(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】患者の輸液反応性の予測方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20230818BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20230818BHJP
A61B 5/029 20060101ALI20230818BHJP
A61B 5/08 20060101ALI20230818BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
A61B5/022 400Z
A61B5/0245 200
A61B5/029
A61B5/08
A61B5/1455
(21)【出願番号】P 2021541149
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(86)【国際出願番号】 US2020018391
(87)【国際公開番号】W WO2020168260
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-07-15
(32)【優先日】2019-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391058060
【氏名又は名称】ベイラー カレッジ オブ メディスン
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】アコスタ,セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】アーメッド,ムバシール
(72)【発明者】
【氏名】イン,スエレン
(72)【発明者】
【氏名】ペニー,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ブレイディ,ケネス
(72)【発明者】
【氏名】ルシン,クレイグ
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-502612(JP,A)
【文献】特表2006-526460(JP,A)
【文献】特開2015-205187(JP,A)
【文献】国際公開第2012/150258(WO,A1)
【文献】特開平08-275934(JP,A)
【文献】小野順貴,短時間フーリエ変換の基礎と応用,日本音響学会誌,日本,2016年,第72巻、第12号,764-769
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/0538、5/06-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重篤な患者における輸液反応性を予測する
ための方法
を実行するための装置であって、以下の:
前記患者のリアルタイムの生理学的データを測定して、リアルタイムの生理学的波形を生成する工程;
前記リアルタイムの生理学的波形を離散フーリエ変換する工程であって、前記工程は、以下の:
前記測定されたリアルタイムの生理学的データの前記リアルタイムの生理学的波形の呼吸成分の振幅を算出する工程;かつ、
前記呼吸成分に対応する伝送係数を算出する工程;を含み;
前記リアルタイムの生理学的波形の離散フーリエ変換から脈圧変動の推定値を生成する工程;かつ、
前記脈圧変動の推定値を臨床ディスプレイ上に表示する工程;
を含む方法
を実行するための装置。
【請求項2】
前記リアルタイムの生理学的データは、リアルタイムの血液測定データを含む、請求項1に記載の方法
を実行するための装置。
【請求項3】
前記リアルタイムの生理学的データが、連続的なリアルタイムの非侵襲的測定データを含む、請求項1又は2に記載の方法
を実行するための装置。
【請求項4】
前記連続的なリアルタイムの非侵襲的測定データは、リアルタイムの血中酸素飽和度測定データを含む、請求項3に記載の方法
を実行するための装置。
【請求項5】
さらに、以下の:
シグナル処理とフィルタリングを用いて、前記リアルタイムの生理学的データのノイズとアーチファクトを排除する工程;
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法
を実行するための装置。
【請求項6】
さらに、以下の:
前記脈圧変動の推定値と他のバイタルサインデータを組み合わせて、輸液蘇生による心拍出量の増加を予測する工程;
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法
を実行するための装置。
【請求項7】
前記リアルタイムの生理学的波形の前記離散フーリエ変換を実行する工程は、以下の:
前記リアルタイムの生理学的データのサンプリング周波数に基づく周波数を用いて前記離散フーリエ変換を実行する工程;
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法
を実行するための装置。
【請求項8】
前記リアルタイムの生理学的波形の前記離散フーリエ変換を実行する工程は、以下の:
呼吸周波数における脈圧と平均血圧の振動変化の時間遅延を算出する工程;を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法
を実行するための装置。
【請求項9】
前記リアルタイムの生理学的波形の前記離散フーリエ変換を実行する工程は、以下の:
前記測定されたリアルタイムの生理学的データの前記リアルタイムの生理学的波形の呼吸成分及び呼吸周波数における脈圧と平均血圧の振動変化の時間遅延に対応する伝送係数を、測定された離散フーリエ変換データに適合させる工程;
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法
を実行するための装置。
【請求項10】
プログラム可能な装置に請求項1~9のいずれかに記載の方法を実行させるためのプログラム。
【請求項11】
生理学的モニタリングシステムであって、以下の:
プログラム可能な装置;及び
前記プログラム可能な装置に請求項1~9のいずれかに記載の方法を実行させるための、前記プログラム可能な装置による実行用プログラム;
を含む、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学分野に関し、特に、重篤な患者における輸液の反応性を予測する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
重篤な患者は、細胞低酸素症による臓器損傷/不全に脆弱であり、したがって、適当な酸素供給の維持は、救命救急医療の要である。前負荷が高まると心拍出量が改善すると考えられる場合、ショック状態では輸液蘇生術が常套手段として用いられる。輸液反応性とは、輸液蘇生を行うことで心拍出量が増加する状態、すなわちフランク-スターリング(Frank-Starling)曲線の上行部分に位置する状態をいう。血流が改善されると、組織低酸素症が低下するが、その反面、輸液投与によっても心拍出量が増加しない場合、さらなる臓器損傷及び罹病がおきる可能性がある。輸液反応性の検討のために設計された研究では、循環不全の成人のうち、輸液投与によって心拍出量の増加を示したのはわずか40~70%であった。
【発明の概要】
【0003】
第一態様では、重篤な患者における輸液反応性を予測する方法は、以下の:前記患者のリアルタイムの生理学的データを測定して、リアルタイムの生理学的波形を生成する工程;前記リアルタイムの生理学的波形を離散フーリエ変換する工程;前記リアルタイムの生理学的波形の離散フーリエ変換から脈圧変動の推定値を生成する工程;かつ、前記脈圧変動の推定値を臨床ディスプレイ上に表示する工程;を含む。
【0004】
第二態様では、非一過性の機械可読媒体は、重篤な患者における輸液反応性を予測する命令を記憶し、当該命令は、実行時に、プログラム可能な装置に、患者のリアルタイムの生理学的データを測定させて、当該リアルタイムの生理学的波形の離散的フーリエ変換を実行し、当該リアルタイムの生理学的波形の離散的フーリエ変換から脈圧変動の推定値を生成し、臨床ディスプレイ上に脈圧変動の推定値を表示させる命令を含む。
【0005】
第三態様では、生理学的モニタリングシステムは、プログラム可能な装置及び重篤な患者における輸液反応性の予測の命令が格納された記憶媒体であって、プログラム可能な装置が実行された場合、以下の:前記患者のリアルタイムの生理学的データを測定して、リアルタイムの生理学的波形を生成する工程;前記リアルタイムの生理学的波形を離散フーリエ変換する工程;前記リアルタイムの生理学的波形の離散フーリエ変換から脈圧変動の推定値を生成する工程;かつ、前記脈圧変動の推定値を臨床ディスプレイ上に表示する工程;を行わせる命令を備える。
【0006】
添付の図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、本発明に合致する装置及び方法の実施を説明し、詳細な説明と共に、本発明に合致する利点及び原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【0008】
【0009】
【
図3】A及びBは、脈圧変動(PPV)を推定する従来手法と、一実施形態による提案された手法とを比較するグラフである。
【0010】
【
図4】A~Cは、PPVを推定する従来手法と、様々な量のノイズ存在下における一実施形態による提案された手法とを比較するグラフである。
【0011】
【
図5】A~Cは、様々なレベルのピンクノイズにおいて、一実施形態による平均血圧と脈圧の振動間の時間遅延を回復する提案された手法の精度を示すグラフである。
【0012】
【
図6】一実施形態による、クリーンデータと非クリーンデータとを区別するロジスティック回帰の性能を示すグラフである。
【0013】
【
図7】A及びBは、PPVを推定するための従来手法と、一実施形態による提案された手法との間のパリティプロットを示すグラフである。
【0014】
【
図8】Aは一実施形態による伝送係数の分布を示すチャートである。Bは一実施形態による、呼吸周波数における脈圧と平均血圧の振動変化の間の時間遅延の分布を示すチャートである。
【0015】
【
図9】一実施形態による、PPVの算出に用いられる血中酸素飽和度と血圧シグナルとの比較を示すグラフである。
【0016】
【
図10】一実施形態による、動脈血圧及び血中酸素飽和度に関するPPVを推定する提案された手法を用いるパリティプロットを示すグラフである。
【0017】
【
図11】一実施形態による、生理学的モニタリングシステムを示すブロック図である。
【0018】
【
図12】一実施形態による、PPVを予測するための手法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の説明では、説明のため、本発明の完全な理解を提供するため、多数の具体的な詳細が記載されている。しかし、当業者であれば、これらの具体的な詳細がなくても本発明を実施することができることは明らかであろう。他の例では、本発明が不明瞭とならないように、構造や装置をブロック図の形で示す。添え字のない番号への言及は、言及された番号に対応するすべての添え字の例を参照すると理解される。さらに、本明細書で用いられる文言は、主として読みやすさと説明目的のために選択されたものであり、必ずしも発明特定事項を画定したり周到に説明したりするために選択されたわけではない場合があり、特許請求の範囲が発明特定事項の特定に必要であることに依拠する。
【0020】
本明細書における「一実施形態」又は「一実施形態」への言及は、実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造、又は特性が、本発明の少なくとも一実施形態に含まれることを意味し、「一実施形態」または「一実施形態」への複数の言及は、必ずしもすべてが同じ実施形態を参照していると理解されるべきではない。
【0021】
臨床検査(皮膚緊張、尿量)及び心拍数、中心静脈圧、肺動脈閉塞圧、血圧等の一般的に測定される静的変数に基づいて血管内容量の状態を測定する臨床医の能力は確実に低い。脈圧変動(PPV)、収縮期圧変動(SPV)、及び一回拍出量変動(stroke volume variation:SVV)は、心肺相互作用に由来する動的変数であり、輸液反応性の予測について十分に確立されている。
【0022】
周期性呼吸相における血圧変動は、血液量減少のシグナル伝達の有用なマーカーであることが示されている。PPVの大きさに関する生理学的機序は、血管内体積の状態と関連する。Morganらは、陽圧換気では初期吸気相の間に、大静脈血流量が減少した後、肺血流量が減少し、最後に2心周期後の大動脈血流量が減少することを示した。その後、平均気道圧の上昇に伴い心拍出量(CO)が低下し、輸液投与後のCOが改善することが示された。Denaultらは、陽圧換気のさらなる影響として、左心房貫壁圧を低下させて、左心室前負荷を低下させる効果があることを示した。
【0023】
所定の動脈コンプライアンスでは、脈圧振幅及び変動は、左室(LV)一回拍出量に直接関連する。陽圧吸気相による一回拍出量の最初の増加は、肺動脈圧(肺胞圧から胸膜圧を減じたもの)の上昇により、肺毛細血管の「圧迫作用(squeezing effect)」が生じて左心房還流が増加し、左室貫壁圧が低下することにより左室後負荷が低下するためである。左室卒中の遅延(肺通過感覚)減少は、右房静脈還流量の減少及び右室(RV)後負荷の増加の結果である。RV一回拍出量の減少は循環血液量減少患者においてより顕著であるが、それは、以下の:1)胸腔内圧の上昇による中心静脈の虚脱、2)右房貫壁圧の低下による静脈還流への勾配の低下、3)循環血液量減少状態では、ウェストゾーンI及びII(肺動脈圧<肺胞圧、肺静脈圧<肺胞圧)状態になる可能性が高く、その結果、RV後負荷が高まる、4)前負荷を変化させると、フランク-スターリング曲線の上行(前負荷依存性)部の一回拍出量が大きく変化する、ためである。多数の研究により、循環血液量減少状態では、肺移行の予想される結果として、動脈圧の変動が呼気相で最大になることが示されている。
【0024】
2000年のMichardらから始まる複数の研究では、患者が輸液に反応する陽圧変動に伴う一回拍出量及び脈圧変動(PPV)の閾値(約14%を超える変動)が定義された。患者800例を対象とした22件の研究を含むメタアナリシスでは、脈圧変動13%を用いて輸液反応性の予測した場合、プール感度は88%、特異性は89%であった。小児集団を対象とした試験はわずか数件である。12件の研究と438人の患者を対象としたメタアナリシスでは、脈圧変動及び収縮期圧変動を含む動的変数は、輸液反応性を予測できなかった。心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、及び/又はファロー四徴症の患者に限定した4件の研究では、脈圧の変動又は一回拍出量の変動が、術後の輸液反応を予測することが認められた。
【0025】
自発呼吸(SB)又は陰圧換気では、心肺相互作用に基づいて逆効果が予想される。吸気時には、胸腔内圧が低下し、右心への静脈還流量が高まる。その後、肺移行遅延(2~3心周期)が生じて、左室前負荷が高まる。このように、呼気相で心拍出量の増加がおきると、脈圧及び収縮期血圧の振幅が高まる。さらに、吸気時に大動脈貫壁圧が上昇して、一回拍出量の低下につながるという効果もある。陽圧換気と同様、脈圧変化の振幅は、胸腔内圧変化によってもたらされる負荷条件に影響されうる。Soubrierらは、体積拡張を受けた成人患者32例を評価し、輸液反応性を予測する上で、PPV(閾値12%を使用)の特異性(92%)が高く、感度(63%)が低いことを見出した。著者らは、輸液反応性を予測する上で、SBは感度が低いため、陽圧換気よりも信頼性が低いと結論づけた。
【0026】
陽圧換気と陰圧換気のいずれの場合も、心肺相互作用の効果は、他のパラメータの中でも1回呼吸量に依存することに注意すべきである。血管内容量の状態とは関係なく、1回呼吸量が低下すると、必然的に心肺相互作用の誘発は弱い。その場合、心臓充満の周期的変動は測定可能なPPVを誘発するほど大きくない場合がある。本開示は、小さなPPVを確実な測定することに関する。この小PVVは、輸液反応性の欠如(フランク-スターリング曲線のプラトー)又は1回呼吸量の減少の結果でありうる。本明細書における目標は2つある。第一に、動脈血圧(ABP)の測定値のPPVの推定値への変換に採用されている従来のアルゴリズムの欠点を明らかにすることである。第二の目的は、特にノイズが生理学的シグナルに影響を与えやすい小さなPPV領域において、より高い精度と堅牢性を備える新規アルゴリズムを提案することである。
【0027】
PPV推定のための従来のアルゴリズムは、動脈圧波形における収縮期ピーク及び拡張期トラフの発見に基づく。その結果、拍動ごとに脈圧(PP)を推定することができる。そして、呼吸周期内で、最大PPと最小PPを求めて、PPVの以下の定義:
【数1】
に挿入する。
【0028】
このように、呼吸周期ごとにPPV推定値を得るか、又は、多くの呼吸周期にわたって当該推定値の平均値を算出して、ノイズの影響を低減することができる。呼吸周期内の最大PP及び最小PPの説明図を
図1に示すが、
図1は、患者の動脈血圧波形をグラフ化したものであり、ここで、Max(PP)は、呼吸周期全体にわたる最大脈圧を意味し、Min(PP)は、呼吸周期全体にわたる最小脈圧を意味する。従来手法では、波形のピーク及びトラフを検出することで、脈拍毎に脈圧を推定し、各呼吸周期にわたってその最大値及び最小値を求めていた。
【0029】
提案した手法の開発の動機づけとして、
図1に示す動脈血圧波形を
図2に示すように、フーリエ変換して解析する。当該血圧波形には、心拍数(HR)で振動する心臓成分u
c(t)が含まれる。胸腔内圧の周期的変化は心臓ポンプ作用に影響し、振幅変調A_r(t)が呼吸数(RR)で振動する積A
r(t)u
c(t)として表現される脈圧の変調(心臓成分の振幅)を誘発する。時間領域における関数の「積」は、周波数領域における因子の「畳込み(convolution)」に変換される。当該特徴を
図2に示す。この実数値シグナルのフーリエ変換も、周波数軸の負側に支持される。負の周波数におけるフーリエ変換の値は、対応する正の周波数におけるその値の複素共役である。
図2では、呼吸数(RR)及び心拍数(HR)にピークが存在することがわかる。周波数(-RR)と周波数(-HR)には複素共役のピークがある。心拍数(HR)のピークは、呼吸数(RR)及び(-RR)のピークで畳込まれ、各々(HR-RR)及び(HR+RR)の近傍で支持されるエネルギーとなる。つまり、振動胸腔内圧が循環系影響を与えることで、
図2に見られるように、周波数(HR-RR)及び(HR+RR)においてピークが出現する。ここで提案される新しい手法は、当該観察に基づいており、周波数(HR‐RR)及び(HR+RR)の近傍にある畳込まれたフーリエ成分を検出する。
【0030】
図2は、患者の動脈血圧波形と、そのフーリエ変換の絶対値を示し、ここで、RRは呼吸数を、HRは心拍数を意味する。PPVを測定するための提案された手法は、心肺相互作用の数学的解析によって記述された周波数HR‐RR及びHR+RRの近傍で支持された畳込み成分の検出に基づく。
【0031】
本開示において提案される手法は、動脈血圧波形のフーリエ変換を用いる周波数分析に基づく。このシグナルは、以下の:
【数2】
のようにモデル化できると仮定される。
【0032】
ここで、umはu(t)の平均値、ur(t)は呼吸成分、uc(t)は心拍成分、η(t)はランダムノイズを表す。係数(1+αur(t+td))は、呼吸成分urの周波数で振動する心振動(脈圧)の時間変調を表す。伝送係数として知られる係数α≧0は、脈圧変調に影響を与える呼吸成分の部分を定量化したものである。呼吸成分ur(t)と心臓の振幅の時間変調(1+αur(t+td))との間には、時間遅延tdが存在してよい。呼吸圧の振動は、右心室と左心室の負荷条件の変動を誘発する。右心室の負荷の変動は、血流肺通過時間による位相の遅れの後、左心室の充満の振動をもたらす。当該遅延は、時間遅延td≦0によって説明される。
【0033】
推定形(2)では、脈圧変動(PPV)は以下の:
【数3】
のように表される。
【0034】
呼吸成分がゼロの上下で等しい大きさで振動すると仮定すると、つまりmin(u
r)=-max(u
r)とすると、PPVの公式は以下の:
【数4】
ように単純化される。
【0035】
この式を実用化するため、測定シグナル(t)から呼吸成分max(u
r)の振幅及び伝送係数αとを推定する必要がある。ここでは、シグナルu(t)をサンプリングする周波数をf_sとし、離散的周波数が-f
s/2から+f
s/2までの離散高速フーリエ変換Fを用いてこの作業を行う。周波数領域では、呼吸成分F(u
r)には、他の成分から離れたスペクトルの支持体がある。そのため、シグナルの残部から分離することができる。振幅は以下の:
【数5】
ように推定できる。
【0036】
離散l
2ノルムII II及び離散フーリエ変換Fは、Nが時系列シグナルuのサイズである
【数6】
で正規化される。
【0037】
モデル(2)のフーリエ畳込み定理とタイムシフト定理を用いて、以下のように:
【数7】
伝送係数αを推定する。
【0038】
呼吸器f
r成分と心臓f
c成分の周波数帯は既知であり、重複しないため、ノイズF(η)がある場合まで、
測定シグナルF(u)から、
【数8】
を同時に抽出することができる。
この畳込み:
【数9】
は、f
c*f
rで表される畳込み周波数で支持される。そこで、伝送係数αと時間シフトt
sを以下の問題:
【数10】
の最適化として推定する。
【0039】
その結果、未知のパラメータα及びt
sが測定データ:
【数11】
に適合される。この適合プロセスは、非相関ノイズの存在に関して堅牢な手法を導く。当該パラメータを得るための実際の最小化プロセスは、いくつかの最適化技法によって実行することができる。ここでは、MATLAB(登録商標)に内蔵されている「fminsearch」機能を用いる。当該手法は、未知の解を近似するために初期推定値が必要である。ここでは、最初の推定値として、以下の:
【数12】
用いる。パラメータα及びt
sをデータに適合させた後、最適値α
optと(4)を(3)に挿入し、提案する脈圧変動の推定値を得る。
【数13】
【0040】
結果
【0041】
ここでは、提案したフーリエ系PPV推定アルゴリズムと、シグナルu(t)のピーク所見に基づく従来のアルゴリズムで、収縮期と拡張期のポイントを見つけ、かつ、各呼吸周期における最大と最小の脈圧を推定した結果を比較する。
【0042】
合成データ
【0043】
ここで、振動シグナル(2)の簡単な例を紹介する。この合成データにより、従来のアルゴリズム(旧アルゴリズム)と提案するアルゴリズム(新アルゴリズム)の挙動を分析することができる。ここで、振動シグナル(2)の簡単な例を例示する。u
m=A
m、u
c(t)=A
csin(2πf
ct)、u
r(t)=A
rsin(2πf
rt)及びη(t)をピンクノイズとする。振幅と周波数は以下のように選択する:A
m=100 mmHg、A
c=20 mmHg、A
r=6 mmHg、f
c=100 周期/分、f
r=20周期/分である。ピンクノイズは、標準偏差ηが心臓の振幅A
cの選択された割合となるように定義される。伝送係数αは、10
-4/mmHgから10
-1/mmHgまで変化されうる。
図3A、Bでは、新旧の手法の挙動を示して、各々0%と5%のノイズでの試験データで、PPVを推定する。旧手法では無ノイズの場合でも、PPVの値が小さい場合、PPVを正確に推定できないことがわかる。この欠点は数学的に説明できる。α=0の場合でも、(2)のu
r(t)の存在は、u
c(t)の心振動のピークとトラフの推定に影響を与える。最良のシナリオは、u
r(t)の最大の傾きがu
c(t)のピーク又はトラフと一致する場合、以下の:
【数14】
【0044】
(ここで、dt=1/(2f
c)は心拍数の半分である)
となる。これらの推定値を(1)に挿入すると、従来手法では伝送係数が小さい極限でのPPVを以下の:
【数15】
ように推定していることがわかる。
【0045】
伝送係数がゼロになると実際のPPVは消滅する。しかし、従来手法では、モデルPPVがゼロに近づくと実測PPVがプラトーになるため、(8)によれば過大評価される。シグナルにノイズが存在する場合としない場合の当該挙動は、
図3A、Bに示される。
【0046】
図3A、Bは、PPVを推定するための提案(新)手法(
図3B)と従来(旧)手法(
図3A)の比較を示した。モデル(2)において、伝送係数αを10
-4/mmHgから10
-1/mmHgまで変化させて、PPVの範囲を実現した。ノイズ(A)がない場合、旧手法ではPPVの値が小さい場合、正確に推定することができない。新手法では、PPVの値が小さくても大きくても極めて正確である。5%のピンクノイズがある場合(B)、250回の実測の平均値(丸印)と、5パーセンタイルと95パーセンタイルの曲線(実線)が示されている。他のパラメータはすべて以下のように固定した。A
m=100mmHg、A
c=20mmHg、A
r=6mmHg、f
c=100cpm、f
r=20cpm。
【0047】
新手法を用いた場合、PPV値が小さい範囲でもモデルのPPVに従うことができる。ノイズが5%の場合であっても、新手法の平均推定値は、PPVが0.01以下の値まで正しい動作に従う。また、ノイズの大きさはPPVの全値で一定であることに注目すべきである。そのため、シグナル対ノイズ比は、PPVが減少するにつれて減少する。つまり、
図3Bに示した新手法の誤差範囲は、PPVが小さくなるにつれてlogスケールで大きくなるように見える。しかし、この誤差範囲は、線形スケールでプロットすると、実際には比較的一定である。
【0048】
呼吸が浅い(1回呼吸量が小さい)場合、心肺相互作用が小さすぎて、従来手法では正しく測定できないことが知られている。合成モデルを用いることで、様々な呼吸振幅に対する両手法の挙動を分析することができる。このシナリオを(2)を用いて合成モデル化し、u
m=A
m、u
c(t)=A
csin(2πf
c t)、u
r(t)=A
rsin(2πf
rt)、η(t)をピンクノイズとする。振幅と周波数は以下のように選択する。A
m=100 mmHg、A
c=20 mmHg、α=0.01/mmHg、f
c=100周期/分、f
r=20周期/分とした。また、呼吸振幅A
rは、0.1mmHgから40mmHgまで変化されうる。
図4A~Cは、新旧の手法の挙動を示して、各々5%、10%、20%のノイズでの試験データで、PPVを推定する。新手法は旧手法に比べてはるかに正確で、ノイズの影響を受けにくい。平均すると、新手法はPPVの値の範囲を拡張しても正しい傾向を示し、旧手法よりも約6倍小さいPPVの値でも正確な結果を得ることができた。
【0049】
これらの手法の堅牢性を比較するもう一つの方法は、各手法が精度を大幅に失い始めるシグナル対ノイズ比を推定することである。求められるシグナルの振幅はαA_
rA
cであり、ノイズの振幅はstd(η)=σA_cとなるように与えられ、σ≧0は選択された定数である。
図4A~Cでは、この定数σは、各々のプロットで0.5、0.1、0.2である。シグナル対ノイズ比は、以下の:
【数16】
のように定義される。
【0050】
図4A~Cに表示されたプロットに基づいて、シグナル対ノイズ比を算出するが、旧手法が精度を失い始めるシグナル対ノイズ比は約1:3である。その一方で、新手法での比率は約1:18である。
【0051】
図4A~Cでは、PPVを推定するため、提案(新)手法と従来(旧)手法の比較を示した。モデル(2)では、呼吸成分の振幅A
rを0.1mmHgから40mmHgまで変化させることで、PPVの範囲を実現した。従来手法では、呼吸振幅が小さくなると精度が悪くなり、ノイズの影響を受けやすくなる。パネル(A)、(B)、(C)は各々、5%、10%、20%のノイズに対する結果を示す。250回のシミュレーションの平均値(丸印)と、5パーセンタイルと95パーセンタイルの曲線(実線)を示す。平均すると、新手法は旧手法に比べて約6倍小さいPPVの値で正確な結果を得ることができた。その他のパラメータはすべて以下のように固定した。A
m=100 mmHg、A
c=20 mmHg、α=0.01/mmHg、f
c=100 cpm、f
r=20 cpmである。
【0052】
(6)のように、発明者らの新手法は平均血圧の振動と脈圧の振動の間の時間遅延の推定も可能である。当該合成モデルにより、この時間遅延を回復する手法の性能を評価することができる。発明者らは、
u
m=A
m、u
c(t)=A
csin(2πf
ct)、u
r(t)=A
rsin(2πf
rt)、η(t)をピンクノイズとする。振幅と周波数は以下のように選択する。A
m=100 mmHg、A
c=20 mmHg、A
r=6 mmHg、α=0.01/mmHg、f
c=100 cpm、f
r=20 cpmである。
図5A~Cは、0~3秒までの時間遅延t
dを推定するための新しい技術の性能を、5%、10%、20%のピンクノイズに対して示す。
【0053】
図5A~Cは、平均血圧と脈圧の振動の間の時間遅延を回復する新手法の精度を示す。モデル(2)では、時間遅延の真値を0~3秒の範囲に設定し、シグナルにピンクノイズを加えた。パネル(A)、(B)、(C)に各々5%、10%、20%のノイズに対する結果を示す。真の時間遅延の各値について、100回の実測の平均値(丸印)とプラス/マイナス1標準偏差(実線)を示す。その他のパラメータはすべて以下のように固定される。A
m=100 mmHg、A
c=20 mmHg、A
r=6 mmHg、α=0.01/mmHg、f
c=100 cpm、f
r=20 cpm。
【0054】
実データ
【0055】
多数の患者から得られた実データを適当に分析するため、許容できないデータのエポックをフィルタリングする品質測定法を開発した。6000個の血圧波形の窓(それぞれ1分間)を目視検査し、手動で「きれい」または「きれいでない」とラベル付けした。次に、F(u)(シグナルのフーリエ変換)に関連する6つの測定基準を、ラベル付けに適合するロジスティック回帰の因子として定義した。これらの測定基準は、心臓周波数帯のスペクトルパワー、心臓周波数帯の範囲、|F(u)|の第1及び第2モーメント、|F(u)|の低周波成分のエントロピー、|F(u)|の高周波成分のエントロピーである。データの半分(ランダムに選択)は、回帰係数を適合させるためのトレーニングセットとして用いた。残りの半分のデータは、きれいなデータとそうでないデータを識別するロジスティック回帰の性能を定量化するテストセットとして用いた。その結果を
図6に示す。ROC曲線下面積は0.94である。
【0056】
図6は、クリーンデータとそうでないデータとを区別するロジスティック回帰の性能を示す。ROC曲線下面積は0.94である。
【0057】
両手法によるPPVの推定値を、パリティプロット及びピアソンの相関係数を用いて比較した。0.15に等しい品質閾値を選択して、許容できないデータを除外した。この閾値により、真陽性率は98.41%、偽陽性率は46.39%となった。約35%のデータがこの品質閾値を下回ったため、除外された。
図7A、Bに、許容されたデータを示す。未調整の旧手法では、PPV値が大きい場合、新手法との一致は良好である。しかし、合成データの分析から予想されるように、PPVの小さい値では、旧手法がその範囲でPPVを過大評価しているため、不一致が生じる。
図7Aは、実データが、合成データで観察されたのと同じ挙動を示すことを示す。相関係数は0.74である。
図7Bは、合成データのモデルカーブをパリティラインとして設定し、旧手法を修正した後の修正パリティの挙動を示す。この調整後の相関係数は0.82である。
【0058】
図7A、Bは、PPVを推定するための提案された(新)技術と従来(旧)技術との間のパリティプロットを示す。
図7Aは、実データが合成データで観察されたのと同じ挙動に従う様子を示す(実線の曲線)。相関係数は0.74である。
図7Bは、合成データのライン(左図の実線)をパリティラインとして設定し、旧手法を修正した後の修正パリティの挙動を示す。この調整後の相関係数は0.82である。
【0059】
また、新提案技術では、実データの伝送係数αと時間遅延t
dが得られる。これらの結果は、
図8A、Bに表示される。
【0060】
図8Aは、呼吸周波数における平均圧力の振動変化が、脈圧の振動変化に伝達されることを定量化した伝送係数の分布を示す図である。
図8Bは、呼吸周波数における平均圧力の振動変化と脈圧の振動変化との間の時間遅延の分布を示す図である。
【0061】
上記手法は、最初、動脈血圧の侵襲的測定を用いて開発されたが、他の関連する生理学的量に当該手法を用いて当該結果を得ることに対する理論的な制限はない。例えば、動脈血圧測定に加えて、静脈、左心房及び右心房肺等の他の血圧測定を用いることができる。また、血液成分データの血流速度、体積、密度又は濃度等、他の種類のリアルタイム血液測定値を用いることができる。例えば、ヘモグロビン濃度のリアルタイム連続測定を用いることができる。臨床的観点からは、非侵襲的な方法で、自発的に呼吸している患者の輸液反応性を正確に判断できる機能があれば、極めて有利である(連続的な血圧シグナルは、中心線の設置が必要なため侵襲的である)。その結果、上記手法は、輸液反応性状態を知ることが重要な重篤看護の現場で一般的に利用されている、連続的かつ非侵襲的なシグナルである血中酸素飽和度(SpO
2)の波形測定に適用された。血中酸素飽和度の変化は心周期に沿って変化するため、当該シグナルは心シグナルと呼吸周期に比例したシグナルを共に含む波形を生成する。このSpO
2シグナルと、PPVの算出に用いた血圧シグナルとの比較を
図9に示す。この図から、SpO
2シグナル及び血圧シグナルに脈波の変化が存在することがわかる。当該手法は、心臓周期パワー、呼吸周期パワー、及びこれらの間の畳込みパワーの関係を正規化して見ているだけなので、本手法を非侵襲的なSpO
2波形シグナルに適用してPPVの推定値を得ることができ、これを輸液反応性の評価に用いることができる。
図10は、ABPとSpO
2にともに発明者らのPPV技術を用いたパリティプロットである。
図10に示すように、各測定モダリティの結果は実質的に相関する。当該相関は、生理食塩水を100回ボーラス投与した57人の患者のPPVシグナルについて、3桁にわたって得られた。これは、上記ABP測定について説明した手法が、パルスオキシメトリ、近赤外反射分光法、ドップラー等を含むがこれらに限定されない、血中酸素飽和度等のリアルタイムの非侵襲的な生理学的測定データを用いてPPVを推定する際にも良好な性能を発揮することを示す。その結果、本手法の開発により、自発呼吸をしている患者のPPV、ひいては輸液反応性を完全に非侵襲的に正確に評価する手段を得ることができた。従来技術では、常時自発呼吸をしている患者の1回呼吸量は、患者のノイズに比べてシグナルが小さすぎて効果がないとされていたため、発明者らの知る限り、これがヒト被験者で実証されたことはない。
【0062】
一実施形態では、呼吸周期における脈圧変動を測定する提案された手法は、動脈圧波形のフーリエ解析に基づく。フーリエ領域では、関心のある3つの周波数帯がある。これらは、心臓周波数(又は心拍数HR)、呼吸周波数(又は呼吸数RR)、及び心肺相互作用に関連する周波数帯である。数学分析によると、この後者の周波数帯は、(HR+RR)と(HR-RR)の近傍に存在する。したがって、フーリエ領域では、振動成分を互いに、またノイズ等の不要な成分から分離することができる。
【0063】
本明細書に記載されている特定の方程式は例示であり、他の方程式を採用してもよい。また、HR+RR及びHR-RRに位置するシグナル成分(およびそれらに関連する高次高調波)の側面を測定する他の数学的に等価な分析を用いてよい。時間領域技術と周波数領域技術の間には等価性があるため、上記周波数領域技術の代わりにアナログ的な時間領域手法を用いて同じ目的を達成することができる。
【0064】
当該新手法では、振動モデル(2)の数学的構造を利用して、心機能に対する呼吸の影響を考慮する。このデータがフーリエ変換されると、この特定構造が測定データ内で探索される。具体的には、数理モデル(2)に合致した適当な周波数帯の心拍振動と呼吸振動の畳込み成分を探す。ランダムなノイズはこの畳込み構造に適合しないため、ノイズは除去される。当該新手法は、高レベルのノイズの存在下でもその性能は堅牢である。
図3及び4は、新旧手法の性能と堅牢性を比較したものである。各手法で精度が低下し始めるシグナル対ノイズ比は異なる。新手法は、旧手法の約6倍のシグナル対ノイズ比でも堅牢性が維持される。これは、シグナル対ノイズ比が小さいと予想される、自発呼吸及び低1回呼吸量機械的換気の間の輸液反応性を認識するPPVの適用として、重要な成果である。
【0065】
当技術分野で知られているさらなるシグナル処理及びフィルタリング技術は、所望に応じて実行されて、本明細書に記載のフーリエ変換及び畳込み分析を破壊し得るノイズおよびアーチファクトを除去しうる。
【0066】
図11は、上記手法が展開されうる生理学的モニタリングシステム1100を示すブロック図である。ICUの患者等の患者1110は、いかなる所望のタイプのセンサであってもよい、1又はそれ以上の生理学的センサ1120A~Cに接続される。当該センサ1120A~Cは、その後、直接又は仲介装置を介して、
図11に図示される病院イーサネット1130等の病院ネットワークに接続されてよい。有線又は無線のいかなるデータ接続が用いられてよい。一実施形態では、サーバ1140が、患者の生理学的データをリアルタイムで連続的に収集し、リアルタイムのPPV推定値を算出する。その後、PPV推定値は、ラップトップ1150等の臨床ディスプレイに送信されてよい。
図10に図示される要素は、例示のみを目的とする。他の装置及び装置間の接続が用いられてよい。いくつかの実施形態では、サーバ1140は、例えば、経時、品質、又は臨床の研究調査あるいは他の所望の目的のため、生理学的データ及び算出されたPPV推定値のためのストレージを提供してよい。単一のネットワークとして示されるが、いかなる数の相互接続されたネットワークがシステム1100のために採用されてよく、いかなる数の示された装置が展開されてよい。明確のため、単一患者について図示するが、実施例では、実施施設のベッドの全て又はいかなる所望の部分に対してシステム1100の要素を展開してよい。システム1100の要素のいくつかは、患者が監視される臨床施設から離隔してよい。本明細書で説明した技術を実行するソフトウェアは、コンピュータ可読媒体に命令として格納されてよい。命令は、実行されると、サーバ1140に動作を実行させる。コンピュータ可読媒体は、限定されないが、メモリ回路、光学媒体、磁気媒体等を含む、いかなる非一時的媒体であってよい。サーバ1140は、サーバとよばれるか否かに関わらず、ここで説明した動作を実行できるいかなるプログラム可能な装置であってよい。
【0067】
PPVの予測の生成に加えて、本明細書に記載された手法は、心拍数、呼吸数、酸素飽和度、血圧、中心静脈圧等の他のバイタルサイン又は生理学的特徴と組み合わせて、PPV予測の予測力を向上させることができ、かつ、患者の輸液反応性、輸液蘇生、ボーラス投与、又は注入による心拍出量の増加を予測する。当該組み合わせは、そのような予測を生成するために基づいた回帰モデル又は他の機械学習モデルを採用してよい。
【0068】
本明細書では一般的に、病院の集中治療室などの臨床環境で展開されるものとして記載されているが、記載されたシステム及び手法は、在宅モニタリング環境を含む他の環境で実施されてよい。在宅モニタリング設定では、集中治療室監視装置と同じものを測定する自宅測定装置が配備され、サーバ1040にデータを送達するネットワークに接続される。
【0069】
図12は、一実施形態によるPPV推定値を生成する手法1200を示すフローチャートである。ブロック1210では、リアルタイムの患者の生理学的データが、患者データ監視システムによって、通常パテントに取り付けられた1つ以上の患者の生理学的センサから連続的に収集される。いかなる生理学的センサを用いて、センサに対応する生理学的状態を示すいかなる波形又はデータを生成しうる。また、1つのセンサが複数の生理学的データを生成することもできる。センサデータは、1つ以上のネットワークを介して、場合によっては仲介装置やネットワークを介して収集コンピュータに送信される。当該収集コンピュータは、収集したリアルタイムの生理学的データをいかなる方法で保存することができる。
【0070】
ブロック1220では、リアルタイムの患者の生理学的データから、上記のように離散フーリエ変換が生成される。
【0071】
ブロック1230では、離散フーリエ変換を上記のように用いて、PPV推定値を生成する。
【0072】
ブロック1240では、PPV推定値は、通常、患者の生理学的データも表示する臨床モニタリングシステムのモニタ画面上に表示されてよく、これは、臨床測定基準の生成に用いられる患者の生理学的データと同じであってよく、又は同じでなくてよい。臨床測定基準の表示は、数値表示、グラフ表示、テキスト表示等、いかなる方法で行うことができる。在宅モニタリングシステム等の非臨床環境では、臨床モニタリングシステムに加えて、またはその代わりに、臨床測定基準をホームモニタに表示してよい。
【0073】
ブロック1210~1240の動作は、患者が施設内にいてリスクがあると考えられる限り、継続的に実行されてよく、これは患者が施設内にいる全期間でありうる。フローチャートでは逐次的動作として示されるが、様々なブロックで示される動作は、一実施形態では非同期的に実行することができ、例えば、PPV推定値が生成されて表示されている間に、ブロック1210の患者データ収集を継続的に実行することができる。
【0074】
輸液蘇生はケアの時間が最重要である緊急技術であるため、輸液反応性を迅速かつ正確に判断することが、患者の生死を分ける。したがって、提案された手法によって提供されるような、リアルタイムの測定を行い、患者の輸液反応性を予測する機能は重要である。提案された手法は、臨床的に有用な時間に精神的又は筆記で実行しえないが、臨床医が重篤な患者の適当な治療を誘導するには、コンピュータ又は他のプログラム可能な装置の計算速度が必要である。
【0075】
上記の説明は、例示を目的としたものであり、限定的ではない。例えば、上記の実施形態は、互いに組み合わせて用いてよい。上記の説明を検討すれば、当業者には、他の多くの実施形態は、明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲を参照して、そのような特許請求の範囲が権利を有する完全な等価物の範囲とともに決定されるべきである。