顕微鏡によって決定してよい。これに代え又はこれに加えて、架橋の程度は、マトリックスメタロプロテアーゼなどのプロテアーゼを用いた消化後に、自己組織化ペプチド構造のHPLCおよび/または質量分析によって決定してよい。足場の材料強度は、本明細書に記載の架橋前および架橋後に決定してよい。
【0098】
【0099】
任意の配列の組み合わせまたは本明細書に記載の改変が、目的とする任意の特定の自己組織化ペプチドに対してされ得る。
【0100】
一部の実施態様では、ペプチド配列は、ペプチドの自己組織化により形成される構造中の、所望のレベルの剛性および/または弾性を達成するために選択される。いかなる理論にも拘束されることを望まずに、低い弾性は、細胞を組織化構造へ移行させ、および/または、構造内に存在した時点で互いに通じさせるのを助け得る。
【0101】
一部の実施態様では、ペプチド配列は、低い弾性係数(例えば、標準的なコーンプレートレオメータで測定して1~10kPaの範囲内)を有する構造に組織化するように選択される。そのような低い値は、細胞収縮の結果として足場を変形させ、この変形は、細胞間通信のための手段を提供し得る。さらに、そのような係数は、足場が、そこへ移行する細胞に対して生理的ストレスを伝えることを可能にし、細胞が、微細構造において瘢痕よりも天然組織に近い組織を生産するのを刺激する。
【0102】
足場剛性は、例えば、ペプチド配列の変更、ペプチド濃度の変更、ペプチド長の変更、およびそれらの組み合わせを含む、様々な手段によって調節することができる。これに代え又はこれに加えて、剛性を増大させるための他の方法を用いることができ、例えば、1つまたは複数の架橋可能な部分(例えばビオチン)を、ペプチド(例えば、アミノ末端、カルボキシ末端、または内側部位、例えば側鎖)に、それらが例えば自己組織化構造内で架橋され得るように付ける。
【0103】
一部の実施態様では、分解部位、例えば、1つまたは複数のアグリカンプロセッシング部位(例えば表3の下線)、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)切断部位、例えば、コラゲナーゼ部位に関するものなどは、それらのアミノ末端、それらのカルボキシ末端、または、それらの配列中の他のどこであろうと、同様の方法でペプチド中に導入され得る。単独または架橋されることが可能なペプチドと組み合わせて、そのような分解部位を含むペプチドから形成されるペプチド構造は、当業者により理解されるように、適切な条件下で(曝露時間を含む)、適切なプロテアーゼに曝されることによって分解され得る。一部の実施態様では、組織化ペプチドにより形成された構造のインビボ半減期は、使用されるペプチド中に1つまたは複数の分解部位を組み込むことにより調節し得て、例えば、構造が酵素的に分解されるのを可能にする。
【0104】
ペプチド構造の分解速度は、例えば、放出されるペプチド成分のHPLC、質量分析、および/またはNMR分析によって決定し得る。これに代え又はこれに加えて、放射性標識ペプチドが使用される場合は、放出される放射能の量を、例えば、シンチレーション計測によって測定し得る。一部の実施態様に関して、組織化ペプチド鎖のβシート構造は、十分急速に分解されるので、組織化に用いられるペプチド中に切断部位を組み込む必要はない。
【0105】
【0106】
一部の実施態様では、使用されるペプチドは、疎水性アミノ酸アラニン(A)および親水性アミノ酸アルギニン(R)およびアスパラギン酸(D)の交互の構造を有し、それぞれの正電荷および負電荷は、隣接分子の相対的位置を決定する。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まずに、そのような実施態様では、中性アミノ酸側鎖間の疎水性結合およびペプチド主鎖間の水素結合によって、自己組織化が完成され得ると提唱されている。一部のそのような実施態様では、使用されるペプチドは、アルギニン-アラニン-アスパラギン酸-アラニン(RADA)のリピートを含む、または一部の実施態様ではそのようなリピートからなる、アミノ酸配列を有する。一部の実施態様では、使用されるペプチドは、RADA(配列番号:1)の2、3、4回またはそれよりも多いリピートを含む。一部の実施態様では、使用されるペプチドは、4回のRADAリピート(例えば、配列RADARADARADARADA;配列番号:4を有する)を含む。
【0107】
一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物で使用されるペプチドは、少なくとも12または16アミノ酸長である。一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物で使用されるペプチドは、正確に12または16アミノ酸長である。
【0108】
一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物で使用されるペプチドは、少なくとも8または12アミノ酸長である。一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物で使用されるペプチドは、正確に8または12アミノ酸長である。
【0109】
一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物で使用されるペプチドは、天然アミノ酸を含み、または、天然アミノ酸からなり;一部の実施態様では、それらは、1つまたは複数の非天然および/または修飾アミノ酸を含む。
【0110】
一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物で使用されるペプチドは、D-アミノ酸を含み、または、D-アミノ酸からなる。一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物で使用されるペプチドは、L-アミノ酸を含み、または、L-アミノ酸からなる。一部の実施態様では、記載のペプチド組成物で使用されるペプチドは、D-アミノ酸およびL-アミノ酸の両方を含む。
【0111】
一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物で使用されるペプチドは、例えば標準的なf-moc化学を用いて合成されて、高圧液体クロマトグラフィーを用いて精製される。
【0112】
一部の実施態様では、本発明に係る使用のためのペプチド組成物は、その主成分としてペプチドを含む生体吸収性水溶液であり、またはそれを含む。一部の実施態様では、そのような溶液は、2つの状態(例えば、特定のpHにおいて、および/または、1つまたは複数の特定のイオンが実質的に不在の場合に採択される未ゲル化状態、および、特定のpHにおいて、および/または、前記の1つまたは複数のイオンが閾値レベル以上で存在する場合に採択されるゲル化状態)の間を移行する能力により特徴付けられる。
【0113】
一部の実施態様では、未ゲル化からゲル化状態への移行(例えばペプチド自己組織化を介する)は、ペプチド溶液が等電点付近のpHに曝された場合に生じ;一部のそのような実施態様では、等電点はpH7付近である。一部の実施態様では、そのような移行(例えばペプチド自己組織化を介する)は、ペプチド溶液が約pH6~約pH8を含めた範囲内のpH、例えば、約6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、または8.0に曝された場合に生じ;一部の実施態様では、そのようなpHは、約6.5~約7.5を含めた範囲内;一部の実施態様では約6.8~約7.2を含めた範囲内;一部の実施態様では約7.0である。
【0114】
一部の実施態様では、未ゲル化からゲル化状態への移行(例えば、ペプチド自己組織化を介する)は、ペプチド溶液が、低濃度(例えば、約数ミリモル、例えば約1ミリモル~約10ミリモルを含めた範囲内)の一価のアルカリ金属イオン(例えば、Na+、K+)の存在に曝された場合に生じる。一部の実施態様では、そのような濃度の一価のアルカリ金属イオンは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9または約10ミリモルである。一部の実施態様では、そのような濃度は、1ミリモルよりも高い。
【0115】
一部の実施態様では、そのような移行(および/またはペプチド自己組織化)は、生理学的条件下(すなわち、Na+およびK+などの塩の存在下でpH7付近)で生じる。一部の実施態様では、そのような移行(および/またはペプチド自己組織化)は、適切なpHおよび金属イオンに曝露した際に、急速(例えば、約5分未満の期間内)に生じ;一部の実施態様では、そのような移行は、約1分~約5分を含めた期間内、例えば、約1、2、3、4または5分の期間内に生じ;一部の実施態様では、そのような移行は、約5分以内に生じ;一部の実施態様では、そのような移行は約4分以内に生じ;一部の実施態様では、そのような移行は約3分以内に生じ;一部の実施態様では、そのような移行は約2分以内に生じ;一部の実施態様では、そのような移行は約1分以内に生じる。
【0116】
一部の実施態様では、生理学的条件は、対象の体内、例えば対象内または対象上の外科的部位に存在するものである。例えば、一部の実施態様では、生理学的条件は、体液、血液、組織、および/または、それらの組み合わせの存在により達成することができる。一部の実施態様では、生理学的条件は、イオンを含むバッファーの添加によって、例えば、ゲル化状態の形成を誘導するレベルで1つまたは例示的なイオンを外因的に添加することによって、インビボまたはエクスビボで達成される。例えば、一部の実施態様では、ペプチドを、例えば外科的手順前または外科的手順中に、適切な生理学的条件にエクスビボで曝露してよい。一部の実施態様では、そのような曝露は、対象の体内で(例えば、体内の外科的処置中)、または、対象の体の上で生じる(生検または腹腔鏡により残された開口部などに、局所的に適用する場合。
【0117】
一部の実施態様では、溶液中の使用されるペプチドは、適切なpHおよびイオン条件に曝されると、例えば繊維の網目からなる構造へと自己組織化する。一部の実施態様では、使用されるペプチドは、繊維および穴を含む網目構造へと自己組織化する。一部の実施態様では、そのような繊維は、約10~約20nmを含めた範囲内の直径を有し;一部の実施態様では、そのような穴は、約50~約200nmの範囲内の直径を有する。一部の特定の実施態様では、使用されるペプチドは、天然コラーゲンの構造に似た網目構造へと自己組織化する(
図1)。
【0118】
一部の実施態様では、本発明に係る使用のためのペプチド組成物は、溶液中にペプチドを、約0.1%~約10%を含めた範囲内の濃度で含む。様々な実施態様では、濃度は、0.1~10%;0.2~9.9%、0.3~9.8%、0.4~9.7%、0.5~9.6%、0.6~9.5%、0.7~9.4%、0.8~9.3%、0.9~9.2%、1.0~9.1%、1.1~9.0%、1.2~8.9%、1.3~8.8%、1.4~8.7%、1.5~8.6%、1.6~8.5%、1.7~8.4%、1.8~8.3%、1.9~8.2%、2.0~8.1%、2.1~8.0%、2.2~7.9%、2.3~7.8%、2.4~7.7%、2.5~7.6%、2.6~7.5%、2.7~7.4%、2.8~7.3%、2.9~7.2%、3.0~7.1%、3.1~7.0%、3.2~6.9%、3.3~6.8%、3.4~6.7%、3.5~6.6%、3.6~6.5%、3.7~6.4%、3.8~6.3%、3.9~6.2%、4.0~6.1%、4.1~6.0%、4.2~5.9%、4.3~5.8%、4.4~5.4%、4.6~5.3%、4.7~5.2%、4.8~5.1%または4.9~5.0%を含めた範囲内である。
【0119】
様々な実施態様では、濃度は、0.1~5%、0.25~4.75%、0.5~4.5%、0.75~4.25%、1.0~4.0%、1.25~3.75%、1.5~3.5%、1.75~3.25%、2.0~3.0%、2.25~2.75%の範囲内であり;特定の実施態様では、1.0~3.0%の範囲内であり;特定の実施態様では、濃度は約1%であり;特定の実施態様では、濃度は約1.5%であり;特定の実施態様では、濃度は約2%であり;特定の実施態様では、濃度は約2.5%であり;特定の実施態様では、濃度は約3%である。
【0120】
一部の実施態様では、ペプチド組成物は、溶液中にペプチドを、約0.5%~約5%の範囲内の濃度で含む。一部の実施態様では、本発明に係る使用のためのペプチド組成物は、溶液中にペプチドを、約0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、またはそれより高い濃度で含む。
【0121】
本発明は、特に、外科的手順を行なう方法での、本明細書に記載のペプチド溶液を含む組成物を用いる方法を提供する。一部の実施態様では、外科的手順は、体内の外科的手順であってよい。一部の実施態様では、外科的手順は、表面または局所であってよい。
【0122】
外科的方法
本明細書に記載のペプチド組成物は、より効果的で効率的な様式で外科的タスクを行ないながら、外科医が直面する出血を調節および止血するために、様々な外科的手順において使用され得る。本明細書に記載のペプチド組成物の使用によって、標準的な手順において典型的に生じるよりも短時間で行なわれ、および/または、より少ない出血を伴う、例示的な外科的手順が提供される。
【0123】
本発明は、本明細書に記載のペプチド組成物が、特定の外科的手順において使用される場合に特有の利益を与え、および/または、特に有用であるという知見を提供する。例えば、とりわけ、本発明は、本明細書に記載のペプチド組成物が、様々な外科的手順中に止血する有効な利益を与えるという認識を含む。例示的な利益は、外科的手順中の1つまたは複数の外科的タスクのより迅速な完了であり、結果として、外科的手順の全体的な持続時間の減少である。特に、様々な例が、ペプチド溶液を含む組成物の有効性および安全性を示し、ここで前記ペプチドは、RADAリピートのアミノ酸配列を含み;およびここで前記溶液は、2つの状態(1つまたは複数の特定のイオンが実質的に不在の場合に採択される未ゲル化(または水性)の状態、および、前記の1つまたは複数のイオンが閾値レベル以上で存在する場合に採択されるゲル化状態)の間を移行する能力により特徴付けられ:ここで、前記の1つまたは複数のイオンは、投与の部位(または位置)に存在する、または存在するようになる。
【0124】
一部の実施態様では、本発明は、とりわけ、本明細書に記載のペプチド組成物は、外科的手順中に止血のために同様の様式で用いられる既存の物質と比較して、臨床的利益を与えるという認識を提供する。
【0125】
一部の実施態様では、本発明は、とりわけ、ペプチド組成物は、いかなる動物由来の産物も使わずに人工的な合成で製造され得るという認識を提供し、感染の任意のリスクを否定する。
【0126】
一部の実施態様では、本発明は、本明細書に記載のペプチド組成物の適用を含む対象に対して外科的手順を行なう方法が、既存の物質と比較して、製剤およびオペレーションを最小限必要とし、または実質的に必要とせず、それにより、適用において利益を与える、という認識を提供する。
【0127】
一部の実施態様では、本発明は、既存の物質(例えばフィブリン糊)が、本明細書に記載のペプチド組成物と対照的に、硬化後に適用部位から除去するのが困難であるという認識を提供する。例えば、ペプチド組成物は、生理食塩水で洗浄し得て、外科的処置中の繰り返し使用を可能にする。
【0128】
一部の実施態様では、本発明は、本明細書に記載のペプチド組成物が、適用中にゲル化状態がいったん採択されると、無色であり透明のままであり、それにより、澄んだ外科的視野を維持する、という認識を提供する。それは、外科的部位からの出血の効果的な調節および/または止血を確実にするために必須である。
【0129】
一部の実施態様では、本発明は、外科的手順中の止血の際または外科的手順と関連する全てまたは実質的に全てのタスクが完了した時点で、本明細書に記載の過剰のペプチド組成物を、水で洗浄することによって簡単に除去することができるという認識を提供する。特定の実施態様では、外科的部位上または外科的部位内の1つまたは複数の部位に適用されたペプチド組成物の除去後、対象の凝固系により、第二の出血が妨げられ、阻害され、および/または改善される。
【0130】
一部の実施態様では、本発明は、適用部位での、または適用部位上での、血液と接触した後の、本明細書に記載のペプチド組成物のゲル化は、送達器具(例えばプレフィルドシリンジに取り付けられたノズル)内で凝固するのではなく、特定の外科的手順(例えば内視鏡検査および腹腔鏡検査)での使用を可能にし、それにより、既存の物質(凝固させて合併症をもたらす可能性がある)を用いた困難性を排除するという認識を提供する。
【0131】
一部の実施態様では、本発明は、本明細書に記載のペプチド組成物は、対照的な作用メカニズムを提供するという認識を提供する。特定の実施態様では、1つまたは複数の出血部位への本明細書に記載のペプチド組成物の適用は、1つまたは複数の出血部位上に表面圧を提供する。そのような表面圧は、ゲル化状態が採択された時点で、適用されたペプチド組成物の層の下に正常な凝固を生じさせ、それにより、出血部位を閉じて出血を止める。既存の物質は、圧縮のためのさらなる指圧を要する。
【0132】
一部の実施態様では、本発明は、本明細書に記載のペプチド組成物が、外科的手順と関連する1つまたは複数のタスクを行なうための時間を減らすという認識を提供する。
【0133】
したがって、とりわけ、本発明は、本明細書に記載のペプチド組成物を利用する改善された外科的方法を提供する。一部の実施態様では、提供される外科的方法は、参照または標準のケアの方法と比較して、より短期間で行なわれるという点で、改善される。一部の実施態様では、提供される外科的方法は、参照または標準のケアの方法と比較して、患者の回復が、本明細書に記載のペプチド組成物を利用せずに同様の外科的方法が行われた患者と比較して改善されるという点で、改善される。
【0134】
一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物は、対象の体の外側または内側に対して行なわれる外科的方法で使用される。特定の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物は、対象の血管系、内臓および/または骨(単数または複数)に対して行われる外科的方法で使用される。
【0135】
一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物は、外科的部位内で血管を移植するための外科的方法で使用される。特定の実施態様では、血管の外科的方法は、バイパス外科的処置(例えば、冠動脈バイパス)を含む。
【0136】
一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物は、臓器を全体的または部分的に切除または切離するために行なわれる外科的方法で使用される。実質的に、臓器は、所定の外科的手順における候補であり得るが、理論に拘束されることを望まずに、例示的な臓器は、例えば、肝臓、脾臓、胆嚢、膵臓、胃または肺を含んでよい。特定の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物は、癌性またはそれ以外の悪性組織を臓器から全体的または部分的に除去するために行なわれる外科的方法で使用される。特定の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物は、臓器の良性組織を全体的または部分的に切除するために行なわれる外科的方法で使用される。
【0137】
一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物は、対象の1つまたは複数の骨(単数または複数)の骨折を修復するために行なわれる外科的方法で使用され得る。特定の実施態様では、ペプチド組成物は、対象の1つまたは複数の骨の骨折部位へ注入することにより使用される。特定の実施態様では、ペプチド組成物は、対象での1つまたは複数の骨の骨折部位上に適用することにより使用される。
【0138】
一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物の外科的部位への適用は、例えば、適用部位、患者特有の因子、外科的手順、適用部位の状態、投与経路などに応じて、変化し得る。本明細書に記載のペプチド組成物が、対象での体内の外科的処置を含む所定の外科的手順と関連する様々な出血部位を治療するために用いられる場合、通常は止血するのに必要な量(例えば、治療的に有効量)で、直接投与することは有利である。一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物を投与する頻度および持続時間は、状態(単数または複数)の重症度または適用部位に応じて調節することができる。
【0139】
一部の実施態様では、外科的方法で使用される本明細書に記載のペプチド組成物は、注入可能な製剤で提供される。外科的手順中の止血における使用のためのペプチド組成物を提供するためのそのような方法は、既存の物質(管理者または外科医側で混合またはそれ以外の機械的操作を必要とし得る)よりも有利である。注入可能な製剤は、治療を必要としている対象(ヒトまたは非ヒト)の出血部位に対する任意のタイプの適用に用いられ得る。本明細書に記載のペプチド組成物を含む医薬組成物は、シリンジおよびノズルを用いて、出血部位または外科的部位へ送達され得る。
【0140】
一部の実施態様では、体内またはそれ以外に外科的手順を受ける対象は、治療的に有効量の本明細書に記載のペプチド組成物を、出血部位に、プレフィルドシリンジを用いて投与され得る。例示的な技術は、所望の1つまたは複数の出血部位にごく接近して、プレフィルドシリンジに固定されたノズルを置くことを含む。
【0141】
医薬組成物
本発明に係る使用のためのペプチド組成物は、本明細書に記載のペプチドを、場合により、製剤中に取り込まれている1つまたは複数の適切な担体、賦形剤、および/または他の薬剤とともに含み;一部の実施態様では、使用される組成物の成分は、移行、送達、耐性、性能などの改善を与えるために選択される。
【0142】
多くの実施態様では、本発明での使用のためのペプチド組成物は、水溶液中(すなわち、水系および/または水混和性の担体中)のペプチドを含む。そのような組成物のための例示的な水性担体は、例えば、製剤グレードの水、スクロース(例えば、スクロース水)、およびそれらの組み合わせを含む。一部の特定の実施態様では、本発明での使用のためのペプチド組成物は、水溶液中のペプチドを含み、水溶液は、溶解度および/または増粘効果(bodying effect)を水溶液中のペプチドに与える能力により特徴付けられる有機化合物である担体を含む。
【0143】
多くの実施態様では、本発明に係る使用のためのペプチド組成物は滅菌され、および/または、無菌的に調製される。
【0144】
一部の実施態様では、水性製剤を含む、本発明に係る使用のためのペプチド組成物は、酸素が供給されない環境で保管することができる。酸素が供給されない環境は、例えば、不活性ガス(例えば窒素またはアルゴン)の下で水溶液を保管することにより、作り出すことができる。
【0145】
一部の実施態様では、本発明に係る使用のためのペプチド組成物は、乾燥形態で、例えば乾燥粉末の形態で保管してよい(例えば凍結乾燥により達成される)。
【0146】
一部の実施態様では、特に水性製剤を含む、本発明に係る使用のためのペプチド組成物は、約0℃~約10℃を含めた範囲内の温度、例えば、約0.5℃、1.0℃、1.5℃、2.0℃、2.5℃、3.0℃、3.5℃、4.0℃、4.5℃、5.0℃、5.5℃、6.0℃、6.5℃、7.0℃、7.5℃、8.0℃、8.5℃、9.0℃、9.5℃、または10.0℃で適切に保管され;一部の実施態様では、そのような温度は、約2.0℃~約8.0℃を含めた範囲内である。一部の実施態様では、そのような温度は0℃よりも高く、10℃よりも低い。
【0147】
一部の実施態様では、本発明に係る使用のためのペプチド組成物は、単位用量形態で、例えば送達システムとともに提供される。
【0148】
一部の実施態様では、本発明に係るペプチド組成物の適切な単位用量は、約0.1%~約10%(w/v)を含めたペプチドの範囲内;例えば、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、3.0%、3.1%、3.2%、3.3%、3.4%、3.5%、3.6%、3.7%、3.8%、3.9%、4.0%、4.1%、4.2%、4.3%、4.4%、4.5%、4.6%、4.7%、4.8%、4.9%、5.0%、5.1%、5.2%、5.3%、5.4%、5.5%、5.6%、5.7%、5.8%、5.9%、6.0%、6.1%、6.2%、6.3%、6.4%、6.5%、6.6%、6.7%、6.8%、6.9%、7.0%、7.1%、7.2%、7.3%、7.4%、7.5%、7.6%、7.7%、7.8%、7.9%、8.0%、8.1%、8.2%、8.3%、8.4%、8.5%、8.6%、8.7%、8.8%、8.9%、9.0%、9.1%、9.2%、9.3%、9.4%、9.5%、9.6%、9.7%、9.8%、9.9%、または10.0%のペプチド量を送達する。一部の実施態様では、約1.0%~約5.0%の範囲内のペプチドそのような量を送達する。一部の実施態様では、約1.0%~約3%の範囲内である。一部の実施態様では、約1.0%;一部の実施態様では、約1.5%;一部の実施態様では、約2.0%;一部の実施態様では、約2.5%;一部の実施態様では、約3.0%である。一部の実施態様では、溶液であるペプチド組成物の適切な単位用量は、約1.0mL~約50.0mLを含めた範囲内、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50mLである。一部の実施態様では、溶液であるペプチド組成物の適切な単位用量は、約1.0mL~約10mLの範囲内である。一部の実施態様では、約20mL~約30mLの範囲内である。一部の実施態様では、約30mL~約40mLの範囲内である。一部の実施態様では、約40mL~約50mLの範囲内である。一部の実施態様では、約5mL;一部の実施態様では、約10mL;一部の実施態様では約30mLである。
【0149】
一部の実施態様では、本明細書に記載の、ペプチド溶液の適切な単位用量は、約0.1%~約10%(w/v)の範囲内の濃度を有する。一部の実施態様では、適切な単位用量は、約1mL~約5mLの1.0%~3.0%(w/v)水溶液、または約30mLの1.0%~3.0%(w/v)水溶液である。
【0150】
一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物は、適切な保管または送達容器、例えば、バイアル、ボトル、ビーカー、バッグ、シリンジ、アンプル、カートリッジ、リザーバーまたはLYO-JECT(登録商標)とともに(例えばその中で)提供される。一部の実施態様では、そのような適切な保管または送達容器内に含まれるペプチド組成物の量は、少なくとも単位用量のペプチド組成物である。一部の実施態様では、その量は単位用量、またはその倍数である。保管または送達容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。一部の実施態様では、本発明に係る使用のためのペプチド組成物は、プレフィルドシリンジ中に、場合によりそのような予め充填されたシリンジまたは他の保管容器からペプチド溶液を送達するための本明細書に記載の1つまたは複数のノズルとともに、提供される。
【0151】
適切なプレフィルドシリンジは、制限されないが、焼成シリコーンコーティングを有するホウケイ酸ガラスシリンジ、プレイド(prayed)シリコーンを含むホウケイ酸ガラスシリンジ、シリコーンを含まない可塑性樹脂シリンジ、またはシクロオレフィンポリマーシリンジ、ポリプロピレンシリンジおよびポリエチレンシリンジを含む。
【0152】
一部の実施態様では、適切な保管または送達容器とともに(例えばその中で)提供されるペプチド組成物の形態は、本明細書に記載の溶液であり;一部の実施態様では、形態は、本明細書に記載の乾燥形態(例えば、乾燥粉末の形態)である。
【0153】
様々な実施態様では、本発明に係る使用のためのペプチド組成物は、外科的手順中に、対象に投与するのに適切である。様々な実施態様では、外科的手順は、対象の体の中で、例えば、体内で行なわれる。例示的な体内の外科的手順は、血管の異常を正すため(例えばバイパス)、切除または切離(例えば、損傷または病変した組織を臓器から全体的または部分的に取り除くため)、または、損傷した臓器、組織または骨を修復する(例えば、裂傷脾臓を修復する、骨折を修復する、筋断裂または靭帯を修復する)ための手順である。様々な実施態様では、外科的手順は、対象の体の外部で、例えば局所で行なわれる。例示的な局所の外科的手順は、対象の皮膚の開口部を修復するための手順(例えば、穿刺または他の突出により作られる皮膚の開口部を閉じるための縫合)である。一部の実施態様では、対象はヒトである。一部の実施態様では、対象は非ヒト動物(例えば、ウマ、イヌ、ネコなど)である。
【0154】
保管および/または送達システム
一部の実施態様では、本明細書に記載の改善された外科的方法を提供するのに加えて、本発明は、本明細書に記載のペプチド組成物の送達に特に適した保管および/または送達システムを提供する。一部の実施態様では、保管システムは、本明細書に記載のペプチド組成物のための送達システムから切り離されている。一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物の保管は、送達システムにおいて提供される。例えば、本明細書に記載のペプチド組成物は、外科的方法中、適用時まで、送達システム(例えばプレフィルドシリンジ)内に保管されてよい。
【0155】
一部の実施態様では、本明細書に記載の保管および/または送達システムは、1つまたは複数の外科的方法で使用することができる。一部の実施態様では、本明細書に記載の保管および/または送達システムは、対象に対して行われる外科的方法の持続時間を減らすように、止血のための方法で使用し得る。
【0156】
一部の実施態様では、提供される保管および/または送達システムは、外科的部位などを含む体内部位への、本明細書に記載のペプチド組成物の送達に特に適している。一部の実施態様では、本発明は、ペプチド組成物などの組成物の送達のための、ノズルおよび/またはカニューレを提供する。
【0157】
一部の実施態様では、そのようなノズルおよび/またはカニューレは、シリンジまたは他の保管または送達の容器への取り付けに適していて、それは、例えば、送達のための組成物で予め充填されていてよい。そのようなノズルおよび/またはカニューレの例を、
図7および
図8に示す。
【0158】
一部の実施態様では、提供されるノズルは、従来の針とは1つまたは複数の様々な特徴が異なる。例えば、一部の実施態様では、例示的なノズルは、標準的な金属針とは対照的に、非金属材料で作られている。
【0159】
一部の実施態様では、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、プラスチック材料(例えばポリプロピレン)から形成される。特定の実施態様では、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、可撓性材料から形成される。一部の実施態様では、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、硬い(例えば、非可撓性)材料から形成される。一部の実施態様では、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、例えばオートクレーブにより滅菌されやすい材料から形成される。
【0160】
一部の実施態様では、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、鋭い先端を有する多くの標準的な針とは対照的に、鈍い先端を有する。例えば、標準的な皮下または縫合針は、典型的に鋭い先端を有し、ベベルによりさらに特徴付けられ得る。ベベルの例示的なタイプは、標準的、短い、または本当に短いベベルを含む。
【0161】
一部の実施態様では、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、多くの標準的な針と比べて、相対的に幅広い穴を有する。一部の実施態様では、そのようなノズルおよび/またはカニューレは、内側の穴径、外側の穴径、および穴の壁厚を有する。例えば、一部の実施態様では、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、約4.00mm~約0.05mmを含めた範囲内;例えば、約4.00mm、3.90mm、3.80mm、3.70mm、3.60mm、3.50mm、3.40mm、3.30mm、3.20mm、3.10mm、3.00mm、2.90mm、2.80mm、2.70mm、2.60mm、2.50mm、2.40mm、2.30mm、2.20mm、2.10mm、2.00mm、1.90mm、1.80mm、1.70mm、1.60mm、1.50mm、1.40mm、1.30mm、1.20mm、1.10mm、1.00mm、0.90mm、0.80mm、0.70mm、0.60mm、0.50mm、0.40mm、0.30mm、0.20mm、0.10mm、0.09mm、0.08mm、0.07mm、0.06mm、または0.05mmの内側の穴径を有し;一部の実施態様では、そのような内側の穴径は、約3.810mm、3.429mm、2.997mm、2.692mm、2.388mm、2.159mm、1.803mm、1.600mm、1.372mm、1.194mm、1.067mm、0.838mm、0.686mm、0.603mm、0.514mm、0.413mm、0.152mm、0.337mm、0.311mm、0.260mm、0.127mm、0.210mm、0.184mm、0.159mm、0.133mm、0.108mm、または0.0826mmであり;一部の実施態様では、そのような内側の穴径は、約1.200mm~約0.400mmを含めた範囲内であり;一部の実施態様では、約1.194mm、一部の実施態様では、約1.067;一部の実施態様では、約0.838mm;一部の実施態様では、約0.686mm;一部の実施態様では、約0.603mm;一部の実施態様では、約0.514mmである。
【0162】
一部の実施態様では、そのような外側の穴径は、約5.00mm~約0.15mmを含めた範囲内;例えば、約5.00mm、4.90mm、4.80mm、4.70mm、4.60mm、4.50mm、4.40mm、4.30mm、4.20mm、4.10mm、4.00mm、3.90mm、3.80mm、3.70mm、3.60mm、3.50mm、3.40mm、3.30mm、3.20mm、3.10mm、3.00mm、2.90mm、2.80mm、2.70mm、2.60mm、2.50mm、2.40mm、2.30mm、2.20mm、2.10mm、2.00mm、1.90mm、1.80mm、1.70mm、1.60mm、1.50mm、1.40mm、1.30mm、1.20mm、1.10mm、1.00mm、0.90mm、0.80mm、0.70mm、0.60mm、0.50mm、0.40mm、0.30mm、0.20mm、または0.10mmであり;一部の実施態様では、そのような内側の穴径は、約4.572mm、4.191mm、3.759mm、3.404mm、3.048mm、2.769mm、2.413mm、2.108mm、1.829mm、1.651mm、1.473mm、1.270mm、1.067mm、0.9081mm、0.8192mm、0.7176mm、0.6414mm、0.5652mm、0.5144mm、0.4636mm、0.4737mm、0.4128mm、0.3620mm、0.3366mm、0.3112mm、0.2604mm、0.2350mm、0.2096mm、または0.1842mmであり;一部の実施態様では、そのような外側の穴径は、約1.650mm~約0.750mmを含めた範囲内であり;一部の実施態様では、約1.651;一部の実施態様では、約1.473;一部の実施態様では、約1.270mm;一部の実施態様では、約1.067mm;一部の実施態様では、約0.9081mm;一部の実施態様では、約0.8192である。
【0163】
一部の実施態様では、そのような穴の壁厚は、約0.400mm~約0.025mmを含めた範囲内;例えば約0.400mm、0.375mm、0.350mm、0.325mm、0.300mm、0.0275mm、0.250mm、0.225mm、0.200mm、0.175mm、0.150mm、0.125mm、0.100mm、0.075、0.050mm、または0.025mmであり;一部の実施態様では、そのような穴の壁厚は、約0.381mm、0.356mm、0.330mm、0.305mm、0.254mm、0.229mm、0.203mm、0.216mm、0.191mm、0.1524mm、0.2826mm、0.1524mm、0.1270mm、0.1016mm、0.1734mm、0.1016mm、0.0889mm、0.0762mm、0.0635mm、または0.0508mmであり;一部の実施態様では、そのような穴の壁厚は、約0.250mm~約0.150mmの範囲内であり;一部の実施態様では、約0.229mm;一部の実施態様では、約0.216mm;一部の実施態様では、約0.203mm;一部の実施態様では、約0.191mm;一部の実施態様では、約0.1524mmである。
【0164】
一部の実施態様では、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、テーパ穴を有してよい。一部の実施態様では、そのような提供されるノズルおよび/またはカニューレは、それらの大きなおよび小さな穴の部分の間で、実質的に均一に次第に細くなる。一部の実施態様では、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、それらの送達末端(例えば、本明細書に記載の鈍い先端であってよい)で、小さな穴の部分へ向かって次第に細くなる。
【0165】
一部の実施態様では、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、約6インチ~約0.25インチを含めた範囲内、例えば、約6.0インチ、5.9インチ、5.8インチ、5.7インチ、5.6インチ、5.5インチ、5.4インチ、5.3インチ、5.2インチ、5.1インチ、5.0インチ、4.9インチ、4.8インチ、4.7インチ、4.6インチ、4.5インチ、4.4インチ、4.3インチ、4.2インチ、4.1インチ、4.0インチ、3.9インチ、3.8インチ、3.7インチ、3.6インチ、3.5インチ、3.4インチ、3.3インチ、3.2インチ、3.1インチ、3.0インチ、2.9インチ、2.8インチ、2.7インチ、2.6インチ、2.5インチ、2.4インチ、2.3インチ、2.2インチ、2.1インチ、2.0インチ、1.9インチ、1.8インチ、1.7インチ、1.6インチ、1.5インチ、1.4インチ、1.3インチ、1.2インチ、1.1インチ、1.0inch、0.9インチ、0.8インチ、0.7インチ、0.6インチ、0.5インチ、0.4インチ、0.3インチ、または0.2インチ;一部の実施態様では、約0.50インチ~約1.5インチの長さを有する。
【0166】
一部の実施態様では、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、特定の外科的手順での適用に特に適している。例えば、ノズルは、それらが用いられる外科的処置(例えば、内視鏡検査、腹腔鏡検査など)のタイプに基づいて設計されてよく;他の因子の考慮は、サイズ、長さおよび順応性(例えば、動作範囲への適応、周辺組織が破壊または損傷されないように使用する能力)、形状および他のフォーマットである。さらに、適切であり得るのは、光学システムおよび/または光システムの追加、またはこれらとの結合であり、それにより、そのようにしなければ外科医の視野から遮断される部位への適用の視認を可能にする。一部の実施態様では、カテーテルに結合させるのに適したノズルおよび/またはカニューレが提供される。そのようなアダプターの例を
図8に示す。
【0167】
一部の実施態様では、カテーテルへの結合に適した、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、約1ミリメートル~約4ミリメートルの範囲内の直径を有するカテーテルに連結するための第一の連結末端を有する。一部の実施態様では、約1ミリメートル~約2ミリメートルの範囲内の直径である。特定の実施態様では、約1.5ミリメートルの直径である。
【0168】
一部の実施態様では、カテーテルへの結合に適した、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、約4ミリメートル~約8ミリメートルの範囲内の直径を有する、保管および/または送達器具(例えばプレフィルドシリンジ)に連結するための第二の連結末端を有する。一部の実施態様では、約5ミリメートル~約7ミリメートルの範囲内の直径である。特定の実施態様では、約5ミリメートルの直径である。特定の実施態様では、約5.21ミリメートルの直径である。特定の実施態様では、約7ミリメートルの直径である。特定の実施態様では、約6.9ミリメートルの直径である。
【0169】
これに代え又はこれに加えて、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、シリンジから組成物を適用する場合、圧力との関連で設計され得る。
【0170】
一部の実施態様では、提供されるノズルおよび/またはカニューレは、再利用可能であり、例えば、第一の保管および/または送達ビヒクルから取り外し(例えば、保管および/または送達ビヒクルから組成物を送達した後)、および、第二の(および/または後に続く)保管および/または送達ビヒクルに取り付けられるのに適している。一部の実施態様では、提供されるノズルおよび/またはカニューレは使い捨てである。
【0171】
一部の実施態様では、本明細書に記載の保管および/または送達システムを含む製剤パッケージが提供される。適切な製剤パッケージは、滅菌されて、外科的セッティングでの使用に許容できる。製剤パッケージの例は、ブリスターパック、バブルパック、またはクラムシェルパッケージである。薬学的に許容できるパッケージは、例えば、環状オレフィンコポリマー()、ポリクロロトリフルオロエチレン、または塩化ポリビニルなどの様々な物質でパッケージされ得て、および、作られ得る。本明細書に記載の、ペプチド組成物を含む保管および/または送達器具(例えばプレフィルドシリンジ)およびノズル/カニューレを含む、製剤パッケージ(例えば、ブリスターパック)の例を、
図9に示す。
【0172】
一部の実施態様では、本明細書に記載のペプチド組成物を含む保管および/または送達器具を受け入れるための、カスタム形成可能な位置を提供する空洞またはポケットを有する、ブリスターパックが提供される。さらに、または場合により、一部の実施態様では、本明細書に記載のノズルまたはカニューレを受け入れるための、カスタム形成可能な位置を提供する空洞またはポケットを有する、ブリスターパックが提供される。さらに、または場合により、一部の実施態様では、本明細書に記載のアダプターを受け入れるための、カスタム形成可能な位置を提供する空洞またはポケットを有する、ブリスターパックが提供される。様々な実施態様では、個々のブリスターパックは、滅菌状態を維持するために、空洞またはポケットに固定されたカバー(例えば、タイベックシート)を備える。
【0173】
様々な実施態様では、提供される製剤パッケージ、例えば、ブリスターパックは、滅菌される。滅菌(すなわち、本明細書に記載の保管および/または送達器具の無菌的処理)は、当分野で公知であって医薬品および/または製剤パッケージに許容できる方法により、達成され得る。本明細書に記載の製剤パッケージのための滅菌技術の例は、加圧蒸気、熱気、電離放射線(例えば、ガンマ線および/または電子ビーム)、およびガス(例えば、エチレンオキシドまたはホルムアルデヒド)である。
【0174】
一部の実施態様では、単一の製剤パッケージ中に、複数の保管および/または送達器具が提供され得る。例えば、プレフィルドシリンジに提供される単位用量または複数回の投与量は、複数のブリスターパック内に、または場合により、複数のシリンジをパッケージするのに適切なクラムシェルタイプの容器内に、パッケージされ得る。一部の実施態様では、単位用量、または複数回の投与量を含むプレフィルドシリンジは、ブリスターパック内に提供される。一部の実施態様では、複数のプレフィルドシリンジが、クラムシェルタイプのパッケージ内に提供され、外科的セッティング(すなわち、滅菌)での使用に許容される。適切な滅菌技術が上述のように用いられ、様々な外科的セッティングにおいて、滅菌された医薬品が提供されるのを確実にする。
【実施例】
【0175】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物の作り方および使い方の例を当業者らに提供するために提示され、本発明の範囲を限定することを意図しない。用いられる数字(例えば、量、温度など)に関して精度を保証するようにしているが、当業者に知られるように、一部の実験的偏差が予測されるべきである。別段の指示がない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度はセ氏温度であり、および、圧力は大気圧であり、または大気圧付近である。
【0176】
実施例1.RADA-16溶液
本発明者らは、外科的処置中に血液を調節および/または止血するために用いられる既存の物質とは全く異なるメカニズムによって、本明細書に記載のペプチド組成物が、外科的手順において止血することを決定した。典型的には、凝固因子が用いられる。しかしながら、生理学的条件下でのかなり迅速なゲル化を介して、本明細書に記載のペプチド組成物は、凝固因子を用いずに出血部位を阻止し、薬理学的作用を伴わずに止血することができる。本発明者らは、ヒトおよび非ヒト対象に対する様々な外科的手順において本明細書に記載のペプチド組成物を用いて、ペプチドゲルが、血管の表面部分の所定の出血部位で血液細胞と絡み合い、それにより、血液凝固がゲルの上層の下側で生じるのを可能にすることを見いだした。他の物質、例えば、フィブリン糊は、凝固因子を可動化して血液凝固系を活性化することにより作用し、それにより、所定の部位からの出血を阻止する。本明細書に記載のペプチド組成物の例示的な特性は、人工的な合成ペプチドの出発原料およびいかなる動物由来の物質も含まずに、注入するための水を含む。これは、外科的手順で本明細書に記載のペプチド組成物を用いることにより、感染のリスクを、完全には排除しないにしても、大幅に減らす。さらに、本明細書に記載のペプチド組成物は水溶液で提供されるので、プレフィルドシリンジ中で供給することができ、外科的部位上に、または、外科的部位内で、直接用いることができる。典型的にフィブリン糊などの他の物質で直面するような、適用前の特別な調製は必要ない。また、水溶液の主な成分は水であり、それは、他の物質(特に接着系の物質)とは異なり、ほぼ無制限の様式での繰り返し使用が可能である。
【0177】
本実施例は、本明細書に記載の様々な外科的方法で使用される、特定のペプチド組成物(本明細書において「組成物1」と呼ぶ)を記載する。組成物1は、水中に2~2.5%のRADA-16を含む、生体吸収性水溶液である。
【0178】
組成物1は、固相合成を用いて化学合成アミノ酸からなるペプチドを調製し、ペプチドを注入用の水の中に溶解させ、細菌フィルター(0.2mm)を用いて溶液を濾過し、そして、生じる濾液を滅菌の様式でシリンジ中に満たすことにより製造される。したがって、製造は、いかなる動物由来の物質も用いずに完了し、生物学的物質による感染の任意のリスクを排除する。
【0179】
組成物1は、澄んだ無色の液体であり、外科的部位への適用の際に(その際、ペプチド溶液は、ヒドロゲルの形成によりゲル化状態を採択する)、この透明の性質を維持し、そして、外科的手順の実施中、止血する能力を有する。この透明の性質は、組成物1を、その使いやすさおよび澄んだ術野を維持する能力の観点から、他の物質に勝って、外科的手順での使用に比類なく適するようにさせる。組成物1は、プレフィルドシリンジで提供することができ、したがって、他の物質、例えば、フィブリン糊(別個の液体から調製および混合される必要がある)と比較して、独特である。組成物1は、ペプチドから作られ、洗浄により完全に分解することができるので、そのような必要がない。本発明者らは、外科的手順での組成物1の使用に多くの利点を認識している:実質的に無制限の適用頻度、より早くより効率的な血液の調節および止血、透明の性質に起因した澄んだ術野および出血部位の維持、灌漑により簡単に除去され、外科的処置中の、出血調節手段の時間(duration)を短縮する(shortens duration of bleeding control measures)、外科的手順を完了するのに必要な時間の全体的な短縮、および、外科的処置中の失血の全体的な減少に寄与することにより、患者回復の割合を改善し得る。
【0180】
細胞培養実験は、組成物1の主成分ペプチド(CH3CO-(Arg-Ala-Asp-Ala)4-NH2、以下参照)は、生体のシグナル伝達系に対して作用することにより、生物活性を示さないということを示している(データ示さず)。欧州分子生物学研究所(EMBL)および全アミノ酸配列のタンパク質配列モチーフに関する京都大学のゲノムネットデータベースリソースの研究(主成分ペプチドは、切断により生産することができる)は、公知のモチーフと高度の相同性を示すいかなる配列も明らかにしなかった。組成物1がゲルを形成した時点で、ペプチドは、トリプシン、α-キモトリプシン、パパイン、プロテアーゼKおよびプロナーゼなどの消化酵素に曝されても、分解に耐える。
【0181】
【0182】
外科的処置中に出血を調節および/または止血するための他の手段(例えば、血塊の形成により血流をせき止める酸化セルロースまたはスターチ系の吸収剤の局所製剤)とは異なり、組成物1の作用メカニズムは、pH変化の際に出血点を封鎖する物理的特性の修正により実現される。
【0183】
実施例2.組成物1を用いた、非ヒト動物での外科的手順
本実施例は、外科的処置中に出血を調節することに関する、承認された物質の有効性の検証試験の結果に基づく、特定の動物試験を示す。ビーグル犬での人工血管片の移植の、滲出針穴出血のモデルは、自己由来の血管での吻合部からの滲出針穴出血を模して設計された。
【0184】
全ての動物は、National Society for Medical Researchによって策定されたPrinciples of Laboratory Animal Care、および、Institute of Laboratory Animal Research(ILAR)により作成され、National Academies Pressにより出版(1996)されたGuide for the Care and Use of Laboratory Animalsに従った人道的ケアを受けた。
【0185】
ウサギの腹部大動脈穿刺。開腹を行なって各ウサギの腹部大動脈をおよそ10cm露出させた。ヘパリンナトリウム(500 IU)を静脈内投与した。注射針(23~26G)を用いて腹部大動脈を穿刺することにより出血モデルを確立した。出血が確認された後、末梢および中央の血流をクランプして、シリンジを用いて組成物1を創傷部位に直ちに適用した。血流を1~2分後に再開させて、穿刺部位を出血について目視した。本試験で用いたウサギの腹部大動脈をホルマリン中で固定して、組成物1で処置された部位および処置されなかった部位(コントロール)の両方の血管横断面を用いて病理検体を作り、それから、顕微鏡下で観察した。
【0186】
結果は、≧2%のペプチド濃度の組成物1の投与後に、出血の全体的な停止が、2%のペプチド濃度の組成物1で処置された1動物を除いて全ての動物で見られることを示した。構造のない(structure-less)好酸性のゼラチン化組成物1は、血管穿刺の部位および表面で観察された。さらに、ゼラチン化組成物1は、穿刺を物理的に閉塞する組織表面上のコーティングを形成していることが観察された。
【0187】
ビーグルの腹部大動脈移植置換。体重が13.1kgおよび11.4kgの雄ビーグル(n=2)を、組成物1を使用した大動脈移植置換の外科的手順に用いた。腹部大動脈を、全身麻酔の下で開腹により露出させた。ヘパリンナトリウムを、1000 IUで静脈内注入した。活性化凝固時間(ACT)が200秒を超えたことを確認後、腹部大動脈をクランプして、端末間の(end-to-end)移植置換の手順を行なった。移植吻合および針穴からの滲出性出血(滲出型の出血)が観察された。組成物1を針穴に適用して、有効性および出血の停止を評価した。
【0188】
結果は、吻合部位からの滲出型の出血が止まり、およそ2mLの2.5%組成物1の適用後約1分で、吻合滲出の停止が観察されることを示した。さらに、針穴からの滲出型の出血も止まった。腹部大動脈の穿刺の出血モデルを、ウサギで用いたのと同じサイズの26-G注射針を用いて人工血管移植片に穴を開けることにより準備し(上述)、その結果として血液の噴出が確認された。末梢および中央の血流を止めて、およそ1mLの2.5%組成物1を適用した。約1分後に血流を再開させた。創傷部位での完全な止血が確認された。この手順を、移植片上の3つの別々の部位で、3回繰り返した。術後観察を3日まで行なった。
【0189】
マウス静脈内投与。組成物1は、出血部位からの血液と接触するとすぐ、ゲルを形成する。出血部位での適用を介して、ゼラチン化組成物1の一定量(an amount)が血流に入ることが可能である。本実施例では、組成物1の静脈内投与の安全性を、マウスを用いて示した。
【0190】
手短には、懸濁液中のゼラチン化組成物1を、生物学的悪効果を有すると考えられる濃度で投与した。結果は、マウス対象での死亡が、40倍希釈まで観察されることを示した。直接の原因は決定しなかったが、死亡は肺閉塞症に起因することが疑われた。マウスにおいて検死解剖は行わなかった。しかしながら、以下の異常な行動は、肺梗塞を示す:自発行動の減少、しゃがみこみ姿勢、および呼吸亢進。80倍希釈では死亡は観察されなかったが、異常な知見(無活動および呼吸速迫)が観察された。160倍希釈では、異常は観察されなかった。
【0191】
同様の実験では、モルモットに、160倍希釈懸濁液で0.2mLの組成物1を投与した。いかなる動物においても、異常な行動は観察されなかった。
【0192】
理論に拘束されることを望まずに、これらの結果は、以下の条件を仮定するヒトに対して推定し得る:対象は、全血液容量4.6Lを有する体重60kgの成人である。この基準を仮定して、および、マウス(約40gの体重で、約3mLの全血液容量)を用いて観察されたデータを使用して、マウスで観察されたのと同様の様式で死亡を引き起こす可能性のある、静脈内注射を介して投与される組成物1のゲルの予想量は、4~40倍希釈の、およそ770mL、またはおよそ19.3~193mLの組成物1である。そのような容量は、外科的手順で用いられる容量よりもずっと多い。本実施例により示されるように、組成物1は、様々な動物での外科的モデルにおいて、出血を調節するための安全かつ効果的な溶液である。
【0193】
本実施例に示されるように、組成物1の適用は、上述の例示的な動物の外科的手順での止血に有効性を示した。さらに、静脈内投与の実験から、シリンジによる5mLの組成物1の単回投与は、直接血管へ誤って投与した場合でさえ、肺閉塞症または死をもたらす他の有害事象を引き起こす可能性がない。
【0194】
実施例3.冠動脈バイパス移植(CABG)
本実施例は、本明細書に記載のペプチド組成物を用いた冠動脈バイパス移植の外科的処置、および、特に、本明細書に記載のペプチド組成物を適用することができる外科的方法のステップを示す。提供される例示的なペプチド組成物は、組成物1(上述)である。
【0195】
冠動脈バイパス移植(またはCABG)は、内胸動脈の剥脱または大伏在静脈の採取で始まり、それらは移植片として用いられる。内胸動脈は、阻止された冠動脈から離れた心臓の外側領域に吻合される。採取された大伏在静脈は、冠動脈の基部および病巣の(阻止された)冠動脈から離れた心臓の外側領域に吻合される。
【0196】
典型的に、CABG外科的処置では、移植片としての内胸動脈は、過去の成功率を理由に、最初の選択肢である。場合により、より多くの移植片が必要な場合は、大伏在静脈を用いることができる。出血は、CABG外科的処置の複数のステージ中、例えば、内胸動脈の剥脱または大伏在静脈の採取で起きる可能性があり、それらは、移植片として使用され、ヘパリン化、様々な心臓動脈および移植片の吻合部位、および、心臓および酸素供給器のカニューレ(チューブ)の連結部位に起因して、上記領域で再出血する(
図3)。
【0197】
剥脱または移植片採取部位での出血。剥脱または移植片の採取は、標準的な外科的器具または電気メスを用いて行われる。採取部位からの出血は、通常、電気メスを使用した結果であり、この外科的処置を受ける患者は、酸素供給器の連結に備えて、血液が凝固するのを防ぐために、この手順の後にヘパリン化される。ヘパリン化の後に、滲出型の再出血が採取部位から頻繁に生じ、その際に電気メスが、そのような再出血を止めるために通常用いられる。これは、CABGの手順を長引かせる余計な時間をとる可能性があり、そして、組織に損傷を生じさせる。これは、治癒の工程を長引かせ、手順後の回復をより遅らせる。外科的処置の標的は移植片の採取ではなくバイパスなので、外科医は、外科的処置中の出血を最小限にするために、外科的処置を行なうのに必要な全体的な外科的処置時間およびステップを最小限にすることを望む。出血を調節する既存の外科的方法は不十分であり、この手順中の出血を調節するのに、典型的に、および、幅広く用いられない。その代わりに、電気メスが用いられ、任意の出血を止めるために組織が焼かれる。
【0198】
CABG外科的処置では、組成物1は、出血を調節するための手順中の複数のステップで適用することができ、外科的処置を完了するのに必要とされる全体的な時間を減らす。組成物1を採取部位に適用して、効果的に出血を防ぐことができる。その使いやすさに起因して、組成物1は、採取手順前および採取手順中に適用することができる。さらに、ヘパリン化の前に適用することもできる。手順中の出血およびヘパリン化の後の再出血を防止することにより、外科医は、出血の合計量を減らして、外科的処置を完了するのに必要とされる全体的な時間を短くすることができる。さらに、この時間節約は、麻酔に必要な時間において同様に考えられる。
【0199】
そのような外科的処置が必要な患者における1つのCABG外科的処置の手順では、成功的なバイパスを行なうために4つの移植が必要である。移植あたりの時間は5~20分に減少し、外科的処置を行なうための全体的な時間は20~80分に減少する。この時間減少は、部分的に、手順における電気メスの必要性の排除または低減に起因する。さらに、感染リスクの低減が観察される。CABG手順の実施のための減少した時間の結果として、合計入院期間が減ることが期待される(例えば、1つの24時間の期間(one 24 hour period))。ある場合には、外科医が、手順中に困難な再出血に直面する場合は、追加の2または3日の入院が必要とされる。
【0200】
組成物1のようなペプチド組成物は、剥脱または移植片採取の間、およびその後に、標的出血部位周辺の広範な領域で出血部位に適用され、そのまま領域に留まるのを可能にする。これは、溶液が標的部位上でゲル化状態に形成するのを可能にする。ペプチド組成物の手操作(例えば、人の指で擦り込むことによる)は、ゲルの崩壊をもたらすので勧められない。ペプチド組成物は、溶液からゲルに状態が変化するにもかかわらず、透明のままである。この独特の特性は、澄んだ術野の維持、および、手順中の複数部位からの出血の、改善されかつ優れた調節を可能にする。溶液を含むプレフィルドシリンジおよびそのような手順での使用に適した特殊なノズルの使用は、手順の様々なステップおよび手順全体を行なうための時間の減少に寄与する。ペプチド組成物は、CABGの手順の最後に、その領域から洗浄することができる。
【0201】
SURGICEL(登録商標)は、低pHの酸化セルロースポリマーから作られ、血液の凝固を誘導することにより、外科的処置後の出血を調節するために用いられる。それは、神経毒性のインシデント(incident)と関連している。例えば、SURGICEL(登録商標)は、下歯槽動脈からの体内動脈出血を調節するために、口および顎顔面の外科的処置において広く用いられる。下歯槽神経を露出して下顎管に置いた場合に、神経毒性効果の報告がされている。
【0202】
CABG外科的処置では、SURGICEL(登録商標)を出血部位に適用することができるが、外科医は典型的に電気メスを好む。好ましい電気外科的な使用は、部分的に、SURGICEL(登録商標)を使用するために必要とされる時間に起因し(それは綿毛またはシートタイプの特性を有するため)、そして、外科医は、ピンセットを用いてそれを切断して、続いて、血液を除去した後にそれを出血部位に適用しなければならない。SURGICEL(登録商標)がピンセットに張り付きやすいため、これは困難なタスクである。SURGICEL(登録商標)は、粘着性になるためには血液を吸収する必要があり、それによって、出血を調節する。さらに、加圧力、または、そのための時間が、血液の吸収を可能にするために所定の位置に留まるために必要であり得る。この場合、移植領域はこの外科的処置の主な標的ではないので、外科医は典型的に、外科的処置が終了するまで適用されたままにしておく。SURGICEL(登録商標)は黒色に変わり、結果として、標的部位内の動脈を黒くさせる。これは外科的部位の可視性を低下させる。接着特性を多少有するので、SURGICEL(登録商標)は、適用後にピンセットで除去されなければならない。このステップは、手順を完了するための時間を増やし、時折、除去するときに周辺組織への損傷が再出血を引き起こし得る。さらに、外科医は、SURGICEL(登録商標)が除去されるまで、出血が調節され全ての領域から止まっていることを、確認することはできない。
【0203】
フィブリン糊は、SURGICEL(登録商標)と同様の様式で適用され得るが、上述のとおり、外科医は、電気メスを使用することを好む。フィブリン糊をCABG外科的処置において適用する場合、典型的に、スプレーノズルを取り付けることにより噴霧される。標的領域上の血液を除去した後に、より大きな加圧力によって、または圧縮空気を使って、噴霧される。フィブリン糊は、その位置に留まるのに十分粘着性になって任意の出血を止めるためには、5~10分を要する。時折、フィブリン糊は、ガーゼなどを用いた圧力を要する。フィブリン糊は、ヘパリン化した血液に対する有効性はなく、出血に対して前もって適用することはできない。それが適用され、出血を十分に調節しない場合は、再適用するために除去されなければならない。このことは、フィブリン糊を適用しようとする際の手順およびステップにさらに時間を招く。これは再出血をもたらす可能性もある。SURGICEL(登録商標)の使用と同様に、外科医は、フィブリン糊が除去されるまで、出血が調節され全ての領域から止まっていることを、確認することはできない。
【0204】
体循環後およびの冠動脈から出血。内胸動脈を剥脱後、片方の末端を、阻止した冠動脈の末梢末端に吻合する。これを達成するために、標的とされる冠動脈は、心臓の表面から特定される必要がある。しかしながら、心臓は脂肪組織で覆われていて、外科医は、冠動脈を見つけるために、脂肪組織の中を掘らなければならない。これは出血をもたらす可能性がある。出血点を特定することができれば、止血クリップを適用し、特定できなければ、出血は、ガーゼによって広範囲にわたって圧迫止血され、それは約1分間圧迫しなければならず、そして、出血は調節される。この時間中、手順を休止しなければならない。その代わり、本明細書に記載のペプチド組成物は、透明であり、適用領域は外科的器具によってオペレートすることができるので、冠動脈の領域に、出血を防ぐために前もって、または、任意の出血がその領域に見られる場合に、適用することができる。SURGICEL(登録商標)およびフィブリン糊は、一度適用した領域にさらなる外科的手順を受け入れないので、前もって適用することができない。出血の発見後にSURGICEL(登録商標)およびフィブリン糊を適用する場合、適用のための手順を止める必要があるため、さらなる時間を要する。
【0205】
吻合された動脈からの出血。大伏在静脈が冠動脈に吻合される場合、糸と針によって、または自動吻合装置によって行われ、典型的に出血を伴う。焼け焦がしは吻合動脈に損傷を生じさせるため、電気メスを用いてこのタイプの出血を調節することはできない。出血が本質的に噴出性である場合、適切な領域に対して追加の縫合がなされる。必要であれば、フィブリン糊、SURGICEL(登録商標)、または、ガーゼによる圧迫止血が適用される。SURGICEL(登録商標)は典型的に、フィブリン糊よりも小さな出血部位に適用される。この場合、動脈は丸い形状なので、適用は最初、動脈の片側にされて、それから、動脈が回転されて、他方に適用される。フィブリン糊に圧力をかけることにより、有効性を高めることができる。しかしながら、フィブリン糊のメカニズムは、血液自体の凝固に依存し、圧力下でさえ、10分を超える時間を要し得る。
【0206】
本明細書に記載のペプチド組成物は、吻合動脈に容易に適用される。それは、指またはガーゼに一旦適用し、それから、吻合動脈の見えない領域に貼り付けることができる。この場合、フィブリン糊とは異なり即時の圧迫止血が可能であり、適用後の血圧による再出血が防がれる。このことは、圧迫止血下で時間を最小限(2~5分)にして、出血を調節するプロセスを高める。
【0207】
心臓および酸素供給器のカニューレ/チューブの連結部位での出血。CABG外科的処置では、心臓が鼓動するのを防止する必要がある場合、患者の体の残りの部分に血液を循環させるために、酸素供給器がカニューレ/チューブを通して動脈および心臓に連結される。カニューレは直接挿入されて縫合により固定される。循環中に縫合部位上に、または、カニューレが取り外された後にその除去部位上に、出血が特定されることがある。フィブリン糊は典型的に、領域を固定してカニューレの取り外しを困難にするので、適用されない。さらに、SURGICEL(登録商標)は、そのシート様の特徴のせいで適用するのが困難である。典型的に、ガーゼを出血点の上に圧迫して置く。出血が残る、または、より強くなる場合は、追加の吻合が行われる。本明細書に記載のペプチド組成物の、独特の非糊/非シートの特性は、この状況および外科的処置中に直面する出血のこれらのタイプに特に適用可能にさせることができる。
【0208】
ヒトの心臓血管の外科的処置での、組成物1の臨床試験。試験プロトコルは、東邦大学医療センター佐倉病院および大森病院の治験審査委員会によって承認された。インフォームド・コンセントは全ての患者から得られた。この臨床試験では、25名の患者(男性22名、女性3名)の33の適用部位が、組成物1の適用の標的とされた。特定の基準を満たした患者は、2010年1月から2011年4月の間に、CABG、腹部大動脈瘤(AAA)または閉塞性動脈硬化症(ASO)の血管の外科的処置を受けた。
【0209】
以下の除外基準を用いた:(1)ペプチド薬またはタンパク質製剤に対して過敏性の過去の病歴を有する個体、(2)試験の妨げとなり得る、外科的処置に適応される疾患以外の重大な合併症を有する個体、(3)外科的手順における組成物1の使用に影響し得る薬剤(例えば、血液凝固薬(血液凝固促進剤;すなわち、ヘモコアグラーゼ)および抗線溶剤(例えば抗線維素溶解性作用を有する薬剤;εアミノカプロン酸、トラネキサム酸、アプロチニン製剤など))を中断することができない個体、(4)子どものBまたはCの分類(child’s classification of B or C)を有する個体、および(5)試験員により、それ以外の理由で試験に不適切であると見なされた個体。
【0210】
全ての手順は、患者が全身麻酔されている間に行なった。CABGは、心肺バイパスをせずに行なった。手順中に、ヘパリンナトリウムを200 IU/kgで投与し、手順後に、200秒の標的ACTを達成するために、プロタミンサルフェートを投与した。AAAを治療するための、人工血管移植片の置換の外科的処置を、ウーブンダクロン移植片(J-graft;Japan Lifeline、東京、日本)を用いて行なった。ASOを治療するための、移植バイパス外科的処置または自家の静脈パッチ形成を、それぞれ、ePTFEリング付きGore-Tex血管移植片(WL Gore&Associates;Flagstaff,AZ,USA)および伏在静脈を用いて行なった。外科的手順中、ヘパリンナトリウムを5000 IUで投与したが、外科的手順後、プロタミンサルフェートは典型的に用いなかった。
【0211】
CABGの手順では、組成物1の適用を指定された標的部位は、血管間の吻合部位であった。AAAおよびASOを治療するための外科的手順に関して、組成物1の適用に関する標的部位は、移植片吻合部位および自家の静脈パッチ形成部位を含んだ。適用の標的とされる出血タイプは、(1)フィブリン糊およびコラーゲン物質により典型的に止まる血液滲出、および(2)結紮、クリップ、および凝固のような他の方法論を用いた典型的な処置では効果がない、または実行的ではない血液滲出であった。噴出または湧出する出血の多量の血液に直面した場合は、結紮、クリップ、または凝固を含む他の処置の方法論を典型的に行なった。組成物1は、これらの状況では適用しなかった。
【0212】
吻合血液がガーゼにより除去された後、組成物1を、ゲル化組成物1を破壊せずに穏やかに均一に適用し、そして、プロタミンサルフェートの投与前に、各標的部位に塗り付けた。具体的には、およそ1mLの2.5%組成物1を冠動脈吻合部位に適用し、およそ2mLを大動脈吻合部位に適用し、およそ1mLを他の末梢血管の吻合部位に適用した。
【0213】
評価される組成物1の一次エンドポイントは、術中の出血であった。それは以下のように決定した:完全な応答(CR)、標的部位での出血の全体的阻止;部分的な応答(PR)、一時的な出血の全体的阻止が確認されるが、永続的な止血が、処置を必要とする術中の二次的出血に起因して、適用部位に組成物1を再適用した後にのみ見られる;わずかな応答(MR)、一時的な止血が確認されるが、永続的な止血が、処置を必要とする適用部位からの術中の二次的出血に起因して、組成物1以外の手順を用いた後にのみ見られる;応答なし(NR)、標的部位からの出血は減少されず、止血が達成されない。
【0214】
術後出血の二次エンドポイントを記録して、以下のように決定した:CR、術後検査において術後出血は見られない;PR、組成物1適用部位からの術後出血が術後検査から推測され、再度のオペレーションは必要ない;および、NR、術後検査において組成物1適用部位に由来する術後出血が見られ、再度のオペレーションを要する。
【0215】
任意の異常な発見または副作用を含む有害事象は、症状、重症度、持続時間、処置、経過および転帰、および試験薬との関連性(および任意の関連性の決定理由)に関して記録された。
【0216】
結果。対象は、54~80歳の範囲の年齢の25名の患者(男性23名、女性2名)で構成された。これらの患者のうち、9名がCABG外科的処置を受け、4名がAAA外科的処置を受け、12名がASOに関する外科的処置を受けた。組成物1を33の部位、具体的には、内胸動脈-冠動脈吻合の領域(n=1)、伏在静脈-冠動脈吻合(n=4)、上行大動脈-伏在静脈吻合(n=4)、移植片吻合(n=15)、および、自家の静脈パッチ形成(n=9)に用いた。適用の平均面積は3.03cm2(0.25~10cm2の範囲)であった。適用した組成物1の平均量は、1.5mL(0.5~3mLの範囲)であった。観察された有効率は、一次エンドポイント(術中の出血)に関して87.9%であり、二次エンドポイントに関して100%であった(出血後の術後の発生;表4)。ヘパリン処置に関しては、観察された有効率は85.2%(23/27)であり、止血のための時間は153.6±38.7秒(平均±S.E.)であった。プロタミン処置に関しては、有効率は100%(6/6)であり、止血のための時間は195.0±130.1秒(平均±SE)であった。組成物1の適用に対する因果関係を有する有害事象(重大な有害事象を含む)は見られなかった。
【0217】
【0218】
上述の臨床試験における組成物1の有効性の評価は、Starkら(Stark Jetal.1984,Ann Thorac Surg 38:411-413)により示されるとおりに実施した。以前に、ラットでの滲出出血の全体的な止血は23.1%~100%と報告されている。本実施例に示すように、組成物1は、この範囲の上端を演ずる。さらに、この数値中に評価されていないものは、動物由来の産物またはヒトの血液成分を含まない感染フリーの物質の使用による利益の追加である。組成物1は完全に合成なので、感染リスクを引き起こさない代替物質を提供する。
【0219】
本実施例に示すように、組成物1は、25名の患者において33の部位に適用され、87.9%(29/33;表1)の有効性および安全率を示した。ヘパリン-およびプロタミン-処置の個体における、組成物1の有効性に違いは見られなかった(データ示さず)。術後出血または任意の種類の他の有害事象は見られなかった。これらの知見に基づき、組成物1は、心臓血管の外科的処置中の滲出出血に対して優れた局所止血を示す、安全かつ便利な代替物質を提供する。
【0220】
実施例4.胸部大動脈置換
本実施例は、本明細書に記載のペプチド組成物を用いた全体的な置換の外科的処置によって、大動脈瘤の領域を、弓(arch)から大動脈瘤の遠位領域へ置換する外科的手順、および、特に、本明細書に記載のペプチド組成物を適用することができる外科的方法のステップを示す。提供される例示的なペプチド組成物は組成物1(上述)である。
【0221】
手短には、外科的手順は5つのステップ(1)大動脈のクロスクランピングおよび心肺バイパスの確立(脳を保護する還流を含む)、(2)下行大動脈の吻合(末梢側)、(3)上行大動脈の吻合(中央側)、(4)左鎖骨下動脈、左総頸動脈、および腕頭動脈の吻合、および(5)心肺バイパスの離脱、を含む。
【0222】
大動脈遮断および人工心肺装置の確立(脳を保護する還流を含む)。胸骨正中切開および心膜切開を行ない、その後に、上行大動脈と心臓の摘出を行なう。それからヘパリンを投与する。人工心肺装置と患者との間に血液を還流させるために、右腋窩動脈、腕頭動脈、左総動脈、左鎖骨下動脈、および下行大動脈にチューブを挿入する。その後、各血管の遮断中に、人工心肺措置による血液還流を始める。心筋保護液を注入して心臓を止める。
【0223】
下行大動脈吻合(末梢側)。下行大動脈を電気メスで切断して、3-0または4-0プロリン糸を用いて血管移植片と吻合する。深い領域での視野が制限されるので吻合の確実性が必要であり、還流を始めた後に止血するのは困難である。
【0224】
上行大動脈吻合(中央側)。上行大動脈を電気メスで切断して、3-0または4-0プロリン糸を用いて血管移植片と吻合する。血液還流の再開前に気泡を取り除くために、通気管を血管移植片に挿入する。クランプを外す前に吻合の領域全体へのフィブリン糊を適用することは、滲出および湧出する出血のリスクを減らすが、この手順は、フィブリン糊と吻合領域との間からの出血をもたらし得る。この場合、出血が増加するリスクがあるため、フィブリン糊を剥がす代わりにフィブリン糊の再適用が必要である。吻合領域および以前に糊を適用した領域の間にフィブリン糊を適用するのは困難である。この場合、SURGICEL(登録商標)の繰り返し適用は、止血するのに十分でない可能性があり、最終ステップは長期間の圧迫止血である。長い時間。液状フィブリン糊が止血できない場合は、シートタイプのフィブリン糊を適用する。さらに出血がある場合は、フィブリン糊を剥がしてから、針と糸を用いて第二の吻合を行なう。外科的手順におけるこれらのステップは、フィブリン糊が除去される吻合領域の攪乱に起因して出血量を増やすだけでなく、残っているフィブリン糊によって吻合が複雑なので、外科的処置の時間をさらに増やす(約20~90分)。
【0225】
その代わり、本明細書に記載のペプチド組成物(例えば、組成物1)は、フィブリン糊で出血が止まらなかった領域および吻合の特定部位に、綿棒および/または注入によって、適用することができる。クランプする前の組成物1などの適用は、組成物1を吻合部位上の血管の浅層に混ぜ込むことを可能にする。適量の組成物1を適用し、重力のせいで剥がれ落ちたりクランプを外した後に血圧のせいで部位から押しのけられたりしないように、その部位に保つ。クランプを外している間、鉗子をゆっくり取り外して、約30~60秒待って組成物1が血液とゼラチン化するのを可能にする。組成物1が溶液およびゼラチン化した時点の両方で透明の物質であるので、内側からの血管の流れは目に見ることができる。血圧のせいで組成物1が洗浄または押し出される場合は、クランプを維持しながら、出血が止まるまで繰り返して再適用することができる。出血が完全に止まった時点で、クランプを外す。
【0226】
腕頭動脈、左総動脈、および左鎖骨下動脈の吻合。腕頭動脈、左総動脈、および左鎖骨下動脈を、電気メスで切断して5-0プロリン糸により血管移植片に吻合し、その後にプロタミンを投与する。上述のとおり、この手順中、組成物1を用いてよい。
【0227】
人工心肺装置からの離脱(心拍による循環の再開)。人工心肺装置と患者を連結するチューブの挿入部位を6-0プロリン糸で閉じる。腕頭動脈、左総動脈、および左鎖骨下動脈の血液循環を再開し、体循環を再開する。
【0228】
実施例5.リンパ節郭清
本実施例は、本明細書に記載のペプチド組成物を用いたリンパ節郭清、および、特に、本明細書に記載のペプチド組成物を適用することのできる外科的方法のステップを示す。提供される例示的なペプチド組成物は、組成物1(上述)である。
【0229】
肺門および縦隔のリンパ節郭清は、肺癌の標準的な処置であることが知られ、リンパ節および解剖学的部位内の周辺組織の切離を要する。
【0230】
左大動脈周囲リンパ節郭清。左主肺動脈の部位上で縦隔胸膜を、電気メスによって大動脈弓の上部へ切開する。電気メス、ハサミおよびガーゼボール付きの鉗子を用いて縦隔胸膜を周辺組織とともに剥がす。リンパ節を、大動脈の裂孔の上部から切離する。内側で、肺動脈を外面化しながら、組織周辺のリンパ節を切離する。リンパ節全体をアリス鉗子で包んで引き出す。次に、周辺の血管および結合組織を、電気メス、ハサミおよびガーゼボール付きの鉗子で剥がす。それから、リンパ節を切開して電気メスにより摘出する。リンパ節が血管壁に付着している、または、血管壁に観血的に組み込まれている場合は、標準的な切離の手順を続けることは困難性が残る。したがって、リンパ節は、5~15分間の圧迫止血および結紮縫合の後に、滲出および湧出の出血がある状況下で切り離さなければならない。それ以外の方法では、血管をクランプしてリンパ節を摘出し、それは血管の再建が必要である。最悪の場合には、外科的処置の手順を、肺の全摘出のようなケースに変換しなければならない。これらの外科的手順の変換は、外科的処置の時間をfするが、術後出血のリスクも高める。したがって、切離の標準的な手順を後に続けることが理想的である。
【0231】
本明細書に記載のペプチド組成物(例えば、組成物1)を、剥離表面上の出血を予防するために適用することが可能である。組成物1は、重力がゆっくりそれを下へ引っ張るという物理的特異性を有するので、組成物1を、剥離表面上だけでなく、特異的にリンパ節全体に適用することも可能である。必要に応じて、大量使ってよい。凝固するフィブリン糊を使うことは適切でない。同様に、SURGICEL(登録商標)(切離に先立って剥離表面全体を覆う)は最適でない。
【0232】
事前に出血の処置をしない切離の場合、組成物1の適用直後に切離を始めることができる。フィブリン糊を領域に適用する場合、切り離すことが困難であり、剥がすときに出血を促進する可能性がある。SURGICEL(登録商標)は、適用部位を隠し、したがって、切り離すことができないので、この場合使うことができない。さらにSURGICEL(登録商標)は、完全に止血する長期間を要する。
【0233】
十分な期間後、および、SURGICEL(登録商標)を除去しても、出血が止まらない可能性がある。これは、SURGICEL(登録商標)を適用する場合、止血を確実にすることができないという事実のせいである。この場合、再適用が必要である。出血は軽度であり得るが、広範囲の出血が再度始まる可能性があり、したがって、外科的処置の時間が延びる。
【0234】
実施例6.整形外科的な外科的処置での本明細書に記載のペプチド組成物の適用
以下の実施例は、転子間股関節骨折を修復するための外科的処置での、本明細書に記載のペプチド組成物(例えば組成物1)の適用を示す(
図4)。3~5倍の重量に耐えることのできる金属ネイルプレートまたはガンマネイルにより、骨折部位を固定する。近年では、外科的技術および金属固定器具の近代化により、骨折部位に対する圧縮力は、平面上の骨折部位が滑るのを防ぐために、骨折した骨へ導入されるスクリューとプレート(または三翼固定釘)により作られる。
【0235】
組成物1の適用を伴う、転子間骨折のためのガンマネイル。最初に、骨折部位で皮膚を切開する。大腿筋膜を通って小さな切開を深くして、標的の大腿骨に到達するために外転筋を裂く。切開中に出血に直面したら、通常、ガーゼによる圧迫止血を行なう。出血を止めるのに5~10分必要であり、手順を停滞させなければならない。また、高周波電子装置によるさらなる凝固を介した出血の調節は、頻繁に適用するのに相当な手順時間を要する。その代わり、組成物1は、多数の出血点を含み得る出血の幅広い領域にわたって、適用によって出血をより迅速に調節する利点を示す。さらに、組成物1の透明な性質に起因して、術野内に妨害または障害はなく、したがって、いかなる遅れも伴わずに手順を通常どおりに進めることができる。
【0236】
筋肉の切開により大腿骨を露出後、ガンマネイルを適切な位置に導入する前に、大転子の上部から大腿骨の管へガイドワイヤーを導入する。それから、ガイドワイヤーに沿って、釘の導入に適切な直径で穴をリーマーで作る。手順のこの時点で、大腿管からの任意の出血を調節するために、骨ろうを典型的に用いる。骨ろうは、使用前に混練および/または加温が必要な粘度様物質である。典型的にこれは、外科医の指により手作業で達成することができる。あるいは、骨ろうの代わりに組成物1を用いることができる。骨ろうのような適用前の調製は、組成物1には必要なく、より迅速な出血の調節が達成される。特に、組成物1は、骨折または骨にされる修復のタイプに応じて、骨内の穴または骨折に適したノズル付きのプレフィルドシリンジにより適用することができる。さらに、組成物1は、澄んだ術野を維持するその透明な性質のため手順が阻止されず、および、灌漑により簡単に除去されるという、追加の利益を提供する。
【0237】
骨ろうおよび組成物1の両方の適用は、所定の骨または骨折部位に対するそれらの適用に関して同様であるが、骨ろうは骨癒合を遅延させる傾向があり、一方で、組成物1は骨癒合を促進し、骨ろうよりも治癒の有効性が高いことが期待される。さらに、骨ろうは炎症を引き起こす可能性があり、一方で、組成物1はそのようなことはなく、それは、その高い生体適合性に部分的に起因する。
【0238】
リーマーによって開かれた大腿管に、ガンマネイルを導入する。この手順中に管から出血した場合は、骨ろうを用いる。その代わりに、この時点で組成物1を適用し、外科的手順の停止を招かない。さらに、出血の調節は、導入前に、ガンマネイルの表面上へ組成物1を適用して達成される。
【0239】
大腿骨骨頭へのラグスクリュー導入前に、外側大腿骨の入口点を専用の器具により決定する。それから、大腿筋膜を通って入口点で皮膚を切開して、標的の骨に到達するために外転筋を裂く。出血が生じる場合は、典型的に、ガーゼによる圧迫止血、または凝固を出血部位に対して行う。あるいは、より迅速な血液の調節および止血を達成するために組成物1を適用する。この適用は、標的の適用に用いることのできるプレフィルドシリンジに適切である。これは、外科的手順を完了するための全体的な時間を減らし、より迅速な回復を患者にもたらす。
【0240】
ラグスクリューは、骨のサイズおよび骨折部位の位置を考慮して選択される。それから、穴にラグスクリューを受け入れるのに適切な直径および長さを決定し、ラグスクリューのための穴を、大腿骨の外側から大腿骨骨頭の中央の真下に向かって、リーマーを使って作る。次に、この穴の中にラグスクリューを挿入して、釘およびラグスクリューを固定する。これは、転子間部の骨折と大腿骨のコアとの間の固定をもたらす。リーマーで骨の穴を広げた後にラグスクリューの穴から出血が生じる場合は、典型的に、骨ろうを手作業で穴の中に置き、出血を調節する。その代わりに、骨ろうと同様の様式で組成物1を置くことができ、または、注入することができ、より効果的な骨癒合を提供する。
【0241】
導入された釘を大腿骨に固定するために、釘の穴および大腿骨のコアに、スクリューを垂直に挿入する。大腿筋膜を通る入口点で皮膚を切開する。外転筋を切り開いて標的の大腿骨を露出し、リーマーで大腿骨に穴を作った後にスクリューを釘に挿入する。この手順の間、大腿管への釘の導入での手順と同様に、皮膚、外転筋および骨髄からの出血に対して、ガーゼによる圧迫止血、または凝固を行なう。その代わりに、組成物1を、ガーゼによる圧迫止血に置き換えることができ、そして、必要に応じて、所望の位置上への流れをコントロールするための特殊なノズルを備えるプレフィルドシリンジなどを用いて、標的の様式で適用することができる。標準的な技術は、部位(例えば、皮膚、筋肉および骨)に応じて出血を別々に調節するための方法を用いる。反対に、組成物1は、単一の手順または方法論で、組織にかかわらず異なる部位に適用することができ、複雑な手順を排除し、外科的処置に要する全体的な時間を減らすことができる。
【0242】
外科的処置は、外転筋、大腿筋膜および皮膚を縫合により閉じることにより完了する。この手順では、切開部位から出血が生じる場合、ガーゼによる圧迫止血または多くの縫合が増える。その代わり、組成物1は、シリンジによる切開部位上への直接適用によって、手順におけるこの時点で効果的に用いることができ、手順時間を短くして必要な縫合数を減らすことができる。組成物1の透明な性質のため、縫合がされる術野は隠されない。本出願は、手順に対して追加の時間を少しも追加せず、外科的部位を閉じることを適切に促進することができる。
【0243】
実施例7.肝臓の外科的切除(肝切除)
本実施例は、本明細書に記載のペプチド組成物を用いた肝臓の外科的切除、および、特に、本明細書に記載のペプチド組成物を適用することができる外科的方法のステップを示す。提供される例示的なペプチド組成物は、組成物1(上述)である。
【0244】
肝切除は典型的に、超音波の外科的処置の吸引ユニット、超音波凝固切開装置および電気メスを用いて行われる。肝臓内の血液循環系および索状物を、超音波の外科的処置の吸引ユニットにより露出する。胆管門脈または厚脈(thick vein)からの出血は、通常、結紮され(litigated)、および、3-0糸よりも細い索状物からの出血は、超音波凝固切開装置により止められる。また、肝臓の虚血-再灌流も行なって、肝臓の血液循環系のクランプおよび放出を繰り返すことにより出血量を減らす。
【0245】
肝臓の血管付近、特にグリソン鞘の周辺で電気メスを使用することは、血管損傷のリスクのため、依然として困難なままである。滲出性出血(電気メスにより焼灼された部分から徐々に出る)を止めることはできない。さらに、出血が既に止まっている部分の近くに電気メスを適用すると、かさぶたを剥がすことによる再出血を引き起こし得る。ペプチド組成物(本明細書に記載の、例えば、組成物1)が適用された部分には、しかしながら、電気メスを用いることができる。SURGICEL(登録商標)およびフィブリン糊を用いる難点は、適用部位で、さらなる肝臓の分離または血管の剥脱を行なうことができないことである。さらに、末梢組織に損傷を生じさせずにフィブリン糊を除去することは困難である。しかしながら、組成物1は、例えば、適用部位上にさらなる処置を行なう機会を提供し、血管系に損傷をほとんど全く引き起こさない。したがって、全体的な外科的処置の時間が減る。
【0246】
出血点が明確に特定されない場合は、止血するための圧力の使用は、典型的にガーゼを用いて行なわれる。SURGICEL(登録商標)を適用することもできるが、患者での肝臓分離の凝固性は典型的に低いため、有効性は低い。フィブリン糊は出血点以外の組織を凝固させ、除去するのが困難であるため、この場合、フィブリン糊は適用しない。例えば、組成物1は、出血有効性(hemorrhage efficacy)が高く、吸引、ガーゼまたは洗浄によって簡単に除去されるので、この場合に躊躇なく適用することができる。内視鏡的または腹腔鏡下な外科的処置の場合では、出血点の特定はよりいっそう困難である。これは、ペプチド組成物(例えば組成物1)の適用の、より有利な状況を示す。
【0247】
出血点が明確に特定される場合は、滲出にSURGICEL(登録商標)を適用することができるが、ペプチド組成物とは異なり、追加の処置を行なう前に除去しなければならない。このことは、出血を調節するために必要な時間を著しく増加させる。本明細書に記載のペプチド組成物は、適用部位に対して追加の処置を行なうことができ、オペレーションが出血を止めるプロセスにより中断されないので、有利である。フィブリン糊は、止血後に除去が困難なので、肝臓分離中は使用できない。
【0248】
本明細書に記載のペプチド組成物は、完全な止血が達成されるまで、繰り返して適用してよい。肝臓分離の場合は、1つの出血部位に対して、組成物1を1mLよりも多く適用することが好ましい。湿った表面上には、組成物1は静止して保持されない可能性があり、手作業で操作する(例えば指で擦り込む)と崩れる。組成物1は、出血部位自体よりも広い領域に適用される。過剰の組成物1は、外科的手順の完了後に簡単に洗い落とされるので、肝臓分離中、無視される。
【0249】
組成物1の適用後に完全な止血が達成されない場合は、適用した組成物1から出る出血に対してさらなる適用を行なうことができる。また、広範囲からの滲出性出血も、上記の方法により効果的に止めることができる。フィブリン糊の場合は、外科医は、フィブリン糊を除去して再適用しなければならず、または、凝固したフィブリンの周囲にフィブリン糊を過剰に適用しなければならない。周囲領域へのフィブリン糊の適用は出血点を直接止めないので、外科医は、結局のところ、過剰な適用を避け得る。フィブリン糊の下から出血が出ることがある。組成物1をギャップに注入して、外科的手順中のより効果的な止血を達成することができる。フィブリン糊は、通常、わずかな出血を止めるために断面上に噴霧され、肝臓分離の手順の終わりの後出血を防ぐ。組成物1は、外科的手順におけるこのステップに適しており、肝臓分離の完了後に、断面上に適用することができる。典型的に、SURGICEL(登録商標)は、断面を剥離させる作用のせいで、肝臓分離において効果的に使用されない。
【0250】
実施例8.完全腹腔鏡下肝切除(PLH)
本実施例は、本明細書に記載のペプチド組成物を用いた、肝臓の腹腔鏡下の外科的手順、および、特に、本明細書に記載のペプチド組成物を適用することができる外科的方法のステップを示す。提供される例示的なペプチド組成物は、組成物1(上述)である。
【0251】
完全腹腔鏡下肝切除(PLH)は、典型的に、病理学的病変が肝臓の表面にある状況で行なわれるが、部分的肝切除および肝葉切除の状況でも行なうことができる。
【0252】
手短には、カメラポートを臍部へ挿入し、そして、腫瘍の位置を確認後、2-3ポートを腫瘍付近に挿入する。それから、3-4ポートを外科的手順に用いる。腫瘍および血管系の関係は、典型的に、超音波検査により特定される。これは、PLHの手順では、腫瘍への直接的な接触はされないという事実のためである。次に、切除ラインを決定し、電気メスで印をつける。切除中の出血を減らすために、事前の凝固を行なう(例えば、マイクロ波凝固および高周波アブレーション)。
【0253】
浅層の切除を、超音波的に活性化されたメスにより行なう。肝臓深部の大血管(large vascular)を、脱腸および肝実質吸引で用いられる超音波の外科用吸引装置によって露出させる。肝切除中に明確に特定することのできる滲出型の出血を、電気メスを用いて焼灼する。任意のさらなる出血を、結紮により止める。いくらかの滲出型の出血が、肝切除中に、明らかな出血点を特定せずに生じる場合は、以下の理由のために、かなりの時間が外科的処置に追加される:腹腔鏡下の外科的手順では、視野が、開かれた開腹の外科的手順と比較して制限され、視野を確保するために血液をガーゼで除去しながら、出血が、超音波的に活性化されたメスにより凝固され、凝固が行われない場合は、出血領域にSURGICEL(登録商標)が適用され、それは、以下の理由から、膨大にさらなる時間を招く可能性がある。(1)SURGICEL(登録商標)は綿から作られているので、腹腔鏡下の外科的処置において、標的領域(特に、横断面の裏側)に綿棒で塗ることが難しいこと、および(2)鉗子がSURGICEL(登録商標)を所定の位置にクランプして、ポートの1つを行き来している間に、出血が広がり、そして、血液をガーゼにより除去、または生理食塩水により洗い落として、SURGICEL(登録商標)を適用するために、術野をはっきり見ることができるように確保する。
【0254】
ペプチド組成物(例えば組成物1)は、チューブを通した1適用で速やかに広がることができるので、裏側および広範囲の出血領域に適用することができる。液体として適用され、組織または外科的部位に置かれるとすぐにゲル化状態を採択するので、このことは組成物1の独特の利点である。反対に、フィブリン糊は、断面に硬化作用があり外科医が切除を行なうのをさらに困難にさせるので、切除中に適切でない。
【0255】
肝切除後、出血点は、血管および肝実質の断面において完全に特定される。典型的に、滲出性出血は、超音波的に活性化されたメスを用いた凝固によって、および、フィブリン糊を綿棒で塗ることによって、止められる。組織の炭化に起因して、凝固は肝再生を遅らせる。フィブリン糊が断面上に留まるのは困難であり、下へ流れやすい。さらに、フィブリン糊は凝固して外科的部位に残るので、外科的処置の部位での高い感染リスクが生じる。その代わり、組成物1の適用は、少なくとも、出血部位への適用後に生じるゲル化状態に起因して組成物1が簡単に洗い落とされるため、そのようなリスクを低減する。
【0256】
実施例9.胸腔鏡的な部分的肺切除
本実施例は、本明細書に記載のペプチド組成物を利用した肺の体内の外科的手順、および、特に、本明細書に記載のペプチド組成物を適用することができる外科的方法のステップを示す。提供される例示的なペプチド組成物は、組成物1(上述)である。
【0257】
本手順の最初のステップでは、外科医はまず切除部位を特定し、小切開を介して肋骨の間の胸部へ、トロカールおよび胸腔鏡を挿入する(
図5)。外科医はそれから、切除すべき領域を、胸腔鏡を介して検査し、自動縫合の方向を設定する。次に、小切開を介して自動縫合を胸部へ挿入する。自動縫合により切除すべきラインを示すために、典型的に、切除領域から約1.5~2cm離れた領域を鉗子で掴む。肺組織は、きつく掴みすぎて強く引っ張ると簡単に引きちぎられる可能性があるため、注意深く掴まなければならない。組織が自動縫合により真っ直ぐに切られなかった場合は、切除された領域を、縫合、吸収メッシュまたはコラーゲンシートにより強化する。縫合は、2.0またはそれより太い縫合糸を一般に用いる。結紮は、体の外側で結び、そして、ノットプッシャーを用いて結紮糸を胸部の内側へ送る。
【0258】
肺組織または血管が、切除中に意図せずに切断され、または、縫合針により損傷した場合は、止血するために、まずはガーゼ圧迫止血を用いる。ガーゼ圧迫止血により出血が止まらなければ、フィブリン糊を出血部位に適用する。液状のフィブリン糊を適用すると、フィブリン糊は無色または透明でないので、術野が遮られ得る。フィブリン糊およびポリグリコール酸(PGA)シートは、標準的な方法として同時に用いて出血を調節および止血するが、これらの物質の使用は追加の時間がかかり、外科医にとって手間となる可能性がある。この手順の下では、PGAシートをまず出血部位に付け、それから、フィブリン糊をその領域上に適用する。その後、外科医は少なくとも5分間待って出血の状態をチェックする必要がある。
【0259】
外科的処置中に肺動脈が損傷した場合は、広範囲の出血のために術野はほとんど完全に失われる。したがって、出血部位を特定することは困難である可能性がある。出血部位が明確でない限り、フィブリン糊の適用により引き起こされる出血部位周辺の組織の凝固を避けるために、この時点でフィブリン糊は使用しない傾向がある。出血を止めるために、外科医は通常、出血部位を大まかに特定することを試み、そして、圧迫止血を行ない、または血管を遮断する。これらの試みがうまくいかない場合は、追加の手段のために胸部を開く。
【0260】
外科的手順の終わりに、開胸チューブを挿入して出血の状態を検査する。出血が検出される場合は、まずはドレインの手順を行なって胸部内部に残っている血液を除去する。それから、他の手段(上述)も行なう。出血を止める最初の試みでフィブリン糊を適用した場合は、組織が裂ける可能性があり、さらなる出血部位が生じる可能性があり、または、元の出血部位が除去されると膨張する可能性があるため、第二の適用を簡単に行なうことはできない。出血が、ドレインおよび上述の他の方法を用いた胸腔鏡検査下で回復しない場合は、追加の手段のために胸部を開く。
【0261】
外科的処置の後に、空気漏れを明らかにするために密封試験も用いる。この試験は、5~10cm H2Oの気道内圧を用いて行なう。任意の主な空気漏れを縫合により止める。空気漏れを防ぐ主な付属物は、ウシ心膜、Gore-Texまたは自家の胸膜である。ステープルラインのバットレス(buttressing)は空気漏れの持続時間を減らすことが示されているが、バットレスに関連するステープルは、組織外傷をもたらすことがある。
【0262】
切除中に、または胸腔鏡検査下での縫合針によって、任意の肺組織または血管が損傷した場合は、術野は、ほんの少量の血液で遮られる可能性がある。本明細書に記載のペプチド組成物(例えば組成物1)の適用は、その透明な性質に起因して、術野を遮ることなく出血を止め、フィブリン糊と直接的に対照的である。組成物1は液状で投与されるので、例えばシリンジによって、チューブを通して簡単に出血部位へ直接注入することもでき、どんなシートタイプの物質と異なり、肺表面にうまく適用される。さらに、組成物1の適用は、圧迫止血を必要とせず、外科的手順を妨げもしない。組成物1は、適用後にそのままにしておくことも可能であり、外科医は、いつでも、出血の状態を検査することができる。
【0263】
外科的処置中に肺動脈が損傷した場合は、出血のための処置が直ちに必要とされる。しかしながら、開胸の外科的処置とは異なり、通常、出血部位を特定するのに時間がかかり、圧迫止血を行なうのが困難である。組成物1は、低い圧力で、肺動脈の十分な血液の調節および止血を示す。繰り返すが、組成物1は透明なので、過剰分は、処置後にドレインにより簡単に除去することができる。いつでも術野を遮らずに任意の量を出血部位周辺の領域に適用することができ、それにより、外科医が外科的手順を迅速に再開することを可能にする。
【0264】
外科的処置の終わりに出血が再度検出される場合、フィブリン糊とは異なり、組成物1は、出血部位から簡単に除去され、同じ部位に任意の回数適用することができる。
【0265】
任意の空気漏れを修復するために、組成物1は、チューブを通じて簡単に、空気漏れの部位に適用することができ、そして、シートタイプの産物とは異なり、肺表面にうまく適用することができる。組成物1の適用は、バットレスと比較して、外科的なオペレーションの持続時間を短くすることができる。バットレスとは異なり、組成物1の適用は、針により肺組織に害を及ぼさない。漏出部位を処置した後に空気漏れが再度検出される場合、組成物1は、簡単に除去して同じ部位にすぐに任意の回数適用することができる。
【0266】
実施例10.内視鏡的粘膜切除(EMR)
本実施例は、本明細書に記載のペプチド組成物を用いた胃腸系の内視鏡的な外科的手順、および、特に、本明細書に記載のペプチド組成物を用いることができる外科的方法のステップを示す。提供される例示的なペプチド組成物は組成物1(上述)である。
【0267】
一般に、内視鏡的粘膜切除(EMR)は、リンパ節転移の可能性が低い場合の初期の胃癌のケースの処置の選択肢として受け入れられる。EMRは、良好または適度に組織学的に分化型で、および、表面的に隆起および/または下降しているが、潰瘍化または粘膜下浸潤の明らかな兆候がない、直径が25mmまでの初期癌である患者に適用される。大部分のEMRは、「ストリップ生検法」(他のどこかに記載されている相対的に単純な技術)により行われる。より最近のEMRの手順が開発されていて、絶縁チップ付き透熱性ナイフ(ITナイフ)を使用し、それは大部分の場合に用いられる(下記)。ITナイフは、穿孔のリスクを最小限にするために、上部にセラミックボールを備える従来の透熱性の針状ナイフ(KD-1L;オリンパス、日本)からなる。EMR後3ヶ月および6ヶ月に、経過観察の内視鏡検査を行なう。
【0268】
典型的に、EMR処置は以下のように行なう:(a)インジゴカルミン色素を噴霧後、下半身の小弯上の表面隆起型の初期胃癌を特定し、(b)縁を明確にするために、プレカットナイフを用いて標的病巣の周囲にドットをマークし、(c)エピネフリン(0.025mg/mL)を含む生理食塩水またはヒアルロン酸を粘膜下層への注入した後、従来の針状ナイフを用いてドットの外側で最初の切断をして、そして、ITナイフをこの切断に挿入して、病巣の周りを切断するために用い、(d)マークした腫瘍を、周辺の正常粘膜から分離し、(e)単一フラグメント内で切断および凝固の流れ(current)の組み合わせを用いて、標準的なポリープ切除により腫瘍を除去し、そして、(f)切除した検体は、明確な外側縁を有する高分化型腺癌(20×25mm)を示す。
【0269】
出血の調節は、この手順において非常に重要である。出血が非常に重度の場合は、輸血または外科的処置が考慮される。出血が、特にITナイフによる切除およびポリープ切除中に生じる場合は、通常、凝固、エタノール注入、内視鏡クリッピング、トロンビン溶液の噴霧、またはこれらの処置の組み合わせを用いた内視鏡的処置が、状況に応じて用いられる。しかしながら、これらの処置は欠点がある。凝固に関しては、組織の表面への損傷は、その技術はポリープ切除および出血部位での切除を行なうためにループワイヤーを使用するので、出血を生じさせる可能性がある。この場合、組織が治癒する時間はない。エタノール注入に関しては、出血調節の有効性が低く、内視鏡を通してシリンジを介して出血部位上に過剰の量が注入されると、潰瘍性領域が肥大するリスクが生じる可能性がある。クリッピングに関しては、外科医は十分な時間および技術を必要とし、そして、外科的手順に多くの時間を費やすと、目に見えない過ち(例えば筋肉壁の破裂)をより多く引き起こす可能性がある。トロンビン溶液の噴霧に関しては、特に、処置野の視覚が隠された露出血管では、その不透明性のせいで、出血調節について低い有効性が見られる。これは、内視鏡を介して、カテーテルを通じて、出血部位に噴霧されているためである。
【0270】
病巣周囲の最初の切断をITナイフで行なった後に、まず、ペプチド組成物(例えば組成物1)を、カテーテルを通して適用する。これは、ポリープ切除による切除の際の、出血の予防のためである。これに関して、組成物1は溶液であり、出血部位との接触の際にゲル化するので、適している。この適用は、外科的処置の時間を妨げず、外科医は、組成物1の適用により作られる澄んだ処置野に部分的に起因して、すぐに進めることができる。さらに、適用した時点でゲル化状態を採択するその能力に起因して、それは病巣部位周辺に留まり、出血を防ぐ。したがって、切除前の組成物1の適用は、出血のリスクを大幅に減らすことができ、このことは、切除中の凝固の使用の排除を可能にし得る。
【0271】
切除中に、例えば、予期したよりも深い切開により、出血が起きた場合は、灌漑後に、組成物1を出血部位に大量に適用する。これは、止血するためだけでなく、出血部位を特定するために澄んだ術野を維持するためでもある。組成物1の適用は、エタノール注入、内視鏡クリッピングまたはトロンビン溶液の噴霧のような従来の方法の必要性を排除する。これらの方法による外科的手順中の出血調節は、多数の点に適用するのに相当な手順時間を要する。反対に、本明細書に記載の外科的手順での組成物1の適用は、多数の出血部位を含む広範な領域にわたって、より良好な止血および出血の調節を提供する。
【0272】
しかしながら、出血が、滲出、噴出、湧出または露出した血管のように重度である場合は、通常、クリッピングまたは凝固が用いられる。組成物1は、これらの方法を効率的な様式で補うことができ、さらなる出血を防ぎ、このような状況を対処している外科医が費やす時間を減らす。
【0273】
組成物1は、切除部位でのオペレーションの後の出血を防ぐために、腫瘍を除去した直後に適用される。この手順はクリッピングの必要を排除し、手順の時間を約10分短くする。
【0274】
本実施例で示すように、組成物1の適用は、上述のように、切除前、切除中、および切除後に、腫瘍切除中の出血を調節するための上述の手順を組み合わせる必要を排除し、そして、手順の全体的な時間を短くすることができる。腫瘍切除を、平均して少なくとも20分減らすことができることが予測される。また、手順全体を通じて、出血および周辺組織の損傷が減少するため、患者の安全も他の技術と比べて高くなる。したがって、より迅速な患者回復が期待される。
【0275】
実施例11.結腸の内視鏡的粘膜下剥離(EDS)
本実施例は、本明細書に記載のペプチド組成物を用いた結腸の内視鏡的な外科的手順、および、特に、本明細書に記載のペプチド組成物を用いることができる外科的方法のステップを示す。提供される例示的なペプチド組成物は組成物1(上述)である。
【0276】
一般に、ESDは、EMRではほとんど切除されない直径が20mmよりも大きな初期癌の患者に適用される。外科医および助手のチームは、他の外科的器具に加えて、結腸鏡(PCF-Q260AI;オリンパス、東京、日本)を用いて手順を行なう。ESDの典型的な手順は以下のとおりである:
【0277】
インジゴカルミン色素を噴霧して結腸の病巣縁を特定し、その後に、粘膜下に注入して病巣を持ち上げる。0.5%インジゴカルミンおよび0.1%エピネフリンを含む、10%グリセリンとヒアルロン酸の混合物を注入液として用いる。次に、外科医の選択に従って、電気的な外科的ユニットに連結された、針状ナイフ、絶縁チップナイフ(KD-610L、611L;オリンパス、東京、日本)、またはフラッシュナイフ(DK2618JN20;フジノン、東京、日本)などの器具を用いて、周囲切開を行なう。上述の器具のうちの一つを用いて、標的病巣の周囲に沿った連続的な粘膜下切離を行なう。手順中、出血は、特殊な鉗子または絶縁チップナイフによって調節される。ESDが完了した時点で、遅発性出血を防ぐために、切離領域内の目に見える血管の凝固もまた、特殊な鉗子または絶縁チップナイフを用いて行なう。この手段にもかかわらず、ESD後の出血は、典型的に、効率的な様式で調節することができない。オペレーションの後に吐血または下血が生じる場合は、出血を調節するための緊急の内視鏡的取り組みが、特殊な鉗子または絶縁チップを用いて行われる。典型的に、術後出血は相対的に少ないが、外科的手順中、過剰な凝固に起因する組織壊死による出血に直面することが多い。
【0278】
その代わり、本明細書に記載のペプチド組成物(例えば組成物1)は、縁の切開をした後に、カテーテルを通して、まずは標的病巣の周囲上に適用される。この場合、組成物1は、切開周囲から内部組織へ(例えばシリンジによって)注がれ、または注入される。これは、絶縁チップナイフまたはフラッシュナイフの使用により典型的に直面する、切離の際の出血を防ぐためである。組成物1のこの適用は、その透明な性質に起因して澄んだ術野を確立し、そして、手順の次のステップへ外科医がより速やかに進めることを可能にする。さらに、組織および流体との接触から生じるゲル化状態に起因して、それは切開の周囲上に留まり、それにより、出血が生じるのを防ぐ。したがって、切離前の組成物1の適用は、出血のリスクを低減することができる。結果としてこれは、切離中に凝固のための特殊な鉗子を用いる頻度をさらに低下させる。
【0279】
切離中に、例えば、予期したよりも深い切開により、出血が起きた場合は、血液の灌漑後に、組成物1を出血部位に大量に適用する。これは、止血するだけでなく、出血点を特定するために澄んだ術野を維持する。組成物1の適用は、特殊な鉗子または絶縁チップナイフによる凝固の処置を排除する。そのような器具による外科的手順中の止血は、多数の点に適用するのに相当な手順時間を必要とする。反対に、組成物1による出血調節は、多数の出血点を含む広範な領域にわたる適用を可能にすることにより、より効率的な様式で出血を調節することによって、より良好な代替を提供し、そして同時に、澄んだ術野を維持し、外科医が、より効率的に外科的手順を完了することを可能にする。
【0280】
出血が滲出よりも重度、例えば噴出、湧出である場合は、典型的に、特殊な鉗子または絶縁チップナイフによる凝固が適用される。凝固が器具によってなされる場合は、さらなる出血を防ぐために、組成物1を手術野に適用することができる。これらの器具による処置とは異なり、組成物1は組織表面に対していかなる損傷も与えず、一方で、特殊な鉗子または絶縁チップナイフは、組織壊死をもたらす傾向があり、患者の回復を困難にさせる。さらに、広範囲の凝固は、重度の組織壊死を生じさせ、それはさらなる遅発性出血をもたらす。この手順での組成物1の利点は以下のとおりである:適用直後の、より迅速な止血(手順時間を少なくとも約5~10分短くする)、その透明な性質に起因して出血点の視覚化を可能にし、適用によって組織表面に損傷をもたらさない、澄んだ術野。
【0281】
組成物1は、切離部位での術後出血を防ぐために、ESDの完了直後に適用される。この手順は、特殊な鉗子の使用を排除する。このことは、外科的手順の時間のこの部分を、少なくとも約5~10分、さらに短くすることができる。手順後に吐血または下血が生じる場合、組成物1を病巣部位上に大量に適用する。この適用は、特殊な鉗子または絶縁チップナイフによる凝固の必要性を排除する。繰り返すが、これは、短縮された手順時間をもたらし、患者の利益となる。
【0282】
本実施例に示すように、組成物1の適用は、切離中および切離後の、器具による凝固の頻度を大幅に減らすことができ、平均して少なくとも約20分、外科的手順の時間を短くする(これは、各患者により存在する状況に基づいて変動し得る)。さらに、凝固技術と比べて患者の回復がより早いことが観察され(手順中、予想される出血がより少なく、組織壊死がないことに起因する)、切開組織の表面上の組織を保護する。
【0283】
実施例12.開腹部分的腎摘出
本実施例は、本明細書に記載のペプチド組成物を用いた腎臓の体内の外科的手順、および、特に、本明細書に記載のペプチド組成物を適用することができる外科的方法のステップを示す。提供される例示的なペプチド組成物は組成物1(上述)である。
【0284】
以下の実施例は、開腹部分的腎摘出のステップを示す。手短には、患者は、半分側部(half lateral)の位置で横たわり、皮膚切開が行われる(開腹)。それから、後腹膜を剥がして広げ、外側円錐筋膜(lateroconal fascia)を露出し、電気メスを用いて切開する。滲出または湧出する出血に直面した場合は、ガーゼの圧迫止血を適用する。さらに進める前に、腎動脈、腎静脈および尿管を特定しなければならない。
【0285】
それから、ハーモニックメスを用いて、ゲロタ筋膜(腎臓の滑らかなカプセル膜)をカプセル除去する。ゲロタ筋膜は非常に多くの毛管血管からなるので、カプセル除去は用心深く行ない、小さな滲出出血は典型的に焼灼する。また、ガーゼ圧迫止血も、任意の重度の出血に適用する。完全なカプセル除去は、腫瘍の位置を特定するために行なうことがある。腹膜と腎臓前面との間の結合組織も完全に剥がす。その後の経過観察の外科的処置のケースでは、融合筋膜を剥がさなければならず、それは滲出出血を最も頻繁に引き起こし、そのような出血を止めるために焼灼が必要である。これは、外科的手順にかなりの時間を追加する。腫瘍の位置は、超音波プローブを用いて特定する。次に、動脈のクランプを行ない、そして、30分以内にリリースすべきである。尿管および腎動脈の周辺の結合組織を剥がす。典型的に、剥離領域からの出血(滲出または湧出)を最小限にするためにガーゼ圧迫止血またはSURGICEL(登録商標)を適用する。腎周囲が非常に硬い場合は、結合組織の強制的な剥離は、腫瘍カプセルの破裂をもたらすので、結合組織の完全な剥離は困難である。しかしながら、それは、腫瘍の位置の検出を阻害する。
【0286】
虚血-再灌流障害を避けるために、腎臓を氷で約5分間冷却する。時折、マンニトール溶液を腎臓表面に適用し、クランピング鉗子を用いて腎動脈の血流を遮断する。腎杯と腫瘍との間の距離または腎洞と腫瘍との間の距離が十分遠い(1cmよりも遠い)一部のケースでは、腎動脈のクランプは行なわない。しかしながら、これは、より大量の出血を生じる可能性がある。腫瘍の位置の0.5~1cm外側の正常な腎組織を、ハーモニックメスによる、またはメッツェンバームによる、凝固切開で切離する。切離された表面にガーゼ圧迫止血を適用し、電気メス、アルゴンビーム凝固剤、フィブリン糊または結紮を用いて、滲出または湧出する出血を止める。出血の調節は、手順におけるこの時点で重要であり、したがって、指による連続的な圧迫止血を度々行なう。腎杯が開かれているケースでは、結紮およびZ-縫合を行なって腎杯を閉じる。主な出血が特定されない場合は、結紮の代わりに、縫合クリップでの連続的な縫合または腎実質のみの縫合を行なう。それから、インジゴカルミン溶液を適用することにより尿漏れを検査する。
【0287】
血流は、クランピング鉗子をリリースすることにより、30分以内に再灌流する。この時点で止血を確認する。特定されれば、さらなる焼灼、SURGICEL(登録商標)、フィブリン糊またはトロンビンを適用する。出血部位は脂肪組織またはSURGICEL(登録商標)で覆われていることがあり、全体として縫合される(マットレス縫合)。
【0288】
ゲロタ筋膜は非常に多くの毛管血管からなるので、血液滲出が生じる可能性がある(上述)。本明細書に記載のペプチド組成物(例えば組成物1)は、出血が、凝固または超音波的に凝固することが望ましくない大血管(large blood vessel)に生じる前または直後に大量に適用することができる。この適用は、組成物1の透明な性質に起因して澄んだ術野を維持し、洗浄可能なままである。
【0289】
腎周囲組織周辺の完全な剥離は、腫瘍の位置の特定に重要であることが報告されている。大量または保守的な組成物1の適用は、腎周囲からの出血の効率的な調節を可能にし、それにより、完全な剥離を可能にする。融合筋膜は、手で張力を加えながら電気メスにより剥がす。滲出または大きな出血のリスクが、この手順により増大する。出血の調節は、所望のとおりに、組成物1を出血が生じる前または直後に適用することにより、達成することができる。組成物1の透明かつ洗浄可能な性質に起因して、これは後の手順に影響を及ぼさない。組成物1の適用は制限されない。フィブリン糊または他の出血調節手段は、超音波プローブを典型的に用いるので、腎周囲を剥がすステップにおいて典型的に適用されない。
【0290】
組成物1は、フィブリン糊とは異なり、取り除くと動脈に損傷を生じさせ得る腎動脈の結合組織に適用することができる。SURGICEL(登録商標)は、腎動脈に適用することができるが、手順の次のステップに進む前に除去しなければならない。その代わりに、組成物1は、生理食塩水で洗浄することにより除去することができる。結合組織の徹底的な剥離は、大量の組成物1を前もって適用することにより達成される。これは、腫瘍の位置の正確な検出を可能にする。腫瘍の位置が曖昧な場合、腫瘍の確実な摘出のために、大きな縁を切離しなければならない。組成物1の適用は、その透明かつ洗浄可能な性質に起因して、腫瘍の位置の特定を妨げない。
【0291】
腎動脈のクランプを行なわないケースでは、かなりの滲出出血が生じることが多い。事前の組成物1の適用は、そのような出血を防ぎ、そして同時に、澄んだ術野を確保する。完全な血液調節および止血は、腹腔を閉じる前に、過剰量の組成物1を生理食塩水で洗浄して除去することにより、確認することができる。
【0292】
30分の虚血時間の制限は、30分以内に結合組織の完全な剥離を達成することは困難であるため、腫瘍の位置の検出を妨げる主な理由である。組成物1の適用は、出血調節および動脈クランプの回避に費やす外科的時間を減らすので、部分的腎摘出中に、より安全な外科的環境を提供する。
【0293】
事前の組成物1の適用による出血調節により、より温和な切離方法を選択することができる。しかしながら、それを適用しても、ハーモニックメスの使用は制限されない。滲出出血部位に組成物1を事前またはすぐに適用することは、出血の予防および澄んだ視野を達成する。ガーゼ圧迫止血を組成物1の適用に置き換えることにより、オペレーションの時間が節約される。指での圧力止血が多くの場合に続けられ、十分な止血が得られない場合は、フィブリンシートおよびフィブリン糊を用い得る。組成物1は上記の手順を置き換えることができ、そして、外科医はオペレーションの他の手順にシフトすることができるので、オペレーションの時間が著しく節約される。
【0294】
腎杯の縫合後に周囲に組成物1を適用する機会もある。これは、後出血の予防に貢献する。組成物1は洗浄可能であるので、尿漏れの検査を妨げない。微小な漏孔を組成物1によって(おそらく組成物1によってのみ)防止することができ、それは結紮を不必要にし、外科的処置手順を行なう時間をさらに減らす。
【0295】
30分未満の虚血時間が望ましい。一時的な止血では、フィブリン糊およびSURGICEL(登録商標)は、妨げられた視界の術野をもたらし、したがって、これらの物質を取り除く必要があるので、過剰な時間が追加される。組成物1は、澄んだ視点を維持するために術野を洗い流すことなく、手順を進めることができるという利点を有する。
【0296】
切離領域に組成物1を適用することにより、出血が残る状況において、血流をしばらく再灌流することができる。血流下で、さらなる出血調節手段を行なってよい。ここでのフィブリン糊の適用は、除去するために剥がさなければならないので制限され、一方で、組成物1は、洗浄により簡単に除去することができる。マットレス縫合の方法も取られるが、組成物1に同様に置き換えることができる。組成物1は、適用後に洗浄する必要性を伴わずに、外科的処置後の出血の予防の調節として行なう可能性を有する。開腹部分的腎摘出と関連する術後合併症は、尿漏れ(0~9%)および術後出血(1~9%)を含み、およびポジティブな(positive)止血に対する要求は高い。
【0297】
実施例13.腹腔鏡下部分的腎摘出
以下の実施例は、本明細書に記載のペプチド組成物を用いた、部分的腎摘出に関する腹腔鏡下の外科的手順(その一部のステップは実施例12に上述される)、および、特に、本明細書に記載のペプチド組成物を適用することができる外科的方法のステップを示す。提供される例示的なペプチド組成物は、組成物1(上述)である。
【0298】
手短には、患者は、半分側部の位置で横たわり、トロカール(torocar)のための穴を(少なくとも4つ)作る。血流を遮断する必要のため、クランピング鉗子のための可撓性ポートを典型的に用意する。次に、後腹膜を剥がして広げ、そして、外側円錐筋膜を露出し、任意の出血を調節しながら電気メスを用いて切開する。進めるためには、腎動脈、腎静脈および尿管の位置を特定しなければならない。
【0299】
ゲロタ筋膜は、腎臓の滑らかなカプセル膜であり、ハーモニックメスを用いてカプセル除去される。ゲロタ筋膜は非常に多くの毛管血管からなるので、カプセル除去は、出血を引き起こさないように用心深く行なう。完全なカプセル除去は、腫瘍の位置を特定するのに好ましいことがある。腹膜と腎臓前面との間の結合組織も完全に剥がされる。腫瘍の位置は、超音波プローブを用いて特定する。
【0300】
動脈クランピングは、30分以内にリリースすべきである。尿管および腎動脈の周辺の結合組織を剥がす。剥離領域からの出血(滲出または湧出)を最小限にするために、典型的に、SURGICEL(登録商標)を適用する。剥離後、腎臓を氷で約5分間冷却し、鉗子でクランプすることにより、腎動脈の血流を遮断する。切断された腎臓表面からの出血に起因して手術野が見えにくくなることが多いため、腹腔鏡下部分的腎摘出では、腎静脈も剥がして腎静脈の血流を遮断することが多い。
【0301】
腫瘍の位置の外側0.5~1cmの正常な腎組織を、ハーモニックメスによる凝固切開で切離する。主な出血を防ぐために、任意の出血を同時に調節しながら切離を行なう。腫瘍を持ち上げながら、根元の塊(root mass)の凝固切開を行なう。出血が生じる場合は、電気メス、フィブリン糊または結紮を用いて出血を止める。腎杯が開いている場合は、結紮およびZ-縫合を行なって腎杯を閉じて、その後に、インジゴカルミン溶液の適用により尿漏れがないことを確認する。
【0302】
クランピング鉗子をリリースすることにより、30分以内に血流を再灌流する。出血がないことの確認を行なう。出血が特定される場合は、焼灼、SURGICEL(登録商標)、フィブリン糊またはトロンビンなどの、さらなる手順を行なう。
【0303】
ゲロタ筋膜は非常に多くの毛管血管からなるので、滲出型の出血に直面する可能性がある。本明細書に記載のペプチド組成物を事前に適用することにより、出血を調節することができ、術野を遮らずに剥離を行なうことができる。超音波プローブを用いて腫瘍の位置を特定するので、止血のための従来の手段(例えばフィブリン糊)は、そのような手段を用いる前に出血部位の特定が必要なので困難である。本明細書に記載のペプチド組成物は、生理食塩水で洗浄することにより洗い流すことができ、したがって、剥離中に直面する出血を止めるために用いることができる。
【0304】
例えば、組成物1は、フィブリン糊とは異なり、腎動脈の結合組織に適用することができる。これは、フィブリン糊は、除去する時に、動脈に損傷をもたらす可能性があるためである。SURGICEL(登録商標)は、同様に腎動脈に適用することができるが、手順における次のステップに進む前に除去しなければならない。その代わり、組成物1は、上述のとおり、生理食塩水で洗浄することにより除去することができる。
【0305】
また、組成物1は、出血を予防するために適用することもでき、したがって、剥離を、効率的かつ途切れずに行なうことができる。組成物1は、ゲル化状態を採択した後でさえ透明な物質であり、したがって、腫瘍の位置の特定を妨げない。事前の組成物1の適用により、滲出性出血を防ぐことができ、外科医にとって澄んだ術野を維持する。さらに、組成物1は、腎静脈をクランピングする必要性を減らす。
【0306】
滲出出血部位への、組成物1の事前またはすぐの適用は、止血を達成し、さらなる出血を防ぎ、その全てが、術野の澄んだ視界に貢献する。伝統的で複雑なことが多い出血調節手段(例えばSURGICEL(登録商標)およびフィブリン糊)を、組成物1に置き換えることにより、外科的手順の時間が低減する。生理食塩水洗浄を用いて過剰の組成物1を除去した後、出血の防止を簡単に確認することができる。さらに、腎杯の縫合後に組成物1を周囲に適用することにより、後出血の予防が達成される。
【0307】
30分未満の虚血時間が望ましい。一時的な止血では、フィブリン糊およびSURGICEL(登録商標)は外科的視野の妨害をもたらし、それらを除去する必要があるので、外科的時間を延長させる。組成物1は、手順全体を通じて、その使用により、手順を完了するために必要な全体的時間を減らすことができるという利点を有し、その間ずっと、その透明な性質に起因して澄んだ外科的視野を維持する。
【0308】
腹腔鏡検査中に出血が調節できない場合は、外科医は、開腹の外科的処置に変更しなければならない。しかしながら、組成物1の適用による滲出性出血の防止は、このリスクを著しく減らす可能性がある。腹腔鏡検査では、ガーゼ圧迫止血により止血するのは困難であり、したがって、組成物1の適用が比類なくこの外科的手順に適している。腹腔鏡検査後の、出血する部分的な腎臓の切除の可能性に起因して(3~8%)、出血を調節するための信頼性のある手段の必要性が高い。
【0309】
実施例14.多様な外科的手順での、組成物1の適用の臨床試験
本実施例は、本明細書に記載のペプチド組成物を用いた様々な体内の外科的手順、および、特に、本明細書に記載のペプチド組成物を用いることができる外科的方法のステップを示す。
【0310】
特に、様々な外科的および内視鏡的な手順における出血(特に滲出性出血)を、組成物1の適用のための標的部位として指定した。一次エンドポイントは術中の出血であり、一方で、二次エンドポイントは術後出血であった。本試験の他の目的は、安全性の検証(有害事象の発生)を含んだ。この試験に関して確立されたプロトコルは、非盲検で非対照の多施設共同の試験であり、会社の治験審査委員会(IRB)によって承認され、規制当局、Pharmaceuticals and Medical Devices Agency(PMDA)に伝えられた。PMDAにより承認されたプロトコルが各試験施設のIRBにより議論および承認された時点で、試験を開始した。
【0311】
組成物1は、開始ペプチド、CH3CO-(Arg-Ala-Asp-Ala)4-NH2を、注入用の水に2.5%(w/v)の濃度で溶解することにより製造した。シリンジを無菌的に予め充填し、ブリスタ包装にパッケージした。パッケージおよびシリンジの両方の外側をエチレンオキシドで滅菌した。
【0312】
この試験では、直接の適用および経カテーテルの組成物1の適用を用いた。直接の適用の場合には、プラスチック使い捨てノズルをシリンジに取り付けて、組成物1を出血部位に適用するのに用いた。経カテーテルの適用の場合には、カテーテルをシリンジチップに取り付け、モニターによる視認で、出血部位に適用した。
【0313】
この臨床試験に選択された標的の外科的手順は、内視鏡的粘膜切除(EMR)、内視鏡的粘膜下剥離(ESD)、血管吻合(冠動脈バイパスまたは他の血管の外科的処置における、血管と血管の吻合、または、血管と人工血管の吻合)、および、肝切除(肝葉切除、肝臓の区域切除(hepatic segmentectomy)、または、部分的肝臓切除(腹腔鏡下肝切除および腹腔鏡下補助の肝切除を含む))であった。組成物の適用を標的とした出血は 滲出性出血、外科医は、出血が当視野内である場合は、目視検査により判定した。標的の患者は、入院患者、または、これらの外科的手順のうちの一つを受けることが予定される患者に予定した。患者(20~80才の間)は、外科的処置の前に同意書の説明が与えられ、そして、外科的処置の前に同意書を提供するように要求された。
【0314】
施設あたりおよそ10名の患者、および、合計でおよそ100名の患者を、試験のための標的登録数として設定した。患者の標的数として100名、および、動物で観察された結果に基づき予測した組成物1の有効性を85%と仮定し、推測精度は7%であり、および、組成物1による完全な止血率の割合の推測範囲の下限は78%と計算することができる[(予測有効性*(1-予測の止血有効性)/(推測精度/1.96)2=0.85(1-0.85)/(0.07/1.96)2=99.9)]。その結果として、約100ケースの観察は、組成物1の有効率が76.9%を超えることができるかどうかの決定が、以前に承認された物質(AVITENE(登録商標)、INTEGRAN(登録商標)、BOLHEAL(登録商標)、およびTACHOCOMB(登録商標))の試験での滲出性出血に関する完全な止血率を意味することを可能にすると考えられた。
【0315】
この試験は、10施設(上部消化管の内視鏡的な外科的処置を行なう2施設、心臓血管の外科的処置を行なう4施設、および、胃腸の外科的処置を行なう4施設)で、非盲検、非対照の試験として行なった。試験を治験フェーズおよび検証フェーズに分けて;Independent Data Monitoring Committee(IDMC)が実施可能性フェーズの最初の3ケースの中間レビューを行ない、極めて重要なフェーズでは、参加患者の標的数に達するまで試験を続けた。
【0316】
有効性の一次エンドポイントは、組成物1の適用時の完全な止血の発生、および、結紮または焼灼などの標準的な手段を使用せずに、組成物1の適用に適切な滲出性出血における術中の完全な止血の維持であった。出血は、滲出性出血よりも重度である場合は、この試験において、物質の適用の標的部位から除外され、そして、最初の選択処置は、通常、結紮、焼灼、または他のそのような手段であった。
【0317】
内視鏡的な外科的処置では、出血が組成物1の適用に適切な滲出性出血であるかどうかを外科医が視覚的に決定した後に、標準的なEMRまたはESDにおいて関連部位の切除または切離の間に生じる出血に組成物1を適用した。同様に、血管吻合では、出血が組成物1の適用に適切な滲出性出血であるかどうかを外科医が視覚的に決定した後に、標準的な血管吻合の後に血流を再開するときに血管の吻合部位で生じる出血に組成物1を適用した。肝切除においても同様に、標準的な肝切除(開腹および腹腔鏡下の外科的処置を含む)の間、またはその後に生じる出血が、組成物1の適用に適切な滲出性出血であるかどうかを外科医が視覚的に決定した後に、組成物1を適用した。組成物1の適用が適用部位(単数または複数)でエンドポイントを達成したかどうかを決定するための外科医による目視検査。必要に応じて、取得可能なビデオまたは写真の画像データを用いて効果の確認および評価を助けた。
【0318】
有効性の評価に関する二次エンドポイントは、術後1日および術後5~7日(5日より前に患者が退院した場合は、退院前日または退院日)の、二次的出血の発生であり;このエンドポイントは、組成物1の適用の適用部位での術後の維持(maintenance)を確認した。
【0319】
内視鏡的な外科的処置では、二次的出血の発生を、術後1日に内視鏡的試験を行なって直接確認し、二次的出血に関する二次評価を、血液検査により確認した。血管吻合では、術後1日に、ドレインを用いて患者に関するドレイン中の滲出液の色により、および、ドレインを用いずに患者に関する血液検査により、二次的出血の発生を確認し;血液検査は、二次的出血の二次評価にも用いた。肝切除では、二次的出血の発生を、術後1日におけるドレイン中の滲出液の色により確認し、そして、血液検査を二次的出血の二次評価に用いた。
【0320】
安全性エンドポイントとして、患者の観察期間中に生じる全ての問題および/または有害事象(研究室の試験結果における異常な変化を含む)を、組成物1および試験との因果関係において評価した。患者は、必要に応じてすぐに処置した。
【0321】
他のエンドポイントは以下を含む:オペレーション時間(出血時間の分布、平均値、および標準誤差を適用部位に関して計算し、適用の時点から完全な止血の評価までの時間の測定を可能にした)および、操作性(既存の物質および薬剤に対する、使いやすさの違いは、以下のように数値で表わされた:優良=3、良好=2、許容=1および許容不可=0;評価結果の度数分布、平均および標準偏差を計算した)。
【0322】
安全性および有効性の解析を、それぞれ、安全性解析の対象集団(safety analysis set)(SAS)および最大の解析の対象集団(full analysis set)(FAS)で行なった。SASは、組成物1を適用した全ての対象から構成された。有効性解析の対象集団(set)は、FASであり、試験に参加した対象であって包含基準に反する者を除外するように定義した。試験は、多数の位置に組成物1を適用した患者を含んだので、データを表にして各出血部位に関して解析した。一部の出血部位では、プロトコルの試験によって適用は不適切であると見なされ;これらはFASから除外され、また、治験実施計画書に適合した対象集団(per protocol set)(PPS)として解析した。各患者を、術後の二次的出血に関しても評価し、そして、術後処置を受けた(影響を受けた二次的出血の評価を有し得る)一部の患者もFASから除外し、PPSで解析した。PPS指定の妥当性をIDMCにより確認した。
【0323】
試験は、「ヘルシンキ宣言(World Medical Association Declaration of Helsinki)」(ヘルシンキでの第18回WMA総会(1964年)により起草;2004年10月、東京での第55回総会により改訂;2008年10月、ソウルでの第59回総会により最新改訂)に基づく倫理原理に従って行ない、それには、ヒト対象に関する全ての医学研究が従わなければならず、および、薬事法およびMedical Device Good Clinical Practice(GCP Ministerial Ordinance)の基準に準じる。
【0324】
結果は、有効性エンドポイント、安全性エンドポイント、および、上述の他のエンドポイントにより解析した。
【0325】
有効性:一次エンドポイント(表5)。結果は、3つの標的の外科的手順を全て合わせたFASでの組成物1に関する止血の有効率は82.5%(160/194部位)であり、3つの標的の外科的手順を全て合わせたPPSでの有効率は88.8%(158/178部位)であることを示した。
【0326】
有効性:二次エンドポイント。結果は、FASでの組成物1を用いた二次的出血に関する止血の有効性は、3つの標的の外科的手順を全て合わせて、術後1日および術後5~7日の両方で、100.0%(89/89患者)であることを示した。3つの標的の外科的処置を全て合わせたPPSでの有効率は、術後1日で100.0%(79/79患者)であり、および、術後5~7日で100.0%(78/78患者)であった。
【0327】
安全性(表6)。試験期間中、試験施設において、問題(例えば製品不具合)の発生は見られなかった。試験の観察フェーズ中、53の有害事象が、SASでの97名の患者間に生じ、そして、3つの有害事象に関しては、組成物1との因果関係が不適格と判断することができなかった。これらの3つの有害事象のうち、2つは異常な研究室試験の結果(肝機能(AST、ALT、Al-P)に関する高い試験値および高い尿酸)であったが、それらの異常度は臨床的に重要でないとみなされた。残りの有害事象は、人工血管の変色であり、主任研究員はそれを臨床的に重要でないとみなした。試験の観察フェーズ中に起きた有害事象は主に外科的浸潤と関連し、症状が確認された後は、処置を必要とする有害事象を適切に処置した。
【0328】
オペレーション時間および操作性(図10)。155部位で組成物1を使用した場合の、止血に関するオペレーション時間の平均値は、約4分42秒(0:04:42)であった。ほとんどの部位で、完全な止血が3分未満で達成された。全ての96名のFAS患者に関する組成物1の操作性の平均値は2.4であり、ほとんどのケースにおいて、操作性は既存の物質よりも良いと評価された(表7)。
【0329】
【0330】
【0331】
【0332】
この試験は様々な外科的セッティングにおける、組成物1の第一の臨床評価を示す。組成物1の、外科的部位での止血に関する有効率は、FASにおいて、82.5%(160/194部位)であった。有効性は、試験プロトコルにより規定される適用手順によって不適切と判断された一部の適用部位を含むことに起因して、より高い可能性がある。PPSの分析では(これらの適用部位はそこから除かれた)、有効率は88.8%(158/178部位)であった(それは、この試験の85%の標的の有効率を超える)。
【0333】
本実施例に示すように、組成物1の適用は、試験された外科的手順のそれぞれの後の滲出性出血に対する、効果的な代替を提供する。肝切除では、有効率のより低い傾向が示されたが、それにもかかわらず結果は臨床的に効果的であった。処置の標的とされる出血部位の範囲は、肝切除において、より広範であり、各部位での出血点の数は、他の外科的手順よりも多く、肝切除での組成物1の適用は、他の外科的手順と比べて、より困難な外科的状況を意味することが示された。試験の初期においては、肝切除の一部のケースは、適切な適用方法を適用することができない部位を示した。したがって、肝切除は、組成物1の適用に関してさらなるトレーニングを必要とし得る。
【0334】
安全性分析の対象集団の97名の患者のうち、53の有害事象が、試験の観察フェーズ中に起きた。これらのうち、3つの有害事象に関しては、組成物1との因果関係が不適格と判断することができなかった。これらの事象の2つは異常な研究室試験の結果であり、臨床的に重大でないとみなされた。残りの有害事象は、人工血管の変色であり、これも臨床的に重大でないとみなされた。4つの重大な有害事象が観察されたが、組成物1の適用と相関しなかった。概して、組成物1が関連する問題は、この試験中に気付かれなかった。このことは、様々な外科的手順中の、外科的部位上での使用に、または外科的部位における使用に、組成物が安全かつ効果的であることを示す。
【0335】
まとめると、これらのデータは、本発明により提供されるペプチド組成物が、様々な外科的方法の間に直面する出血を効果的に止めることができ、および、特に、改善された有効性を提供し、オペレーション時間の減少させることにより、既存の方法論に勝る利点を提供することを示す。
【0336】
本発明の少なくとも1つの実施態様の様々な態様をこのように示したので、様々な変更、修正、および改善は、当業者にとって容易に明らかであることが理解されよう。そのような変更、修正、および改善は、本開示の一部であることが意図され、および、本発明の主旨および範囲内であることが意図される。したがって、前述の記載および図面は、例示目的のみであり、本発明は、以下の特許請求の範囲により詳細に記載される。
【0337】
同等物
請求項の要素を修正するための、特許請求の範囲における序数の用語、例えば「第一」「第二」「第三」などの使用は、それ自体で、優先、先行、または、他に対する1つの請求項の要素の順序または方法の行為が行われる時間的順序のいずれも暗示しないが、請求項の要素を区別するために、ある名前を有する1つの請求項の要素を、(序数の用語の使用が無ければ)同じ名前を有する別の要素から区別するための単なるラベルとして用いられる。
【0338】
明細書および特許請求の範囲において用いられる、冠詞「a」および「an」は、明確に反対を示さない限り、複数形の指示対象を含むと理解すべきである。グループの1つまたは複数のメンバーの間に「または」を含む特許請求の範囲または記載は、反対を示さない限り、またはそれ以外の方法で文脈から明らかでない限り、グループのメンバーの1つ、1つより多く、または全てが、所定の産物または方法の中に、存在する、採用される、またはそれ以外の方法で関連がある場合、満たしていると考えられる。本発明は、グループのまさに1つのメンバーが、所定の産物または方法の中に、存在する、採用される、またはそれ以外の方法で関連がある、実施態様を含む。また、本発明は、1つよりも多い、または、全体のグループメンバーが、所定の産物または方法の中に、存在する、採用される、またはそれ以外の方法で関連がある、実施態様も含む。さらに、本発明は、別段の指示がない限り、または、矛盾または不一致が生じることが当業者の一人にとって明らかでない限り、列挙されたクレームの1つまたは複数からの、1つまたは複数の限定、要素、節、記述用語などが、同じ基礎クレームに依存する別のクレーム(または、関連のある、任意の他のクレーム)の中に取り込まれている、全てのバリエーション、組み合わせ、および置換を包含することが理解されるべきである。要素がリストとして示される場合(例えば、マーカッシュ群または同様の形式)、その要素の各サブグループもまた開示され、および、任意の要素(単数または複数)がそのグループから除去され得ることが理解されるべきである。一般に、本発明、または本発明の態様が(単数または複数)、特定の要素、特徴などを含むと言及される場合、本発明の特定の実施態様または本発明の態様は、そのような要素、特徴などからなる、または本質的になる、ということが理解されるべきである。簡潔さの目的のために、これらの実施態様は、本明細書において、全てのケースでそれほど多くの言葉で明確に示されているわけではない。本発明の任意の実施態様または態様は、明細書中に明確な除外が挙げられているかどうかにかかわらず、特許請求の範囲から明確に除外され得ることもまた、理解されるべきである。本発明の背景を説明するため、および、その実施に関するさらなる詳細を提供するために、本明細書で参照される刊行物、ウェブサイトおよび他の参照材料は、参照によりここに援用される。
【配列表】