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特許7333510繊維強化樹脂組成物及びその製造方法、並びに成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂組成物及びその製造方法、並びに成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230818BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20230818BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L1/00
C08J5/04 CEP
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018208202
(22)【出願日】2018-11-05
(65)【公開番号】P2020075950
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-10-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、委託期間:平成25年9月6日から平成32年2月29日まで、開発項目「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/研究開発項目2 木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発/高機能リグノセルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514168843
【氏名又は名称】地方独立行政法人京都市産業技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000109635
【氏名又は名称】星光PMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】中坪 文明
(72)【発明者】
【氏名】尾村 春夫
(72)【発明者】
【氏名】仙波 健
(72)【発明者】
【氏名】北川 和男
(72)【発明者】
【氏名】伊達 隆
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-029927(JP,A)
【文献】特開2014-220345(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148233(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123150(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08J 5/04- 5/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ミクロフィブリル化セルロース系繊維、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を含有する繊維強化樹脂組成物であって、
前記(A)ミクロフィブリル化セルロース系繊維及び前記(B)植物繊維が、それぞれ下記要件(a)及び(b)を満たす、繊維強化樹脂組成物。
要件(a):
(A)ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、下式(1):
(Lg)Cell-O-R (1)
〔式(1)中、(Lg)Cell-は、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニンから水酸基を除いた残基を示す。
-O-Rは、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニン中の、水酸基を示すか、又は一部の水酸基の水素原子が置換基Rにより置換されていることを示し、Rは、水素原子、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【化1】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩を示す。〕
で表される非化学修飾又は化学修飾セルロース系高分子で構成される繊維のミクロフィブリル化繊維である。
要件(b):
(B)植物繊維が、
(B-1)ラミー、リネン、及びアバカからなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物繊維、又は、
(B-2)前記(B-1)の植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【化2】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維である。
【請求項2】
前記要件(a)の式(1)におけるRが、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【化3】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩である、請求項1に記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項3】
前記要件(a)の式(1)におけるRが、アセチル基である、請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項4】
前記要件(b)の(B)植物繊維が、(B-1)ラミー、リネン、及びアバカからなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物繊維である、請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項5】
前記要件(b)の(B)植物繊維が、(B-2)前記(B-1)の植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維である、請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項6】
前記要件(b)の(B)植物繊維が、ラミー及び/又はアセチル基で修飾されたラミーである、請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C)熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリオレフィン、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート-ABSアロイ(PC-ABSアロイ)、及び変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂である、請求項1~6のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物からなる成形体。
【請求項9】
(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を含有する繊維強化樹脂組成物の製造方法であって、
(AP)化学修飾セルロース系パルプ、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を溶融混練し、当該溶融混練中に化学修飾セルロース系パルプをミクロフィブリル化する工程を含み、
前記(AP)化学修飾セルロース系パルプ、前記(B)植物繊維、及び前記(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、それぞれ下記要件(ap)、(b)、及び(a-1)を満たす、製造方法。
要件(ap):
(AP)化学修飾セルロース系パルプが、下式(1-1):
(Lg)Cell-O-R (1-1)
〔式(1-1)中、(Lg)Cell-は、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース、及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニンから水酸基を除いた残基を示す。-O-Rは、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース、及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニン中の一部の水酸基の水素原子が置換基Rにより置換されていることを示し、Rは、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【化4】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩を示す。〕
で表される化学修飾セルロース系高分子で構成される化学修飾セルロース系パルプである。
要件(b):
(B)植物繊維が、
(B-1)ラミー、ヘンプ、リネン、ジュート、アバカ、サイザル、ケナフ、及び綿花からなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物繊維、又は、
(B-2)前記(B-1)の植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【化5】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維である。
要件(a-1):
(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、前記式(1-1)で表される化学修飾セルロース系高分子で構成される繊維のミクロフィブリル化繊維である。
【請求項10】
(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を含有する繊維強化樹脂組成物を製造する方法であって、
工程(1):
(AP)化学修飾セルロース系パルプ、及び(C)熱可塑性樹脂を溶融混練して当該溶融混練中に化学修飾セルロース系パルプをミクロフィブリル化する工程、及び
工程(2):
前記工程(1)で得られた混練物と、(B)植物繊維、又は、植物繊維と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物とを複合化する工程
を含み、
前記(AP)化学修飾セルロース系パルプ、前記(B)植物繊維、及び前記(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、それぞれ下記要件(ap)、(b)、及び(a-1)を満たす、製造方法。
要件(ap):
(AP)化学修飾セルロース系パルプが、下式(1-1):
(Lg)Cell-O-R (1-1)
〔式(1-1)中、(Lg)Cell-は、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース、及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニンから水酸基を除いた残基を示す。-O-Rは、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース、及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニン中の一部の水酸基の水素原子が置換基Rにより置換されていることを示し、Rは、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【化6】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩を示す。〕
で表される化学修飾セルロース系高分子で構成される化学修飾セルロース系パルプである。
要件(b):
(B)植物繊維が、
(B-1)ラミー、ヘンプ、リネン、ジュート、アバカ、サイザル、ケナフ、及び綿花からなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物繊維、又は、
(B-2)前記(B-1)の植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【化7】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維である。
要件(a-1):
(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、前記式(1-1)で表される化学修飾セルロース系高分子で構成される繊維のミクロフィブリル化繊維である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂組成物及びその製造方法、並びに成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境の維持又は改善のために、力学特性及び機能性に優れ、且つ、製造、使用及び廃棄時に人及び環境に負荷の少ない素材の開発が要望されている。
【0003】
繊維強化樹脂組成物は、金属に比べ製造時のエネルギー負荷が小さく、また軽量であることから、自動車部材、航空機部材、家庭用機器部材、建設部材等の広い分野で使用されてきた(例えば、特許文献1~7)。
【0004】
特許文献1にはラミー、ケナフ、ジュートなどの植物靭皮繊維のマットに樹脂を含浸した複合体と基材とを加熱圧縮したボードが開示されている。
【0005】
特許文献2には、ラミーなどの植物靭皮繊維の撚糸に繰返し引張荷重を負荷することによって植物繊維の機械的性質を改質する方法、及び、このように改質された植物繊維に樹脂の含浸、混合、熱圧加工等の工程を経て、ワイヤー、ペレット、薄板等の中間素材の調製が可能であることが開示されている。
【0006】
特許文献3~5には、異なる2種の繊維の混合物と樹脂(樹脂製接着剤)とからなる複合体が開示されている。詳細には、特許文献3には植物靭皮繊維及び木材由来繊維の混合物と接着剤とからなるボードが開示されている。特許文献4には、平均繊維径70~400μmの植物繊維(主構成繊維)とそれより微細な平均繊維径20~70μmの植物繊維との混合物を粒状接着剤で接着したボードが開示され、特許文献5にはその製造方法が開示されている。
【0007】
特許文献6には、ナノオーダーの繊維幅(数平均繊維幅2nm以上1000nm未満)のセルロース繊維及びこれより太い第2の繊維(数平均繊維幅1000nm以上100000nm以下)からなる不織布と樹脂とを含有する複合体が開示されている。
【0008】
特許文献7には、化学修飾セルロースナノファイバーと熱可塑性樹脂との複合によって強度特性(弾性率及び強度)が改良された繊維強化樹脂組成物、及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-30092号公報
【文献】特開2007-51405号公報
【文献】特開2013-256029号公報
【文献】特開2014-76589号公報
【文献】特開2014-76588号公報
【文献】特開2015-25033号公報
【文献】特開2016-176052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
セルロース系ミクロフィブリル化繊維を含有する樹脂組成物は、繊維を含有しない樹脂に比べて高い強度と弾性率とを有することから、構造材料として優れるが、含有繊維量を増加させると耐衝撃性が低下する傾向にあることから、改良の余地がある。
【0011】
前記特許文献1には、ラミーなどの樹脂を含浸させた植物靭皮繊維マットと基材とを加熱圧縮して作製したボードの耐衝撃性の試験結果が、他の試験結果と共に記載されているが、熱可塑性樹脂に混練された植物靭皮繊維の耐衝撃性を記載又は示唆するものではない。前記特許文献2にはラミーを含む樹脂組成物が開示され、前記特許文献3~6には互いに異なる2種の繊維の混合物と樹脂(樹脂製接着剤)からなる複合体が記載されているが、これら複合体の耐衝撃性に関する記載はない。前記特許文献7には、木材由来の化学修飾セルロースナノファイバーで強化された樹脂組成物が開示されているが、本発明に使用するような植物繊維を含有してはいない。
【0012】
本発明は、強度及び弾性率に優れ、且つ耐衝撃強度にも優れる繊維強化樹脂組成物を提供することを主な目的とする。本発明はさらに、その製造方法及び成形体を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、特定のセルロース系ミクロフィブリル化繊維と特定の植物繊維とを併用して繊維強化樹脂組成物を調製したところ、その組成物からなる成形体は、優れた強度特性(高い曲げ強度及び弾性率)を示し、さらに、繊維を含有しない樹脂成形体に比べて耐衝撃性が向上するか、又は耐衝撃性の低下が少ない(耐衝撃性が維持できる)という優れた特性を有することを見出し、その知見をもとに本発明を完成させた。
【0014】
本発明は、下記の繊維強化樹脂組成物、成形体、及び繊維強化樹脂組成物の製造方法に関する。
【0015】
項1.
(A)ミクロフィブリル化セルロース系繊維、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を含有する繊維強化樹脂組成物であって、
前記(A)ミクロフィブリル化セルロース系繊維及び前記(B)植物繊維が、それぞれ下記要件(a)及び(b)を満たす、繊維強化樹脂組成物。
要件(a):
(A)ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、下式(1):
(Lg)Cell-O-R (1)
〔式(1)中、(Lg)Cell-は、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニンから水酸基を除いた残基を示す。
-O-Rは、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニン中の、水酸基を示すか、又は一部の水酸基の水素原子が置換基Rにより置換されていることを示し、Rは、水素原子、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0016】
【化1】
【0017】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩を示す。〕
で表される非化学修飾又は化学修飾セルロース系高分子で構成される繊維のミクロフィブリル化繊維である。
要件(b):
(B)植物繊維が、
(B-1)ラミー、ヘンプ、リネン、ジュート、アバカ、サイザル、ケナフ、及び綿花からなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物繊維、又は、
(B-2)前記(B-1)の植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0018】
【化2】
【0019】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)
で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維である。
【0020】
項2.
前記要件(a)の式(1)におけるRが、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0021】
【化3】
【0022】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)
で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩である、上記項1に記載の繊維強化樹脂組成物。
【0023】
項3.
前記要件(a)の式(1)におけるRが、アセチル基である、上記項1又は2に記載の繊維強化樹脂組成物。
【0024】
項4.
前記要件(b)の(B)植物繊維が、(B-1)ラミー、ヘンプ、リネン、ジュート、アバカ、サイザル、ケナフ、及び綿花からなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物繊維である、上記項1~3のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【0025】
項5.
前記要件(b)の(B)植物繊維が、(B-2)前記(B-1)の植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維である、上記項1~3のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【0026】
項6.
前記要件(b)の(B)植物繊維が、ラミー及び/又はアセチル基で修飾されたラミーである、上記項1~3のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【0027】
項7.
前記(C)熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリオレフィン、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート-ABSアロイ(PC-ABSアロイ)、及び変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂である、上記項1~6のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【0028】
項8.
上記項1~7のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物からなる成形体。
【0029】
項9.
(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を含有する繊維強化樹脂組成物の製造方法であって、
(AP)化学修飾セルロース系パルプ、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を溶融混練し、当該溶融混練中に化学修飾セルロース系パルプをミクロフィブリル化する工程を含み、
前記(AP)化学修飾セルロース系パルプ、前記(B)植物繊維、及び前記(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、それぞれ下記要件(ap)、(b)、及び(a-1)を満たす、製造方法。
要件(ap):
(AP)化学修飾セルロース系パルプが、下式(1-1):
(Lg)Cell-O-R (1-1)
〔式(1-1)中、(Lg)Cell-は、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース、及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニンから水酸基を除いた残基を示す。-O-Rは、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース、及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニン中の一部の水酸基の水素原子が置換基Rにより置換されていることを示し、Rは、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0030】
【化4】
【0031】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩を示す。〕
で表される化学修飾セルロース系高分子で構成される化学修飾セルロース系パルプである。
要件(b):
(B)植物繊維が、
(B-1)ラミー、ヘンプ、リネン、ジュート、アバカ、サイザル、ケナフ、及び綿花からなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物繊維、又は、
(B-2)前記(B-1)の植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0032】
【化5】
【0033】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)
で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維である。
要件(a-1):
(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、前記式(1-1)で表される化学修飾セルロース系高分子で構成される繊維のミクロフィブリル化繊維である。
【0034】
項10.
(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を含有する繊維強化樹脂組成物を製造する方法であって、
工程(1):
(AP)化学修飾セルロース系パルプ、及び(C)熱可塑性樹脂を混練して当該溶融混練中に化学修飾セルロース系パルプをミクロフィブリル化する工程、及び
工程(2):
前記工程(1)で得られた混練物と、(B)植物繊維、又は、植物繊維と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物とを複合化する工程
を含み、
前記(AP)化学修飾セルロース系パルプ、前記(B)植物繊維、及び前記(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、それぞれ下記要件(ap)、(b)、及び(a-1)を満たす、製造方法。
要件(ap):
(AP)化学修飾セルロース系パルプが、下式(1-1):
(Lg)Cell-O-R (1-1)
〔式(1-1)中、(Lg)Cell-は、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース、及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニンから水酸基を除いた残基を示す。-O-Rは、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース、及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニン中の一部の水酸基の水素原子が置換基Rにより置換されていることを示し、Rは、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0035】
【化6】
【0036】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩を示す。〕
で表される化学修飾セルロース系高分子で構成される化学修飾セルロース系パルプである。
要件(b):
(B)植物繊維が、
(B-1)ラミー、ヘンプ、リネン、ジュート、アバカ、サイザル、ケナフ、及び綿花からなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物繊維、又は、
(B-2)前記(B-1)の植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0037】
【化7】
【0038】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)
で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維である。
要件(a-1):
(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、前記式(1-1)で表される化学修飾セルロース系高分子で構成される繊維のミクロフィブリル化繊維である。
【発明の効果】
【0039】
本発明の繊維強化樹脂組成物は、特定のミクロフィブリル化セルロース系繊維、及び特定の植物繊維を含有することから、この繊維強化樹脂組成物からなる成形体は、繊維を含有しない樹脂の成形体に比べて、強度特性(弾性率及び強度)が大幅に改良され、さらに、耐衝撃性も改良されるか又は樹脂自身の耐衝撃性が維持されている。
【0040】
即ち、樹脂組成物にフィブリル化セルロース系繊維と植物繊維との双方を含有させることによって、繊維強化樹脂組成物からなる成形体は、曲げ弾性率及び曲げ強度が向上するとともに、耐衝撃性が維持又は向上するという効果が得られる。
【0041】
本発明の繊維強化樹脂組成物は、射出成形法により成形できるので、成形体の生産性が高い。よって、成形体を安い製造コストで製造することができる。
【0042】
また、本発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法として、化学修飾セルロース系繊維、植物繊維、及び樹脂を溶融混練する工程を採用すれば、溶融混練と化学修飾セルロース系繊維のミクロフィブリル化とを同時に行うことができるので、高い生産性で樹脂組成物を製造するができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】アセチル化トドマツパルプの電子顕微鏡写真像である。
図2】実施例2の組成物から調製した試料中のアセチル化トドマツ繊維の電子顕微鏡写真像である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
(1)繊維強化樹脂組成物
本発明の繊維強化樹脂組成物は、(A)ミクロフィブリル化セルロース系繊維、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を含有する。 前記(A)ミクロフィブリル化セルロース系繊維は、下記要件(a)を満たす。
【0045】
要件(a):
(A)ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、下式(1):
(Lg)Cell-O-R (1)
〔式(1)中、(Lg)Cell-は、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニンから水酸基を除いた残基を示す。
-O-Rは、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニン中の、水酸基を示すか、又は一部の水酸基の水素原子が置換基Rにより置換されていることを示し、Rは、水素原子、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0046】
【化8】
【0047】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩を示す。〕
で表される非化学修飾又は化学修飾セルロース系高分子で構成される繊維のミクロフィブリル化繊維である。
【0048】
前記(B)植物繊維は、下記要件(b)を満たす。
要件(b):
(B)植物繊維が、
(B-1)ラミー、ヘンプ、リネン、ジュート、アバカ、サイザル、ケナフ、及び綿花からなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物繊維、又は、
(B-2)前記(B-1)の植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0049】
【化9】
【0050】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)
で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維である。
【0051】
(1-1)(A)ミクロフィブリル化セルロース系繊維
本明細書で使用される用語は、次の意味を有する。
【0052】
「ミクロフィブリル化セルロース系繊維」は、セルロース系繊維がミクロフィブリル化されたものを意味する。以下、「ミクロフィブリル化セルロース系繊維」を「MFC」と記載することもある。
【0053】
「セルロース系繊維」は、セルロース、ホロセルロース、及びリグノセルロースからなる群(高分子群)から選ばれる少なくとも1種類の高分子(セルロース系高分子)で構成される繊維を意味する。以下、セルロース系高分子を、「(Lg)Cell-OH」で表示する場合もある。すなわち、本明細書において、セルロース系繊維とは、セルロース系高分子「(Lg)Cell-OH」からなる繊維を意味する。
【0054】
ここで、「(Lg)Cell-」は、前記高分子群から選ばれる少なくとも1種類の高分子を構成する多糖及びリグニンから水酸基を除いた残基を意味する。
【0055】
本発明に使用されるセルロース系繊維は、セルロース系高分子〔(Lg)Cell-OH〕で構成される繊維、又は、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニン中の一部の水酸基の水素原子が置換基R(置換基Rの詳細は後述する)により置換された高分子で構成される繊維である。
【0056】
すなわち、本発明に使用されるセルロース系繊維は、下式(1):(Lg)Cell-O-R (1)
〔式(1)中、(Lg)Cell-は、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニンから水酸基を除いた残基を示す。
O-Rは、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニン中の、水酸基を示すか、又は一部の水酸基の水素原子が置換基Rにより置換されていることを示す。〕
で表される、非化学修飾セルロース系高分子で構成される繊維(以下、「非化学修飾セルロース系繊維」ともいう)又は化学修飾セルロース系高分子で構成される繊維(以下、「化学修飾セルロース系繊維」ともいう)と定義される。
【0057】
従って、本発明に使用されるミクロフィブリル化セルロース系繊維(MFC)は、
(i) 非化学修飾セルロース系繊維〔上記式(1)においてO-R が水酸基である高分子で構成される繊維〕がミクロフィブリル化された繊維(すなわち、非化学修飾MFC)、及び、
(ii) 化学修飾セルロース系繊維〔上記式(1)においてO-Rが、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニン中の一部の水酸基の水素原子が置換基Rにより置換されたセルロース系高分子で構成される繊維〕がミクロフィブリル化された繊維(すなわち、化学修飾MFC)を包含する。
【0058】
化学修飾MFCは、非化学修飾MFCを構成するセルロース、ホロセルロース及び/又はリグノセルロース中の多糖及びリグニンの一部の水酸基の水素原子が置換基Rにより置換された繊維でもある。
【0059】
化学修飾MFCは、セルロース系パルプ(以下、「CP」と記載することもある)を化学修飾して化学修飾CPとし、得られた化学修飾CPを解繊しミクロフィブリル化する方法、又は、非化学修飾MFCを化学修飾する方法によって得ることができる。
【0060】
ここで、「セルロース系パルプ」は、セルロース系高分子からなる繊維集合体を意味する。セルロース系パルプ(CP)には、リグニンを含まないパルプ(セルロースからなるパルプ、ホロセルロースからなるパルプ等)、及びリグニンを含むパルプ(リグノパルプ)が包含される。
【0061】
なお、化学修飾MFCの製造方法は後述する。
【0062】
置換基(R)
本発明の繊維強化樹脂組成物に含有されるMFCは、非化学修飾MFC又は化学修飾MFCである。樹脂中での分散性解繊性の点から、MFCは、化学修飾MFCであることが好ましい。
【0063】
化学修飾MFCの中でも、前記式(1)における置換基Rが、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0064】
【化10】
【0065】
(式(2)中、R1及びR2は、前記と同じである。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、及びカルボキシ基含有アシル基の塩からなる群から選ばれる1種又は2種である化学修飾MFCが好ましい。
【0066】
前記式(1)における置換基Rとしては、炭素数2~3のアシル基(アセチル基及びプロピオニル基)が更に好ましい。置換基Rとして、製造の容易さ及び製造コストの点からアセチル基が最も好ましい。
【0067】
前記式(2)で表されるカルボキシ基含有アシル基の塩とは、当該カルボキシ基が無機塩又は有機塩の状態になっていることを意味する。
【0068】
前記無機塩として、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、銅塩等の2価の金属塩;アルミニウム塩等の3価の金属塩等が好ましい。前記有機塩として、1~4級のアンモニウム塩、及びポリアミンとの塩が好ましい。
【0069】
上記の各種置換基を有する化学修飾MFCは、繊維強化樹脂組成物中での分散性が良好であることから好ましい。
【0070】
非化学修飾MFCと化学修飾MFCを組み合わせて(併用して)、本発明の繊維強化樹脂組成物に含有させることもできる。また、互いに異なる2種の化学修飾MFCを組み合わせて(併用して)、本発明の繊維強化樹脂組成物に含有させることもできる。
【0071】
置換基Rが異なる2種の化学修飾MFCを併用することで、繊維強化樹脂組成物中に、これらの化学修飾MFCを良好に分散させることができる。
【0072】
化学修飾MFC及び非化学修飾MFCの原料
化学修飾MFC及び非化学修飾MFCの原料として、パルプが好ましく用いられる。
【0073】
パルプは、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、稲わら、バガス、ビート絞りかす等の植物性原料中に含まれる繊維を分離したものであって、セルロース、ヘミセルロース、ホロセルロース及び/又はリグノセルロースを含む。
【0074】
木材として、例えば、マツ(トドマツ、アカマツ、エゾナツなど)、ダグラスファー、ヘムロックスプルース、シトカスプルース、スギ、ヒノキなどの針葉樹、又は、ユーカリ、アカシア、ポプラ、ブナ、ナラ、カバ、オーク、アルダー等の広葉樹由来の木材が好ましく用いられる。上記以外の植物性原料として、農産物残廃物、古紙、編織布等を使用することもできる。古紙として、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌及びコピー用紙の古紙等が好ましい。パルプの原料は、これらに限定されるものではない。パルプは1種単独で用いてもよく、これらから選ばれた2種以上を用いてもよい。
【0075】
非化学修飾MFC及び化学修飾MFCの原料であるパルプには、セルロース系パルプ(CP)、すなわち、リグニンを含まないパルプ、及びリグニンを含むパルプ(リグノセルロースを含むパルプ)のいずれも使用することができる。以下、「リグノセルロースを含むパルプ」を「リグノパルプ」又は「LP」と記載することもある。
【0076】
非化学修飾MFC及び化学修飾MFCの原料であるパルプには、リグノパルプ(LP)を使用することが好ましい。つまり、前記要件(a)の式(1)における(Lg)Cell-が、リグノセルロースを構成する多糖及びリグニンから水酸基を除いた残基であることが好ましい。
【0077】
リグノセルロースは、樹木細胞壁を構成する複合炭化水素高分子(天然高分子混合物)である。リグノセルロースは、主に多糖類のセルロース、ヘミセルロース、及び芳香族高分子であるリグニンから構成されていることが知られている(下記の参照例1及び参照例2参照)。
【0078】
参照例1:Review Article Conversion of Lignocellulosic Biomass to Nanocellulose: Structure and Chemical Process H. V. Lee, S. B. A. Hamid, and S. K. Zain, Scientific World Journal Volume 2014,、Article ID 631013, 20 pages, http://dx.doi.org/10.1155/2014/631013
参照例2:New lignocellulose pretreatments using cellulose solvents: A review, Noppadon Sathitsuksanoh, Anthe George and Y-H Percival Zhang, J Chem Technol Biotechnol 2013; 88: 169-180
【0079】
本明細書で使用される「リグノセルロース」の用語は、植物中に天然に存在する化学構造のリグノセルロース、人工的に改変されたリグノセルロース、又はこれらの混合物を意味する。これは、植物、例えば木材を機械的及び/又は化学的に処理して得られる種々のパルプ中に含まれる、天然に存在する化学構造のリグノセルロース、化学的若しくは機械的に改変を受けたリグノセルロース、又はこれらの混合物である。
【0080】
本発明で使用されるリグノセルロースからなる繊維は、天然に存在する化学構造のリグノセルロースからなる繊維に限定されるものではない。また、リグノセルロース中のリグニン含有量も限定されるものではない。よって、「リグノセルロース」は、リグニン含有量の多少にかかわらず、植物中に存在するリグニンとセルロースとが結合した物質、及び/又は、リグニンとセルロースとの混合物を意味する。従って、「リグノセルロース」及び「リグノパルプ」の用語は、リグニン成分の含量が微量であっても、それぞれリグノセルロース、及びリグノパルプとして解釈される。
【0081】
パルプ又はリグノパルプは、前記の植物性原料由来の原料を、機械パルプ化法、化学パルプ化法、又は機械パルプ化法と化学パルプ化法との組み合わせにより処理して得ることができる。
【0082】
このようなパルプとして、各種クラフトパルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹酸素漂白クラフトパルプ(NOKP)、及び針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP))が好ましい。また、砕木パルプ(GP)、リファイナーGP(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の機械パルプ(MP)も好ましい。
【0083】
クラフトパルプの中にはリグニンを含んでいないものもあるが、その含有量に拘わらず非化学修飾MFC及び化学修飾MFCの原料として使用可能である。
【0084】
これらの中でもリグノパルプは、リグニンを含まないセルロース繊維又はパルプに比べて、その製造工程数が少ないこと、その原料(例えば木材)からの収率が良好であること、その製造に要する化学薬剤が少ないこと、並びに少ないエネルギーで製造できることから、製造コストの点で有利である。よって、リグノパルプを、本発明に有利に使用することができる。
【0085】
更には、針葉樹のパルプの中でも、トドマツ、アカマツ、又はスギから得られるリグノパルプは、それを使用して作製した非化学修飾MFC及び/又は化学修飾MFCを含有させることで、強度特性に優れた繊維強化樹脂組成物が得られることから好ましい。
【0086】
リグノセルロース及びリグノパルプに含まれるリグニン量は、クラーソン法で定量することができる。本発明では、リグニンを0.1~40質量%程度含むリグノパルプを使用することが好ましい。リグノパルプのリグニン含有量は、0.1~35質量%程度が更に好ましく、0.1~30質量%程度が特に好ましい。
【0087】
非化学修飾MFCの製造方法
非化学修飾MFCは、例えば、非化学修飾CPを懸濁液又はスラリーとし、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機(好ましくは二軸混練機)、ビーズミル等による機械的な摩砕又は叩解等の公知手段を使用し、非化学修飾CPを解繊及びミクロフィブリル化することにより調製することができる。
【0088】
化学修飾MFCの製造方法
化学修飾MFCは、セルロース系パルプ(CP)を化学修飾して化学修飾セルロース系パルプ(化学修飾CP)を得、これを解繊することにより得ることができる。
【0089】
また、化学修飾MFCは、セルロース系パルプ(CP)を解繊してミクロフィブリル化セルロース系繊維(MFC)を得、これを化学修飾することによっても得ることができる。
【0090】
先ず、化学修飾MFCの調製に使用される化学修飾セルロース系パルプ(化学修飾CP)の製造方法を説明する。セルロース系パルプ(CP)又は化学修飾CPの解繊方法は後述する。
【0091】
化学修飾セルロース系パルプ(化学修飾CP)の製造方法
(i)アシル化セルロース系パルプ(炭素数2~4のアシル化CP)の製造
前記式(1):(Lg)Cell-O-Rで示される化学修飾セルロース系高分子からなる化学修飾パルプのうち、置換基Rが炭素数2~4のアシル基である化学修飾セルロース系高分子からなるパルプ(アシル化CP)は、原料のセルロース系パルプ(CP)の繊維表面又は非晶部分に存在する水酸基をアシル化することによって得られる。
【0092】
このアシル化は、原料のCP中に元々存在するセルロース結晶構造を壊さないように、原料のCPの繊維表面又は非晶部分に存在する水酸基、例えばセルロース、ヘミセルロース、及びリグニンの水酸基等をアシル化することが好ましい。
【0093】
アシル化反応は、原料のCPを膨潤させることのできる無水非プロトン性極性溶媒、例えばN-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等の中に原料のCPを懸濁し、対応するアシル基を有するカルボン酸無水物又は酸塩化物で、塩基の存在下に、従来の方法(特開2016-176052等に記載の方法)により行うことができる。
【0094】
前記式(1)におけるRによる置換度(以下に詳しく説明する)の測定方法は、従来の方法(特開2016-176052等に記載の方法)に従うことができる。置換度は、上記アシル化におけるアシル化剤の量、反応温度、反応時間等を調節することにより調整することができる。
【0095】
(ii)カルボキシ基含有アシル基で修飾されたセルロース系パルプ(カルボキシアシル化CPと略称する)及びその塩の製造
前記式(1):(Lg)Cell-O-Rにおいて、Rが下式(2):
【0096】
【化11】
【0097】
(式(2)中、R1及びR2は、前記と同じである。)
で表されるカルボキシ基含有アシル化セルロース系パルプ(カルボキシアシル化CP)は、従来の方法(特許第5496435号等に記載の方法)に従い、原料のCPに、下式(3):
【0098】
【化12】
【0099】
(式(3)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)
で表されるコハク酸無水物又はその誘導体(以下、これらを「式(3)の酸無水物」ということもある)を反応させて、原料のCP中に存在する水酸基の一部を、アシル化(前記式(2)で表される、カルボキシ基含有アシル基でハーフエステル化)することにより製造することができる。
【0100】
式(3)の酸無水物による原料CPの化学修飾(ハーフエステル化)は、非プロトン性極性有機溶媒に分散させた原料CPと式(3)の酸無水物とを、塩基の存在下に加熱して反応させ、原料CP中に存在する水酸基の一部をハーフエステル化することにより行うことができる。
【0101】
ここで、ハーフエステルとは、式(3)の酸無水物に存在する2つのカルボニル基のうちの1つが原料CP中の水酸基とエステル結合を形成し、もう1つのカルボニル基はヒドロキシカルボニル基となった状態のエステルをいう。
【0102】
前記式(2)で表されるカルボキシアシル化CP中に存在するカルボキシル基は、無機塩又は有機塩の状態になっていてもよい。このようなカルボキシアシル化CPの塩は、当該カルボキシアシル化CPを水又は含水アルコール等の液体に分散させて、これに、ナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩;カルシウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、銅塩等の2価の金属塩;アルミニウム塩等の3価の金属塩;1~4級のアンモニウム塩、及びポリアミンとの塩の水溶液又は分散液を添加することによって調製することができる。
【0103】
前記式(3)の酸無水物に属するアルケニルコハク酸無水物には、炭素数4~20のオレフィン由来の骨格と無水マレイン酸骨格とを持つ化合物が例示される。
【0104】
これらの化合物として、ペンテニルコハク酸無水物、ヘキセニルコハク酸無水物、オクテニルコハク酸無水物、デセニルコハク酸無水物、ウンデセニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、トリデセニルコハク酸無水物、ヘキサデセニルコハク酸無水物、オクタデセニルコハク酸無水物等のアルケニルコハク酸無水物等を好ましく使用することができる。
【0105】
アルケニルコハク酸無水物は、各化合物を単独で使用してもよく、2種類以上を併用して用いることもできる。
【0106】
本明細書では、特定の炭素数のオレフィン鎖を有するアルケニルコハク酸無水物を、アルケニルコハク酸無水物の略称(ASA)とそのオレフィン鎖の炭素数とを組み合わせて表記することがある。
【0107】
例えば、炭素数16のオレフィン鎖を有するアルケニルコハク酸無水物(ヘキサデセニルコハク酸無水物)を「ASA-C16」と表記することがある。また、本発明に使用するASAとして商品名又は商品コード番号で記載することもある。例えば、AS1533(星光PMC株式会社製)、TNS135(星光PMC株式会社製)、リカシッドDDSA(テトラプロペニル無水コハク酸、新日本理化学株式会社製)等を好ましく用いることができる。
【0108】
アルキルコハク酸無水物としては、前記式(3)で表されるアルケニルコハク酸無水物のアルケニル基の不飽和結合が水素添加により還元されたもの(即ち、アルケニル基がアルキル基に変換されたコハク酸無水物)を使用することができる。
【0109】
これらの化合物として、オクチルコハク酸無水物、ドデシルコハク酸無水物、ヘキサデシルコハク酸無水物、オクタデシルコハク酸無水物等のアルキルコハク酸無水物を好ましく使用することができる。
【0110】
アルキルコハク酸無水物は、各化合物を単独で使用してもよく、2種類以上を併用することもできる。また、アルキルコハク酸無水物とアルケニルコハク酸無水物とを併用することもできる。
【0111】
原料CPと式(3)の酸無水物との反応は、無水非プロトン性極性溶媒(有機溶媒)中で、反応を加速するために、塩基の存在下で反応を行うことが好ましい。塩基として、ピリジン、ジメチルアニリン等のアミン類、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等の酢酸のアルカリ金属塩、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩を好適に使用することができる。
【0112】
反応温度は、使用する溶媒の沸点にもよるが、20~150℃程度が好ましく、30~120℃程度がより好ましく、40~100℃程度が更に好ましい。
【0113】
反応時間は、式(3)の酸無水物の種類により適宜調整する。反応途中のリグノセルロース繊維の一部を採取し、この赤外線(IR)吸収スペクトルを測定して、反応により生じるハーフエステルのカルボニル伸縮振動に基づくIR吸収ピークを追跡することによって、ハーフエステル化の程度(置換度)を確認しながら調整することができる。
【0114】
なお、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を化学修飾して、化学修飾MFCを製造する場合は、セルロース系パルプ(CP)の代わりにMFCを使用して、上記(i)及び(ii)と同様の方法で、MFCを化学修飾することにより化学修飾MFCを得ることができる。
【0115】
置換基Rによる化学修飾CP又は化学修飾MFCの修飾程度
置換基Rによる化学修飾CP又は化学修飾MFCの修飾程度(以下、「置換度」、又は「DS」ともいう)とは、前記式(1)で表される化学修飾セルロース系高分子の残基〔(Lg)Cell-〕の1単位(繰り返し単位)に存在する水酸基の水素原子が置換基Rで置換された程度のことをいう。
【0116】
化学修飾セルロース系高分子が全てセルロースで構成されている場合(セルロースの場合)は、この繰り返し単位はグルコピラノース残基であり、この1単位あたりの水酸基数は3であるので、置換度の上限は3である。
【0117】
一方、セルロース系高分子がリグノセルロースの場合、リグノセルロースには、セルロースと共にヘミセルロースとリグニンとが含まれる。へミセルロースに含まれるキシランにおけるキシロース残基、又はアラビノガラクタンにおけるガラクトース残基の水酸基数は2であり、また、標準的なリグニン残基の水酸基数も2である。よって、これらの水酸基数は3より小さい。
【0118】
従って、リグノパルプにおける置換基Rによる置換度の上限は3より小さい。この置換度の上限は、リグノパルプが含有するヘミセルロース及びリグニンの含量に依存して、2.7~2.8程度である。
【0119】
また、セルロース系高分子がホロセルロースの場合も、ホロセルロースにはセルロースと共にヘミセルロースが含まれるので、この平均的な繰り返し単位中の水酸基数は3よりも小さい。よって、置換度の上限値は3より小さい。
【0120】
上記のようにセルロース系繊維中のヘミセルロース又はリグニンの含量に依存するものの、化学修飾セルロース系パルプ(化学修飾CP)、化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維(化学修飾MFC)の前記置換基Rによる置換度(DS)は、0.3~2.55程度が好ましい。置換度(DS)を0.3~2.55程度に設定することによって、適度の結晶化度及びSP(溶解度パラメーター)を有する化学修飾MFCを得ることができる。
【0121】
置換基Rが炭素数2~4のアシル基の場合、置換度(DS)は0.4~2.55程度がより好ましく、0.5~2.5が更に好ましい。置換基Rがアセチル基の場合、DSは0.4~2.5が好ましく、より好ましくは0.5~2.5であり、さらに好ましくは0.56~2.5である。その範囲のDSであれば結晶化度を42.7%程度以上に保つことが可能である。
【0122】
置換基Rが、前記式(2)で示されるカルボキシ基含有アシル基の場合、置換度(DS、すなわちハーフエステル化の程度)は、親水性の高い原料CPの繊維をこれよりも疎水性の熱可塑性樹脂中に均一に分散させる必要性から、0.05~2.0程度が好ましく、0.1~2.0程度がより好ましく、0.1~0.8程度が更に好ましい。
【0123】
置換度(DS)は、元素分析、中和滴定法、FT-IR、二次元NMR(1H及び13C-NMR)等の各種分析方法等により分析することができる。
【0124】
化学修飾CPを解繊して化学修飾MFCを製造する方法
化学修飾CPの解繊及びミクロフィブリル化は、例えば、化学修飾CPを懸濁液又はスラリーとし、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機(好ましくは多軸混練機)、ビーズミル等による機械的な摩砕又は叩解等の公知手段を使用することにより行うことができる。
【0125】
化学修飾CPを使用して繊維強化樹脂組成物を作製する時は、化学修飾CPは熱可塑性樹脂と共に一軸又は多軸混練機(好ましくは多軸混練機)で、加熱下に溶融し混練することが好ましい。化学修飾CPは混練中のせん断力により解繊されてミクロフィブリル化し、熱可塑性樹脂中で化学修飾MFCとすることができる。したがって、化学修飾CPを熱可塑性樹脂と共に溶融混練する方法によれば、化学修飾MFC を含有する熱可塑樹脂組成物を単純な操作で有利に製造することができる。
【0126】
非化学修飾MFCから化学修飾MFCを製造する方法
前記の通り、原料のセルロース系パルプ(原料CP)を懸濁液又はスラリーとし、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機(好ましくは二軸混練機)、ビーズミル等による機械的な摩砕又は叩解等の公知手段を用いて解繊及びフィブリル化することにより、非化学修飾MFCを製造することができる。
【0127】
次いで、これを前記の化学修飾CPの製造方法と同様の方法で化学修飾して、化学修飾MFCを製造することができる。
【0128】
非化学修飾MFC及び化学修飾MFCの繊維径
非化学修飾MFCは、前述のセルロース系パルプ(例えばリグノパルプ)中の繊維をナノサイズレベルまで解きほぐした(解繊した)ものであり、化学修飾MFCは、前記の化学修飾セルロース系パルプ(例えば、化学修飾リグノパルプ等)中の繊維をナノサイズレベルまで解きほぐした(解繊した)ものである。
【0129】
繊維強化樹脂組成物に含有される非化学修飾MFC及び化学修飾MFCの平均繊維径(繊維幅)は、通常4~1000nm程度であり、4~800nm程度が好ましく、4~200nm程度がより好ましい。繊維長の平均値は5μm程度以上であることが好ましい。
【0130】
前記範囲の平均繊維径を有する化学修飾MFCを、樹脂に含有させることにより、強度特性の優れた繊維強化樹脂組成物を製造することができる。
【0131】
なお、化学修飾CPを使用して繊維強化樹脂組成物を作製する時は、化学修飾CPを熱可塑性樹脂と溶融混練して、混練と同時に化学修飾CPを化学修飾MFCに解繊することができる。
【0132】
この際、化学修飾CPの解繊が不十分で、解繊後の繊維径が上記の繊維径よりも大きな化学修飾MFCが樹脂組成物に含まれていたとしても、本発明の目的を達成する限り、そのような化学修飾MFCを含有する樹脂組成物は本発明に包含される。
【0133】
例えば、化学修飾MFC含有樹脂組成物の曲げ弾性率が、セルロース系繊維を含有しない樹脂の曲げ弾性率に対して1.1倍以上の曲げ弾性率を示す限り、これは本発明の化学修飾MFC含有樹脂組成物である。
【0134】
非化学修飾MFCを使用して化学修飾MFCを調製する場合、この非化学修飾MFCの平均繊維径及び平均繊維長の好ましい範囲は、上記の化学修飾MFCのそれらと同様である。
【0135】
非化学修飾MFC及び化学修飾MFCの繊維径及び繊維長は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。繊維径の平均値(平均繊維径)及び繊維長の平均値(平均繊維長)は、走査型電子顕微鏡の視野内のMFC又は化学修飾MFCの少なくとも30本以上について測定した時の平均値として求めることができる。
【0136】
非化学修飾MFC及び化学修飾MFCの比表面積
非化学修飾MFC及び化学修飾MFCの比表面積は、70~300m2/g程度が好ましく、70~250m2/g程度がより好ましく、100~200m2/g程度が更に好ましい。非化学修飾MFC及び化学修飾MFCの比表面積を大きくすることで、樹脂(マトリクス)と組み合わせて組成物とした場合に、接触面積を大きくすることができ、それにより樹脂成形体の強度を向上させることができる。化学修飾MFCは、樹脂組成物の樹脂中で分散しやすいことから、樹脂成形体の強度を向上させることができるので好ましい。
【0137】
非化学修飾MFC及び化学修飾MFCの結晶化度
非化学修飾MFC及び化学修飾MFCは、原料パルプ中に存在していたセルロースの結晶構造ができる限り保持された状態であることが好ましい。
【0138】
化学修飾MFCは、原料パルプに元来存在するセルロース結晶構造が壊れないように、原料繊維の表面に存在する水酸基、例えばセルロースの水酸基、ヘミセルロースの水酸基等が化学修飾されていることが好ましい。
【0139】
そのような化学修飾処理により、MFC本来の優れた力学的特性を有する化学修飾MFCを得ることができる。MFCを化学修飾することで樹脂中での化学修飾MFCの分散性が促進され、樹脂に対する化学修飾MFCの補強効果が向上する。
【0140】
本発明の繊維強化樹脂組成物は、組成物中に含まれる非化学修飾MFC及び化学修飾MFCの結晶化度が42.7%程度以上で、その結晶型はセルロースI型結晶を有することが好ましい。前記「結晶化度」とは、全セルロース中の結晶(主にセルロースI型結晶)の存在比である。非化学修飾MFC及び化学修飾MFCの結晶化度(好ましくはセルロースI型の結晶)は、50%程度以上が好ましく、55%程度以上がより好ましく、55.6%程度以上が更に好ましく、60%程度以上がなお更に好ましく、69.5%程度以上が特に好ましい。
【0141】
非化学修飾MFC及び化学修飾MFCの結晶化度の上限は、80%程度である。
【0142】
セルロースI型結晶構造とは、例えば朝倉書店発行の「セルロースの辞典」新装版第一刷81~86頁、或いは93~99頁に記載の通りのものである。ほとんどの天然セルロースはセルロースI型結晶構造である。これに対して、セルロースI型結晶構造ではなく、例えばセルロースII、III、又はIV型構造のセルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有するセルロースから誘導されるものである。I型結晶構造は他の構造に比べて結晶弾性率が高い。
【0143】
化学修飾MFCがI型結晶構造であることは、その広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14~17°付近及び2θ=22~23°付近の2つの位置に典型的なピークを有することから判定することができる。
【0144】
X線回折等から、セルロースにおける結晶領域の比率は、木材パルプで約50~60%、バクテリアセルロースはこれより高く約70%程度と推測されている。セルロースは、伸びきり鎖結晶であることに起因して、弾性率が高いだけでなく、鋼鉄の5倍の強度、及びガラスの1/50以下の線熱膨張係数を示す。
【0145】
(1-2)(B)植物繊維
本発明の繊維強化樹脂組成物が含有する(B)植物繊維は、上述した要件(b)を満たす。
【0146】
すなわち、(B)植物繊維は、
(B-1)ラミー、ヘンプ、リネン、ジュート、アバカ、サイザル、ケナフ、及び綿花からなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物繊維(以下、「非化学修飾植物繊維」ともいう)、又は、
(B-2)前記(B-1)の植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0147】
【化13】
【0148】
(式(2)中、R1及びR2は、前記と同じである。)
で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は、当該カルボキシ基含有アシル基の塩で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維である。
【0149】
ここで、ラミーは「苧麻」とも言い、ヘンプは「大麻」とも言い、リネンは「亜麻」とも言い、ジュートは「黄麻」とも言い、アバカは「マニラ麻」とも言い、サイザルは「サイザル麻」とも言い、ケナフは「洋麻」とも言う。
【0150】
上記植物繊維のうち、ラミー、ヘンプ、リネン、ジュード、及びケナフは靭皮繊維であり、アバカ及びサイザルは葉脈繊維であり、綿花は種子毛繊維である。
【0151】
植物繊維の平均繊維径は、10~70μm程度が好ましい。植物繊維の平均繊維長は2~200mm程度が好ましい。
【0152】
非化学修飾植物繊維としては、ラミー、リネン、アバカ、及びケナフからなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物繊維が好ましい。
【0153】
これらの中でも、ラミー及びリネンからなる群から選ばれる1種又は2種の植物繊維がより好ましく、ラミーが最も好ましい。
【0154】
化学修飾植物繊維としては、ラミー、ヘンプ、リネン、ジュート、アバカ、サイザル、ケナフ、及び綿花からなる群から選ばれる植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維が、製造が容易であることから好ましい。
【0155】
これらの中でも、ラミー、リネン、アバカ、及びケナフからなる群から選ばれる植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維が好ましく、ラミーを構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基で修飾された化学修飾植物繊維がより好ましく、ラミーを構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子がアセチル基で修飾された化学修飾植物繊維が最も好ましい。
【0156】
非化学修飾植物繊維又は化学修飾植物繊維を含む植物繊維系繊維のうちでは、ラミー又はアセチル化ラミーが、本発明の繊維強化樹脂組成物の成形体の耐衝撃性の向上又は維持に好適に寄与することから特に好ましい。
【0157】
化学修飾植物繊維の修飾程度
化学修飾植物繊維の修飾程度(以下、「置換度」、又は「DS」ともいう)とは、ラミー、ヘンプ、リネン、ジュート、アバカ、サイザル、ケナフ、及び綿花からなる群から選ばれる植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基、前記式(2)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は、当該カルボキシ基含有アシル基の塩で修飾された程度のことをいう。
【0158】
前記植物繊維はセルロースの含量が高いので、理論的には置換度の上限は3に近いが、好ましい置換度(DS)は、0.05~1.5程度であり、更に好ましくは0.1~1.2程度である。
【0159】
このような置換度に設定することによって、植物繊維中のセルロースの本来の結晶化度を損なうことなく樹脂との親和性の向上を図ることができる。
【0160】
置換基が炭素数2~4のアシル基の場合、置換度(DS)は0.2~1.2程度がより好ましく、0.3~1.0が更に好ましい。置換基がアセチル基の場合、好ましいDSは0.3~1.2であり、より好ましくは0.3~0.7である。
【0161】
化学修飾植物繊維は、セルロース系パルプ(CP)の代わりに植物繊維を用いて、前記の化学修飾セルロース系パルプ(化学修飾CP)の製造方法に準じて、植物繊維をアシル化又はハーフエステル化することによって製造することができる。
【0162】
(1-3)(C)熱可塑性樹脂
本発明の繊維強化樹脂組成物に使用されるマトリクスとして、種々の樹脂の中でも熱可塑性樹脂が、生産性及び汎用性に優れることから好適に使用される。
【0163】
熱可塑性樹脂として、ポリアミド、ポリオレフィン、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート-ABSアロイ(PC-ABSアロイ)、及び変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)が挙げられる。
【0164】
熱可塑性樹脂は、前記樹脂を単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。
【0165】
ポリアミド(PA)として、ポリアミド6(ナイロン6、PA6)、ポリアミド66(ナイロン66、PA66)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド46、ポリアミドXD10(PAXD10)、ポリアミドMXD6(PAMXD6)等を好ましく用いることができる。
【0166】
ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)との共重合体、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)、ポリエチレン(PE、特に高密度ポリエチレンHDPE)等を好ましく用いることができる。
【0167】
前記ポリプロピレン(PP)として、イソタクチックポリプロピレン(iPP)、シンジオタクチックポリプロピレン(sPP)等を好ましく用いることができる。
【0168】
脂肪族ポリエステルとして、ジオール類とコハク酸、吉草酸等の脂肪族ジカルボン酸との重合体又は共重合体(例えば、ポリブチレンサクシネート(PBS))、グリコール酸又は乳酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体又は共重合体(例えばポリ乳酸、ポリε-カプロラクトン(PCL)等)、並びにジオール類、脂肪族ジカルボン酸及び前記ヒドロキシカルボン酸の共重合体等を好ましく使用することができる。
【0169】
芳香族ポリエステルとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等のジオール類とテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸との重合体等を好ましく使用することができる。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)等を好ましく用いることができる。
【0170】
ポリアセタール(ポリオキシメチレンともいう、POM)としては、パラホルムアルデヒドの均一重合体に加えて、パラホルムアルデヒドとオキシエチレンとの共重合体も好ましく使用することができる。
【0171】
ポリカーボネート(PC)には、ビスフェノールA又はその誘導体であるビスフェノール類と、ホスゲン又はフェニルジカーボネートとの反応物を好ましく使用することができる。
【0172】
ポリスチレン(PS)として、汎用PS(GPPS)に加えて、PSマトリックスにゴム成分を分散させて耐衝撃性を改良したPS(HIPS)を好適に使用することができる。ポリスチレン(PS)に加えて、スチレンの共重合体(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ABS樹脂)は、本発明の繊維強化樹脂組成物のマトリクスとして好ましい樹脂である。
【0173】
ポリカーボネート(PC)とABSとのブレンド品(PC-ABSアロイ)は、耐衝撃性、耐候性及び成形加工性に優れているので、本発明の繊維強化樹脂組成物のマトリクスとして用いることが好ましい。
【0174】
PPEとPSとのブレンド品(PPE-PSブレンド品)は、ポリフェニレンエーテル(PPE)の変性品(m-PPE)の一種である。PPE-PSブレンド品は、耐熱性が高く、また軽量であることから、用いることが好ましい。
【0175】
熱可塑性樹脂の中でも、力学的特性、耐熱性、表面平滑性及び外観に優れるという点から、PA、POM、PP、MAPP、PE、ポリ乳酸、乳酸共重合樹脂、PBS、PET、PPT、PBT、PS、ABS樹脂及びPC-ABSアロイからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いることが好ましい。
【0176】
また、上記以外の樹脂、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、(熱可塑性)ポリウレタン、ビニルエーテル樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂(例えばトリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロース等)等も好ましく使用することができる。
【0177】
(2)繊維強化樹脂組成物における(A)、(B)、及び(C)成分の含有割合
本発明の繊維強化樹脂組成物中の(A)MFCの含有割合は、(C)熱可塑性樹脂100質量部に対して、2~50質量部程度が好ましく、2~40質量部程度がより好ましく、3~35質量部程度が更に好ましい。繊維強化樹脂組成物中の(A)MFCの含有割合は、(C)熱可塑性樹脂100質量部に対して、5~30質量部程度であることが最も好ましい。
【0178】
本発明の繊維強化樹脂組成物中の(B)植物繊維の含有割合は、(C)熱可塑性樹脂100質量部に対して、1~40質量部程度が好ましく、2~30質量部程度がより好ましく、2.5~25質量部程度が更に好ましい。繊維強化樹脂組成物中の(B)植物繊維(好ましくはラミー又はアセチル化ラミー)の含有割合は、(C)熱可塑性樹脂100質量部に対して、3~15質量部程度であることが最も好ましい。
【0179】
本発明の繊維強化樹脂組成物中の(B)植物繊維に対する(A)MFCの割合、すなわち、(A)MFCの配合量/(B)植物繊維の配合量(A/B)は、質量比で0.2~4が好ましく、より好ましくは0.5~3であり、更に好ましくは0.5~2である。
【0180】
(A)MFCを(C)熱可塑性樹脂に配合することにより、力学的特性、耐熱性、表面平滑性及び外観に優れる繊維強化樹脂組成物を得ることができる。
【0181】
(B)植物繊維を(A)MFCと共に(C)熱可塑性樹脂に配合することによって、軽量で力学的特性に優れた繊維強化樹脂組成物を得ることができる。また、(B)植物繊維を(A)MFCと共に(C)熱可塑性樹脂に配合することによって、作製された複合体(成形体)の耐衝撃性を向上又は維持して、強度及び弾性率を向上させることができる。特にラミー繊維又は/及び化学修飾ラミー繊維を化学修飾MFCと共に熱可塑性樹脂に配合することにより、複合体(成形体)の弾性率、及び強度ばかりか耐衝撃性も改善することが可能となる。
【0182】
本発明の繊維強化樹脂組成物は、(A)MFC、及び(B)植物繊維を含んでいても、汎用のプラスチックと同様に、加熱すると軟化して成形し易いことから、良好な成形加工性を発現することができる。
【0183】
本発明の繊維強化樹脂組成物には、前記(A)MFC、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂に加え、例えば、相溶化剤;界面活性剤;酸化防止剤;難燃剤;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等の添加剤を任意に配合してもよい。
【0184】
上記添加剤の含有量は、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜調整することができる。
【0185】
本発明の繊維強化樹脂組成物が、(A)MFCとして(A-1)化学修飾MFCを含む場合、この繊維同士が水素結合によって自己凝集することを抑制することができる。よって、(A-1)化学修飾MFC、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を混合した場合、(A-1)化学修飾MFC同士の凝集が抑制され、(A-1)化学修飾MFCと(B)植物繊維とが(C)熱可塑性樹脂中で良好な分散性を示す。その結果、本発明の繊維強化樹脂組成物は、力学的特性、耐熱性、表面平滑性及び外観に優れる。
【0186】
(A)MFCとして(A-1)化学修飾MFCを含む繊維強化樹脂組成物において、(A-1)化学修飾MFCは、その溶解パラメータ(SP)が(C)熱可塑性樹脂のSPに近い方が好ましい。
【0187】
(C)熱可塑性樹脂として極性の高い樹脂を用いる場合には、(A)MFCとして、置換基Rが例えばアセチル基である時は、その置換度(DS)が0.4~1.2程度で、その溶解度パラメータが12~15程度であるアセチル化MFCを使用することが好ましい。極性の高い樹脂として、例えば、PA、POM、ポリ乳酸等が好ましい。
【0188】
(C)熱可塑性樹脂として極性の小さい樹脂を用いる場合には、(A)MFCとして、置換度(DS)が1.2程度以上であり、溶解度パラメータが8~12程度である化学修飾MFCを使用することが好ましい。極性の小さい樹脂として、例えば、PP、PE等が好ましい。化学修飾MFCとしては、置換度(DS)が1.2程度以上のアセチル化MFCが好ましい。
【0189】
(3)繊維強化樹脂組成物の製造方法
製法1
本発明の繊維強化樹脂組成物は、(A)MFC、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂(マトリクス材料)を溶融混練し、(A)MFCと(B)植物繊維とを(C)熱可塑性樹脂中に分散させるすることにより製造することができる。
【0190】
製法2
本発明の繊維強化樹脂組成物は、(A)MFCが化学修飾MFCである場合には、化学修飾セルロース系パルプ(化学修飾CP)、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を一括して混練機等を用いて溶融混練して製造することが好ましい。この場合、溶融混練中に化学修飾CPを化学修飾MFCに解繊しながらそれらを複合化することができるので、化学修飾MFCを別途調製し、これを(B)植物繊維及び(C)熱可塑性樹脂と混練して繊維強化樹脂組成物を製造する方法よりも容易に製造することができる。
【0191】
よって、製法2は、(A)MFCが化学修飾MFCである場合に、原料として(AP)化学修飾CPを用いる製造方法である。この製造方法は、具体的には、(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を含有する繊維強化樹脂組成物の製造方法であって、
(AP)化学修飾セルロース系パルプ、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を溶融混練し、当該溶融混練中に化学修飾セルロース系パルプをミクロフィブリル化する工程を含む方法である。
【0192】
そして、この製造方法は、前記(AP)化学修飾セルロース系パルプ、前記(B)植物繊維、及び前記(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、それぞれ下記要件(ap)、(b)、及び(a-1)を満たす。
要件(ap):
(AP)化学修飾セルロース系パルプが、下式(1-1):
(Lg)Cell-O-R (1-1)
〔式(1-1)中、(Lg)Cell-は、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース、及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニンから水酸基を除いた残基を示す。-O-Rは、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース、及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニン中の一部の水酸基の水素原子が置換基Rにより置換されていることを示し、Rは、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0193】
【化14】
【0194】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩を示す。〕
で表される化学修飾セルロース系高分子で構成される化学修飾セルロース系パルプである。
【0195】
要件(b):
(B)植物繊維が、
(B-1)ラミー、ヘンプ、リネン、ジュート、アバカ、サイザル、ケナフ、及び綿花からなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物繊維、又は、
(B-2)前記(B-1)の植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0196】
【化15】
【0197】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)
で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維である。
【0198】
要件(a-1):
(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、前記式(1-1)で表される化学修飾セルロース系高分子で構成される繊維のミクロフィブリル化繊維である。
【0199】
製法2では、混練中のせん断応力により化学修飾CPのフィブリル化が良好に進行する。混練中に、化学修飾CPは樹脂中で(A)化学修飾MFCに良好に解繊される。製法2によれば、(A)化学修飾MFCと(B)植物繊維とが、(C)熱可塑性樹脂中に良好に分散された繊維強化樹脂組成物を製造することができる。
【0200】
製法3
本発明の繊維強化樹脂組成物は、(A)MFCが化学修飾MFCである場合に、(AP)化学修飾CPと(C)熱可塑性樹脂とを混練して溶融混練中に化学修飾CPを化学修飾MFCに解繊して混練物を得、次いで、得られた混練物と、(B)植物繊維又は植物繊維と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物とを溶融混練する方法によって製造することができる。
【0201】
よって、製法3は、(A)MFCが化学修飾MFCである場合に、原料として(AP)化学修飾CPを用いる別の製造方法である。この方法は、化学修飾CP及び熱可塑性樹脂を一緒に溶融混練した後、この混練物に、植物繊維、又は、植物繊維と熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物を加えて溶融混練する方法である。 具体的には、この方法は、(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を含有する繊維強化樹脂組成物を製造する方法であって、
工程(1):
(AP)化学修飾セルロース系パルプ、及び(C)熱可塑性樹脂を混練して当該溶融混練中に化学修飾セルロース系パルプをミクロフィブリル化する工程、及び
工程(2):
前記工程(1)で得られた混練物と、(B)植物繊維、又は、植物繊維と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物とを複合化する工程
を含む、製造方法である。
【0202】
そして、この製造方法は、前記(AP)化学修飾セルロース系パルプ、前記(B)植物繊維、及び前記(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、それぞれ下記要件(ap)、(b)、及び(a-1)を満たす。
要件(ap):
(AP)化学修飾セルロース系パルプが、下式(1-1):
(Lg)Cell-O-R (1-1)
〔式(1-1)中、(Lg)Cell-は、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース、及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニンから水酸基を除いた残基を示す。-O-Rは、セルロース系高分子中のセルロース、ホロセルロース、及び/又はリグノセルロースを構成する多糖及びリグニン中の一部の水酸基の水素原子が置換基Rにより置換されていることを示し、Rは、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0203】
【化16】
【0204】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩を示す。〕
で表される化学修飾セルロース系高分子で構成される化学修飾セルロース系パルプである。
【0205】
要件(b):
(B)植物繊維が、
(B-1)ラミー、ヘンプ、リネン、ジュート、アバカ、サイザル、ケナフ、及び綿花からなる群から選ばれる1種又は2種以上の植物繊維、又は、
(B-2)前記(B-1)の植物繊維を構成するセルロースの水酸基の一部の水素原子が、炭素数2~4のアシル基、下式(2):
【0206】
【化17】
【0207】
(式(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、メチル基、エチル基、又は分岐鎖を有してもよい炭素数3~20のアルケニル基若しくはアルキル基を示す。但し、R1及びR2のいずれか一方の炭素数が4~20である場合、R1及びR2の他方は水素原子である。)
で表されるカルボキシ基含有アシル基、又は当該カルボキシ基含有アシル基の塩で修飾された1種又は2種以上の化学修飾植物繊維である。
【0208】
要件(a-1):
(A-1)化学修飾ミクロフィブリル化セルロース系繊維が、前記式(1-1)で表される化学修飾セルロース系高分子で構成される繊維のミクロフィブリル化繊維である。
【0209】
製法3では、混練中のせん断応力により化学修飾CPのフィブリル化が良好に進行する。混練中に、化学修飾CPは樹脂中で(A-1)化学修飾MFCに良好に解繊される。製法3によれば、(A-1)化学修飾MFCと(B)植物繊維とが(C)熱可塑性樹脂中に良好に分散された繊維強化樹脂組成物を製造することができる。また製法3によると、製法2を用いるよりも耐衝撃性の良好な繊維強化組成物を製造することができる。
【0210】
製法3に用いられる、植物繊維と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物として、(I)(イ)植物繊維と(ロ)熱可塑性樹脂との溶融混合物、及び(II)(イ)植物繊維と(ロ)熱可塑性樹脂との粉末混合物のどちらも使用することができる。
【0211】
各製法における溶融混練時の加熱設定温度は、本発明に使用する熱可塑性樹脂を供給する業者が推奨する、最低加工温度(A℃)から、この推奨加工温度より20℃高い温度(A+20℃)の範囲が好ましい。
【0212】
(C)熱可塑性樹脂としてPA6を使用する場合、溶融混練時の加熱設定温度は225~240℃が好ましい。POMを使用する場合、溶融混練時の加熱設定温度はは170℃~190℃が好ましい。PP及びMAPPを使用する場合、溶融混練時の加熱設定温度は160~180℃が好ましい。
【0213】
混合温度をこの温度範囲に設定することにより、(A)化学修飾MFC又は化学修飾CPと(B)植物繊維と(C) 熱可塑性樹脂とを均一に混合することができる。
【0214】
上記製造法のうち、製法2及び製法3では、未解繊の化学修飾CPを樹脂と混合しながら混練機の剪断応力で解繊を行うため、製造費用の低コスト化を図ることができる。
【0215】
(4)繊維強化樹脂組成物の成形体
本発明の成形体は繊維強化樹脂組成物からなる。
【0216】
本発明の繊維強化樹脂組成物を用いて、成形体を製造することができる。
【0217】
本発明の繊維強化樹脂組成物から、必要に応じて、フィルム状、シート状、板状、ペレット状、粉末状等の形状を有する成形材料を調製し、この成形材料を成形体の製造に供することができる。
【0218】
本発明の繊維強化樹脂組成物又は成形材料を、各種公知の成形方法で成形して、板状、棒状、立体構造等の各種形状の成形体を製造することができる。成形方法として、金型成形法、射出成形法、押出成形法、中空成形法、発泡成形法等が挙げられる。これらの中でも、射出成形法が、成形速度が速く、また複雑な形状の成形が容易であることから、生産性及び製造コストの点で優れている。
【0219】
本発明の成形体は、(A)MFC、(B)植物繊維、及び(C)熱可塑性樹脂を含有する繊維強化樹脂組成物から成形されるので、ガラス繊維などの比重の大きな繊維を含む繊維強化樹脂組成物から成形される成形体と比べて、より軽量である。また、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維を含む繊維強化樹脂組成物から成形される成形体と比べてサーマルリサイクルが容易である。また、本発明の成形体は、LCCO2(ライフサイクルCO2)において、二酸化炭素排出量の低減に有利である。
【0220】
本発明の成形体を、自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機の内装材、外装材、構造材等に使用することにより、輸送機のエネルギー効率の向上及び排ガスの低減を達成することができる。
【0221】
本発明の成形体を、パソコン、テレビ、電話等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等に使用することにより、それらの軽量化を図ることができる。軽量化によって、それら電化製品の輸送時のエネルギー消費を低減することができ、また、電化製品を快適に使用することができる。
【0222】
本発明の成形体を、建築材に使用することにより、建築物の耐震性を改善することが可能となる。
【実施例
【0223】
以下、実施例及び比較例(参照例)を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0224】
実施例において、セルロース系パルプ、化学修飾セルロース系パルプ、非修飾MFC、化学修飾MFC、植物繊維、化学修飾植物繊維、及び熱可塑性樹脂等の各種成分の含量は、特に断りがない限り質量%で表示する。
【0225】
そして、本明細書において、組成物中のセルロース系繊維の含有割合は、組成物全質量中の繊維成分(セルロース+ヘミセルロース)の質量割合で表示する。すなわち、組成物中の化学修飾セルロース系繊維の含有割合は、非化学修飾繊維に換算した質量の含有割合(百分率)で示される。
【0226】
化学修飾セルロース系繊維及び化学修飾植物繊維を含有する樹脂組成物(又はその成形体)について、(a)樹脂の種類の表示及びその含有量(百分率)、(b)化学修飾繊維の種類(略称)の表示とその未修飾繊維としての含有量(百分率)の表示を組み合わせて表示する方法を以下に例示する。
【0227】
例えば、 (i)ポリアミド6(PA6)とその含有百分率(a)、(ii)化学修飾トドマツ繊維(Acトドマツ)とその未修飾トドマツ換算の含有百分率(b)、(iii)化学修飾ラミー(Acラミー)とその未修飾ラミー換算の含有百分率(c)を使用して、PA6、Acトドマツ、及びAcラミーを含有する組成物について表記すると、「PA6/Acトドマツ/Acラミー= a/b/c」となる(但しa+b+c=100)。
【0228】
I.試験方法
実施例及び比較例等で使用した試験方法は以下の通りである。
【0229】
(1)リグニンの定量方法(クラーソン法)
ガラスファイバーろ紙(GA55)を110℃オーブンで恒量になるまで乾燥させ、デシケータ内で放冷した後、計量した。110℃で絶乾させた試料(約0.2g)を精秤し、50mL容チューブに入れた。
【0230】
72%濃硫酸3mL加え、内容物が均一になるようにガラス棒で適宜押しつぶしながら、30℃の温水にチューブを入れて1時間保温した。次いで、チューブ内容物と蒸留水84gとを三角フラスコに注ぎ込み混合した後、オートクレーブ中で、120℃で1時間反応させた。
【0231】
放冷した後、内容物をガラスファイバーろ紙で濾過して不溶物をろ取し、200mLの蒸留水で洗浄した。110℃オーブンで恒量になるまで乾燥させ、計量した。
【0232】
(2)セルロース及びへミセルロースの定量方法(糖分析)
ガラスファイバーろ紙(GA55)を110℃オーブンで恒量になるまで乾燥させ、デシケータ内で放冷した後、計量した。110℃で絶乾させた試料(約0.2g)を精秤し、50mL容チューブに入れた。
【0233】
72%濃硫酸3mL加え、内容物が均一になるようにガラス棒で適宜押しつぶしながら、30℃の温水にチューブを入れて1時間保温した。次いで、チューブ内容物と蒸留水84gとを加え定量的に三角フラスコに注ぎ込み混合した後、混合物1.0mLを耐圧試験管に入れ、内部標準として0.2%イノシトール溶液100μLを加えた。
【0234】
メスピペットを用いて72%濃硫酸(7.5μL)を加え、オートクレーブ中で120℃で1時間反応させた。
【0235】
放冷した後、反応液100μLを超純水で希釈し、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製イオンクロマトグラフ分析に供し、試料に含まれていた糖成分を分析した。
【0236】
(3)セルロース又はヘミセルロース水酸基の化学修飾度(DS)の測定方法
(3-1)逆滴定方法
セルロース、ヘミセルロース、及びリグノセルロースの水酸基がアシル化(エステル化)された試料のDS測定方法を、アセチル化された試料を例にとり以下に説明する。他のアシル化の場合も同様である。
【0237】
準備、秤量及び加水分解
試料を乾燥し、0.5g(A)を正確に秤量した。そこにエタノール75mL、及び0.5NのNaOH 50mL(0.025mol)(B)を加え、3~4時間撹拌する。
【0238】
これをろ過、水洗、及び乾燥し、ろ紙上の試料のFT-IR測定を行い、エステル結合のカルボニルに基づく吸収ピークが消失していること、つまりエステル結合が加水分解されていることを確認した。このろ液を下記の逆滴定に用いた。
【0239】
逆滴定
ろ液には加水分解の結果生じた酢酸ナトリウム塩及び過剰に加えられたNaOHが存在する。このNaOHの中和滴定を、1NのHCl及びフェノールフタレインを用いて行い、下式よりセルロース等の水酸基にエステル結合していたアセチル基のモル数(C)、及びセルロースの繰り返しユニットのモル数(D)を算出する。
0.025mol(B)‐(中和に使用したHClのモル数) = セルロース等の水酸基にエステル結合していたアセチル基のモル数(C)
(セルロース繰り返しユニット分子量162×セルロース繰り返しユニットのモル数(未知(D)))+(アセチル基の分子量43×(C)) = 秤量した試料0.5g(A)
【0240】
DSは、得られた(C)及び(D)より、下式より算出される。
DS = (C)/(D)
【0241】
(3-2)赤外線(IR)吸収スペクトルによるDSの測定方法
エステル化セルロース/リグノセルロースのDSは、赤外線(IR)吸収スペクトルを測定することにより求めることもできる。
【0242】
セルロース/リグノセルロースがエステル化されると、1733cm-1付近にエステルカルボニル(C=O)に由来する強い吸収帯が現れるので、この吸収帯の強度(面積)を横軸に、上記の逆滴定法で求めたDSの値を横軸にプロットした検量線をまず作成する。
【0243】
そして、試料の吸収帯の強度を測定し、この値及び検量線から試料のDS値を求める。この方法によれば、DSを迅速かつ簡便に測定することができる。
【0244】
(4)強度試験方法
万能試験機(オートグラフAG5000E型、(株)島津製作所製)を用いて、3点曲げ試験を実施した。試験条件は曲げ速度10mm/min、支点間距離64mmとした。
【0245】
(5)アイゾット(Izod)衝撃試験
アイゾット衝撃試験機((株)東洋精機製作所製)を用いてアイゾット衝撃試験を実施した。試験片中央部に深さ2mmの切り欠き(ノッチ)を挿入した。2.75J-N試験では2.75Jのハンマーを用いてノッチ側を打撃し、ノッチから亀裂を進展させ、その衝撃強度を算出した。
【0246】
(6)繊維の顕微鏡観察(繊維長及び繊維径の観察)
電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)、日本電子製JSM-7800Fにより繊維試料を観察した。測定条件は、加速電圧1.5kV、倍率200~5000倍とした。
【0247】
試料の調製方法は以下の通りである。
1)樹脂と混練する前の繊維試料の調製
1-1)サンプルを、エタノールの入ったガラスの小瓶に入れ、超音波攪拌を行ってエタノール中に繊維を懸濁させた。
1-2)繊維のエタノール懸濁液の少量を銅板上に垂らし、エタノールを室温で蒸発させた。
1-3) スパッタリング装置(JEOL SEC-3000FC オートファインコーター)を用いて、サンプルにプラチナコートした。
2)樹脂組成物中に含まれる繊維試料の調製
セルロースナノファイバー(CNF)を含むナイロン6(PA6)組成物(PA6/CNF=90/10)の成形体中のCNFを例にとり、顕微鏡観察用試料の調製方法を説明する。
2-1)射出成形品から4x2x1.2mmの試験片を切り出した。
2-2)試験片をNMP400mlに加えて190℃で2~4時間浸漬し、PA6を溶出させた。
2-3)PA6溶出後の残渣(繊維)を、エタノールの入ったガラスの小瓶に入れ、超音波攪拌を行ってエタノール中に繊維を懸濁させた。その後は、上記1-2)及び1-3)に従って顕微鏡観察用試料を調製した。
【0248】
II.使用材料
A.原料パルプ
(1)トドマツ由来クラフトパルプ(トドマツP)
日本製紙パピリア(株)製トドマツ由来の未晒クラフトパルプ(以下、トドマツPと呼ぶ)のスラリー(パルプスラリー濃度3質量%の水懸濁液)を、シングルディスクリファイナー(相川鉄工(株)製)に通液させ、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)値が255mLになるまで、繰返しリファイナー処理し、これを抄紙し、乾燥して、厚さ約0.2mmのシート状のトドマツPを得た。ロットの違いにより乾燥状態の異なる(すなわち固形分含量の異なる)シート状のトドマツPが得られた。それぞれ、固形分含量83.2%のものをシート状トドマツP-1、固形分含量80.5%のものをシート状トドマツP-2、固形分含量83.86%のものをシート状トドマツP-3と称する。糖成分の分析の結果、その組成(質量%)は、セルロース84.4%、ヘミセルロース14.5%、リグニン1.1%であった。
【0249】
B.化学修飾パルプ
(1)アセチル化トドマツパルプ(AcトドマツP-1、製造番号 TO39、Ac化DS 0.56)の製造
上記シート状トドマツP-1(固形分含量83.2%)2403g(固形分2000g)に無水酢酸6792 g(純度93%)を加えて加熱し、反応混合物の温度が89℃に達してから同温で6時間反応させた。反応混合物を50℃まで冷却し、デカンテーションにより液体を取り除いた後、減圧下約60℃に加熱して無水酢酸及び酢酸を留去した。乾燥して乾燥重量で約2200gのシート状AcトドマツP-1を得た。このAcトドマツP-1のアセチル化の置換度(以下、「Ac化DS」という)は、0.56であった。
【0250】
なお、アセチル化の置換度(Ac化DS)は、前述の(3-2) 赤外線(IR)吸収スペクトルによるDSの測定方法に則り、IRスペクトルの測定を行って算出した。また、以下のシート状AcトドマツP-2及びP-3、Acラミー、Acケナフ、Ac亜麻、及びAcアバカのAc化DSについても、同様の方法で算出した。
【0251】
このシート状AcトドマツP-1は、下記の実施例1(試験番号 PA6-629)及び比較例1(試験番号 PA6-628)の組成物の調製に使用した。
【0252】
(2)アセチル化トドマツパルプ(AcトドマツP-2、製造番号 TO23、Ac化DS 0.7)の製造
上記シート状トドマツP-2(固形分含量80.5%)2485g(固形分含量2000g)に無水酢酸6480g(純度93%)を加えて加熱し、反応混合物の温度が104℃に達してから同温で6時間反応させた。反応混合物を50℃まで冷却し、デカンテーションにより液体を取り除いた後、減圧下約60℃に加熱して無水酢酸及び酢酸を留去し、乾燥して乾燥重量約2200gのシート状AcトドマツP-2(Ac化DS 0.7)を得た。
【0253】
このシート状AcトドマツP-2は、後記の実施例2(試験番号PA6-568)、実施例3(試験番号PA6-558)、及び比較例2(試験番号PA6-561)の組成物の製造に使用した。
【0254】
(3)アセチル化トドマツパルプ(AcトドマツP-3、製造番号 TO72、Ac化DS 0.67)の製造
上記シート状トドマツP-3(固形分含量83.86%)2385g(固形分含量2000g)に無水酢酸4378g(純度93%)を加えて加熱し、反応混合物の温度が110℃に達してから同温で6時間反応させた。反応混合物を50℃まで冷却し、デカンテーションにより液体を取り除いた後、減圧下約60℃に加熱して無水酢酸及び酢酸を留去し、乾燥して乾燥重量約2200gのシート状AcトドマツP-3(Ac化DS 0.67)を得た。
【0255】
このシート状AcトドマツP-3は、後記の実施例4(試験番号 PA6-645)、実施例5(試験番号 PA6-642)、実施例6(試験番号 PA6-646)、実施例7(試験番号 PA6-644)、及び比較例5(試験番号 PA6-640)の組成物の製造に使用した。
【0256】
C.植物繊維
(1)ラミーとして、トスコ社製ラミー(商品名6T TOP 繊度4.63dtex)を1~3cmの長さに切断して使用した。
【0257】
(2)アセチル化ラミー(Acラミー)
1~3cmの長さに切断したラミー120g(含水率8.42%)に無水酢酸400ml(セルロース5倍当量)、及び酢酸240mlを加え、100℃で20時間反応させた。反応混合物にエタノールを加えて反応を止めた後、反応混合物(固形分)をろ取した。これを、水洗(3回)し、イソプロピルアルコール(IPA)で3回洗浄し、乾燥して、Acラミーを得た(Ac化DS 0.33)。
【0258】
(3)ケナフとして、株式会社OCM GROUPから購入したケナフ(バングラデシュ産Bグレード繊維束20~100μm程度)を使用した。
【0259】
(4)アセチル化ケナフ(Acケナフ)
後記の実施例9(試験番号 PA6-687)で使用するAc化DS 0.25のAcケナフは、以下のように製造した。ケナフ繊維32gに対して無水酢酸16g、及び酢酸288gを添加し、オイルバスにて100℃で5時間加熱した。反応混合物をろ取し、水洗し、IPAで洗浄し、繊維を1~2cm程度に切断して乾燥した。
【0260】
後記の実施例10(試験番号 PA6-688)で使用するAc化DS 0.64のAcケナフは、以下のように製造した。ケナフ繊維32gに対して無水酢酸51g、及び酢酸243gを添加し、オイルバスにて100℃で5時間加熱した。反応混合物をろ取し、水洗し、IPAで洗浄し、繊維を1~2cm程度に切断して乾燥した。
【0261】
(5)亜麻(リネン)として、日本製紙パピリア(株)製亜麻を使用した。
【0262】
(6)アセチル化亜麻(Ac亜麻)
後記の実施例4(試験番号 PA6-645)、実施例5(試験番号 PA6-642)、及び比較例6(試験番号 PA6-641)でそれぞれ使用するAc化DS 0.57のAc亜麻は、以下のように製造した。亜麻パルプにN-メチルピロリドン(NMP)を加え、加熱下で減圧脱水した。この亜麻パルプのNMP懸濁液(固形分15%)に無水酢酸(0.7モル当量)、及びK2CO3(0.2モル当量)を加えて80℃で2時間加熱撹拌して反応させた。反応が終了した後、固形物をアセトン及び水で洗浄し、アセチル化亜麻パルプのスラリーを得、これを脱水した。
【0263】
(7)アバカとして、日本製紙パピリア(株)製アバカを使用した。
【0264】
(8)アセチル化アバカ(Acアバカ)
後記の実施例6(試験番号 PA6-646)、実施例7(試験番号 PA6-644)、及び比較例7(試験番号 PA6-643)でそれぞれ使用するAc化DS 0.5のAcアバカは、以下のように製造した。アバカパルプにNMPを加え、加熱下で減圧脱水した。このアバカパルプのNMP懸濁液(固形分15%)に無水酢酸(0.6モル当量)、及びK2CO3(0.2モル当量)を加えて80℃で2時間加熱撹拌して反応させた。反応が終了した後、固形物をアセトン及び水で洗浄し、アセチル化アバカパルプのスラリーを得、これを脱水した。
【0265】
D.樹脂
(1)粉状ポリアミド6(「PA6粉」と記載することもある)として、ユニチカ株式会社製ポリアミド(パウダータイプ、グレード:A1020LP)を使用した。
【0266】
(2)ペレット状ポリアミド6(「PA6ペレット」と記載することもある)として、ユニチカ株式会社製のペレット状ポリアミド6(グレード:A1020BRL)を使用した。
【0267】
III.繊維強化樹脂組成物及びその成形体の製造、並びに評価結果
(1-1)(A)MFCとしてフィブリル化アセチル化トドマツ(フィブリル化Acトドマツ)、(B)植物繊維としてラミー(化学修飾無)又はアセチル化ラミー(Acラミー)、及び(C)熱可塑性樹脂としてPA6を含有する繊維強化樹脂組成物
【0268】
実施例1(試験番号 PA6-629):フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.56)及びラミーを含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
上記シート状AcトドマツP-1〔Ac化DS 0.56、製造番号T039、組成比(Ac/リグニン/セルロース+ヘミセルロース=1.47/0.11/10)〕を一晩蒸留水に浸漬し、膨潤させた後、ミキサー(FM10C:日本コークス工業(株)製)により粗粉砕し、粉砕物を蒸留水に入れて撹拌した。次に水をIPAに置換し、PA6粉を添加して混合し、ろ過して、AcトドマツP-1とPA6粉との混合物を得た。これを撹拌乾燥機(トリミックスTX-5:(株)井上製作所製)にて約60℃で撹拌乾燥した。得られた混合物(マスターバッチ)の組成比は、Acトドマツ/PA6粉=11.58/21.75であった(これを粉状MB-1と呼ぶ)。
【0269】
粉状MB-1にPA6粉及びラミーを加え、粉状MB-1/PA6粉/ラミー=33.3/61.67/5の混合物とし、ビニール袋内で均一に混合した後、二軸溶融混練機(Φ15mm、L/D=45、(株)テクノベル製)で溶融混錬した。溶融混練設定温度は200~215℃(混練機上流~下流)とした。得られた混練物の組成はPA6/Acトドマツ/ラミー=83.42/11.58/5であった。混練物を水冷し、ペレット化し、フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.56)及びラミーを含む、PA組成物のペレット(混練物組成はPA6/Acトドマツ/ラミー=83.42/11.58/5)を得た。
【0270】
成形体の製造
上記ペレットを射出機(射出成形機NPX7、日精樹脂工業(株)製)に入れ、シリンダー設定温度を210~235℃として射出成形し、幅×長さ×厚み=10×80×4mmの短冊型試験片(成形体)を得た。
【0271】
実施例2(試験番号 PA6-568):フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.7)及びAcラミー(Ac化DS 0.33)を含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
上記シート状AcトドマツP-2(Ac化DS 0.7、製造番号T023、組成比(Ac/リグニン/(セルロース+ヘミセルロース)=1.83/0.11/10)〕を一晩蒸留水に浸漬し、膨潤させた後、ミキサー(FM10C:日本コークス工業(株)製)により粗粉砕し、粉砕物を蒸留水に入れ撹拌した。
【0272】
次に水をIPAに置換し、PA6粉を添加して混合し、濾過してAcトドマツP-2とPA6粉との混合物を得た。これを前記撹拌乾燥機にて約60℃で撹拌乾燥した。得られた混合物(マスターバッチ)の組成比は、Acトドマツ/PA6粉=11.94/32.59であった(これを粉状MB-2と呼ぶ)。
【0273】
粉状MB-2にPA6粉及び前記の1~1.5cmに切断したAcラミー(Ac化DS 0.33、Ac/ラミー組成比=0.94/10)を加え、組成比が粉状MB-2/PA6粉/Acラミー=44.55/50/5.45の混合物とし、これをビニール袋内に入れて均一に混合した後、前記二軸溶融混練機で溶融混錬した。溶融混練設定温度は200~215℃(混練機上流~下流)とした。得られた混練物の組成比は、PA6/Acトドマツ/Acラミー=82.61/11.94/5.45であった。混合物を水冷しペレット化し、乾燥して、実施例1と同様に射出成形した。
【0274】
得られた成形体中の化学修飾繊維の組成比を未修飾繊維の含有量に換算して表示すると、PA6/Acトドマツ/Acラミー=85/10/5であった。
【0275】
実施例3(試験番号 PA6-558):フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.7)及びAcラミー(Ac化DS 0.33)を含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
この方法は、上記のAcトドマツ/PA6粉のマスターバッチ(粉状MB-2)を経ずに、Acトドマツ/PA6粉/Acラミーのマスターバッチ(粉状MB-3)を作成し、これをPA6と溶融混練して、上記実施例2と同一組成のフィブリル化Acトドマツ及びAcラミーを含有するPA6組成物を製造する方法である。AcトドマツP-2及びAcラミーは、実施例2と同一のものを使用した。
【0276】
シート状AcトドマツP-2を一晩蒸留水に浸漬し、膨潤させた後、前記ミキサーにより粗粉砕し、粉砕物を蒸留水に入れて撹拌した。次に水をIPAに置換し、PA6粉、及びIPAに浸漬したAcラミーを添加して混合し、ろ過して、AcトドマツP/PA6粉/Acラミーの混合物を得た。これを前記撹拌乾燥機にて約60℃で撹拌乾燥した。得られた粉状MB-3の組成比はAcトドマツP/PA6粉/Acラミー=11.94/32.59/5.47であった。
【0277】
粉状MB-3にPA6粉を加え、粉状MB-3/PA6粉=50/50の混合物とし、ビニール袋内で均一に混合した後、実施例2と同様にして溶融混練し、ペレット化し、実施例2と同一組成のフィブリル化Acトドマツ及びAcラミーを含有するPA6組成物を得た。次いで、これを実施例1と同様に射出成形して成形体を得た。
【0278】
比較例1(試験番号 PA6-628):フィブリル化Acトドマツを含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
これは、実施例1の対照組成物である。実施例1と同じシート状AcトドマツP-1(Ac化DS 0.56)を使用して、下記の方法で製造した。
【0279】
シート状AcトドマツP-1を一晩蒸留水に浸漬し、膨潤させた後、前記ミキサーにより粗粉砕し、粉砕物を蒸留水に入れ撹拌した。次に水をIPAに置換し、PA6粉を添加して混合し、混合物をろ取した。これを前記撹拌乾燥機にて約60℃で撹拌乾燥し、粉状組成物(マスターバッチ)を得た(組成比:Acトドマツ/PA6粉=11.58/21.75、これを粉状MB-4と呼ぶ)。
【0280】
粉状MB-4とPA6粉とを混合し(混合比:粉状MB-4/PA6粉=33.3/66.7)、均一に混合した後、実施例1と同様にして溶融混練して、PA6とフィブリル化Acトドマツとからなる組成物(組成比:PA6/Acトドマツ=88.42/11.58、未修飾トドマツ含有量組成比に換算して表示するとPA6/Acトドマツ=90/10)を得た。次いで、これを前記と同様に射出成形して成形体を得た。
【0281】
比較例2(試験番号 PA6-561):フィブリル化Acトドマツを含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
これは、実施例2及び3の対照組成物である。実施例2及び3と同じシート状AcトドマツP-2(Ac化DS 0.7)を使用して、下記の方法で製造した。
【0282】
シート状AcトドマツP-2を一晩蒸留水に浸漬し、膨潤させた後、前記ミキサーにより粗粉砕し、粉砕物を蒸留水に入れ撹拌した。次に水をIPAに置換し、PA6粉を添加して混合し、混合物をろ取した。これを前記撹拌乾燥機にて約60℃で撹拌乾燥し、粉状組成物(マスターバッチ)を得た(組成比:Acトドマツ/PA6粉=11.94/21.39、粉状MB-5と呼ぶ)。
【0283】
粉状MB-5にPA6粉を加え、粉状MB-5/PA6粉=33.3/66.7とし、ビニール袋内で均一に混合した後、実施例3と同様にして溶融混練して、PA6とフィブリル化Acトドマツとからなる混練組成物(組成比:PA6/Acトドマツ=88.06/11.94)を得た。次いで、これを前記と同様に射出成形して成形体を得た。
【0284】
比較例3(試験番号 PA6-560):Acラミーを含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
これは、実施例2及び3の対照組成物である。実施例2及び3と同じく、1~1.5cmに切断したAcラミー(Ac化DS 0.33)を使用して、下記の方法で製造した。
【0285】
AcラミーにPA6粉を加え、組成比PA6粉/Acラミー=89.06/10.94の混合物とし、ビニール袋内で均一に混合した後、実施例3と同様にして溶融混練して、PA6とAcラミーとからなる混練組成物(組成比:PA6粉/Acラミー=89.06/10.94)を得た。次いで、これを前記と同様に射出成形して成形体を得た。
【0286】
比較例4(試験番号 PA6):対照成形体(PA6成形体)の製造
実施例1の成形体の製造と同様にして、PA6粉を前記射出機で成形し、幅×長さ×厚み=10×80×4mmの短冊型試験片(成形体)を得た。
【0287】
(1-2)成形体の試験結果
上記の成形体(試験片)について、曲げ弾性率、曲げ強度、及び耐衝撃性を前記の試験方法で測定した。結果を表1に示す。
【0288】
【表1】
【0289】
なお、表1の組成含有比において、化学修飾繊維(Acトドマツ及びAcラミー)の組成含有比は、それぞれ対応する未修飾繊維(トドマツ及びラミー)の質量百分率に換算したものを表示している。
【0290】
上記表1に示すように、アセチル基で修飾されたフィブリル化セルロース系繊維(フィブリル化Acトドマツ)及びラミーを含有する実施例1のPA6組成物の成形体と、比較例4の繊維を含まないPA6の成形体とを比較したところ、実施例1の成形体の曲げ弾性率、曲げ強度、及び曲げ弾性率は、それぞれ、比較例4のPA6成形体の、2.4倍、1.6倍、及び1.1倍であった。
【0291】
また、アセチル基で修飾されたフィブリル化セルロース系繊維(フィブリル化Acトドマツ)及びアセチル基で修飾されたラミー(Acラミー)を含有する実施例2のPA6組成物の成形体と、比較例4の繊維を含まないPA6成形体とを比較したところ、実施例2の成形体の曲げ弾性率、曲げ強度、及び曲げ弾性率は、それぞれ、比較例4のPA6成形体の2.6倍、1.7倍、及び1.3倍であった。
【0292】
(1-3)樹脂と混練する前のアセチル化トドマツパルプ、及び組成物中のアセチル化トドマツ繊維の顕微鏡観察
前記の方法で試料を調製し、樹脂と混練する前のアセチル化トドマツパルプ、及び実施例2の組成物中のアセチル化トドマツ繊維について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて顕微鏡観察を行った。アセチル化トドマツパルプとして、実施例2で使用されたAcトドマツパルプ(Ac化DS 0.7)と同等のアセチル化の置換度(Ac化DS 0.68)を有するAcトドマツパルプ(製造番号 T081)を使用した。
【0293】
図1にアセチル化トドマツパルプの電子顕微鏡写真像を示す。図2に実施例2の組成物から調製した試料中のアセチル化トドマツ繊維の電子顕微鏡写真像を示す。
【0294】
図1より、トドマツパルプの形状は維持されていることがわかる。また、繊維の直径は細いもので20μm程度、太いもので60μm程度であった。繊維の長さは1900μm以上であった。
【0295】
図2の左側の低倍率(X200)のSEM写真には、太いもので直径が10μm以下程度、長さ300μm程度の繊維が観察されたが、これは繊維の存在比率から考えてトドマツの繊維ではなく、ラミー繊維である。右側の高倍率(X5000)のSEM写真で観察される繊維は、太いもので直径が1μm、細いもので数十nmであり、いずれも長さはネットワーク構造により判別困難であるが、少なくとも数十μm以上であった。
【0296】
以上のことから、PA6との複合化(溶融混練)によってパルプの解繊が進行し、直径数十μmのアセチル化トドマツパルプが直径数十nm~1μmの繊維にミクロフィブリル化されたことがわかった。
【0297】
(2-1) (A)MFCとしてフィブリル化アセチル化トドマツ(フィブリル化Acトドマツ)、(B)植物繊維としてアセチル化亜麻(Ac亜麻)、及び(C)熱可塑性樹脂としてPA6を含有する繊維強化樹脂組成物
【0298】
実施例4(試験番号 PA6-645):フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.67)及びAc亜麻(Ac化DS 0.57)を含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
標記のフィブリル化Acトドマツ及びAc亜麻を含有するPA6組成物、及びその成形体(組成比:PA6/Acトドマツ/Ac亜麻=82.1/12.1/5.8)を、前記実施例2と同様の操作を行い、下記の通り製造した。
【0299】
実施例2で使用したAcトドマツP-2(Ac化DS 0.7)及びAcラミー(Ac化DS 0.33)の代わりに、この実施例4では、AcトドマツP-3(Ac化DS 0.67)及びAc亜麻(Ac化DS 0.57)を使用した。
【0300】
まず、シート状AcトドマツP-3を、実施例1の粉状MB-1の調製時と同様の操作で処理して、AcトドマツP-3とPA6粉とを含有する粉状マスターバッチ(粉状MB-6、組成比:AcトドマツP-3/PA6粉=12.1/21.23)を得た。
【0301】
次に、実施例2の場合と同様の操作で、粉状MB-6にPA6粉及びAc亜麻を加え、各成分の均一な混合物(混合比:粉状MB-6/PA6粉/Ac亜麻=33.33/60.87/5.8)を調製し、これを、前記二軸溶融混練機で溶融混錬し、ペレット化して、フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.67)とAc亜麻(Ac化DS 0.57)を含む、ペレット状のPA6組成物を得た(組成比:PA6/フィブリル化Acトドマツ/Ac亜麻=82.1/12.1/5.8)。
【0302】
成形体の製造
得られたペレットを、実施例2の場合と同様にして射出成形し、幅×長さ×厚み=10×80×4mmの短冊型試験片(成形体)を得た。
【0303】
実施例5(試験番号 PA6-642):フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.67)及びAc亜麻(Ac化DS 0.57)を含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
実施例4と同じ組成物比のフィブリル化Acトドマツ及びAc亜麻を含有するPA6組成物、及びその成形体を、前記実施例3と同様の操作で、下記の通り製造した。
【0304】
実施例3で使用したAcトドマツP-2(Ac化DS 0.7)及びAcラミー(Ac化DS 0.33)の代わりに、この実施例5では、実施例4と同じAcトドマツP-3及びAc亜麻を使用した。
【0305】
この製造方法は、AcトドマツP-3、PA6粉、及びAc亜麻を含む(組成比はAcトドマツP/PA6粉/Ac亜麻=12.1/32.1/5.8)粉状のマスターバッチ(粉状MB-7と称する)を作成し、これにPA6を加えて溶融混練して、上記実施例4と同一組成の、フィブリル化Acトドマツ 及びAc亜麻を含有するPA6組成物を製造する方法である。
【0306】
まず、実施例3の粉状MB-3の調製と同様の操作で、シート状AcトドマツP-3を処理して粗粉砕し、粉PA6粉、及びAc亜麻を添加し、混合し、乾燥して、粉状MB-7を調製した。
【0307】
次に、粉状MB-7にPA6粉を加え、実施例4の場合と同様して各成分を均一になるように混合(混合比:粉状MB-7/PA6粉=50/50)した後、実施例4と同様にして溶融混練し、ペレット化し、実施例4と同一の組成のフィブリル化Acトドマツ及びAc亜麻を含有するPA6組成物を得た。これを実施例4の場合と同様に射出成形して、成形体を得た。
【0308】
比較例5(試験番号 PA6-640):フィブリル化Acトドマツを含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
これは、実施例4及び5の対照組成物である。実施例4及び5と同一のシート状AcトドマツP-3(Ac化DS 0.67)と、実施例4で使用した粉状MB-6(組成比:Acトドマツ/PA6粉=12.1/21.23)を用いて、以下の手順で組成物及び成形体を調製した。
【0309】
粉状MB-6とPA6粉とを混合し(混合比:粉状MB-6/PA6粉=33.3/66.67)、均一に混合した後、実施例4の場合と同様にして溶融混練して、PA6とフィブリル化Acトドマツとからなる混練組成物(組成比:PA6/Acトドマツ=87.9/12.1、未修飾トドマツ含有量組成比に換算して表示するとPA6/Acトドマツ=90/10)を得た。これを前記と同様に射出成形して、成形体を得た。
【0310】
比較例6(試験番号 PA6-641):Ac亜麻を含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
これは、実施例4及び5の対照組成物である。実施例4及び5と同一のAc亜麻(Ac化DS 0.57)を使用し、Ac亜麻を含有するPA6組成物及び成形体を下記の方法で製造した。
【0311】
Ac亜麻にPA6粉を加え、組成比PA6粉/Ac亜麻=88.4/11.6の混合物とし、ビニール袋内で均一に混合した後、実施例4と同様にして溶融混練して、PA6とAc亜麻とを含む混練組成物(組成比:PA6粉/Ac亜麻=88.4/11.6、未修飾亜麻含有量組成比に換算して表示するとPA6/Ac亜麻=90/10)を得た。これを前記と同様に射出成形して、成形体を得た。
【0312】
(2-2)成形体の試験結果
上記の成形体(試験片)について、曲げ弾性率、曲げ強度、及び耐衝撃性を前記の試験方法で測定した。結果を表2に示す。
【0313】
【表2】
【0314】
なお、表2の組成含有比において、化学修飾繊維(Acトドマツ及びAc亜麻)の組成含有比は、それぞれ対応する未修飾繊維(トドマツ及び亜麻)の質量百分率に換算したものを表示している。
【0315】
実施例4及び5の成形体の強度及び弾性率は、比較例4~6の成形体のそれらに比べて大きく、優れている。そして、実施例4及び5の成形体は、繊維含有量が増加したにもかかわらず、その耐衝撃性は、比較例4~6の成形体のそれに比べて大きな低下はない。
【0316】
(3-1) (A)MFCとしてフィブリル化アセチル化トドマツ(フィブリル化Acトドマツ)、(B)植物繊維としてアセチル化アバカ(Acアバカ)、及び(C)熱可塑性樹脂としてPA6を含有する繊維強化樹脂組成物
【0317】
実施例6(試験番号 PA6-646):フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.67)及びAcアバカ(Ac化DS 0.5)を含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
標記のフィブリル化Acトドマツ及びAcアバカを含有するPA6組成物及びその成形体を、前記実施例2と同様の操作で、下記の通り製造した。
【0318】
実施例2で使用した、AcトドマツP-2(Ac化DS 0.7)及びAcラミー(Ac化DS 0.33)の代わりに、 AcトドマツP-3(Ac化DS 0.67)及びAcアバカ(Ac化DS 0.5)を使用した。
【0319】
まず、上記シート状AcトドマツP-3(Ac化DS 0.67)を、前記実施例1の粉状MB-1の調製と同様の操作で処理して、AcトドマツP-3とPA6粉とを含有する粉状MB-6(組成比:Acトドマツ/PA6粉=12.1/21.23)を得た。
【0320】
次に、実施例2の場合と同様の操作で、粉状MB-6にPA6粉およびAcアバカを加え、各成分の均一な混合物(混合比:粉状MB-6/PA6粉/Acアバカ=33.33/61/5.67)を調製し、これを前記二軸溶融混練機で溶融混練し、ペレット化して、フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.67)及びAcアバカ(Ac化DS 0.5)を含む、ペレット状のPA組成物(組成比:PA6/フィブリル化Acトドマツ/Acアバカ=82.23/12.1/5.67、未修飾トドマツ含有量組成比に換算して表示するとPA6/Acトドマツ/Acアバカ=85/10/5)を得た。
【0321】
成形体の製造
得られたペレットを、実施例2と同様にして射出成形し、幅×長さ×厚み=10×80×4mmの短冊型試験片(成形体)を得た。
【0322】
実施例7(試験番号 PA6-644):フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.67)及びAcアバカ(Ac化DS 0.5)を含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
実施例6と同じ組成物比のフィブリル化Acトドマツ及びAcアバカを含有するPA組成物、及びその成形体を、前記実施例3と同様の操作で、下記の通り製造した。
【0323】
実施例3で使用したAcトドマツP-2(Ac化DS 0.7)及びAcラミー(Ac化DS 0.33)の代わりに、実施例6で使用したAcトドマツP-3及びAcアバカと同一のものを使用した。
【0324】
この製造方法は、Acトドマツ/PA6粉/Acアバカのマスターバッチを作成し、これをPA6と溶融混練して、上記実施例6と同一組成の、フィブリル化Acトドマツ とAcアバカとを含有するPA6組成物を製造する方法である。
【0325】
まず、シート状AcトドマツP-3を、実施例3のMB-3の調製と同様の操作で処理して粗粉砕し、粉PA6粉、及びAcアバカを添加し、混合し、乾燥して、粉状混合物(混合物の組成比はAcトドマツP/PA6粉/Acアバカ=12.1/32.23/5.67、これを粉状MB-8と称する)を調製した。
【0326】
次に、粉状MB-8にPA6粉を加え、実施例6の場合と同様して各成分を均一になるように混合(混合比:粉状MB-8/PA6粉=50/50)した後、実施例6と同様にして溶融混練し、ペレット化し、実施例6と同一の組成のフィブリル化AcトドマツとAcアバカとを含有するPA6組成物を得た。次いで、これを実施例6と同様に射出成形し、成形体を得た。
【0327】
比較例7(試験番号 PA6-643):Acアバカを含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
これは、実施例6及び7の対照組成物である。実施例6及び7で用いたAcアバカ(Ac化DS 0.5)を使用し、Acアバカを含有するPA6組成物を下記の方法で製造した。
【0328】
AcアバカにPA6粉を加え、組成比PA6粉/Acアバカ=88.66/11.34の混合物とし、均一に混合した後、実施例6と同様にして溶融混練して、PA6とAcアバカとからなる混練組成物(組成比:PA6粉/Acアバカ=88.66/11.34)を得た。次いで、これを前記と同様に射出成形し、成形体を得た。
【0329】
(3-2)成形体の試験結果
上記の成形体(試験片)について、曲げ弾性率、曲げ強度、及び耐衝撃性を前記の試験方法で測定した。結果を表3に示す。
【0330】
【表3】
【0331】
なお、表3の組成含有比において、化学修飾繊維(Acトドマツ及びAcアバカ)の組成含有比は、それぞれ対応する未修飾繊維(トドマツ及びアバカ)の質量百分率に換算したものを表示している。
【0332】
実施例6及び7の成形体の強度及び弾性率は、比較例4、5、及び7の成形体のそれらに比べて大きく、優れている。そして、実施例6及び7の成形体は、繊維含有量が増加したにもかかわらず、その耐衝撃性は比較例4、5、及び7の成形体のそれに比べて大きな低下はない。
【0333】
(4-1) (A)MFCとしてフィブリル化アセチル化トドマツ(フィブリル化Acトドマツ)、(B)植物繊維としてケナフ(化学修飾無)又はアセチル化ケナフ(Acケナフ)、及び(C)熱可塑性樹脂としてPA6を含有する繊維強化樹脂組成物
【0334】
実施例8(試験番号 PA6-631):フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.56)及びケナフを含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
ラミー(化学修飾無)の代わりにケナフ(化学修飾無)を使用する以外は、実施例1と同様にして、フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.56)とケナフとを含有するPA6組成物を調製し、これを成形加工してフィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.56)とケナフ(化学修飾無)とを含有する成形体を調製した。
【0335】
実施例9(試験番号 PA6-687):フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.67)及びAcケナフ(Ac化DS 0.25)を含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
シート状AcトドマツP-2(Ac化DS 0.7)の代わりにシート状AcトドマツP-3(Ac化DS 0.67)を、Acラミー(Ac化DS 0.33)の代わりにAcケナフ(Ac化DS 0.25)を使用し、実施例3と同様に操作して、フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.67)とAcケナフ(Ac化DS 0.25)とを含有するPA6組成物を調製し、これを成形加工して、成形体を得た。
【0336】
実施例10(試験番号 PA6-688):フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.67)及びAcケナフ(Ac化DS 0.64)を含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
Acケナフ(Ac化DS 0.25)の代わりに、Acケナフ(Ac化DS 0.64)を使用する以外は、実施例9と同様にして、フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.67)とAcケナフ(Ac化DS 0.64)を含有するPA6組成物を調製し、これを成形加工し、成形体を得た。
【0337】
比較例8(試験番号 PA6-682):フィブリル化Acトドマツ(Ac化DS 0.67)を含有するPA6組成物、及びその成形体の製造
シート状AcトドマツP-2(Ac化DS 0.7)の代わりにシート状AcトドマツP-3(Ac化DS 0.67)を使用する以外は、比較例2と同様にして、PA6とフィブリル化AcトドマツP(Ac化DS 0.66)とを含むPA6組成物を調製し、これを成形し、成形体を得た。
【0338】
(4-2)成形体の試験結果
上記の成形体(試験片)について、曲げ弾性率、曲げ強度、及び耐衝撃性を前記の試験方法で測定した。結果を表4に示す。
【0339】
【表4】
【0340】
なお、表4の組成含有比において、化学修飾繊維(Acトドマツ及びAcケナフ)の組成含有比は、それぞれ対応する未修飾繊維(トドマツ及びケナフ)の質量百分率に換算したものを表示している。
【0341】
実施例8~10の成形体の強度及び弾性率は、比較例1、4及び8の成形体のそれらに比べて大きく、優れている。そして、実施例8~10の成形体は、繊維含有量が増加したにもかかわらず、その耐衝撃性は比較例1、4及び8の成形体のそれに比べて大きな低下はない。
図1
図2