IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アクシス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-耐震建築構造体 図1
  • 特許-耐震建築構造体 図2
  • 特許-耐震建築構造体 図3
  • 特許-耐震建築構造体 図4
  • 特許-耐震建築構造体 図5
  • 特許-耐震建築構造体 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】耐震建築構造体
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20230818BHJP
   E04B 2/84 20060101ALI20230818BHJP
   E04B 1/66 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
E04H9/02 321H
E04H9/02 321B
E04B2/84 H
E04B1/66 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019130434
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021014735
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】399031838
【氏名又は名称】アクシス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑中 篤
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-075810(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 2/84
E04B 1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート建築物のうち隣合うコンクリート塊の間に耐震スリット部材を介装した耐震建築構造体であって、
前記耐震スリット部材は、当該耐震スリット部材の幅方向両側の各側部と嵌挿され、コンクリートの打設時に耐震スリット部材を保持する枠部材を有し、
前記枠部材うち、少なくとも前記コンクリート建築物の外部側に配置される枠部材には、前記耐震スリット部材の幅方向側部の外面と、同外面と向き合う前記枠部材の内面との間に、同間を埋めるように防水部材が設けられ
前記コンクリート建築物は、前記耐震スリット部材を貫通して延び、各端部が耐震スリット部材を挟んだ両側のコンクリート塊と連結されるバー部材と、同バー部材の一端部に、途中まで嵌挿されてコンクリート塊に埋め込まれたサック部材とを有する
ことを特徴とする耐震建築構造体。
【請求項2】
前記防水部材は、前記耐震スリット部材の幅方向の一側部の端面と、同端面と向き合う前記枠部材の内面と間に介装される防水シートを有して構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の耐震建築構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震など横揺れ振動によるコンクリート建築物の損傷を防ぐ耐震建築構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート建築物においては、地震など横揺れ振動によるコンクリート建築物の損傷を防ぐために、柱部と壁部といった隣合うコンクリート塊の間に、柔軟性に富む部材で形成された耐震スリット部材(例えばポリスチレンフォーム)を介装して、地震時の横揺れで生ずる壁部、柱部の変位や変形(振れ)の吸収を可能とした耐震建築構造体が講じられる。
【0003】
こうした耐震建築構造体に用いられる耐震スリット部材は、コンクリート建築物のコンクリートの打設の工程を利用して、柱部と壁部との間に介装される。
多くは、コンクリートの打設工程の際、耐震スリット部材の幅方向両側部と、コンクリート打設用の型枠の内面に設けた突条部との間に合成樹脂製の枠部材を嵌めて、耐震スリット部材を型枠内の所定位置で保持させた後、コンクリートを打設することにより、コンクリート塊で構成される柱部と壁部との間に介装させている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3921122号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近時、想定を越えるような規模や頻度で地震が発生することが珍しくなくなっている。
ところで、地震の規模によっては、地震の横揺れ振動により、耐震スリット部材の想定を越えるような壁部、柱部の横揺れ(振れ)が生ずるおそれが出てきた。
このような場合、耐震スリット部材の側部を保持している枠部材は、横揺れがもたらす応力に耐え切れずに損傷するおそれがある。
【0006】
特にコンクリート建築物の外部側に配置される枠部材が損傷すると、コンクリート建築物の外部(外気)から、雨水が、枠材の損傷した部分を通じ、内側へと侵入して、コンクリート塊に影響を与えたり、コンクリート建築物内へ雨水が侵入(雨漏れ)したりするおそれが懸念される。
そこで、本発明の目的は、隣接するコンクリート塊の横揺れで生ずる枠部材の損傷を要因とした、雨水の侵入を防ぐことができる耐震建築構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る耐震建築構造体の態様は、コンクリート建築物のうち隣合うコンクリート塊の間に耐震スリット部材を介装した耐震建築構造体であって、耐震スリット部材は、当該耐震スリット部材の幅方向両側の各側部と嵌挿され、コンクリートの打設時に耐震スリット部材を保持する枠部材を有し、枠部材うち、少なくともコンクリート建築物の外部側に配置される枠部材には、耐震スリット部材の幅方向側部の外面と、同外面と向き合う枠部材の内面との間に、同間を埋めるように防水部材が設けられ、コンクリート建築物は、耐震スリット部材を貫通して延び、各端部が耐震スリット部材を挟んだ両側のコンクリート塊と連結されるバー部材と、同バー部材の一端部に、途中まで嵌挿されてコンクリート塊に埋め込まれたサック部材とを有することとした(請求項1)。
【0008】
好ましくは、防水部材を防水シートから構成して、耐震スリット部材の側部の端面と、同端面と向き合う枠部材の内面と間に介装する。これにより、簡単な構造ですむ(請求項2)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地震の横揺れ振動により、隣接するコンクリート塊の間の耐震スリット部材が大きく変形し、耐震スリット部材の側部の枠部材が損傷した場合、コンクリート建築物の外側からの雨水は、枠部材の損傷部分を通じてコンクリート塊の内側へ侵入してしまう。このとき、耐震スリット部材の側部外面と、同外面と向き合う枠部材の内面との間には防水部材が設けられているので、枠部材の損傷部分からの雨水の侵入を断つことができる。
【0010】
それ故、隣接するコンクリート塊の横揺れで生ずる枠部材の損傷を要因とした、雨水の侵入を防ぐことができる
そのうえ、耐震スリット部材と、耐震スリット部材を貫通して延び、各端部が耐震スリット部材を挟んだ両側のコンクリート塊と連結されるバー部材、同バー部材の一端部に、途中まで嵌挿されてコンクリート塊に埋め込まれたサック部材を有した構造と、防水部材による防水構造とを組み合わせることにより、一層、耐震性能の向上を図ることができる(請求項1)。
しかも、防水部材に防水シートを用いて、耐震スリット部材の側部端面と枠部材の内面との間に介装する構造だと、防水施工は耐震スリット部材の側部と、枠部材の内面との間に防水シートを挟み込むだけでよく、施工は簡単である(請求項2)。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係る態様となる耐震建築構造体を説明する斜視図。
図2】(a)は、図1(a)中の耐震スリット部材および枠部材におけるA-A線に沿う平断面図、(b)は要部を拡大した平断面図。
図3】耐震スリット部材、枠部材、防水部材(防水シート)の各部に分解した分解斜視図。
図4】耐震スリット部材がもたらす横振れ吸収を説明する平断面図。
図5】本発明の第2の実施形態に係る態様の要部となる耐震建築構造体を説明する平断面図。
図6】バー部材、サック部材がもたらす横揺れ吸収を説明する平断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図1図4に示す第1の実施形態にもとづいて説明する。
図1(a)は、コンクリート建築物の一部、例えばコンクリート建築物の外壁となる、コンクリート製の柱部1(本願のコンクリート塊に相当)、同柱部1と連なるコンクリート製の壁部3(一部:本願のコンクリート塊に相当))を示している。
このコンクリート建築物の外壁に耐震建築構造体5が用いられている。耐震建築構造体5は、例えば柱部1と壁部3との間に、柱部1および壁部3の高さ方向に渡り、垂直スリットと呼ばれる耐震スリット部材7を介装して構成される。ちなみに、耐震スリット部材7には、柔軟性に富む部材、例えばポリスチレンフォームで帯板状に形成された部材などが用いられる。
【0014】
この耐震スリット部材7が、コンクリートを打設する工程を利用して、柱部1と壁部3との間に介装される。そのため、耐震スリット部材7の幅方向両側の側部には、耐震スリット部材7を型枠11(外枠11a,内枠11bよりなる)の内面に支持させる一対の枠部材13が設けられる。
枠部材13は、いずれも例えば図2(a),(b)および図3に示されるような硬質の合成樹脂材で構成される。具体的には枠部材13は、耐震スリット部材7の側部に嵌挿可能な断面がコ字形の内枠部13aと、外枠11aや内枠11b(いずれも型枠11)の内面に形成された突条部11cと嵌挿可能な断面がコ字形の外枠部13bの背部同士を一体に突き合わせた長尺な部材から構成される。
【0015】
ここで、耐震スリット部材7の介装の仕方について述べると、例えば図2(b)のようにコンクリートを打設するとき、各枠部材13の外枠部13bと、外枠11aの突条部11cや内枠11bの突条部11cとを嵌挿させ、各枠部材13を外枠11a、内枠11bに支持させる。そして、各枠部材13の内枠部13aと、耐震スリット部材7の各側部(幅方向両側)とを嵌挿して、耐震スリット部材7を型枠11内の所定位置に位置決める(保持)。
【0016】
その後、耐震スリット部材7で区画された型枠11内へコンクリートを打設することにより、耐震スリット部材7が、所定位置たる、柱部1を形成するコンクリート塊と、壁部3を形成するコンクリート塊との間に挟み込まれる。コンクリート打設後は、外枠11a、内枠11bは取り外し、突条部11cの跡の窪み(凹部)は、バックアップ材19aやシーリング材19bなどで覆う。
【0017】
なお、本実施形態では、例えばコンクリート建築物の外部側における防水性の確保のため、耐震スリット部材7の外部側だけシーリングが施してある。またコンクリート建築物の内部側の耐火性を向上させるため、耐震スリット部材7の内部側の側部と、内枠部13aとの間には耐火部材21が設けてある。
各枠部材13のうち、コンクリート建築物の外部側に配置される枠部材13には、同枠部材13が損傷したときの助けとなる防水部材、例えば防水シート25が設けられている。
【0018】
具体的には防水シート25は、例えば図3に示されるような例えば厚さ寸法1mm程のゴム製や合成樹脂製の帯形のシートから構成される。この防水シート25が、図2(b)にも示されるようにコンクリート建築物の外部側に配置される側部の外面、例えば端面7aと、同端面7aと向き合う内枠部13a(枠部材13)の底面13cとの間に、同間を埋めるよう挟み込まれる。
【0019】
つまり、防水シート25は、耐震スリット部材7の側部の外面と、同側部と向き合う枠部材13の内面との間に介装される。
むろん、防水シート25は、耐震スリット部材7の端面7aおよびその両側の側面7bと、これら端面7aおよび側面7bと向き合う内枠部13a(枠部材13)の底面13cおよびその両側の内側面13dとの間に渡り介装されてもよい。
【0020】
この防水シート25により、たとえ壁部3の横揺れにより(地震の横揺れ振動)、耐震スリット部材7の外部側の枠部材13の底面13cが損傷しても、防水シート25で損傷部分からの雨水の侵入が防げる構造としている。すなわち、防水シート25にて、雨水の侵入経路が断たれ、雨水がコンクリート建築物の外部側から内側へ侵入するのを防ぐ。
つぎに、図2および図4を参照して耐震建築構造体5の作用について説明する。
【0021】
例えば地震が発生し、地震の横揺れ振動がコンクリート建築物の外壁へ伝わったとする。すると、例えば隣接する柱部1と壁部3とは横揺れする。このとき柱部1、壁部3は、加わる応力により、接近したり離れたりする方向へ振れる(変位、変形)。
このとき耐震スリット部材7は、柱部1と壁部3とが離れる場合、延びる方向へ変形して、横揺れを吸収する(図示しない)。一方、柱部1と壁部3とが接近する場合、耐震スリット部材7は、図4(a),(b)に示されるように圧縮方向へ変形し、コンクリート建築物が受ける横揺れを吸収する。枠部材13も、横振れに追従して変位、変形する。
【0022】
ここで、例えば想定を越える規模の地震の横揺れ振動がコンクリート建築物の外壁へ伝わるとする。このとき耐震スリット部材7は、外壁の横揺れがもたらす応力により、過度な変位や変形が強いられる。
枠部材13は、このときの過度な外壁の横揺れにより損傷することがある。
例えば図2(a),(b)中の「α」点で示されるような外枠部13bの底面13cにおいて損傷が生じた場合、雨水はコンクリート建築物の外壁から、当該損傷部分を通じて内側へ侵入する。この侵入した雨水は、外壁に影響を与えたり、雨漏りの要因になったりする。
【0023】
ここで、耐震スリット部材7の側部と、同側部が嵌る枠部材13との間には、防水シート25が介装されている。つまり、防水シート25を設置するという事前の対処により、たとえ枠部材13の底面13cが損傷しても、防水シート25により損傷部分は塞がれるため、雨水の侵入経路が断たれる。
したがって、耐震スリット部材7の側部と枠部材13との間に防水シート25を介装したことにより、横揺れにより生ずる枠部材13の損傷を要因としたコンクリート塊の影響や雨水の侵入を防ぐことができる。
【0024】
しかも、雨水の侵入防止は、耐震スリット部材7の側部の端面と、枠部材13の底面13cとの間に防水シート25を介装したけなので、防水の施工は簡単である。
図5および図6は、本発明の第2の実施形態を示す。
本実施形態は、耐震スリット部材7に加え、コンクリート建築物の壁部3の振れ止めのためにバー部材31、さらにはバー部材31による規制を解除するサック部材33を併用した耐震建築構造体35に、本発明の第1の実施形態における防水シート25(防水部材)を組み合わせたものである。
【0025】
すなわち、コンクリート建築物には、地震の横揺れが吸収できるよう、図5に示されるように耐震スリット部材7を貫通して延び、各端部が耐震スリット部材7を挟んだ両側の柱部1と壁部3(いずれも本願のコンクリート塊に相当)とに連結したバー部材31(例えば鉄筋で構成)と、同バー部材31の一端部となる壁部3側の端部に、途中まで嵌挿されて壁部3に埋め込んだサック部材33とを用いた耐震建築構造体35がある。サック部材33は、例えば合成樹脂部材から構成され、バー部材31に対して摺動可能に被せられる。
【0026】
耐震建築構造体35は、バー部材31により壁部3の振れが抑えられるだけでなく、図6(a),(b)のように壁部3と柱部1との間が接近する場合には、バー部材31がサック部材33内へ抵抗を伴いながら挿入されることでも、外壁の振れの応力が抑えられる。
このバー部材31と、耐震スリット部材7、防水シート25とが組み合わさることにより、耐震建築構造体35は、コンクリート建築物の損傷を抑えつつ、大きな応力が吸収可能となるので、一層、耐震性能の向上を図ることができる。かなり有効である。
【0027】
但し、図5および図6において、上述した第1の実施形態と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略した。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々可変して実施しても構わない。例えば上述した実施形態では、耐震スリット部材の片側にだけに防水シート(防水部材)を適用した例を挙げたが、これに限らず、耐震スリット部材の両側に防水シート(防水部材)を適用してもよい。
【0028】
また上述の実施形態では、柱部と壁部との間に耐震スリット部材を設ける例を挙げたが、これに限らず、例えば梁部材と壁部との間に耐震スリット部材を設ける耐震建築構造体にも適用でき、隣接するコンクリート塊間に耐震スリット部材を設ける構造あれば、本発明は適用してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1、3 柱部、壁部(コンクリート塊)
5、35 耐震建築構造体
7 耐震スリット部材
13 枠部材
13a 内枠部
13b 外枠部
25 防水シート(防水部材)
31 バー部材
33 サック部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6