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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】チップドレッサー
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/30 20060101AFI20230818BHJP
   B23K 11/36 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
B23K11/30 350
B23K11/36
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019207981
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2021079399
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】591260948
【氏名又は名称】株式会社キョクトー
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】手澤 和宏
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0143061(US,A1)
【文献】国際公開第2016/151623(WO,A1)
【文献】特開2003-080374(JP,A)
【文献】国際公開第2015/189872(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/202710(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/30
B23K 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に中空部を有し、互い対向するとともに上記中空部に連通する上側連通孔及び下側連通孔が形成された収容ケースと、
上記中空部における上記上側連通孔及び上記下側連通孔の間において上記収容ケースに回転可能に軸支され、上記上側連通孔及び上記下側連通孔にそれぞれ対応する一対の湾曲凹部と回転軸心に沿って貫通する貫通部とを有する回転ホルダと、
上記貫通部の内側面に取り付けられた切削部材と、
上記回転ホルダを回転させた状態で互いに対向する一対のスポット溶接用電極チップの一方を上記上側連通孔を介して一方の湾曲凹部に挿入し、且つ、他方を上記下側連通孔を介して他方の湾曲凹部に挿入することにより、上記各電極チップの先端部をそれぞれ上記切削部材で切削するよう構成されたチップドレッサーであって、
上記収容ケースの下側には、切削動作時に上記貫通部に発生するとともに上記下側連通孔を介して下方に落下する切粉を回収する切粉回収ユニットが設けられ、
該切粉回収ユニットは、上記下側連通孔の下方における切粉落下領域の一側方に設けられ、上記切粉を案内する切粉案内通路を内部に有する切粉案内体と、上記切粉落下領域の他側方に設けられた第1エア吐出ユニットと、を備え、
上記切粉案内体は、一端に上記切粉落下領域に対応するとともに上記切粉案内通路に連通する切粉回収口を有する一方、他端に上記切粉を回収可能な切粉回収器が接続され、
上記第1エア吐出ユニットは、複数のエア吐出孔を有し、上記切粉回収口へと圧縮エアを吐出するエアノズルを備え、
上記切粉回収口と上記エア吐出孔の吐出開口とは、上記切粉落下領域を挟んで水平方向に向かい合っていることを特徴とするチップドレッサー。
【請求項2】
請求項1に記載のチップドレッサーにおいて、
上記収容ケースの上方には、上記回転ホルダに向けて圧縮エアを吐出する第2エア吐出ユニットが接近配置されていることを特徴とするチップドレッサー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のチップドレッサーにおいて、
上記各エア吐出孔は、上記第1エア吐出ユニット及び上記切粉案内体の並設方向と直交する水平方向において上記切粉落下領域に対応する範囲に並設され、且つ、上記切粉回収口に向かって延びる形状をなしていることを特徴とするチップドレッサー。
【請求項4】
請求項3に記載のチップドレッサーにおいて、
上記各エア吐出孔は、上記収容ケースの下面に接近する位置から上記切粉回収口に向かって斜め下方に延びていることを特徴とするチップドレッサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接用電極チップの先端部を切削するチップドレッサーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車生産ラインでは、車体の組み立てにスポット溶接が多用されている。該スポット溶接では、溶接作業を繰り返すと電極チップの先端に酸化皮膜が付着し、その状態のままで溶接を行うと溶接部の品質が低下するので、チップドレッサーにより定期的に電極チップの先端部を切削して酸化皮膜を取り除く必要がある。
【0003】
ところで、チップドレッサーで電極チップを切削する際に発生する切粉は、飛散して他の装置の駆動部等に付着すると当該駆動部の負荷を高めてしまい、最悪の場合、その装置が故障してしまうので、一般的に、切粉が周囲に飛散しないような工夫が凝らされている。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されているチップドレッサーは、内部に中空部を有する収容ケースを備え、該収容ケースには、中空部に連通する上側連通孔及び下側連通孔が上下に対向する位置に形成されている。中空部における上側連通孔及び下側連通孔の間には、回転ホルダが上下方向に延びる回転軸心周りに回転可能に収容ケースに軸支されている。回転ホルダの上側連通孔に対向する位置には、上方に開放する上側湾曲凹部が形成される一方、回転ホルダの下側連通孔に対向する位置には、下方に開放する下側湾曲凹部が形成されている。回転ホルダには、上下に貫通する貫通部が形成され、該貫通部の内側面には、上下に一対の切刃部を有する板状の切削プレートが取り付けられている。そして、回転ホルダを回転させた状態で互いに対向する一対の電極チップの一方を上側連通孔を介して上側湾曲凹部に挿入し、且つ、他方を下側連通孔を介して下側湾曲凹部に挿入することにより、各電極チップの先端部をそれぞれ切削プレートで切削するようになっている。
【0005】
上記収容ケースの下側には、切粉を吸引可能な吸引ユニットが取付ブラケットを介して取り付けられている。吸引ユニットは、圧縮エアを内部に導入することにより筒中心線に沿うエア流れを内部に発生させる筒状体と、切粉案内通路を内部に有する切粉案内体とを備え、該切粉案内体の一端には、下側連通孔に接近する切粉吸込口が設けられる一方、切粉案内体の他端は、筒状体の上流側開口に接続されている。上記吸引ユニットは、切削動作時に貫通部に発生する切粉が下側連通孔の下方の切粉落下領域に落下すると、筒状体内部に発生させたエア流れによって切粉案内体の切粉吸込口から切粉を切粉案内体の内部に吸い込むようになっている。そして、切粉吸込口から切粉案内体の内部に吸い込まれた切粉は、切粉案内体内部と筒状体内部とを順に通過して切粉回収器まで運搬されるようになっていて、電極チップの切削作業時に発生する切粉を装置周りに飛散させないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国登録特許第10-1696263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1では、切粉案内体の内部に切粉落下領域のエアを吸い込むことにより切粉を回収する構造になっているので、吸引ユニットを作動させると、切粉落下領域において様々な方向から切粉吸込口に向かってエアが流れるようになる。したがって、切粉落下領域における吸引ユニットの吸引力は、切粉吸込口に近い位置と遠い位置とで差が大きくなってしまうので、切削動作時に貫通部に発生する切粉が下側連通孔下方の切粉落下領域に落下する際、切粉落下領域の切粉吸込口側を通過する場合には、切粉吸込口から確実に吸い込まれて切粉回収器に回収されるが、切粉落下領域の切粉吸込口から遠い側を通過する場合には、切粉吸込口に吸い込まれずにそのまま落下してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、切粉の回収能力が高いチップドレッサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、収容ケースの下側連通孔下方における切粉落下領域の一側方に切粉回収口を有する切粉案内体を設ける一方、切粉落下領域の他側方に切粉回収口へと圧縮エアを吐出するエア吐出ユニットを設けるようにしたことを特徴とする。
【0010】
具体的には、内部に中空部を有し、互い対向するとともに上記中空部に連通する上側連通孔及び下側連通孔が形成された収容ケースと、上記中空部における上記上側連通孔及び上記下側連通孔の間において上記収容ケースに回転可能に軸支され、上記上側連通孔及び上記下側連通孔にそれぞれ対応する一対の湾曲凹部と回転軸心に沿って貫通する貫通部とを有する回転ホルダと、上記貫通部の内側面に取り付けられた切削部材と、上記回転ホルダを回転させた状態で互いに対向する一対のスポット溶接用電極チップの一方を上記上側連通孔を介して一方の湾曲凹部に挿入し、且つ、他方を上記下側連通孔を介して他方の湾曲凹部に挿入することにより、上記各電極チップの先端部をそれぞれ上記切削部材で切削するよう構成されたチップドレッサーを対象とし、次のような対策を講じた。
【0011】
すなわち、第1の発明では、上記収容ケースの下側には、切削動作時に上記貫通部に発生するとともに上記下側連通孔を介して下方に落下する切粉を回収する切粉回収ユニットが設けられ、該切粉回収ユニットは、上記下側連通孔の下方における切粉落下領域の一側方に設けられ、上記切粉を案内する切粉案内通路を内部に有する切粉案内体と、上記切粉落下領域の他側方に設けられた第1エア吐出ユニットと、を備え、上記切粉案内体は、一端に上記切粉落下領域に対応するとともに上記切粉案内通路に連通する切粉回収口を有する一方、他端に上記切粉を回収可能な切粉回収器が接続され、上記第1エア吐出ユニットは、複数のエア吐出孔を有し、上記切粉回収口へと圧縮エアを吐出するエアノズルを備え、上記切粉回収口と上記エア吐出孔の吐出開口とは、上記切粉落下領域を挟んで水平方向に向かい合っていることを特徴とする。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において、上記収容ケースの上方には、上記回転ホルダに向けて圧縮エアを吐出する第2エア吐出ユニットが接近配置されていることを特徴とする。
【0013】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、上記各エア吐出孔は、上記第1エア吐出ユニット及び上記切粉案内体の並設方向と直交する水平方向において上記切粉落下領域に対応する範囲に並設され、且つ、上記切粉回収口に向かって延びる形状をなしていることを特徴とする。

【0014】
第4の発明では、第3の発明において、上記各エア吐出孔は、上記収容ケースの下面に接近する位置から上記切粉回収口に向かって斜め下方に延びていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明では、切粉落下領域において切粉回収口に向かう圧縮エアの押す力が切粉回収口に近い側が弱く、遠い側が強くなる。すると、切粉は切粉落下領域における切粉回収口に近い側に落下すると、押す力が弱い圧縮エアであっても切粉回収口に押し込まれるようになる一方、切粉落下領域の切粉回収口から遠い側に落下しても、押す力が強い圧縮エアによって切粉回収口まで運ばれるようになる。したがって、切粉落下領域へと落下してくる切粉を、切粉回収口に近い位置だけでなく遠い位置であっても装置周りに飛散させることなく圧縮エアで切粉回収口へと運んで切粉案内体内部へと確実に導くことができる。
【0016】
第2の発明では、回転ホルダの貫通部に第2エア吐出ユニットから吐出する圧縮エアを下方に通過させることによって切粉を回転ホルダに引っ掛かった状態のままにすることなく確実に下方に落下させることができる。また、第1エア吐出ユニットのエアノズルから吐出された圧縮エアの一部は下側連通孔を介して収容ケースの内部に入り込むとともに回転ホルダの貫通部を上向きに通過しようとするが、第2エア吐出ユニットから吐出される圧縮エアによって第1エア吐出ユニットのエアノズルから吐出された圧縮エアにおける貫通部の上向きの通過が阻止されるようになる。したがって、切削動作時に貫通部において発生する切粉が落下せずに第1エア吐出ユニットのエアノズルから吐出された圧縮エアによって貫通部の上方に飛び出してしまうといったことを回避できるようになり、貫通部における上側開口部分からの切粉の装置周辺への飛散を確実に防ぐことができる。
【0017】
第3の発明では、エアノズルの各エア吐出孔から吐出される圧縮エアが切粉落下領域の全域を覆うように隙間無く切粉回収口に向かって移動するようになる。したがって、切粉落下領域のどの位置に切粉が落下してきたとしても、それらの切粉を装置周辺に飛散させることなく確実に切粉回収口を介して切粉案内体内部へと導くことができる。
【0018】
第4の発明では、切粉落下領域に落下する切粉が切粉回収口へと向きを変える移動方向の変化量がエアノズルから切粉回収口に向かって圧縮エアを水平方向に吐出する場合に比べて小さくなる。したがって、切粉落下領域に落下してきた切粉が圧縮エアによってスムーズに切粉回収口へと導かれるようになり、切粉を効率良く回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るチップドレッサーの斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るチップドレッサーの拡大分解斜視図である。
図3図1のIII-III線における断面図である。
図4図3のIV矢視図である。
図5】本発明の実施形態に係るチップドレッサーと従来構造のチップドレッサーとにおいてそれぞれ切粉回収率を調査した結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0021】
図1乃至図3は、本発明の実施形態に係るチップドレッサー1を示す。このチップドレッサー1は、溶接ガン(図示せず)のシャンクG1先端に嵌め込まれて対向する一対のスポット溶接用電極チップ10の湾曲する先端部10aを同時に切削するためのものであり、内部に中空部20を有する側面視で略L字状をなす本体ケース2(収容ケース)を有している。
【0022】
本体ケース2は、図示しない駆動モータを収容する有底円筒形状のモータ収容部2aと、該モータ収容部2aの上部から側方に略水平方向に延出し、且つ、平面視で略滴形状をなすホルダ収容部2bとを備え、該ホルダ収容部2bの基端側におけるモータ収容部2a側面には、本体ケース2に加わる衝撃を吸収する衝撃吸収機構部2cが取り付けられている。
【0023】
ホルダ収容部2bは、厚みを有する板状をなし、その延出側中央には、上下に対向するとともに中空部20に連通する上側連通孔20a及び下側連通孔20bが形成されている。
【0024】
ホルダ収容部2b内部の上側連通孔20a及び下側連通孔20bの間には、図3に示すように、リング状をなす出力歯車3が上下一対のベアリング7を介して上下方向に延びる回転軸心C1周りに回転可能にホルダ収容部2bに軸支され、モータ収容部2aに収容される駆動モータが図示しない歯車噛合機構を介して出力歯車3を回転駆動させるようになっている。
【0025】
出力歯車3には、上下に貫通する取付用孔3aが設けられ、該取付用孔3aには、円盤状の回転ホルダ4が装着されている。
【0026】
該回転ホルダ4は、平面視で略C字状をなし、回転軸心C1から径方向外側に向かうにつれて次第に回転軸心C1周りの周方向に拡がって外側方に開放するとともに上下にも開放する切欠部4a(貫通部)を有している。
【0027】
すなわち、切欠部4aは、回転軸心C1に沿って貫通している。
【0028】
また、回転ホルダ4の上端周縁には、その他の部分よりも外側方に拡がるフランジ部4bが形成されている。
【0029】
さらに、回転ホルダ4の上下面には、当該回転ホルダ4の中央部分に行くにつれて次第に縮径する一対の湾曲凹部4cが回転軸心C1方向に対称に形成され、各湾曲凹部4cは、上側連通孔20a及び下側連通孔20bにそれぞれ対応している。
【0030】
湾曲凹部4cの形状は、電極チップ10の先端部10aの湾曲形状に対応していて、電極チップ10の中心軸が回転軸心C1に一致した状態で電極チップ10の先端部10aが挿入されるようになっている。
【0031】
切欠部4aにおける回転軸心C1から外側方に延びる一方の内側面には、図2に示すように、電極チップ10の先端部10aを切削するための切削カッター5(切削部材)が取り付けられている。
【0032】
該切削カッター5は、回転軸心C1と交差する方向に延びる切刃部5aが回転軸心C1に沿う方向に対称となるように一対形成され、その形状は、各湾曲凹部4cに対応するように緩やかに湾曲している。
【0033】
そして、回転ホルダ4を回転させた状態で互いに対向する一対の電極チップ10の一方を上側連通孔20aを介して上側の湾曲凹部4cに挿入し、且つ、他方を下側連通孔20bを介して下側の湾曲凹部4cに挿入することにより、各電極チップ10の先端部10aをそれぞれ切削カッター5の各切刃部5aで切削するようになっている。
【0034】
本体ケース2のホルダ収容部2b下部には、図3に示すように、切粉M1を吸引する切粉回収ユニット8が取付ブラケット9を介して取り付けられている。
【0035】
切粉回収ユニット8は、本体ケース2における下側連通孔20b下方の切粉落下領域R1の一側方に設けられた切粉案内体81と、切粉落下領域R1の他側方に設けられた第1エア吐出ユニット82と、切粉M1を回収可能な切粉回収器83とを備えている。
【0036】
切粉案内体81は、第1エア吐出ユニット82から水平方向に離れるにつれて次第に下方に位置するように緩やかに湾曲しながら延びる形状をなしていて、切粉M1を案内する切粉案内通路81aを内部に有している。
【0037】
切粉案内体81の一端には、切粉落下領域R1に対応するとともに切粉案内通路81aに連通する幅広の矩形状をなす切粉回収口81bが形成される一方、他端には上記切粉回収器83が接続されている。
【0038】
第1エア吐出ユニット82は、取付ブラケット9の下面に固定されたエアノズル82aと、該エアノズル82aに圧縮エアを供給するエアコンプレッサー82bとを備えている。
【0039】
エアノズル82aは、切粉案内体81側に行くにつれて次第に上下の幅が狭くなる正面視で略三角形状をなすブロック体であり、切粉案内体81の反対側にエアコンプレッサー82bから延びる配管82cが接続されている。
【0040】
エアノズル82aの内部には、切粉案内体81及び第1エア吐出ユニット82の並設方向と直交する方向に延びる断面半月状をなすエア貯溜部82dが形成され、該エア貯溜部82dは、配管82cに連通している。
【0041】
エアノズル82aにおける切粉案内体81側には、細長いエア吐出孔82eが切粉案内体81及び第1エア吐出ユニット82の並設方向と直交する水平方向において切粉落下領域R1に対応する範囲に複数並設され、各エア吐出孔82eは、エアノズル82aの外側とエア貯溜部82dとを連通している。
【0042】
各エア吐出孔82eは、本体ケース2下面に接近する位置から切粉回収口81bに向かって斜め下方に延びていて、エアコンプレッサー82bからエア貯溜部82dに供給された圧縮エアを切粉回収口81bへと吐出するようになっている。
【0043】
切粉回収器83は、図1に示すように、内部に切粉M1を貯留可能な略円筒状をなす貯留ボックス83aと、該貯留ボックス83aと切粉案内体81の下流側開口部分とを接続して切粉案内通路81aと貯留ボックス83a内部との間を連通させる接続管83bとを備え、接続管83bにおける貯留ボックス83a側の壁には、内部のエアを外部に排気するための排気孔83cが多数形成されている。
【0044】
取付ブラケット9は、図2に示すように、略矩形板状をなし、下側連通孔20bに対応する開口部9aが形成されている。
【0045】
本体ケース2の上方には、図1に示すように、上側連通孔20aを介して回転ホルダ4に向けて圧縮エアを吐出する第2エア吐出ユニット6が接近配置されている。
【0046】
該第2エア吐出ユニット6は、圧縮エアを吐出する略ペン形状の吐出ノズル6aと、該吐出ノズル6aに圧縮エアを導く配管6bと、該配管6bの中途部に接続され、吐出ノズル6aの圧縮エアの吐出を制御するボックス形状の電磁弁6cとを備えている。
【0047】
配管6bは、配管82cの中途部に接続され、吐出ノズル6aは、エアコンプレッサー82bから配管6bを介して供給される圧縮エアを吐出するようになっている。
【0048】
そして、エアノズル82aから切粉回収口81bへと圧縮エアを吐出し続けた状態で電極チップ10の先端部10aを切削カッター5で切削すると、当該切削カッター5による各電極チップ10の切削動作時に回転ホルダ4の切欠部4aに発生し、且つ、下側連通孔20bを介して下方に落下する切粉M1が圧縮エアにより切粉回収口81bから切粉案内通路81aに押し込まれるとともに当該切粉案内通路81aに導かれて切粉回収器83に回収されるようになっている。
【0049】
次に、チップドレッサー1による電極チップ10の先端部10aの切削作業について詳述する。
【0050】
まず、図3に示すように、チップドレッサー1の図示しない駆動モータを回転駆動させて出力歯車3を回転させることにより回転ホルダ4を回転軸心C1周りに回転させる。
【0051】
また、エアコンプレッサー82bを用いてエアノズル82a及び吐出ノズル6aに圧縮エアを供給することにより、エアノズル82a及び吐出ノズル6aからそれぞれ圧縮エアを吐出させる。
【0052】
次いで、ホルダ収容部2bの上側と下側とに上下に対向する一対の電極チップ10のそれぞれを移動させるとともに、各電極チップ10の中心軸を回転ホルダ4の回転軸心C1に一致させる。
【0053】
しかる後、両電極チップ10を互いに接近させる。すると、上側の電極チップ10は、ホルダ収容部2bにおける上側連通孔20aを介して回転ホルダ4における上側の湾曲凹部4cに挿入される一方、下側の電極チップ10は、ホルダ収容部2bにおける下側連通孔20bを介して回転ホルダ4における下側の湾曲凹部4cに挿入される。そして、各電極チップ10の先端部10aが回転ホルダ4に取り付けられた切削カッター5によって切削される。
【0054】
このとき、各電極チップ10の先端部10aから発生する切粉M1は、回転ホルダ4の切欠部4aに吐出ノズル6aから吐出する圧縮エアが下方に通過することによって回転ホルダ4に引っ掛かった状態のままにならずに確実に下方に落下する。これにより、切粉M1は、下側連通孔20b下方の切粉落下領域R1に取付ブラケット9の開口部9aを介して落下する。
【0055】
切粉落下領域R1に落下してきた切粉M1は、エアノズル82aから切粉回収口81bに向かう高速気流(所謂エアシールド)によって、切粉回収口81bに向かうように方向を変えて切粉回収口81bを介して切粉案内通路81aに入り込む。
【0056】
つまり、エアノズル82aから吐出される圧縮エアは、切粉落下領域R1に落下してくる切粉M1を切粉回収口81bを介して切粉案内通路81aに押し込む。
【0057】
このとき、エアノズル82aの各エア吐出孔82eから吐出される圧縮エアの一部が下側連通孔20bを介して本体ケース2の内部に入り込むとともに回転ホルダ4の切欠部4aを上向きに通過しようとするが、吐出ノズル6aから吐出される圧縮エアによってエアノズル82aから吐出された圧縮エアにおける切欠部4aの上向きの通過が阻止されるようになる。したがって、切削動作時に切欠部4aにおいて発生する切粉M1が落下せずにエアノズル82aから吐出された圧縮エアによって切欠部4aの上方に飛び出してしまうといったことを回避できるようになり、切欠部4aにおける上側開口部分からの切粉M1の装置周辺への飛散を確実に防ぐことができる。
【0058】
そして、切粉回収口81bから切粉案内通路81aに入り込んだ各切粉M1は、切粉案内通路81aに案内されながら切粉回収器83まで移動し、当該切粉回収器83に回収される。
【0059】
次に、本発明の実施形態に係るチップドレッサー1における切粉回収率の評価結果について説明する。
【0060】
図5は、本発明の実施形態に係るチップドレッサー1の切粉回収率が特許文献1の如き従来構造のチップドレッサーと比べて向上しているか否かを実験した結果を示したものである。実験は、従来構造のチップドレッサーと本発明の実施形態に係るチップドレッサー1とをそれぞれ用意し、それぞれ電極チップ10の先端部10aを繰り返し切削しながら切粉回収器83に回収されない切粉M1の数をカウントし、切粉M1が10個回収されなくなるまで切削を繰り返した。そして、各実験において回収されない切粉M1が10個になったときの切削回数を調べ、従来構造のチップドレッサーにおける実験の切削回数を基準(回収率100%)として、チップドレッサー1で実施した実験結果と比較した。尚、図5の実験Aは、従来構造のチップドレッサーを用いて行ったものであり、実験Bは、本発明の実施形態に係るチップドレッサー1を用いて行ったものである。また、各実験の1回毎の切削条件は、回転ホルダ4への電極チップ10の加圧力を150kgf、切削時間を1秒、回転ホルダ4の回転数を273RPMとした。
【0061】
実験結果より、本発明の実施形態に係るチップドレッサー1を用いると従来構造のチップドレッサーと比較して大幅に切粉回収率が高まることが確認できた。これは、本発明の実施形態のチップドレッサー1では、エアノズル82aから切粉回収口81bに向かって圧縮エアを吐出する構成になっているので、切粉落下領域R1において切粉回収口81bに向かう圧縮エアの押す力が切粉回収口81bに近い側が弱く、遠い側が強くなる状態になり、そうすると、切粉M1は切粉落下領域R1における切粉回収口81bに近い側に落下する場合には、押す力が弱い圧縮エアであっても切粉回収口81bに押し込まれる一方、切粉落下領域R1の切粉回収口81bから遠い側に落下しても、押す力が強い圧縮エアによって切粉回収口81bまで運ばれるようになるからだと考えられる。
【0062】
以上より、本発明の実施形態によると、切粉落下領域R1へと落下してくる切粉M1を、切粉回収口81bに近い位置だけでなく遠い位置であっても装置周りに飛散させることなく圧縮エアで切粉回収口81bへと運んで切粉案内体81内部へと確実に導くことができる。
【0063】
また、エア吐出孔82eは、切粉案内体81及び第1エア吐出ユニット82の並設方向と直交する水平方向において切粉落下領域R1に対応する範囲に複数並設されているので、エアノズル82aの各エア吐出孔82eから吐出される圧縮エアが切粉落下領域R1の全域を覆うように隙間無く切粉回収口81bに向かって移動するようになる。したがって、切粉落下領域R1のどの位置に切粉M1が落下してきたとしても、それらの切粉M1を装置周辺に飛散させることなく確実に切粉回収口81bを介して切粉案内体81の内部へと導くことができる。
【0064】
さらに、各エア吐出孔82eは、本体ケース2下面に接近する位置から切粉回収口81bに向かって斜め下方に延びているので、切粉落下領域R1に落下する切粉M1が切粉回収口81bへと向きを変える移動方向の変化量がエアノズル82aから切粉回収口81bに向かって圧縮エアを水平方向に吐出する場合に比べて小さくなる。したがって、切粉落下領域R1に落下してきた切粉M1が圧縮エアによってスムーズに切粉回収口81bへと導かれるようになり、切粉M1を効率良く回収することができる。
【0065】
尚、本発明の実施形態では、エアノズル82aから吐出する圧縮エアと吐出ノズル6aから吐出する圧縮エアとを同じエアコンプレッサー82bから供給しているが、別々の供給源から圧縮エアを供給するようにしてもよい。
【0066】
また、本発明の実施形態では、エアノズル82aの各エア吐出孔82eが斜め下方に延びる形状になっているが、水平方向に延びる形状であってもよい。
【0067】
また、本発明の実施形態では、エアノズル82aに複数のエア吐出孔82eが設けられているが、エア吐出孔82eは1つであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、スポット溶接用電極チップの先端を切削するチップドレッサーに適している。
【符号の説明】
【0069】
1 チップドレッサー
2 本体ケース(収容ケース)
4 回転ホルダ
4a 切欠部(貫通部)
4c 湾曲凹部
5 切削カッター(切削部材)
6 第2エア吐出ユニット
8 切粉回収ユニット
10 電極チップ
10a 先端部
20 中空部
20a 上側連通孔
20b 下側連通孔
81 切粉案内体
81b 切粉回収口
82 第1エア吐出ユニット
82a エアノズル
82e エア吐出孔
83 切粉回収器
C1 回転軸心
M1 切粉
R1 切粉落下領域
図1
図2
図3
図4
図5