(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】汎用イオントラップ量子コンピュータでの並列多重量子ビット操作
(51)【国際特許分類】
G06F 7/38 20060101AFI20230818BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20230818BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20230818BHJP
G06N 10/00 20220101ALI20230818BHJP
【FI】
G06F7/38 510
H01J49/00 310
H01J49/00 360
H01J49/42 650
G06N10/00
(21)【出願番号】P 2020567964
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(86)【国際出願番号】 US2019036072
(87)【国際公開番号】W WO2019237011
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-11
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520159592
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド, カレッジ パーク
(73)【特許権者】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】フィガット キャロライン
(72)【発明者】
【氏名】オストランダー アーロン
(72)【発明者】
【氏名】リンケ ノーバート エム.
(72)【発明者】
【氏名】ランズマン ケヴィン エー.
(72)【発明者】
【氏名】チュー ダイウェイ
(72)【発明者】
【氏名】マスロフ ドミトリ
(72)【発明者】
【氏名】モンロー クリストファー
【審査官】佐賀野 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-028786(JP,A)
【文献】特開2017-073106(JP,A)
【文献】特開2005-159159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 7/38
H01J 49/00
H01J 49/42
G06N 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラップイオン量子システムにおいて、量子操作を実行する方法であって、
量子回路
の2つの並列ゲートを実装するステップであって、前
記2つの並列ゲートのそれぞれは
2量子ビットゲートであり、前
記2つの並列ゲートのそれぞれはイオントラップ内の複数のイオンの異なるイオンセットを使用して実装され、
前記2つの並列ゲートは、第一のイオンセットを使用して実装される第一の2量子ビットゲートと、第二のイオンセットを使用して実装される第二の2量子ビットゲートと、を含み、前記第一のイオンセットおよび前記第二のイオンセットは、絡み合いセットであり、前記イオントラップ内の前記複数のイオンの残りの任意のイオンセットは、絡み合いセットではなく、
前記2つの並列ゲートを実装するステップは、第一の光パルスシーケンスを生成するステップと、前記第一の光パルスシーケンスに基づいて、前記第一のイオンセットに第一のビームを適用して、前記第一の2量子ビットゲートを実装するステップを含み、前記第一の光パルスシーケンスの解は、二次絡み合い制約に基づき、複数のセグメントを有し、前記第一の光パルスシーケンスの各セグメントは、前記第一の2量子ビットゲートのそのセグメント中の相対周波数に対応し、前記第一の光パルスシーケンスの前記セグメントは等しい持続時間を有し、
前記2つの並列ゲートを実装するステップは、第二の光パルスシーケンスを生成するステップと、前記第二の光パルスシーケンスに基づいて、前記第二のイオンセットに第二のビームを適用して、前記第二の2量子ビットゲートを実装するステップを含み、前記第二の光パルスシーケンスの解は、二次絡み合い制約に基づき、前記第二の2量子ビットゲートに対して、複数のセグメントを有し、前記第二の光パルスシーケンスの各セグメントは、前記第二の2量子ビットゲートのそのセグメント中の相対周波数に対応し、前記第二の光パルスシーケンスの前記セグメントは等しい持続時間を有する、
ステップと、
前記量子操作の一部として、前
記2つの並列ゲートに対して同時に操作を実行するステップと、を含む、量子操作を実行する方法。
【請求項2】
前記第一のイオンセットのイオンは、前記イオントラップ内の任意の位置に配置され、
前記第二のイオンセットのイオンは、前記イオントラップ内の任意の残りの位置に配置される、請求項
1に記載の量子操作を実行する方法。
【請求項3】
前記
第一および第二の光パルスシーケンスを生成するステップは
、記憶された情報を検索して、前記
第一および第二の光パルスシーケンスを生成するステップを含む、請求項
1に記載の量子操作を実行する方法。
【請求項4】
前
記2つの並列ゲートは、両方ともXXゲートである、請求項1に記載の量子操作を実行する方法。
【請求項5】
前
記2つの並列ゲートは、両方ともCNOTゲートである、請求項1に記載の量子操作を実行する方法。
【請求項6】
前
記2つの並列ゲートが、異なる量の絡み合いを有する、請求項1に記載の量子操作を実行する方法。
【請求項7】
前記第一の2量子ビットゲートは、完全絡み合いゲートであり、前記第二の2量子ビットゲートは、部分絡み合いゲートである、
請求項
6に記載の量子操作を実行する方法。
【請求項8】
前
記2つの並列ゲートは、完全絡み合い
【数1】
ゲートと、部分絡み合い
【数2】
ゲートと、
を含む、請求項
6に記載の量子操作を実行する方法。
【請求項9】
前記量子回路は、量子全加算器回路である、請求項1に記載の量子操作を実行する方法。
【請求項10】
量子操作を実行するように構成されたトラップイオン量子システムであって、
量子回路
の2つの並列ゲートを実装するように構成されたアルゴリズム構成要素であって、前
記2つの並列ゲートのそれぞれは
2量子ビットゲートであり、前
記2つの並列ゲートのそれぞれはイオントラップ内の複数のイオンの異なるイオンセットを使用して実装され、
前記2つの並列ゲートは、第一のイオンセットを使用して実装される第一の2量子ビットゲートと、第二のイオンセットを使用して実装される第二の2量子ビットゲートと、を含み、前記第一のイオンセットおよび前記第二のイオンセットは、絡み合いセットであり、前記イオントラップ内の前記複数のイオンの残りの任意のイオンセットは、絡み合いセットではない、アルゴリズム構成要素と、
光学コントローラであって、前記アルゴリズム構成要素は、前記光学コントローラに命令を提供するように構成され、前記光学コントローラは、前記命令に基づいて、第一の光パルスシーケンスを生成して、前記第一の光パルスシーケンスに基づいて、前記第一のイオンセットに第一のビームを適用し、前記第一の2量子ビットゲートを実装するように構成され、前記第一の光パルスシーケンスの解は、二次絡み合い制約に基づき、複数のセグメントを有し、前記第一の光パルスシーケンスの各セグメントは、前記第一の2量子ビットゲートのそのセグメント中の相対周波数に対応し、前記第一の光パルスシーケンスの前記セグメントは等しい持続時間を有し、
前記光学コントローラは、前記命令に基づいて、第二の光パルスシーケンスを生成して、前記第二の光パルスシーケンスに基づいて、前記第二のイオンセットに第二のビームを適用し、前記第二の2量子ビットゲートを実装するように、さらに構成され、前記第二の光パルスシーケンスの解は、二次絡み合い制約に基づき、前記第二の2量子ビットゲートに対して複数のセグメントを有し、前記第二の光パルスシーケンスの各セグメントは、前記第二の2量子ビットゲートのそのセグメント中の相対周波数に対応し、前記第二の光パルスシーケンスの前記セグメントは等しい持続時間を有する、光学コントローラと、
前記量子操作の一部として、前
記2つの並列ゲートでの操作が同時に実行される、前記イオントラップと、
を備える、トラップイオン量子システム。
【請求項11】
前記第一のイオンセットのイオンは、前記イオントラップ内の任意の位置に配置され、
前記第二のイオンセットのイオンは、前記イオントラップ内の任意の残りの位置に配置される、
請求項
10に記載のトラップイオン量子システム。
【請求項12】
前記
第一および第二の光パルスシーケンスを生成するように構成された前記光学コントローラは、前記命令に基づいて
、記憶された情報を検索して、前記
第一および第二の光パルスシーケンスを生成するように、さらに構成される、請求項
10に記載のトラップイオン量子システム。
【請求項13】
前
記2つの並列ゲートは、両方ともXXゲートである、請求項
10に記載のトラップイオン量子システム。
【請求項14】
前
記2つの並列ゲートは、両方ともCNOTゲートである、請求項
10に記載のトラップイオン量子システム。
【請求項15】
前
記2つの並列ゲートは、異なる量の絡み合いを有する、請求項
10に記載のトラップイオン量子システム。
【請求項16】
前記第一の2量子ビットゲートは、完全絡み合いゲートであり、前記第二の2量子ビットゲートは、部分絡み合いゲートである、請求項
15に記載のトラップイオン量子システム。
【請求項17】
前
記2つの並列ゲートは、完全絡み合い
【数3】
ゲートと、部分絡み合い
【数4】
ゲートと、
を含む、請求項
15に記載のトラップイオン量子システム。
【請求項18】
前記量子回路は、量子全加算器回路である、請求項
10に記載のトラップイオン量子システム。
【請求項19】
トラップイオン量子システムにおいて量子操作を実行するためのプロセッサによって実行可能な命令を有するコードを記憶するコンピュータ可読記憶媒体であって、
量子回路
の2つの並列ゲートを実装するためのコードであって、前
記2つの並列ゲートのそれぞれは2量子ビットゲートであり、前
記2つの並列ゲートのそれぞれはイオントラップ内の複数のイオンの異なるイオンセットを使用して実装され、
前記2つの並列ゲートは、第一のイオンセットを使用して実装される第一の2量子ビットゲートと、第二のイオンセットを使用して実装される第二の2量子ビットゲートと、を含み、前記第一のイオンセットおよび前記第二のイオンセットは、絡み合いセットであり、前記イオントラップ内の前記複数のイオンの残りの任意のイオンセットは、絡み合いセットではない、コードと、
第一の光パルスシーケンスを生成し、前記第一の光パルスシーケンスに基づいて、前記第一のイオンセットに第一のビームを適用し、前記第一の2量子ビットゲートを実装するためのコードであって、前記第一の光パルスシーケンスの解は、二次絡み合い制約に基づき、対して複数のセグメントを有し、前記第一の光パルスシーケンスの各セグメントは、前記第一の2量子ビットゲートのそのセグメント中の相対周波数に対応し、前記第一の光パルスシーケンスの前記セグメントは等しい持続時間を有する、コードと、
第二の光パルスシーケンスを生成し、前記第二の光パルスシーケンスに基づいて、前記第二のイオンセットに第二のビームを適用し、前記第二の2量子ビットゲートを実装するためのコードであって、前記第二の光パルスシーケンスの解は、二次絡み合い制約に基づき、前記第二の2量子ビットゲートに対して複数のセグメントを有し、前記第二の光パルスシーケンスの各セグメントは、前記第二の2量子ビットゲートのそのセグメント中の相対周波数に対応し、前記第二の光パルスシーケンスの前記セグメントは等しい持続時間を有する、コードと、
前記量子操作の一部として、前
記2つの並列ゲートでの操作を同時に実行するためのコードと、
を備える、コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項20】
前記第一のイオンセットのイオンは、前記イオントラップ内の任意の位置に配置され、
前記第二のイオンセットのイオンは、前記イオントラップ内の任意の残りの位置に配置される、請求項
19に記載のコンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、「汎用イオントラップ量子コンピュータでの並列2量子ビット操作」と題され、2018年6月8日に出願された米国仮特許出願第62/682,677号、および「汎用イオントラップ量子コンピュータでの並列多重量子ビット操作」と題され、2019年6月6日に出願された米国特許出願第一6/433,950号の優先権および利益を主張し、それらの全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
(政府実施許諾権)
本発明は、NSFにより授与されたPHY0822671、IARPAにより授与されたW911NF1610082、AROにより授与されたW911NF1610349、およびAFOSRにより授与されたFA95501410052の下で政府の支援によってなされた。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本開示の態様は、概して、有効な多重量子ビット操作を可能にすることに関し、より具体的には、汎用イオントラップ量子コンピュータ上で並列多重量子ビット操作を可能にする技法に関する。
【背景技術】
【0004】
量子コンピュータの回路モデルは、離散操作の汎用ファミリから引き出された量子ビット(キュビット)間のゲート操作のシーケンスからなり、これらのゲートを並列に実行する能力は、量子計算技術の進歩にとって重要である。同時または並列に量子ゲートを実行する能力によって、多数の量子回路およびアルゴリズムの効率が明らかに向上する。さらに重要なことに、量子ゲート並列性は、アイドルデコヒーレンスに悩まされている量子ビットのフォールトトレラントの誤り訂正に不可欠である。ゲート並列性がなければ、フォールトトレランスのために必要とされる誤り閾値は、現実的なシステムにとって達成不可能なほど小さくなることがある。並列量子ゲートの実装は、クーロン結合トラップ原子イオンまたは空洞結合超伝導トランズモンのように、特に、コモンモードバスによって完全に接続された量子ビット間の潜在的なクロストークによって、複雑になる。
【0005】
したがって、特にトラップイオン技術に関するように、量子ゲート並列性を可能にし、既存の制限のいくつかを回避する技法を可能にすることが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以下では、そのような態様の基本的な理解を提供するために、1つまたは複数の態様の簡略化された発明の概要を提示する。この発明の概要は、全ての企図された態様の広範な概観ではなく、全ての態様の重要なまたは重要な要素を識別することも、任意のまたは全ての態様の範囲を線引きすることも意図されていない。その目的は、後に提示されるより詳細な説明の前置きとして、1つまたは複数の態様のいくつかの概念を簡略化された形態で提示することである。
【0007】
本開示は、多重量子ビット操作に関連する様々な態様、より具体的には、汎用イオントラップ量子コンピュータ上で並列多重量子ビット(少なくとも2量子ビット)操作を可能にするための技法を提示する。本開示は、量子回路の少なくとも2つの並列ゲートを実装するステップを含み、少なくとも2つの並列ゲートのそれぞれは、多重量子ビットゲートであり、少なくとも2つの並列ゲートのそれぞれは、イオントラップ内の複数のイオンの異なるイオンセットを使用して実装され、複数のイオンは、4つ以上のイオンを含む、トラップイオン量子システム内で量子操作を実行する方法を記載する。この方法は、量子操作の一部として、少なくとも2つの並列ゲートに対して同時に操作を実行するステップをさらに含む。
【0008】
また、本開示は、量子回路の少なくとも2つの並列ゲートを実装するように構成されたアルゴリズム構成要素を含み、少なくとも2つの並列ゲートのそれぞれが多重量子ビットゲートであり、少なくとも2つの並列ゲートのそれぞれが、イオントラップ内の複数のイオンの異なるイオンセットを使用して実装され、複数のイオンが4つ以上のイオンを含む、量子操作を実行するように構成されたトラップイオン量子システムを記載する。トラップイオン量子システムは、量子操作の一部として、少なくとも2つの並列ゲートでの操作が同時に実行されるイオントラップをさらに含む。トラップイオン量子システムは、汎用イオントラップ量子コンピュータ、量子情報処理(QIP)システム、量子コンピュータ、または一般にコンピュータ装置と呼ばれることもある。
【0009】
本開示はまた、トラップイオン量子システムにおいて量子操作を実行するためのプロセッサによって実行可能な命令を有するコードを記憶するコンピュータ可読記憶媒体を記載し、コンピュータ可読媒体は、量子回路の少なくとも2つの並列ゲートを実装するためのコードを含み、少なくとも2つの並列ゲートのそれぞれは、多重量子ビットゲートであり、少なくとも2つの並列ゲートのそれぞれは、イオントラップ内の複数のイオンの異なるイオンセットを使用して実装され、複数のイオンは、4つ以上のイオンを含む。コンピュータ可読記憶媒体は、量子操作の一部として、少なくとも2つの並列ゲート上で同時に演算を実行するためのコードをさらに含む。
【0010】
本明細書では、トラップされたイオンのセットを使用する並列多重量子ビット操作に関連する様々な態様のための方法、システム、およびコンピュータ可読記憶媒体に関する追加の詳細を説明する。
【0011】
添付の図面は、いくつかの実施態様のみを示しており、したがって、範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の態様に従って、線状結晶の原子イオンをトラップするための電極を収容する真空チャンバの図を示す。
【
図2A】本開示の態様に従って、5イオントラップのイオン(1,4)上に実装された並列XXまたはIsingゲートに対するパルス形状解および理論的位相空間軌道の例を示す。
【
図2B】本開示の態様に従って、5イオントラップのイオン(2,5)上に実装された並列XXまたはIsingゲートに対するパルス形状解および理論的位相空間軌道の例を示す。
【
図3A】本開示の態様に従って、5イオントラップの1つの例示的なイオンセット上の並列XXゲートのパリティ曲線および忠実度の例を示す。
【
図3B】本開示の態様に従って、5イオントラップの1つの例示的なイオンセット上の並列XXゲートのパリティ曲線および忠実度の例を示す。
【
図4】本開示の態様に従って、5イオントラップのイオン(1,4)および(2,3)上の同時CNOTゲートに関するデータの一例を示す。
【
図5A】開示の態様に従って、ファインマンのオリジナル量子全加算器の一例を示す図である。
【
図5B】開示の態様に従って、多重量子ビットゲート深さ4を有する最適化全加算器の一例を示す。
【
図6】本開示の態様に従って、5イオントラップのイオン(1、2、4、5)上の同時多重量子ビットゲートを使用する全加算器のデータの一例を示す。
【
図7】本開示の態様に従って、破線のボックスで囲まれた2つの並列多重量子ビット操作とともに、XX(χ)、R
x(θ)、およびR
y(θ)ゲートを使用するアプリケーション最適化全加算器の実装の一例を示す。
【
図8】本開示の態様に従って、コンピュータ装置の一例を示す図である。
【
図9】本開示の態様に従って、方法の一例を示すフロー図である。
【
図10】本開示の態様に従って、QIPシステムの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付の図面に関連して以下に記載される詳細な説明は、様々な構成または実装の説明として意図されており、本明細書で説明される概念が実施され得る唯一の構成または実装を表すことを意図していない。詳細な説明は、様々な概念の完全な理解を提供する目的で、特定の詳細を含む。しかしながら、これらの概念は、これらの特定の詳細がなくても実施され得ることは、当業者には明らかであろう。場合によっては、そのような概念を曖昧にすることを避けるために、周知の構成要素がブロック図の形態で示される。
【0014】
上述のように、量子コンピュータまたは量子情報処理(QIP)システムの回路モデルは、離散操作の汎用ファミリから引き出された量子ビット間のゲート操作のシーケンスから構成され、これらのゲートを並列に実行する能力は、量子計算技術の進歩にとって重要である。同時または並列に量子ゲートを実行する能力によって、多数の量子回路およびアルゴリズムの効率が明らかに向上する。さらに重要なことに、量子ゲート並列性は、アイドルデコヒーレンスに悩まされている量子ビットのフォールトトレラントの誤り訂正に不可欠である。ゲート並列性がなければ、フォールトトレランスのために必要とされる誤り閾値は、現実的なシステムにとって達成不可能なほど小さくなることがある。量子誤り訂正は、特に面倒なプロセスであり、オーバーヘッドが厳しくなる可能性があるプロセスであるがゆえに、冗長性のために大量の情報を符号化する必要がある。量子ゲート並列性によって、誤差の累積がより少なくなり、したがって、符号化する必要のある冗長性がより少なくなる。
【0015】
しかしながら、並列量子ゲートの実装は単純なタスクではない。この実装は、クーロン結合トラップ原子イオンまたは空洞結合超伝導トランズモンのように、特に、コモンモードバスによって完全に接続された量子ビット間の潜在的なクロストークによって、典型的には、複雑になる。この点に関して、本開示は、完全に接続されたトラップイオン量子ビットのアレイにおける並列2量子ビット絡み合いゲートを説明する。この機能のアプリケーションは、様々な量子回路において実施され得る。一つの例は、並列多重量子ビット操作を有する深さ4の量子回路を使用しての量子全加算器における実装である。これらの結果は、古典的制御技法を通して高度に接続された量子ビットシステムのパワーを活用し、量子回路の高速化とトラップイオン量子コンピュータによるフォールトトレランスの達成に向けた改善を提供する。本明細書で使用されるように、用語「多重量子ビット」は、2つ以上の量子ビットを使用する操作またはゲートを指すことがあり、例えば、2量子ビット、3量子ビット、4量子ビットなどのn量子ビットの操作またはゲートを含み、ここで、nは整数である。
【0016】
並列操作は、連続して操作を実行するよりもかなりの時間を節約し、計算効率を向上させる。誤り訂正、量子フーリエ変換、大きな絡み合い状態、加算器などの決定的な量子計算回路は、全て並列性の恩恵を享受し得る。数多くの完全な量子アルゴリズムは、Shorの整数因数分解、楕円曲線群にわたる離散対数問題の解法、Suzuki-Trotter公式を用いたハミルトニアン力学のシミュレーション、量子化学アルゴリズムなども含め、同様に、恩恵を享受する。これらの改善は、偏在的でもあり、かつ実質的でもある。全加算器およびトフォリゲートの双方は、並列性を使用して、全体的な実行時間を指数関数的に改善し得る。他の量子アルゴリズムでは、低い次数のn次多項式のゲート複雑性の全体にわたって、O(n)の高速化が見られる。
【0017】
本開示は、トラップイオンを使用する量子ゲート並列性のための様々な技法を記述する。トラップされた原子および超伝導回路は、量子情報処理システムとも呼ばれるトラップイオン量子コンピュータを実装するために使用され得る。原子ベースの量子ビットは、異なるタイプの装置として使用され得る。これらの装置には、量子コンピュータおよびシミュレータにおける量子メモリ、量子ゲートと、量子通信ネットワークのためのノードが含まれるが、これらに限定されない。トラップ原子イオンに基づく量子ビットは、非常に良好なコヒーレンス特性を有することができ、ほぼ100%の効率で準備して、測定することができ、光場およびマイクロ波場などの適切な外部制御場と、クーロン相互作用を変調することによって、互いに容易に絡み合うことができる。本開示で使用されるように、用語「原子イオン」、「原子」、および「イオン」は、互換的に使用され得るが、これは、結晶または同様の配置もしくは構成を形成するためにトラップ内に閉じ込められることになる粒子、または実際に閉じ込められる粒子を説明するためである。また、本開示で使用されるように、用語「ゲート」および「量子ゲート」は、互換的に使用されてもよい。
【0018】
量子情報処理に使用される典型的なイオントラップの幾何学的形状または構造は、線形無線周波数(RF)パウルトラップ(RFトラップ、表面トラップ、パウルトラップ、または単にイオントラップとも呼ばれる)であり、ここで、近くの電極は、イオンの効果的な不均一な高調波閉じ込めにつながる静的および動的電位を保持する。RFパウルトラップは、電場を使用して、荷電粒子を特定の領域、位置、または場所にトラップするタイプ、または閉じ込めるタイプのトラップである。原子イオンがこのようなトラップで非常に低温までレーザ冷却されると、原子イオンは量子ビットの静止結晶(例えば、量子ビットの構造化配列)を形成し、クーロン斥力が外部閉じ込め力と釣り合う。十分なトラップ異方性のために、イオンは、閉じ込めの弱い方向に沿って線状結晶を形成することができ、これは、量子情報および計測学におけるアプリケーションに典型的に採用される構成である。
【0019】
トラップ原子イオンは、最も高度な量子ビットプラットフォームの一つで、原子時計の精度と、完全に接続された再構成可能な量子ビットネットワークにおいてゲートを実行する能力を有する。トラップイオン量子ビット間の高い接続性は、それらの集団運動に対する光学力によって媒介される。トラップイオンは、複雑な多重電極トラップ構造内の別々のイオン鎖間で、あるいはオンチップまたはオフチップ上のフォトニック結合を介して、個々のイオンを往復させることによって、モジュール式にスケーリングすることができる。単一の大きなイオン鎖内では、鎖内の選択されたイオンを駆動するレーザパルスを適切に整形することにより、ゲートを実行することができる。ここで、ターゲット量子ビットは、それらのクーロン結合運動を介して絡み合うようになり、レーザパルスは、操作終了時に量子ビットから運動モードが絡み合わなくなるように変調される。このようにして複数の並列ゲートを実行するには、運動の絡み合いがないようにするだけでなく、ターゲット量子ビットのみを必要に応じて絡み合うようにすることで、パルス形状がさらに複雑であることが必要となる。このタイプの並列ゲートは、非線形最適化技術を用いて適切な光パルスを設計することにより、トラップイオン技術で達成することができる。
【0020】
図1は、イオントラップ(例えば、リニアトラップ)を用いて鎖状または線状結晶110内に原子イオンをトラップするための電極を収容する真空チャンバ100の部分図を示す。
図1に示す例では、量子システム(例えば、
図10参照)内の真空チャンバは、線状結晶110内に閉じ込められ、ほぼ静止するようにレーザ冷却される多数の原子イッテルビウムイオン(例えば、
171Yb
+イオン)をトラップするための電極を含む。トラップされる原子イオンの数は、構成可能であり得、いくつかの例では、100個以上の原子イオンがトラップされ得る。原子は、
171Yb
+の共鳴に同調されたレーザ放射で照射され、原子イオンの蛍光は、カメラ上に画像化される。この例では、原子イオンは、蛍光によって示されるように、互いに約5ミクロン(μm)の距離115だけ離れている。原子イオンの分離は、外部閉じ込め力とクーロン反発力との間のバランスによって決定される。
【0021】
個々のトラップ原子イオンの強い蛍光は、光子の効率的なサイクルに依存し、したがって、イオンの原子構造は、運動のレーザ冷却、量子ビット状態の初期化、および効率的な量子ビット読み出しを可能にする強い閉じた光学遷移を有さなければならない。これは、アルカリ土類(Be+、Mg+、Ca+、Sr+、Ba+)や特定の遷移金属(Zn+、Hg+、Cd+、およびYb+)のような、単独の外側電子を持つ簡単な原子体とは別に、多くの原子体を除外するかもしれない。これらの原子イオン内で、量子ビットは、2つの安定した電子レベルで表すことができ、多くの場合、2つの状態│↑>および│↓>、または等価に│1>および│0>の有効スピンによって特徴付けられる。
【0022】
本明細書では、量子ゲート並列性の態様は、5つの原子Yb
+イオンからなる鎖(例えば、
図1の鎖状または線状結晶110を参照)を使用して示され、共鳴レーザ放射は、量子ビットをレーザ冷却し、初期化し、測定するために使用される。トラップイオン鎖は、原子イオンが5つよりも多くなり得ることが理解されるべきである。コヒーレントな量子ゲート操作は、量子ビットの差周波数付近でビートノートを形成する単一モード同期レーザからの逆伝搬ラマンビームを適用することによって達成される。単一量子ビットゲートは、ラマンビートノートを量子ビットの周波数分割ω
0に同調させ、規定された位相および持続時間の共振ラビ回転(R(θ,Φ)ゲート)を駆動することによって生成される。2量子ビット(XX(χ))ゲートは、運動側波帯近傍のビートノート周波数で2つのイオンを照射し、運動モードを介する過渡状態絡み合いを介してイオン間に有効なIsing相互作用を生成することによって実現される。同様の操作を適用して、3つ以上の量子ビット間にゲートを生成することができるが、この例では、2つで汎用ロジックには十分であるため、1つの対を使用する。パルス整形スキームは、任意のイオン対上に、忠実度の高い絡み合いゲートを提供する。イオン量子ビットシステムは、ゲート時間に対して非常に長いコヒーレンス時間を有するが、そのコヒーレンス時間は常に有限であるため、並列操作を使用することが必要になる。
【0023】
N≧2M個のイオンからなる鎖内の量子ビットの独立したM個の対が、N個の運動モードω
kで関与する並列絡み合い操作を実行するために、ω
0±μでのバイクロマチックビートノートを用いて、成形された量子ビット状態依存力を関与したイオンに加えると、発展演算子:
【数1】
が得られる。ここで、τはゲート時間である。第一の演算子は、
【数2】
と、累積変位値
【数3】
を用いて、位相空間における各モードkの状態依存変位を記述する。
【0024】
ここで、
【数4】
は、モードkの昇降演算子であり、k,η
i,kは、モードkに量子ビットiを結合するラム・ディッケパラメータであり、Ω
i(t)は、イオンに衝突する振幅変調レーザ強度に比例する第iのイオンのラビ周波数である。いくつかの実装形態では、レーザパルスの周波数または位相変調を、振幅変調に関連して、または振幅変調の代わりに使用することができる。式(1)の第二の演算子は、量子ビットiおよびjを絡み合わせ、
【数5】
によって与えられる。
【0025】
ゲート操作の終了時に、2M個の関与するイオンとN個のモードに対する式(3)の2MN個の累積変位値が消滅するべきで、その結果、全てのモード軌道が位相空間で閉じ、残留量子ビット運動の絡み合いがなくなる。M個の所望の絡み合い対のそれぞれについて、最大絡み合いのために、χ=π/4(または部分絡み合いについての他の非ゼロ値)が必要となり、また量子ビットの他のクロストーク対について、χ=0が必要となる。これにより、M個の並列絡み合いゲートを実装するための適切なパルスシーケンスΩ
i(t)を設計するための合計
【数6】
個の制約が得られる。ゲート中の最適制御を提供し、これらの制約を満たすために、イオンiにおけるレーザパルスを等しい持続時間τ/SのS個のセグメントに分割し、独立変数として各セグメントにおける振幅を変化させる。独立したXXゲートを実装するために、絡み合うべきM個のイオン対に独立した信号を実装する。これは、所望のイオン対のみを同時に絡み合わせるのに十分な制御を提供するために必要である。
【0026】
2MN個の運動モード制約(例えば、式(3)参照)は線形であるのに対し、
【数7】
個の絡み合い制約(例えば、式(4)参照)は二次式である。この非凸二次制約付き二次計画(QCQP)に対するパルス解を見つけることは、一般的な場合にはNP困難な問題である。分析的アプローチは扱いにくいので、最適化技法を使用して、制約に可能な限り適合する解を見つけることができる。制約問題の設定および同時XXゲート操作の忠実度の導出は、上記の制御パラメータの関数である。
【0027】
上述したように、並列ゲートの例示的な実装は、5つのイオンからなる鎖内の2つの独立したイオン対に対して実装することができるものである。1つのアプローチでは、最適化スキームは、内蔵のMATLAB(登録商標)の制約なし多変数最適化関数「fminunc」を使用した。ここで、目的関数は、αおよびχパラメータに対する上記の制約と、パワーを最小化するための項を含んでいた。シーケンスは、他の同様の実験で既に使用されている標準的な多重量子ビットXXゲートに匹敵するτgate=250μsのゲート時間についても、離調μの範囲についても計算され得る。このアプローチは、実験セットアップでテストされ得る解の選択を生成する可能性がある。こうして、最小のパワーを使用して最高品質のゲートを生成する解を選択し得る。
【0028】
実験セットアップは、基底状態付近までレーザ冷却された5つのトラップされた
171Yb
+イオンの線状鎖上で実行される。量子ビットは、イオンの
2S
1/2多様体の
【数8】
超微細分割電子状態として指定される。これは、12.642821GHzの分割を有する一次の磁場に依存しないクロック状態である。コヒーレント操作は、単一の355nmモード同期レーザからのラマンビームを逆伝搬することによって実行される。第一のラマンビームは、鎖全体に適用されるグローバルビームであり、第二のビームは、個々のアドレッシングビームに分割されて、各イオン量子ビットをターゲットとする。さらに、マルチチャネル任意波形発生器(AWG)は、各イオンの個々のアドレッシングビームに個別のRF制御信号を提供し、独立した多重量子ビット操作を並列に実行するために必要な個々の位相、周波数、および振幅制御を提供する。すなわち、各イオンは、そのイオンのためのアドレッシングビームを用いて個々にアドレス指定され、そのアドレッシングビームの特性(例えば、位相、周波数、振幅)が、そのイオンに適切なパルスシーケンスを提供するように制御される。量子ビットは、光ポンピングを使用して、|0>状態に初期化され、状態依存の蛍光を使用して、マルチチャネル光電子増倍管(PMT)アレイの個別のチャネルによって読み取られる。
【0029】
5つのトラップされた
171Yb
+イオンから、6つのイオン対の組合せについて実験的ゲートを見出した。その6つとは、(1,4)および(2,5)、(1,2)および(3,4)、(1,5)および(2,4)、(1,4)および(2,3)、(1,3)および(2,5)、(1,2)および(4,5)である。
図2Aおよび
図2Bは、それぞれ、ダイアグラム200aおよびダイアグラム200bにおいて、イオン(1,4)および(2,5)上に並列多重量子ビットゲートのセットを構築するために各絡み合い対に適用されるパルスシーケンスと、各モード対相互作用の位相空間における軌道を示す。この5つのイオンからなる鎖における5つの横方向運動モードは、側波帯周波数ν
x={3.045,3.027,3.005,2.978,2.946}MHzを有し、ここで、モード1は3.045MHzのコモンモードである。位相空間(P,X)軌道(パルスシーケンスの右側)は、選択された離調に最も近いモード相互作用が最大の変位を示すことを示し、より多くの位相空間を囲むことにより、最終的なスピン・スピン絡み合いに最も寄与する。
【0030】
負の振幅パルスは、制御信号の位相を反転することによって実装される。この機能は、制御信号の位相を変更することで、絡み合い対がクロストーク対で蓄積された絡み合いを打ち消しながら、絡み合いを蓄積し続けることができるため、有用である。そのために、最適化プロトコルでゲートに使用される最初の推測は、一方の対が全て正の振幅形状を有し、他方の対がゲートの前半で正の振幅を有し、後半で負の振幅を有することであった。
図2Aおよび
図2Bのパルス形状は、これの良い例を提供する。他のパルス解(すなわち、他のパルス形状および位相空間軌道)は、ある種の対称性、セグメント振幅の増加および減少、およびクロストーク絡み合いを打ち消すために1つの対上で位相反転を有する類似のパターンを特徴とする場合がある。
【0031】
さらに、
図2Aおよび
図2Bに関して、示されるパルス形状解および理論的位相空間軌道は、イオン(1,4)および(2,5)上の並列XXゲートに対して、ゲート時間250μs、離調=2.962MHz、および理論的忠実度99.63%である。上述したように、これらの図は、それぞれのゲートを構成するために各絡み合い対に生成され適用されるパルスシーケンスを示し、ゲートの各セグメント中の相対的なラビ周波数を示す。負のセグメントは、逆位相を有する。また、これらの図は、各モード・イオン相互作用の位相空間における軌道を示しており、ゲートのコースにわたってα
i,kをプロットしている。同じパルス形状を見るイオンは、対称的なモード・イオン軌道を有している。位相空間軌道は、白丸から始まり、経路をたどって終わる。プロットは、同じサイズの軸を有するので、各モードの相対的な関与が示されている。
【0032】
本開示では、いくつかのイオン対の選択に並列多重ビット絡み合いゲートを実装した実験結果を説明する。忠実度は、並列ゲートと、それに続く分析パルスを実行し、次に、計算されたパリティを裸の並列ゲートからの結果とともに使用して、忠実度を決定することによって計算される。分析パルスは、回転角度の誤差に対するロバスト性を高めるためにSK1複合パルスを用いた回転である。各操作に含まれる4つのイオン(例えば、2つの並列多重量子ビットゲートのための2つのイオン)について、セット内の可能な6つの対全てについてパリティ分析を実行し、こうして、2つの絡み合いイオン対も、4つのクロストーク対も、分析が可能になる。パリティ曲線は、
図3Aおよび
図3Bのダイアグラム300aおよびダイアグラム300bにそれぞれ示されている。絡み合いゲートの忠実度は、典型的には96~99%で、クロストークは数%であった。
【0033】
さらに、
図3Aおよび
図3Bに関して、2つの例示的なイオンセット(例えば、セット(1,4)および(2,5)と、セット(1,4)および(2,3))上の並列XXゲートのパリティ曲線および忠実度を説明する。
図3Aのダイアグラム300aでは、イオン(1,4)および(2,5)を含むセットは、それぞれの絡み合い対で96.5(4)%および97.8(3)%の忠実度をもたらし、平均クロストーク誤差は3.6(3)%であり、3%の状態準備および測定(SPAM)誤差について訂正される。
図3Bのダイアグラム300bでは、イオン(1,4)および(2,3)を含むセットは、それぞれの絡み合い対で98.8(3)%および99.0(3)%の忠実度をもたらし、平均クロストーク誤差は1.4(3)%であり、<1%のSPAM誤差について訂正される。これらの図は、個々のデータ点と、これらのデータ点に対するフィット線との両方を示す。例えば、
図3Aのダイアグラム300aでは、(1,4)(“14データ/フィット)および(2,5)(“25データ/フィット)に対するデータ点/フィット線が最も高いパリティを示し、
図3Bのダイアグラム300bでは、(1,4)(“14データ/フィット)および(2,3)(“23データ/フィット)に対するデータ点/フィット線が最も高いパリティを示す。
【0034】
上記の所与の誤差は、統計的なものである。データは、SPAM誤差に対して訂正されている。クロストーク誤差は、クロストーク対のパリティ走査を通常のパリティフロップであるかのように正弦曲線に適合させ、その忠実度を絡み合いゲートとして計算し、完全な統計的混合を表す25%のベース忠実度を差し引くことによって見つけられた。相関または少量の絡み合いを表す上記の忠実度は、これらの目的のために誤差と見なされる。全ての対に対するクロストーク忠実度は25%に近く、これは、いずれのクロストーク対も検証可能な絡み合いを有さないことを示している。
【0035】
誤り訂正符号に有用な並列操作の例示的な適用として、1つのCNOTゲート対は、2つのイオン対上で並列に実行されてもよい。CNOTゲートシーケンス(例えば、RおよびXXゲートを有するコンパイル済みバージョン)は、イオン1が制御として作用し、イオン4がターゲットとして作用する対(1,4)と、イオン2が制御として作用し、イオン3がターゲットとして作用する対(2,3)とで、同時に実行された。複合ゲートにおける各構成要素操作は、並行して実行され、各回転(例えば、R)は、他方の対上の対応する回転と同時に実行され、2つのXXゲートは、イオン対(1,4)および(2,3)上の並列XXゲートを使用して実行される。同時ゲートは、16の可能なビット単位入力のそれぞれに対して実行され、16の可能なビット単位出力のための母集団データが、
図4のダイアグラム400に示され、平均プロセス忠実度は94.5(2)%で、5%の平均SPAM誤差について訂正される。
【0036】
上記の例に加えて、同様の技法は、他のタイプの量子回路またはシミュレーションにおいても有用であり得る。例えば、現代の古典的計算では、全加算器は、多ビット数を加算するためにカスケード接続することができる基本回路であり、演算論理ユニット(ALU)の構成要素としてプロセッサ内に見つけることができ、レジスタ・アドレスを計算するような低レベル操作を実行することができる。量子全加算器は、4つの量子ビットを必要とし、その最初の3つは、入力x、yと、桁上げビットC
inのためであり、その4つ目は、初期化された量子ビット│0>のためである。4つの出力は、単に桁上げだけの第一の入力x、
【数9】
を桁上げするy’(必要に応じて、追加のCNOTを加えてyを抽出することができる)、x、y、およびC
inを合計した2ビットの結果を構成する和Sおよび出力桁上げC
outからなる。ここで、C
outは最上位ビットであり、したがって、カスケード内の次の加算器への桁上げビットになり、Sは最下位ビットである。和は
【数10】
と書かれ、出力桁上げは
【数11】
と書かれることもある。ファインマンは、最初に、CNOTおよびトフォリゲートを使用してそのような回路を設計した。これは、
図5Aのダイアグラム500aに示されているが、イオントラップ量子コンピュータに実装するために12個のXXゲートを必要とする。より効率的な回路は、最大6個の多重量子ビット相互作用を必要とするが、これについては、説明がなされた。それは、
図5Bのダイアグラム500bで破線で囲った部分によって示すように、同時の多重量子ビット操作が利用可能であれば、ゲート深さ4まで小さくなるという更なる利点を有する。
【0037】
2つの異なる並列XXゲート構成と、回転および追加XXゲートを用いた別の全加算器の実装を、
図7のダイアグラム700に示す。この実装は、
図5Bのダイアグラム500bの全加算器の表現をとって、CNOT、C(V)、およびC(V
†)ゲートを組み合わせ、さらに回転を最適化することによって達成することができる。並列ゲートは、完全絡み合い
【数12】
ゲートと部分絡み合い
【数13】
ゲートを並列に実装するのと同等の様々な量の絡み合いを必要とした。これを各ゲートに供給する光パワーを独立に調整することにより実験的に実装した。入力x,y,C
in,および|0>は、それぞれ量子ビット(1,2,4,5)にマッピングされた。
図6のダイアグラム600は、このアルゴリズムを実装することから得られるデータを、3つの入力量子ビット上の8つの可能なビット単位入力の全てとともに示し、使用される4つの量子ビット上の16個の可能なビット単位出力の全てにおける母集団を表示する。データは、83.3(3)%の平均プロセス忠実度をもたらし、3%の平均SPAM誤差について訂正した。
【0038】
本明細書に記載の例に関連して、多重量子ビットXX(χ)絡み合いゲートの忠実度を計算または測定することは、XXゲートを実行した後に適用されるグローバル
【数14】
回転の位相Φを走査し、スキャンの各点でパリティを計算することによって行うことができる。さらに、並列ゲートは、パルス形状を変更することなく、ゲート上の全体パワーを制御するスケーリング係数を調整することにより、互いに独立に較正することができる。単一イオン上のパワーを制御するスケーリング係数を調整すると、絡み合いの総量を変更することによって、それが寄与するゲートにのみ影響を与えるが、ゲート品質に明らかな悪影響を及ぼすことはない。さらに、並列化スキームにおけるXXゲートは、独立した較正を有するので、2つのXXゲートのχパラメータは独立であってもよい。連続可変パラメータχは、2つの量子ビットの間に生成される絡み合いの量に直接関係し、このパラメータは、全体的なゲートのパワーをスケーリングすることによって実験または実装上で調整することができる。その結果、上述のように、絡み合い度の異なる2つのXXゲートを同時に実装することが可能になり、これは、いくつかの用途において有用であることが分かる。
【0039】
より高速な多重量子ビットゲートは、より多くの光パワーで達成することができるが、この高速化は、側波帯分解能によって制限される。この制限は、プロセッササイズが大きくなるにつれて、スペクトルが混雑するので、悪化する。並列多重量子ビット操作は、この課題を回避する計算を高速化するためのツールである。光パワー要件に関連して、2つのXXゲートを並列に実行するためのゲート時間τ
gate=250μsは、単一のXXゲートを実行するためのゲート時間と同等である(その結果、2つのXXゲートを直列に実行するための時間の半分を要することになる)が、並列ゲートスキームは、若干多くの光パワーを必要とする。ラビ周波数Ωは、ビーム強度Iの平方根に比例し、
【数15】
である。ここで、I
0およびI
1は、個々のビームおよびグローバルビームのビーム強度である。したがって、
【数16】
と同じイオンで単一のXXゲートに必要なパワーと並列に実行されたゲートのパワーの比R
││を計算できる。
【0040】
強度は単位面積あたりのパワーであり、ビームサイズは変わらないので、これは打ち消される。各ゲートのパワー比は、表Iに示されている。一部のゲートは、かなり多くのパワーを必要とするが(例えば、高品質と低パワーの両方である(1,2)、(3,4)の解は課題である)、並列で実行されるほとんどのゲートは、その単独で実行されるゲートの約2~4倍のパワーを必要とする。しかしながら、この実験に対するパワー要件の完全に説明するには、未使用ビームによって浪費されるパワー同等の操作ビームを常に実行するために必要とされ、使用されていないときにAOMの後にダンプされる合計時間も考慮に入れなければならず、照射されていないイオンは、個々のビーム浪費パワーに対応する。2つのXXゲートを並列で実行するには、τ
gate=250μsを要し、4つのイオンを照射するために、それぞれがパワーPを有するビームを使用するが、スタンドアロンXXゲートを用いて、この同じ2つのゲートを直列で実行するには、時間2τ
gateを要し、2つのイオンを照射するために、それぞれがパワーP/4~P/2を有する4つのビームを使用するので、2つのビームが無駄になる。これにより、半分の時間で2倍のパワー(またはそれ以上)を使用するか、2倍の時間で半分のパワーを使用するかの選択ができるようになり、その結果は、問題のゲートに依存する。したがって、並列ゲートは、レーザパワーが利用可能で、時間よりも並列性の利点がある場合に非常に有用である。
【表1】
表I:実装された各並列XXゲート対について、パワー比R
|│を計算することによる、各構成要素XXを実行するのに必要なパワーと、その対応するスタンドアロン多重量子ビットXXゲートとの比較
【0041】
本明細書で提示した並列多重量子ビット絡み合いゲートのための制御スキームは、単一の操作で多重量子ビット絡み合いを実行するための方法も示唆している。特に興味深いのは、Greenberger-Horne-Zeilinger(GHZ)状態の創設である。このGHZ状態は、少なくとも3つのサブシステム(粒子)を含む特定のタイプの絡み合った量子状態である。すなわち、GHZ状態は、分離不可能で最大に絡み合った多重量子ビット状態のクラスである。
【0042】
並列多重量子ビット絡み合いゲートのためのパルス形状を生成するための同じ最適化アプローチは、イオンに適用されたときにGHZ状態を生成するために使用されてもよい。しかしながら、並列ゲートとは異なり、対単位でのソリューションを解くのではなく、4つのイオン全てで独立したパルス形状を許可する必要がある場合がある。これによって、より多くの自由パラメータが提供される。追加の課題は、そのようなゲートを実験で実装する際に、有効な較正技法を見つけることを含み得る。というのも、全てが同じ強度である必要がある6つの相互作用が存在するであろうが、制御信号は4つだけであるためである。制御信号によって適用されるパルス形状に対する全体のパワーを調整することによって、多重量子ビットゲートを較正する現在のアプローチは、必要とされ得る多くの自由度を含むGHZ状態および技法への適用性が、例えば、各イオン上のパルス形状の異なるセグメントに対するパワーを独立に調整することなどが制限されることがある。
【0043】
ゲートの数を減らしてGHZ状態を実装すると、いくつかの重要なアルゴリズムの回路深さを実質的に小さくすることになので、その利点は大きい。多重量子ビットGHZ状態での軸モードの使用について説明してきたが、本明細書に記載されるスキームは、半径方向モード相互作用とともに使用するための新しい方法を表す。利用可能な多重量子ビットゲートのみを用いて、サイズNのGHZ状態を構築するには、O(N)個の多重量子ビットゲートが必要である。しかしながら、利用可能な並列多重量子ビットゲートでは、GHZ状態を構築するのに必要なゲート深さは、O(log(N))まで小さくなる。これは、二分木アルゴリズムを用いて達成することができ、全ての量子ビットを対に分割し、それらの対を並列に絡み合わせ、その後、これらの対を絡み合わせることを、全てが絡み合うまで続けることによって行われる。単一操作のGHZ状態では、この回路深さは、1まで小さくなる。単一操作のGHZ状態を構築することで、いくつかのアルゴリズムの効率が大幅に向上する。例えば、任意の安定化器回路は、
【数17】
CNOTゲートを必要とするが、単一操作のGHZ状態回路を有するO(N)ゲートで実装することができる。単一操作のGHZ状態生成は、また、量子秘密共有、トフォリNゲート、量子フーリエ変換、量子フーリエ加算器回路のようなアプリケーションでもメリットがある。
【0044】
本開示の別の態様は、本明細書で説明された技法のスケーラビリティである。例えば、同時ゲート上のスケーリングの見通しは、最適解を計算するときに考慮すべき制約の数が多項式以上である。N個のイオンからなる鎖の2つの並列XXゲートは、4N+6~O(N)個の制約を必要とする。したがって、問題の成長は、N個で線形である。より多くの対を一度に絡み合わせると、二次的に成長する。すなわち、絡み合うM個の対は、2M個のイオンの相互作用を含み、制御しなければならないスピンとスピンの相互作用の数は
【数18】
個になり、スピンと運動の相互作用の数は、イオンの数にモードの数を乗じたもの、つまり、2MN個になる。したがって、絡み合い対の数Mおよび鎖内のイオンの数Nの両方をスケーリングすると、問題の合計成長レートは
【数19】
になる。
【0045】
非常に長い鎖では、全てのイオンとイオンとの接続が直接利用できるわけではないので、考慮すべきクロストーク対に対する二次制約の数が減り、これがスケーリングの上限であることを示している。
【0046】
本明細書で説明する技法を改善するためには、解の忠実度を高める必要がある場合がある。必要なパワーに対する制約を緩和すると、より忠実度の高い解を計算することができる可能性があるが、実験のパワーを増やすと、ラマンビームノイズによる誤差が悪化する可能性もある。改善は、凸QCQPが半正定値計画技法を使用して容易に解かれ、より忠実度の高い解を可能にするため、絡み合い対のセグメント振幅に基づく制約行列を修正して、正または負の半定値にすることができるかどうかを決定することを含むことがある。しかしながら、これらの問題は、全てオーバーヘッドの問題である。高品質のゲート解が実験で実装されると、それ以上の計算は必要なくなり、ラビ周波数ドリフトを補正するために必要な較正は1回だけになる。
【0047】
ここで、
図8を参照すると、本開示の態様による例示的なコンピュータ装置800が示されている。コンピュータ装置800は、例えば、単一の計算装置、複数の計算装置または分散計算システムを代表し得る。コンピュータ装置800は、量子コンピュータ、従来コンピュータ、または量子計算機能および従来計算機能の組合せとして構成することができる。例えば、コンピュータ装置800を使用し、情報を処理して、異なる量子回路、アルゴリズム、実験、またはシミュレーション、および、例えば、単一の操作(例えば、GHZ状態)で多重量子ビット絡み合いを実行することを含む任意の関連する特徴において、並列多重量子ビット操作を可能にするために、本明細書に記載される様々な技法を生成または実装してもよい。コンピュータ装置800は、量子コンピュータまたはQIPシステムとして使用され得る。これは、トラップイオン量子コンピュータまたはシステムであるが、これらに限定されない。コンピュータ装置800の態様を実装するために使用することができるQIPシステムの一般的な例を、
図10に示す例に示す。
【0048】
一例では、コンピュータ装置800は、本明細書で説明する特徴のうちの1つまたは複数に関連する処理機能を実行するためのプロセッサ810を含むことができる。例えば、プロセッサ810を使用し、コンピュータ装置800の操作を制御して、異なる量子回路、アルゴリズム、実験、またはシミュレーション、および、例えば、単一の操作(例えば、GHZ状態)で多重量子ビット絡み合いを実行することを含む任意の関連する特徴において、並列多重量子ビット操作を実装、実施、および/または実行してもよい。プロセッサ810は、単一または複数のセットのプロセッサまたはマルチコアプロセッサを含んでもよい。さらに、プロセッサ810は、統合処理システムおよび/または分散処理システムとして実装されてもよい。プロセッサ810は、中央処理ユニット(CPU)、量子処理ユニット(QPU)、グラフィックス処理ユニット(GPU)、またはこれらのタイプのプロセッサの組合せを含むことができる。
【0049】
一例では、コンピュータ装置800は、本明細書に記載する機能を実行するためにプロセッサ810によって実行可能な命令を記憶するメモリ820を含んでもよい。一実施形態では、例えば、メモリ820は、本明細書に記載する1つまたは複数の機能または操作を実行するためのコードまたは命令を記憶するコンピュータ可読記憶媒体に対応することができる。一例では、メモリ820は、
図9に関連して以下で説明する方法900の態様を実行するための命令を含むことができる。一例では、メモリ820を使用して、並列多重量子ビットゲートの異なるセットを生成するために使用されるパルスシーケンスに関する情報を記憶することができる。
【0050】
さらに、コンピュータ装置800は、本明細書で説明するように、ハードウェア、ソフトウェア、およびサービスを利用して、1人または複数の当事者との通信を確立し、維持することを提供する通信構成要素830を含むことができる。通信構成要素830は、コンピュータ装置800上の構成要素間でも、コンピュータ装置800と、外部装置、例えば、通信網を介して配置された装置および/またはコンピュータ装置800にシリアルまたはローカルに接続された装置との間でも通信を実行することができる。例えば、通信構成要素830は、1つまたは複数のバスを含むことができ、さらに、外部装置とインタフェースするために操作可能な送信機および受信機にそれぞれ関連する送信チェーン構成要素および受信チェーン構成要素を含むことができる。
【0051】
さらに、コンピュータ装置800は、データストア840を含むことができ、データストアは、本明細書で説明する実装に関連して使用される情報、データベース、およびプログラムの大容量記憶を提供するハードウェアおよび/またはソフトウェアの任意の適切な組合せとすることができる。例えば、データストア840は、オペレーティングシステム860(例えば、従来OS、または量子OS)のためのデータリポジトリであってもよい。一実施形態では、データストア840は、メモリ820を含むことができる。
【0052】
コンピュータ装置800は、また、コンピュータ装置800のユーザから入力を受信するように操作可能であり、さらにユーザに提示するための出力を生成するように、または異なるシステムに(直接的または間接的に)提供するように操作可能なユーザインタフェース構成要素850を含むことができる。ユーザインタフェース構成要素850は、1つまたは複数の入力装置を含むことができる。入力装置には、キーボード、ナンバーパッド、マウス、タッチセンシティブディスプレイ、デジタイザ、ナビゲーションキー、ファンクションキー、マイクロフォン、音声認識構成要素、ユーザからの入力を受信することができる任意の他の機構、またはそれらの任意の組合せが含まれるが、これらに限定されない。さらに、ユーザインタフェース構成要素850は、1つまたは出力装置を含むことができる。出力装置には、ディスプレイ、スピーカ、触覚フィードバック機構、プリンタ、ユーザに出力を提示することができる任意の他の機構、またはそれらの任意の組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
一実装では、ユーザインタフェース構成要素850は、オペレーティングシステム860の操作に対応するメッセージを送信および/または受信することができる。さらに、プロセッサ810は、オペレーティングシステム860および/またはアプリケーションまたはプログラム(例えば、プログラム、アルゴリズム、シミュレーション、量子ゲートを使用する実験)を実行することができ、メモリ820またはデータストア840は、それらを記憶することができる。
【0054】
コンピュータ装置800がクラウドベースのインフラ解の一部として実装される場合、ユーザインタフェース構成要素850を使用して、クラウドベースのインフラ解のユーザがコンピュータ装置800とリモートで対話できるようにすることが可能になる。
【0055】
図9は、本開示の態様に従って、トラップイオン量子システムにおいて量子操作を実行する方法900の一例を示すフロー図である。一態様では、方法900は、上述のコンピュータ装置800などのトラップイオン量子システムで実行されてもよく、例えば、プロセッサ810、メモリ820、データストア840、および/またはオペレーティングシステム860を使用して、方法900の機能を実行してもよい。また、方法900を実行するためのトラップイオン量子システムは、
図10に関連して後述するシステムのようなQIPシステムであってもよい。
【0056】
910において、方法900は、量子回路の少なくとも2つの並列ゲートを実装するステップを含み、少なくとも2つの並列ゲートのそれぞれは、多重量子ビットゲートであり、少なくとも2つの並列ゲートのそれぞれは、イオントラップ内の複数のイオンの異なるイオン対を使用して実装され、複数のイオンは、4つ以上のイオンを含む。
【0057】
920において、方法900は、量子操作の一部として、少なくとも2つの並列ゲートに対して同時に操作を実行するステップを含む。
【0058】
方法900の別の態様では、少なくとも2つの並列ゲートは、第一のゲートと、第二のゲートとを含み、第一のゲートは、複数のイオンの第一のイオン対を使用して実装され、第二のゲートは、複数のイオンの第二のイオン対を使用して実装され、第一のイオン対および第二のイオン対は、絡み合い対であり、イオントラップ内の複数のイオンの残りのいずれのイオン対も、絡み合い対ではない。第一のイオン対のイオンは、イオントラップ内の任意の2つの位置に配置され、第二のイオン対のイオンは、イオントラップ内の任意の2つの残りの位置に配置される。
【0059】
方法900の別の態様では、量子回路の少なくとも2つの並列ゲートを実装するステップは、第一のゲートを構築するために第一のイオン対と、第一のゲートと並列に第二のゲートを構築するために第二のイオン対に適用される光パルスシーケンスを生成するステップを含む。さらに、光パルスシーケンスを生成するステップは、記憶された情報を検索して、第一のイオン対を使用して第一のゲートを、第二のイオン対を使用して第二のゲートを構築するための光パルスシーケンスを生成するステップを含む。さらに、光パルスシーケンスを生成するステップは、第一のパルスシーケンスを生成して第一のゲートを構築するステップであって、第一のパルスシーケンスは第一のゲートに対して複数のセグメントを有し、第一のパルスシーケンスの各セグメントは第一のゲートのそのセグメント中の相対周波数に対応し、第一のパルスシーケンスのセグメントは等しい持続時間を有する、ステップと、第二のパルスシーケンスを生成して第二のゲートを構築するステップであって、第二のパルスシーケンスの第二のゲートに対して複数のセグメントを有し、第二のパルスシーケンスの各セグメントは第二のゲートのそのセグメント中の相対周波数に対応し、第二のパルスシーケンスのセグメントは等しい持続時間を有する、ステップと、を含む。
【0060】
方法900の別の態様では、少なくとも2つの並列ゲートは、両方ともXXゲートである。
【0061】
方法900の別の態様では、少なくとも2つの並列ゲートは、両方ともCNOTゲートである。
【0062】
方法900の別の態様では、少なくとも2つの並列ゲートは、異なる量の絡み合いを有する。例えば、少なくとも2つの並列ゲートは、第一のゲートおよび第二のゲートを含み、第一のゲートは、完全絡み合いゲートであり、第二のゲートは、部分絡み合いゲートである。別の例では、少なくとも2つの並列ゲートは、完全絡み合い
【数20】
ゲートと、部分絡み合い
【数21】
ゲートと、を含む。
【0063】
方法900の別の態様では、量子回路は、例えば、量子全加算器回路を含め、本明細書に記載される様々な量子回路または量子シミュレーションのいずれでもよい。
【0064】
方法900の別の態様では、少なくとも2つの並列ゲートは、第一の2量子ビットゲートおよび第二の2量子ビットゲートを含み、第一のゲートは、イオントラップ内の複数のイオンの第一のイオン対を使用して実装され、第二のゲートは、イオントラップ内の複数のイオンの第二のイオン対を使用して実装され、第一のイオン対および第二のイオン対は、絡み合い対であり、イオントラップ内の複数のイオンの残りのイオン対の任意の残りのイオン対は、絡み合い対ではない。第一のイオン対のイオンは、イオントラップ内の任意の2つの位置に配置されてもよく、第二のイオン対のイオンは、イオントラップ内の任意の2つの残りの位置に配置されてもよい。
【0065】
方法900は、各ゲートが多重量子ビットゲートである複数の並列ゲートに適用されてもよいことをされるべきである。例えば、2つ以上の並列ゲート(例えば、2つの並列ゲート、3つの並列ゲート、4つの並列ゲートなど)は、並列ゲートのそれぞれが多重量子ビットゲート(例えば、2量子ビットゲート、3量子ビットゲート、4量子ビットゲートなど)である場合に実装されてもよい。
【0066】
方法900に関連して上述された態様は、これらの態様のうちの2つ以上が本開示によってサポートされる異なる実装を表すように、組み合わされ得ることも理解されるべきである。例えば、方法900の2つ以上の態様を組み合わせて、方法900に関連する実施形態を生成することができる。
【0067】
図10は、本開示の態様に従って、QIPシステム1000の一例を示すブロック図である。QIPシステム1000は、量子計算システム、コンピュータ装置などと呼ばれることもある。一態様では、QIPシステム1000は、
図8のコンピュータ装置800の量子コンピュータ実装の一部分に対応し得る。
【0068】
QIPシステム1000は、光学コントローラ1020によって一度イオン化された原子種をトラップするイオントラップ1070を有するチャンバ1050に原子種を供給するソース1060を含むことができる。チャンバ1050は、
図1に関連して上述した真空チャンバ100に対応することができ、一方、イオントラップ1070は、
図1に関連して上述した鎖状または線状結晶110などのイオンからなる鎖を保持するために使用することができる。光学コントローラ1020内の光源1030は、1つまたは複数のレーザ源を含んでもよい。レーザ源1030は、原子種のイオン化、原子イオンの制御(例えば、位相制御)、光学コントローラ1020内の撮像システム1040内で操作する画像処理アルゴリズムによって監視および追跡することができる原子イオンの蛍光、および並列多重量子ビットゲートを可能にするために使用される光パルスシーケンスの生成と関連する操作のために使用することができる。撮像システム1040は、イオントラップ1070に提供されている間(例えば、計数のために)、またはイオントラップ1070に提供された後(例えば、原子イオン状態を監視するために)、原子イオンを監視するための高分解能撮像装置(例えば、CCDカメラ)を含んでもよい。一態様では、撮像システム1040は、光学コントローラ1020とは別個に実装することができるが、画像処理アルゴリズムを使用して原子イオンを検出し、識別し、ラベル付けするための蛍光の使用は、光学コントローラ1020と調整する必要がある場合もある。
【0069】
QIPシステム1000は、また、上述のような量子回路、量子アルゴリズム、および量子シミュレーションを含む量子操作を実装、実施、および/または実行するために、QIPシステム1000の他のパーツ(図示せず)とともに操作し得るアルゴリズム構成要素1010を含み得る。したがって、アルゴリズム構成要素1010は、QIPシステム1000の様々な構成要素(例えば、光学コントローラ1020)に命令を提供して、量子操作の実装、性能、および/または実行を可能にすることができるが、これは、具体的には、並列多重量子ビットゲートが関与する量子操作および関連する操作のためである。
【0070】
トラップイオン量子システムとも呼ばれ得るQIPシステム1000の例において、アルゴリズム構成要素1010は、量子回路の少なくとも2つの並列ゲートを実装するように構成されてもよく、少なくとも2つの並列ゲートのそれぞれは、多重量子ビットゲートであり、少なくとも2つの並列ゲートのそれぞれは、イオントラップ1070内の複数のイオンからなる異なるイオン対を使用して実装され、その複数のイオンは、4つ以上のイオンを含む。イオントラップ1070では、量子操作の一部として、少なくとも2つの並列ゲートでの操作が同時に実行される。
【0071】
また、アルゴリズム構成要素1010は、命令を光学コントローラ1020に提供するように、さらに構成され、その命令に基づいて、光学コントローラ1020は、異なるイオン対に適用される光パルスシーケンスを生成して、少なくとも2つの並列ゲートを構築する。光学コントローラ1020は、さらに、命令に基づいて、記憶された情報を検索して、光パルスシーケンスを生成するように構成される。光学コントローラ1020は、少なくとも2つの並列ゲートの第一のゲートを構築するための第一のパルスシーケンスを生成するように構成され、第一のパルスシーケンスは、第一のゲートに対して複数のセグメントを有し、第一のパルスシーケンスの各セグメントは、第一のゲートのそのセグメントの間の相対周波数に対応し、第一のパルスシーケンスのセグメントは、等しい持続時間を有し、第二のパルスシーケンスのセグメントは、少なくとも2つの並列ゲートの第二のゲートを構築するための第二のパルスシーケンスを生成するように構成され、第二のパルスシーケンスの各セグメントは、第二のゲートのそのセグメントの間の相対周波数に対応し、第二のパルスシーケンスのセグメントは、等しい持続時間を有する。
【0072】
QIPシステム1000に関連する例は、限定ではなく、例示として提供されることを理解されるべきである。QIPシステム1000の1つの構成要素またはサブ構成要素の特徴または機能は、異なる実装形態または実施形態において、他の構成要素またはサブ構成要素と組み合わせることができる。さらに、特定の構成要素またはサブ構成要素に明示的に関連付けられていないQIPシステム1000によってサポートされる詳細な特徴または機能は、必要に応じて、既存の構成要素またはサブ構成要素のうちの1つによって実行され得る。例えば、量子回路および量子ゲートの選択、実装、および実行制御に関連する態様は、アルゴリズム構成要素1010に関連付けられてもよく、光学操作に関連する態様は、光学コントローラ1020に関連付けられてもよく、トラップイオンとの相互作用に関連する態様は、イオントラップ1070に関連付けられてもよい。
【0073】
QIPシステム1000は、各ゲートが多重量子ビットゲートである、複数の並列ゲートに適用されてもよいことを理解されるべきである。例えば、2つ以上の並列ゲート(例えば、2つの並列ゲート、3つの並列ゲート、4つの並列ゲートなど)は、並列ゲートのそれぞれが多重量子ビットゲート(例えば、2量子ビットゲート、3量子ビットゲート、4量子ビットゲートなど)である場合に実装されてもよい。
【0074】
QIPシステム1000に関連して上述された態様は、これらの態様のうちの2つ以上が、本開示によってサポートされる異なる実装を表すように、組み合わされ得ることも理解されるべきである。例えば、QIPシステム1000の2つ以上の態様を組み合わせて、QIPシステム1000に関連する実施形態を生成することができる。
【0075】
本開示は、図示された実施形態に従って提供されたが、当業者は、実施形態にバリエーションがあり得、それらのバリエーションも本開示の範囲内にあることを容易に認識するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、当業者は多くの修正を行うことができる。