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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】光デバイスおよび光デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/11 20210101AFI20230818BHJP
   H01L 31/0232 20140101ALI20230818BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
H01S5/11
H01L31/02 D
H01L21/20
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022092729
(22)【出願日】2022-06-08
(62)【分割の表示】P 2017037093の分割
【原出願日】2017-02-28
(65)【公開番号】P2022118051
(43)【公開日】2022-08-12
【審査請求日】2022-06-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [刊行物]・平成28年9月1日発行、第77回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集第13-295頁 [発表]・平成28年9月16日発表、第77回応用物理学会秋季学術講演会 朱鷺メッセ(新潟県新潟市中央区万代島6番1号)
(73)【特許権者】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】岸野 克巳
(72)【発明者】
【氏名】石沢 峻介
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0112944(US,A1)
【文献】特開2009-147140(JP,A)
【文献】国際公開第2011/117056(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103887711(CN,A)
【文献】特表2016-521459(JP,A)
【文献】特開2016-021556(JP,A)
【文献】国際公開第2010/023921(WO,A1)
【文献】特開2008-311625(JP,A)
【文献】特開2009-016370(JP,A)
【文献】特開2011-138156(JP,A)
【文献】特開2007-273730(JP,A)
【文献】特開2008-034483(JP,A)
【文献】国際公開第2006/025407(WO,A1)
【文献】特表2012-507840(JP,A)
【文献】特開2015-029136(JP,A)
【文献】特開2016-156971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H01L 33/00-33/64
H01L 31/00-31/02
H01L 31/08-31/10
H01L 31/18
H01L 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された複数の柱状結晶が規則的に配列して成る集合体を複数含み、
前記柱状結晶はIII-V族半導体を含み、
前記複数の集合体のそれぞれに含まれ、前記集合体中での位置が互いに同じである前記柱状結晶は、前記基板に垂直な方向から見て第1の格子の互いに異なる格子点に位置し、
同一の前記集合体に属する前記柱状結晶の中心軸間距離の最小値dは、互いに異なる前記集合体に属する前記柱状結晶の中心軸間距離の最小値dよりも小さく、
前記柱状結晶の幅が500nm以下であり、
前記複数の集合体は、前記第1の格子に基づくフォトニック結晶を構成している
光デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の光デバイスにおいて、
前記柱状結晶の幅は300nm以下である光デバイス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光デバイスにおいて、
前記第1の格子の格子定数は50nm以上1000nm以下である光デバイス。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、
前記基板に垂直な方向から見て、前記第1の格子の単位格子における前記柱状結晶の充填率は30%以上である光デバイス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、
/dが0.2以上0.95以下である光デバイス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、
前記複数の集合体のそれぞれは、前記基板に垂直な方向から見て線対称である光デバイス。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、
前記複数の集合体のそれぞれは、前記基板に垂直な方向から見てn回対称性を有し、nは2以上の整数である光デバイス。
【請求項8】
請求項7に記載の光デバイスにおいて、
前記集合体において前記複数の柱状結晶のそれぞれは、前記基板に垂直な方向から見て第2の格子の互いに異なる格子点に位置している光デバイス。
【請求項9】
請求項7または8に記載の光デバイスにおいて、
前記複数の集合体のそれぞれは、前記基板に垂直な方向から見て2回対称性を有する光デバイス。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、
前記集合体において、前記複数の柱状結晶は直線状に並んでいる光デバイス。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、
前記柱状結晶は角柱状である光デバイス。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、
前記第1の格子は、三角格子、六角格子、正方格子、斜交格子、および長方格子の少なくともいずれかである光デバイス。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、
前記柱状結晶における貫通転位の密度は5×10cm-2以下である光デバイス。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、
前記柱状結晶はウルツ鉱型結晶構造を有し、前記柱状結晶の側面にはm面が露出している光デバイス。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、
前記基板の表面に、開口が設けられた膜をさらに備え、
前記柱状結晶は、前記開口を通っている光デバイス。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、
隣り合う前記柱状結晶の間には空間がある光デバイス。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、
当該光デバイスは、発光デバイス、光フィルタ、または受光デバイスである光デバイス。
【請求項18】
基板の第1面に、開口が設けられた膜を形成する工程と、
前記膜の前記開口から柱状結晶を成長させて構造体を得る工程とを含み、
前記構造体は、複数の前記柱状結晶が規則的に配列して成る集合体を複数含み、
前記柱状結晶はIII-V族半導体を含み、
前記複数の集合体のそれぞれに含まれ、前記集合体中での位置が互いに同じである前記柱状結晶は、前記基板に垂直な方向から見て第1の格子の互いに異なる格子点に位置し、
同一の前記集合体に属する前記柱状結晶の中心軸間距離の最小値dは、互いに異なる前記集合体に属する前記柱状結晶の中心軸間距離の最小値dよりも小さく、
前記柱状結晶の幅が500nm以下であり、
前記構造体において前記複数の集合体は、前記第1の格子に基づくフォトニック結晶を構成している
光デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光デバイスおよび光デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率が互いに異なる領域を周期的に形成することにより、光を制御する技術として、フォトニック結晶がある。
【0003】
特許文献1および2には、III族窒化物半導体のナノコラムを基板上に形成することが記載されている。また、特許文献1には、成長面の断面積を小さくすることにより、界面における歪応力を低く抑えて、柱状結晶単位の貫通転位の発生を低く抑え、結晶における貫通転位密度を低下させることが記載されている。
【0004】
特許文献3には、化合物半導体素子において、柱状構造体の配置および柱径が二次元フォトニック結晶状に制御されていることが記載されている。また、特許文献3には、個々のナノコラムの配置を、二次元フォトニック結晶による回折格子パターン状に配置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2006/025407号
【文献】国際公開第2010/023921号
【文献】特開2008-034483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献3の方法では、光の波長に応じてナノコラムの配置周期および太さに設計上の制限が生じ、特に光の波長を長くする場合、ナノコラムをある程度太くする必要があった。その結果、ナノコラムの成長面の断面積が大きくなり、ナノコラムの結晶性が低下する場合があった。
【0007】
本発明は、結晶性の高い柱状結晶を用いた光デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
基板に形成された複数の柱状結晶が規則的に配列して成る集合体を複数含み、
前記柱状結晶はIII-V族半導体を含み、
前記複数の集合体のそれぞれは、前記基板に垂直な方向から見て第1の格子の互いに異なる格子点に位置し、
同一の前記集合体に属する前記柱状結晶の中心軸間距離の最小値dは、互いに異なる前記集合体に属する前記柱状結晶の中心軸間距離の最小値dよりも小さく、
前記柱状結晶の幅が500nm以下であり、
前記複数の集合体は、前記第1の格子に基づくフォトニック結晶を構成している
光デバイス
が提供される。
【0009】
本発明によれば、
基板の第1面に、開口が設けられた膜を形成する工程と、
前記膜の前記開口から柱状結晶を成長させて構造体を得る工程とを含み、
前記構造体は、複数の前記柱状結晶が規則的に配列して成る集合体を複数含み、
前記柱状結晶はIII-V族半導体を含み、
前記複数の集合体のそれぞれは、前記基板に垂直な方向から見て第1の格子の互いに異なる格子点に位置し、
同一の前記集合体に属する前記柱状結晶の中心軸間距離の最小値dは、互いに異なる前記集合体に属する前記柱状結晶の中心軸間距離の最小値dよりも小さく、
前記柱状結晶の幅が500nm以下であり、
前記構造体において前記複数の集合体は、前記第1の格子に基づくフォトニック結晶を構成している
光デバイスの製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、結晶性の高い柱状結晶を用いた光デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る光デバイスの構造を例示する平面図である。
図2】第1の実施形態に係る光デバイスの構造を例示する断面図である。
図3】第1の実施形態に係る光デバイスの構造の変形例1を示す断面図である。
図4】(a)および(b)は、第1の実施形態に係る光デバイスの製造方法を例示する図である。
図5】(a)および(b)は、それぞれ柱状結晶の頂部の形状の変形例を示す図である。
図6】(a)~(e)はそれぞれ、第1の実施形態に係る複数の集合体を例示する平面図である。
図7】(a)~(e)はそれぞれ、第1の実施形態に係る複数の集合体を例示する平面図である。
図8】(a)~(g)はそれぞれ、第1の実施形態に係る複数の集合体を例示する平面図である。
図9】第1の格子が正方格子である例を示す平面図である。
図10】複数の集合体の構造を例示する平面図である。
図11】凝集率について説明するための図である。
図12】第2の実施形態に係る光デバイスの構造を例示する断面図である。
図13】(a)は第2の実施形態に係る光デバイスの一例を基板に垂直な方向から電子顕微鏡で観察した結果を示す図であり、(b)は第2の実施形態に係る柱状結晶の一例を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図14】第2の実施形態に係る光デバイスの構造の変形例を示す断面図である。
図15】第3の実施形態に係る光デバイスの構造を例示する断面図である。
図16】(a)および(b)はそれぞれ比較例1および実施例1に係る構造を示す平面図であり、(c)および(d)はそれぞれ比較例1および実施例1の構造で生じるフォトニックバンドを示す図である。
図17】(a)~(d)はそれぞれ比較例2および実施例2~実施例4に係る構造を示す平面図であり、(e)~(h)はそれぞれ比較例2および実施例2~実施例4の構造で生じるフォトニックバンドを示す図である。
図18】(a)~(d)はそれぞれ実施例5~実施例7、および比較例3に係る光デバイス構造を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図19】(a)は、実施例7および比較例3の光デバイス構造に対し、光励起PL測定を行った結果を示す図であり、(b)は、実施例7の光デバイス構造に対し、角度分解PL測定を行った結果を示す図である。
図20】(a)および(b)はそれぞれ、実施例5および実施例6の光デバイス構造に対し、PL強励起測定を行った結果を示す図である。
図21】(a)および(b)はそれぞれ比較例4および実施例8に係る光デバイス構造の平面図であり、(c)および(d)はそれぞれ、比較例4および実施例8の光デバイス構造に対し、角度分解PL測定を行った結果を示す図である。
図22】(a)および(b)は、実施例8の光デバイス構造を光励起発振させた結果を示す図である。
図23】(a)から(c)は、それぞれ実施例9から実施例11に係る光デバイス構造を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図24】フォトニックバンド端波長が520nmとなるときの、格子定数αと幅wと凝集率Cとの関係を計算した結果を示す図である。
図25】比較例5-1から比較例5-5、および実施例13-1から実施例13-10に係る光デバイス構造を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図26】比較例6-1から比較例6-4、および実施例14-1から実施例14-3に係る光デバイス構造を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図27】比較例7-1から比較例7-4、および実施例15-1から実施例15-3に係る光デバイス構造を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図28】(a)~(d)は、比較例8および比較例9に係る光デバイス構造に対するフォトルミネッセンス測定の結果を示す図である。
図29】(a)~(c)は、実施例16に係る光デバイス構造に対するフォトルミネッセンス測定の結果を示す図である。
図30】実施例17に係る光デバイス構造に対し、フォトルミネッセンス測定を行った結果を示す図である。
図31】柱状結晶が太さ方向に積層された複数の層を含む例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る光デバイス10の構造を例示する平面図である。本図は、基板400に垂直な方向から見た状態を示している。本実施形態に係る光デバイス10は、複数の集合体20を含む。集合体20は、基板400に形成された複数の柱状結晶30が規則的に配列して成る。柱状結晶30はIII-V族半導体を含む。複数の集合体20のそれぞれは、基板400に垂直な方向から見て第1の格子の互いに異なる格子点に位置する。そして、同一の集合体20に属する柱状結晶30の中心軸間距離の最小値dは、互いに異なる集合体20に属する柱状結晶30の中心軸間距離の最小値dよりも小さい。以下に詳しく説明する。
【0014】
III-V族半導体を、ナノスケールの柱状構造にボトムアップ成長させると、結晶性の高い柱状結晶が得られる。この理由としては、成長断面積が小さいことにより、結晶歪みが緩和されやすくなる歪み緩和効果、および、結晶内に生じた貫通転位が壁面に逃げて消失しやすくなる貫通転位の離脱効果が挙げられる。詳しくは、柱状結晶を成長させるための下地結晶にたとえば1011cm-2を超えるような高い密度で転位が含まれ、その転位が柱状結晶内に貫通することがあっても、転位が柱状結晶の下部で曲がり、その側面に抜けて消失する。すなわち、結晶性の低い下地結晶を用いる場合でも、高品質の柱状結晶が得られる。
【0015】
柱状結晶をトップダウンで形成する場合、柱状結晶に含まれる転位数は元となる膜構造または層構造の転位密度に依存する。この場合においても、歪み緩和効果が発現し、結晶性の高い柱状結晶が得られる。
【0016】
ただし、このような歪み緩和効果、および貫通転位の離脱効果を得るためには、柱状結晶の径はある程度小さい必要がある。
【0017】
柱状結晶の配列に関しては、構造体内に個々の柱状結晶を格子状に配置して、柱状結晶の格子配置に基づくフォトニック結晶を構成しようとする場合、すなわち集合体を形成しない場合、柱状結晶の間隔(格子定数)と太さは、その構造体をフォトニック結晶として機能させようとする光の波長(フォトニックバンド端波長)に応じて決める必要があった。波長、柱状結晶の間隔、および太さの間には所定の関係があるからである。具体的には、長波長の光を構造体と相互作用させるためには、柱状結晶の太さが同じであれば間隔を大きくする必要があった。また波長は間隔でほぼ決まるものの、太さによっても変化し、長波長の光を構造体と相互作用させるためには、間隔が同じであれば柱状結晶を太くする必要があった。したがって、波長に依存して柱状結晶の太さと間隔の設計自由度が制限されていた。
【0018】
その上、柱状結晶を細くし空間での柱状結晶の密度が小さくなりすぎると、構造体がフォトニック結晶として十分機能しなくなる場合があった。たとえば結晶品質を高めるために柱状結晶を細くしていくと、動作波長が短くなるため、間隔を大きくする必要があり、充填率は加速度的に小さくなる。その結果、デバイスとしての動作が難しくなる。また、細い柱状結晶を広い間隔で独立に配置すると、柱状結晶が機械的に弱くなるという問題もあった。そして、柱状結晶内に発光層等の活性層を設ける場合には、発光体の体積が小さくなり、ひいては発光強度が小さくなる。この結果、レーザ等ではレーザ利得を得にくくなることにより発振が起こりにくくなるという問題が生じ得た。さらに、柱状結晶の上に電極を配置する場合には、柱状結晶間への電極の入り込みが生じるおそれがあった。
【0019】
このように、長波長に対応するフォトニック結晶を得ようとする場合には、柱状結晶の径を太くする必要があり、結晶の質が損なわれる場合があった。結晶の質は柱状結晶の発光特性に影響するため、特に長波長の光を高輝度で出力する光デバイスを得ることは難しかった。
【0020】
これに対し、本実施形態に係る光デバイス10では、集合体20を格子状に配置して、集合体20の格子配置に基づくフォトニック結晶を構成する。そして、集合体20に含まれる柱状結晶30の太さは、その格子定数に縛られることなく決定することができる。したがって、フォトニック結晶を利用した光デバイスにおいて、出力光の波長によらず結晶の質が高い柱状結晶を用いることができる。そして、良好な光出力特性を有する光デバイスを実現できる。
【0021】
図2は、本実施形態に係る光デバイス10の構造を例示する断面図である。図2は、図1のA-A断面に相当する。なお、図1において、後述する膜410は省略されている。本実施形態に係る光デバイス10は、発光デバイス、光フィルタ、または受光デバイスである。光デバイス10において、複数の集合体20は、フォトニック結晶を構成している。光デバイス10はたとえば光励起、電子線励起、または電流注入により光を出力するデバイスである。光デバイス10が励起により光を出力する場合、たとえば、光デバイス10は入力された励起光を所定の波長の光に変換して出力する。光デバイス10が電子線励起により光を出力する場合、光デバイス10は電子線のエネルギーを所定の波長の光に変換して出力する。光デバイス10が電流注入により光を出力する場合、電子とホールを柱状結晶30内で再結合させ、所定の波長の光を出力する。光デバイス10が受光デバイスである場合、光デバイス10では受光した光を電気エネルギーに変換する。このとき、受光デバイスは所定の波長について特に高効率で光電変換を行える。受光デバイスにおいては、特に高い結晶品質が求められることから、本実施形態の構造が特に有益である。ここで、所定の波長はフォトニック結晶の格子定数に依存する。言い換えると、所定の波長は、集合体20の配置、すなわち第1の格子に基づく波長である。
【0022】
以下において、柱状結晶30のうち基板400側の一端を「底部」と呼び、基板400側とは反対側の一端を「頂部」と呼ぶ。また、柱状結晶30の底部と頂部を結ぶ高さ方向を、柱状結晶30の「軸方向」とも呼ぶ。柱状結晶30の軸方向は、基板400の第1面401に垂直である。
【0023】
柱状結晶30は、III-V族半導体を含む。III-V族半導体は、III族元素とV族元素とを含む結晶である。III族元素はB、Al、Ga、およびInからなる群から選択される一以上の元素である。V族元素は、N、As、およびPからなる群から選択される一以上の元素である。柱状結晶30はIII-V族半導体としてIII族窒化物半導体を含んでも良い。III族窒化物半導体は窒素と、一以上のIII族元素とを含む結晶である。ここで、III族窒化物半導体は、たとえば一般式AlGaIn1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、かつ0≦x+y≦1)で表される。なお、柱状結晶30は一部に酸化物を含んでも良い。また、柱状結晶30はドーパント等の不純物をさらに含んでも良い。
【0024】
たとえば、長波長の出力光を得ようとする場合、柱状結晶30はInを含むことが好ましい。本実施形態に係る光デバイス10では、細い柱状結晶30を用いることができることから、格子不一致が生じやすい複数の原子を柱状結晶30が含んだ場合でも、格子ひずみが緩和されて混和性が高くなり、均質かつ良質な結晶が得られやすい。さらに、格子定数の異なる結晶層を含む場合でも、不整合転位が発生する膜厚(臨界膜厚)が大きくなり、転位の発生が抑制される。
【0025】
柱状結晶30は、柱状結晶30の高さ方向に積層された複数の層を含んでも良い。また柱状結晶30は、柱状結晶30の太さ方向に積層された複数の層を含んでも良い。複数の層のうち互いに隣り合う二層は、組成が互いに異なる。なお、組成が互いに異なるとは、結晶に含まれる元素の組み合わせ、および各元素の含有比率の少なくとも一方が互いに異なることをいう。
【0026】
柱状結晶30はp型半導体層と、n型半導体層を含んでも良い。たとえば柱状結晶30の軸方向の一端をp型半導体層およびn型半導体層の一方とし、柱状結晶30の他端を、p型半導体層およびn型半導体層の他方とする。そうすることで、柱状結晶30に電子およびホールを注入することができる。また柱状結晶30は、活性層302として量子井戸構造等のヘテロ構造を含んでも良い。ヘテロ構造はたとえばp型半導体層とn型半導体層との間に形成される。本図は、柱状結晶30が活性層302を備える例を示している。なお、柱状結晶30の幅は、層の組成の違いや柱状結晶30の充填率の大小、または成長条件の違い等に起因して長さ方向に変化していても良いし、変化していなくても良い。
【0027】
図31は、柱状結晶30が太さ方向に積層された複数の層を含む例を示す断面図である。本図は、基板400に平行な断面を示している。柱状結晶30は、高さ方向の少なくとも一部分において、太さ方向に積層された複数の層を含んでもよい。本図の例において、柱状結晶30は、中心から外側に向かって、中心部310、第1外周層311、および第2外周層312がこの順に積層された構造を有する。第1外周層311は中心部310の外周を囲っており、第2外周層312は第1外周層311の外周を囲っている。たとえば中心部310および第2外周層312の一方はn型半導体であり、他方はp型半導体であり、第1外周層311は活性層である。このような構造はたとえばMOCVD法を用いて形成される。なお、本図では柱状結晶30の基板400に平行な断面の形状が六角形である例を示しているが、柱状結晶30の断面の形状は他の多角形であっても良いし、円形であっても良い。
【0028】
図2に戻り、光デバイス10は基板400をさらに含む。複数の柱状結晶30は基板400の同一面に設けられている。基板400としてはたとえば、半導体、ガラス、および金属の少なくともいずれかを含む基板が挙げられる。基板400は、複数の層から成っていても良い。本図の例において、基板400は、第1の層403および第2の層404を含む。第1の層403はたとえばサファイア、Si、またはシリカガラス(SiO)であり、第2の層404はたとえばIII-V族半導体である。第2の層404は、柱状結晶30と接合している。III-V族半導体としては、柱状結晶30に関して説明した通りである。また、基板400はさらに多層膜反射鏡(Distributed Bragg Reflector:DBR)を含んでも良い。基板400は、最表面にIII-V族半導体を含むことが好ましい。また、基板400は、最表面に金属を含んでも良い。
【0029】
基板400はたとえば、サファイア基板などの下地基板(第1の層403)上にIII-V族半導体層(第2の層404)をエピタキシャル成長させて得ることができる。具体的には、有機金属化学気相堆積(MOCVD:Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法やMBE(Molecular Beam Epitaxy)法により、下地基板上に窒化ガリウムや窒化アルミニウムなどのバッファ層(図示せず)を低温プロセスで成長させ、このバッファ層上にIII-V族半導体層を成長させる。
【0030】
本図の例において光デバイス10は、基板400の表面に膜410をさらに備える。膜410には開口411が設けられており、柱状結晶30は、開口411を通っている。より詳しくは、膜410は基板400の第1面401に形成されている。膜410には複数の開口が設けられており、各開口を通って一つの柱状結晶30が、第1面401に垂直な方向に延びている。また、本図の例では柱状結晶30の底部において、柱状結晶30の側面は第1面401に垂直である。膜410は柱状結晶30を成長させる際、マスク、すなわち成長抑制膜として機能する。膜410はたとえばTi、Ta、Fe、Ni、Pt、Au、Co、W、およびMoからなる群から選択される一以上の金属を含む膜である。膜410は金属の酸化物および窒化物のうち少なくとも一方を含んでも良い。また、膜410は窒化シリコン、酸化シリコン等の、シリコンを含む膜であっても良いし、グラフェンであっても良い。膜410の厚さは例えば2nm以上100nm以下である。なお、光デバイス10は膜410を備えていなくても良い。
【0031】
なお、複数の柱状結晶30の間には、絶縁材料等、柱状結晶30の材料とは異なる材料が充填されていても良い。
【0032】
図3は、本実施形態に係る光デバイス10の構造の変形例1を示す断面図である。本変形例に係る光デバイス10は、第1電極430aおよび第2電極430bをさらに有する点を除いて実施形態に係る光デバイス10と同様である。第1電極430aは柱状結晶30の頂部に接続されている。詳しくは、第1電極430aは複数の柱状結晶30の頂部にわたって連続して形成されている。一方第2電極430bは基板400に接続されている。本図の例において、膜410には、第2電極430bを設けるための開口がさらに設けられている。光デバイス10が発光デバイスである場合、本実施例において光デバイス10は、電流注入により光を出力する。具体的には第1電極430aと第2電極430bとの間に電圧を印加することにより、複数の柱状結晶30に電子およびホールを注入し、柱状結晶30を発光させることができる。また、光デバイス10が受光デバイスである場合、発生した電気エネルギーが第1電極430aおよび第2電極430bを通じて取り出される。
【0033】
第1電極430aおよび第2電極430bは、それぞれ金属膜および透明導電膜の少なくともいずれかを含む電極である。第1電極430aの材料と第2電極430bの材料とは互いに異なっていてもよいし同じであっても良い。金属膜としてはAl、Pt、Au、Ag、Ni、Pd等が挙げられる。また、透明導電膜としては、ITO、IZO、IGZO、ZnO、AZO等の金属酸化物やグラフェン等が挙げられる。また、電極は、金属の多層構造または金属酸化物層と金属層とを含む多層構造を有していても良い。金属酸化物層と金属層とを含む多層構造としては、ITO、Ag、およびITOをこの順に積層した構造や、AZO、Ag、およびAZOをこの順に積層した構造等が挙げられる。さらに、第1電極430aは、柱状結晶30側から光透過性が高い金属の薄膜導電膜と透明導電膜とを積層させた構造であっても良い。
【0034】
図4(a)および(b)は、本実施形態に係る光デバイス10の製造方法を例示する図である。本製造方法は、膜410を形成する工程および構造体100を得る工程を含む。膜410を形成する工程では、基板400の第1面401に、開口411が設けられた膜410を形成する。構造体100を得る工程では、膜410の開口411から柱状結晶30を成長させて構造体100を得る。構造体100は、複数の柱状結晶30が規則的に配列して成る集合体20を複数含む。柱状結晶30はIII-V族半導体を含む。複数の集合体20のそれぞれは、基板400に垂直な方向から見て第1の格子の互いに異なる格子点に位置する。そして、同一の集合体20に属する柱状結晶30の中心軸間距離の最小値dは、互いに異なる集合体20に属する柱状結晶30の中心軸間距離の最小値dよりも小さい。
【0035】
本製造方法では、構造体100をそのまま光デバイス10としてもよい。また、本製造方法は構造体100に対して電極を形成する工程をさらに含んでも良い。電極を形成する工程では、構造体100に対して第1電極430aおよび第2電極430b等を形成して光デバイス10を得る。
【0036】
本実施形態に係る光デバイス10の製造方法について以下に詳しく説明する。膜410を形成する工程では、まず基板400の第1面401に蒸着法等により膜410を成膜する。次いで膜410に開口411を形成する。開口411を形成する方法としては、たとえばレジストパターンをエッチングマスクとして膜410の一部をエッチングする方法、およびFIB(Focused Ion Beam)法を用い、収束イオンビームを膜410に照射して開口411を形成する方法が挙げられる。開口411を形成する工程において、基板400にはわずかに凹部が形成されても良い。開口411は柱状結晶30を形成しようとする位置に形成される。開口411の形状は第1面401に垂直な方向から見て円、矩形、多角形等であり得る。
【0037】
構造体100を得る工程では、開口411に露出した基板400から、柱状結晶30を成長させる。柱状結晶30の成長させる方法としてはたとえばMOCVD法、およびRF(Radio Frequency)-MBE法等のMBE法が挙げられる。柱状結晶30は開口411内の全体に形成され、膜410の上方まで成長する。なお、上方とは、膜410を基準に基板400とは反対側の方向である。ただし、本方向は、光デバイス10の製造および使用状態における上下方向とは無関係である。
【0038】
膜410の上方まで成長した柱状結晶30を、さらに膜410の第1面412で、第1面401に平行な方向に横方向成長させても良い。ここで、第1面412は、膜410のうち、基板400に対向する面とは反対側の面である。その場合、柱状結晶30の断面積は膜410の第1面412側で開口411の面積よりも大きくなる。なお、柱状結晶30を横方向成長させるためには、相対的に窒素供給量を増加する方法や、成長温度を相対的に下げる方法、AlやInを添加する方法等がある。すべての柱状結晶30が同時に形成されることにより、基板400に形成された同じパターン内の複数の柱状結晶30の高さは互いにほぼ同じとなる。
【0039】
柱状結晶30を成長させる間に、原料の種類や供給量等を制御することにより、柱状結晶30に複数の層を形成することができる。
【0040】
柱状結晶30をボトムアップで形成することにより、良質な柱状結晶30を制御性よく得ることができる。また、柱状結晶30のアスペクト比を高くすることができ、フォトニック結晶構造による光制御効果が高まる。柱状結晶30の幅をwとし、柱状結晶30の高さをhとしたとき、h/wはたとえば1以上50以下である。h/wは1.5以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。
【0041】
柱状結晶30の高さhはたとえば0.2μm以上である。また柱状結晶30の高さhはたとえば5μm以下である。柱状結晶30の幅wはたとえば500nm以下である。上述の貫通転位の離脱効果および歪み緩和効果をより効果的に発現させるために、柱状結晶30の幅wは300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましい。柱状結晶30の幅wはたとえば10nm以上である。
【0042】
細い柱状結晶30をボトムアップ成長させることで、基板400を問わず貫通転位密度が低い柱状結晶30が得られる。たとえば、基板400の柱状結晶30と接合する層が、Si層や、金属層、または貫通転位密度の高い半導体層等であったとしても、柱状結晶30における貫通転位の密度をたとえば5×10cm-2以下とすることができる。基板400等の条件によって、貫通転位の密度は好ましくは10cm-2以下とすることができ、より好ましくは10cm-2以下とすることができ、さらに好ましくは10cm-2以下とすることができる。また、柱状結晶30の貫通転位密度を、基板400のうち柱状結晶30と接合する層の貫通転位密度の100分の1以下とすることができる。さらに、柱状結晶30に含まれる層において、不整合転位が発生する臨界厚さを厚くすることができる。
【0043】
なお、柱状結晶30の高さhとは、基板400と柱状結晶30の接合面から柱状結晶30の最頂点までの高さであり、第1面401に垂直な方向の高さである。また、柱状結晶30の幅wとは、基板400の第1面401に平行な柱状結晶30の基準断面における内接円の直径である。ここで、基準断面は柱状結晶30の根元部分での断面である。柱状結晶30の根元部分とは、たとえば第1面401から200nm以内の範囲である。なお、光デバイス10の製造において、膜410の上で柱状結晶30を横方向成長させる場合、柱状結晶30の根元部分で柱状結晶30の断面は一様でない。そして、根元部分で第1面401側から順に、細い部分と太い部分とが存在し、これらの部分の境界では柱状結晶30の断面積がステップ状に大きくなる。この境界は、膜410の上面、すなわち、膜410の第1面401側とは反対側の面と同一平面上にある。そして、この太い部分の断面を基準断面とする。具体的には、柱状結晶30の根元部分で柱状結晶30の断面が一様でなく、かつ光デバイス10が膜410を有する場合、基準断面は、膜410を基準に基板400とは反対側で、膜410に接する部分の断面である。また、柱状結晶30の根元部分で柱状結晶30の断面が一様でなく、かつ膜410が取り除かれて光デバイス10が膜410を有さない場合、第1面401から200nm以内の範囲内で、かつ第1面401との接合部に比べて断面積が大きい部分の断面を基準断面とする。
【0044】
柱状結晶30の断面形状は特に限定されないが、たとえば円形、矩形、多角形等であり得る。ここで、柱状結晶30の断面形状とは、第1面401に平行な断面の形状である。柱状結晶30の断面形状は、開口411と同じであっても良いし異なっていても良い。また、柱状結晶30の中心軸は必ずしも開口411の中心を通らなくても良い。
【0045】
一例として柱状結晶30は角柱状でありえる。なかでも、柱状結晶30がウルツ鉱型結晶構造を有し、柱状結晶30の側面にm面、すなわち(10-10)面が露出する場合、柱状結晶30は正六角柱となる。
【0046】
図2の例において、柱状結晶30はその頂部に斜面を含まず、柱状結晶30の頂面は第1面401に平行な平面である。
【0047】
図5(a)および(b)は、それぞれ柱状結晶30の頂部の形状の変形例を示す図である。これらの変形例では、柱状結晶30はその頂部にファセット構造を有する。すなわち、柱状結晶30はその頂部に斜面を有する。斜面は、第1面401に対して傾いた面である。ウルツ鉱型結晶構造のIII-V族半導体を、c面(=(0001)面)と呼ばれる極性面の方向に成長させて柱状結晶30を形成した場合、柱状結晶30の断面形状は、六角形となる。図5(a)および(b)の例において、柱状結晶30の頂部は、斜め上方を向いたファセット面として、ウルツ鉱型結晶構造の半極性面304からなる傾斜面を有している。ここで、半極性面304としては、たとえば、(10-1-1)面、(10-1-3)面、(11-22)面、(11-24)面、(10-12)面が挙げられる。図5(a)の例において、柱状結晶30の頂部は六角錐状である。図5(b)の例において、柱状結晶30の頂部はさらに、第1面401に平行な極性面305を有している。結晶の成長条件を調整することで、図5(a)または(b)に示す形状の柱状結晶30が形成できる。
【0048】
なお、光デバイス10の製造方法は上記したボトムアップの例に限定されない。光デバイス10はエッチングによるトップダウンで複数の柱状結晶30を形成することにより製造されてもよい。
【0049】
図6(a)~(e)はそれぞれ、本実施形態に係る複数の集合体20を例示する平面図である。図6(a)は各集合体20が柱状結晶30を3個含む例を示しており、図6(b)は各集合体20が柱状結晶30を4個含む例を示しており、図6(c)は各集合体20が柱状結晶30を7個含む例を示しており、図6(d)は各集合体20が柱状結晶30を9個含む例を示しており、図6(e)は各集合体20が柱状結晶30を12個含む例を示している。
【0050】
集合体20が含む柱状結晶30の数は特に限定されないが、3個以上であることが好ましく、7個以上であることがより好ましい。そうすれば、より小さい径の柱状結晶30を用いることができる。
【0051】
集合体20内での柱状結晶30の配置は特に限定されない。複数の集合体20のぞれぞれは、基板400に垂直な方向から見てn回対称性を有する構造とすることができる。ここで、nは2以上の整数である。具体的にはたとえば、集合体20において複数の柱状結晶30のそれぞれは、基板400に垂直な方向から見て第2の格子の互いに異なる格子点に位置してもよい。中でも、集合体20の充填率を高める観点から、柱状結晶30は第2の格子において、一の閉じた外周線の内側で全ての格子点に配置されていることが好ましい。第2の格子はたとえば、三角格子、六角格子、正方格子、斜交格子、および長方格子の少なくともいずれかである。
【0052】
複数の集合体20のそれぞれは、基板400に垂直な方向から見て2回対称性を有してもよい。たとえば、集合体20において、複数の柱状結晶30は直線状に並んだ配置とすることができる。複数の集合体20のそれぞれが2回対称性を有することにより、光デバイス10の出力光の偏光を制御したり、光の出力方向や指向性を制御したりすることができる。また、複数の集合体20のそれぞれは、基板400に垂直な方向から見て線対称であり得る。この場合でも、光デバイス10の出力光の偏光を制御したり、光の出力方向や指向性を制御したりすることができる。たとえばレーザをディスプレイに応用する場合等、偏光方向を制御したレーザが求められる場合に、このような偏光が制御された光デバイス10が特に有効である。このような光デバイス10の応用例としては、液晶のバックライト光源が挙げられる。
【0053】
図7(a)~(e)および図8(a)~(g)はそれぞれ、本実施形態に係る複数の集合体20を例示する平面図である。図7(a)および(b)は各集合体20が3回対称性を有する例を示しており、図7(c)~(e)は各集合体20が2回対称性を有する例を示している。図8(a)は各集合体20が6回対称性を有する例を示しており、図8(b)~(f)は各集合体20が対称性を有さない例を示している。図7(a)~(e)、図8(a)および(g)の例では各集合体20が線対称である。図8(g)の例では各集合体20は回転対称性を有さないが、線対称である。
【0054】
光デバイス10が有する集合体20の数は特に限定されない。ただし良好な光制御効果を得るために、光デバイス10は10個以上の集合体を含むことが好ましい。また、複数の集合体20における柱状結晶30の配置は、全ての集合体20について同じであっても良いし、同じでなくても良い。
【0055】
上述した通り、複数の集合体20はそれぞれ第1の格子の互いに異なる格子点に位置している。そして光デバイス10の動作波長は、第1の格子の格子定数に依存する。第1の格子はたとえば、三角格子、六角格子、正方格子、斜交格子、および長方格子の少なくともいずれかである。図1図6(a)~(e)、図7(a)~(e)、および図8(a)~(g)の例において、第1の格子は三角格子であり、かつ六角格子である。
【0056】
図9は、第1の格子が正方格子である例を示す平面図である。
【0057】
第1の格子の格子定数αはたとえば50nm以上1000nm以下であり、好ましくは100nm以上1000nm以下である。そうすれば、光デバイス10は紫外域から赤外域まで間の波長帯で動作することができる。また、第1の格子の格子定数αが200nm以上500nm以下であれば、光デバイス10を可視光域の波長帯で動作するフォトニック結晶を有する構造とすることができる。ここで、格子定数αは、単位格子を構成する辺の長さである。なお、第1の格子が長方格子等であり複数の格子定数が存在する場合、格子定数αはそれらのうち最も大きな格子定数を示す。
【0058】
基板400に垂直な方向から見て、第1の格子の単位格子における柱状結晶30の充填率fはたとえば30%以上であり、好ましくは40%以上である。そうすれば、フォトニック結晶による光制御の効果が高まるとともに、柱状結晶30の頂部に電極を設ける場合にも金属の回り込みによる電流リークを低減できる。
【0059】
なお充填率fは、基準断面における単位格子の面積をSとし、単位格子中の柱状結晶30が占める面積をSとしたとき、S/S×100[%]で表される。基準断面については上述した通りである。
【0060】
図10は、複数の集合体20の構造を例示する平面図である。本図を参照し、dおよびdについて詳しく説明する。上述した通り、光デバイス10においてdはdよりも小さい。dは同一の集合体20に属する柱状結晶30の中心軸間距離の最小値であり、dは互いに異なる集合体20に属する柱状結晶30の中心軸間距離の最小値である。dおよびdについては、以下のように言い換えることができる。光デバイス10が第1の集合体20aと、第1の集合体20aに最も近い第2の集合体20bとを有する。そして、第1の集合体20aに含まれる一の柱状結晶30と第2の集合体20bに含まれる一の柱状結晶30との組み合わせのうち、最も近い組み合わせである二つの柱状結晶30の中心軸間距離がdである。一方、第1の集合体20aに含まれる複数の柱状結晶30のうち互いに最も近い二つの柱状結晶30の中心間距離がdである。d/dはたとえば0.2以上0.95以下であり、好ましくは0.4以上0.95以下である。dがdよりも小さいことにより、複数の柱状結晶30が互いに寄り合った集合体20が構成される。そして、第1の格子に基づくフォトニック結晶の光制御効果が発現する。
【0061】
また、充填率を高める観点から、同一の集合体20内の柱状結晶30の側面間の最小距離dは3nm以上50nm以下であることが好ましい。なお、dは上記した基準断面での距離である。そして、同様に充填率を高める観点から、d/αで表される値は0.2以上0.6以下であることが好ましい。
【0062】
図11は、凝集率Cについて説明するための図である。光デバイス10において、凝集率Cは5%以上50%以下であることが好ましく、5%以上30%以下であることがより好ましい。ここで、凝集率Cは、C=(α-α)/α×100[%]で得られる値である。ここで、定数βを用いて、α=α/βが成り立つ。αは第1の格子の格子定数であり、αは第2の格子の格子定数である。本図において、第1の格子と第2の格子がいずれもが六角格子である。その上で本図のように集合体20が3個の柱状結晶30からなる場合βは√3である。また、図6(b)のように集合体20が4個の柱状結晶30からなる場合βは2であり、図6(c)のように集合体20が7個の柱状結晶30からなる場合βは√7である。
【0063】
凝集率Cの意味について以下に説明する。光デバイス10における柱状結晶30の配置の設計方法としては、たとえば以下のような方法がある。まず、第3の格子の格子点に一様に配置された複数の柱状結晶を仮定する。この複数の柱状結晶から基準となる基準柱状結晶と、一つの集合体に含める柱状結晶を決める。この基準柱状結晶は、第1の格子の互いに異なる格子点に位置するようにする。そして、各柱状結晶の径を小さくするとともに、基準柱状結晶の周りの柱状結晶を、基準柱状結晶に寄せることにより集合体を形成する。その結果、各集合体中の複数の柱状結晶は、第2の格子の互いに異なる格子点に位置する。
【0064】
このような設計方法において、αは第3の格子の格子定数に相当する。そして、凝集率Cは、第3の格子の格子定数を基準とした、第2の格子の凝集の程度を意味する。凝集率Cは、たとえば複数の柱状結晶30のそれぞれが第3の格子の互いに異なる格子点に一様に配置された構造(凝集率C=0%)と、集合体20が形成された構造との対比に用いることができる。
【0065】
凝集率Cが5%以上であれば、第1の格子に基づくより良好なフォトニックバンド構造が得られる。また、凝集率Cが30%以下であれば、柱状結晶30の充填率fが小さくなりすぎない。
【0066】
次に、本実施形態の作用および効果について説明する。本実施形態によれば、複数の柱状結晶30からなる集合体20を格子状に配置することにより、柱状結晶30の太さをフォトニック結晶の格子定数に縛られることなく決定することができる。したがって、動作波長によらず結晶の質が高い柱状結晶を用いることができ、良好な光出力特性または変換特性を有する光デバイスを実現できる。
【0067】
(第2の実施形態)
図12は、第2の実施形態に係る光デバイス10の構造を例示する断面図である。本図は第1の実施形態の図2に対応する。本実施形態に係る光デバイス10は、柱状結晶30の太さが軸方向に変化している点を除いて第1の実施形態に係る光デバイス10と同じである。すなわち本実施形態では、柱状結晶30は、第1の幅を有する第1領域と、第1の幅とは異なる第2の幅を有する第2領域とを含む。
【0068】
柱状結晶30は少なくとも一部において互いに離れていれば良く、隣接する他の柱状結晶30と繋がった部分を一部に有していても良い。
【0069】
本図の例において、具体的には各柱状結晶30は基板400から離れるほど太くなっている。そして、複数の柱状結晶30は頂部において互いに繋がっている。この場合、柱状結晶30の頂部付近で柱状結晶30の充填率が高まることにより、等価的な屈折率が上がる。その結果、キャップレイヤーモードが発現し、より強いフォトニック結晶効果が得られる。さらに、光デバイス10の機械的強度を高めることもできる。
【0070】
図13(a)は本実施形態に係る光デバイス10の一例を基板400に垂直な方向から電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。また、図13(b)は本実施形態に係る柱状結晶30の一例を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。図13(b)は、柱状結晶30を光デバイス10から取り出し、柱状結晶30の長さ方向に垂直な方向から柱状結晶30を見た結果である。
【0071】
図13(a)および(b)の例において、各集合体20は3個の柱状結晶30を含み、C=20%、α=350nmである。図13(a)では、少なくとも各集合体20内において、複数の柱状結晶30の頂部が直接繋がっていることが分かる。また、図13(b)では、柱状結晶30の太さが長さ方向に変化していることが分かり、このことから柱状結晶30の底部では各柱状結晶30が独立していることが分かる。なお、複数の柱状結晶30は各集合体20内においてのみ繋がっていてもよいし、複数の集合体20にわたって繋がっていてもよい。また、各柱状結晶30は中間部にInGaNからなる活性層を含み、この活性層では複数の柱状結晶30は互いに直接繋がっていない。
【0072】
図14は、第2の実施形態に係る光デバイス10の構造の変形例を示す断面図である。本変形例では、柱状結晶30の頂部付近のみで幅が変化している。具体的には、柱状結晶30の頂部付近において、柱状結晶30の幅は基板400から離れるほど大きくなっている。この場合も、柱状結晶30の頂部付近で柱状結晶30の充填率が高まることにより、等価的な屈折率が上がる。その結果、キャップレイヤーモードが発現し、より強いフォトニック結晶効果が得られる。さらに、光デバイス10の機械的強度を高めることができる。
【0073】
本実施形態に係る光デバイス10において、複数の柱状結晶30は少なくとも活性層302の部分および底部で互いに独立している。
【0074】
次に、本実施形態の作用および効果について説明する。本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。くわえて、より強いフォトニック結晶効果が得られるとともに、光デバイス10の機械的強度を高めることができる。
【0075】
(第3の実施形態)
図15は、第3の実施形態に係る光デバイス10の構造を例示する断面図である。本図は第1の実施形態の図2に対応する。本実施形態に係る光デバイス10は、柱状結晶30がクラッド層、光閉じ込め層、および活性層を有する点を除いて第1の実施形態および第2の実施形態の少なくともいずれかに係る光デバイス10と同じである。
【0076】
本図の例において、柱状結晶30は、バッファ層309、n型クラッド層306、光閉じ込め層307、活性層302、光閉じ込め層307、およびp型クラッド層308を基板400側からこの順に含む。そして、柱状結晶30の頂部にはコンタクト層440および第1電極430aが形成されている。たとえばバッファ層309はn-GaNであり、n型クラッド層306はn-AlGaNであり、光閉じ込め層307はi-GaNであり、活性層302はInGaNであり、p型クラッド層308はp-AlGaNであり、コンタクト層440はp-GaNであり、第1電極430aはITOである。ただし、各層および電極の材料は特に限定されない。コンタクト層440および第1電極430aは、複数の柱状結晶30にわたり連続して形成されている。
【0077】
バッファ層309は基板400とn型クラッド層306との間を接続し、柱状結晶30の結晶品質を高める機能を有する。n型クラッド層306、p型クラッド層308、および光閉じ込め層307は、活性層302に光を閉じ込める機能を有する。柱状結晶30がこのような構造を有することにより、柱状結晶30には本図中破線で示したような光電界分布を生じる。すなわち、柱状結晶30の高さ方向の光電界分布のピークが活性層302に位置する。
【0078】
本実施形態に係る光デバイス10では、柱状結晶30の歪み緩和効果、および貫通転位の離脱効果により、InGaNの活性層302をバルク(厚膜)にした場合でも層内に不整合転位が入りにくい。そして活性層302を厚くできることにより、容易に活性層302に光が閉じ込められ、基板400に平行な方向の光導波路が形成され、導波モードが発生する。その結果、一定の光電界分布を保ちつつ横方向に光が伝搬でき、フォトニック結晶とこの層とが有効に作用する。
【0079】
また、活性層302をInGaN多重量子井戸とする場合には、光閉じ込め層307はInGaNであることが好ましい。その上で、活性層302のIn組成比よりも光閉じ込め層307のIn組成比が小さいことが好ましい。
【0080】
上記した例の他、たとえばn型クラッド層306はn-InAlNであってもよい。また、p型クラッド層308はp-InAlNであってもよい。このようにクラッド層がInAlNであり、光閉じ込め層307がi-GaN等のGaNである場合、光閉じ込め層とクラッド層の間の格子定数の違いを小さく抑えつつ、クラッド層の屈折率を小さくすることができる。その結果、活性層302における光電界分布のピークをよりシャープにし、光閉じ込め効果を強めることができる。特にp型クラッド層308がInAlNである場合には、柱状結晶30の頂部側の光閉じ込め効果がより強まることにより、コンタクト層440や第1電極430aによる光の吸収が低減され、特にレーザとして好適に用いられる光デバイス10が得られる。
【0081】
なお、層の組成の違いや成長条件の違いに起因して、柱状結晶30の幅は長さ方向に変化していても良い。各層内で柱状結晶30の太さは変化していても良いし、一定でも良い。また、柱状結晶30はクラッド層および光閉じ込め層のうち少なくともいずれかを含んでいなくても良い。
【0082】
本実施形態に係る柱状結晶30は、さらに第2の実施形態または第2の実施形態の変形例に係る柱状結晶30のように、太さが軸方向に変化していても良い。
【0083】
次に、本実施形態の作用および効果について説明する。本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。
【実施例
【0084】
以下、上記した実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0085】
以下において、各比較例の構造では、柱状結晶間の距離が一様であり、すなわち集合体が構成されていない。そして、柱状結晶は格子定数をαとする六角格子(第3の格子)の格子点に一様に配置されている。一方、各実施例の構造は複数の柱状結晶が規則的に配列して成る集合体を複数含む。複数の集合体のそれぞれは、第1の格子の互いに異なる格子点に位置し、dはdよりも小さくなっている。各集合体中、複数の柱状結晶はそれぞれ第2の格子の互いに異なる格子点に位置している。第1の格子の格子定数をαとし、第2の格子の格子定数をαとする。d、d、柱状結晶の幅w、充填率fおよび凝集率Cの定義はそれぞれ実施形態で説明した通りである。また、各実施例および比較例において、柱状結晶は六角柱状とし、第1の格子および第2の格子はいずれも六角格子とした。
【0086】
実施例1~11、および比較例1~4に関する各値等は表1~表3に示す通りである。
【0087】
【表1】
【表2】
【表3】
【0088】
<フォトニックバンド>
PWE(Plane Wave Expansion)法を用いてシミュレーションを行い、構造とフォトニックバンドの関係を調べた。比較例1、2、実施例1~4についてそれぞれ構造のモデルを作成し、各構造を元にPWE法でTEモードについてのフォトニックバンド図を算出した。なお比較例1、2、実施例1~4の構造では、屈折率n=1の空気中に正六角柱状のGaN結晶である柱状結晶が配置されている。
【0089】
図16(a)および(b)はそれぞれ比較例1および実施例1に係る構造を示す平面図である。そして、図16(c)および(d)はそれぞれ比較例1および実施例1の構造で生じるフォトニックバンドを示す図である。実施例1において、各集合体は3つの柱状結晶を含み、第1の格子はα=300nmの六角格子である。実施例1および比較例1においてf=33.3%、w=100nmとした。実施例1においてd=α=104nmとし、比較例1において格子定数αは173nmとした。凝集率Cは比較例1において0%とし、実施例1において40%とした。
【0090】
図16(c)および(d)中、「triangular」で示した線は、比較例1の構造で生じるフォトニックバンドを示す図である。そして、図16(c)中、「3-cluster C=0%」で示した線は「triangular」の線で示したバンド図を第1の格子の格子定数に合わせて規格化したものである。そして、図16(d)中、「3-cluster C=40%」で示した線は実施例1で示した構造に基づいてシミュレーションを行った結果である。図16(c)および(d)に示す結果より、実施例1のように柱状結晶の集合体を形成することで、第1の格子に基づくΓ11バンド端が下がることが分かる。また、実施例1では比較例1に比べてバンド端の曲線が緩やかになっていることから、より発振しやすい構造であることが分かった。
【0091】
図17(a)~(d)はそれぞれ比較例2および実施例2~実施例4に係る構造を示す平面図である。そして、図17(e)~(h)はそれぞれ比較例2および実施例2~実施例4の構造で生じるフォトニックバンドを示す図である。実施例2~実施例4において、各集合体は7個の柱状結晶を含む。凝集率Cは、比較例2、実施例2、実施例3、実施例4の順に大きくなっており、順に0%、10%、20%、30%である。図17(e)~(h)に示す結果より、凝集率Cが高くなるにつれてΓ点でフォトニックバンドがより大きく開くことが分かった。
【0092】
<フォトルミネッセンス測定>
基板上に柱状結晶を成長させて第1の実施形態で説明したような光デバイス構造を作製した。そして、作製した構造に対してPL(Photoluminescence)測定を行った。
【0093】
図18(a)~(d)はそれぞれ実施例5~7、および比較例3に係る光デバイス構造を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。図18(a)~(d)は、基板に垂直な方向から観察した結果を示している。実施例5~7、および比較例3に係る光デバイス構造は、それぞれ以下のようにして作製した。まず、サファイア基板上にMOCVD法でGaN層を成長させることで基板を準備した。そして、基板の一面にTi膜を形成し、複数の開口を形成した。そして、RF-MBE法を用いて各開口から柱状結晶を成長させた。柱状結晶は、n型GaN層とInGaN層が基板側からこの順に積層された構造とした。実施例5ではα=250nm、w=120nmとし、実施例6ではα=300nm、w=100nmとした。実施例7ではα=300nm、w=97nm、C=20%とし、比較例3ではα=113nm、w=99nmとした。各集合体に含まれる柱状結晶の数は、実施例5において3個、実施例6において4個、実施例7において7個とした。
【0094】
図19(a)は、実施例7および比較例3の光デバイス構造に対し、InGaNレーザ(波長405nm、CW、RT)による光励起PL測定を行った結果を示す図である。波長518nmの発光ピークが、比較例3よりも実施例7で鋭かった。
【0095】
図19(b)は、実施例7の光デバイス構造に対し、角度分解PL測定を行った結果を示す図である。本図中の複数の線の内、TEモードの線を矢印で指し示している。その他の線はTMモードの線である。本図から、実施例7の構造において、集合体の配置、すなわち第1の格子に基づくバンド構造が確認された。さらに、PWE法による解析結果と照らし合わせると、この波長518nmの発光ピークはフォトニックバンドのΓ点に起因することが分かった。
【0096】
図20(a)および(b)はそれぞれ、実施例5および実施例6の光デバイス構造に対し、PL強励起測定を行った結果を示す図である。図20(a)および(b)には、PLスペクトルと共に、発光スポットの画像が示されている。励起には、Nd:YAGレーザを用いた。励起光強度は実施例5において2.00MW/cm、実施例6において0.6MW/cmとし、測定温度はいずれも室温とした。図20(a)および(b)に示すように、実施例5および実施例6のそれぞれにおいて、集合体の配置に基づく波長、すなわち第1の格子に基づく波長に、鋭い発光ピークが確認された。このように、各実施例に係る光デバイスにおいて、青や緑のような比較的短波長の光の出力が可能であることが確かめられた。
【0097】
なお、実施例6と実施例7とでは、集合体内での柱状結晶が互いに異なり、充填率が互いに異なることによりフォトニック結晶のバンド端波長が互いに異なる。すなわち、充填率が変化すれば空間の等価的な屈折率が変化し、光学長が変わるので、動作波長が変化する。
【0098】
図21(a)および(b)はそれぞれ比較例4および実施例8に係る光デバイス構造の平面図である。比較例4および実施例8に係る光デバイス構造は、それぞれ以下のようにして作製した。まず、サファイア基板上にMOCVD法でGaN層を成長させ、さらにRF-MBE法でDBR構造を積層することで基板を準備した。DBR構造はAlGaNとGaNをそれぞれ4層、交互に設けた積層構造とした。そして、基板の一面にTi膜(厚さ5nm)をEB(Electron Beam)蒸着法により形成した。次いで、Ti膜にEBリソグラフィおよびドライエッチング(CF,Cl)により複数の開口を形成した。そして、RF-MBE法を用いて各開口から柱状結晶を成長させた。柱状結晶は、SiをドープしたGaN層、活性層、およびGaN層が基板側からこの順に積層された構造とした。活性層は、InGaN層とGaN層とを含む歪層多重量子井戸(strained-layer multiple quantum well)構造とした。
【0099】
比較例4ではα=144nm、w=123nm、C=0%とし、実施例8ではα=250nm、w=120nm、C=20%とした。実施例8において各集合体に含まれる柱状結晶の数は3個とした。また、比較例4の充填率と実施例8の充填率とは同じとした。
【0100】
図21(c)および(d)はそれぞれ、比較例4および実施例8の光デバイス構造に対し、角度分解PL測定を行った結果を示す図である。図21(c)の縦軸は、250nmで規格化されている。図21(d)中の複数の線の内、TMモードの線を矢印で指し示している。その他の線はTEモードの線である。図21(c)および(d)に示すように、比較例4ではバンド構造が確認されなかったのに対し、実施例8では集合体の配置に基づくバンド構造が確認された。比較例4ではフォトニックバンドが図21(c)のバンド図の範囲よりも上方にあり、発光波長と整合していないため、バンド構造が確認されなかったと考えられる。
【0101】
図22(a)および(b)は、実施例8の光デバイス構造を光励起発振させた結果を示す図である。励起には、Nd:YAGレーザを用い、励起光の波長は355nmとした。また、励起光のパルス条件はパルス幅5ns、周波数20Hzとし、室温で測定した。図22(a)は励起光強度は2.00MW/cmとした場合のPLスペクトルである。そして、図22(b)は励起光強度と発光強度との関係を示す図である。その結果、図22(a)に示すように、波長λ=476nmにおいて鋭い発振ピークが確認された。ここで、α/λ=0.525であり、図21(d)のバンド図と照らし合わせると、Γ点バンド端で発振したことが分かった。
【0102】
図23(a)から(c)は、それぞれ実施例9から実施例11に係る光デバイス構造を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。図23(a)および(b)は、基板に垂直な方向から観察した結果を示しており、図23(c)は、基板に対して斜め方向から観察した結果を示している。
【0103】
実施例9から実施例11に係る光デバイス構造は、柱状結晶の幅wおよび配置を除いて実施例8と同様にして得た。実施例9においてα=300nm、w=100nmとし、実施例10においてα=325nm、w=85nmとし、実施例11においてα=300nm、w=97nmとした。各集合体に含まれる柱状結晶の数は、実施例9において3個、実施例10および実施例11においてそれぞれ7個とした。
【0104】
実施例9から実施例11に係る光デバイス構造についても、PL測定で集合体の配置に基づく発光が確認された。
【0105】
<電流注入による発光>
実施例12では、第3の実施形態で説明したような光デバイスを作製した。すなわち、Al基板(サファイア基板)の表面にGaN層を形成したGaNテンプレート基板の上にn-GaNバッファ層、n-AlGaNクラッド層、i-GaN光閉じ込め層、InGaNバルク活性層、i-GaN光閉じ込め層、p-AlGaNクラッド層、p-GaNコンタクト層、ITO透明電極をこの順に成長させた。また、基板表面に、基板と電気的に接続した金属電極を設けた。本光デバイスにおいて、集合体に含まれる柱状結晶の数は3個とし、α=350nmとし、w=145nmとした。
【0106】
本実施例の光デバイスのITO透明電極と金属電極との間に電圧を印加したところ、ITO透明電極側に赤色の発光を確認した。また、同じ基板上に形成した柱状結晶において、InGaNバルク活性層に不整合転位が存在しないことを確認した。
【0107】
<格子定数αと幅wと凝集率Cとの関係>
図24は、フォトニックバンド端波長が520nmとなるときの、格子定数αと幅wと凝集率Cとの関係を計算した結果を示す図である。計算はPWE法を用いて行った。計算においては柱状結晶は全体がGaNであると仮定した。本図中、「3つ組」は各集合体が柱状結晶を3個含む場合の結果を示し、「4つ組」は各集合体が柱状結晶を4個含む場合の結果を示し、「7つ組」は各集合体が柱状結晶を7個含む場合の結果を示している。また、d=10nmとした。
【0108】
本図の結果から、αがほぼ同じであっても、各集合体に含まれる柱状結晶を増やすほど、wを小さくできることが分かった。したがって、同じ波長でフォトニック結晶を動作させようとする場合にも、より細い柱状結晶を用いることができることが確認された。また、凝集率を高めるほど、wを小さくできることが分かった。
【0109】
<柱状結晶の成長>
図25は、比較例5-1から比較例5-5、および実施例13-1から実施例13-10に係る光デバイス構造を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。図26は、比較例6-1から比較例6-4、および実施例14-1から実施例14-3に係る光デバイス構造を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。図27は、比較例7-1から比較例7-4、および実施例15-1から実施例15-3に係る光デバイス構造を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【0110】
実施例13-1から実施例15-3、および比較例5-1から比較例7-4において、C、w、α、およびαの値等は表4~表7に示した通りである。なお、比較例5-1から比較例5-5、実施例13-1から実施例13-10、比較例6-1から比較例6-4、実施例14-1から実施例14-3、比較例7-1から比較例7-4、および実施例15-1から実施例15-3のそれぞれにおいて、Cを高くする程dを小さくし、wを大きくする程dを小さくした。なお、FBI法を用いてマスクをパターニングする際のドーズ量は、wを大きくする程多くした。
【0111】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【0112】
実施例13-1から実施例15-3、および比較例5-1から比較例7-4のいずれにおいても制御性よく柱状結晶が形成された。なお、図25図27には、それぞれ基板上に付着したドット状の結晶も観察されている。Cが高く、かつ、wが大きい実施例において、一部の柱状結晶同士が結合しているのが確認された。また、各実施例の光デバイスに対しフォトルミネッセンス測定を行ったところ、第1の格子に基づくフォトニック結晶の動作が確認された。
【0113】
<偏光特性>
光デバイスの偏光特性を調べた。実施例16に係る光デバイス構造は、実施例6に係る光デバイス構造と同じである。比較例8に係る光デバイス構造は、柱状結晶の幅wおよび配置を除いて実施例8と同様にして得た。比較例8において、α=260nmとした。比較例9に係る光デバイス構造は、DBR構造を有する基板の代わりに上記したようなGaNテンプレート基板を用いた点、柱状結晶の幅wおよび配置を除いて実施例8と同様にして得た。比較例9において、α=245nmとした。
【0114】
図28(a)~(d)は、比較例8および比較例9に係る光デバイス構造に対するフォトルミネッセンス測定の結果を示す図である。具体的に、図28(a)は、比較例8の光デバイス構造の、励起強度と発光波長506.6nmにおける発光ピーク強度との関係を示す図である。図28(b)は、比較例8の光デバイス構造の、出力光の偏光角と規格化された発光ピーク強度との関係を示す図である。図28(c)は、比較例9の光デバイス構造の、励起強度と発光ピーク強度との関係を示す図である。図28(d)は、比較例9の光デバイス構造の、出力光の偏光角と規格化された発光ピーク強度との関係を示す図である。
【0115】
図29(a)~(c)は、実施例16に係る光デバイス構造に対するフォトルミネッセンス測定の結果を示す図である。具体的には、図29(a)および(b)は、実施例16の光デバイス構造の、出力光の偏光角と規格化された発光ピーク強度との関係を示す図である。図29(c)は、実施例16は光デバイス構造のフォトルミネッセンススペクトルである。波長546.4nm、線幅2.1nmの鋭い発光ピークが確認された。
【0116】
比較例8および比較例9の結果から分かるように、集合体を有さない光デバイス構造では、偏光方向はケースバイケースで変化した。それに対し、実施例16の光デバイス構造の出力光では直線偏光に近い特性を確認した。これは集合体における柱状結晶の配列の非対称性を反映した結果と思われる。実施例16における出力光では、P=(Imax-Imin)/(Imax+Imin)で得られる偏光度Pが80.4%であった。ここで、Imaxは最大強度であり、Iminは最小出力強度である。なお、配列方向に対して測定された偏光方向が4°傾いているが、これは、測定誤差であると考えられる。以上の結果から、比較例のように集合体を形成しない場合には、わずかな結晶成長の揺らぎで偏光方向が構造ごとに変化するのに対し、集合体を配列させた実施例では、偏光方向を制御できることが確かめられた。
【0117】
<赤色発光>
実施例12と同様に、Al基板(サファイア基板)の表面にGaN層を形成したGaNテンプレート基板の上にn-GaNバッファ層、n-AlGaNクラッド層、i-GaN光閉じ込め層、InGaNバルク活性層、i-GaN光閉じ込め層、p-AlGaNクラッド層、p-GaNコンタクト層、ITO透明電極をこの順に成長させて実施例17に係る光デバイス構造を得た。ただし、p-AlGaNクラッド層において基板から離れるほど柱状結晶の幅を大きくした。その結果、InGaNバルク活性層では柱状結晶同士が結合しておらず、p-AlGaNクラッド層の上部で複数の柱状結晶が繋がった構造が得られた。本光デバイス構造において、α=350nm、α=d=160nmとした。また、各集合体に含まれる柱状結晶の数は3とした。
【0118】
図30は、実施例17に係る光デバイス構造に対し、フォトルミネッセンス測定を行った結果を示す図である。本図から分かるように、波長630nmの赤色の強い発光が確認された。
【0119】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
基板に形成された複数の柱状結晶が規則的に配列して成る集合体を複数含み、
前記柱状結晶はIII-V族半導体を含み、
前記複数の集合体のそれぞれは、前記基板に垂直な方向から見て第1の格子の互いに異なる格子点に位置し、
同一の前記集合体に属する前記柱状結晶の中心軸間距離の最小値dは、互いに異なる前記集合体に属する前記柱状結晶の中心軸間距離の最小値dよりも小さい光デバイス。
2.
1.に記載の光デバイスにおいて、
前記柱状結晶の幅は500nm以下である光デバイス。
3.
1.または2.に記載の光デバイスにおいて、
前記第1の格子の格子定数は50nm以上1000nm以下である光デバイス。
4.
1.から3.のいずれか一つに記載の光デバイスにおいて、
前記基板に垂直な方向から見て、前記第1の格子の単位格子における前記柱状結晶の充填率は30%以上である光デバイス。
5.
1.から4.のいずれか一つに記載の光デバイスにおいて、
/dが0.2以上0.95以下である光デバイス。
6.
1.から5.のいずれか一つに記載の光デバイスにおいて、
前記複数の集合体のそれぞれは、前記基板に垂直な方向から見て線対称である光デバイス。
7.
1.から6.のいずれか一つに記載の光デバイスにおいて、
前記複数の集合体のそれぞれは、前記基板に垂直な方向から見てn回対称性を有し、nは2以上の整数である光デバイス。
8.
7.に記載の光デバイスにおいて、
前記集合体において前記複数の柱状結晶のそれぞれは、前記基板に垂直な方向から見て第2の格子の互いに異なる格子点に位置している光デバイス。
9.
7.または8.に記載の光デバイスにおいて、
前記複数の集合体のそれぞれは、前記基板に垂直な方向から見て2回対称性を有する光デバイス。
10.
1.から9.のいずれか一つに記載の光デバイスにおいて、
前記集合体において、前記複数の柱状結晶は直線状に並んでいる光デバイス。
11.
1.から10.のいずれか一つに記載の光デバイスにおいて、
前記柱状結晶は角柱状である光デバイス。
12.
1.から11.のいずれか一つに記載の光デバイスにおいて、
前記第1の格子は、三角格子、六角格子、正方格子、斜交格子、および長方格子の少なくともいずれかである光デバイス。
13.
1.から12.のいずれか一つに記載の光デバイスにおいて、
前記柱状結晶における貫通転位の密度は5×10cm-2以下である光デバイス。
14.
1.から13.のいずれか一つに記載の光デバイスにおいて、
前記柱状結晶はウルツ鉱型結晶構造を有し、前記柱状結晶の側面にはm面が露出している光デバイス。
15.
1.から14.のいずれか一つに記載の光デバイスにおいて、
前記基板の表面に、開口が設けられた膜をさらに備え、
前記柱状結晶は、前記開口を通っている光デバイス。
16.
1.から15.のいずれか一つに記載の光デバイスにおいて、
前記複数の集合体は、フォトニック結晶を構成している光デバイス。
17.
1.から16.のいずれか一つに記載の光デバイスにおいて、
当該光デバイスは、発光デバイス、光フィルタ、または受光デバイスである光デバイス。
18.
基板の第1面に、開口が設けられた膜を形成する工程と、
前記膜の前記開口から柱状結晶を成長させて構造体を得る工程とを含み、
前記構造体は、複数の前記柱状結晶が規則的に配列して成る集合体を複数含み、
前記柱状結晶はIII-V族半導体を含み、
前記複数の集合体のそれぞれは、前記基板に垂直な方向から見て第1の格子の互いに異なる格子点に位置し、
同一の前記集合体に属する前記柱状結晶の中心軸間距離の最小値dは、互いに異なる前記集合体に属する前記柱状結晶の中心軸間距離の最小値dよりも小さい光デバイスの製造方法。
【符号の説明】
【0120】
10 光デバイス
20 集合体
20a 第1の集合体
20b 第2の集合体
30 柱状結晶
100 構造体
302 活性層
304 半極性面
305 極性面
306 n型クラッド層
307 光閉じ込め層
308 p型クラッド層
309 バッファ層
400 基板
401 第1面
403 第1の層
404 第2の層
410 膜
411 開口
412 第1面
430a 第1電極
430b 第2電極
440 コンタクト層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31