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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】UPE(バイオフォトン)量の推定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20230818BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
A61B5/00 M ZDM
A61B10/00 E
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019048957
(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2019198631
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2018091798
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 International Investigative Dermatology(IID)2018要旨集(LATE BREAKING ABSTRACTS) 発行日:平成30年5月16日 [刊行物等] ポスター(Noninvasive imaging of UV-induced oxidative stress in human skin using ultra-weak photon emission) 発行者:土田 克彦(Katsuhiko Tsuchida)、岩佐 琥偉(Torai Iwasa)、小林 正樹(Masaki Kobayashi) 公開日:平成30年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(73)【特許権者】
【識別番号】597124316
【氏名又は名称】学校法人東北工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】土田 克彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 正樹
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 琥偉
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0270055(US,A1)
【文献】特開平11-287762(JP,A)
【文献】KOBAYASHI, M., et al.,Polychromatic spectral pattern analysis of ultra-weak photon emissions from a human body,Journal of photochemistry and photobiology. B, Biology,2016年06月,Vol.159,pp.186-190,<DOI: 10.1016/j.jphotobiol.2016.03.037>
【文献】HAGENS, R., et al.,Non-invasive monitoring of oxidative skin stress by ultraweak photon emission measurement. II: biological validation on ultraviolet A-stressed skin,Skin Research and Technology,2008年02月,Vol.14, No.1,pp.112-120,<DOI: 10.1111/j.1600-0846.2007.00207.x>
【文献】PRASAD, A., et al.,Ultraweak photon emission induced by visible light and ultraviolet A radiation via photoactivated skin chromophores: in vivo charge coupled device imaging,Journal of Biomedical Optics,2012年08月14日,Vol.17,No.8,085004,<DOI: 10.1117/1.JBO.17.8.085004>
【文献】岩佐 琥偉,小林 正樹,ヒト体表におけるバイオフォトン発光と遅延発光の分光的比較,2017年<第64回>応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集],公益社団法人応用物理学会,2017年03月01日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
A61B 10/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を照射された各皮膚組織由来のUPE発生量を推定する方法であって、
皮膚に電磁波を照射し、放出されるUPEを測定してUPE検出量を決定する工程;及び
あらかじめ皮膚を細分化し、電磁波を照射された細分化された皮膚組織から放出されるUPEの検出結果と、当該皮膚組織までの電磁波の透過率、並びに発生したUPEの最外部までの透過率とを考慮して、前記UPE検出量から、各皮膚組織由来のUPE発生量を推定する工程
を含む前記方法。
【請求項2】
前記皮膚組織が表皮または真皮である、請求項1に記載のUPE発生量を推定する方法。
【請求項3】
前記推定工程が、以下の:
【数1】
(式中、
Kは、細分化された表皮から放出されるUPE発生量に対する、細分化された真皮から放出されるUPE発生量の比を表し、
表皮における可視光の透過率を表し、
は、電磁波の表皮の透過率を表す)
で表される表皮由来のUPE発生量の推定用の定数及び真皮由来のUPE発生量の推定用の定数を算出し、斯かる定数を、UPE検出量に乗じることにより、表皮由来のUPE発生量又は真皮由来UPE発生量を推定する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電磁波が紫外線である、請求項2又は3に記載のUPE発生量を推定する方法。
【請求項5】
前記紫外線がUVAである、請求項4に記載のUPE発生量を推定する方法。
【請求項6】
前記表皮を透過するUVAの透過率を10%~35%とする、請求項5に記載のUPE発生量を推定する方法。
【請求項7】
前記表皮のUPE発生量を、皮膚にUVAを照射して検出されるUPE検出量の12.6%~52.7%とし、前記真皮のUPE発生量を、皮膚にUVAを照射して検出されるUPE検出量の47.3%~87.4%とし、前記表皮のUPE発生量と前記真皮のUPE発生量を推測するのに用いる割合(%)の合計が100%とする、請求項5または6に記載のUPE発生量を推定する方法。
【請求項8】
前記紫外線がUVBである、請求項4に記載のUPE発生量を推定する方法。
【請求項9】
前記表皮を透過するUVBの透過率を5%~20%とする、請求項8に記載のUPE発生量を推定する方法。
【請求項10】
前記表皮のUPE発生量を、皮膚にUVBを照射して検出されるUPE検出量の40.2%~83.2%とし、前記真皮のUPE発生量を皮膚にUVBを照射して検出されるUPE検出量の16.8%~59.8%とし、前記表皮のUPE発生量と前記真皮のUPE発生量を推測するのに用いる割合(%)の合計が100%とする、請求項8または9に記載のUPE発生量を推定する方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のUPE発生量を推定する方法を用いた、UPE抑制剤の評価方法。
【請求項12】
UPE抑制剤が抗酸化剤またはサンスクリーンである、請求項11に記載のUPE抑制剤の評価方法。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか一項に記載のUPE発生量を推定する方法を用いた、UPE抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
UPE抑制剤が、抗酸化剤またはサンスクリーンである、請求項13に記載のUPE抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項15】
電磁波を照射された各皮膚組織由来のUPE発生量を推定する方法に用いられる、入力部、記憶部、処理部、撮影部及び電磁波照射部を備えた機器であって、以下の:
記憶部が、入力部から入力された各皮膚組織のUPE発生量の推定用の定数を記憶し、
電磁波照射部が、皮膚に対し電磁波を照射し、
撮影部が、UPE検出量を測定し、
処理部が、記憶部に記憶された各皮膚組織のUPE発生量の推定用の定数を、測定されたUPE検出量に乗じて、各皮膚組織由来のUPE発生量を推定する
前記機器。
【請求項16】
撮影部が電荷結合素子カメラである、請求項15に記載の機器。
【請求項17】
電荷結合素子カメラが冷却CCDカメラである、請求項16に記載の機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線照射時の皮膚組織由来のUPE(Ultra-weak photon emission)量を推定する方法に関する。より詳細には、皮膚に電磁波を照射し、放出されるUPEを測定する方法において、あらかじめ皮膚を細分化した際に得られる複数の皮膚組織から放出されるUPE(発生)量の検出結果を用いて、各々の皮膚組織由来のUPE(発生)量を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
UPE(Ultra-weak photon emission)とは、生体から放射される微弱な発光であり、生体内での生化学反応に伴う発光現象である。エネルギー代謝を始めとする、主に活性酸素が関与する生化学反応過程で放射される発光であり、そのメカニズムも多岐にわたる。またUPEはバイオフォトン、生物フォトン、生体極微弱発光、生体極微弱化学発光などと呼ばれることもある。
【0003】
すなわち、UPEによる発光は主に、生化学反応過程における酸化還元反応により産生されるエネルギーにより生じる。特にUPEによる発光は、活性酸素やフリーラジカルの生成を伴う生化学反応において生じ、実際の発光は、生体を構成する多様な物質の酸化的修飾過程で生じる分子の励起による。
【0004】
生体における活性酸素の産生は、生体内における代謝過程や、紫外線、放射線、薬剤、環境汚染物質などの外的要因が引き起こす酸化ストレスと深く関連している。また、生体における活性酸素の産生によるUPEの増加は、酸化ダメージなどのストレスと関連しており、例えば紫外線などの電磁波の照射によって皮膚の酸化が進むと、UPEの放出量が増加する。特に外部刺激によって増加したUPEは遅延発光と呼ばれる。
【0005】
紫外線(UV)が皮膚に与える研究の一環として、角質層や表皮に対する紫外線の透過率を測定した研究結果が報告されている(非特許文献1)。紫外線は、その波長によりUVA(320~400nm)とUVB(280~320nm)に分類されているが、この研究はUVBについてなされたものである。
【0006】
一方、UPEを計測する技術として、超高感度CCD(Charge Coupled Device、電荷結合素子)を用いた方法が紹介されており(非特許文献2)、光電子増倍管(PMT)を備えたフォトンカウンターを用いた方法も紹介されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Photochemistry and Photobiology Vol. 40, No. 4, pp. 485-494, 1984
【文献】Electrochemistry, 82(4), 294-298 (2014)
【文献】J Photochem Photobiol B. 2014 Oct 5;139:63-70. doi: 10.1016/j.jphotobiol.2013.10.003. Epub 2013 Oct 26.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
生体から放射される微弱な発光であり、生体内での生化学反応に伴う発光現象であるUPEの、皮膚組織から放出されるUPE(発生)量を推定する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、皮膚に電磁波を照射し、放出されるUPE(検出)量を測定する方法において、あらかじめ皮膚を細分化した際に得られる複数の皮膚組織由来のUPE(発生/検出)量の検出結果を用いて、各々の皮膚組織由来のUPE(発生)量を推定する方法により上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明のUPE(発生)量を推定する方法において、皮膚組織が表皮または真皮であることが好ましい。
【0011】
また本発明のUPE(発生)量を推定する方法において、電磁波が紫外線であることが好ましい。
【0012】
さらに本発明のUPE(発生)量を推定する方法において、紫外線をUVAとすることが可能である。
【0013】
また本発明のUPE(発生)量を推定する方法において、紫外線をUVAとした場合、表皮を透過するUVAの透過率を10%~35%とすることが好ましい。
【0014】
さらに本発明のUPE(発生)量を推定する方法において、紫外線をUVAとした場合、表皮のUPE(発生)量を、皮膚にUVAを照射して検出されるUPE(検出)量の12.6%~52.7%とし、真皮のUPE(発生)量を、皮膚にUVAを照射して検出されるUPE(検出)量の47.3%~87.4%とすることが好ましい。
【0015】
また本発明のUPE(発生)量を推定する方法において、紫外線をUVBとすることが可能である。
【0016】
さらに本発明のUPE(発生)量を推定する方法において、紫外線をUVBとした場合、表皮を透過するUVBの透過率を5%~20%とすることが好ましい。
【0017】
また本発明のUPE(発生)量を推定する方法において、紫外線をUVBとした場合、表皮のUPE(発生)量を、皮膚にUVBを照射して検出されるUPE(検出)量の40.2%~83.2%とし、真皮のUPE量を、皮膚にUVBを照射して検出されるUPE(検出)量の16.8%~59.8%とすることが好ましい。
【0018】
また本発明のUPE(発生)量を推定する方法は、UPEの検出方法として利用することが可能である。
【0019】
さらに本発明のUPE(発生)量を推定する方法は、UPE抑制剤の評価方法として利用することが可能である。UPE抑制剤としては、抗酸化剤またはサンスクリーンであることが好ましい。
【0020】
また本発明のUPE(発生)量を推定する方法は、UPE抑制剤のスクリーニング方法として利用することが可能である。UPE抑制剤としては、抗酸化剤であることが好ましい。さらに本発明のUPE(発生)量を推定する方法は、サンスクリーン化合物のスクリーニング方法として使用することも可能である。
【0021】
また本発明は、本発明のUPE(発生)量を推定する方法に用いられる、撮影装置を備えた機器にも関する。撮影装置としては、電荷結合素子カメラであることが好ましい。また、電荷結合素子カメラとして冷却CCDカメラであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、皮膚組織由来のUPE(発生)量を推定する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】UVAを照射した真皮層と表皮層(左)およびUVBを照射した真皮層と表皮層(右)から放出されるUPEの観察結果を示した図である。
図2】UVAを照射した真皮層と表皮層からのUPEを数値化した結果(左)およびUVBを照射した真皮層と表皮層からのUPEを数値化した結果(右)を示した図である。
図3図2のグラフの実際の数値およびUPEの増加度合を示した図である。
図4】表皮を透過するUVの値の一例を示した、文献値(Ultraviolet Radiation (EHC 160, 1994, 2nd edition)を示した図である。
図5】実施例において得られた、皮膚全体のUPEに占める表皮UPEと真皮UPEの割合を示した図である。
図6】紫外線照射による表皮層および真皮層におけるUPE(発生)量の推定式を示した図である。
図7】紫外線照射による表皮層および真皮層におけるUPE(発生)量の推定式を示した図である。
図8】紫外線照射による表皮層および真皮層におけるUPE(発生)量の推定式を示した図である。
図9】照射した紫外線(UVA, UVB)量とUPE増加度(ΔUPE)の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0025】
[各々の皮膚組織由来のUPE(発生)量を推定する方法]
皮膚に電磁波を照射することにより生じるUPE(発生)量は、照射した電磁波の強度に応じて変化する。また、照射した電磁波が到達する皮膚組織の種類によっても生じるUPE(発生)量は変化する。ここで、各皮膚組織へ到達する電磁波強度は、当該皮膚組織までの電磁波の透過率に応じて変化する。さらには、各皮膚組織で生じたUPE(発生)量についても、その最外部までの透過率に応じて、外部から検出されるUPE(検出)量は変化する。そこで、本発明の1の態様は皮膚に電磁波を照射し、検出されるUPE(検出)量を測定する方法において、あらかじめ皮膚を細分化した際に得られる複数の皮膚組織から放出されるUPE(発生)量の検出結果を用いて、各々の皮膚組織由来のUPE(発生)量を推定する方法に関する。当該推定方法は、あらかじめ皮膚を細分化した際に得られる複数の皮膚組織から放出されるUPE(発生/検出)量の検出結果を用いる。具体的に、各々の皮膚組織由来のUPE(発生)量を推定する方法は、以下の:
予め細分化された各皮膚組織に、電磁波を照射し、各皮膚組織から放出されるUPE(発生/検出)量を検出する工程、及び
皮膚に照射された電磁波により放出されるUPE(検出)量から、前記各皮膚組織から放出されるUPE(発生/検出)量の検出結果を考慮して、前記各皮膚組織由来のUPE(発生)量を推定する工程
を含む。
【0026】
前記推定工程において、前記各皮膚組織から放出されるUPE(発生/検出)量の検出結果に基づいて算出された定数に基づき、前記各皮膚組織由来のUPE(発生)量が推定される。より具体的に各皮膚組織の定数を、検出されたUPE(検出)量に乗算することで、前記各皮膚組織由来のUPE(発生)量を推定することができる。
【0027】
真皮層より深部の組織由来のUPEは、微弱であることと、並びに真皮層の厚さのため、外側からの検出量は、通常無視できる程度に少ないと考えられる。したがって、UPE(検出)量が、UPEが表皮と真皮とからのみ生じると仮定した場合、下記式:
【数1】
(式中、
Kは、細分化された表皮から放出されるUPE(発生/検出)量に対する、細分化された真皮から放出されるUPE(発生/検出)量の比を表し、
TV表皮における可視光の透過率を表し、
TEは、電磁波の表皮の透過率を表す)
により定数を決定することができる。
これらの定数について、TVを、1で近似することもでき、その場合、下記式:
【数2】
(式中、
Kは、細分化された表皮から放出されるUPE(発生/検出)量に対する、細分化された真皮から放出されるUPE(発生/検出)量の比を表し、
TEは、電磁波の表皮の透過率を表す)
により表される。これらの定数については、図7及び図8の数式を参照することで算出することができる。
【0028】
[電磁波]
本発明において用いられる電磁波としては、電波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線などが挙げられる。これらのうち、皮膚に与えるダメージの観点から、本発明においては紫外線が好ましく用いられる。紫外線としては、UVA(波長320~400nm)とUVB(波長280~320nm)が好ましく用いられる。
【0029】
電磁波は表皮でUPEを発生させるとともに、表皮を透過し真皮においてもUPEを生じさせる。電磁波の表皮の透過率をTEとして表す。電磁波の表皮の透過率は、電磁波の種類に応じて異なる。電磁波がUVを指すときは、表皮透過率をTUVとして表し、さらにUVAやUVBを指すときには、それぞれ表皮透過率はTUVA、TUVBとして表すことができる。
【0030】
また、表皮を透過するUVAの透過率(TUVA)を10%~35%とすることが好ましく、15%~30%とすることがより好ましい。また、表皮を透過するUVBの透過率(TUVB)を5%~20%とすることが好ましく、6%~15%とすることがより好ましい。
【0031】
[皮膚]
本発明で電磁波を照射する皮膚は、哺乳動物、例えばヒトの皮膚であってもよいし、皮膚試料であってもよく、さらに別の態様では、培養皮膚、例えば3次元皮膚モデルを用いてもよい。ヒト生体の皮膚に対し、電磁波を照射して、各々の皮膚組織由来のUPE(発生)量を推定することができる。
【0032】
[皮膚組織]
皮膚を細分化した際に得られる複数の皮膚組織由来のUPE(発生)量を検出する際に用いられる皮膚(皮膚組織)としては、例えば美容整形術の際に切除された皮膚組織から調製された、市販のものを用いることができる。一例として、BIOPEWDIC International社製のものが利用可能である。用いられる皮膚組織としては、表皮または真皮であることが好ましい。さらに別の態様では、培養皮膚、例えば3次元皮膚モデルを用いてもよい。
【0033】
[皮膚の細分化]
皮膚を細分化するとは、皮膚組織を組織ごとに切り分けることをいう。ここで、真皮層より深部の組織由来のUPEの(検出)量は、通常無視できる程度に少ないと考えられる。したがってUPEを測定する方法において、UPEが表皮と真皮とからのみ生じるものと仮定することができ、その場合には、皮膚の細分化とは、皮膚組織を表皮と真皮のみについて切り分けることをいう。あらかじめ皮膚を細分化した際に得られる複数の皮膚組織由来のUPE(発生/検出)量とは、あらかじめ皮膚を組織別に細分化し、細分化された各皮膚組織に対して電磁波を照射することで、各皮膚組織から放出されるUPE(発生/検出)量のことをいう。あらかじめ皮膚を組織別に細分化し、細分化された各皮膚組織に対して電磁波を照射してUPEを検出することから、この場合のUPEの発生量と検出量は同一とみなすことができる。各皮膚組織から放出されるUPE(発生/検出)量は、電磁波を照射した際に各皮膚組織において増加したUPE量(UPE増加度)ということもできる。
【0034】
[UPE量]
後述する実施例で得られた結果から、本発明のUPE(発生)量を推定する方法において電磁波としてUVAを用いた場合、表皮のUPE(発生)量を12.6%~52.7%とすることが好ましく、20.9%~37.0%とすることがより好ましい。また、電磁波としてUVAを用いた場合、真皮のUPE(発生)量を47.3%~87.4%とすることが好ましく、63.0%~79.1%とすることがより好ましい。また、電磁波としてUVBを用いた場合、表皮のUPE(発生)量を40.2%~83.2%とすることが好ましく、58.6%~72.3%とすることがより好ましい。また、電磁波としてUVBを用いた場合、真皮のUPE(発生)量を16.8%~59.8%とすることが好ましく、27.7%~41.4%とすることがより好ましい。
【0035】
[UPEの検出方法]
また、本発明のUPE(発生)量を推定する方法は、UPEの検出方法として利用することが可能である。
【0036】
[UPE抑制剤の評価方法]
さらに、本発明のUPE(発生)量を推定する方法は、UPE抑制剤の評価方法として利用することが可能である。UPE抑制剤としては、抗酸化剤またはサンスクリーンであることが好ましい。UPE抑制剤を皮膚に塗布すると、皮膚に電磁波を照射した際に放出されるUPE(発生)量が低減する。
【0037】
[UPE抑制剤のスクリーニング方法]
また、本発明のUPE(発生)量を推定する方法は、UPE抑制剤のスクリーニング方法として利用することが可能である。具体的には、UPE抑制剤のスクリーニング方法は、以下の工程:
皮膚又は皮膚試料に電磁波を照射し;
照射後の皮膚又は皮膚試料に候補物質を塗布し;
放出されるUPE(検出)量を測定し;
あらかじめ皮膚を細分化した際に得られる複数の皮膚組織から放出されるUPE(発生/検出)量の検出結果を用いて、各々の皮膚組織由来のUPE(発生)量を推定し、
候補物質を塗布していない対照群と比較して、目的の皮膚組織におけるUPE(発生)量が低減する場合に、候補物質をUPE抑制剤として選択する
を含む。このスクリーニング方法では、電磁波照射後の遅延発光に対する候補物質のUPE抑制作用に基づいて、UPE抑制剤のスクリーニングが可能になる。こうしてスクリーニングされたUPE抑制剤としては、抗酸化物質、抗炎症物質などが挙げられる。電磁波照射後に、候補物質を塗布することにより、候補物質が照射された電磁波を遮ることがなく、また電磁波により変化した候補物質が皮膚に与える影響を排除することができる。候補物質を塗布していない対照群は、候補物質を塗布していない点のみで相違する。対照群における実験は、並行して実施されてもよいし、別途実施されていてもよい。対照群は、電磁波照射後に、皮膚試料に候補物質を塗布前に測定された放出されるUPE(検出)量であってもよい。
【0038】
さらなる態様では、候補物質を塗布後、UPE(検出)量を測定する前に、候補物質を除去する工程をさらに含んでもよい。候補物質を除去することにより、微弱なUPEが、塗布された候補物質により減弱されることを防ぐことができる。
【0039】
本発明の別の態様では、UPE抑制剤のスクリーニング方法として、以下の工程:
皮膚又は皮膚試料に候補物質を塗布し;
皮膚又は皮膚試料に電磁波を照射し、放出されるUPEのUPE(検出)量を測定し、
あらかじめ皮膚を細分化した際に得られる複数の皮膚組織から放出されるUPE(発生/検出)量の検出結果を用いて、各々の皮膚組織由来のUPE(発生)量を推定し、
候補物質を塗布していない対照群と比較して、目的の皮膚組織におけるUPE(発生)量が低減する場合に、候補物質をUPE抑制剤として選択する
を含む、スクリーニング方法にも関する。このスクリーニング方法では、UPE発生に関わる電磁波を低減することで、UPE抑制作用を発揮するUPE抑制剤のスクリーニングが可能になる。候補物質を塗布していない対照群は、候補物質を塗布していない点のみで相違する。対照群における実験は、並行して実施されてもよいし、別途実施されていてもよい。候補物質は、既知の化粧品用の素材ライブラリー、化合物ライブラリー、医薬品ライブラリーに含まれる物質であってよい。
【0040】
さらなる態様では、電磁波の照射後に、塗布された候補物質を除去してもよい。電磁波を照射した場合に、候補物質が微弱光を発する場合もあり、候補物質を除去することで、皮膚又は皮膚試料由来のUPE発生量を正確に推定することができる。
【0041】
[UPE(発生)量を推定する方法に用いられる撮影装置を備えた機器]
また本発明は、本発明のUPE(発生)量を推定する方法に用いられる、撮影装置及び電磁波照射装置を備えた機器にも関する。撮影装置としては、電荷結合素子カメラや光電子増倍管(PMT)を備えたフォトンカウンターを用いることができる。電荷結合素子カメラとしては、冷却CCDカメラであることが好ましい。電磁波照射装置は、電磁波の種類に応じて適宜選択することができ、UVを用いる場合にはUV光源と、所望される波長のみを通過するフィルターにより構成されうる。
【0042】
本発明の1の態様では、入力部、記憶部、処理部、撮影部及び電磁波照射部を備えたUPE測定機器に関してもよい。UPE測定機器において、以下の処理:
記憶部が、入力部から入力された各皮膚組織のUPE(発生)量推定用の定数を記憶し、
電磁波照射部が、皮膚に対し電磁波を照射し、
撮影部が、UPE(検出)量を測定し、
処理部が、記憶部に記憶された各皮膚組織のUPE(発生)量推定用の定数を、測定されたUPE(検出)量に乗じて、各皮膚組織由来のUPE(発生)量を推定する
が行われる。
【0043】
さらに別の態様では、入力部、記憶部、処理部、撮影部及び電磁波照射部を備えたUPE測定機器を作動する指令を含むプログラム、並びにかかるプログラムを格納する記憶媒体に関していてもよい。当該プログラムは、以下の処理:
記憶部が、入力部から入力された各皮膚組織のUPE(発生)量推定用の定数を記憶し、
電磁波照射部が、皮膚に対し電磁波を照射し、
撮影部が、UPE(検出)量を測定し、
処理部が、記憶部に記憶された各皮膚組織のUPE(発生)量推定用の定数を、測定されたUPE(検出)量に乗じて、各皮膚組織由来のUPE(発生)量を推定する
を行う指令を含む。
【0044】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例
【0045】
[実施例1]
<実験方法>
(1)約1cm四方のヒト皮膚組織を、表皮層と真皮層に分けた。
(2)紫外線照射器(デルマレイ200)を用いて、表皮層と真皮層のそれぞれの層にUVA 1,100/cm2またはUVB 230mJ/cm2を照射した。
(3)暗室下において、CCDカメラシステムを用いてUV照射皮膚(表皮層と真皮層)およびUV非照射皮膚(表皮層と真皮層)のUPEを5min 測定した。
(4)画像解析ソフト(ImageJ)を用いて、UPE強度を算出した。
(5)UV照射皮膚(表皮層と真皮層)のUPE強度からUV非照射皮膚(表皮層と真皮層)のUPE強度を差し引き、UPE増加度を求めた。
(6)真皮層のUPE増加度に関しては、さらにUVの真皮層への透過率を掛け、表皮層におけるUV強度の減衰を考慮した。
(7)(5)で求めた表皮層UPE増加度と(6)で求めた真皮UPE増加度の比率を計算し、UV照射された際の皮膚全体のUPE増加における表皮層と真皮層の寄与率を求めた。
【0046】
図1の左側の部分に、UVAを照射した真皮層と表皮層の観察結果を示す。図に示されているように、真皮層からのUPEが顕著に観察された。また、図1の右側の部分に、UVBを照射した真皮層と表皮層の観察結果を示す。この結果においてもまた、真皮層からのUPEが顕著に観察された。
【0047】
図2の左側の部分に、UVAを照射した真皮層と表皮層からのUPEを数値化した結果を示す。真皮層からのUPEが顕著に観察された、図1の左側の部分の結果が数値にも反映されていた。また、図2の右側の部分に、UVBを照射した真皮層と表皮層からのUPEを数値化した結果を示す。この部分においても、真皮層からのUPEが顕著に観察された、図1の右側の部分の結果が数値にも反映されていた。
【0048】
図2のグラフの実際の数値を図3に示す。UVAを照射した真皮のUPE増加度合(ΔUPE)は165.75であり、UVAを照射した表皮のΔUPEは8.34であった。一方、UVBを照射した真皮のΔUPEは100.26であり、UVBを照射した表皮のΔUPEは13.50であった。
【0049】
なお、表皮を透過するUVの文献値(Ultraviolet radiation (EHC 160, 1994, 2nd edition))の一例を図4に示す。この文献値においては、表皮を透過するUVAの割合は19.0%であり、表皮を透過するUVBの割合は9.5%であった。
【0050】
また、本実施例において得られた、皮膚全体のUPEに占める真皮UPEの割合を図5に示す。図5に示す通り、UVAの照射時においては、
皮膚全体のUPEに占める真皮UPEの割合=真皮ΔUPE×UVA透過率 / (表皮ΔUPE + 真皮ΔUPE×UVA透過率)
で計算され、結果は79.1%となる。
同様に、UVBの照射時においては、
皮膚全体のUPEに占める真皮UPEの割合=真皮ΔUPE×UVB透過率 / (表皮ΔUPE + 真皮ΔUPE×UVB透過率)
で計算され、結果は41.4%となる。
【0051】
上記の結果をまとめた、皮膚全体のUPE増加における表皮層と真皮層の寄与率の算出結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
[実施例2]
実施例1とは異なる皮膚を用い、実施例1と同様に実験を行った。実施例2における、皮膚全体のUPE増加における表皮層と真皮層の寄与率の算出結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表1、2の結果を踏まえ、UVAの表皮の透過率(10%~35%)、及びUVBの表皮の透過率(5%~20%)として、UVA及びUVBについてUPE(発生)量推定用の定数を求めると、一例として以下の推測式が導き出される。
・UVA用の推測式
表皮のUPE=Total UPE (by UVA) ×(0.126~0.527)
真皮のUPE=Total UPE (by UVA) ×(0.473~0.874)
・UVB用の推測式
表皮のUPE=Total UPE (by UVB) ×(0.402~0.832)
真皮のUPE=Total UPE (by UVB) ×(0.168~0.598)
【0056】
また、図6図7図8に紫外線照射による表皮層および真皮層におけるUPE量の推定式を示す。図8は、実質的に上記の表1の結果を反映したものである。
【0057】
[実施例3]
<実験方法>
(1)紫外線照射器(デルマレイ200)を用いて、ヒト皮膚組織に図9のグラフの横軸に示す照射量のUVA(左), UVB(右)を照射した。
(2)暗室下において、CCDカメラシステムを用いてUV照射前後の皮膚のUPEを5min 測定した。
(3)画像解析ソフト(ImageJ)を用いて、UPE強度を算出した。
(4)UV照射した皮膚のUPE強度からUV照射前の皮膚のUPE強度を差し引き、UPE増加度(ΔUPE)を求めた。
【0058】
図9に示す通り、UVA, UVBのいずれを照射した場合においても、照射量の増大に伴い、UPE増加度(ΔUPE)は上昇していた。
【0059】
本実験結果より、少なくともUVAでは140mJ/cm2以上、UVBでは40 mJ/cm2以上照射した際に発生するUPEが、本発明の推測式に適用されると考えられる。またこの結果が示すように、紫外線の照射量に応じてUPEは増加するため、本発明の推測式に適用されるUV照射量の上限は設定しなくてもよいものと思われる。
【0060】
また装置の特性上、UVA140 mJ/cm2以下、UVB40 mJ/cm2以下の照射量で発生するUPEを検出することは困難ではあるが、装置を変えてUPEを検出することができるのであれば、上記の結果より少ない照射量で発生するUPEに対しても本発明の推測式は適用されるものと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9