(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】アミノ酸定量方法及びアミノ酸定量用キット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/25 20060101AFI20230818BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20230818BHJP
【FI】
C12Q1/25 ZNA
C12N15/52 Z
(21)【出願番号】P 2020513235
(86)(22)【出願日】2019-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2019015061
(87)【国際公開番号】W WO2019198623
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2018077189
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100216286
【氏名又は名称】篠崎 史典
(72)【発明者】
【氏名】山田 健太
(72)【発明者】
【氏名】青木 秀之
(72)【発明者】
【氏名】中柄 朋子
(72)【発明者】
【氏名】喜田 幹子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大祐
(72)【発明者】
【氏名】寺田 貴帆
(72)【発明者】
【氏名】疋田 泰士
(72)【発明者】
【氏名】横山 茂之
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170469(WO,A1)
【文献】特開2013-198448(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118894(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の各工程を含む工程(I):
(工程I-1)試料中のアミノ酸(AA)に対応するアミノアシルtRNA合成酵素(AARS)及び転移RNA(tRNA)を反応させて、AARSとtRNAから成る複合体(AARS-tRNA複合体)を形成させる反応(反応1)を含む工程;
(工程I-2)二価陽イオンの存在下、該AA、該AAに対応するAARS-tRNA複合体、及び、アデノシン三リン酸(ATP)を反応させて、アミノアシルアデニル酸(アミノアシルAMP)とAARS-tRNA複合体から成る複合体(アミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体)を形成させる反応(反応2)を含む工程;
(工程I-3)反応2及び/又は反応4で形成されたアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体(該複合体から生成され得るAARS及びアミノアシルtRNAも含む)にアミノ酸再生試薬を作用させて、AA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物を遊離させる反応(反応3)を含む工程;
(工程I-4)反応3で遊離されたAA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物を反応1及び/又は反応2において再利用することによってアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体反応を形成させる反応(反応4)を含む工程;及び、
(工程I-5)工程I-3及び工程I-4を繰り返す工程、並びに、工程(I)で生じた反応産生物の量を測定し、該反応産生物の測定量に基づきアミノ酸の量を決定することを含む工程(II)、
を含む、試料中のアミノ酸定量方法
であって、
前記工程(I)で用いるアミノ酸再生試薬が、ヌクレオチド及びアルカリ性化合物であることを特徴とするアミノ酸定量方法。
【請求項2】
工程(I)で用いるtRNAが、AARSのモル数の0.25倍以上であることを特徴とする、請求項1に記載のアミノ酸定量方法。
【請求項3】
吸光度法により吸光度変化を測定することによって、工程(I)で生じた反応産生物の量を測定する、請求項1
又は2に記載のアミノ酸定量方法。
【請求項4】
工程(I)で生じる反応産生物として、ピロリン酸又は水素イオンの少なくとも何れか1つを測定する、請求項1~
3のいずれか一項に記載のアミノ酸定量方法。
【請求項5】
工程(I)で生じた反応産生物のモル数が反応液中に含まれるtRNA及び/又はアミノ酸のモル数より多いことを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項に記載のアミノ酸定量方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のアミノ酸定量法を実施するためのアミノ酸定量用キットであって、ATP、アミノ酸再生試薬、並びに、該アミノ酸に対応するAARS及びtRNAを含む、アミノ酸定量用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸定量方法及びアミノ酸定量用キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
L-アミノ酸(L-AA)は、生体内のタンパク質の構成成分として重要な役割を担っており、その種類は20種類である。L-アミノ酸の機能性に関し多くの研究がなされ、L-アミノ酸は、医薬品、加工食品、健康食品など様々な産業で使用されている。例えば、食品中の遊離のL-アミノ酸は、味、加熱後の香り、保存性、摂取後の生体調節機能等に関係しており、食品科学や栄養科学分野における重要な要素として注目されている。また、近年、疾病により血液中のL-アミノ酸濃度が変化することが見いだされ、血液中のアミノ酸濃度を測定することで、肺がん、胃がん、大腸がんなどのがん診断を可能とするバイオマーカーとしても活用されている。その為、アミノ酸定量技術は、アミノ酸を使用する製品開発、品質管理、診断などの様々な分野で必要不可欠な技術となっている。
【0003】
L-アミノ酸のアミノ酸定量技術として、アミノ酸を液体クロマトグラフィーで分離し、ニンヒドリンや蛍光誘導体化剤オルトフタルアルデヒドによる呈色反応で検出する方法が知られている(非特許文献1)。しかし、該方法は、1検体の分析時間が2時間程度必要なため分析時間がかかり、多数の検体を測定するには不向きであるという問題点があった。
【0004】
別のアミノ酸定量技術として、L-アミノ酸に作用する酵素を利用するアミノ酸の測定方法が知られている(特許文献1)。しかし、該方法は目的基質とするアミノ酸に対する選択性が低く、目的以外のアミノ酸にも反応する、また、20種類のアミノ酸に対応する酵素がないという問題点があった。
【0005】
アミノアシルtRNA合成酵素(AARS)は、生体内のタンパク質合成に係る酵素であり、以下の反応式1及び2に従って、アミノアシルtRNAを産生する。20種類のL-アミノ酸(L-AA)に対し特異的な20種類のAARSが存在する。その為、標的とするアミノ酸及び転移RNA(tRNA)に対する選択性が極めて高い酵素であるとされている。
【化1】
【0006】
AARSの内、グルタミン酸に作用するグルタミルtRNA合成酵素、グルタミンに作用するグルタミニルtRNA合成酵素及びアルギニンに作用するアルギニルtRNA合成酵素の3種類のAARSについては、以下の反応式3~5に従って、tRNAとAARSが予め会合し、活性化されなければAARS反応が起こらないことが報告されている(非特許文献2)。
【化2】
【0007】
当該反応では、ピロリン酸(PPi)が産生されると共に、AARSにアデノシン三リン酸(ATP)、L-アミノ酸(L-AA)及びtRNAが1分子ずつ作用することで、アミノアシルアデニル酸(アミノアシルAMP)-AARS-tRNA複合体という反応中間体を形成する。該複合体に於いて、アミノアシルAMPは、通常、AARSに強く結合しているため、tRNA又は求核剤(アミン類)を加えて複合体を分解しない限り上記のAARS反応は進まないとされている(特許文献2、非特許文献3~4)。
【0008】
このようなAARSが関与する反応(AARS反応)については、非特許文献5や非特許文献6のように放射線ラベルを使用した方法で確認されており、本方法を利用したL-アミノ酸の定量技術がこれまで開発されてきた。例えば、非特許文献7では、反応式1と反応式2のAARS反応に基づき、放射線ラベルをした測定対象アミノ酸を用い、ATP、tRNAとAARSを作用させ、産生したアミノアシルtRNAをビーズに吸着させ、その放射線量を測定することで測定対象アミノ酸を測定する方法が記載されている。しかしながら、該方法では、放射線ラベルした測定対象アミノ酸が不可欠であり、放射線ラベルをした測定対象アミノ酸が取り扱える施設や設備が必要である。また、ビーズの吸着、分離などの煩雑な操作も必要である。さらに反応式1と2のAARS反応に基づくため、AARSが1分子のアミノ酸とATPと反応し、1分子のアミノアシルtRNAを産生するため、試料中のtRNAと同量かそれ以下のピロリン酸しか産生されない。従って、該方法では、微量な反応産物であるアミノアシルtRNAを検出する必要があり、放射線ラベルをした測定対象アミノ酸が必要不可欠だとされている(特許文献2の段落番号0012)。
【0009】
また、例えば、以下の反応式6で示される反応に基づくアミノ酸の分析方法が特許文献3に記載されている。
【化3】
【0010】
該方法に於いては、AARSがATP及びL-アミノ酸と結合する際に生じるピロリン酸を指標とすることによりL-アミノ酸を分析する(特許文献3、非特許文献8、9、10)。しかしながら、反応式6からも分かるように、当該方法は、tRNAを添加せず反応させる方法であり、tRNAとAARSが予め会合し、活性化されなければならないAARSでは、反応が起こらない方法である。
【0011】
更に、tRNAを添加せず、反応式1と2のAARS反応に基づいてL-アミノ酸を定量する方法が、特許文献2及び特許文献4に記載されている。即ち、前述の通りアミノアシルAMPは、通常、AARSに強く結合してアミノアシルAMP-AARS複合体を形成している。そこで、該方法では、アミノアシルAMP-AARS複合体分解試薬としてヒドロキシルアミンなどのアミン類(求核剤)を添加することで、AARSを再び反応可能な状態とし、その結果、少量のAARSでL-アミノ酸を定量することを特徴とする。しかしながら、特許文献2及び特許文献4に記載の該複合体分解試薬が複合体のL-アミノ酸と反応して化合物が産生される(例えば、特許文献2の段落番号0037に示されるように、該複合体分解試薬としてヒドロキシルアミンを使用した場合は、「アミノ酸ヒドロキサム酸」が産生される)ため、L-アミノ酸は再利用することが出来ず、その結果、試料中のL-アミノ酸と同等量の産生物であるピロリン酸しか得られない(特許文献2の段落番号0023)。
【0012】
また、該方法はtRNAを添加せず反応させる方法であり、tRNAとAARSが予め会合し、活性化されなければならないAARSでは、反応が起こらない。因みに、特許文献2では、tRNAとAARSが予め会合し、活性化されなければならないAARSについては、tRNAを添加すれば良いとしており、添加するtRNAは、測定対象のアミノ酸と同等に高いモル濃度にする必要がなく、AARSと同等に低いモル濃度添加すれば十分であることが記載されている(特許文献2の段落番号0012)。また、反応式1と2のAARS反応に基づく該方法において、tRNAを使用する場合、アミノアシルtRNAを構成するtRNAは再利用することが出来ず、その結果、試料中のtRNA量に反応が制限されることとなり、tRNAと同等量の産生物であるピロリン酸しか得られない。以上のことから、反応式1と2のAARS反応に基づく該方法は、tRNAやL-アミノ酸の再利用をしないため、tRNA又はL-アミノ酸と同等量のピロリン酸しか得ることができない、また、AARS反応で生じたピロリン酸を多段階の酵素反応により検出しているため、煩雑であるとともに、血中の夾雑物やその他の外部要因により各酵素が影響を受けやすいことが懸念される。
【0013】
実際に、特許文献2には、こうして予めtRNAと会合されたAARSから形成されるアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体にヒドロキシルアミンなどのアミン類(求核剤)を作用させた場合に、該複合体からAA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物が遊離されて、これらが再び反応可能な状態となり、その結果、L-アミノ酸が定量出来ることは何ら記載ないし示唆されていないし、また、そのような事実を示した実施例は開示されていない。
【0014】
一方、別のAARS反応としては、例えば、以下の反応式7と8の反応が知られている。当該反応では、AARSにATP及びL-アミノ酸が1分子ずつ作用することで、アミノアシルAMP-AARS複合体を形成する。次いで該複合体にATP、GTP等を作用させることによって、医薬品や医薬品原料として期待されているジアデノシン四リン酸(Ap4A)等のジアデノシンポリリン酸(ApnA)及びアデノシングアノシンテトラリン酸(Ap4G)等が合成・製造されている(特許文献5、特許文献6、非特許文献11、非特許文献12)。
【化4】
【0015】
当該反応の反応式7は、ピロリン酸の存在下では逆反応が促進され、アミノアシルAMP-AARS複合体からアミノ酸、AARS及びATPが産生される。その為、当該反応を進めるためには、逆反応を生じなくさせる必要があり、上記の公知文献に記載の技術では、反応式7で産生される不必要なピロリン酸を分解するため、ピロリン酸を分解する無機ピロホスファターゼが使用されている。更に、これら公知文献に記載された技術は、あくまで、ApnA及びAp4G等の合成・製造に関するものであって、アミノ酸の定量に関する技術的課題を解決することを目的とするものではない。実際に、これら公知文献には、上記の反応式7と8のAARS反応を活用したアミノ酸の定量については何ら言及されておらず、反応式8に於いて生じるアミノ酸及びAARSの再利用に関しても一切触れられていない。
【0016】
また、反応式7と8のAARS反応に基づいた、L体及びD体のアミノ酸を定量する方法が、特許文献7に記載されている。この方法では、一度形成させたアミノアシルAMP-AARS複合体からAARS及びアミノ酸を遊離させ、それらを再度、アミノアシルAMP-AARS複合体の形成に利用することによって、最終的に、測定対象であるピロリン酸等の反応産生物を、試料中に含まれるアミノ酸より多くのモル数まで産生させることを特徴とする。しかしながら、該発明は、tRNAとAARSが予め会合し、活性化されなければならないAARSに関して何ら触れられていない。更に、特許文献7には、アミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体から、AA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物が遊離され、これらが再利用できる可能性については記載ないし示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2013-146264号公報
【文献】特許5305208号明細書
【文献】特開2011-50357号公報
【文献】WO2013118894A1
【文献】特開2000-69990号公報
【文献】特許3135649号明細書
【文献】WO2017170469A1
【非特許文献】
【0018】
【文献】“化学と生物”、(日本)、2015年、Vol.53、p.192-197
【文献】Structure、14, 1791-1799, 2006
【文献】“ヴォート 生化学(下)”、(日本)、第3版、1024-1029
【文献】J.Biol.Chem., 241, 839-845, 1966
【文献】J.Biol.Chem., 240, 432-438, 1965
【文献】Eur. J. Biochem., 70, 137-145, 1976
【文献】Analytical Biochem., 363, 246-254, 2007
【文献】Analytical Biochem., 443, 22-26, 2013
【文献】Appl. Biochem. Biotechnol., 174, 2527-2536, 2014
【文献】J.Chem.Chem.Eng.6,397-400,2012
【文献】“東京医科大学雑誌”、(日本)、1993年、Vol.51、p.469-480
【文献】Agric. Biol. Chem., 53, 615-623, 1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記のアミノ酸定量法に関する従来技術に於ける様々な問題点を解決し、AARSを用いて、測定対象のアミノ酸を選択的且つ簡便、高感度に定量する方法及びアミノ酸定量用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明者らは、種々の検討を行った結果、AARSを用いて試料中のアミノ酸(L体及びD体)、特に、グルタミン酸、グルタミン及びアルギニンの量を定量する方法に於いて、
図1に示すように、試料中のアミノ酸(AA)に対応するアミノアシルtRNA合成酵素(AARS)及び転移RNA(tRNA)を反応させて、AARSとtRNAから成る複合体(AARS-tRNA複合体)を形成させ、このAARS-tRNA複合体とアミノ酸及びATPと反応させてアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体を形成させ、次いで、一度形成させたアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体(該複合体から生成され得るAARS及びアミノアシルtRNAも含む)とアミノ酸再生試薬(ヌクレオチド又は、アルカリ性化合物)を反応させることによって、該複合体から、AA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物を遊離させ、それらを再度、アミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体の形成に利用することによって、最終的に、測定対象であるピロリン酸等の反応産生物が、反応液中に含まれるtRNA及び/又はアミノ酸より多くのモル数まで産生され得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
本発明は、以下の[1]~[7]の態様に関する。
[1]以下の各工程を含む工程(I):
(工程I-1)試料中のアミノ酸(AA)に対応するアミノアシルtRNA合成酵素(AARS)及び転移RNA(tRNA)を反応させて、AARSとtRNAから成る複合体(AARS-tRNA複合体)を形成させる反応(反応1)を含む工程;
(工程I-2)二価陽イオンの存在下、該AA、該AAに対応するAARS-tRNA複合体、及び、アデノシン三リン酸(ATP)を反応させて、アミノアシルアデニル酸(アミノアシルAMP)とAARS-tRNA複合体から成る複合体(アミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体)を形成させる反応(反応2)を含む工程;
(工程I-3)反応2及び/又は反応4で形成されたアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体(該複合体から生成され得るAARS及びアミノアシルtRNAも含む)にアミノ酸再生試薬を作用させて、AA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物を遊離させる反応(反応3)を含む工程;
(工程I-4)反応3で遊離されたAA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物を反応1及び/又は反応2において再利用することによってアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体反応を形成させる反応(反応4)を含む工程;及び、
(工程I-5)工程I-3及び工程I-4を繰り返す工程、並びに、工程(I)で生じた反応産生物の量を測定し、該反応産生物の測定量に基づきアミノ酸の量を決定することを含む工程(II)、
を含む、試料中のアミノ酸定量方法。
[2]工程(I)で用いるアミノ酸再生試薬が、ヌクレオチド及びアルカリ性化合物であることを特徴とする、態様[1]に記載のアミノ酸定量方法。
[3]工程(I)で用いるtRNAが、AARSのモル数の0.25倍以上であることを特徴とする、態様[1]に記載のアミノ酸定量方法。
[4]吸光度法により吸光度変化を測定することによって、工程(I)で生じた反応産生物の量を測定する、態様[1]~[3]に記載のアミノ酸定量方法。
[5]工程(I)で生じる反応産生物として、ピロリン酸又は水素イオンの少なくとも何れか1つを測定する、態様[1]~[4]の何れか一項に記載のアミノ酸定量方法。
[6]工程(I)で生じた反応産生物のモル数が反応液中に含まれるtRNA及び/又はアミノ酸のモル数より多いことを特徴とする、態様[1]~[5]のいずれか一項に記載のアミノ酸定量方法。
[7]態様[1]~[6]に記載のアミノ酸定量法を実施するためのアミノ酸定量用キットであって、ATP、アミノ酸再生試薬、並びに、該アミノ酸に対応するAARS及びtRNAを含む、アミノ酸定量用キット。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るアミノ酸定量方法に於いては、試料中のアミノ酸に対応するAARS及びtRNAと反応させて、AARSとtRNAから成る複合体(AARS-tRNA複合体)を形成させ、二価陽イオンの存在下、該AARS-tRNA複合体、該アミノ酸及びATPを反応させて、アミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体を形成させる。次いで、一度形成させたアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体(該複合体から生成され得るAARS及びアミノアシルtRNAも含む)とアミノ酸再生試薬(ヌクレオチド又はアルカリ性化合物)を反応させて、AA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物を遊離させ、それらをアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体の形成に繰り返し利用することによって、測定対象であるピロリン酸等の反応産生物を、反応液中に含まれるtRNA及び/又はアミノ酸より多くのモル数まで産生させることができる。その結果、従来技術のような放射線ラベルをした測定対象アミノ酸は不必要となる。また、従来技術に比べてより簡便な手段でこれら反応産生物を測定する場合であっても、従来技術の多段階酵素反応を用いた蛍光法などによる高感度分析のアミノ酸定量法のアミノ酸定量範囲と同等の範囲での定量が可能であり、このような高感度分析は不必要となる。従って、本発明によって、グルタミン酸、グルタミン、及び、アルギニンを特異的且つ簡便、高感度に定量する方法及びその定量用キットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明方法に含まれると考えられる反応工程を示す図である。
【
図2】tRNAを用いた各種AARS反応により生じるピロリン酸産生量を示す図である。
【
図3】tRNA混合品を用いた各種AARS反応により生じるピロリン酸産生量を示す図である。
【
図4】ArgRSにおけるtRNAの各種濃度によるピロリン酸産生量を示す図である。
【
図5】GluRSにおけるtRNAの各種濃度によるピロリン酸産生量を示す図である。
【
図6】GlnRSにおけるtRNAの各種濃度によるピロリン酸産生量を示す図である。
【
図7】ArgRSにおけるtRNA混合品の各種濃度によるピロリン酸産生量を示す図である。
【
図8】GlnRSにおけるtRNA混合品の各種濃度によるピロリン酸産生量を示す図である。
【
図9】本発明と公知文献(非特許文献6、特許文献2)のAARS反応におけるピロリン酸産生量を示す図である。
【
図10】各種ATP濃度により生じるピロリン酸産生量を示す図である。
【
図11】各種二価イオン濃度により生じるピロリン酸産生量を示す図である。
【
図12】各反応温度によるピロリン酸産生量を示す図である。
【
図13】各pHによるピロリン酸産生量を示す図である。
【
図14】モリブデンブルー法によるピロリン酸測定におけるアミノ酸検量線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明方法の反応1では、試料中のアミノ酸(AA)に対応するAARS及び該AARSに対応する転移RNA(tRNA)を反応させて、AARSとtRNAから成るAARS-tRNA複合体を形成させる。本発明方法に使用するAARSは、グルタミン酸に特異的に作用するグルタミルtRNA合成酵素(GluRS)、グルタミンに特異的に作用するグルタミニルtRNA合成酵素(GlnRS)、アルギニンに特異的に作用するアルギニルtRNA合成酵素(ArgRS)などアミノ酸に対し特異的に作用するAARSを用いる。また、本発明に使用するAARSは、ウシ、ラット、マウスなどの動物由来、Lupin Seed、Phaseolus aurusなどの植物由来、Escherchia属、Thermus属、Thermotoga属、Saccharomyces属などの微生物由来など、生物由来のAARSであれば、いずれのAARSでも良く、特に取扱及び生産性の面の観点から、微生物由来のAARSが好ましい。また、組換え型AARSでも良く、合成したAARSでも良い。可溶性酵素が好ましいが、不溶性酵素に界面活性剤を組み合わせても良く、可溶化タンパクとの融合又は膜結合部分の削除等により不溶性酵素を可溶化させた酵素でも良い。AARSの公知のアミノ酸配列を利用でき、組換え型のAARSは、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%以上の同一性を有する配列を有し、AARS活性を有するタンパク質を使用しても良い。
【0025】
本発明に使用するAARSとしては、当業者に公知の任意の方法・手段、例えば、AARSを含む対象物に加水し、粉砕機、超音波破砕機などで粉砕後、破砕した破砕物を遠心分離、濾過などで固形物を取り除いた抽出物、さらに当該抽出物をカラムクロマトグラフィーなどにより精製、単離したAARSなどを用いることができる。即ち、本発明の主な技術的特徴は、AARSを用いるアミノ酸定量方法に於いて、形成されたアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体中から、AA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物を遊離させて、それらをアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体の形成に繰り返し利用することによって、測定対象であるピロリン酸等の反応産生物を、反応液中に含まれるtRNA及び/又はアミノ酸より多くのモル数まで産生させることであり、AARSの調製方法は何ら限定されるものではない。
【0026】
当該反応に使用される反応液中のAARS濃度は、試料の種類、推定される試料中のアミノ酸濃度、ATP濃度、及び、反応時間・温度等の各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められる。工程(I)の反応2における逆反応を出来るだけ抑えるためには、試料中のアミノ酸濃度が低濃度と予想される場合は、AARS濃度を高濃度とすることが好ましく、逆に試料中のアミノ酸濃度が高濃度と予想される場合は、AARS濃度は低濃度で良い。また、AARS濃度を高濃度することによって反応を短時間に完了させることが出来、逆に反応時間が長時間でも良い場合は、AARS濃度は低濃度で良い。例えば、Escherchia属、Thermus属、Thermotoga属などの微生物由来のAARSの濃度は、0.1μM以上、より好ましくは0.25μM以上、さらに好ましくは1.0μM以上、特に好ましくは3.0μM以上、最も好ましくは5.0μM以上とすることができる。いずれにしても、本発明方法では、AARSが繰り返し使用されるので、予想される試料中のアミノ酸量に対して、過剰量のAARSを添加する必要はない、という利点を有する。従って、AARS濃度の上限は、経済性なども考慮して当業者が適宜設定することが出来る。
【0027】
また、本発明方法の反応1ではAARSと共にtRNAを用いる。本発明に使用するtRNAは、各アミノ酸に対し特異的に作用するAARSに対応するtRNAを用いる。例えば、グルタミン酸に特異的に作用するGluRSに対応するtRNA、グルタミンに特異的に作用するGlnRSに対応するtRNA、アルギニンに特異的に作用するArgRSに対応するtRNAが挙げられる。また、本発明に使用するtRNAは、ウシ、ラット、マウスなどの動物由来、Lupin Seed、Phaseolus aurusなどの植物由来、Escherchia属、Thermus属、Thermotoga属、Saccharomyces属などの微生物由来など、生物由来のtRNAであれば、いずれのtRNAでも良く、特に取扱及び生産性の面の観点から、微生物由来のtRNAが好ましい。また、合成したtRNAでも良い。tRNAの公知の塩基配列を利用でき、合成したtRNAは、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%以上の同一性を有する配列を有し、AARSに結合、AARS反応を引き起こすtRNAであれば良い。
【0028】
本発明に使用するtRNAとしては、当業者に公知の任意の方法・手段、例えば、tRNAを含む対象物を抽出用緩衝液とフェノールとの混合液に混ぜ、超音波ホモジナイザーなどで粉砕後、破砕した破砕物を遠心分離、濾過などで取得したtRNA、さらに当該tRNAをカラムクロマトグラフィーなどにより精製、単離したtRNAなどを用いることができる。即ち、本発明の主な技術的特徴は、AARSを用いるアミノ酸定量方法に於いて、形成されたアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体中から、AA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物を遊離させて、それらをアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体の形成に繰り返し利用することによって、測定対象であるピロリン酸等の反応産生物を、反応液中に含まれるtRNA及び/又はアミノ酸より多くのモル数まで産生させることであり、tRNAの調製方法は何ら限定されるものではない。更に、以下の実施例に於いて「tRNA混合物」と示されるような、各アミノ酸に対応する複数の種類のtRNAが任意の割合で混在する混合物を本発明の方法に於ける「tRNA」として使用することも可能である。
【0029】
当該反応に使用される反応液中のtRNAの濃度は、試料の種類、予想される試料中のアミノ酸濃度、AARS濃度、ヌクレオチド濃度、及び、反応時間・温度等の各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められる。例えばtRNA濃度は、0.01μM以上、より好ましくは0.1μM以上、さらに好ましくは0.5μM以上、特に好ましくは1.0μM以上、最も好ましくは2.0μM以上とすることができる。又、tRNA混合品の場合には、tRNA全体の濃度は、1μM以上、より好ましくは5μM以上、さらに好ましくは10μM以上、特に好ましくは50μM以上、最も好ましくは100μM以上とすることができる。尚、tRNAの濃度は、平均分子量25,000により算出した。tRNA濃度の上限は、経済性なども考慮して当業者が適宜設定することが出来る。また、反応条件に依存するが、測定対象であるピロリン酸等の反応産生物を試料中に含まれるアミノ酸より多くのモル数まで産生させるために、tRNAのモル数がAARSのモル数の0.25倍以上、より好ましくは、0.5倍以上、更に好ましくは、1倍以上であることが望ましい。更に、反応条件に依存するが、測定対象であるピロリン酸等の反応産生物を試料中に含まれるtRNAより多くのモル数まで産生させるために、tRNAのモル数がAARSのモル数の0.1倍以上、より好ましくは、0.25倍以上、更に好ましくは、0.5倍以上であることが望ましい。
【0030】
本発明方法の反応2では、二価陽イオンの存在下、試料中のアミノ酸(AA)、該AAに対応するAARS-tRNA複合体、及び、アデノシン三リン酸(ATP)を反応させて、アミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体を形成させる。
本発明に使用する試料に特に制限はなく、例えば、血液、生鮮食品、加工食品及び飲料などがあげられる。各試料中のアミノ酸濃度は、各アミノ酸により異なる。例えば、血液中のグルタミン酸は11~44nmol/mL、グルタミンは488~733nmol/mLである。生鮮食品中の遊離アミノ酸含量は、例えば、ニンニクでは、アルギニンは136mg/100gなどである。トマトでは、グルタミンは94mg/100gである。乾燥シイタケでは、グルタミン酸は386mg/100gである。加工食品や飲料中の遊離アミノ酸含量は、例えば、醤油では、グルタミン酸は782mg/100gである。煎茶では、アルギニンは314mg/100g、グルタミン酸は258mg/100gである。これら各試料中の予想されるアミノ酸濃度によって、適宜、希釈調製し、本発明の試料として使用できる。
【0031】
本発明に使用するATPは、ナトリウム塩、リチウム塩などが使用できる。当該反応に使用される反応液中のATPの濃度は、試料の種類、予想される試料中のアミノ酸濃度、AARS濃度、ヌクレオチド濃度、及び、反応時間・温度等の各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められるが、予想される試料中のアミノ酸濃度に対して過剰となるように添加するのが好ましい。例えば試料が血液の場合、ATP濃度は、0.01mM以上、より好ましくは0.1mM以上、さらに好ましくは1.0mM以上、特に好ましくは5.0mM以上、最も好ましくは10.0mM以上とすることができる。ATP濃度の上限は、経済性なども考慮して当業者が適宜設定することが出来る。
【0032】
また、本発明に使用する二価イオンは、マグネシウム、マンガン、コバルト、カルシウムなどが使用できる。二価イオンは、各AARSにより要求性が異なるため、使用するAARSに適した二価イオンを適宜使用すれば良いが、AARS共通に要求性のあるマグネシウムやマンガンの使用がより好ましい。さらには二価イオンと同様な作用をするスペルミン、スペルミジン、プトレッシンなどのポリアミンも使用できる。当該反応に使用される反応液中の二価イオンの濃度は、適宜決められるが、ATP濃度に対して同等以上に添加するのが好ましい。例えば、Escherchia属、Thermus属、Thermotoga属などの微生物由来のAARSにおけるATP:二価陽イオンの比率は、少なくとも1:1、より好ましくは少なくとも1:3、さらに好ましくは少なくとも1:5、特に好ましくは少なくとも1:7、最も好ましくは少なくとも1:10とすることができる。
【0033】
続いて、本発明方法の反応3では、反応2及び/又は反応4で形成させたアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体、並びに、反応条件等によって該複合体から生成され得るアミノアシルtRNA、に対しアミノ酸再生試薬を作用させ、該複合体を分解し該複合体からAA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物を遊離させる。当該反応のアミノ酸再生試薬としては、例えば、ATP、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン一リン酸(AMP)及びグアノシン三リン酸(GTP)などのヌクレオチドや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び緩衝剤などの水酸化物イオン(アルカリ性水溶液)を発生するアルカリ性化合物を使用できる。また、アルカリ性化合物は、反応の場(反応系)をpH7以上にできれば良い。例えば、Escherchia属、Thermus属及びThermotoga属のAARSの場合では、好ましくはpH7.0以上、より好ましくはpH7.5以上、さらに好ましくは、pH8.0以上であることが好ましい。尚、反応pHは、当業者に公知の任意の緩衝剤などを使用して調整することが出来る。当該反応に使用される反応液中のアミノ酸再生試薬の濃度は、試料の種類、予想される試料中のアミノ酸濃度、AARS濃度、ATP濃度、tRNA濃度及び、反応時間・温度等の各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められるが、反応2で使用するATPと当該反応に使用するアミノ酸再生試薬の総量は試料中のアミノ酸濃度に対して過剰に添加するのが好ましい。例えば、試料が血液の場合、ヌクレオチド濃度は、0.01mM以上、より好ましくは0.1mM以上、さらに好ましくは1.0mM以上、特に好ましくは5.0mM以上、最も好ましくは10.0mM以上とすることができる。従って、本発明方法では、AARSを再び反応可能な状態とさせるために、特許文献2に記載されているようなアミン類等のアミノアシルAMP-AARS複合体分解試薬を添加する必要がなく、更に、遊離したアミノ酸が該試薬と反応することがないので、遊離したアミノ酸をアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体の形成に再び利用することができる。
【0034】
本発明方法の反応4では、反応3で遊離したAA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物を反応1及び/又反応2において再び使用することによってアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体反応を形成させる。更に、本発明方法の工程(I)において、当業者に公知の任意の方法によって、反応2又は4で生じたピロリン酸及び反応系中のAMPにホスホエノールピルビン酸とピルビン酸ジキナーゼとを反応させることによって産生されるATPを、アミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体形成及び該複合体からのAA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物の遊離に再利用すること、及び/又は、反応3でヌクレオチドから生成されるAp4Aに対しAp4Aピロホスホヒドラーゼを作用させることによって産生されるADPを、反応3におけるヌクレオチドとして再利用することもできる。
【0035】
その結果、前述のATPなどのヌクレオチド及び該アミノ酸に対応するAARSの組成等の反応条件において、工程(I)に於ける反応の結果、ピロリン酸及び/又は水素イオン等の夫々の反応産生物の各々について、反応液中に含まれているtRNAや測定対象のアミノ酸のモル数より多いモル数の分子が産生され得る。その結果、本発明方法では、従来技術より低濃度である1μM程度の極めて低いアミノ酸濃度から定量可能となる。従って、この点は従来技術と比較して本発明の顕著な効果といえる。
【0036】
しかしながら、当該反応条件下で産生されるピロリン酸等の反応産生物が、反応液中のtRNAやアミノ酸のモル数以下の量であっても、該反応産生物に基づきアミノ酸の定量が可能であれば、ピロリン酸等の反応産生物が当該アミノ酸のモル数以上に産生される必要はない。従って、本発明の工程(I)に於いて産生されるピロリン酸や水素イオンの量は、工程(II)に於ける該反応産生物の適当な測定方法によってアミノ酸の定量が可能となる限り、特に限定されない。従って、本発明方法の(工程I-5)に於ける、反応3(工程I-3)及び反応4(工程I-4)の繰り返しの回数に特に制限はない。
【0037】
本発明方法の工程(I)における反応温度は、各反応が生じるような任意の温度で良い。例えば、Escherchia属のAARSの場合、10~60℃、好ましくは、40~50℃Thermus属及びThermotoga属のAARSの場合では、10~95℃、好ましくは、40~70℃が適している。また、当該反応時間も試料中のアミノ酸とAARS反応が生じるような任意の時間で良いが、好ましくは1~90分程度、より好ましくは5~70分程度、さらに好ましくは、10~60分程度であることが望ましい。
【0038】
本発明方法の工程(I)に含まれる各工程で使用する試薬・酵素等の各反応成分は、AARS反応が生じる添加方法である限り、当業者に公知の任意の手段・手順等で反応系に添加することができる。例えば、各成分を反応開始前に一度に反応系に予め添加するか、又は、AARS又はアミノ酸を最後に添加し反応させても良い。
【0039】
本発明方法の工程(II)では、工程(I)で生じたピロリン酸及び水素イオン等の各反応産生物の夫々の量を測定し、該反応産生物の測定量に基づきアミノ酸の量を決定する。工程(II)は、測定方法等に応じて、工程(I)に於ける試料中のアミノ酸とAARSとの反応を当業者に公知の任意の方法・手段で停止させた後、あるいは、工程(I)に於ける反応が進行中の任意の段階で適宜、実施することが出来る。
【0040】
本発明の工程(I)で生じたピロリン酸の量の測定には、当業者に公知の任意の方法・手段、例えば、モリブデン酸とピロリン酸を反応させ産生した青色の錯体の吸光度を測定するモリブデンブルー法、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、キサンチンオキシダーゼ又はキサンチンデヒドロゲナーゼを組みわせる方法などが使用できる。また、本発明の工程(I)で生じたピロリン酸を無機ピロホスファターゼなどで2分子のリン酸とし、そのリン酸を測定することで、より高感度の測定ができる。例えば、ルミノールと無機ピロホスファターゼ、ピルビン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを組み合わせ産生物の発光を測定する方法などのピロリン酸を測定できる酵素法などが使用できる。さらに酵素反応などで酸化還元反応を起こし、その酸化還元反応に由来する電流値を検出する多電極電位計測計により電位変化を測定する測定方法などを使用することができる。また、当該反応で産生された水素イオンの測定には、水素イオンを検出するガラス電極やイオン感応性電界効果トランジスタにより電位変化を測定する測定方法などを使用することができる。当該反応で産生されたアデノシン一リン酸(AMP)の測定には、アデノシン一リン酸を検出する発光を利用したAMPセンサで測定するなどを使用することができる。本発明の工程(I)で生じたピロリン酸、水素イオン、AMPなどは、反応溶液から分離し、測定することができる。反応溶液からのピロリン酸、水素イオン、AMPなどの分離方法としては、測定に影響の無い方法であれば特に限定されないが、例えば、酸処理による除タンパク質、ペーパークロマトグラフィー分離、マイクロ流体デバイスでの分離などが挙げられる。本発明の主な技術的特徴は、AARSを用いるアミノ酸定量方法に於いて、形成されたアミノアシルAMP-AARS-tRNA複合体中からAA、並びに、AARS、AARS-tRNA複合体及びtRNAからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物を遊離させて、これら化合物を、再度、該複合体の形成に繰り返し利用することにより、測定対象であるピロリン酸等の反応産生物を、反応液中に含まれるtRNA及び/又はアミノ酸より多くのモル数まで産生させることであり、反応産生物の量の測定方法は何ら限定されるものではない。
【0041】
本発明は、上記の本発明方法を実施するための、試料中のアミノ酸定量に必要な前述の各成分を含む、アミノ酸定量用キットを提供する。当該キットは、安定化剤又は緩衝剤等の当業者に公知の他の任意成分を適宜含有させ、前記酵素等試薬成分の安定性を高めても良い。測定に影響の無い成分であれば特に限定されないが、例えば、牛血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン、糖類、糖アルコール類、カルボキシル基含有化合物、酸化防止剤、界面活性剤、又は酵素と作用性のないアミノ酸類等を例示できる。また、当該キットの一例として前述のピロリン酸や水素イオンを測定するためのキットを挙げることが出来る。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に
よって限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
(大腸菌由来のAARSの調製)
大腸菌K12株由来の変異株(NBRC3992)のAARS配列をもつプラスミド(pET28b)を大腸菌BL21(DE3)pLys株に遺伝子導入し、発現株として用いた。各発現株について、選択マーカーとしてカナマイシン、クロラムフェニコールを含むLB培地で37℃培養し、OD600が約0.6に到達後、IPTGを終濃度1mMとなるように添加し、IPTGを添加して25℃で一晩誘導培養を行った。培養終了後、集菌を行い、得られた菌体を超音波破砕し、無細胞抽出液を調製した。さらに遠心分離を行い、得られた上清の一部を用いて電気泳動法により目的酵素の発現を確認した。次いで残りの上清をHisタグカラム(商品名:TALON superflow、GEヘルスケア製)により夾雑タンパクを除去することにより、ArgRS(配列番号1)、GluRS(配列番号2)、GlnRS(配列番号3)を得た。
【実施例2】
【0043】
(大腸菌由来のtRNAの調製)
大腸菌K12株由来のtRNA遺伝子配列をコードするオリゴヌクレオチドから、In vitroでtRNAを転写した。電気泳動法により、目的tRNAの転写を確認した後、ゲルろ過カラムを用いて、未反応NTP、塩などを除去した。次いで、イオン交換体カラムを用いて、目的tRNA以外の核酸断片を除去することにより、アルギニン、グルタミン酸及びグルタミンの各アミノ酸に夫々対応するtRNA(配列番号4~6)を調製した。
【実施例3】
【0044】
(大腸菌由来のtRNA混合品の調製)
大腸菌由来tRNA数十種類の混合品(商品名:tRNA,from E.coli MRE600,100mg、Roche製)をNucleaseフリー水に溶解させることにより、tRNA混合品を調製した。
【実施例4】
【0045】
(tRNAを用いた各種AARS反応により生じるピロリン酸の産生量:本発明方法の工程(I))
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、10mM ATP、100mM MgCl2、50μM L-グルタミン酸、2.0μM GluRS、及び18μM tRNAを含む反応溶液を150μL調製し、40℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品1(本発明品)を調製した。
【実施例5】
【0046】
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、12.5mM MnCl2、50μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び10μM tRNAを含む反応溶液を150μL調製し、50℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品2(本発明品)を調製した。
【実施例6】
【0047】
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、3mM ATP、30mM MgCl2、50μM L-グルタミン、2.0μM GlnRS、及び8.2μM tRNAを含む反応溶液を150μL調製し、40℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品3(本発明品)を調製した。
【実施例7】
【0048】
(モリブデンブルー法によるピロリン酸の測定:本発明方法の工程(II))
実施例4、5、6で調製した実施品1~3の反応溶液150μLに1Mメルカプトエタノール15μL、発色液(2.5%モリブデン酸アンモニウム/5N硫酸)60μLを混合し、室温で20分間静置した後、580nmの吸光度を測定した。なお、基質アミノ酸の代わりに水を添加したサンプルの吸光値を、ブランクとして各サンプルの吸光値から差し引いた値から、反応溶液中のピロリン酸量を求めた。その結果、
図2に示す通り、GluRS、ArgRS及びGlnRSにおいて単に、反応液中のtRNA分子又は/及び各基質アミノ酸が一回きり酵素反応に使用された(再利用されない)場合に産生されるピロリン酸量の理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。
【実施例8】
【0049】
(tRNA混合品を用いた各種AARS反応により生じるピロリン酸の産生量:本発明方法の工程(I))
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、25mM ATP、250mM MgCl2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液を150μL調製し、40℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品4(本発明品)を調製した。
【実施例9】
【0050】
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、125mM MgCl2、20μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び400μM tRNA混合品を含む反応溶液を150μL調製し、50℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品5(本発明品)を調製した。
【実施例10】
【0051】
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、3mM ATP、30mM MgCl2、20μM L-グルタミン、2.0μM GlnRS、及び320μM tRNA混合品を含む反応溶液を150μL調製し、40℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品6(本発明品)を調製した。
【実施例11】
【0052】
(モリブデンブルー法によるピロリン酸の測定:本発明方法の工程(II))
実施例8、9、10で調製した実施品4~6のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した。その結果、
図3に示す通り、GluRS、ArgRS及びGlnRSにおいて単に、反応液中の各基質アミノ酸が一回きり酵素反応に使用された(再利用されない)場合に産生されるピロリン酸量の理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。
【実施例12】
【0053】
(各種tRNA濃度によるピロリン酸の産生量:本発明方法の工程(I))
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、12.5mM MnCl2、20μM L-アルギニン、及び2.5μM ArgRSを含む反応溶液に、夫々、0μM tRNA、0.25μM tRNA、0.63μM tRNA、1.25μM tRNA、1.88μM tRNA、2.5μM tRNA、又は、5.0μM tRNAを添加した各反応溶液を150μL調製し、50℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品(本発明品)7、8、9、10、11、12、及び13を調製した。
【実施例13】
【0054】
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、10mM ATP、100mM MgCl2、50μM L-グルタミン酸、及び2.0μM GluRSを含む反応溶液に、夫々、0μM tRNA、6μM tRNA、12μM tRNA、又は、18μM tRNAを添加した各反応溶液を150μL調製し、40℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品(本発明品)14、15、16、及び17を調製した。
【実施例14】
【0055】
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、3mM ATP、30mM MgCl2、50μM L-グルタミン、及び2.0μM GlnRSを含む反応溶液に、夫々、0μM tRNA、4μM tRNA、8μM tRNA、又は、16μM tRNAを添加した各反応溶液を150μL調製し、40℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品(本発明品)18、19、20、及び21を調製した。
【実施例15】
【0056】
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、125mM MgCl2、20μM L-アルギニン、及び2.5μM ArgRSを含む反応溶液に、夫々、0μM tRNA混合品、100μM tRNA混合品、200μM tRNA混合品、又は、400μM tRNA混合品を添加した各反応溶液を150μL調製し、50℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品(本発明品)22、23、24、及び25を調製した。
【実施例16】
【0057】
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、3mM ATP、30mM MgCl2、20μM L-グルタミン、及び2.0μM GlnRSを含む反応溶液に、夫々、0μM tRNA混合品、160μM tRNA混合品、240μM tRNA混合品、又は、320μM tRNA混合品を添加した各反応溶液を150μL調製し、40℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品(本発明品)26、27、28、及び29を調製した。
【実施例17】
【0058】
(モリブデンブルー法によるピロリン酸の測定:本発明方法の工程(II))
実施例12、13、14、15、16で調製した実施品7~29のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した。その結果、
図4、5、6、7、8に示す通り、ArgRS、GluRS及びGlnRSにおいてtRNA濃度の増加と共にピロリン酸の増加が認められた。tRNAが無添加の場合、ArgRS、GluRS及びGlnRSのいずれにおいてもピロリン酸の増加が認められなかったことから、これらのAARS反応には、tRNAが必須であることが分かった。また、単に、反応液中のtRNA又は/及び各基質アミノ酸の全てが酵素反応に一回きり使用された(再利用されない)場合に産生されるピロリン酸量の理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。
【0059】
[比較例1]
(本発明と公知文献記載のAARS反応におけるピロリン酸の産生量の比較)
非特許文献6記載の反応に於いて、測定対象として放射線ラベルをしない通常のアミノ酸を使用したこと以外は、該文献に記載の条件に従い、100mM HEPES-KOH(pH7.4)、2mM ATP、10mM MgCl2、20μM L-アルギニン、15.4μM ArgRS、及び2μM tRNAを含む反応溶液を150μL調製し、37℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、比較品1を調製した。
【0060】
[比較例2]
特許文献2記載の反応条件に従い、20mM HEPES-KOH(pH8.0)、0.5mM ATP、5mM MgCl2、20μM L-アルギニン、1.0μM ArgRS、及び400mM ヒドロキシアミンを含む反応溶液を150μL調製し、50℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、比較品2を調製した。
【実施例18】
【0061】
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、12.5mM MnCl2、20μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び10μM tRNAを含む反応溶液を150μL調製し、50℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品30(本発明品)を調製した。
【実施例19】
【0062】
(モリブデンブルー法によるピロリン酸の測定:本発明方法の工程(II))
比較例1、比較例2及び実施例18で調製した比較品1、比較品2及び実施品30のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した。その結果、
図9に示す通り、本発明の方法では、添加したtRNA及びアミノ酸の全てが一回きり反応に使用された(再利用されない)場合に産生されると推測されるピロリン酸量である理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。一方、比較品1の産生したピロリン酸は、tRNAの理論値に近く、アミノ酸の理論値以下であった。また、比較品2では、ピロリン酸は、全く産生されなかった。
【実施例20】
【0063】
(各種ATP濃度によるピロリン酸の産生量:本発明方法の工程(I))
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、1.25mM ATP、1.25mM MnCl2、50μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び10.0μM tRNAを含む反応溶液、200mM HEPES-KOH(pH8.0)、6.25mM ATP、6.25mM MnCl2、50μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び10.0μM tRNAを含む反応溶液、又は、200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、12.5mM MnCl2、50μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び10.0μM tRNAを含む反応溶液を150μL調製し、50℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品(本発明品)31、32、及び33を調製した。
【実施例21】
【0064】
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、1.25mM ATP、12.5mM MgCl2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液、200mM HEPES-KOH(pH8.0)、2.5mM ATP、25mM MgCl2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液、200mM HEPES-KOH(pH8.0)、5mM ATP、50mM MgCl2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液、又は、200mM HEPES-KOH(pH8.0)、10mM ATP、100mM MgCl2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液を150μL調製し、40℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品(本発明品)34、35、36、及び37を調製した。
【実施例22】
【0065】
(モリブデンブルー法によるピロリン酸の測定:本発明方法の工程(II))
実施例20、21で調製した実施品31~37のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した。その結果、
図10に示す通り、ArgRS及びGluRSにおいてATP濃度の増加と共にピロリン酸の増加が認められた。また、tRNA又は/及び各基質アミノ酸の全てが一回きり酵素反応に使用された(再利用されない)場合に産生されるピロリン酸量の理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。
【実施例23】
【0066】
(各種二価イオン濃度によるピロリン酸産生量:本発明方法の工程(I))
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、18.75mM MgCl2、20μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び400μM tRNA混合品を含む反応溶液、200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、31.25mM MgCl2、20μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び400μM tRNA混合品を含む反応溶液、200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、62.5mM MgCl2、20μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び400μM tRNA混合品を含む反応溶液、又は、200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、93.75mM MgCl2、20μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び400μM tRNA混合品を含む反応溶液を150μL調製し、50℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品(本発明品)38、39、40、及び41を調製した。
【実施例24】
【0067】
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、25mM ATP、37.5mM MgCl2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液、200mM HEPES-KOH(pH8.0)、25mM ATP、125mM MgCl2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液、200mM HEPES-KOH(pH8.0)、25mM ATP、187.5mM MgCl2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液、又は、200mM HEPES-KOH(pH8.0)、25mM ATP、250mM MgCl2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液を150μL調製し、40℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品(本発明品)42、43、44、及び45を調製した。
【実施例25】
【0068】
(モリブデンブルー法によるピロリン酸の測定:本発明方法の工程(II))
実施例23、24で調製した実施品38~45のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した。その結果、
図11に示す通り、ArgRS及びGluRS共に、ATP:二価イオン比率が、1:1.5~1:10において、各基質アミノ酸の全てが一回きり酵素反応に使用された(再利用されない)場合に産生されるピロリン酸量の理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。
【実施例26】
【0069】
(各反応温度によるピロリン酸産生量:本発明方法の工程(I))
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、12.5mM MnCl
2、20μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び2.5μM tRNAを含む反応溶液を150μL調製し、20、又は30、又は40、又は50℃で60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。その結果、
図12に示す通り、20~50℃の広い範囲において、良好なピロリン酸の産生が認められた。また、tRNA又は/各基質アミノ酸の全てが一回きり酵素反応に使用された(再利用されない)場合に産生されるピロリン酸量の理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。
【実施例27】
【0070】
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、25mM ATP、250mM MgCl
2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液を150μL調製し、30、又は40、又は50℃で60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。その結果、
図12に示す通り、30~50℃の広い範囲において、良好なピロリン酸の産生が認められた。また、各基質アミノ酸の全てが一回きり酵素反応に使用された(再利用されない)場合に産生されるピロリン酸量の理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。
【実施例28】
【0071】
(各pHによるピロリン酸産生量:本発明方法の工程(I))
200mM MES-KOH(pH6.0)、12.5mM ATP、125mM MgCl
2、20μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び400μM tRNA混合品を含む反応溶液、200mM HEPES-KOH(pH7.0)、12.5mM ATP、125mM MgCl
2、20μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び400μM tRNA混合品を含む反応溶液、200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、125mM MgCl
2、20μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び400μM tRNA混合品を含む反応溶液、又は、200mM CHES-KOH(pH9.0)、12.5mM ATP、125mM MgCl
2、20μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び400μM tRNA混合品を含む反応溶液を150μL調製し、50℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。その結果、
図13に示す通り、pH7~8において、各基質アミノ酸の全てが一回きり酵素反応に使用された(再利用されない)場合に産生されるピロリン酸量の理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。
【実施例29】
【0072】
200mM MES-KOH(pH6.0)、25mM ATP、250mM MgCl
2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液、200mM HEPES-KOH(pH7.0)、25mM ATP、250mM MgCl
2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液、200mM HEPES-KOH(pH8.0)、25mM ATP、250mM MgCl
2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液、又は、200mM CHES-KOH(pH9.0)、25mM ATP、250mM MgCl
2、20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液を150μL調製し、40℃、60分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。その結果、
図13に示す通り、pH7~9において、各基質アミノ酸の全てが一回きり酵素反応に使用された(再利用されない)場合に産生されるピロリン酸量の理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。
【実施例30】
【0073】
(tRNAを用いたモリブデンブルー法によるピロリン酸測定におけるアルギニンの検量線)
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、12.5mM MnCl
2、0、10、20、又は30μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び10μM tRNAを含む反応溶液150μLを調製し、50℃、60分間反応させた。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した。その結果、
図14に示すように、添加したアミノ酸が全て反応に使用された場合に産生されると推測されるピロリン酸量の理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。また、0~30μM のアミノ酸濃度範囲においてアミノ酸濃度とピロリン酸量に相関関係(R=0.96)が認められ、L-アルギニンの定量が可能であることが示された。
【実施例31】
【0074】
(tRNAを用いたモリブデンブルー法によるピロリン酸測定におけるグルタミンの検量線)
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、3mM ATP、30mM MgCl
2、0、5、10、20、又は30μM L-グルタミン、2μM GlnRS、及び16μM tRNAを含む反応溶液150μLを調製し、40℃、60分間反応させた。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した。その結果、
図14に示すように、添加したアミノ酸が全て反応に使用された場合に産生されると推測されるピロリン酸量の理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。また、0~30μM のアミノ酸濃度範囲においてアミノ酸濃度とピロリン酸量に相関関係(R=0.99)が認められ、L-グルタミンの定量が可能であることが示された。
【実施例32】
【0075】
(tRNA混合品を用いたモリブデンブルー法によるピロリン酸測定におけるアルギニンの検量線)
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、12.5mM ATP、125mM MgCl
2、0、5、10、又は20μM L-アルギニン、2.5μM ArgRS、及び400μM tRNA混合品を含む反応溶液150μLを調製し、50℃、60分間反応させた。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した。その結果、
図14に示すように、添加したアミノ酸が全て反応に使用された場合に産生されると推測されるピロリン酸量の理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。また、0~20μM のアミノ酸濃度範囲においてアミノ酸濃度とピロリン酸量に相関関係(R=0.99)が認められ、L-アルギニンの定量が可能であることが示された。
【実施例33】
【0076】
(tRNA混合品を用いたモリブデンブルー法によるピロリン酸測定におけるグルタミン酸の検量線)
200mM HEPES-KOH(pH8.0)、25mM ATP、250mM MgCl
2、0、5、10、又は20μM L-グルタミン酸、5.0μM GluRS、及び600μM tRNA混合品を含む反応溶液150μLを調製し、40℃、60分間反応させた。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように30μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した。その結果、
図14に示すように、添加したアミノ酸が全て反応に使用された場合に産生されると推測されるピロリン酸量の理論値より多くのピロリン酸が産生されていた。また、0~20μM のアミノ酸濃度範囲においてアミノ酸濃度とピロリン酸量に相関関係(R=0.99)が認められ、L-グルタミン酸の定量が可能であることが示された。
【0077】
以上の結果から、本発明方法におけるAARS反応では、AARS、tRNA及びアミノ酸を繰り返し反応に使用することで、産生されるピロリン酸を増幅できることが示された。実施例4~11に示されるように、ArgRS、GluRS及びGlnRSのいずれにおいても当該反応で産生されるピロリン酸を反応液中のtRNA及び/又はアミノ酸のモル数より多く産生させることができた。実施例12~17に示されるように、tRNA濃度によってピロリン酸の産生量は変化することが分かった。また、tRNAが無添加の場合、ArgRS、GluRS及びGlnRSのいずれにおいてもピロリン酸の増加が認められなかったことから、これらのAARS反応には、tRNAが必須であることが分かった。比較例1及び比較例2に示されるように、従来のAARS反応では、産生されるピロリン酸量が、反応液中のtRNA及び/又はアミノ酸の分子数以下であったが、本発明の方法では、反応液中のtRNA及び/又はアミノ酸の分子数以上のピロリン酸が産生されることが分かった。実施例20~25に示されるように、ATP濃度やマグネシウム濃度によって、ピロリン酸の産生量が変化することが分かった。また、実施例26~29に示されるように、酵素反応温度及びpHによって、ピロリン酸の産生量は変化し、30~50℃、pH7~9で好適にピロリン酸が産生することが分かった。さらに、実施例30~33に示されるように、アミノ酸濃度に依存して直線的にピロリン酸が増加する、即ちアミノ酸濃度とピロリン酸量に相関関係があることが分かり、本発明のAARS反応により産生したピロリン酸について、簡便な方法であるモリブデンブルー法による各種アミノ酸の定量が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
従来のtRNAの会合を必要とするAARSを用いたアミノ酸定量法では、微量な反応産物を検出する必要があり、放射線ラベルをした測定対象アミノ酸や高感度分析が必要不可欠であった。これに対して、本発明に係るアミノ酸定量方法によれば、測定対象であるピロリン酸等の反応産生物を、反応液中に含まれるtRNA及び/又はアミノ酸より多くのモル数まで産生させることができる。その結果、従来技術のような放射線ラベルをした測定対象アミノ酸は不必要である。また、従来技術に比べてより簡便な手段でこれら反応産生物を測定する場合であっても、従来技術の多段階酵素反応を用いた蛍光法などによる高感度分析のアミノ酸定量法のアミノ酸定量範囲と同等の範囲での定量が可能であり、このような高感度分析は不必要である。従って、本発明によって、AARSを用いてアミノ酸を特異的且つ簡便、高感度に定量する方法及びアミノ酸定量用キットを提供することが可能となった。
【配列表】