(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】微細気泡式浮上分離装置
(51)【国際特許分類】
B01D 17/035 20060101AFI20230818BHJP
C02F 1/24 20230101ALI20230818BHJP
B01F 23/2326 20220101ALI20230818BHJP
B01F 25/00 20220101ALI20230818BHJP
【FI】
B01D17/035 A
C02F1/24 A
C02F1/24 C
C02F1/24 D
B01F23/2326
B01F25/00
(21)【出願番号】P 2019157324
(22)【出願日】2019-08-29
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304030556
【氏名又は名称】関西オートメ機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100187436
【氏名又は名称】寺脇 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100155136
【氏名又は名称】伊藤 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100167243
【氏名又は名称】上田 充
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 千春
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 島彦
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 浩智
(72)【発明者】
【氏名】神原 惠一
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-000725(JP,A)
【文献】特開2001-170617(JP,A)
【文献】特開2015-155092(JP,A)
【文献】特開平05-212210(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104773789(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 17/00-17/12
C02F 1/20-1/26;1/30-1/38
B01F 21/00-25/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体から被分離物を分離するための微細気泡式浮上分離装置であって、
微細気泡発生装置と、
前記液体と、前記微細気泡発生装置において発生される微細気泡と、が供給される第1の槽と、
前記第1の槽の上端よりも上方でのみ該第1の槽に連通する第2の槽であって、前記第1の槽の前記上端よりも下方に前記液体の排出口が形成された第2の槽と
を備え、
前記微細気泡式浮上分離装置は、前記第1の槽内の少なくとも一部において前記液体の旋回流を発生可能に構成され
、
前記旋回流は、上下方向に延在する旋回軸線を有する
微細気泡式浮上分離装置。
【請求項2】
請求項1に記載の微細気泡式浮上分離装置であって、
前記微細気泡発生装置は、
旋回せん断方式であり、
上方に向けて前記第1の槽内に開口する微細気泡発生口を有する
微細気泡式浮上分離装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の微細気泡式浮上分離装置であって、
前記第1の槽内に配置され、前記旋回流が衝突することによって該旋回流を低減することができるように径方向に延在する第1の整流部材を備える
微細気泡式浮上分離装置。
【請求項4】
請求項3に記載の微細気泡式浮上分離装置であって、
前記微細気泡式浮上分離装置は、前記第1の整流部材の鉛直方向の設置位置を変更可能に構成された
微細気泡式浮上分離装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の微細気泡式浮上分離装置であって、
鉛直方向に貫通する貫通穴を有し、前記第1の槽内に配置される第2の整流部材を備える
微細気泡式浮上分離装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の微細気泡式浮上分離装置であって、
前記第1の槽は、前記第2の槽内の内部に設けられた筒状の隔壁の内部に形成され、該隔壁によって前記第2の槽から区画される
微細気泡式浮上分離装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の微細気泡式浮上分離装置であって、
前記第2の槽内において、鉛直方向における前記第1の槽の前記上端と前記排出口との間に配置され、前記液体の下方への流通を許容しつつ、気泡の沈降を抑制する沈降抑制部材を備える
微細気泡式浮上分離装置。
【請求項8】
請求項7に記載の微細気泡式浮上分離装置であって、
前記沈降抑制部材は、鉛直方向における前記第1の槽の前記上端と前記沈降抑制部材との距離よりも、該鉛直方向における前記沈降抑制部材と前記排出口との距離の方が小さくなる位置に配置された
微細気泡式浮上分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体から被分離物を分離するための微細気泡式浮上分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体から被分離物を分離するための微細気泡式浮上分離装置が従来から知られている(例えば、下記の特許文献1,2)。この装置では、例えば、油を含む液体内に微細気泡が供給される。微細気泡は、その気液界面に高いゼータ電位を有するとともに、表面張力による吸着性を有する。このため、液体内に微細気泡を供給すると、微細気泡の表面に油が付着する。この付着状態で当該微細気泡が浮上した際に、液面付近で微細気泡を油とともに回収することによって、液体から、被分離物としての油を分離することができる。かかる微細気泡式浮上分離装置は、油の分離に限らず、固体粒子や、比重が水とは異なる液体など、種々の物質を分離することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-167560号公報
【文献】特開2015-155092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、微細気泡は、その微細さ故に浮力が非常に小さいので、全ての微細気泡が十分に浮上して水面付近に到達するとは限らない。また、水面付近まで浮上しても、その後、沈降することもある。微細気泡が被分離物を捕集した後、液面まで浮上する前に分離槽から排出されると、あるいは、一旦浮上した後に沈降して、液面付近で回収されることなく分離槽から排出されると、被分離物が分離されないまま液体が排出されることになる。その場合、分離性能が低下することになる。このようなことから、微細気泡式浮上分離装置において、気泡の浮上能力を高めることによって、分離性能を向上することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本発明の第1の形態によれば、液体から被分離物を分離するための微細気泡式浮上分離装置が提供される。この微細気泡式浮上分離装置は、微細気泡発生装置と、液体と、微細気泡発生装置において発生される微細気泡と、が供給される第1の槽と、第1の槽の上端よりも上方でのみ第1の槽に連通する第2の槽であって、第1の槽の上端よりも下方に液体の排出口が形成された第2の槽と、を備えている。微細気泡式浮上分離装置は、第1の槽内の少なくとも一部において液体の旋回流を発生可能に構成される。本願において、微細気泡とは、直径が100μm以下の気泡であり、いわゆるマイクロバルブ(直径が1μm以上、100μm以下の気泡)が含まれる。本願において言及される気泡のサイズは、可視化法によって測定されたものをいう。
【0007】
かかる微細気泡式浮上分離装置によれば、液体と微細気泡とが供給される第1の槽と、排出口が形成された第2の槽と、が第1の槽の上端よりも上方でのみ連通する。換言すれば、第1の槽に供給された、気泡を含む液体は、第1の槽の上端をオーバーフローする経路でのみ、第1の槽から第2の槽に流入することができる。このため、気泡が液面付近まで一度も浮上することなく、排出口から排出されることがない。しかも、第1の槽内の少なくとも一部において液体の旋回流を発生させることによって微細気泡同士を結合させて、気泡を成長させる(すなわち、気泡サイズを大きくする)ことができる。以下では、こうして気泡サイズが大きくなった気泡を成長気泡とも呼ぶ。成長気泡は、微細気泡(微細気泡発生装置30において発生した微細気泡よりも直径が大きいが、依然として直径が100μm以下であるもの)のみを含んでいてもよいし、あるいは、微細気泡と、微細気泡よりも直径が大きい気泡と、を含んでいてもよい。あるいは、成長気泡は、微細気泡よりも直径が大きい気泡のみを含み、微細気泡を含んでいなくてもよい。このように気泡サイズが大きくなると、気泡の浮上能力が向上する。このことは、被分離物を捕集して液面付近まで浮上した気泡が、その浮上した状態を維持しやすくなる(換言すれば、沈降して排出口から排出される事象が発生しにくくなる)ことを意味する。したがって、微細気泡式浮上分離装置の分離性能が向上する。なお、本願において、単に「気泡」という場合、その気泡サイズを問わないことを意図している。
【0008】
本発明の第2の形態によれば、第1の形態において、微細気泡発生装置は、旋回せん断方式である。また、微細気泡発生装置は、上方に向けて第1の槽内に開口する微細気泡発生口を有する。旋回せん断方式の微細気泡発生装置は、周知の通り、微細気泡発生装置内に発生させる旋回流によって、微細気泡を発生させる。第2の形態によれば、微細気泡発生口の向きに起因して、微細気泡発生装置内で発生される旋回流の旋回方向と、第1の槽内で発生させるべき旋回流の旋回方向と、が一致する。このため、微細気泡発生装置内で発生した旋回流の旋回方向の速度成分は、微細気泡発生口を出た後も、少なくとも部分的に維持される(つまり、ゼロにはならない)。したがって、旋回流を発生させるための設備(例えば、整流板)を別途設けなくても、上記速度成分を利用して第1の槽内で旋回流を発生させることができる。その結果、装置構成を簡素化できる。
【0009】
本発明の第3の形態によれば、第1または第2の形態において、微細気泡式浮上分離装置は、第1の整流部材を備えている。第1の整流部材は、第1の槽内に配置され、旋回流が衝突することによって旋回流を低減することができるように径方向に延在する。かかる形態によれば、旋回流を低減することによって、微細気泡が過度に成長することを抑制できる(つまり、気泡サイズを調節できる)。換言すれば、液体および被分離物の性状に合わせて気泡サイズを調節して、気泡の浮上能力と捕集性能との両方を最適化することができる。本願において、「旋回流を低減する」とは、旋回流をなくす(ゼロにする)ことが含まれる。つまり、第3の形態には、第1の槽内に発生した旋回流を途中で完全になくすことが含まれる。
【0010】
本発明の第4の形態によれば、第3の形態において、微細気泡式浮上分離装置は、第1の整流部材の鉛直方向の設置位置を変更可能に構成される。かかる形態によれば、第1の整流部材によって旋回流を調節する鉛直方向の位置を変更できる。したがって、気泡サイズをより精細に制御することができる。
【0011】
本発明の第5の形態によれば、第1ないし第4の形態のいずれかにおいて、微細気泡式浮上分離装置は、第2の整流部材を備えている。第2の整流部材は、鉛直方向に貫通する貫通穴を有しており、第1の槽内に配置される。かかる形態によれば、気泡を含む液体は、第2の整流部材の貫通穴を通って第1の槽内を鉛直方向上方へ移動することになるので、液体を鉛直方向上方へ向けた流れに整流することができる。したがって、気泡を液面付近までより確実に浮上させることができる。
【0012】
本発明の第6の形態によれば、第1ないし第5の形態のいずれかにおいて、第1の槽は、第2の槽内の内部に設けられた筒状の隔壁の内部に形成され、当該隔壁によって第2の槽から区画される。かかる形態によれば、第1の槽および第2の槽を全体としてコンパクトに配置することができる。
【0013】
本発明の第7の形態によれば、第1ないし第6の形態のいずれかにおいて、微細気泡式浮上分離装置は、沈降抑制部材を備えている。沈降抑制部材は、第2の槽内において、鉛直方向における第1の槽の上端と排出口との間に配置される。沈降抑制部材は、液体の下方への流通を許容しつつ、気泡の沈降を抑制する。かかる形態によれば、被分離物を捕集して浮上した気泡が沈降して排出口から排出されることを抑制することができる。したがって、微細気泡式浮上分離装置の分離性能を向上させることができる。
【0014】
本発明の第8の形態によれば、第7の形態において、沈降抑制部材は、鉛直方向における第1の槽の上端と沈降抑制部材との距離よりも、鉛直方向における沈降抑制部材と排出口との距離の方が小さくなる位置に配置される。かかる形態によれば、沈降抑制部材は、第1の槽の上端と排出口との間において排出口寄りの位置に設けられることになる。つまり、沈降抑制部材が排出口の近くに設けられるので、沈降抑制部材が、その役割(気泡が排出口から排出されることを抑制する役割)を効率的に果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態による微細気泡式浮上分離装置の全体構成を示す模式図である。
【
図3】微細気泡発生装置が微細気泡を発生させる原理を示す模式図である。
【
図5】第1の整流部材および第2の整流部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態による微細気泡式浮上分離装置10(以下、単に分離装置10と呼ぶ)の全体構成を示す模式図である。分離装置10は、微細気泡を利用して処理対象の液体から被分離物を分離するために使用される。処理対象の液体(以下、単に液体とも呼ぶ)は、例えば、曲げ加工、切削加工などの機械加工工程で使用される洗浄液やクーラントであってもよい。被分離物は、固体物、例えば、切粉(例えば、金属粉、カーボン粉)、ごみなどであってもよいし、比重が水とは異なる液体(例えば、油)などであってもよい。
【0017】
図1に示すように、分離装置10は、分離装置本体20と、処理対象液槽80と、被分離物貯留槽90と、を備えている。分離装置本体20は、微細気泡発生装置30と、第1の槽40と、第2の槽50と、掻取装置60と、を備えている。
【0018】
処理対象液槽80は、隔壁83によって第1の槽81と第2の槽82とに区画されている。隔壁83は、処理対象液槽80の底面には達していない。このため、第1の槽81と第2の槽82とは、隔壁83よりも下方のところで連通している。液体は、第2の槽82からポンプ84を介して微細気泡発生装置30に供給される。微細気泡発生装置30は、微細気泡を発生させ(詳細は後述)、当該微細気泡を液体とともに、第1の槽40の底部に供給する。
【0019】
第1の槽40内に供給された液体は、ポンプ84の圧力によって上方に向けて流れ、第1の槽40の上端42をオーバーフローして、第2の槽50内に流入する。液体が第1の槽40を流れる間、微細気泡は、液体中の被分離物を捕集しつつ、浮上する(後述するように、微細気泡よりも大きな直径を有する気泡となって浮上する場合もある)。液体のオーバーフローに伴い、被分離物を捕集した気泡(以下、捕集後気泡とも呼ぶ)も、第1の槽40の上端42からオーバーフローして、第2の槽50内に流入する。
【0020】
第2の槽50内に流入し、水面付近に滞留している捕集後気泡は、掻取装置60によって、被分離物貯留槽90に排出される。具体的には、掻取装置60は、掻取板61とモータ62とを備えている。掻取板61は、第2の槽50の水面よりも上方から、水面よりも僅かに下方まで延在するように配置されている。掻取板61は、モータ62によって液面と平行に回転される。それによって、第2の槽50の水面付近の捕集後気泡が掻き取られ、排出シュートに排出される。排出シュートは、
図1に示されていない断面において、掻取板61の回転軌跡上に、第2の槽50に対して区切られて設けられている。気泡とともに排出シュートに排出された被分離物は、被分離物貯留槽90に貯留され、定期的に搬出される。
【0021】
一方、第2の槽50内に流入した液体は、排出口52を介して、処理対象液槽80の第1の槽81に戻される。上述の通り、処理対象液槽80は、第1の槽81と第2の槽82とに区画されている。このため、捕集後気泡が第2の槽50内を沈降して第1の槽81に排出されたとしても、当該捕集後気泡が第1の槽81の水面付近に滞留していれば、当該捕集後気泡を掻き取って分離することもできる。
【0022】
図2は、微細気泡発生装置30の概略断面図である。微細気泡発生装置30は、本実施形態では、旋回せん断方式である。微細気泡発生装置30は、ノズル状に形成されており、基部32とテーパ部33とを備えている。基部32は、一定の外径および内径を有している。テーパ部33は、基部32と反対側に向かうほど小さくなる外径および内径を有している。テーパ部33の先端(つまり、基部32と反対側の端部)には、微細気泡発生口31が形成されている。基部32には、液体供給口34と気体供給口35とが形成されている。
【0023】
液体供給口34には、第2の槽82からの液体が供給される。液体供給口34は、円筒状の基部32の接線方向に開口している。このため、
図3に示すように、液体供給口34から微細気泡発生装置30内に液体72を供給すると、微細気泡発生口31に向かう速度成分を有する旋回流73が発生する。また、液体に遠心力が作用することによって、旋回流73の中心部75には負圧が発生する。このため、
図3に示すように、中心部75には、気体供給口35から気体74が引き込まれる。本実施形態では、気体74は空気であるが、空気に代えて任意の気体(例えば、不活性ガス)が使用されてもよい。
【0024】
中心部75に引き込まれた気体74は、旋回流73との界面において徐々に千切れて泡になる。さらに、テーパ部33の内径が微細気泡発生口31に向けて徐々に小さくなっているので、旋回流73の旋回速度は徐々に大きくなる。そして、旋回流73が微細気泡発生口31を出た瞬間には、流路断面が急激に大きくなるので、旋回流73の旋回速度は急激に低下する。このときの旋回速度の差によって気体74が剪断され、微細な泡が生じる。微細気泡発生装置30は、このようにして微細気泡を発生させる。微細気泡発生装置30は、テーパ部33を備える構成に代えて、一定の直径および外径を有する構成(つまり、基部32が微細気泡発生口31まで延在する構成)を備えていてもよい。
【0025】
図4は、分離装置本体20の概略断面図である。
図4では、掻取装置60の図示を省略している。
図4に示すように、分離装置本体20は、底面57と、底面57から鉛直方向上方に延在する円筒状の外壁51と、を備えている。また、外壁51の内部には、円筒状の隔壁41が設けられている。隔壁41は、底面57から鉛直方向上方に延在している。隔壁41の高さは、外壁51の高さよりも低い。上述した第1の槽40は、この隔壁41の内部の空間である。第2の槽50は、外壁51と隔壁41との間の空間である。このように、第2の槽50の内部に第1の槽40を配置することによって、第1の槽40および第2の槽50を全体としてコンパクトに配置することができる。本実施形態では、第1の槽40および第2の槽50は、同心状に設けられている。
【0026】
上述の通り、隔壁41は底面57から延在しているので、第1の槽40と第2の槽50とは、第1の槽40の上端42(すなわち、隔壁41の上端)よりも上方でのみ、互いに連通している。それ以外の箇所では、第1の槽40と第2の槽50とは完全に隔離されている。このため、第1の槽40内の液体(捕集後気泡を含む)は、第1の槽40の上端42をオーバーフローする経路でのみ、第1の槽40から第2の槽50に流入することができる。このため、捕集後気泡が液面付近まで一度も浮上することなく排出口52から排出されることがない。
【0027】
本実施形態では、微細気泡発生装置30は、上述の通り旋回せん断方式である。そして、
図4に示すように、微細気泡発生装置30は、第1の槽40の直下に配置されている。微細気泡発生口31は、第1の槽40に開口しており、かつ、上方に向けて開口している。本実施形態では、微細気泡発生装置30の全体が第1の槽40の外部に配置されているが、微細気泡発生装置30の一部または全部が第1の槽40の内部に配置されていてもよい。
【0028】
旋回せん断方式の微細気泡発生装置30の微細気泡発生口31を、このような向きで配置することにより、微細気泡発生装置30の内部に発生した旋回流73の旋回方向の速度成分は、微細気泡発生口31を出た後も、少なくとも部分的に維持される。このため、旋回流を発生させるための設備(例えば、整流板)を別途設けなくても、
図4に示すように、第1の槽40内において、微細気泡発生口31の付近には、微細気泡発生装置30内の旋回流73と同じ向きの旋回流71が発生することになる。
【0029】
第1の槽40内で旋回流71を発生させることによって、微細気泡発生装置30から供給される微細気泡同士が結合して気泡サイズが大きくなり、成長気泡となる。成長気泡は、微細気泡(直径が100μm以下の気泡)のみを含んでいてもよいし、あるいは、微細気泡と、微細気泡よりも直径が大きい気泡と、を含んでいてもよい。あるいは、成長気泡は、微細気泡よりも直径が大きい気泡のみを含み、微細気泡を含んでいなくてもよい。成長気泡が、微細気泡のみを含む場合、または、微細気泡と、微細気泡よりも直径が大きい気泡と、を含む場合、微細気泡が成長気泡になる前と、成長気泡になった後と、の両方において、微細気泡による被分離物の捕集機能が発揮される。成長気泡が微細気泡よりも直径が大きい気泡のみを含む場合、微細気泡が成長気泡になる前において、微細気泡による被分離物の捕集機能が発揮される。このように成長気泡が形成されると(つまり、気泡サイズが大きくなると)、気泡の浮上能力が高まる。その結果、捕集後気泡が第1の槽40を浮上して第2の槽50に流入した後に、第2の槽50内を沈降して排出口52から排出されることを抑制できる。したがって、分離装置10の分離性能が向上する。
【0030】
本実施形態では、第1の槽40内には、
図4に示すように、第1の整流部材43と第2の整流部材46とが配置されている。本実施形態では、第1の整流部材43と第2の整流部材46とは一体的に形成されており、第2の整流部材46は、第1の整流部材43を支持する役割も果たしている。
【0031】
図5は、第1の整流部材43および第2の整流部材46を下方から見た斜視図である。図示するように、第1の整流部材43は、第1の部分44と第2の部分45とを備えている。第1の部分44および第2の部分45は、いずれも略矩形の板状の部材である。第1の部分44と第2の部分45とは、それらの長手方向の中央部で互いに直交している。第1の部分44および第2の部分45は、いずれも、旋回流71の径方向(換言すれば、円筒状の第1の槽40の径方向)に延在している。第1の整流部材43は、旋回流71を衝突させて、旋回流71を低減するために設置される。
【0032】
本実施形態では、
図4に示されるように、第1の整流部材43の径方向長さは、第1の槽40の直径よりも小さいので、第1の整流部材43と隔壁41との間には隙間が形成されている。このため、旋回流71の大部分は、第1の整流部材43に衝突して消滅するが、第1の槽40の最も外周の部分では、旋回流71が維持されることになる。つまり、大きな旋回半径の旋回流のみが残される。
【0033】
代替実施形態では、第1の整流部材は、径方向に延在することによって旋回流71と衝突し、旋回流71を低減可能な任意の形状であってもよい。例えば、代替の第1の整流部材は、第1の部分44および第2の部分45のうちの一方のみを有していてもよい。他の代替実施形態では、第1の整流部材は、隔壁41から、第1の槽40の円筒形状の軸心に向かって所定距離だけ延在するように設けられていてもよい。この場合、第1の槽40の円筒形状の軸心付近には第1の整流部材は存在しないので、第1の整流部材によって、大きな旋回半径の旋回流が消滅され、小さな旋回半径の旋回流のみが残されることになる。他の代替実施形態では、径方向における第1の整流部材の長さは、第1の槽40の内径と略等しくてもよい。この場合、旋回流は実質的に消滅される。他の代替実施形態では、第1の整流部材は、旋回方向に貫通する貫通穴を有していてもよいし、メッシュ状に形成されていてもよい。貫通穴やメッシュの開口部の開口面積を変更すれば、旋回流71の旋回速度を調節することができる。
【0034】
このように、発生させた旋回流71を途中で低減させる(あるいは、消滅させる)ことによって、気泡のサイズが過度に大きくなることを抑制できる。換言すれば、気泡のサイズを調節することができる。気泡のサイズが大きくなると、浮上能力が大きくなる一方で、捕集性能が低下する。つまり、浮上能力と捕集性能とはトレードオフの関係にあるので、液体および被分離物の性状に合わせて気泡のサイズを調節することによって、気泡の浮上能力と捕集性能との両方を最適化することができる。例えば、被分離物が油である場合には、気泡が相対的に大きくなるように設定されてもよく、被分離物が、より高い捕集性能が求められる微細な固体物である場合には、気泡が相対的に小さくなるように設定されてもよい。
【0035】
上述した諸実施形態にように、第1の整流部材43の径方向位置、大きさ、および/または、開口面積を変更すれば、旋回流71の旋回半径や旋回速度をより精細に調節することができ、その結果、気泡のサイズをより精細に調節することができる。
【0036】
図5に示すように、第2の整流部材46は、略円形のプレートであり、鉛直方向に貫通する複数の貫通穴47を有している。第2の整流部材46は、第1の槽40の流路断面(つまり、隔壁41の内径)と略等しい外径を有している。気泡を含む液体は、貫通穴47を通って第1の槽40内を鉛直方向上方へ移動することになるので、第2の整流部材46は、液体を鉛直方向上方へ向けた流れに整流することができる。したがって、捕集後気泡を液面付近までより確実に浮上させることができる。本実施形態では、第2の整流部材46は、パンチングメタルである。整流効果を高めるために(つまり、貫通穴47の鉛直方向の長さを大きくするために)、第2の整流部材46として、複数のパンチングメタルが積層されてもよい。第2の整流部材46として、鉛直方向に貫通する開口を有する任意の部材が使用されてもよい。
【0037】
図5に示すように、第2の整流部材46には、鉛直方向下方に向けて延在する2つの脚部48が接合されている。2つの脚部48の各々は、入れ子式に挿入可能な部分を有することによって、伸縮可能に構成されている。本実施形態では、この脚部48を、第1の槽40内の底面57(
図4参照)上に載置することによって、第1の整流部材43および第2の整流部材46が所定位置に配置される(
図4では、脚部48の図示は省略している)。脚部48の長さを調節することによって、鉛直方向における第1の整流部材43および第2の整流部材46の設置位置を変更することができる(つまり、旋回流71を低減させる鉛直方向位置を変更することができる)。その結果、気泡のサイズをより精細に制御することができる。
【0038】
第2の整流部材46の貫通穴47を通過した捕集後気泡は、ポンプ84によって圧送される液体の流れに乗って上方に移動し、第1の槽40の上端42をオーバーフローして、第2の槽50に流入する。
図4では、捕集後気泡76が液面付近に浮上した様子を示している。この捕集後気泡76は、上述したとおり、掻取装置60によって掻き出されて、被分離物貯留槽90に排出される。
【0039】
さらに、本実施形態では、
図4に示すように、分離装置本体20は、沈降抑制部材53,55を備えている。沈降抑制部材53,55は、第2の槽50内において、鉛直方向における第1の槽40の上端42と排出口52との間に配置される。沈降抑制部材53,55は、環状の部材であり、第2の槽50の流路断面と略等しい形状を有している。沈降抑制部材53,55は、例えば、外壁51または上端42に溶接される。本実施形態では、沈降抑制部材53は、鉛直方向における上端42の付近に配置され、沈降抑制部材55は、鉛直方向における排出口52の付近に配置される。
【0040】
沈降抑制部材53,55は、鉛直方向に貫通する複数の貫通穴54,56をそれぞれ有している。このため、沈降抑制部材53,55は、貫通穴54,56を介して液体の下方への流通を許容する。一方、沈降抑制部材53,55のうちの貫通穴54,56が形成されていない部分によって、鉛直方向下方に向けた液体の流れが局所的に遮られるので、沈降抑制部材53,55は、捕集後気泡76の沈降を抑制することができる。つまり、液面付近に浮上した捕集後気泡76が沈降したとしても、沈降抑制部材53,55は、当該捕集後気泡76が沈降抑制部材53,55よりも下方まで沈降することを抑制できる。その結果、捕集後気泡76が再浮上して、被分離物貯留槽90に排出される可能性を高めることができる。
【0041】
沈降抑制部材55は、鉛直方向における上端42と沈降抑制部材55との距離よりも、鉛直方向における沈降抑制部材55と排出口52の距離の方が小さくなる位置に配置されている。このため、捕集後気泡76が排出口52から排出されることを抑制する役割を効率的に果たすことができる。特に、本実施形態では、鉛直方向における排出口52の付近に配置されているので、このような効果は顕著になる。
【0042】
本実施形態では、沈降抑制部材53,55としてパンチングメタルを使用している。ただし、沈降抑制部材53,55は、液体の下方への流通を許容しつつ、気泡の沈降を抑制する任意の部材であってもよい。例えば、沈降抑制部材53,55は、メッシュ状の部材であってもよいし、ハニカム構造を有する多孔体であってもよい。沈降抑制部材は、1つ以上の任意の数だけ設けられてもよい。沈降抑制部材の数が多いほど、また、沈降抑制部材の鉛直方向の長さが長いほど捕集後気泡76の沈降抑制効果が大きくなるが、その分、圧損も増すことになるので、それらを総合的に勘案して、沈降抑制部材の仕様が決定される。
【0043】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明してきたが、上述した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各形態要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【0044】
例えば、微細気泡発生装置30に代えて、任意の方式(例えば、ベンチュリー式、加圧溶解式)の微細気泡発生装置が採用されてもよい。その場合、第1の槽40内に旋回流を発生させるために、微細気泡を含む液体を第1の槽40の接線方向に供給してもよいし、あるいは、第1の槽40内に整流板が設けられてもよい。
【0045】
また、第1の槽40および第2の槽50の形状は、任意の形状とすることができる。例えば、第1の槽40および第2の槽50は、円筒状の形状に代えて、角筒状の形状を有していてもよい。あるいは、第1の槽40と第2の槽50とが横に並ぶように、第2の槽50の外部に第1の槽40が配置されていてもよい。
【0046】
また、第1の整流部材43および第2の整流部材46は、上方から吊り下げられることによって(例えば、外壁51の上端に係合可能な棒状部材によって当該上端から吊り下げられることによって)配置されてもよい。この場合、軸方向に沿って雄ネジが形成された棒状部材が使用されてもよい。具体的には、第1の整流部材43または第2の整流部材46に形成された棒状部材挿入用貫通穴に棒状部材を通した後、棒状部材のうちの第1の整流部材43および第2の整流部材46を固定させたい箇所に、貫通穴よりも大きいサイズのナットを下側から締め付ける。こうすれば、第1の整流部材43および第2の整流部材46を鉛直方向の所望の位置(ナットの直上位置)に固定できる。また、第1の整流部材43と第2の整流部材46とは、別体で形成されてもよい。もとより、第1の整流部材43および第2の整流部材46の一方または両方は省略されてもよい。
【符号の説明】
【0047】
10...微細気泡式浮上分離装置
20...分離装置本体
30...微細気泡発生装置
31...微細気泡発生口
32...基部
33...テーパ部
34...液体供給口
35...気体供給口
40...第1の槽
41...隔壁
42...上端
43...第1の整流部材
44...第1の部分
45...第2の部分
46...第2の整流部材
47...貫通穴
48...脚部
50...第2の槽
51...外壁
52...排出口
53,55...沈降抑制部材
54,56...貫通穴
57...底面
60...掻取装置
61...掻取板
62...モータ
71,73...旋回流
72...液体
74...気体
75...中心部
76...捕集後気泡
80...処理対象液槽
81...第1の槽
82...第2の槽
83...隔壁
84...ポンプ
90...被分離物貯留槽