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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】脂質ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/51 20060101AFI20230818BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20230818BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20230818BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20230818BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230818BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230818BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230818BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230818BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230818BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
A61K9/51
A61K47/20
A61K47/24
A61K47/28
A61K47/34
A61K31/7088
A61P37/02
A61P37/04
A61P35/00
A61P31/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020560556
(86)(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 EP2019051261
(87)【国際公開番号】W WO2019141814
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-12-08
(31)【優先権主張番号】18152390.3
(32)【優先日】2018-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19150351.5
(32)【優先日】2019-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520265930
【氏名又は名称】イーザアールエヌーエー イムノセラピーズ エンヴェー
(73)【特許権者】
【識別番号】502320611
【氏名又は名称】ヴリジェ ユニヴェルシテ ブリュッセル
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】デ コケル,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ビーバース,サンネ
(72)【発明者】
【氏名】トム,ピーター
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-538569(JP,A)
【文献】特表2016-537304(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0165223(US,A1)
【文献】国際公開第2013/073480(WO,A1)
【文献】Aude Bonehill et al,Enhancing the T-cell Stimulatory Capacity of Human Dendritic Cells by Co-electroporation With CD40L, CD70 and Constitutively Active TLR4 Encoding mRNA,Molecular Therapy,2008年06月,Vol.16 No.6,1170-1180
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50 mol%~65 mol%のイオン性脂質と、
ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)及びそれらの混合物を含むリストから選択される、5 mol%~15 mol%のリン脂質と、
15 mol%~40 mol%のコレステロールと、
0.5 mol%~2 mol%のポリエチレングリコール脂質(PEG脂質)と、
1つ以上の核酸分子と、
を含む脂質ナノ粒子(LNP)であって、140 nmの最小平均直径を有することを特徴とする、LNP。
【請求項2】
前記イオン性脂質が式(I):
【化1】
(式中、
RCOOは、ミリストイル、α-D-トコフェロールスクシノイル、リノレオイル及びオレオイルを含むリストから選択され、
Xは、
【化2】
を含むリストから選択される)の化合物であり、
又は、前記イオン性脂質が、RCCO(RCOO)がα-D-トコフェロールスクシノイルであり、Xが、
【化3】
である、式(I)の脂質である、請求項1に記載のLNP。
【請求項3】
前記PEG脂質がPEG修飾ホスファチジルエタノールアミン、PEG修飾ホスファチジン酸、PEG修飾セラミド、PEG修飾ジアルキルアミン、PEG修飾ジアシルグリセロール、PEG修飾ジアルキルグリセロール及びそれらの混合物を含むリストから選択される、請求項1又は2に記載のLNP。
【請求項4】
20 mol%~40 mol%のコレステロールを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のLNP。
【請求項5】
前記1つ以上の核酸分子がmRNA及びDNAを含むリストから選択され、又はmRNAである、請求項1~4のいずれか一項に記載のLNP。
【請求項6】
前記1つ以上のmRNA分子が、免疫調節ポリペプチドをコードするmRNA及び/又は抗原をコードするmRNAの群から選択される、請求項5に記載のLNP。
【請求項7】
前記免疫調節ポリペプチドをコードするmRNAがCD40L、CD70及びcaTLR4をコードするmRNA分子を含むリストから選択される、請求項5又は6に記載のLNP。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の1つ以上のLNPと、許容可能な医薬担体とを含む、医薬組成物又はワクチン。
【請求項9】
人間医学又は獣医学において使用される、請求項1~7のいずれか一項に記載のLNP又は請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
140nmの最小平均直径を有する核酸含有脂質ナノ粒子(LNP)を作製する方法であって、
50 mol%~65 mol%のイオン性脂質、リン脂質、ステロール、PEG脂質及び好適なアルコール性溶媒を含む第1のアルコール性組成物を調製する工程と、
適切なバッファーを添加した1つ以上の核酸及び水性溶媒を含む第2の水性組成物を調製する工程と、
前記第1及び第2の組成物をマイクロ流体混合装置内で以下の設定
1 ml/min~4 ml/minの全流量(FR)、
1/1~5/1又は2/1~3/1の流量比(FRR)、を用いて混合する工程と、
を含む、方法。
【請求項11】
前記アルコール性溶媒がエタノールであり、及び/又は前記水性溶媒が水である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
哺乳動物において核酸にコードされる抗原に対する免疫応答を誘導するために使用される、請求項1~7のいずれか一項に記載のLNP又は請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項13】
癌又は感染性疾患の治療に使用される、請求項1~7のいずれか一項に記載のLNP、又は請求項8に記載の医薬組成物若しくはワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質ナノ粒子(LNP)、より具体的にはイオン性脂質と、リン脂質と、ステロールと、PEG脂質と、1つ以上の核酸とを含む脂質ナノ粒子(LNP)の分野に関する。本発明のLNPは、約140 nmの最小平均直径を有し、より強力な免疫応答を誘導することを特徴とする。本発明は、核酸分子、具体的にはmRNAの免疫原性送達(immunogenic delivery)へのLNPの使用を提供し、LNPがワクチンへの使用、例えば癌又は感染性疾患の治療に極めて適したものとなる。最後に、かかるLNPを作製する方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
生物活性物質の標的化送達の分野における大きな課題の1つは、それらの不安定性及び低い細胞透過能であることが多い。このことは、具体的には核酸分子、特に(m)RNA分子の送達に当てはまる。したがって、適当なパッケージングが適切な保護及び送達に極めて重要である。したがって、核酸等の生物活性物質のパッケージングのための方法及び組成物が引き続き必要とされている。
【0003】
この点で、リポプレックス及びリポソーム等の脂質ベースのナノ粒子組成物が、細胞及び/又は細胞内区画への輸送を可能にする生物活性物質のパッケージングビヒクルとして使用されている。これらの脂質ベースのナノ粒子組成物は通例、カチオン性脂質、イオン性脂質、リン脂質、構造脂質(ステロール又はコレステロール等)、PEG(ポリエチレングリコール)脂質等の種々の脂質の混合物を含む(非特許文献1に概説される)。かかる脂質組成物の多くが当該技術分野で既知であるが、これらは通例、小さな、すなわち200 nm未満、更には殆どの場合、140 nm未満の直径を有する。
【0004】
カチオン性又はイオン性脂質、リン脂質、ステロール及びPEG化脂質の4つの脂質の混合物で構成される脂質ベースのナノ粒子が、全身投与後の肝臓へのsiRNA及びmRNAの非免疫原性送達のために開発されている。最適な肝細胞取込み及び発現を引き起こすために、これらのLNPは通例、70 nm~100 nmと小さなサイズを示す(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。
【0005】
肝臓標的化以外に、LNPは、筋肉又は真皮への抗原をコードするmRNAの免疫原性送達にも使用されている(非特許文献5、非特許文献6)。この場合にも、小さなサイズ(80 nm~120 nm)のLNPが通例、かかるサイズの小ささが免疫原性に極めて重要であることが示されていることから使用され、小型LNPは、注射により排出リンパ節に効率的に到達するが、より大きなLNPは、注射部位に保持される(非特許文献1を参照されたい)。
【0006】
驚くべきことに、小型粒子がLNP媒介mRNA送達に有益であるという一般的な考え方とは対照的に、140 nm超、好ましくは更には200 nm超の直径を有するナノ粒子がLNPの全身注射によるmRNAの免疫原性送達に極めて適しており、脾臓へのmRNAの送達の向上と相関するようであることが今回見出された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Reichmuth et al., 2016
【文献】Li et al., Nanoletters 2015
【文献】Thess et al. Mol ther 2015
【文献】Kauffman et al. Biomaterials 2016
【文献】Richner et al. Cell 2017
【文献】Liang et al., Mol Ther 2017
【発明の概要】
【0008】
第1の態様では、本発明はイオン性脂質と、リン脂質と、ステロールと、PEG脂質と、1つ以上の核酸分子とを含む脂質ナノ粒子(LNP)であって、約140 nm、より好ましくは約200 nmの最小平均直径を有することを特徴とする、LNPを提供する。
【0009】
具体的な実施の形態では、前記イオン性脂質は、式(I):
【化1】
(式中、
RCOOは、ミリストイル、α-D-トコフェロールスクシノイル、リノレオイル及びオレオイルを含むリストから選択され、
Xは、
【化2】
を含むリストから選択される)の化合物である。
【0010】
更に具体的には、前記イオン性脂質は、RCCO(RCOO)がα-D-トコフェロールスクシノイルであり、Xが、
【化3】
である、式(I)の脂質である。
【0011】
本発明の更なる実施の形態では、前記ステロールは、コレステロール、エルゴステロール、カンペステロール、オキシステロール、アントロステロール(antrosterol)、デスモステロール、ニカステロール(nicasterol)、シトステロール及びスチグマステロールを含むリストから選択され、好ましくはコレステロールである。
【0012】
別の具体的な実施の形態では、上記リン脂質は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジウンデカノイル-sn-グリセロ-ホスホコリン(DUPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(18:0 Diether PC)、1-オレオイル-2-コレステリルヘミスクシノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(OChemsPC)、1-ヘキサデシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(C 16 Lyso PC)、1,2-ジリノレノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジアラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジドコサヘキサエノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(ME 16.0 PE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジリノレノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジアラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジドコサヘキサエノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-rac-(1-グリセロール)ナトリウム塩(DOPG)、スフィンゴミエリン及びそれらの混合物を含むリストから選択される。
【0013】
より具体的な実施の形態では、上記リン脂質は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)及びそれらの混合物を含むリストから選択される。
【0014】
また更なる実施の形態では、前記PEG脂質は、PEG修飾ホスファチジルエタノールアミン、PEG修飾ホスファチジン酸、PEG修飾セラミド、PEG修飾ジアルキルアミン、PEG修飾ジアシルグリセロール、PEG修飾ジアルキルグリセロール及びそれらの混合物を含むリストから選択される。
【0015】
別の具体的な実施の形態では、以下の1つ以上が該当する:
上記LNPが約10 mol%~60 mol%の上記イオン性脂質を含む;
上記LNPが約15 mol%~50 mol%の上記ステロールを含む;
上記LNPが約0.5 mol%~10 mol%の上記PEG脂質を含む;及び/又は、
上記LNPが約5 mol%~40 mol%の上記リン脂質を含む。
【0016】
別の具体的な実施の形態では、上記1つ以上の核酸分子は、(m)RNA及びDNA分子から選択され、特に1つ以上のmRNA分子である。具体的な実施の形態では、上記1つ以上のmRNA分子は、免疫調節ポリペプチドをコードするmRNA分子(例えば考え得る全ての分子(molecules)のリストを追加する)、及び/又は抗原特異的及び/又は疾患特異的タンパク質(mRNA)をコードするmRNA分子を含むリストから選択される。非常に具体的な実施の形態では、上記1つ以上のmRNA分子は、CD40L、CD70及びcaTLR4をコードするmRNA分子、及び/又は抗原特異的及び/又は疾患特異的mRNAをコードするmRNA分子を含むリストから選択される。
【0017】
本発明はまた、本明細書で定義される1つ以上のLNPを含む医薬組成物又はワクチンを提供する。
【0018】
さらに、本発明は、人間医学又は獣医学において使用される、本明細書で定義されるLNP又はかかるLNPを1つ以上含む医薬組成物を提供する。
【0019】
更なる態様では、本発明は、本発明によるLNPを作製する方法であって、
前記イオン性脂質、前記リン脂質、前記ステロール、前記PEG脂質及び好適なアルコール性溶媒を含む第1のアルコール性組成物を調製することと、
1つ以上の前記核酸及び水性溶媒を含む第2の水性組成物を調製することと、
前記第1及び第2の組成物をマイクロ流体混合装置内で以下の設定:
約0.5 ml/min~約8 ml/min、好ましくは約1 ml/min~4 ml/minの全流量(FR)、
約1/1~5/1、好ましくは約2/1~約3/1の流量比(FRR)、
を用いて混合することと、
を含む、方法を提供する。
【0020】
具体的な実施の形態では、前記アルコール性溶媒はエタノールであり、及び/又は前記水性溶媒は水である。
【0021】
本発明は、上記1つ以上の核酸分子の免疫原性送達への本発明によるLNP、医薬組成物又はワクチンの使用を更に提供する。
【0022】
最後に、本発明は、癌又は感染性疾患の予防及び/又は治療に使用される、本明細書に記載されるLNP、医薬組成物、又はワクチンを提供する。
【0023】
これより図面を具体的に参照するが、示される項目は例示であり、本発明の種々の実施形態の説明的な論考のみを目的とすることが強調される。これらの図面は、本発明の原理及び概念的態様の最も有用かつ簡単な説明であると考えられるものを提供するために提示される。この点で、本発明の基礎的理解に必要とされるよりも詳細な本発明の構造細部を示そうとはしていない。この説明は、図面と共に本発明の幾つかの形態を実際に具体化し得る方法を当業者に明らかとするものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】同一組成の140 nm対230 nmのサイズのmRNA LNPの免疫原性を示す図である。
図2】静脈内投与後の種々のサイズのOVA mRNA LNPの免疫原性を示す図である。
図3】単回静脈内投与後の種々のサイズのOVA mRNA LNPの免疫原性を示す図である。
図4】OVA mRNA(10 μg)及びTriMix mRNA(15 μg)を含有する大型LNPの静脈内投与後のOVA特異的T細胞のパーセンテージを示す図である。
図5】1回及び2回のmRNA LNPの静脈内投与後の140 nm及び230 nmのサイズのmRNA LNPの免疫原性の比較を示す図である。
図6】100 nm及び230 nmのサイズのmRNA LNPの脾臓/肝臓の発現比の比較を示す図である。
図7】静脈内LNP mRNA対節内投与の比較を示す図である。
図8】LNP mRNA配合物に対するT細胞応答が長続きし、ブースト可能であることを示す図である。
図9】免疫化の5日後、12日後、19日後及び50日後のOVA特異的CD8 T細胞の%の評価
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書で上記に既に詳述したように、本発明は、当該分野で一般に用いられるよりも大きな直径を有するLNPを提供する。これについて、驚くべきことに、これらが核酸、具体的にはmRNAの免疫原性送達に極めて適していることが見出され、脾臓への送達の向上との相関が見出された。「核酸分子の免疫原性送達」は、該核酸分子の細胞との接触、細胞内での内在化及び/又は発現が免疫応答の誘導をもたらす、細胞への核酸分子の送達を意味する。
【0026】
したがって、第1の態様では、本発明はイオン性脂質と、リン脂質と、ステロールと、PEG脂質と、1つ以上の核酸分子とを含む脂質ナノ粒子(LNP)であって、約140 nm、より好ましくは約200 nmの最小直径を有することを特徴とする、LNPを提供する。
【0027】
脂質ナノ粒子(LNP)は、異なる脂質の組合せで構成されるナノサイズ粒子として一般に知られている。多くの異なるタイプの脂質がかかるLNPに含まれ得るが、本発明のLNPは通例、イオン性脂質、リン脂質、ステロール及びPEG脂質の組合せで構成される。
【0028】
本明細書で使用される場合、「ナノ粒子」という用語は、粒子を特に核酸の全身投与、特に静脈内投与に適したものにする直径を有し、通例1000ナノメートル(nm)未満の直径を有する任意の粒子を指す。
【0029】
幾つかの実施形態では、ナノ粒子は、600 nm未満の平均直径を有する。幾つかの実施形態では、ナノ粒子が400 nm未満の平均直径を有するが、いずれの場合にも、本発明のナノ粒子は約140 nm超、より好ましくは約200 nm超の平均直径を有する。具体的な実施形態では、本発明のLNPは約140 nm、約150 nm、約160 nm、約170 nm、約180 nm、約190 nm又は約200 nmの最小平均直径を有する。明確にするために、複数のLNPの混合物が使用される場合、言及される最小平均直径は、該複数のLNPの最小平均直径を意味する。この例では、例えば混合物は、140 nmよりも小さい平均直径を有する幾つかのLNPを、残りのLNPが140 nmよりも大きい平均直径を有し、全てのLNPを合わせた平均最小直径が140 nmとなる限りにおいて含有し得る。本願において使用される場合、「直径」という用語は常に、具体的に指定されなくとも「平均直径」を意味する。
【0030】
本発明の文脈において、化合物又は脂質との関連での「イオン性」(又は代替的にはカチオン性)という用語は、イオン(通常はH+イオン)を得て、それ自体が正電荷を有するようになることで解離することが可能な該化合物又は脂質中の任意の非荷電基の存在を意味する。代替的には、上記化合物又は脂質中の任意の非荷電基は、電子を得て、負電荷を有するようになってもよい。
【0031】
本発明の文脈において、任意のタイプのイオン性脂質を適切に使用することができる。具体的には、好適なイオン性脂質は、S-S結合によって連結した2つの同一又は異なる尾部を含み、該尾部の各々が、
【化4】
によって表されるもののようなイオン性アミンを含むイオン性アミノ脂質である。
【0032】
具体的な実施形態では、前記イオン性脂質は、式(I):
【化5】
(式中、
RCOOは、ミリストイル、α-D-トコフェロールスクシノイル、リノレオイル及びオレオイルを含むリストから選択され、
Xは、
【化6】
を含むリストから選択される)の化合物である。
【0033】
かかるイオン性脂質は、具体的には以下の式のいずれかによって表される:
【化7】
【0034】
より具体的には、上記イオン性脂質は、RCCO(RCOO)がα-D-トコフェロールスクシノイルであり、Xが、
【化8】
例えば、
【化9】
によって表されるものである、式(I)の脂質である。
【0035】
本発明の文脈において、ステロイドアルコールとしても知られる「ステロール」という用語は、植物、動物及び真菌において自然発生するか、又は幾つかの細菌によって産生され得るステロイドの亜群である。本発明の文脈において、任意の好適なステロール、例えばコレステロール、エルゴステロール、カンペステロール、オキシステロール、アントロステロール、デスモステロール、ニカステロール、シトステロール及びスチグマステロールを含むリストから選択されるステロールを使用することができ、好ましくはコレステロールを使用することができる。
【0036】
本発明の文脈において、「リン脂質」という用語は、2つの疎水性脂肪酸「尾部」と、リン酸基からなる親水性「頭部」とからなる脂質分子を意味する。これら2つの成分は殆どの場合、グリセロール分子によって結び付くため、本発明のリン脂質は、好ましくはグリセロール-リン脂質である。さらに、リン酸基は、コリン(すなわち、ホスホコリンにする)又はエタノールアミン(すなわち、ホスホエタノールアミンにする)等の単純な有機分子で修飾されることが多い。
【0037】
本発明の文脈において、好適なリン脂質は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジウンデカノイル-sn-グリセロ-ホスホコリン(DUPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(18:0 Diether PC)、1-オレオイル-2-コレステリルヘミスクシノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(OChemsPC)、1-ヘキサデシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(C 16 Lyso PC)、1,2-ジリノレノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジアラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジドコサヘキサエノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(ME 16.0 PE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジリノレノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジアラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジドコサヘキサエノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-rac-(1-グリセロール)ナトリウム塩(DOPG)、スフィンゴミエリン及びそれらの混合物を含むリストから選択され得る。
【0038】
より具体的な実施形態では、上記リン脂質は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)及びそれらの混合物を含むリストから選択される。
【0039】
本発明の文脈において、「PEG脂質」又は代替的には「PEG化脂質」という用語は、PEG(ポリエチレングリコール)基で修飾された任意の好適な脂質を意味する。特定の実施形態では、前記PEG脂質は、PEG修飾ホスファチジルエタノールアミン、PEG修飾ホスファチジン酸、PEG修飾セラミド、PEG修飾ジアルキルアミン、PEG修飾ジアシルグリセロール、PEG修飾ジアルキルグリセロール及びそれらの混合物を含むリストから選択される。かかるPEG脂質のより具体的な例は、C14-PEG2000(1,2-ジミリストイル-rac-グリセロール,メトキシポリエチレングリコール-2000(DMG-PEG2000))及びC18-PEG5000(1,2-ジステアロイル-rac-グリセロール,メトキシポリエチレングリコール-5000(DSG-PEG5000))を包含する。
【0040】
本発明の具体的な実施形態では、以下の1つ以上が該当する:
上記LNPが約35 mol%~65 mol%の上記イオン性脂質を含む;
上記LNPが約15 mol%~60 mol%の上記ステロールを含む;
上記LNPが約0.5 mol%~2 mol%の上記PEG脂質を含む;及び/又は、
上記LNPが約5 mol%~15 mol%の上記リン脂質を含む。
【0041】
本発明の別の具体的な実施形態では、以下の1つ以上が該当する:
上記LNPが約10 mol%~60 mol%の上記イオン性脂質を含む;
上記LNPが約15 mol%~50 mol%の上記ステロールを含む;
上記LNPが約0.5 mol%~10 mol%の上記PEG脂質を含む;及び/又は、
上記LNPが約5 mol%~40 mol%の上記リン脂質を含む。
【0042】
より具体的な実施形態では、以下の1つ以上が該当する:
上記LNPが約40 mol%~60 mol%の上記イオン性脂質を含む;
上記LNPが約20 mol%~40 mol%の上記ステロールを含む;
上記LNPが約0.5 mol%~5 mol%の上記PEG脂質を含む;及び/又は、
上記LNPが約5 mol%~15 mol%の上記リン脂質を含む。
【0043】
したがって、特定の実施形態では、上記LNPは約10 mol%~60 mol%、好ましくは約40 mol%~60 mol%の上記イオン性脂質を含む。
【0044】
更に別の具体的な実施形態では、上記LNPは約15 mol%~50 mol%、好ましくは約20 mol%~40 mol%のステロールを含む。
【0045】
更なる実施形態では、上記LNPは約0.5 mol%~10 mol%、好ましくは約0.5 mol%~5 mol%の上記PEG脂質を含む。
【0046】
別の具体的な実施形態では、上記LNPは約5 mol%~40 mol%、好ましくは約5 mol%~15 mol%の上記リン脂質を含む。
【0047】
したがって、より具体的な実施形態では、本発明のLNPは、約10 mol%~60 mol%の上記イオン性脂質、及び/又は約15 mol%~50 mol%のステロール、及び/又は約0.5 mol%~10 mol%の上記PEG脂質、及び/又は約5 mol%~40 mol%の上記リン脂質を含む。
【0048】
別の具体的な実施形態では、本発明のLNPは、約40 mol%~60 mol%の上記イオン性脂質、及び約20 mol%~40 mol%のステロール、及び約0.5 mol%~5 mol%の上記PEG脂質、及び約5 mol%~15 mol%の上記リン脂質を含む。
【0049】
本発明の文脈において特に好適なLNPの組成を表1に示す。
【0050】
表1:特に好適なLNPの組成
【表1】
【0051】
本発明者らは、本発明のLNPが、主に肝臓を標的とすることが見出された、従来技術で既知の小さなLNPとは対照的に、脾臓の標的化の増大のために核酸の免疫原性送達に特に適していることを見出した。
【0052】
したがって、本発明は、1つ以上の核酸分子、例えばDNA又はRNA、より具体的にはmRNAを含むLNPを提供する。
【0053】
本発明の文脈において、「核酸」は、デオキシリボ核酸(DNA)又は好ましくはリボ核酸(RNA)、より好ましくはmRNAである。核酸は、本発明によると、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換えによって作製された分子及び化学的に合成された分子を含む。核酸は、本発明によると、一本鎖又は二本鎖であり、線状又は共有結合閉環状(closed covalently to form circle)である分子の形態であり得る。核酸は、例えばDNA鋳型からin vitro転写によって作製され得るRNAの形態で細胞への導入、すなわち細胞のトランスフェクションに用いることができる。RNAは、配列の安定化、キャッピング及びポリアデニル化によって適用前に更に修飾されてもよい。
【0054】
本発明の文脈において、「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含み、好ましくは完全又は実質的にリボヌクレオチド残基で構成される分子に関する。「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。この用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、単離RNA、例えば部分的に精製されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換えによって作製されたRNA、及び1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は変化によって自然発生RNAとは異なる修飾RNAを含む。かかる変化としては、例えばRNAの末端(複数の場合もある)への又は内部での、例えばRNAの1つ以上のヌクレオチドでの非ヌクレオチド物質の付加を挙げることができる。RNA分子中のヌクレオチドは、非標準ヌクレオチド、例えば非自然発生ヌクレオチド、又は化学的に合成されたヌクレオチド若しくはデオキシヌクレオチドを含んでいてもよい。これらの変化したRNAは、類似体と称される場合がある。核酸がベクターに含まれていてもよい。「ベクター」という用語は、本明細書で使用される場合、プラスミドベクター、コスミドベクター、λファージ等のファージベクター、アデノウイルスベクター若しくはバキュロウイルスベクター等のウイルスベクター、又は細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体等の人工染色体ベクター、又は自然発生RNAの類似体を含む当業者に既知の任意のベクターを含む。
【0055】
本発明によると、「RNA」という用語は、「mRNA」を含み、好ましくは「mRNA」に関する。「mRNA」は、「メッセンジャーRNA」を意味し、DNAを鋳型として用いて作製することができ、ペプチド又はタンパク質をコードする「転写産物」に関する。mRNAは通例、5'非翻訳領域(5'-UTR)と、タンパク質又はペプチドのコード領域と、3'非翻訳領域(3'-UTR)とを含む。mRNAは、細胞内及びin vitroで限られた半減期を有する。mRNAは、DNA鋳型を用いるin vitro転写によって作製されるのが好ましい。本発明の一実施形態では、RNAは、in vitro転写又は化学合成によって得られる。in vitro転写の方法論は、当業者に既知である。例えば、様々なin vitro転写キットが市販されている。
【0056】
具体的な実施形態では、上記mRNA分子は、免疫調節タンパク質をコードするmRNA分子である。
【0057】
本発明の文脈において、「免疫調節タンパク質をコードするmRNA分子」という用語は、抗原提示細胞、特に樹状細胞の機能性を変更するタンパク質をコードするmRNA分子を意味する。かかる分子は、CD40L、CD70、caTLR4、IL-12p70、EL-セレクチン、CCR7、及び/又は4-1 BBL、ICOSL、OX40L、IL-21を含むリストから選択され、特にCD40L、CD70及びcaTLR4の1つ以上であり得る。本発明の方法に使用される免疫刺激因子の好ましい組合せは、CD40L及びcaTLR4(すなわち、「DiMix」)である。別の好ましい実施形態では、本明細書で「TriMix」とも呼ばれるCD40L、CD70及びcaTLR4免疫刺激分子の組合せが使用される。
【0058】
別の具体的な実施形態では、上記mRNA分子は、抗原特異的及び/又は疾患特異的タンパク質をコードするmRNA分子である。
【0059】
本発明によると、「抗原」という用語は、免疫応答を引き起こす及び/又は免疫応答が指向される少なくとも1つのエピトープを含む任意の分子、好ましくはペプチド又はタンパク質を含む。本発明の文脈において、抗原は、任意にプロセシング後に、好ましくは抗原又は抗原を発現する細胞に特異的な免疫応答を誘導する分子であるのが好ましい。特に、「抗原」は、任意にプロセシング後にMHC分子によって提示され、Tリンパ球(T細胞)と特異的に反応する分子に関する。
【0060】
具体的な実施形態では、抗原は、腫瘍抗原、又は細菌抗原、ウイルス抗原若しくは真菌抗原であり得る標的特異的抗原である。上記標的特異的抗原は、標的細胞(複数の場合もある)から単離された全mRNA、1つ以上の特定の標的mRNA分子、標的細胞(複数の場合もある)のタンパク質溶解物、標的細胞(複数の場合もある)に由来する特定のタンパク質、又は合成標的特異的ペプチド若しくはタンパク質、及び標的特異的抗原若しくはその誘導ペプチドをコードする合成mRNA若しくはDNAのいずれか1つに由来し得る。
【0061】
あらゆる誤解を避けるために、本発明のLNPは、単一のmRNA分子を含んでいてもよく、又は複数のmRNA分子、例えば免疫調節タンパク質をコードする1つ以上のmRNA分子、及び/又は抗原特異的及び/又は疾患特異的タンパク質をコードする1つ以上のmRNA分子の組合せを含んでいてもよい。
【0062】
非常に具体的な実施形態では、免疫調節分子をコードする上記mRNA分子を、抗原特異的及び/又は疾患特異的タンパク質をコードする1つ以上のmRNA分子と組み合わせることができる。例えば、本発明のLNPは、抗原特異的及び/又は疾患特異的タンパク質をコードする1つ以上のmRNA分子と組み合わせた免疫刺激分子CD40L、CD70及び/又はcaTLR4(Dimix又はTrimix等)をコードするmRNA分子を含み得る。このため、非常に具体的な実施形態では、本発明のLNPは、抗原特異的及び/又は疾患特異的タンパク質をコードする1つ以上のmRNA分子と組み合わせたCD40L、CD70及び/又はcaTLR4をコードするmRNA分子を含む。
【0063】
更なる態様では、本発明は、本明細書で定義される1つ以上のLNPを含む医薬組成物を提供する。かかる医薬組成物は、ワクチンとして特に好適である。このため、本発明は、本発明による1つ以上のLNPを含むワクチンも提供する。
【0064】
本発明の文脈において、「ワクチン」という用語は、本明細書で使用される場合、疾患に対する適応免疫(抗体及び/又はT細胞応答)をもたらすことを意図した任意の調製物を意味する。その目的で、本明細書で意図されるワクチンは、適応免疫応答が開始される抗原をコードする少なくとも1つのmRNA分子を含有する。この抗原は、弱毒化した若しくは死んだ形態の微生物、タンパク質若しくはペプチド、又は抗原をコードする核酸の形で存在し得る。本発明の文脈において、抗原は、宿主の免疫系により異物として認識され、かかる抗原に対抗する目的で、それに対する抗体の産生を刺激するタンパク質又はペプチドを意味する。ワクチンは、予防ワクチン(例えば、任意の天然又は「野生」病原体による将来の感染の影響を防止又は改善する)又は治療ワクチン(例えば、進行中の疾患の症状を積極的に治療又は軽減する)であり得る。ワクチンの投与は、ワクチン接種と呼ばれる。
【0065】
本発明のワクチンは、免疫応答、特に疾患関連抗原又は疾患関連抗原を発現する細胞に対する免疫応答、例えば癌に対する免疫応答を誘導するために使用することができる。したがって、ワクチンは、癌等の疾患関連抗原又は疾患関連抗原を発現する細胞が関与する疾患の予防処置及び/又は治療処置に使用することができる。上記免疫応答は、T細胞応答であるのが好ましい。一実施形態では、疾患関連抗原は腫瘍抗原である。本明細書に記載されるナノ粒子に含まれるRNAによってコードされる抗原は、好ましくは疾患関連抗原であるか、又は疾患関連抗原若しくは疾患関連抗原を発現する細胞に対する免疫応答を引き起こす。
【0066】
本発明のLNP及びワクチンは、具体的には静脈内投与、すなわち静脈への液体物質の直接注入を対象とする。静脈内経路は、流体及び薬剤を体全体に、すなわち全身的に送達する最速の方法である。このため、本発明は、静脈内ワクチン、並びに静脈内投与への開示のワクチン及びLNPの使用を提供する。このため、本発明のワクチン及びLNPは、静脈内投与することができる。本発明は、ワクチンを静脈内投与する、本発明によるワクチン及びLNPの使用も提供する。
【0067】
本発明は、人間医学又は獣医学において使用される本発明によるLNP、医薬組成物及びワクチンも提供する。人間医学又は獣医学への本発明によるLNP、医薬組成物及びワクチンの使用も意図される。最後に、本発明は、本発明によるLNP、医薬組成物及びワクチンを、それを必要とする被験体に投与することによるヒト及び動物の(veterinary)障害の予防法及び治療のための方法を提供する。
【0068】
本発明は、上記1つ以上の核酸分子の免疫原性送達への本発明によるLNP、医薬組成物又はワクチンの使用を更に提供する。この効果は、具体的には脾臓への選択的標的化のために本発明のより大きなLNPを用いることで達成される。従来技術の小型LNPは、選択的に肝臓を標的とし、免疫原性効果を殆ど又は全く有しないことが見出された。そのため、本発明のLNP、医薬組成物及びワクチンは、幾つかのヒト及び動物の障害の治療に極めて有用である。このため、本発明は、癌又は感染性疾患の治療に使用される本発明のLNP、医薬組成物及びワクチンを提供する。
【0069】
更なる態様では、本発明は、本発明によるLNPを作製する方法であって、
前記イオン性脂質、前記リン脂質、前記ステロール、前記PEG脂質及び好適なアルコール性溶媒を含む第1のアルコール性組成物を調製することと、
1つ以上の前記核酸及び水性溶媒を含む第2の水性組成物を調製することと、
前記第1及び第2の組成物をマイクロ流体混合装置内で以下の設定:
約0.5 ml/min~約8 ml/min、好ましくは約1 ml/min~4 ml/minの全流量(FR)、
約1/1~5/1、好ましくは約2/1~約3/1の流量比(FRR)、
を用いて混合することと、
を含む、方法を提供する。
【0070】
更に詳細には、脂質成分をエタノール等のアルコール性ビヒクル中にて好適な濃度で組み合わせる。これに核酸を含む水性組成物を添加し、続いてマイクロ流体混合装置に投入する。
【0071】
マイクロ流体混合の目的は、マイクロスケール装置での複数のサンプル(すなわち、脂質相及び核酸相)の完全かつ迅速な混合を達成することである。かかるサンプル混合は通例、異なる種の流れ間の拡散効果を高めることによって達成される。これには、例えばLee et al., 2011に概説されるような幾つかのマイクロ流体混合装置を使用することができる。本発明による特に好適なマイクロ流体混合装置は、Precision NanosystemsのNanoAssemblrである。
【0072】
かかるマイクロ流体混合装置の混合パラメーターは、得られるLNPの特性、具体的にはそのサイズに大きな影響を与える。したがって、大きなLNP、すなわち少なくとも140 nm、好ましくは少なくとも200 nmの平均直径を有するLNPを得るためには、FR及びFRRパラメーターが非常に重要である。
【0073】
全FR(流量;Flow Rate)は、マイクロ流体混合速度の尺度であり、従来技術では通例、完全な混合を可能にし、肝臓に指向される小さなLNPを得るために8 ml/min~12 ml/minに設定される。対照的に、本発明では、FR(FRW)がはるかに低く設定され、本発明の文脈における使用に適したより大きなLNPが得られる。
【0074】
FRR(流量比;Flow Rate Ratio)は、アルコール相中の脂質と水相中の核酸との比率であり、本発明では通例、約2/1~約3/1に設定される。
【実施例
【0075】
実施例1.
この第1の実施例では、mRNA LNPの免疫原性に対する粒径の影響を評価した。そのために、同一組成の140 nm及び230 nmのサイズのmRNA LNPを調製した。LNPは、50 mol% α-D-トコフェロールヘミスクシノイル(イオン性脂質)、10 mol% DOPE、38.5 mol%コレステロール及び1.5 mol% DSG-PEG5000(PEG化脂質)から指定の脂質比(mol%)で構成されていた。LNPは、異なる流量(FR;ml/min)及び水/エタノール体積比(FRR)を用いてNano-Assemblrで作製した。140 nmのサイズのLNPはFR 4 ml/minで作製したが、230 nmのサイズのLNPはFR 1 ml/minで生成した。
【0076】
図1に、OVA/TriMix mRNA LNP(OVA:10 μg;TriMix mRNA:15 μg)を用いたマウスにおける単回静脈内投与後のOVA特異的CD8+T細胞のパーセンテージを示す。図1から極めて明らかなように、より大きなLNPの免疫原性は、より小さなLNPの免疫原性と比較してはるかに高い。
【0077】
実施例2.
本実施例では、マウスにおける静脈内投与後の異なるサイズ及び組成のOVA mRNA LNPの免疫原性を決定した。全てのLNPが、図2に規定されるような指定の脂質比(mol%)のα-D-トコフェロールヘミスクシノイル(イオン性脂質)、DOPE、コレステロール及びDSG-PEG5000で構成されていた。LNPは、同様に図2に規定されるような異なる流量(FR;ml/min)及び水/エタノール体積比(FRR)を用いてNano-Assemblrで作製した。OVA特異的CD8 T細胞のパーセンテージを免疫化の6日後にフローサイトメトリーによって定量化した。この場合も図2から極めて明らかなように、より大きなLNPの免疫原性は、より小さなLNPの免疫原性と比較してより高い。
【0078】
実施例3.
本実施例では、マウスにおける単回静脈内投与後の異なるサイズ及び組成のOVA mRNA LNPの免疫原性を決定した。プロットは、OVA MHCIエピトープSIINFEKL(5 μg/ml)による脾細胞の再刺激後の脾細胞100万個当たりのIFN-γ分泌CD8+T細胞の数を示す。全てのLNPが、図3に規定されるような指定の脂質比(mol%)のα-D-トコフェロールヘミスクシノイル(イオン性脂質)、DOPE、コレステロール及びDSG-PEG5000で構成されていた。LNPは、同様に図3に規定されるような異なる流量(FR;ml/min)及び水/エタノール体積比(FRR)を用いてNano-Assemblrで作製した。OVA特異的CD8+T細胞のパーセンテージを免疫化の6日後にフローサイトメトリーによって定量化した。
【0079】
実施例4.
次に、PEG化脂質を変化させた場合の影響を評価した。そのために、2つの異なる組成物をDSG-PEG5000又はDMG-PEG2000のいずれかを用いて作製した。OVA mRNA(10 μg)及びTriMix mRNA(15 μg)を含有する大型LNPの静脈内投与後のOVA特異的T細胞のパーセンテージを決定し、図4に示した。マウスを0日目及び20日目に免疫化した。OVA特異的T細胞の%を15日目及び39日目に血液サンプルで評価した。図4から分かるように、PEG化脂質のタイプは、LNPの免疫原性に影響を与えない。
【0080】
実施例5.
本実施例では、140 nm及び230 nmのサイズのmRNA LNPを用いた反復免疫化後の小さな及び大きなLNPの免疫原性を評価した(図5)。LNPは、図5に規定されるような指定の脂質比(mol%)の50 mol% α-D-トコフェロールヘミスクシノイル(イオン性脂質)、10 mol% DOPE(リン脂質)、38 mol%コレステロール及び1.5 mol% DSG-PEG5000で構成されていた。LNPは、10 μgのOVA mRNA及び15 μgのTriMix mRNA(CD40L、CD70及びcaTLR4)を含有していた。OVA特異的CD8 T細胞応答のパーセンテージ(Percentages)を免疫化の5日後に測定した。
【0081】
実施例6.
本実施例では、異なるサイズのFluc mRNA LNPを用いたマウスの静脈注射後の脾臓及び肝臓におけるmRNA発現を比較した(図6)。LNPは、50/10/38.5/1.5のそれぞれの脂質比のα-D-トコフェロールヘミスクシノイル(イオン性脂質)、DOPC、コレステロール及びDSG-PEG5000で構成されていた。異なるサイズのLNPを、異なるマイクロ流体混合の流量(FR1対FR4)を用いて生成した。in vivo生物発光(ph/s/cm2/sr)によって測定される脾臓対肝臓のFluc mRNAの発現比を図に示す。
【0082】
実施例7.
本実施例では、配合された静脈内mRNA LNPが節内アプローチと比較して優れた免疫原性及び抗腫瘍効果を引き起こすことが実証される。
【0083】
使用したAPIの特性は、以下の通りである:
E7 mRNA、カラム精製、投与1回当たり10 μg
免疫化スケジュール:週3回
【0084】
本実験の結果を図7に示すが、mRNA LNPを用いる、使用した静脈内アプローチが免疫原性及び抗腫瘍効果の両方の点で節内アプローチよりも優れていることが明らかに示される。さらに、T細胞応答の大きさと抗腫瘍効果との間に相関があるようである。
【0085】
実施例8.
本実施例では、mRNA LNP配合物に対するT細胞応答が長続きし、ブースト可能であることが実証される。
【0086】
そのために、3つの異なる配合物を免疫化スケジュールに使用した。その結果を図8に示す。これらの結果から、以下の観察結果/結論を出すことができる:
3回目の免疫化の40日後のE7特異的T細胞の高い%による収縮期の延長
メモリー変換(Memory conversion)
驚くべきリコール応答:IV配合ワクチンをブーストすることができる
【0087】
実施例9.
本実施例では、LNPのサイズの影響を実証する更なる実験を行った。
【0088】
そのために、以下の実験設定を用いた:
イオン性脂質/chol/DOPE/DMG-PEG2000の比率 - 50/38.5/10/1.5
3回のIV免疫化;0日目、7日目、14日目
mRNA:OVAをコードするmRNA、免疫化1回当たり10 μg
1回目の免疫化の5日後、12日後、19日後及び50日後のOVA特異的CD8 T細胞の%の評価
【0089】
結果を図9に詳細に示すが、150 nm又は200 nmの平均サイズを有するLNPが、僅か100 nmの平均サイズを有するLNPと比較してT細胞応答の点で明らかに免疫原性がはるかに高いことが明らかに示される。
【0090】
文献
Reichmuth et al., 2016 - mRNA vaccine delivery using lipid nanoparticles - Therapeutic Delivery Vol. 7, No 5.
Li et al., 2015 - An Orthogonal Array Optimization of Lipid-like Nanoparticles for mRNA Delivery in Vivo -Nano Letters 15(12) pg. 8099-8107.
Thess et al., 2015 - Sequence-engineered mRNA without Chemical Nucleoside Modifications Enables an Effective Protein Therapy in Large Animals - Molecules Therapy Vol. 23, Issue 9 pg. 1456-1464.
Kauffman et al., 2016 - Materials for non-viral intracellular delivery of messenger RNA therapeutics - Journal of Controlled Release, Vol. 240, pg. 227-234.
Richner et al., 2017 - Modified mRNA vaccines protect against Zika virus infection - Cell, Vol. 168, Issue 6 pg. 1114-1125
Liang et al., 2017 - Efficient Targeting and Activation of Antigen-Presenting Cells In Vivo after Modified mRNA Vaccine Administration in Rhesus Macaques - Molecular Therapy, vol. 25 Issue 12 pg. 2635-2647.
Lee et al., 2011 - Microfluidic Mixing: A Review - Int. J. Mol. Sci. 12(5): pg. 3263-3287.
【符号の説明】
【0091】
図面訳
図1
% OVA-specific CD8+ T cells OVA特異的CD8+T細胞(%)

図2
% OVA-specific CD8+ T cells OVA特異的CD8+T細胞(%)

図3
IFN-γ secreting T cells/million 100万個当たりのIFN-γ分泌T細胞

図4
% OVA-specific CD8+ T cells OVA特異的CD8+T細胞(%)
Days post immunisation 免疫化後の日数

図5
% OVA specific CD8 T cells OVA特異的CD8 T細胞(%)
1st immunization 1回目の免疫化
2nd immunization 2回目の免疫化

図6
ratio spleen/liver expression 脾臓/肝臓の発現比

図7
T cell response T細胞応答
E7 specific CD8+ T cells E7特異的CD8+T細胞
#immunizations 免疫化の回数
No treatment 処理なし
Tumor volume 腫瘍体積
IV formulation X IV配合物X
Days 日数
IV formulation Z IV配合物Z

図8
Results update 最新結果
E7 specific CD8+ T Cells E7特異的CD8+T細胞
Days 日数
IV mRNA nanoparticle IV mRNAナノ粒子
Formulation 配合物
Effector/memory - day 55 エフェクター/メモリー - 55日目
% of E7 specific T cells E7特異的T細胞(%)
Effector エフェクター
Memory precursor メモリー前駆
Central Memory セントラルメモリー

図9
OVA specific CD8+ T Cells OVA特異的CD8+T細胞
Time (days) 時間(日数)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9