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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】低圧鋳造用溶湯保持炉
(51)【国際特許分類】
   B22D 18/04 20060101AFI20230818BHJP
   B22D 45/00 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
B22D18/04 U
B22D45/00 B
B22D18/04 Y
B22D18/04 V
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020067446
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021159984
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391003727
【氏名又は名称】株式会社トウネツ
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 城也太
(72)【発明者】
【氏名】志水 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】永田 和久
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-094622(JP,A)
【文献】特開2018-012131(JP,A)
【文献】実開昭57-102454(JP,U)
【文献】実開昭57-102455(JP,U)
【文献】特開昭62-214862(JP,A)
【文献】実開平02-081752(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 18/04
B22D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯収納容器と、その内部の溶湯と金型のキャビティとを連結するストークとを備えた炉本体と、
前記溶湯収納容器内の内部空間に加圧気体を供給する加圧気体供給手段と、
を有する低圧鋳造用溶湯保持炉であって、
前記ストークの下端開口に対向して配置され、外縁が前記ストークの下端開口位置より外方に位置する気泡誘導部材を有し、
前記気泡誘導部材は、少なくともその周辺部における下面が前記溶湯と接触する接触下面を有し、
前記接触下面には前記外縁に向かって上昇する傾斜を有する誘導部を備える、
ことを特徴とする低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項2】
溶湯収納容器と、その内部の溶湯と金型のキャビティとを連結するストークとを備えた炉本体と、
前記溶湯収納容器内の内部空間に加圧気体を供給する加圧気体供給手段と、
を有する低圧鋳造用溶湯保持炉であって、
前記ストークの下端開口に対向して配置され、外縁が前記ストークの下端開口位置より外方に位置する気泡誘導部材を有し、
前記気泡誘導部材は、少なくとも第1の部材及び第2の部材を有し、前記第2の部材の少なくともその周辺部における下面が前記溶湯と接触する接触下面を有し、
前記接触下面には前記外縁に向かって上昇する傾斜を有する誘導部を備える、
ことを特徴とする低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項3】
前記気泡誘導部材は、通気性材料からなる請求項1又は2記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項4】
前記誘導部は、前記気泡誘導部材の中心部からその周縁部に向かって上昇する傾斜を有する請求項1又は2記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項5】
前記誘導部は、前記気泡誘導部材の水平方向の一方側から他方側に延在し、前記他方側の延在縁が前記外縁を形成している請求項1又は2記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項6】
前記誘導部は、下方に開口する溝により形成され、その溝底が前記外縁に向かって上昇する傾斜を有している請求項4記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項7】
前記第1の部材と前記第2の部材とは別の材料からなる請求項2記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧鋳造用溶湯保持炉に関する。特に、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金及び非鉄金属等の溶湯を、金型に低速、低圧で注入し、鋳造品を成形する低圧鋳造法に好適である低圧鋳造用溶湯保持炉に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム、アルミニウム合金及び非鉄金属などの鋳造品を得るための低圧鋳造法が知られている。
この低圧鋳造法においては、空気、ドライエアもしくはアルゴン、窒素などの不活性ガス等の気体を、溶湯を収納する保持炉内に0.01~0.2MPaの低圧で加圧供給することにより、保持炉(溶湯収納容器)内の溶湯を金型のキャビティに充填するものである。
充填された溶湯の凝固が完了すると、保持炉内の加圧を解放して、金型が外され、鋳造品が押し出される。
【0003】
一般に、この種の低圧鋳造用溶湯保持炉においては、定形耐火物や不定形耐火物などの通気性を有する耐火物材料からなる溶湯収納容器を備えている。その結果、次の現象が生じる。
【0004】
すなわち、加圧された気体(以下、加圧気体ともいう)を供給する工程において、溶湯収納容器を構成する定形耐火物や不定形耐火物などの通気性を有する耐火物材料の内部へ加圧された気体が侵入し、一旦耐火物材料内部に保持される。
その後、加圧気体の供給を停止し保持炉内から排気する(加圧を解放する)工程において、溶湯収納容器内の圧力が大気圧とほぼ同じになった際に、溶湯収納容器の内側面や内底面(炉床)から耐火物材料内部に侵入した気体が気泡となって溶湯中へ放出される。その際、気泡は周囲の溶湯を酸化させながら上昇し、酸化物とともにストーク(給湯管)内へ流入する。ストーク内に流入した気泡や酸化物は、再度保持炉内へ加圧された気体を供給する際、出湯口から金型のキャビティに流入して、鋳造される製品にハードスポット(製品内部に存在する硬い異物)を生じさせるなど、製品の品質低下の原因となっていた。溶湯を酸化させる現象は、供給された加圧気体が空気の場合が特に顕著である。
【0005】
この改善策として、特許文献1には、溶湯収納容器の炉床部であってストークの下端開口を臨む位置に、ストークの下端開口より大なる大きさを有する非通気性の気泡阻止部材を配置することにより、炉床面からの気泡をストークの下端開口内に侵入することを防止することが開示されている。
【0006】
本発明者も、同様に、特許文献2に示されているように、溶湯収納容器よりも気孔率の低い材料からなる板状部材をストークの下端開口の略直下にくるように配置することにより、ストークから金型へ注入される溶湯への気泡の流入を防止することを開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-12131号公報
【文献】特開2018-94622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように、ストークの下端開口より大なる大きさを有する非通気性の気泡阻止部材を配置する場合、所望の平板形状や大きさにすることは焼成の際に歪みが生じやすく製作が困難である。また、製作できるとしても、歩留まりが悪いため単価が高価になるなど経済性の点でも難点がある。
【0009】
また、本発明者らは、特許文献2のように、気孔率の低い耐火材料からなる板状部材を配置しても、溶湯の動きによっては、発生した気泡や酸化物がストークの下端開口から流入するおそれがある問題が残されていることの知見を得た。
さらに、特許文献1においても、溶湯の動きによっては、発生した気泡や酸化物がストークの下端開口から流入するおそれがある問題が残るであろうことは、当然に予想されるものである。
【0010】
したがって、本発明の主たる課題は、溶湯収納容器を構成する耐火物材料より発生した気泡や酸化物がストークの下端開口から流入するのを防止又は抑制することができる低圧鋳造用溶湯保持炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明に係る態様は次のとおりである。
【0012】
<第1の態様>
溶湯収納容器と、その内部の溶湯と金型のキャビティとを連結するストークとを備えた炉本体と、
前記溶湯収納容器内の内部空間に加圧気体を供給する加圧気体供給手段と、
を有する低圧鋳造用溶湯保持炉であって、
前記ストークの下端開口に対向して配置され、外縁が前記ストークの下端開口位置より外方に位置する気泡誘導部材を有し、
前記気泡誘導部材は、少なくともその周辺部における下面が前記溶湯と接触する接触下面を有し、
前記接触下面には前記外縁に向かって上昇する傾斜を有する誘導部を備える、
ことを特徴とする低圧鋳造用溶湯保持炉。
【0013】
<第2の態様>
溶湯収納容器と、その内部の溶湯と金型のキャビティとを連結するストークとを備えた炉本体と、
前記溶湯収納容器内の内部空間に加圧気体を供給する加圧気体供給手段と、
を有する低圧鋳造用溶湯保持炉であって、
前記ストークの下端開口に対向して配置され、外縁が前記ストークの下端開口位置より外方に位置する気泡誘導部材を有し、
前記気泡誘導部材は、少なくとも第1の部材及び第2の部材を有し、前記第2の部材の少なくともその周辺部における下面が前記溶湯と接触する接触下面を有し、
前記接触下面には前記外縁に向かって上昇する傾斜を有する誘導部を備える、
ことを特徴とする低圧鋳造用溶湯保持炉。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶湯収納容器を構成する耐火物材料より発生した気泡や酸化物がストークの下端開口から流入するのを防止又は抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】低圧鋳造用溶湯保持炉の概要断面図である。
図2】第1の実施の形態を示すもので、(a)は要部断面図、(b)は気泡誘導部材の底面図である。
図3】第2の実施の形態を示すもので、(a)は要部断面図、(b)は気泡誘導部材の底面図である。
図4】第3の実施の形態を示すもので、(a)は要部断面図、(b)は気泡誘導部材の底面図である。
図5】第4の実施の形態を示すもので、(a)は要部断面図、(b)は気泡誘導部材の底面図である。
図6】第5の実施の形態を示すもので、(a)は要部断面図、(b)は気泡誘導部材の底面図である。
図7】第6の実施の形態を示すもので、(a)は要部断面図、(b)は気泡誘導部材の底面図である。
図8】第7の実施の形態を示すもので、(a)は要部断面図、(b)は気泡誘導部材の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図1に示す溶湯保持炉1は、溶湯保持室と加圧室を兼ねた一室型の低圧鋳造用溶湯保持炉であり、溶湯を収納する溶湯収納容器10を備え、溶湯収納容器10は、内側から順に、容器層11、耐火層12および断熱層13が位置しており、その外側は、底面および側面および上面を外壁(鉄皮)14が覆っている。
【0018】
容器層11は、例えばアルミナ質系の不定形耐火物など、通気性を有する耐火物材料により成形される。実施形態における容器層11は、予め、例えば粉状のアルミナ、二酸化ケイ素と水とを混ぜ合わせ、所定の形状に成形し、乾燥・焼成することにより成形される。断熱層13は、例えば定形断熱体に耐火性の布帛を貼りつけて構成することができる。
【0019】
溶湯収納容器10の内部空間である溶湯保持室6には、上部に出湯口2を有する例えば円筒状のストーク3が設けられ、炉本体が構成されている。また、溶湯保持室6には、側壁部に固定された(詳細は図示されていない)チューブヒータ7を備えており、内部の溶湯Mを予定の温度範囲内で保持することができる。溶湯保持室6は、上部に給気ポート4と排気ポート5を備えており、加圧気体を溶湯保持室6内に対して給排気できるようになっている。
【0020】
かかる溶湯保持炉1においては、予め、溶湯保持室6に溶湯Mが収納される。
溶湯収納容器10内の内部空間に加圧気体を供給する加圧気体供給手段(図示されていない)により、給気ポート4を介して、空気、ドライエアもしくは、アルゴン、窒素などの不活性ガスなどの加圧気体が溶湯保持室6内に送り込まれる。この際、溶湯収納容器10の容器層11はアルミナと二酸化ケイ素等からできた不定形耐火物など通気性を有する耐火物材料により成形されているため、溶湯収納容器10を構成する耐火物材料内へ加圧気体が侵入することがある。
【0021】
溶湯保持室6に送り込まれた加圧気体により、溶湯Mの液面が加圧され、溶湯Mはストーク3内を上昇して、出湯口2を介し、図示されない鋳造用金型のキャビティ内に圧入される。
【0022】
鋳造完了後、給気ポート4からの加圧気体の供給は停止され、溶湯保持室6内の加圧気体は、排気ポート5から排気される。この加圧を解放する工程では、一気に圧力を解放して大気圧とほぼ同じになった際、溶湯収納容器10内の容器層11、耐火層12および/または断熱層13に侵入して保持されていた加圧気体は、容器層11から気泡となって放出される。
【0023】
前述のように、加圧気体の放出に伴う気泡は周囲の溶湯を酸化させながら上昇し、酸化物とともにストーク3内へ流入する。ストーク3内に流入した気泡や酸化物は、再度、溶湯保持炉1内へ加圧された気体を供給する際、出湯口2から金型のキャビティ(図示せず)に流入して、鋳造される製品にハードスポット(製品内部に存在する硬い異物)を生じさせるなど、製品の品質低下の原因となっていた。
【0024】
これを防止又は抑制するために、種々の実施の形態が提案される。
【0025】
本発明は、図1に示すように、溶湯収納容器10と、その内部の溶湯Mと金型のキャビティとを連結するストーク3とを備えた炉本体と、溶湯収納容器10内の内部空間に加圧気体を供給する加圧気体供給手段と、を有する低圧鋳造用溶湯保持炉に関するものである。
【0026】
第1の実施の形態は、図2に示すように、ストーク3の下端開口に対向して配置され、外縁20aがストーク3の下端開口位置より外方に位置する気泡誘導部材20を有し、この気泡誘導部材20は、少なくともその周辺部における下面が溶湯Mと接触する接触下面20bを有し、接触下面20bには外縁20aに向かって上昇する傾斜を有する誘導部を備える。
【0027】
第1の実施の形態の気泡誘導部材20は、例えば円盤状に形成され、その接触下面20bが周縁(外縁20a)に向かって傾斜している逆円錐台形のものである。
接触下面20bは、図示のように一様な傾斜面ではなく、円弧などの曲線を描くものなどでもよい。
【0028】
本発明に係る気泡誘導部材は、通気性であるもの、容器層11より気孔率が低い材料からなるもの、非通気性であるものなどを用いることができ、次の理由によって、材質が限定されない。
【0029】
すなわち、第1の実施の形態に則して説明すれば、加圧気体の放出に伴う気泡の放出位置が、気泡誘導部材20の外縁20aより外方位置であればそのまま上昇するので、ストーク3の下端開口を避けることになり、気泡や酸化物がストーク3内に流入することを防止できる。
また、加圧気体の放出に伴う気泡の放出位置が、気泡誘導部材20の外縁20aより内方位置であっても、気泡や酸化物は接触下面20bに沿って誘導されて周縁(外縁20a)に向かい、周縁(外縁20a)より外側から上昇するので、ストーク3の下端開口を避けることになり、気泡や酸化物がストーク3内に流入することを防止できる。
【0030】
実施の形態の誘導部を有する気泡誘導部材を使用することによって、特許文献1に示された誘導部を有しない形態との比較でも次の利点がある。
加圧気体の放出に伴う、容器層11からの気泡の放出が、ストーク3の下端開口を含む位置であっても、接触下面20bが気泡の誘導部となり、気泡や酸化物の上昇は周縁(外縁20a)より外側となるので、ストーク3の下端開口を避けることになり、気泡や酸化物がストーク3内に流入することを防止できる。
【0031】
そして、特に、気泡や酸化物は接触下面20bに沿って誘導(上昇)される過程で、水平方向のベクトルを有する運動エネルギーを蓄えるようになり、周縁(外縁20a)よりそのまま上昇するのではなく、模式的に図2に示すように、周縁(外縁20a)より外側に排出されるようになるので、ストーク3の下端開口を避ける効果が高いものとなる。
【0032】
図3に示す第2の実施の形態は、気泡誘導部材20Aの接触下面に環状の溝20b1、20b2を形成し、かつ全体として周縁(外縁20a)に向かって上り傾斜面としたものである。環状の溝20b1、20b2内に入り込んだ気泡や酸化物が溜り飽和となり、その後環状の溝20b1、20b2から流出するとき水平方向のベクトルを有する運動エネルギーとして大きなものとなり、半径方向外方への移動が円滑である。
また、外縁20a近傍に適宜の支持柱部23を形成できる。
【0033】
図4に示す第3の実施の形態は、気泡誘導部材20Bの接触下面20bがストーク3の軸芯を跨いで、一方から他方の外縁20aに向かって上り傾斜面としたものである。
図示例の気泡誘導部材20Bは平面視で方形としてあるが、円形や楕円などの他の形状であってもよい。支持柱部23が形成されている。
【0034】
図5に示す第4の実施の形態は、気泡誘導部材20Cの下面に溝20gを形成し、その溝20gが、ストーク3の軸芯を跨いで、一方から他方の外縁20aに向かって上り傾斜面とすることにより、誘導用の接触下面20bを形成した例である。
この実施の形態では、気泡や酸化物が、溝20gの両壁により図5(b)の上下方向へ移動できず、専ら図5(b)の左方向に誘導される利点がある。
なお、図5では、溝20gを複数形成し、複数の誘導用の接触下面20bを形成した例であるが、1つの溝20gのみを形成し、1つの誘導用の接触下面20bのみを形成してもよい。
【0035】
上記例の気泡誘導部材は単一部材によって構成してあるが、複数の部材、例えば図6の第5の実施の形態のように2つの部材によって誘導部を有する気泡誘導部材を形成することができる。
例えば、ストーク3に対応して、中央部に位置する第1の部材21と、周囲部に位置する第2の部材22とで気泡誘導部材20を構成し、第2の部材22の少なくともその周辺部における下面が溶湯と接触する接触下面20bを有し、接触下面20bには外縁20aに向かって上昇する傾斜を有する誘導部を備えるものである。
また、第1の部材21と第2の部材22とは同じ部材でもよいし、異なる部材であってもよい。例えば、第1の部材21が通気性材料で、第2の部材22が容器層11より気孔率が低い材料であってもよいし、第1の部材21が通気性材料で、第2の部材22が非通気性材料であってもよい。さらにいえば、第1の部材21及び第2の部材22とも通気性材料であってもよい。つまり、通気性材料、容器層11より気孔率が低い材料、非通気性材料の組み合わせであれば何れでもよい。
通気性材料としては、炭化ケイ素、低セメント耐火物、炭化ケイ素質耐火物、高アルミナ質耐火物、窒化ケイ素結合炭化ケイ素質耐火物、ジルコニア質耐火物等が挙げられる。特に、低セメント耐火物、窒化ケイ素結合炭化ケイ素質耐火物であるのが望ましい。さらに言えば、容器層11を成形する通気性を有する耐火物材料と同じものでもよい。
容器層11より気孔率が低い材料としては、多孔質セラミックス、例えば、多孔質アルミナセラミックス、多孔質炭化ケイ素セラミックス等が挙げられる。
非通気性材料としては、ファインセラミックス、例えば、窒化ケイ素質ファインセラミックス等が挙げられる。
この形態においても、平面視の形状が限定されるものではない。
【0036】
気泡誘導部材は、容器層11面上に設置するほか、図7に示す第6の実施の形態のように、容器層11に凹部11aを形成し、その凹部11aに気泡誘導部材20Dを設け、容器層11の面とほぼ同一面としてある。
図7に示す第6の実施の形態は、図5に示す第4の実施の形態と同様に、気泡誘導部材20Dの下面に溝20gを形成し、その溝20gが、ストーク3の軸芯を跨いで、一方から他方の外縁20aに向かって上り傾斜面とすることにより、誘導用の接触下面20bを形成した例である。
【0037】
さらに、図8に示す第7の実施の形態のように、気泡誘導部材は、図5に示す第4の実施の形態のように容器層11面上に設置する形態と図7に示す第6の実施の形態のように容器層11の面とほぼ同一面とする形態との中間位置とすることもできる。
【0038】
気泡誘導部材は、通気性材料であってもよいことは先に説明したとおりである。気泡誘導部材に適した通気性材料としては、炭化ケイ素、低セメント耐火物、炭化ケイ素質耐火物、高アルミナ質耐火物、窒化ケイ素結合炭化ケイ素質耐火物、ジルコニア質耐火物等が挙げられる。特に、低セメント耐火物、窒化ケイ素結合炭化ケイ素質耐火物であるのが望ましい。さらに言えば、容器層11を成形する通気性を有する耐火物材料と同じものでもよい。容器層11から放出される気泡は、一気に圧力を解放して大気圧とほぼ同じになった際に生じるものであるから、気泡の径は容器層11の気孔より大きいものである。
したがって、例えば容器層11を形成する耐火物材料により気泡誘導部材を形成したとしても、接触下面20bと接した気泡が気泡誘導部材を突き抜けることはない。
よって、気泡の誘導がなされるような形態である限り、特別な材料を選定する必要はなく、この種の溶湯炉の技術分野における耐火物材料を利用できる。
【0039】
接触下面の水平面基準における傾斜角度(図5にのみ傾斜角度θ示している)は、1~45度、特に1~10度が望ましい。1度未満になると、気泡や酸化物の誘導効果が十分でなく、45度を超えると、気泡や酸化物が外縁20aから外方に逃げないで、外縁20aからそのまま上昇するようになり、ときには溶湯の流動化を招くようになり、これらの観点からストークの下端開口に流入することを抑制する効果が十分でないものとなる。
【0040】
また、接触下面20bと接した気泡や酸化物は、接触下面20bの表面上にある凹凸による摩擦で、動きが阻害され誘導されにくくなるおそれがあるため、気泡誘導部材の少なくとも接触下面20bに予めガラス系コーティング材料を塗布するとよいし、接触下面20bに溝がある場合は、溝のみに予めガラス系コーティング材料を塗布してもよい。
【0041】
以上の実施の形態は、本発明を、溶湯保持室と加圧室を兼ねた一室型の低圧鋳造用溶湯保持炉に適用するものとして説明してきたが、本発明は、一室型に限らず、溶湯保持室と加圧室からなる二室型の低圧鋳造用溶湯保持炉等、溶湯保持室と加圧室が備えてある低圧鋳造用溶湯保持炉であれば、すべてに適用される。さらに言えば、少なくとも加圧室が備えてある低圧鋳造用溶湯保持炉であれば、すべてに適用される。
【0042】
他方で、上記気泡誘導部材は、ストークの下端開口に対向して配置される。すなわち、ストークの下端開口を下方に投影した場合に、気泡誘導部材の外縁が投影を覆うことができる下方の位置の一部に、気泡誘導部材が溶湯収納容器の炉床部上に設けられるものである。
ここに、「炉床部上」とは、「炉床部表面」と接触していてもよいし、例えば支持部材により支持されることにより、「炉床部表面」と離間していてもよい。
また、気泡誘導部材が複数の部材で構成される場合、気泡誘導部材の周囲部を構成する部材の外縁が、ストークの下端開口投影を覆うことができるものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
溶湯としてはアルミニウム又はアルミニウム合金のほか他の金属溶湯でもよい。また、上記の実施の形態は種々の変更が可能であることは当業者であれば判るであろう。
【符号の説明】
【0044】
1…溶湯保持炉、3…ストーク、10…溶湯収納容器、11…容器層、11a…凹部、12…耐火層、13…断熱層、20、20A、20B、20C、20D、20E…気泡誘導部材、20a…外縁、20b…接触下面、20g…溝、21…第1の部材、22…第2の部材、M…溶湯、B…気泡又は酸化物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8