IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ タタ コンサルタンシー サービシズ リミテッドの特許一覧

特許7333473空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム
<>
  • 特許-空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム 図1
  • 特許-空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム 図2
  • 特許-空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム 図3
  • 特許-空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム 図4
  • 特許-空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム 図5
  • 特許-空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム 図6
  • 特許-空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム 図7
  • 特許-空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム 図8
  • 特許-空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム 図9
  • 特許-空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム 図10
  • 特許-空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム 図11
  • 特許-空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム 図12A
  • 特許-空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム 図12B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】空気予熱機器の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20230817BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20230817BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q10/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022517320
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-23
(86)【国際出願番号】 IN2020050868
(87)【国際公開番号】W WO2021070201
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】201921040828
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】510337621
【氏名又は名称】タタ コンサルタンシー サービシズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】TATA Consultancy Services Limited
【住所又は居所原語表記】Nirmal Building,9th Floor,Nariman Point,Mumbai 400021,Maharashtra,India.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デオダール、アニルード
(72)【発明者】
【氏名】ジャダーブ、ヴィシャル
(72)【発明者】
【氏名】ガプタ、アシット
(72)【発明者】
【氏名】ラマヌジャム、ムラリクリシュナン
(72)【発明者】
【氏名】ランカナ、ヴェンカタラマナ
(72)【発明者】
【氏名】パティル、ムクル
(72)【発明者】
【氏名】ダーンダ、チャラン、テージャ
(72)【発明者】
【氏名】サブラマニアム、ダーンダパニ
(72)【発明者】
【氏名】ジャイン、ラリス ロシャンラル
(72)【発明者】
【氏名】ディラヴィアム アンドリュー、ジョエル トムソン
(72)【発明者】
【氏名】マロートラ、パンカジ
(72)【発明者】
【氏名】パラメスウラン、サイ プラサド
【審査官】宮地 匡人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-152419(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098173(WO,A1)
【文献】特開2018-173217(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0074591(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105069185(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火力発電所において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測するプロセッサ実施方法(1200)であって、該プロセッサ実施方法が、
ユーザインターフェースを介して、1つ又は複数のソースから前記火力発電所に関する複数のデータを受信するステップ(1202)と、
1つ又は複数のハードウェアプロセッサを介して、前記受信された複数のデータを前処理するステップ(1204)と、
前記1つ又は複数のハードウェアプロセッサを介して、複数の監視モデルを使用して前記空気予熱器を監視するステップであって、前記複数の監視モデルが一組の汚染パラメータをソフト検知するように構成され、前記一組の汚染パラメータが、
燃料ガスの温度プロファイル、前記APHの気流、及び再生式パッキン、
前記APHの1つ又は複数の層内の汚染物質堆積の量及び位置、並びに
前記APHの1つ又は複数の層の各々における汚染指標及び圧力プロファイルであって、前記汚染指標及び前記圧力プロファイルが前記APHの汚染状態を示す、汚染指標及び圧力プロファイル
を含む、監視するステップ(1206)と、
前記1つ又は複数のハードウェアプロセッサを介して、診断モデルを使用して、前記前処理された複数のデータ及び前記ソフト検知された汚染パラメータを使用して前記APH内の現在の汚染型を診断するステップであって、前記診断が、
APHの現在の汚染型の分類、及び
現在の汚染型の1つ又は複数の影響パラメータ
を提供する、診断するステップ(1208)と、
前記1つ又は複数のハードウェアプロセッサを介して、予測モデルを使用して、予測範囲についての前記汚染状態を予測するステップであって、前記予測が、
前記受信された複数のデータを使用して推定範囲についての1つ又は複数の影響パラメータを推定すること、
前記推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び前記分類された汚染型を使用して、選択された予測範囲についてのAPHの前記1つ又は複数の層の各々についての前記汚染指標を予測すること、並びに
前記推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び前記予測された層ごとの汚染指標を使用して、前記選択された予測範囲について圧力低下から構成される前記汚染状態を予測すること
を介して取得される、予測するステップ(1210)と、
前記1つ又は複数のハードウェアプロセッサを介して、前記予測された汚染状態及び前記分類された汚染型に基づいて、前記APHの機能停止までの最小時間を推定するステップ(1212)と、
前記1つ又は複数のハードウェアプロセッサを介して、前記推定されたAPH機能停止までの最小時間が事前設定されたしきい値よりも短い場合にユーザに警告を与えるステップ(1214)と、
前記1つ又は複数のハードウェアプロセッサを介して、予測された汚染状態及び分類された汚染型に基づいて、損失を最小化し前記APH機能停止を回避するために複数の是正処置を推奨するステップ(1216)と
を含む、プロセッサ実施方法。
【請求項2】
前記火力発電所に関する前記複数のデータが、
前記APH並びに上流及び下流の機器についての複数のセンサからのリアルタイム運転データと、
内部ソース又は外部ソースからの周囲条件データと、
燃料及び材料の性状データ、使用データ、及び在庫データと、
前記APH及び前記火力発電所向けの設計仕様データと、
保守履歴及びスケジューリングデータと
を含む、請求項1に記載のプロセッサ実施方法。
【請求項3】
前記1つ又は複数のソースが、分散制御システム(DCS)、ヒストリアン、実験室情報管理システム(LIMS)、データベース、高度センサ、外部ソース、手動入力、及び前記火力発電所内の他のデジタルシステムから構成される、請求項1に記載のプロセッサ実施方法。
【請求項4】
前記前処理が、
前記複数のデータの中の誤ったデータを確認すること、
前記複数のデータの中の異常値を取り除くこと、
欠測値の代わりに新しい値を入力すること、
複数のソースからのプラントデータを融合及び同期させること、
前記複数のデータを過去データと同期させること、並びに
前記APH設計仕様、予測範囲、及び利用可能なプラントデータに基づいて、前記複数のデータを異なる形状、サイズ、及び頻度に変換すること
のうちの1つ又は複数を含む、請求項1に記載のプロセッサ実施方法。
【請求項5】
前記推定範囲及び前記予測範囲が前記ユーザによって選択されるか、又は自動的に設定される、請求項1に記載のプロセッサ実施方法。
【請求項6】
前記与えられた警告が、短期警告又は長期警告のうちの1つであり、
前記短期警告が、前記複数の汚染状態のうちの1つが事前設定された設定期間の前に事前設定されたしきい値を超えたときに生成され、
前記長期警告が、前記複数の汚染状態のうちの1つが前記事前設定された設定期間の後に前記事前設定されたしきい値を超えたときに生成される、
請求項1に記載のプロセッサ実施方法。
【請求項7】
複数の是正処置が、
前記APH又は上流/下流機器の運転設定を修正すること、煤煙換気パラメータを修正すること、及び前記APHの洗浄を含む、運転及び保守の提案の短期推奨、並びに
燃料の交互使用、緩和された汚染物質基準、及び機器の改良を含む、運転及び保守の提案の長期推奨
から構成される、請求項1に記載のプロセッサ実施方法。
【請求項8】
前記予測が、あらゆる事前設定された時間間隔の後に実行される、請求項1に記載のプロセッサ実施方法。
【請求項9】
前記汚染型が、通常汚染型、異常汚染型、及び深刻汚染型のうちの1つに分類される、請求項1に記載のプロセッサ実施方法。
【請求項10】
前記現在の汚染状態の識別された1つ又は複数の原因に関する通知を前記ユーザに提供するステップをさらに含む、請求項1に記載のプロセッサ実施方法。
【請求項11】
リアルタイムで予想された汚染物質の堆積及び位置、
APHの各層のガス/空気/金属のリアルタイム温度プロファイル、リアルタイム圧力プロファイル、及びリアルタイム汚染指標、
現在の汚染型のリアルタイム分類、
APHの前記層の各々についての汚染指標及び圧力低下のリアルタイム予測結果、並びに
リアルタイム推奨
をディスプレイデバイスに表示するステップをさらに含む、請求項1に記載のプロセッサ実施方法。
【請求項12】
データベースに蓄積された前処理された前記受信された複数のデータ及び前記データベースに格納された複数のモデルチューニングパラメータに基づいて、複数のモデルを周期的に再較正するステップをさらに含む、請求項1に記載のプロセッサ実施方法。
【請求項13】
火力発電所において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測するためのシステム(100)であって、前記システムが、
1つ又は複数のソースから前記火力発電所に関する複数のデータを受信するための入力/出力インターフェースは、(106)と、
1つ又は複数のハードウェアプロセッサ(116)と、
前記1つ又は複数のハードウェアプロセッサと通信しているメモリ(118)であって、前記1つ又は複数のハードウェアプロセッサ(116)が、前記メモリ(118)に記憶されたプログラム命令を実行して、
前記受信された複数のデータを前処理することと、
複数の監視モデルを使用して前記空気予熱器を監視することであって、前記複数の監視モデルが一組の汚染パラメータをソフト検知するように構成され、前記一組の汚染パラメータが、
燃料ガスの温度プロファイル、前記APHの気流及び再生式パッキン、
前記APHの1つ又は複数の層内の汚染物質堆積の量及び位置、並びに
前記APHの1つ又は複数の層の各々における汚染指標及び圧力プロファイルであって、前記汚染指標及び前記圧力プロファイルが前記APHの汚染状態を示す、汚染指標及び圧力プロファイル
を含む、監視することと、
診断モデルを使用して、前記前処理された複数のデータ及び前記ソフト検知された汚染パラメータを使用して前記APH内の現在の汚染型を診断することであって、前記診断が、
APHの現在の汚染型の分類、及び
現在の汚染型の1つ又は複数の影響パラメータ
を提供する、診断することと、
予測モデルを使用して、予測範囲についての前記汚染状態を予測することであって、前記予測が、
前記受信された複数のデータを使用して推定範囲についての1つ又は複数の影響パラメータを推定すること、
前記推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び前記分類された汚染型を使用して、選択された予測範囲についてのAPHの前記1つ又は複数の層の各々についての前記汚染指標を予測すること、並びに
前記推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び前記予測された層ごとの汚染指標を使用して、前記選択された予測範囲について圧力低下から構成される前記汚染状態を予測すること
を介して取得される、予測することと、
前記予測された汚染状態及び前記分類された汚染型に基づいて、前記APHの機能停止までの最小時間を推定することと、
前記推定されたAPH機能停止までの最小時間が事前設定されたしきい値よりも短い場合にユーザに警告を与えることと、
予測された汚染状態及び識別された汚染型に基づいて、損失を最小化し前記APH機能停止を回避するために複数の是正処置を推奨することと
を行うように構成される、メモリ(118)と
を備える、システム。
【請求項14】
前記空気予熱器によって生成された前記データを格納するように構成されたデータレポジトリをさらに備え、前記データが静的情報及び動的情報を含み、前記静的情報が、プラント/機器設計情報、保守情報、燃料情報、材料情報、専門ユーザ知識を含み、前記動的情報が、処理済み/生プラントデータ、周囲条件、予想モデル及びそれらのバージョン、予想及び予測されたデータ、生成された推奨、並びにユーザアクションを含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
その中で具現化されたコンピュータ可読プログラムを有する非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記コンピュータ可読プログラムが、コンピューティングデバイス上で実行されたとき、
ユーザインターフェースを介して、1つ又は複数のソースから火力発電所の空気予熱器(APH)に関する複数のデータを受信することと、
前記受信された複数のデータを前処理することと、
複数の監視モデルを使用して空気予熱器を監視することであって、前記複数の監視モデルが一組の汚染パラメータをソフト検知するように構成され、前記一組の汚染パラメータが、
燃料ガスの温度プロファイル、前記APHの気流及び再生式パッキン、
前記APHの1つ又は複数の層内の汚染物質堆積の量及び位置、並びに
前記APHの1つ又は複数の層の各々における汚染指標及び圧力プロファイルであって、前記汚染指標及び前記圧力プロファイルが前記APHの汚染状態を示す、汚染指標及び圧力プロファイル
を含む、監視することと、
診断モデルを使用して、前記前処理された複数のデータ及び前記ソフト検知された汚染パラメータを使用して前記APH内の現在の汚染型を診断することであって、前記診断が、
APHの現在の汚染型の分類、及び
現在の汚染型の1つ又は複数の影響パラメータ
を提供する、診断することと、
予測モデルを使用して、予測範囲についての前記汚染状態を予測することであって、前記予測が、
前記受信された複数のデータを使用して推定範囲についての1つ又は複数の影響パラメータを推定すること、
前記推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び前記分類された汚染型を使用して、選択された予測範囲についてのAPHの前記1つ又は複数の層の各々についての前記汚染指標を予測すること、並びに
前記推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び前記予測された層ごとの汚染指標を使用して、前記選択された予測範囲について圧力低下から構成される前記汚染状態を予測すること
を介して取得される、予測することと、
前記予測された汚染状態及び前記分類された汚染型に基づいて、前記APHの機能停止までの最小時間を推定することと、
前記推定されたAPH機能停止までの最小時間が事前設定されたしきい値よりも短い場合にユーザに警告を与えることと、
予測された汚染状態及び識別された汚染型に基づいて、損失を最小化し前記APH機能停止を回避するために複数の是正処置を推奨することと
を前記コンピューティングデバイスに行わせる、非一時的コンピュータ可読媒体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、空気予熱器内の汚染の分野に関し、より詳細には、火力発電所において使用される空気予熱器の汚染をリアルタイム且つオンラインで監視及び予測する方法及びシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気予熱器(APH:Air preheater)は、火力発電所においてボイラーからの排ガス内の過剰な熱を回収するために使用される機器である。再生式APHは、通常、再生回転行列を有する並列の空気流路及びガス流路から構成される。熱は、最初にガスから回転行列に伝播し、次いで回転行列から空気に伝播する。行列は、APHの熱伝導特性を高めるように設計された波板からできている。火力発電所内の空気予熱器及び同様の機器の性能は、主な運転効率の観点から、並びに有用性の視点からの両方で時間とともに低下する。
【0003】
APHは、通常、窒素酸化物(NOx)の出口濃度を制御する選択的触媒還元(SCR:selective catalytic reduction)機器などの機器の下流側に取り付けられる。ボイラーからのガスは、通常、SCRを通過し、SCRはアンモニア(NH)を使用してガスからNOxを取り除く。しかしながら、このNHのうちの一部は下流で漏出し、燃料ガス内で硫黄酸化物と反応し、主として重硫酸塩アンモニウム(ABS:Ammonium bi-sulphate)を形成する。形成されたこの重硫酸塩は冷やされ、APHの下半分に凝縮し始める。その上、重硫酸塩はガス内の灰粒子を捕捉し、後でさらに冷やされ、APH波板の細孔の中に凝固する。この目詰まりにより、流れに対する抵抗が作られ、したがって、圧力低下が大きくなる。最初は遅いが、この堆積の構築は、ファンの動作を危険な目に逢わせるのに十分な遮断をもたらし、プラントの停止及びAPHの水洗浄を必要とする。これは、APHの汚染又は目詰まりと呼ばれる。ファンの電力消費が増大することにより、運転コストが増大し、APHを洗浄する必要性は、莫大な維持費及び収益減を招く。
【0004】
リアルタイムでAPH汚染の状態を監視する困難さに起因して、オペレータが最適な方法でプラントの保守をスケジュールすることは難題である。計画外の保守を回避するために、オペレータは、APH汚染に対するオンライン監視及び予測システムをもつ必要がある。それとともに、オペレータはまた、目詰まりの急激且つ均一な増大を回避するために、是正処置に関する意思決定を支援するシステムを必要とする。APHの運転における視界不良は、それを火力発電所における計画外の保守の主な理由の1つにする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の問題に対するわずかな商業的解決策は、設計変更及び改良から構成され、それは停止時間を必要とし、通常、非常に高価である。プラントレベルの一時的な運転修正は、APH問題に対処するには不十分であることが分かる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施例は、従来のシステムにおいて発明者によって認識されている上述された技術的問題のうちの1つ又は複数に対する解決策としての技術的改善点を提示する。たとえば、一実施例では、火力発電所において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測する法が提供されている。システムは、入力/出力インターフェースと、1つ又は複数のハードウェアプロセッサと、メモリとを備える。入力/出力インターフェースは、1つ又は複数のソースから火力発電所に関する複数のデータを受信する。メモリは1つ又は複数のハードウェアプロセッサと通信し、1つ又は複数の第1のハードウェアプロセッサは、1つ又は複数の第1のメモリに記憶されたプログラム命令を実行して、受信された複数のデータを前処理することと、複数の監視モデルを使用して空気予熱器を監視することであって、複数の監視モデルが一組の汚染パラメータをソフト検知(soft-sense)するように構成され、一組の汚染パラメータが、燃料ガスの温度プロファイル、APHの気流及び再生式パッキン、APHの1つ又は複数の層内の汚染物質堆積の量及び位置、並びにAPHの1つ又は複数の層の各々の汚染指標及び圧力プロファイルを含み、汚染指標及び圧力プロファイルがAPHの汚染状態を示す、監視することと、診断モデルを使用して、前処理された複数のデータ及びソフト検知された汚染パラメータを使用してAPH内の現在の汚染型を診断することであって、診断が、APHの現在の汚染型の分類、及び現在の汚染型の1つ又は複数の影響パラメータを提供する、診断することと、予測モデルを使用して、予測範囲についての汚染状態を予測することであって、予測が、受信された複数のデータを使用して推定範囲についての1つ又は複数の影響パラメータを推定すること、推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び分類された汚染型を使用して選択された予測範囲についてのAPHの1つ又は複数の層の各々についての汚染指標を予測すること、並びに推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び層ごとに予測された汚染指標を使用して選択された予測範囲についての圧力低下から構成される汚染状態を予測することを介して得られる、予測することと、予測された汚染状態及び識別された汚染型に基づいて、APHの機能停止までの最小時間を推定することと、推定されたプラント機能停止までの最小時間が事前設定されたしきい値よりも短い場合にユーザに警告を与えることと、予測された汚染状態及び識別された汚染型に基づいて、損失を最小化しプラント機能停止を回避するために複数の是正処置を推奨することとを行うように構成される。
【0007】
別の態様では、火力発電所において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法が提供される。最初に、火力発電所に関する複数のデータが1つ又は複数のソースから受信される。次いで、受信された複数のデータが前処理される。さらに、複数の監視モデルを使用して空気予熱器が監視され、複数の監視モデルは一組の汚染パラメータをソフト検知するように構成され、一組の汚染パラメータは、燃料ガスの温度プロファイル、APHの気流及び再生式パッキン、APHの1つ又は複数の層内の汚染物質堆積の量及び位置、並びにAPHの1つ又は複数の層の各々の汚染指標及び圧力プロファイルを含み、汚染指標及び圧力プロファイルはAPHの汚染状態を示す。次のステップにおいて、前処理された複数のデータ及びソフト検知された汚染パラメータを使用してAPH内の現在の汚染型が診断され、診断は、APHの現在の汚染型の分類、及び現在の汚染型の1つ又は複数の影響パラメータを提供する。さらに、予測範囲についての汚染状態が予測され、予測は、複数のデータを使用して推定範囲についての1つ又は複数の影響パラメータを推定すること、推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び分類された汚染型を使用して選択された予測範囲についてのAPHの1つ又は複数の層の各々についての汚染指標を予測すること、並びに推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び層ごとに予測された汚染指標を使用して選択された予測範囲についての圧力低下から構成される汚染状態を予測することを介して得られる。さらに、予測された汚染状態及び分類された汚染型に基づいて、APHの機能停止までの最小時間が推定される。次のステップにおいて、1つ又は複数のハードウェアプロセッサを介して、推定されたプラント機能停止までの最小時間が事前設定されたしきい値よりも短い場合にユーザに警告が与えられる。そして最後に、予測された汚染状態及び識別された汚染型に基づいて、損失を最小化しプラント機能停止を回避するために複数の是正処置が推奨される。
【0008】
さらに別の態様では、1つ又は複数のハードウェアプロセッサによって実行されると、1つ又は複数の命令を含む1つ又は複数の非一時的機械可読記憶媒体が、火力発電所において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測することを引き起こす。最初に、火力発電所に関する複数のデータが1つ又は複数のソースから受信される。次いで、受信された複数のデータが前処理される。さらに、複数の監視モデルを使用して空気予熱器が監視され、複数の監視モデルは一組の汚染パラメータをソフト検知するように構成され、一組の汚染パラメータは、燃料ガスの温度プロファイル、APHの気流及び再生式パッキン、APHの1つ又は複数の層内の汚染物質堆積の量及び位置、並びにAPHの1つ又は複数の層の各々の汚染指標及び圧力プロファイルを含み、汚染指標及び圧力プロファイルはAPHの汚染状態を示す。次のステップにおいて、前処理された複数のデータ及びソフト検知された汚染パラメータを使用してAPH内の現在の汚染型が診断され、診断は、APHの現在の汚染型の分類、及び現在の汚染型の1つ又は複数の影響パラメータを提供する。さらに、予測範囲についての汚染状態が予測され、予測は、複数のデータを使用して推定範囲についての1つ又は複数の影響パラメータを推定すること、推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び分類された汚染型を使用して選択された予測範囲についてのAPHの1つ又は複数の層の各々についての汚染指標を予測すること、並びに推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び層ごとに予測された汚染指標を使用して選択された予測範囲についての圧力低下から構成される汚染状態を予測することを介して得られる。さらに、予測された汚染状態及び分類された汚染型に基づいて、APHの機能停止までの最小時間が推定される。次のステップにおいて、1つ又は複数のハードウェアプロセッサを介して、推定された機能停止までの最小時間が事前設定されたしきい値よりも短い場合にユーザに警告が与えられる。そして最後に、予測された汚染状態及び識別された汚染型に基づいて、損失を最小化しプラント機能停止を回避するために複数の是正処置が推奨される。
【0009】
上記の概略的な説明及び以下の詳細説明は、両方とも例示的且つ説明的であるにすぎず、特許請求されたように本発明を限定しないことが理解されるべきである。
【0010】
本開示に援用され、その一部を構成する添付図面は、例示的な実施例を示し、説明とともに開示された概念を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示のいくつかの実施例による、火力発電所において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測するためのシステムのブロック図である。
図2】本開示のいくつかの実施例による、火力発電所において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測するためのシステムのネットワーク図である。
図3】本開示のいくつかの実施例による、火力発電所におけるAPHのリアルタイム監視を示すフローチャートである。
図4】本開示のいくつかの実施例による、入力パラメータ及び出力パラメータを有する熱監視モデルの概略図である。
図5】本開示のいくつかの実施例による、入力パラメータ及び出力パラメータを有する汚染指標監視モデルの概略図である。
図6】本開示のいくつかの実施例による、図1の診断モジュールの動作を示すフローチャートである。
図7】本開示のいくつかの実施例による、入力パラメータ及び出力パラメータを有する診断モデルの概略図である。
図8】本開示のいくつかの実施例による、入力パラメータ及び出力パラメータを有する推定器モデルの概略図である。
図9】本開示のいくつかの実施例による、図1の予測モジュールの動作を示すフローチャートである。
図10】本開示のいくつかの実施例による、入力パラメータ及び出力パラメータを有する汚染予測モデルの概略図である。
図11】本開示のいくつかの実施例による、入力パラメータ及び出力パラメータを有する圧力低下予測モデルの概略図である。
図12A】本開示のいくつかの実施例による、火力発電所において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法を示すフロー図である。
図12B】本開示のいくつかの実施例による、火力発電所において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測する方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
例示的な実施例が添付図面を参照して記載される。図において、参照番号の最も左の数字は、参照番号が最初に現れる図を識別する。都合がよいときはいつでも、同じ又は同様の部分を指すために、図面全体を通して同じ参照番号が使用される。開示された原理の例及び特徴が本明細書に記載されるが、開示された実施例の範囲から逸脱することなく、修正、適応、及び他の実施が可能である。以下の詳細説明は例示的にすぎないと考えられ、真の範囲は以下の特許請求の範囲によって示されることが意図されている。
【0013】
従来技術に記載されたAPHのためのモデルベースの監視システムは少ししか存在しない。健康監視及び予後のための純粋にデータ駆動型の方法を記述する従来技術は少ない。いくつかは、異常検出及び診断に基づいて石炭火力発電所内のAPHの汚染を監視するためのシステムを提供する。APHの空気の漏出及び汚染をオンラインで監視するための熱収支の使用を報告している公開文書は少ない。加えて、APH汚染の位置の詳細なモデル化及び汚染に対する主要なパラメータの影響の定量化に対する研究も少なかった。
【0014】
ほとんどの従来技術は、APH内の灰の堆積のみの問題に対処する。重硫酸塩アンモニウムを凝固させることによる灰封入のリアルタイム監視は、満足がいくように対処されない。加えて、化学物質堆積のレベル及び位置のリアルタイム監視及び予測は、カバーされない。使用される石炭の影響及び予想されるプロセス状態を考慮すると、重硫酸塩アンモニウム及び灰堆積の観点からAPH汚染状態の将来予測に利用可能な包括的なシステムは存在しない。その上、ほとんどのオンライン監視システムは、APH汚染の視点から、ボイラー、粉砕機、SCR、及びAPHの包括的な見通しを一緒に考慮しない。APH内部で行われる限定された測定に起因して、特に、データ駆動型又は経験予測型のモデルのみでは、内部状態を予測することは困難である。
【0015】
次に、図全体を通して一貫して同様の参照文字が対応する特徴を表記する図面、より詳細には図1図12Bを参照すると、好ましい実施例が示され、これらの実施例は、以下の例示的なシステム及び/又は方法との関連で記載される。
【0016】
本開示の実施例によれば、火力発電所102において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測するためのシステム100が、図1の概略図に示されている。システム100は、火力発電所102の実際のAPHと協力して動作するデジタルレプリカ又はデジタルツインを配備している。システム100は、1つ又は複数のソースからリアルタイムデータを受信し、APHの固有パラメータ並びに健康、汚染関連パラメータのリアルタイムソフト検知を実現する。固有パラメータは、温度、化学物質堆積のレベル及び位置、層別の汚染指標及び圧力差から構成される。システム100はまた、汚染型の現在のクラス及びAPHの汚染型の特定のクラスの背後にある理由を診断するように構成される。システム100はまた、煤煙換気扇などのAPHパラメータ、又は選択的触媒還元(SCR)若しくはボイラーなどの他の機器を介して制御されるパラメータ、又は運転若しくは設計における変更のいずれかの観点から、警告し是正処置を推奨する勧告システムとして使用されるように構成される。
【0017】
本開示の実施例によれば、火力発電所102において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測するためのネットワーク図(アーキテクチャ図)が、図2に示されている。システム100は、ラップトップコンピュータ、デスクトップコンピュータ、ノートブック、ワークステーション、クラウドベースのコンピューティング環境などの、1つ又は複数のコンピューティングデバイス104を備える場合があることが理解されてもよい。システム100は、I/Oインターフェース106と総称される、1つ又は複数の入力/出力インターフェース又はグラフィックユーザインターフェース106-1、106-2...106-Nを介してアクセスされ得ることが理解されよう。I/Oインターフェース106の例には、ユーザインターフェース、ポータブルコンピュータ、携帯情報端末、ハンドヘルドデバイス、スマートフォン、タブレットコンピュータ、ワークステーションなどが含まれる場合があるが、それらに限定されない。I/Oインターフェース106は、ネットワーク108を介してシステム100に通信可能に結合される。
【0018】
一実施例では、ネットワーク108は、ワイヤレスネットワーク若しくは有線ネットワーク、又はそれらの組合せであってもよい。一例では、ネットワーク108は、コンピュータネットワークとして、仮想プライベートネットワーク(VPN:virtual private network)、イントラネット、ローカルエリアネットワーク(LAN:local area network)、ワイドエリアネットワーク(WAN:wide area network)、インターネットなどの、異なるタイプのネットワークのうちの1つとして実施することができる。ネットワーク108は、専用ネットワーク又は共有ネットワークのいずれかであってもよく、それは、様々なプロトコル、たとえば、ハイパーテキスト転送プロトコル(HTTP:Hypertext Transfer Protocol)、伝送制御プロトコル/インターネットプロトコル(TCP/IP:Transmission Control Protocol/Internet Protocol)、及びワイヤレスアプリケーションプロトコル(WAP:Wireless Application Protocol)を使用して互いに通信する異なるタイプのネットワークの関連付けを表す。さらに、ネットワーク108は、ルータ、ブリッジ、サーバ、コンピューティングデバイス、ストレージデバイスを含む、様々なネットワークデバイスを含んでもよい。ネットワーク108内のネットワークデバイスは、通信リンクを介してシステム100と対話することができる。
【0019】
システム100は、BLUETOOTH(登録商標)、USB、ZigBee、及び他のセルラーサービスなどの、様々な接続オプションをサポートする。ネットワーク環境は、インターネット、WAN、MANなどを含む任意の通信リンクを使用して、システム100の様々な構成要素の接続を可能にする。例示的な実施例では、システム100は、スタンドアロンデバイスとして動作するように実施される。別の実施例は、システム100は、スマートコンピューティング環境に緩く結合されたデバイスとして動作するように実施されてもよい。システム100の構成要素及び機能がさらに詳細に記載される。
【0020】
システム100は、図1に示されたプラントDCS又は他の同様のシステムなどの、1つ又は複数のソース110に接続される。1つ又は複数のソース110には、火力発電所のデータ記録システム、データ検索システム、及び制御システムが含まれてもよい。たとえば、プラント分散制御システム(DCS:distributed control system)、実験室情報管理システム(LIMS:Laboratory information management system)、ヒストリアン、及び他のシステムが、データ収集及び通信モジュール112を介して双方向通信チャネルを通ってシステム100に接続される。システム100は、火力発電所102からリアルタイムデータを受信し、それらはデータリポジトリ114に格納される。システム100は、リアルタイムの監視、予測、及び推奨を実現し、それらは、グラフィックユーザインターフェース110を介して火力発電所102の制御システム及びオペレータに通信で返される。システム100を介して手動でデータ又は情報を入力する方法もある。
【0021】
本開示の実施例によれば、火力発電所102において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測するためのシステム100のブロック図が、図1に示されている。システム100は、グラフィックユーザインターフェース106と、1つ又は複数のソース110と、1つ又は複数のハードウェアプロセッサ116と、1つ又は複数のハードウェアプロセッサ116と通信しているメモリ118とを備える。1つ又は複数のハードウェアプロセッサ116は、メモリ118から一組の命令を取り出すように構成される。メモリ118は、様々な機能を実行するための複数のモジュールをさらに備える。複数のモジュールは、前処理モジュール120と、監視モジュール122と、通知モジュール124と、診断モジュール126と、推定器モジュール128と、予測モジュール130と、シミュレーションモジュール132と、勧告モジュール134と、再較正モジュール136とを備える。
【0022】
本開示の実施例によれば、システム100は、データリポジトリ114又はデータベース114を備える。システム100は、静的情報及び動的情報などの異なる種類の情報を格納するデータベース114で特徴付けられる。静的情報は、プラント設計情報、保守情報、燃料情報、機器情報などを含む。動的情報は、たとえば、処理済み/生プラントデータ、予想モデル及びそれらのバージョン、予想及び予測されたデータ、識別された最適化推奨を含む。システム100は、リアルタイムで火力発電所102又はオペレータ/ユーザからデータを受信し、火力発電所102のための実用的な制御判断又は洞察力のある予測及び診断の観点から、ほぼリアルタイム/リアルタイムで応答する。
【0023】
本開示の実施例によれば、グラフィックユーザインターフェース(GUI:graphic user interface)106は、システム100のユーザ又はオペレータによって使用されるシステム100のユーザインターフェース106である。GUI106は、システム100、データリポジトリ114とユーザとの間で情報を交換するために対話モードとして動作する。GUI106はまた、実際の火力発電所のリアルタイムの運転とともに、デジタルレプリカからの結果を表示するように構成される。ユーザはGUI106を介してシステム100と対話する。GUI106は、スマートフォン、ラップトップ、又はデスクトップの構成を介してユーザにアクセス可能であり、したがっていつでもどこからでもシステム100と対話する自由をユーザに与える。グラフィックユーザインターフェース106は、様々なソフトウェアインターフェース及びハードウェアインターフェース、たとえば、キーボード、マウス、外部メモリ、カメラデバイス、及びプリンタなどの周辺デバイス用のインターフェースを含んでもよい。インターフェース106は、有線ネットワーク、たとえば、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ケーブルなど、及びワイヤレスLAN(WLAN:Wireless LAN)、移動体通信、又は衛星などのワイヤレスネットワークを含む、多種多様のネットワーク及びプロトコルタイプ内での複数の通信を容易にすることができる。GUI106はまた、クラウド又はリモートの監視センタなどの離れた場所で利用可能であり得ることを諒解されたい。
【0024】
本開示の実施例によれば、メモリ118は前処理モジュール120を備える。前処理モジュール120は、受信された複数のデータを前処理するように構成される。前処理は、
・複数のデータの中の誤ったデータを確認すること、
・複数のデータの中の異常値を取り除くこと、
・欠測値の代わりに新しい値を帰属させること、
・複数のソースからのプラントデータを融合及び同期させること、
・複数のリアルタイムデータを過去データと同期させること、
・APH設計仕様、必要な予測目標、及び利用可能なプラントデータに基づいて、複数のデータを異なる形状、サイズ、及び頻度に変換すること
から構成されてもよい。
【0025】
本開示の実施例によれば、メモリ118は監視モジュール122を備える。監視モジュール122は複数の監視モデルを使用して空気予熱器を監視するように構成され、複数の監視モデルは一組の汚染パラメータをソフト検知するように構成され、一組の汚染パラメータは、燃料ガスの温度プロファイル、APHの気流及び再生式パッキン、APHの1つ又は複数の層内の汚染物質堆積の量及び位置、並びにAPHの1つ又は複数の層の各々の汚染指標及び圧力プロファイルを含み、汚染指標及び圧力プロファイルはAPHの汚染状態を示す。物理学ベースのシミュレーション、データ駆動型技法、知識ベースのモデル、又はそれらの組合せのいずれかに基づいて、熱監視モデル及び汚染監視モデルなどの複数の監視モデルが事前に構築される。これらの予想は、データベース114に格納された過去データ、並びにシステム100によって受信されたリアルタイム処理データに基づく。予想はまた、履歴データ又は専門知識に基づいて学習された、データベース114に格納された少ないチューニングパラメータを使用することができる。
【0026】
しばしば測定可能でないか、又は測定されなかった複数のパラメータのリアルタイム推定を取得するために、ソフトセンサが使用される。たとえば、監視モジュール122は、前処理された複数のデータをリアルタイムで受信し、APH内の空気/ガス温度プロファイル又は金属温度プロファイルを推定する。通常、APH回転素子は2つ以上の層から作られる。回転素子は、機器内部で発生するプロセスの不可視性をさらに引き起こす。オペレータは、機器内のABSの形成及び堆積についてよく分からない。したがって、監視モデルは、各層内の化学物質堆積(すなわち、ABS及び灰の堆積)の位置及び量をソフト検知するために使用される。最下層における堆積は、通常、煤煙換気を介して除去可能である。しかしながら、中間層における堆積は、しばしば、機器を大いに危険にさらす。したがって、監視モジュール122は、リアルタイムで汚染指標を予想することにより、APHの現在の汚染レベルの一瞥概要を提供する。それにより、各層内の汚染強度を推定し、次いで、層ごとに残りの耐用寿命を予想することによって、オペレータが現状のより良い概観を有することが可能になる。
【0027】
火力発電所内のAPHのリアルタイム監視の方法が図3のフローチャート300に示されている。方法は、定期的に、又はプラントオペレータ/ユーザの要求通りにインスタンス化される。ステップ302において、1つ又は複数のソースから複数のデータが受信される。このデータは、
・APH並びに上流及び下流の機器についての複数のセンサからのリアルタイム運転データ、
・内部ソース又は外部ソースからの周囲条件データ、
・燃料及び材料の性状データ、使用データ、及び在庫データ、
・APH及び火力発電所向けの設計仕様データ、
・保守履歴及びスケジューリングデータ
から構成されてもよい。
【0028】
ステップ304において、上述された方法論のうちの1つ又は複数を使用して、受信された複数のデータが前処理される。ステップ306において、APH内部のガス、空気温度プロファイル、及び金属温度プロファイルを予想するために、リアルタイム熱監視モデルが使用される。最後にステップ308において、層ごとの汚染指標、各層内の化学物質堆積の量及び位置、並びにAPHの各層の両端の圧力低下を予想するために、リアルタイム汚染監視モデルが使用される。監視の出力は、図6のフローチャート600への入力として提供される。
【0029】
図4は、熱監視モデルの概略図を示す。熱監視モデルは、データ駆動型、物理学ベース、知識ベース、又は上述された組合せの組合せである。一例として、パラメータセット-0として記載された入力データを使用して、ガス、空気、及び金属の軸方向温度プロファイルを予想するために、一次元物理学ベースのモデルを使用することができる。パラメータセット-0は、APH内部及び外部の運転条件、周囲条件、燃料性状、ガスの化学物質組成、APHの設計及び保守の情報を含んでもよい。加えて、パラメータセット-0は、利用可能な熱伝導係数、比熱、及び特性温度曲線などの、物理学ベースのモデル用のいくつかのチューニングパラメータから構成されてもよい。これらのチューニングパラメータは、モデル内の一組の代数微分方程式及び常微分/偏微分方程式を解くことによって調整することができ、測定されるセンサ値に対する予測誤差を最小化する。熱監視モデルの出力がパラメータセット-1として記載され、それらは、APH内部の空気、ガス、及び金属の温度プロファイルから構成される。パラメータセット-0及びパラメータセット-1の例が図4に示されている。
【0030】
図5は、APHのあらゆる層内の化学物質堆積の量及び位置を予想するために、リアルタイムで動作する汚染監視モデルの概略図である。汚染監視モデルはまた、APH内部の各層における汚染指標及び圧力プロファイルを予想する。汚染監視モデルは、データ駆動型、物理学ベース、知識ベース、又は上述された組合せの組合せであり得る。汚染監視モデルは、熱監視モデルの出力(パラメータセット-1)及びパラメータセット-0を入力として使用して、パラメータセット-2を予想するように準備する。
【0031】
一例として、汚染監視モデルは、パラメータとして圧力、化学物質濃度、及び汚染指標(φ)を有する、一組の代数微分方程式を解く物理学ベースのモデルから構成されてもよい。最初に、汚染監視モデルは、物理学ベースの方程式及び領域知識ベースの規則を使用して、重硫酸塩アンモニウムなどの化学物質堆積の形成及びAPH内のその堆積の位置を予想する。たとえば、熱監視モデルによって予想された温度プロファイルは、重硫酸塩アンモニウムについての凝縮及び凝固の温度曲線の知識を使用することにより、APH内で化学物質の形成及び堆積がどれほど発生するかを予想するために使用される。これらの特性曲線は、重硫酸塩アンモニウムについての凝縮及び凝固の温度の変動を、化学種の温度、圧力、及び濃度の関数として記述し、利用可能な公開ハンドブックから取得することができる。
・化学物質の形成、堆積、及び位置は、(内部ガス、空気、及び金属の温度プロファイル、ガス/空気流量、化学種凝縮の濃度、並びに、重硫酸塩アンモニウムについての凝固曲線、APH設計構成、化学反応速度パラメータ、運転時間)の関数である。
【0032】
このステップは、重硫酸塩アンモニウムの新しい形成がどれほど発生するか、及びAPH内のどこ(層1、層2、又は層3)で堆積する可能性が高いかをリアルタイムで予想する。3つ以上の層の汚染指標を接続する規則は、この推定に基づいて自動的に形成される。
【0033】
層ごとの汚染指標(φ)は、次いで、圧力について解く物理学ベースの方程式におけるボイド率として表される。次いで、層ごとの汚染指標は、汚染監視モデルの圧力プロファイル推定部分を使用して予想される。汚染指標推定は、上記の化学物質の堆積推定によって定式化された規則の付加制約を用いて、APHの出口における予想圧力と測定圧力との間の誤差を最小化する内部最適化問題として定式化される。制約規則の例示的なセットは、
・堆積が最も冷たい層(最下層)において最も可能性があることを示すφ1>φ2>φ3
・(高いガス温度のために、最上層が重硫酸塩アンモニウムなどの化学物質の著しい堆積を見ないことを示す)運転時間及び灰堆積の関数としてのφ1の変化率(dφ1/dt)~一定
・(層2及び層3の中のガスの温度>重硫酸塩アンモニウムの凝固/凝縮温度)の場合、
運転時間及び灰堆積の関数としてのφ2及びφ3の変化率~一定
・(層2及び層3の中のガスの温度<重硫酸塩アンモニウムの凝固/凝縮温度)の場合、
運転時間、灰堆積、及びガス温度の関数としてのφ2及びφ3の変化率~動的。
【0034】
これらのような制約を用いて上述された最適化問題を解くと、各層の化学物質堆積、堆積の位置、汚染指標、並びにAPH内の圧力プロファイルのリアルタイムでソフト検知された値がもたらされる。これらの結果はまた、プラントからのリアルタイムセンサデータに関して調整することができるより厳密な計算流体力学モデルを介して取得することができる。上述されたモデルの結果は、データベース114に格納され、通知モジュール124を介してGUI上でオペレータに示される。
【0035】
本開示の実施例によれば、メモリ118は診断モジュール126を備える。診断モジュール126は、診断モデルを使用して、前処理された複数のデータ及びソフト検知された汚染パラメータを使用してAPH内の現在の汚染型を診断するように構成され、診断は、APHの現在の汚染型の分類、APHの健康スコア、及び現在の汚染型の1つ又は複数の影響パラメータを提供する。
【0036】
診断モジュール126の動作が図6のフローチャートに示されている。診断モジュール126は、物理学ベース、データ駆動型、又は知識ベースのモデルの組合せである診断モデルから構成される。最初にステップ602において、診断モデルは、図7に示されたように、パラメータセット-3及びパラメータセット-5として示されたパラメータを使用し、汚染型の現在のクラスのリアルタイム識別を実現する。パラメータセット-3及びパラメータセット-5は、t~tの期間にわたって、パラメータセット-0、1、及び2の過去に記録された値である。汚染型は、通常汚染、異常汚染、又は深刻汚染のうちの1つとして分類することができる。或いは、汚染型はまた、診断モデルによって計算された健康スコアに基づいて分類することができる。通常型は特定のプラントについての汚染の低い増加率を示し、異常汚染は汚染速度が上昇しているという連続的な監視を意味し、深刻汚染型は緊急処置を示す。これらのクラスの定義は、APH設計構成及びAPHライフサイクル(APHの2回の停止と水洗との間の期間)の典型的な長さに基づいて、特定のプラントに対して事前設定される。
【0037】
一例としての診断モデルは、固定ウィンドウの時間期間にわたって一組のセンサ及び(監視モジュールからの)一組のソフト検知されたパラメータを連続して監視し、次いで現在の汚染型の分類を決定する深層学習ベースの異常検出モデルから構成されてもよい。これらのモデルは、プラントからデータベース114に格納された(t~tの時間ウィンドウによって示された)複数の過去データに基づいて事前訓練され、ここで、tは現在時刻であり、tは対象のウィンドウの開始タイミングである。時間ウィンドウt~tは、モデルの訓練中に選択することができ、APH汚染ライフサイクルの長さ及びプラント固有要件に応じて、プラントごとに異なる。
【0038】
さらにステップ604において、現在の汚染型のクラスが識別されると、診断モデルは、現在の汚染型条件に関与する最上位影響パラメータも識別する。たとえば、汚染型がある時間期間にわたって異常から深刻に変化すると、診断モデルは、考えられる原因として、環境条件の変化、煤煙換気の減少、又はSCRからのアンモニア漏出の増加などの、パラメータを識別することができる。事前訓練された診断モデルは、(失敗の根本原因分析などの)領域ベースの規則、監視モジュールからの物理学ベースのソフトセンサ、及びデータ駆動型の影響を使用して、影響パラメータを識別することができる。或いは、影響パラメータはまた、診断モデルによって計算された個別のパラメータ異常スコアに基づいて分類することができる。最後に、ステップ606において、オペレータは、汚染型の識別されたクラス及びそれぞれの影響パラメータに基づいて警告される。
【0039】
本開示の実施例によれば、メモリ118は推定器モジュール128を備える。推定器モジュール128は、推定器モデル及び前処理された複数のデータを使用して一組のパラメータを推定するように構成される。推定器モジュールは、周囲条件、NOx濃度、NH漏出量、空気/ガスの質量流量、SOx濃度、灰濃度、端部におけるガス/空気温度などのパラメータ、並びに各層の軸方向温度プロファイル及び堆積レベルなどの監視モジュールからのソフト検知された変数のための推定器モデルから構成されてもよい。推定器モデルは、過去及び現在のデータの関数として主要パラメータの将来の値を推定するように設計される。推定器モジュール128はまた、他の下流及び上流の機器用のデジタルシステムからの予想モデルから構成されてもよい。たとえば、推定器モジュール128は、選択的触媒還元(SCR)機器用のデジタルレプリカと対話して、リアルタイムでNH漏出量を予想することができる。
【0040】
推定器モデルは、第1原理ベースモデル、データ駆動型モデル、及び知識ベースモデルの組合せから構成されてもよい。推定器モデルの概略図が図8に示され、過去数年間の気象データ又は今年の気象報告又は両方の組合せを使用して、周囲温度の傾向を推定するために、一変量時系列モデルを使用することができる。アンモニア漏出用の推定器モデルは、SCR劣化、石炭元素分析、ボイラー設定、NOx出力セットポイントなどに基づいて構築された多変量時系列モデルであり得る。この多変量時系列モデルは、過去データ及び外部入力を受信して、将来のNH漏出量の傾向を推定する。図8に示されたように、事前訓練された推定器モデルは、時間期間t~tEHによって示された事前選択された推定器範囲を有し、ここで、tEHは現在時刻tからの推定範囲の終了時刻を示す。推定器モデルは、パラメータセット-3によって示された、t~tの期間にわたる過去データ(パラメータセット-0及び1)を利用し、パラメータセット-4によって示された、t~tEHの期間にわたる同じパラメータの傾向を予想する。推定器モジュールはまた、プラント運転戦略によって決定されたある特定のパラメータ用のユーザ入力に適応する。たとえば、使用する石炭タイプ、煤煙換気パターンの将来の傾向は、必要な場合ユーザによって入力される可能性がある。
【0041】
推定器モジュール128の目標は、オペレータが汚染進行の長期的な見通しに基づいて十分な情報を得た上での決断を下すことができるように、予測モジュール130の予測能力を強化することである。推定器モデルは、次のステップにおいて汚染状態のより長くより正確な予測を可能にする。
【0042】
本開示の実施例によれば、メモリ114は、予測モジュール130及び通知モジュール124をさらに備える。予測モジュール130は、事前に構築された予測モデルを使用して、複数のAPH汚染及びAPH健康インジケータの予測を実現するように構成される。事前に構築された予測モデルは、物理学ベースモデル、データ駆動型モデル、又は知識ベースモデルの組合せから構成されてもよい。予測モデルは、汚染予測モデル及び圧力低下予測モデルから構成されてもよい。それらは、あらかじめ、予測範囲、tとtFHとの間の時間期間によって示された数ヶ月/数日のAPHの汚染状態を予測する。予測範囲は、利用可能なデータ及び要件に依存し、ユーザによって自動的に選択するか、又は選ぶことができる。予測された汚染状態は、各層における汚染指標及びAPHの両端の圧力低下を含む。予測は、特定の期間後に更新することができるか、又はオンデマンドで取得することもできる。
【0043】
予測モデルに必要な入力は、データベースに格納されたリアルタイム及び過去の処理データ、並びに推定器モジュールからの推定出力から構成されてもよい。たとえば、汚染レベルを表すAPHの両端の異なる圧力の予測は、過去の処理データ、NOx濃度、NH漏出量、周囲温度などの主要変数における推定された傾向、並びにガス/空気温度プロファイルのようなソフト検知された変数における推定された傾向及び汚染指標のような汚染インジケータにおける予測された傾向に基づいて取得されてもよい。予測間隔のようなさらなるチューニングパラメータも予測モデルに必要とされる場合があり、それらは以前のデータ又は専門知識から抽出される可能性がある。使用される可能性があるパラメータの別のセットは、設計情報及び保守情報などのプラント固有情報から構成されて使用される可能性がある。上述されたモデルの結果は、データベースに格納され、通知モジュール124を介してGUI上でオペレータに示される。
【0044】
火力発電所内のAPHの汚染レベルのリアルタイム予測の方法が図9のフローチャート900に示されている。ステップ902において、予測範囲まで、NH漏出量、NOx濃度、周囲温度のような主要変数における傾向を推定し、並びにガス/空気温度プロファイルのようなソフト検知された変数における傾向を推定するために、推定器モデルが使用される。
【0045】
ステップ904において、tとtFHとの間の時間期間によって示された予測範囲にわたって、パラメータセット-6が予測される。ステップ904は、汚染予測モデルへの入力としてパラメータセット-4及びパラメータセット-5を使用する。パラメータセット-6は、予測範囲にわたるAPHの層ごとに予測された汚染指標値から構成される。パラメータセット-4及びパラメータセット-5が図10に示されている。一例として、汚染予測モデルは、以前の監視モデル及び診断モデルから取得された、ソフト検知されたセンサパラメータの過去の傾向の関数として、APHの各層の汚染指標における将来の傾向を予想する深層学習ベースのデータ駆動型モデルから構成される。将来の汚染レベルの予測は、APHの各層における考えられる低下及び堆積に関するその他の情報を提供する。
【0046】
ステップ906において、パラメータセット-5及びパラメータセット-6を使用して、(パラメータセット-7によって示された)予測範囲の期間tFHにわたるAPHの両端の圧力低下プロファイルを予測するために、圧力低下予測モデルが使用される。図11は、圧力低下予測モデルの入力及び出力の、少ない例を示す。一例として、圧力低下予測モデルは、予測範囲の期間tFHにわたって繰り返し定期的に使用される、一組の微分方程式及び代数方程式を解く物理学ベースモデルから構成される。図11に示された間隔、第1の時間間隔(tF1)、第2の時間間隔(tF2)などは、必要に応じてユーザによって事前選択される可能性があるか、又は選ばれ得る。圧力低下予測モデルは、APHの両端の圧力低下における傾向を識別するために、これらの時間間隔tF1、tF2などの各々において使用される。特定の時間間隔において圧力低下予測モデルがトリガされるたびに、パラメータセット-4及びパラメータセット-6からの入力パラメータのセットがデータベースから自動的に取得される。パラメータセット-0、1、2、3、4、5、6、及び7の値は、データベース内で連続的に更新される。
【0047】
ステップ908において、予測された圧力低下が危機的な圧力低下限界(delPcritical)を超えるまでの残りの時間期間を計算することにより、機能停止までの最小時間(toutage)が推定される。ステップ910において、toutageが機能停止しきい値期間(tcritical)よりも短いことが分かった場合、短期警告がトリガされる。toutageが機能停止しきい値期間tcriticalよりも長いことが分かった場合、長期警告がトリガされる。短期警告は、考えられる水洗まで残された時間が少なく、強制的な機能停止を回避するために緊急処置が必要であることを示す。長期警告は、緊急の強制的な機能停止よりは比較的安全であるが、同じ傾向が続いた場合近い将来強制的な機能停止が考えられることを示す。圧力低下限界delPcritical及び機能停止しきい値期間tcriticalは、その特定のプラントについてのAPHの固有の汚染ライフサイクル並びにオペレータ/マネージャの必要性に基づいて選ばれる。限界は、履歴データに基づいて自動的に設定することができ、ユーザによって修正することができる。
【0048】
通知モジュール124は、複数のパラメータの予想された予測が事前設定されたしきい値から出た場合、ユーザに警告を与えるように構成される。通知モジュール124はまた、2つのタイプの警告-短期及び長期をオペレータに与える。短期警告は、近い将来汚染がしきい値レベルに達する可能性があり、パフォーマンスを混乱させ、利益の損失をもたらすことを意味するので、早急な手当を必要とする。長期警告は、是正処置を講じるために3~6ヶ月などのより大きい時間ウィンドウをユーザに与えることができる。
【0049】
本開示の実施例によれば、システム100はまた、勧告モジュール134を備えてもよい。勧告モジュール134は、APHの汚染及び熱伝導性能を改善するために、オペレータに一組の運転セットポイント及び推奨を与えるように構成される。
【0050】
ステップ910において、APH汚染に起因する損失を回避するために一組の運転及び保守の指示をユーザに与える前のステップの警告に基づいて、短期又は長期の勧告がトリガされる。双方向ユーザインターフェースに警告とともに推奨を表示することができる。或いは、勧告モジュールによって提案された推奨は、ユーザの承認の有無にかかわらずプラント内で直ちに実施されてもよい。
【0051】
短期推奨は、運転状態又は保守スケジュールを修正することにより、プラントの差し迫った強制的な機能停止を回避することを目的としている。一例として、予測モジュールからの圧力低下予測が次の90日(tcritical)以内に1.5MPa(delPcritical)を超える圧力低下を提案した場合、勧告モジュールは、領域ベース及びプラント固有の規則に基づいて一組の運転推奨を提案することができる。提案はまた、最良の運転設定を見つけるために、監視、診断、及び予測モデルベースの最適化に基づいてもよい。短期推奨は、
・APHのプラント負荷、強度が高く頻度が高く長い持続期間の煤煙換気運転を削減することによってAPHのガス流量を削減することなどの、APH又は上流/下流機器の運転設定を修正すること、
・考えられる強制的な機能停止の前にAPHの水洗に適応するようにスケジュールされた保守を前倒しすることなどの、保守活動を修正すること
から構成されてもよい。
【0052】
短期推奨は、強制された保守ではなく事前に計画された保守の間に汚染が対処され得るように、汚染の発生を遅延させることにより、プラントが損失を最小化することを可能にする。深刻な汚染状態の場合には、短期推奨は、損失を回避するために当初計画された保守を再スケジュールすることを支援する。
【0053】
長期推奨は、プラントの効率的で費用効率が高い運転を可能にし、APH汚染に起因する強制的な機能停止を防止するために次のステップに進むことを目的としている。これは、運転状態又は保守活動を修正することによって両方達成される可能性がある。一例として、予測モジュールからの圧力低下予測が次の90日(tcritical)後に1.5MPa(delPcritical)を超える圧力低下を提案した場合、勧告モジュールは、領域ベース及びプラント固有の規則に基づいて一組の運転推奨を提案することができる。提案はまた、最良の運転設定を見つけるために、監視、診断、及び予測モデルベースの最適化に基づいてもよい。長期推奨は、
・とりわけ、継続的に煤煙換気パターンを変更すること、上流SCR機器向けのNOx排出の危険な限界セットポイントを緩和すること、燃料としてSOx及びNOxの排出がより少ない石炭を選ぶことなどの、APH又は上流/下流機器の運転慣行を修正すること、
・APHの予期された汚染傾向によりプラント全体の計画された保守を再スケジュールすること、及び汚染速度を下げるためにAPH又はSCRなどの上流機器に対する改良/修正などの、保守活動を修正すること
から構成されてもよい。
【0054】
長期推奨は、時間内にうまく汚染を管理することにより、汚染の発生を減速し、緊急事態を回避するために次のステップに進むことにより、プラントが損失を最小化することを可能にする。
【0055】
一例として、勧告は、入力として予測された汚染状態と石炭在庫データを照合し、汚染を最小化するための石炭使用についてのスケジュールを提供する、スケジュールされた最適化モデルである。勧告はまた、ヤードにおける異なる石炭の混合及びボイラーにおけるそれらの使用時間を推奨する。冬の季節の間はABS形成の可能性が高いので、モデルは、この季節において使用されるべき低硫黄、低灰分の石炭を提案する。この上に、最小の汚染を維持し、APHの熱伝導の効率を上げるために、煤煙換気運転用の最適化モデルが使用される。
【0056】
データリポジトリ114からの履歴データ及び1つ又は複数のソース110(DCS又はLIMS)からの現在データは、とりわけ、各層における空気/ガス温度、アンモニア濃度、硫黄酸化物濃度、及び汚染強度などの、複数のパラメータの推定値を取得するために推定器モデルによって使用される。一実施例では、システム100はまた、外部のソース、データベース、及びサードパーティモデルに接続される場合がある。加えて、システム100はまた、一時的又は永続的にAPH上/内に取り付けられた専用センサからデータを受信することができる。たとえば、ガス内の重硫酸塩アンモニウムのレベル及び濃度を検出するための高度化学センサを取り付けることができる。別の例では、APH内の異なる位置における温度及び圧力を測定するための高度センサを取り付けることができる。これらのセンサ測定値は、様々なモジュールに利用可能にすることができる。システム100の利用はこの例のみに限定されないことを諒解されたい。システム100はまた、当業者によって様々な方法で使用することができる。
【0057】
本開示の実施例によれば、システム100はまた、シミュレータとして働くことができる。その目的のために、システム100は、シミュレーションモジュール132を備える。シミュレーションモジュール132は、監視モデル、診断モデル、推定器モデル、予測モデル、及び勧告モデルにアクセスすることにより、オペレータがオンラインで「what-if」及び「if-what」のシナリオ分析を行うことを可能にする。シミュレーションモジュール132は、リアルタイムで前処理された複数のデータを受信し、化学物質堆積、差圧、及び機能停止までの最小時間などの、複数のパラメータを予想/予測する。しかしながら、オペレータは、入力の値を変更する選択肢を有し、それに応じて出力が予想される。ユーザ入力がない場合、デフォルト又は現在の値を入力として使用することができる。最初に、将来のAPHの汚染を予測するために必要な様々な主要変数に対するユーザからの入力が受信される。変数に対して、並びに前のステップでユーザによって提供されなかったソフト検知された変数に対して、将来の傾向が取得される。さらに、実際のパラメータ及びソフト検知されたパラメータの推定値を使用して、APHに対して健康及び汚染の傾向が予測される。そして最後に、ユーザの開始でデータリポジトリ114に記録が保存されてもよい。シミュレータモジュール132は、ユーザの専門知識及び経験を増やすことにより、より良い意思決定を可能にする。
【0058】
本開示の実施例によれば、システム100はまた、再較正モジュール136を備える。再較正モジュール136は、実際のプラントデータに対する監視モデル、推定器モデル、及び予測モデルのパフォーマンスを周期的に確認する。モデルの確度が事前設定された確度の制約/基準と一致しない場合、モデル更新アラームが生成される。これは、プラントの最近処理されたデータに基づいて予想モデルを較正する自動更新ループをトリガする。APHの最近の動作を表す最新データで更新されたモデルは、次いで、ソフトセンサ及び予測器として使用される。満足のいくように正確なモデルが見つからなかった場合、ユーザは警告される。
【0059】
運転中、火力発電所において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測するためのフローチャートが、図12A図12Bのフローチャート1100に示されている。最初にステップ1202において、火力発電所に関する複数のデータが1つ又は複数のソースから受信される。ステップ1204において、受信された複数のデータが前処理される。さらにステップ1206において、複数の監視モデルを使用して空気予熱器が監視され、複数の監視モデルは一組の汚染パラメータをソフト検知するように構成される。一組の汚染パラメータは、燃料ガスの温度プロファイル、APHの気流及び再生式パッキン、APHの1つ又は複数の層内の汚染物質堆積の量及び位置、並びにAPHの1つ又は複数の層の各々の汚染指標及び圧力プロファイルを含み、汚染指標及び圧力プロファイルはAPHの汚染状態を示す。
【0060】
ステップ1208において、前処理された複数のデータ及びソフト検知された汚染パラメータを使用して、APH内で現在の汚染型が診断される。診断は、APHの現在の汚染型の分類、及び現在の汚染型の1つ又は複数の影響パラメータを提供する。さらにステップ1210において、予測範囲についての汚染状態が予測される。予測は、複数のデータを使用して推定範囲についての1つ又は複数の影響パラメータを推定すること、推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び分類された汚染型を使用して選択された予測範囲についてのAPHの1つ又は複数の層の各々についての汚染指標を予測すること、並びに推定された1つ又は複数の影響パラメータ及び層ごとに予測された汚染指標を使用して選択された予測範囲についての圧力低下から構成される汚染状態を予測することを介して得られる。予測範囲は予測モデル用であり、推定範囲は推定モデル用である。
【0061】
ステップ1212において、予測された汚染状態及び識別された汚染型に基づいて、APHの機能停止までの最小時間が推定される。ステップ1214において、推定された機能停止までの最小時間が事前設定されたしきい値よりも小さい場合、ユーザに警告が与えられる。そして最後にステップ1216において、予測された汚染状態及び識別された汚染型に基づいて、損失を最小化しプラント機能停止を回避するために複数の是正処置が推奨される。
【0062】
本開示の実施例によれば、システム100は、火力発電所の立地、又は分散(クラウド)プラットフォーム上に取り付けることができる。システム100はまた、予想モデルの特性パラメータ値を調整することにより、別の火力発電所において使用することができる。たとえば、モデル特性パラメータは、APHの設計、発電所の運転荷重、周囲条件、燃料及びその使用パターン、(発電所が位置する)領域の排出制御基準、発電所運転履歴(新しく委託された/旧式のプラント)などである。異なるプラント/機器に応じる複数のシステムは、共通の共有知識リポジトリを介して互いに対話することができる。たとえば、異なるシステムは、個々のシステムの特性の共有リモートデータベースを有することができ、これらの特性から洞察を得ることにより、個々のシステムのさらなるカスタマイズ/改善が実現される。これは、特に、火力発電所/機器が新しく委託された/データが最小の場合に有用である。使用することができる既存システムのデジタルファミリデータの助けを借りて、長い持続時間の間の汚染インジケータの予測を取得することができる。
【0063】
推定器118、監視モジュール120、及び予測モジュール126は、それぞれ、推定器モデル、監視モデル、及び予測モデルを備える。システム100は、第1原理ベースのモデル化、データサイエンス、及び領域知識に基づく人工知能の組合せに基づいて、主としてこれらの予想モデルによって動かされる。モデル入力は、とりわけ、プラント運転データ、設計情報、保守情報、燃料情報、領域固有チューニングパラメータ、及び機器パラメータを含んでもよい。モデルは、上記の情報に基づいてオフラインで構築することができ、オンラインでも更新することもできる。モデル対話フレームワークの例示的なシナリオが以下で説明される。しかし、システム100は当業者によって多くの他の方法で使用することもできることを諒解されたい。
【0064】
推定器モデルとともに予測モデルは、それらの予測能力を伸ばすために定期的に繰り返し使用することができる。推定器モデル、監視モデル、診断モデル、予測モデル、及び勧告モデルに記載された方法論は、リアルタイム/ほぼリアルタイムで動作し、APHの健康を回復させるためにオペレータに最大限の見通しを与えるように並列に動作することを諒解されたい。
【0065】
システム100は火力発電所に従って説明されたが、システム100はAPHを有する他のプラントにも適用可能であることを諒解されたい。
【0066】
本明細書は、当業者が実施例を作製又は使用することを可能にするために、本明細書の主題を記載する。主題の実施例の範囲は、特許請求の範囲によって規定され、当業者に思い付く他の修正を含んでもよい。そのような他の修正は、特許請求の範囲の文言と相違のない同様の要素を有する場合、又は特許請求の範囲の文言と実質的でない相違を有する均等な要素を含む場合、特許請求の範囲の範囲内にあるものとする。
【0067】
本明細書の本開示の実施例は、最適な方法で火力発電所の保守を計画する未解決の問題に対処する。したがって、実施例は、火力発電所において空気予熱器(APH)の汚染をリアルタイムで監視及び予測することを提供する。
【0068】
保護範囲は、その中にメッセージを有するコンピュータ可読手段に加えてそのようなプログラムまで拡大され、そのようなコンピュータ可読記憶手段は、プログラムがサーバ又はモバイルデバイス又は任意の適切なプログラマブルデバイス上で動作するとき、方法の1つ又は複数のステップの実施用のプログラムコード手段を含む。ハードウェアデバイスは、たとえば、サーバ若しくはパーソナルコンピュータなど、又はそれらの任意の組合せのような任意の種類のコンピュータを含む、プログラムすることができる任意の種類のデバイスであり得る。デバイスはまた、たとえば、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)のようなハードウェア手段、又はハードウェア手段とソフトウェア手段の組合せ、たとえば、ASICとFPGAの組合せ、若しくは少なくとも1つのマイクロプロセッサとその中にソフトウェア処理構成要素が位置する少なくとも1つのメモリの組合せであり得る手段を含んでもよい。したがって、手段は、ハードウェア手段とソフトウェア手段の両方を含むことができる。本明細書に記載された方法実施例は、ハードウェア及びソフトウェアにおいて実施することができる。デバイスもソフトウェア手段を含んでもよい。或いは、実施例は、異なるハードウェアデバイス上で、たとえば、複数のCPUを使用して実施されてもよい。
【0069】
本明細書の実施例は、ハードウェア要素及びソフトウェア要素を備えることができる。ソフトウェアに実施される実施例には、ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなどが含まれるが、それらに限定されない。本明細書に記載された様々な構成要素によって実行される機能は、他の構成要素又は他の構成要素の組合せに実施されてもよい。この説明の目的で、コンピュータ使用可能媒体又はコンピュータ可読媒体は、命令実行システム、命令実行装置、又は命令実行デバイスが使用するか、又はそれとともに使用されるプログラムを、包含、記憶、通信、伝搬、又は転送することができる任意の装置であり得る。
【0070】
図示されたステップは、示された例示的な実施例を説明するために提示され、進行中の技術開発は特定の機能が実行される方式を変更することが予想されるべきである。これらの例は、限定ではなく例示の目的で本明細書に提示されている。さらに、機能構築ブロックの境界は、説明の便宜のために本明細書に任意に定義されている。指定された機能及びそれらの関係が適切に実行される限り、代替の境界を定義することができる。(本明細書に記載されたそれらの均等物、拡張、変形、偏差などを含む)代替物は、本明細書に含まれる教示に基づいて当業者に明らかである。そのような代替物は、開示された実施例の範囲に入る。また、「備える」、「有する」、「包含する」、及び「含む」という単語、並びに他の同様の形式は、意味において均等であり、これらの単語のいずれか1つに続く1つ若しくは複数の項目が、そのような1つ若しくは複数の項目の排他的な列挙を意味しないか、又は列挙された1つ若しくは複数の項目のみに限定されることを意味しないという点で、オープンドエンド型であることが意図される。本明細書及び添付特許請求の範囲において使用される単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかに他を規定しない限り、複数の参照を含むことに留意されたい。
【0071】
さらに、本開示と一致する実施例を実施する際に、1つ又は複数のコンピュータ可読記憶媒体が利用されてもよい。コンピュータ可読記憶媒体は、プロセッサによって読取り可能な情報又はデータが記憶されてもよい任意のタイプの物理メモリを指す。したがって、コンピュータ可読記憶媒体は、本明細書に記載された実施例と一致するステップ又は段階をプロセッサに実行させるための命令を含む、1つ又は複数のプロセッサによる実行用の命令を記憶することができる。「コンピュータ可読媒体」という用語は、有形品目を含み、搬送波及び過渡信号を除外する、すなわち非一時的であると理解されるべきである。例には、ランダムアクセスメモリ(RAM:random access memory)、読取り専用メモリ(ROM:read-only memory)、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、ハードドライブ、CD ROM、DVD、フラッシュドライブ、ディスク、及び任意の他の既知の物理記憶媒体が含まれる。
【0072】
本開示及び例は例示的にすぎないと考えられ、開示された実施例の真の範囲は以下の特許請求の範囲によって示されることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B