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特許7333640粉体、創傷被覆材、癒着防止材、止血材、及び紛体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】粉体、創傷被覆材、癒着防止材、止血材、及び紛体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/78 20060101AFI20230818BHJP
   A61L 26/00 20060101ALI20230818BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20230818BHJP
   C08J 3/14 20060101ALI20230818BHJP
   A61P 7/04 20060101ALN20230818BHJP
   A61P 41/00 20060101ALN20230818BHJP
   A61P 17/02 20060101ALN20230818BHJP
   A61K 38/39 20060101ALN20230818BHJP
   A61K 9/14 20060101ALN20230818BHJP
   A61K 47/42 20170101ALN20230818BHJP
【FI】
C07K14/78
A61L26/00
A61L31/04 120
C08J3/14 CFG
A61P7/04
A61P41/00
A61P17/02
A61K38/39
A61K9/14
A61K47/42
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020563210
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050157
(87)【国際公開番号】W WO2020137903
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018243101
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2019年7月15日に、small-Journalによりウェブサイトで公表された、西口昭広ら「Multifunctional hydrophobized microparticles for accelerated wound healing after endoscopic submucosal dissection」 Small,August 2019,vol.15,1901566(1-9)(Supporting Informationを含み、動画は、代表的な静止画を含む。) (2)2019年8月26日にElsevierによりウェブサイトで公表された、西口昭広ら 「Underwater-adhesive microparticle dressing composed of hydrophobically-modified Alaska pollock gelatin for gastrointestinal tract wound healing」、Acta Biomaterialia 99 P.387-396(Supporting Informationを含む)
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 哲志
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-058465(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126390(WO,A1)
【文献】特開2007-231225(JP,A)
【文献】国際公開第2005/000374(WO,A1)
【文献】特開2015-231564(JP,A)
【文献】第40回日本バイオマテリアル学会大会予稿集,2018年11月,p. 85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
A61L
C08J
A61P
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子を含む粉体であって、
前記ゼラチン誘導体は、下記式(1):
GltnNH-L-CHR ・・・(1)
[式(1)中、Gltnはゼラチンの残基を表し、Lは単結合、又は2価の連結基を表し、Rは炭素数1~20個の炭化水素基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~20個の炭化水素基を表す]、または
下記式(2):
GltnNH-CHR ・・・(2)
[式中、Gltnはゼラチンの残基を表し、Rは炭素数1~17のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1~17のアルキル基である]
で表される構造を有し、
前記粒子の真球度の平均値が、1.20~1.08であり、前記粒子の真球度の標準偏差が、0.20~0.06である、粉体。
【請求項2】
水を滴下して5秒後の水接触角が70°未満であるか、或いは
37℃の生理食塩水に5分間浸漬後にASTM F-2258-05に従って測定したブタ胃内壁組織との接着強度が、浸漬前に比べ、1/2以下に低下する、請求項1に記載の粉体。
【請求項3】
前記ゼラチンがアルカリ処理済みゼラチンである、請求項1又は2に記載の粉体。
【請求項4】
前記ゼラチンが、エンドトキシン含有量をタンパク質1.0%当たり1EU/mL未満に低下させた低エンドトキシン化処理済みゼラチンである、請求項1~のいずれか1項に記載の粉体。
【請求項5】
前記ゼラチンが、冷水魚由来である、請求項1~のいずれか1項に記載の粉体。
【請求項6】
以下のゲル層断面積測定試験から得られるゲル層の面積が0.110mm以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の粉体:
ゲル層断面積測定試験:食道粘膜下組織の表面の2.5cm×2.5cmに、測定対象とする粉体を100mg噴霧し、37℃で48時間保持して、前記組織の表面上にゲルを形成し、前記ゲルを中性緩衝ホルマリンにより固定して固定済みゲルを得て、前記固定済みゲルを位相差顕微鏡で観察した位相差顕微鏡像からゲル層の断面積を平方ミリメートル単位で算出し、この試験を3回実施し、それらの算術平均値をゲル層の面積とする。
【請求項7】
抗凝固剤を添加したブタ血液と37℃で混和して2分後に測定した貯蔵弾性率(G’)が、200Pa以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の粉体。
【請求項8】
式(1)または式(2)中、Rは炭素数7~12のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数7~12のアルキル基である、請求項1~のいずれか1項に記載の粉体。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の粉体を含有する創傷被覆材。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の粉体を含有する癒着防止材。
【請求項11】
請求項に記載の粉体を含有する局所止血材。
【請求項12】
下記式(1):
GltnNH-L-CHR ・・・(1)
[式(1)中、Gltnはゼラチンの残基を表し、Lは単結合又は2価の連結基を表し、Rは炭素数1~20個の炭化水素基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~20個の炭化水素基を表す]、または
下記式(2):
GltnNH-CHR・・・(2)
[式中、Gltnはゼラチンの残基を表し、Rは炭素数1~17のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1~17のアルキル基である]
で表される構造を有するゼラチン誘導体を良溶媒に溶解させ、前記ゼラチン誘導体と前記良溶媒とを含有するゼラチン溶液を得る工程と、
前記ゼラチン溶液に貧溶媒を加え、前記ゼラチン誘導体を含有する中間体粒子を前記ゼラチン溶液中に析出させる工程と、
前記析出後の前記ゼラチン溶液を凍結乾燥させ、前記中間体粒子を含む中間粉体を得る工程と、
前記中間体粒子の前記ゼラチン誘導体を架橋させて、架橋された前記ゼラチン誘導体を含有する粒子を含む粉体を得る工程とを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の粉体の製造方法。
【請求項13】
前記中間粉体を加熱し、前記ゼラチン誘導体を架橋させる、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記中間粉体を、100~200℃で2.5~5時間加熱し、前記中間体粒子中の前記ゼラチン誘導体を架橋させる、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
更に、前記架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子を含む粉体に、紫外線を照射し、前記粒子の表面を親水性化する、請求項13または14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記粉体に、紫外線を3時間~6時間照射する、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
式(1)または式(2)中、Rは炭素数7~12のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数7~12のアルキル基である、請求項1216のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷被覆材、癒着防止材、止血材等に適する粉体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンは生体適合性及び生分解性に優れることから種々の医療用途に使用されている。そのような材料として、特許文献1には、「エンドトキシン含有量を、タンパク質1.0%当たり1EU/mL未満に低下させた、分子量3万~30万のゼラチンを外来の架橋剤を用いることなく架橋したゼラチンであって、生理食塩水への溶解時間が240時間以下である架橋率を有する架橋ゼラチン。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-83788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、創傷被覆材等に適用した場合、生体組織への優れた接着性を有する粉体を提供することを課題とする。本発明はまた、創傷被覆材等に適用した場合、生体組織への接着後の他の組織への癒着が低減された粉体を提供することを課題とする。また、本発明は、このような粉体の製造方法を提供することを課題とする。更には、本発明は、創傷被覆材、癒着防止材、及び止血材を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0006】
[1]架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子を含む粉体であって、前記ゼラチン誘導体は、下記式(1):
GtlnNH-L-CHR ・・・(1)
[式(1)中、Gltnはゼラチンの残基を表し、Lは単結合、又は2価の連結基を表し、Rは炭素数1~20個の炭化水素基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~20個の炭化水素基を表す]
で表される構造を有し、前記粒子の真球度の平均値が、1.45以下であり、前記粒子の真球度の標準偏差が、0.25以下である、粉体。
[2]前記ゼラチン誘導体は、下記式(2):
GltnNH-CHR・・・(2)
[式中、Gltnはゼラチンの残基を表し、Rは炭素数1~17のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1~17のアルキル基である]、
で表される構造を有する、[1]に記載の粉体。
[3]水を滴下して5秒後の水接触角が70°未満であるか、或いは
生理食塩水に5分間浸漬する前後でASTM F-2258-05に従って測定したブタ胃内壁組織との接着強度が1/2以下に低下する、[1]又は[2]に記載の粉体。
[4]前記ゼラチンがアルカリ処理済みゼラチンである、[1]~[3]のいずれかに記載の粉体。
[5]前記ゼラチンが低エンドトキシン化処理済みゼラチンである、[1]~[4]のいずれかに記載の粉体。
[6]前記ゼラチンが、冷水魚由来である、[1]~[5]のいずれかに記載の粉体。
[7]以下のゲル層断面積測定試験から得られるゲル層の断面積が0.01mm以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の粉体:
ゲル層断面積測定試験:食道粘膜下組織の表面の2.5cm×2.5cmあたりに、測定対象とする粉体を100mg噴霧し、37℃で48時間保持して、前記組織の表面上にゲルを形成し、前記ゲルを中性緩衝ホルマリンにより固定して固定済みゲルを得て、前記固定済みゲルを位相差顕微鏡で観察した位相差顕微鏡像から、前記ゲルの断面積をミリメートル単位で算出する試験を3回実施し、それらの算術平均値をゲル層の断面積とする。
[8]抗凝固剤を添加したブタ血液と混和して2分後に測定した貯蔵年弾性率(G’)が、200以上である、[2]~[7]のいずれかに記載の粉体。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の粉体を含む創傷被覆材。
[10][1]~[8]のいずれかに記載の粉体を含む癒着防止材。
[11][8]に記載の粉体を含有する局所止血材。
[12]下記式(1):
GtlnNH-L-CHR ・・・(1)
[式(1)中、Gltnはゼラチンの残基を表し、Lは単結合又は2価の連結基を表し、Rは炭素数1~20個の炭化水素基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~20個の炭化水素基を表す]
で表される構造を有するゼラチン誘導体を良溶媒に溶解させ、前記ゼラチン誘導体と前記良溶媒とを含有するゼラチン溶液を得る工程と、
前記ゼラチン溶液に貧溶媒を加え、前記ゼラチン誘導体を含有する中間体粒子を前記ゼラチン溶液中に析出させる工程と、
前記析出後の前記ゼラチン溶液を凍結乾燥させ、前記中間体粒子を含む中間粉体を得る工程と、
前記中間体粒子の前記ゼラチン誘導体を架橋させて、架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子を含む粉体を得る工程と
を含む粉体の製造方法。
[13]前記ゼラチン誘導体は、下記式(2):
GltnNH-CHR・・・(2)
[式中、Gltnはゼラチンの残基を表し、Rは炭素数1~17のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1~17のアルキル基である]
で表される構造を有する、[13]に記載の方法。
[14]前記中間粉体を加熱し、前記ゼラチン誘導体を架橋させる、[12]又は[13]に記載の製造方法。
[15]前記中間粉体を、100~200℃で2.5~5時間加熱し、前記ゼラチン誘導体を架橋させる、[14]に記載の製造方法。
[16]更に、前記架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子を含む粉体に、紫外線を照射し、前記粒子の表面を親水性化する、[12]~[15]のいずれかに記載の製造方法。
[17]前記粉体に、紫外線を3時間~6時間照射する、[16]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一の実施形態によれば、創傷被覆材等に適用した場合に、生体組織への優れた接着強度を有する粉体を提供できる。また、本発明の他の実施形態によれば、創傷被覆材等に適用した場合に、生体組織への接着後に露出面の他の組織への癒着が低減される粉体を提供できる。また、本発明の更に他の実施形態によれば、このような特性を有する創傷被覆材、及び癒着防止材も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】76.8C6 ApGltn(Mw:3.1万)から方法A-1により調製した粉体の走査型電子顕微鏡像である。
図2】76.8C6 ApGltn(Mw:3.1万)から方法Bにより調製した粉体の走査型電子顕微鏡像である。
図3】Org ApGltn(Mw:3.1万)から方法A-1により調製した粉体の走査型電子顕微鏡像である。
図4】75C8ブタゼラチンから方法Cにより調製した粉体の走査型電子顕微鏡像である。
図5】ゲル層の断面積の測定に使用した位相差顕微鏡像の例である。
図6】36.4C10 ApGltn及びOrg ApGltnから方法A-4により調製した粉体を、UV照射による表面処理を異なる時間(30分、1時間、2時間、及び4時間)行い又はせずに得た粉体と水滴との接触角を測定した結果を示す。左は、UV照射時間と接触角との関係を示すグラフであり、右は、各試験で観察された水滴の状態を示す図である。
図7】36.4C10 ApGltn及びOrg ApGltnから方法A-4により調製した粉体を、UV照射による表面処理を異なる時間(30分、1時間、2時間、及び4時間)行い又はせずに得た粉体について、ブタ胃内壁組織に対する接着強度を測定した結果を示す。
図8】36.4C10 ApGltn及びOrg ApGltnから方法A-4により粉体を調製し、更にUV照射による表面処理を行うプロセスの過程において得られる、加熱により架橋させる前若しくは後、又は更にUV照射による表面処理を行った後の粉体の走査型電子顕微鏡像である。
図9】36.4C10 ApGltn及びOrg ApGltnから方法A-4により調製した粉体を、更にUV照射による表面処理をして又はせずに得た粉体を、生理食塩水中に加えて、異なる時間(攪拌直後、30分、1時間、2時間)放置した後の走査型電子顕微鏡像である。
図10】微小孔デンプン球(商品名:バード アリスタAH、株式会社メディコン)を、生理食塩水中に加えて、異なる時間(攪拌直後、30分、1時間、2時間、4時間後、24時間後)放置した後の走査型電子顕微鏡像である。
図11】36.4C10 ApGltn及びOrg ApGltnから方法A-4により調製した粉体を、更にUV照射による表面処理をして又はせずに得た粉体を、生理食塩水中に加えて5分間放置した後で、ブタ胃内壁組織に対する接着強度を測定した結果を示す。対照として粉体を用いない場合の接着強度も示す。
図12】36.4C10 ApGltn及びOrg ApGltnから方法A-4により調製した粉体を、更にUV照射による表面処理をして又はせずに得た粉体を、一定時間(24時間、48時間)放置後に、粉体と水滴との接触角を測定した結果を示す。左は、各条件での接触角を示すグラフであり、右は、各試験で観察された水滴の状態を示す図である。
図13】44.2C10 ApGltnから方法A-2(架橋時間1時間)、方法A-3(架橋時間2時間)、又は方法A-4(架橋時間3時間)により調製した粉体を、更にUV照射による表面処理をして又はせずに得た粉体について、ブタ胃内壁組織に対する接着強度を測定した結果を示す
図14】44.2C10 ApGltnから方法A-2、方法A-3、又は方法A-4により調製した粉体を、更にUV照射による表面処理をして又はせずに得た粉体について、粉体と水滴との接触角を測定した結果を示す。左は、各条件での接触角を示すグラフであり、右は、各試験で観察された水滴の状態を示す図である。
図15】44.2C10 ApGltnから方法A-2、方法A-3、又は方法A-4により調製した粉体を、更にUV照射による表面処理をして又はせずに得た粉体について、抗凝固材添加ブタ血液と混和した際の貯蔵弾性率(G’)を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
〔粉体〕
本発明の一の実施形態に係る粉体は、架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子を含む粉体であって、前記ゼラチン誘導体は、下記式(1):
GltnNH-L-CHR ・・・(1)
[式(1)中、Gltnはゼラチンの残基を表し、Lは単結合、又は2価の連結基を表し、Rは炭素数1~20個の炭化水素基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~20個の炭化水素基を表す]
で表される構造を有し、前記粒子の真球度の平均値が、1.45以下であり、前記粒子の真球度の標準偏差が、0.25以下である、粉体である。
【0011】
理論に拘泥するものではないが、このような粉体が生体組織への優れた接着強度を発揮する作用機序としては、本発明者らは以下のとおり推測している。なお、以下の機序は推測であり、以下の機序以外の機序により本発明の効果が得られる場合であっても本発明の範囲に含まれる。なお、本明細書において「粉体」とは、複数個の粒子の集合体(凝集体を含む)を意味する。
【0012】
この実施形態に係る粉体は、上記式(1)に示す通り、疎水基(後で詳細に説明する)が導入された架橋ゼラチン誘導体を含有する粒子を含む。そのため、乾燥状態の粉体を噴霧すると、導入された疎水基が粉体の対象組織への浸透性を向上させ、結果として生体組織への優れた接着性が得られるものと推測される。このような特性は、後述する実施例で、疎水基が導入された架橋ゼラチン誘導体の粒子を含む例1の粉体が、疎水基が導入されなかった架橋ゼラチン誘導体の粒子を含む例3の粉体と比較して、生体組織への接着強度が2.4倍に向上していることからも説明される。
【0013】
また、この実施形態に係る粉体は、真球度が高く、形状のばらつきの少ない粒子を含有する。このため、生体組織に本粉体を適用した際、組織表面に対して本粉体が六方細密充填され、結果として生体組織への優れた接着強度が得られるものと推測される。
この特性は、後述する実施例で、真球度が高く、真球度の標準偏差が小さい例1の粉体が、これより真球度が低く、真球度の標準偏差が大きい例2の粉体と比較して、生体への接着強度が1.3倍以上に向上していることからも説明される。
【0014】
この実施形態に係る粉体は、上記2つの特徴の相乗効果によって優れた接着強度が得られたものと推測され、本発明は、このような粉体を初めて提供する。
【0015】
本発明の他の実施形態に係る粉体は、架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子を含む粉体であって、前記ゼラチン誘導体は、下記式(1):
GltnNH-L-CHR ・・・(1)
[式(1)中、Gltnはゼラチンの残基を表し、Lは単結合又は2価の連結基を表し、Rは炭素数1~20個の炭化水素基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~20個の炭化水素基を表す]
で表される構造を有し、
水を滴下した5秒後の水滴の接触角が70°未満であるか、或いは
生理食塩水に5分間浸漬する前後で米国試験材料協会の規格(ASTM F-2258-05)に従って測定したブタ胃内壁組織との接着強度が1/2以下に低下する、粉体である。
この実施形態に係る粉体も、疎水基が導入された架橋ゼラチン誘導体を含有する粒子を含むことで、生体組織への優れた接着性が得られるものと推測される。この実施形態に係る粉体はまた、上記の通り、水を滴下した5秒後の水滴の接触角が70°未満であるか、或いは生理食塩水に5分間浸漬する前後でブタ胃内壁組織との接着強度が1/2以下に低下するという特性を有する。これらの特性は、後述する実施例で記載する通り、紫外線照射により粒子表面が親水性化されることでもたらされるものと理解され、この実施形態に係る粉体では、組織への接着強度が依然大きいものの、組織に適用後は露出面の接着強度が迅速に低下し、他の組織への癒着が防止されるという利点を有する。また、必ずしもその作用機序は明らかではないが、後述する実施例で実証するように、この実施形態の好ましい態様では、血液凝固能に優れ、この特性を利用した応用が期待される。
以下、これら本発明の代表的な実施形態に係る粉体(以下では、纏めて本粉体ということがある)の成分等について詳述する。
【0016】
<ゼラチン誘導体>
本粉体は架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子を含む。このゼラチン誘導体は、下記式(1)で表される構造を有する。
【0017】
GltnNH-L-CHR ・・・(1)
式(1)中、Gltnはゼラチンの残基を表し、Lは単結合又は2価の連結基を表し、Rは炭素数1~20個の炭化水素基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~20個の炭化水素基を表す。
【0018】
Lの2価の連結基としては特に制限されないが、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-N(R)-(Rは水素原子又は1価の有機基(好ましくは炭素数1~20個の炭化水素基)を表す)、アルキレン基(好ましくは炭素数2~10のアルキレン基)、アルケニレン基(好ましくは炭素数2~10のアルケニレン基)、及びこれらの組み合わせ等が挙げられ、なかでも-C(O)-が好ましい。従って、Lは、単結合又は-C(O)-が好ましい。
【0019】
*--CHR(*は結合位置を表す)は、原料となるゼラチンが有するε-アミノ基に結合していることが好ましく、ゼラチン中のリジン(Lys)のε-アミノ基に結合していることがより好ましい。アミノ基、好ましくはリジンのアミノ基に連結基を介して、又は介さずに(言い換えれば直接)、*-CHを結合させる方法としては、例えば、いわゆる還元(的)アミノ化反応(アルデヒド、又はケトンを用いる方法)、及びショッテン・バウマン(Schotten-Baumann)反応(酸クロライドを用いる方法)等を利用する方法が挙げられる。
【0020】
なお、式(1)の-NH-構造は、例えばFT-IR(フーリエ変換赤外吸収)スペクトルにおいて3300cm-1付近のバンドにより検出することができる。
【0021】
炭素数1~20個の炭化水素基としては特に制限されず、例えば、炭素数1~20個の鎖状炭化水素基、炭素数3~20個の脂環式炭化水素基、炭素数6~14個の芳香族炭化水素基、及びこれらを組み合わせた基が挙げられる。
【0022】
炭素数1~20個の炭化水素基である場合、Rは、Rと同一でも異なってもよい。また、R、及びRのアルキル基は直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。
【0023】
炭素数1~20個の鎖状炭化水素基としては、特に制限されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基(又はカプリル基)、ノニル基(又はペラルゴルニル基)、デシル基、ドデシル基(又はラウリル基)、及びテトラデシル基(又はミリスチル基)等が挙げられる。なかでもより優れた接着性を有する粉体が得られ易い点で、Rが炭素数1~13のアルキル基であることが好ましく、炭素数7~12のアルキル基であることがより好ましく、炭素数8~11のアルキル基であることが更に好ましく、炭素数9~11のアルキル基であることが特に好ましい。Rとしては特に制限されないが、水素原子であることが好ましい。
【0024】
炭素数3~20個の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、及び、ノルボルニル基等が挙げられる。
【0025】
炭素数6~14個の芳香族炭化水素基としては、特に制限されないが、フェニル基、トリル基、及びナフチル基等が挙げられる。
【0026】
上記を組み合わせた基としては、特に制限されないが、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、及び、ナフチルエチル基等の炭素数6~12個のアラルキル基等が挙げられる。
【0027】
式(1)で表されるゼラチン誘導体としては、以下の式(2)及び式(3)からなる群より選択される少なくとも1種のゼラチン誘導体が好ましく、式(2)で表されるゼラチン誘導体がより好ましい。
【0028】
GltnNH-CHR ・・・(2)
【0029】
【化1】
【0030】
式(2)及び式(3)中、各記号の意味はすでに説明した式(1)と同様であり、好適形態も同様である。
【0031】
本願明細書において、「誘導化率」は、原料ゼラチン中のアミノ基の含有量に対する、ゼラチン誘導体中におけるアルキル基が結合されたイミノ基(*-NH-L-CHR)の含有量の含有モル比と定義される。
上記ゼラチン誘導体の誘導化率は特に制限されないが、一般に、20~80モル%が好ましく、30~70モル%がより好ましい。言い換えれば、得られたゼラチン誘導体におけるイミノ基/アミノ基(モル比)は、20/80~80/20が好ましく、30/70~70/30がより好ましい。
なお、本明細書において、誘導化率は、原料ゼラチンのアミノ基数と、ゼラチン誘導体のアミノ基数を、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸法(TNBS法)によって定量し、得られた値から、以下の式により算出される。
誘導化率(モル%)=[原料ゼラチンのアミノ基数-ゼラチン誘導体のアミノ基数]/[原料ゼラチンのアミノ基数]×100
【0032】
ゼラチン誘導体の原料となるゼラチン(以下「原料ゼラチン」ともいう。)は、天然由来であってもよいし、合成されたもの(発酵、及び遺伝子組換え等を含む)であってもよいし、又は天然由来の若しくは合成されたゼラチンに何らかの処理をしたものでもよい。
より具体的には、例えば、ほ乳類、鳥類、及び魚類等の皮、骨、及び腱等から取得された天然由来のゼラチン、及び天然由来のゼラチンを酸又はアルカリで処理した(必要に応じて加熱抽出された)処理済みゼラチン等が挙げられる。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する粉体が得られる点で、アルカリ処理済みゼラチンが好ましい。
【0033】
また、上記粉体を生体内に投与して用いる場合、例えば、創傷被覆材等として用いる場合、エンドトキシンの含有量が低減された低エンドトキシン化処理済みゼラチンを用いることが好ましい。このような低エンドトキシン化処理済みゼラチンとしては特に制限されず、公知のものが使用できるが、例えば、特開2007-231225号公報に記載のものが挙げられ、この内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
ほ乳類由来のゼラチンとしては、ブタ、及びウシ由来のゼラチンが挙げられる。魚類由来のゼラチンとしては、特に制限されないが、なかでも、サケ、マス、タラ、タイ、ティラピア、及びマグロ等の冷水魚(冷水性魚類)由来のゼラチン(以下「冷水魚由来ゼラチン」ともいう。)が好ましい。
【0035】
冷水魚由来ゼラチンは、2個以上のアミノ酸が直鎖状に連結された高分子であり、構成アミノ酸1000個当たり、190個以下のイミノ酸、より具体的には、80個以下のヒドロキシプロリン(Hydroxyproline)と、110個以下のプロリンを有している。冷水魚由来ゼラチンの常温流動性は、ヒドロキシプロリン(Hydroxyproline)の数が80個以下であること又はプロリンの数が110個以下であることに起因すると考えられる。いずれかの条件を満たせば、変性温度がほぼ室温以下となり、常温流動性が生じると考えられる。
【0036】
タイゼラチンのヒドロキシプロリン数は73、プロリン数は108で変性温度(Denaturation temperature)は302.5Kである。ティラピアゼラチンのヒドロキシプロリン数は82、プロリン数は110で変性温度(Denaturation temperature)は309Kである。これらに対して、ブタゼラチンのヒドロキシプロリン数は95、プロリン数は121で変性温度(Denaturation temperature)は316Kである。
【0037】
なお、冷水魚由来ゼラチンは、動物由来のゼラチンのアミノ酸配列と類似しており、酵素により容易に分解され、また生体親和性も高い。
【0038】
原料ゼラチンの分子量としては特に制限されないが、重量平均分子量(Mw)として、5,000~100,000が好ましく、10,000~50,000がより好ましく、20,000~40,000が更に好ましい。なお、本明細書において重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めた重量平均分子量を意味する。
【0039】
本発明の実施形態において、粉体は、架橋された上記ゼラチン誘導体を含有する粒子を含む。
本願明細書において「架橋された」とは、可逆的な物理架橋構造は含まず、不可逆的な架橋反応により得られる架橋構造を意味する。したがって、「架橋されたゼラチン誘導体」は、ゼラチン誘導体に熱、光、エネルギー線などでエネルギーを付与して、及び/又は架橋剤により生じる、架橋反応により得られる不可逆的な架橋構造を有するゼラチン誘導体である。典型的には、ゼラチンの側鎖の官能基(-NH、-OH、-SH、-COOH等)間の反応を通じて生じる。後述する実施例で示す通り、架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子は、接着強度が増強するため、より創傷被覆材等に適する。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子は、表面が親水性化されている。より具体的には、水を滴下して5秒後の水滴の接触角が70°未満であり、好ましくは50°以下である。
本願明細書において、「水滴の接触角」若しくは「水接触角」とは、水を粒子表面に滴下した際の水滴と粒子表面の角度を接線法によって算出される角度を意味する。具体的には、各粉体20mgを、1.5cm×1cmの両面テープ上に平坦になるように敷き詰め、イオン交換水1μlを滴下し、滴下後1秒の時点から0.5秒毎に水滴の側面から水滴の形状を写真撮影し、水滴の形状が一定になった時点に撮影された水滴の形状から接線法により接触角を求めた。
【0041】
この実施形態に係る粒子は、水分の存在する環境で膨潤し易い性質があり、生理食塩水に5分間浸漬する前後でASTM F-2258-05に従って測定した(試験手順の詳細は後述する実施例に記載の通り)ブタ胃内壁組織との接着強度が1/2以下、好ましくは1/3以下に低下する。このような特性は、後述する実施例に記載するとおり、典型的には、UV照射によりもたらされる。また、このような特性は、粒子が生体組織へ接着した後、粒子の露出面は水分の存在により迅速に接着強度が低下し、他の組織への癒着を防ぐことができる。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、粉体が、優れた血液凝固能を有する。より具体的には、粉体が10質量%となるように、抗凝固剤(例えば、クエン酸Na)を添加したブタ血液と粉体をボルテックスを用いて混合し、2分後に測定した混合物の貯蔵弾性率(G’)が、30Pa以上であり、好ましくは200Pa以上であり、より好ましくは300Pa以上であり、更に好ましくは400Pa以上である。このような高い貯蔵弾性率(G’)を有する粉体は、例えば、止血材等への利用が考えられる。
ここで、本願明細書における「貯蔵弾性率(G’)」は、37度にあらかじめ温めておいたステージにおいて上記混合溶液をレオメーター(商品名:MCR30、ANTON PAAR GMBH社製)を用いて5分間、1ヘルツ、1%ひずみの条件下において測定した値をいう。
【0043】
<粒子>
本発明の実施形態において、粒子は、架橋されたゼラチン誘導体を含有していればよく、本発明の効果を奏する範囲内においてその他の成分を含有していてもよい。粒子の架橋されたゼラチン誘導体の含有量としては、特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する粉体が得られ易い点で、粒子の全質量に対して、架橋されたゼラチン誘導体を90質量%以上含有していることが好ましく、99質量%以上含有していることがより好ましい。
粒子が含有してもよいその他の成分としては特に制限されないが、例えば、非架橋のゼラチン誘導体、溶媒、緩衝化剤、着色料、保存料、賦形剤、及び薬剤(抗血栓薬、抗菌剤、及び、成長因子等)等が挙げられる。
【0044】
粒子の真球度は、1.45以下であるが、より優れた生体組織への接着強度が得られる点で、1.29以下が好ましく、1.20以下がより好ましく、1.15以下が更に好ましい。なお、本明細書において、真球度とは以下の試験方法により求められる値を意味する。
【0045】
・試験方法
測定対象とする粉体を、カーボンテープを貼った走査型電子顕微鏡ステージに振りかけ、その後、エアースプレーの噴霧によりカーボンテープに接着していない粉体を除いて作成した試料を走査型電子顕微鏡で観察し、1視野から無作為に抽出した20個の粒子について「ImageJ(v1.51)」を用いて横軸、及び縦軸の長さを計測する。次に、各粒子について「横軸/縦軸」を計算し、これを算術平均し、得られた値について小数第3位を四捨五入して小数第2位まで求め、これを真球度とする。なお、上記計測、及び計算においては、(縦軸)≦(横軸)と定義する。すなわち、計測された1つの粒子に係る粒子径のうち、最も大きい粒子径を横軸と定義する。また、縦軸は、横軸から90度回転した位置の径とする。
【0046】
また、粉体中における上記粒子の真球度の標準偏差(standard deviation、SD)は、0.25以下であるが、生体組織へのより優れた接着強度が得られる点で、0.20以下が好ましく、0.15以下がより好ましい。
なお、粉体中における粒子の真球度の標準偏差は、上記20個の粒子の真球度から計算され、得られた計算値の小数第3位を四捨五入して、小数第2位まで求め標準偏差とする。
粒子の平均粒径は、通常0.5~50μmであり、好ましくは1~30μmであり、より好ましくは1~10μmである。本願明細書における「平均粒径」は、電子顕微鏡によってランダムに100個の粒子の粒径(長径)を測定して平均することによって求められた値である。
【0047】
<ゲル層の断面積>
本粉体は、所定のゲル層断面積測定試験によって測定されるゲル層の断面積が0.010mm以上であることが好ましい。ゲル層の断面積が0.010mm以上であると、粉体を生体組織に適用した際、より優れた接着強度が得られる。
ゲル層の断面積としては特に制限されないが、0.020mm以上がより好ましく、0.030mm 以上が更に好ましく、0.050mm 以上がより更に好ましく、0.100mm 以上が特に好ましく、0.120mm 以上が最も好ましい。
ゲル層の面積の上限値としては特に制限されないが、一般に、0.500mm以下が好ましい。
【0048】
本願明細書における「ゲル層断面積測定試験」は、以下の通り実施することができる:食道粘膜下組織の表面の2.5cm×2.5cmに、測定対象とする粉体を100mg噴霧し、37℃で48時間保持して、組織表面上にゲルを形成し、形成されたゲルを中性緩衝ホルマリンにより固定して固定済みゲルを得、得られた固定済みゲルを位相差顕微鏡で観察し、位相差顕微鏡像から通常ゲルの幅と厚みを計測し、ゲルの断面積を平方ミリメートル単位で算出する。この試験を3回実施し、それらの算術平均値をゲル層の面積とする。ゲル層の把握には、ヘマトキシリン-エオジン染色して染色済みゲルを得ることが便利である。得られた染色済みゲルを位相差顕微鏡で観察し、位相差顕微鏡像からゲルの断面積を算出してもよい。
【0049】
なお、図5に示す位相差顕微鏡像は、染色済みゲルの断面像であり、ゲル層の面積は、面積既知の断面像における染色済みゲルの占める割合から算出される。具体的には位相差顕微鏡像を「ImageJ(v1.51)」により二値化して算出されている。
【0050】
〔粉体の製造方法〕
上記粉体の作成方法としては特に制限されないが、以下の各工程を含む方法により作成されることが好ましい。
・工程1:ゼラチン誘導体を良溶媒に溶解させ、ゼラチン誘導体と良溶媒とを含有するゼラチン溶液を得る工程
・工程2:ゼラチン溶液に貧溶媒を加え、ゼラチン誘導体を含有する中間体粒子をゼラチン溶液中に析出させる工程
・工程3:析出後のゼラチン溶液を凍結乾燥させ、中間体粒子を含む中間粉体を得る工程
・工程4:中間体粒子のゼラチン誘導体を架橋させて、架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子を含む粉体を得る工程
・工程5:任意選択で、更に、架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子を含む粉体に、紫外線を照射し、粒子の表面を親水性化する工程
以下では、上記各工程について詳述する。
【0051】
・工程1(溶解工程)
工程1は、すでに説明したゼラチン誘導体を良溶媒に溶解させ、ゼラチン溶液を得る工程である。本明細書において、良溶媒とは、ゼラチン誘導体を溶解させやすい溶媒を意味し、特に制限されないが、水、グリセリン、酢酸、及びこれらの混合物等が挙げられ、なかでも水を含有することが好ましい。また、上記良溶媒は加温されてもよい。加温の際の温度としては特に制限されないが、50~70℃が好ましい。
【0052】
ゼラチン誘導体を良溶媒に溶解させる方法としては、特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、ゼラチン誘導体に低温(例えば室温)の良溶媒を加えてゼラチン誘導体を膨潤させ、得られた膨潤体を加熱して、ゼラチン溶液を得る方法(膨潤溶解法)、及び予め加熱した上記良溶媒にゼラチン誘導体を投入し、ゼラチン溶液を得る方法(直接溶解法)を使用できる。
【0053】
ゼラチン溶液中のゼラチン誘導体の含有量としては特に制限されないが、ゼラチン溶液の全体積に対して、ゼラチン誘導体の含有量(終濃度)が0.01~30質量/体積%が好ましく、1~25質量/体積%がより好ましく、5~20質量/体積%が更に好ましく、5~15質量/体積%が特に好ましい。
ゼラチン溶液中におけるゼラチンの含有量が上記範囲内であると得られる粉体中における粒子の真球度の標準偏差がより小さくなり易い。
【0054】
・工程2(析出工程)
工程2はゼラチン溶液に貧溶媒を加え、ゼラチン誘導体を含有する中間体粒子をゼラチン溶液中に析出させる工程である。
本明細書において、貧溶媒とは、工程1で使用した良溶媒と比較した場合に、ゼラチン誘導体をより溶解させ難い溶媒を意味する。すなわち、本明細書において、良溶媒、及び貧溶媒とは、ゼラチン誘導体の溶解度の絶対量により定義されるのではなく、それぞれ貧溶媒及び良溶媒との関係で相対的に定義される。
【0055】
貧溶媒としては、特に制限されないが、例えば、有機溶媒が挙げられ、中でも、水溶性の有機溶媒が好ましく、アルコール類、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、及びt-ブチルアルコール等がより好ましい。
【0056】
ゼラチン溶液に貧溶媒を加えると、ゼラチン溶液中に中間体粒子が析出する。この中間体粒子は、上記ゼラチン誘導体を含有する粒子状物である。本工程において析出する中間体粒子の粒子径としては特に制限されないが、0.1~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましく、1~10μmが更に好ましい。
【0057】
粒子径が上記範囲内であると、ゼラチン溶液中で析出した中間体粒子がより沈降しにくく、後述する工程3において上記中間体粒子を含むゼラチン溶液ごと凍結させ、更に凍結乾燥させた場合に中間体粒子同士が凝集するのがより抑制されやすい。その結果、工程4において得られる粒子の真球度等が所望の範囲内になり易い。
【0058】
貧溶媒を加える際の温度としては特に制限されないが、一般に10~30℃が好ましく、15~25℃がより好ましい。工程1において、溶媒を加熱してゼラチン誘導体を溶解させた場合には、工程1及び工程2の間に、ゼラチン溶液を冷却する工程を更に有することが好ましい。
【0059】
貧溶媒を滴下する際、ゼラチン溶液を撹拌することが好ましい。撹拌の方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。ゼラチン溶液を撹拌しながら貧溶媒を加えることにより、析出する粒子がより凝集しにくく、かつ、より沈降しにくい。その結果として、所望の特性を有する粒子を含有する粉体がより簡便に得られやすい。
【0060】
・工程3(乾燥工程)
工程3は、上記コアセルベーションにより析出後の未架橋ゼラチン粒子の分散溶液を凍結乾燥させ、未架橋ゼラチン誘導体を含有する粒子を含む中間粉体を得る工程である。
ゼラチン溶液の凍結の方法としては特に制限されないが、凍結させる際に未架橋ゼラチン誘導体を含有する粒子の凝集をより発生し難くする観点から、より急速に凍結させることが好ましい。この際、凍結させる際の雰囲気温度としては特に制限されないが、-20℃以下が好ましく、-30℃以下がより好ましい。
また、凍結乾燥の方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。
【0061】
中間粉体は、中間体粒子を含む粉体である。中間粉体は中間体粒子以外の成分を含んでもよい。このような成分としては、例えば、上記良溶媒、及び貧溶媒等が挙げられる。
【0062】
・工程4(架橋工程)
工程4は、中間体粒子のゼラチン誘導体を架橋させて、架橋されたゼラチン誘導体を含有する粉体を得る工程である。本工程を経て、粒子のゼラチン誘導体が不可逆的に分子間、及び/又は分子内で架橋する。その結果、架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子を含む粉体が得られる。
【0063】
架橋の方法としては特に制限されないが、例えば、ゼラチン誘導体に、熱エネルギーを付与し、又は活性光線若しくは放射線(例えば、電子線等)等を照射する方法が挙げられる。
なかでも、より容易にゼラチン誘導体の架橋物が得られ、架橋剤に由来する不純物の発生が無く安全な点で、熱エネルギーを付与する(言い換えれば加熱する)方法が好ましい(熱架橋)。この方法では、例えば、ゼラチン誘導体中のアミノ基とその他の反応性基(例えば、カルボキシ基、及びメルカプト基等)が反応し、架橋構造が形成される。
【0064】
熱架橋の方法としては特に制限されず公知の方法が使用できる。熱架橋の方法としては、例えば、粉体前駆体が収容された容器を、容器ごと加熱雰囲気(例えば、オーブン内)に配置し、所定の時間維持する方法が挙げられる。
【0065】
熱架橋の際の加熱温度としては特に制限されないが、一般に、80~200℃が好ましく、100~200℃がより好ましい。
熱架橋の際の加熱時間としては特に制限されないが、一般に、0.1~20時間が好ましく、0.5~10時間がより好ましく、1~6時間が更に好ましく、2~5時間がより更に好ましく、2.5~4時間が特に好ましい。
加熱時間が上記数値範囲内であると、得られる粉体は、より優れた接着性が得られやすい。
【0066】
また、ゼラチン誘導体の架橋物は、ゼラチン誘導体と、架橋剤とを反応させて得られたものであってもよい。架橋剤としては特に制限されないが、ゲニピン、N-ヒドロキシスクシンイミド、N-スルホキシスクシンイミドで活性化された多塩基酸、アルデヒド化合物、酸無水物、ジチオカーボネート、及びジイソチオシアネート等が挙げられる。
架橋剤としては、例えば、国際公開第2018/079538号の0021~0024段落に記載された化合物も使用でき、上記内容は本明細書に組み込まれる。
【0067】
・工程5(粒子表面の親水性化工程)
工程5は、架橋されたゼラチン誘導体を含有する粒子に、更に、紫外線を照射し、粒子の表面を親水性化する工程である。この紫外線照射による表面処理により、粒子と水滴との接触角が小さく成り、水分の存在下でより膨潤し易くなる。他方、乾燥状態で組織と接触させれば、紫外線照射後の粒子は、依然優れた接着性を有する。
紫外線照射の条件については、特に制限は無いが、通常、1時間~10時間の間で照射し、より好ましくは2時間~8時間の間で照射し、更に好ましくは3時間~6時間の間で照射する。紫外線強度は0.05~50mW/cmが好ましく、0.5~10mW/cmがより好ましい。また、紫外線積算光量は、1~100J/cmが好ましく、5~100J/cmがより好ましい。
紫外線照射装置については特に制限はなく、市販の紫外線照射装置を用いてもよい。
なお、照射中は、粒子にむらなく紫外線が照射されるように、一定時間で(例えば、30分毎に)粒子を混ぜることが好ましい。また、紫外線照射後は、粒子表面が親水性になっているので、保存する際は、除湿剤の存在下など、乾燥した雰囲気で保存することが好ましい。
【0068】
<粉体の用途>
本発明の実施形態に係る粉体は、創傷被覆材として使用可能である。創傷被覆材としては特に制限されないが、呼吸器外科(特に肺がん手術後の創部)、消化器外科、心臓血管外科、口腔外科、及び、消化器内科等の外科手術における切開口、及び、皮膚創傷等に適用することができる。
ESD(Endoscopic Submucosal Dissection)の場合、止血鉗子、ステント、バルーン、及び、内視鏡等によって、ドライの状態で適用することができる。適用量は適用部位、創傷に依存して適宜調整することができる。
また、本発明の実施形態に係る粉体は、創傷被覆効果を発揮した後は創傷治癒に伴い速やかに分解吸収されるという特長を有する。
【0069】
また、本粉体は、癒着防止材としても使用可能である。(術後)癒着とは、外科手術などで損傷した生体組織が修復する過程において起きる現象である。本粉体を含有する癒着防止材は患部に噴霧することで、適用部位の組織表面に接着してゲル状被膜を形成し、これが物理的隔壁となり、癒着防止効果を奏する。更に、癒着防止効果を発揮した後は、このゲル状被膜は速やかに分解吸収されるという特長を有する。
【0070】
また、本発明の実施形態に係る粉体は、創傷被覆、及び癒着防止の2つの機能を有する部材の形成用としても使用できる。例えば、術後の損傷部に適用すれば、創傷被覆効果と癒着防止効果とを有する膜が形成される。
従来、創傷被覆材と癒着防止材とを別々に適用していたのと比較して、より簡便に両者を達成できる。
【0071】
また、本発明の実施形態に係る粉体は、血液凝固能に優れ、止血材として使用可能である。創傷被覆、及び癒着防止という機能に加え、血液凝固能を有する部材の形成用としても使用できる。
【実施例
【0072】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0073】
[ゼラチン誘導体の調製(1)]
ゼラチン誘導体「76.8C6 ApGltn」を以下の手順により調製した。
スケソウダラ由来のアルカリ処理ゼラチン(Mw=31000、「ビーマトリックスフィッシュゼラチンTA(商品名)」、新田ゼラチン(株)製、後述の方法で測定されるアミノ基量:324μmol/g、以下「Org ApGltn」ともいう。)10gを、50℃のオイルバスに浸したナス型フラスコ中の超純水-エタノール混合溶媒50mLに加え、2時間程度撹拌しながら溶解して20質量%水溶液を調製した。
次に、得られた水溶液に、ヘキサナールの1.5倍当量のピコリンボラン(純正化学(株)製)を加えた後、ヘキサナール(東京化成工業(株)製)を、ゼラチンのアミノ基に対する2倍当量(ゼラチンのアミノ基1モルに対するヘキサナールのモル比)添加した。
【0074】
次に、ナス型フラスコに還流冷却器を取り付け、攪拌しながら50℃で17時間反応させた。
次に、反応溶液を1Lのエタノールに滴下し再沈殿させた。1時間攪拌後、冷凍庫にて1時間静置した後、ガラスフィルターでろ過した。ろ過残渣を、再びビーカー中の1Lのエタノールに入れ再沈殿させ、1時間攪拌後、冷凍庫にて1時間静置した。再びガラスフィルターでろ過した後、ろ過残渣を減圧乾燥器で一晩以上乾燥させ、ヘキシル基が導入されたゼラチン誘導体を91%の収率で得た。
【0075】
得られたゼラチン誘導体における、ヘキシル基の導入率を以下の手法によって求めた。
まず、原料ゼラチン、及びゼラチン誘導体をそれぞれ0.1質量/体積%で水・DMSO(ジメチルスルホキシド)混合溶媒(体積比1:1、以下同様)に溶解し、48ウェルプレートに100μL分注した。
そこへ水・DMSO混合溶媒に溶解した0.1体積/体積%のトリエチルアミン(TEA、ナカライテスク社製)を100μL加え、プレートシェーカーで400rpm、1分間撹拌した。更に、水・DMSO混合溶媒に溶解した0.1質量/体積%トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS、和光純薬(株)製)を100μL加え、プレートシェーカーで400rpm、1分間撹拌した。アルミホイルで遮光し、37℃のインキュベーター内で2時間静置した後、インキュベーターから取り出し6NHClを50μL加えて反応を停止し、プレートシェーカーで400rpm、1分間撹拌した。
次に、遮光して10分間静置後、340nmの吸光度(Abs)を吸光度計(TECAN社製、Spark 10M-NMST)で測定した。測定された吸光度から、ゼラチンを含まない点でのみ異なるブランク試料の吸光度を引き、以下の計算式によって、ゼラチン誘導体のヘキシル基導入率が76.8モル%であることを求めた。
導入率(モル%)=[Abs(原料ゼラチン)-Abs(ゼラチン誘導体)]/[Abs(原料ゼラチン)]×100
【0076】
上記の方法により得られたゼラチン誘導体を「76.8C6」とした。以下では、上記と同様にヘキサナールを用いて、又はヘキサナールに代えて、オクタナール、ヘプタナール、デカナール、及びドデカナールを用いて、種々の導入率となるよう仕込み比率を調整し、各ゼラチン誘導体を得た。なお、以下の実施例では、各ゼラチン誘導体について、「(疎水基の導入率)(誘導体化に使用したアルデヒドの炭素数)」により命名して表記している。例えば、「10.6C6」である場合は、ヘキサナールを用いて、ヘキシル基の導入率が10.6モル%であったことを示している。
【0077】
[粉体の調製(1)]
上記の方法により得られた各ゼラチン誘導体0.5gを目盛付きバイアル瓶(50mL)に量り取り、MilliQ(登録商標)水7.5mLを添加した。
次に、50℃水浴にて溶解後、MilliQ水にて10mLにメスアップした。
この時、ゼラチン溶液中にけるゼラチン誘導体の含有量(終濃度)は、5質量/体積%とし、ゼラチン種、実験条件によって適宜変更した。
【0078】
次に、室温でスターラーバーを攪拌させながら、ゼラチン溶液が白濁するまでエタノール(EtOH)を滴下し、中間体粒子を含有するゼラチン溶液を得た。
次に、ゼラチン溶液を冷凍庫(-30℃)で2時間以上静置した。次に、冷凍庫から取り出したバイアル瓶の口をキムワイプ(登録商標)で覆い、凍結乾燥して中間体粒子を含有する中間粉体を得た。得られた中間粉体を150℃にて6時間加熱して架橋させ、各粉体を得た。以下、本段落に記載の粉体の調製方法を、単に「方法A-1」という。
【0079】
[粉体の調製(2)]
上記の方法により得られた各ゼラチン誘導体をゼラチン濃度が5質量/体積%となるよう、50℃の水浴で加熱した水に溶解し、ゼラチン溶液を得た。次に、このゼラチン溶液をテトラフルオロエチレン製容器に流し込み、40℃のヒーター上に載置し溶媒を乾燥させた。次に、得られた乾燥済みゼラチン溶液を粉砕機(Wonder Crusher)で粉砕した。なお、粉砕の条件は、1サイクル(Speed5にて20秒、Speed10にて1分)を3回実施した。
この粉砕済み中間体粉体を上記と同様に加熱架橋し、粉体を得た。以下、本段落に記載の粉体の調製方法を、単に「方法B」という。
【0080】
[粉体の調製(3)]
上記の方法により得られた各ゼラチン誘導体をゼラチン濃度が6質量%となるよう、50℃の超純水に溶解し、ゼラチン溶液を得た。次に、上記水溶液に同体積のエタノールを加え、ゼラチン濃度が3質量%となるよう希釈して希釈液を得た。次に、上記希釈液の温度を50℃に維持し、スプレードライヤー装置(ミニスプレードライヤー、B-290、ビュッヒ社製)に設置し、180℃で窒素ガスの流速440L/h、希釈液の流速410mL/hとなるように調整し、中間体粒子を含有する中間粉体を得た。得られた中間粉体を上記と同様に加熱架橋し、粉体を得た。以下、本段落に記載の粉体の調製方法を、単に「方法C」という。
【0081】
ゼラチン誘導体「76.8C6 ApGltn」を用いて、「方法A-1」により調製した粉体を例1とした。また、ゼラチン誘導体「76.8C6 ApGltn」を用いて「方法B」により調製した粉体を例2とした。
また、「Org ApGltn」を用いて、「方法A-1」により調製した粉体を例3とした。なお、いずれも架橋時間は6時間とした。
【0082】
原料ゼラチンとしてブタ皮膚由来のアルカリ処理ゼラチン(Mw=100,000、beMatrix(商品名)、新田ゼラチン(株)製)を用いたこと以外は「ゼラチン誘導体の調製」にて説明した方法により調製したゼラチン誘導体「75C8 ブタゼラチン」を用いて、「方法C」により調製した粉体を例4とした。
【0083】
得られた各粉体を、以下の方法により、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、得られた画像から真球度、及び標準偏差を算出した。走査型電子顕微鏡像を図1~4に、真球度、及び標準偏差の計算結果を表1に示した。なお、図1~4はそれぞれ例1~4に対応する。
【0084】
[走査型電子顕微鏡による観察(1)]
各例の粉体を、カーボンテープを貼った走査型電子顕微鏡ステージに振りかけ、その後、エアースプレーの噴霧によりカーボンテープに接着していない粉体を除いて作成した試料を走査型電子顕微鏡で観察した。
【0085】
[真球度、及び標準偏差の算出方法(1)]
・真球度
1視野から無作為に抽出した20個の粒子について「ImageJ(v1.51)」を用いて横軸、及び縦軸(但し、縦軸≦横軸であり、横軸は最も大きな粒子径とし、縦軸は、横軸から90度回転した位置の径とした)の長さを計測した。
次に、各粒子について「横軸/縦軸」を計算し、これを算術平均し、得られた値について小数第3位を四捨五入して小数第2位まで求め、これを真球度とした。
【0086】
・真球度の標準偏差
粉体中における粒子の真球度の標準偏差は、上記20個の粒子の真球度から計算し、得られた計算値の小数第3位を四捨五入して、小数第2位まで求めた。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に記載した結果から、方法A-1により粉体を調製することにより、所望の真球度、及び標準偏差を有する粉体が得られることがわかった。
【0089】
[ブタ胃内壁組織との接着強度の測定試験(1)]
粉体とブタ胃内壁組織との接着強度を以下の方法により測定した。試験方法は、米国試験材料協会の規格(ASTM F-2258-05)に従って行った。ブタ胃を開き、粘膜層を取り除いた。この際、生理食塩水を粘膜下組織へ注入し、隆起した部分を取り除くことで粘膜下組織をある程度残した状態で粘膜層のみを切除した。得られた組織を2.5cm四方の組織片へと裁断し、試験装置の上下の治具それぞれに瞬間接着剤を用いて固定した。ホットプレートを用いることで測定中のブタ胃内壁組織の温度を37℃に保った。
【0090】
次に、上記組織表面の余分な水分を取り除くため、工業用紙ウエス(商品名「キムワイプ」)を押し付けて水分を取り除いた。次に、上記組織を50Nで3分圧縮し、しみ出した水分を再度取り除いた。
【0091】
次に、組織上に100mgの粉体をのせた。上部の治具によって80kPaで3分間圧着した後、上部へと引っ張り上げることで接着強度(kPa)を測定した。
次に、例3-1の粉体の接着強度を1.0とし、例1と例2の粉体の接着強度の比を求めた。結果を表2に示した。
【表2】
【0092】
表2中、例1~例3-1は、表1中の例1~例3-1とそれぞれ同一の粉体を示している。上記によれば、例1の粉体は、例2及び例3-1の粉体と比較して、組織へのより優れた接着強度を有することがわかった。
【0093】
なお、上記と同様の試験をブタゼラチン(Mw:約4万、Lot No.180425、新田ゼラチン社製、以下「Org ブタゼラチン」という。)を使って実施した。すなわち、上記ブタゼラチンを原料として、以下の例A~Cの粉体をそれぞれ調製した。
・例A:Org ブタゼラチン、方法A-1
・例B:78.7C6 ブタゼラチン、方法A-1
・例C:78.7C6 ブタゼラチン、方法B
【0094】
上記について、接着強度比を算出したところ、例Aを1.0としたとき、例Cは0.7で例Bは1.1であることがわかった。上記から、原料ゼラチンの由来によらず、同様の結果が得られることがわかった。
【0095】
[ゼラチン誘導体の調製(2)]
オクタナール(東京化成工業(株)製)を、ゼラチンのアミノ基に対して2倍当量に相当する量をゼラチン溶液に混合した以外は、上記[ゼラチン誘導体の調製(1)]と同様にして、ゼラチン誘導体を調製した。また、上記[ゼラチン誘導体の調製(1)]と同様にして、デシル基の導入率を測定し、オクチル基の導入率が57.7であることを確認した。以下では、得られたゼラチン誘導体を、ゼラチン誘導体「57.7C8 ApGltn」と称する。
【0096】
[粉体の調製(4)]
上記[ゼラチン誘導体の調製(2)]で得られたゼラチン誘導体を用いて、「方法A-1」と同様にして粉体を調製した。この方法で得られた粉体を例5とした。
【0097】
[ゼラチン誘導体の調製(3)]
デカナール(東京化成工業(株)製)を、ゼラチンのアミノ基に対して2倍当量に相当する量をゼラチン溶液に混合した以外は、上記[ゼラチン誘導体の調製(1)]と同様にして、ゼラチン誘導体を調製した。また、上記[ゼラチン誘導体の調製(1)]と同様にして、デシル基の導入率を測定し、デシル基の導入率が46.1であることを確認した。以下では、得られたゼラチン誘導体を、ゼラチン誘導体「46.1C10 ApGltn」と称する。
【0098】
[粉体の調製(5)]
上記[ゼラチン誘導体の調製(3)]で得られたゼラチン誘導体を用いて、「方法A-1」と同様にして、或いは加熱架橋を1時間又は3時間行った以外は、「方法A-1」と同様にして粉体を調製した。熱架橋時間を変更したこれらの方法を「方法A-2」及び「方法A-4」といい、得られた粉体をそれぞれ例6-1、例6-2及び例6-3とした。
【0099】
[ゼラチン誘導体の調製(4)]
ドデカナール(東京化成工業(株)製)を、ゼラチンのアミノ基に対して2倍当量に相当する量をゼラチン溶液に混合した以外は、上記[ゼラチン誘導体の調製(1)]と同様にして、ゼラチン誘導体を調製した。また、上記[ゼラチン誘導体の調製(1)]と同様にして、ドデシル基の導入率を測定し、ドデシル基の導入率が48.6であることを確認した。以下では、得られたゼラチン誘導体を、ゼラチン誘導体「48.6C12 ApGltn」と称する。
【0100】
[粉体の調製(6)]
上記[ゼラチン誘導体の調製(4)]で得られたゼラチン誘導体を用いて、「方法A-1」と同様にして粉体を調製した。この方法で得られた粉体を例7とした。
【0101】
[ブタ胃内壁組織との接着強度の測定試験(2)]
例3-1、例1、及び例5~7の各粉体とブタ胃内壁組織との接着強度を米国試験材料協会の規格(ASTM F-2258-05)に従って測定した。試験方法の詳細は、[ブタ胃内壁組織との接着強度の測定試験(1)]に記載した通りである。
【0102】
[ゲル層断面積測定試験]
粉体のゲル層の断面積を以下の方法で測定した。食道粘膜下組織の表面の2.5cm×2.5cmあたりに、測定対象とする粉体を100mg噴霧し、37℃で48時間保持して、組織表面にゲルを形成した。ゲルを中性緩衝ホルマリンにより固定して固定済みゲルを得た。固定済みゲルを位相差顕微鏡で観察し、位相差顕微鏡像から固定済みゲルの幅と厚みを計測し、断面積を平方ミリメートル単位で算出した。試験は3回実施し、それらの算術平均値をゲル層の断面積とした。
結果を表3に示した。
【0103】
好ましい実施形態では、ゲル層の断面積は、ヘマトキシリン-エオジン染色等の色素を用いてゲルを視認容易な状態にして測定する。一例として、ゲル層の断面積は、以下の方法で測定してもよい。食道粘膜下組織の表面の2.5cm×2.5cmあたりに、測定対象とする粉体を100mg噴霧し、37℃で48時間保持して、組織表面にゲルを形成した。ゲルを中性緩衝ホルマリンにより固定して固定済みゲルを得て、固定済みゲルをヘマトキシリン-エオジン染色して染色済みゲルを得た。染色済みゲルを位相差顕微鏡(断面像)で観察し、位相差顕微鏡像を「ImageJ(v1.51)」により二値化して平方ミリメートル単位でゲル層の断面積を算出した。この試験を3回実施し、それらの算術平均値をゲル層の断面積とした。
なお、位相差顕微鏡像の例を図5に示した。図5におけるスケールバーは、上段が1mm、それぞれの一部拡大図である下段が100μmを示している。
【0104】
図5において1h、3h、6hとあるのは、表3における例6-2(1h)、例6-3(3h)、例6-1(6h)に対応している。上段は断面像、下段は一部拡大図を示している。図5の結果から、例6-3は、例6-2及び例6-1と比較してより、緻密なゲルが形成され、ゲル層の断面積がより大きいことがわかった。
【0105】
ゲル層の断面積がより大きいことは、粉体により形成されるゲル層が湿潤環境下(水中)においてもより残存しやすいことを意味し、粉体が創傷に適用された際にも、創傷を常にゲル層(膜)が覆っていることになり、より持続的な接着強度が得られるものと推測される。これにより、創傷が治癒するための細胞の増殖・遊走の足場を提供するというより優れた効果も有する。
図5の結果からは、架橋条件を制御することにより、ゲル層の面積を制御可能であることがわかった。
【0106】
【表3】
【0107】
なお、例3-1、例1、例5、例6-1~例6-3及び例7の粉末は、中間粉体を150℃、1~6時間の条件で架橋して得られたものであり、得られた粉体における真球度は、いずれも1.45以下であり、標準偏差は0.25以下であった。
【0108】
表3に示した結果から、例1、例5、例6-1~例6-3及び例7の粉体は、例3-1の粉体と比較して、いずれも優れた接着強度を有していた。
なかでも、Rが水素原子であって、Rのアルキル基の炭素数が7以上である例5の粉体は、例1の粉体と比較してより優れた接着強度を有していた。
また、Rが水素原子であって、Rのアルキル基の炭素数が9以上である例6-1の粉体は、例5の粉体と比較してより優れた接着強度を有していた。
また、Rが水素原子であって、Rのアルキル基の炭素数が11以下である、例6-1の粉体は、例7の粉体と比較してより優れた接着強度を有していた。
【0109】
また、ゲル層の面積が、0.010mm 以上である例5、例6-1~例6-3、及び例7の粉体は、ゲル層の面積が、0.010mm 未満である例1の粉体と比較してより優れた接着強度を有していた。
また、例6-1~例6-3の比較から、架橋時間によってゲル層の面積が制御でき、ゲル層の面積が0.030mm以上であることが好ましく、0.110mm以上であることがより好ましく、0.120mm以上であることが特に好ましいことがわかった。
【0110】
[ゼラチン誘導体の調製(5)]
デカナール(東京化成工業(株)製)を、ゼラチンのアミノ基に対して2倍当量に相当する量をゼラチン溶液に混合した以外は、上記[ゼラチン誘導体の調製(1)]と同様にして、ゼラチン誘導体を調製した。また、上記[ゼラチン誘導体の調製(1)]と同様にして、デシル基の導入率を測定し、デシル基の導入率が36.4であることを確認した。以下では、得られたゼラチン誘導体を、ゼラチン誘導体「36.4C10 ApGltn」と称する。
【0111】
[粉体の調製(7)]
上記[ゼラチン誘導体の調製(5)]で得られたゼラチン誘導体を用いて、「方法A-4」(加熱架橋を3時間)と同様にして粉体を調製した。この方法で得られた粉体を例8とした。
また、「Org ApGltn」を用いて、「方法A-4」により調製した粉体を例3-2とした。
【0112】
[UV照射による表面処理(1)]
[粉体の調製(7)]で得られた例8及び3-2の粉体をガラスシャレーに入れて、UV照射ボックス(物質・材料研究機構にて作成)に静置し、30分毎に粒子を混ぜながら、1時間、2時間および4時間の異なる時間、185nmおよび254nmの紫外線(線源:UVランプMIYATA ELEVAM Inc.製)を、常温で照射し、粒子の表面処理を行った。得られた粉体を、それぞれ、例8(U1)、例8(U2)、例8(U4)、例3-2(U1)、例3-2(U2)、及び例3-2(U4)とした。また、対照として、UV照射をしない粉体を、それぞれ例8(U0)及び例3-2(U0)とした。
【0113】
[水との接触角の測定(1)]
例8(U1)、例8(U2)、例8(U4)、例3-2(U1)、例3-2(U2)、及び例3-2(U4)の各粉体について、水接触角を水滴法で測定して表面処理による効果を評価した。
各粉体20mgを、1.5cm×1cmの両面テープ上に平坦になるように載せ、イオン交換水1μlを滴下し、滴下後1秒の時点から0.5秒毎に水滴の側面から水滴の形状を10枚の写真を撮影し、水滴の形状が一定になった滴下後5秒の時点で撮影された水滴の形状から接触角を測定し、平均値(n=10)を求めた。
図6は、滴下後5秒時点の水滴の像及び接触角を示すグラフである。図6に示す通り、UV照射による表面処理により、架橋されたゼラチン及び架橋されたゼラチン誘導体の粉体は、いずれも接触角が小さくなった。また、架橋されたゼラチン誘導体の粒子では、UV照射時間が長くなるにつれ、接触角が小さく成り、4時間UV照射された粉体では、疎水基が導入されていない架橋ゼラチンと同レベルの接触角となった。
【0114】
[ブタ胃内壁組織との接着強度の測定試験(3)]
例8(U1)、例8(U2)、例8(U4)、例3-2(U1)、例3-2(U2)、及び例3-2(U4)の各粉体とブタ胃内壁組織との接着強度を米国試験材料協会の規格(ASTM F-2258-05)に従って測定した。試験方法の詳細は、[ブタ胃内壁組織との接着強度の測定試験(1)]に記載した通りである。図7に試験結果を示す。
例8(U1)、例8(U2)及び例8(U4)の粒子並びに例3-2(U1)、例3-2(U2)、及び例3-2(U4)の粉体の何れも、UV照射による表面処理によって接着強度は影響を受けなかった。例8(U1)、例8(U2)及び例8(U4)の架橋されたゼラチン誘導体の粉体は、例3-2(U1)、3-2(U2)、及び3-2(U4)の架橋されたゼラチンの粉体に対して約4倍の接着強度を示した。
【0115】
[走査型電子顕微鏡による観察(2)]
例8(U0)、及び例8(U4)の粉体、並びに例3-2(U0)、及び例3-2(U4)の粉体を走査型電子顕微鏡で観察した。また、比較対象として、「方法A-4」のプロセスにおける熱架橋前の36.4C10 ApGltn及びOrg ApGltnの中間粉体も走査型電子顕微鏡で観察した。顕微鏡で観察するための試料の調製は、<走査型電子顕微鏡による観察(1)>に記載の通りである。
図8に各粉体の顕微鏡像を示す。各像から理解される通り、熱架橋及びUV照射による、粒子の形状及び大きさに対する影響は認められなかった。
【0116】
[生理食塩水中での粒子の融合]
例8(U0)、及び例8(U4)の粉体、並びに例3-2(U0)、及び例3-2(U4)の各粉体10mgを2mlチューブに入れ、30℃の生理食塩水を200μl添加した。ボルテックスで攪拌後37℃の温槽に各チューブを静置し、攪拌直後、攪拌後30分、1時間および2時間の時間でチューブから生理食塩水中の粉体を取り出し、走査型電子顕微鏡で観察した。図9に、各粉体の各時間での顕微鏡像を示す。各像から理解される通り、36.4C10 ApGltn粒子はUV照射の有無にかかわらず、水環境で粒子が融合して膜を形成した。
参考として、微小孔デンプン球からなる局所止血材(商品名:バード アリスタAH、株式会社メディコン)について、同様の試験を行い、攪拌直後、攪拌後30分、1時間、2時間、4時間及び24時間にチューブから生理食塩水中の粉体を取り出し、走査型電子顕微鏡で観察した。図10に、粉体の各時間での顕微鏡像を示す。各像から理解される通り、アリスタAHは、水環境でも球状を維持して粒子同士が融合せず、膜を形成しなかった。
【0117】
[ブタ胃内壁組織との接着強度の測定(4)]
上記の通り生理食塩水で膨潤処理した各粉体とブタ胃内壁組織との接着強度を、米国試験材料協会の規格(ASTM F-2258-05)に従って測定した。
試験方法は、組織上に100mgの粉体をのせた後、生理食塩水50ml中に5分間浸漬し、その後、接着剤で試験装置の上下の治具に固定し、上部の治具によって50Nで3分間圧着した後、上部へと引っ張り上げることで接着強度を測定した。その他の点は、[ブタ胃内壁組織との接着強度の測定試験(1)]に記載の通りである。試験結果を図11に示した。
図11に示す通り、架橋されたゼラチン誘導体の粉体を更に紫外線照射による表面処理をした例8(U4)の粉体、および架橋されたゼラチン(疎水基の導入なし)の粉体を更に紫外線照射による表面処理をした例3-2(U4)の粉体のいずれも、生理食塩水に浸漬後の接着強度が低下した。特に、例8(U4)の粉体は、生理食塩水に浸漬しない場合に比べ、接着強度が1/4まで低下し、例3-2(U4)の粉体と同レベルになった。このような特性は、生体組織へ粉体を接着した後に粉体の露出面が他の組織へ癒着するのを低減することが期待される。
【0118】
[水との接触角の測定(2)]
例8(U0)、及び例8(U4)の粉体、並びに例3-2(U0)、及び例3-2(U4)の各粉体について、水との接触角の経時的変化を測定した。
各粉体をデシケーター内で保存し、UV照射直後、24時間後、及び48時間後の各時点で水との接触角を測定した。試験方法は、前記[水との接触角の測定(1)]に記載の通りである。
図12に、滴下後5秒後の水滴の像及び接触角を示す。図12に示す通り、例8の粉体、及び例3-2の粉体とも、UV照射による表面処理により、接触角が小さくなり、特に例8の粉体では大幅接触角が小さくなった。一方、UV照射後の放置時間は、接触角に影響を及ぼさなかった。
【0119】
[ゼラチン誘導体の調製(6)]
デカナール(東京化成工業(株)製)を、ゼラチンのアミノ基に対して2倍当量に相当する量をゼラチン溶液に混合した以外は、上記[ゼラチン誘導体の調製(1)]と同様にして、ゼラチン誘導体を調製し、90%の収率でゼラチン誘導体を得た。また、上記[ゼラチン誘導体の調製(1)]と同様にして、デシル基の導入率を測定し、デシル基の導入率が44.2モル%であることを確認した。以下では、得られたゼラチン誘導体を、ゼラチン誘導体「44.2C10 ApGltn」と称する。
【0120】
[粉体の調製(8)]
上記[ゼラチン誘導体の調製(6)]で得られたゼラチン誘導体を用いて、加熱架橋を1時間、2時間、又は3時間行った以外は、「方法A-1」と同様にして粉体を調製した。この方法を「方法A-2」「方法A-3」及び「方法A-4」といい、この方法で得られた粉体を例9、例10及び例11とした。
【0121】
[UV照射による表面処理(2)]
[粉体の調製(8)]で得られた例9、例10及び例11の各粉体をガラスシャレーに入れて、UV照射ボックス(物質・材料研究機構にて作成)に静置し、30分毎に粒子を混ぜながら、4時間、185nmおよび254nmの紫外線(線源:UVランプ、MIYATA ELEVAM Inc.製)を、常温で照射し、粒子の表面処理を行った。UV照射した各粉体を例9(UV4)、例10(UV4)及び例11(UV4)と称し、UV照射しなかった各粉体を例9(UV0)、例10(UV0)及び例11(UV0)と称する。
【0122】
[ブタ胃内壁組織との接着強度の測定試験(5)]
例9(UV4)、例10(UV4)及び例11(UV4)並びに例9(UV0)、例10(UV0)及び例11(UV0)の各粉体とブタ胃内壁組織との接着強度を米国試験材料協会の規格(ASTM F-2258-05)に従って測定した。試験方法の詳細は、[ブタ胃内壁組織との接着強度の測定試験(1)]に記載した通りである。図13に試験結果を示す。
UV照射した架橋ゼラチン誘導体の粉体も、UV照射しなかった架橋ゼラチンの粉体も、熱架橋時間が長くなるにつれ、接着強度が大きくなる傾向が認められた。この傾向は、UV照射による表面処理をしていない、架橋ゼラチン誘導体の粉体でより大きかった。
【0123】
[水との接触角の測定(3)]
例9(UV4)、例10(UV4)及び例11(UV4)、並びに例9(UV0)、例10(UV0)及び例11(UV0)の各粉体について、水との接触角を水滴法で測定した。試験方法は、[水との接触角の測定(1)]に記載の通りである。図14は、各粉体について、滴下後5秒後の水滴の像及び水接触角を示す。図14に示す通り、UV照射による表面処理を行った例9(UV4)、例10(UV4)及び例11(UV4)の粉体は、同処理を行わなかった例9(UV0)、例10(UV0)及び例11(UV0)の粉体に比べ、水接触角が小さく成り、粒子表面の濡れ性が増加していた。
【0124】
[血液凝固能の評価]
例9(UV4)、例10(UV4)及び例11(UV4)並びに例9(UV0)、例10(UV0)及び例11(UV0)の各粉体について、血液凝固能を評価した。
クエン酸Naを添加したブタ血液500μlを、37度にあらかじめ温めておいたレオメーター(商品名:MCR30、ANTON PAAR GMBH社製)のステージに滴下し、血液に各粉体50mg(粒子濃度10w/v%)添加し、スパチュラで混和した。2分後にレオメーターの測定を5分間、1ヘルツ、1%ひずみの条件下で開始して貯蔵弾性率(G’)を求めた。
試験結果を図15に示す。UV照射による表面処理がされた又はされていない架橋ゼラチン誘導体の何れでも、熱架橋時間が長くなるにつれ、貯蔵弾性率(G’)が大きくなった。特に、UV照射による表面処理がされた架橋ゼラチン誘導体では、熱架橋時間が3時間の場合に貯蔵弾性率(G’)が著しく増大した。
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